JP5484756B2 - モリブデン板およびモリブデン板の製造方法 - Google Patents

モリブデン板およびモリブデン板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、モリブデン板およびモリブデン板の製造方法に関し、特に深絞り用モリブデン板およびその製造方法に関する。
液晶表示装置等の背面光源として用いる冷陰極蛍光ランプの電極は、最近では、ニッケルに代わって、高融点かつ高導電性の特性に加え放電中にスパッタリングされにくいモリブデン(以下Moとも呼ぶ)が用いられている。
このMo電極は、クロス圧延、すなわち、Mo焼結体を熱間あるいは冷間圧延工程において、圧延方向を90度変えて、圧延加工する方法によって、組織の異方性を低減させ、深絞り成形性の向上が図られている。
このようにして得られた厚さ100〜300μmのMo板はトランスファープレスや順送プレスによって適当な形状やサイズに打ち抜き加工したのち、ポンチとダイを用いて外径1.5〜3.0mmで(長さ/外径)で表される比が2〜3のカップ形状に深絞り成形されている。
ここで、深絞り成形用のMo材料およびその製造方法としては、以下の技術が知られている。
例えば、特許文献1では、Mo又はMo合金鋳造インゴット(結晶粒径が30mm以下のものが好ましい)を用い、これをシース材でキャニングして鍛造した後、加熱温度500〜1200℃にて圧下率50%以上の温間又は熱間圧延を施し、さらにこれを圧下率30%以上の条件で冷間圧延するか、或いはこの冷間圧延の後、得られた冷間板に800〜1200℃で0.5〜4時間の真空処理を施すことからなるMo又はMo合金の製造方法が提案されている(特許文献1)。
また、特許文献2では、Mo、W、Ta、Nbに、エレクトロンビーム溶解でRe、Bを添加して高融点金属材のインゴットを製造し、これを薄板に圧延し、得られた薄板を再結晶温度以上の温度に加熱して焼鈍処理を施すことからなる高融点金属薄板の製造方法が提案されている(特許文献2)。
また、特許文献3では、重量比0.03〜0.3%の炭素を含有し、残部が実質的にMoからなり、エリクセン値が予め定められた規定値より20%高い値を有する、深絞り性に優れているとしたMo板が記載されている。その製造方法は、粉末冶金法によるものであり、粉末冶金法にて得られたMo焼結体に、加工率80%以上の熱間圧延を施し、焼鈍した後冷間圧延で所定の板厚まで加工することが記載されている(特許文献3)。
一方、特許文献4では、熱間圧延加工したMo素材を熱間圧延後1050〜1150℃で中間焼鈍処理し、得られた一次圧延板を再結晶処理後の圧延率80〜95%で冷間処理圧延加工して最終目標板厚を有する二次圧延板を調製し、しかる後に得られた二次圧延板を温度980〜1030℃で最終焼鈍処理することにより、二次圧延板の板面に平行な(222)結晶面におけるX線回折強度を(200)結晶面におけるX線回折強度の0.3倍以上に設定することにより、深絞り形状を有するランプ用反射板を高い歩留りで製造するとした技術が提案されている(特許文献4)。
なお、特許文献4には、モリブデン板の金属組織が、面積比で40〜60%の再結晶粒と、残部圧延加工による変形粒との混粒組織で構成することがよいことが記載してある。
さらに、特許文献4には、再結晶熱処理後の加工率すなわち冷間圧延率が80〜95%と従来法よりも低くなるように熱間圧延加工終了後の一次圧延板の板厚を設定し、さらに冷間圧延加工後の二次圧延板の組織を構成する再結晶が過度に成長しない程度の高温度980〜1030℃にて最終焼鈍処理して、再生結晶粒と加工変形粒とが混在する混粒組織を形成することが提案されている。
一方、特許文献5には、エレクトロンビーム溶解により製造されたファイブナイン以上の高い純度をもつMoの素材をロール圧延して帯材とし、この帯材をクロス圧延機を用いてクロス圧延することからなる深絞り可能なMo薄板の製造方法が開示されている。またクロス圧延機を用いたクロス圧延に続いてロールを用いた仕上圧延を行い、さらに焼鈍することによって深絞り性を高めることを加えた製造方法が開示されている(特許文献5)。
さらに、特許文献6では、純MoまたはMo合金からなる圧延素材を、一方向に温間または冷間圧延することにより薄板とした後に、該薄板に対してレベラー処理あるいはショットブラスト処理を行って、内部応力異方性緩和処理を施すことにより、深絞り性に優れた純MoまたはMo合金からなる薄板の製造方法が開示されている。また、薄板に対する内部応力緩和処理後に、再結晶温度未満で熱処理することが開示されている(特許文献6)。
また、非特許文献1では、長手方向に供給される板材をその板材とほぼ平行ではあるが進行方向に挟まる軸を有する一対の揺動ロールを往復回転運動により、板材を幅方向に圧延しながら長手方向にも圧延する、いわゆるクロス圧延技術を開示している。また、このクロス圧延技術を適用してクロス圧延機によって純モリブデン薄板を製造することにより、優れた深絞り性を得られるとしている(非特許文献1)。
特開平6−256918公報 特開平6−81069号公報 特開平8−27534号公報 特開平6−158252号公報 特開平3−291101号公報 特開2006−257528号公報
吉田桂一郎、"クロス圧延機の開発"、鉄と鋼、1985年8月30日、P.1637−P.1640
ここで、近年、液晶画面の大型化および高精細化の市場要求が強く、冷陰極管蛍光ランプは従来品以上の高輝度特性が必要となってきている。この要求に応えるには、冷陰極管用電極は、外径をより細く、長さをより長くすることが必要である。具体的には、(長さ/外径)の比が3以上の深絞りを可能とする、従来にない深絞り成形性に優れたMo板が必要とされている。また、低コストであることも求められる。
しかしながら、上記文献では、以下に示すような理由から、低コストで冷陰極管用電極に適した深絞り成形性に優れたMo板を得るのは困難であった。
まず、特許文献1では、深絞り性に関わる具体的なカップ外形、長さ及びその比率が示されておらず、当該文献より上記した深絞り成形性が得られる旨の開示はない。
また、特許文献2では原料をエレクトロンビームにより溶解していることや、Reを使用していることから、製造コストが高いという問題がある。
また、特許文献2では圧延して得られたMo薄板を再結晶温度以上の温度に加熱する焼鈍処理を施しているが、Moは再結晶すると粗大な等軸粒組織となり非常に脆くなるので、この材料を室温で深絞り成形することは技術的に難しい。加熱して深絞り成形することも不可能ではないが、そのためには加熱設備や深絞り成形中でも所定の温度以下にならないような保温設備あるいは加工設備が必要となるので高コストとなり、工業的、経済的な製造方法とは言い難い。
特許文献3では、Mo板が炭素を含んでいるため、高温・高真空下で使用すると、Mo材料に不可避的に残存する酸素と前記炭素が反応してCOまたはCOなどの不純物ガスを放出する。またMoと炭素の反応による脆い炭化物が生じ充分な強度が得られなくなる可能性が高い。このような材料が例えば冷陰極蛍光ランプの電極に用いた場合、ランプの寿命低下原因になることが懸念されることになる。
特許文献4では、板材の構成が再結晶粒と変形粒の混在した混粒組織が開示されているが、再結晶粒と変形粒では塑性変形能がそれぞれ異なり均一な組織ではないため、深絞り成形時に再結晶粒と変形粒の界面で割れが発生する可能性がある。また、通常再結晶材は粗大な等軸粒組織となり非常に脆いため、ここで提案された板材組織の隣り合う再結晶粒界面の強度は非常に弱いと言える。しかも再結晶粒領域は面積率で40〜60%も占めることから、この再結晶粒と変形粒の混在した混粒組織の板材を深絞り成形することは技術的に難しい。さらに、この板材の製造方法として、再結晶熱処理した圧延板を冷間圧延するとしているが、低温脆性の指標である延性-脆性遷移温度は、Moの場合、室温近傍にあるので、再結晶した板の冷間圧延は、技術的に非常に難しく、工業的、経済的な製造方法とは言い難い。
特許文献5では、エレクトロンビーム溶解により製造されたファイブナイン以上の高い純度をもつMoの素材をロール圧延しており、エレクトロンビーム溶解に関する製造費用は高価でありため、安価な素材が得られず、量産性に優れているとは言えない。
特許文献6では、冷間圧延後に薄板に対する内部応力緩和処理としてレベラー処理、ショットブラスト処理を行った後に、再結晶温度未満で熱処理をしており、板材製造工程が多い。また、当該文献の記載によれば、板材の長さ方向と幅方向の破断伸びの比が2.0〜2.5もあるため、このような板材を深絞りしていった場合、幅方向の伸びが長さ方向の伸びに追従できず、カップの先端に亀裂を生じる恐れがある。
非特許文献1ではクロス圧延技術について開示されているのみであり、ここで開示された圧延技術を用いただけでは、幅方向のエッジドロップが大きく、これに起因した割れが多発する。そのため、当該圧延技術のみではカップ形状への絞り加工には適さない。また、開示された技術を本願発明者が実施した所、当該技術を用いただけではモリブデン板の加工の圧延速度を、2m/分程度に減速する必要があり、工業的なレベルとは言えなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その技術的課題は、従来よりも低コストで、かつ、冷陰極管用電極に使用可能なほどに深絞り成形性に優れたMo板およびその製造方法を提供することにある。
上記した課題を解決するために、第1の発明は、モリブデン含有量が99.95質量%以上であり、板表面組織の伸長方向を0度方向とし、0度、45度、90度各々の方向のランクフォード値rをr0、r45、r90としたとき、異方性を表す式|r0+r90-2r45|/2≦1.0を満たし、かつ板表面の光沢度が750Gloss(20°)以上であることを特徴とするモリブデン板である。
第2の発明は、第1の発明に記載のモリブデン板からなることを特徴とする深絞り用モリブデン板である。
第3の発明は、99.95質量%以上のモリブデンを含むモリブデン焼結体に、92.7〜97%の加工率となるように熱間圧延を一方向圧延にて施す熱間圧延工程と前記熱間圧延工程にて得られたモリブデン板の表面酸化物を除去する酸化物除去工程と、前記熱間圧延の圧延方向に対し90度の方向で77.8〜90.9%の加工率となるように冷間圧延を施す冷間圧延工程と、硬度Hs95以上、かつ表面粗さRa0.2μm以下の圧延ロールで加工率7%以上の最終圧延を施す最終圧延工程と、を有し、前記冷間圧延の加工率と、前記熱間圧延の加工率の比である(冷間圧延加工率/熱間圧延加工率)で表す圧延加工率比が0.802以上0.981以下の範囲であることを特徴とするモリブデン板の製造方法である。
第4の発明は、第3の発明に記載のモリブデン板の製造方法を用いることを特徴とする深絞り用モリブデン板の製造方法である。
本発明においては、従来よりも低コストで、かつ、冷陰極管用電極に使用可能なほどに深絞り成形性に優れたモリブデン板およびその製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
まず、本実施形態に係るモリブデン板の組成、物性について説明する。
ここではモリブデン板として、冷陰極管用電極に使用する深絞り用モリブデン板を例示している。
(組成)
本実施形態に係るモリブデン板の組成は、モリブデン含有量が99.95質量%以上であり、不可避不純物の含有量は、総量が0.05質量%以下であるのが望ましい。
これは、モリブデン含有量が99.95質量%未満の場合、不純物元素を多く含有することになり、例えば冷陰極管用電極に用いた場合にランプの寿命低下原因になることが懸念されるからである。
不可避不純物としては、例えば、一般的に測定されている、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、Wのうちの少なくとも一種類が挙げられる。また、C、N、Oが挙げられ、C、N、Oの総量が0.01質量%以下であるのが望ましい。
また、上述のように、モリブデン以外の含有元素は不可避不純物であるのが望ましく、Re、TiC、B、Cなどは意図的に添加しないのが望ましい。
これは、Re、TiCを添加すると製造コストやリサイクルコストが高く、また、リサイクル材としての価値が下がるためである。
また、B、C、TiCを添加すると、添加物や化合物が粒界に偏析して圧延時に割れが発生しやすいためである。
(ランクフォード値)
本実施形態に係るモリブデン板は、板表面組織の伸長方向を0度方向とし、0度、45度、90度各々の方向のランクフォード値rをr0、r45、r90としたとき、異方性を表す式|r0+r90-2r45|/2≦1.0を満たすのが望ましい。
このように規定した理由について以下に説明する。
まず、モリブデン板は従来、深絞り成形用の材料としてはあまり用いられていなかったため、モリブデン板の深絞りに影響する因子については特に知られていなかった。
しかしながら本発明者らは鋭意検討の結果、深絞り成形性に影響する因子としてランクフォード値に着目し、これが上記数値範囲を満たすものは、冷陰極管用電極に使用可能なほどに深絞り成形性に優れたモリブデン板であることを見出した。
ここで|r0+r90-2r45|/2が1.0を超える場合は異方性が強いことを意味しMo板の深絞り成形時に割れが発生し易くなるので好ましくない。
(光沢度)
本実施形態に係るモリブデン板は板表面の光沢度が750Gloss(20°)以上であるのが望ましい。
このように規定した理由について以下に説明する。
モリブデン板の深絞り時においては、金型との摩擦抵抗を低減する必要がある。
これは、摩擦抵抗が大きいと、滑り特性が悪くなり、モリブデン板に局部的な応力が集中し、割れが発生する可能性があるためである。
そのため、モリブデン板は、摩擦抵抗が低減されるような表面特性を有するのが望ましい。
ここで、本願発明者らは一般的に注目される表面粗さRa等で測定可能な0.1μmレベルの表面特性ではなく、より精密な表面精度を測定できる指標である光沢度に着目し、従来の0.1μmレベルの表面粗さRaと光沢度と深絞り特性を検討した。
その結果、表面粗さRaと光沢度との間に顕著な相関はなく、光沢度が深絞り性に大きな影響を与えることを見出したため、表面特性の1つである光沢度を上記範囲に規定するに至ったのである。
モリブデン板の光沢度が750Gloss(20°)未満の場合、金型とMo板間の滑り特性が悪くなり、深絞り加工時、Mo板に局部的な応力が集中し割れが発生するものと考えられるため、望ましくない。
なお、光沢度の測定は例えばJIS Z 8741によって行うことができる。
(引張強度)
本実施形態に係るモリブデン板は、板表面組織の伸長方向を0度方向としたとき0度、45度、90度方向の各々の引張強度が740MPa以上であるのが望ましい。
これは、引張強度が740MPa未満の場合、深絞り加工時に強度不足による割れが発生するためである。
(モリブデン板の破断伸びの異方性)
本実施形態に係るモリブデン板は、板表面組織の伸長方向を0度方向としたとき0度、45度、90度方向の破断伸びを各々εl 0、εl 45、εl 90としたとき、これらの値は6%以上であり、かつ異方性を表す値|εl 0+εl 90-2εl 45|/2が8%以下であるのが望ましい。
これは、異方性の値が8%を超えた場合、深絞り加工時の割れが発生し易くなるためである。
なお、前記式における破断伸びの数値は、JISZ2201による13B号試験片を用い、室温にて引張速度1mm/分にて測定された数値である。
次に、本実施形態に係るモリブデン板の製造方法について説明する。
まず、製造方法の概略について説明する。
まず、原料粉末を用意し、原料粉末を成形する。次に成形した粉末を焼結して焼結体を形成する。次に、焼結体を熱間圧延して板材に成形する。次に、熱間圧延した板材を焼鈍する。次に、焼鈍した板材表面の酸化物を除去する。次に、酸化物を除去した板材を冷間圧延で、かつクロス圧延を行う。最後に、クリーニング処理を行い、モリブデン板が完成する。
次に、製造に用いられる原料粉末および上記した各工程の詳細を説明する。
(原料粉末)
原料となるモリブデン粉末はFsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒径2.5〜5.0μmで、次の不可避不純物の含有量は、総量が0.04質量%以下であるのが望ましい(念のため付記するが、残部はモリブデンである)。
この不可避不純物としては、例えば、一般的に測定されている、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、Wのうちの少なくとも一種類が挙げられる。
さらに、CおよびN含有量は各々0.01質量%以下とし、O含有量は0.2質量%以下とするのが望ましい。
なお、上述のように、モリブデン以外の含有元素は不可避不純物であり、Re、TiC、B、Cなどの添加材は意図的に添加しないのが望ましい。これは、前述の通り、Re、TiCの添加はモリブデン板のコストおよびリサイクルコストの増大を招き、低コストで深絞り成形性に優れたMo板を得るという本願の目的に合致しないためである。また、B、C、TiCは化合物を生成しやすく、化合物が粒界に偏析して圧延時に割れが発生しやすいためである。
モリブデン粉末は、この特性を満たすものであれば、どのような製法によるものでも構わない。上記のモリブデン粉末は、後工程の焼結工程でガス不純物は低減されるが、一部残存し、焼結体の加工性や最終製品特性に影響を及ぼす。
ここで、上記の不可避不純物の含有量の総量を0.04質量%以下としたのは、不純物元素を多く含有する場合、例えば冷陰極蛍光ランプの電極に用いられた場合にランプの寿命低下原因になることが懸念されるからである。
またO含有量を0.2質量%以下としたのは、モリブデン粉末中の酸素が焼結によって充分に還元されなかった場合、後工程の板材の圧延加工時また絞り加工時の割れ発生原因となるからである。
さらに、N含有量を0.01質量%以下としたのはこれを超える場合、板材の加工性が悪くなるからである。
C含有量を0.01質量%以下としたのは、Cが存在すると脆いモリブデン炭化物を形成し、板材の圧延加工時の割れの原因となるからである。
上記モリブデン粉末を使用し、後述の製造方法にて製造することにより、C、N、O、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、W等の不純物含有量の総量が0.05質量%以下であり、かつC、N、Oの総量が0.01質量%以下という純度を満たす、モリブデン含有量99.95質量%以上であるモリブデン板が得られる。
(成形工程)
成形方法は型押しプレス法や静水圧プレス(CIP)法など現在用いられる成形方法のいずれの方法を用いても良い。
焼結後の焼結体密度が充分となるようにするため、プレス圧力は120MPa以上が望ましい。プレス体厚さは最終製品となる板厚と圧延加工率、焼結時のプレス体の収縮率を考慮の上適宜決める。
(焼結工程)
焼結は、水素、真空の他Arなどの不活性ガス雰囲気のいずれでもよいが、原料粉末が含有する酸素を還元するためには水素雰囲気がより望ましい。焼結温度は1700〜2000℃が望ましい。これは1700℃未満では充分な焼結体密度が得られず、2000℃を超えると熱処理炉の炉材消耗が激しくなるからである。
雰囲気および温度は、上記条件にて適宜調整して焼結体密度が理論密度比90%以上、好ましくは95%以上となるようにする。
(一次圧延:熱間圧延工程)
焼結体の一次圧延は熱間加工で一方向圧延とする。ここで加熱は表面酸化物の除去のため水素雰囲気とし、温度は900〜1300℃とするのが望ましい。下限温度未満の場合、圧延時に板材に割れが発生しやすくなり、上限温度を超えた場合、再結晶粒が生成し粗大粒となるため板材が脆くなる強度不足になりやすいため、望ましくない。
なお、1回あたりの圧延率は加熱温度を考慮し適宜決めるものとし、熱間圧延総加工率は92.7〜97%とする。ここで、熱間圧延総加工率が92.7%未満の場合、粉末冶金法にて得られた焼結体であるため、圧延材の内部に空孔などの欠陥が残存し易くなり、また板の表面と内部の組織に相違が生じることがあり、このような場合、後加工の冷間圧延加工時に割れや板表面の局部的な剥離が生じることがあるため、望ましくない。一方、熱間圧延総加工率が97%を超える場合、一次圧延方向での加工率が大きくなり、本願発明の特徴であるモリブデン板材のランクフォード値や破断伸びの特性値の異方性が大きく生じてしまい良好な深絞り加工が行うことができなくなるため、望ましくない。
(焼鈍処理)
焼鈍処理は、熱間圧延により発生する板材の歪みを除去すると共に表面の酸化物を除去するために行う。温度は800〜1000℃、時間は20〜90分で行うのが望ましい。
(表面酸化物除去工程)
熱間圧延工程終了後、板材表面の約30μmの酸化物を除去するために、表面酸化物除去を行う。除去方法としては酸化物を除去できればどのような方法でもよく、酸洗浄、ブラスト処理、研磨処理などが挙げられる。量産処理を考えると王水や塩酸などの薬品を用いた酸洗浄がより好ましい。
(二次圧延:冷間圧延工程)
二次圧延は冷間圧延で行い、一次熱間圧延方向に対し90度方向で圧延するクロス圧延を施す。
ここでクロス圧延を施すのはモリブデン板のランクフォード値、引張強度、破断伸びなどの特性の異方性を制御するためである。冷間圧延の圧延総加工率は77.8〜90.9%とするのが望ましい。ここでの加工率は冷間圧延開始前の板厚および冷間圧延後の板厚により算出される加工率である。ここで冷間圧延の圧延総加工率が77.8%〜90.9%の範囲を外れると、本願発明の特徴であるモリブデン板のランクフォード値や破断伸びの特性値の異方性が大きく生じ、深絞り加工時の割れの発生率が大きくなってしまうため、望ましくない。
なお、冷間圧延での1回当りの加工率は圧延装置の能力などを考慮して設定する。極端に過大な圧下率にて加工を行うと板材に多大な歪みも生じるため適宜設定することが必要である。
また、冷間圧延加工の最終圧延(ここでは仕上圧延とも呼ぶ)では、硬度Hs95以上かつ表面粗さRa0.2μm以下の圧延ロールを用い、仕上圧延の総加工率7%以上の圧延を行うのが望ましい。圧延ロール材質は前記硬度、表面粗さの特性を持つものであればよく、鍛鋼ロールなどが挙げられる。Mo板の光沢度はこの仕上圧延にて決定される。
圧延ロールの硬度がHs95未満の場合、1回あたりの圧下率が小さくなり、必要な板厚にするまでの圧延数が増加し、非生産的となる。また圧延ロール表面粗さRaが0.2μmを超えた場合、得られるMo板材は必要な光沢度を得られず、優れた深絞り特性が得られなくなるため、望ましくない。
また、本実施形態においては、一次熱間圧延工程と一次熱間圧延方向に対し90度の方向で行う二次冷間圧延工程の加工率との比(冷間圧延加工率/熱間圧延加工率)は0.802以上0.981以下の範囲であるのが望ましい。
これは、加工率の比を上記範囲に収めることにより、モリブデン板のランクフォード値、引張強度、破断伸びなどの特性の異方性を制御でき、冷陰極管用電極に使用可能なほどに成形性に優れたモリブデン板を製造できるためである。
なお、(冷間圧延加工率/熱間圧延加工率)が上限値、下限値を外れた場合、一次圧延加工、二次圧延加工によるモリブデン板に与えるランクフォード値、破断伸びの特性値の異方性が大きく生じてしまい、深絞り加工時の割れの発生率が大きくなってしまうため、望ましくない。
(表面クリーニング処理)
冷間圧延を終えたモリブデン板は、表面のクリーニングのため、水素雰囲気での短時間の熱処理にてクリーニングを行う。
クリーニングの際の温度は800〜900℃で、時間は20分〜1時間程度行うことが望ましい。
以上が、モリブデン板の製造に用いられる原料粉末および各製造工程の詳細である。
このように、本実施形態に係るモリブデン板は、板表面の光沢度が750Gloss(20°)以上であり、かつ、板表面組織の伸長方向を0度方向とし、0度、45度、90度各々の方向のランクフォード値rをr0、r45、r90としたとき、異方性を表す式|r0+r90-2r45|/2≦1.0を満たしている。
そのため、本実施形態のモリブデン板は、冷陰極管用電極に使用可能なほどに深絞り成形性に優れている。
また、本実施形態に係るモリブデン板の製造方法では、一次熱間圧延工程と一次熱間圧延方向に対し90度の方向で行う二次冷間圧延工程の加工率との比(冷間圧延加工率/熱間圧延加工率)は0.802以上0.981以下の範囲であり、かつ最終圧延工程において、硬度Hs95以上、かつ表面粗さRa0.2μm以下の圧延ロールで加工率7%以上の最終圧延を施している。
そのため、従来よりも低コストにて、冷陰極管用電極に使用可能なほどに深絞り成形性に優れたモリブデン板が製造できる。
次に、具体的な実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
本実施形態に係る製造方法を用いて(深絞り用の)モリブデン板を製造し、深絞り性を評価した。
まず、以下の手順によりモリブデン板を製造した。
まず、Fsss平均粒径4μm、C含有量が0.004質量%、B含有量0.001質量%、N含有量0.005質量%、O含有量0.12質量%、またAl、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、Wの不純物含有総量が0.04質量%のモリブデン粉末を200MPaで静水圧プレスしたのち、1800℃で10時間水素焼結し、表1に示す板厚さ30mmのスラグを準備した。このモリブデンスラグは、C含有量が0.003質量%、B含有量0.001質量%、N含有量0.002質量%、O含有量0.004質量%、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、Wの不純物含有量の総量が0.04質量%であり、モリブデン含有量99.95質量%であった。
表1に示すスラグをそれぞれ900〜1300℃の加工温度で表1に示す条件にて熱間圧延加工を行った。
次に水素雰囲気で900℃の温度で30分間焼鈍熱処理行い、その後、王水および水にて酸洗浄する表面酸化物除去を行った。
次に、一次熱間圧延および二次冷間圧延を行った。
ここで、表1の比較例1は、冷間圧延方向を熱間圧延方向と同じ方向としたストレート圧延の例である。その他の例は、冷間圧延方向を熱間圧延方向に対し、90度反転させたクロス圧延の例である。なお、これらは、表面粗さRa0.3μm、硬度Hs98の高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)の圧延ロールを用い、表1に示す冷間仕上圧延開始前の厚さまで冷間圧延した。
なお、ロールの硬度は株式会社ミツトヨのショアー硬さ試験機(ASH−D1)を用いて測定した。
その後、冷間での仕上圧延を行った。この仕上圧延は、モリブデン板の表面の凹凸状態を極力少なく整える目的で行った。
この仕上圧延では、表面粗さRa0.15μm、硬度Hs98の高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)の圧延ロールにて板厚0.2mmまで仕上圧延を行い、実施例1〜5、比較例1〜4の板厚さ0.2mmのモリブデン板を準備した。
表1にそれぞれのモリブデン板の圧延方向、スラグ厚さmm、熱間圧延後板厚さmm、冷間仕上圧延開始前板厚さmm、冷間圧延後の板厚さ(最終板厚さ)mm、熱間圧延(加工)率、冷間圧延(加工)率、仕上圧延(加工)率および冷間圧延(加工)率と熱間圧延(加工)率の比を示す。ここで、冷間圧延(加工)率は仕上圧延も含んだ値である。また各々のMo板の厚さは株式会社ミツトヨのマイクロメータ(MDC−25SB)で複数箇所測定した平均値である。
Figure 0005484756
次に、得られたMo板について次の(1)〜(3)を調査した結果を表2に示す。
(1)JIS Z 8741に準じて測定した光沢度(20°)の測定結果。
(2)最終圧延方向、即ち板表面組織の伸長方向に対し、0度、45度、90度の方向に沿って、JIS Z2201の13B号の試験片を採取し、室温にて引張速度1.0mm/minで引張試験を行い、得たランクフォード値の異方性の測定結果。
(3)Mo板を金型プレスにて外径2.1mm、長さ7mmのモリブデンカップ形状への深絞りを行った場合の割れ発生率の結果。
Figure 0005484756
ここで、モリブデンカップ形状への深絞り加工は金型によるプレス加工にて行ったが、割れが発生する部位は、カップのR形状部ではなくカップ開口部の耳(フレア)と耳との間の谷の部位であった。
表1および表2に示す通り、比較例1〜4では、割れ発生率が2%以上またはカップが破損し深絞り加工不可であるのに対し、本発明の実施例1〜5の深絞りでの割れ発生率は0〜0.1%であった。
即ち、本発明のように圧延加工率を規定(熱間圧延加工率92.7〜97%、冷間圧延加工率は77.8〜90.9%、冷間圧延加工率/熱間圧延加工率0.802〜0.981)することにより、Mo板のランクフォード値を制御でき、かつ仕上圧延率を7%以上とすることにより、光沢度を750Gloss(20°)以上に制御でき、その結果、良好な深絞り特性を得られることがわかった。
次に、実施例2、および実施例2と同様の圧延方向、スラグ厚さ、熱間圧延後板厚さ、冷間仕上圧延開始前板厚さ、冷間圧延後の板厚さ(最終板厚さ)、熱間圧延(加工)率、冷間圧延(加工)率、仕上圧延(加工)率および冷間圧延(加工)率と熱間圧延(加工)率の比で表3に示す仕上圧延ロールの硬度と表面粗さ条件を変えた試料について(実施例6、比較例5、6)最終厚さ0.2mmのモリブデン板の加工を試みた。結果を表3に示す。
Figure 0005484756
その結果、表3より、比較例5については、圧延ロールの硬度が小さい為、実施例6の3倍以上の圧延回数でも板厚0.205mmにしか達しなかった為、圧延処理を中断した。
即ち、圧延ロールの硬度がHs95未満では圧延処理が非生産的になることがわかった。
次に実施例2、6および比較例6にて得られたMo板について、光沢度、ランクフォード値rの異方性およびMoカップへの深絞り加工時の割れ発生率の比較を行った。
結果を表4に示す。ここで深絞り加工された後のMoカップの形状は外径2.1、長さ7mmとし、加工条件は同一とした。
Figure 0005484756
表3と表4より明らかなように、表面粗さが小さい仕上圧延ロールで圧延した試料ほど、光沢度が大きくなり、かつ、深絞り時の割れ発生率が小さくなっており、仕上圧延ロールの表面粗さ、およびMo板の光沢度が深絞り特性に影響を与えていることがわかった。
即ち、表3と表4から明らかなように、仕上圧延ロールには、硬度95Hs以上でかつ表面粗さ0.2μm以下のものを用いなければ、圧延工数がかかり非生産となるか、または光沢度750Gloss(20°)以上を得ることができず、深絞り成形性に優れたMo板が得られないことがわかった。
次に本発明品に係る実施例1〜6のモリブデン板の最終圧延方向、即ち、板表面組織伸長方向に対し、0度、45度、90度の方向に沿って、JIS Z2201 13号の試験片を採取し、室温、引張速度1mm/minで引張試験を行い、引張強度、破断伸びおよび破断伸びの異方性を測定し、その結果を表5に示した。
Figure 0005484756
表5に示すように、本実施形態における望ましい製造条件にて製造したモリブデン板は、板表面組織の伸長方向を0度方向としたとき0度、45度、90度の方向の引張強度が740MPa以上であり、前記0度、45度、90度方向の破断伸びεlが全て6%以上でその異方性を表す式
|εl 0+εl 90-2εl 45|/2が8%以下であることがわかった。
また、本発明品を用いれば、モリブデンカップ形状が外径2.1mm、長さ10mmとなるような深絞り加工を行った際の深絞り性も良好であった。
以上より、本実施形態における望ましい製造条件にて製造したモリブデン板は低コストで深絞り性に優れていることがわかった。
上記した実施形態では、本発明のモリブデン板およびその製造方法を、冷陰極管の電極製造に用いる深絞り用のモリブデン板およびその製造方法に適用した場合について説明したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、深絞り加工が必要な全てのモリブデン板およびその製造方法に適用することができる。

Claims (7)

  1. モリブデン含有量が99.95質量%以上でその他は不可避不純物のみから成る組成であり、
    板表面組織の伸長方向を0度方向とし、0度、45度、90度各々の方向のランクフォード値rをr0、r45、r90、破断伸びεlをεl 0、εl 45、εl 90、としたとき、前記破断伸びεlが全て6%以上で、異方性を表す式|r0+r90-2r45|/2≦1.0および|εl 0+εl 90-2εl 45|/2≦8%を満たし、
    かつ板表面の光沢度が750Gloss(20°)以上であり、さらに0度、45度、90度方向の各々の引張強度が740MPa以上であることを特徴とするモリブデン板。
  2. 前記不可避不純物は、C、N、O、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、Wのうち少なくとも1つを含み、前記不可避不純物の含有量は、総量が0.05質量%以下、かつC、N、Oの総量が0.01質量%以下であることを特徴とする請求項に記載のモリブデン板。
  3. モリブデン焼結体に熱間圧延で一方向圧延を施す工程と、その後前記熱間圧延方向に対し90度の方向で冷間圧延を行う工程と、硬度Hs95以上かつ表面粗さRa0.2μm以下の圧延ロールで加工率7%以上の最終圧延を施す工程と、を有する工程により製造され、
    前記冷間圧延の加工率と、前記熱間圧延の加工率の比である(冷間圧延加工率/熱間圧延加工率)が0.802以上0.981以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のモリブデン板。
  4. 請求項1〜のいずれかに記載のモリブデン板からなることを特徴とする深絞り用モリブデン板。
  5. モリブデン含有量が99.95質量%以上でその他は不可避不純物のみから成る組成のモリブデン焼結体に、
    92.7〜97%の加工率となるように熱間圧延を一方向圧延にて施す熱間圧延工程と
    前記熱間圧延工程にて得られたモリブデン板の表面酸化物を除去する酸化物除去工程と、
    前記熱間圧延の圧延方向に対し90度の方向で77.8〜90.9%の加工率となるように冷間圧延を施す冷間圧延工程と、
    硬度Hs95以上、かつ表面粗さRa0.2μm以下の圧延ロールで加工率7%以上の最終圧延を施す最終圧延工程と、
    を有し、
    前記冷間圧延の加工率と、前記熱間圧延の加工率の比である(冷間圧延加工率/熱間圧延加工率)で表す圧延加工率比が0.802以上0.981以下の範囲であることを特徴とするモリブデン板の製造方法。
  6. 前記不可避不純物は、C、N、O、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Sn、Si、Na、K、Wのうち少なくとも1つを含み、前記不可避不純物の含有量は、総量が0.05質量%以下、かつC、N、Oの総量が0.01質量%以下であることを特徴とする請求項に記載のモリブデン板の製造方法。
  7. 請求項5または6に記載のモリブデン板の製造方法を用いることを特徴とする深絞り用モリブデン板の製造方法。
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