本発明は、原子力プラントの管理方法に係り、特に、沸騰水型原子炉プラントに適用するのに好適な原子力プラントの管理方法に関する。
原子力発電プラントの機器及び配管等の構造部材は、ステンレス鋼及びニッケル基合金等は構造材料で構成されている。これらの構造材料は、特定の条件の下では応力腐食割れ(以下、SCCと称する)の感受性を示す。そこで、SCCの防止策が、原子炉の健全性を維持するために適用されている。また、近年では原子炉の設備利用率の向上と、長寿命化のような経済性向上の観点からもSCCの予防策が適用されている。
SCC防止策には、材料の耐食性向上、応力の改善あるいは腐食環境の緩和を目的としたものが適用されている。沸騰水型原子炉(BWR)では、構造部材が曝されている、原子炉圧力容器内の冷却水(炉水)の腐食環境の改善に基づくSCC対策の一つとして、水素注入が国内外で広く行われている(例えば、特許第2687780号公報及び特開2005−43051号公報参照)。炉水は、原子炉圧力容器内で冷却水の放射線分解により生成された、腐食の原因となる酸素及び過酸化水素を含んでいる。酸素及び過酸化水素を含む冷却水が、腐食環境を形成している。
構造材料の腐食電位(以下、ECPという)が腐食環境の指標として用いられている。R.L.Cowanらの“Experience with hydrogen water chemistry in boiling water reactors”, Water chemistry of nuclear reactor systems 4, 1, p29, BNES (1986)によれば、ECPが−300から−200mV vs. SHE程度の値より低くなると応力腐食割れの発生が抑制されることが知られている。
水素注入は、水素を注入した給水を原子炉圧力容器内に供給することによって炉水に水素を添加し、この水素を炉水に含まれる酸素及び過酸化水素と反応させて水に戻すことにより、ECPを低下させてSCCの発生を抑制する技術である。
そして、水素注入時のECPの低下を促進させる技術である、例えば特開平4−223299号公報に示された技術が知られている。この技術は、炉水に白金族貴金属元素を注入する貴金属注入である。この貴金属注入は、注入された白金族貴金属元素が有する水素の電気化学反応への触媒作用を利用して、水素注入時におけるECPをさらに低下させる。
これらの従来技術では、SCC効果を評価するために構造材料のECPを精度良く知る必要がある。そこで、原子炉圧力容器内あるいは原子炉圧力容器に接続された配管に腐食電位センサを設置し、構造材料のECPを測定することが行われている。
SCCは、ECPだけでなく、炉水に含まれる不純物、特に硫酸イオンの影響を強く受ける。M.Sambongiらは、“Effects of Reactor Water Impurities on ECP and SCC”, 1998 JAIF International Conference on Water Chemistry in Nuclear Power Plants, p343 (1998)において、ECPが同じであっても、炉水中の不純物濃度が高いほど、SCCが発生しやすくなることを記載している。すなわち、応力腐食割れの感受性(発生及び進展速度の情報を含む)は、ECP及び導電率に依存している。導電率は、炉水に含まれる不純物の濃度で決まる。このため、BWR原子力発電プラントでは、ECPを下げることを実施する以前から、不純物濃度を下げて炉水の純度を低く保つ運転が行われている。
SCC及び腐食疲労によるき裂進展を予測する原子炉一次系構造物の寿命予測が知られている(特開2006−10428号公報参照)。この寿命予測は、測定した腐食電位及び構造材料のき裂進展特性データを用いて行われる。また、原子力プラントの構造部材の予寿命を推定する他の方法が、特開平6−34786号公報に記載されている。
現状では炉水の不純物濃度は十分に低いものの、クロム酸、硫酸及び硝酸などのイオンが存在している。M.Sambongiらの上記した論文から明らかであるように、材料の健全性を評価する際には、不純物濃度及びECPを用いることが必要となる。さらに、原子力プラントの構造部材の健全性を評価する上で、SCCの発生時期を明確にすることが必要である。しかしながら、これまで、ECPと不純物の作用が重畳した影響を考慮してSCC発生時間を求めることは行われていなかった。
本発明の目的は、応力腐食割れの発生時間を精度良く求めることができる原子力プラントの管理方法を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、不純物イオンを含む冷却水と接触する、原子力プラントの構造部材の腐食電位、及び原子力プラントの構造部材に接する原子力プラントの冷却水に含まれる不純物イオンの濃度を測定し、腐食電位及びイオン濃度の各測定情報、構造部材の歪み速度、及び構造部材の粒界の腐食速度に基づいて、構造部材の、不純物イオンを含む冷却水と接触する表面に形成された酸化皮膜が破壊される時間である、構造部材における応力腐食割れの発生時間を求め、発生時間が設定時間よりも短いとき、腐食電位及び不純物イオンの濃度のうち少なくとも1つを減少させることにある。
本発明は、不純物イオンを含む冷却水と接触する、原子力プラントの構造部材の腐食電位、冷却水に含まれる不純物イオンの濃度及びその構造部材の粒界の腐食速度を考慮しているので、原子力プラントの構造部材の、不純物イオンを含む冷却水と接触する表面に形成された酸化皮膜が化学的に破壊される時間を算出できる。さらに、歪み速度も考慮しているので、その酸化皮膜が機械的に破壊される時間を算出できる。このため、原子力プラントの様々な運転条件での、酸化皮膜が破壊される時間である構造部材の応力腐食割れの発生時間を精度良く求めることができる。従来は、腐食電位及び導電率が同時に変化した場合には、応力腐食割れの発生時間を求めることが難しかった。しかしながら、本発明は、上記したように、腐食電位、不純物イオンの濃度、粒界の腐食速度及び歪み速度を考慮しているので、応力腐食割れの発生時間を精度良く求めることができるのである。さらに、応力腐食割れの発生時間が設定時間よりも短いとき、腐食電位及び不純物イオンの濃度のうち少なくとも1つを減少させるため、原子力プラントの構造部材の応力腐食割れの発生時間を設定時間よりも延ばすことができる。
好ましくは、プラントの複数箇所で構造部材に対するその発生時間を求めることによって応力腐食割れの発生分布を得ることができる。
好ましくは、水に含まれる不純物イオンの濃度が硫酸イオンの濃度であることが望ましい。水(例えば、原子力プラントに用いられる冷却材)に含まれる不純物イオンの中で、硫酸イオンが応力腐食割れの発生を最も加速する一つのイオンである。このため、水の導電率は硫酸イオンの強い影響を受けていることが推定される。硫酸イオンの濃度を応力腐食割れの発生時間の算出に反映することによって、より精度の高い応力腐食割れの発生時間を得ることができる。もし、導電率の計測によって他の不純物イオン(例えばクロム酸イオン、硝酸イオン及び塩酸イオンなど)の濃度が得られた場合には、該当するイオンの濃度を硫酸イオンの濃度に換算し、換算した硫酸イオンの濃度を応力腐食割れの発生時間の算出に反映することも可能である。
好ましくは、構造部材の粒界の腐食速度をその構造部材に含まれる炭素量に基づいて求めることが望ましい。プラントに用いられている構造部材における応力腐食割れの発生に影響を与える粒界の腐食速度を、プラントのある位置で知ることは不可能である。発明者らは、構造部材の粒界の腐食速度が構造部材に含まれる炭素量に基づいて求められることを新たに発見した。具体的には、発明者らは、溶接時の熱による構造部材の熱鋭敏化の度合いが炭素量と関係することを見出したのである。プラントの構造部材に含まれる炭素量は材料の購入時のミルシートから容易に調べることができ、確認の困難な粒界の腐食速度を用いることなく、簡単に応力腐食割れの発生時間を得ることができる。
好ましくは、プラントを構成する水と接する構造部材の腐食電位、及びその水に含まれる不純物のイオン濃度を測定し、腐食電位及びイオン濃度の各測定情報、構造部材の歪み速度、及び構造部材の粒界の腐食速度に基づいて構造部材における応力腐食割れの発生時間を求め、得られたこの発生時間を起点にして構造部材の予寿命を求めることが望ましい。得られた応力腐食割れ発生時間を起点にして構造部材の予寿命を求めるので、構造部材が寿命に達する時点を精度良く推定することができる。
本発明によれば、プラントの、水に接する構造部材の応力腐食割れの発生時間を、精度良く求めることができる。
発明者らは、原子力プラントの構造材料におけるSCC発生時間をその構造材料のSCCの発生メカニズムに戻って検討した。この検討の結果、SCCの発生時間を精度良く評価できる手法を初めて見出すことができた。SCCの発生時間を精度良く評価できることによって、原子力プラントにおける構造材料の選定、原子力プラント製造時の応力の低減による歪み速度の低下、原子力プラントの運転開始当初からの水素注入などによる腐食電位の低減、及び炉水浄化系の容量等の最適化が行える。
SCC発生時間を精度良く評価することができるので、原子力プラントの製造時に構造部材の応力をどこまで精度良く制御すればSCCが抑制できるかがわかるようになった。この結果、従来はその製造時の残留応力を材料及び水質の影響を考えて、圧縮条件に持っていく必要があった。しかしながら、SCC発生時間を精度良く評価できるようになった結果、原子力プラントにおける、水質及び材料の条件が緩やかな部位では、引張り残留応力を圧縮まで緩和しなくてもよい裕度をもたせられるようになる。逆に、運転時においてSCCの発生条件が厳しくなることが設計段階で予め想定できる部位においては、引張り残留応力を低減する工程を原子力プラントの製造時に組み込む必要がある。
さらに、原子力プラントにおけるSCC発生分布を得ることができるので、メンテンナンス工事の優先順位付けが可能になる。SCCの発生時間を精度良く評価できることは、原子力プラントを構成する構造部材の寿命をより精度よく求めることができる。
発明者らが行った上記の検討を、詳細に説明する。発明者らは、SCCによるき裂の発生確率を解析するために、C.Y. Chao及びJ. Electrochemの論文である Soc., Vol.128 p.1187 (1981)に記載された点欠陥モデルを用い、この点欠陥モデルにより酸化皮膜の破壊確率を計算した。算出したその破損確率を基に、ステンレス鋼の酸化皮膜表面のECPがある値になった状態で、SCCの発生確率を求めた。点欠陥モデルによれば、ステンレス鋼の酸化皮膜、すなわち不働態皮膜の破壊時間tは(1)式で与えられる。
ここで、ζ/Jmは皮膜破壊の閾時間、Fはファラデー定数、VはECP、VcはSCC発生の閾電位、Rはガス定数、Tは温度、αは皮膜印加電位係数である。
この(1)式は孔食の式であるが、不働態皮膜の電気化学的破壊過程はSCCと同じであるとみなして、改良することによってSCCへの適用を試みた。まず、原子炉でのSCC発生のために、硫酸イオンでの実験データ(図1参照)を基に、αを0.28と決定した。皮膜破壊の閾時間を、純水、すなわち、導電率が0.06μS/cmのSSRT(低歪速度引張試験)の実験データを基に決定した。歪み速度は8×10−7/sのケースとした。粒界での腐食速度の影響及び応力の影響を考慮して、(1)式を(2)式のように改良した。
(=dε/dt)は歪み速度である。A、B、C、D及びEは実験的に求められる係数である。A及びBは歪速度依存性を与える係数である。また、材料の腐食速度の影響は、C、D及びEによって決まる。酸化皮膜の破壊歪が一定のとき、酸化皮膜が歪によって破壊される時間は歪み速度dε/dtの逆数に比例する。そこで、電気化学的効果と力学的効果が積で作用すると考えて、SSRTの場合は(2)式をSCCに適用することを試みた。歪みが与えられているときの歪み速度は、クリープ歪み速度の式などによって計算できる。応力拡大係数が与えられている場合には、歪速度を応力拡大係数の4乗に比例するとして扱うこともできる。なお、加工による表面硬化の影響は、施工時に研磨することにより除くことができるので、ここでは無視した。
材料組成の違いは(2)式においてC%炭素量の項に反映されており、(2)式を用いることによって炭素の含有量が違う構造材料に対してSCC発生時間を求めることができる。(2)式におけるtはSCC発生時間を表している。構造材料に含まれる炭素量の代わりに、構造材料に含まれるクロムとモリブデン量の関数、電気化学再活性化率、分極などを反映した関数によって、ECPの影響を与えることもできる。
(2)式の考え方を、低歪速度引張試験(SSRT)の条件での計算結果を基に説明する。この計算結果を図2に示す。図2に示す計算結果は、硫酸ナトリウムによって導電率が0.1μS/cmとなっており、構造材料の歪み速度が4×10−7/sになっているときのものである。この場合、SCC発生の閾値は、図1から-0.23VvsSHEで与えられる。鋭敏加熱処理をしたステンレス鋼に含まれる炭素量ごとに各ECPでのSCC発生時間を計算すると、0.2VvsSHEの高電位では、炭素量が0.05〜0.07%で数十時間でSCCが発生する。通常、沸騰水型原子炉の炉水条件を模擬する場合には、炉水を模擬した試料水に酸素が200ppbから数ppm添加される。このときのECPは0〜0.1VvsSHE程度になる。この条件で、炭素量が0.05〜0.07%であれば、数十から百時間程度でSCCが発生する。発明者らは、炭素量が0.03%以下であれば、SCCの発生時間が図2において破線で示した延性破断が生じる時間よりも遅いため、SCCが観測されない、という事実を発見した。したがって、ECP、含有する炭素量及び歪速度から決まるSCC発生時間が、歪速度及び材料の使用温度で決まる破断歪量から計算される延性破断時間よりも長くなると、SSRT試験でSCCは観測することができない。したがって、SCC感受性の有無を調べる試験を行うには、試験条件の組み合わせによって決まるSCC発生時間が延性破断時間のより短くなるように決めた上で、さらに実機の実使用時間の間ではSCCの発生がないことを示す必要がある。
そこで、含有する炭素量の少ない構造材料、例えば、SUS316Lのような材料でSSRTを実施するには、延性破断しない時間内でSCCを発生させる必要がある。また、構造材料のSCC破面を観察するためには、SCCが進展するための十分な時間が必要となる。そこで、歪み速度を遅くして延性破断時間を長くし、硫酸イオンの添加によりECPを高くして化学的に酸化皮膜が破壊され易くする。これによって、図3に示すように、腐食電位が0.2VvsSHEのように高いとき、炭素量が0.02%程度であればSCCの発生がみられるようになる。硫酸濃度を高めれば、ECPが高くなり、炭素量がさらに少ない領域でもSCCが延性破断時間内に発生すると考えられる。
本発明は、以上に述べた発明者らの検討結果を反映して成されたものである。本発明の実施例を以下に図面を用いて説明する。
本発明の好適な一実施例である応力腐食割れ監視方法(以下、SCC監視方法という)を、図4及び図5を用いて以下に説明する。本実施例は、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)に適用した例である。
BWRプラントの概略の構成を図4により説明する。BWRプラントは、給水系、原子炉1、再循環系、主蒸気系、タービン10、復水器11及び炉水浄化系を備える。原子炉1は、原子炉圧力容器2(RPVという)を有し、炉心3がRPV2内に配置されている。複数の燃料集合体(図示せず)が炉心3内に装荷されている。給水系は復水器11とRPV2を連絡する給水配管12を有する。主蒸気系は、RPV2とタービン10を連絡する主蒸気配管9を有する。再循環系は、RPV2に連絡される再循環系配管5、及び再循環系配管5に設けられた再循環ポンプ6を有する。RPV2及び再循環系は原子炉格納容器19内に設置されている。炉水浄化系は、再循環系配管5と給水配管12に接続される浄化系配管7、及び浄化系配管7に設けられた浄化装置(図示せず)を有する。復水器11はオフガス系20に接続されている。
RPV2内の冷却水(炉水)は、炉心3内で燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂によって発生する熱で加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV2から排出されて主蒸気配管9を通ってタービン10に供給され、タービン10を回転させる。タービン10に連結された発電機が回転されて電力が発生する。タービン10から排出された蒸気は、復水器11で凝縮されて水になる。この凝縮水である給水が、給水配管12を通ってRPV2に供給される。水素注入装置36がバルブ18を介して給水配管12に接続されている。水素が、水素注入装置36から給水配管12内を流れる給水に注入され、給水と共にRPV2内に導かれる。炉水はこの水素を含んでいる。
蒸気にならなかった大部分の炉水は、RPV2内に設置された気水分離器(図示せず)によって蒸気から分離される。分離された炉水は、RPV2と炉心3の間に形成されるダウンカマ4内を下降して、再循環系配管5内に流入する。再循環ポンプ6は、この炉水を昇圧する。昇圧された炉水は、ダウンカマ4内に設置されたジェットポンプ(図示せず)内に噴出され、ダウンカマ4内の炉水をジェットポンプ内に吸い込む。ジェットポンプから吐出された炉水は、炉心3に供給される。給水配管12によって導かれた水素を含む給水は、ダウンカマ4内で気水分離器によって分離された炉水とダウンカマ4内で混合される。再循環系配管5内に流入した炉水の一部は、浄化系配管7に導かれ、浄化系配管7に設けられた浄化装置によって浄化される。この浄化装置から排出された炉水は、浄化系配管7及び給水配管12を通ってRPV2内に戻される。RPV2の底部に接続されたボトムドレン配管8が浄化系配管7に接続される。サンプリング配管14が浄化系配管7に、サンプリング配管15がボトムドレン配管8に、サンプリング配管16が給水配管12にそれぞれ接続される。また、サンプリング配管17が主蒸気配管13に接続される。
BWRプラントの構造部材は、オーステナイトステンレス鋼、例えばSUS316Lで構成される。構造部材の材料としては、SUS316Lのほかに、オーステナイトステンレス鋼であるSUS304、SUS304の炭素量を減らしたSUS304L、SUS316Lに強度を高めるために窒素を添加したSUS316NG(NG:原子力用)が使用されている。これらの材料を用いて電極を構成することが可能である。例えば、炉心シュラウドはSUS304L,SUS316Lなどで構成され、再循環系配管5にはSUS304及びSUS316NGが用いられる。また、BWRプラントは、構造部材にニッケル基合金を用いている。炉底部(RPV2の底部)は、高強度が必要なためAlloy600が使用されている。また、同様に炉底部での溶接部や肉盛部では溶接金属としてAlloy182やAlloy82が使用されている
バルク炉水の水質を測定する水質測定装置16aがサンプリング配管14に接続される。水質測定装置16bはサンプリング配管15に接続されている。給水の水質を測定する水質測定装置16cがサンプリング配管16に接続される。蒸気中の酸素濃度、水素濃度及び導電率を測定する測定装置16dがサンプリング配管17に接続される。イオンクロマトグラフ装置40がサンプリング配管14,15にそれぞれ接続されている。
腐食電位センサ(以下、ECPセンサと称する)13aは炉心3(例えば、RPV2内で炉心3を取り囲む図示されていない炉心シュラウド)に設置される。ECPセンサ13bは再循環系配管5に、ECPセンサ13cはボトムドレン配管8に、及びECPセンサ13dはサンプリング配管14にそれぞれ設置される。ECPセンサ13a〜13dは設置された位置での炉水の腐食電位を測定する。
バルブ18を開けて水素注入装置36から給水配管12内を流れる給水に水素を注入する際に、前述の特開2005−43051号公報に記述されているように、ヒドラジンを給水に注入しても良い。水素注入時における炉水の水質の変化は、水質測定装置16a及び16bによりオンラインで測定される。ECPセンサ13a,13b,13c,13dを用いて、水素注入時における構造部材のECPの変化を測定する。ECPセンサ13aは、炉心3内あるいはその近傍に位置する構造部材が置かれた腐食環境、すなわち、炉水と接するその構造部材のECPを測定する。ECPセンサ13bは、再循環系配管5内の腐食環境、すなわち、炉水と接する再循環系配管5のECPを計測する。ECPセンサ13cは、RPV2内の下部領域の腐食環境、すなわち、炉水と接するボトムドレン配管8のECPを計測する。ECPセンサ13dは、浄化系配管8内の腐食環境、すなわち、炉水(再循環系配管5及びボトムドレン配管7で導かれた各炉水が混合された状態)と接する浄化系配管8のECPを計測する。水素注入装置36から給水への水素の注入量は、各ECPセンサで計測される各部位での腐食環境(各構造部材のECP)が応力腐食割れの発生確率の設定値以下に低減するように、制御される。注入した水素の余剰分はオフガス系20において再結合器(図示せず)により酸素と再結合されて水になる。
本実施例のSCC監視方法は、図4に示す応力腐食割れ監視装置(以下、SCC監視装置という)21を用いて行われる。SCC監視装置21には、ECPセンサ13a,13b,13c,13dがSCC監視装置21に接続される。前述した各イオンクロマトグラフ装置40がSCC監視装置21に接続されている。さらに、SCC監視装置21には、図示されていまいが、水質測定装置16a,16b,16c及び16dも接続されている。図4は、ECPセンサ13d及びサンプリング配管14に接続されたイオンクロマトグラフ装置40とSCC監視装置21の接続状態が代表として示されている。SCC監視装置21は、コンピュータで構成され、図5に示すステップ22からステップ27の処理を実行する。ステップ22からステップ27で実行される本実施例のSCC監視方法の具体的な処理について説明する。
ECPの測定値を入力する(ステップ22)。ECPセンサ13a,13b,13c,13dによって測定された各測定対象箇所でのECPの測定値がそれぞれSCC監視装置21に入力される。硫酸イオン濃度の測定値が入力される(ステップ23)。各イオンクロマトグラフ装置40で測定された各測定対象箇所での冷却水の硫酸イオン濃度の測定値がそれぞれSCC監視装置21にオンラインで入力される。
次に、構造部材の粒界の腐食速度を決定する必要がある。ただし、既設のBWRプラントではSCC発生時間を求めたい位置での構造部材の粒界の腐食速度を直接知ることはできない。発明者らは、構造部材の粒界の腐食速度が構造部材の材料に含まれる炭素量によって決まることを見出し、その腐食速度の影響を(2)式においてC%炭素量の項に反映した。すなわち、構造部材の粒界の腐食速度は粒界のクロム量で決まる。構造部材の溶接時の熱の影響で粒界のクロムは周囲の炭素と反応して炭化クロムを形成する。このため、溶接の入熱によって炭化クロムが形成されることを前提として、構造部材に含まれる炭素量で構造部材の粒界の腐食速度を推定することができる。
構造部材の粒界の腐食速度は、溶接の入熱により炭化クロムを形成することを前提として、構造部材に含まれるクロム量を用いた関数としても表すことができる。ただし、SUS304やSUS316などは規格によってクロム量が決まっているため、結果としては炭素量の関数となる。SUS316の場合はMoがクロムと等価として扱われ、クロムが増えたことに対応する。
また、これから建設する原子力プラントであれば、使用する材料の電気化学再活性化率(EPR)をその建設前に予め測定しておくことができる。運転中の原子力プラントであっても、定期検査時に原子炉内に測定器を設置してEPRを測定することができる場合がある。EPRは構造部材の粒界の腐食速度と相関をもった量であるので、EPRの関数としても(2)式を与えてもよい。
粒界成分を模擬した材料を作り、その腐食速度を分極曲線の測定から決定しても良い。分極曲線を用いても、各腐食電位での構造部材の粒界の腐食速度が得られることになる。
構造部材のクロムの含有量が大きく変らないので、溶接の入熱により炭化クロムが形成されるメカニズムの下では、炭素量の関数として構造部材の粒界の腐食速度を与えるのが、簡便かつ実用的である。
そこで、本実施例は、測定対象箇所の構造部材の炭素量を入力する(ステップ24)。BWRプラントのオペレータは、各測定対象箇所、例えば、炉心シュラウド、再循環系配管5、ボトムドレン配管8及び浄化系配管7にそれぞれ含まれる炭素量をミルシートから読み取って入力装置(図示せず)からSCC監視装置21に入力する。測定対象箇所の構造部材の歪み速度を入力する(ステップ25)。オペレータは、各測定対象箇所の構造部材(例えば、炉心シュラウド、再循環系配管5、ボトムドレン配管8及び浄化系配管7)の歪み速度をそれぞれ上記の入力装置からSCC監視装置21に入力する。SCC監視装置21に入力された各ECPの測定値、各硫酸イオン濃度の測定値、各測定対象箇所の構造部材に含まれる各炭素量、及び各測定対象箇所の構造部材の歪み速度は、SCC監視装置21に接続される記憶装置(図示せず)に記憶される。(2)式の演算に必要な他の情報もその記憶装置に記憶されている。
SCC発生時間を算出する(ステップ26)。SCC監視装置21は、ECP及び硫酸イオン濃度の各測定値、炭素量及び歪み速度等の必要な情報を(2)式に代入して、各測定対象箇所の構造部材のSCC発生時間を算出する。硫酸イオン濃度の測定値にに基に、図1の関係をより閾電位Vcが決定される。αは硫酸の場合共通で使用される。したがって、腐食電位がわかれば、(2)式に含まれる閾電位Vcが硫酸イオン濃度によって変わるので、炉水の硫酸イオン濃度を反映したSCC発生時間を求めることができる。算出されたこれらのSCC発生時間は、上記の記憶装置に記憶される。算出されたこれらのSCC発生時間は、測定対象箇所における構造部材がBWRプラントに使用された時点を起点にした時間で表される。例えば、BWRプラントの建設時点から使用されている構造部材のSCC発生時間は、その建設終了後において初めてBWRプラントが起動された時点からの時間である。既設の構造部材が途中で新しい構造部材と交換された場合では、その新しい構造部材に対するSCC発生時間は、その新しい構造部材がBWRプラントに設置たれた後において初めてBWRプラントが起動された時点からの時間である。SCC発生時間が管理目標時間以上であるかを判定する(ステップ27)。SCC監視装置21は、ステップ26で算出された各SCC発生時間が管理目標時間(設定時間)以上であるかを判定する。これらの判定結果の情報、及び各測定対象箇所のSCC時間の情報は、SCC監視装置21に接続される表示装置(図示せず)に出力され、そこに表示される。管理目標時間の一例として40時間が考えられる。ステップ27の判定が「YES」のとき、すなわち、算出された各SCC発生時間が管理目標時間以上であるとき、SCC発生時間の評価が終了し(ステップ28)、BWRプラントの運転がそのまま継続される。このSCC発生時間の評価は、設定された時間間隔で1つの運転サイクルにおいて繰り返し行われる。
本実施例では、サンプリング配管14,15に接続された各イオンクロマトグラフ装置40をSCC監視装置21に接続して冷却水中の硫酸イオン濃度の各測定値をオンラインにてSCC監視装置21に入力している。しかしながら、各イオンクロマトグラフ装置40をサンプリング配管14,15及びSCC監視装置21に接続しないで、サンプリング配管14,15から採水された各炉水を各イオンクロマトグラフ装置によって分析することによって、各炉水に含まれている硫酸イオン等の不純物イオンの濃度を計測することができる。このような分析によって測定された硫酸イオン濃度の各測定値を、オペレータが入力装置からSCC監視装置21に入力することも可能である。SCC監視装置21は、このようにして入力された硫酸イオンの濃度を用いてSCC発生時間を算出する。
ステップ27の判定が「NO」のとき、すなわち、算出されたSCC発生時間が管理目標時間よりも短いとき、BWRプラントのオペレータは、水素注入の増加量を増加させることによって、そのSCC発生時間を管理目標時間よりも長くできるかを検討する(ステップ29)。もし、水素注入量の増加が可能であれば、水素注入量を増加する(ステップ30)。この水素注入量の増加は、オペレータがバルブ18の開度を必要量だけ増加させることによって行われる。このような水素注入量の増加によって、冷却水中の酸素濃度(または過酸化水素濃度)を減少させて構造部材のECPを低下させることができ、SCC発生時間を管理目標時間以上に延ばすことができる。例えば、BWRプラントの運転中に浄化系の浄化装置に用いられているイオン交換樹脂の劣化によって硫酸イオンが除去されずに、この硫酸イオンがRPV2内に戻される事象が発生した場合が考えられる。このとき、その硫酸イオンの影響を抑えるために、水素注入量を増やしてBWRプラントを運転することが挙げられる。水素注入の替りに、ヒドラジンを給水中に注入してRPV2内に導く場合も同様に行うことができる。
ステップ29の検討において、水素注入量の増加が不可能であるとの結果が得られた場合には、炉水浄化系での対応が可能かを検討する(ステップ31)。この検討において、オペレータはRPV2内の冷却水の導電率を下げることが可能であるかを検討する。これは、炉水硫酸イオンによる場合は硫酸イオン濃度を減少させることに対応する。その冷却水の導電率が例えば0.06μS/cmから0.1μS/cmに減少するだけでも、構造部材のSCC発生時間は3倍程度長くなる。炉水浄化系での対応が可能である場合には、炉水浄化系での対応を実施する(ステップ32)。炉水浄化系での代表的な対応策としては、例えば2つの方法がある。第1の対応策は浄化系配管7を流れる冷却水流量を増加させることである。炉水浄化系に余裕がある場合には、浄化系配管7を流れる冷却水流量を増加させてその冷却水の導電率を減少させる。浄化系配管7を流れる冷却水流量の増加は、浄化系配管7に設置された浄化系ポンプ(図示せず)の回転数の増加によって行われる。この第1の対応策は、運転サイクル中に行うことができる。硫酸イオン濃度が増加した場合、浄化系流量を増加することで硫酸イオ濃度を減少することができる。炉水浄化系に余裕がないときには第2の対応策を実行する。この第2の対応策は、運転サイクルが終了した後の例えば定期検査時に行われる。1つの第2の対応策は炉水浄化系の浄化装置に充填されているイオン交換樹脂を交換することであり、他の第2の対応策は炉水浄化系の改造を行って既設の浄化系配管を直径が大きい浄化系配管に取り替え浄化装置もイオン交換樹脂の充填量が大きな浄化装置と交換することである。第2の対応策によって浄化装置からの不純物イオンの流出を押さえることができ、RPV2内の冷却水の導電率を減少させることができる。炉水の硫酸イオンが樹脂から溶出した成分の酸化によって供給されている場合、イオン交換樹脂の交換は効果的な方法である。これによって硫酸イオン濃度が低下し、導電率が改善される。イオン交換樹脂が劣化するだけでなく、イオン交換樹脂の成分が硫黄分を放出しやすいケースがある。硫黄分を含まない(スルフォン基を含まない)イオン交換樹脂への転換なども可能である。
炉水浄化系での対応策が実施できない場合には、構造部材の応力改善の適用が可能かを検討する(ステップ33)。オペレータは、SCC発生要因の1つである応力、すなわち構造部材の引張り残留応力を圧縮残留応力に改善する方策を検討する。応力改善策の適用が可能な場合、該当箇所に応力改善策、すなわち圧縮残留応力の付与が行われる(ステップ34)。構造部材への応力改善策として、例えば、ウォータジェットピーニングの適用が可能であると決定されたときには、該当する構造部材に対してウォータジェットピーニングが施され、その構造部材に圧縮残留応力が付与される。ステップ33の検討で、構造部材の応力改善の適用が不可能であると判定されたときには、構造部材の材料を交換する(ステップ35)。構造部材の応力改善及び構造部材の材料取り替えは定期検査の期間中に行われる。
ステップ30,32または34の対応策が実行された場合には、SCC監視装置21はステップ22〜27の処理を再度実行する。ステップ27の判定が「YES」になったとき、SCC発生時間の評価が終了する。
本実施例によれば、構造部材のECP及び冷却水中の硫酸濃度の測定値、測定対象箇所の構造部材の炭素量及びその構造部材の歪み速度に基づいて、原子力プラントの、冷却水に接する構造部材のSCC発生時間を求めるので、SCC発生時間を精度良く求めることができる。精度の良いSCC発生時間が求められることは、BWRプラントの構造部材の材料選定、原子力プラント製作時の応力の低減による歪み速度の低下、原子力プラントの運転開始当初からの水素注入などによる腐食電位の低減、及び炉水浄化系の容量等の最適化炉水浄化系容量の最適化を行うことができる。さらに、SCC発生時間に基づいてBWRプラントにおけるSCC発生分布が得られるので、BWRプラントにおけるメンテンナンス工事の優先順位付けが可能になる。これは、BWRプラントの健全性及び信頼性の向上につながる。
本実施例は、SCC発生時間を精度良く求めることができるので、算出されたSCC発生時間が管理目標時間よりも短いとき、水素注入量の増加、冷却系配管7内を流れる冷却水流量の増加、冷却水配管7に設けられた浄化装置内のイオン交換樹脂の交換、構造部材の応力改善及び構造部材の材料交換等のSCC発生時間を延長させる対応策を選択して実行することができる。
本発明の他の実施例であるSCC監視方法を以下に説明する。まず、1つの運転サイクルにおけるBWRプラントの運転状態を、図6を用いて説明する。1つの運転サイクルは、BWRプラントの起動後から、燃料交換を行うためにBWRプラントの運転を停止するまでの運転期間である。図6の横軸はBWRプラントの1つの運転サイクルにおける運転時間を示し、縦軸は原子炉出力、炉水温度及び炉水中の水素濃度を示す。1つの運転サイクルは、起動時の運転、定格運転及び停止時の運転を含んでいる。
BWRプラントの定期検査は、RPV2の蓋を取り外して行われるので、炉水に多量の酸素が溶存している。そこで、起動運転時には起動時脱気運転を行って、炉水中の酸素濃度を数十ppbまで低下させる。その後、炉心3から制御棒を引抜き、原子炉を臨界状態にし、さらに原子炉の昇温昇圧運転が行われる。しかしながら、炉水中に過酸化水素が溶存しているために、昇温昇圧時における核分裂の増大とともに水の放射線分解が生じ、炉水中には酸素及び過酸化水素が数百ppbずつ存在する。やがて炉水の温度の上昇とともに化学反応も促進され、それらの濃度は100〜200ppb程度で落ち着くことになる。炉水の温度上昇に伴って、構造部材の腐食が促進され炉水の温度上昇の途中で導電率の上昇が見られる。また、給水配管12からRPV2への給水の供給開始とともに、給水によるRPV2への不純物の導入が生じ、炉水の導電率が一時的に上昇する。さらに、炉水の温度上昇に伴って、原子炉構造材に熱歪み発生するため、原子炉の起動運転中は、SCCの発生しやすい条件になっていると推定される。
本実施例のSCC監視方法は、原子炉の起動運転中に適用される。本実施例が適用されるBWRプラントの概略構成を図7に示す。このBWRプラントは、起動運転時においてもRPV2内に水素が注入できるように、水素注入装置36を浄化系配管7に接続している。具体的には、水素注入装置19は、浄化系配管7に設けられた熱交換器(図示せず)の下流で浄化系配管7に接続される。これは、起動運転時では給水配管12から給水がRPV2に供給されないためである。浄化系配管7は、起動運転時及び定格運転時において炉水が内部を流れる。水素注入装置36を浄化系配管7に接続することによって、起動運転時及び定格運転時において水素をRPV2内に水素を注入することができる。このBWRプラントの他の構成は、図4に示すBWRプラントと同じ構成を有する。
本実施例のSCC監視方法は、図7に示すSCC監視装置21を用いて行われる。このSCC監視装置21は、ECPセンサ13a,13b,13c,13d及び水質測定装置16a,16b,16c及び16dに接続されており、図5に示すステップ22からステップ27の処理を実行する。ただし、イオンクロマトグラフ装置40は本実施例では用いられていない。
BWRプラントの起動運転時において、ECPセンサ13a,13b,13c,13dで測定された各ECPの測定値、及び水質測定装置16a,16b,16c及び16dで測定された各導電率の測定値が、SCC監視装置21に入力される。本実施例では、SCC監視装置21が、導電率の測定値に基づいて硫酸イオン濃度を換算して求めている。導電率の硫酸イオン濃度への換算には、予め求めておいた、イオンクロマトグラフ装置によって測定した硫酸イオン濃度と導電率の相関関係を用いる。このSCC監視装置21は、実施例1と同様に、ステップ26において(2)式を用いて起動運転時におけるSCC発生時間を算出する。SCC発生時間の算出に用いられる歪み速度は、オペレータが、構造部材が受ける熱歪を基に算出し、ステップ25においてSCC監視装置21に入力する。構造部材の炭素量も、実施例1と同様に、SCC監視装置21に入力される。本実施例は、上記の相関関係を使って水質測定装置で測定された導電率から換算された硫酸イオン濃度をSCC発生時間の算出に用いているので、イオンクロマドグラフ装置を用いる場合よりも簡便にかつ迅速に硫酸イオン濃度を求めることができる。
各運転サイクルの起動運転ごとに算出されたSCC発生時間が起動運転の期間よりも長くなるように、水素注入量を設定する。起動運転中は、温度上昇による熱歪によってプラントの各部位にかかる歪み速度が定格運転中よりもはるかに大きい。したがって、材料の耐食性をあげるか、腐食環境の緩和を行うことがSCCの発生抑制に必要である。起動運転の時間内にSCC発生時間があると、ひとつの運転サイクルの大部分の時間を占める定格運転中にき裂が進展する可能性が高い。したがって、腐食環境の緩和によって、SCCの発生時間を起動運転の期間より長くすれば、歪み速度のより低い定格運転中のSCC発生時間はさらに長くなり、SCCの発生が効果的に抑制されることになる。図7に示すBWRプラントでは、制御棒引き抜き開始前から水素を注入し、熱歪の大きな昇温期間を包含するように水素注入期間を設定した。水素は50〜100ppb程度炉水濃度としてあれば、400〜500ppb程度の酸素並びに過酸化水素を消費することができる。SCC発生時間を評価しながら、水素の注入量を調整する。図7に示すBWRプラントでは、BWRプラントの定格運転時においてもSCC発生時間を算出することができる。本実施例も実施例1で生じる効果が得られる。
本実施例においても、図5に示すステップ30〜35の検討及び対策が必要に応じて実行される。
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラントの予寿命推定方法を、図8を用いて以下に説明する。本実施例の原子力プラントの予寿命推定方法は、実施例1で述べたSCC監視方法を適用している。本実施例が適用されるBWRプラントの構成は、実施例1のSCC監視方法が適用される、図4に示すBWRプラントの構成と同じである。本実施例の原子力プラントの予寿命推定方法は、そのBWRプラントに設けられた予寿命推定装置37を用いて行われる。この予寿命推定装置37はSCC監視装置21及び予寿命算出装置38を有している。予寿命算出装置38はSCC監視装置21に接続される。SCC監視装置21は、実施例1と同様に、ECPセンサ13a,13b,13c,13d及び各イオンクロマトグラフ装置40に接続されている。さらに、SCC監視装置21及び予寿命算出装置38は表示装置(図示せず)に接続される。各イオンクロマトグラフ装置40で計測された硫酸イオン濃度をオンラインでなくオフラインでSCC監視装置21に入力することも可能である。また、硫酸イオン濃度は、実施例2のように、導電率の測定値から換算して求めてもよい。
本実施例におけるSCC監視装置21は、実施例1におけるSCC監視装置21と同様に、図5に示すステップ22〜26の処理を行い、各構造部材に対するSCC発生時間を算出する。ステップ27の判定が「YES」になり、SCC発生時間の評価が終了したとき、算出されたSCC発生時間の情報が予寿命算出装置38に入力される。
予寿命算出装置38は、このSCC発生時間を起点にして冷却水に接する各構造部材の予寿命を算出する。予寿命算出装置38における構造部材の予寿命の算出は、例えば、特開平6−34786号公報に記載されている予寿命推定方法に基づいて行われる。この予寿命算出の概略を、説明する。水質測定装置16a,16b,16c及び16dで計測されたそれぞれの測定対象箇所における溶存酸素濃度、過酸化水素濃度及び導電率の計測値が予寿命算出装置38に入力される。さらには、図8には図示されていないが、き裂進展センサ(特開平6−34786号公報の図2参照)が、ECPセンサ13a,13b,13c,13dのそれぞれの近傍でBWRプラントにそれぞれ設置されている。き裂進展センサにて計測されたき裂長さ(SCCで生じたき裂の長さ)を入力してき裂進展速度を算出するき裂進展モニタからの出力(き裂進展速度)が、予寿命算出装置38に入力される。予寿命算出装置38は、入力した溶存酸素濃度、過酸化水素濃度及び導電率の計測値、及びき裂進展速度を用いて、特開平6−34786号公報の図5に記載された方法により各ECPセンサが設置された近傍の各構造部材の予寿命時間を算出する。予寿命算出装置38は、さらに、SCC監視装置21で算出したSCC発生時間を算出された上記の予寿命時間を加える。これにより、本実施例は、該当する構造部材がBWRプラントに取付けられてから、SCCで生じたき裂が進展して構造部材が寿命になるまでの期間のトータル時間をより精度良く求めることができる。
従来の予寿命推定法は、原子力プラントの、冷却水と接する構造部材に生じるき裂の長さはき裂進展速度のみで評価していた。したがって、図9に示す時間とき裂長さの関係において、構造部材に生じるき裂は、原子力プラントの運転開始時間を0としてこれ以降の時間の経過とともに進展することになる。このとき、き裂の存在が確認できる時間は、実際にき裂が検出できる長さLDに到達した時間t1であり、この時間t1が管理上のき裂の発生時間と見做される。従来の予寿命推定法では、き裂が進展した場合、き裂は、時間tL1でこれ以上原子力プラントの運転を続けられない長さ(寿命長さ)LLに到達することになる。
これに対し、本実施例は、SCC発生時間を管理上の発生時間ではなく、前述したように、(2)式によって算出している。これによって、図9に示すように、物理的なSCC発生時間tiが算出される。このSCC発生時間tiからき裂の進展が始まった結果、実際にき裂が検出できる長さLDに到達する時間はt2となる。t1<t2の関係があるので、き裂の潜伏期間に裕度が与えられることになる。本実施例では、さらにき裂が進展し、寿命長さに到達する時間がtL2となり、tL1<tL2の関係から原子力プラントの構造部材の寿命を物理的発生時間tiの分だけ長くなると、評価することができる。
このように、物理モデル(例えば、(2)式)に基づいてSCC発生時間を精度良く求めることができ、このSCC発生時間を起点にして原子力プラント(例えば、BWRプラント)におけるSCCによるき裂の進展を評価するので、原子力プラントの寿命評価での、過度の保守性を合理的に低減することができる。このため、推定された、原子力プラントの予寿命の精度を向上させることができる。また、SCCの発生時期及びSCCによるき裂の進展の度合いを精度良く求めることができるので、き裂の発生位置も予め予測することができる。この結果、原子力プラントを対象とした検査計画での優先順位付けが可能となるとともに、検査員に事前にき裂の有無の情報を与えることができる。原子力プラントの検査精度を高めることができ、計画的かつ安全性の高い検査が可能となる。
本実施例は。SCC発生時間に関して実施例1で生じる効果も得ることができる。
以上に述べた各実施例は、BWRプラントだけでなく、加圧水型原子力プラント及び火力プラント等の他のプラントにも適用することができる。
冷却水の硫酸濃度とSCC発生時における電位閾値との関係を示す特性図である。
低歪み速度引張試験で得られた構造部材の炭素量とSCC発生時間の関係を示す特性図である。
図2に示す低歪み速度引張試験とは異なる条件下で実施された低歪み速度引張試験で得られた構造部材の炭素量とSCC発生時間の関係を示す特性図である。
本発明の好適な一実施例である実施例1の応力腐食割れ監視方法が適用されるBWRプラントの概略の構成図である。
図4に示されたSCC監視装置で実行されるSCC発生時間を算出する処理方法及びSCC発生時間を延ばす対応策を示すフローチャートである。
1つの運転サイクルにおける原子炉の運転状況を示す説明図である。
本発明の他の実施例である実施例2の応力腐食割れ監視方法が適用されるBWRプラントの概略の構成図である。
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラントの予寿命推定方法が適用されるBWRプラントの概略の構成図である。
実施例3における予寿命推定の効果を従来例との比較で示した説明図である。
符号の説明
1…原子炉、2…原子炉圧力容器、3…炉心、4…ダウンカマ、5…再循環系配管、7…浄化系配管、8…ボトムドレン配管、9…主蒸気配管、10…タービン、12…給水配管、13a,13b,13c,13d…腐食電位センサ、16a,16b,16c,16d…水質測定装置、18…バルブ、21…応力腐食割れ監視装置、36…水素注入装置、37…予寿命推定装置、38…予寿命算出装置。