JP5480677B2 - 担子菌抑制剤および担子菌抑制用肥料組成物 - Google Patents
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Description
また、化学合成農薬の中には発がん性や変異原性が報告または懸念されているものがあり、農業以外の植生管理の現場においても、減農薬技術や無農薬管理技術の確立に向けての検討が開始されている。
フェアリーリング病は担子菌により引き起こされる病気で、本病を的確に防除するには非常な困難を伴うとされている(非特許文献5)。
また、ピシウム病には、重大な被害を及ぼす病気としてペントグラス赤焼病などがあり、湿度が高い場合、突然発生するなど、水と関係して被害を急速に拡大する傾向にあり(非特許文献6)、対策が望まれている。
本発明の植物病原菌抑制剤を使用することにより、公園、校庭、緑地、ゴルフ場、サッカー場などの植生管理の効率性を向上し、穀物や牧草・飼料の生産性を向上できる。
桂皮酸の飽和水溶液濃度は25℃で0.05%程度であるが、桂皮酸のアルカリ金属塩、特に桂皮酸カリウムは、容易に高濃度の水溶液(例えば、20%)を調製することができる。このため、保存安定性に優れた高濃度溶液を調製できるばかりでなく、輸送効率にも優れている。また、水溶性が高いという利点を生かし、粉末や顆粒として運搬し、施用現場にて容易に、施用目的に応じた濃度の本発明の植物病原菌抑制剤を調製することができ、植生管理の効率化にも貢献できる。
リゾクトニア病とは、不完全菌であるリゾクトニア(Rhizoctonia)属菌が引き起こす病気で、各種作物に対して苗立枯れや根腐れなどの病徴を生ずる。リゾクトニア病には苗立枯れ病、根腐れ病、イネ紋枯病、くもの巣病などが含まれる。芝草に対するリゾクトニア病には、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)の学名を持つ菌が病原菌である葉腐病、褐色葉腐病、くもの巣病、プラウンパッチ、紋枯病、ラージパッチ、リゾクトニアラージパッチなどの病気と、2核のリゾクトニア属菌(binucleate Rhizoctonia)が病原菌である疑似葉腐病、イエローパッチ、ウインターパッチ、象の足跡、春はげ症、リゾクトニア春はげ症、ホワイトパッチ、冬葉腐病などと呼ばれる病気が含まれる。
また、カーブラリア病とは、不完全菌カルバラリア・ゼニキュラータ(Curvularia geniculata)により引き起こされる病気で、芝草病の立枯病、葉枯病、カーブラリア葉枯病などの病気が含まれる。
しかし、本発明の植物病原菌抑制剤は、植物中に自然に存在する物質である桂皮酸の塩を有効成分としており、化学合成物質を主成分とした殺菌剤に散見される変異原性や内分泌かく乱性の疑いも認められていない。また、残留性も低いので極めて安全に使用できる。本発明の植物病原菌抑制剤は、植物体には深刻な毒性は及ぼさず、植物病原菌のみを抑制でき、植物病の治癒や植物生育保持にも利用できる。上述した通り、特に真菌類が原因の植物病に対し優れた抑制効果を備えている。
また、水溶液として用いる以外にも、本発明の植物病原菌抑制剤の水溶液を利用して乳化液、分散液、懸濁液を調製し使用してもよい。あるいは、粉体または顆粒状の固体として散布し、次いで適量の水を散布して用いてもよい。
本発明の植物病原菌抑制剤の使用量は特に制限されないが、桂皮酸カリウムを使用する場合、施用区域の単位面積(m2)あたり桂皮酸カリウムとして0.1〜6.0gとなる量を2〜4回/月散布するのが効果的である。使用量が多すぎると植物体の成育に悪い影響を与える場合があり、少なすぎると十分な効果が発揮されない場合がある。他の塩を用いた場合も、桂皮酸カリウムに準じた量(桂皮酸残基部分として0.1〜5.0g)を上記と同様に散布する。
本発明の植物病原菌抑制剤として最も好適に使用される桂皮酸塩の一つである桂皮酸カリウムは、現在日本では市販されておらず、容易に入手することはできない。
<桂皮酸カリウム粉末の調製>
(1)白色粉末(A)の調製
90℃の蒸留水650mLに水酸化カリウム(純度85%、試薬特級)130gを溶解し、この水酸化カリウム溶液に桂皮酸302gを徐々に加えて撹拌して溶解し、該溶液を蒸留水で1000mLにメスアップして、濃度30%の桂皮酸水溶液(pH7.8)を調製した。次にこの溶液を25℃まで冷却した後、4℃で12時間放置し、白色物質を析出させた。この白色物質を取り出し、風乾の後、105℃で6時間乾燥し、白色粉末370gを得た。以下、当該白色粉末を白色粉末(A)と呼ぶ。
a)カリウムの確認
白色粉末(A)を蛍光X線分析したところ、図1に示すチャートを得た。このチャートを見ると、140 2θ(゜)付近(Kα:図1ではKAで表示)にカリウムのピークが確認され、白色粉末(A)中にはカリウム成分が存在することが明らかになった。
白色粉末(A)を赤外分光法にて分析したところ、図2の下側に示す赤外線吸収スペクトルを得た。このスペクトルを桂皮酸の赤外線吸収スペクトル(図2の上側)と比較すると、白色粉末(A)のスペクトルでは、桂皮酸のスペクトルで見られる1700cm-1付近のフリーなカルボン酸のピークが消滅し、新たに1550cm-1付近にカルボン酸塩のピークが確認された。このことから、白色粉末(A)中にはカルボン酸の塩が存在していることが明らかになった。
白色粉末(A)1gを正確に量り200mLのメスフラスコに入れ、精製水50mL、0.2M−硝酸5mLを加えて精製水で200mLとして振り混ぜた。さらに精製水で20倍希釈してイオンクロマトグラフィーで分析したところ、図3に示すクロマトグラムが得られた。このクロマトグラムのカリウムのピーク面積からカリウムの量を計算したところ、0.21gであった。この結果より、白色粉末(A)中のカリウム成分は21.0%であることが明らかになった。
クロロホルム処理した白色粉末(A)0.05gを正確に量り50mLのメスフラスコに入れ、0.5M−塩酸1mL、精製水20mLを加えて振り混ぜ、エタノールを加えて50mLとした。さらにエタノールで50倍希釈し、吸光光度法(270nm)を用いて、標準桂皮酸溶液(対照)との比較により該白色粉末(A)中の桂皮酸成分を定量したところ、桂皮酸成分は全白色粉末中の76.7%であることが明らかになった。
以上のa)〜d)の分析試験の結果から、白色粉末(A)は桂皮酸カリウムであり、その純分は約98%であることが確認された。
[参考例1]
上記白色粉末(A)の水溶液を用いて、桂皮酸カリウム濃度が0.01%であるポテトデキストロース寒天培地(PDA培地:栄研器材株式会社、1L中にバレイショ浸出液200g、ブドウ糖20g、寒天15gを含む)を調製し、直径90mmのシャーレに分注し、寒天プレートを作製した。このプレートの中央に1白金耳量のダラースポット病病原菌(Sclerotinia homoeocarpa)の菌糸を接種し、25℃で培養し、培養から2日後、5日後、8日後にコロニーの直径を測定した。結果を表1に示す。
PDA培地の桂皮酸カリウム濃度を0.05%としたこと以外は参考例1と同様にしてコロニーの測定を行った。結果を表1に示す。測定の結果、参考例1の場合よりも顕著な病原菌の成長抑制効果を確認できた。
PDA培地の桂皮酸カリウム濃度を0.1%としたこと以外は参考例1と同様にしてコロニーの測定を行った。結果を表1に示す。参考例3では、8日目までコロニーの発生は確認されなかった。
PDA培地に桂皮酸カリウムを添加しなかったこと以外は参考例1と同様にしてコロニーの測定を行った。比較例1では、培養開始から5日経過後にプレート全面にコロニーが成長した。
以上の結果から、本発明の桂皮酸カリウムの水溶液が、芝病菌であるダラースポット病病原菌の生育を効果的に抑制できることが明らかとなった。
[参考例4〜6、比較例2]
(1)ダラースポット病病巣からの病原菌の分離
ダラースポット病の病状を呈している芝草から、真菌用培地を用いた平板希釈法にて生育優勢な糸状菌株2株を分離し、それぞれ分離菌Aおよび分離菌Bとした。
ダラースポット病病原菌として上記分離菌AおよびBを用いたこと以外は参考例1〜3および比較例1と同様にしてそれぞれコロニーの直径を測定した(参考例4〜6、比較例2)。結果を表2に示す。表2の結果より、本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウムの水溶液はダラースポット病病巣分離菌の生育を効果的に抑制できることが明らかとなった。特に、培地中の桂皮酸カリウム濃度が0.01%を超える場合にはプレートにコロニーが発生せず、ダラースポット病病巣分離菌の発生を完全に抑制することができた。
[参考例7]
20℃の蒸留水400mLに前記白色粉末(A)2.0gを溶解し、濃度0.5%の桂皮酸カリウム水溶液を調製した。
ダラースポット病が発生した芝草(クリーピングベントグラス)圃場に試験区(1試験区の広さは1m2)を設定し、上記0.5%桂皮酸カリウム水溶液(0.5%区)を施用した。施用量は1回につき、250mL/m2とした。施用回数は4回とし、最初の施用日を0日目とし、2回目の施用を9日目、3回目の施用を16日目、4回目の施用を23日目に行った。最初の施用日(施用前、0日目)、15日目および26日目に、各区のダラースポット病の病斑数(0.25m2あたりの病斑数)を測定し、発病程度を(0:無−4:甚)として0.1単位で評価し、3試験区について測定、評価した。平均値の推移を図4および図5に点線で示す。
白色粉末(A)の使用量を4.0gとし、濃度1%の桂皮酸カリウム水溶液を用いたこと以外は参考例7と同様にして病斑数を測定し、発病程度を評価した。3試験区の平均値の推移を図4および図5に破線で示す。
白色粉末(A)を使用しなかったこと以外は参考例7と同様にして病斑数を測定し、発病程度を評価した。3試験区の平均値の推移を図4および図5に実線で示す。
これらの結果から、桂皮酸カリウム水溶液の施用区では、ダラースポット病病斑数、発病程度共に減少および低下する傾向が認められ、本発明の植物病原菌抑制剤が、ダラースポット病の病状を軽減できることが明らかとなった。
[参考例9]
20℃の蒸留水400mLに前記白色粉末(A)0.5gを溶解し、濃度0.125%の桂皮酸カリウム水溶液を調製した。
ダラースポット病が発生した芝草(クリーピングベントグラス)圃場に試験区(1試験区の広さは1m2)を設定し、上記0.125%桂皮酸カリウム水溶液を施用した。施用量は1回につき、250mL/m2とした。施用回数は5回とし、最初の施用日を0日目とし、2回目の施用を7日目、3回目の施用を13日目、4回目の施用を25日目、5回目の施用を29日目に行った。最初の施用日(施用前、0日目)、7日目、13日目、25日目、29日目および36日目に、各区のダラースポット病の病斑数(0.25m2あたりの病斑数)を測定した。3試験区の平均値の推移を図6に点線で示す。
白色粉末(A)の使用量を1gとし、濃度0.25%の桂皮酸カリウム水溶液を用いたこと以外は参考例9と同様にして病斑数を測定した。3試験区の平均値の推移を図6に一点鎖線で示す。
白色粉末(A)の使用量を2gとし、濃度0.5%の桂皮酸カリウム水溶液を用いたこと以外は参考例9と同様にして病斑数を測定した。3試験区の平均値の推移を図6に破線で示す。
白色粉末(A)を使用しなかったこと以外は参考例9と同様にして病斑数を測定した。3試験区の平均値の推移を図6に実線で示す。
これらの結果から、桂皮酸カリウム水溶液の施用により、ダラースポット病病斑数の増加を抑えることができ、本発明の植物病原菌抑制剤の散布によりダラースポット病を効果的に抑制できることが明らかになった。
[実施例12]
参考例1と同様の手順で桂皮酸カリウム濃度が0.01%の寒天プレートを作製し、プレートの中央に1白金耳量のフェアリーリング病病原菌チビホコリタケ(Bovista dermoxantha)(Lp41)の菌糸を接種し、25℃で培養した。培養から4日後、8日後、12日後および25日後にコロニーの直径を測定した。結果を表3に示す。
寒天プレート中の桂皮酸カリウム濃度を0.05%、0.1%および0%としたこと以外は実施例12と同様の実験を行った。結果をそれぞれ表3に示す。
プレート中に桂皮酸カリウムが含まれる場合、0.01%〜0.1%のいずれの濃度においても、コロニーの発生は確認できなかった。一方、桂皮酸カリウムを添加しなかった比較例5では、コロニーが発生し、時間とともに成長した。
これらの結果から、0.01%以上の桂皮酸カリウムを培地中に添加することにより、フェアリーリング病病原菌チビホコリタケの成長を効果的に抑制できることが明らかとなった。
[実施例15]
(1)芝草培地
芝草であるベントグラスの刈りカス9部とメトロミックス350(カナダ、サングロー社製)9部とを混合し、これに水7.5部を加えた培地を調製して、芝草培地とした。
上記芝草培地をバイオポット(直径8cm、高さ13cm)に高さ5cmほど充填し、これにフェアリーリング病病原菌チビホコリタケ(Bovista dermoxantha)(Lp41)を接種した。このバイオポットを28℃で14日間培養して、接種源を調製した。
芝草培地を充填した別のバイオポットを10個用意し、それぞれの中央に、植物培養ビン(直径2.5cm、高さ10cm)を2/3ほど差し込んで穴を確保し、これらのバイオポットを高圧蒸気滅菌した。滅菌後、培養ビンを抜き、生じた穴の中へ上記接種源を薬匙で2杯入れ、芝草培地を2cmほど覆土し、その上から前記白色粉末(A)を用いて調製した桂皮酸カリウム1%水溶液を、1ポット当たり4mL噴霧した。
これらのバイオポットを28℃で培養し、培養開始から28日目に覆土上部の菌糸体面積を計測し、菌成長なしの表面積割合(%)および菌成長なしのポット数割合(%)を次式により算出した。
菌成長なしの表面積割合(%)=[(菌成長なしの表面積cm2)/(ポットの表面積cm2)]×100
菌成長なしのポット数割合(%)=[(菌成長なしのポット数)/全ポット数]×100
10個のポット中4つでごく少量の菌糸体が発生したが、いずれも菌糸体面積の計測には不十分であった。結果のまとめを表4に示す。
桂皮酸カリウム1%水溶液の代わりに市販の芝病防除用農薬(市販品A)を2000倍希釈液したものを用いたこと以外は実施例15と同様の手順にて実験を行った。培養開始から28日後にはすべてのポットで菌糸体の発生が確認された。結果のまとめを表4に示す。
桂皮酸カリウム1%水溶液の代わりに蒸留水を用いたこと以外は実施例15と同様の手順にて実験を行った。培養開始から28日後には、全てのポットで菌糸体が表面を覆っていた。結果のまとめを表4に示す。
これらの結果から、本発明の桂皮酸カリウム水溶液を噴霧したポットは、菌成長なしのポット数も多く、菌糸体の表面積で見ると、ほぼ完全にフェアリーリング病病原菌チビホコリタケを防除できることが明らかとなった。
[実施例16〜18、比較例8]
ダラースポット病病原菌(Sclerotinia homoeocarpa)に代えてフェアリーリング病病原菌ヒダホコリタケ(Vascellum curtisii)(Vp19)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から4、8、12、25日後に行ったこと以外は参考例1〜3および比較例1と同様の手順で実験を行った。この結果、本発明の桂皮酸カリウムを含む培地では、培養開始から25日を経過しても、ヒダホコリタケのコロニーが発生しなかった。結果のまとめを表5に示す。
これらの結果から、培地中に0.01%以上の桂皮酸カリウムを添加することによりヒダホコリタケの成長を効果的に抑制できることが明らかとなった。
[実施例19]
(1)芝草培地
フェアリーリング病病原菌チビホコリタケ(Bovista dermoxantha)(Lp41)の代わりにフェアリーリング病病原菌ヒダホコリタケ(Vascellum curtisii)(Vp19)を用いたこと以外は実施例15と同様の手順で、菌糸体表面積の測定を行った。
この結果、培養開始から28日後における菌成長なしの表面積割合は78%であった。
桂皮酸カリウム1%水溶液の代わりに滅菌水を使用したこと以外は実施例19と同様の実験を行った。培養開始から28日後における菌成長なしの表面積割合は18%であった。
本発明の桂皮酸カリウム水溶液を噴霧したポットは、滅菌水を噴霧した比較例のポットに比べて菌成長なしの表面積割合が4倍以上であった。これらの結果から、本発明の植物病原菌抑制剤が、フェアリーリング病病原菌ヒダホコリタケを効果的に防除できることが明らかになった。
[参考例20〜22、比較例10]
ダラースポット病病原菌(Sclerotinia homoeocarpa)に代えてカーブラリア病病原菌(Curvularia geniculata)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から2、4、7日後に行ったこと以外は参考例1〜3および比較例1と同様の手順で実験を行った(それぞれ、参考例20〜22、比較例10)。結果を表7に示す。
培地中の桂皮酸カリウム濃度が0.01%でも、カーブラリア病病原菌の成長を抑制することができ、0.05%および0.1%では、培養開始から7日後までコロニーが発生せず、カーブラリア病病原菌の成長を完全に抑制することができた。これらの結果から、本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウムが、カーブラリア病病原菌の生育を効果的に抑制できることが示された。
[参考例23]
PDA培地の桂皮酸カリウム濃度を0.2%とし、ダラースポット病病原菌に代えてラージパッチ病病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2 LP)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から3、7、13日後に行ったこと以外は参考例1と同様にして実験を行った。この結果、培養開始から13日が経過しても、プレートにはコロニーが発生しなかった。
PDA培地の桂皮酸カリウム濃度を0.5%としたこと以外は参考例23と同様の実験を行った。この結果、培養開始から13日が経過しても、プレートにはコロニーが発生しなかった。
[比較例11]
桂皮酸カリウムの代わりに桂皮酸を用い、PDA培地の桂皮酸濃度を0.05%としたこと以外は参考例23と同様の実験を行った。培養開始から3日後にはプレートにコロニーが発生し、13日後にはプレートの表面全体を覆うまでコロニーが成長した。
[比較例12]
桂皮酸カリウム水溶液の代わりに蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例23と同様の実験を行った。培養開始後から急速にコロニーが成長し、7日後にはプレートの全面を覆うまでコロニーが成長した。
[参考例25]
ラージパッチ病病原菌に代えてブラウンパッチ病病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2IIIB)を用いたこと以外は参考例24と同様にして実験を行った。この結果、培養開始から13日が経過しても、プレートにはコロニーが発生しなかった。
桂皮酸カリウムの代わりに桂皮酸を用い、PDA培地の桂皮酸濃度を0.05%としたこと以外は参考例25と同様の実験を行った。この結果、培養開始からコロニーが成長し、培養開始から13日後にはコロニーがプレート全面を覆うほど成長した。
桂皮酸カリウム水溶液の代わりに蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例25と同様の実験を行った。この結果、培養開始から急速にコロニーが成長し、培養開始から7日後にはコロニーがプレート全面を覆うほど成長した。
参考例25および比較例13、14のまとめを表9に示す。表9の結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウムを含有することにより、ブラウンパッチ病病原菌の生育を効果的に抑制できることが示された。本発明の植物病原菌抑制剤は、桂皮酸よりも水溶性が高いことから、飽和桂皮酸水溶液よりも高濃度の溶液を調製することができ、このような高濃度溶液を使用することにより桂皮酸の飽和水溶液を用いる場合と比べてもはるかに強力なブラウンパッチ病病原菌抑制効果を発揮できることが分かった。
[参考例26]
ブラウンパッチ病病原菌に代えてピシウム病であるカーネーション根腐病の病原菌(Pythium aphanidermatum)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から3、7、15日後に行ったこと以外は参考例25と同様にして実験を行った。この結果、培養開始から15日が経過しても、プレートにはコロニーが発生しなかった。
桂皮酸カリウムの代わりに桂皮酸を用い、PDA培地の桂皮酸濃度を0.05%としたこと以外は参考例26と同様の実験を行った。この結果、培養開始からコロニーが成長し、培養開始から15日後にはコロニーがプレート全面を覆うほど成長した。
桂皮酸カリウム水溶液の代わりに蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例26と同様の実験を行った。この結果、培養開始から急速にコロニーが成長し、培養開始から7日後にはコロニーがプレート全面を覆うほど成長した。
参考例26および比較例15、16のまとめを表10に示す。これらの結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウムを含有することにより、カーネーション根腐病病原菌の生育を効果的に抑制できることが示された。本発明の植物病原菌抑制剤は、桂皮酸よりも水溶性が高いことから、飽和桂皮酸水溶液よりも高濃度の溶液を調製することができ、このような高濃度溶液を使用することにより桂皮酸の飽和水溶液を用いる場合と比べてもはるかに強力なカーネーション根腐病病原菌抑制効果を発揮することが分かった。
90℃の蒸留水650mLに水酸化ナトリウムと桂皮酸を徐々に加えて溶解し、濃度10%の桂皮酸水溶液を調製した。次にこの溶液を25℃まで冷却した後、4℃で12時間放置し、白色物質を析出させた。この白色物質を取り出し、風乾の後、105℃で6時間乾燥し、白色粉末を得た。この白色粉末を以下、白色粉末(B)と呼ぶ。白色粉末(A)と同様に蛍光X線分析、赤外分光スペクトル測定、イオンクロマトグラム測定および桂皮酸成分を定量し、白色粉末(B)は桂皮酸ナトリウムであることを確認した。
[参考例27]
白色粉末(A)の代わりに白色粉末(B)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から3、5、7日後に行ったこと以外は参考例2と同様にして実験を行った。
この結果、実験開始から3日後には小さなコロニーが発生し、その後徐々にコロニーが成長した。
寒天プレート中の桂皮酸ナトリウム濃度を0.1%としたこと以外は参考例27と同様にして実験を行った。培養開始から7日を経過してもプレートにコロニーは発生しなかった。
桂皮酸ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例27と同様にしてコロニーの測定を行った。この結果、培養開始から急速にコロニーが成長し、培養開始から7日後にはコロニーがプレート全面を覆うほど成長した。
[参考例29、30、比較例18]
ダラースポット病病原菌の代わりにラージパッチ病病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2 LP)を用いて、参考例27、参考例28および比較例17と同様の実験を行った(それぞれ参考例29、参考例30、比較例18)。結果を表12に示す。これらの結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸ナトリウムを0.05%以上含有することにより、ラージパッチ病病原菌の生育を完全に抑制できることが分かった。
[参考例31〜33、比較例19]
ラージパッチ病病原菌の代わりにブラウンパッチ病病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2IIIB)を用いたこと以外は参考例29、参考例30および比較例18と同様の実験を行った(それぞれ、参考例31、参考例32、比較例19)。また、桂皮酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5%としたこと以外は参考例31と同様の実験を行った(参考例33)。結果を表13に示す。これらの結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸ナトリウムを0.05%以上含有することにより、ブラウンパッチ病病原菌の生育を抑制できることが分かった。特に、水酸化ナトリウム濃度が0.5%のときは、ブラウンパッチ病病原菌の生育を完全に抑制できることが示された。
[参考例34]
桂皮酸1.48部と炭酸水素カリウム1部とを混合し、本発明の植物病原菌抑制剤である組成物(以下、組成物Aと略す。)を調製した。この組成物Aの1.34gを水1リットルに溶解させ、約0.13%の組成物A水溶液を調製した。この0.13%組成物A水溶液を用いてPDA培地を調製し、ダラースポット病病原菌に代えてラージパッチ病病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2 LP)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から3、5、7日後に行ったこと以外は参考例1と同様にして実験を行った。
0.065%組成物A水溶液、0.013%組成物A水溶液または蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例34と同様にして実験を行った(それぞれ、参考例35、36、比較例20)。結果を表14に示す。
表14の結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である組成物Aを0.013%(桂皮酸カリウムとして0.01%)以上含有することにより、ラージパッチ病病原菌の生育を効果的に抑制できることがわかった。特に、組成物Aを0.065%(桂皮酸カリウムとして0.05%)以上含有することにより、ラージパッチ病病原菌の生育を完全に抑制できることが示された。
<桂皮酸と弱酸塩の混合物のブラウンパッチ病病原菌抑制効果>
組成物A水溶液の濃度を0.65%とし、ラージパッチ病病原菌の代わりにブラウンパッチ病病原菌(Rhizoctonia solani AG2-2IIIB)を用いたこと以外は参考例34と同様にして実験を行った。
0.13%組成物A水溶液、0.065%組成物A水溶液または蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例37と同様にして実験を行った(それぞれ、参考例38、39、比較例21)。結果を表15に示す。
これらの結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である組成物Aを0.065%(桂皮酸カリウムとして0.05%)以上含有することにより、ブラウンパッチ病病原菌の生育を効果的に抑制できることがわかった。特に、組成物Aを0.65%(桂皮酸カリウムとして0.5%)含有することにより、ブラウンパッチ病病原菌の生育を完全に抑制できることが示された。
[参考例40]
ラージパッチ病病原菌に代えてピシウム病病原菌(Pythium graminicola)を用い、コロニーの直径の測定を培養開始から2、4、7日後に行ったこと以外は参考例34と同様にして実験を行った。
0.065%組成物A水溶液、0.013%組成物A水溶液、0.0065%組成物A水溶液、0.0013%組成物A水溶液または蒸留水を用いてPDA培地を調製したこと以外は参考例40と同様にして実験を行った(それぞれ、参考例41〜44、比較例22)。結果を表16に示す。
これらの結果から、培地中に本発明の植物病原菌抑制剤である組成物Aを0.0013%(桂皮酸カリウムとして0.001%)以上含有することにより、ピシウム病病原菌の生育を効果的に抑制できることがわかった。特に、組成物Aを0.0065%(桂皮酸カリウムとして0.005%)以上含有することにより、ピシウム病病原菌の生育を完全に抑制できることが示された。
[参考例45]
20℃の蒸留水400mLに硝酸カリウム0.32gおよびリン酸水素二アンモニウム0.08gを溶解し、液体肥料基液を調製した。この液体肥料基液に前記白色粉末(A)を溶解し、桂皮酸カリウムを含む液体肥料組成物を調製した。
上記桂皮酸カリウム配合液体肥料組成物を用いて、桂皮酸カリウム濃度が0.01%のPDA培地を調製し、コロニーの直径の測定を培養開始から2、4、8日後に行ったこと以外は参考例1と同様にして実験を行った。
PDA培地の桂皮酸カリウム濃度を0.1%(参考例46)または0%(比較例23)としたこと以外は参考例45と同様にして実験を行った。結果を表17に示す。これらの結果から、本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウム配合液体肥料組成物を用いて培地を調製することにより、ダラースポット病病原菌の生育を効果的に抑制できることが示された。特に、培地中において桂皮酸カリウム濃度が0.1%である場合には、ダラースポット病病原菌の生育を完全に抑制できることが分かった。
[参考例47]
20℃の蒸留水400mLに硝酸カリウム0.19g、硝酸アンモニウム0.10gおよびリン酸水素二カリウム0.06gを溶解し、液体肥料基液を調製した。この液体肥料基液に前記白色粉末(A)を溶解し、桂皮酸カリウムを含む本発明の液体肥料組成物を調製した。
上記桂皮酸カリウム配合液体肥料組成物を用いて桂皮酸カリウム濃度が0.01%のPDA培地を調製し、ダラースポット病病原菌に代えてラージパッチ病病原菌を用いたこと以外は参考例45と同様にして実験を行った。
PDA培地の桂皮酸カリウム濃度を0.1%としたこと(参考例48)または0%としたこと(比較例24)以外は参考例47と同様にして実験を行った。結果を表18に示す。これらの結果から、本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウム配合液体肥料組成物を用い、培地中の桂皮酸カリウム濃度を0.1%とすることにより、ラージパッチ病病原菌の生育を完全に抑制できることが示された。
<植物病原菌抑制剤の水に対する溶解性試験>
水温20℃の水100gに、桂皮酸カリウム粉末(白色粉末(A))を加え、スターラーを用いて攪拌しつつ、水溶液が透明になるまでの時間を計測した。同様の実験を、桂皮酸ナトリウム粉末(白色粉末(B))および桂皮酸についても行った。結果を表19に示す。
表19の結果から、本発明の植物病原菌抑制剤である桂皮酸カリウム粉末は20℃の水に35%程度まで、桂皮酸ナトリウム粉末は5%程度までは確実に溶解することがわかった。特に、桂皮酸カリウム粉末は25%程度までは、短い時間で容易に溶解した。このことから、桂皮酸カリウム粉末が、施用現場での施用液の調製などの際に高い実用性を具備していることが明らかになった。一方、桂皮酸粉末は水溶性が低く、水溶液の調製が困難であった。
本発明の植物病原菌抑制剤は、容易に高濃度の水溶液を調製することができるので、保存安定性に優れた高濃度溶液を調製できるばかりでなく、輸送効率にも優れている。また、水溶性が高いという利点を生かし、粉末や顆粒として運搬し、施用現場にて容易に施用目的に応じた濃度の植物病原菌抑制剤を調製することができ、植生管理の効率化にも貢献できる。
Claims (8)
- 桂皮酸とアルカリ金属化合物との混合物または桂皮酸塩を含むことを特徴とする担子菌抑制剤。
- 前記桂皮酸塩が少なくとも桂皮酸カリウムまたは桂皮酸ナトリウムを含む請求項1に記載の担子菌抑制剤。
- 前記アルカリ金属化合物が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の担子菌抑制剤。
- 前記担子菌が、フェアリーリング病病原菌である請求項1に記載の担子菌抑制剤。
- 前記フェアリーリング病病原菌が、チビホコリタケまたはヒダホコリタケである請求項4に記載の担子菌抑制剤。
- 芝草用である請求項1に記載の担子菌抑制剤。
- 芝草がクリーピングベントグラスである請求項6に記載の担子菌抑制剤。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の担子菌抑制剤を含有することを特徴とする肥料組成物。
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