本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
(実施形態1)
図1は、実施形態に係るフォークリフトを表す概略構成図である。図2は、実施形態に係るフォークリフトの荷役装置の概略構成図である。実施形態1に係る産業用車両であるフォークリフト1は、車両本体11と、荷物2を積載する積載部であるフォーク15と、荷役装置3と、荷役操作入力処理装置25と、荷役コントローラ26と、アクセル入力処理部27と、を含む。図1に示すフォークリフト1は、カウンターバランスフォークリフトであるが、リーチフォークリフトなど他の種類の産業用車両でもよい。
図1に示すように、車両本体11は、2つの前輪12及び2つの後輪13により走行可能である。駆動モータMは、駆動源であって搭載された電気モータにより前輪12または後輪13を駆動することで、前進及び後退可能となっている。駆動モータMは、エンジンであってもよい。本実施形態に係るフォークリフト1は、前輪12を駆動輪としている。また、図示しない操作ハンドルにより後輪13を操舵することで、所望方向に走行可能となっている。
また、駆動制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、このCPUの他に、処理プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、記憶装置とを含むコンピュータシステムである。図2に示すように、駆動制御装置50は、駆動制御指令iRにより駆動モータMを駆動する。駆動モータMが電気モータである場合、駆動制御装置50は、駆動モータMの駆動トルクを精度よく制御できる。回転検出センサ43は、駆動モータMの回転を検出し、回転情報irとして駆動制御装置50に出力する。アクセル入力処理部27は、アクセルの踏み込み量に応じてモータ回転数指令を駆動制御装置50に出力する。
車両本体11は、前部にマスト14が下部を支点として傾斜(チルト)自在に支持されており、このマスト14にフォーク15が昇降(リフト)自在に支持されている。本実施形態のフォークリフト1は、荷役装置3がチルトシリンダ16及びリフトシリンダ17を含む。
チルトシリンダ16は、油圧の給排によりロッド16aを移動させることができる。また、ロッド16aの先端部は、マスト14に連結されている。チルトシリンダ16は、油圧を給排すると、ロッド16aを前後移動する。チルトシリンダ16は、ロッド16aの前後の移動量に応じて、マスト14の下部を支点としてマスト14を傾斜させる。チルトシリンダ16は、マスト14の傾斜量に応じて、フォーク15をチルトさせることができる。
リフトシリンダ17は、油圧の給排によりロッド17aを移動させることができる。また、ロッド17aの先端部には、ガイドローラ18が装着されている。ワイヤ19は一端部がフォーク15の上端部に連結され、中間部がガイドローラ18にガイドされ、他端部がマスト14の上端部に連結されている。
また、リフトシリンダ17に油圧を給排すると、ロッド17aが上下移動し、ガイドローラ18を介してワイヤ19が移動することで、フォーク15が牽引され、このフォーク15を昇降させることができる。
ポンプ駆動源21は、例えば、エンジン(または、電気モータ)であり、ポンプ22を駆動してタンク23に貯留されている作動油を加圧することができる。コントロールバルブ24は、ポンプ22で加圧された作動油をチルトシリンダ16やリフトシリンダ17に供給することで、このチルトシリンダ16やリフトシリンダ17を作動することができる。
図2に示すように、荷役装置3は、ポンプ22が油圧ラインとして、一端部がタンク23に接続され、他端部がリフトシリンダ17におけるヘッド側の部屋17hにコントロールバルブ24を介して接続されている。
また、荷役装置3は、ポンプ22が油圧ラインにより、一端部がコントロールバルブ24を介してリフトシリンダ17におけるロッド側の部屋17rに接続され、他端部がタンク23に接続されている。
位置センサ41は、ロッド17aの位置を検出し、荷役コントローラ26に信号izを出力する。荷役コントローラ26は、位置センサ41が検出したロッド17aの位置情報に基づいてフォーク15の昇降量(高さ)を演算することができる。位置センサ41は、ロッド17aのストロークを検出するストロークセンサであってもよい。また、位置センサ41は、複数のスイッチで段階的にロッド17aのストロークを検出するようにしてもよい。
圧力センサ42は、油圧ラインにおけるコントロールバルブ24とリフトシリンダ17との間の油圧、つまり、リフトシリンダ17におけるヘッド側の部屋17hの容積に応じた油圧を検出し、荷役コントローラ26に信号ipを出力する。荷役コントローラ26は、圧力センサ42が検出した部屋17hに作用する油圧の圧力情報に基づいてフォーク15に積載する荷物2の積載量を演算することができる。
荷役コントローラ26は、CPU(Central Processing Unit)を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、このCPUの他に、処理プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、記憶装置とを含むコンピュータシステムである。オペレータが荷役操作入力処理装置25を操作してリフトシリンダ17またはチルトシリンダ16の少なくとも1つを動作させる場合、荷役コントローラ26は、操作信号ixに基づいて、制御指令isを生成する。また、荷役コントローラ26は、リフトシリンダ17またはチルトシリンダ16の少なくとも1つを動作させ、荷役動作をしている荷役動作情報imを駆動制御装置50に出力する。
図2に示すように、荷役操作入力処理装置25は、オペレータ(作業者)が操作可能な操作レバーの操作量に応じて、フォーク15のチルトやリフトの操作信号ixを出力することができる。そして、図1及び図2に示すように、荷役コントローラ26は、荷役操作入力処理装置25からの操作信号ixに基づいてポンプ駆動源21、ポンプ22、コントロールバルブ24を駆動制御することができる。
実施形態1に係るフォークリフト1は、荷役コントローラ26がコントロールバルブ24に対し制御指令isを出力する。荷役装置3は、制御指令isに基づいてコントロールバルブ24が動作し、リフトシリンダ17のロッド17aがフォーク15を昇降する。
図3は、実施形態1に係るフォークリフトの制御ブロック図である。図3に示す実施形態1に係るフォークリフト1の車両本体11おいて、上述した駆動モータMが、左右の前輪12に独立して配置されている。以後の説明においては、右の前輪12を回転駆動する駆動モータMを右駆動モータMR、左の前輪12を回転駆動する駆動モータMを左駆動モータMLとし、一対の右駆動モータMRと左駆動モータMLとを駆動モータMとして説明する。回転検出センサ43は、右駆動モータMRと左駆動モータMLとに、それぞれの回転数を検出する回転検出センサ43R、回転検出センサ43Lとを備えている。なお、以下の説明では、駆動モータMを2つ(MR、ML)備えるフォークリフト1であるが、駆動モータMを1つだけ備えるフォークリフトであってもよい。
実施形態1に係る産業用車両用駆動制御装置100は、駆動制御装置50と、荷役コントローラ26と、荷役操作入力処理装置25と、を含む。駆動制御装置50は、第1加算器51と、速度制御コントローラ52と、第2加算器53と、ピッチング制御コントローラ(振動制御部)54とを含む。
車両本体11を走行させる場合、実施形態1に係る産業用車両用駆動制御装置100は、以下のように車両本体11を制御する。図3にしめすように、アクセル入力処理部27は、駆動制御装置50に電気的に接続されている。車両本体11を走行させる場合、アクセル入力処理部27は、アクセルの踏み込み量に応じてモータ回転数指令ω*を第1加算器51に出力する。
第1加算器51は、モータ回転数指令ω*から、駆動モータM(MR、ML)から検出された検出モータ回転数ω(右駆動モータMRの検出モータ回転数ωRと、左駆動モータMLの検出モータ回転数ωLとの和の1/2)を減算して偏差Δωを求め、その偏差Δωを速度制御コントローラ52に出力する。
速度制御コントローラ52は、第1加算器51から入力された偏差Δωに対して、PI演算を行ってモータ制御トルク指令(モータ制御指令)it1を生成し、このモータ制御トルク指令it1を第2加算器53に出力する。また、この速度制御コントローラ52には、検出モータ回転数ωのうち、検出モータ回転数ωRの割合と、検出モータ回転数ωLの割合を示すモータ回転数配分情報が別途入力されるようになっている。そして、速度制御コントローラ52は、入力されたモータ回転数配分情報とハンドル操作角とに応じて、モータ制御トルク指令it1のうち、右駆動モータMRへの入力分と左駆動モータMLへの入力分との割合を示すモータ回転数配分情報を出力し、この割合に応じて右駆動モータMR、左駆動モータMLが駆動されるようになっている。なお、右駆動モータMR、左駆動モータMLは、直進の場合には同一の割合で駆動される。
ピッチング制御コントローラ54には、駆動モータM(MR、ML)の回転を検出する回転検出センサ43から検出された回転情報irである検出モータ回転数ω(ωR、ωL)が入力される。また、ピッチング制御コントローラ54には、荷役装置3の圧力センサ42の信号ipから検出された検出リフト圧(運動パラメータ、加速度データ)Pが入力されるようになっている。このピッチング制御コントローラ54は、検出モータ回転数ω(ωR、ωL)と検出リフト圧Pとからピッチング制御トルク指令(振動制御指令)it2を生成し、このピッチング制御トルク指令it2を第2加算器53に出力する。なお、ピッチング制御コントローラ54については、後に詳述する。
第2加算器53は、モータ制御トルク指令it1と、ピッチング制御トルク指令it2とを加算して、この加算した結果を駆動制御指令(モータ制御指令)iRとして駆動モータM(MR、ML)に出力する。なお、ピッチング制御トルク指令it2の出力が0であった場合には、モータ制御トルク指令it1を駆動制御指令iRとして駆動モータM(MR、ML)に出力する。
車両本体11が停止している場合、実施形態1に係る産業用車両用駆動制御装置100は、モータ制御トルク指令it1の出力が0であり、ピッチング制御トルク指令it2を駆動制御指令iRとして駆動モータM(MR、ML)に出力する。
車両本体11が停止しているとは、オペレータが車両本体11に備えられた駐車ブレーキまたはフットブレーキを動作させている場合、または車両本体11の車速が0となっている状態である。
図4は、実施形態1に係るピッチング制御コントローラを示す制御ブロック図である。ピッチング制御コントローラ54は、振動制御部110と、不感帯要素120と、トルクリミッタ部130と、荷重判定部140と、車速判定部150と、旋回判定部160と、ノッチフィルタ(不安定成分除去フィルタ)170と、車速絶対値|U|(|U1|、|U2|)を出力する車速演算部180と、旋回量|ΔU|を出力する旋回量演算部190とを備えている。
振動制御部110は、三つの位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113と、検出リフト圧Pの静的成分PDCを検出するLPF(ローパスフィルタ)114と、検出リフト圧Pの静的成分PDCの大きさを三段階で判定するリフト圧判定部115と、リフト圧判定部115の判定結果に応じて三つの位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113のうちいずれか一つを選択する選択部116と、選択部116が出力した出力値を増幅するゲイン係数が可変設定される増幅部117とを備えている。
位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113は、加速度データとして示される検出リフト圧Pのうち所定の制御周波数帯に位相調整を行って、速度データとして示される検出リフト圧P´を生成するものであり、BPF(バンドパスフィルタ)111a〜113aと時間遅れ手段111b〜113bとを含む。
BPF111a〜113aには、それぞれに異なる制御周波数帯が設定されている。この制御周波数帯は、荷役装置3に作用する静的荷重によって変化する振動の周波数がそれぞれに設定されている。BPF111aの制御周波数帯は、荷役装置3の最大静的荷重の25〜50%の静的荷重が作用した際における固有の周波数4.5Hzが設定されており、BPF112aの制御周波数帯は、最大静的荷重の50〜75%における固有の周波数3.5Hzが、BPF113aの制御周波数帯は、最大静的荷重の75〜100%における固有の周波数2.5Hzが、それぞれ設定されている。
これらBPF111a〜113aは、入力された検出リフト圧Pが、それぞれに設定された制御周波数帯のみに反応するように、ゲインが大きくされており、制御周波数帯外の低周波及び高周波で反応しないように構成されている。また、産業用車両用駆動制御装置100全体の遅れが考慮されて、制御周波数帯の検出リフト圧Pの位相が90度遅れるように設定されている。すなわち、ピッチング振動が発生した場合には、ピッチング振動に伴って荷役装置3上の荷物が振動してリフト圧が変化するために、検出リフト圧Pの波形がピッチング振動の加速度の波形として表れることとなる。つまり、BPF111a〜113aは、検出リフト圧Pが指し示す加速度データに対して位相調整を行って得られる速度データを振動パラメータとして速度フィードバックするものであり、スカイフック制御理論に基づいてフィルタ設計がされている。
また、本実施形態においては、スカイフック制御理論を適用してBPF111a〜113aのフィルタ設計をしたが、例えば、ピッチング制御コントローラ54にH∞制御や最適制御等の各種制御理論を適用して、これらの制御方式に適合するようにフィルタ設計(制御系設計)をしてもよい。
なお、本実施形態においては、三つの位相調整部111〜113を設けたが、一つのみ設ける構成としてもよい。また、位置センサ41が検出したロッド17aの位置情報に基づいてフォーク15の昇降量(高さ)を入力し、昇降量に応じて三つの位相調整部111〜113を選択するようにしてもよい。電動車両の運動パラメータとして変位データを用い、この変位データにおける制御周波数帯に対して微分演算又は位相調整を行って速度データを求め、この速度データを振動パラメータとして用いる構成としてもよい。
また、本実施形態においては、加速度データとして、圧力センサ42の検出リフト圧Pを用いる構成としたが、例えば、荷役装置3の支持部に歪みゲージを設けて加速度データを求めても良いし、荷物又はリフトに加速度計を設けて加速度データを求めてもよい。
時間遅れ手段111b〜113bは、BPF111a〜113aによる検出リフト圧Pの位相調整が十分でなかった場合を考慮して補助的に設けられたものであり、BPF11a〜113aを通過した検出リフト圧P´に対して時間遅れによって位相調整を行う。
LPF114は、検出リフト圧Pの動的成分と静的成分とのうち、静的成分PDC(荷重DC成分)のみを出力するように設定されている。このLPF114は、図1又は2に示す荷役装置3のフォーク15に載せられた荷物2の静的荷重のみを検出する。
リフト圧判定部115は、LPF114を通過した静的成分PDCが、荷役装置3に作用する最大静的荷重の25〜50%、50〜75%、75〜100%のうちいずれの荷重範囲にあるかを判定する。
選択部116は、リフト圧判定部115の判定結果に基づいて、位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113のうちいずれか一つを選択する。例えば、選択部116は、リフト圧判定部115が判定した荷重範囲に基づいて、この荷重範囲に対応する制御周波数帯が設定された位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113(BPF111a〜113a)を選択する。例えば、リフト圧判定部115が、検出リフト圧Pの静的成分PDCが最大静的荷重の50〜75%の荷重範囲であると判定した場合には、この判定結果に基づいて、最大静的荷重の50〜75%における固有の周波数3.5Hzが設定された位相調整部112(BPF112a)を選択する。この選択部116は、位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113のうちいずれかから入力された検出リフト圧P´を増幅部117に出力する。
増幅部117は、選択部116から出力された検出リフト圧P´を増幅してピッチング制御トルク指令T*を生成し、このピッチング制御トルク指令T*を不感帯要素120に出力するものであり、増幅器117aと、ゲイン係数補正部117bと、乗算器117cとを備えている。増幅器117aのゲイン係数は、制御が不安定とならない程度の大きさの適切な値が設定される。
ゲイン係数補正部117bは、増幅器117aに設定されたゲイン係数の補正を行うものである。すなわち、荷役装置3に載せられた荷物の静的荷重により、加速度が同一であったとしてもリフト圧の変動成分(動的成分)が異なるため、ゲイン係数補正部117bが、検出リフト圧Pの静的成分PDCに応じた最適なゲイン係数を求めて、この最適なゲイン係数となるように増幅器117aのゲイン係数を補正している。なお、静的成分PDCに応じた最適なゲイン係数の値は、予め作成した静的成分PDCとゲイン係数との対応付けから求めるようになっている。乗算器117cは、検出リフト圧P´と増幅器117aに設定されたゲイン係数とを乗算する。
また、荷役装置3に作用する静的荷重(検出リフト圧Pの静的成分PDC)によって、増幅器117aのゲイン係数を変更するゲイン係数補正部117bを有するので、荷役装置3に作用する静的荷重の大小に関わらず、最適なピッチング制御トルク指令T*を得ることができ、適切な減衰効果を得ることができる。
不感帯要素120は、入力されたピッチング制御トルク指令T*の振幅が閾値T´以上である場合に、ピッチング制御トルク指令T*を通過させる。一方、入力されたピッチング制御トルク指令T*の振幅が閾値T´未満である場合には、ピッチング制御トルク指令T*2を遮断する。この不感帯要素120の閾値T´は、検出モータ回転数ωによらず一定にしてもよいし、検出モータ回転数ωによって変動させてもよい。例えば、予め各モータ回転数(ω)における最大トルクを求めて、各モータ回転数(ω)と最大トルクとの対応付けを作成しておき、この対応付けと検出モータ回転数ωとに基づいて最大トルクを求め、この最大トルクの所定の割合を閾値T´として用いる構成が考えられる。
トルクリミッタ部130は、ピッチング制御トルク指令T*の振幅を所定の範囲に制限するものであり、リミッタ131と、余裕トルク演算手段132とを備えている。リミッタ131は、ピッチング制御トルク指令T*の許容最大値up及び許容最小値loが設定されており、不感帯要素120から入力されたピッチング制御トルク指令T*のうち、許容最大値upを上回る値と、許容最小値loを下回る値については遮断するようになっている。
余裕トルク演算手段132は、出力可能な駆動モータM(MR、ML)の最大トルクから、現在出力しているトルクを差し引いて余裕トルクを求めるものである。この余裕トルクは、駆動モータM(MR、ML)の特性図を参照して、現在の車速絶対値|U1|からその際の出力可能な最大トルクを求め、この最大トルクから現在出力しているモータ走行トルクの値を差し引いて求めている。この求められた余裕トルクは、その正の値がリミッタ131の許容最大値upに、負の値が許容最小値loとして設定される。
荷重判定部140は、LPF114から入力される検出リフト圧Pの静的成分PDCが荷役装置3の最大静的荷重の25%以上であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*を車速判定部150に出力する。例えば、荷重変数決定手段141は、静的成分PDCと乗算器142の変数d1(0〜1)との関係が示された荷重変数マップを参照して、入力された静的成分PDCから変数d1を求め、乗算器142が、求められた変数d1と、ピッチング制御トルク指令T*とを積算する。すなわち、静的成分PDCが最大静的荷重の25%以上である場合には、変数d1倍されたピッチング制御トルク指令T*が車速判定部150に出力される。静的成分PDCが最大静的荷重の25%よりも十分に大きい場合には、入力時の大きさと等倍(d1=1)のピッチング制御トルク指令T*が出力され、静的成分PDCが最大静的荷重の25%よりも僅かに大きい場合には、変数d1倍(0<d1<1)されたピッチング制御トルク指令T*が出力される。
車速判定部150は、検出モータ回転数ωの車速DC成分に基づいて、車両本体11の停止位置が許容範囲以内であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*を旋回判定部160に出力する。
一般的に、フォークリフトは、フォークに荷物を載せてフォークの昇降を行う場合、マストが振動し、フォークリフトの揺れを生じさせるおそれがある。フォークリフトの揺れは、オペレータにも伝達され、操作レバーの操作量に影響を与えるおそれがある。この揺れによりオペレータが操作レバーの操作を一定に保持しようとしても、操作レバーも協調して揺れてしまう。つまり、荷役装置3を制御する荷役コントローラ26が生成した制御指令isの指令値に、荷役装置3の動作時(例えばリフトシリンダ17またはチルトシリンダ16の動作時)に発生する振動の固有周波数成分fnが加えられている。その結果、フォークリフト1は、操作信号ixに含まれる固有周波数成分fnによって荷役装置3等が励起されて振動する。この振動が車両本体11の揺れとなり振動が持続するいわゆる持続振動となる。
本実施形態に係るフォークリフト1は、この持続振動を抑制するため、駆動モータMを駆動して持続振動を抑制する振動を生じさせる。車両本体11は、駆動モータMから駆動トルクが伝達され、停止位置を変えないように駆動輪である前輪12が前後に振動する必要がある。
車速判定部150は、荷役動作判定部151と、時間信号部152と、乗算器153と、トルクリミッタ部154とを備えている。荷役動作判定部151には、荷役コントローラ26が生成した荷役動作情報imと、時間信号部152の時間信号とが入力される。荷役動作情報imから荷役動作判定部151は、荷役装置3がリフト操作またはチルト操作などの荷役操作をしていると判断する場合、ピッチング制御トルク指令T*を通過させる制御発動信号を乗算器153に出力する。
また、上述した持続信号は、荷役装置3がリフト操作またはチルト操作などの荷役操作を終了した後一定時間継続するおそれがあることから、荷役動作情報im及び時間信号部152の時間信号に基づいて荷役動作判定部151は、荷役装置3がリフト操作またはチルト操作などの荷役操作を終了しているが一定時間以内であると判断する場合、ピッチング制御トルク指令T*を通過させる制御発動信号を乗算器153に出力する。
荷役装置3がリフト操作またはチルト操作などの荷役操作をしていないか、終了して一定時間経過後であると判断する場合、ピッチング制御トルク指令T*を遮断させる制御停止信号を乗算器153に出力する。乗算器153は、荷役動作判定部151の判断に基づいて荷役装置3の荷役判定することになる。ピッチング制御トルク指令T*を通過させる制御発動信号の入力を乗算器153が受けると、乗算器153は、トルクリミッタ部154へピッチング制御トルク指令T*を出力する。
また、荷役動作判定部151を備えるので、荷役装置3が動作していない場合には、ピッチング制御トルク指令T*が出力されない。これにより、オペレータの乗降による振動など、荷役装置3に起因する振動が生じ難い状況下でピッチング制御トルク指令T*が出力されることを防止することができる。このため、車両本体11を振動させる誤動作を抑制することができる。
図5は、実施形態1に係るピッチング制御コントローラにおけるトルクリミッタ部の制御ゲインのリミット比について説明する説明図である。図5において、走行時の制御ゲインのリミット比を1とする。トルクリミッタ部154は、入力された速度絶対値|ΔU2|から検出モータ回転数ωの車速DC成分を図5に示す制御ゲインのリミット比マップ(緩和曲線)に与え、検出モータ回転数ωの車速DC成分が0の値(停止)または低速の場合の値に応じて、例えば図5に示す制御ゲインのリミット比の値0.3により、制限(緩和)する。例えば図5に示すトルクリミッタ比の下限値であるトルクリミッタ比の値0.3は、例示である。トルクリミッタ比の下限値は、実際にフォークリフト1の停止状態において、前輪12を前後に動作させてオペレータが違和感を受けない程度のピッチング振動を特定し、そのピッチング振動を超えない程度において設定されたものである。
トルクリミッタ部154は、駆動モータMの検出モータ回転数ωが増加しても、駆動モータMの回転初期から駆動モータの所定の回転数まで、制御ゲインのリミット比を0より大きく1より小さい範囲とする。例えば図5において、トルクリミッタ部154は、走行時の制御ゲインのリミット比を1としたとき、駆動モータMの回転初期から駆動モータの所定の回転数において、制御ゲインのリミット比を0より大きく1より小さい範囲で駆動モータMのトルクを抑制する。走行時の駆動モータMのトルクの変化の感度と比較して、駆動モータMの回転初期から駆動モータの所定の回転数までは、駆動モータMのトルクの変化が鈍感になる。このため、車両本体11の意図しない変動を引き起こす駆動トルクが駆動輪(前輪12)に作用することを抑制することができ、停止状態の安定性を高めることができる。そして、フォークリフト1は、荷役装置3の動作時における積載部の振動を低減するように車両本体11のピッチング振動を発生させる駆動モータMの駆動トルクが制限されるので、車両本体11が所定範囲の位置にとどまる。
旋回判定部160は、駆動モータMR、MLの検出モータ回転数ωR、ωLの偏差Δωの静的成分(ピッチング等によって生じる変動ノイズを除去した値)の旋回絶対値|Δω|が、所定の閾値以上であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*をノッチフィルタ170に出力するものであり、旋回変数決定手段161と、乗算器162とを備えている。閾値としては、例えば、250rpmに設定している。例えば、旋回変数決定手段161は、静的成分PDCと変数d3(0〜1)との関係が示された旋回変数マップ(緩和曲線)を参照して、入力された静的成分PDCから変数d3を求め、乗算器162が、求められた変数d3と、ピッチング制御トルク指令T*とを積算する。
ノッチフィルタ170は、ピッチング制御トルク指令T*が制御不安定周波数の波形となった場合に、制御不安定周波数を除去するものである。すなわち、不感帯要素120及びトルクリミッタ部130において、ピッチング制御トルク指令T*の波形が鋭角となって制御不安定周波数の波形が生成された場合に、この波形が滑らかなものとなる。このノッチフィルタ170は、入力されたピッチング制御トルク指令T*に対して、上記の処理を行って、ピッチング制御トルク指令it2として第2加算器53に出力する。
車速演算部180は、加算器181と、増幅器182と、LPF183と、絶対値回路184と、絶対値回路185とを備えている。車速演算部180は、加算器181によって検出モータ回転数ωR、ωLを加算し、この加算値を増幅器182によって1/2の値として絶対値回路184に出力する。そして車速演算部180は、この出力値の絶対値を絶対値回路184によって求め、求めた車速絶対値|U1|をトルクリミッタ部130に出力する。
また、車速演算部180は、増幅器182の出力値を、LPF183を通過させて車速DC成分(ピッチング等によって生じる変動ノイズを除去した値)を求める。次に、車速演算部180は、車速DC成分の出力値の絶対値を絶対値回路185によって求め、求めた車速絶対値|U2|を車速判定部150に出力する。
旋回量演算部190は、加算器191と、LPF193と、絶対値回路194とを備えている。旋回量演算部190は、加算器191によって検出モータ回転数ωR、ωLの差分を演算し、この差分値を、LPF193を通過させて旋回DC成分ΔωDC(ピッチング等によって生じる変動ノイズを除去した値)を求める。旋回量演算部190は、旋回DC成分ΔωDCの出力値の絶対値を絶対値回路194によって求め、求めた旋回絶対値|Δω|を旋回判定部160に出力する。
次に、ピッチング制御コントローラ54は、以下のように制御を行う。図3にしめすように、荷役コントローラ26は、荷役操作入力処理装置25からの操作信号ixに基づいて、荷役装置3に対し制御指令isを出力する。図4にしめすように、圧力センサ42の信号ipから検出された検出リフト圧Pが振動制御部110に入力される。また、制御指令isは、荷役動作判定部151にも入力される。振動制御部110は、入力された検出リフト圧Pを用いて、その際の荷物の静的荷重に応じて、位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113のうち最適な位相調整部の1つを選択する。例えば、LPF114は検出リフト圧Pの静的成分PDCのみを出力する。そして、リフト圧判定部115が、LPF114を通過した静的成分PDCが荷役装置3に作用する最大静的荷重の25〜50%、50〜75%、75〜100%のうちいずれの荷重範囲にあるかを判定する。選択部116は、リフト圧判定部115が判定した荷重範囲に対応する位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113のいずれかを選択する。以下においては、位相調整部112が選択された場合について、説明する。
選択された位相調整部112に検出リフト圧Pが入力されると、この検出リフト圧PがBPF112aを通過する。この際、検出リフト圧Pのうち、最大静的荷重の50〜75%に対応した制御周波数帯3.5Hzが増幅されると共に、その位相が90度遅れる。なお、BPF112aの位相調整が不十分であった場合には、時間遅れ手段112bが時間によって位相を調整する。次に、選択部116は、位相調整部112が位相調整を行った検出リフト圧P´を乗算器117cに出力する。
そして、ゲイン係数補正部117bは、LPF114から入力された静的成分PDCに対応する最適なゲイン係数を求め、増幅器117aのゲイン係数を補正する。増幅部117は、乗算器117cにおいて最適なゲイン係数で検出リフト圧P´を増幅して、ピッチング制御トルク指令T*を生成し、不感帯要素120に出力する。
不感帯要素120は、入力されたピッチング制御トルク指令T*が閾値T´以上である場合に、ピッチング制御トルク指令T*をトルクリミッタ部130に出力する。一方、不感帯要素120は、入力されたピッチング制御トルク指令T*が閾値T´未満である場合には、ピッチング制御トルク指令T*をトルクリミッタ部130に出力せずに遮断する。なお、ピッチング制御トルク指令T*が遮断された場合には、波形が鋭角となる。
トルクリミッタ部130は、ピッチング制御トルク指令T*の振幅を、許容最大値upと許容最小値loとの間の所定の範囲に制限する。これら許容最大値up及び許容最小値loは、余裕トルク演算手段132が、求めた余裕トルクの正の値及び負の値を設定する。
リミッタ131は、不感帯要素120から入力されたピッチング制御トルク指令T*のうち、許容最大値upを上回る値と、許容最小値loを下回る値については遮断し、許容最大値upと許容最小値loとの範囲内のピッチング制御トルク指令T*を荷重判定部140に出力する。なお、ピッチング制御トルク指令T*が遮断された場合には、波形が鋭角となる。
荷重判定部140は、LPF114から入力される検出リフト圧Pの静的成分PDCが荷役装置3の最大静的荷重の25%以上であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*を車速判定部150に出力する。例えば、荷重判定部140は、ピッチング制御トルク指令T*を変数d1(0〜1)倍して車速判定部150に出力する。
また、所定の閾値以上の静的成分PDCが作用していない場合には、ピッチング制御トルク指令T*が出力されない。これにより、検出リフト圧Pの静的成分PDCが比較的に小さいものであって、荷役装置3の動作に起因する振動が生じ難い状況下において、ピッチング制御トルク指令T*が出力されることを防止することができる。このため、消費電力を抑制することができる。
車速判定部150は、車速演算部180から入力された車速絶対値|U2|がトルクリミッタ比の制限値以下、例えば0.3以下であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*を旋回判定部160に出力する。
旋回判定部160は、旋回量|ΔU|が250rpm以上であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*をノッチフィルタ170に出力する。例えば、旋回判定部160は、ピッチング制御トルク指令T*を変数d3(0〜1)倍してノッチフィルタ170に出力する。
ノッチフィルタ170は、ピッチング制御トルク指令T*が制御不安定周波数を含む場合に、制御不安定周波数を除去する。すなわち、不感帯要素120及びトルクリミッタ部130によって、ピッチング制御トルク指令T*の波形が鋭角になったとしても、その波形が滑らかになる。このようにして、ノッチフィルタ170は、ピッチング制御トルク指令it2を出力する。
図3に示すように、ピッチング制御トルク指令it2は、第2加算器53において、モータ制御トルク指令it1と加算される。車両本体11が停止している場合であるので、実施形態1に係る産業用車両用駆動制御装置100は、モータ制御トルク指令it1の出力が0であり、ピッチング制御トルク指令it2を駆動制御指令iRとして駆動モータM(MR、ML)に出力する。そして、この加算値である駆動制御指令iRが駆動モータM(MR、ML)に入力される。入力された駆動制御指令iRにより、駆動モータMが前後に振動する。この振動により、車両本体11には、ピッチング振動が生じる。ピッチング振動とは、例えば、車両本体11の重心または重心近傍を通り、かつ2つの前輪12を結ぶ方向の軸を仮想の回転軸として、車両本体11が前記仮想の回転軸を中心に揺動するような振動をいう。
図6は、フォークリフトの荷役操作入力処理装置に伝達される振動を説明するための説明図である。図6は、荷役操作入力処理装置25の操作量を縦軸にとり、横軸に時間をとって示している。評価例は、実施形態1に係るフォークリフト1であり、比較例は、上述したピッチング制御コントローラ54を有していないフォークリフトである。
車両本体11は、駆動モータMから駆動トルクが伝達され、車両本体11が所定範囲の位置にとどまるように駆動輪である前輪12が前後に振動する。この前輪12の前後の振動は、車両本体11が上下に揺れるピッチング振動を誘発する。そして、ピッチング振動は、荷役装置3に伝達される。なお、前輪12の前後の振動は、前輪12が移動して生じる場合と、前輪12が移動せず、かつタイヤの剛性を超える駆動トルクにより振動して発生する場合も含む。
図6に示すように、評価例は、比較例に比べて、車両本体11の振動が荷役装置3の振動を弱め、車両本体11自身の振動を低減する。また、操作レバーの揺れ自体も抑制される。このため、オペレータが荷役操作入力処理装置25を操作してリフトシリンダ17の動作を開始する場合、及びオペレータが荷役操作入力処理装置25を操作してリフトシリンダ17の動作を停止させる場合に生じる振動の収束を早めることができる。
本実施形態に係るフォークリフト1は、この持続振動を抑制するため、駆動モータMを駆動して持続振動を抑制する振動を生じさせる。ここで、車両本体11は、駆動モータMがピッチング制御トルク指令it2により駆動し、前輪12(駆動輪)が揺動するため、車両本体11が移動してしまうおそれがある。本実施形態のフォークリフト1は、車両本体11が所定範囲の位置にとどまるように、駆動モータMに与える駆動トルクを制限している。このため、本実施形態に係るフォークリフト1は、車両本体11の水平方向の位置を大きく変えないように、つまり所定範囲内の位置となるように、駆動輪である前輪12が前後に振動する。
上述したように、本実施形態に係るフォークリフト1は、駆動制御指令iRにより駆動輪である前輪12を駆動する駆動モータMと、前輪12により走行可能な車両本体11と、車両本体11に昇降自在に支持され、かつ荷物を積載する積載部であるフォーク15を昇降可能な荷役装置3と、車両本体11に備えられ、荷役装置3を動作させるための荷役操作入力処理装置25と、荷役装置3の動作時におけるフォーク15の振動を低減するように車両本体11のピッチング振動を発生させる駆動モータMの駆動トルクを、車両本体11が所定範囲の位置にとどまるように制限した駆動制御指令iRを演算するピッチング制御コントローラ54と、を含む。
そして、前輪12の前後の振動が車両本体11の荷役装置3へピッチング振動として伝達される。そして、車両本体11の振動が荷役装置3の振動を弱め、車両本体11自身の振動を低減する。また、操作レバーの揺れ自体も抑制される。このため、フォークリフト1は、荷役装置3の動作に起因する持続振動の収束を早めることができる。そして、オペレータは、操作レバーの操作が容易となり、揺れが収まるまで作業を休止するおそれも低減できる。また、車両本体11が停止状態と認識しているのに、移動してしまうオペレータの違和感を低減することができる。
なお、フォークリフト1は、停止状態から走行する状態になる場合、つまり、アクセルが踏み込まれる場合において持続振動を抑制するため停止状態から継続して、走行中に駆動モータMを駆動して持続振動を弱めるピッチング制御トルク指令it2を駆動輪である前輪12に与えてもよい。この場合、図4に示すトルクリミッタ部154は、入力された速度絶対値|ΔU2|を図5に示すトルクリミッタ比マップ(緩和曲線)に与え、例えば図5に示す駆動トルクリミッタ比の値が1となり、速度絶対値|ΔU2|に応じた駆動トルクを制限(緩和)しないで、ピッチング制御トルク指令it2として出力することができる。
以上説明したように、実施形態1に係るフォークリフト1又は産業用車両用駆動制御装置100は、検出リフト圧Pに対して、荷役装置3の固有振動の周波数に基づいて定められた制御周波数帯が設定され、かつ、この制御周波数帯の位相が90度遅れるようにフィルタ設計された位相調整部111、位相調整部112及び位相調整部113を備える。この構成により、ピッチング振動の加速度データとして入力された検出リフト圧Pのうち制御周波数帯が増幅され、位相調整がされ、振動パラメータとしての速度データが生成される。この速度データに基づいて、産業用車両用駆動制御装置100は、荷役装置3の動作に起因する固有振動を低減するピッチング振動を車両本体11に生じさせるピッチング制御トルク指令T*を得ることができる。さらに、駆動トルクを所定の値に制限されたピッチング制御トルク指令T*を基準に前輪12の駆動がなされるので、フォークリフト1の意図しない移動を抑制し、フォークリフト1の荷役装置3に起因する振動を抑制することができる。
また、産業用車両用駆動制御装置100は、駆動モータMの検出モータ回転数ωの車速DC成分が0から所定の速度まで、駆動モータMの検出モータ回転数ωの車速DC成分が増加しても、駆動モータMの回転初期から駆動トルクの増加率が駆動モータMの回転数の増加率よりも小さくなるように駆動トルクを制限するトルクリミッタ部154を備えている。車両本体11の意図しない変動を引き起こす駆動トルクが駆動輪である前輪12に作用することを防止することができ、停止状態の安定性を高めることができる。
また、フォークリフト1は、産業用車両用駆動制御装置100を備えるので、ピッチング振動が発生したとしても、荷役装置3の動作に起因する振動の高い振動減衰率が得られ、オペレータの乗り心地や操作性を向上させることができる。
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係るピッチング制御コントローラを示す制御ブロック図である。図8は、実施形態1に係るピッチング制御コントローラにおける位置推定部が推定する、制御によって変位する位置について説明する説明図である。図9は、図8に対応する駆動トルクの制御例を説明するための説明図である。次の説明においては、実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図7に示すように、実施形態2に係るピッチング制御コントローラ54は、車両位置判定部200を備えている。車両位置判定部200は、荷役動作判定部151と、時間信号部152と、乗算器153と、位置推定部155と、トルクリミッタ部156と、を備えている。位置推定部155は、検出モータ回転数ωの車速DC成分に基づいて、車両本体1の位置を推定する演算手段である。位置推定部155は、検出モータ回転数ωの車速DC成分に応じた車両本体1の位置の変位の情報マップとして、記憶装置に記憶している。位置推定部155は、絶対値回路185から検出モータ回転数ωの車速DC成分が入力されると、例えば、図8に示すように、制御によって変位する位置Pxを時間の関数として演算する。位置推定部155は、演算した位置Pxが上述した前輪12の前後の制限位置Pup、制限位置Ploの条件値を超えると推定する場合、トルクリミッタ部154に駆動トルクの制限情報を出力する。例えば、図8に示すように、位置推定部155は、演算した位置Pxが上述した前輪12の前方の制限位置Pup、及び前輪12の後方の制限位置Ploの条件値を超えると推定する制限情報Pk1、制限情報Pk2の情報を出力する。
トルクリミッタ部156は、位置推定部155が出力する制限情報Pk1、制限情報Pk2の情報に基づいて、ピッチング制御トルク指令T*の駆動トルクを制限する。例えば、図9に示すように、図8に示す制限位置Pup、制限位置Ploの条件値に対応して、ピッチング制御トルク指令T*の許容最大値Tup及び許容最小値Tloが設定されており、駆動トルクTxの変動が許容最大値Tup及び許容最小値Tloを超えないように制御されている。これにより、車両本体11は、所定範囲の位置である、制限位置Pup以上制限位置Plo以下にとどまるように制限される。トルクリミッタ部156は、制限した駆動トルクTxで補正したピッチング制御トルク指令T*を乗算器153に出力する。
また、車両位置判定部200は、上述した実施形態1のように、荷役動作判定部151を備えるので、荷役装置3が動作していない場合には、乗算器153からピッチング制御トルク指令T*が出力されない。これにより、オペレータの乗降による振動など、荷役装置3に起因する振動が生じ難い状況下でピッチング制御トルク指令T*が出力されることを防止することができる。このため、車両本体11を振動させる誤動作を抑制することができる。
(変形例)
図10は、実施形態2の変形例に係るピッチング制御コントローラを示す制御ブロック図である。次の説明においては、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図10に示すように、実施形態2に係るピッチング制御コントローラ54は、車両位置判定部200Aを備えている。車両位置判定部200Aは、荷役動作判定部151と、時間信号部152と、乗算器153と、位置推定部155と、トルクリミッタ部156と、補正部159とを備えている。
補正部159は、圧力センサ42からの検出リフト圧Pが入力されている。上述した実施形態2では、位置推定部155は、駆動モータMの検出モータ回転数ωの車速DC成分に基づいて、制御によって変位する位置Pxを時間の関数として演算する。実施形態2の変形例では、位置推定部155は、圧力センサ42からの検出リフト圧P及び駆動モータMの検出モータ回転数ωの車速DC成分に基づいて、制御によって変位する位置Pxを時間の関数として演算する。例えば、前輪12及び後輪13は、ゴムなどの弾性体で構成され、前輪12及び後輪13の弾性体の撓みに起因して、フォークリフト1が車両本体11と、前輪12及び後輪13の弾性体と、が同期してピッチング振動を生じることがある。この場合、圧力センサ42からの検出リフト圧Pに基づいた補正値を用いて上述した制御によって変位する位置Pxを補正すれば、フォークリフト1が車両本体11と、前輪12及び後輪13の弾性体と、が同期したピッチング振動に基づいた車両本体11の位置を推定することができる。
また、以上説明したように本実施形態に係るフォークリフト1又は産業用車両用駆動制御装置100は、駆動モータMの回転数ωに基づいて車両本体11の位置を推定する位置推定部155と、位置推定部155が推定した車両本体11の位置が所定範囲の位置にとどまるように駆動トルクを制限するトルクリミッタ部156を備えている。このため、車両本体11の意図しない変動を引き起こす駆動トルクが駆動輪である前輪12に作用することを防止することができ、停止状態の安定性を高めることができる。
また、フォークリフト1は、産業用車両用駆動制御装置100を備えるので、ピッチング振動が発生したとしても、荷役装置3の動作に起因する振動の高い振動減衰率が得られ、オペレータの乗り心地や操作性を向上させることができる。
(実施形態3)
図11は、実施形態3に係るピッチング制御コントローラを示す制御ブロック図である。図12は、実施形態3に係るフォークリフトの振動を説明するための説明図である。次の説明においては、実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図11に示すように、実施形態3に係るピッチング制御コントローラ54は、振動制御部110と並列に、荷物上下加速度低減波形演算部110Aを備えている。また、実施形態3に係るピッチング制御コントローラ54は、車速判断部186と、選択部187とを備えている。車速判断部186は、絶対値回路185から検出モータ回転数ωの車速DC成分が入力され、かつ所定のモータ回転数以下であれば、車両本体11が停止中の選択情報を選択部187に出力する。選択部187は、車速判断部186の選択情報に基づいて、圧力センサ42の検出リフト圧Pを荷物上下加速度低減波形演算部110Aに接続するように選択する。または、車速判断部186は、絶対値回路185から検出モータ回転数ωの車速DC成分が入力され、かつ所定のモータ回転数を超えるのであれば、車両本体11が走行中の選択情報を選択部187に出力する。選択部187は、車速判断部186の選択情報に基づいて、圧力センサ42の検出リフト圧Pを振動制御部110に接続するように選択する。
なお、車速判定部150Aは、検出モータ回転数ωの車速DC成分が所定の閾値以上であることを条件として、ピッチング制御トルク指令T*を旋回判定部160に出力するものであり、車速変数決定手段151Aと、乗算器152Aとを備えている。閾値としては、例えば、ピッチング振動が発生し易いモータ回転数500rpmに設定している。例えば、車速変数決定手段151Aが、静的成分PDCと変数d2(0〜1)との関係が示された車速変数マップ(緩和曲線)を参照して、入力された静的成分PDCから変数d2を求め、乗算器152Aが、求められた変数d2と、ピッチング制御トルク指令T*とを積算する。
荷物上下加速度低減波形演算部110Aは、荷役装置3の振動を低減する車両11のピッチング振動を最低限とするように駆動トルクTを出力する。図12にしめすように、実施形態3に係るフォークリフト1では、荷役装置3の振動中心2Qと、車両本体11の振動中心11Qのように、2つの振動中心がある。図12では、振動中心2Qと、振動中心11Qとの距離がlmである。例えば、フォークリフト1は、荷役装置3のばね係数kmと、リフトシリンダまたはチルトシリンダの容量Cm、及び、フォーク15上の荷物2の荷重mによって、荷役装置3の振動中心2Qの鉛直方向の変位時間関数z(t)をモデル化することができる。
また、フォークリフト1は、車両本体11の質量MQと、前輪12のばね係数kfと、前輪12の大きさCf、後輪13のばね係数krと、後輪13の大きさCr、及び車両本体11の振動中心11Qの位置(振動中心11Qの高さh、振動中心11Qから前輪12までの水平方向の距離lf、振動中心11Qから後輪13までの水平方向の距離lr)により、車両本体11の振動中心11Qにおいて、鉛直方向のピッチング振動の変位時間関数Z(t)、水平方向のピッチング振動の変位時間関数X(t)をモデル化することができる。
また、図12に示すフォークリフト1は、前輪12に駆動トルクTが加えられると、前輪の鉛直方向の変位Znfと、後輪13の鉛直方向の変位Znrの変位に差が生じる。このため、車両本体11の振動中心11Qが、例えば車両本体11の重心または重心近傍を通り、かつ2つの前輪12を結ぶ方向の軸を仮想の回転軸として、車両本体11が前記仮想の回転軸を中心にモーメントMFが加えられ揺動する。この揺動に対して、車両本体11には、質量特性として、質量MQ(上下、水平運動に作用する慣性)と慣性モーメントI(回転運動に作用する慣性)とが作用する。この車両本体11の振動中心11Qを中心に揺動するピッチング振動は、回転方向の変位時間関数θ(t)とする。
実施形態3に係るピッチング制御コントローラ54は、例えば、荷物上下加速度低減波形演算部110Aが最適制御理論の目的関数を記憶している。ピッチング制御コントローラ54は、荷物上下加速度低減波形演算部110Aが検出リフト圧Pの情報を上述した目的関数に与えて、荷物上下加速度低減波形演算部110Aが荷役装置3の振動中心2Qの鉛直方向の変位時間関数z(t)を演算し、荷物2の上下加速度または検出リフト圧Pの変動が最小となり、かつ水平方向のピッチング振動の変位時間関数X(t)から振動中心11Qの水平方向の移動距離(変位)が最小となるピッチング振動となるように駆動トルクTを演算する。このため、車両本体11の意図しない変動を引き起こす駆動トルクTが駆動輪である前輪12に作用することを防止することができ、停止状態の安定性を高めることができる。