JP5476175B2 - 高強度で強度安定性に優れたチタンコイル - Google Patents

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本発明は、高強度であり、且つ、強度安定性に優れたチタンコイルに関するものである。
チタンは、軽量、高強度、高耐食性に加え、溶接性、超塑性、拡散接合性などの利用加工諸特性を有することから、航空機産業、眼鏡や時計などの装身具を中心に多用されてきた。これらの特性を更に活用すべく、近年では、ゴルフ用品をはじめとしたスポーツ用品などにも用いられるようになってきており、更には、自動車部品、土木建築用素材、各種工具類などの民生品分野や、深海やエネルギー開発用途などへの適用拡大も進んでいる。
しかしながら、酸素(O)と窒素(N)を比較的多く含む高強度低廉チタンは、OとNがその溶解・鋳造時に、インゴットのボトム側に偏析(マクロ偏析)するという傾向がある。その偏析に起因して、そのインゴットが冷間圧延等によって圧延コイルに加工された際には、コイルのトップ側とテール側で機械的特性に大きなバラツキを生じることとなる。
すなわち、溶解・鋳造したインゴットの、前記コイルのトップ側に相当するトップ側は低強度高延性になり、逆に前記コイルのテール側に相当するボトム側では高強度低延性になる。従って、コイルの強度を確保するためには、インゴットのトップ側のOとNの濃度を適正な成分濃度とすることで対処する必要があるといえるが、そのように対処すると、逆にインゴットのボトム側でOとNの濃度が高くなりすぎ、ボトム側で強度が過剰になりすぎると共に、後で様々な成形加工を施す上での加工性が劣化するという問題が発生してしまう。また、冷間圧延等によって加工する同一コイル内でOとNの濃度のバラツキが発生してしまうため、そのコイルから製造する各種部材の製品特性も安定しないという課題があった。
以上のような課題もあり、トップ側とテール側で強度差が小さく、高強度で強度安定性に優れたチタンコイルが開発されることが待ち望まれていた。
近年、高強度チタンに関しては様々な技術が提案されているが、その代表的な技術として特許文献1〜5に記載されたような先行技術を挙げることができる。
特許文献1記載の技術は、圧延コイルのOとFeの偏析を抑制して均一な機械的性質、且つ成形性を得ようという技術である。この技術を採用することで、コイルのトップ側とテール側(インゴットのトップ側とボトム側)の強度のバラツキを抑制することができており、当時の技術では最高度の技術ではあるということができるものの、まだ十分には強度のバラツキを抑制できているとはいえず、特に強度が高い場合には、強度のバラツキを抑制しきれてはいない。
特許文献2には、Oを0.2〜0.8%、Cを0.01〜0.15%、Nを0.01〜0.07%およびFeを0.3〜1.0%含有し、残部が実質上Tiからなる合金組織を有し、引張強さが750MPa以上の高強度低合金チタン合金が開示されている。
また、特許文献3には、質量%で、Fe:0.20〜0.8%およびO:0.20〜0.6%を夫々含有し、残部がTiおよび不可避的不純物である高強度チタン合金が開示されている。
また、特許文献4には、質量%で、Fe:0.2〜1.0%、O:0.15〜0.60%およびSi:0.20〜1.0を夫々含み、残部がTiおよび不可避的不純物である高強度チタン合金が開示されている。
更には、特許文献5には、O、NおよびFeを含有し、残部が実質的にTiから成り、Fe:0.9〜2.3重量%、N:0.05重量%以下であり、Q=[O]+2.77[N]+0.1[Fe]で定義される酸素等価量値Qが0.34〜1.00で、引張強さ700MPa以上、伸び15%以上の高強度・高延性チタン合金が開示されており、更にCr、Niを含有させても良いことが記載されている。
特開2004−315912号公報 特開2004−269982号公報 特開平10−17962号公報 特許第3376240号公報 特許第3426605号公報
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、トップ側とテール側で強度差が小さく、高強度で強度安定性に優れたチタンコイルを提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、質量%で、Oを0.08〜0.40%、Cを0.1〜0.4%、Nを0.001〜0.02%、Siを0.4%以下(0%を含まない)、Feを0.1〜2.0%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であって、前記C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)が、0.3以上であることを特徴とする高強度で強度安定性に優れたチタンコイルである。
請求項2記載の発明は、更に、前記及びFeの含有量(質量%)から求めた×Feが、0.08以上であると共に、OとFe含有量(質量%)の関係が、0.08×Fe≦O≦Feを満たすことを特徴とする請求項1記載の高強度で強度安定性に優れたチタンコイルである。
本発明によると、そのトップ側とテール側で強度差が小さく、且つ高強度なチタンコイルを得ることができる。また、本発明のチタンコイルは高強度高延性で、更には強度のバラツキも小さいため、眼鏡や時計などの装身具、ゴルフクラブのヘッド、耐弾板、高張力ボルト、バルブリテーナーなどの各種自動車部品等の用途に広く適用することができる。
実施例の引張試験で用いたJISZ2201に規定される13号試験片を示す正面図である。
従来から知られている高強度チタンは、高強度且つ高延性という基本的な機械的特性は備えるものの、コイルに加工した際に、そのトップ側とテール側で強度差が大きくなるという問題があったため、本発明者らは、高強度且つ高延性という基本的な機械的特性を備えた上で、トップ側とテール側で強度のバラツキがない強度安定性に優れたチタンコイルを得るために、鋭意、実験、研究を進めた。
その結果、O、C、N、Si及びFeの含有量を適正範囲に規定した上で、C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスを適正な比率とすることで、高強度且つ高延性という基本的な機械的特性を備えた上で、トップ側とテール側で強度のバラツキがない強度安定性に優れたチタンコイルを得ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
また、これに併せOとFeの含有量(質量%)の成分濃度バランスを適正な範囲とすることで、コイルのトップ側とテール側で強度のバラツキをより一層抑制できることも見出した。
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明では、チタンコイルの成分組成、並びに、C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスを規定するが、以下にその理由を説明する。
(成分組成)
一般に純チタンコイルは、不純物元素としてO、C、H、N、Si、Fe等を微量に含有するが、本発明ではその中でも比較的含有量が多いO、C、N、Si、Feの含有量を規定した。尚、以下の説明において%で示す含有量は、全て質量%を示す。
O:0.08〜0.40%
Oは、チタンコイルの強度を大きく向上させるために有効な必須元素であるが、その含有量が0.08%未満であれば、本発明の高強度チタンコイルが必要とする強度レベルを得ることができなくなる。一方、Oの含有量が0.40%を超える場合は強度が更に向上するものの、強度のバラツキが著しく大きくなってしまうという問題を生じる。従って、Oの含有量は0.08〜0.40%とする。尚、より好ましいOの含有量の下限は0.10%、より好ましいOの含有量の上限は0.35%である。
Fe:0.1〜2.0%
Feも、チタンコイルの強度の向上に寄与する有効な元素であるが、その作用を発揮させるためには少なくとも0.1%は含有させる必要がある。一方、Feを添加することで、その含有量が2.0%を超えて多くなると、Feの添加に伴って生成するβ相が粗大になり、強度の向上よりも、延性の低下の度合いが大きくなり、また、強度のバラツキも大きくなってしまう。従って、Feの含有量は0.1〜2.0%とする。尚、より好ましいFeの含有量の下限は0.15%、より好ましいFeの含有量の上限は1.7%である。
C:0.1〜0.4%
Cは、チタンコイルの冷間加工性を大きく低下させることなく、その強度を上げることができる元素である。また、Cの偏析はO、Nと比較して小さく、それらに代替して添加することで、強度のバラツキを抑制しつつ高強度チタンコイルとすることができる。JIS、ASTM、AMS等の規格で規定されている純チタンではその含有量の上限は0.08%程度であるが、本発明では上記作用を発揮させるために更に積極的に添加する。それらの作用を発揮させるためには、Cの含有量は少なくとも0.1%とする必要がある。一方、その含有量が0.4%を超えて多くなるとCの添加量の増加に伴って生成するTiCが粗大化し、強度の向上よりも、延性の低下の度合いが大きくなってしまう。従って、Cの含有量は0.1〜0.4%とする。尚、より好ましいCの含有量の下限は0.12%、より好ましいCの含有量の上限は0.35%である。尚、CはTiC粉末で添加することができるため、歩留まりも高く、その成分調整も容易である。
N:0.001〜0.02%
Nは、チタンコイルの強度向上に顕著に作用する元素であるが、その含有量が多くなると延性が著しく低下し、冷延性を大きく阻害させるという作用も発現させてしまい、また、強度のバラツキも大きくなってしまう。そのため、本発明ではその含有量を極力少なくするが、あまりその含有量を少なくするとコストアップにつながってしまう。従って、Nの含有量は0.001〜0.02%の範囲とした。尚、より好ましいNの含有量の下限は0.002%、より好ましいNの含有量の上限は0.01%である。
Si:0.4%以下(0%を含まない)
Siは比較的安価な元素であり、チタンコイルの耐熱性(耐酸化性、高温強度)を向上させ、また、ミクロ組織の微細化にも寄与する元素である。更には、Siの添加によってOの偏析が低減するという作用も奏する。それらの作用は、極微量の添加であっても発現させることができるが、0.4%を超えて添加した場合には強度のバラツキが大きくなる可能性がある。従って、Siの含有量は0.4%以下(0%を含まない)とした。尚、より好ましいSiの含有量の下限は0.002%、より好ましいSiの含有量の上限は0.35%である。
(C/(O+N−Si/5)の成分濃度バランス)
トップ側とテール側で強度のバラツキがない高強度で強度安定性に優れたチタンコイルを得るためには、以上説明した成分組成を満足させた上で、C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスを規定することが最も有効となる。OとNは微量の添加で顕著に強度を向上させる作用を発揮するが、一方で、チタンコイルのトップ側とテール側の強度差を増大させ、更には延性を低下させるという問題を発現させてしまう。しかしながら、C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)を、0.3以上とすれば、トップ側とテール側で強度のバラツキがない高強度で強度安定性に優れたチタンコイルとすることができる。C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)は、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.8以上とすることが推奨される。
Cのマクロ偏析は、O、Nのマクロ偏析と比較して小さい。また、O、Nは凝固時に液相側に濃化するのに対して、Cは僅かではあるが固相側に濃化する傾向がある。従って、O、Nに代替してCを添加することで、強度のバラツキを抑制した上で、高強度化することができる。また、SiはO、Nの偏析を緩和する作用がある。これらCおよびSiの作用は、コイルのみならず、鍛造材、棒材、線材などの場合にも有効である。
以上の成分組成と、C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスを満足させることで、トップ側とテール側で強度のバラツキがない高強度で強度安定性に優れたチタンコイルとすることができるが、更に、これに併せ、OとFeの含有量(質量%)の成分濃度バランスを適正な範囲とすることで、チタンコイルのトップ側とテール側での強度のバラツキをより一層抑制することができる。
(OとFeの含有量の成分濃度バランス)
前記した元素のうちでも比較的含有量が多いOとFeの含有量の成分濃度バランスを調整することで、チタンコイルのトップ側とテール側で強度のバラツキをより一層抑制できるが、その条件は、及びFeの含有量(質量%)から求めた×Feが、0.08以上となるように調整すると共に、OとFe含有量(質量%)の関係が、0.08×Fe≦O≦Feを満たすように調整することである。
(製造方法)
次に、本発明のチタンコイルの製造方法について説明するが、本発明のチタンコイルは、通常のチタンコイルと同様に、分塊圧延→熱間圧延→中間焼鈍→冷間圧延(→中間焼鈍→冷間圧延)→最終焼鈍といった各工程間に、随時ブラスト、酸洗処理を入れること等によって製造することが可能で、特に特殊な方法を用いることなく製造することができる。尚、前記工程の説明で、括弧書きの(→中間焼鈍→冷間圧延)という工程は必ずしも必要ではないが、製造するチタンコイルの大きさ、強度の違いにより適宜回数繰り返して行う。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
JIS2種の純チタン板材を溶解原料とし、所定の添加元素を添加することで、真空アーク溶解炉により表1に示す各成分組成のチタンインゴット(径480mm×長さ1000mm)を鋳造した。溶解原料のJIS2種の純チタン板材は、厚さ3.1mmの冷延・真空焼鈍材を用い、シャー切断後、その表面を有機溶剤で脱脂・洗浄し、酸洗したものを用いた。また、添加元素のうち、OはFeで添加し、不足する場合はTiOで補った。また、Feは電解鉄で、CはTiC粉末で、Siは99.9質量%以上の高濃度のシリコンウエハーを用いることで、夫々添加した。尚、溶解条件は、より大きな(5〜8トン相当)インゴットの偏析を模擬するために、通常より溶解電流値を高くした。
次いで、このチタン鋳塊を用いて、約1000℃の加熱温度で分塊鍛造を行い、厚さ200mm×幅800mm×長さ1000mmのスラブとした。その後、約800℃に加熱して熱間圧延を行うことで、厚さ3.5mmの熱延板とし、更に、約750℃で焼鈍した後、酸洗により表層のスケールを除去した。
得られた熱延板に対し、冷延率30〜45%の冷間圧延、750℃での焼鈍を繰り返して実施し、厚さ0.5mmになるまで圧延し、その後、酸洗を行い表層のαケースを完全に除去することで、試験に用いる試料とした。
得られた試料のトップ側とテール側の板幅の中央付近より、その圧延方向を長手方向とした、図1に示すJISZ2201に規定される13号試験片を夫々2本ずつ作製し、この試験片を用いて、トップ側とテール側の試験片共に、圧延方向の引張試験を実施することで、表1に示す各成分組成の試験片の圧延方向の引張強度(TS)と伸び(EL)を測定した。このときの試験条件は、JISH4600に準じた。
表2に試験結果を示すが、TSAVEと記載の値は、測定された全ての試験片の引張強度(TS)を平均した値、ELAVEと記載の値は、測定された全ての試験片の伸び(EL)を平均した値であり、ΔTSはトップ側とテール側の試験片の引張強度(TS)の差異であり、TSAVEとELAVEで試験片の強度および延性を、ΔTS/TSAVEで試験片のトップ側とテール側で強度差(バラツキ)を評価した。
本実施例では、以上の試験結果で得られた、TSAVEが450MPa以上、ELAVEが20%以上という条件を満たすと共に、ΔTS/TSAVEが9.0%以下という条件を満たすものを合格とし、トップ側とテール側で強度差が小さく、高強度で強度安定性に優れたチタンコイルであると評価した。
No.4〜8、No.10は、チタンコイルの成分組成、並びに、C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスが、本発明で規定する要件を満足する発明例である。
また、それら発明例の中でも、特にNo.4とNo.7は、請求項2記載のOとFeの含有量の成分濃度バランスも満足する発明例である。
一方、No.1〜3は、Cの含有量が少なすぎ、C/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスが本発明で規定する要件を満足しない比較例、No.9は、C/(O+N−Si/5)の成分濃度バランスが本発明で規定する要件を満足しない比較例、No.13,14は、Oの含有量が少なすぎる比較例と多すぎる比較例、No.15,16はCの含有量が少なすぎる比較例と多すぎる比較例、No.17はNの含有量が多すぎる比較例、No.18はSiの含有量が多すぎる比較例である。
No.4〜8、No.10の発明例では、TSAVEが450MPa以上、ELAVEが20%以上であり、しかも、ΔTS/TSAVEが9.0%以下である。従って、これらは全て、トップ側とテール側で強度差が小さく、高強度で強度安定性に優れたチタンコイルであると評価することができる。
また、これら発明例の中でもNo.4とNo.7は、ΔTS/TSAVEが特に優れた値となっており、請求項2記載のOとFeの含有量の成分濃度バランスも満足することで、チタンコイルのトップ側とテール側での強度のバラツキをより一層抑制できていることが分かる。
これに対し、本発明で規定する要件を満たしていないNo.1〜3、No.9、No.13〜18の比較例では、TSAVEが450MPa以上、ELAVEが20%以上、ΔTS/TSAVEが9.0%以下という本発明の合格判定基準を、いずれか一つ以上で満足しておらず(尚、表2では合格判定基準を満足していないものに下線を付している。)、これら比較例は、高強度で強度安定性に優れたチタンコイルであると評価することができない。

Claims (2)

  1. 質量%で、Oを0.08〜0.40%、Cを0.1〜0.4%、Nを0.001〜0.02%、Siを0.4%以下(0%を含まない)、Feを0.1〜2.0%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であって、
    前記C、O、N及びSiの含有量(質量%)から求めたC/(O+N−Si/5)が、0.3以上であることを特徴とする高強度で強度安定性に優れたチタンコイル。
  2. 更に、前記及びFeの含有量(質量%)から求めた×Feが、0.08以上であると共に、
    OとFe含有量(質量%)の関係が、0.08×Fe≦O≦Feを満たすことを特徴とする請求項1記載の高強度で強度安定性に優れたチタンコイル。
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