以下、添付図面を参照して、本発明に係るオートフォーカスシステムを実施するための形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のオートフォーカスシステムを適用したレンズシステムの構成を示したブロック図である。同図のレンズシステムは、例えば放送用テレビカメラのカメラ本体(カメラヘッド)にマウントによって装着される撮影レンズ(撮影光学系)と、撮影レンズを制御する制御系とから構成されている。尚、撮影レンズと、一部を除く制御系とは一体化されたレンズ装置として構成されている場合や、撮影レンズと制御系とが別体の装置として構成される場合等のようにシステムを構成する装置の形態はどのようなものでもよい。
撮影レンズは、被写体の像をカメラ本体の撮像面に結ぶ撮影光学系であり、撮影レンズには各種固定のレンズ群の他に、光軸方向に移動可能なレンズ群として同図に示すフォーカスレンズ(群)FLやズームレンズ(群)ZLが配置されている。フォーカスレンズFLが移動すると、ピント位置(被写体距離)が変わり、ズームレンズZLが移動すると、像倍率(焦点距離)が変わる。また、撮影レンズには絞り値を変更するために開閉駆動される同図に示す絞りIが配置されている。
レンズシステムの制御系は、CPU10、アンプFA、ZA、IA、モータFM、ZM、IM、フォーカスデマンド18、ズームデマンド20、AF回路30等から構成されている。CPU10は、システム全体を統括制御しており、CPU10からD/A変換器12を介して各アンプFA、ZA、IAに駆動信号が出力されると、各モータFM、ZM、IMがその駆動信号の値(電圧)に応じた回転速度で駆動される。各モータFM、ZM、IMは、上記撮影レンズのフォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIに連結しており、各モータFM、ZM、IMの駆動と共に、フォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIが駆動される。各モータFM、ZM、IMの出力軸にはそれらの回転位置に応じた電圧信号を出力するポテンショメータFP、ZP、IPが連結されており、各ポテンショメータFP、ZP、IPからの電圧信号は、フォーカスレンズFLの位置、ズームレンズZLの位置、絞りIの位置を示す信号としてA/D変換器14を介してCPU10に与えられる。従って、CPU10から各アンプFA、ZA、IAに与えられる駆動信号によって撮影レンズのフォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIの位置又は動作速度が所望の状態に制御される。
フォーカスデマンド18やズームデマンド20は、撮影レンズのフォーカス(フォーカスレンズFL)やズーム(ズームレンズZL)の目標となる位置や移動速度をマニュアル操作で指定するマニュアル操作部材を備えたコントローラである。フォーカスデマンド18とズームデマンド20は、それぞれA/D変換器14を介してCPU10と接続されている。
本レンズシステムでは、フォーカス制御をマニュアルフォーカス(MF)と、オートフォーカス(AF)のいずれかで行うことが可能であり、MFの制御時においては、フォーカスデマンド18でのマニュアル操作部材の操作に従ってフォーカス制御が行われる。MFの制御時にフォーカスデマンド18のマニュアル操作部材を操作すると、例えば、その操作部材の位置に対応したフォーカスの目標位置を指定するフォーカス指令信号がCPU10に与えられる。CPU10は、フォーカスの位置がそのフォーカス指令信号により指定された目標位置となるようにアンプFAに出力する駆動信号によりモータFMを制御してフォーカスレンズFLの位置を制御する。尚、一般にMFの制御ではフォーカスデマンド18から与えられる目標位置に従ってフォーカスレンズFLの位置制御が行われるが、フォーカスデマンド18から目標の移動速度が与えられ、それに従ってフォーカスレンズFLの速度制御を行うことも可能である。
ズームデマンド20のマニュアル操作部材を操作した場合には、例えば、その操作部材の位置に対応したズームの目標の移動速度を指定するズーム指令信号がCPU10に与えられる。CPU10は、ズームの移動速度がそのズーム指令信号により指定された目標の移動速度となるようにアンプZAに出力する駆動信号によりモータZMを制御してズームレンズZLの移動速度を制御する。尚、一般にズーム制御ではズームデマンド20から与えられる目標の移動速度に従ってズームレンズZLの速度制御が行われるが、ズームデマンド20から目標位置が与えられ、それに従ってズームレンズZLの位置制御を行うことも可能である。
図示しないカメラ本体からは、絞りIの目標位置を指定するアイリス指令信号がCPU10に与えられるようになっており、CPU10は絞りIの位置(開閉度)がそのアイリス指令信号により指定された目標位置となるようにアンプIAに出力する駆動信号によりモータIMを制御し絞りIの位置を制御する。
AF回路30は、詳細を後述するように被写体画像のコントラストの高低を示す焦点評価値を検出する回路であり、焦点評価値の情報がAF回路30からCPU10に与えられるようになっている。CPU10は、AF制御時において、AF回路30から得られる焦点評価値の情報に基づいて撮影レンズのピント状態が合焦となるようにアンプFAに出力する駆動信号によりモータFMを制御してフォーカスレンズFLを制御する。
AF回路30は、一対のAF用撮像素子32A、32B、A/D変換器34、ゲート回路36、ハイパスフィルタ(HPF)38、加算回路40A、40B等から構成される。
一対のAF用撮像素子32A、32B(例えばCCDセンサやCMOSセンサ)は、カメラ本体に搭載された撮像素子(例えばCCDセンサやCMOSセンサ)とは別に設けられている。カメラ本体の撮像素子は、記録又は再生用の本来の映像を撮影するための撮像素子(以下、映像用撮像素子という)であるのに対し、AF用撮像素子32A、32BはAF専用に設けられた撮像素子であり、例えば、図2のように構成された撮影レンズの光学系に配置される。
ここで図2を用いて撮影レンズの全体構成の概略と共にAF用撮像素子32A、32Bの配置について説明する。撮影レンズ60の光軸Oには、上記フォーカスレンズ(群)FL、上記ズームレンズ(群)ZL、上記絞りI、前側リレーレンズRA及び後側リレーレンズRBからなるリレーレンズ(リレー光学系)等が順に配置されている。撮影レンズ60に入射した被写体光はこれらのレンズ群を通過してカメラ本体50に入射する。カメラ本体50には、撮影レンズ60から入射した被写体光を赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の波長に分解する色分解光学系68と、色分解された各色の被写体光の像を撮像するR、G、Bごとの映像用撮像素子が配置されている。尚、光学的に等価な光路長の位置に配置されたR、G、Bの映像用撮像素子を同図に示すように1つの映像用撮像素子70で表す。映像用撮像素子70の撮像面に入射した被写体光は、映像用撮像素子70によって光電変換されてカメラ本体50内の所定の信号処理回路によって記録又は再生用の映像信号が生成される。
一方、撮影レンズ60のリレー光学系の前側リレーレンズRAと後側リレーレンズRBとの間には、ハーフミラー62が配置されている。このハーフミラー62によって、撮影レンズ60の光路が2つに分割される。撮影レンズ60に入射した被写体光のうち、ハーフミラー62を透過した被写体光は、上述のように光軸Oの光路に沿ってカメラ本体50へと導かれる。ハーフミラー62で反射した被写体光は、上記光軸Oに略垂直な光軸O′の光路(AF用光路)へと導かれる。尚、ハーフミラー62に入射した被写体光に対して、例えば約50%の光量の被写体光がハーフミラー62を透過する。但し、ハーフミラー62として、任意の透過率と反射率の特性を有するものを使用することができる。
AF用光路には、上記後側リレーレンズRBと同等のリレーレンズRB′と、2つのプリズム64A、64Bから構成される光分割光学系64と、上記AF用撮像素子32A、32Bが配置されている。ハーフミラー62で反射してAF用光路へと導かれた被写体光は、リレーレンズRB′を通過した後、光分割光学系64に入射する。光分割光学系に入射した被写体光は、第1プリズム64Aと第2プリズム64Bとが接合する部分のハーフミラー面Mで光量が等価な2つの被写体光に分割される。ハーフミラー面Mで反射した被写体光は、一方のAF用撮像素子32Aの撮像面に入射し、ハーフミラー面Mを透過した被写体光は他方のAF用撮像素子32Bの撮像面に入射する。
図3は、カメラ本体50の映像用撮像素子70とAF用撮像素子32A、32Bとを同一の光軸上に表した図である。同図に示すように、一方のAF用撮像素子32Aに入射する被写体光の光路長は、他方のAF用撮像素子32Bに入射する被写体光の光路長よりも短く設定され、映像用撮像素子70の撮像面に入射する被写体光の光路長は、その中間の長さとなるように設定されている。すなわち、一対のAF用撮像素子32A、32B(の撮像面)は、それぞれ映像用撮像素子70の撮像面に対して前後等距離dの位置となるように配置されている。
このように撮影レンズ60に配置された一対のAF用撮像素子32A、32Bによって、撮影レンズ60に入射した被写体光を映像用撮像素子70の撮像面に対して前後の等距離の位置にそれぞれ撮像面を配置した場合と等価な映像信号が取得されるようになっている。尚、AF用撮像素子32A、32Bはカラー映像を撮像するものである必要はなく、本実施の形態ではAF用撮像素子32A、32Bから白黒の映像信号(輝度信号)が取得されるものとする。
図1のAF回路30において、各AF用撮像素子32A、32Bによって得られた映像信号は、A/D変換器34によりデジタル信号に変換された後、ゲート回路36に入力される。ゲート回路36では、撮影範囲(画面)内に設定された所定のAFエリア(例えば画面中央の矩形エリア)に対応する範囲内の映像信号が抽出される。これによって抽出されたAFエリア内の映像信号は続いてハイパスフィルタ(HPF)38に入力され、HPF38により高域周波数成分の信号のみが抽出される。
HPF38によって抽出された高域周波数成分の信号は、AF用撮像素子32Aから得られたものは加算回路40Aによって、AF用撮像素子32Bから得られたものは加算回路40Bによって1フィールド分ずつ積算され、その積算値が1フィールドごとにAF回路30から出力される。
このようにして各加算回路40A、40Bから得られる積算値は、それぞれAF用撮像素子32A、32Bで撮像された被写体画像のコントラストの高さを評価する値を示す。本明細書ではこの積算値を焦点評価値というものとする。また、AF用撮像素子32Aの映像信号から得られた焦点評価値をchAの焦点評価値、AF用撮像素子32Bの映像信号から得られた焦点評価値をchBの焦点評価値というものとする。
CPU10は、このようして得られたchAとchBの焦点評価値に基づいて映像用撮像素子70に対する撮影レンズ60のピント状態を検出する。ピント状態の検出は、次のような原理で行われる。図4は、横軸に撮影レンズ60のフォーカスレンズFLの位置(フォーカス位置)、縦軸に焦点評価値をとり、ある被写体を撮影した際のフォーカス位置と焦点評価値との関係を例示した図である。図中実線で示す曲線A、Bは、それぞれAF用撮像素子32A、32Bから得られるchAとchBの焦点評価値をフォーカス位置に対して示している。一方、図中点線で示す曲線Cは、映像用撮像素子70から得られた映像信号により焦点評価値を求めたと仮定した場合の焦点評価値をフォーカス位置に対して示している。
同図において、ピント状態が合焦となるのは、曲線Cで示す映像用撮像素子70の焦点評価値が最大(極大)となるときのフォーカス位置F0にフォーカスが設定された場合である。もし、撮影レンズ60のフォーカスがその合焦位置F0よりも至近側のフォーカス位置F1に設定されている場合には、chAの焦点評価値は、フォーカス位置F1に対応する曲線Aの値VA1となり、chBの焦点評価値は、フォーカス位置F1に対応する曲線Bの値VB1となる。この場合、図から分かるようにchAの焦点評価値VA1の方が、chBの焦点評価値VB1よりも大きくなる。このことから、chAの焦点評価値VA1の方が、chBの焦点評価値VB1よりも大きい場合には、フォーカスが合焦位置F0よりも至近側に設定されている状態、すなわち、前ピンの状態であることが分かる。
一方、撮影レンズ60のフォーカスが合焦位置F0よりも無限遠側のフォーカス位置F2に設定されている場合には、chAの焦点評価値は、フォーカス位置F2に対応する曲線Aの値VA2となり、chBの焦点評価値は、フォーカス位置F2に対応する曲線Bの値VB2となる。この場合、chAの焦点評価値VA2の方が、chBの焦点評価値VB2よりも小さくなる。このことから、chAの焦点評価値VA2の方が、chBの焦点評価値VB2よりも小さい場合には、フォーカスが合焦位置F0よりも無限遠側に設定されている状態、すなわち、後ピンの状態であることが分かる。
これに対して、撮影レンズ60のフォーカスがフォーカス位置F0、即ち、合焦位置に設定されている場合には、chAの焦点評価値は、フォーカス位置F0に対応する曲線Aの値VA0となり、chBの焦点評価値は、フォーカス位置F0に対応する曲線Bの値VB0となる。この場合、chAの焦点評価値VA0とchBの焦点評価値VB0は等しくなる。このことから、chAの焦点評価値VA0とchBの焦点評価値VB0とが等しい場合にはフォーカスが合焦位置F0に設定されている状態、すなわち、合焦状態であることが分かる。
このようにchAとchBの焦点評価値によって、撮影レンズの現在のピント状態が映像用撮像素子70に対して前ピン、後ピン、合焦のいずれの状態であるかを検出することができる。
図1において、CPU10は、上記のようにしてchAとchBの焦点評価値に基づいて映像用撮像素子70に対する撮影レンズ60のピント状態を逐次検出しながら、合焦状態となるようにフォーカスレンズFLを制御する。例えば、ピント状態が前ピンの場合にはフォーカスレンズFLを無限遠方向に移動させ、ピント状態が後ピンの場合にはフォーカスレンズFLを至近方向に移動させる。そして、ピント状態が合焦の場合には、フォーカスレンズFLを停止させる。これによって、撮影レンズのピント状態が合焦となる位置にフォーカスレンズFLが移動して停止する。このように光路長差を有する複数のAF用撮像素子を用いて自動ピント調整を行うAFの方式を光路長差方式と称している。
尚、CPU10において、単にピント状態を検出するだけでなく、chAとchBの焦点評価値の差や比等からピントずれの程度も検出し、CPU10においてフォーカスレンズFLを移動させる際の速度に反映させることも可能である。
ところで、本実施の形態のようにchA撮像面とchB撮像面とが2つの撮像素子(AF用撮像素子32A、32B)によって構成される場合、それらの特性に差(例えばゲイン誤差)があると、chAとchBの焦点評価値は、図5の曲線A、Bに示すような値となる。このような場合、chA撮像面とchBの撮像面に入射する被写体光の光量が等しい場合であっても曲線A、Bの全体としての大きさが相違する。そのため、chAとchBの焦点評価値が一致するフォーカス位置を合焦位置と判断すると、同図の例ではフォーカス位置F0′が合焦位置と判断され、真の合焦位置F0に対してピント誤差が生じ、合焦精度が低下する不具合が生じる。
このため、複数のAF用撮像素子32A、32Bが用いられる場合にはそれらの特性を揃えるための調整が必要となる。ここで、各AF用撮像素子32A、32Bの特性を揃えるための調整方法の一例として、白チャートを被写体として撮影したときに光量に応じた焦点評価値が撮像素子間で一致するように、各AF用撮像素子32A、32Bのゲイン調整を行う方法について説明する。
図6は、光量に応じた焦点評価値が一致するように調整が行われた後の各AF用撮像素子32A、32Bの特性(光量−焦点評価値特性;白チャート特性)の一例を示したグラフである。同図において、実線はAF用撮像素子32A、破線はAF用撮像素子32Bの白チャート特性を示したグラフであり、各グラフはそれぞれ、焦点評価値が光量に比例して増加する部分に相当する傾き直線(横軸に対して斜めの直線)と、所定の光量のときに焦点評価値が最大値から0に急落する部分に相当する垂直直線(横軸に対して垂直な直線)とからなる三角状の山型グラフとなっている。このグラフにおいて垂直直線が位置するところの光量(LA、LB)は、撮像素子から得られる映像信号(輝度信号)が飽和状態となって焦点評価値の算出ができなくなるときの光量を示しており、本明細書ではそのときの光量を飽和光量という。尚、ゲイン調整が行われる前の各AF用撮像素子32A、32Bの特性は図示を省略したが、同一光量のときの焦点評価値は撮像素子間で異なっており(即ち、グラフの傾き直線は一致しておらず)、本例ではAF用撮像素子32Aに比べてAF用撮像素子32Bの焦点評価値が小さくなっているものとする。また、本調整は、各AF用撮像素子32A、32Bが同一の焦点距離(フォーカス位置)に設定されている状態で行われるものとする。
本調整方法によれば、各撮像素子32A、32Bから得られる映像信号に含まれるノイズレベルが等しくなるように調整を行うことができる。図7は通常の被写体を撮影した場合に各AF用撮像素子32A、32Bから得られる映像信号の一例を示した図であり、左側パルス80AはAF用撮像素子32Aから得られる映像信号、右側パルス80BはAF用撮像素子32Bから得られる映像信号であり、符号82A、82Bは各映像信号に含まれるノイズ成分を表わしている。同図に示すように、本調整が行われた場合、各映像信号80A、80Bに含まれるノイズ成分82A、82Bの量(振幅)は等しくなる。
しかしながら、上述したように各撮像素子32A、32Bから求められる焦点評価値が撮像素子間で一致するようにゲイン調整を行った場合には、各撮像素子32A、32Bの飽和光量LA、LBを一致させることはできず、各AF用撮像素子32A、32Bの特性を完全に揃えることは困難である。
図6に示した例では、AF用撮像素子32Aの飽和光量LAがAF用撮像素子32Bの飽和光量LBよりも小さく(LA<LB)、AF用撮像素子32Aの方が先に飽和状態となることを示している。このようにAF用撮像素子32A、32Bの飽和光量に差があると、同一光量で撮影を行った場合でも入射する光量が撮像素子間で異なり、図7に示した映像信号80A、80Bのように、各AF用撮像素子32A、32Bから得られる映像信号のレベルに差が出てきてしまう。その結果、各AF用撮像素子32A、32Bから求められる焦点評価値は、図5に示した曲線A、Bのように大きさが異なってしまい、合焦精度の低下を招いてしまう要因となる。
次に、各AF用撮像素子32A、32Bの特性を揃えるための他の調整方法として、白チャートを被写体として撮影したときに各AF用撮像素子32A、32Bの飽和光量LA、LBが撮像素子間で一致するように、各AF用撮像素子32A、32Bのゲイン調整を行う方法について説明する。
図8は、各AF用撮像素子32A、32Bの飽和光量LA、LBが一致するように調整が行われた後の各AF用撮像素子32A、32Bの特性(光量−焦点評価値特性;白チャート特性)の一例を示したグラフである。同図に示すように、本調整方法では、各AF用撮像素子32A、32Bの白チャート特性を示すグラフの垂直直線(横軸に垂直な直線)が一致するように調整が行われる。
本調整方法によれば、図8に示すように、各AF用撮像素子32A、32Bの飽和光量LA、LBが異なることによって生じる不具合を回避できるものの、光量に応じた焦点評価値を撮像素子間で一致させることができず、しかも焦点評価値の差分が光量に応じて変化するため、各AF用撮像素子32A、32Bの特性を完全に揃えることは困難である。
例えば、特定の被写体を撮影したときに得られる焦点評価値のピークが撮像素子間で揃うようにあらかじめ調整されている場合には、例えば図9に示すように各AF用撮像素子32A、32Bから得られた映像信号80A′、80B′のレベルが一致して、図4に示したように同じ大きさの曲線A、Bが得られる場合がある。しかし、それは特定の撮影条件に限られたものであり、光量の変化によって映像信号80A′、80B′に含まれるノイズ成分82A′、82B′の量(振幅)が変化すると、映像信号80A′、80B′のレベルは一致しなくなり、図5に示したように大きさの異なる曲線A、Bが得られるようになる。その結果、合焦精度の低下を招いてしまうことになる。特に高輝度被写体を撮影した場合には、各AF用撮像素子32A、32Bから求められる焦点評価値の差は大きく、その問題はより顕著となる。
そこで本実施の形態のオートフォーカスシステムでは、各撮像素子32A、32Bの特性を揃えるための調整方法として、白チャートを被写体として撮影した場合に各AF用撮像素子32A、32Bの飽和光量LA、LBが撮像素子間で一致するように各AF用撮像素子32A、32Bのゲイン調整を行う工程(ゲイン調整工程)を行った後(図8参照)、光量に応じた焦点評価値が撮像素子間で一致するように補正処理を行う工程(補正処理工程)を行うようにする。
この補正処理工程では、各AF用撮像素子32A、32Bから得られる焦点評価値のうち、いずれか一方又は両方の焦点評価値に対して、所定の補正関数f(x)から求められる補正値(焦点評価値の差分に相当)を加算することによって、同一光量のときには同一焦点評価値となるように補正処理を行う。尚、光量に応じて変動するAFエリア内の平均輝度が変数xとして用いられる。また、両方の焦点評価値に対して補正処理を行う場合には、各AF用撮像素子32A、32Bにそれぞれ対応した複数の補正関数fa(x)、fb(x)が用いられる。
図10は、図8に示したグラフの一部を抜粋した図であり、傾き直線90A、90Bは、それぞれAF用撮像素子32A、32Bの白チャート特性を示すグラフの傾き直線に相当するものである。同図に示した例では、各AF用撮像素子32A、32Bから得られる焦点評価値の差分が光量に比例する部分axと固定値部分bとからなり、この場合における補正関数f(x)は、これらの和ax+bにAFエリア内の画素数Nを乗じて得られるN(ax+b)によって表現することができる(即ち、f(x)=N(ax+b))。尚、補正係数a、bは、AF用撮像素子32A、32Bとして用いられる撮像素子の組み合わせによって個々に決められる値であり、ゲイン調整後の特性に応じて最適な値が適宜設定される。また、補正関数f(x)は上述した例に限定されず、各AF用撮像素子32A、32Bから得られる焦点評価値の差分に対応したものであればよい。
図11は、補正処理工程において焦点評価値が補正されるプロセスを簡略的に示した図である。同図に示すように、補正処理工程では、最初にAFエリア内の平均輝度(1画素あたりの輝度)xが算出される。そして平均輝度xに補正係数aを乗じた後、さらに補正係数bを加算して、1画素あたりの補正値ax+bを得る。さらに1画素あたりの補正値ax+bにAFエリア内の画素数Nを乗じることによって、焦点評価値に加算される補正値N(ax+b)が求められる。そして補正対象となる焦点評価値に当該補正値N(ax+b)を加算することによって、補正後の焦点評価値を算出することができる。
次に、CPU10の具体的な処理手順について図12のフローチャートを用いて説明する。図12のフローチャートに示すように、まずCPU10は、AF回路30からchAとchBの焦点評価値E1、E2を取得すると(ステップS10)、AFエリア内の平均輝度X1、X2を求める(ステップS12)。続いて、焦点評価値E1、E2を補正するための補正係数a1、b1、a2、b2を取得する(ステップS14)。各補正係数a1、b1、a2、b2は、上述した補正係数a、bに相当するものであり、図1のメモリ22にあらかじめ記憶されている。CPU10は、メモリ22にアクセスすることによって、これらの補正係数a1、b1、a2、b2を取得する。
次に、各焦点評価値E1、E2を以下の式に従って補正後の焦点評価値E1’、E2’をそれぞれ算出する(ステップS16)。
E1’=E1+N(a1×X1+b1)
E2’=E1+N(a2×X2+b2)
そしてCPU10は、上記のようにして求められた補正後の焦点評価値E1’、E2’に基づいて光路長差によるピント調整を行う。
以上説明したように、本実施の形態によれば、製造出荷される前の調整段階において、各AF用撮像素子32A、32Bの飽和光量LA、LBが一致するようにゲイン調整を行うだけでなく、光量に応じた焦点評価値が一致するように補正処理を行うようにしたので、各AF用撮像素子32A、32Bの特性を完全に揃えることが可能となる。その結果、光路長差方式による焦点検出を安定して高精度に行うことができるようになる。