JP5473359B2 - 高強度リンクチェーンの製造方法 - Google Patents
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上記要求に対応すべく従来より様々な特性向上のための開発がなされている。一般的には、リンクチェーンの高強度化のためにはリンクチェーンの素材となる鋼材の化学成分、特に炭素量を増加させることが有効な手段とされているが、反面、耐靭性及び耐遅れ破壊は低下し、またリンクチェーンの製造過程において十分な曲げ性或いは溶接性を確保することは困難であった。そのため、低炭素(C:0.24%)の鋼素材を用いてリンクチェーンを製造していたが、丸棒試験片にて一般的な焼入れ・焼戻しの熱処理(920℃×15分→水冷→200℃×60分)により金属組織として焼戻しマルテンサイト組織を得た場合、その材料の機械的特性としては、硬さ(HRC):43〜44、破断応力:1500〜1510N/mm2、破断全伸び10〜11%、シャルピー衝撃値27〜52Jという結果が得られている。このような丸棒試験片での特性が得られる材料と熱処理の組み合わせにおいて、破断応力:1000 N/mm2以上、破断全伸び:20%以上を有するリンクチェーンが製造されているのが一般的技術である。
高強度が要求されるボルト、バネの分野においても、例えば、特許文献1(特開2006−233326号公報)で開示されているように、C:0.20〜0.60%の素材を用いてオーステナイト結晶粒の成長を招かない(Ar 3 変態点+100℃)以下の温度に急速加熱し、3℃/秒以上の平均冷却速度で(Ms点−50℃)以上、Bs点以下の温度で冷却し、この温度域で1〜60分間加熱保持することで、全組織に対する面積率で残留オーステナイトが1%以上、引張強度が1180 N/mm2以上の特性を有する耐水素脆化特性に優れた高強度ボルトが得られている。
また、同様に、高強度が要求されるバネの分野においても、例えば、特許文献2(特開2007−100209号公報)で開示されているように、C:0.20〜0.60%の素材を用いてオーステナイト結晶粒の成長を招かない(Ar 3 変態点+100℃)以下の温度に急速加熱し、3℃/秒以上の平均冷却速度で(Ms点−50℃)以上、Bs点以下の温度で冷却し、この温度域で1〜30分間加熱保持することで、全組織に対する面積率で残留オーステナイトが1%以上、引張強度が1860 N/mm2以上の特性を有する耐水素脆化特性に優れた高強度ボルトが得られている。
上述した従来のリンクチェーン用鋼及び熱処理法では、丸棒試験片強度で1450〜1550 N/mm2 (チェーン強度換算で1000〜1110 N/mm2。なお、チェーン換算強度は丸棒試験片の引張強度の70%である。)が限界であり、更なるチェーンの高強度化、高靭性化、高い耐遅れ破壊特性を実現するためには、上述の従来鋼、熱処理法では不可能である。また、上述した高強度ボルト用鋼の技術を用いて残留オーステナイトを増加させて高い耐遅れ破壊特性を達成することは可能であっても、強度1860 N/mm2 以上の場合、−40℃でのシャルピー衝撃値42Jを実現すること、及びチェーンに加工した場合の溶接性を確保することは、上述した特許文献2,3に記載に鋼成分及び熱処理法をもってしても本発明が目的とするような、引張強度が丸棒試験片にて1650MPa以上(チェーン強度換算で1155MPa以上)の高強度域にて、強度ー延性バランスに優れ、耐衝撃特性、耐水素脆性特性に優れた高強度リンクチェーンを提供することは困難であると考えられる。
(1)質量%で、C:0.15〜0.40%,Si:0.5〜3.0%,Mn:0.5〜3.0%,Al:0.5%以下,P:0.05%以下,S:0.05%以下,
Mo:0.5%以下,Cr:0.4〜2.0%,Ni:0.4〜2.5%、
Nb:0.1%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなるリンクチェーンを、A3変態点+100℃の温度以下に1〜60分間加熱保持後、1℃/秒以上の冷却速度でMf点以下、又は常温まで冷却する焼入れ処理を少なくとも1回以上行った後、Mf点とMs点の間の温度に10〜240分間加熱保持する炭素濃化処理することにより、該リンクチェーンの鋼組織を、体積率で、残留オーステナイトを1%以上20%以下、残留オーステナイト中のC濃度を0.3〜1.6%からなる組織とすることを特徴とする引張強度1650MPa以上を有するリンクチェーンとすることを特徴とする高強度リンクチェーンの製造方法。
先ず、リンクチェーンの素材となる鋼の化学成分組成について説明する。
Cは、1650MPa以上(チェーン強度換算で1155MPa以上)の高強度を確保し、かつ必要量の残留オーステナイトを確保するために必要な元素である。特にオーステナイト相中に十分なC量を含有させて室温で所望のオーステナイト相を残留させるためにはCは0.15%以上必要である。一方、過剰のCの含有は靭性を低下させ、かつ耐水素脆化特性が劣化するので上限を0.40%とする。Cの好ましい範囲は0.20〜0.35%である。
Siは本発明にとって重要な元素であり、従来の低Siのリンクチェーン素材とは異なり高Siとした。その理由は、残留オーステナイトが分解して炭化物が生成するのを効果的に抑制する重要な元素である。これらの効果を有効に発現させるためには0.5%以上含有させることが必要である。しかし過剰なSiの添加は靭性を低下させ、かつ耐水素脆化特性が劣化するので、上限を3.0%とした。Siの好ましい範囲は1.2〜2.5%である。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、所望の残留オーステナイトを得るのに必要な元素で、この効果を発揮させるためには0.5%以上必要である。しかし、過剰なMn添加は偏析が顕著となり加工性が劣化するため上限を3.0%とした。Mnの好ましい範囲は1.2〜2.5%である。
Alは脱酸のために必要な元素であり、かつ耐水素脆化特性向上に寄与する元素でもある。この耐水素脆化特性に関しては表面にAlが濃化することで鋼中への水素に侵入を阻止しうることや、鋼中での水素の拡散速度を低下させて水素の移動を遅らせ、水素脆性が起こりにくいと考えられる。また、Al添加によりラス状残留オーステナイトの安定性が向上することも耐水素脆化特性向上に寄与していると考えられる。これらの効果を発現させるためにはAlは0.01%以上必要であり、好ましくは0.02%以上とする。しかし、アルミナ等の介在物の増加、巨大化を抑制して加工性を確保し、微細な残留オーステナイトの生成確保、Al含有介在物を基点とする腐食の抑制や、製造上のコスト増大の抑制を図るには上限を0.5%とすることが好ましい。更に、Al含有量が増加すると、アルミナ等の介在物が増加して遅れ破壊特性が劣化するという問題もあるため、このアルミナ等の介在物を十分抑制して遅れ破壊特性に優れたリンクチェーンとするには上限を0.5%とすることが好ましい。
Pは、粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であるため、低い方が好ましく、その上限値を0.05%とする。好ましくは0.01%以下とする。
Sは、腐食環境下で鋼の水素吸収を助長する元素であり、低い方が望ましく、その上限を0.02%とする。好ましくは0.01%以下である。
Moは、オーステナイトを安定化させて残留オーステナイトを確保し、水素侵入を抑制して耐水素脆化特性を向上させ、かつ焼入れ性を高める効果がある。また、粒界を強化して水素脆性の発生を抑制する効果も有する。これらの効果を発揮させるには0.01%以上0.5%以下添加する必要がある。
Crは、変形能を殆ど損なうことなく焼入れ性を高めて高強度を容易に達成できる有用な元素である。この効果を発揮させるためには0.4%以上添加する必要があるが、過剰な添加はセメンタイトの生成を誘発し、残留オーステナイトが残りにくくなるので上限を2.0%とした。好ましくは0.5〜1.5%である。
Niは、靭性特性を向上させるとともに、水素脆化の原因となる水素の発生を抑制し、発生した水素のリンクチェーンへの侵入を抑制しうる。また、Niは、大気中で生成する錆の中でも熱力学的に安定で保護性があるといわれている酸化鉄:α―FeOOHの生成を促進させる効果をも有しており、この錆の生成促進を図ることで発生した水素のリンクチェーンへの侵入を抑制でき、過酷な腐食環境下でも耐水素脆化特性を高めることができる。これらの効果を十分に発揮させるためには0.4%以上2.5%以下の添加が必要である。好ましくは1.5%〜2.5%である。
次に本発明によるリンクチェーンの鋼組織について説明する。
そこで、本発明者らは、リンクチェーンの高強度でありながら、耐水素脆化特性(遅れ破壊性)を実現するには鋼組織を最適化する必要があることを見出した。即ち、粒界破壊の起点を減少させ耐水素脆化特性を高めるには、リンクチェーンを構成する鋼の母相をマルテンサイトをベースに、適度な残留オーステナイトを確保し、この組織中に炭素を濃化させ、しかも少量のベイニティックフェライトを存在させることで粒界破壊の起点となる炭化物の生成を防止できることが判明した。本発明においては、鋼組織として後述する炭素濃化処理で得られた残留オーステナイトを1%以上20%以下、残留オーステナイト中のC濃度を0.3〜1.6%含有し、さらに、好ましくは、ベイニティックフェライトを1%以上、炭素濃化処理マルテンサイトを体積率で80〜98%含有するものである。
残留オーステナイトは全伸びの向上に加え、耐水素脆化特性の向上にも寄与する組織であるため1%以上、好ましくは2%以上存在させることが重要である。この残留オーステナイトが多量になると所望の高強度が確保できなくなるため上限を20%とする。また、この残留オーステナイトの安定性の観点から残留オーステナイト中のC濃度を0.3〜1.6%、好ましくは0.35〜1.6%とすることで伸びなどを有効に高めることが可能となる。なお、残留オーステナイト中のC濃度は高い方が望ましいが、操業上調整可能な上限は1.6%である。
本発明で使用する炭素濃度Cγは、
aγ=3.5780+0.0330×(%Cγ)+0.00095×(%Mnγ)−0.0002×(%Niγ)+0.0006×(%Crγ)+0.0220×(%Nγ)+0.0056×(%Alγ)−0.0004×(%Coγ)+0.0015×(%Cuγ)+0.0031×(%Moγ)+0.0051×(%Nbγ)+0.0039×(%Tiγ)+0.0018×(%Vγ)+0.0018×(%Wγ)
上記式より算出する。
ベイニティックフェライトは硬質であり、高強度が得られ易く、母相の転位密度が高く、この転位上に水素が多数トラップされる結果、多量の水素を吸蔵できるという利点があり、体積率で1%以上の含有が必要である。このベイニティックフェライトは板状のフェライトであって転位密度が高い下部組織である。
次に本発明によるリンクチェーンの製造方法について説明する。
比較材として従来から用いられている表3に記載のリンクチェーン用鋼の成分組成を用いて、従来の熱処理法(920℃加熱―15分間保持―常温まで水冷―200℃加熱―60分間保持―冷却)にて製造したリンクチェーン用鋼の特性を表4に示した。
表2から分かるように、本発明によるリンクチェーン用鋼は1650MPa以上(チェーン強度換算で1155MPa以上)の高強度を示し、かつ試験温度‐40℃にてシャルピー衝撃値42J以上の高靭性が得られた。また残留オーステナイト量が4vol%以上で、しかもこの残留オーステナイト中の炭素濃化量も0.37%以上となり、濃化が進行していることが分かる。一方、従来の成分組成で従来の熱処理条件で製造した比較材は表4に示すように、破断応力、破断全伸び、シャルピー衝撃値、残留オーステナイト量とも低いレベルにあることが分かる。
Claims (1)
- 質量%で、C:0.15〜0.40%,Si:0.5〜3.0%,Mn:0.5〜3.0%,Al:0.5%以下,P:0.05%以下,S:0.05%以下,
Mo:0.5%以下,Cr:0.4〜2.0%,Ni:0.4〜2.5%
Nb:0.1%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなるリンクチェーンを、A3変態点+100℃の温度以下に1〜60分間加熱保持後、1℃/秒以上の冷却速度でMf点以下、又は常温まで冷却する焼入れ処理を少なくとも1回以上行った後、Mf点とMs点の間の温度に10〜240分間加熱保持する炭素濃化処理することにより、該リンクチェーンの鋼組織として鋼中に、体積率で、残留オーステナイトを1%以上20%以下、残留オーステナイト中のC濃度を0.3〜1.6%を含む引張強度1650MPa以上を有するリンクチェーンとすることを特徴とする高強度リンクチェーンの製造方法。
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