振動の主な発生源は、シリンダ内の急激な圧力膨張によるピストンなどの慣性力である。そのため、上記で述べたような従来の構造では、カウンタウエイトを用いてピストンの往復運動による慣性力を相殺しているが、ピストンの移動方向に対する垂直方向には、カウンタウエイトの慣性力が働くことから、カウンタウエイト自身が振動の発生源となってしまう。ピストンの移動方向と垂直方向の慣性力のバランスを考慮して、カウンタウエイトを決定しているため、シリンダ内の急激な圧力膨張によるピストンの慣性力を相殺するには限界が生じてしまう。
また、ピストンの移動方向に対してカウンタウエイトの慣性力は、略正弦波となるため、上死点と下死点で最大の効力を発揮する。シリンダ内の圧力が最大となるのは上死点の直前であり、効率よくシリンダ内の急激な圧力膨張によるピストンの推力(慣性力)を相殺できていない。
そこで、本発明は、ピストンの上下運動と相対的に連動する動吸振器を装備させ、ピストンの上死点付近で発生するシリンダ内の急激な圧力膨張を、ピストン位置によって動吸振器を制御することでエンジン工具の制振性を向上させ、作業者に伝わる振動を低減することができ、操作性および作業効率を最大限に発揮させることができるエンジン工具を提供することを目的とする。
上記目的は、上死点と下死点間で往復動するピストンと、該ピストンの往復動を案内するシリンダと、前記ピストンに接続されるクランクと、該クランクを収納するクランク室と、前記ピストンの往復動と逆位相で駆動するウェイトと該ウェイトに接続された弾性体とを有する動吸振器と、該動吸振器を収容する収容部を有し、前記ピストンが上死点近傍に位置する際に前記クランク室と前記収容部を連通する連通部を備えることにより達成することができる。
このような構成とすることにより、シリンダ内の急激な圧力膨張により生じる振動を動吸振器により効果的に相殺することができ、作業者に伝わる振動を低減することができる。
また、前記収容部は、前記ウェイトにより、前記ウェイトの上側に位置する第1空気室と、前記ウェイトの下側に位置する第2空気室に分割され、前記連通部は該第1空気室と連通することが望ましい。
このような構成とすることにより、ピストンの上昇に伴いウェイトが第2空気室側に位置するときに、連通部によってクランク室と第2空気室がつながることにより、ウェイトを急激に上昇させることができるため、最も大きな振動を確実に低減することができる。
また、前記クランク室と前記第2空気室とを接続する第1連通路を有し、前記ピストンの往復動によって生じる前記クランク室内の圧力変動に応じて、前記ウェイトを前記収容部内で往復動させることが好ましい。
このような構成とすることによって、ピストンの往復動に連動してウェイトをピストンと逆位相で往復動できるため、振動を効果的に低減することができる。
また、前記ピストンが下死点側に移動することによって前記ウェイトが前記収容部内で上昇した際に、前記第2空気室と外部と連通する第2連通路を有することが好ましい。
このような構成とすることによって、ブローバイガスを第2連通路を介して排出することができる。
また、オイルを収容するオイル室を更に有し、前記ピストンが上死点近傍に位置することによって前記オイル室と前記第1空気室とを連通する第3連通路を有することが好ましい。
このような構成とすることによって、オイルを空気室に供給することができるため、ウェイトの潤滑を行うことができる。
また、前記第3連通路と前記連通部はピストンが上死点近傍に位置する際に連通することが好ましい。
このような構成とすることによって、クランク室の圧力変動を利用して、オイルがクランク室内に吸い込まれるため、ピストン及びクランクの潤滑を行うことができる。
また、前記ウエイトの位置によって前記第1空気室に負圧が生じた際に、前記第3連通路を介して前記オイル室の前記オイルが前記第1空気室に吸入されると共に、前記ピストンの位置によって前記クランク室の負圧が生じた際に、前記オイルを前記クランク室に吸入することが好ましい。
このような構成とすることによって、オイルを第1空気室及びクランク室に吸い込むことができるため、ウェイト、ピストン、クランク等の駆動部の潤滑を行うことができる。
また、前記第1空気室と気化器のパルス室が第4連通路で連結されており、前記ウェイトの往復動によって生じる前記第1空気室の圧力変動によって、前記パルス室がパルス運動することが好ましい。
このような構成とすることによって、ピストンの往復動に連動して、簡単な構成で燃料を供給することができる。
また、前記クランクを円形状とし、前記クランクの中心にクランク軸を配置することが好ましい。
このような構成とすることによって、クランクの回転運動によってピストンの往復方向と直交する方向に慣性力を生じることがないため、ピストンの往復動により生じる振動をウェイトによって相殺することができる。
また、前記ピストンと前記動吸振器は前記ピストンの往復方向に対して前記ピストンの径方向にずれて配置されると共に、前記動吸振器を前記ピストンに対して対称に2つ設けることが好ましい。
このような構成とすることによって、ピストンとウェイトの配置にかかわらずピストンの往復動により生じる振動をウェイトによって相殺することができる。
本発明によれば、ピストンの往復動によって生じる振動を低減することができ、操作性および作業効率を最大限に発揮させることができる。
本発明となるエンジン工具の実施の形態について図1乃至図9を用いて説明する。
まず、本実施形態において4サイクルエンジンを搭載したエンジン工具について説明する。図1はエンジン工具となるチェンソー1である。チェンソー1は、エンジン2が配置されるエンジンケース3と、エンジンケース3から後方(図中右側)に突出し略D形状のリアハンドル4と、リアハンドル4と図示しない連結部で連結されエンジンケース3を囲むように略C形状をしたフロントハンドル5と、エンジン2の動力が伝達されるソーチェン7と、ソーチェン7を案内する平板状のガイドバー8と、フロントハンドル5の前方側(ガイドバー側)であってエンジンケース3の上方に設けられたハンドガード6と、から主に構成されている。リアハンドル4とフロントハンドル5は図示しない連結部で連結されたユニットとして構成されている。また、エンジンケース3とハンドルユニットは、エンジン駆動により発生する振動がハンドルユニットに伝達することを抑制するための図示しない防振部材、具体的にはコイルスプリングやゴムによって接続されている。
チェンソー1の動作としては、作業者が、エンジン2を起動させ、リアハンドル4及びフロントハンドル5を把持する。リアハンドル4に設けられた図示しないスロットルレバーを操作することにより、エンジン2の動力がソーチェン7に伝達され、ソーチェン7がガイドバー8に案内されて回転することで切断作業を行うことができる。
次に図2を用いてエンジン2の動作を説明する。図2はエンジン2の縦断面側面図である。ピストン9がシリンダ17に案内されて上死点(図中上方)から下死点(図中下方)側に下降していくと、インテイクバルブ10が開き、燃焼室11の体積の増加に伴い、燃焼室11が負圧となることで大気との圧力差によって吸気ポート12より混合ガスが吸入される。ピストン9が下死点から上昇していくことでインテイクバルブ10を閉じ、燃焼室11が圧縮され、点火プラグ13の火花によって混合ガスが燃焼・爆発されピストン9に推力が発生する。混合ガスの燃焼・爆発により、ピストン9が上死点から下死点に下降し、その後、下死点から上死点に上昇する際に、エキゾーストバルブ14が開き、燃焼された排ガスが排気ポート15から排出される。このように、燃焼室11内で行われる混合ガスの吸気、圧縮、燃焼、排気の工程を繰り返すことで、クランク軸16の出力側に接続された作業装置(ソーチェン7)を駆動させている。
次に、本発明となるエンジン工具の振動低減構造について、図3乃至図6を用いて説明する。図3乃至図6はエンジン2の縦断面正面図であり、ピストン9がシリンダ17に対して異なる位置に位置する状態を示している。エンジン2は、シリンダ17の長手方向に沿って上下動するピストン9と、ピストン9の上面とシリンダ17の上面により形成される燃焼室11と、燃焼室11内に臨み燃焼室11内に導入された混合ガスを燃焼・爆発させる点火プラグ13とを備える。ピストン9はコンロッド19を介してクランク20とピストンピン21で接続されている。クランク20はクランク室18内に配置される。
ここで、クランク20について説明する。従来のクランクは、クランク軸の中心から偏心している頂点とクランク軸に対して反頂点側に位置するカウンタウェイトを有した略扇形状をしており、頂点付近でピストンピンを介してコンロッドと接続されている。クランクは、ピストンの往復移動に対して逆位相、すなわちピストンが下降したらカウンタウェイトがクランク軸を中心に回転して上昇し、ピストンが上昇したらカウンタウェイトが下降するように構成されることで、ピストンの移動に伴って発生する振動をカウンタウェイトの移動により相殺することで低減している。しかしながら、従来の扇形状のクランクでは、カウンタウェイトがクランク軸と偏心して設けられているため、完全に振動を防止することはできず、カウンタウェイト自身が振動の発生源となってしまう。
図8及び図9は、従来のクランクを用いた場合のピストンの往復動により発生する振動(慣性力)の関係を示す図である。図8は、ピストンの移動方向をX方向とした場合のピストンとカウンタウエイト(クランク)の慣性力の関係を示し、ピストン9のX方向に発生するピストンの慣性力A、X方向に発生するカウンタウェイト(クランク)の慣性力B、及びピストン慣性力Aとカウンタウェイト慣性力Bの合成力Cの関係を示す。図9は、ピストンの往復方向と垂直な方向であって、クランクの回転面に平行な方向をY方向とした場合のカウンタウェイトの慣性力Dを示す。なお、図8及び図9において、縦軸は慣性力を表し、横軸はピストンの移動量(クランク角度)を表す。
図8において、ピストンの移動(慣性力A)と逆位相でカウンタウェイトが移動(慣性力B)することで、上死点及び下死点の近傍、例えば、180、360度付近での慣性力Aと慣性力Bの合成力Cを小さくすることで、ピストンの往復動により生じる振動をカウンタウェイトにより低減している。
一方、図9に示すように、扇形状のクランクの場合、カウンタウエイトのアンバランスによってカウンタウェイトが回転することにより、X方向に加えてY方向にも慣性力Dが生じるため、ピストンの慣性力をカウンタウェイトの慣性力で完全に相殺することはできず、振動の抑制にが限界がある。図8の合成力Cを小さくしX方向の振動を抑制しようとすると、カウンタウェイトのY方向の慣性力D(図9)が大きくなってしまい、逆に、慣性力Dを小さくすると合成力Cが大きくなってしまうため、X方向とY方向の両方の慣性力がバランス良くなるように、ピストンとカウンタウェイトの慣性力をバランスよく相殺するようにしている。
また、図8及び図9に示すように、ピストンの移動方向に対してカウンタウエイトの慣性力Bは略正弦波となるため、上死点と下死点で最大の効力を発揮する。シリンダ内の圧力が最大となるのは上死点(例えば図8の360度)の直前であり、効率よくシリンダ内の急激な圧力膨張によるピストンの推力(慣性力)を相殺できていない。
これに対し、本発明のクランク20は、円形状をしており、ピストン9が移動するとクランク軸16を中心に回転するように構成されている。すなわち、本発明のクランク20は、従来の構成のように、ピストン9の移動に伴う振動(慣性力)を相殺するために設けられたものではなく、ピストン9の往復動をクランク軸16の回転運動に変換するために設けられている。クランク20を円形状とすることにより、クランクの形状によりアンバランスによって生じる振動(慣性力)をなくすことができる。従来のクランクの形状(扇形状)により行っていた、ピストン9の往復動により生じる振動(慣性力)を相殺する機能を、クランクではなく後述する動吸振器に持たせている。動吸振器は、ピストン9の移動方向(X方向)のみに動くように構成することにより、Y方向の振動を発生することがなく、ピストン9の往復動により生じる振動を吸収することができ、振動を確実に抑制することができる。
また、本発明では、シリンダ内の圧力が最大となるピストン上死点付近で動吸振器のウェイトを急激に上昇させることにより効率よく慣性力を相殺することができるため、振動の大幅な低減効果を奏し得ることができる。詳細については後述する。
クランク室18の両側面側(図3中のクランク室18の左右側)のクランクケース18aには空気室(収納部)22、23が形成されており、この空気室内に本発明を構成する動吸振器が設けられている。空気室は、後述のウェイト24によって図中上下に分割され、ウェイト24の上側に位置する第1空気室22と、ウェイト24の下側に位置する第2空気室23から構成される。第1及び第2空気室22、23はウェイト24によって分割されており第1空気室22と第2空気室23とは通常時には連通されない。第2空気室23とクランク室18は連通路(第1連通路)34によって連結されている。動吸振器は、クランク室18aにおいてピストン9を挟んで左右対称に2つ設けられている。動吸振器は、ウェイト24と、一端がウェイト24の突起部24aに接続され、他端が空気室の内壁に接続される弾性体であるバネ25a、25bから構成される。バネ25a、25bはウェイト24の上下に設けられた突起部24aに夫々圧入されて接続されている。
クランク室18の下部にはオイル26を収容するオイル室27が形成されている。オイル室27には、一端がオイル26内に位置し、他端が夫々2つある空気室22、23の一方(本実施の形態では、ピストン9の左側に位置する空気室)と接続された第1通路(第3連通路)28がつながっている。また、2つある空気室22、23の他方(ピストン9の右側に位置する空気室)には、一端が空気室内に開口し、他端が外気に連通している第2通路(第2連通路)29がつながっている。他方の空気室(ピストンの右側に位置する第1空気室22)の上端部には、気化器30のパルス室31とつながる連通路(第4連通路)33が接続されている。
図3に示すように、燃焼室11内の混合ガスが点火プラグ13によって点火・爆発されると、ピストン9はシリンダ17の長手方向に沿って下降する。ピストン9の下降によってクランク室18内の圧力が圧縮する際に、クランク室18は連通路34を介してウェイト24の下側に位置する第2空気室23と連通しているため、第2空気室23の空気も圧縮される。その結果、ウェイト24の上側に位置する第1空気室22より第2空気室23の体積変化が大きくなるため圧力が大きくなる。この圧力変動により、弾性体25でその上下を把持されているウエイト24がピストン9の移動と逆方向(上方)に移動し、ウエイト24の移動方向を保持しているウェイト24の上側に設けられた弾性体25aが圧縮される。そのため、ピストン9の下降によって発生したピストン9、ピストンピン21、コンロッド19の慣性力を相殺することが可能となり、振動を低減することができる。その際、気化器30のパルス室31は連通路33を介して第1空気室22と連通しているため、気化器30のパルス室31の圧力は、ウエイト24の空気室内での移動によってパルス運動すなわち圧力変動が起き、ポンプ・ダイヤフラム32が動作することにより燃料を気化器30に供給することができるように構成されている。
ここで、本発明では、動吸振器をピストン9の往復方向の延長上に配置せず、ピストン9から横方向にずらして配置している。動吸振器を1箇所にのみ設ける構成でも良いが、ピストン9に対して対象に2箇所設けることで、ピストン9とウェイト24の移動により発生するモーメンを相殺することができる。すなわち、一方のウェイト24により生じるモーメントを他方のウェイト24で相殺することもできるため、振動を更に低減することができる。また、ピストン9の往復方向延長上に動吸振器(ウェイト)を設けても良く、この場合、ピストン9とウェイト24のシリンダ17の径方向のずれがないため、モーメントが発生せず、1箇所のみで良いが、エンジン2のピストンの往復方向の寸法が大きくなってしまうことが考えられる。
次に、クランク室18内の圧力が最大となるピストン9の下死点付近では、図4に示すように、ピストン9の下降に伴いウェイト24が上昇するため、ウエイト24でシールされていた外気と連通しているブリーザ通気路(第2通路)29の開口部29aが開く。開口部29aによりブリーザ通気路29と第2空気室23とが連通し、燃焼によってピストン9から漏れたブローバイガスを外部に排出することができる。
空気室は、ウェイト24によって第1及び第2空気室22、23に分割されているが、ウェイト24の側方に位置するクランクケース18aの部分には、第1空気室22と第2空気室23を連通する通気溝35が形成されている。通気溝35は、ウェイト24の長手方向(移動方向)の寸法より長く形成されている。ウェイト24が上昇することによって、第1空気室22と第2空気室23が通気溝35によって連通する。
ウェイト24の上昇により、ブローバイバスが排出されると同時に通気溝35が開く。ウェイト24の上昇により第1空気室22が圧縮されるが、通気溝35が開くことにより、第1空気室22の圧縮された空気が通気溝35、第2空気室23、ブリーザ通気路29を介して外気とつながることで、第1空気22と第2空気室23の圧力差がなくなり、ウェイト24は弾性体25及びウェイト24の慣性によって上昇したする。
次に、図5に示すように、ピストン9の上昇に伴い、クランク室18内の圧力はどんどん負圧となっていくため、クランク室18と連通している第2空気室23の圧力も負圧になっていく。第2空気室23の圧力が第1空気室22より低下することで、ウエイト24はピストン9と逆方向すなわち図中下方向に移動し、ウエイト24の移動方向を保持している弾性体25bが圧縮され、ピストン9、ピストンピン21、コンロッド19の慣性力を相殺することが可能となり、振動を低減することができる。その際、気化器30のパルス室31は第1空気室22と連通路33で連通しているため、気化器30のパルス室31の圧力は、ウエイト24の移動によって圧力変動が起き、ポンプ・ダイヤフラム32が燃料を気化器30に供給することができる。
次に、ピストン9が上死点に移動する前において、燃焼室11の圧力が混合ガスの燃焼によって最大となり、ピストン9に最大の圧力が生じる。図6に示すように、この最大の圧力が生じる時に、ピストン9でシールされていた第1空気室22とクランク室18を連通する2つの通気穴(連通部)36が開かれることで、ウエイト24の降下に伴い、第1空気室22が負圧になっているクランク室18と同じ圧力になる。そのため、弾性体25bで保持されていたウエイト24は、弾性体25bの付勢力で一気に上昇する。混合ガスの爆発によってピストン9が下降するタイミング(ピストン9に生じる最大の圧力の瞬間)と、ウェイト24の急激な上昇のタイミングを合わせることで、ピストン9の下降により生じる慣性力をウェイト24の急激な上昇により相殺することができ、最大の圧力が生じた際の振動を確実に抑制することができる。なお、通気穴36は、ピストン9が上死点付近に位置するとき以外は、ピストン9によってシールされており、ピストン9に最大の圧力が加わった瞬間にウェイト24が急激に上昇できる、すなわち、空気室22とクランク室18を連通する位置に設けている。
図7は、ウェイト24の変位とクランク角度の関係を示す図である。横軸はピストン9(ウェイト24)の移動位置(クランク角度)、縦軸はウェイト24の変位を示し、縦軸のプラスはウェイト24が下降、マイナスは上昇を示している。横軸のBDCはピストン9の下死点、TDCは上死点を意味する。ピストン9が上死点(TDC)に移動する直前が燃焼室11の圧力が混合ガスの燃焼によって最大(振動が最大)になるが、図7に示すように、圧力が最大となる瞬間にウエイト24の急激な上昇のタイミングを一致させることにより、効果的に振動を抑制することができる。
一方、ピストン9の上昇に伴い、クランク室18、第2空気室23が負圧になりウエイト24が下降する。ウェイト24の下降により第1空気室22(ピストン9の左側の第1空気室22)が負圧になる。ピストン9が更に上昇し、ピストン9が上死点に移動する直前(ピストン9に最大の圧力が生じる時)に、ピストン9でシールされていた第1空気室22とクランク室18を連通する通気穴36が開かれると共に、ウェイト24の下降によりオイル通路28(第1連通)が開口部28aを介して第1空気室22と連通する。
ウェイト24が開口部28aより下降したときにオイル通路28(開口部28a)が開かれると同時にピストン9が上死点直前の位置になることによって通気穴36が開く。ピストン9の上昇及びウェイト24の下降によって、第1空気室22およびクランク室18の気圧は、オイル室27の圧力(大気圧)より低くなっているため、オイル室27とクランク室18及び第1空気室22の圧力差によって、ウェイト24が急激に上昇すると共に、オイル26がオイル室27からオイル通路28を介して第1空気室22に吸入され、その際、急激な圧力変化によりオイル26がミスト化される。更に、第1空気室22からクランク室18にオイル26が吸入されるときに、オイル26が更にミスト化され、クランク室18内に潤滑用のオイルを供給することができる。更に、クランク室18の右側に位置する第1空気室22にも通気穴36を通ってオイルが吸入されることになる。従って、クランク室18、2つの第1空気室22にオイルが供給されることにより、ピストン9、ウェイト24等にオイルを供給することができ、効果的にそれらの潤滑を行うことができる。ここで、オイル26の吸入に伴いオイル室27が負圧になることで、ウェイト24が上昇し開口部29aが開口した際に、ブリーザ通路29から外気の空気を取り込む構造が望ましい。
以上説明したように、クランク20、ピストンピン21、コンロッド19の回転運動分の等価質量を踏まえて、すなわちY方向の慣性力が生じないようにクランク軸16の重心をクランク20の中心に設けることで、ピストン9の移動方向(X方向)の慣性力をウェイト24により相殺することができ、クランク20の回転方向の振動を低減させることができる。特に、クランク20を円形状とし、その中心にクランク軸16の重心を設けたことにより、Y方向の慣性力をなくしながらX方向の慣性力をウェイト24によって相殺することができる。更に、ピストン9の両側にウェイト24を設けたことにより、ピストン9及びウェイト24の移動により生じるモーメントを抑制でき、確実に振動を低減することができる。更に、ピストン9に加わる圧力が最大となる瞬間すなわち振動が最大となる瞬間にウェイト24を急激に移動させることにより、効果的に振動を抑制することができると共に、オイルをクランク室18、空気室22に供給することができるため、振動を抑制しながらピストン9等の好適に潤滑することができる。
次に、本発明となるエンジン工具の第2の実施形態について図10乃至図13を用いて説明する。なお、第2の実施形態については、第1の実施形態と異なる点を説明する。
図10に示すように、クランクケース18aは、クランク室18と、クランク室18の下方に位置しクランク室18と連通部55を介して連通可能な第2クランク室54が形成されている。第2クランク室54には、連通部55を塞ぐシール部材50と、シール部材50を第2クランク室54内で回転支持する回転軸51が設けられている。シール部材50はクランク室18の圧力変動により、回転軸51を中心に回転するように設けられており、シール部材50の回転軸51に対する一方側で連通部55をシールすると共に、他方側には、一端がウェイト24に当接し、他端がシール部材50と当接する押し棒52が当接している。押し棒52はクランクケース18aに形成された貫通孔53を介して第2空気室23に延びている。なお貫通孔53は押し棒52によってシールされているため、第2空気室23と第2クランク室54は連通していない。
図10の状態からピストン9が下降すると図11、図12の状態となる。クランク室18内の圧力が上昇することにより、シール部材50が回転軸51を中心にして反時計回りに回転し、シール部材50による連通部55のシールが解除され、クランク室18と第2クランク室54が連通し、第2クランク室54がクランク室18と同じ圧力に達する。シール部材50の回転により、押し棒52が上方に押されることで、押し棒52及び弾性体25bによってウェイト24が上昇するため、ピストン9の振動をウェイト24で相殺することができる。なお、図12はピストン9が下死点に到達した状態を示す。
図12の状態からピストン9が上昇すると図13の状態となる。ピストン9の上昇により、クランク室18と第2クランク室54が負圧となりシール部材50は回転軸51を中心にして時計回りに回転して連通部55をシールすると共に、押し棒52がウェイト24から離れる。図13の状態から更にピストン9が上昇すると図10の状態になる。この状態において、ピストン9によってシールされていた通気穴36が開くため、第1空気室22が負圧になり、ウェイト24は一気に上昇する。このウエイト24の急激な上昇による慣性力とピストン9に生じる最大の圧力の瞬間を同一にすることで、ピストン9の下降移動により生じる慣性力をウェイト24の急激な上昇により相殺することができ、最大の圧力が生じた際の振動を確実に抑制することができる。更に、この時、オイル室27からオイル26がクランク室18及び第1空気室22に供給されるためピストン等の潤滑を効果的に行うことができる。なお、第1の実施形態と同様にピストン9の両側に動吸振器を設けることでより一層の振動低減効果を得ることができる。
次に、本発明となるエンジン工具の第3の実施形態について図14乃至図17を用いて説明する。図14に示すように、クランクケース18aは、上側の第1クランクケース18a1と、下側の第2クランクケース18a2の二分割構成である。第1クランクケース18a1には、第1空気室22、通気穴36が形成されると共にシリンダ17が取り付けられている。第2クランクケース18a2には、第2空気室23、動吸振器が取り付けられている。動吸振器は、ウェイト64と、ウェイト64を保持する板バネ60から構成されており、板バネ60は、板バネ60に設けた不図示の貫通孔を通してネジ61及び62により第2クランクケース18a2に取り付けられている。ネジ61及び62は、第1及び第2クランクケースによって形成された空間63に配置されている。ネジ61及び62の少なくとも一方の貫通孔は、ウェイト64が上下動した際に板バネ60が変形して動けるように板バネ60の長手方向に延びる長穴で構成されている。また、ウェイト64には、板バネ60により保持される保持部64aが形成されており、板バネ60の変形に応じた形状をしている。また、第2クランクケース18a2には、オイル通路28、ブリーザ通路29、オイル室27、連通路34が形成されている。
動吸振器はピストン9の両側面側のクランクケース18aに2つ設けられており、上記した第1及び第2の実施の形態と同様に動作する。図14の状態からピストン9が下降し図15の状態、更には図16の状態になると、クランク室18の圧力が上昇すると共に連通路34を介して第2空気室23の圧力も上昇するため、ウェイト64が上昇する。図16のピストン9が下死点の状態になると、ブリーザ通路29の開口部29aが開き、開口部29aによりブリーザ通気路29と第2空気室23とが連通し、燃焼によってピストン9から漏れたブローバイガスを外部に排出することができる。
図16の状態からピストン9が上昇し図17の状態になると、クランク室18の圧力が負圧になると共に第2空気室23も負圧になるため、ウェイト64が下降し開口部29aをシールする。ピストン9が更に上昇し図14の状態になると、ピストン9でシールされていた第1空気室22(シリンダの左側の空気室)とクランク室18を連通する通気穴36が開かれることで、ウエイト64の降下に伴い、第1空気室22が負圧になっているクランク室18と同じ圧力になる。そのため、ウエイト64は、板バネ60の付勢力で一気に上昇する。このウエイト64の急激な上昇による慣性力とピストン9に生じる最大の圧力の瞬間を同一にすることで、ピストン9の下降移動により生じる慣性力をウェイト64の急激な上昇により相殺することができ、最大の圧力が生じた際の振動を確実に抑制することができる。更に、オイル通路28、空間63、第1空気室22(ピストン9の左側)が連通すると共に、第1空気室22とクランク室18が通気穴36によってつながるため、圧力差によってオイル26が通気穴36からクランク室18及び第1空気室22(ピストン9の右側)に供給され、潤滑を好適に行うことができる。
以上、本発明によれば、ピストンの往復動により発生する慣性力(振動)を動吸振器により吸収することができるため、作業者に伝わる振動を極力抑制することができる。更に、ピストンに対して動吸振器を左右対称に2つ設けたことにより、ピストン及びウェイトによって生じるモーメントを相殺することができ、振動をより一層低減することができる。更に、慣性が最も大きいピストンの上死点直前において、ウェイトを一気に上昇させることができるため、ピストン移動時に発生する最大の圧力(慣性)を効果的に相殺することができる。更に、クランクにウェイトを設けず円形状としたため、ウェイトの移動による横方向の振動発生を防止することができる。更に、ポンプ等を用いることなく圧力変動によりオイルをクランク室や空気室に供給することができるため、簡単な構成でオイルを供給でき潤滑を好適に行うことができる。