JP5465091B2 - 燃料電池用セパレータの製造方法及び燃料電池用セパレータ - Google Patents

燃料電池用セパレータの製造方法及び燃料電池用セパレータ Download PDF

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Description

本発明は、燃料電池、特にリン酸形の燃料電池のセパレータの製造に好適な燃料電池用セパレータの製造方法及び燃料電池用セパレータに関するものである。
近年注目されている燃料電池は、水素と酸素との化学反応により生じるエネルギーを電力として取り出す装置で、窒素酸化物や硫黄酸化物の排出量が少なく、排出物の殆んどが水であり、発電効率が高いクリーンな発電システムであるという特徴を有している。この燃料電池は、使用される電解質の種類により、一般的な固体高分子形、古くから研究されているリン酸形、アルカリ形、溶融炭酸塩形、今後の開発が注目される固体酸化物形等に分類される。
これらの中でも、リン酸形(リン酸型ともいう)の燃料電池(PAFC)は、電力出力と排熱出力との比が1:1であるので、電力の他、排出熱をも利用可能なコージェネレーションとして提案されており、既にオフィスビル、ホテル、病院、工場等のコージェネレーションシステムとして実用化されている。具体的には、例えば90℃の高温水が冷暖房に使用され、50℃の温水が給湯予熱に使用されている。
このリン酸形の燃料電池は、電解質に高濃度のリン酸を使用して150〜200℃の温度で作動するが、リン酸が100℃以上で非常に強い縮合リン酸となり、200℃前後で殆んど全ての金属を腐食させる超酸となる関係上、構成部品である燃料電池用セパレータには、優れた電気的性質(導電性)や機械的性質(曲げ強度)の他、リン酸に対する高い耐腐食性や耐熱性が要求される。
この燃料電池用セパレータとしては、金属系、樹脂/導電性材料複合系、黒鉛系が提案され、実施されてきた。金属系の燃料電池用セパレータは、優れた電気的性質や機械的性質、耐熱性を有し、固体高分子形として使用することができるものの、リン酸に対する腐食性に問題が生じる。
樹脂/導電性材料複合系の燃料電池用セパレータは、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂をバインダー樹脂として使用し、このバインダー樹脂と、金属、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、炭素繊維等からなる導電性材料とを混合した成形材料の成形により製造されるセパレータである。
熱可塑性樹脂がバインダー樹脂の燃料電池用セパレータとしては、ポリプロピレン樹脂と導電性充填材とからなるセパレータ(特許文献1参照)、シンジオタクチックポリスチレン樹脂と黒鉛粉とからなる固体高分子形のセパレータ(特許文献2参照)、ポリアリーレンサルファイド及び又は液晶ポリマーである熱可塑性樹脂に黒鉛を添加した組成物からなるセパレータ(特許文献3参照)等があげられる。これに対し、熱硬化性樹脂がバインダー樹脂の燃料電池用セパレータとしては、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらの混合系に、粉状黒鉛を添加したセパレータが該当する(特許文献4参照)。
このような樹脂/導電性材料複合系の燃料電池用セパレータは、金属系と同様に固体高分子形として使用することができるものの、リン酸に対する腐食性や耐熱性に問題がある。そこで、リン酸形の燃料電池用セパレータは、リン酸に対する高い腐食性を有する黒鉛系が従来より実施されてきた。このリン酸形の燃料電池用セパレータは、黒鉛のシートがプレス成形された後、燃料と酸化剤とを供給したり、あるいは発電時に生成した生成水を排出する流路が溝形に切削加工されることにより製造される。
しかしながら、リン酸形の燃料電池用セパレータは、リン酸に対する腐食性を有するが、機械的性質が低いので、切削加工時やスタック組立時に破損するおそれがある。また、プレス成形後に複雑な流路が切削加工されるので、製造コストが高く、高価になるという問題がある。
これらの点に鑑み、係るリン酸形の燃料電池用セパレータとして、(1)フェノール樹脂及び膨張黒鉛を含有する成形体中の樹脂分の炭化により得られるセパレータ(特許文献5参照)、(2)鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、マグネシウム、これらを基とする合金、ステンレス鋼である基板上にクロムオキシカーバイト又はクロムオキシカーバイトを主成分とする皮膜を備えたセパレータ(特許文献6参照)が提示されている。
特開2006‐12798号公報 特開2006‐339069号公報 特開2006‐307017号公報 特許第3925806号公報 特開2001‐76739号公報 特開2006‐278040号公報
しかし、(1)の方法の場合には、フェノール樹脂及び膨張黒鉛を含有する組成物を一旦成形した後、成形体中の樹脂分を炭化させるため、200℃以上の高温で長時間加熱しなければならないので、製造工程の複雑化を招き、しかも、炭化処理中に成形体が反ったり、クラックが生じたり、破損するおそれがある。また、(2)の方法の場合には、基板上に皮膜を形成する特殊な装置を必要とするので、コストや価格の上昇を招くこととなる。さらに、皮膜に損傷や剥離が発生したときに基板がリン酸で腐食し、しかも、リン酸に対する高い腐食性を確認することもできない。
本発明は上記に鑑みなされたもので、燃料電池用セパレータに優れた電気的性質や機械的性質、リン酸に対する高い耐腐食性、及び耐熱性を簡易に付与することのできる燃料電池用セパレータの製造方法及び燃料電池用セパレータを提供することを目的としている。
本発明においては上記課題を解決するため、成形材料を使用した成形法により、曲げ強度が40MPa以上、電気的性質が体積抵抗値で10mΩ・cm以下の燃料電池用セパレータを製造する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
成形材料を、少なくともポリフェニルサルホン樹脂と炭素系の導電性材料とにより調製し、ポリフェニルサルホン樹脂の組成体積比率を10〜40体積%以下とするとともに、導電性材料の組成体積比率を60〜90体積%以下とすることを特徴としている。
なお、成形材料を粉体状とするとともに、導電性材料を黒鉛とし、この成形材料をポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度の金型に充填し、この金型を加熱加圧して燃料電池用セパレータを圧縮成形した後、金型を加圧冷却して燃料電池用セパレータを脱型することができる。
また、燃料電池用セパレータの表面性や体裁等を整えるため、ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とをポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度以上の温度で溶融混練して成形材料を調製することができる。
また、リン酸を用いて150〜200℃の温度で作動する燃料電池に使用されるリン酸形の燃料電池用セパレータを製造することができる。
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1、2、又は3記載の燃料電池用セパレータの製造方法により燃料電池用セパレータを製造することを特徴としている。
ここで、特許請求の範囲における燃料電池用セパレータは、リン酸形の他、固体高分子形として使用可能であるのが好ましい。また、長方形や正方形、矩形、多角形、星形等の形に形成することができる。燃料電池用セパレータの表裏面、表面、裏面には、流路を単数複数形成することができる。また、金型には、ポリフェニルサルホン樹脂の離型性を向上させるため、離型剤を塗布することができる。さらに、溶融開始温度とは、ポリフェニルサルホン樹脂が非晶性樹脂であるので、ガラス転移点(Tg)をいう。ポリフェニルサルホン樹脂のガラス転移点は、180〜250℃である。
本発明によれば、燃料電池用セパレータに優れた電気的性質や機械的性質、リン酸に対する高い耐腐食性、及び耐熱性を付与することができるという効果がある。また、燃料電池用セパレータの製造時に特殊な装置や硬化処理等を何ら必要としないので、製造工程の簡素化やコスト削減を図ることができる。
また、成形材料を粉体状としてその導電性材料を黒鉛とすれば、燃料電池用セパレータの機械的性質や電気的性質の異方性を抑制し、これら機械的性質や電気的性質の局部的なバラツキを小さくすることができる。また、燃料電池用セパレータの加工性や機械的性質を向上させ、安価な製造が期待できる。さらに、燃料電池用セパレータを圧縮成形すれば、燃料電池用セパレータの寸法精度を向上させたり、ポリフェニルサルホン樹脂量を増加させ、導電性材料を削減しつつ良好な導電性を得ることが可能になる。
以下、本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における燃料電池用セパレータの製造方法は、図示しないが、成形材料を使用した各種の成形法により燃料電池用セパレータを製造する製法であり、成形材料を、少なくともポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とにより調製し、ポリフェニルサルホン樹脂の組成体積比率を10〜40体積%以下とするとともに、導電性材料の組成体積比率を60〜90体積%以下とするようにしている。
成形材料は、少なくとも安価なポリフェニルサルホン樹脂(PPSU樹脂)と、導電性材料とにより調製される。ポリフェニルサルホン樹脂(ポリフェニルサルフォン樹脂ともいう)は、例えば特表2009−530461号公報に記載の樹脂があげられ、繰り返し単位の50質量%を超えるものが〔化1〕の繰り返し単位を有する樹脂である。
Figure 0005465091
このポリフェニルサルホン樹脂は、〔化1〕で表される繰り返し単位が70質量%、好ましくは80質量%を超えるのが良いが、全ての繰り返し単位が〔化1〕である樹脂、換言すれば、ホモポリマーが良い。繰り返し単位数は、機械的特性の観点から、10以上、好ましくは20以上が良い。ポリフェニルサルホン樹脂のガラス転移点は、180〜250℃である。このポリフェニルサルホン樹脂の製法としては、特に限定されるものではないが、例えば米国特許第3634355号明細書、米国特許第4008203号明細書、米国特許第4108837号明細書、米国特許公報第4175175号に記載の製造方法があげられる。
ポリフェニルサルホン樹脂は、粉体状、顆粒状、塊状、粉状、ペレット状等を特に問うものではない。また、1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良く、他の共重合可能な化合物とのブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、変性体をも使用することができる。具体的なポリフェニルサルホン樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばレーデルR(ソルベイアドバンストポリマーズ社製:商品名)やウルトラゾーンP(BASFジャパン社製:商品名)等が使用される。
導電性材料は、金属系の場合には、リン酸により腐食するおそれがあるので、炭素系が好ましい。この炭素系の導電性材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、アモルファスカーボン、炭素繊維、黒鉛等があげられる。また、カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等があげられる。
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等があげられる。また、炭素繊維としては、パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維があげられる。また、黒鉛には、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛や土状黒鉛等からなる天然黒鉛、鱗片状黒鉛を濃硫酸等で化学処理した後に加熱して得られる膨張黒鉛、膨張黒鉛を高温で加熱処理して得られる膨張化黒鉛、人造黒鉛等が該当する。
これらの炭素系の導電性材料の中では、加工性や機械的性質に優れ、化学的に安定で安価な黒鉛が最も好ましい。この黒鉛の中では、不純物や溶出性が少なく、高い純度で優れた導電性が得られる人造黒鉛が最適である。また、炭素系の導電性材料は、粉体状、顆粒状、塊状、繊維状を特に問うものではないが、機械的性質の異方性が少なく、加工性に優れる粉体状が最適である。また、1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
炭素系の導電性材料の平均粒子径は、1〜500μm以下、好ましくは5〜300μm以下、より好ましくは10〜200μm以下の範囲が良い。これは、1μm未満の場合には、作業時に導電性材料が舞い上がって作業環境の汚染を招いたり、二次凝集が生じてポリフェニルサルホン樹脂との均一分散性が低下し、燃料電池用セパレータの導電性が低下するからである。また、成形材料の溶融流動性が低下するので、薄肉の燃料電池用セパレータの成形が困難になるからである。
これに対し、導電性材料の平均粒子径が500μmを超える場合には、導電性材料間の隙間が拡大して高充填が困難になり、ポリフェニルサルホン樹脂との接触面積が低下して機械的特性が低下するという理由に基づく。また、ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料との混合性が低下して均一な成形体を得ることが困難になるという理由に基づく。
導電性材料は、粒子径の異なる2種類以上を併用することができ、この併用する場合には、高充填化が可能になるので、高導電性の燃料電池用セパレータを得ることができる。
炭素系の導電性材料には、例えばシランカップリング剤〔3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルエトキシシラン、イミダゾールシラン等〕、チタネート系カップリング剤〔イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリ(N‐アミトエチル・アミノエチル)チタネート等〕、アルミネート系カップリング剤〔アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等〕等からなる各種のカップリング剤で選択的に処理が施される。
成形材料には、ポリフェニルサルホン樹脂や導電性材料の他、融点が250℃以上の結晶性熱可塑性樹脂、ガラス転移点が200℃以上の非晶性熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂を添加することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンナフタレート樹脂やポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂等)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン46やポリアミド9T等)、ポリフタルアミド樹脂、ポリアリーレン樹脂、フッ素系樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂等)、ポリサルホン系樹脂(例えば、ポリサルホン樹脂やポリエーテルサルホン樹脂等)、ポリアリーレンサルファイド系樹脂(例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイドスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイドケトン樹脂等)、液晶ポリマーあるいはポリアリーレンケトン系樹脂(例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等)、ポリイミド系樹脂(例えば、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等)が該当する。
また、成形材料には、ポリフェニルサルホン樹脂、導電性材料、熱可塑性樹脂の他にも、所定の添加剤を選択的に添加することができる。具体的には、結晶核剤、耐衝撃改良剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機充填剤、有機充填剤等が該当する。
成形材料のポリフェニルサルホン樹脂と炭素系の導電性材料との調製方法は、特に限定されるものではないが、(1)ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とをポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度(ガラス転移点温度)未満の温度で混合して調製する方法、(2)ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とをポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度以上の温度で溶融混練して調製する方法、(3)ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とをポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度以上の温度で溶融混練して予備成形材料を調整し、この予備成形材料に導電性材料をさらに添加してポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度で混合し、成形材料を調製する方法があげられる。
(1)の調製方法の場合には、ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とがナウターミキサー、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、リボンブレンダー、V型混合機等からなる攪拌機やボールミルにより混合調製される。ポリフェニルサルホン樹脂や導電性材料はいかなる形状でも良いが、最適な形状は燃料電池用セパレータの成形法により異なる。例えば、成形法が圧縮成形法のときには、機械的性質や電気的性質の異方性を抑制でき、燃料電池用セパレータ内での機械的性質や電気的性質の局部的なバラツキを小さくすることができ、しかも、加工性に優れる粉体状が良い。
(2)の調製方法の場合には、ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とが加圧ニーダー、フラッシングニーダー、ケーエックスニーダー等からなる各種ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、四軸押出機等からなる各種の押出機、バンバリーミキサーやプラネタリーミキサー等の溶融混練機により溶融混練される。
ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とは、ポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度以上熱分解温度未満、好ましくは溶融開始温度+50℃以上熱分解温度未満、より好ましくは溶融開始温度+100℃以上溶融開始温度+200℃以下、さらに好ましくは溶融開始温度+130℃以上溶融開始温度+160℃以下で溶融混練される。
ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とは、均一分散性に優れる成形材料を調製する観点から、溶融混練前にポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度でナウターミキサー、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、リボンブレンダー、V型混合機等からなる攪拌機やボールミルにより混合されることが好ましい。
ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料との溶融混練物は、塊状、棒状、糸状、シート状で得られ、粉砕あるいは裁断され、その後、粉体、顆粒、粒、ペレット等の所定形状に加工されることにより成形材料に調製される。溶融混練物の粉砕や裁断には、カッターミル、ハンマーミル、スパイラルミル、ピンミル、ボールミル、インパクトミル、ビクトリミル、ジェットミル等からなる粉砕機や裁断機が使用される。
粉砕あるいは裁断された溶融混練物は、篩網、振動網、振動スクリーン、超音波篩、ミクロンセパレータ、ターボクラシフィア等の分級機で選択的に分級される。溶融混練された成形材料はいかなる形状でも良いが、最適な形状は燃料電池用セパレータの成形法により異なる。例えば、成形法が圧縮成形法のときには、(1)の場合と同様に粉体状が良い。
(3)の調製方法の場合、導電性材料の添加量は、成形材料中の導電性材料の添加量×0.5以上、かつ成形材料中の導電性材料の添加量×1.0未満が良い。予備成形材料は、加圧ニーダー、フラッシングニーダー、ケーエックスニーダー等からなる各種ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、四軸押出機等からなる各種の押出機、バンバリーミキサーやプラネタリーミキサー等の溶融混練機により溶融混練され、粉砕裁断された後に調製される。
ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とは、ポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度以上熱分解温度未満、好ましくは溶融開始温度+50℃以上熱分解温度未満、より好ましくは溶融開始温度+100℃以上溶融開始温度+200℃以下、さらに好ましくは溶融開始温度+130℃以上溶融開始温度+160℃以下で溶融混練される。
ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とは、均一分散性に優れる成形材料を調製するため、溶融混練前にポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度でナウターミキサー、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、リボンブレンダー、V型混合機等からなる攪拌機やボールミルにより混合されることが好ましい。
溶融混練物の粉砕や裁断には、カッターミル、ハンマーミル、スパイラルミル、ピンミル、ボールミル、インパクトミル、ビクトリミル、ジェットミル等からなる粉砕機や裁断機が使用される。また、粉砕あるいは裁断された溶融混練物は、篩網、振動網、振動スクリーン、超音波篩、ミクロンセパレータ、ターボクラシフィア等の分級機で選択的に分級される。
予備成形材料に導電性材料をさらに添加してポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度で混合するときには、ナウターミキサー、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、リボンブレンダー、V型混合機等からなる攪拌機やボールミルが使用される。
成形材料はいかなる形状でも良いが、最適な形状は燃料電池用セパレータの成形法により異なる。例えば、成形法が圧縮成形法のときには、(1)の場合と同様、粉体状が良い。
燃料電池用セパレータは各種の成形法により製造されるが、具体的な成形方法としては、圧縮成形法、射出成形法、トランスファー成形法、射出圧縮成形法等のいずれでも良い。但し、機械的性質と電気的性質の異方性が少なく、寸法精度の向上が期待できる圧縮成形法が最適である。また、圧縮成形法によれば、ポリフェニルサルホン樹脂量を増加させ、導電性材料を削減しつつ良好な導電性を得ることができる。
成形材料のポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料との比率は、導電性材料の組成体積比率で60〜90体積%以下、65〜85体積%以下とされる。これは、組成体積比率が60体積%未満の場合には、燃料電池用セパレータに導電性を付与することができないという理由に基づく。これに対し、組成体積比率が90体積%を超える場合には、機械的特性や加工性の低下を招くからである。
上記において、燃料電池用セパレータを製造する場合には、調製した粉体状の成形材料を専用の金型の上型と下型とに所定量充填して型締めし、この金型を加熱加圧して燃料電池用セパレータを圧縮成形する。この際、ポリフェニルサルホン樹脂は、離型性が悪いので、離型剤の活用が好ましいが、成形材料に離型剤を単に添加すると、成形時の高熱で離型剤が機能しなくなるおそれがある。そこで、金型に予め離型剤を均一に塗布しておくことが好ましい。また、金型をポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度、好ましくは常温にしておくと良い。
金型の加熱加圧時間は、複数の導電性材料間に所定の熱可塑性樹脂が流入するのに要する時間であれば良い。具体的には、10〜100秒で十分である。また、金型の加熱加圧に際しては、400t圧縮成形機の所定温度まで加熱した一対の熱板間にセットするのが好ましい。金型の温度は、ポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度以上熱分解温度未満、好ましくは溶融開始温度+100℃〜溶融開始温度+200℃以下、より好ましくは溶融開始温度+100℃〜溶融開始温度+180℃以下が良い。
燃料電池用セパレータを圧縮成形したら、金型を加圧冷却して燃料電池用セパレータを脱型することにより、燃料電池用セパレータを得ることができる。金型を加圧冷却する方法としては、(1)金型を取り出して冷却された別の圧縮成形機の一対の熱板間にセットする方法、(2)金型を圧縮成形機の一対の熱板間にセットしたままで加圧冷却する方法があげられる。金型の冷却温度は、ポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満、好ましくは溶融開始温度−100℃以下、より好ましくは溶融開始温度−150℃以下が良い。
燃料電池用セパレータの表裏面、表面、裏面には、燃料と酸化剤とを供給したり、あるいは発電時に生成した生成水を排出する複数の流路が配列形成されるが、この流路の形成方法としては、(1)燃料電池用セパレータの成形後、複数の流路を切削等の機械加工により形成する方法、(2)燃料電池用セパレータの成形時に複数の流路を一体成形する方法、(3)燃料電池用セパレータに複数の流路をスタッピング法により形成する方法等が該当する。
複数の流路は、例えば直線形や蛇行形、略S字形、略Z字形に形成される。各流路断面形状は、特に限定されるものではないが、長方形、台形、三角形、半円形等に形成される。また、製造した燃料電池用セパレータには、火炎処理やブラスト処理等の表面処理を施して親水性を向上させることができる。
燃料電池用セパレータは、機械的性質が曲げ強度で40MPa以上、好ましくは50MPa以上が良い。これは、曲げ強度が40MPa未満の場合には、スタック組立時に燃料電池用セパレータが強度不足で破損したり、ヒビやクラックの発生するおそれがあるからである。また、燃料電池用セパレータの電気的性質は、体積抵抗値で10mΩ・cm以下、好ましくは8mΩ・cm以下、より好ましくは5mΩ・cm以下が良い。これは、体積抵抗値が10mΩ・cmを超えると、燃料電池の内部抵抗が増大するからである。
上記によれば、成形材料としてポリフェニルサルホン樹脂を用い、このポリフェニルサルホン樹脂に炭素系の導電性材料を添加するので、リン酸形の燃料電池用セパレータに必要なリン酸に対する高い腐食性を容易に確保し、リン酸形の燃料電池用セパレータの腐食、変色、損傷等を有効に防止することができる。また、ポリフェニルサルホン樹脂の選択により、燃料電池用セパレータに優れた強靭性、耐加水分解性、難燃性、吸湿性を付与することができる。
また、燃料電池用セパレータの機械的性質が曲げ強度で40MPa以上、電気的性質が体積抵抗値で10mΩ・cm以下であるので、燃料電池用セパレータに十分な強度を付与し、燃料電池の内部抵抗の増大防止が期待できる。さらに、ポリフェニルサルホン樹脂と導電性材料とを単に混合するのではなく、溶融混練して成形材料を調製することができるので、燃料電池用セパレータの外観悪化を防止し、燃料電池用セパレータの表面性を向上させることが可能になる。
なお、上記実施形態では金型を単に加熱加圧したり、加圧冷却したが、これらの作業の際にエネルギーコスト対策の観点から電気ヒーター等の加熱機構や冷却水路等の冷却機構を使用しても良い。また、蒸気を使用して加熱する場合には、常温で高温を得ることのできる過熱蒸気を使用すると良い。
次に、本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法及び燃料電池用セパレータの実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、成形材料を調製するため、ポリフェニルサルホン樹脂としてウルトラゾーンP3010Natural(BASFジャパン社製:商品名、ガラス転移点:220℃)を選択し、このポリフェニルサルホン樹脂をスパイラルミリにより粉砕した。粉砕したポリフェニルサルホン樹脂の粒度分布を自動乾式音波ふるい分け測定器(セイシン社製:商品名ロボットシフターRPS‐105)により測定したところ、粒度分布はX10=40.5μm、X50=64.4μm、X90=94.2μmだった。
ポリフェニルサルホン樹脂を粉砕したら、このポリフェニルサルホン樹脂と、炭素系の導電性材料として平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名人造黒鉛粉AT‐No.5S)とを表1に示す体積組成率で樹脂容器に投入し、かつ樹脂容器にφ10mmのジルコニアボールを併せて投入し、樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着するとともに、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させてポリフェニルサルホン樹脂、人造黒鉛、ジルコニアボールを分散混合させ、その後、ジルコニアボールを取り出して成形材料を調製した。
次いで、平型の金型に離型剤(ダイキン工業社製:商品名ダイフリーGA‐6010)を均一に塗布し、金型に所定量の成形材料を充填して型締めし、400t圧縮成形機の上下一対の熱板間にセットしてその一対の熱板により加熱加圧し、燃料電池用セパレータを圧縮成形した。この際、金型の側面温度が350℃に達するまで加熱加圧した。この加熱加圧に際しては、一対の熱板の温度を390℃とし、成形圧力を25MPa(ゲージ圧力)とした。
金型の側面温度が350℃に達したら、そのままの状態で30秒間加熱加圧し、その後、金型を上下一対の熱板の温度が20℃の冷却用の別の400t圧縮成形機に直ちに移載し、金型の側面温度が80℃以下になるまで加圧冷却して210mm×297mm×2mmの大きさを有する燃料電池用セパレータを脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表1にまとめた。加熱冷却は、成形圧力25MPa(ゲージ圧力)とした。
・燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性
オーブンで180℃に加熱したフッ素樹脂容器のリン酸中に燃料電池用セパレータを15日間浸漬し、浸漬前後の燃料電池用セパレータの特性、リン酸の色、浸漬後の燃料電池用セパレータの外観により評価した。リン酸は、JIS試薬特級(和光純薬社製:含量85%)を使用した。リン酸の色は、180℃で15日経過後の燃料電池用セパレータの浸漬前後における色彩で評価した。
・燃料電池用セパレータの機械的特性
JIS K7171に準拠し、燃料電池用セパレータから裁断した評価用の試験片の曲げ強度により評価した。評価用の試験片については、燃料電池用セパレータを100mm×150mmのサイズに2枚裁断し、1枚をリン酸浸漬前用とし、もう1枚をリン酸浸漬後用とした。
リン酸浸漬後の試験片については、180℃に加熱したリン酸中に15日間浸漬し、その後、水中に投入放置し、イオン交換水で洗浄して110℃、24時間乾燥させた後、23℃、50%RH環境下に24時間放置した。
・燃料電池用セパレータの電気的性質
四端子四探針法により、燃料電池用セパレータから裁断した評価用の試験片の体積抵抗値により評価した。評価用の試験片やリン酸浸漬後の試験片については、上記と同様である。
・燃料電池用セパレータの外観
燃料電池用セパレータから裁断した評価用の試験片をリン酸に浸漬した後の外観について、目視により評価した。リン酸浸漬後の試験片については、機械的特性の場合と同様である。
・燃料電池用セパレータの表面性
燃料電池用セパレータから裁断した評価用の試験片をリン酸に浸漬した後の表面性について、手触りの感触で評価した。リン酸浸漬後の試験片については、機械的特性の場合と同様である。
〔実施例2〕
ポリフェニルサルホン樹脂と人造黒鉛との体積組成率を表1に示すように変更し、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、その後、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表1にまとめた。
〔実施例3〕
先ず、成形材料を調製するため、ポリフェニルサルホン樹脂としてレーデル R‐5000NT(ソルベイアドバンストポリマーズ社製:商品名、ガラス転移点:220℃)を選択し、このポリフェニルサルホン樹脂をスパイラルミリにより粉砕した。粉砕したポリフェニルサルホン樹脂の粒度分布を自動乾式音波ふるい分け測定器(セイシン社製:商品名ロボットシフターRPS‐105)により測定したところ、粒度分布はX10=45.0μm、X50=72.3μm、X90=175.3μmだった。
ポリフェニルサルホン樹脂を粉砕したら、このポリフェニルサルホン樹脂と、炭素系の導電性材料として平均粒子径が50μmの鱗片状黒鉛(中越黒鉛工業社製:商品名HG‐50A)とを表1に示す体積組成率で樹脂容器に投入し、かつ樹脂容器にφ10mmのジルコニアボールを併せて投入し、樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着するとともに、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させてポリフェニルサルホン樹脂、人造黒鉛、ジルコニアボールを分散混合させた後、ジルコニアボールを取り出して成形材料を調製した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表1にまとめた。
〔実施例4〕
先ず、成形材料を調製するため、表2に示す粒子形状がペレットのポリフェニルサルホン樹脂と人造黒鉛とを加圧ニーダーに投入して325℃、10分間の条件で溶融混練し、溶融混練物を得た。こうして溶融混練物を調製したら、この溶融混練物を50℃以下に冷却してφ4mmのパンチングメタルを備えたカッターミルで粉砕した後、φ0.3mmのパンチングメタルを備えたピンミルで再び粉砕し、成形材料を調製した。この成形材料の平均粒径については、レーザ回折散乱法、又はマイクロトラック法により測定した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表2にまとめた。
〔実施例5〕
ポリフェニルサルホン樹脂と黒鉛とを表2に示すように変更し、実施例4と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、その後、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表2にまとめた。
〔実施例6〕
ポリフェニルサルホン樹脂と人造黒鉛とを表2に示すように変更し、実施例4と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、その後、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表2にまとめた。
〔実施例7〕
ポリフェニルサルホン樹脂と人造黒鉛とを表2に示すように変更し、実施例4と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、その後、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表2にまとめた。
〔実施例8〕
先ず、実施例4で使用した粒子形状がペレットのポリフェニルサルホン樹脂33.3体積%と、平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名人造黒鉛粉AT‐No.5S)66.7体積%とを加圧ニーダーに投入して325℃、10分間の条件で溶融混練し、溶融混練物を得た。
こうして溶融混練物を調製したら、この溶融混練物を50℃以下に冷却し、φ4mmのパンチングメタルを備えたカッターミルで粉砕し、この粉砕した溶融混練物をφ0.3mmのパンチングメタルを備えたピンミルに投入して再び粉砕することにより、予備成形材料を調製した。この予備成形材料の平均粒径については、実施例4と同様の方法により測定した。
次いで、樹脂容器に、予備成形材料、人造黒鉛の体積比率が75.9体積%となるように、平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名人造黒鉛粉AT‐No.5S)、φ10mmのジルコニアボールをそれぞれ投入し、樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着するとともに、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させて予備成形材料、人造黒鉛、ジルコニアボールを分散混合させ、その後、ジルコニアボールを取り出して成形材料を調製した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表3にまとめた。
〔実施例9〕
先ず、実施例6で使用した粒子形状がペレットのポリフェニルサルホン樹脂30.4体積%と、平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名人造黒鉛粉AT‐No.5S)69.6体積%とを加圧ニーダーに投入して25℃、10分間の条件で溶融混練することにより、溶融混練物を得た。
溶融混練物を調製したら、この溶融混練物を50℃以下に冷却し、φ4mmのパンチングメタルを備えたカッターミルで粉砕し、この粉砕した溶融混練物をφ0.3mmのパンチングメタルを備えたピンミルに投入して再び粉砕することにより、予備成形材料を調製した。この予備成形材料の平均粒径については、実施例4と同様の方法により測定した。
次いで、樹脂容器に、予備成形材料、人造黒鉛の体積比率が80.1体積%となるように、平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名人造黒鉛粉AT‐No.5S)、φ10mmのジルコニアボールをそれぞれ投入し、樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着するとともに、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させて予備成形材料、人造黒鉛、ジルコニアボールを分散混合させ、その後、ジルコニアボールを取り出して成形材料を調製した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表3にまとめた。
Figure 0005465091
Figure 0005465091
Figure 0005465091
〔比較例1〕
先ず、成形材料を調製するため、実施例1、2で使用したポリフェニルサルホン樹脂と炭素系の導電性材料として平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛とを表4に示す体積組成率で樹脂容器に投入し、かつ樹脂容器にφ10mmのジルコニアボールを併せて投入し、樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着するとともに、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させてポリフェニルサルホン樹脂、人造黒鉛、ジルコニアボールを分散混合させ、その後、ジルコニアボールを取り出して成形材料を調製した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表4にまとめようとした。
しかしながら、製造した燃料電池用セパレータは、体積抵抗値が10mΩ・cmを超えていたため、リン酸に対する腐食性を評価しなかった。
〔比較例2〕
実施例6で使用したポリフェニルサルホン樹脂と人造黒鉛とを表4に示す組成体積比率で加圧ニーダーに投入して325℃、10分間の条件で溶融混練し、溶融混練物を得た。こうして溶融混練物を調製したら、この溶融混練物を50℃以下に冷却してφ4mmのパンチングメタルを備えたカッターミルで粉砕し、φ0.3mmのパンチングメタルを備えたピンミルで粉砕して成形材料を調製した。この成形材料の平均粒径については、レーザ回折散乱法、又はマイクロトラック法により測定した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表4にまとめようとした。
しかしながら、製造した燃料電池用セパレータは、曲げ強度が40MPa未満と劣悪であったため、リン酸に対する腐食性を評価しなかった。
〔比較例3〕
粉体化されたポリフェニレンサルファイド樹脂としてトレリナE2180(東レ社製:商品名)を用意し、このポリフェニレンサルファイド樹脂と、炭素系の導電性材料として平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名AT‐No.5S)とを表4に示す体積組成率で樹脂容器に投入し、かつ樹脂容器にジルコニアボールを併せて投入した。
ポリフェニレンサルファイド樹脂は、結晶性樹脂であるので、融点を溶融開始温度とすることとした。トレリナE2180の融点を示差走査熱量測定した結果、融点が286℃であるのを確認した。示差走査熱量測定による融点は、トレリナE2180の試料を約10mg精量し、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製:商品名DSC220)により10℃/分の昇温速度で昇温させ、このとき得られる示差走査熱量曲線から求めた。ここで融点は、示差走査熱量曲線において最大吸熱ピークを示す温度とした。
樹脂容器にジルコニアボールを投入したら、樹脂容器に蓋を取り付けてタンブラーミキサーに装着するとともに、このタンブラーミキサーを23℃、1時間の条件で回転させてポリフェニレンサルファイド樹脂、人造黒鉛、ジルコニアボールを分散混合させ、その後、ジルコニアボールを取り出して成形材料を調製した。
次いで、平型の金型に離型剤(ダイキン工業社製:商品名ダイフリーGA‐6010)を均一に塗布し、金型に所定量の成形材料を充填して型締めし、400t圧縮成形機の上下一対の熱板間にセットしてその一対の熱板により加熱加圧し、燃料電池用セパレータを圧縮成形した。この際、金型の側面温度が320℃に達するまで加熱加圧した。この加熱加圧に際しては、一対の熱板の温度を380℃とし、成形圧力を25MPa(ゲージ圧力)とした。
金型の側面温度が320℃に達したら、そのままの状態で30秒間加熱加圧し、その後、金型を上下一対の熱板の温度が20℃の冷却用の別の400t圧縮成形機に直ちに移載し、金型の側面温度が70℃以下になるまで加圧冷却して210mm×297mm×2mmの大きさを有する燃料電池用セパレータを脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表4にまとめようとした。
しかし、リン酸に浸漬した燃料電池用セパレータの表面を指で触れたところ、ぬめり感が激しかったので、リン酸浸漬後の機械的特性や電気的性質の評価は見合わせた。
〔比較例4〕
粒子形状がペレットのポリエーテルサルホン樹脂としてウルトラゾーンE2010 Natural(BASFジャパン社製:商品名、ガラス転移点:225℃)を用意し、このポリエーテルサルホン樹脂と、炭素系の導電性材料として平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名AT‐No.5S)とを表4に示す体積組成率で加圧ニーダーに投入して330℃、10分間の条件で溶融混練し、溶融混練物を得た。
溶融混練物を調製したら、この溶融混練物を50℃以下に冷却してφ4mmのパンチングメタルを備えたカッターミルで粉砕した後、φ0.3mmのパンチングメタルを備えたピンミルで再び粉砕し、成形材料を調製した。この成形材料の平均粒径については、レーザ回折散乱法、又はマイクロトラック法により測定した。
次いで、平型の金型に離型剤(ダイキン工業社製:商品名ダイフリーGA‐6010)を均一に塗布し、金型に所定量の成形材料を充填して型締めし、400t圧縮成形機の上下一対の熱板間にセットしてその一対の熱板により加熱加圧し、燃料電池用セパレータを圧縮成形した。この際、金型の側面温度が360℃に達するまで加熱加圧した。この加熱加圧に際しては、一対の熱板の温度を400℃とし、成形圧力を25MPa(ゲージ圧力)とした。
金型の側面温度が360℃に達したら、そのままの状態で30秒間加熱加圧し、その後、金型を上下一対の熱板の温度が20℃の冷却用の別の400t圧縮成形機に直ちに移載し、金型の側面温度が80℃以下になるまで加圧冷却して210mm×297mm×2mmの大きさを有する燃料電池用セパレータを脱型した後、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表4にまとめようとした。加熱加圧に際しては、熱板の温度や成形圧力を上記と同様とした。
しかし、リン酸に浸漬した燃料電池用セパレータの表面を指で触れたところ、ぬめり感が激しかったので、リン酸浸漬後の機械的特性や電気的性質の評価は中止した。
〔比較例5〕
粒子形状がペレットのポリエーテルイミド樹脂としてウルテム1010‐1000(SABIC イソベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名)を用意し、このポリエーテルイミド樹脂と、炭素系の導電性材料として平均粒子径が53.3μmの人造黒鉛(オリエンタル産業社製:商品名AT‐No.5S)とを表4に示す体積組成率で加圧ニーダーに投入して325℃、10分間の条件で溶融混練することにより、溶融混練物を得た。
ウルテム1010‐1000のガラス転移点を示差走査熱量測定した結果、ガラス転移点は212℃だった。示差走査熱量測定によるガラス転移点は、ウルテム1010‐1000の試料を約10mg精量し、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製:商品名DSC220)により10℃/分の昇温速度で昇温させ、このとき得られる示差走査熱量曲線から求めた。ここでガラス転移点は、示差走査熱量曲線のベースラインと変曲点の接線の交点とした。
溶融混練物を調製したら、この溶融混練物を50℃以下に冷却してφ4mmのパンチングメタルを備えたカッターミルで粉砕した後、φ0.3mmのパンチングメタルを備えたピンミルで再び粉砕し、成形材料を調製した。この成形材料の平均粒径については、レーザ回折散乱法、又はマイクロトラック法により測定した。
その後、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを圧縮成形して脱型し、燃料電池用セパレータのリン酸に対する腐食性、機械的特性、電気的性質を評価・測定して表4にまとめようとした。
ところが、リン酸に浸漬した燃料電池用セパレータの表面を指で触れたところ、ぬめり感が激しかったので、リン酸浸漬後の機械的特性や電気的性質の評価は見合わせた。
Figure 0005465091
〔結 果〕
実施例の燃料電池用セパレータは、機械的性質が曲げ強度で40MPa以上、体積抵抗値が10mΩ・cm以下であり、十分に使用可能であるのを確認した。180℃のリン酸に浸漬した場合についても、曲げ強度が40MPa以上、体積抵抗値が10mΩ・cm以下であるのを確認した。加えて、燃料電池用セパレータを180℃で15日浸漬したリン酸の色は、浸漬前の色と同様に無色透明であった。
燃料電池用セパレータを180℃のリン酸に浸漬した前後の曲げ強度の変化については、5%以内であり、リン酸浸漬による機械的性質の低下は認められなかった。また、180℃のリン酸に15日間浸漬したが、燃料電池用セパレータに反り等の変形は認められず、燃料電池用セパレータの耐熱性に問題がないのが確認された。
燃料電池用セパレータの表面を目視で評価したところ、浸漬の前後で差異は認めなかった。また、燃料電池用セパレータの表面を指触で評価したが、べたつきやぬめり感は認められず、浸漬の前後で差異は生じなかった。
以上のことから、実施例の燃料電池用セパレータは、リン酸型燃料電池用セパレータとして十分に使用可能である。
これに対し、比較例1の燃料電池用セパレータは、機械的性質が十分であるものの、体積抵抗値が10mΩ・cmを大幅に超え、電気的特性に問題が生じた。また、比較例2の燃料電池用セパレータは、電気的特性が十分ではあるものの、曲げ強度が40MPaを下回り、機械的性質に問題が生じた。
また、比較例3、4、5の燃料電池用セパレータは、十分な電気的特性ではあるものの、180℃に加熱したリン酸に15日浸漬したところ、リン酸の色が黒色に変色した。また、燃料電池用セパレータの表面を目視で評価したところ、表面に小さな斑点を発見した。また、燃料電池用セパレータの表面を指触で評価したところ、激しいぬめり感を認めた。
以上のことから、比較例の燃料電池用セパレータは、リン酸型燃料電池用セパレータとしては不十分であるのが確認された。

Claims (4)

  1. 成形材料を使用した成形法により、曲げ強度が40MPa以上、電気的性質が体積抵抗値で10mΩ・cm以下の燃料電池用セパレータを製造する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
    成形材料を、少なくともポリフェニルサルホン樹脂と炭素系の導電性材料とにより調製し、ポリフェニルサルホン樹脂の組成体積比率を10〜40体積%以下とするとともに、導電性材料の組成体積比率を60〜90体積%以下とすることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
  2. 成形材料を粉体状とするとともに、導電性材料を黒鉛とし、この成形材料をポリフェニルサルホン樹脂の溶融開始温度未満の温度の金型に充填し、この金型を加熱加圧して燃料電池用セパレータを圧縮成形した後、金型を加圧冷却して燃料電池用セパレータを脱型する請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  3. リン酸を用いて150〜200℃の温度で作動する燃料電池に使用されるリン酸形の燃料電池用セパレータを製造する請求項1又は2記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
  4. 請求項1、2、又は3記載の燃料電池用セパレータの製造方法により製造されたことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
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