JP5464297B2 - めっき部材の製造方法及びコネクタ用めっき端子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、めっき部材の製造方法及びコネクタ用めっき端子の製造方法に関し、さらに詳しくは銀とスズをめっき層に含むめっき部材及びコネクタ用めっき端子の製造方法に関するものである。
近年、ハイブリッドカーや、電気自動車等で高出力モータが使用されるようになっている。通電電流が大きい高出力モータ用の端子等では、コネクタ端子に大電流が流れるので、端子部での発熱量が大きくなる。また、電流容量に合わせて端子も大きくなるため、挿入力が大きくなり、挿入時の端子表面へのダメージも大きくなる。メンテナンスによる端子の挿抜回数も多く、この種の大電流用コネクタ端子においては、耐熱性と耐摩耗性が求められる。
従来、自動車の電気部品等を接続するコネクタ端子としては、一般に、銅又は銅合金などの母材の表面にスズめっきなどのめっきが施されたものが用いられていた。しかし、従来のスズめっき端子は、このような大電流で使用される場合には、耐熱性が不十分である。そこで、大電流が使用されるコネクタ端子として、スズめっき端子の代わりに銀めっき端子が用いられる。銀は電気抵抗値が低く、通電時の温度上昇が低く抑えられるとともに、高い融点を有し、高い耐熱性が得られる。また、銀めっきは、耐腐食性も非常に高い。
しかし、銀めっき層の中を銅粒子が拡散しやすいため、銅又は銅合金よりなる端子母材表面に銀めっきが施された場合には、銅成分が銀めっき表面に達し、酸化された銅成分が抵抗の増大を引き起こすという問題がある。また、銀は再結晶によって結晶粒が粗大化しやすい性質があり、銀めっきを施した端子を高温環境下で使用すると、結晶粒の成長による硬度の低下が起こる。これにより、端子の挿入力の増大、摩擦係数の上昇という問題が発生する。
そこで、特許文献1では、硬度と耐熱性の両立を目的として、銅又は銅合金部材の表面にニッケル下地めっきが施され、その上にアンチモン濃度が制限された軟質銀層又は銀合金層が形成され、さらにその上に最表層としてアンチモンを含む硬質銀合金層が形成された銅又は銅合金部材が開示される。
一方、銀とスズの合金を形成し、耐熱性の向上及び摩擦係数の低減に寄与させる試みも報告されている。特許文献2においては、銅系基板の上にNi系下地層を形成し、Sn−Ag被覆層を形成した上にCu−Sn金属間化合物層を形成した導電部材が開示される。
また、目的は端子の耐熱性の向上や摩擦係数の低減とは異なるものの、銀−スズ合金層を含んだめっき構造及びその製造方法としては複数のものが公知である。たとえば、特許文献3には、Cu又はCu合金からなる基材の表面に、電気めっき法によってSn層を形成した後に、このSn層上に、Agのナノ粒子コート層を湿式製膜法によって形成し、加熱することで、AgSn合金層を形成することが示される。また、特許文献4には、Sn薄膜の上にAg薄膜を形成し、Ag−Sn金属間化合物を形成することが記載されている。ここで、最表面は、Ag−Sn金属間化合物となっている。
特開2009−79250号公報 特許第4372835号公報 特開2010−138452号公報 特開2008−50695号公報
しかしながら、上記各特許文献に示されためっき層構造では、摩擦係数の低減による耐摩耗性と、高温放置時の抵抗上昇の抑制による耐熱性とが、大電流用端子として十分に高い水準においては両立されない。
特許文献1においては、主なめっき層が軟質銀層であり、上に硬質銀層が形成されたとしても、十分な耐摩耗性が得られない。特許文献2〜4の構造についても、最表層にAg−Sn合金が形成されている状態であり、この合金の耐摩耗性はそれほど高くない。
また、特許文献1のめっき層においては、長時間加熱環境下にさらされることによって、銀めっき層の中を銅原子が拡散し、それがめっき層の最表面で酸化されることで、表面抵抗値が上昇する。Ni下地めっきが形成されていても、母材からの銅原子の拡散を阻止するのには不十分である。さらに、硬質銀層に含まれるアンチモン原子も最表面に拡散し、酸化して表面抵抗値を上昇させる。一方、特許文献2〜4においては、最表面にAg−Sn合金が形成されることにより、加熱環境下に晒されると、不可避的に最表面にスズ酸化物が生成し、これが高抵抗の原因となる。このように、いずれの場合にも、十分な耐熱性つまり、高温放置による抵抗上昇の抑制が達成されない。
さらに、引用文献1の構成においては、加熱環境での放置によって硬質銀めっきが軟化するので、高温放置による軟化の防止という意味での耐熱性も得られない。
加えて、引用文献1〜4の方法のいずれにおいても、特殊な製膜法を含んでめっき層が製造されるため、製造コストが高くなってしまう。
本発明が解決しようとする課題は、大電流を印加することができ、低い摩擦係数と、高い耐熱性とが両立されためっき部材及びコネクタ用めっき端子を低コストで製造できる製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明にかかるめっき部材の製造方法は、銅又は銅合金よりなる母材の表面に接触させてニッケル下地めっき層を形成し、最下層および最表層を銀めっき層としてスズめっき層と銀めっき層とを交互に積層した積層構造を前記ニッケル下地めっき層に接触させて形成した後に、加熱を行い、前記母材の表面を被覆する銀−スズ合金層と、前記銀−スズ合金層を被覆し、最表面に露出する銀被覆層とを形成することを要旨とする。
ここで、前記積層構造は、最下層の銀めっき層と、中間層のスズめっき層と、最表層の銀めっき層の3層よりなるものであると良い。
この場合、前記最表層の銀めっき層は、前記最下層の銀めっき層よりも厚いものであるとさらに良い。
また、前記最表層の銀めっき層は、前記中間層のスズめっき層よりも厚いものであると良い。
さらに、前記最下層の銀めっき層の厚さは0.5〜15μmの範囲内にあり、前記中間層のスズめっき層の厚さは0.5〜15μmの範囲内にあり、前記最表層の銀めっき層の厚さは1〜30μmの範囲内にあると好適である。
そして、前記スズめっき層と前記銀めっき層よりなる積層構造の加熱を、180℃以上かつスズの融点以下の温度で行うものであると良い。
本発明にかかるコネクタ用めっき端子の製造方法は、銅又は銅合金よりなる母材の表面に接触させてニッケル下地めっき層を形成し、最下層および最表層を銀めっき層としてスズめっき層と銀めっき層とを交互に積層した積層構造を前記ニッケル下地めっき層に接触させて形成した後に、加熱を行い、前記母材の表面を被覆する銀−スズ合金層と、前記銀−スズ合金層を被覆し、最表面に露出する銀被覆層とを形成することを要旨とする。
本発明にかかるめっき部材の製造方法によると、銀めっき層とスズめっき層を交互に積層し、加熱するという簡便な工程のみで、銀−スズ合金層と、最表面の銀被覆層とを同時に形成することができる。この工程は、合金めっきやナノ粒子層の形成のような特殊な工程を必要とせず、汎用的な銀めっき形成法及びスズめっき形成法をそのまま組み合わせて適用することが可能であるうえ、連続めっきラインを使用して実行することが可能であるので、めっき部材の製造コストが低減される。製造されためっき部材においては、硬い銀−スズ合金層の上に軟らかい銀被覆層が形成されるので、めっき層全体が銀よりなる場合及び最表面に銀−スズ合金が露出している場合よりも、めっき表面での摩擦係数が低く抑えられる。また、加熱環境下に晒された場合にも、表面に銀−スズ合金層が露出されていないために、最表面にスズ酸化物が形成されない。さらに、銀−スズ合金層が母材の銅原子の最表面への拡散を抑制するので、表面に銅酸化物が形成されることも抑制される。加熱環境下でもこれらの酸化物がめっき最表面に形成されないことにより、接触抵抗値の上昇が抑制される。また、銀−スズ合金層が硬いので、初期の状態で硬いめっき材が得られるうえ、加熱環境下での放置を経ても、軟化が起こりにくい。このように、本発明の製造方法によって製造されるめっき部材は、低い摩擦係数と、接触抵抗値の上昇の抑制と軟化の抑制の両方の意味における耐熱性とを同時に備える。
また、母材に接触させてニッケル下地めっき層を形成し、スズめっき層と銀めっき層よりなる積層構造のうちの最下層を銀めっき層としてニッケル下地めっき層に接触させて形成することにより、ニッケル下地層と銀−スズ合金層との間に高い密着性が得られる。
さらに、スズめっき層と銀めっき層よりなる積層構造が、最下層の銀めっき層と、中間層のスズめっき層と、最表層の銀めっき層の3層よりなるものであると、層数が最低限に抑制されているので、めっき部材の製造コストが一層低減される。
この場合、最表層の銀めっき層が、最下層の銀めっき層よりも厚いものであると、加熱後に、スズと合金化されない銀被覆層が最表面に高い確度で形成される。
また、最表層の銀めっき層が、中間層のスズめっき層よりも厚いものであると、最表層の銀めっき層の全体が加熱時にスズとの合金化に費やされず、最表層に銀被覆層が確実に形成される。
さらに、最下層の銀めっき層の厚さが0.5〜15μmの範囲内にあり、中間層のスズめっき層の厚さが0.5〜15μmの範囲内にあり、最表層の銀めっき層の厚さが1〜30μmの範囲内にあると、加熱時に銀−スズ合金層の形成が効果的に進行し、未反応のスズが残存しにくい。同時に、表面に未反応の銀被覆層が残され易い。
そして、スズめっき層と銀めっき層よりなる積層構造の加熱を、180℃以上かつスズの融点以下の温度で行う場合には、銀−スズ合金層の形成がゆっくりと進行するので、面内で高い均一性を有する銀−スズ合金層及び銀被覆層を形成することができ、さらに、これらの層界面及び銀被覆層の表面を平坦に形成することができる。これにより、摩擦係数や硬度、接触抵抗、耐熱性に関して、単一のめっき部材の中での空間分布や、独立に形成された複数のめっき部材の間でのばらつきが小さい、良質な被覆層を有するめっき部材を形成することができる。
本発明にかかるコネクタ用めっき端子の製造方法によると、簡便かつ低コストの工程のみで、銀−スズ合金層と、最表面の銀被覆層とを同時に形成するができる。製造されたコネクタ用めっき端子は、摩擦係数の低減と耐熱性の向上が両立されためっき部材よりなるので、挿抜性及び耐摩耗性に優れるとともに、大電流印加時のような加熱環境で使用された場合にも、低い表面抵抗と高い硬度が維持される。
銀−スズ合金層と銀被覆層を有するめっき部材の製造方法を示す模式図であり、(a)及び(c)は製造工程で加熱を行う前の状態を示し、(b)及び(d)はそれぞれ(a)及び(c)の加熱後に得られためっき部材を示している。 上記めっき部材の製造方法において、銀めっき層とスズめっき層の膜厚を決定する方法を示す模式図である。 実施例1にかかるめっき部材の断面の集束イオンビーム−走査イオン顕微鏡(FIB−SIM)像であり、(a)は加熱を行う前の状態、(b)及び(c)は加熱後の状態である。(b)は低倍率像であり、(c)は高倍率像である。 (a)実施例2及び(b)実施例3にかかるめっき部材の断面のFIB−SIM像である。
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
(めっき部材およびコネクタ用めっき端子)
まず、本発明にかかる製造方法によって製造されるめっき部材およびコネクタ用めっき端子について説明する。本発明にかかるめっき部材の製造方法によって製造されるめっき部材は、図1の(b)及び(d)に示すように、銅又は銅合金からなる母材1の表面が、銀−スズ合金層4により被覆され、さらにその表面が銀被覆層5により被覆されたものである。
コネクタ用めっき端子は、上記めっき部材を使用して形成され、少なくとも電気的接触が形成される箇所に上記めっき部材を有する。端子の形状としては、種々の公知の端子形状を適用することができる。上記めっき部材が、高い耐熱性、挿抜性を有することから、コネクタ用めっき端子は、大電流用端子として形成される場合が好適である。
めっき部材を構成する母材1は、めっき部材の基板となるものであり、銅又は銅合金から形成されている。さらに、母材表面には、ニッケル又はニッケル合金よりなる下地めっきが形成されているとよい。ニッケル又はニッケル合金よりなる下地めっきの存在により、母材からめっき層への銅原子の拡散が、強固に防止されるからである。ニッケル下地めっきの厚さは、必要十分な銅原子拡散防止能力を付与するという意味で、0.5〜1μmの範囲にあることが望ましい。又は、特に母材1が銅合金よりなる場合に、母材1の表面に銅よりなる下地めっきが形成されていると、母材1とめっき層との密着性が増す。
母材の上には、銀−スズ合金層4が形成されている。後述するように、この銀−スズ合金層4は、銀めっき層とスズめっき層の積層構造の加熱による合金化反応で形成しうる。銀−スズ合金層は、AgSnの組成を有する相を主相としている。
銀−スズ合金層4の表面には、銀被覆層5が形成され、銀被覆層5はめっき部材の最表面に露出している。銀被覆層5は、銀を主成分とする層であり、軟質銀としての性質を有する。一般に、ビッカース硬さが100あるいは150未満の銀めっき層が軟質銀めっき層と称される。なお、本明細書中においては、上記のような完成品のめっき部材において、銀−スズ合金層の表面を被覆している銀を主成分とする層を、「銀被覆層」と称し、加熱を経てそのようなめっき部材を形成する銀/スズの積層構造に含まれる、銀よりなる層を「銀めっき層」と称して区別するものとする。
このように、母材表面に銀−スズ合金層4が形成され、その表面が、軟質銀よりなる銀被覆層5によって被覆されることで、めっき層が軟質銀のみよりなる場合や、軟質銀めっきの上に硬質銀めっきが形成される場合よりも、表面の摩擦係数が低減される。一般に、硬いめっき層の上に軟らかいめっき層が形成される場合に、摩擦係数が低減されることが知られており、硬い銀−スズ合金層4の上に軟質銀層5が形成されることにより、低い摩擦係数が得られるものと考えられる。
また、銀−スズ合金層4が非常に硬い性質を有するため、めっき部材全体としても、高い硬度が得られる。
さらに、上記のような、銀−スズ合金層4が銀被覆層5によって被覆されためっき層を有するめっき部材においては、めっき層全体が銀めっきのみによって形成される場合や、銀−スズめっきのみによって形成される場合と比べて、加熱環境下で放置した場合の接触抵抗値の上昇が低く抑えられる。これは、一つには、銀−スズ合金層4の存在によって母材1からの銅原子の拡散とそれに伴うめっき部材表面での銅酸化物の形成が抑制されることによると考えられる。加えて、銀−スズ合金層4が最表面に露出しないことによってめっき部材表面にスズ酸化物が形成されないという要因も、接触抵抗値の上昇の抑制に寄与していると考えられる。また、めっき層が硬い銀−スズ合金層4を有していることにより、銀被覆層5が加熱によって軟化したとしても、めっき層全体としては加熱による軟化が起こらない。このように、本めっき部材は、高い耐熱性を有する。
ここで、銀被覆層5は、銀−スズ合金層4よりも薄く形成されていることが望ましい。銀被覆層5が銀−スズ合金層4よりも厚いと、上記のように硬い銀−スズ合金層の上に軟らかい銀被覆層5が形成されていることによる摩擦係数の低減の効果、及び銀−スズ合金層4の存在による高温放置後における軟化防止の効果が十分に発揮されないからである。
さらに、銀−スズ合金層4の厚さが1〜45μmの範囲内にあり、銀被覆層5の厚さが0.5〜15μmの範囲内にある場合が好適である。より好ましくは、銀−スズ合金層4の厚さが1〜9μmの範囲内にあり、銀被覆層5の厚さが0.5〜3μmの範囲内にあればよい。摩擦係数の低減の効果は、銀−スズ合金層4と銀被覆層5の厚さのバランスによって実現されるものであり、いずれかが極端に厚すぎたりあるいは薄すぎたりする場合には、摩擦係数が十分に低減されない。
それに加えて、銀−スズ合金層4が薄すぎると、初期の高硬度、高温放置後の軟化防止、及び抵抗上昇の抑制の効果がいずれも十分に発揮されない。一方で銀−スズ合金層4が厚すぎると、均一な組成の銀−スズ合金層を形成することが困難になる。
また、銀被覆層5が薄すぎると、スズ酸化物をめっき層表面に形成させないことによる高温放置後における表面抵抗値上昇の抑制の効果も小さくなる。一方で、銀被覆層5が厚すぎると、高温放置によってめっき層全体としての軟化が発生する。
銀−スズ合金層4と銀被覆層5の合計の厚さは、0.4〜60μmの範囲にあることが望ましい。さらに、大電流用端子としてめっき部材を用いる場合には、5〜30μm程度の範囲にあることが望ましい。
大電流用端子に使用されるめっき部材としては、初期(高温放置前)の摩擦係数が0.5以下であることが望ましく、上記構成を有するめっき部材によれば、0.5以下の摩擦係数が達成される。また、初期のめっき部材の硬さとしては、1000mNの荷重で測定したビッカース硬さが150以上であることが望ましい。
さらに、大電流用端子に使用されるめっき部材としては、150℃で120時間放置した場合(以下、この条件を「高温放置」と称することがある)の、10Nの負荷において計測した接触抵抗上昇値が、1mΩ以下であることが求められる。
(めっき部材の製造方法及びコネクタ用めっき端子の製造方法)
次に、本発明の実施形態にかかるめっき部材の製造方法及びコネクタ用めっき端子の製造方法について説明する。上記のような、銀−スズ合金層と銀被覆層を有するめっき部材の製造方法においては、まず銅、銅合金又はそれらにニッケル下地めっきを施した母材の表面に、銀めっき層とスズめっき層が交互に積層された、複数のめっき層よりなる積層構造を作成する。次に、それを加熱することで、銀−スズ合金層と、銀−スズ合金層を被覆して最表面に露出する銀被覆層とを同時に形成する。上記積層構造においては、最表層がスズめっき層ではなく、銀めっき層とされる。
図1(a)及び(c)に、加熱を行う前の積層構造を示し、(b)及び(d)にそれらを加熱することによって得られるめっき部材の構造をそれぞれ示す。(a)においては積層構造が3層よりなり、(c)においては積層構造が4層よりなる。
スズと銀は容易に安定な銀−スズ合金層を形成する。積層構造の加熱によって、スズめっき層は、その下層及び/又は上層の銀めっき層と合金化反応を起こし、AgSn合金を形成する。
最表層の銀めっき層のうち、すぐ下層のスズめっき層と合金化した以外の余剰の銀は、未反応のまま最表層に残り、銀−スズ合金層を被覆する銀被覆層となる。積層構造において、最表層を銀めっき層としなければならないのは、加熱後の最表層に銀被覆層を形成する必要があるからである。
銀めっき層は、軟質銀よりなることが望ましい。上記のように、本製造方法によって製造されるめっき部材においては、摩擦係数の低減を達成するために、最表層に形成される銀被覆層は、軟質銀としての性質を有する場合が好適である。このため、加熱前の積層構造を形成する銀めっき層も、軟質銀よりなることが望ましい。
電気めっきの電流密度等の製膜条件を制御することによって、硬質銀ではなく、軟質銀よりなる銀めっき層を選択的に形成することができる。また、アンチモン、セレン等の元素がめっき液に含まれると、銀めっき層を形成する結晶粒径が小さくなってしまい、銀めっき層の硬度が上昇してしまうので、これらの含有量はできるだけ少ない方がよい。製造されためっき部材において、これらの元素が銀−スズ合金層中や銀被覆層中に含まれると、高温放置によってそれらが最表面に拡散し、酸化物を形成して接触抵抗値を上昇させてしまうという意味においても、積層構造がアンチモン等の元素が含まれない軟質銀めっき層で形成されることが望ましい。
最表層が銀めっき層になっていさえすれば、積層構造を形成する銀めっき層及びスズめっき層の合計の層数は、図1に示した3層及び4層に限定されず、何層でもよい。しかし、層数が多いほど、めっき部材及びめっき端子の製造コストが上昇するので好ましくない。また、めっき層がある所定の厚さを有するめっき部材を製造するのに、スズめっき層及び銀めっき層の層数を多くすると、積層構造を形成する各めっき層の膜厚は小さくなり、それらの膜厚の制御が困難になる。
積層構造のうち、最下層つまり母材と接する層は、銀めっき層であっても、スズめっき層であっても、母材の上に銀−スズ合金層を形成することが可能である。最下層が銀めっき層である場合が図1(a)に対応し、最下層がスズめっき層である場合が図1(c)に対応する。
しかし、母材がニッケル下地めっき層を有している場合には、積層構造の最下層をスズめっき層とすると、ニッケル下地めっき層と加熱後に形成された銀−スズ合金層の間に剥離が生じやすい。一方、積層構造の最下層を銀めっき層とすると、ニッケル下地めっき層と加熱後に形成された銀−スズ合金層の間に強固な密着性が得られる。この点において、積層構造の最下層は銀めっき層とする構成が好適である。この観点から、本発明の実施形態にかかるめっき部材の製造方法においては、ニッケル下地めっき層を母材の表面に形成し、積層構造の最下層を銀めっき層としている。
積層構造の層数をなるべく少なくすること、及び最下層を銀めっき層とすることを考えると、母材にニッケル下地めっきが施されている場合の積層構造としては、スズめっき層と銀めっき層の合計の層数が3層であり、最下層が銀めっき層21、中間層がスズめっき層31、最表層が銀めっき層22とされた図1(a)のような積層構造が最も適している。
積層構造の最表層の銀めっき層以外の銀めっき層は、加熱時にスズめっき層と完全に反応させて合金化させる必要がある。一方、最表層の銀めっき層は、一部を合金化させずに保ち、銀被覆層を形成させる必要がある。よって、最表層の銀めっき層は、それ以外の銀めっき層(上記3層構造の場合は最下層の銀めっき層21)よりも厚いものであれば良い。
また、最表層の銀めっき層は、加熱後に銀被覆層を形成する必要があるので、すぐ下のスズめっき層(上記3層構造の場合は中間層のスズめっき層31)との合金化に全てが費やされてはならない。よって、最表層の銀めっき層は、すぐ下のスズめっき層よりも厚いものであることが好適である。
さらに、積層構造が、上記のように最下層の銀めっき層21、中間層のスズめっき層31、最表層の銀めっき層22から構成される場合には、中間層のスズめっき層31が、最下層の銀めっき層21と最表層の銀めっき層22の両方と合金化反応を起こす。この場合に、加熱後に確実に最表層の銀めっき層22の一部を未反応の銀被覆層5として残すためには、最表層の銀めっき層22と最下層の銀めっき層21の厚さの和が、中間層のスズめっき層31の厚さの2倍よりも大きいものとすると、さらに好適である。
積層構造を形成するスズめっき層と銀めっき層の厚さが、上記のような関係性を満たしていたとしても、各銀めっき層及びスズめっき層が厚すぎると、各めっき層内部で加熱時に合金化が十分に進行しない可能性がある。また、それらが薄すぎると、膜厚の制御が困難になる。これらの点において、最表層の銀めっき層の厚さは1〜30μm、最表層を除く銀めっき層の厚さは0.5〜15μm、スズめっき層の厚さは0.5〜15μmの範囲にあることが好ましい。最表層の銀めっき層の厚さが1〜4μm、最表層を除く銀めっき層の厚さが0.5〜3μm、スズめっき層の厚さが0.5〜3μmの範囲にあれば、さらに好ましい。
ここで、積層構造の加熱時に、銀−スズ合金の形成を確実に進行させるために、スズめっき層と銀めっき層の厚さの関係を、さらに詳細に規定する。スズめっき層の厚さを1としたとき、厚さ1.9の銀めっき層が過不足なく反応することを利用する。
図2(a)に、3層よりなる積層構造を形成する場合についての膜厚の規定法を例示する。中間層のスズめっき層31の厚さをa、積層構造の加熱後に最表層に形成される銀被覆層5の所望される厚さをbとする。厚さaのスズめっき層31と過不足なく反応する銀めっき層の厚さは、最表層22由来の銀と最下層21由来の銀の合計で1.9aである。最表層22と最下層21の銀が等量ずつ反応すると考えると、最下層の銀めっき層21の膜厚は、1.9a/2=0.95aである。一方、最表層の銀めっき層22の厚さは、これに所望される銀被覆層5の厚さを加えて、0.95a+bとなる。積層構造全体としての厚さは、0.95a+a+(0.95a+b)=2.9a+bとなる。
例えば、積層構造のスズめっき層31の厚さa=2.0μm、所望される銀被覆層5の厚さb=2.0μmとすると、3層構造の積層構造における各層の厚さは、最下層の銀めっき層21が1.9μm、中間層のスズめっき層31が2.0μm、最表層の銀めっき層22が3.9μmとなる。これを加熱すると、厚さ5.5μmの銀−スズ合金層4の上に厚さ2μmの銀被覆層5が形成された状態となる。
スズめっき層の厚さaとしては、0.1〜20μmの範囲にあることが好ましい。銀被覆層の厚さbとしては0.1〜5μmの範囲にあることが好ましい。さらに、大電流用端子に用いるめっき部材としては、aが5〜30μmの範囲にあり、bが0.5〜1μmの範囲にあることが好ましい。
なお、記載は省略するが、積層構造が4層以上よりなる場合にも、同様の考え方を適用して、各銀めっき層およびスズめっき層の厚さを規定することができる。
積層構造は、連続めっきラインを使用して連続的に形成すれば、簡便かつ安価に作成することができる。これを加熱するだけで、銀−スズ合金層と銀被覆層が形成されるので、製造プロセス全体として、非常に簡便に上記のような銀−スズ合金層と銀被覆層を有するめっき部材を形成することができる。
スズめっき層と銀めっき層よりなる積層構造を加熱して銀−スズ合金層と銀被覆層を形成する際の加熱温度は180℃から300℃程度とすることが好ましい。そして、選択した加熱温度において合金化反応が十分に進行するように、加熱時間を適宜設定すればよい。
加熱温度は、特に180℃以上かつスズの融点(232℃)以下とすることが好ましい。スズの融点より低い温度では、合金化反応がスズめっき層と銀めっき層が接する界面からゆっくりと進行するため、めっき層面内で場所によって合金化の速度の差が生じにくく、組成及び厚さに関して面内の均一性が高い銀−スズ合金層が形成されるからである。また、銀−スズ合金層とスズ被覆層の界面も平滑に形成される。さらに、これらの結果として、銀被覆層も均一な厚さを有して形成され、最表面の平滑性も高くなる。
合金化がゆっくりと進行しすぎると、スズ層全体を合金化させるのに長い時間がかかってしまい、生産性に優れない。よって、より好ましい加熱温度は、200℃以上かつスズの融点以下である。200℃で加熱を行う場合の加熱時間としては、30分〜1時間を例示することができる。
スズの融点以上の温度で加熱を行う場合には、スズが銀めっき層中に高速で拡散し、合金を形成するため、めっき層の面内で、局所的に早く加熱され、スズが溶融する箇所が存在すると、その箇所で急速に合金化反応が進行することになり、銀−スズ合金が均一な組成と厚さを有して形成され難くなる。すると、めっき部材の面内で、銀−スズ合金が厚く形成された場所や薄くしか形成されていない場所、合金化しない純スズが残った場所、銀被覆層が厚い箇所や薄い箇所など、組成と構造に不均一性が生じやすい。その結果、摩擦係数や硬度、接触抵抗、耐熱性等の物性に、めっき部材面内で空間的な分布が生じてしまう。複数のめっき部材を形成する場合には、めっき部材ごとのこれらの物性のばらつきも大きくなってしまう。さらには、溶融したスズは容易に最表面にも拡散するので、最表面に銀−スズ合金及び/又はスズが露出してしまうことにもなり、表面の接触抵抗の上昇にもつながる。よって、スズの融点以上の温度で加熱を行う場合に、これらの事態を回避し、良質な銀−スズ合金層と銀被覆層の積層構造を形成するためには、加熱方法や加熱時間など、加熱の際のパラメータを精度よく、そして高い再現性をもって制御することが必要となる。以上の理由から、合金形成のための加熱はスズの融点以下で行うことが好ましい。
ただし、加熱方法や加熱時間を制御することで、上記のような事態が発生するのを回避すれば、スズの融点以上で合金形成を行ってめっき部材を形成することも可能である。例えば、290℃で1分間という加熱条件を示すことができる。
本発明にかかるコネクタ用めっき端子の製造方法としては、上記方法で製造しためっき部材を加工して端子形状を形成することも、端子形状に加工した母材を先に作成し、そこに上記方法によって端子表面の少なくとも一部にめっき層を形成することも可能である。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
清浄な銅基板の表面に、厚さ0.5μmのニッケル下地めっきを形成した。この表面に、目標値で厚さ1μmの軟質銀めっき層を形成した。その上に、目標値で厚さ1μmのスズめっき層を形成し、さらにその上に厚さ2μmの軟質銀めっき層を形成した。この材料を大気中において200℃で60分間加熱した。これを実施例1にかかるめっき部材とした。軟質銀めっき層及びスズめっき層の具体的な形成条件は以下のとおりであった。
<銀めっき層>
・Ag濃度45g/Lのめっき浴を使用
・操作温度:30℃
・電流密度:5ASD(2.5μm/分)
・めっき時間: 20〜30秒(めっき層の厚さ:1μm)、40〜60秒(めっき層の厚さ:2μm)
<スズめっき層>
・Sn濃度60g/Lのめっき浴を使用
・添加剤:40mL/L
・操作温度:40℃
・電流密度:5ASD(2.5μm/分)
・めっき時間:20〜30秒(めっき層の厚さ:1μm)
[実施例2]
実施例1と同様に、ニッケルめっきを施した銅基板の表面に目標値で厚さ1μmの軟質銀めっき層、厚さ1μmのスズめっき層、厚さ2μmの軟質銀めっき層をこの順に積層しためっき部材を、290℃で1分間加熱した。
[実施例3]
ニッケルめっきを施した銅基板の表面に厚さ1.5μmの軟質銀めっき層、厚さ1.0μmのスズめっき層、厚さ2.5μmの軟質銀めっき層をこの順に積層しためっき部材を、290℃で1分間加熱した。
[比較例1]
実施例1と同様のニッケル下地めっきを形成した銅基板に、厚さ8μmの軟質銀めっき層を形成し、比較例1にかかるめっき部材とした。
[比較例2]
実施例1と同様のニッケル下地めっきを形成した銅基板に、厚さ8μmの銀−スズ合金層を形成し、比較例2にかかるめっき部材とした。銀−スズ合金層は、銀−スズ合金めっき液(大和化成社製、商品名「ダイシンスター」)を使用して形成した。Ag濃度は35g/Lとし、温度25℃、電流密度1〜2ASD(0.3μm/分)の条件で、30分程度めっきを行った。
[比較例3]
実施例1と同様のニッケル下地めっきを形成した銅基板に、厚さ8μmの硬質銀めっき層を作成し、比較例1にかかるめっき部材とした。
[試験方法]
(層構造の評価)
実施例1〜3のめっき部材において、加熱前及び加熱後の層構造を評価するため、集束イオンビーム−走査イオン顕微鏡(FIB−SIM)を用いて、加熱前及び加熱後の実施例にかかるめっき部材の断面の観察を行った。
(加熱後のめっき部材の化学組成)
実施例1〜3にかかるめっき部材の加熱後における構成層の化学組成を調べるため、微小領域に対するオージェ電子分光(AES)測定を行い、めっき層中における元素の存在量比を見積もった。
(銀被覆層における微結晶の粒径の評価)
実施例1及び比較例1にかかるめっき部材の銀めっき層について、硬さの指標として、銀微結晶の平均粒径を見積もった。見積もりは、得られたFIB−SIM像を解析することによって行った。
(摩擦係数の評価)
実施例1及び各比較例のめっき部材について、動摩擦係数を評価した。つまり、平板型のめっき部材と半径3mmのエンボス形のめっき部材を鉛直方向に接触させて保持し、ピエゾアクチュエータを用いて鉛直方向に5Nの荷重を印加しながら、10mm/min.の速度でエンボス型のメッキ部材を水平方向に引張り、ロードセルを使用して接点部に働く摩擦力を測定した。摩擦力を荷重で割った値を摩擦係数とした。
(荷重−抵抗特性の評価)
加熱環境下での端子の使用に伴う接触抵抗の上昇の程度を見積もるため、荷重−抵抗特性の評価を行った。実施例1及び各比較例にかかるめっき部材について、接触抵抗を四端子法によって測定した。この際、開放電圧を20mV、通電電流を10mA、荷重印加速度を0.1mm/min.とし、0〜40Nの荷重を往復で印加した。また、電極として、板状のめっき部材と半径3mmのエンボス形のめっき部材を使用した。この荷重−抵抗特性の評価を、作成直後のめっき部材に対して行った。次いで、めっき部材を大気中150℃で120時間放置し(以下、この条件を「高温放置」と称する場合がある)、放置後のめっき部材に対しても室温に放冷後、同様に荷重−抵抗特性の評価を行った。さらに、荷重10Nにおける接触抵抗値について、初期(高温放置前)から高温放置後に上昇した値を、抵抗上昇値とした。比較例1〜3のめっき部材についても、同様の測定を行った。ここで、10Nという荷重は、一般的な大電流用端子において接点部に及ぼされる荷重を近似した値である。
(高温放置前後の硬さの評価)
本発明にかかる製造方法で製造しためっき部材の硬さが、初期値としてどの程度であり、高温放置によってどのように変化するのかを調べるための測定を行った。実施例1にかかるめっき部材について、大気中150℃で120時間放置する前と後の硬さを、ビッカース硬さ計を用いて測定した。比較例1〜3のめっき部材についても、同様の測定を行った。
[試験結果及び考察]
(加熱前のめっき部材の層構造の評価)
図3(a)に、実施例1にかかるめっき部材の加熱前の断面のFIB−SIM像を示す。めっき層が、下から1.9μm、1.9μm、2.9μmの厚さを有する3層よりなっている。それぞれ、銀めっき層、スズめっき層、銀めっき層に対応するものであり、加熱前においては、合金化等が進行せず、作成した積層構造が維持されている。これらの層の厚さは、上記で過不足なく合金化反応が進行するスズめっき層と銀めっき層の厚さの比に基づいて導出した理想的な各層の厚さの関係にほぼ合致するものである。
実施例2のめっき部材についても、加熱前のめっき部材を実施例1と同様に形成しており、同様の積層構造が観察された。また、実施例3のめっき部材については下から厚さ1.5μmの銀めっき層、厚さ1.0μmのスズめっき層、厚さ2.5μmの銀めっき層が合金化せずに積層されているのが確認された。これは、過不足なく合金化反応が進行するスズめっき層と銀めっき層の厚さの比に比べて、スズめっき層が薄い状態に当たる。
(加熱後のめっき部材の層構造の評価及び化学組成)
加熱した後の実施例1にかかるめっき部材について、断面のFIB−SIM像を図3(b)に示す。断面の層構造の構成は、加熱前と比べて大きく変化している。下から、厚さ1.1μm、3.4μm、1.9μmの層が形成されている。後に示す化学組成の分析結果と合わせて、中層に位置して最も大きな割合を占める厚さ3.4μmの層は、銀−スズ合金層である。最表面の厚さ1.9μmの層は、銀よりなる銀被覆層である。銀−スズ合金層と銀被覆層の間には、明確な界面が形成されている。また、最下層の1.1μmの層は、化学組成分析の結果によると、ニッケル−スズ合金よりなる。ニッケル−スズ合金層と、銀−スズ合金層の間にも、明確な界面が形成されている。界面においてニッケル−スズ合金層と銀−スズ合金層は強固に密着している。
図3(b)において銀−スズ合金層であると考える箇所について、AES測定を行ったところ、少量の不純物由来のピークを除いては、Agのピークと、Snのピークのみが観測された。銀とスズのピーク強度をオージェ電子放出断面積で規格化することによって、全存在元素中に占めるこれらの元素の存在量を算出したところ、銀が79.7%、スズが20.3%となった。つまり、Ag:Sn=4:1となった。これより、銀−スズ合金層が、AgSnの組成を有する銀−スズ合金よりなることが明らかになった。
銀−スズ合金として一般に知られている組成は、AgSnであるが、実施例1のめっき部材について観測されたAgSnの組成を有する合金も、X線回折データベースには報告されており、銀めっき層とスズめっき層の積層構造の加熱により、安定な銀−スズ合金層が形成されていると考えられる。
一方、最上層についても、AES測定を行ったところ、Agのピークのみが観測され、最上層が銀よりなる被覆層であることが分かった。さらに、最下層についても、AES測定を行ったところ、この層において銀−ニッケル層が形成されていることが明らかになった。
次に、加熱した後の実施例2及び実施例3にかかるめっき部材の断面のFIB−SIM像を図4(a)及び(b)に示す。実施例2のめっき部材については、実施例1のめっき部材と異なり、平坦な層界面を有する積層構造が形成されていない。組成分析の結果と併せて、各層の構成を示すと、ニッケル下地層の上に厚さ1.1μmのニッケル−スズ合金(NiSn)層が形成され、その上に、約2μmの厚さを有するスズ層が形成されている。このスズ層の中に、別の物質よりなる粒径0.5〜2μm程度の粒状のドメインが見られるが、これは、銀−スズ合金よりなるものである。このスズと銀−スズ合金が混在する層の上には、平均の厚さが1.9μmである銀被覆層が形成されている。
図4(b)の実施例3のめっき部材については、ニッケル下地層の上に、厚さ1.5μmの銀層、厚さ2.7μmの銀−スズ合金(AgSn)層、厚さ2.4μmの銀層が順に形成されている。各層の界面は、比較的平坦であり、各層の厚みの均一性も高い。
実施例1と実施例2とでは、加熱前のスズめっき層と銀めっき層の積層構造の構成は同じであり、加熱時間と加熱温度において異なる。実施例1においては、スズの融点以下の温度でゆっくりと合金化反応を進めたため、面内で均一な構成を有し、また層界面が平滑に形成されている。一方、実施例2においては、スズの融点以上の温度で合金化反応を急激に進めたため、均一な銀−スズ合金が形成されておらず、スズよりなる部分と銀−スズ合金よりなる部分が混在した状態になっている。加えて、銀被覆層の厚みも均一でなく、各層の界面及び銀被覆層の最表面も平滑でない。
このように、実施例2においては、合金化しないスズよりなる部分が形成されたが、このような状態を回避するため、実施例2に比べて加熱前のスズめっき層に対する銀めっき層の割合を大きくし、実施例2と同じ加熱温度、加熱時間を適用したものが実施例3である。すると、銀の割合が大きいことで、厚さの均一な銀−スズ合金層が形成されるようになってはいるものの、余剰の銀がニッケル下地層と銀−スズ合金層の界面に残っている。
以上の実施例1〜3の相互の比較より、空間的に均一で、銀被覆層との間に平滑な界面を有する銀−スズ合金層を形成し、かつ過不足なく合金化を進めるためには、銀めっき層とスズめっき層の積層構造をスズの融点以下の温度で長時間かけて加熱する方が好ましいことが分かった。
(銀被覆層における微結晶の粒径の評価)
図3(c)は、実施例1のめっき部材について、加熱後に得られた銀被覆層の中の箇所を拡大観察したFIB−SIM像である。これを見ると、銀被覆層が、粗大な結晶粒の集合体よりなっていることが分かる。
さらに、図5(b)像をもとに、微結晶の粒径を定量的に評価した。つまり、画像中に引いたある長さの直線が横切る微結晶を計数し、直線の長さを微結晶の数で割ることで微結晶の平均粒径を算出した。その結果、銀微結晶の平均粒径は、1.67μmとなった。
銀微結晶の粒径と硬さの間には強い相関がある。めっき層を構成する銀微結晶の粒径が大きくなるほど、そのめっき層は軟らかくなる。そこで、上記の実施例1にかかるめっき部材における結晶粒径と比較するため、比較例1にかかる軟質銀めっき層の断面についても、同様にして銀微粒子の平均粒径を見積もると、銀微結晶の平均粒径は、0.89μmとなった。実施例1における1.67μmという銀微結晶の粒径は、この軟質銀めっき層の銀微結晶の粒径よりも大きいものであるので、実施例1のめっき部材において、銀被覆層は、軟質銀よりなると結論される。
(摩擦係数の評価)
表1に、実施例1及び各比較例のめっき部材について、摩擦係数の測定結果を示す。
実施例1のめっき部材については、約0.5の摩擦係数が観測された。一方、比較例1の軟質銀よりなるめっき部材については、0.9もの摩擦係数が観測されている。つまり、ニッケル下地めっきの上に軟質銀めっき層のみが形成された場合よりも、銀−スズ合金層が形成された上に軟質銀めっき層が形成されためっき部材において、摩擦係数が小さくなっている。
比較例2にかかる銀−スズ合金が最表面に形成されためっき材部材及び比較例3にかかる硬質銀めっき層のみが形成されためっき部材についても、同様に摩擦係数測定を行った。銀−スズ合金が最表面に形成されためっき材部材の摩擦係数は0.3、硬質銀めっき層のみが形成されためっき部材の摩擦係数も0.3となった。実施例1にかかるめっき部材の摩擦係数は、これらよりは大きくなっているが、大電流用端子を構成するめっき部材に求められる0.5以下という摩擦係数の基準は満たしている。
(荷重−抵抗特性の評価)
表2に、実施例1及び最表面に銀−スズ合金が露出した比較例2にかかるめっき部材の高温放置前後の荷重10Nで測定した接触抵抗値と、その上昇値を示す。
高温放置前後を通じて、実施例1のめっき部材の接触抵抗値は、比較例2のめっき部材の接触抵抗値よりも小さくなっている。特に、高温放置後においては、比較例2において測定限界を超えて接触抵抗値が大きくなっているのに対し、実施例1では、小さな値に留まっている。
高温放置後の抵抗上昇値は、実施例1の場合で0.5mΩ以下であるのに対し、比較例2の場合で、8mΩ以上となっている。つまり、銀−スズ合金めっき層が銀被覆層に覆われていることで、高温放置による接触抵抗の上昇が10分の1以下にまで抑制されている。これは、銀−スズ合金層を構成するスズが最表面において酸化され、抵抗値を上昇させることが、銀被覆層の存在によって防止されているためであると解される。
比較例1にかかる軟質銀めっき層のみが形成されためっき部材、比較例3にかかる硬質銀めっき層のみが形成されためっき部材についても、同様に高温放置による接触抵抗の上昇値を評価した。その結果、10Nの負荷で計測した抵抗上昇値は、軟質銀めっき層のみが形成されためっき部材については0mΩ(検出限界以下)、硬質銀めっき層のみが形成されためっき部材については10mΩ以上となった。硬質銀めっき層においては、アンチモンが添加されており、母材の銅やアンチモンが高温放置時に最表面に拡散し、酸化されることで抵抗上昇が大きくなると考えられる。軟質銀めっき層においては、本発明の実施例の場合と同様に、そのような酸化物の形成は起こらない。
(高温放置前後の硬さの評価)
高温放置の前後で測定した実施例1のめっき部材についてのビッカース硬さを測定した。1000mNの試験荷重において、初期(高温放置前)のめっき部材では、ビッカース硬さが155Hvであった。
一方、高温放置後のビッカース硬さは、190Hvであった。つまり、高温放置によって初期と比べて、ビッカース硬度が上昇している。この結果より、本発明にかかる製造方法によって製造されためっき部材は、高温放置によって軟化を起こさないことが明らかになった。むしろ硬化しているのは、一部未反応のまま残ったスズと銀の合金化が高温放置によって進行するためであると考えられる。
(まとめ)
銀めっき層とスズめっき層を最表層を銀めっき層として交互に積層し、加熱することで、銀−スズ合金層と銀被覆層を有するめっき部材が形成されることが明らかになった。
上記の試験により得られた、実施例1及び比較例1〜3のめっき部材について得られた高温放置による接触抵抗上昇値、ビッカース硬さ及び高温放置前後の摩擦係数、高温放置後の硬度の挙動を、大電流用端子を構成するめっき部材として望ましい値とともに、表3にまとめる。
本発明にかかる実施例1においては、最表面が純度の高い軟質銀で被覆されているため、比較例1の軟質銀めっきのみが形成されている場合と同様に、高温放置による抵抗値の上昇が低く抑えられている。比較例2や比較例3の場合に、最表面にスズ酸化物やアンチモン酸化物、銅酸化物が高温放置時に形成されて、表面抵抗を上昇させるのとは異なる。本発明の製造方法によって製造されためっき部材は、このように低い抵抗上昇値を有することにより、高い耐熱性を獲得している。
ビッカース硬さについては、実施例1のめっき部材においては、非常に柔らかい軟質銀よりなる銀被覆層を構造中に含んでいるにもかかわらず、それよりも厚い非常に硬い銀−スズ合金層を有することで、高いビッカース硬さが得られている。さらに、実施例1のめっき部材は、高温放置後にも硬度が低下せず、硬さの維持という点においても高い耐熱性を有している。
また、本発明の製造方法によって製造されためっき部材においては、単体では高い摩擦係数を示す軟質銀が最表面を構成しているにもかかわらず、硬い銀−スズ合金層がその下に形成されているため、低い摩擦係数が達成されている。
大電流用端子を構成するめっき部材に要求される抵抗上昇値、ビッカース硬さ、摩擦係数、高温放置後の硬度の挙動を全てを満たすのは、4つのめっき材のうち、実施例1にかかるめっき部材のみである。つまり、本発明の製造方法によって製造されためっき部材は、大電流用端子の材料として優れている。
1 母材
21、22 銀めっき層
31、32 スズめっき層
4 銀−スズ合金層
5 銀被覆層

Claims (8)

  1. 銅又は銅合金よりなる母材の表面に接触させてニッケル下地めっき層を形成し、最下層および最表層を銀めっき層としてスズめっき層と銀めっき層とを交互に積層した積層構造を前記ニッケル下地めっき層に接触させて形成した後に、加熱を行い、前記母材の表面を被覆する銀−スズ合金層と、前記銀−スズ合金層を被覆し、最表面に露出する銀被覆層とを形成することを特徴とするめっき部材の製造方法。
  2. 前記積層構造は、最下層の銀めっき層と、中間層のスズめっき層と、最表層の銀めっき層の3層よりなることを特徴とする請求項1に記載のめっき部材の製造方法。
  3. 前記最表層の銀めっき層は、前記最下層の銀めっき層よりも厚いことを特徴とする請求項2に記載のめっき部材の製造方法。
  4. 前記最表層の銀めっき層は、前記中間層のスズめっき層よりも厚いことを特徴とする請求項2また3に記載のめっき部材の製造方法。
  5. 前記最下層の銀めっき層の厚さは0.5〜15μmの範囲内にあり、前記中間層のスズめっき層の厚さは0.5〜15μmの範囲内にあり、前記最表層の銀めっき層の厚さは1〜30μmの範囲内にあることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のめっき部材の製造方法。
  6. 前記スズめっき層と前記銀めっき層よりなる積層構造の加熱を、180℃以上かつスズの融点以下の温度で行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のめっき部材の製造方法。
  7. 銅又は銅合金よりなる母材の表面に接触させてニッケル下地めっき層を形成し、最下層および最表層を銀めっき層としてスズめっき層と銀めっき層とを交互に積層した積層構造を前記ニッケル下地めっき層に接触させて形成した後に、加熱を行い、前記母材の表面を被覆する銀−スズ合金層と、前記銀−スズ合金層を被覆し、最表面に露出する銀被覆層とを形成することを特徴とするコネクタ用めっき端子の製造方法。
  8. 前記スズめっき層と前記銀めっき層よりなる積層構造の加熱を、180℃以上かつスズの融点以下の温度で行うことを特徴とする請求項7に記載のコネクタ用めっき端子の製造方法。
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