JP5454127B2 - 光学部材および光学フィルタ - Google Patents

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Description

本発明は、近赤外線遮断効果を有するフィルム状または薄板状の光学部材、および光学フィルタに関する。
近年、様々な分野で、可視波長領域(420〜630nm)の光は透過するが、近赤外波長領域(700〜1200nm)の光は遮断する光学フィルタあるいはフィルムが使用されている。
例えば、固体撮像素子(CCD、CMOS等)を用いたデジタルスチルカメラ、デジタルビデオ等や、受光素子を用いた自動露出計等においては、固体撮像素子または受光素子の感度を人間の視感度に近づけるため、撮像レンズと固体撮像素子または受光素子との間にそのような光学フィルタを配置している。また、PDP(プラズマディスプレイパネル)においては、近赤外線で作動する家電製品用リモコン装置の誤作動を防止するため、その前面(視認側)に光学フィルタを配置している。
従来、上記光学フィルタまたはフィルムとしては、近赤外波長領域の光を選択的に吸収するように、フツリン酸塩系ガラスや、リン酸塩系ガラスにCuO等を添加したガラスフィルタや、基板上に、例えば酸化シリコン(SiO)層と酸化チタン(TiO)層とを交互に積層し、光の干渉によって近赤外波長領域の光を反射して遮断する反射型の干渉フィルタ、透明樹脂中に近赤外波長領域の光を吸収する色素を含有させたフィルム等が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
しかしながら、光吸収型のガラスフィルタは、高価である上に、薄型化が困難であり、近年の撮像装置の小型化・薄型化要求に十分に応えることができないという問題がある。また、光を反射する層を形成した反射型のフィルタは、遮断特性が光の入射角度により変わり、画像の中央部と周辺部で色特性が変化するという問題がある。また、反射した光が迷光となり固体撮像素子に入射することによるゴーストと呼ばれる多重像が発生しやすいという問題もある。
これに対し、近赤外波長領域の光を吸収する色素を含有させたフィルムは、加工が容易で小型化・薄型化が可能であり、反射型フィルタのような入射角度等の問題もない。加えて、フィルムはその形態から、固体撮像素子等に直接貼り付けることが可能であり、装置のさらなる小型化・薄型化を図ることができるという利点もある。しかしながら、このフィルムは、近赤外線遮断特性の点で改善すべき余地があった。
特開2008−181028号公報 特開2008−303130号公報
本発明は、製造コストが安く、十分な小型化、薄型化を図ることができ、また、反射型フィルタのような入射角度等の問題がなく、しかも、近赤外線遮断特性にも十分に優れるフィルム状または薄板状の光学部材、および光学フィルタを提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る光学部材は、フィルム状または薄板状の光学部材であって、少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子からなり、数平均凝集粒子径が5〜200nmである近赤外線吸収粒子を含有することを特徴としている。
上記光学部材において、前記酸化物は、下式(1)で表わされる化合物(例えば、LiCuPO、Mg1/2CuPO等)であってよい。
1/nCuPO …(1)
(式中、Aは、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)およびNHからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、添字のnは、Aがアルカリ金属またはNHの場合は1であり、Aがアルカリ土類金属の場合は2である。)
上記光学部材において、前記近赤外線吸収粒子は、X線回折から求めた結晶子の大きさが、5〜80nmであってよい。
上記光学部材において、前記近赤外線吸収粒子は、下式(2)で表わされる反射率の変化量Dが、−0.41%/nm以下であってよい。
D(%/nm)=[R700(%)−R600(%)]/[700(nm)−600(nm)] …(2)
(式中、R700は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長700nmの反射率であり、R600は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長600nmの反射率である。)
上記光学部材において、前記近赤外線吸収粒子は、拡散反射スペクトルにおける波長715nmの反射率が、19%以下であり、かつ波長500nmの反射率が、85%以上であってよい。
上記光学部材において、前記近赤外線吸収粒子は、顕微IRスペクトルにおいて、リン酸基に帰属される1000cm−1付近のピークの吸収強度を基準(100%)とした際に、水に帰属される1600cm−1付近のピークの吸収強度が8%以下であり、かつ水酸基に帰属される3750cm−1付近のピークの吸収強度が26%以下であってよい。
上記光学部材において、前記近赤外線吸収粒子の含有量が、20〜60質量%であってよい。
上記光学部材において、少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線吸収粒子をさらに含有してもよい。
上記光学部材において、前記少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線吸収粒子の含有量が、0.5〜30質量%であってよい。
上記光学部材において、前記少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線吸収粒子としては、ITO粒子を含んでもよい。
上記光学部材において、透明樹脂をさらに含有してもよい。
上記光学部材において、前記透明樹脂の含有量が、40〜80質量%であってよい。
上記光学部材において、厚さが0.03〜0.5mmであってよい。
上記光学部材において、下式(3)で表わされる透過率の変化量D’が、−0.36%/nm以下であってよい。
D’(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(3)
(式中、T700は、透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。)
本発明の一態様に係る光学フィルタは、撮像装置用の光学フィルタであって、上記光学部材からなることを特徴としている。
本発明の一態様に係る光学部材、また、本発明の一態様に係る光学フィルタによれば、製造コストが安く、十分な小型化、薄型化を図ることができ、また、反射型フィルタのような入射角度等の問題がなく、かつ、十分に優れた近赤外線遮断特性を有することができる。
本発明において使用される近赤外線吸収粒子のX線回折の一例を示す図である。 本発明の一実施例の透過スペクトルを示す図である。 本発明の他の実施例の近赤外線吸収層(I)+近赤外線吸収層(II)の透過スペクトルを示す図である。 本発明の他の実施例の近赤外線吸収層(II)の透過スペクトルを示す図である。 本発明の他の実施例の透過スペクトルを示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の光学部材は、近赤外線吸収粒子を含有するフィルム状または薄板状の光学部材である。
本発明に用いられる近赤外線吸収粒子は、少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子からなり、数平均凝集粒子径が5〜200nmのものであり、好ましくは、前述した式(1)で表わされる化合物の結晶子からなり、数平均凝集粒子径が5〜200nmのものである。結晶子を吸収物質として使用することにより、結晶構造に起因する近赤外線吸収特性を維持することができる。また、結晶子は微粒子であるため、光学部材中に高濃度で吸収物質を含有させることが可能となり、単位長あたりの吸収能を高めることができる。
ここで、「結晶子」とは単結晶とみなせる単位結晶を意味し、「粒子」は複数の結晶子によって構成される。「式(1)で表わされる化合物の結晶子からなる」とは、例えば、図1に示すように、X線回折によってA1/nCuPOの結晶構造を確認でき、実質的にA1/nCuPOの結晶子からなることがX線回折によって同定されていることを意味し、「実質的にA1/nCuPOの結晶子からなる」とは、結晶子がA1/nCuPOの結晶構造を十分に維持できる(X線回折によってA1/nCuPOの結晶構造を確認できる)範囲内で不純物を含んでいてもよいことを意味する。なお、X線回折は、粉末状態の近赤外線吸収粒子について、X線回折装置を用いて測定される。
近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径は、200nm以下であり、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましい。また、近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径は、5nm以上であり、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。数平均凝集粒子径が5nm以上であれば、微粒子化のため過剰な粉砕処理を必要とせず、結晶子がA1/nCuPOの結晶構造を維持でき、その結果、近赤外線吸収特性を発現できる。また、数平均凝集粒子径が200nmを超えると、ミー散乱を含めた散乱の影響を大きく受けるため、可視波長帯の光の透過率が大きく減少し、コントラストやヘーズ等の性能が低下する。数平均凝集粒子径が100nm以下であれば、散乱の影響が少なくなり、特に70nm以下であれば、レイリー散乱に起因する散乱光の影響も受けにくくなるため、透明性が高くなる。数平均凝集粒子径が30〜70nmであれば、ヘーズが低くなり(すなわち、透過率が高くなり)、光学部材の性能がより向上する。ここで、数平均凝集粒子径は、近赤外線吸収粒子を水、アルコール等の分散媒に分散させた粒子径測定用分散液について、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
なお、光学部材に要求されるヘーズ特性は、用途(使用する装置)や配置場所等により異なり、例えば撮像装置の場合、ヘーズ値は1%以下に制御することが好ましく、ヘーズ値が1%を超えると画像が不鮮明になる。ヘーズ値は0.2%以下に制御することがより好ましい。また、例えば表示装置の場合、ヘーズ値は10%以下に制御することが好ましく、ヘーズ値が10%を超えると画像のコントラストが不良となる。ヘーズ値は5%以下に制御することがより好ましい。
近赤外線吸収粒子における結晶子の大きさは、5〜80nmであることが好ましく、10〜80nmであることがより好ましい。結晶子の大きさが5nm以上であれば、結晶子がA1/nCuPOの結晶構造を十分に維持でき、その結果、十分な近赤外線吸収特性を発現できる。結晶子の大きさが80nm以下であれば、近赤外線吸収粒子の数平均凝集粒子径を小さく抑えることができ、ヘーズを低く抑えることができる。なお、結晶子の大きさは、近赤外線吸収粒子についてX線回折を行い、シェラーの方法により計算によって求めた値である。
式(1)中のAとして、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)、またはNHを採用する理由は、下記の(i)〜(iii)の通りである。
(i)近赤外線吸収粒子における結晶子の結晶構造は、PO 3−とCu2+との交互結合からなる網目状三次元骨格であり、骨格の内部に空間を有する。該空間のサイズが、アルカリ金属イオン(Li:0.090nm、Na:0.116nm、K:0.152nm、Rb:0.166nm、Cs:0.181nm)、アルカリ土類金属イオン(Mg2+:0.086nm、Ca2+:0.114nm、Sr2+:0.132nm、Ba2+:0.149nm)およびNH (0.166nm)のイオン半径と適合するため、結晶構造を十分に維持できる。
(ii)アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンおよびNH は、溶液中で1価または2価のカチオンとして安定的に存在できるため、近赤外線吸収粒子の製造過程において、前駆体が生成する際、結晶構造中にカチオンが取り込まれやすい。
(iii)PO 3−と配位結合性の強いカチオン(例えば、遷移金属イオン等)では、十分な近赤外線吸収特性を発現する本発明における結晶構造とは異なる結晶構造を与える可能性がある。
Aとしては、PO 3−とCu2+とからなる骨格内に取り込まれるイオンとして最もカチオンサイズが適し、熱力学的な安定構造をとる点から、Kが特に好ましい。
近赤外線吸収粒子は、下式(2)で表わされる反射率の変化量Dが、−0.41%/nm以下であることが好ましく、−0.45%/nm以下であることがより好ましい。
D(%/nm)=[R700(%)−R600(%)]/[700(nm)−600(nm)] …(2)
式中、R700は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長700nmの反射率であり、R600は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長600nmの反射率である。
粉体に光吸収がある拡散反射スペクトル測定では、光吸収波長において光路長により光吸収の強度が異なるため、透過スペクトルでの弱い吸収帯が比較的強く観測される。そこで、本明細書中での反射率の変化率算出は、透過スペクトルでの透過率変化と同等に反射率が変化する範囲である600nmと700nmの反射率の値を用いる。
近赤外線吸収粒子の反射率が高いということは、近赤外線吸収粒子による光の吸収が少なく、近赤外線吸収粒子の反射率が低いということは、近赤外線吸収粒子による光の吸収が多いことを示している。すなわち、近赤外線吸収粒子の反射率は、近赤外線吸収粒子の透過率の目安となる。
よって、前記反射率の変化量Dが−0.41%/nm以下であれば、波長630〜700nmの間における透過率の変化が十分に急峻となり、これを含有する光学部材は、例えばカメラ等の近赤外線吸収材に好適となる。
また、近赤外線吸収粒子は、拡散反射スペクトルにおける波長715nmの反射率が、19%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましい。また、近赤外線吸収粒子は、拡散反射スペクトルにおける波長500nmの反射率が、85%以上であることが好ましく、86%以上であることがより好ましい。なお、拡散反射スペクトルは、粉末状態の近赤外線吸収粒子について、紫外可視分光光度計を用いて測定される。
近赤外線吸収粒子は、結晶子がA1/nCuPOの結晶構造を十分に維持することによって、十分な近赤外線吸収特性を発現できる。よって、結晶子の表面に水または水酸基が付着した場合、A1/nCuPOの結晶構造を維持できなくなるため、可視光領域と近赤外波長領域の光の透過率の差が減少し、これを含有する光学部材は、例えばカメラ等の近赤外線吸収材に適さない。
よって、近赤外線吸収粒子は、顕微IRスペクトルにおいて、リン酸基に帰属される1000cm−1付近のピークの吸収強度を基準(100%)とした際に、水に帰属される1600cm−1付近のピークの吸収強度が8%以下であり、かつ水酸基に帰属される3750cm−1付近のピークの吸収強度が26%以下であることが好ましく、水に帰属される1600cm−1付近のピークの吸収強度が5%以下であり、かつ水酸基に帰属される3750cm−1付近のピークの吸収強度が15%以下であることがより好ましい。なお、顕微IRスペクトルは、粉末状態の近赤外線吸収粒子について、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定される。具体的には、例えば、Thermo Fisher Scientific社製のフーリエ変換赤外分光光度計Magna760を用い、そのダイヤモンドプレート上に、近赤外線吸収粒子の1片を置き、ローラーで平坦にし、顕微FT−IR法により測定する。
また、近赤外線吸収粒子においては、A1/nCuPO以外の結晶構造、例えば、A1/nCu(POが増えると、波長630〜700nmの間における透過率の変化が緩慢となり、これを含有する光学部材は、例えばカメラ等の近赤外線吸収材に適さない。よって、X線回折によって実質的にA1/nCuPOの結晶子からなることが同定されていることが必要である。
以上説明した、本発明において使用される近赤外線吸収粒子は、A1/nCuPOで表わされる化合物の結晶子からなり、かつ数平均凝集粒子径が5〜200nmであるため、可視波長領域の光の透過率が高く、近赤外波長領域の光の透過率が低く、かつ波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する。
上記近赤外線吸収粒子は、例えば下記の工程(a)〜(c)を有する方法により製造することができる。
(a)Cu2+を含む塩と、PO 3−を含む塩または有機物とを、Cu2+に対するPO 3−のモル比(PO 3−/Cu2+)が10〜20となるような割合で、かつAn+の存在下に混合する工程
(b)工程(a)で得られた生成物を560〜760℃で焼成する工程
(c)工程(b)で得られた焼成物を、数平均凝集粒子径が5〜200nmとなるように解砕する工程
[工程(a)]
Cu2+を含む塩としては、硫酸銅(II)五水和物、塩化銅(II)二水和物、酢酸銅(II)一水和物、臭化銅(II)、硝酸銅(II)三水和物等が挙げられる。
PO 3−を含む塩または有機物としては、アルカリ金属のリン酸塩、リン酸のアンモニウム塩、アルカリ土類金属のリン酸塩、リン酸等が挙げられる。
アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩としては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物、リン酸リチウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム三水和物、リン酸マグネシウム八水和物等が挙げられる。また、リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム四水和物、リン酸アンモニウム三水和物等が挙げられる。
n+を存在させる方法としては、PO 3−を含む塩としてアルカリ金属のリン酸塩、リン酸のアンモニウム塩、アルカリ土類金属のリン酸塩等を用いる方法;Cu2+を含む塩とPO 3−を含む塩または有機物とを混合する際に、An+を含む塩を添加する方法等が挙げられる。
n+を含む塩としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、アルカリ金属の臭化物、アルカリ土類金属の臭化物、アルカリ金属の硝酸塩、アルカリ土類金属の硝酸塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ土類金属の硫酸塩等が挙げられる。
Cu2+を含む塩とPO 3−を含む塩または有機物との混合は、Cu2+を含む塩、PO 3−を含む塩、必要に応じてAn+を含む塩を溶解し得る溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、水が好ましい。
Cu2+を含む塩とPO 3−を含む塩または有機物との割合は、Cu2+に対するPO 3−のモル比(PO 3−/Cu2+)が10〜20、好ましくは12〜18となるような割合とする。PO 3−/Cu2+が10以上であれば、A1/nCu(POが副生しない、または副生したとしてもその量が、結晶子がA1/nCuPOの結晶構造を十分に維持できる程度であるため、波長630〜700nmの間における透過率の変化が十分に急峻となる近赤外線吸収粒子が得られる。PO 3−/Cu2+が20以下であれば、A1/nCuPO以外の不純物が副生しない、または副生したとしてもその量が、結晶子がA1/nCuPOの結晶構造を十分に維持できる程度であるため、波長630〜700nmの間における透過率の変化が十分に急峻となる近赤外線吸収粒子が得られる。
Cu2+を含む塩とPO 3−を含む塩または有機物とを混合する際の温度は、10〜95℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。温度が高すぎると、溶媒の蒸発による溶質の濃縮が生じ、目的とする生成物以外の不純物が混入するおそれがある。温度が低すぎると、反応速度が遅くなり、反応時間が長くなるため、工程上好ましくない。
生成物は、濾過等によって分離された後、必要に応じて、洗浄、乾燥、乾式粉砕される。工程(b)における焼成の際に、水を介した粒子の固着を抑え、粒子の成長を抑える点から、有機溶媒で生成物を洗浄し、生成物に含まれる水分を除去することが好ましい。
[工程(b)]
焼成温度は、560〜760℃が好ましく、580〜750℃がより好ましい。焼成温度が560℃以上であれば、構造相転移により結晶構造が変化し、構造相転移後の結晶構造は室温に冷却した後も維持される。焼成温度が760℃以下であれば、加熱分解が抑えられる。なお、焼成温度が低すぎると、前記温度範囲で焼成した場合と結晶構造が異なってしまい、十分な分光特性が得られないおそれがある。
焼成の際には、粒子の成長を抑える点から、被焼成物(工程(a)で得られた生成物)を流動させることが好ましい。被焼成物を流動させながら焼成できる装置としては、ロータリーキルン炉等が挙げられる。
[工程(c)]
解砕方法としては、公知の乾式粉砕法または湿式粉砕法が挙げられ、数平均凝集粒子径を200nm以下としやすい点から、湿式粉砕法が好ましい。乾式粉砕法としては、ボールミル、ジェットミル、ミル型粉砕機、ミキサー型粉砕機等を用いる方法等が挙げられる。湿式粉砕法としては、湿式ミル(ボールミル、遊星ミル等)、クラッシャー、乳鉢、衝撃粉砕装置(ナノマイザー等)、湿式微粒子化装置等を用いる方法等が挙げられ、湿式微粒子化装置を用いる方法が好ましい。
湿式粉砕法の場合、工程(b)で得られた焼成物を分散媒に分散させて解砕用分散液とする必要がある。分散媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、アルデヒド等が挙げられる。分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。分散媒としては、作業環境の点から、水またはアルコールが好ましく、解砕用分散液に高圧力をかける場合は、水が特に好ましい。分散媒の量は、焼成物の分散性を維持する点から、解砕用分散液(100質量%)のうち、50〜95質量%が好ましい。水としては、なかでも蒸留水が好ましく、特に、電気伝導率が1.0×10−4S/m以下のものが好ましい。また、アルコールとしては、特に、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
解砕物は、必要に応じて、遠心分離等によって分散液から分離された後、洗浄、乾燥、乾式粉砕される。乾燥方法としては、加熱乾燥法、スプレードライ法、凍結乾燥法、真空乾燥法等が挙げられる。
以上のようにして得られた近赤外線吸収粒子は、耐候性、耐酸性、耐水性等の向上や表面改質によるバインダ樹脂との相溶性の向上を目的に、公知の方法で表面処理されてもよい。
表面処理の方法としては、近赤外線吸収粒子を含む分散液中に、表面処理剤または溶媒で希釈した表面処理剤を添加し、撹拌して処理した後、溶媒を除去し乾燥させる方法(湿式法);近赤外線吸収粒子を撹拌しながら、表面処理剤または溶媒で希釈した表面処理剤を、乾燥空気または窒素ガスで噴射させて処理した後、乾燥させる方法(乾式法)が挙げられる。表面処理剤としては、界面活性剤、カップリング剤等が挙げられる。
光学部材中の上記近赤外線吸収粒子の含有量は、20〜60質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。近赤外線吸収粒子の含有量が20質量%以上であれば、十分な近赤外線吸収特性が得られる。また、近赤外線吸収粒子の含有量が60質量%以下であれば、可視波長領域の光の透過率を高く維持できる。
光学部材には、少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線ないし赤外線吸収材を含有させることができる。この場合、上記近赤外線吸収粒子および/または上記少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線ないし赤外線吸収材を含む層の多層構造とすることができる。
上記少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線ないし赤外線吸収材としては、ITO(In−TiO系)、ATO(ZnO−TiO系)、ホウ化ランタン等の無機微粒子、有機系色素等が挙げられる。なかでも、ITO粒子は、可視波長領域の光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域も含めた広範囲の光吸収性を有するため、赤外波長領域の光の遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。ITO粒子は、光学部材中に、0.5〜30質量%含有させることが好ましく、1〜30質量%含有させることがより好ましい。含有量が0.5質量%以上であれば、赤外波長領域の光の遮蔽性に対し一定の効果が得られる。また、ITO粒子の含有量が30質量%以下であれば、可視波長領域の光に吸収を示さず、透明性を保持できる。
ITO粒子の数平均凝集粒子径は、散乱を抑制し、透明性を維持する点から、5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、5〜60nmであることがより一層好ましい。
なお、有機系色素としては、例えば、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物等が使用できる。
光学部材には、また、紫外線吸収材等の他の光吸収材を含有させることができる。紫外線吸収材としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の粒子が挙げられる。他の光吸収材の数平均凝集粒子径は、透明性の点から、5〜200nm以下であることが好ましく、5〜100nm以下であることがより好ましく、5〜60nmであることがより一層好ましい。
光学部材には、さらに、透明樹脂等のマトリクス材を含有させることができる。透明樹脂を含有させることにより、光学部材の製造が容易になるとともに、その耐久性を高めることができる。
透明樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型アクリル系樹脂、シルセスキオキサン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。透明性の点から、なかでも、アクリル樹脂またはポリエステル系樹脂が好ましい。
また、透明樹脂以外のマトリクス材としては、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の無機材料が挙げられる。
このマトリクス材の光学部材中の含有量は、40〜80質量%であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましい。マトリクス材の含有量が40質量%以上であれば、十分な強度が得られ、また、80質量%以下であれば、十分な近赤外線吸収特性を維持できる。
光学部材には、上記成分の他に、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が含有されていてもよい。
本発明の光学部材は、例えば、以下のようにして製造することができる。
すなわち、上記した近赤外線吸収粒子、および必要に応じて配合される他の成分を、分散媒に分散または溶解させて塗工液を調製し、この塗工液を剥離性の支持体上に薄膜状に塗工し、乾燥させた後、剥離性支持体から剥離することにより製造することができる。塗工、乾燥は、複数回に分けて行うことができ、また、その際、含有成分の異なる複数の塗工液を調製し、これらを順に塗工、乾燥させるようにしてもよい。具体的には、例えば、近赤外線吸収粒子を含む塗工液と、ITO粒子を含む塗工液をそれぞれ個別に調製し、これらを順に剥離性支持体上に塗工し、乾燥させ、剥離性支持体から剥離して、光学部材を製造することができる。
分散媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、アルデヒド、アミン、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素等が用いられる。分散媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。分散媒としては、作業環境の点から、水またはアルコールが好ましい。分散媒の量は、近赤外線吸収粒子の分散性を維持する点から、分散液(100質量%)のうち、50〜95質量%が好ましい。
塗工液には、必要に応じて分散剤を配合することができる。分散剤としては、近赤外線吸収粒子の表面に対して改質効果を示すもの、例えば、界面活性剤、シラン化合物、シリコーンレジン、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤等が使用される。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤(特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、アルキルリン酸エステル等)、ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ソルビタン高級カルボン酸エステル等)、カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルアミンカルボン酸エステル、アルキルアミン、アルキルアンモニウム塩等)、両性界面活性剤(高級アルキルベタイン等)が挙げられる。
シラン化合物としては、シランカップリング剤、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザン等が挙げられる。シランカップリング剤としては、官能基(グリシドキシ基、ビニル基、アミノ基、アルケニル基、エポキシ基、メルカプト基、クロロ基、アンモニウム基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等)を有するアルコキシシラン等が挙げられる。
シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等が挙げられる。
チタネート系カップリング剤としては、アシロキシ基、ホスホキシ基、ピロホスホキシ基、スルホキシ基、アリーロキシ基等を有するものが挙げられる。
アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
ジルコアルミネート系カップリング剤としては、アミノ基、メルカプト基、アルキル基、アルケニル基等を有するものが挙げられる。
分散剤の量は、分散剤の種類にもよるが、分散液(100質量%)のうち、0.5〜10質量%が好ましい。分散剤の量が該範囲内であれば、近赤外線吸収粒子の分散性が良好となり、透明性が損なわれず、また、経時的な近赤外線吸収粒子の沈降が抑えられる。
なお、塗工液の調製には、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等の攪拌装置を用いることができる。高い透明性を確保するためには、攪拌を十分に行うことが好ましい。撹拌は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
また、塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、またはコンマコーター法等のコーティング法を用いることができる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も用いることができる。
塗工液を塗工する剥離性支持体は、フィルム状であっても板状であってもよく、剥離性を有するものであれば、材料も特に限定されない。具体的には、ガラス板や、離型処理されたプラスチックフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等からなるフィルム、ステンレス鋼板等が使用される。
本発明の光学部材は、また、樹脂成分を含有する場合に、押出成形により製造することも可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させてもよい。
本発明において、光学部材の厚さは、特に限定されるものではなく、用途、すなわち使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められてよいが、好ましくは0.03〜0.5mmの範囲であり、より好ましくは0.09〜0.3mmの範囲である。0.03mm以上とすることで、近赤外線吸収能を十分に発現させることができ、また、0.09mm以上とすると、さらに、膜厚の平坦性が得やすくなり、吸収率のバラツキを生じにくくすることができ、0.5mm以下とすると、さらに、膜厚の平坦性が得やすくなり、0.3mm以下すると、装置の小型化に有利となる。
光学部材の下式(3)で表わされる透過率の変化量D’は、−0.36%/nm以下が好ましく、−0.45%/nm以下がより好ましい。
D’(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(3)
式中、T700は、光学部材の透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、光学部材の透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。
透過率の変化量D’が、−0.36%/nm以下であれば、波長630〜700nmの間における透過率の変化が充分に急峻となり、例えばデジタルスチルカメラやデジタルビデオ等の近赤外線吸収材に好適となる。−0.45%/nm以下であれば、さらに、近赤外波長領域の光を遮断しつつ可視波長域の光の利用効率が向上し、暗部撮像でのノイズ抑制の点で有利となる。
また、光学部材の波長715nmの透過率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。また、光学部材の波長500nmの透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。また、光学部材の波長900nmの透過率は、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。また、光学部材の波長1100nmの透過率は、10%以下が好ましく、6%以下がより好ましい。なお、光学部材の透過率は、紫外可視分光光度計を用いて測定される。
本発明の光学部材は、A1/nCuPOで表わされる化合物の結晶子からなり、数平均凝集粒子径が5〜200nmであるため、可視波長領域の光の透過率が高く、近赤外波長領域の光の透過率が低く、かつ波長630〜700nmの間で急峻に透過率が変化する近赤外線吸収粒子を含むので、良好な近赤外線遮断特性を有する。
また、その近赤外線遮断特性は、近赤外線吸収粒子による近赤外線の吸収を利用するものであるため、分光透過率の入射角依存性の問題が生ずることもない。
さらに、近赤外線吸収粒子および透明樹脂を分散媒に分散させて調製した塗工液を剥離性支持体上に塗工し、乾燥させて、剥離性支持体から剥離することにより製造することができるため、容易に、かつ十分に小型化、薄型化を図ることができる。
またさらに、大面積の剥離性支持体上に成膜した後、切断加工を行うことができるため、低コストで、かつ生産性良く製造することができる。
本発明の光学部材においては、その片面または両面に誘電体多層膜やモスアイ構造を設けてもよい。これにより、界面反射を低減し、光の利用効率を高めることができる。誘電体多層膜は、酸化シリコン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、アルミナ等の金属酸化物、フッ化マグネシウム等の金属フッ化物、フッ素樹脂等の透明材料からなる膜を積層し、光の干渉を利用して反射抑制効果を発現させるもので、その形成にあたっては、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を用いることができる。なお、モスアイ構造は、例えば400nmよりも小さい周期で規則的な突起配列を形成した構造で、厚さ方向に実効的な屈折率が連続的に変化するため、周期より長い波長の光の表面反射率を抑える構造であり、モールド成型等により形成することが可能である。また、誘電体多層膜は特定の波長の光の透過と反射を制御するフィルタとして機能させてもよく、赤外線吸収粒子の吸収特性とあわせて透過特性を制御してもよい。
本発明の光学部材は、それ自身単独で、あるいは、フィルム状または板状の基材の表面に粘着剤層を介して貼着することにより、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等の近赤外線カット用の光学フィルタ、PDP用の光学フィルタ等として用いることができる。デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置においては、光学フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。基材の材料としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、フッ素樹脂等が挙げられる。
また、本発明の光学部材は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置の固体撮像素子、自動露出計の受光素子、撮像レンズ、PDP等に粘着剤層を介して直接貼着して使用することも可能であり、さらに、車両(自動車等)のガラス窓やランプにも同様に粘着剤層を介して直接貼着して使用することができる。
なお、上記粘着剤層の粘着剤としては、例えば、アクリル酸エステル共重合体系、ポリ塩化ビニル系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、酢酸ビニル共重合体系、スチレン−アクリル共重合体系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン−ブタジエン共重合体系、ブチルゴム系、シリコーン樹脂系等の粘着剤が挙げられる。粘着剤層は予め光学部材上に設けておいてもよい。この場合、その粘着面にシリコーンがPET等の離型フィルムを貼付けておくことが、作業性、取り扱い性の点から好ましい。粘着剤には、紫外線吸収剤等の種々の機能を有する添加剤を添加してもよい。
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の各種物性値等は下記に示す方法で測定した。
[X線回折]
粉末状態の近赤外線吸収粒子について、X線回折装置(RIGAKU社製、RINT−TTR−III)を用いてX線回折の測定を行い、結晶構造の同定を行った。また、結晶子の大きさを、2θ=14°の反射についてシェラーの方法により計算によって求めた。
[数平均凝集粒子径]
近赤外線吸収粒子を水に分散させた粒子径測定用分散液(固形分濃度:5質量%)について、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック超微粒子粒度分析計UPA−150)を用いて数平均凝集粒子径を測定した。
[反射率および反射率の変化量D]
粉末状態の近赤外線吸収粒子について、紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて拡散反射スペクトル(反射率)を測定し、算出した。なお、ベースラインとして、硫酸バリウムを用いた。
[透過率および透過率の変化量D’]
光学部材(または近赤外線吸収層)について紫外可視分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて透過スペクトル(透過率)を測定し、算出した。
[近赤外線吸収粒子の製造]
(製造例1)
52質量%リン酸水素二カリウム(純正化学製)水溶液500gに、撹拌下、5質量%硫酸銅・五水和物(純正化学製)水溶液500gを加え、5時間以上室温にて撹拌し、水色溶液(PO 3−/Cu2+(モル比)=15)を得た。
得られた水色溶液から生成物を吸引濾過によって分離し、水およびアセトンで洗浄し、水色の生成物を得た。生成物をるつぼに移し、100℃で4時間真空乾燥した後、ワンダーブレンダー(大阪ケミカル社製、以下同じ)を用いて、30秒間の乾式粉砕を2回行った。
粉末状態の生成物をるつぼに移し、大気下、600℃で8時間焼成し、黄緑色の焼成物を得た。焼成物について、ワンダーブレンダーを用いて、30秒間の乾式粉砕を2回行った。得られた黄緑色の焼成物は15.4gであり、硫酸銅・五水和物のモル数を基準とした場合の収率は78%であった。
焼成物についてX線回折を測定した。X線回折の結果から、KCuPOの結晶構造を確認でき、焼成物は、実質的にKCuPOの結晶子からなる粒子であることが同定された。
上記焼成物を水に分散させ、固形分濃度10質量%の分散液とし、超音波ホモジナイザで処理した後、湿式微粒子化装置(スギノマシン社製、スターバーストミニ)を用いて湿式粉砕を行った。分散液がオリフィス径を通過する回数を湿式粉砕処理回数とする。本例においては、湿式粉砕処理回数を20回とした。
湿式粉砕後の分散液から解砕物を遠心分離し、るつぼに移して150℃で乾燥し、黄緑色の解砕物を得た。解砕物について、ワンダーブレンダーを用いて、30秒間の乾式粉砕を2回行った。
解砕物についてX線回折を測定した。X線回折の結果から、KCuPOの結晶構造を確認でき、解砕物は、実質的にKCuPOの結晶子からなる近赤外線吸収粒子であることが同定された。結晶子の大きさは27nmであった。また、近赤外線吸収粒子の粒子径測定用分散液を調製し、数平均凝集粒子径を測定したところ、89nmであった。さらに、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトル(反射率)を測定し、反射率の変化量Dを求めたところ、−0.46%/nmであった。
[光学部材の製造]
(実施例1)
製造例1で得られた近赤外線吸収粒子と、メタクリル樹脂(ADELL社製、商品名 HV153;屈折率1.63)とを、固形分が近赤外線吸収粒子37質量%およびメタクリル樹脂63質量%となるような割合で混合した後、この混合液に直径0.5mmのジルコニアビーズを加え、ボールミルを用いて粉砕し、分散液を得た。得られた分散液を、表面にフッ素系離型材(旭硝子社製、商品名 サイトップ)による離型処理を施した厚さ1.3mmのガラス板(ソーダガラス)上にスピンコータ(ミカサ社製 スピンコータMS−A200)を用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥させた後、ガラス板から剥離して、厚さ100μmのフィルム状光学部材を作製した。この光学部材の透過率を測定した。結果を表1および図2(透過スペクトル)に示す。
(実施例2)
製造例1で得られた近赤外線吸収粒子と、ポリエステル樹脂(東洋紡績社製、商品名 バイロン103;屈折率1.60〜1.61)の30質量%シクロヘキサノン溶液とを、固形分が近赤外線吸収粒子44質量%およびポリエステル樹脂56質量%となるような割合で混合し、自転・公転式ミキサーで撹拌し、分散液を得た。得られた分散液を、表面にシリコーン系離型剤(信越化学社製 品名 KS700)による離型処理を施した厚さ3.5mmのガラス板(旭硝子社製フロート板ガラス、品種クリアFL3.5)上にフィルムアプリケーター(安田精機製作所製 No.548−YKG)を用いて塗布し、150℃で15分間加熱して、厚さ50μmの近赤外線吸収層(I)(吸収層(I)と表記)を形成した。
また、ITO粒子(富士チタン社製;結晶子の大きさ38nm)を分散剤とともにエタノールに混合し、固形分濃度20重量%の分散液を得た。
このITO粒子含有分散液を、近赤外線吸収層(I)上にスピンコータ(スピンコータMS−A200)を用いて塗布し、150℃15分間加熱して、厚さ4μmの近赤外線吸収層(吸収層(II)と表記)を形成した後、この吸収層(II)を吸収層(I)とともにガラス板から剥離して、フィルム状光学部材を作製した。この吸収層(I)+吸収層(II)の透過率を測定した。結果を表1および図3(透過スペクトル)に示す。
また、光学部材の作製とは別に、上記ITO粒子含有分散液を、厚さ3.5mmのガラス板(旭硝子社製フロート板ガラス、品種 クリアFL3.5)上にフィルムアプリケーター(安田精機製作所製 No.548−YKG)を用いて塗布し、150℃で15分間加熱して、厚さ4μmの近赤外線吸収層(吸収層(II))を形成し、その透過率を測定した。その透過結果から、ITO粒子含有分散液を塗布する前の厚さ3.5mmのガラス板について測定した透過率の測定結果を差分した結果を、図4(透過スペクトル)に示す。
(実施例3)
製造例1で得られた近赤外線吸収粒子、実施例2で用いたITO粒子(富士チタン社製)、およびポリエステル樹脂(商品名 バイロン103)の30質量%シクロヘキサノン溶液とを、固形分が近赤外線吸収粒子50質量%、ITO粒子3質量%およびポリエステル樹脂46質量%となるような割合で混合し、自転・公転式ミキサーで撹拌し、分散液を得た。得られた分散液を、表面にシリコーン系離型剤(品名 KS700)による離型処理を施した厚さ1.3mmのスライドグラス(武藤化学社製、ソーダガラス)上にフィルムアプリケーター(安田精機製作所製 No.548−YKG)用いて塗布し、150℃で15分間加熱乾燥させた後、スライドグラスから剥離して、厚さ50μmのフィルム状光学部材を作製した。この光学部材の透過率を測定した。結果を表1および図5(透過スペクトル)に示す。
(実施例4)
製造例1で得られた近赤外線吸収粒子から分粒して得た近赤外線吸収粒子(数平均凝集粒子径65nm)と、エポキシ樹脂(長瀬産業社製、商品名 EX1011;屈折率1.62)とを、固形分が近赤外線吸収粒子37質量%およびエポキシ樹脂63質量%となるような割合で混合した後、この混合液に直径0.5mmのジルコニアビーズを加え、ボールミルを用いて粉砕し、分散液を得た。得られた分散液を、表面にシリコン系離型剤(品名 KS700)による離型処理を施した厚さ1.3mmのガラス板(ソーダガラス)にスピンコータ(スピンコータMS−A200)を用いて塗布し、100℃で1時間、さらに180℃で4時間加熱した後、ガラス板から剥離して、厚さ100μmのフィルム状光学部材を作製した。この光学部材の透過率を測定した。結果を表1に示す。
Figure 0005454127
本発明の光学部材および光学フィルタは、製造コストが安く、十分な小型化、薄型化を図ることができ、また、反射型フィルタのような入射角度等の問題がなく、さらに、近赤外線遮断特性にも十分に優れることから、デジタルスチルカメラ等の撮像装置、プラズマディスプレイ等の表示装置、車両(自動車等)用ガラス窓、ランプ等の近赤外線遮断用光学部材あるいは光学フィルタとして好適に用いることができる。

Claims (15)

  1. フィルム状または薄板状の光学部材であって、
    少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子からなり、数平均凝集粒子径が5〜200nmである近赤外線吸収粒子を含有する、光学部材。
  2. 前記酸化物は、下式(1)で表わされる化合物である、請求項1に記載の光学部材。
    1/nCuPO …(1)
    (式中、Aは、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)およびNHからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、nは、Aがアルカリ金属またはNHの場合は1であり、Aがアルカリ土類金属の場合は2である。)
  3. 前記近赤外線吸収粒子は、X線回折から求めた結晶子の大きさが、5〜80nmである、請求項1に記載の光学部材。
  4. 前記近赤外線吸収粒子は、下式(2)で表わされる反射率の変化量Dが、−0.41%/nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学部材。
    D(%/nm)=[R700(%)−R600(%)]/[700(nm)−600(nm)] …(2)
    (式中、R700は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長700nmの反射率であり、R600は、近赤外線吸収粒子の拡散反射スペクトルにおける波長600nmの反射率である。)
  5. 前記近赤外線吸収粒子は、拡散反射スペクトルにおける波長715nmの反射率が、19%以下であり、かつ波長500nmの反射率が、85%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学部材。
  6. 前記近赤外線吸収粒子は、顕微IRスペクトルにおいて、リン酸基に帰属される1000cm−1付近のピークの吸収強度を基準(100%)とした際に、水に帰属される1600cm−1付近のピークの吸収強度が8%以下であり、かつ水酸基に帰属される3750cm−1付近のピークの吸収強度が26%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学部材。
  7. 前記近赤外線吸収粒子の含有量が、20〜60質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学部材。
  8. 少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線吸収粒子をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学部材。
  9. 前記少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線吸収粒子の含有量が、0.5〜30質量%である、請求項8に記載の光学部材。
  10. 前記少なくともCuおよび/またはPを含む酸化物の結晶子のない近赤外線吸収粒子としては、ITO粒子を含む、請求項8または9に記載の光学部材。
  11. 透明樹脂をさらに含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学部材。
  12. 前記透明樹脂の含有量が、40〜80質量%である、請求項11に記載の光学部材。
  13. 厚さが0.03〜0.5mmである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の光学部材。
  14. 下式(3)で表わされる透過率の変化量D’が、−0.36%/nm以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の光学部材。
    D’(%/nm)=[T700(%)−T630(%)]/[700(nm)−630(nm)] …(3)
    (式中、T700は、透過スペクトルにおける波長700nmの透過率であり、T630は、透過スペクトルにおける波長630nmの透過率である。)
  15. 撮像装置用の光学フィルタであって、
    請求項1〜14のいずれか1項に記載の光学部材からなる、光学フィルタ。
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