JP5434004B2 - 電磁駆動型アクチュエータ及び電磁駆動型アクチュエータの製造方法 - Google Patents

電磁駆動型アクチュエータ及び電磁駆動型アクチュエータの製造方法 Download PDF

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本発明は、薄膜永久磁石が形成された可動子を、固定部に連結した可撓性の支持部が支持し、コイルが発生させた磁界により可動子を変位させる電磁駆動型アクチュエータ、及びこの電磁駆動型アクチュエータの製造方法に関するものである。
フォトリソグラフィ、エッチング及び蒸着等に代表される半導体加工技術は、主として半導体集積回路の作製に用いられて高度化して来た。近年、この技術を集積回路の作製ではなく、立体的構造物の加工に応用することにより、種々のマイクロデバイスが作製されるようになって来ている。それらはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と称されている。MEMS技術の個々の工程は、ウェーハ単位の一括プロセスで行われ、この一括プロセスが製造工程に一貫して適用されれば、デバイス個々の組立て及び調整等の工程が省略され、個体間のばらつきの小さいデバイスを低コストで大量に生産することが可能となる。
現在、MEMS技術を利用して作製されるアクチュエータは、静電気力を利用した静電駆動方式が主流になっている。その理由は、静電駆動方式の構造が他の電磁駆動方式及び圧電駆動方式等に比べて簡単であり、半導体加工技術に大きな変更を加えることなく応用できることが挙げられる。また、静電気力の源泉が表面電荷である為、体積減少に伴う駆動力の減衰割合が他の方式に比べて小さく、デバイスが小型化する程、他の方式よりも駆動力で有利になることなども、駆動方式として静電駆動方式が選択される理由になっている。
しかし、一方では、静電駆動方式の短所として、オフ状態を基点として、2つの電極の吸引方向にしか変位が得られないこと、発生力が小さく、大きな変位を得るのが難しいこと、駆動に高電圧が必要であること、などが知られている。従って、マイクロアクチュエータの中でも、例えば光学ミラーのように比較的サイズの大きいもの、及び高湿度環境などの下で使用しなければならないアクチュエータ等は、静電駆動方式を適用することが難しい。
これに対して、電磁駆動型アクチュエータは、静電駆動型アクチュエータに比べて発生力が大きい為、可動子の移動距離を比較的大きく取ることが可能になる。更に、相互作用する磁界の発生源の少なくとも一方を、極性を切替えることができる電磁石とすることにより、吸引及び反発の両方向へ任意に可動子を変位させることができる。このような特長が注目され、近年、MEMS技術を利用した電磁駆動型アクチュエータの実用化が進んでいる。
非特許文献1には、走査型共焦点レーザ顕微鏡に用いられるマイクロミラーデバイスが開示されている。このマイクロミラーデバイスは、可動子上に反射ミラーと可動子とを駆動させる為のコイル等が形成され、それらを支持するトーションバーと共に、MEMS技術により一体的に作製される。それとは別に、バルクの永久磁石を用いて設計された磁気回路が用意され、これらを組合わせることにより、ミラーデバイスが完成する。可動子は、磁気回路で発生した磁界によりコイルを流れる電流が受けるローレンツ力で揺動する。
このタイプの電磁駆動型アクチュエータは、可動子に形成したコイルが磁界との相互作用で動く為、ムービングコイル型(MC型)と呼ばれる。この方式の場合、バルクの永久磁石を含んだ磁気回路が強い磁界を発生させることが可能である為、比較的簡単に大きな変位が得られる。
しかし、一方で、バルクの永久磁石を含んだデバイスを小型化するのが難しく、また、磁界発生部の製作にMEMS技術が適用されない為、個々のデバイス毎に組立てと調整とを行う必要がある。
また、非特許文献1でシリコンヒンジ(シリコントーションバーヒンジ)を用いるものにおいては、SOI(Silicon On Insulator)ウェーハが使用されている。SOIウェーハは、MEMS技術において一般的に用いられており、精密な加工を施す為に有効な材料であるが、高価である為、電磁駆動型アクチュエータの実用化の妨げとなる。
非特許文献2には、可動子に薄膜の永久磁石を備えたムービングマグネット型(MM型)の電磁駆動型マイクロミラーの例が開示されている。この例でも、可動子及びトーションバーを含む構造体は、MEMS技術により一体的に形成される。可動子の片面には、MC型におけるコイルの替わりに、永久磁石であるCoPt薄膜がスパッタ法により形成されている。CoPt薄膜と相互作用する磁界の発生源は薄膜の平面コイルで構成され、この平面コイルの作製にもMEMS技術が適用されている。平面コイルの励磁により発生した磁界によって、共振周波数で6.5°、直流で0.4°のミラーの振れ回転角が得られている。
このように、ムービングマグネット型の場合には、磁界発生源として薄膜の平面コイルを用いることも可能であり、その為、アクチュエータの製造工程に首尾一貫したMEMS技術を適用できることになり、ばらつきの少ないデバイスを低コストで大量に製造することが可能になる。
しかし、永久磁石の薄膜の磁気特性が不十分で、必要な可動子の変位が得られなかったり、永久磁石の薄膜を微細加工する為のMEMS技術が確立されていないなどの課題が多く、首尾一貫したMEMS技術で製作されるムービングマグネット型の電磁駆動型アクチュエータは、未だ実用化に至っていない状況にある。
また、非特許文献2においてもSOIウェーハが使用されているが、上述した通り、高価であり、電磁駆動型アクチュエータの実用化を妨げる一因となる。
特許文献1は、半導体基板に、平板状の可動板と該可動板を半導体基板に対して揺動可能に軸支するトーションバーとを一体成形したガルバノミラーが開示されている。可動板の表面に永久磁石を設け、可動板の中央部に反射鏡を設けている。更に、トーションバーの軸方向と平行な可動板の対辺側方の半導体基板部分に平面コイルを設けている(請求項6等)。このガルバノミラーは、半導体素子の製造プロセスにより製造される。
このガルバノミラーも、ムービングマグネット型の電磁駆動型アクチュエータを使用しており、非特許文献2の場合と同様の問題がある。
「社団法人 日本応用磁気学会 第142回研究会資料」7〜12頁 「社団法人 電気学会 マグネティックス研究会資料,MAG-02-12(2002)」17〜21頁 特開平7−175005号公報
上述したように、電磁駆動型アクチュエータには、他の駆動方式に無い特長が有り、MEMS技術を適用した、製品にばらつきが少ない、低コストで大量生産が可能な製造方法の確立が望まれている。それには、電磁駆動型のなかでもムービングマグネット型が適しているが、ムービングマグネット型では、十分な可動子の変位が得られないなどの技術的な課題が未だ解決されておらず、実用化の障害となっている。
また、従来技術によるMEMS技術を用いた電磁駆動型アクチュエータの製造においては、基板として高価なSOIウェーハが用いられている為、これも実用化の障害となっている。
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、第1〜4発明では、可動子の大変位が可能な安価なムービングマグネット型の電磁駆動型アクチュエータを提供することを目的とする。
第5発明では、可動子の大変位が可能な安価なムービングマグネット型の電磁駆動型アクチュエータの製造方法を提供することを目的とする。
第1発明に係る電磁駆動型アクチュエータは、固定部と、可動子と、該可動子を固定部に連結して支持する1又は複数の可撓性の支持部と、前記可動子に形成された永久磁石と、該永久磁石の周囲に磁界を発生させるコイルとを備え、該コイルが発生させた磁界により前記可動子を変位させる電磁駆動型アクチュエータにおいて、前記可動子及び支持部は、シリコン窒化膜により一体形成されており、前記永久磁石は、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造を有する膜状の永久磁石であることを特徴とする。但し、REは希土類金属元素の何れか1つ、MはTa,Ti,Nb,Zr及びMoの内の少なくとも1つ。
この電磁駆動型アクチュエータでは、1又は複数の可撓性の支持部が、可動子を固定部に連結して支持し、永久磁石が可動子に形成されている。コイルが、永久磁石の周囲に磁界を発生させ、可動子を変位させる。可動子及び支持部は、シリコン窒化膜により一体形成されており、永久磁石は、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造を有する膜状の永久磁石である。
第2発明に係る電磁駆動型アクチュエータは、前記コイルを複数備え、複数の該コイルが発生させた各磁界に応じて前記可動子を多自由度で変位させるように構成してあることを特徴とする。
第3発明に係る電磁駆動型アクチュエータは、前記可動子は、四角形の平板状をなし、前記永久磁石が片面又は両面の一部若しくは全部に形成されており、前記固定部は、前記可動子を囲繞する枠状をなしており、前記支持部及びコイルをそれぞれ4つ備え、4つの支持部は、前記可動子の四隅を前記固定部にそれぞれ連結して支持し、4つのコイルは、前記可動子の四隅にそれぞれ対向するように配設されていることを特徴とする。
この電磁駆動型アクチュエータでは、可動子は、四角形の平板状をなし、永久磁石が片面又は両面の一部若しくは全部に形成され、固定部は、可動子を囲繞する枠状をなしている。支持部及びコイルをそれぞれ4つ備え、4つの支持部は、可動子の四隅を固定部にそれぞれ連結して支持する。4つのコイルは、可動子の四隅にそれぞれ対向するように配設されている。
第4発明に係る電磁駆動型アクチュエータは、前記コイルは、膜状の平面コイルで形成してあることを特徴とする。
第5発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法は、第1発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法であって、半導体基板の両面にシリコン窒化膜を堆積させる工程と、該工程で堆積させた一方のシリコン窒化膜の表面に可動子及び支持部を形成する為のレジストパターンを、他方のシリコン窒化膜の表面に固定部を形成する為のレジストパターンをそれぞれ形成する工程と、該工程でレジストパターンを形成した部分以外のシリコン窒化膜を除去する工程と、前記固定部をなす部分以外の半導体基板を貫通加工により除去する工程と、前記可動子部分のシリコン窒化膜にRE2 Fe14BとMとを交互に堆積させて多層膜構造を有する膜状の永久磁石を形成する工程と、前記可動子部分を両面側又は片面側から非磁性部材で拘束する状態で、前記永久磁石に一方向の磁界を加えて着磁させる工程とを備えることを特徴とする。
第1発明に係る電磁駆動型アクチュエータによれば、可動子に形成された永久磁石が、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造(REは希土類金属元素、MはTa,Ti,Nb,Zr,Moの何れか)により、30MGOe以上の高い磁気エネルギー積を有している。その為、永久磁石は、コイルが作る磁界との相互作用で強い力を受けることができるので、コイルに大電流を流さなくても、可動子に強い力を加えることができる。力を受けた可動子は、支持部の撓み及び捩れなどの弾性変形により変位するが、機械強度に優れたシリコン窒化膜により可動子と一体形成された支持部は、弾性疲労を起こすことなく、可動子が大きな変位を繰返すことを可能にする。
また、SOIウェーハを使用しないので、上記の電磁駆動型アクチュエータを安価にして提供することができる。
第2,3発明に係る電磁駆動型アクチュエータによれば、可動子は、一次元的な変位のみならず、多次元的に向きを変えることが可能になり、アクチュエータの用途範囲を広げることができる。
第4発明に係る電磁駆動型アクチュエータによれば、コイルを含む電磁駆動型アクチュエータの製造工程に、一貫してMEMS技術を適用することが可能となり、低コストで大量に精密な電磁駆動型アクチュエータを製造することができる。
第5発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法によれば、可動子の大変位が可能なムービングマグネット型の電磁駆動型アクチュエータを製造することができる。また、永久磁石を着磁する際に、可動子を拘束するので、支持部が変形することを防止できる。また、SOIウェーハを使用しないので、上記の電磁駆動型アクチュエータを安価にして提供することができる。
以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの実施の形態1の構成を模式的に示す上面図(a)及び側縦断面図(b)である。
この電磁駆動型アクチュエータは、直方体形状の固定部2と、固定部2の上面部に連結され水平方向へ突き出した可撓性の片持ち式の梁(支持部)3と、梁3の先端部に連結され方形平板形状である可動子1と、可動子1の上面全体に形成された薄膜永久磁石4と、可動子1の下方に配置されたコイル5とを備えている。コイル5は、その端部形状が可動子1より大きい角筒形状に巻回されており、上から見た場合に、コイル5は、可動子1がその端部の中央部に位置するように配置されている。
固定部2の上面部、可動子1及び梁3は、シリコン窒化膜により一体形成されている。薄膜永久磁石4は、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造(REは希土類金属元素、MはTa,Ti,Nb,Zr,Moの何れか)を有している。
固定部2及びコイル5は、図示しない回路基板等に固定され、コイル5は、回路基板等に設けられた制御回路により電流を流され、流れる電流に応じた磁界を薄膜永久磁石4の周囲に発生させる。可動子1は、コイル5が発生させた磁界と薄膜永久磁石4の静磁界との反発力又は吸引力に応じて変位する。
ここで、薄膜永久磁石4は、図1(b)の上から下に向かって着磁されているとし、コイル5からは下から上に向かう磁界が発生するとする。このとき、薄膜永久磁石4には全体として、上向きの力が加わり、梁3が撓むことにより可動子1が上方に向かって変位する。ここで、大きい変位を得る為には、コイル5の通電電流を増加させて磁界強度を上げるか、又は薄膜永久磁石4に磁気特性の高いものを用いる必要がある。
しかし、磁界強度を上げると、アクチュエータの消費電力が増加し、また、コイル5のサイズが増大することから、薄膜永久磁石4に磁気特性の高いものを用いる方が好ましい。本発明においては、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造(REは希土類金属元素、MはTa,Ti,Nb,Zr,Moの何れか)を有し、30MGOe以上の高い磁気エネルギー積を有する薄膜永久磁石4が好適に用いられる。
尚、REは、Nd及びPrの一方又は両方を含むことが好ましく、Feの一部は、Co及びNi等の遷移金属元素と置換していても良い。また、遷移金属元素でなくても、RE2 Fe14B型永久磁石の磁気特性の向上に有効な元素が含まれていても良い。
この薄膜永久磁石4は、例えば、真空蒸着、レーザアブレーション、スパッタ法等の物理的方法、又はメッキ等の化学的方法など、任意の方法で形成することができる。
可動子1及び梁3を構成する構造材料は、薄膜永久磁石4の形成時にRE2 Fe14Bを結晶化させる為に、300℃以上の加熱工程が必要であることから、耐熱性を有する材料が選択される。それには、Ni,ステンレス及びCuなどの金属、並びにシリコン及び酸化シリコンなどの非金属系構造材料が挙げられるが、ここでは窒化シリコンが好適に用いられる。
しかし、可動子1と梁3をシリコンで構成する場合は、精密な加工面を確保する為、基板としてSOIウェーハを用いなければならず、デバイスの製造コストの上昇を招く。また、可動子1と梁3を金属又は酸化シリコンで構成する場合、薄膜永久磁石を形成する際に強い応力が発生して、高精度デバイスを得ることが困難になる。更に、これらの材料は、大きな変形を繰返し加えた場合の機械的強度の信頼性が劣っている。
本願発明者等は、製造コストを上昇させず、薄膜永久磁石形成時の応力発生を抑制でき、かつ、機械的強度に優れる構造材料として、窒化シリコンが最適であることを見出した。
更に好ましい実施の形態では、可動子1及び梁3が薄膜形成手段により薄膜構造材料で形成される。このような構成とすることで、可動子1及び梁3の形成に、フォトリソグラフィを含むMEMS技術を適用することが可能となり、低コストで精密な加工を施すことが可能になる。
コイル5は、巻き線コイルが好適に用いられる。更に好ましい実施の形態においては、コイル5として、MEMS技術により作製される薄膜平面コイルが用いられる。これにより、電磁駆動型アクチュエータを一貫したMEMS技術により製造することが可能となり、個体間のばらつきが小さい製品を低コストで大量に生産することができる。
(実施の形態2)
図2は、本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの実施の形態2の構成を模式的に示す上面図(a)及び側縦断面図(b)である。
この電磁駆動型アクチュエータは、可動子1aが、四角形の平板であり、その上面に薄膜永久磁石4が略全面に亘って形成されている。固定部2aは、可動子1aを囲繞する方形枠体である。4つの片持ち式の梁(支持部)3a,3b,3c,3dと4つのコイル5a,5b,5c,5dとを備えており、4つの梁3a,3b,3c,3dは、可動子1aの四隅を固定部2aにそれぞれ連結して支持している。尚、本実施の形態2では、薄膜永久磁石4は、可動子1aの上面に略全面に亘って形成されているが、可動子1aの下面又は両面に形成されていても良く、また、必ずしも略全面に形成されている必要はなく、部分的に形成されていても良い。
梁3a,3b,3c,3dは、可動子1aの変位を大きくし自由度を上げる為に、より長くなるように工夫されており、それぞれ固定部2a及び可動子1a間で複数回屈曲した形状となっており、十分な長さを得ている。
コイル5a,5b,5c,5dは、それぞれ角筒形状に巻回されており、可動子1aの下方で可動子1aの四隅にそれぞれ対向するように配設されている。
固定部2aの上面部、可動子1a及び梁3a,3b,3c,3dは、シリコン窒化膜により一体形成されている。薄膜永久磁石4は、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造(REは希土類金属元素、MはTa,Ti,Nb,Zr,Moの何れか)を有している。
固定部2a及びコイル5a,5b,5c,5dは、図示しない回路基板等に固定され、コイル5a,5b,5c,5dは、回路基板等に設けられた制御回路によりそれぞれ個別に電流を流され、それぞれに流れる電流に応じた磁界を薄膜永久磁石4の周囲に発生させる。可動子1aは、コイル5a,5b,5c,5dがそれぞれ発生させた磁界と薄膜永久磁石4の静磁界との反発力及び吸引力に応じて、様々な方向に変位する。その他の構成及び動作については、上記実施の形態1で説明した内容と同様であるので、説明を省略する。
尚、実施の形態1,2で説明したような本発明に係る電磁駆動型アクチュエータは、例えば、光学ミラーデバイス、スイッチングデバイス、マイクロポンプ、材料試験装置等のアクチュエータとして好適に使用することができる。
図3は、本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法の例を示すフローチャートであり、図4は、本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法の例を示す説明図である。
この電磁駆動型アクチュエータの製造方法では、先ず、単結晶シリコンウェーハ11(図4)の両面に、減圧化学気相成長法(LPCVD)によりシリコン窒化膜12を厚さ3μm堆積させる(P1)。
次に、シリコン窒化膜12の上に、厚さ1.5μmの銅のスパッタ膜13とフォトレジスト14とを続けて形成し(図4(a))、フォトリソグラフィの手法を用いて、レジストパターンを形成する(図4(b))。その後、希硝酸水溶液で銅13をエッチング除去し、ウェーハ11の一方の面には、例えば、図5に示す可動子1bと梁3eとのパターンを、他方の面には、可動子1bと梁3eとを取囲んだ枠形状の固定部2bのパターンを形成する(P3)。
次に、シリコン窒化膜12の不要な部分を、SF6 及び酸素をエッチングガスとするRIE(Reactive Ion Etching;反応性イオンエッチング)により取除いた(P5)(図4(c))後、115℃の30wt%−KOH水溶液を用いた異方性エッチング(貫通加工)を8時間行い、固定部以外のシリコン11を取除く(P7)(図4(d))。これにより、シリコン窒化膜のみからなる可動子及び梁の一体構造を形成する。
次に、永久磁石薄膜を、メタルマスクで可動子以外の部分を覆った状態で、ターゲットとなる物質をスパッタリングすることにより、可動子に形成する(P9)。ここでは、Nd2 Fe14BとTaとを交互に堆積させた多層構造を有する永久磁石薄膜を厚さ3μm形成する。
次に、可動子を両面側又は片面側からガラス板(非磁性部材)で拘束し(P11)、その状態で、永久磁石薄膜に一方向に大きな磁界を加えることにより着磁させて、薄膜永久磁石を得る(P13)。
次に、フォトリソグラフィ、エッチング及び蒸着等のMEMS技術により、薄膜平面コイルを作製し(P15)、作製した薄膜平面コイル、固定部、可動子及び梁を一体化し(P17)、ムービングマグネット型の電磁駆動型アクチュエータを完成させる。
ダミーの基板に上記と同じ条件で永久磁石薄膜を形成し、磁化曲線を測定したところ、得られた薄膜永久磁石は、図6に示すように、膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直磁化膜であり、この方向の磁気エネルギー積は35.5MGOeを示した。図7に、永久磁石薄膜の膜面に対して垂直方向の測定で得られた磁気特性の値を示す。
上述した永久磁石薄膜では、可動子を両面側又は片面側からガラス板で拘束する状態で、一方向に大きな磁界を加えることにより着磁させて、薄膜永久磁石を得ている。これにより、着磁の際の磁気エネルギーにより発生した力により、可動子が何れかの方向に曲がった状態に変形することを防止することができる。
上記の可動子を含む素子を、外径4.6mm、内径2.7mm、巻数95回のコイルの中央に配置し、通電電流に対して可動子の変位を計測した。その結果、図8に示すように、通電電流に対して略直線的に増加する変位が得られ、巻線電流0.6Aに対して約700μmの大きな変位が得られた。また、アクチュエータの耐久性を確認する為、最大0.4Aの正弦波電流を加えたところ、可動子は、約500μmの変位を上下方向に繰返し、10000回の駆動を行った後も異常は認められなかった。
以下に、上記実施の形態に対する比較例1,2について説明する。尚、比較例1,2は、不具合が生じた例である。
(比較例1)
比較例1では、先ず、表面シリコン層の厚さが5μmのSOI(Silicon On Insulator)基板を用意し、湿潤酸素中で1000℃に加熱し、基板の両面にシリコン酸化膜を形成した。次に、SOI側の表面に貫通加工される部分が開口するように、フォトリソグラフィにより図5に示すレジストパターンを形成した。裏面を保護膜で覆った後、この基板を、115℃に加熱した水酸化カリウムの30%水溶液に浸し、SOI層の開口部のシリコンを異方性エッチングにより除去した。
次に、SOI基板の裏面のシリコン酸化膜上に、固定部以外が開口するようなレジストパターンをフォトリソグラフィにより形成した。SOI層側を保護膜で覆った後、同じく115℃に加熱した水酸化カリウムの30%水溶液で基板側の開口部のシリコンを異方性エッチングにより除去した。最後に、フッ酸によりシリコン酸化膜を除去して、シリコンからなる可動子及び梁の一体構造を完成させた。
薄膜永久磁石は、メタルマスクで可動子以外の部分を覆った状態で、ターゲットとなる物質をスパッタリングすることにより形成した。本比較例1では、Nd2 Fe14BとTaとを交互に堆積させた多層構造を有する薄膜永久磁石を、図3で説明した電磁駆動型アクチュエータの製造方法と同じ条件で厚さ3μm形成した。
上記の可動子を含む素子を外径4.6mm、内径2.7mm、巻き数95回のコイルの中央に配置し、コイルの通電電流に対する可動子の変位を計測した。通電電流に対して略直線的に増加する変位が得られ、コイル電流0.5Aに対して約500μmの変位が得られた。
しかし、アクチュエータの耐久性を確認する為、コイルに最大0.5Aの正弦波電流を与えたところ、約700回の上下の揺動を繰返した後、梁の部分が損傷した。
(比較例2)
比較例2では、単結晶シリコンウェーハの両面に、減圧化学気相成長法(LPCVD)によりシリコン酸化膜を厚さ3μm堆積させた。以下、図3で説明した電磁駆動型アクチュエータの製造方法と同様の工程に従って、シリコン酸化膜からなる可動子及び梁の一体構造を形成した。得られた構造体は、シリコン酸化膜の内部に残留した応力により、取除いたシリコンウェーハ部分に対して大きく凸状に湾曲したものであった。この湾曲が発生した為、メタルマスクと構造体との位置合せができず、メタルマスク法により永久磁石薄膜を可動子部分へ選択的に形成することができなかった。
本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの実施の形態の構成を模式的に示す上面図及び側縦断面図である。 本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの実施の形態の構成を模式的に示す上面図及び側縦断面図である。 本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法の例を示すフローチャートである。 本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの製造方法の例を示す説明図である。 ウェーハの表面に形成する可動子、梁及び固定部の各パターン例を示す説明図である。 本発明に係る電磁駆動型アクチュエータに使用する薄膜永久磁石の磁化特性の例を示す特性図である。 本発明に係る電磁駆動型アクチュエータに使用する永久磁石薄膜の膜面に対して垂直方向の磁気特性の例を示す図表である。 本発明に係る電磁駆動型アクチュエータの、通電電流に対する可動子の変位の例を示す特性図である。
符号の説明
1,1a,1b 可動子
2,2a,2b 固定部
3,3a,3b,3c,3d,3e 梁(支持部)
4 薄膜永久磁石
5,5a,5b,5c,5d コイル
11 単結晶シリコンウェーハ
12 シリコン窒化膜
13 銅のスパッタ膜
14 フォトレジスト

Claims (5)

  1. 固定部と、可動子と、該可動子を固定部に連結して支持する1又は複数の可撓性の支持部と、前記可動子に形成された永久磁石と、該永久磁石の周囲に磁界を発生させるコイルとを備え、該コイルが発生させた磁界により前記可動子を変位させる電磁駆動型アクチュエータにおいて、
    前記可動子及び支持部は、シリコン窒化膜により一体形成されており、前記永久磁石は、RE2 Fe14BとMとを交互に堆積させた多層膜構造を有する膜状の永久磁石であることを特徴とする電磁駆動型アクチュエータ。
    但し、
    REは希土類金属元素の何れか1つ、
    MはTa,Ti,Nb,Zr及びMoの内の少なくとも1つ。
  2. 前記コイルを複数備え、複数の該コイルが発生させた各磁界に応じて前記可動子を多自由度で変位させるように構成してある請求項1記載の電磁駆動型アクチュエータ。
  3. 前記可動子は、四角形の平板状をなし、前記永久磁石が片面又は両面の一部若しくは全部に形成されており、前記固定部は、前記可動子を囲繞する枠状をなしており、前記支持部及びコイルをそれぞれ4つ備え、4つの支持部は、前記可動子の四隅を前記固定部にそれぞれ連結して支持し、4つのコイルは、前記可動子の四隅にそれぞれ対向するように配設されている請求項2記載の電磁駆動型アクチュエータ。
  4. 前記コイルは、膜状の平面コイルで形成してある請求項1乃至3の何れか1つに記載の電磁駆動型アクチュエータ。
  5. 請求項1に記載された電磁駆動型アクチュエータの製造方法であって、
    半導体基板の両面にシリコン窒化膜を堆積させる工程と、該工程で堆積させた一方のシリコン窒化膜の表面に可動子及び支持部を形成する為のレジストパターンを、他方のシリコン窒化膜の表面に固定部を形成する為のレジストパターンをそれぞれ形成する工程と、該工程でレジストパターンを形成した部分以外のシリコン窒化膜を除去する工程と、前記固定部をなす部分以外の半導体基板を貫通加工により除去する工程と、前記可動子部分のシリコン窒化膜にRE2 Fe14BとMとを交互に堆積させて多層膜構造を有する膜状の永久磁石を形成する工程と、前記可動子部分を両面側又は片面側から非磁性部材で拘束する状態で、前記永久磁石に一方向の磁界を加えて着磁させる工程とを備えることを特徴とする電磁駆動型アクチュエータの製造方法。
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