JP5425563B2 - エアバッグ用織物およびエアバッグ - Google Patents

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Description

本発明は、車両による事故時に人体の衝撃を吸収し、その保護を図るエアバッグに関するものであり、さらに詳しくは、軽量で収納性に優れ、低通気性を有し、かつ、環境信頼性に優れたエアバッグ用織物、およびエアバッグに関するものである。
自動車事故における人体への衝撃緩和のために、車両へのエアバッグの装着が進んできている。衝突の際、ガス等により膨張し、人体への衝撃を吸収緩和するエアバッグとして、運転席用および助手席用エアバッグに加えて、カーテンエアバッグやサイドエアバッグ、ニーエアバッグ、リアエアバッグなどが、乗員保護のために実用化されつつある。さらには、歩行者保護のために、車両の外側に膨張するように装着されるエアバッグが検討されてきている。
従来、自動車内部すなわちキャビンに装着されるエアバッグにおいて、夏場および日中の著しい高温や冬場および夜間の低温の条件下で長期間保管されるエアバッグが、経日後の膨張展開作動時に耐圧性など展開性能を維持することが重要であった。しかし、歩行者保護のために車両の外側に膨張するように装着されるエアバッグの主たる装着場所は、キャビン外であり、とりわけ、ボンネット内のエンジンルーム付近である場合はいっそう過酷な環境条件下にさらされることになる。すなわち、エアバッグに対する過酷な環境下における耐久性の要求はいっそう厳しいものとなっている。従来よりも過酷な環境条件下で、経日後に展開性能を維持することが課題となっている。
歩行者保護のためのエアバッグは、ボンネット前部やフロントガラス下部を覆うような大面積、大寸法となる。また、車内で近距離の衝突緩和をする場合に比べて、大きな膨らみを用いることになる。従って、こうしたエアバッグは大容量のエアバッグとなるが、長期間保管されるエアバッグが、経日変化で展開速度が遅くなることが問題である。エアバッグの展開タイミングを検出器や展開着火制御機で適正化しても、バッグの展開において端から端までガスが充満して機能するまでに遅れが生ずることなどにより時機がずれれば衝撃吸収性能が劣ってしまう。従って、大容量のエアバッグが過酷な環境条件下で展開速度を維持することも課題となっている。
耐熱後のエアバッグの耐圧性に関係して、特許文献1には、ポリカプラミド繊維の熱処理後の優れた引裂き強力保持が記載されているが、膨張ガスに火薬を用いる場合の高温ガスや、反応残渣による溶融破袋を防止するためには、溶融温度の面から、ポリアミド6・6繊維に勝るものではない。ポリカプラミド繊維からなる布帛では火薬によるバッグ展開には不適切である。特許文献2には、ポリシロキサン系柔軟剤を浸漬付与することによる引裂強力向上が記載されているが、特別に処理剤を用いたり、処理工程を増やすのは不経済である。また、縫製部の織糸が滑脱し、素抜けとなるため、縫製部の強度が低下してしまう。特許文献3には、無精練によって油剤付与された布帛は熱処理後の引裂強力が保持されやすいと記載されているが、熱処理後に展開速度が維持されるような特性に関しては記載が無い。特許文献4には、ポリカプラミド繊維に熱安定剤を含有させ、熱収縮応力がより高温で発生する原糸とすることで、エアバッグ基布の熱処理後の通気度増加を抑制できることが記載されている。しかしながら、耐熱後に低通気度が維持されたとしても、展開速度が維持されるために必要な特性に関しては記載が無い。
エアバッグは、従来、300〜1000デニールのポリアミドフィラメント糸を用いた平織物に、耐熱性、難燃性、空気遮断性などの向上のため、クロロプレン、クロルスルホン化オレフィン、シリコーンなどのエラストマーを塗布、積層した基布を裁断し、袋体に縫製して作られていた。あるいは、ポリアミドフィラメント糸からなる袋織物に耐熱性、難燃性、空気遮断性などの向上のため、クロロプレン、クロルスルホン化オレフィン、シリコーンなどのエラストマーを塗布、積層した織物がエアバッグ用基布として用いられてきた。しかし、織物の厚みが厚くなり、収納性の面においても、エアバッグを折畳んで収納する際の収納容量が大きくなる問題があった。さらには、塗布面の摩擦が大きくエアバッグの展開速度が遅くなる問題があった。また、エラストマーの塗布、積層は工程が煩雑で生産性の面に問題があった。そのため、低価格化ならびにモジュールの縮小化のため、ノンコート織物を基布に使用したエアバッグが用いられるが、前記の要求は解決されていない。特に、寒冷地条件下、ほぼ外気温度においての展開性能についての課題解決について技術開示されたことはなかった。
特開平10−60750号公報 特開平8−41751号公報 特開平5−339840号公報 特開2006−183205号公報
本発明の目的は、かかる従来のエアバッグの欠点に鑑み、エアバッグとしての機械的特性の保持性を向上しつつ、軽量で収納性に優れ、低通気性を有し、かつ、環境信頼性の高いエアバッグ用織物、およびエアバッグを提供することである。
本発明は、上記目的を達成するために、次のような構成を有する。
(1)相対粘度が2.7〜4.7、単糸繊度が0.8〜8.0dtex、総繊度が100〜800dtex、引張強力が5.0〜11.0cN/dtex、破断伸度が15〜35%および沸水収縮率が−4.5〜5.0%のポリアミド6・6繊維からなる織物であって、該ポリアミド6・6織物中の下記化学式(1)で示される環状ユニマー成分比が0.1〜3.0%であることを特徴とするエアバッグ用織物。
Figure 0005425563
(2)油剤成分の含有量が0.01〜2.0重量%である上記1項に記載のエアバッグ用織物。
(3)沸水収縮率が3.0%以下である上記1または2項に記載のエアバッグ用織物。
(4)ポリアミド6・6繊維が環状ユニマーを含むオリゴマーを添加し、溶融紡糸されて得られたものであることを特徴とする上記1〜3項のいずれかに記載のエアバッグ用織物。
(5)上記1〜4項のいずれかに記載のエアバッグ用織物からなるエアバッグ。
(6)上記5項に記載のエアバッグからなるエアバッグモジュール。
本発明のエアバッグ用織物の特徴は、機械的特性ならびに燃焼特性を損なわず、優れた収納性を有し、軽量で、かつ通気度をエアバッグに好適な範囲に低下せしめることができ、厳しい環境下における耐性に優れるという点にある。
すなわち、本発明によれば、エアバッグとしての機械的特性ならびに難燃特性を維持し、かつ低通気性および収納性に優れたもので、厳しい環境条件下で破袋耐久性に優れ、展開遅延がない信頼性の高いエアバッグを提供することができるという優れた特徴を達成することができる。
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明のポリアミド6・6繊維は、主としてポリヘキサメチレンアジパミド繊維からなる。ポリヘキサメチレンアジパミド繊維とはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸のみから構成される融点が250℃以上のポリアミド繊維を指すが、本発明のポリアミド6・6繊維は融点が250℃未満とならない範囲で、ポリアミド6、ポリアミド6I、ポリアミド610、ポリアミド6Tなどを共重合あるいはブレンドしてもよい。なお、かかる繊維には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用される各種添加剤を含んでいても良い。例えば熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有せしめることができる。
熱安定剤としては、長期耐熱性を向上させるために銅化合物が添加剤として好ましく用いられる。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅、および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾールおよびベンズイミダゾールなどとの銅化合物が挙げられる。なかでも1価のハロゲン化銅化合物がより好ましく、具体的には、酢酸第一銅、ヨウ化第一銅などを特に好適な銅化合物として例示することができる。
このような銅化合物の添加量は、通常、ナイロン6・6繊維に対して、銅元素で10〜500ppmの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは15〜100ppmの範囲とするのがよい。添加量が500ppm以下であれば、重合過程での銅成分の析出が回避され、添加量が10ppm以上であれば、長期耐熱性の向上が期待できる。
このような銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリ化合物を添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化リチウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウム等を挙げることができ、その中でもヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましく使用される。
また本発明を達成するためには、ポリアミド6・6繊維で、その相対粘度ηrが2.7から4.7であることが必要である。
相対粘度ηrが2.7以上で、エアバッグ用織物として十分な強伸度特性に寄与する高強度糸を織物構成糸とすることができる。また4.7以下であれば、弱糸および細糸の混入が無く、毛羽による織物欠陥が著しいという悪影響をこうむることも無く、エアバッグ用織物として高品位の織物としやすい。なお、ここで言う相対粘度ηrとは、試料2.5gを濃硫酸(98%)25ccに溶解し、恒温槽(25℃)の一定温度下においてオストワルド粘度計を用いて測定し求めたものである。
また、ポリアミド6・6ポリマーは、溶液重合による縮重合で合成されるが、連続重合によるものと、バッチ重合によるものとがある。本発明において、相対粘度ηrを2.7から4.7とするには、両重合工程によるポリマーをさらに固相重合工程で縮合水除去して重合度を上げるか、または、連続重合工程の最終工程を真空工程として縮合水除去して重合度を上げる必要がある。
ポリアミド6・6ポリマーは溶融押出し機によってポリアミド6・6繊維に紡糸する。また、連続重合工程から直接紡糸することもできる。溶融押出し過程では、ポリマー中の水分率を制御することで本発明の織物を構成するポリアミド6・6繊維の相対粘度ηrを制御できる。特に低水分率で高ηrが得られる。ポリマー中の水分率は、溶融前のポリマーを乾燥、吸湿させたり、溶融中のポリマーを真空に吸引することで制御できる。
ポリアミド6・6ポリマーを溶融紡糸する際、オリゴマーを添加することでポリアミド6・6繊維中のオリゴマー含有量を適正量に調整できる。オリゴマーとはポリマー中の低分子量重合物である。ポリアミド6・6の場合は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸が交互に鎖状に縮重合した鎖状オリゴマーと、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸が1対1ずつで環状に縮重合した環状オリゴマーからなるものである。ここで添加すべきオリゴマーとは、溶融ポリマーから昇華物として得られるもので、環状オリゴマーに富んだものである。本発明では、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸がひとつずつで環状に縮重合した化合物、すなわち下記化学式(1)で表される化合物を環状ユニマーと呼称するが、溶融ポリマーから昇華物として得たオリゴマー粉体を再結晶で精製し、得られた環状ユニマーを主成分としたオリゴマーを添加するのが好ましい。
Figure 0005425563
紡糸工程では、繊維の平滑性、帯電防止、フィラメントの集束性のため油剤成分を付与することができる。油付量は0.5から2.0重量%ほどで、付与法もノズルオイリング、ロールオイリングなど適宜付与することができる。また、油付液は水性乳化液でも石油系希釈液でも良い。油剤成分の組成は、合成エステル、鉱物油、ポリエーテル、天然油脂由来物など適宜、選択、組み合わせることができる。ここで付与された油剤成分は、最終的にエアバッグ用織物に含有されてもよい。
紡糸工程では、さらに熱延伸を行い、延伸糸とする。よく知られるように、熱延伸条件により、ポリアミド6・6繊維の収縮率を制御することができる。
紡糸したポリアミド6・6繊維を織糸として製織する。織機としては、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピア織機などを適宜使用することができる。ウォータージェットルームによる製織は、繊維の油剤成分が概ね脱落する場合があり、経済的にも、また、オリゴマーや油剤成分を適度に含有した織物とするにも好ましい。
ポリアミド6・6繊維から構成される織物組織としては、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織や組織混合した織物、多軸織などの織物が使用されるが、これらの中でも、特に機械的特性に優れ、また地薄な面から平織物が好ましい。さらに、袋織でバッグ形状を織製する織物でも良い。
製織にあたって、経糸などに集束性向上のための油剤成分を付与してもよい。ここで付与された油剤成分は、最終的にエアバッグ用織物に含有されてもよい。
一方、経糸などに集束性向上のための糊剤を付与する場合は、糊剤を除去するためあるいは過剰の油剤成分の除去のため織物を精練することがあるが、高温かつ長い滞留時間により、オリゴマーや油剤成分を過度に除去しないように留意すべきである。特に、メタノールなどの溶媒を用いれば、オリゴマーや油剤成分を徹底的に除去することが可能であるが、本発明の意図するところの効果を損なう恐れがある。経糸などの集束性向上のための糊剤は使用しないほうが好ましい。また、織物の精練はしないほうが好ましい。
最終的に乾燥し、あるいはまた熱セット工程を経てノンコートエアバッグ用織物が得られ、エアバッグ用基布とすることができる。熱セット工程を、100℃から200℃の温度、10秒から10分の滞留時間、緯方向および経方向で収縮量を制御しながら実施するのが好ましい。この乾燥仕上げ工程で、適切に織糸の熱収縮を発現させて、織物を構成する繊維の収縮率を制御することができる。
また、乾燥し、あるいはまた熱セット工程後にエラストマーコーティングしてコーティングエアバッグ用基布とすることもできる。
本発明で言うエアバッグ用織物の繊維を構成するポリアミド6・6繊維の単糸繊度、総繊度は、エアバッグとしての機械的特性ならびに収納性の面に大きく影響するため、単糸繊度は0.8から8.0dtexでなければならない。好ましくは1から7dtexである。単糸繊度が0.8dtex以上あれば、製織工程などでの単糸切れに由来する織物欠陥などを回避できる。単糸繊度が8.0dtex以下で小さいほど織物の折畳み嵩高さが小さくエアバッグ収納性が良好な織物となる。
また、総繊度は100から800dtexでなければならない。好ましくは200から500dtexである。総繊度は、100dtex以上であれば太いほどエアバッグ織物の強力が大きくなり、エアバッグのガス耐圧性を高める。総繊度が、800dtex以下であれば細いほど軽量な織物となる。単糸繊度、総繊度については、上記の各範囲内で適宜組合せると良い。
また本発明を達成するには、織物を構成するポリアミド6・6繊維は、引張強力が5.0cN/dtexから11.0cN/dtexでなければならない。より好ましくは6.0から10.5cN/dtexである。最も好ましくは7.0から10.0cN/dtexである。破断伸度は15%から35%でなければならない。沸水収縮率は−4.5から5.0%でなければならない。好ましくは−4.0から3.0%であり、より好ましくは−3.0から2.5%である。
引張強度が5.0cN/dtex以上の高強度であれば、エアバッグ織物としての強力に優れる。引張強度が11.0cN/dtex以下のポリアミド6・6繊維であれば、破断伸度とのバランスがとれている。また破断伸度が15%以上であれば織物は粗硬になることがなく、破断伸度が35%以下となるポリアミド6・6繊維であれば引張り強度とのバランスが取れている。織物を構成するポリアミド6・6繊維の引張強度は、主として織糸として用いたポリアミド6・6繊維の引張強度に由来する。織糸のポリアミド6・6繊維の引張強度が概ね5.5cN/dtex以上が好ましく、さらに、高密度の製織工程であっても異常な擦過を受けないことによって高強度糸で構成された織物となる。また、織物を構成するポリアミド6・6繊維の破断伸度は、主として織糸として用いたポリアミド6・6繊維の破断伸度に由来する。織糸のポリアミド6・6繊維の破断伸度が概ね20.0%以上が好ましく、高密度の製織工程であっても異常な張力負荷を受けないことによって高伸度糸で構成された織物となる。
織物を構成するポリアミド6・6繊維の沸水収縮率が5.0%以下で低いほど織物の形態安定性が良く、大型エアバッグの場合は高温環境下で経時的に形状変化することを回避できる。また、苛酷な環境下すなわち熱経時後の引裂き耐性も良く、エアバッグのガス耐圧性向上に寄与する。さらに、通気性変化も抑制されるとともに、繊維のクリンプ形態によって織物の柔軟性が良好なため、エアバッグの展開時間を短時間に維持できる。織物を構成するポリアミド6・6繊維の沸水収縮率は、織糸として用いたポリアミド6・6繊維の沸水収縮率に由来し、さらに、織物を乾燥し、熱セットする過程で定まる。織糸のポリアミド6・6繊維の沸水収縮率は10.0%以下が好ましく、より好ましくは8.0%以下であり、さらに、織物の乾燥、熱セット過程での収縮が発現するように温度、滞留時間、張力を制御することで、織物を構成するポリアミド6・6繊維の沸水収縮率を5.0%以下の低い収縮率に抑えることができる。織物を構成するポリアミド6・6繊維の沸水収縮は、収縮しきっていることも好ましく、沸水処理による吸水で見かけ上マイナスの収縮率すなわち伸張が観察されることも好ましい。そのため、織物を構成するポリアミド6・6繊維の沸水収縮率は、マイナス4.5%以上である。
また、エアバッグとしての必要な機械的特性ならびに燃焼性、収納性、低通気性などの面から、上記ポリアミド6・6繊維から構成された織物が次の要件を同時に満足することにより、さらなる効果が発揮される。
カバーファクターは1800から2500が好ましい。ここで、カバーファクターとは経糸総繊度をD1dtex、経糸密度をN1本/2.54cm とし、緯糸総繊度をD2dtex、緯糸密度をN2本/2.54cm とすると、(D1)1/2×N1+(D2)1/2×N2で表され、低通気性の面から、1800以上が好ましく、より好ましくは2000以上である。幾何学的に織糸が充填配列する上での現実的な上限からカバーファクターは2500以下となる。
本発明を達成するには、上記フィラメント糸から構成された織物の通気度は、流体(空気)を125Paの圧力に調整し、その時通過する空気流量を測定した時に、1.0cc/cm2/sec以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5cc/cm2/sec以下である。1.0cc/cm2/sec以下であれば、エアバッグに必要な特性であるガス遮断性を満たすようになる。通気量が観測されないほどにガス遮蔽されていることが最も好ましい。
さらには、流体(空気)を200kPaの圧力に調整し、その時通過する空気流量を測定した時に500cc/cm2/sec以下であることが好ましい。より好ましくは300cc/cm2/sec以下であり、一層好ましくは200cc/cm2/sec以下である。エアバッグの展開初期において、最も高圧な状況下でガスリークが抑制されることで高速展開が達成される。通気量が観測されないほどに遮蔽されていることが最も好ましい。
本発明においてアミド化合物中の前記化学式(1)で表わされる環状ユニマーの成分比が0.1%から3.0%であることが必要である。より好ましくは0.2から2.5%である。最も好ましくは0.5から2.0%である。
このアミド化合物中の環状ユニマー成分比は織物をNMR溶媒に溶解して13C−NMRスペクトル解析から求めた。スペクトル解析は基本的にデイヴィスの提案(R.D.Davis,et al,Macromolecules 2000,33,7088−7092)に従った。ポリアミド6・6ポリマー中のヘキサメチレンジアミン骨格のアミド窒素結合位からβ位にある炭素は、3種のケミカルシフトを示す。すなわち、(1)環状ユニマーの炭素、(2)鎖状ポリアミド中でトランス型コンフォメーションの炭素および環状ユニマーを除く環状ポリアミド中の炭素、(3)鎖状ポリアミド中でシス型コンフォメーションの炭素である。(1)のNMRピーク強度について、(2)と(3)のピーク強度合計を基準にした百分率(%)で求めたものをポリアミド化合物中の環状ユニマー成分比とした。
NMRスペクトルで織物中の繊維の油剤成分などのスペクトルが重なって邪魔になる場合は、油剤成分を有機溶媒にて抽出して除いてスペクトル比較解析すればよい。
ポリアミド化合物中の環状ユニマー成分比が0.1%以上であれば、高温環境を経た後の織物において、環状ユニマー成分の緩慢なブリードアウトで引裂き強力保持率が良好である。同様に、高温環境を経た後の織物の摩擦も増大せず滑りが良い。さらに、可塑化作用で粗硬になることなく柔軟性を良く保っている。このため、エアバッグの展開速度が遅くなってしまうようなことが無い。アミド化合物中の環状ユニマー成分比が3.0%以内であれば、高温環境を経た後の織物の滑脱抵抗が減少しすぎることがなく、エアバッグとしての耐圧性を損なうことがない。ポリアミドオリゴマーの中でも、この環状ユニマーが、低分子量で、かつ、環状であることにより、可塑化効果を有しつつ緩慢に繊維表面にブリードアウトするために有効である。一方で、水処理などで抽出されきってしまうことがないため織物加工上も都合が良い。
本発明におけるポリアミド織物は、油剤成分の含有量が0.01から2.0重量%であることが好ましい。0.05から1.5重量%がより好ましい。一層好ましくは0.1から0.7重量%である。ここにいう油剤成分とは、有機溶媒ヘキサンにて織物から抽出されるものであり、ポリアミド織物の重量に対する抽出物の重量の百分率である。油剤成分の含有量が0.01重量%以上であれば、織物基布の引裂き強力を維持、向上させることができる。特に、界面活性剤成分は、ポリアミド繊維の環状ユニマーのブリードアウトを助け、ポリアミド繊維の表面において、環状ユニマーと油剤成分が一体となって繊維同士のすべりを適度に促し、高温環境を経た後の引裂き強力の維持、向上に寄与する。織物摩擦の増大も抑制される。油剤成分のみでは高温環境で引裂き強力の維持、向上効果は徐々に失われるが、環状ユニマーと一体化することでいっそう効果が維持される。
油剤成分の含有量が2.0重量%以下であれば、織物基布が燃焼性試験において不合格になることが無い。
これら油剤成分は、繊維製造工程、製織加工工程で付与された工程油剤に由来して残存するものでもよい。
本発明の織物を用いたエアバッグ用基布は裁断縫製されて、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、後部座席用エアバッグ、側面用エアバッグ、膝部用エアバッグ、カーシート間エアバッグ、側面用カーテン状エアバッグ、後部ウィンドウ用カーテンバッグ、歩行者保護エアバッグなどに適宜使用することができる。さらに、上記エアバッグにおいては、インフレータ取り付け口やベントホール部分などに用いられる補強布またはバッグ展開形状を規制する部材を、該エアバッグ用基布と同一基布とすることができる。またエアバッグの縫製にあたっては、打抜き、溶断、または裁断によって形成された1枚もしくは複数枚のかかるエアバッグ用基布を用い、その周縁部を縫製してエアバッグを形成することができ、さらには周縁部の縫製が、一重または二重の合せ縫製のみで構成されたエアバッグを形成することができる。
また、本発明の織物は、袋織物として織製され、接結部の外周を裁断されてエアバッグとして使用することができる。
エアバッグにはインフレータが結合され、エアバッグ部は折畳まれて所定の容器に収納されてエアバッグモジュールとして自動車などの車両に取り付けられる。
次に実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中のエアバッグ用織物の特性は下記の方法により測定した。
1)織物分析
相対粘度:織物試料2.5gを濃硫酸(98%)25ccに溶解し、恒温槽(25℃)の一定温度下においてオストワルド粘度計を用いて測定し求めた。
織物油剤成分量:織物試料10gを300mlのn−ヘキサンで8時間ソックスレー抽出した。n−ヘキサン抽出分の乾固重量から試料中の油剤成分量を求めた。
2)環状ユニマー成分比
織物をNMR溶媒に溶解し13C−NMRにより測定した。溶液は完溶し、pH調整をせず測定した。13C−NMRスペクトルはBRUKER社製のAVANCE(II)400型NMR装置を使用し、以下の条件にて測定した。
NMR条件
試料濃度:100mg/NMR溶媒0.8ミリリットル
NMR溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール−d2
測定温度:25℃
パルス繰り返し間隔:2秒
積算回数:18000回
化学シフト基準:ヘキサフルオロイソプロパノール−d2のメチン炭素のピークトップとなる分岐中心ピークを71.28ppmとした。
得られたポリアミド6・6および含有される環状ユニマーについて、窒素結合β位炭素(C2)のピーク帰属とピーク強度の積算を実施した計算範囲を表1に示す。
Figure 0005425563
環状ユニマー成分比(A)は、それぞれのピーク強度(I)から下記式(1)にて百分率を算出した。
A=[I(C2)/(I(2)+I(2cis))]×100 (1)
3)分解糸機械物性:織物分解糸のサンプリングと計測
総繊度:JIS L1096付属書14に従った。ただし、試料長を25cmとした。
沸騰収縮率 :総繊度サンプリングによる分解糸を98℃で30分間処理した後、収縮率(%)を求めた。
4)織物機械物性
引張強力 :JIS L1096(ストリップ法)により求めた。
破断伸度 :JIS L1096(ストリップ法)により求めた。
引裂強力 :JIS L1096(シングルタング法)により求めた。
5)織物特性
フラジール通気度:JIS L1096(フラジール法)による。空気を125Paの圧力に調整して流し、その時通過する空気流量(cc/cm2/sec) を測定した。
高圧通気度:Capillary Flow Porometer CFP−1200AEX(Porous Metrials,Inc.製)を用い、GalWick浸漬液にて空気圧0から200kPaまでウェットアップ/ドライアップ通気量カーブを描いたときの200kPaでの通気度を求めた。
難燃性 :FMVSS−302法(水平法)に基づいて、燃焼速度(mm/min)を求めた。60秒以下または50mm以下で燃焼停止するものは自己消火(合格)とした。燃焼速度102mm/分以内は難燃合格で、燃焼速度102mm/分を超えて燃焼するものは難燃不合格とした。
6)展開特性の耐熱性:熱処理前後での展開時間比
国際公開第99/28164号パンフレットに記載のエアバッグを縫製した。ただし、外周縫製で、縫糸は上糸下糸とも235dtex/2×3、運針数は5.0針/cmの二重環縫い2列とした。インフレータはタンク圧200kPa容量のものを装着して常温で展開試験を行った。高速VTR観察から正面展開面積が最大展開面積の98%に達したときを展開時間とした。140℃下で500時間処理した前後で展開時間変化率(%)を求めた。
7)寸法安定性の耐熱性:耐熱寸法安定性
140℃下で500時間処理した前後で上記縫製バッグの外周径を比較し、5%以上変化したものを不合格と判定した。
8)寒冷下での展開特性:寒冷下展開時間比
140℃下で500時間処理した後に、エアバッグモジュールをマイナス35℃の槽に一晩入れた後、手早く着火装置に接続して展開し、熱処理前の常温での展開時間との変化率(%)を求めた。
(実施例1および2並びに比較例1および2)
ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の中和塩を含む水溶液に、重合触媒の次亜燐酸ナトリウムを加え、連続重合装置にて縮重合し、熱安定剤の沃化銅/沃化カリウム水溶液を添加して後期重合した後に樹脂チップとした。引き続いて固相重合にて相対粘度ηrが3.1のポリアミド6・6ポリマーを得た。
溶融押出機でポリアミド6・6ポリマーを溶融紡出し、紡糸油剤成分を付与し、熱延伸してポリアミド6・6繊維を得た。紡糸油剤は、ジオレイルチオジプロピオン酸エステルが60重量部、硬化ヒマシ油EOA(分子量2000)ステアリン酸エステルが20重量部、高級アルコールEOPO付加物(分子量1500)が20重量部の付着組成を用いた。この際、溶融押出し機の減圧部にて採取される昇華物から酢酸エチルを用いて再結晶精製したオリゴマーを適宜ポリアミド6・6ポリマーに添加した。
こうして得られた、総繊度470dtex、フィラメント数72本、単糸繊度6.5dtex、引張強度8.5cN/dtex、破断伸度21.5%、沸水収縮率6.0%のフィラメント糸を用い糊付けすること無しに、ウォータージェットルームにて平織物を得た。次いで、該織物を精練すること無しに、80℃熱風乾燥し、次いで180℃で1分間熱セットし、経糸と緯糸の織密度がともに55本/2.54cmのエアバッグ用織物を得た。
このエアバッグ用織物の銅元素の含有量は50ppmで沃素の含有量は1500ppmであった。環状ユニマーの含有量は表2に示すようなものであった。また、このエアバッグ用織物を構成するフィラメント糸(分解糸)の引張強力、破断伸度、沸水収縮率を表2に示す。またエアバッグ用織物の織密度、通気度も同様に表2に示す。
本発明のエアバッグは、エアバッグに必要な機械的特性を有し、熱処理後の引裂き強力保持性に優れ、さらに、熱処理後の通気性保持率、低摩擦性、柔軟性などエアバッグ展開速度に関わる特性にすぐれていた。特に、寒冷下での展開では、発生ガス圧力が低下するために展開速度が低下するものの、良くこれを維持している。比較例1では熱処理後の摩擦係数が高く、柔軟性が劣り、寒冷下でのエアバッグ展開を遅延させる結果となった。比較例2では滑脱抵抗が低く縫い目ズレにより熱処理するまでもなくエアバッグ破袋となってしまった。
(比較例3)
得られた平織物をメタノールにて50℃5時間の洗浄精練をした後、熱風乾燥した以外は実施例1と同様に実施した。表2に結果を併せて示す。環状ユニマー成分比、織物油剤成分比ともに激減し、熱処理後に引裂き強度が低下してエアバッグの耐圧性が低下するとともに、熱処理後の摩擦係数の上昇で熱経時後のエアバッグ破袋となってしまった。
(比較例4)
製織、乾燥後に熱セットを行わずに基布とした以外は実施例1と同様に実施した。表2に結果を併せて示す。基布を構成する繊維の沸水収縮率が高い。熱処理によってバッグ容量が小さくなり見掛けの展開時間は短縮されるが、所定の形状にならないため不合格となった。
(実施例3)
実施例1と同様に重合、紡糸し、相対粘度ηrが3.1であるポリアミド6・6繊維の延伸糸からなる、単糸繊度2.4dtex、総繊度350dtex、フィラメント数144本、引張強度8.7cN/dtex、破断伸度21.5%、沸水収縮率7.5%のフィラメント糸を得た。このフィラメント糸を用いて、ウォータージェットルームにて経糸と緯糸の織密度がともに63本/インチの平織物を得た。次いで、該織物を乾燥した後、180℃で1分間熱セットし、エアバッグ用基布を得た。結果を表2に併せて示す。
(実施例4)
製織後に紡糸油剤成分と同じ組成の油剤成分を浸漬付与した後、乾燥、熱セットしたことを除いて、実施例3と同様に実施した。なお、熱セット後の油剤成分の含有量は1.2重量%であった。結果を表2に併せて示す。燃焼試験がやや延焼の評価となるが合格であり、バッグ展開性は非常によい。
Figure 0005425563
本発明のエアバッグは、乗員の人体保護に用いられる運転席用、助手席用、後部座席用および側面用、並びに歩行者保護用エアバッグなどに使用することができる。特に、歩行者保護用エアバッグなど苛酷な環境下での耐久性要求の著しい車室外に装着するエアバッグとして使用することに適する。

Claims (5)

  1. 相対粘度が2.7〜4.7、単糸繊度が0.8〜8.0dtex、総繊度が100〜800dtex、引張強力が5.0〜11.0cN/dtex、破断伸度が15〜35%および沸水収縮率が−4.5〜5.0%のポリアミド6・6繊維からなる織物であって、該ポリアミド6・6織物中の下記化学式(1)で示される環状ユニマー成分比が0.1〜3.0%であり、油剤成分の含有量が0.05〜2.0重量%であることを特徴とするエアバッグ用織物。
    Figure 0005425563
  2. 沸水収縮率が3.0%以下である請求項1に記載のエアバッグ用織物。
  3. ポリアミド6・6繊維が、環状ユニマーを含むオリゴマーを添加し、溶融紡糸されて得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ用織物。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のエアバッグ用織物からなるエアバッグ。
  5. 請求項4に記載のエアバッグからなるエアバッグモジュール。
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