JP5419047B2 - 質量分析データ処理方法及び質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、閉じた周回軌道に沿って試料由来のイオンを繰り返し飛行させることで該イオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離して検出する多重周回飛行時間型の質量分析装置、及び該装置で収集されたデータを処理する質量分析データ処理方法に関する。
一般に、飛行時間型質量分析装置(Time of Flight Mass Spectrometer、以下、TOFMSと称す)では、一定のエネルギーを与えることで加速したイオンはそれぞれ質量に応じた飛行速度を持つ、という原理に基づき、そうしたイオンが一定距離を飛行するのに要する飛行時間を計測し、その飛行時間を質量電荷比に換算することによりマススペクトルを作成する。したがって、質量分解能を向上させるためにはイオンの飛行距離を長くすればよいが、単に直線的な飛行距離を延ばそうとすると装置が大型化することが避けられない。そこで、長い飛行距離の確保と装置の小形化とを両立させるため、略円形状、略楕円形状、略8の字形状など様々な態様の閉軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させるようにした多重周回飛行時間型質量分析装置(Multi Turn - Time of Flight Mass Spectrometer、以下、MT−TOFMSと称す)が開発されている。
同様の目的で、上記のような周回軌道ではなく、反射電場によりイオンを複数回反射させる往復軌道とすることで飛行距離を延ばすようにした多重反射飛行時間型質量分析装置も提案されている。多重周回飛行時間型と多重反射飛行時間型とではイオン光学系は相違するものの、質量分解能を向上させるための基本的な原理は同じであるし、後述する課題も共通する。そこで、本明細書では、「多重周回飛行時間型」は「多重反射飛行時間型」を包含するものとする。
上述のようにMT−TOFMSは飛行距離を延ばして高い質量分解能を達成することができるものの、イオンの飛行経路が閉軌道であることを原因とする問題が存在する。それは、周回数が増加するに伴い、低質量電荷比であるために大きな飛行速度を持つイオンが高質量電荷比であるために小さな飛行速度しか持たないイオンを飛行途中で追い越してしまうという問題である。このように異なる質量電荷比のイオンの追い越しが生じると、取得された飛行時間スペクトル上では異なる周回数飛行したイオン由来のピークが混在することになる。即ち、観測されるピーク毎に、対応するイオンの飛行距離が異なる、という状態が起こり得る。こうなると、イオンの質量電荷比と飛行距離とを一意に決定することができないため、飛行時間スペクトルを直接的にマススペクトルに換算することができなくなる。
上記問題のため、従来の多くのMT−TOFMSでは、イオン源で生成された試料由来のイオンの中で、上記のような追い越しの起こらないことが保証された質量電荷比範囲に限定するように予め(周回軌道導入前に)イオンを選別し、選別されたイオンを周回軌道に導入して所定周回数だけ飛行させた後に検出する、という制御を行うのが一般的である。しかしながら、このような手法では、高質量分解能のマススペクトルを得ることはできるものの、そのマススペクトルの質量電荷比範囲はかなり限られたものとなる。これは、一度の測定で比較的広い質量電荷比範囲のマススペクトルを得られるというTOFMSの利点に反する。
これに対し、周回飛行中にイオンの追越しが起こった場合でも測定により得られた飛行時間スペクトルからマススペクトルを求める方法として、これまで以下のような幾つかの方法が提案されている。
例えば特許文献1には、目的試料に対し周回軌道からのイオンの排出時間(一般には、イオンがイオン源より出射された時点から該イオンが周回軌道に導入され該周回軌道から離脱される時点までの所要時間、以下、単に「イオンの排出時間」という)が相違する複数の飛行時間スペクトルを測定し、これら複数の異なる飛行時間スペクトルの多重相関関数を計算することによって単一周回数の飛行時間スペクトルを再構成する方法が開示されている。この方法では、多重相関関数の計算量が多くかなりの計算時間が掛かるため、測定を実行しながら略リアルタイムでマススペクトルを得ることは殆ど不可能である。また、飛行時間スペクトルに現れるピークの数が著しく多いと、計算量が非常に膨大となり、汎用のパーソナルコンピュータを用いた場合には、実用上許される時間で結果を得るのが難しくなる。
マススペクトルを求める別の方法として、特許文献3、非特許文献1、2に記載の方法がある。この方法では、まず周回軌道を周回させない非追越しモードで目的試料に対する飛行時間スペクトル(0周回飛行時間スペクトル)を取得する。そして、この0周回飛行時間スペクトルに現れる複数のピークの飛行時間情報から、イオンの追い越しが生じる可能性がある周回モードでの周回数と飛行時間とを予測し、その予測に基づいて、周回モードにおける飛行時間スペクトル上で上記ピークの時間幅の広がりを考慮した時間幅を持つセグメントを設定する。1個のセグメント内に含まれるピークは同一の周回数を持つものであるから、隣接するセグメント同士がオーバーラップしなければ、各ピークの周回数と質量電荷比とを一意に決めることが可能である。そこで、所定条件を仮定したときの周回モードの飛行時間スペクトル上に設定されるセグメントのオーバーラップの有無を判定し、オーバーラップが生じない条件を見つけてセグメントを確定する。これにより、周回軌道からイオンを排出する排出時間が決まるから、これに基づいてイオン排出用のゲート電極の電場の切替タイミングを制御することで周回モードの測定を実行し、この測定で取得された飛行時間スペクトルからマススペクトルを求める。
この方法におけるデータ処理は比較的簡単であるため、汎用のパーソナルコンピュータを用いても、ほぼリアルタイムでの処理が可能である。しかしながら、この方法では、観測するピークの数が多く、セグメントのオーバーラップが生じない条件が見つからない場合にマススペクトルを作成することができない。一般的に、タンパク質、糖鎖などの試料を測定する場合、セグメントのオーバーラップは頻発することが予測され、この方法を適用可能なケースはかなり限定されることになる。セグメントのオーバーラップを防ぐには、周回軌道に導入するイオンの質量電荷比範囲を或る程度制限することが考えられるが、これは測定のスループットを低下させてしまうことになる。
一方、特許文献2には、目的試料に対しイオンの排出時間が相違する複数の飛行時間スペクトルを測定し、それら複数の飛行時間スペクトルのそれぞれに現れる各ピークの飛行時間から考えられる質量電荷比の候補を挙げ、複数の飛行時間スペクトルにおいてそれぞれ挙げられた質量電荷比の候補の一致しているものを見つけることにより、目的とするイオンの質量電荷比を推定する方法が開示されている。
この方法でもデータ処理は比較的簡単であるため、汎用のパーソナルコンピュータを用いほぼリアルタイムでの処理が可能である。しかしながら、ピーク数が少ない場合には異なる飛行時間スペクトル上のピーク間の対応付けが簡単であるものの、試料に含まれる成分の数が多くなって飛行時間スペクトルに現れるピークの数が多くなると対応付けが難しくなる。また、ピーク数が多い場合には、実際には誤った質量電荷比であるのに偶然、整合性がとれてしまう、質量電荷比の誤推定を行うおそれも高くなる。さらに、異なる質量電荷比を有するイオン由来のピークが飛行時間スペクトル上で偶然重なってしまい、それによって質量電荷比を正確に推定できなくなることも多くなる。
特開2005-79049号公報 特開2005-116343号公報 国際公開第2009/075011号パンフレット
西口ほか、「多重周回イオン光学系による新しい多重周回質量分析法」、島津評論、Vol.66、 No.1・2、2009年9月30日発行 西口(Nishiguchi)ほか、「デザイン・オブ・ア・ニュー・マルチターン・イオン・オプティカル・システム・‘アイリス’・フォー・ア・タイムオブフライト・マス・スペクトロメーター(Design of a new multi-turn ion optical system ‘IRIS’ for a time-of-flight mass spectrometer」、J. Mass Spectrom.,、44 (2009)、 p.594
前述のように、MT−TOFMSで得られる飛行時間スペクトルデータからマススペクトルを構成する従来の方法にはいずれも一長一短がある。
また特許文献3に記載の方法を除けば、上記従来の方法ではいずれも、飛行時間スペクトルから何らかの推定を行って最終的にマススペクトルを得るようにしているが、そうして出された結果がどの程度の信頼性を有するものであるのかを評価するのは困難であるし、そもそも、そうした評価については殆ど考慮されていない。推定結果の信頼度が定量化されていないため、信頼度に応じて、例えば十分に高い信頼度の結果が得られた場合には途中でも測定を中止したり、逆に信頼度の低い結果しか得られなかった場合には測定をやり直したりするといった適応的な測定制御が行いにくい。また、それによって、スループット向上や試料の無駄な消費の防止を図ることも困難である。
また、高精度のマススペクトルを作成するには、各イオンの質量電荷比のみならず強度情報も重要である。しかしながら、従来の方法は、観測ピークの質量電荷比(周回数)の決定が重視されており、得られた質量電荷比における強度情報を正確に求めることはあまり考慮されていない又は考慮が十分でない。特に飛行時間スペクトル上でピークの重なりが偶発的に起こっている場合でも、その発生を正確に識別することができないために、この重なったピークを分離して強度情報を取り出すことは困難である。
またMT−TOFMSでは、周回軌道に沿って周回しているイオンをその周回軌道から排出させる際にゲート電極が用いられるが、ゲート電極は或る程度の大きさを有しており、電場の切り替えに要する時間も無視できないため、周回軌道からイオンを排出し始めるためにゲート電極への印加電圧を切り替える際に該ゲート電極を通過していたイオンは消失してしまう。つまり、周回していたイオンのうちの一部は、イオン排出に伴い必然的に消失してしまい飛行時間スペクトルには現れなくなる(なお、以下の説明では、このような原因によるイオンの消失を「ゲート電極の陰となることに起因するイオンの消失」という)。特許文献1、2に記載の方法では、このようにイオン排出時にゲート電極の陰となることに起因するイオンの消失の影響を推定結果に反映させることが難しい。
一方、特許文献3に記載の方法では上記のようなゲート電極の陰となることによる消失の影響を回避することが可能であると思われる。しかしながら、MT−TOFMSでは、イオン排出時にゲート電極の陰となることに起因するイオン消失以外にも、飛行中に意図せぬイオン消失が起こったり、電気ノイズの混入等によりノイズピークが出現してしまったりすることがある。従来のいずれの方法でも、こうした予測不能な状況を想定していないため、こうしたことが起こると正確な結果を出すことが難しい。
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主たる目的は、MT−TOFMSにより収集されたデータに対し、リアルタイム性の高い比較的簡単なデータ処理を行うことによって、広い質量電荷比範囲の精度の高いマススペクトルを得ることができ、且つ、そうした処理によって得られる結果の信頼度まで定量的に求めることができる質量分析データ処理方法及び質量分析装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された第1発明は、分析対象のイオンをパルス的に出射するイオン源と、該イオン源から出射されたイオンを略同一軌道に沿って複数回周回させる周回軌道部と、該周回軌道部で周回したイオンを検出する検出器と、を具備する多重周回飛行時間型の質量分析装置により収集されるデータを処理する質量分析データ処理方法であって、同一試料に対し、前記周回軌道部から前記検出器にイオンを向かわせるべく周回軌道からイオンを排出するタイミングを複数段階に変更することで得られた複数の飛行時間スペクトルに基づいてマススペクトルを作成する質量分析データ処理方法において、
a)前記複数の飛行時間スペクトル中の任意の1つの飛行時間スペクトル上で着目するピークについて、該ピークの情報に基づいて、1つの質量電荷比を仮定したときに他の飛行時間スペクトル上で前記ピークに対応したイオン由来のピークが出現する時間位置を推定し、実際に取得された飛行時間スペクトル上で前記推定された時間位置にピークが存在するか否かを調べるという一致性の判定を、複数の前記他の飛行時間スペクトルについてそれぞれ実行することにより、ピークの一致性判定結果を取得し、複数の異なる質量電荷比の仮定に対して同様の処理を行うことでそれぞれ得られた一致性判定結果に基づいて、前記着目するピークに対応したイオンの質量電荷比を決定する質量電荷比推定ステップと、
b)前記質量電荷比推定ステップの実行過程で、前記着目ピークについて少なくとも前記一致性判定結果に基づいて決定された質量電荷比に対する他の飛行時間スペクトル上でのピークの時間位置の一致が偶発的に生じる確率を推定し、複数の前記他の飛行時間スペクトルにおいてそれぞれ得られる前記確率の推定値に基づいて、前記着目ピークについての前記質量電荷比推定ステップによる質量電荷比の推定結果の信頼度を示す定量値算定する信頼度算定ステップと、
を有することを特徴としている。
また第2発明は、上記第1発明に係る質量分析データ処理方法を実施する質量分析装置であり、分析対象のイオンをパルス的に出射するイオン源と、該イオン源から出射されたイオンを略同一軌道に沿って複数回周回させる周回軌道部と、該周回軌道部で周回したイオンを検出する検出器と、同一試料に対し、前記周回軌道部から前記検出器にイオンを向かわせるべく周回軌道からイオンを排出するタイミングを複数段階に変更することで得られた複数の飛行時間スペクトルに基づいてマススペクトルを作成するデータ処理手段と、を具備する多重周回飛行時間型の質量分析装置において、前記データ処理手段は、
a)前記複数の飛行時間スペクトル中の任意の1つの飛行時間スペクトル上で着目するピークについて、該ピークの情報に基づいて、1つの質量電荷比を仮定したときに他の飛行時間スペクトル上で前記ピークに対応したイオン由来のピークが出現する時間位置を推定し、実際に取得された飛行時間スペクトル上で前記推定された時間位置にピークが存在するか否かを調べるという一致性の判定を、複数の前記他の飛行時間スペクトルについてそれぞれ実行することにより、ピークの一致性判定結果を取得し、複数の異なる質量電荷比の仮定に対して同様の処理を行うことでそれぞれ得られた一致性判定結果に基づいて、前記着目するピークに対応したイオンの質量電荷比を決定する質量電荷比推定手段と、
b)前記質量電荷比推定手段による処理実行過程で、前記着目ピークについて少なくとも前記一致性判定結果に基づいて決定された質量電荷比に対する他の飛行時間スペクトル上でのピークの時間位置の一致が偶発的に生じる確率を推定し、複数の前記他の飛行時間スペクトルにおいてそれぞれ得られる前記確率の推定値に基づいて、前記着目ピークについての前記質量電荷比推定ステップによる質量電荷比の推定結果の信頼度を示す定量値算定する信頼度算定手段と、
を備えることを特徴としている。
第1発明に係る質量分析データ処理方法及び第2発明に係る質量分析装置では、MT−TOFMSにおいて周回軌道部からイオンを排出させるタイミングを複数段階に変更することで得られた複数の飛行時間スペクトル上に現れるピークの帰属(ピークの元となったイオン又はその質量電荷比の推定)に、放射線計測の分野で多用されているコインシデンス検出法の概念を利用する。一般的なコインシデンス検出法では発生時刻の一致性を判定するが、第1及び第2発明では、或る1つの飛行時間スペクトル上の着目ピークに対して、例えば仮定した質量電荷比に基づいて計算される他の飛行時間スペクトルの時間軸上の位置(飛行時間)と、実際に測定により得られた飛行時間スペクトルの時間軸上の位置(飛行時間)との一致性を判定する。
また、周回数が0である、つまりイオン源から出射して周回軌道を経ることなく検出器に到達する、又は周回軌道を1周乃至一部だけ通過した後に検出器に到達する飛行時間スペクトルが得られている場合には、該飛行時間スペクトル上の1つのピークから質量電荷比のおおよその値が分かるから、これを利用して他の飛行時間スペクトル上で上記ピークに対応したイオン由来のピーク(1本とは限らない)が出現し得る時間位置範囲を設定し、この範囲内に入るピークを一致しているとみなせばよい。
コインシデンス検出法の特徴は多重化により誤検出の起こる確率を減らせることにある。そこで、同一試料を測定して得られる飛行時間スペクトルの数を増やし、1つの着目ピークについて、それら複数の飛行時間スペクトルそれぞれで上記のような一致性の判定を行い、一致したとの結果を積み重ねることで信頼度を高めることができる。
第1発明に係る質量分析データ処理方法、及び第2発明に係る質量分析装置におけるデータ処理手段では、他の飛行時間スペクトル上での時間位置や時間位置範囲の推定はごく単純な計算であり、該時間位置や時間位置範囲が求まった後の一致性の判定は単なるピーク有無の二値判断で済む。そのため、データ処理は非常に簡単であって高速に行うことができ、汎用パーソナルコンピュータを用いてもほぼリアルタイムでの解析が可能となる。
第1発明に係る質量分析データ処理方法において、前記信頼度算定ステップは、飛行時間スペクトル上の着目ピークに対し、時間軸上で近隣にあるピークの情報から前記ピークの帰属が偶発的に生じる確率を推定するものとすることができる。時間軸上で近隣にあるピークの情報とは着目ピーク近傍のピークの密集具合を示すものであればよく、例えば着目するピークとこれに最も近い隣接ピークとの時間差を用いることができる。任意の1つの飛行時間スペクトルにおいて着目ピークの帰属が偶発的である、つまり誤って一致していると判定される確率の最悪値は、例えば上記時間差と着目ピークのピーク幅とから求めることができる。そこで、1つの着目ピークについての1つの質量電荷比の仮定に対する推定結果の信頼度は、複数の飛行時間スペクトルそれぞれにおける着目ピークの帰属が偶発的である確率の積をとって、その逆数として表現することができる。
ピーク本数が多くなれば必然的に着目ピーク近傍のピークの密集度が高まるため、飛行時間スペクトルにおいて着目ピークの帰属が偶発的である確率、つまり誤った一致の確率が高くなる。そうした場合には、信頼度算定ステップで求まる信頼度が悪化するから、分析者はそれによって推定結果の信頼性が低いことを認識し、例えば信頼度を上げるために、測定する飛行時間スペクトルの数を増やすといった適切な対策を講じることができる。即ち、第1発明に係る質量分析データ処理方法では、前記信頼度算定ステップにより求められた信頼度を判定し、該信頼度が低い場合に、周回軌道からイオンを排出させるタイミングを修正するとよい。もちろん、こうした再測定は自動的に行うようにすることができるほか、分析者が信頼度を判断して手動で行うようにすることもできる。
また、上記の処理の信頼度はピーク毎に求まるから、部分的に信頼度が低いピークがあれば、例えば次の測定でそのピークを優先的に扱う(例えばイオン排出時にゲート電極の陰になることに起因するイオン消失が起きない、又は、他のピークと重ならないなどの測定条件を設定する)ようにすればよい。
また、第1発明に係る質量分析データ処理方法では、前記質量電荷比推定ステップの実行過程で、飛行時間スペクトル上で本来存在する筈であるピークが存在しないことを調べることによりピーク消失を認識することができるし、飛行時間スペクトル上で本来存在しない筈のピークが存在することを調べることにより偽ピークの混入を認識することができる。
例えばMALDIのようにイオンの生成の再現性が乏しく且つ生成量が少ないイオン源の場合には特に、もともと信号強度が弱いために、周回を重ねた飛行時間スペクトル上でイオンの全てが観測されないことがある(飛行中の原因不明のイオン消失)。実際に、1回のレーザ照射のみにより得られた飛行時間スペクトルでは、このようなケースが少なからず起きる。また電気ノイズの混入により飛行時間スペクトル上に偽のピークが現れることもある。上記のような処理では、例えば信号強度が強い0周回の飛行時間スペクトル(一般にMT−TOFMSでは、周回を重ねるに従い信号強度が減少するので、0周回の飛行時間スペクトルのピーク強度が一番強く強度の信頼度が高い)を基にして、幾つかの飛行時間スペクトルではピークが欠落しているものの、全体として矛盾が無い(高い信頼度が得られている)データは「原因不明のイオン消失が起きた」と判断できる。また0周回の飛行時間スペクトルとの対応がないピークはノイズによる偽ピークであると判定できる。これにより、飛行中の原因不明のイオン消失や電気ノイズの混入などが起こった場合でも、高精度のマススペクトルを構成することができる。
また第1発明に係る質量分析データ処理方法では、前記質量電荷比推定ステップの実行過程で、複数の着目ピークに対応する他の飛行時間スペクトル上のピークが同一位置に存在することを調べることにより偶発的なピークの重なりを認識することもできる。
さらに、質量電荷比推定ステップでは、飛行時間スペクトル上での偶発的なピークの重なりが認識されていないピークを用いて、再構成されるマススペクトル上での対応するピークの信号強度を求めるようにすることができる。
信号強度を正しく推定するには、基本的には0周回の飛行時間スペクトルの強度を用いればよいが、この飛行時間スペクトルでは質量分解能が不十分であるために、多周回の飛行時間スペクトルであれば複数本のピークであるものが1本にまとまってしまっていることがある。上記処理により偶発的なピークの重なりの有無が判別できれば、周回を重ねて質量分解能が増したために複数本に分裂して重なりが解消されたピークを見つけ、その複数本のピークの強度比に応じて、0周回の飛行時間スペクトルでのピーク強度を分配することができる。これにより、質量電荷比のみならず信号強度も高い精度で推定し、強度情報も正確なマススペクトルを構成することができる。
また異なる質量電荷比のイオンに由来する偶発的なピークの重なりが認識されれば、飛行時間スペクトル上から偶発的な重なりのあるピークを除外して、異なる複数の質量電荷比の候補に対する一致性判定結果を求め、前記着目するピークの質量電荷比を決定するようにすることもできる。これにより、質量電荷比推定の精度が一層向上する。
第1発明に係る質量分析データ処理方法及び第2発明に係る質量分析装置によれば、試料に含まれる成分の数が多く、測定により得られた飛行時間スペクトル上で多数のピークが存在する場合でも、その飛行時間スペクトルから高質量分解能且つ高質量精度で強度の精度も高いマススペクトルを、汎用のパーソナルコンピュータを用いほぼリアルタイムで作成することができる。また、その際に処理結果の信頼度が定量的に求まるので、この信頼度が不十分である場合には飛行時間スペクトル自体が不十分であると判断し、例えば周回軌道からのイオンの排出時間を適宜修正して測定をやり直したり、異なる排出時間を設定した測定を追加的に行って参照する飛行時間スペクトルを増やしたりするといった対応を容易に且つ迅速にとることが可能となる。
放射線分野でのコインシデンス検出法を説明する概念図。 コインシデンス検出法の考え方を利用した本発明に係る質量分析データ処理方法の原理説明図。 偶発的な一致が生じる確率の算出方法の一例の説明図。 本発明に係る質量分析データ処理方法を用いた質量分析装置の一実施例であるMT−TOFMSの概略構成図。 本発明の一実施例である質量分析データ処理方法の処理手順を示すフローチャート。 図5に示した質量分析データ処理方法で用いられるコインシデンス解析の説明図。 図5に示した質量分析データ処理方法で用いられるコインシデンス解析の説明図。 シミュレーション計算により得られる飛行時間スペクトルの例を示す図。 図8に示した飛行時間スペクトルから作成されるマススペクトル(a)、各ピークの解析結果が偶発的に起こる確率を示す図(b)、及びマススペクトルの質量精度を示す図。
既述のように、本発明に係る質量分析データ処理方法は、MT−TOFMSで測定される飛行時間スペクトル上でのピーク帰属にコインシデンス検出法の概念を利用している。コインシデンス検出法は放射線計測の分野で広く用いられている検出法である。まず、このコインシデンス検出法の概念を図1により簡単に説明する。
図1に示すように、粒子源から2個の粒子a、bが同時に発生する物理現象を考え、これら粒子a、bを2台の検出器A、Bで待ち受けて検出するものとする。一般にコインシデンス検出法では、検出器A、Bで同時刻に検出信号が見い出された場合に、粒子a、bが同時に発生したと考えられる有意なコインシデンス事象が発生したものと判断する。換言すれば、検出器A、Bのいずれか一方でのみ検出信号が出された場合には、有意なコインシデンス事象が発生したものとは判断しない。
いま、検出器A、Bにおいてノイズなど偶発的な要因により偶然にそれぞれ検出信号が出る確率(検出器の動作時間に対して検出信号が占める割合)が例えばそれぞれ1%であるとする。すると、検出器A、Bの両方で同時刻にノイズなど偶発的な要因により検出信号が出て、実際には有意なコインシデンス現象が発生していないにも拘わらず有意なコインシデンス現象が発生したと誤判断がなされる確率、即ち、偶発的な誤った事象(アクシデンタル)が起こる確率は1%×1%=10-4となる。つまり、検出器が1個しかない場合に比べて、偶発的な誤りの確率は1/100に減少する。さらに別の粒子cを考えて多重化すれば、偶発的な誤りの確率は1%×1%×1%=10-6となり、さらに1/100に減少する。このように、コインシデンス検出法の特徴は「多重化するに従って誤りの生じる確率がべき乗で減っていく」ことにある。
上記コインシデンス検出法では、偶発的な一致の確率が低いほど結果の信頼度は高い。したがって、この偶発的な一致が起こる確率の逆数を結果の信頼度を量る指標値として採用することができる。偶発的な一致の確率は次のようにして計算することができる。まず、単位時間内に雑音が1台の検出器に発生する平均の頻度をQとする。また2台目の検出器の信号波形はパルス状でその時間幅をTとする。すると、2台目の検出器で0からTまでパルス状の信号が発生している時間中に、1台目の検出器が偶発的に雑音を検出する事象が起こる確率Pは指数分布で与えられる。したがって、厳密には次の(1)式となる。
P=∫Qe−Qtdt …(1)
∫は0〜Tに亘る積分を意味する。ただし、Tが十分に小さい場合にはe-Qt≒0と近似できるから、(1)式に代えて、P=QT、を用いることができる。この近似の意味するところは、即ち、[偶発的な一致事象が発生する確率]=[(1台目の検出器で)雑音の発生する頻度]×[(2台目の)検出器のパルス幅]、ということである。また、QT>1のときにP=1とする近似も、同じく指数分布に基づくものである。以上2つの近似は、後述する確率の算出でも用いられる。
本発明に係る質量分析データ処理方法においては、前述したコインシデンス検出法の概念を、MT−TOFMSで測定される飛行時間スペクトル上でのピークの帰属の判定、つまりピークに対応したイオンの質量電荷比の決定に利用する。いま、図4に示すような概略構成を有するMT−TOFMSにおいて、周回軌道5に沿って周回しているイオンを該軌道5から排出して検出器7に導くためのゲート電極2への印加電圧を切り替えるタイミングを複数段階に変更して測定を繰り返すことにより、図2に示すように、同一の目的試料に対して複数の互いに異なる飛行時間スペクトルが得られたものとする。図2では、上にいくほどイオンの排出時間が長く(遅く)なっており、全体的な周回数は増加している(ただし、1つの飛行時間スペクトルに現れている各ピークの周回数は同一ではない)。
この複数の飛行時間スペクトルの中の任意の1つの飛行時間スペクトル(図2では最も上に描かれている、最も長い排出時間に対応した飛行時間スペクトル)上での各ピークに対し、イオンの質量電荷比を仮定した上でイオンの飛行速度を計算する。そして、その仮定に基づくイオンの飛行速度、軌道長、イオンの排出時間、などのパラメータから、別の飛行時間スペクトル上で出現するであろう同イオンに対するピークの時間位置を計算する。そして、実際の測定により得られた飛行時間スペクトル上でその時間位置の位置にピークが存在するか否かを調べる。或る質量電荷比を仮定した下で、対応するピークが複数の異なる飛行時間スペクトル上に存在するならば(即ち、多重一致である場合には)、質量電荷比の仮定が正しいものと判断する。逆に、複数の異なる飛行時間スペクトル上で対応するピークの存在があまり確認できない場合には、質量電荷比の仮定が誤っているものと判断する。
図2の例では、選択した1つの飛行時間スペクトル上の着目ピークに対してイオンの質量電荷比がM1であると仮定した場合に、そのほかの複数の飛行時間スペクトル上に対応するピーク(図中に○印を付けたピーク)が存在する。一方、同じ着目ピークに対してイオンの質量電荷比がM2であると仮定した場合には、複数の飛行時間スペクトル上で対応するピークが存在しないケース(図中に×印を付け点線で示したピーク)が多くなっている。このように質量電荷比がM1であるとの仮定の下でのピーク存在の確率が高いことから、質量電荷比がM1であるとの仮定が正しいものと判断し、着目ピークに対するイオンの質量電荷比はM1であると結論付ける。
MT−TOFMSにおける偶発的な一致確率(つまり誤った一致の確率)を計算してその逆数をとると、上記のような質量電荷比の推定の信頼度に相当する量が得られる。この信頼度の定量化について説明する。
MT−TOFMSでいう偶発的な一致というのは図1を用いた上記説明のような完全な雑音ではなく、あくまでも別の質量電荷比を持つピークとの重なりが大部分を占めていて、厳密な定義による雑音ではない。しかしながら、対象としているイオンの質量電荷比の差が十分に大きく、周回数の差も十分に大きい場合には、ピーク同士の周回の位相は十分にランダムであって、互いに相手方のピークは雑音のようにみなすことができる。実際に、着目するピークに対して大多数のピークは、質量電荷比の差が十分に大きく、周回数の差は1以上である。この仮定の下で、MT−TOFMSにおけるピーク帰属結果の偶発的な一致の確率を以下のように算出する。
前述したように、1個のパルスについて偶発的な一致事象が発生する確率は、[雑音の発生する頻度]×[検出器のパルス幅]、である。これを飛行時間スペクトルに置き換えると、検出器のパルス幅はそのまま観測ピークの時間幅とすればよいが、雑音の発生する頻度については見積もりが必要になる。一つの方法としては、図3に示すように、着目ピークの近傍のピーク密集具合として隣接するピークとの間の時間間隔T1、T2を調べ、雑音(ピーク重なり)の発生する頻度Qを次式で定義する。
Q=1/min(T1,T2
ここで、min(a,b)は、aとbの小さい方の値を意味する。ただし、この見積もりは最大限大きな見積もりであって、殆どの場合、この見積もりよりも小さな値となる。
このようにすると、或る着目ピークの任意の飛行時間スペクトル上での帰属が偶発的である確率Piは、その着目ピークのピーク時間幅をΔTとして次の(2)式となる。
i=ΔT/min(T1,T2) …(2)
この(2)式で得られる「偶発的である確率」は、正確に言えば、「偶発的な確率の最悪な値(上限値)」であるが、ここでは単に「偶発的である確率」と記す。
着目ピークに対して、全ての飛行時間スペクトル上での偶発的である確率の積P(=P1×P2×…×Pn)を、次のような規則に則って計算する。これにより、着目ピークの帰属結果が偶発である確率Pが求まる。
(1)Pi>1ならばPi=1とする。これは、QT>1のときにはP=1と近似することによるものである。
(2)上述したように周回軌道5からのイオン排出時にゲート電極2の陰になることに起因するイオン消失は避けられないものの、このイオン消失の発生は仮定質量から計算により予測することができる。そこで、このイオン消失の発生が予測される場合には、Pi=1としてピーク有無の判断から除外する。
(3)複数の質量電荷比を持つイオンが寄与している(つまり偶発的にピークが重なっている)と判断される場合には、Pi=1として、既に偶発的な事象が発生していると判断する。
次に、本発明に係る質量分析データ処理方法の具体的な一例と、この処理を実行するMT−TOFMSの一実施例について図4〜図7を参照して説明する。図4はこの実施例のMT−TOFMSの概略構成図である。
イオン源1は例えばMALDIイオン源であり、このイオン源1で所定のエネルギーを付与されて一斉に出射された各種イオンは導入軌道4を通り、ゲート電極2を介して周回軌道5に導入される。周回軌道5は、周回電圧印加部11から複数組(煩雑になるため図には1組しか描いていない)の扇形電極3にそれぞれ印加される電圧により生成される電場によって形成される。ゲート電極2は導入・排出電圧印加部10から印加される電圧により、導入軌道4を経て来たイオンを周回軌道5に入射させたり、逆に周回軌道5に沿って飛行しているイオンを該軌道5から離脱させて排出軌道6に送り検出器7まで到達させたりする。イオンが周回軌道5に沿って周回している間は、ゲート電極2は実質的に存在しないのと同じである。
検出器7は時間経過に伴って順次到達するイオンを検出し、イオン量に応じた強度信号をデータ処理部8に出力する。データ処理部8は図示しないものの、検出器7からの検出信号を受けて該信号をデジタル化して飛行時間スペクトルデータとして記憶すると共に、この飛行時間スペクトルデータに対し後述するような処理を実行することによりマススペクトルを構成する。制御部9は目的試料に対して必要な複数の飛行時間スペクトルデータを取得するために、各部を制御する。データ処理部8及び制御部9の機能の多くは、汎用のパーソナルコンピュータに予めインストールされた専用の処理・制御ソフトウエアを該コンピュータで実行することにより達成される。
図5は本実施例のMT−TOFMSにおいて目的試料のマススペクトルを取得する際のデータ処理及び制御のフローチャートである。また、図6は図5中のコインシデンス解析の一部であるボトムアップ解析の処理手順を示す模式図、図7は同じくコインシデンス解析の一部であるトップダウン解析の処理手順を示す模式図である。図6、図7共に、図2と同様に、上にいくほど排出時間の長い、つまり質量分解能が高い飛行時間スペクトルである。
測定が開始されると、まず制御部9の制御の下に、イオン源1から出射したイオンを周回軌道5に導入せずにそのまま検出器7に到達させ、データ処理部8は0周回飛行時間スペクトルデータを取得する(ステップS1)。このときのイオンの飛行距離は導入軌道4の軌道長さLaと排出軌道6の長さLbとの和である。この0周回飛行時間スペクトルデータではイオンの追い越しは発生しないため、飛行時間スペクトル上で質量電荷比の順にピークが並ぶ。しかしながら、質量分解能は低いため、質量電荷比が近いピーク同士は十分に分離されずにピーク幅の広い1つのピークとして観測される。
次に、制御部9は多重周回の測定を行うためのイオンの排出時間を複数設定する(ステップS2)。質量分解能は飛行距離、つまり周回数に依存するから、測定対象の質量電荷比範囲と目的の質量分解能とに応じて排出時間の最長のおおよその値が求まる。そこで、この最長の排出時間とその最長値よりも短い排出時間を適宜複数設定する。また、ステップS1で得られた0周回飛行時間スペクトルデータから目的試料に含まれる各種成分のおおよその飛行時間が分かるから、この飛行時間を基に、イオン排出時にゲート電極2の陰となることに起因して消失するピークができるだけ少なくなるように排出時間を決めることが好ましい。排出時間が決まったならば、制御部9の制御の下に、その条件の下で目的試料に対する2回目以降の測定を実行し、多重周回の飛行時間スペクトルデータを取得する(ステップS3)。なお、ここでは、イオンの排出時間はイオン源1からのイオン出射時点をゼロとする。したがって、イオン排出時間は、イオンが導入軌道4を通過する時間と、イオンが周回軌道5を適宜の回数周回して該軌道5から排出される直前までの時間との和である。
複数の多重周回の飛行時間スペクトルデータが収集されたならば、0周回飛行時間スペクトルデータを含めてピークピッキングを実行し、飛行時間スペクトル毎に各ピークの強度と飛行時間の値とを求める(ステップS4)。ピーク時間幅が広い場合には、飛行時間として例えばピークの時間幅とその中心値とを求めるか、或いは、飛行時間としてピークの開始時間と終了時間との両方を求めるとよい。
その後、データ処理部8は上述した原理に基づくコインシデンス解析処理を実行する(ステップS5)。図2を用いた原理説明では、イオン排出時間が最も遅い飛行時間スペクトル上に現れるピークの質量電荷比を仮定して、これに対応する他の飛行時間スペクトル上のピークの有無を判断していたが、実際には、周回数の多い飛行時間スペクトルでは飛行途中のイオンの漸減により十分な信号強度が得られないピークが多く、イオン排出時間が最も遅い飛行時間スペクトルから推定をスタートするのは難しい。これに対し、0周回飛行時間スペクトルは質量分解能は低いものの、各イオンの信号強度は十分に高く、またイオン排出時にゲート電極2の陰となることに起因するイオン消失もない。したがって、全てのイオンがスペクトルデータに反映されると考えられる。そこで、ここでは、まず、0周回飛行時間スペクトルからスタートするボトムアップ解析を実行してピークの一致の候補を挙げ、その後に、最も質量分解能の高い飛行時間スペクトルからスタートするトップダウン解析を行ってピークの一致の候補を絞り込むようにしている。
ボトムアップ解析では、0周回飛行時間スペクトルからスタートして順次排出時間の長い飛行時間スペクトルに向かって、質量分解能R(m/Δm=T/2ΔT)から決まる不確定幅ΔTの時間範囲を探索し、該時間範囲内のピークの有無を判断する。
例えば、0周回飛行時間スペクトル上の或る1つのピークに着目すると、このときの軌道長はLa+Lbで既知であるから、そのピークの飛行時間(例えば時間幅と中心値)と軌道長とから、このピークに対応するイオンの飛行速度v1が或る幅(不確定幅)をもって計算できる。また、導入軌道4を通過する際の飛行時間T1も或る幅をもって計算できる。次に多重周回の飛行時間スペクトルを取得した際のイオン排出時間T2は、次の(3)式となる。
T2=T1+(Lc・N)/v1 …(3)
ここで、Lcは周回軌道5の周回長、Nは周回数である。T2、Lcは既知であり、v1、T1は前述のように或る幅をもって決まるから、(3)式から、その周回数を推定することができる。
それにより、多重周回の飛行時間スペクトル上において、0周回飛行時間スペクトル上で上記着目したピークと同一種のイオンに由来するピークが現れると推測される時間範囲ΔTが求まる。周回数が増えると飛行時間Tも増えるから、図6中に示すように、0周回飛行時間スペクトル中の或る時間幅ΔT0を有するピークに対し、多重周回の飛行時間スペクトル中で対応するピークが現れると想定される時間範囲ΔTの幅は拡がる。この時間範囲ΔTに存在するピーク全てが対応するピークの候補となる。ここで候補となった全てのピークのそれぞれについて、上記のように再びイオンの飛行速度等を計算し、イオン排出時間がさらに長い多重周回の飛行時間スペクトル上で同一種のイオンに由来するピークが現れると推測される時間範囲を設定する。これを繰り返すことにより、最終的に、最もイオン排出時間が長い、つまりは時間分解能(ひいては質量分解能)が最も高い飛行時間スペクトル(以下「最高周回数飛行時間スペクトル」という)上に時間範囲を設定し、その時間範囲に存在するピークを抽出する。
当然のことながら、(3)式で計算された周回数は整数化する必要があるが、その際に不確定性によって周回数を跨るような場合には、イオン排出時にゲート電極2の陰となることに起因するイオン消失が発生することが予測される。こうした場合には、飛行時間スペクトル上で対応するピークを見いだすことはできないので、その飛行時間スペクトルにおけるピーク有無の判断を止め、さらにイオン排出時間の長い飛行時間スペクトルに対する処理に移行する。一方、イオン排出時にゲート電極2の陰となることに起因するイオン消失が予測されないにも拘わらず対応するピークが見つからない場合でも、意図せぬイオン消失があり得るので、さらにイオン排出時間の長い飛行時間スペクトルに対する処理に移行する。即ち、ボトムアップ解析において順次1つずつ多重周回の飛行時間スペクトル上で対応するピークの有無を判断する際に、途中でピークが見つからない場合があっても、最高周回数飛行時間スペクトルまで処理を繰り返す。
上記の解析結果、即ち、最高周回数飛行時間スペクトル上でのピーク毎に、そこに行き着くまでの探索経路上で一致した(設定された時間範囲に属する)ピークが何個存在したか、それぞれのピークの飛行時間(周回数、又は質量電荷比)、0周回飛行時間スペクトル上のピークとの対応関係など、解析の過程で得られた全ての情報は記憶しておく。なお、最高周回数飛行時間スペクトル上でピークが消失している場合には、イオン排出時間が一段階短い飛行時間スペクトル上の対応するピークを用いればよい。以上の処理により、0周回飛行時間スペクトル上の1つの着目ピークに対応する、最高周回数飛行時間スペクトル上での1乃至複数のピークが求まり、各ピークの質量電荷比が求まる。0周回飛行時間スペクトル上における全ての着目ピークについて同様の処理を実行する。0周回飛行時間スペクトル上において異なる着目ピークに対応する複数のピークが、最高周回数飛行時間スペクトル上で同一時間位置に重なることもあり得る。この場合、最高周回数飛行時間スペクトル上の質量電荷比の候補が複数になる。
なお、図6に示したボトムアップ解析では、直下の飛行時間スペクトルを基に設定した時間範囲内でピークの有無を判定しているが、全ての多重周回の飛行時間スペクトル上でのピーク一致の判定を、0周回飛行時間スペクトルを基に行ってもよい。そうすることによって、仮定する質量電荷比の候補数は当然増えて解析時間もその分だけ掛かることになるが、解析の見通しが大幅に簡単になるという点で大きな意味がある。原因不明のイオン消失や、質量分解能が改善することによるピークの分裂などコインシデンス解析では例外的な状況の処理で容易に複雑になるが、0周回飛行時間スペクトルを基にボトムアップ解析を行うと、仮定する質量電荷比の候補数が最大に増えても、可能性を取りこぼす恐れは無くなるのである。
ボトムアップ解析を終えたならば次に、今度は最高周回数飛行時間スペクトル上の各ピークからスタートし、イオン排出時間が短い飛行時間スペクトル上のピークを辿るトップダウン解析を実行する。これは時間分解能が低下する方向であるから、質量電荷比から求まる時間位置には不確定幅がない。したがって、ボトムアップ解析のような枝分かれは途中で生じず、図7に示すように、基本的には一本のピークを順に辿ることができる(イオン消失がなければ)。また、最高周回数飛行時間スペクトル上で1本のピークに複数の質量電荷比の候補が挙げられている場合には、その1本のピークからスタートして複数の探索経路が形成される。この場合にも、イオン消失の取扱いはボトムアップ解析時と同じとする。また、解析結果を全て記憶しておく点も同様である。
着目する全てのピークに対するコインシデンス解析が終了したならば、次に、その解析結果の集計を行う(ステップS6)。ここでいう「集計」とは、全ての解析結果を参照して各ピーク毎に最も確からしい質量電荷比を推定すること、その推定の信頼度を定量化すること、及び、ピークの重なりを判断してその結果を用いて質量電荷比毎に信号強度を推定すること、などである。推定の信頼度は、上述したように各飛行時間スペクトルにおいて、飛行時間スペクトル上での偶発的である確率を計算し、その確率の積により求めるものとする。また、そのほか、次の規則に則ってイオンの消失やノイズを判定する。
(1)幾つかの飛行時間スペクトル上では対応するピークがないものがあっても、全体としてコインシデンス解析で矛盾がない結果が得られる場合には、対応するピークがない部分では原因不明のイオン消失が生じたとものと判断する。
(2)高い分解能で質量電荷比を求めるには、できるだけ高い分解能(イオン排出時間の最も長い)の飛行時間スペクトルを用いることが望ましい。しかしながら、その飛行時間スペクトル上で偶発的なピークの重なりがある(一本のピークに複数の質量電荷比が対応付けられる)場合には、ピーク位置が重なりによってシフトしてしまうので、このピークから質量電荷比を求めることは不適切である。即ち、高い分解能・精度で質量電荷比を求めるには、最大周回数飛行時間スペクトル上で重なりのないピークに対してはこのピークの時間位置から質量電荷比を求めるようにし、最大周回数飛行時間スペクトル上で重なりがあるピークについては、次に分解能が高い(排出時間が短い)飛行時間スペクトル上の重なりがないピークの時間位置から質量電荷比を求めるようにする。
(3)1つもイオンの帰属のなかったピークは電気ノイズ等に由来するノイズピークであると判断する。
また、信号強度については次のようにして決めることができる。
(1)0周回飛行時間スペクトル上における1本のピークが最終的に複数のピークに対応付けられなかった(1本のピークにのみ対応付けられた)場合には、0周回飛行時間スペクトル上におけるそのピークの信号強度を対応する質量電荷比の信号強度として採用する。
(2)0周回飛行時間スペクトル上における1本のピークが最終的に複数のピークに対応付けられた場合には、0周回飛行時間スペクトル上のピークは、分解能が低いために近接した複数の質量電荷比を有するイオンが混じったものであると判断できる。そこで、分裂により生じたピークの全てが、多重周回の飛行時間スペクトル上で重ならないときの各ピークの信号強度比を求め、この信号強度比に応じて、0周回飛行時間スペクトル上におけるその1本のピークの信号強度を分配する。
以上のようにして、各ピークの質量電荷比と信号強度とを決めることができるから、その算出結果によりマススペクトルを構成する(ステップS7)。推定の信頼度はピーク(質量電荷比)毎に求まるが、実際に存在するイオンの質量電荷比と始めに設定したイオン排出時間との関係が適切でないと、信頼度が大きく低下する場合がある。そこで、例えば、信頼度に予め閾値を設定しておき、信頼度がこの閾値を下回るようなピークがある場合には(ステップS8でNo)、ステップS2に戻り、制御部9はイオン排出時間を変更する又はイオン排出時間を新たに追加する。この際には、信頼度の低かったピークのみの再解析が可能であればよいので、例えば信頼度の低かったピークがゲート電極2の陰にならないようにイオン排出時間を変更するのが好ましい。こうして、イオン排出時間を変更又は追加した上で、同一の目的試料に対する測定を再度実行し、多重周回の飛行時間スペクトルを取得し、上述したような解析を実行する。
そして、最終的に、全てのピークの信頼度が閾値以上になれば、測定を終了し(ステップS9)、作成したマススペクトルを測定結果として出力する。例えば、全てのピークの信頼度が閾値以上にならなくても、決められた計算時間が経過した場合には途中で処理を打ち切って、それまでの段階で得られたマススペクトルを出力するようにしてもよい。その場合でも、信頼度を併せて出力することで、どのピークの信頼性が低いのかを分析者が知ることができる。
前述の本発明に係るデータ処理の有効性を、シミュレーションにより検証した結果を以下に示す。シミュレーションを行うために用意したイオンの質量電荷比は、1000から1200[Da]まで1[Da]間隔で201本(信号強度はそれぞれ、100から200まで0.5ステップ)と、質量電荷比が近接するイオンピークとして1050.05[Da](信号強度は50)の計202本とした。さらに原因不明のイオン消失が起こることを想定し、全ての飛行時間スペクトル上で前から60番目のピークが消失するとし、さらに電気ノイズの混入として、n番目の多重周回飛行時間スペクトル上に1005.5+10・n[Da]の位置に信号強度50のピークを意図的に混入した。イオン飛行軌道の軌道長は、La=0.98[m]、Lb=0.53[m]、Lc=0.97[m]である。また、ピーク幅は10[ns]、イオンの加速電圧は5.28[kV]とし、周回軌道長の10%がゲート電極2の陰となることに起因するイオン消失を起こすものと想定した。
上記パラメータに基づくシミュレーションにより得られた0周回飛行時間スペクトルを図8(a)に示す。質量分解能が不十分であるため、質量が近接するピークは分離できていないことが分かる。なお、図8の上部に示したRは質量分解能、Nはピークピッキングで検出されたピーク数を表す。図8(b)は、イオンの排出時間を3.14957[msec]としたときの飛行時間スペクトルである。図中の点印は、本来のピーク位置と信号強度である。この程度にピーク数が多くなると、偶発的なピークの重なりは不可避である。なお、点印を上に越えているピークは、偶発的なピークの重なりが起きたため信号強度が大きくなっていることを示している。また点印が単独で存在しているのは、該当ピークがゲート電極2の陰となることに起因するイオン消失又は原因不明のイオン消失を起こしているからである。これに加えて電気ノイズの混入もあるため、最終的にピッキングされたピーク数は176本にまで減少している。
図8に示したような飛行時間スペクトルを含み、イオン排出時間が互いに異なる飛行時間スペクトルを7つ用意し、上述したデータ処理方法に基づいてマススペクトル作成を行った結果を図9に示す。
図9(a)は作成されたマススペクトルである。質量電荷比が近接するピークも含めて、全てのピークに対して信号強度も正しく再現できていることが分かる。図9(b)は、各ピークの解析結果が偶発的に起こる確率(上限値)を質量電荷比毎に示した図である。殆どのピークで解析結果が偶発的に起こる確率は1/100以下と十分に小さくなっており、上記解析結果は高い信頼性を有していることが分かる。
図9(c)は、作成されたマススペクトルの質量精度を示す図である。質量精度は±0.04[ppm]以下に収まっていることが分かる。ここで生じた質量誤差はピークピッキングの際に生じたものである。上記解析に用いたパーソナルコンピュータは汎用品(Genuine Intel CPU 2140@1.6GHz 1.2GHz 504MB RAM)であるが、上記の解析の導出に要した時間は360[ms]と短くて済み、測定のリアルタイム性も十分に確保できることが判明した。
さらにまた、解析結果を検証したところ、各飛行時間スペクトルにおいて、ゲート電極2の陰となることに起因するイオン消失や、ピークの重なりはもちろんのこと、上述したような判定方法により、原因不明のイオン消失や電気ノイズの混入も正しく識別されていることが判明した。
以上のように、本発明に係る質量分析データ処理方法によれば、汎用パーソナルコンピュータを用いながらほぼリアルタイムで、MT−TOFMSで収集された飛行時間スペクトルから高精度且つ高分解能のマススペクトルを作成することができる。
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
1…イオン源
2…ゲート電極
3…扇形電極
4…導入軌道
5…周回軌道
6…排出軌道
7…検出器
8…データ処理部
9…制御部
10…導入・排出電圧印加部
11…周回電圧印加部

Claims (9)

  1. 分析対象のイオンをパルス的に出射するイオン源と、該イオン源から出射されたイオンを略同一軌道に沿って複数回周回させる周回軌道部と、該周回軌道部で周回したイオンを検出する検出器と、を具備する多重周回飛行時間型の質量分析装置により収集されるデータを処理する質量分析データ処理方法であって、同一試料に対し、前記周回軌道部から前記検出器にイオンを向かわせるべく周回軌道からイオンを排出するタイミングを複数段階に変更することで得られた複数の飛行時間スペクトルに基づいてマススペクトルを作成する質量分析データ処理方法において、
    a)前記複数の飛行時間スペクトル中の任意の1つの飛行時間スペクトル上で着目するピークについて、該ピークの情報に基づいて、1つの質量電荷比を仮定したときに他の飛行時間スペクトル上で前記ピークに対応したイオン由来のピークが出現する時間位置を推定し、実際に取得された飛行時間スペクトル上で前記推定された時間位置にピークが存在するか否かを調べるという一致性の判定を、複数の前記他の飛行時間スペクトルについてそれぞれ実行することにより、ピークの一致性判定結果を取得し、複数の異なる質量電荷比の仮定に対して同様の処理を行うことでそれぞれ得られた一致性判定結果に基づいて、前記着目するピークに対応したイオンの質量電荷比を決定する質量電荷比推定ステップと、
    b)前記質量電荷比推定ステップの実行過程で、前記着目ピークについて少なくとも前記一致性判定結果に基づいて決定された質量電荷比に対する他の飛行時間スペクトル上でのピークの時間位置の一致が偶発的に生じる確率を推定し、複数の前記他の飛行時間スペクトルにおいてそれぞれ得られる前記確率の推定値に基づいて、前記着目ピークについての前記質量電荷比推定ステップによる質量電荷比の推定結果の信頼度を示す定量値算定する信頼度算定ステップと、
    を有することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  2. 請求項1に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記信頼度算定ステップは、飛行時間スペクトル上の着目ピークに対し、時間軸上で近隣のピーク情報から前記ピークの時間位置の一致が偶発的に生じる確率を推定することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  3. 請求項1に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記信頼度算定ステップにより求められた信頼度を判定し、該信頼度が低い場合に、周回軌道からイオンを排出させるタイミングを修正又は追加することにより、さらに異なる飛行時間スペクトルを取得することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  4. 請求項1に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記質量電荷比推定ステップの処理実行過程で、飛行時間スペクトル上で本来存在する筈であるピークが存在しないことを調べることによりピーク消失を認識することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  5. 請求項1に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記質量電荷比推定ステップの処理実行過程で、飛行時間スペクトル上で本来存在しない筈のピークが存在することを調べることにより偽ピークの混入を認識することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  6. 請求項1に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記質量電荷比推定ステップの処理実行過程で、複数の着目ピークに対応する他の飛行時間スペクトル上のピークが同一時間位置に存在することを調べることによりピークの重なりを認識することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  7. 請求項6に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記質量電荷比推定ステップでは、ピークの重なりが認識されたピークを除外して、異なる複数の質量電荷比の候補に対する一致性判定結果を求め、前記着目するピークの質量電荷比を決定することを特徴とする質量分析データ処理方法。
  8. 請求項7に記載の質量分析データ処理方法であって、
    前記質量電荷比推定ステップでは、飛行時間スペクトル上でのピークの重なりが認識されていないピークを用いて、前記マススペクトル上での対応するピークの信号強度を求めることを特徴とする質量分析データ処理方法。
  9. 分析対象のイオンをパルス的に出射するイオン源と、該イオン源から出射されたイオンを略同一軌道に沿って複数回周回させる周回軌道部と、該周回軌道部で周回したイオンを検出する検出器と、同一試料に対し、前記周回軌道部から前記検出器にイオンを向かわせるべく周回軌道からイオンを排出するタイミングを複数段階に変更することで得られた複数の飛行時間スペクトルに基づいてマススペクトルを作成するデータ処理手段と、を具備する多重周回飛行時間型の質量分析装置において、前記データ処理手段は、
    a)前記複数の飛行時間スペクトル中の任意の1つの飛行時間スペクトル上で着目するピークについて、該ピークの情報に基づいて、1つの質量電荷比を仮定したときに他の飛行時間スペクトル上で前記ピークに対応したイオン由来のピークが出現する時間位置を推定し、実際に取得された飛行時間スペクトル上で前記推定された時間位置にピークが存在するか否かを調べるという一致性の判定を、複数の前記他の飛行時間スペクトルについてそれぞれ実行することにより、ピークの一致性判定結果を取得し、複数の異なる質量電荷比の仮定に対して同様の処理を行うことでそれぞれ得られた一致性判定結果に基づいて、前記着目するピークに対応したイオンの質量電荷比を決定する質量電荷比推定手段と、
    b)前記質量電荷比推定手段による処理実行過程で、前記着目ピークについて少なくとも前記一致性判定結果に基づいて決定された質量電荷比に対する他の飛行時間スペクトル上でのピークの時間位置の一致が偶発的に生じる確率を推定し、複数の前記他の飛行時間スペクトルにおいてそれぞれ得られる前記確率の推定値に基づいて、前記着目ピークについての前記質量電荷比推定ステップによる質量電荷比の推定結果の信頼度を示す定量値算定する信頼度算定手段と、
    を備えることを特徴とする質量分析装置。
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