JP2010277970A - 多重周回飛行時間型質量分析装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】周回軌道でのイオンの追い越しに起因する複雑な周回数の判定等を必要とせず、特定のピークに対する高質量分解能のマススペクトルを取得する。
【解決手段】イオンの追い越しが生じない条件で目的試料の質量分析を行いマススペクトルを得る(S1、S2)。そのマススペクトルに現れる各ピークの質量から、周回毎に周回軌道離脱用の偏向電極にイオンが到達する時間を計算する(S4)。マススペクトルから特定ピークが抽出されると、所望の質量分解能を達成するのに必要な周回数が計算され、その周回数から求まるイオン到達時間に他の夾雑ピークのイオン到達時間が重ならないかを判断し、重なる場合に周回数を変更する(S5〜S7)。2回目の測定では、目的試料由来のイオンを周回させ、決定された周回数に応じたイオン到達時間に基づいて偏向電極によりイオンを周回軌道から離脱させて検出する(S9)。これにより、追い越しが発生しても他のイオンが混じることなく高質量分解能のマススペクトルを取得できる。
【選択図】図2
【解決手段】イオンの追い越しが生じない条件で目的試料の質量分析を行いマススペクトルを得る(S1、S2)。そのマススペクトルに現れる各ピークの質量から、周回毎に周回軌道離脱用の偏向電極にイオンが到達する時間を計算する(S4)。マススペクトルから特定ピークが抽出されると、所望の質量分解能を達成するのに必要な周回数が計算され、その周回数から求まるイオン到達時間に他の夾雑ピークのイオン到達時間が重ならないかを判断し、重なる場合に周回数を変更する(S5〜S7)。2回目の測定では、目的試料由来のイオンを周回させ、決定された周回数に応じたイオン到達時間に基づいて偏向電極によりイオンを周回軌道から離脱させて検出する(S9)。これにより、追い越しが発生しても他のイオンが混じることなく高質量分解能のマススペクトルを取得できる。
【選択図】図2
Description
本発明は、試料由来のイオンを閉じた周回軌道に沿って繰り返し飛行させることでイオンを質量(厳密には質量電荷比m/z)に応じて分離して検出する多重周回飛行時間型質量分析装置に関する。
一般に、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS=Time of Flight Mass Spectrometer)では、一定のエネルギーを与えることで加速したイオンはそれぞれ質量に応じた飛行速度を持つ、という原理に基づき、そうしたイオンが一定距離を飛行するのに要する飛行時間を計測し、その飛行時間を質量に換算することにより質量分析を行う。したがって、質量分解能を向上させるためには飛行距離を長くすればよいが、単に直線的な飛行距離を延ばすと装置を大型化する必要がある。そこで、飛行距離の延伸と装置の小形化とを両立させるため、略円形状、略楕円形状、略8の字形状など様々な態様の閉軌道に沿ってイオンを繰り返し飛行させるようにした多重周回飛行時間型質量分析装置(Multi Turn TOF−MS)が開発されている(例えば特許文献1、2など参照)。
また、同様の目的で、上記のような周回軌道ではなく反射電場によりイオンを複数回反射させる往復軌道とすることで飛行距離を延ばすようにした、多重反射飛行時間型質量分析計も開発されている。多重周回飛行時間型と多重反射飛行時間型とではイオン光学系が相違するものの、質量分解能を向上させるための基本的な原理は同じである。そこで、本明細書では、「多重周回飛行時間型」は「多重反射飛行時間型」を包含するものとする。
上述のように多重周回飛行時間型質量分析装置は高質量分解能を達成することができるものの、イオンの飛行経路が閉軌道であることを原因とする欠点が存在する。即ち、閉軌道に沿ってイオンを周回させる際に周回数が増加するに伴い、低質量で速度の大きなイオンが高質量で速度の小さなイオンを追い越してしまうという問題である。このような異なる質量のイオンの追い越しが生じると、取得された飛行時間スペクトル上では、観測されるピーク毎にそのピークに対応するイオンの周回数が異なる、即ち、飛行距離が異なる、という状態が起こり得る。こうなると、イオンの質量と飛行距離とを一意的に決定することができないため、飛行時間スペクトルを直接的にマススペクトルに換算することができなくなる。
上記欠点のため、従来の多重周回飛行時間型質量分析装置では、イオン源で生成された試料由来のイオンの中で、上記のような追い越しの起こらない質量範囲に限定したイオンを選別し、選別したイオンを周回軌道に乗せて所定周回数だけ飛行させた後に検出する、という制御を行うのが一般的である。このような手法では、高質量分解能のマススペクトルを得ることはできるものの、そのマススペクトルの質量範囲はかなり限られたものとなる。これは、一度の分析で比較的広い質量範囲のマススペクトルを得られるというTOF−MSの利点に反するものである。
一方、例えば特許文献3などに記載のように、同一試料に対し条件の相違する複数回の質量分析を実行して得られた結果を比較することで、マススペクトル上に現れるピークの周回数を推定するようなデータ処理を行う手法も提案されている。こうした手法も有効ではあるものの、データ処理が複雑になることは避けられない。
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、複雑な周回数の判定処理などを行うことなく、できるだけ少ない分析回数でもって目的とする1乃至複数の質量範囲のマススペクトルを高質量分解能で得ることができる多重周回飛行時間型質量分析装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明は、試料をイオン化するイオン源と、試料由来のイオンを繰り返し飛行させる周回軌道を形成するイオン光学系と、周回軌道に沿って飛行したイオンを検出する検出器と、を具備する多重周回飛行時間型質量分析装置であって、
a)周回軌道に沿って飛行しているイオンを検出器に導入するために前記周回軌道から離脱させるべく、該周回軌道上又はそれに沿って配設された電極に印加する電圧を制御する離脱電圧制御手段と、
b)周回軌道上でイオンを周回させずに又は周回させる場合でもイオンの追いつき・追い越しが起こらないことが保証される周回数で以てイオンを飛行させる測定条件の下で、分析対象試料に対する1回目の測定を実行し、その測定結果によりマススペクトルを取得する第1測定実行制御手段と、
c)前記1回目の測定でのマススペクトルに現れる1以上の特定のピークについて、そのピークに含まれるイオンを前記周回軌道に沿って繰り返し飛行させたときに該イオンを前記電極を通して周回軌道から離脱させることが可能なタイミングを周回数毎又は特定の周回数について推定する離脱条件推定手段と、
d)予め設定された性能を満たすように前記離脱条件推定手段により推定されるタイミングで前記離脱電圧制御手段による電圧制御が行われる測定条件の下で、前記分析対象試料に対する2回目の測定を実行し、その測定結果によりマススペクトルを取得する第2測定実行制御手段と、
を備えることを特徴としている。
a)周回軌道に沿って飛行しているイオンを検出器に導入するために前記周回軌道から離脱させるべく、該周回軌道上又はそれに沿って配設された電極に印加する電圧を制御する離脱電圧制御手段と、
b)周回軌道上でイオンを周回させずに又は周回させる場合でもイオンの追いつき・追い越しが起こらないことが保証される周回数で以てイオンを飛行させる測定条件の下で、分析対象試料に対する1回目の測定を実行し、その測定結果によりマススペクトルを取得する第1測定実行制御手段と、
c)前記1回目の測定でのマススペクトルに現れる1以上の特定のピークについて、そのピークに含まれるイオンを前記周回軌道に沿って繰り返し飛行させたときに該イオンを前記電極を通して周回軌道から離脱させることが可能なタイミングを周回数毎又は特定の周回数について推定する離脱条件推定手段と、
d)予め設定された性能を満たすように前記離脱条件推定手段により推定されるタイミングで前記離脱電圧制御手段による電圧制御が行われる測定条件の下で、前記分析対象試料に対する2回目の測定を実行し、その測定結果によりマススペクトルを取得する第2測定実行制御手段と、
を備えることを特徴としている。
上記離脱電圧制御手段により制御された電圧が印加される電極は、例えば、周回軌道に沿って飛行しているイオンの軌道を曲げる偏向電極とすることができるほか、周回軌道を形成するための電極の一部が兼ねる構成とすることもできる。偏向電極とする場合には、離脱電圧制御手段は目的イオンを周回軌道から離脱させたいときに所定の電圧を印加し、そうでないときには電圧を印加しない。一方、周回軌道を形成するための電極の一部が兼ねる構成とする場合には、離脱電圧制御手段は例えば目的イオンを周回軌道から離脱させたいときに周回用電圧の印加を停止し、異なる電圧を印加するか或いは電圧を印加しない。
また、上記「性能」とは一般的には「質量分解能」である。周回軌道の1周の長さ(周回長)や周回軌道外のイオンの飛行経路長は装置の構成上決まるから、イオンの周回数が決まればイオンの飛行経路長は計算可能である。質量分解能はイオンの質量(上述したように厳密には質量電荷比m/z)と飛行経路長に依存するから、特定ピークに含まれるイオンの質量(又は質量範囲)が分かれば、所望の質量分解能を達成するのに必要な周回数を求めることができる。
第1測定実行制御手段による制御の下では、試料由来のイオンの飛行距離は相対的に短いから、得られるマススペクトルの質量分解能は低い。そのため、質量が近接したイオンは分離されずに、マススペクトル上で或る程度の幅のある1つのピークとして現れる。但し、幅はあるものの質量自体は正確に求まるから、離脱条件推定手段は、特定ピークに含まれるイオンをその周回数だけ周回させたときに、該イオンが上記のような軌道離脱用の電極に到達するタイミング(例えばイオン飛行開始時点からの経過時間)の概算値を求めることができる。
1回目の測定で得られるマススペクトルに複数のピークが現れている場合、各ピークに含まれるイオンは異なる質量を有するから、そのピーク毎に軌道離脱用の電極に到達するタイミングは相違する。また、質量の小さなイオンほど大きさ速度を持つから、周回数が増すに従いイオンの追い越しが生じるようになる。その場合でも、特定ピークに含まれるイオンを周回軌道から離脱させようとする上記タイミングと他のピークに含まれるイオンが軌道離脱用電極に到達するタイミングとが重ならなければ、第2測定実行制御手段の制御の下で実行される2回目の測定において、特定ピークに含まれるイオンが所望の質量分解能を達成できる程度に十分な周回数だけ周回軌道を周回した後に、それらイオンのみを選択的に周回軌道から離脱させて検出器に導入することができる。これにより、特定ピークに含まれるイオンを高質量分解能で分析したマススペクトルを作成することができる。
即ち、本発明に係る多重周回飛行時間型質量分析装置において、前記離脱条件推定手段は、1つの特定ピークに含まれるイオンを周回軌道から離脱させる際に他のピークのイオンが同時に周回軌道から離脱しないように前記タイミングを推定する構成とすればよい。
この構成の一態様として、前記離脱条件推定手段は、1つの特定ピークに含まれるイオンについて予め設定された性能を満たすような周回数を求め、該周回数に対応して推定される離脱のタイミングと他のピークに含まれるイオンの異なる周回数に対応して推定される離脱のタイミングとの重なりを判断し、重なりがある場合には、先に求めた周回数を変更するようにすればよい。
例えば、或る特定ピークに含まれるイオンについて予め設定された性能を満たすように求めた周回数に対応して推定される離脱タイミングと別のイオンの離脱タイミングとが重なる場合には、周回数を1だけ増加させて同様に重なりがあるか否かを判断し、重なりがない状態となるまで周回数を増やせばよい。
本発明に係る多重周回飛行時間型質量分析装置では、2回目の測定でイオン検出を行う対象のイオン、つまり1回目の測定で取得したマススペクトルに現れるピークの中の特定ピークの数は特に限定されない。2回目の測定において、或る特定ピークに含まれるイオンを周回軌道から選択的に離脱させると、残りのイオンは殆どそのまま周回軌道に沿って飛行を続ける。したがって、上述したように他のピークに含まれるイオンが離脱用電極に到達しないタイミングを選ぶことにより、複数の特定ピークに含まれるイオンを順次、周回軌道から離脱させて検出器に導入することができる。
また上記のような1乃至複数の特定ピークを自動的に選択するために、本発明に係る多重周回飛行時間型質量分析装置では、前記1回目の測定でのマススペクトルに現れるピークの中で所定の条件を満たすピークを1以上抽出して特定ピークとするピーク抽出手段をさらに備える構成とすることができる。
上記ピーク抽出手段におけるピーク抽出の条件は特に限定されないが、例えば次のようなものを挙げることができる。
・各ピークの中心(又は重心位置)の質量(m/z値)又はセントロイド処理後の質量(m/z値)のうちユーザが指定したもの又は指定された範囲に入るものを抽出する。
・ピーク強度がユーザにより指定された閾値を超えたものを抽出する。
・ピーク強度の大きい順にユーザにより指定された個数だけ抽出する。
・質量(m/z値)が小さい順又は大きい順にユーザにより指定された個数だけ抽出する。
・ピーク幅がユーザにより指定された幅より大きいものを抽出する。
なお、これらは一例であるとともに、複数の条件の組み合わせも可能である。
・各ピークの中心(又は重心位置)の質量(m/z値)又はセントロイド処理後の質量(m/z値)のうちユーザが指定したもの又は指定された範囲に入るものを抽出する。
・ピーク強度がユーザにより指定された閾値を超えたものを抽出する。
・ピーク強度の大きい順にユーザにより指定された個数だけ抽出する。
・質量(m/z値)が小さい順又は大きい順にユーザにより指定された個数だけ抽出する。
・ピーク幅がユーザにより指定された幅より大きいものを抽出する。
なお、これらは一例であるとともに、複数の条件の組み合わせも可能である。
これにより、1回目の測定で取得されたマススペクトルに複数のピークが現れる場合でも、その中でユーザが着目する適宜の数のピークに絞って高質量分解能のマススペクトルを取得することができ、無駄なスペクトル作成を行うことを回避できる。
本発明に係る多重周回型飛行時間型質量分析装置によれば、イオンの追い越しが生じた状態での周回数の判定などの複雑なデータ処理を伴わず、例えばユーザが着目する1乃至複数の成分について所望の質量分解能以上の高質量分解能のマススペクトルを取得することができる。また、特に1回目の測定で得られた低質量分解能のマススペクトルに現れる複数のピークに含まれるイオンを高質量分解能で質量分析する場合でも、さらに1回の測定だけを行えばよく、質量範囲を区切った複数回の測定を実行する必要はない。そのため、測定に要する時間を節約して効率的な分析が行えるとともに、分析対象試料も多量に用意する必要がない。
本発明の一実施例である多重周回飛行時間型質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例の多重周回飛行時間型質量分析装置の概略構成図である。
真空ポンプにより真空排気される図示しない真空室内には、イオン源1、イオン加速電極2、多重周回イオン光学系3、偏向電極4、及び検出器5、が配設されている。
イオン加速電極2は、イオン加速電圧印加部7から印加される電圧によって生成される電場の作用により、イオンに一斉に初期エネルギーを付与し、パルス状にイオンを出射するものである。なお、イオン加速電極2の代わりに、リニア型又は三次元四重極型のイオントラップを設け、そのイオントラップによりイオンに初期エネルギーを付与するようにしてもよい。
多重周回イオン光学系3は複数の扇形電極対31を含み、MT−TOF部電圧印加部9から扇形電極対31に印加される電圧によって生成される扇形電場の作用により周回軌道32を形成する。なお、周回軌道32の形状はこれに限らず、8字形状など、任意の形状にすることができる。
偏向電極4は周回軌道32中に設置され、偏向電極電圧印加部(本発明における離脱電圧制御手段に相当)8による電圧が印加されない状態では存在しないものとみなすことができる。一方、偏向電極電圧印加部8により所定の電圧が偏向電極4に印加されると、偏向電場が発生し、周回軌道32に沿って通過しようとするイオンは軌道を外方に曲げて周回軌道32から離脱し、検出器5へと向かう。
なお、この実施例では、イオン周回用の扇形電極対31と偏向電極4とを別に設けているが、扇形電極対の一つに偏向電極の機能を兼用させることもできる。例えば、到来するイオンを周回軌道32に沿って周回させたい場合には、その扇形電極対に所定の電圧を印加してイオンの進行方向を曲げ、到来するイオンを周回軌道32から離脱させたい場合には、その扇形電極対に印加する電圧を停止することでイオンを直進させるようにすればよい。
イオン源1や各電圧印加部7、8、9は、制御部(本発明における第1測定実行制御手段及び第2測定実行制御手段に相当)11により制御される。検出器5による検出信号はA/D変換器6で所定のサンプリング時間間隔でデジタルデータに変換され、そのデータはデータ処理部12で処理される。データ処理部12は、ピーク抽出部121、離脱条件決定部(本発明における離脱条件推定手段に相当)122などを含む。制御部11及びデータ処理部12は例えば、入力部13、表示部14が接続されたパーソナルコンピュータ10をハードウエア資源とし、このパーソナルコンピュータ10にインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することで後述するような特徴的な動作を実行するものとすることができる。
本実施例の多重周回飛行時間型質量分析装置における基本的な質量分析動作を簡単に説明する。
イオン源1では試料分子がイオン化され、生成された各種イオンはイオン加速電極2に導入されて一旦蓄積される。その後、蓄積されたイオンはイオン加速電極2において所定の初期エネルギーを付与されてほぼ一斉に吐き出され、飛行を開始する。
イオン源1では試料分子がイオン化され、生成された各種イオンはイオン加速電極2に導入されて一旦蓄積される。その後、蓄積されたイオンはイオン加速電極2において所定の初期エネルギーを付与されてほぼ一斉に吐き出され、飛行を開始する。
イオン加速電極2を出発点として飛行を開始したイオンは、多重周回イオン光学系3において周回軌道32に沿って飛行する。イオンは周回軌道32を1乃至複数回周回した後に偏向電極4を経て周回軌道32から離脱され、検出器5に到達して検出される。イオン加速電極2を発したイオンが検出器5に入射するまでの飛行経路の長さは、周回軌道32に沿った周回数に依存する。したがって、周回数が多いほど高い質量分解能が得られる。データ処理部12は、例えばイオンがイオン加速電極2を出発した時点を基準とした時間軸上に検出信号によるイオン強度データを記録することで飛行時間スペクトルを作成し、その時間軸を質量軸に換算することでマススペクトルを作成する。
次に、本実施例の多重周回飛行時間型質量分析装置の特徴的な分析動作について、図2〜図3を参照して説明する。図2はこの分析動作の手順を示すフローチャート、図3は分析動作の説明図である。この特徴的な分析処理では、同一の分析対象試料について2回の測定を実行する。
即ち、自動分析が開始されると、制御部11は、分析対象試料に対する1回目の測定として、飛行途中でのイオンの追いつき・追い越しが生じないことが保証される条件の下で質量分析を実行するように各部を制御する(ステップS1)。このとき、偏向電極電圧印加部8は偏向電極4に到来するイオンが偏向されてそのまま検出器5に入射するように偏向電極4に電圧を印加する。したがって、イオン加速電極2から出発したイオンは周回軌道32に乗り、該軌道32に沿って進むが、1周回する前に周回軌道32を外れて検出器5に入射する。これにより、イオン加速電極2から出射されるイオンの質量に拘わらず、飛行の途中で追いつきや追い越しが発生しないことが保証される。
なお、イオン加速電極2から出射されるイオンの質量範囲が既知である場合で、周回軌道32に沿って1周回以上の所定周回数イオンを周回させても追い越しが起こらないことが確実である場合には、その周回数だけイオンを周回させてから検出器5に導入するようにしてもよい。
データ処理部12は上記1回目の測定により得られる検出信号に基づいて、イオン強度を時間経過に従って記録した飛行時間スペクトルを取得する。このとき検出されるイオンの飛行距離は全て同一で且つ既知であるから、飛行時間スペクトル上の各ピークの飛行時間はそれぞれ質量に換算することができ、マススペクトルが作成される(ステップS2)。いまここでは、図3(a)に示すようなマススペクトルが得られたものとする。この場合、飛行距離は短いので質量分解能は低く、近接する質量を持つイオンピークが分離されずに、或る程度の幅を持ったピークが出現する。
次に、データ処理部12において、離脱条件決定部122は、マススペクトルに現れているピーク毎に、そのピークに含まれるイオンが偏向電極4に到達して通過し終える時間を計算する。さらに、そのピークの質量、周回軌道32の1周回の長さなどから1周回するのに要する時間が計算できるから、各周回毎にイオンが偏向電極4に到達する時間(以下「イオン到達時間」という)を計算する(ステップS3)。いま或る1つのピークのみを考えると、図3(b)に示すように、周回なしの場合に偏向電極4にイオンが到達する時間幅を先頭に、任意のn周回後に偏向電極4にイオンが到達する時間幅を計算することができる。ここで時間幅は、もともとピークに含まれるイオンの質量幅(1回目の測定時の質量分解能に依存する)と、イオンが偏向電極4を通過し終えるのに要する時間、及び計算上の誤差などを含むものとすることができる。
仮に図3(b)に示すようにピークが1つしか存在しないとすると、図3(b)中に示したt1〜t2の時間範囲だけ偏向電極4に所定の電圧を印加し、そのときに偏向電極4を通過しようとするイオンを検出器5に向かわせることにより、n周回後の所望のイオンを検出することができる。但し、図3(a)に示すように複数のピークが存在する場合には、各ピーク毎に図3(b)に示すような各周回毎のイオン到達時間が求まり、それらが重なる可能性があることを考慮する必要がある。
このことを図3(c)により説明する。いま目的ピークのn−1周回、n周回、n+1周回のイオン到達時間が図3(c)中に示すように想定されるとして、そのほかに別の2つのピーク(これを夾雑ピークA、Bという)のイオン到達時間が想定されるものとする。複数のピークのイオン到達時間が重なっている時間範囲では、このタイミングで偏向電極4に周回離脱用電圧を印加すると、異なるピークのイオンが混じって周回軌道32から離脱して検出器5に入射してしまう。つまり、目的ピークに含まれるイオンのみのマススペクトルを得ることができなくなる。そのため、目的ピークのイオン到達時間に夾雑ピークのイオン到達時間が重ならないような周回数を選択する必要がある。
そこで、ピーク抽出部121が後述するように1回目の測定により得られたマススペクトルから特定のピークを抽出すると(ステップS4)、離脱条件決定部122は、予め設定された所望の質量分解能から目的ピークの周回数の目標値を求める(ステップS5)。次いで、その目標値の周回数に対応したイオン到達時間に他の夾雑ピークのイオン到達時間が重ならないか否かを調べる(ステップS6)。その重なりがなければ、ステップS8へと進むが、重なりがある場合にはステップS7により目標値の周回数を変更してステップS6へ戻る。
例えば、いま図3(c)に示すn周回が当初の目標値であるとすると、その目標値の周回数に対応したイオン到達時間に他の夾雑ピークのイオン到達時間が重なってしまう。この場合には、目標値を1だけ増加させ又は減少させて目標値に置き換え、その置き換えられた目標値の周回数に対応したイオン到達時間に他の夾雑ピークのイオン到達時間が重ならないか否かを調べる。図3(c)の例では、n+1周回を新しい目標値とした場合に、その目標値に対応したイオン到達時間に他の夾雑ピークのイオン到達時間は重ならない。そこで、この目標値に対するイオン到達時間を分析条件として制御部11に与える。
次に、ステップS4で抽出された全ての特定ピークに対する周回数の目標値が決定し、イオン到達時間が得られたか否かを判定し(ステップS8)、未決定のものがある場合にはステップS5へ戻る。そうして、全ての特定ピークに対するイオン到達時間が求まったならば、制御部11は分析対象試料に対する2回目の測定として、上記分析条件に基づいた質量分析を実行するように各部を制御する(ステップS9)。即ち、1回目の測定と同じ分析対象試料をイオン源1でイオン化し、イオン加速電極2からパルス状に出射して周回軌道32に乗せる。MT−TOF部電圧印加部9は、周回軌道32に乗ったイオンが周回するように扇形電極対31に電圧を印加する。一方、偏向電極電圧印加部8は制御部11による制御の下に、イオン加速電極2からのイオン出射時点から上記分析条件で設定されたイオン到達時間が経過した後に所定時間だけ偏向電極4に電圧を印加する。
周回軌道32上を異なる質量を有するイオンが飛行し、その飛行の途中で低質量のイオンは高質量のイオンを追い越すため、周回数が異なるイオンが混在した状態となる。その状態でも、分析条件として設定した時間t1〜t2の期間には目的ピークに含まれるイオンのみが偏向電極4に到達するから、このタイミングで偏向電極4による偏向電場が形成されると、目的ピークに含まれるイオンのみが選択的に周回軌道32から離脱して検出器5へと向かう。
一方、上記期間の直前に偏向電極4を通過したり上記期間の直後に偏向電極4に到達したりしたイオンは、偏向電場の影響を受けずに周回軌道32に沿った周回を続ける。したがって、複数の特定ピーク毎に決められたイオン到達時間に応じて偏向電極4に電圧を印加することにより、各特定ピークに含まれるイオンを周回軌道32から選択的に、且つ順番に取り出して検出することができる。
データ処理部12は上記2回目の測定において目的ピークのイオン到達時間が経過した以降に得られる検出信号に基づいてマススペクトルを作成する(ステップS10)。このときに検出器5に入射するイオンは周回軌道32を上記n+1周回したものであるため、飛行距離は1回目の測定のときと比べて格段に長い。したがって、1回目の測定のときには十分に分離されなかった近接した質量を持つイオンは時間方向に分離される。それによって、例えば、[1]のピークに対応したマススペクトルとして、図3(d)に示すようなマススペクトルが得られる。これによって、高質量分解能のマススペクトルを得ることができる。また、複数の特定ピークがある場合には、各特定ピークについてそれぞれ高質量分解能のマススペクトルを取得することができる。
なお、分析対象試料に含まれる化合物の種類が非常に多い場合、目的ピークに含まれるイオン到達時間に他のピークのイオン到達時間が重ならないような周回数を見い出すことができないことがあり得る。そうした場合のために、イオン多重周回光学系の前にイオントラップ等のイオン選択手段を設け、障害になる一部のイオンを予め除去するようにしてもよい。
また、2回目の質量分析において検出の対象とするピークは、適宜の基準で自動的に選択されるようにしておくことができる。即ち、データ処理部12においてピーク抽出部121は、上記マススペクトルに対し、予め設定されたピーク抽出条件に照らしてピークを抽出するようにする。ピーク抽出条件は、自動分析の開始に先立って、ユーザが入力部13において指定しておくものとする。具体的には、例えば次のような条件設定が可能であり、分析目的や既知の情報などに基づいて着目する成分の分析が可能であるようにユーザが適宜に設定する。
(1)各ピークの中心(又は重心位置)の質量又はセントロイド処理後の質量のうち指定されたもの又は指定された質量範囲に入るピークを抽出。
(2)ピーク強度が指定された閾値を超えたピークを抽出。
(3)ピーク強度の大きい順に指定された個数だけピークを抽出。
(4)質量が小さい順又は大きい順に指定された個数だけピークを抽出。
(5)ピーク幅が指定された幅より大きいピークを抽出。
(1)各ピークの中心(又は重心位置)の質量又はセントロイド処理後の質量のうち指定されたもの又は指定された質量範囲に入るピークを抽出。
(2)ピーク強度が指定された閾値を超えたピークを抽出。
(3)ピーク強度の大きい順に指定された個数だけピークを抽出。
(4)質量が小さい順又は大きい順に指定された個数だけピークを抽出。
(5)ピーク幅が指定された幅より大きいピークを抽出。
これにより、ユーザが着目する特定のピークの高質量分解能マススペクトルのみを自動的に取得することができる。
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。
1…イオン源
2…イオン加速電極
3…多重周回イオン光学系
31…扇形電極対
32…周回軌道
4…偏向電極
5…検出器
6…A/D変換器
7…イオン加速電圧印加部
8…偏向電極電圧印加部
9…MT−TOF部電圧印加部
10…パーソナルコンピュータ
11…制御部
12…データ処理部
121…ピーク抽出部
122…離脱条件演算部部
13…入力部
14…表示部
2…イオン加速電極
3…多重周回イオン光学系
31…扇形電極対
32…周回軌道
4…偏向電極
5…検出器
6…A/D変換器
7…イオン加速電圧印加部
8…偏向電極電圧印加部
9…MT−TOF部電圧印加部
10…パーソナルコンピュータ
11…制御部
12…データ処理部
121…ピーク抽出部
122…離脱条件演算部部
13…入力部
14…表示部
Claims (4)
- 試料をイオン化するイオン源と、試料由来のイオンを繰り返し飛行させる周回軌道を形成するイオン光学系と、周回軌道に沿って飛行したイオンを検出する検出器と、を具備する多重周回飛行時間型質量分析装置であって、
a)周回軌道に沿って飛行しているイオンを検出器に導入するために前記周回軌道から離脱させるべく、該周回軌道上又はそれに沿って配設された電極に印加する電圧を制御する離脱電圧制御手段と、
b)周回軌道上でイオンを周回させずに又は周回させる場合でもイオンの追いつき・追い越しが起こらないことが保証される周回数で以てイオンを飛行させる測定条件の下で、分析対象試料に対する1回目の測定を実行し、その測定結果によりマススペクトルを取得する第1測定実行制御手段と、
c)前記1回目の測定でのマススペクトルに現れる1以上の特定のピークについて、そのピークに含まれるイオンを前記周回軌道に沿って繰り返し飛行させたときに該イオンを前記電極を通して周回軌道から離脱させることが可能なタイミングを周回数毎又は特定の周回数について推定する離脱条件推定手段と、
d)予め設定された性能を満たすように前記離脱条件推定手段により推定されるタイミングで前記離脱電圧制御手段による電圧制御が行われる測定条件の下で、前記分析対象試料に対する2回目の測定を実行し、その測定結果によりマススペクトルを取得する第2測定実行制御手段と、
を備えることを特徴とする多重周回飛行時間型質量分析装置。 - 請求項1に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置であって、
前記離脱条件推定手段は、1つの特定ピークに含まれるイオンを周回軌道から離脱させる際に他のピークのイオンが同時に周回軌道から離脱しないように前記タイミングを推定することを特徴とする多重周回飛行時間型質量分析装置。 - 請求項2に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置であって、
前記離脱条件推定手段は、1つの特定ピークに含まれるイオンについて予め設定された性能を満たすような周回数を求め、該周回数に対応して推定される離脱のタイミングと他のピークに含まれるイオンの異なる周回数に対応して推定される離脱のタイミングとの重なりを判断し、重なりがある場合に求めた周回数を変更することを特徴とする多重周回飛行時間型質量分析装置。 - 請求項1に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置であって、
前記1回目の測定でのマススペクトルに現れるピークの中で所定の条件を満たすピークを1以上抽出して特定ピークとするピーク抽出手段を備えることを特徴とする多重周回飛行時間型質量分析装置。
Priority Applications (1)
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2009
- 2009-06-01 JP JP2009132320A patent/JP2010277970A/ja active Pending
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JP2022540782A (ja) * | 2019-07-12 | 2022-09-20 | レコ コーポレイション | マルチパス符号化周波数押し出しのための方法及びシステム |
JP7355862B2 (ja) | 2019-07-12 | 2023-10-03 | レコ コーポレイション | マルチパス符号化周波数押し出しのための方法及びシステム |
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