以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.液滴噴射ヘッド
1.1.第1実施形態
図1は、本実施形態の液滴噴射ヘッド100を模式的に示す平面図である。図2は、本実施形態の液滴噴射ヘッド100を模式的に示す断面図である。図3は、本実施形態の液
体噴射ヘッド100を模式的に示す断面図である。図2は、図1に示したA−A線の断面に対応する。図3は、図1に示したB−B線の断面に対応する。図4は、本実施形態の液滴噴射ヘッド100の斜視図である。
本実施形態の液滴噴射ヘッド100は、振動板10と、振動板10の上に設けられた圧電素子20と、振動板10の下に設けられ、圧力室32と圧力室32と連通したリザーバー36とを区画するための流路形成板30と、振動版10および圧電素子20の上方において、圧電素子20の空間41を介して覆うように設けられた封止板40と、を有する駆動ユニット50と、圧力室32の液体を吐出するノズル孔61を有するノズル板60と、リザーバー36に液体を供給する供給口81を有する蓋部材80とを有する。
駆動ユニット50は、少なくとも振動板10、圧電素子20、流路形成板30および封止板40によって構成される。図1に示すように、駆動ユニット50には、複数の圧電素子20と、複数の圧力室32が、振動版10の1つの辺に整列して並設されている。図1に示すように、液滴噴射ヘッド100の振動版10の最も大きな面によって形成される面が矩形であるとき、振動板10の隣り合う2辺の内、一方の辺(例えば、短辺であって、長辺よりも長さが短い辺)に沿った方向をX軸方向とし、他方の辺(例えば長辺であって、短辺よりも長さが長い辺)に沿った方向をY軸とする。また振動板10の厚み方向をZ軸方向とする。このとき、圧電素子20と圧力室32は、X軸方向に延びるように形成され、Y軸方向に沿って、列を形成して配列されていてもよい。また、振動板10、圧電素子20、流路形成板30は、Z軸方向において積層構造を有していてもよい。
振動板10は、図2および図3に示すように、たわみ振動をおこなうための弾性を有する板状の部材である。振動板10は、複数の層が積層した構造を有してもよい。振動板10は、圧電素子20の動作によって変形し、圧力室32の体積を変化させる機能を有する。振動板10の材質は、特に限定されないが、適度な機械的強度のある物質を用いることが望ましい。強度のない材料で形成した場合には、破損したり、高い駆動周波数で液滴噴射ヘッド100を駆動できなくなることがある。また硬すぎる材料を用いた場合は、ヘッドの駆動時の振動板10のたわみ量が減少し、噴射できる液体の滴が小さくなることがある。振動板10の厚さは、ヤング率等の振動板10の特性、圧電素子20の変形能力、圧力室32の体積の変化量などの特性が要求を満たせるよう、最適に選ばれる。振動板10の材質としては、たとえば、酸化ジルコニウム、窒化シリコン、酸化シリコンまたは、酸化アルミニウムなどが好適である。
圧電素子20は、図1ないし図3に示すように、振動板10の上方に、圧力室32に対応して複数設けられる。圧電素子20は、下部電極22と、圧電体層24と、上部電極26とを積層して構成される。
なお、圧電素子20の構成は、下部電極22と、圧電体層24と、上部電極26とを有し、振動板10を変位させることができる限り、特に限定されない。以下においては、下部電極22が、複数の圧電素子20の共通電極となる形態を、圧電素子20の一例として説明するが、上部電極26が共通電極である形態や、下部電極22と上部電極26とがそれぞれ個別にリード配線に接続している形態であってもよい。つまりは、圧電素子20の構成は以下に限定されるものではない。
下部電極22は、振動板10の上方に形成される。下部電極22の厚みは、振動板10に圧電体層24の変形が伝達できる範囲であれば任意である。下部電極22の厚みは、たとえば20nm〜400nmとすることができる。下部電極22は、上部電極26と対になり、圧電体層24を挟み圧電素子20の一方の電極としての機能を有する。下部電極22は、外部から電気的な接続がとれるように形成される。下部電極22は、複数の圧電素子20の共通電極として用いられてもよい。下部電極22の材質は、導電性を有する物質である限り、特に限定されない。下部電極22の材質は、ニッケル、イリジウム、白金などの各種の金属、それらの導電性酸化物(たとえば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物などを用いることができる。また、下部電極22は、前記例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
圧電体層24は、下部電極22の上に形成される。圧電体層24の厚みは、機械的な信頼性を確保するために300nm〜1500nmとすることができる。圧電体層24は、下部電極22および、上部電極26によって電界が印加されると伸縮変形し、これにより振動板10を振動させる機能を有する。圧電体層24には、圧電性を有する材料が用いられる。圧電体層24の材質は、たとえば、鉛、ジルコニウム、チタンを構成元素として含む酸化物とすることができる。圧電体層24の材質は、さらに、ニオブなどの添加物を含んでいてもよい。圧電体層24の材質として、チタン酸ジルコン酸鉛は、圧電性能が良好なため好適に用いることができる。
上部電極26は、圧電体層24の上に形成される。上部電極26の厚みは、圧電素子2
0の動作に悪影響を与えない範囲であれば限定されない。上部電極26の厚みは、たとえば10nm〜400nmとすることができる。上部電極26は、下部電極22と対になり、圧電体層24を挟み圧電素子20の一方の電極としての機能を有する。下部電極22は、外部から電気的な接続がとれるように形成される。上部電極26の材質は、導電性を有する物質である限り特に限定されない。上部電極26の材質としては、下部電極22と同様のものを挙げることができる。
ここで、図2に示すように、振動版10の上に圧電素子20が設けられることから、振動板10は、主として振動板10の厚み方向(Z軸方向)に変位することができる。換言すれば、振動板10の変位方向は、振動板10の厚み方向(Z軸方向)である。
流路形成板30は、振動板10の下方に設けられる。流路形成板30には、図1に示すように、複数の圧力室32など、液体を導入し、ノズル孔61から吐出するための流路が設けられる。流路形成板30に形成される圧力室32となる流路の数は、特に限定されず、任意である。流路形成板30は、圧力室32の側壁となる。流路形成板30の上面および下面は、互いに平行となっている。流路形成板30は、各圧力室32に液体を導入する第1開口部33と、各圧力室32からノズル孔61へ液体を供給する第2開口部35とを有するように形成される。第1開口部33と圧力室32との間に、圧力室32よりも流路幅が狭く設計された供給路34が設けられていてもよい。図1および図2に示すように、流路形成板30には、第1開口部33に連通するようにリザーバー36が形成される流路(空間)が形成されている。つまりは、流路形成板30には、リザーバー36に導入された液体が、第1開口部33を介して圧力室32に供給され、第2開口部35から吐出されるように、流路が形成されている。流路形成板30の材質としては、特に限定されないが、水酸化カリウム(KOH)を用いた異方性ウェットエッチングにより高い加工精度が得られるシリコンを用いるのが好適である。
ここで、第2開口部35は、振動板10の変位方向(Z軸方向)に直交する方向(X軸方向)に向かって開口している。換言すれば、第2開口部35の開口する方向は、振動板10の変位方向(Z軸方向)に直交する方向(X軸方向)である。また、第2開口部35は、図1の例のように、平面的に見て、液体噴射ヘッド100の1つの辺に整列して設けられることができる。したがって、駆動ユニット50の一側面において、複数の第2開口部35から形成された開口部の列を形成することができる。
封止板40は、駆動ユニット50の圧電素子20側に、圧電素子20の空間41を介して覆うように設けられる。封止板40は、圧電素子20と接しない。封止板40は、複数の圧電素子30を覆ってもよく、各圧電素子20を1つずつ覆うように設けてもよい。また、封止板40には、圧電素子20と接しないようにするための柱(ピラー)などが設けられていてもよい(図示せず)。封止板40は、たとえば、駆動ユニット50(液滴噴射ヘッド100)が積層したときに、圧電素子20並びに振動板10が駆動するための空間を確保する機能を有する。また、封止板40は、その内側の空間41を気密に保つ機能を有してもよい。また、封止板40によって形成される空間は、減圧状態となっていてもよい。これにより、封止板40によって、圧電素子20が大気と接触しないようにすることができるため、たとえば、圧電体層24の劣化を抑制することができる。また、封止板40を有することにより、圧電素子20が機械的に保護され、液滴噴射ヘッド100の取り扱いが容易になる。封止板40の厚みは、機械的な強度を有する限り限定されない。封止板40の材質は、たとえば、ポリイミドなどの樹脂、窒化シリコン、酸化シリコンまたは、酸化アルミニウムなどの無機物とすることができる。
以上により、駆動ユニット50を構成することができる。本実施形態に係る液滴噴出ヘッド100は、図2に示すように、2つの駆動ユニット50が、後述されるセパレータ基板70を中心として、対称に配置された構造を有することができる。詳細は後述される。
ノズル板60は、振動板10および流路形成板30に直交して設けられている板状の部材である。ノズル板60は、流路形成板30の各第2開口部35に対応するように複数のノズル孔61を有する。ノズル孔61は、ノズル板60の法線方向に中心線が一致するように形成されている。したがって、ノズル孔61から液体が吐出される方向は、図2に示すように、第2開口部35が開口する方向(X軸方向)であって、振動板10の変位方向(Z軸方向)に直交する方向(X軸方向)となる。また、ノズル孔61の形成される位置は、第2開口部35を介して圧力室32と連続することができる限り任意である。したがって、図4に示すように、ノズル板60は、複数の第2開口部35と対応した複数のノズル孔61からなるノズル列を有することができる。ノズル板60の材質は、限定されず、たとえばシリコンや、ステンレスなどを好適に用いることができる。
セパレータ基板70は、一対の駆動ユニット50によって挟まれる板状の部材である。セパレータ基板70は、流路形成板30側を内側にして対向する一対の駆動ユニット50に挟まれている。このように配置されたセパレータ基板70および一対の駆動ユニット50によって、セパレータ基板70の両面にそれぞれ複数の圧力室32が形成される。セパレータ基板70は、図2に示すように、面上において圧力室32が形成される基面71と、面上においてリザーバー36が形成される側面73および側面75と、を有する。基面71とは、セパレータ基板70を構成する面の中で、もっとも面積が大きい面であって、振動板10や流路形成板30と平行に設けられた面である。側面73および側面75とは、基面71の両面を接続する面であり、振動板10や流路形成板30と直交する面である。側面73は、ノズル板60および蓋部材80と平行な側面であって、ノズル板60側の面とは反対側の面である。また、側面75は、側面73と連続する面であって、ノズル板60および蓋部材80と直交な側面であってもよい。
図2に示すように、セパレータ基板70は、Z軸方向において隣り合うリザーバー36を連結する切欠け部72を有する。切欠け部72は、側面73と側面75によって構成される。切欠け部72の形状は、一対の駆動ユニット50のリザーバー36を連通させる空間を形成できる限り、特に限定されない。
図2に示すように、セパレータ基板70の基面71上には、圧力室32、第1開口部33、供給路34、第2開口部35が形成される。また、側面73、75の上において後述される共通リザーバー37が形成される。
セパレータ基板70の厚みは、液滴噴射ヘッド100が変形しない程度の強度を有する限り任意である。ただしノズル列間を縮小させるためにも、組み立て、加工上の制約、強度の制約を回避できる範囲で薄くすることが望ましい。セパレータ基板70の厚みは、たとえば、10μmないし1000μmであることができる。セパレータ基板70の材質としては、厚みおよび強度を考慮すれば、金属、樹脂、半導体など任意のものを用いることができる。また、セパレータ基板70の材質として、流路形成板30の線膨張係数と近い線膨張係数を有する材質を選ぶと、液滴噴射ヘッド100の変形を抑制することができる。たとえば、流路形成板30がシリコンで構成される場合には、セパレータ基板70の材質をシリコンとすると、流路形成板30とセパレータ基板70の接着、接合時や、それ以降の組み立て工程時にこれら部材が加熱される場合でも、同じ熱膨張係数のため、部材間の線膨張係数差に伴う熱応力による破損を回避することができる。
蓋部材80は、振動板10および流路形成板30に直交し、ノズル板60と蓋部材80でもって一対の駆動ユニット50を挟むように設けられる板状の部材である。蓋部材80は、リザーバー36(後述される共通リザーバー37)側から流路形成板30を封止することができる。図1および図2に示すように、蓋部材80は、リザーバー36(後述される共通リザーバー37)と連通した供給口81を有する。
供給口81は、図1および図2に示すように、蓋部材80の厚み方向(X軸方向)に向かって開口している。したがって、図示されない液体貯蔵部から供給される液体を、ノズル孔を介して液体が吐出する方向(X軸方向)と同じ方向で、リザーバー36(後述される共通リザーバー37)に供給することができる。供給口81は、図1に示すように、後述される共通リザーバー37に対して、1つ形成されていてもよいし、複数形成されていてもよい。蓋部材80の材質は、限定されず、たとえばシリコンや、ステンレスなどを好適に用いることができる。
また、供給口81は、図2に示すように、セパレータ基板70の側面73に対向するように設けられてもよい。これによれば、供給口81から供給された液体を、セパレータ基板70の側面73に衝突させることができる。供給口81を介して供給される液体に物理的なエネルギーを与えることができるため、気泡が含まれる場合であっても、液体がセパレータ基板70の側面73に衝突することにより、気泡を分解することができ、ドット抜けの発生を低減することができる。したがって、液滴噴射ヘッドの塗布品質を向上させることができる。また、供給口81には、図示しない液体貯蔵部と連通した供給路110が接続される。供給路110の構造および材質は、液体を供給口81に供給できる限り、特に限定されない。例えば、供給路110には、可塑性を有する樹脂性チューブが用いられてもよい。これによって、図示されない液体貯蔵部から供給口に液体を供給することができる。
ここで、供給口81は、振動板10の変位方向(Z軸方向)に直交する方向(X軸方向)に向かって開口している。このとき、液体のノズル孔61を介した吐出方向を、第1の方向(X軸方向)とし、振動板10の変位方向(Z軸方向)を、第2の方向としたとき、図2に示すように、第1の方向(X軸方向)と前記第2の方向(Z軸方向)とは直交している。したがって、液体が、供給口81を介してリザーバー36に供給される方向は、第1の方向(X軸方向)と同じ方向となる。
また、上述のように、圧力室32は、第1開口部33および第2開口部35に連通している。圧力室32は、振動板10、流路形成板30、およびセパレータ基板70(基面71)によって囲まれた空間である。圧力室32には、第1開口部33から液体が供給される。圧力室32に導入された液体は、第2開口部35と連通したノズル孔61を介して吐出される。圧力室32は、振動板10の変形によって体積が変化する。圧力室32の体積が大きくなれば、圧力室32内部の圧力が小さくなり、第1開口部33から液体が圧力室32に導入される。液体が充填された圧力室32の体積が小さくなれば、圧力室32内部の圧力が大きくなり、ノズル孔61から液体が吐出される。このように、液体は、振動板10の動作に応じて、圧力室32を通過して流動することができる。
リザーバー36は、圧力室32に液体を供給するために形成される。流路形成板30におけるリザーバー36となる空間は、図1に示すように、複数の第1開口部33と連通するように形成される。また、図2に示すように、セパレータ基板70は、切欠け部72を有し、一対の駆動ユニット50のリザーバー36を隔てないように設けられる。したがって、図2に示すように、一対の駆動ユニット50の各々のリザーバー36およびセパレータ基板70の切欠け部72は、連通した共通空間として区画され、共通リザーバー37として機能することができる。換言すれば、共通リザーバー37は、一対の駆動ユニット50の複数の圧力室32に供給される液体を貯蔵することができる。共通リザーバー37は、図2に示すように、振動板10、流路形成板30、セパレータ基板70(切欠け部72)および後述される蓋部材80によって囲まれた空間である。
以上により、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100を構成することができる。図4に示すように、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100は、同じ液体を排出する第2開口部35の列が、セパレータ基板70を挟んで、互いに近接して配置される。そのため、図4に示すように、複数のノズル孔61によって形成される2つのノズル列が、互いに近接して配置される。したがって、液滴噴射ヘッド100は、互いに近接した2つのノズル列において、同じ液体を吐出することができる。これによれば、高密度に液体を媒体に塗布することができ、高解像度または高密度な塗布結果を得ることができる。このように、同じ液体を高密度に塗布することができる液滴噴射ヘッド100は、例えば、ライン型プリンター(液滴噴射装置)等に好適に用いられる。
また、図示はされないが、2以上の本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100を、Z軸方向および/またはY軸方向において、すべてのノズル孔61が第1の方向を向くように、積層してもよい。積層方法は特に限定されず、任意である。
本実施形態の液滴噴射ヘッドは、各種の液体を各種の媒体に塗布するために適用することができる。本実施形態の液滴噴射ヘッドで塗布できる液体としては、各種のインク、各
種金属の前駆体、各種誘電体の前駆体などを挙げることができる。本実施形態の液滴噴射ヘッドを用いて塗布されうる媒体としては、紙、シリコンウエハ、半導体装置などが挙げられる。
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100は、例えば、以下の特徴と有する。
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100によれば、液体が、供給口81を介してリザーバー36に供給される方向は、第1の方向(X軸方向)と同じ方向であることにより、例えば、X軸方向以外の方向(例えば、振動板の変位方向(Z軸方向))に供給口が開口した液滴噴射ヘッドと比べて、供給口への液体の供給手段が簡潔となり、ヘッドサイズの小型化を可能とする液滴噴射ヘッドを提供することができる。以下に詳細を説明する。
本実施形態に係る駆動ユニット50を有する液滴噴射ヘッドにおいて、振動板10の変位方向(Z軸方向)とは、駆動ユニット50が一対となり積層される方向である。本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100のように、2つの駆動ユニット50が積層される液滴噴射ヘッドにおいて、供給口からの供給経路は、液体貯蔵部が設けられた一方向へ向かうように形成される必要がある。
ここで、例えば、液体をリザーバーに供給する供給口81が、振動板10の変位方向(Z軸方向)に開口するように設けられる場合、振動版10および封止板40を貫通する供給経路を別途形成して、Z軸方向に開口する供給口を設ける手段と、Z軸方向の流路からX軸方向への流路となるL字の流路を形成し、X軸方向に開口する供給口を設ける手段が考えられる。しかしながら、前述の手段を採用する場合、それぞれの供給口は、Z軸方向において互いに異なる方向を向いているため、供給口から液体貯蔵部への接続経路が煩雑化し、接続経路を一方向へまとめるスペースを別途、設ける必要がある。また、後述の手段を採用する場合も、L字経路用のスペースを別途、設ける必要がある。これに対し、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100によれば、上記のいずれの手段も用いる必要がないために設計上の自由度が向上し、供給口81から供給経路を、簡潔に形成することができる。したがって、振動板の変位方向(Z軸方向)に供給口が開口した液滴噴射ヘッドと比べて、供給口への液体の供給手段が簡潔となり、ヘッドサイズの小型化を可能とする液滴噴射ヘッドを提供することができる。
また、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100は、一対の駆動ユニット50の共通リザーバー37を有する。共通リザーバー37は、対向する一対の流路形成板30および振動板10と、蓋部材80と、セパレータ基板70と、によって形成され、蓋部材80の供給口81は、共通リザーバー37に連通している。このように本実施形態に係る液滴噴射ヘッド100は、共通リザーバー37を形成し、共通の供給口81を用いて複数の圧力室32に液体を供給することができる。したがって、それぞれの圧力室32に対して供給口を設ける必要がなく、同じ液体を高密度に塗布することができる液滴噴射ヘッドの小型化を図ることができる。
1.2.第2実施形態
以下、図面を参照して、第2の実施の形態に係る液滴噴射ヘッドについて説明する。
なお、本実施形態に係る駆動ユニット50の平面図は、第1実施形態に係る駆動ユニット50の平面図(図1)と同一であるため、図1を第2実施形態に係る液滴噴射ヘッドの模式的平面図としても参照する。図5は、本実施形態の液滴噴射ヘッド200を模式的に示す断面図である。図6は、本実施形態の液滴噴射ヘッド200を模式的に示す断面図である。図5は、図1に示したA−A線の断面に対応する。図6は、図1に示したB−B線の断面に対応する。
本実施の形態に係る液滴噴射ヘッド200は、図5に示すように、2以上の駆動ユニット50が、第2の方向(Z軸方向)において積層される液滴噴射ヘッドであって、隣り合うように積層された2つの駆動ユニット50は、一方の駆動ユニット50の封止板40の上に、他方の駆動ユニット50の流路形成板30が設けられるように積層され、リザーバー36は、流路形成板30と、振動板10と、蓋部材80と、封止板40と、によって形成される。
本実施の形態では、液滴噴射装置200が、セパレータ基板70を含まないため、共通リザーバー37が形成されない点と、駆動ユニット50の積層構造において第1実施形態と異なる。以下に、第1の実施の形態と本実施の形態と異なる構成について説明する。なお、後述される第2実施形態に係る液滴噴射装置200に関して、第1の実施の形態と同様の構成等は、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
図5および図6に示すように、駆動ユニット50は、振動板10の変位方向である第2の方向(Z軸方向)に沿って積層される。積層される駆動ユニット50の数は特に限定されず、任意である。積層される駆動ユニット50の数が多いほど、ノズル孔61の高密度化を図ることができる。積層される方法は、上述のように隣り合うように積層された2つの駆動ユニット50において、一方の駆動ユニット50の封止板40の上に、他方の駆動ユニット50の流路形成板30が設けられるように積層される限り、特に限定されない。各駆動ユニット50の接合には、例えば、図示されない接着剤を介して複数の駆動ユニット50が接合される。
本実施形態に係る液滴噴射装置200において、リザーバー36は、第1開口部33と供給口81との間の流路を意味し、流路形成板30と、振動板10と、蓋部材80と、封止板40と、によって囲まれる空間である。流路形成板30におけるリザーバー36のための空間は、同一の駆動ユニット50においては、隣り合うリザーバー36が同一の空間を形成していてもよい。また、図示はされないが、同一の駆動ユニット50内でも、複数のリザーバー36を流路形成板30の側壁を適宜パターニングすることにより形成してもよい。しかしながら、図5および図6に示すように、第2の方向であるZ軸方向において、リザーバー36は、封止板40と振動板10によって隔てられている。
本実施形態において、図5に示すように、蓋部材80は、複数のリザーバー36に対し、それぞれ個別に連通した供給口81を有する。供給口81は、第1実施形態と同様に、第1の方向(X軸方向)において、液体をリザーバー36に供給することができる。なお、供給口81に係る詳細な説明は、第1実施形態において上述されているため、省略する。
以上により、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド200を構成することができる。本実施形態に係る液滴噴射ヘッド200は、異なる液体を排出するノズル孔61の列が、複数、互いに近接して配置される。そのため、同色で濃度の異なる液体や、様々な色の液体を、高密度に塗布することができる。したがって、色彩の表現力が向上した塗布結果を得ることができる。このように、様々な液体を高密度に塗布することができる液滴噴射ヘッド200は、例えば、ノズル孔高密度型プリンター(液滴噴射装置)等に好適に用いられる。
また、図示はされないが、2以上の本実施形態に係る液滴噴射ヘッド200を、Z軸方向および/またはY軸方向において、すべてのノズル孔61が第1の方向を向くように、積層してもよい。積層方法は特に限定されず、任意である。
本実施形態の液滴噴射ヘッドは、各種の液体を各種の媒体に塗布するために適用することができる。本実施形態の液滴噴射ヘッドで塗布できる液体としては、各種のインク、各
種金属の前駆体、各種誘電体の前駆体などを挙げることができる。本実施形態の液滴噴射ヘッドを用いて塗布されうる媒体としては、紙、シリコンウエハ、半導体装置などが挙げられる。
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド200は、例えば、以下の特徴と有する。
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド200によれば、液体が、供給口81を介してリザーバー36に供給される方向は、第1の方向(X軸方向)と同じ方向であることにより、例えば、X軸方向以外の方向(例えば、振動板の変位方向(Z軸方向))に供給口が開口した液滴噴射ヘッドと比べて、供給口への液体の供給手段が簡潔となり、ヘッドサイズの小型化を可能とする液滴噴射ヘッドを提供することができる。
特に、図5および図6に示すように、複数の駆動ユニット50が積層され、複数の供給口81が設けられる場合、複数の供給路110を設ける必要がある。このような形態の液滴噴射ヘッドにおいては、例えば、液体をリザーバーに供給する供給口81が、振動板10の変位方向(Z軸方向)に開口するように設けられる場合、複数の供給路110のためのスペースを確保する必要がある。また、2以上の駆動ユニット50を設ける場合、一方の駆動ユニット50内において、他方の供給路110のための経路を考慮する必要がある。また、L字経路用のスペースを別途、設ける場合、ノズル孔61の高密度化を行う場合に設計上、障害となる。これに対し、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド200によれば、駆動ユニット50の積層において、供給路110の経路を考慮する必要がないため、設計上の自由度が向上し、供給口81から供給経路を、簡潔に形成することができる。これによれば、振動板の変位方向(Z軸方向)に供給口が開口した液滴噴射ヘッドと比べて、供給口への液体の供給手段が簡潔となり、ヘッドサイズの小型化を可能とする液滴噴射ヘッドを提供することができる。
1.3.変形例
以下、図面を参照して、第1および第2実施形態に係る液滴噴射ヘッドの変形例について説明する。図7は、第1実施形態の液滴噴射ヘッド100の変形例を模式的に示す断面図である。図8は、第2実施形態の液滴噴射ヘッド200の変形例を模式的に示す断面図である。
図7に示すように、第1実施形態の液滴噴射ヘッド100の変形例においては、蓋部材80のリザーバー36(共通リザーバー37)を構成する面において、凹部83が形成されていてもよい。凹部の形状は特に限定されず、断面が矩形の凹部でもよいし、断面が曲線からなる凹部であってもよい。
また、図8に示すように、第2実施形態の液滴噴射ヘッド200の変形例においては、封止板40のリザーバー36を構成する面において、凹部43が形成されていてもよい。凹部の形状は特に限定されず、断面がテーパー面の凹部でもよいし、断面が曲線からなる凹部であってもよい。
以上、第1および第2実施形態に係る液滴噴射ヘッドの変形例によれば、リザーバー36に供給口81を介して供給された液体に気泡が含まれていた場合、気泡が、流路に沿ってノズル孔61まで吐出されないように、気泡を溜める易い流路構造とすることができる。したがって、液体中の気泡に起因したドット抜けの発生を抑制することができるため、塗布品質が向上した液滴噴射ヘッドを提供することができる。
なお、ここでは、液滴噴射ヘッド100、200がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液滴噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
2.液滴噴射装置
次に、本実施形態に係る液滴噴射装置について、図面を参照しながら説明する。液滴噴射装置は、上述の液滴噴射ヘッドを有する。以下では、液滴噴射装置が上述の液滴噴射ヘッド100(200)を有するインクジェットプリンターである場合について説明する。図9は、本実施形態に係る液滴噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
液滴噴射装置700は、図9に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。さらに、液滴噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
ヘッドユニット730は、上述した液滴噴射ヘッド100(200)から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッド及びインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
なお、本実施形態では、液滴噴射ヘッド100(200)及び記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる例を示しているが、本発明の液滴噴射装置は、液滴噴射ヘッド100(200)及び記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であってもよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液滴噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710及び給紙部750を制御することができる。
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752a及び駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760及び給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
液滴噴射装置700は、上述した液滴噴射ヘッド100(200)を含む。したがって、供給口への液体の供給手段が簡潔となり、ヘッドサイズの小型化を可能とする液滴噴射ヘッドを有する液滴噴射装置を実現できる。
なお、上記例示した液滴噴射装置は、1つの液滴噴射ヘッドを有し、この液滴噴射ヘッドによって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液滴噴射ヘッドを有してもよい。液滴噴射装置が複数の液滴噴射ヘッドを有する場合には、複数の液滴噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液滴噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
以上、本発明に係る液滴噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしてのインクジェット記録装置700を説明したが、本発明に係る液滴噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体等(液状材料)としては、各種の機能性
材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液滴噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
なお、上述した実施形態及び各種の変形は、それぞれ一例であって、本発明は、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態及び各変形は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。