以下に本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の振動素子は、振動部と、振動部を振動させる駆動部とを備え、振動部が、駆動周波数と歪み振幅の大きさとの関係を示す共振特性曲線のピーク形状が線対称となる振動特性を有する点に特徴がある。
ここで、本発明の振動素子は、共振特性曲線が線対称で且つ非常に急峻なピーク形状となる振動特性を有する、即ち、ばね特性の非線形性が非常に小さな振動特性を発揮する。特に、本発明の振動素子は、減圧環境下において、共振特性が尖鋭になっても振動の不安定性を生じさせない程度に非線形性が小さく、高い振動特性を発揮する。そして、このような本発明の振動素子によれば、高い振動特性が得られるため、所望の振動特性を確保しつつ設計の自由度を格段に向上することができる。
また、本発明の振動素子は、従来と比べて同一寸法及び構造の振動素子と比べて格段に振動特性を向上することができるため、例えば、光走査装置等の電子デバイスに本発明の振動素子を実装する際において、振動素子の小型化を図ったり、あるいは素子構造を見直したり寸法等を変更したりする設計の自由度を持たせることができる。これにより、本発明の振動素子によれば、デバイス性能を維持しつつ様々な小型の電子デバイスを実現可能である。
さらに、上述した高い振動特性を有する本発明の振動素子は、例えば、加工硬化処理により加工後のヤング率が低下し、その後の時効硬化処理によりヤング率が回復又は上昇するような材料、具体的には、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金等の金属材料により振動部を形成することで実現可能である。
具体的には、加工硬化処理により母材(加工対象物)のヤング率を一時的に低下させ、その後の時効硬化処理によりその母材のヤング率が回復、または、上昇するような材料からなる振動部を形成することが好ましい。より詳細には、振動部を形成する材料としては、例えば、室温で強加工を施すことにより加工硬化がなされ、その後、歪み時効熱処理により時効硬化がなされた材料であり、加工硬化の際に、塑性加工によりヤング率が低下する程度まで高密度に転位を導入され、その後の時効硬化によって、ヤング率が回復、または、上昇する程度まで転位の運動を阻害させられた材料により形成する。なお、本発明において「時効硬化処理によりヤング率を回復又は上昇させる」とは、例えば、加工硬化処理前のヤング率から上昇、あるいは加工硬化処理前のヤング率と同程度又はそれ以上に上昇させること含むものとする。また、本発明において「加工硬化処理によりヤング率を低下させる」とは、例えば、その後の時効硬化処理によってヤング率を回復又は上昇させることができる程度に低下させることを含むものとする。
ここで、「加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金」とは、例えば、加工硬化処理と時効硬化処理とがそれぞれ有効に施されたCo−Ni基合金のことである。振動部は、例えば、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金となる素材(出発原料)への加工硬化処理により歪みを形成後に、時効硬化処理を施すことで形成される。
具体的には、溶製後に熱間鍛造、均質化熱処理等の工程を経て得られた、少なくともCo及びNiを含むマトリクスに置換型の溶質元素を含有する出発原料から、冷間圧延により加工硬化処理を経て、必要に応じて、例えば、プレス加工、レーザー加工、ワイヤーカット等の成形加工により所定形状に加工し、その後に真空中、または、還元雰囲気中で時効硬化熱処理を行うことにより、高強度、且つ、減衰能が低く、弾性限界が高いなどの良好な振動特性が有効に発現した振動部を得ることができる。
ここで、振動部を形成する素材は、積層欠陥エネルギーの低い面心立方格子構造を持つ材料であることが好ましく、積層欠陥に溶質元素が偏析して拡張転位を固着する「鈴木効果」を有効に利用できるものであることが好ましい。これにより、拡張転位の幅が拡がり、加工硬化、及び、時効硬化時に、鈴木効果を促進して拡張転位を強固に固着することが可能になる。この鈴木効果は、高温でも有効に働く固着機構であり、時効熱処理時に特に有効である。また、これ以外にも、転位心に偏析するコットレル効果や微細な変態双晶形成による転位すべりの阻害機構を併せて利用しても良い。
このような素材では、強加工で高密度の転位を導入することが可能であり、加工硬化により強度と耐久性が大幅に向上するが、この段階では未だ転位の張り出しがあるために、ヤング率は低下する。逆に言えば、ヤング率が低下する程度までひずみを導入して加工硬化を行う。その後、時効熱処理により転位を強固に固着することで、強度と耐久性がさらに向上すると共に、ヤング率を上昇あるいは回復、または、加工硬化前よりもさらに上昇させることができる。このようにヤング率を上昇あるいは回復、または、加工硬化前よりも上昇する程度に転位を強固に固着した状態では、転位線の振動による内部摩擦が低減して振動素子のQ値が大幅に向上し、さらに、強度向上による降伏点の上昇と内部摩擦の低減により弾性限界が向上し、応力−歪み線図上の線型弾性域が拡大する、即ち、バネ特性の線形性が向上する。
また、面心立方格子構造をもつ材料では、ヤング率は原子間距離に依存して、<110>方位が最大、<111>方位が最小となり、<100>方位はその中間となる。冷間圧延により結晶配向させると、ヤング率は異方性を持ち、<110>集合組織が形成される方向が最大となる。特に限定されるわけではないが、撓みに対する強度を考慮すると、振動部にヤング率の大きい<110>集合組織が形成される方向の材料を用いるのが好ましく、時効硬化処理もこの方向のヤング率が回復、または、上昇するように施されることが好ましい。
また、冷間線引により加工硬化を施した線材を用いて振動部に形成しても良い。さらに、冷間線引した線材に冷間圧延を施して、集合組織の形成を制御した材料を用いても同様に良い。
ここで、成形加工方法としては、超塑性加工を用いてもよい。また、時効硬化処理としては、有効に時効硬化が進むような温度条件、例えば、加工硬化処理の加工条件に応じて適宜調整される温度条件に基づいて行うのが好ましく、加工条件にもよるが、再結晶化温度以下、例えば、400〜700℃程度の環境下に数十分から数時間処理することで行うことができる。また、このような熱処理においては、例えば、1T以上の強磁場環境下で行うことにより鈴木効果を促進して、処理時間の短縮化を図ってもよい。
そして、本発明によれば、上述したように駆動周波数と歪み振幅の大きさとの関係を示す共振特性曲線のピーク形状が線対称となる振動特性を有する振動部を形成することで、疲労特性・機械特性等を高めることができる他、振動減衰率が非常に低く、特に、振動減衰率の低さに対して不安定性を生じないほどにバネの非線形性が小さくなり、振動減衰率の歪み振幅依存性も非常に小さくなる。このため、所望の疲労特性及び振動特性を有する振動素子及びこの振動素子を備えたアクチュエータ装置等の小型化を図ることができると共に、消費電力を低減することができる点でも有利である。
具体的には、駆動周波数と歪み振幅の大きさとの関係を示す共振特性曲線のピーク形状が線対称となるような特性、すなわち、ばね特性の非線形性が非常に小さな特性を得るためには、例えば、振動素子の歪み変形部を構成する振動部を、上述した加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金で形成し、高強度で、線型弾性域が広く、且つ、内部摩擦の小さい部位となり、例えば、駆動周波数と歪み振幅の大きさとの関係を示す共振特性曲線のピーク形状が尖鋭で、且つ、線対称となるような特性、すなわち、Q値が高く、且つ、ばね特性の非線形性が非常に小さな特性が得られる。このような振動部は、振動変形による最大歪み振幅が3×10−3程度まで大きくなっても不安定性を生じることがなく、消費電力が少ない振動素子を得ることができる。一方、振動部は、振動のし易さを示すQ値が1000以上となり、振動減衰率が非常に小さくばね特性の非線形性も小さくなるため、このような振動部により光走査装置等の光学機器を製作することにより、振動特性を向上しつつ消費電力を大幅に低減することができる。したがって、本発明は、所望の疲労特性が得られる他、所望の振動特性を確保しつつ設計の自由度を格段に向上することができる振動素子、光走査装置及び映像投影装置並びに画像形成装置を実現することができる。
なお、上記の「Co−Ni基合金」とは、コバルト[Co]及びニッケル[Ni]を含有する合金であり、好ましくは、積層欠陥エネルギーを低下させるクロム[Cr]と、マトリクスの固溶強化、偏析により転位を固着して時効、及び、加工硬化能の向上に寄与する溶質元素としてモリブデン[Mo]、鉄[Fe]等を含み、例えば、Co−Ni−Cr−Mo合金、Co−Ni−Fe−Cr合金等がよい。また、これらの合金は、溶質元素として同様の働きをするニオブ[Nb]や、面心立方格子相を安定化させ、積層欠陥エネルギーを低下させるマンガン[Mn]、マトリクスの強化と積層欠陥エネルギーの低下に寄与するタングステン[W]、鋳塊組織の微細化や強度向上に寄与するチタン[Ti]、熱間加工性を改善するボロン[B]、マグネシウム[Mg]等を、マトリクスに固溶し、Cr、Mo、Nb等と炭化物を形成して粒界を強化する炭素[C]などを含有しても良い。
ここで、Co−Ni−Cr−Mo合金としては、その主要組成を重量比でCo20.0〜50.0%、Ni20.0〜45.0%、Cr+Mo20.0〜40.0%(Cr:18〜26%、Mo:3〜11%)であることが好ましく、特に、Co31.0〜37.3%、Ni31.4〜33.4%、Cr19.5〜20.5%、Mo9.5〜10.5%とするのがさらに好ましい。このような組成のCo−Ni−Cr−Mo合金から振動部を形成することにより、振動素子等の小型化に非常に有利となる。このような合金では、圧延方向に<100>集合組織が形成され、圧延方向と直交する方向に<110>集合組織が形成されるため、振動部には圧延方向と直交する方向の材料を用いるのが好ましい。また、このような合金での時効熱処理は、500℃〜600℃の温度で2時間程度行うのが最適である。
なお、本発明においては、非磁性を示す加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金から振動部を形成することが好ましく、例えば、上記組成のCo−Ni−Cr−Mo合金などがこれにあたる。これは、振動部を振動させる手段(駆動部)として、例えば、磁界印加手段を採用した場合に、安定した電磁駆動を実現することができるからである。なお、駆動部は、磁界印加手段に限定されず、例えば、圧電素子等を採用してもよく、この場合には材料の磁性は問わない。
また、本発明では、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金から振動素子の少なくとも一部を、減圧空間を形成する減圧空間形成部(封止構造体)内に配置することが好ましい。常圧下と比べて、振動特性を更に高めることができるからである。特に、振動部に各種機能部、具体的には光学ミラー等を設けて高機能デバイスとする場合においては、上述した振動部の少なくとも一部、すなわち、機能部等を減圧空間形成部内に配置することが更に好ましい。これにより、機能部等にかかる空気抵抗の影響を低減することができ、振動特性を更に高めることができる。本発明では、減圧空間形成部によって振動部や機能部等の構造体の全体を覆うようにしてもよい。
なお、本発明は、上述したように加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金を用いて振動部を形成することが好ましいが、特にこれに限定されず、例えば、加工硬化処理により加工後のヤング率が低下すると共に、その後の時効硬化処理によりヤング率が上昇、あるいは加工硬化処理後と同等まで回復、または、加工硬化処理後よりも上昇するような材料であれば好適に用いることができる。
以下、図面を参照しながら、実施の形態に基づいて、本発明の振動素子を有するアクチュエータ装置、光走査装置、映像投影装置の具体例について詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る振動素子を備えたアクチュエータ装置の一例を示す概略図であり、図1(a)は概略上面図、図1(b)はA−A´断面図である。また、図2は、図1のアクチュエータ装置に接続される駆動手段の一例を示す概略図である。
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態に係るアクチュエータ装置1は、振動鏡装置であり、基板10と、この基板10が実装される保持部材20と、振動素子30とを備えている。保持部材20は、本実施形態では、図1(a)及び図1(b)に示すように、基板10の周縁部に沿って環状のフランジ部21が設けられており、その中央部は凹部22を構成している。そして、本実施形態では、振動素子30が、凹部22内に実装されており、基板10及び保持部材20とカバー部材40とで構成(区画)される減圧空間50内に配置されている。
また、振動素子30は、例えば、本実施形態では、保持部材20との接合部となるフレーム(外枠部)60と、このフレーム60の対向する両端部を保持部材20の凹部(開口)22を跨ぐように架橋する1本の梁部31と、梁部31の長手方向中央部、すなわち、保持部材20の開口中心に対応する部分に設けられる質量体(機能部)32とを有する。また、基板10上には、質量体32に対向する部分に磁界印加手段70が設けられている。
ここで、このような振動素子30の変形部を構成する梁部31は、加工硬化処理により加工後のヤング率が減少し、且つその後の時効硬化処理によりヤング率が上昇するような材料、例えば、本実施形態では、非磁性を示す加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金から形成されている。このような非磁性を示す加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金としては、例えば、SPRON510(セイコーインスツル株式会社製商品名:SPRON[登録商標])のCo−Ni−Cr−Mo合金等を用いることができる。なお、このようなSPRON510等の素材を、例えば、圧延等の強加工により強度を上昇させた後に熱処理を施して梁部31を形成することにより、低減衰能の特性等の高振動特性を有する振動素子30を得ることができる。
また、梁部31は、例えば、プレス加工やレーザー加工、ワイヤーカット等で所定の形状に加工することができる。ここで、加工方法としては、例えば、超塑性加工を用いてもよい。なお、梁部31としては、非磁性の加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金の線材を用い、フレーム60に接合することで形成してもよい。このようにして形作られる梁部31は、上述した加工効果処理の後、振動特性を高めるための時効硬化処理として、例えば、熱処理を施すことで得られる。ここでの梁部31への熱処理は、400〜700℃の温度で、数十分から数時間行うのがよいが、処理時間を短縮するには、例えば、強磁場中での熱処理を用いることも可能である。
例えば、本実施形態では、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金となる素材(出発原料)を用いて、圧延等による加工硬化処理を行って板状部材(図示しない)を作製し、この板状部材を所定の形状に加工後に時効硬化処理を施すことで、梁部31を形成した。ここで、板状部材を作製する際の加工硬化処理及び時効硬化処理においては、<100>結晶方位が圧延方向となるように結晶配向させると共に、<110>結晶方位が板状部材面内で圧延方向と直交する方向となるように結晶配向させ、且つ圧延方向と直交する方向においてヤング率を上昇させるように処理を行った。
なお、梁部31の略中央部には、後述する光学ミラー部322を設置するためのミラー設置部311が梁部31よりも幅広に設けられている。このミラー設置部311は、本実施形態では、梁部31と一体的に設けられ、梁部31として形状加工する際に同時に形成している。
また、このような梁部31に設けられる質量体32は、図1(b)に示すように、ミラー設置部311に設置される光学ミラー部322と、ミラー配置部311の裏面、すなわち、光学ミラー部322とは反対側の面に設けられる磁石323とから構成されている。
ここで、光学ミラー部322及びミラー配置部311は、梁部31の幅寸法より大きい外形形状からなり、例えば、本実施形態では、光学ミラー部322及びミラー配置部311は板状で且つ外形形状が長方形である。また、磁石323は、ミラー配置部311の長手方向に亘って両端部に達するよう設けられている。さらに、磁石323は、本実施形態では、NS方向が水平方向、すなわち、基板10の面方向と平行となるように設けられている。一方、基板10上の磁界印加手段70は、コイル状の金属パターンからなり、質量体に対向する領域に設けられている。
また、光学ミラー部322は、例えば、蒸着等によって形成されたAlやAu等の反射膜であってもよいし、シリコンウエハ等、鏡面形成された部材を接合、または、接着して配置したものでもよく、特に限定されるものではない。
一方、磁石323の種類としては、できるだけ小型で振動素子30の重量への寄与が小さく、且つ、充分な磁力を有することが要求されるため、Nd−Fe−B系磁石やSm−Co系磁石等等を好適に用いることができる。また、磁石323の形態は、例えば、焼結磁石やボンド磁石の他、スパッタ法等で形成した薄膜磁石であってもよく、特に限定されるものではない。
そして、このような磁石323に磁界を作用させる磁界印加手段70は、振動素子30に捻り振動を励起できるトルクが磁石に加わるものであれば、特に限定されず、例えば、図1(a)のようなシートコイルの他、ヨークとなる軟磁性体を内包(内在)するコイル等であってもよい。また、光学ミラー部322を隠さない範囲で、振動素子30を挟むように両側に磁界印加手段70を設けるようにしてもよい。
なお、磁界印加手段70は、駆動手段の一部を構成する図2に示すように駆動回路75が接続されて、振動素子30の共振周波数近傍の周波数を含む信号を出力できるものであれば特に限定されず、例えば、正弦波以外に、三角波やパルス出力等であってもよい。
このような構造からなる本実施形態に係るアクチュエータ装置1においては、駆動回路75で駆動される磁界印加手段70からの磁界により磁石323が回転力を受け、質量体32と梁部31からなる振動素子30に、捻り振動を励起する。具体的には、磁界印加手段70により磁界を生じさせると、磁石323がその磁界の作用を受けることにより質量体32に回転力が付与され、これに連動して梁部31が捻れ変形する。そして、駆動回路75の制御により、このような梁部31の捻れ変形を繰り返し動作させることにより、光学ミラー部322が一次元的に動作する振動ミラー(機能部)となる。
そして、本実施形態では、上述したように捻れ変形させる梁部31が加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金から構成されるので、例えば、ステンレスで形成した場合と比べて、疲労特性・機械特性等を格段に高めることができる。また、振動減衰率が非常に低い振動素子30となり、特に、振動減衰率の低さに対して不安定性を生じないほどにバネの非線形性が小さく、振動減衰率の歪み振幅依存性も非常に小さい振動素子30となる。
このため、本実施形態によれば、所望の疲労特性及び振動特性を確保しつつ梁部31を短くすることで振動素子30の小型化を図ることができる。また、このように小型化された振動素子30をMEMS(Micro Electro−Mechanical Systems)ミラーや光スイッチ等のようなデバイス構造に適用することにより、駆動に関わる部品と共に縮小が可能であり、デバイス構造全体の小型化にも寄与できる他、所望の振動特性が得られるため、消費電力の低い高機能デバイスを実現することができる。特に、本実施形態では、上述した加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金からなる振動素子30を減圧空間50に配置することにより、常圧下と比べて、振動特性を更に高めることができる。また、機能部等にかかる空気抵抗の影響を低減することができ、機能性の向上にも寄与する。
ここで、本実施形態のアクチュエータ装置1に適用される振動素子30においては、振動部の主要部を構成する梁部31を加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金から構成することで、駆動周波数と歪み振幅の大きさとの関係を示す共振特性曲線のピーク形状が線対称となるような特性、すなわち、ばね特性の非線形性が非常に小さな振動特性が得られる。
図3には、上述した実施形態1にかかる振動素子30の構造(図1)に基づいて作製した実施例1の振動素子及び比較例1〜3の各振動素子について、駆動周波数と歪み振幅の大きさとの関係を示す共振特性曲線(周波数特性)を示す。横軸は規格化した角周波数ω/ω0であり、縦軸は捻り振幅の大きさθ(deg)である。ω0の値には、捻り振幅がゼロのときの角周波数(外挿)値を用いている。
[実施例1]
加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金として、35%Co、32%Ni、20%Cr、10%Moの組成を有するSPRON510の圧延材を用い、時効処理として550℃で2時間の熱処理を施して形成した振動部を有するものを実施例1の振動素子とした。なお、実施例1の振動素子の共振周波数は約2kHzとした。
[比較例1]
SUS304と同じオーステナイト系ステンレス鋼の中で、機械特性のよいSUS301からなる振動部とした以外は実施例1と同様の構造を有するものを作製し、これを比較例1の振動素子とした。
[比較例2]
析出硬化系ステンレス鋼のSUS631からなる振動部とした以外は実施例1と同様の構造を有するものを作製し、これを比較例2の振動素子とした。
[比較例3]
加工硬化のみを施した以外は実施例1と同様の構造を有するものを比較例3の振動素子とした。
図3に示すように、実施例1と比較例1〜3との共振周波数特性を比較すると、比較例1〜3のSUS301、SUS631、及び加工硬化のみのCo−Ni基合金からなる振動素子は、振動のQ値が低い、すなわち、振動減衰率が大きく、また、共振特性が非対称であり、ばね特性の非線形性が現れている。
これに対し、実施例1の振動素子においては、大気圧環境下及び減圧環境下のいずれの場合においても、共振特性曲線のピーク形状が線対称となるような特性、すなわち、ばね特性の非線形性が非常に小さな振動特性が現れている。特に、実施例1の振動素子は、減圧環境下において、非常に尖鋭な特性であるにも関わらず非線形性は殆ど見られず、振動特性が高いことを示している。
このように実施例1の振動素子は、ばね特性の非線形性が非常に小さな振動特性を発揮し、高い振動特性が得られるため、所望の振動特性を確保しつつ設計の自由度を持たせることができる。すなわち、実施例1の振動素子は、例えば、比較例1(SUS301)及び比較例2(SUS631)の材料を振動部の素材に用いた場合と比べて、格段に振動特性を向上することができる。このため、例えば、光走査装置等の電子デバイスに実施例1の振動素子を実装する際において、振動素子の小型化を図ったり、あるいは素子構造を見直したり寸法等を変更したりする設計の自由度を格段に向上することができる。したがって、実施例1の振動素子によれば、デバイス性能を維持しつつ様々な小型の電子デバイスを実現可能である。
図4には、実施例1の振動素子に用いた、加工硬化及び時効硬化処理が施されたCo−Ni基合金と、比較例1、2の振動素子に用いたSUS301、SUS631についての振動減衰率の捻り振幅依存性を示す。なお、捻り振幅依存性は、梁の断面形状や長さによって変わるため、形状に依らない材料の特性として、捻り振幅θを梁に加わる最大せん断応力に対応する最大歪み振幅γに変換して示してある。また、図4は、空気抵抗が無視できる減圧下での測定結果であり、材料自体の振動減衰率(Q−1)、すなわち、制振特性を示すものである。
SUS301、及び、SUS631は歪み振幅の増加によって振動減衰率が大きく増加する。このため、SUS301やSUS631を用いた振動素子(比較例1及び2)を歪み振幅の大きい領域で使用する場合には、駆動力を得るために磁界印加手段に大きなヨークを用いたり、電源回路やバッテリーの容量を増加させたりする必要があり、駆動部の小型化が難しくなる。また、SUS631は、SUS301よりも振動減衰率の大きさにおいて良好な特性を示すが、歪み振幅が大きい領域ではまだ不充分である。これに対し、実施例1に用いる加工硬化及び時効硬化処理が施されたCo−Ni基合金を用いた振動素子においては、材料の振動減衰率に歪み振幅依存性は無く、歪み振幅の大きい領域で使用する場合にも大きな駆動力を必要としない。
図5は、材料の振動減衰率とばね特性の非線形性が振動素子の周波数特性に及ぼす影響を示したものである。横軸は規格化された周波数であり、縦軸は捻り振幅である。ばね特性に非線形性がある場合には、振動振幅の増加に伴って最大振幅が得られる共振周波数が変化する。図5では共振周波数が低下し、それと共に低周波側の特性が急峻になり、さらに振動振幅が増加するとヒステリシスが現れる。周波数特性が急峻になると共振周波数付近は制御が難しい不安定な状態となる。このような特性の振動素子を用いる場合には、共振周波数を避けて使用する必要があるため、所望の振動振幅を得るには強制振動により大きい駆動力が必要となる。これは駆動部品の小型化の妨げとなる。周波数特性が急峻になり、ヒステリシスが発生しはじめるのは、共振周波数の変化量(δω/ωo)が振動の減衰率Q−1=(δω/ωo)を上回る振動振幅Arのときであり、共振周波数で安定して駆動できるのは振動振幅がAr以下の範囲である。
図6は、振動素子の振動減衰率と非線形性を併せて示した図である。横軸は歪み振幅の大きさであり、縦軸は振動減衰率Q−1、及び、非線形性の大きさを表す共振周波数の変化量(δω/ωo)である。図6(a)は大気圧下での測定結果であり、図6(b)は減圧下でのそれである。図6(b)の特性は空気抵抗を殆ど無視できる状態のものであり、空気抵抗の大きさに応じて図6(a)と図6(b)の中間の特性になる。振動減衰率と共振周波数変化量のグラフの交点が、図5で説明したように、共振周波数で安定して駆動できる限界の許容歪み振幅であり、それ以下の歪み振幅で使用する必要がある。図6(a)の大気圧下での振動減衰率のグラフは、ミラーの空気抵抗の影響を含んでいるため、ミラーの大きさ、及び、形状によって異なる。図6(a)のグラフは、2×3mm2の矩形ミラーを用いた場合のものである。図6(a)のグラフ内で、Co−Ni基合金の振動素子の特性に交点は無く、許容歪み振幅の値が非常に大きいことが分かる。外挿値では、交点の歪み振幅はSUS301、及び、SUS631の3〜4倍になる。
図7に、許容歪み振幅γの変化率と捻り梁の長さLの変化率との関係を示す。このグラフは、捻り梁の断面を円形、または、アスペクト比が一定の矩形として、同じミラー形状で、同じ共振周波数と同じ捻り振幅を得るのに必要な長さを求めたものである。つまり、ある材料を用いた振動部で許容歪み振幅がγ0、梁の長さがL0であるとき、許容歪み振幅がγの材料を用いると同じ仕様の振動部を作製するのにどのくらいの長さLが必要かを、比率で表したものである。このグラフから、許容歪み振幅が3〜4倍になれば、捻り梁の長さを1/4以下にでき、振動鏡を大幅に小型化することができることが分かる。
図6(a)のグラフにおいて、SUS301とSUS631の許容歪み振幅は同程度の大きさである。これは、SUS631を用いた振動素子が、SUS301の振動素子に対して振動減衰率が低い分だけ駆動効率を向上させることはできるが、振動素子の小型化はできないことを示している。SUS631の非線形性は、SUS301よりは少ないが許容歪み振幅を向上させる程には少なくないことが原因であり、アクチュエータ装置(振動鏡装置等)を小型化するには、振動減衰率と非線形性との両方が最適な特性を持つことが重要であることを示している。
なお、図6(b)の減圧下の特性では、図6(a)の大気圧下の特性と比較して、SUS301、及び、SUS631の許容歪み振幅が低下している。これは、空気抵抗を減らした場合、共振周波数で安定に動作させるために、捻り梁の長さを長くする必要があることを示している。つまり、減圧空間への配置や図8(a)〜図8(c)に示すような光学ミラー部322の形状の工夫でジッタの低減を行った場合、小型化がより難しくなることを示している。
これに対し、加工硬化及び時効硬化処理が施されたCo−Ni基合金を用いた場合の振動素子の許容歪み振幅も低下しているが、SUS301、及び、SUS631に対しては40%以上高い値を維持している。図7のグラフから、捻り梁の長さとしてSUS301、及び、SUS631の60%程度に小型化できる。高精度なビーム走査を要求されるレーザービームプリンターやレーザープロジェクター等の用途ではジッタ対策は必須であり、これらの用途において本発明による小型化の効果は非常に大きい。
図9には、実施例1及び比較例1、2の各振動素子の特性データを示す。許容歪み振幅には、実際の捻り角も併せて記載している。Q値は振動減衰率の逆数であり、捻り振幅が25°のときの値を記載している。消費電力も同様に捻り振幅が25°のときの値を記載している。捻り振幅の25°という値は、比較例1、2の減圧下でのおおよその許容値であり、共振周波数近傍の振動が不安定にならない範囲で、同じ条件で各振動素子の特性を比較している。
実施例1及び比較例2の各振動素子を消費電力で比べると、大気圧下で1/5以下、減圧下では1/30となっており、また比較例2と比べても、実施例1の方が消費電力を大幅に低減できていることが分かる。このため、実施例1の振動素子は、大幅に駆動効率が向上しており、アクチュエータ装置の小型化が可能であることが分かる。
また、実施例1及び比較例3の振動素子の許容歪み振幅は、3×10−3より大きくなっており、比較例1及び2の振動素子の許容歪み振幅よりも優れていることが分かる。なお、比較例3の振動素子については、振動部が加工硬化処理のみで形成されているためか、実施例1の振動素子と比べて、Q値が小さく消費電力が大きい、すなわち、振動減衰率が非常に高く駆動効率が低いため、小型化には不利である。
振動素子の小型化に際して、捻り梁の長さを最小にするには、要求される捻り振幅に対して、歪み振幅が許容値限界まで大きくなるようにすれば良い。図9に示された比較例1,2の減圧下におけるQ値の値は、ほぼ許容値限界の歪み振幅で動作させたときの値であり、ミラー形状や捻り振幅に依らず、最小の振動素子を作製した場合にはこの値となる。大気圧下では空気抵抗が加わるため、この値よりも低下する。つまり、振動が不安定にならない範囲で最小の振動素子を作製した場合、比較例1,2の材料でのQ値は550、ないし、740程度であり、1000を越えるQ値は得られない。
これに対して、実施例の減圧下では、比較例1、2と同サイズで4000を越えるQ値が得られている。また、上述したように歪み振幅の許容値が大きいため、振動素子を小型化することができるが、図6(b)に示されているように実施例1の振動減衰率は減圧下で歪み振幅依存性が殆どなく、小型化により歪み振幅を増大させてもQ値は変わらない。つまり、振動素子のQ値向上と小型化を同時に実現することができる。
また、実施例の大気圧下では、小型化が可能であることは上述の通りであるが、Q値はミラー形状や捻り振幅などに応じた空気抵抗の影響を受けて低下する。しかし、比較例1、2と同サイズで図9に示したように1400を越える値が得られ、このことは、本発明に依れば比較例1、2の材料では得られない1000を越えるQ値を実現することが可能であることを示している。
なお、実施例1の振動素子について、共振周波数の2kHzで捻り振幅40°、SUS301、及び、SUS631の許容歪み振幅を越える値で、耐久性試験を行ったところ、4×1010回以上(5000時間以上)の耐久性が得られることが分かった。
なお、図9に示した実施例1の振動素子の特性データは、あくまでも比較例1〜3との比較のために、比較例1〜3と同形状の各振動素子を作製して得たものであり、本発明の特性を限定するものではない。
(実施形態2)
図10は、本発明の実施形態2に係る振動素子を備えたアクチュエータ装置の一例を示す概略断面図である。
図10に示すように、本実施形態のアクチュエータ装置1Aは、振動素子30を封止するカバー部材を設けず、振動素子30を大気開放した構造とした以外は上述した実施形態1と同様である。なお、本実施形態では、上述した実施形態1で説明した同一の構成部分については同一の符号を付して重複する説明は省略する。
具体的には、本実施形態のアクチュエータ装置1Aは、振動部を構成する梁部31が大気開放されており、常圧状態で使用される。また、保持部材20Aは、その周縁部を残して中央に貫通穴21Aが設けられている。このような空気抵抗の影響がある使用環境においても、梁部31を加工硬化及び時効硬化処理が施されたCo−Ni基合金で形成しているため、所望の疲労特性及び振動特性を確保しつつ小型化するのに有利なデバイスとなる。なお、本実施形態では、梁部31を含む振動部が大気開放されているため、空気抵抗の影響を低減するためにも、捻り振動の回転中心から遠く移動速度の大きい箇所の面積を低減した、例えば、図8(d)〜図8(f)に示すような光学ミラー部322及び梁部31Bの形状を採用することが好ましい。
(実施形態3)
図11は、本発明の実施形態3に係る振動素子を備えたアクチュエータ装置の一例を示す概略図であり、図11(a)は上面図、図11(b)はB−B´断面図、図11(c)はカバー装着構造例である。
図11(a)及び図11(b)に示すように、本実施形態のアクチュエータ装置1Bは、梁部31Bを片持ち状に設けて振動素子30Bを構成した以外は上述した実施形態1と同様である。なお、本実施形態では、上述した実施形態2で説明した同一の構成部分については同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図11(a)及び図11(b)に示すように、梁部31Bは、フレーム70に対して片側だけ、すなわち、片持ち梁状に設けられている。また、質量体32Bは、梁部31Bの自由端側である先端部に設けられている。このような構造を採用することにより、質量体32Bの重心が梁部31Bの延長線上に位置し、片側で支持された構成でも安定した振動が可能となる。
この構成では、特に、自重による撓みを防止するために、梁の長さ方向のヤング率が大きいほうが望ましく、<110>集合組織が形成された方向に梁を形成するのが好ましい。
また、図11(c)に示すように、アクチュエータ装置1Bの構造を採用しつつ、上述した実施形態1のようにカバー部材40を設けて、減圧空間50内に振動素子30Bを配設することにより、空気抵抗を低減して、より安定した振動特性を得ることができる。
(実施形態4)
図12は、本発明の実施形態4に係る振動素子を備えたアクチュエータ装置の一例を示す概略図であり、図12(a)は上面図、図12(b)はC−C´断面図、図12(c)はD−D´断面図である。
図12に示すように、本実施形態のアクチュエータ装置1Cは、フレーム70Cから梁状に架橋された一対の第1梁部31aと、この一対の第1梁部31aを架橋した第2梁部31bとを設けると共に、第1梁部31aに複数の圧電素子100を設け、第2梁部31bに質量体32Cを設けて振動素子30Cを構成した以外は上述した実施形態1と同様である。なお、本実施形態では、上述した実施形態1で説明した同一の構成部分については同一の符号を付して重複する説明は省略する。
具体的には、フレーム70Cを略平行に架橋する一対の第1梁部31aには、第2梁部31bとの連結部分の両側に圧電素子100がそれぞれ設けられている。なお、圧電素子100は、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸鉛等の圧電体膜、上電極(図示なし)を積層して形成される。そして、図示しないが、駆動回路から、フレーム70Cと上電極とを介して各圧電素子100に電圧を印加し、圧電素子100に互いに逆方向の撓み振動を生じさせることにより、第1梁部31aに捻りトルクを与えることができる。これにより、振動素子30Cに捻り振動が励起される。光学ミラー部322Cはミラー配置部311Cの両面に配置されている。このような構造を採用することにより、反射膜を成膜する場合には膜応力のバランスをとって光学ミラー部322Cの変形を防止し、鏡面が形成された部材を接合する場合には、重心のバランスをとる役割を果たす。
フレーム70Cと一体に形成された質量体32C及び第1梁部31a及び第2梁部31bは、上述した実施形態1と同様に、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金から形成されている。本実施形態のように、圧電素子100の圧電体膜に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等、熱処理により金属材料と鉛の反応が問題になる圧電膜を用いる場合には、金属材料と圧電膜の間に鉛の拡散を防止する中間層を形成するのが圧電特性を向上させる点で好ましい。なお、圧電素子100の形成には、エアロゾルディポジション法(AD法)が好適に用いられる。
圧電素子100が形成された第1梁部31aは、圧電素子100と共に熱処理され、圧電素子100の特性向上とCo−Ni基合金の時効硬化が同時に行われる。これにより、製造プロセスを簡略化することができる。熱処理条件は、500〜700℃で1〜3時間、還元雰囲気で行われるのが望ましい。ここで、時効硬化後のCo−Ni基合金は耐熱性に優れているため、時効硬化後のCo−Ni基合金に圧電素子100を形成して、圧電膜の熱処理を行うことも可能である。
振動素子30Cの特性は、上述した実施形態1と同様であり、振動素子30Cの小型化も同様に可能である。また、本実施形態では、接着等で圧電素子100を配置した場合に比べて、圧電素子100の駆動電圧を大幅に低減することができるため、電源回路等の駆動部の小型化が可能になる。
なお、本実施形態では、アクチュエータ装置1Cの構造変形例を示したものであり、第1梁部31a及び第2梁部31bに、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金を用いた点で、上述した実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。
(実施形態5)
図13は、本発明の実施形態5に係る振動素子を備えた画像形成装置の概略図である。
図13に示すように、本実施形態の画像形成装置200は、上述した実施形態1〜4で説明した振動素子30等(図13では振動素子30と図示する)を適用することができるものであり、レーザーの光201から射出された光が、射出光学系202を通り振動素子30のミラーで反射され、結像光学系203を通過して感光体204に走査される。走査されたレーザー光は、BDセンサ205で検出され、その検出信号を基に走査角の制御信号が制御回路206から出力され、振動素子30の駆動回路207にフィードバックされる。本実施形態の画像形成装置200は、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金からなる振動部(梁部)を備えた振動素子30を有しているため、小型化に有利であり、ジッタ等の不安定性を低減させて安定したレーザー光走査が可能であり、走査角の高精度な制御が可能である。
(実施形態6)
図14は、本発明の実施形態6に係る振動素子を備えた映像投影装置の概略図である。
図14に示すように、本実施形態の映像投影装置300は、上述した実施形態1〜4で説明した振動素子30等(図14では振動素子30と図示する)を適用することができるものであり、RGB3原色を含む光源装置301から射出された光は、振動素子30を介して垂直走査装置302により2次元走査され、スクリーン303に映像として投射される。
また、垂直走査装置302の走査速度は振動素子30よりも遅い。垂直走査装置302には、非共振駆動で高精度な位置決めができるガルバノミラーを用いている。振動素子30は、制御回路304から出力される制御信号に基づいて駆動回路305によって走査角が制御される。また、垂直走査装置302も同様に、制御回路304からの出力に基づいて走査角が制御される。制御回路304は、入力手段306及び距離測定手段307による投射画角や投射サイズの設定と、映像のサイズや縦横比に基づいて、振動素子30と垂直走査装置302の走査角を変更する。映像の投射サイズは、走査角を変更しなくても、光源装置301のON/OFF制御で可能であるが、走査角を変更することにより光源のOFF時間を減らし、光を有効に利用することができる。
本実施形態の映像投射装置300は、加工硬化及び時効硬化型Co−Ni基合金からなる振動部を構成する梁部を備えた振動素子30を有しているため、小型化に有利でありながら、ジッタ等の不安定性を低減させることができ、走査角を変更しても安定した動作が可能である。また、振動減衰率の歪み振幅依存性が小さいために、走査角を大きくしたときの急激な消費電力増加もない。さらに、光の有効利用により光源装置301の駆動電力を低減することができる。これらにより、小型化と併せて、駆動部やバッテリーの容積を低減させることができ、小型で高性能な映像投射装置300を実現することができる。