JP5412719B2 - 燃料電池搭載車両制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池搭載車両制御装置に係り、特に、燃料電池と蓄電装置を備える車両における制御装置である燃料電池搭載車両制御装置に関する。
環境に与える影響が少ないことから、車両に燃料電池の搭載が行われている。燃料電池は2次電池ではないので、負荷変動等に備え、高電圧の蓄電装置が併せて用いられる。この高電圧蓄電装置は、過放電あるいは過充電によって性能が低下することが知られている。高電圧蓄電装置の性能が低下すると、負荷変動に対する追従に支障が生じるので、燃料電池の電力供給状態の監視と共に、高電圧蓄電装置についてその充電状態を監視しながら充放電制御が行われる。
例えば、特許文献1には、燃料電池のような負荷従属型電流発生システムを有する電気モータ駆動車両の目標トルクの決定方法として、燃料電池システムからの実際の引き出し電流を、燃料電池システムにおける利用可能な瞬間直流電流の最新の値と、燃料電池システムに命令される直流電流値とのうち、低い方に近づけるように制限し、さらにフィードバックによって、この値に実際の電流値を合わせることが開示されている。これにより、モータが、車両ドライバが要求している以上にトルクを発生しないことを確実にすると述べられている。
また、特許文献2には、燃料電池と電気二重層キャパシタとを備える燃料電池自動車の制御装置として、燃料電池の上限発電量と、キャパシタの上限放電量とに基づいて、出力可能な上限総電力を把握し、その範囲内でトルク指令の上限を制限することが開示されている。これにより、燃料電池に異常が生じて上限発電量が低下しても、キャパシタの放電電力分によって上限総電力の減少が抑制され、トルク指令に基づくモータの出力トルクが急激に低下することが抑制されると述べられている。
特開2002−186114号公報 特開2003−61212号公報
燃料電池と高電圧蓄電装置とを備えるシステムにおいて、高電圧蓄電装置の過充電あるいは過放電を抑制するには、例えば、燃料電池の発電量を必要以上とならないようにし、また、負荷変動に対し、燃料電池の発電量が追従するようにすることが好ましい。このための簡明な方法の1つは、回転電機等の負荷のための要求電力と、燃料電池等の供給電力とのバランスを取ることである。例えば、回転電機のトルク指令に対応する要求電力値を燃料電池の出力電力指令値とすることができる。
ところが、このように負荷側の要求電力値と燃料電池等の電力指令値とを一致させるようなシステムを構成すると、何かの所定の事情でこのバランスが崩されると、燃料電池の発電量が負荷に対し過大となり、あるいは、負荷に対し不十分となって、高電圧蓄電装置が過充電あるいは過放電となることが起こり得る。換言すれば、燃料電池において過大あるいは過小な発電が行われることが生じ得る。
本発明の目的は、燃料電池と蓄電装置とを備えるシステムにおいて、燃料電池の発電量を適切なものとすることを可能とする燃料電池搭載車両制御装置を提供することである。また、他の目的は、燃料電池と蓄電装置とを備えるシステムにおいて、蓄電装置の過充電あるいは過放電を抑制することを可能とする燃料電池搭載車両制御装置を提供することである。
本発明に係る燃料電池搭載車両制御装置は、燃料電池と蓄電装置とを備える車両において、車両駆動要求電力値に基づいて燃料電池の電力指令値を算出るFC電力指令値算出手段と、回転電機の回転数変化に対するトルク変化の比が所定値以上のときに車両駆動許可電力値の上限を制限して車両駆動電力指令値とする制限手段と、車両駆動電力指令値に基づき、先に算出された燃料電池の電力指令値を補正する補正手段と、を備えることを特徴とする。
また、本発明に係る燃料電池搭載車両制御装置において、補正手段は、車両駆動電力指令値に、補機消費電力値と、蓄電装置の充電マージン電力値とを加算した合計電力値に基づいて燃料電池の電力指令値を補正することが好ましい。
また、本発明に係る燃料電池搭載車両制御装置において、FC電力指令値算出手段は、車両駆動用回転電機に対する要求電力値を車両駆動要求電力値として算出する手段と、車両駆動要求電力値に補機消費電力値を加算した電力値に基づいて車両システム要求電力値を算出する手段と、を有し、車両システム要求電力に対し、燃料電池の出力可能電力値に基づいて、燃料電池の電力指令値を算出し、燃料電池の電力指令値と蓄電装置の出力可能電力値とに基づいて車両駆動許可電力値を算出することが好ましい。

また、本発明に係る燃料電池搭載車両制御装置において、制限手段は、燃料電池の電力指令値に基づいて算出される車両駆動許可電力値の上限を制限することが好ましい。
上記構成により、燃料電池搭載車両制御装置は、車両駆動要求電力値に基づいて燃料電池の電力指令値を算出し、燃料電池の電力指令値に基づいて算出される車両駆動許可電力値の上限回転電機の回転数変化に対するトルク変化の比が所定値以上のときに制限して車両駆動電力指令値とするときは、車両駆動電力指令値に基づき、先に算出された燃料電池の電力指令値を補正する。このようにして、燃料電池の発電量を適切なものとすることができる。
また、燃料電池搭載車両制御装置において、車両駆動電力指令値に、補機消費電力値と、蓄電装置の充電マージン電力値とを加算した合計電力値に基づいて燃料電池の電力指令値を補正するので、車両駆動電力指令値のみならず、他の要素も考慮に入れて、燃料電池の発電量を適切なものとできる。
また、燃料電池搭載車両制御装置において、FC電力指令値算出手段は、車両駆動用回転電機に対する要求電力値を車両駆動要求電力値として算出し、車両駆動要求電力値に補機消費電力値を加算した電力値に基づいて車両システム要求電力値を算出し、車両システム要求電力に対し、燃料電池の出力可能電力値に基づいて、燃料電池の電力指令値を算出する。そして、燃料電池の電力指令値と蓄電装置の出力可能電力値とに基づいて車両駆動許可電力値を算出する。このようにして、燃料電池と蓄電装置との間の電力分配を行うことができる。
また、回転電機の回転数変化に対するトルク変化の比が所定値以上となるとき燃料電池の電力指令値に基づいて算出される車両駆動許可電力値の上限を制限する。このように回転電機の回転数変化に対するトルク変化の比が大きい領域では、車両発進時等で回転数が変化する際に、トルクの大きな変動を起こし、振動が大きくなりやすい。これを抑制するために、トルクの上限を制限すると、最初に設定した車両駆動要求電力値と燃料電池の電力指令値等との間のバランスが崩れることになる。そこで、トルクの上限制限に合わせて、先に算出された燃料電池の電力指令値を補正することで、振動抑制と燃料電池の適切な発電量とを両立させることができる。
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、燃料電池搭載車両として、1台の回転電機を備えるものを説明するが、回転電機は複数であってもよい。また、回転電機として、モータとしての機能と発電機としての機能とを有するモータ・ジェネレータを説明するが、モータのみの機能を有するものであってもよく、モータと発電機とを個別に有する車両であってもよい。また、以下では、車両駆動許可電力値を制限するものとして、始動時における振動抑制のためにトルク制限を行う場合について詳述するが、これは説明のための一例である。車両駆動許可電力を予め定めた所定条件で制限するものであれば、これ以外の場合にも本発明が実施できる。例えば、車両走行条件、あるいは車両の環境状況に応じて、車両駆動許可電力が制限される場合にも、本発明が実施できる。また、以下では、電源回路として、高電圧の蓄電装置、燃料電池、電圧変換器、高電圧作動のインバータを含む構成を説明するが、これ以外の要素を含むものとしてもよい。例えば、システムメインリレー、低電圧バッテリ、低電圧作動のDC/DCコンバータ等を含むものとできる。
図1は、燃料電池を搭載する車両の駆動制御システム10の構成を示す図である。特に、ここでは、車両の始動時に生じる振動を抑制するために、回転電機のトルクの上限を制限し、これに伴って、燃料電池の発電指令を補正する駆動制御について述べる。
この駆動制御システム10は、燃料電池44と2次電池である蓄電装置32とを含む電源回路30と、これに接続される回転電機12と燃料電池用補機(FC補機)14と、車両の駆動要求を定めるブレーキ踏度センサ16およびブレーキECU(Electric Control Unit)と、アクセル開度センサ20と、蓄電装置32の充放電を制御するバッテリECU22と、制御部60と、制御部60に接続される記憶装置62とを備えて構成される。
回転電機12は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、電力が供給されるときはモータとして機能し、制動時には発電機として機能する三相同期型回転電機である。回転電機12の回転数は、適当な検出手段によって検出され、その検出値は制御部60に伝送される。
FC補機14は、燃料電池44に用いられる補機で、酸化ガス流路に設けられるエアコンプレッサ(ACP)、燃料ガス流路に設けられる水素ポンプ、燃料電池用冷却ポンプ等である。これらのFC補機14は、例えば約200V程度の高電圧電力の供給を受けて作動する。なお、FCとは燃料電池44を示すFuel Cellの省略表記である。以下では、燃料電池44を必要に応じてFCと呼ぶものとする。
電源回路30は、モータ・ジェネレータである回転電機12、およびFC補機14と接続される回路である。回転電機12について述べると、回転電機12が駆動モータとして機能するときにこれに電力を供給し、あるいは回転電機12が発電機として機能するときは回生電力を受け取って2次電池である蓄電装置32を充電する機能を有する。また、FC補機14について述べると、その作動に必要な高電圧電力を供給する機能を有する。
電源回路30は、2次電池である蓄電装置32と、蓄電装置側の平滑コンデンサ34と、電圧変換器36と、燃料電池側の平滑コンデンサ38と、燃料電池44と、回転電機12に接続されるM/Gインバータ46とFC補機14に接続される補機インバータ48を含んで構成される。
蓄電装置32は、充放電可能な高電圧2次電池であって、電圧変換器36を介して燃料電池44との間で電力の融通を行い、回転電機12、FC補機14等の負荷の変動に対応する機能を有する。かかる蓄電装置32としては、例えば、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。なお、蓄電装置32はいわゆる高電圧バッテリであり、単にバッテリとして述べる場合には、この蓄電装置32を指すことが多い。したがって、以下では、蓄電装置32を必要に応じてバッテリと呼ぶものとする。
電圧変換器36は、蓄電装置32の側の高電圧と、燃料電池44の側の高電圧との間の電圧差に応じて、電力のやり取りを行う機能を有する回路である。例えば、燃料電池44の側の電圧が低いときは、蓄電装置32の側から燃料電池44の側へ、電圧変換を行いながら高電圧電力が供給され、逆に、蓄電装置32の側の電圧が低いときは、燃料電池44の側から蓄電装置32の側へ、電圧変換を行いながら高電圧電力が供給される。かかる電圧変換器36としては、リアクトルを含む双方向型コンバータを用いることができる。
電圧変換器36の両側にはそれぞれ平滑コンデンサが設けられる。すなわち、電圧変換器36と蓄電装置32とを結ぶ正極側母線と負極側母線との間に、蓄電装置側の平滑コンデンサ34が設けられ、電圧変換器36と燃料電池44とを結ぶ正極側母線と負極側母線との間に、燃料電池側の平滑コンデンサ38が設けられる。
燃料電池44は、燃料電池セルを複数組み合わせて、約200Vから約400V程度の高電圧の発電電力を取り出せるように構成された一種の組電池で、燃料電池スタックと呼ばれる。ここで、各燃料電池セルは、アノード側に燃料ガスとして水素を供給し、カソード側に酸化ガスとして空気を供給し、固体高分子膜である電解質膜を通しての電池化学反応によって必要な電力を取り出す機能を有する。この燃料電池44を作動させるためには、上記のFC補機14の作動が必要である。
電圧検出器40は、燃料電池44と電圧変換器36とを接続する正極側母線と負極側母線との間に設けられ、燃料電池44の出力電圧値を検出する機能を有する。また、電流検出器42は、燃料電池44の正極側母線あるいは負極側母線のいずれかに設けられ、燃料電池44の出力電流値を検出する機能を有する。電圧検出器40の検出値と、電流検出器42の検出値は、適当な信号線を介し、制御部60に伝送される。
M/Gインバータ46は、制御部60の制御の下で、高電圧直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機12に供給する機能と、逆に回転電機12からの交流三相回生電力を高電圧直流充電電力に変換する機能とを有する回路である。かかるM/Gインバータ46は、スイッチング素子とダイオード等を含む回路で構成することができる。
補機インバータ48は、制御部60の制御の下で、高電圧直流電力を交流三相駆動電力に変換し、FC補機14に供給する機能を有する。かかる補機インバータ48の構成は、基本的にM/Gインバータ46と同様である。
次に制御部60に接続される各要素について説明する。ブレーキ踏度センサ16は、ブレーキペダル等の作動量を検出するセンサである。ブレーキECU18は、ここではブレーキ踏度センサ16の検出値を受け取って、回転電機12に対する制動要求トルクに換算し、制御部60に入力する機能を有する。アクセル開度センサ20は、アクセルペダル等の作動量を検出し、これを回転電機12に対する駆動要求トルクに換算し、制御部60に入力する機能を有する。つまり、ブレーキ踏度センサ16とアクセル開度センサ20は、ユーザによって操作され、回転電機12に対する要求トルクを指示する手段である。
バッテリECU22は、高電圧バッテリである蓄電装置32の状態を検出し、その充放電状態を最適なものに制御する機能を有する制御装置である。蓄電装置32の状態としては、例えば、出力電圧、入出力電流、温度、SOC(State Of Charge)等が監視され、その値は、必要に応じ、制御部60に伝送される。
制御部60に接続される記憶装置62は、制御部60で実行されるプログラム等を格納する機能を有し、特にここでは、トルク制限を実行する際に用いられるトルク制限マップ64を記憶する機能を有する。
トルク制限マップ64の内容を述べる前に、その背景となる始動時の振動抑制について図2、図3を用いて説明する。以下では、図1の符号を用いて説明する。図2は、回転電機12のトルクTと回転数Nとの関係を示す特性図である。図3は、回転電機12の始動時における回転数Nの変化とトルクTの変化の様子を示す図である。
図2に示されるように、回転電機12のトルクTと回転数Nとは、回転電機12に供給される電力、すなわちパワー一定の下で、双曲線特性を示す。これは、電力=パワー=(トルクT×回転数N)/効率の関係に基づくものである。実際には、トルクの最大限度が規定されるため、上限が切られた双曲線特性となる。図2においては、5種類の供給電力に対応して5本のT−N特性線がそれぞれ示されている。
ここで、回転電機12の始動時を考えると、適当な始動電力が供給されて回転数Nが0から次第に上昇してくるが、始動電力が少なく、回転数Nが低速であることから、双曲線特性の急峻な傾きのところで回転数Nが変化することになる。図2では、最も少ない供給電力に対応するT−N特性線において矢印でその変化を示してあるが、回転数の変化であるΔNに対し、トルクTの変化であるΔTが大きな値となることが分かる。極端な場合は、ΔT/ΔNは無限大に近くなることになる。
図3に、回転電機12の始動時における実際の回転数Nの変化と、トルクTの変化が示される。図3において、上段の図は横軸に時間、縦軸に回転数Nをとったもので、下段の図は、横軸に時間、縦軸にトルクTをとってある。時間の原点は、上段と下段とで合わせてある。ここで始動時には、制御部60からの指令として、回転数Nがゼロから次第に高回転にするように行われる。図3では、時間と共に回転数Nがほぼ直線的に上昇する特性線72として示される。これに対応して、トルクTは、図2における供給電力値=パワー値一定の条件の下では、時間とともに下ってくる特性線76として示されている。ここで、上記のように、ΔT/ΔNは大きな値であるので、回転数Nのばらつきによって、トルクTは大幅に変動することになる。
回転電機12が車両に搭載される場合等においては、回転電機12の質量と、その支持構造のバネ成分によって振動系が形成される。したがって、回転電機12が作動することで、その振動系による振動が回転数Nの特性に重畳してくる。また、センサ系においても脈動が生じるので、結果として、始動時における回転数Nの立上がり特性は脈動特性線74として示される特性となる。このように、回転数Nの変化に脈動波形が重畳すると、これが回転数Nのばらつきとなるため、先ほどのΔT/ΔTが大きいことから、トルクも脈動特性線78に示されるように脈動が大きくなる。これが始動時の振動としてユーザの快適感を阻害する要因となる。
このような始動時に振動を抑制する方法として、トルク制限を用いることができる。図4は、始動時の振動抑制のためのトルク制限マップ64を説明する図である。以下では、図1から図3の符号を用いて説明する。上記のように、始動時の振動は、回転数Nが小さい低速のときで、しかも、ΔT/ΔNがある程度大きいときに顕著になる。トルクT−回転数N特性において、Nが予め定めた値よりも小、ΔT/ΔNが予め定めた値よりも大の領域で回転電機12が作動しないようにトルク制限を行えばよい。図4においては、回転電機12に対する供給電力値、すなわち駆動許可電力値に対応する特性線80が5種類示され、実線で示された3本の特性線については、トルクの上限制限82が与えられている。このトルクの上限制限82は、回転電機の駆動許可電力値が与えられても、トルクとしてはこの上限以下に制限されるということである。
なお、図4において、一律にトルクの上限制限81が示されているが、これは、始動時の振動抑制のためのトルクの上限制限82とは関係なく、システムの構成上から、一般的にこれ以上のトルクを許可しないとするものである。これを一般的なトルクの上限制限と呼ぶことができる。
図4に示されるように、トルクの上限制限82によって、回転数Nが小で、ΔT/ΔNが大の領域では回転電機12が作動しないようにできる。これによって、回転電機12の始動時の振動を抑制することができる。トルクの上限制限は、回転電機12に対する駆動許可電力が予め定めた所定値より小さいときに、その駆動許可電力値の下で、トルクの上限を予め定めた値以下とすることで設定できる。具体的数値は、回転電機12の質量、その支持構造のバネ定数、センサの応答性等を考慮して設定される。一例を上げると、駆動許可電力値が約3kWから約10kW以下のときに、トルクの上限を約50Nmから約100Nmとして設定することができる。
このようにして、回転電機12の始動時の振動抑制のためにトルクの上限制限を行うと、別の課題が生じる。すなわち、トルクの上限制限は、上記のように、回転電機12の駆動許可電力値が一旦与えられてから行われるので、その制限によって駆動許可電力の消費が制限されることになる。換言すれば、回転電機12によって本来消費されるものとして許可された電力が消費されないままとなる。駆動許可電力値は、燃料電池44の発電電力値と蓄電装置32の放電電力値とに基づいて算出されるので、この消費されない電力は、このままでは、蓄電装置32に充電電力として戻されることになる。したがって、このままでは、蓄電装置32が過充電となる恐れが生じる。そこで、制御部60において、このトルク上限制限に応じて、燃料電池44と蓄電装置32の間の電力分配を補正することが行われる。
再び図1に戻り、記憶装置62には、図4で説明したトルク制限マップ64が記憶される。上記のように、トルク制限マップ64は、回転数Nが小で、ΔT/ΔNが大の領域において回転電機の作動を制限するものであるので、マップの形態でなくても、トルク制限を予め設定できる形式で記憶するものとできる。例えば、駆動許可電力値を入力として、トルク制限の範囲の回転数Nとそのときのトルク上限値を出力とする換算表のテーブル形式、あるいは計算形式等で記憶するものとできる。
制御部60は、駆動制御システム10の各要素を全体として制御する機能を有するが、ここでは、特に、上記のトルク制限に伴う電力分配及びその補正を行う機能を有する。ここで、制御部60は、車両の駆動制御システム10において、燃料電池搭載車両制御装置に相当する。制御部60は、上記のトルク制限が行なわれない通常の場合における燃料電池44と蓄電装置32の間の電力分配を行う電力分配モジュール66と、上記のトルク制限に伴って回転電機12に対する駆動許可電力を制限する駆動許可電力制限モジュール68と、その制限に伴って先に設定された電力分配の補正、特に先に設定された燃料電池44の電力指令値を補正するFC電力指令値補正モジュール70を含んで構成される。
かかる制御部60は、車両搭載に適したコンピュータで構成できる。制御部60は、単独のコンピュータで構成することもできるが、他に車両搭載ECU等がある場合に、制御部60の機能をその車両搭載ECUの機能の一部とすることもできる。制御部60の上記の各機能は、ソフトウェアによって実現することができ、例えば対応する車両制御プログラムを実行することで実現できる。
上記構成の作用、特に制御部60の各機能について、図5を用いてさらに詳細に説明する。以下では、図1から図4の符号を用いて説明する。図5は、制御部60の各機能をブロックダイヤグラムで示したものに相当するが、ここでは、制御部60によって実行される手順の観点から説明する。したがって、これらの手順は、対応する車両制御プログラムの各処理手順のそれぞれに対応するものである。なお、図5において、S10からS32までが制御部60の電力分配モジュール66の機能に相当し、S34からS42までが駆動許可電力制限モジュール68の機能に相当し、S44からS66までがFC電力指令値補正モジュール70の機能に相当する。勿論、これらの機能は相互に協働して作用を発揮するものであるので、一部重複する部分がある。
車両制御プログラムを起動すると、ユーザによるアクセル操作量(S10)とブレーキ操作量(S12)から駆動要求電力値が算出される(S14)。具体的には、アクセル開度センサ20の検出値に基づいて駆動要求トルクを取得し、ブレーキ踏度センサ16の検出値に基づいて制動要求トルクを取得し、これらの合成トルクに回転数を乗じることで、駆動要求電力値を算出する。この駆動要求電力値は、ユーザによる車両駆動のための車両駆動要求電力値であるが、図1の構成では、車両の駆動機構としては回転電機12であるので、実際的には、回転電機駆動要求電力値に相当する。
次に、補機の消費電力値を算出し(S16)、先ほどの駆動要求電力値に加算する処理が行われる(S18)。補機の消費電力は、高電圧で作動するFC補機14の消費電力が大部分を占めることが多く、特にACPの消費電力が大きな割合を占めるので、代表的には、ACPの消費電力を算出し、これに基づき、例えば適当な係数を乗じて補機全体の消費電力を求めるものとすることができる。なお、ACPの消費電力に比べれば少ない値ではあるが低電圧で作動するECU等の電気機器等の消費電力もこの補機消費電力に含まれる。
S18で合算された合計電力値は、回転電機12、FC補機14等の車両駆動に関する消費電力の全体を示すので、これをシステム要求電力値(S22)と呼ぶことができる。S18とS22の間に設けられる上限処理(S20)は、様々な状況の下で、合計電力値の上限を制限する必要がある場合に設けられるリミッタである。ここでは、後述するように、回転電機12の始動時の振動抑制のためにトルクの上限制限を実施することで生じる駆動許可電力制限によって、合計電力値の上限が制限される。これについては、S60のところで再度説明する。
上限処理(S20)が行われてシステム要求電力値が算出されると、これに基づいて燃料電池44と蓄電装置32との間の電力分配(S24)が行われる。この電力分配は、システム要求電力値を、燃料電池44の最大FC出力可能電力値(S26)と、蓄電装置32の最大バッテリ出力可能電力値(S30)を考慮して、両者に分配するものである。分配の方式は、車両の駆動態様等に応じて適当に定めることができる。なお、燃料電池44の最大出力可能電力値は、電圧検出器40の検出値、電流検出器42の検出値等に基づいて算出でき、また、蓄電装置32の最大出力可能電力値は、バッテリECU22からの蓄電装置32の状態量等に基づいて算出することができる。
一例を上げると、燃料電池44と蓄電装置32の特性の相違を考慮して、分配の方式を定めることができる。一般的に蓄電装置32は電圧値の変動を少なく抑えることができるのに対し、燃料電池44の電圧値はその変動幅が比較的大きい。このような相違によって、例えば、システム要求電力値について、燃料電池44に最初に割り当て、割り当て切れない部分、あるいは変動部分を蓄電装置32で補うものとすることができる。図5では、そのような分配方式が示されている。
すなわち、システム要求電力値が定まると、その値を燃料電池44の出力可能電力値であるFC出力可能電力値(S26)と比較し、システム要求電力値がFC出力可能電力値の範囲に収まる場合は、そのシステム要求電力値がそのまま燃料電池44の出力指令値、すなわちFC電力指令値となる。システム要求電力値がFC出力可能電力値を超える場合は、FC出力可能電力値がFC電力指令値となる。つまり、システム要求電力値とFC出力可能電力値とを比較し、小さい方の値がFC電力指令値として算出される(S28)。
S26,S28において、システム要求電力値がFC出力可能電力値を超えるときは、その超える分、換言すればFC出力可能値では不足する電力値が蓄電装置32に割り当て分配される。すなわち、この場合には、その不足電力値が蓄電装置32の出力可能電力値であるバッテリ出力可能電力値(S30)と比較される。そして、不足電力値がバッテリ出力可能電力値の範囲に収まる場合は、その不足電力値に相当する電力が蓄電装置32から供給される。不足電力値がバッテリ出力可能電力値の範囲を超える場合には、バッテリ出力可能電力値に相当する電力が蓄電装置32から供給される。つまり、不足電力値とバッテリ出力可能電力値とを比較し、小さい方の値が蓄電装置32の側からの供給電力値として算出される。
実際には、図1に示されるように、蓄電装置32の高電圧電力は電圧変換器36を介して回転電機12の側に供給されるので、バッテリ出力可能電力値に電圧変換器36の通過許可電力上限値(S32)の制限を加えた値が不足電力値となるように、蓄電装置32から高電圧電力が供給され、あるいは、バッテリ出力可能電力値に電圧変換器36の通過許可電力上限値(S32)の制限を加えた値そのものが、蓄電装置32から高電圧電力が供給される。このようにして、蓄電装置32の側からの供給電力値が求められる。
S28において算出されたFC電力指令値と、S30,S32において算出された蓄電装置32の側からの供給電力が加算処理(S34)されて、その合計電力値が駆動許可電力値となる(S36)。このようにして、システム要求電力値が燃料電池44と蓄電装置32との間で電力分配され、その合計値が駆動許可電力値となる。上記のように、システム要求電力値がFC出力可能電力値以下の場合には、駆動許可電力値はシステム要求電力値と同じとなる。また、システム要求電力値とFC出力可能電力値との差である不足電力値が、バッテリ出力可能電力値と電圧変換器通過許可電力上限値の制限とから求められる蓄電装置32の側の供給電力値以下であるときも、駆動許可電力値はシステム要求電力値と同じとなる。不足電力値が、蓄電装置32の側からの供給電力値を超えるときには、その超過電力値の分だけ、駆動許可電力値はシステム要求電力値より小さく算出される。
このようにして算出された駆動許可電力値は、車両駆動のために用いることができる車両駆動許可電力値であるが、図1の構成では、車両の駆動機構としては回転電機12であるので、実際的には、回転電機駆動許可電力値に相当する。また、この駆動許可電力値は、アクセルとブレーキの操作によってユーザが要求した回転電機の駆動要求電力に対応して燃料電池44と蓄電装置32に分配された電力の合計であるので、本来的には、回転電機12とFC補機14等で消費されるようにバランスして設定された値である。
そこで、通常の場合は、駆動許可電力値に基づいて、必要があれば一般的なトルクの上限制限の範囲で回転電機12に対する駆動電力指令値が設定される。例えば、図4において駆動許可電力値に対応する特性線80が5種類示されているが、S36において駆動許可電力値が算出されると、その算出された駆動許可電力値に対応する特性線80が、回転電機12の駆動電力指令値となる。上記の一般的なトルク上限制限とは、図4において一律に行われるトルクの上限制限81のことである。したがって、ここで、通常の場合とは、始動時の振動制限のためのトルクの上限制限82が行われない場合のことである。そして、通常の場合には、駆動許可電力値は、燃料電池44と蓄電装置32とから供給された電力が、回転電機12とFC補機14等で、ちょうど消費され、燃料電池44は無駄な発電を行うことがなく、蓄電装置32において過放電あるいは過充電を生じることがない。
次に、S38以降の駆動許可電力制限の処理について説明する。ここでは、まず、回転電機12が始動時の振動抑制のためのトルク制限を必要とされる状態か否かが判断される。具体的には、図2に関連して説明したように、回転電機12の回転数Nが所定の値よりも小さいか否か、ΔT/ΔNが所定の値よりも大きいか否かが判断される。これに代えて、記憶装置62に記憶されるトルク制限マップ64を読み出し、S36で算出された駆動許可電力値がトルク制限を必要とする駆動許可電力値よりも小さいか否かを判断するものとできる。図4に関連して説明した例に従えば、S36で算出された駆動許可電力値が、約3kWから約10kWの範囲で予め定めた所定値以下か否かが判断される。
そして、始動時の振動抑制のためのトルク制限を必要とされる状態であると判断されると、図4で説明したトルクの上限を制限するトルク制限が行なわれる(S38)。具体的には、記憶装置62に記憶されているトルク制限マップ64を読み出し、駆動許可電力値を検索キーとして、対応するトルクの上限制限値を読み出す。図4で説明した例では、駆動許可電力値に応じて、約50Nmから約100Nmの範囲で予め設定された値がトルクの上限値として設定される。
このようにして、始動時の振動抑制のためのトルクの上限制限が設定されたトルクが回転電機12に対する指令トルクとなる(S40)。これに回転電機12の回転数Nを乗じて、駆動電流指令値が算出される(S42)。なお、この指令トルクに対応した回転電機12の消費電力が、駆動実消費電力値(S41)である。
このように、始動時の振動抑制のためのトルク制限が実施されると、S36において説明した供給電力と消費電力のバランスが崩れ、場合によっては、燃料電池44は無駄な発電を行っていることになり、蓄電装置32において過充電あるいは過放電が生じえる。そこで、次に、FC電力指令値補正の処理について説明する。
まず、蓄電装置32における充電余裕と、燃料電池44における発電余裕を算出する。具体的には、蓄電装置32における充電許可電力(−BATWin)と、その余裕度である充電マージンとを求め前者から後者を減算し、一方で燃料電池44における過剰発電の余裕度である過発電マージン(S44,S46)を求め、両者のうち小さい値(S48)を、蓄電装置32における充電マージン電力値とする。この充電マージン電力値に、S16で説明した補機消費電力値を加算する(S50)。この合算値は、始動時の振動抑制のためのトルク制限によって余剰となる電力値に対し、吸収可能な電力値となるものである。そこで、燃料電池44の側の電力に換算するため、電圧変換器通過許可電力下限値の制限を加えて、制限処理された吸収可能電力値として、S42において算出された駆動電力指令値に加算処理する(S56)。この合計電力値が、FC電力指令値を補正するためにフィードバックされる(S58)。
フィードバックされた合計電力値は、先に説明したS20に戻され、S28まで手順が補正処理として実行される。ここでは、上記で説明した通常の手順であるS20からS28と区別するため、補正処理のために新しく手順番号を付け直す。すなわち、フィードバックされた合計電力値は、S18において算出された電力値に対し上限処理される(S60)。S18において算出された電力値とは、上記のように、上限処理される前のシステム要求電力値に相当するものである。ここで、フィードバックされた合計電力値で上限処理するということは、始動時の振動抑制のためのトルク制限によって制限された駆動電力指令値に吸収可能な電力値を加えたもので、システム要求電力値の上限を制限することである。概略的に述べれば、システム要求電力値を、始動時の振動抑制のためのトルク制限の下で必要な電力値となるように、制限することに相当する。
このようにして、始動時の振動抑制のためのトルク制限の下で必要な電力値に制限されたシステム要求電力値(S62)を算出し、算出された新たなシステム要求電力値とFC出力可能電力値(S64)と比較し、その結果に基づいて、FC電力指令値を算出する(S66)。この処理の内容は、S26,S28で説明したものと同様で、新たなシステム要求電力値とFC出力可能電力値とを比較し、小さい方の値が、新たなFC電力指令値として算出される。
この新たなFC電力指令値が、通常の場合としてS28で算出されたFC電力指令値に対し補正されたFC電力指令値となる。この補正されたFC電力指令値によって燃料電池44の作動制御を行うことで、始動時の振動抑制のためのトルク制限が行なわれても、供給電力と消費電力のバランスが維持され、燃料電池44は無駄な発電を行うことがなくなり、蓄電装置32において過充電あるいは過放電が生じることが抑制される。
なお、S66,S68の処理において、新たなシステム要求電力値がFC出力可能電力値を超える場合には、S30,S32で説明したと同様に、不足電力が蓄電装置32に割り当て分配される。
このように、上記構成によれば、トルク制限が行われる場合を含め、車両駆動による消費電力を正確に算出することができ、燃料電池の無駄な発電を抑制し、蓄電装置の過充電あるいは過放電を抑制することが可能となる。
本発明に係る実施の形態において、燃料電池搭載車両制御装置である制御部を含む車両の駆動制御システムの構成を示す図である。 本発明に係る実施の形態において、回転電機のトルクと回転数との関係を説明する図である。 本発明に係る実施の形態において、回転電機の始動時における回転数の変化とトルクの変化の様子を説明する図である。 本発明に係る実施の形態において、始動時の振動抑制のためのトルク制限マップを説明する図である。 本発明に係る実施の形態において、制御部の各機能をブロックダイヤグラムで示した図である。
符号の説明
10 車両の駆動制御システム、12 回転電機、14 FC補機、16 ブレーキ踏度センサ、18 ブレーキECU、20 アクセル開度センサ、22 バッテリECU、30 電源回路、32 蓄電装置、34,38 平滑コンデンサ、36 電圧変換器、40 電圧検出器、42 電流検出器、44 燃料電池、46 M/Gインバータ、48 補機インバータ、60 制御部、62 記憶装置、64 トルク制限マップ、66 電力分配モジュール、68 駆動許可電力制限モジュール、70 FC電力指令値補正モジュール、72,76 特性線、74,78 脈動特性線、80 駆動許可電力値に対応する特性線、81 (一律の)トルクの上限制限、82 (始動時の振動抑制のための)トルクの上限制限。

Claims (4)

  1. 燃料電池と蓄電装置とを備える車両において、車両駆動要求電力値に基づいて燃料電池の電力指令値を算出るFC電力指令値算出手段と、
    回転電機の回転数変化に対するトルク変化の比が所定値以上のときに車両駆動許可電力値の上限を制限して車両駆動電力指令値とする制限手段と、
    車両駆動電力指令値に基づき、先に算出された燃料電池の電力指令値を補正する補正手段と、
    を備えることを特徴とする燃料電池搭載車両制御装置。
  2. 請求項1に記載の燃料電池搭載車両制御装置において、
    補正手段は、
    車両駆動電力指令値に、補機消費電力値と、蓄電装置の充電マージン電力値とを加算した合計電力値に基づいて燃料電池の電力指令値を補正することを特徴とする燃料電池搭載車両制御装置。
  3. 請求項1に記載の燃料電池搭載車両制御装置において、
    FC電力指令値算出手段は、
    車両駆動用回転電機に対する要求電力値を車両駆動要求電力値として算出する手段と、
    車両駆動要求電力値に補機消費電力値を加算した電力値に基づいて車両システム要求電力値を算出する手段と、
    を有し、車両システム要求電力に対し、燃料電池の出力可能電力値に基づいて、燃料電池の電力指令値を算出し、燃料電池の電力指令値と蓄電装置の出力可能電力値とに基づいて車両駆動許可電力値を算出することを特徴とする燃料電池搭載車両制御装置。
  4. 請求項1に記載の燃料電池搭載車両制御装置において、
    制限手段は、燃料電池の電力指令値に基づいて算出される車両駆動許可電力値の上限を制限することを特徴とする燃料電池搭載車両制御装置。
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