JP5403946B2 - 転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法 - Google Patents

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本発明は、軸受、ギア、ハブユニット、無段変速機、等速ジョイント、ピストンピンなどの非金属介在物が破損起点である転動疲労寿命が求められ、表面硬さを58HRC以上に硬化され使用される鋼材からなる機械部品に関するものである。
近年、各種の機械装置の高性能化にともない、転動疲労寿命が求められる機械部品や装置の使用環境は非常に厳しくなり、寿命の向上ならびに信頼性の向上が強く求められている。このような要求に対し、鋼材の面からの対策としては、鋼成分の適正化や不純物元素の低減化が行われている。
鋼成分における不純物元素のうちAl23、MnS、TiNその他の非金属介在物は、鋼部品の破損の起点となるため、特に有害であることが知られている。さらに、非金属介在物の径が大きいほど、鋼部品の転がり疲労寿命は短くなることが知られている。そのため非金属介在物量を少なく、すなわち、鋼の清浄度が高く、介在物径が20μm以上の大型の酸化物系非金属介在物の極めて少ない高清浄度鋼が種々提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照。)。
このような高清浄度鋼からなる鋼材を用いても、短寿命で破損することを抑制することは十分にできていない。そのため、鋼材中の非金属介在物を低減し、さらに該非金属介在物を小径化しようとする開発が盛んに行なわれている。
特開2006−63402号公報 特開平06−192790号公報 鉄と鋼、94(2008)、p.13 平成20年度兵庫県立大学学位論文、平岡和彦(2008年1月)
本発明が解決しようとする課題は、鋼の溶製時に非金属介在物の低減および非金属介在物の小径化を図らなくても、鋼材中に含有する非金属介在物と母相である鋼との界面状態を改善した鋼とすることで、鋼の製造時に非金属介在物の低減およびその小径化を図った鋼材に比べて安定して転動疲労寿命に優れた機械用部品を製造する方法を提供することである。
軸受その他の機械部品において転動疲労寿命を改善するためには、これらの機械部品用鋼材から、非金属介在物を少なくすることが重要である。さらに軸受その他の機械部品の転走面下に大きな非金属介在物が存在すれば、該機械部品にはく離を発生させ、破損に至らせることから、軸受その他の機械部品の転走面下の危険部位に出現する非金属介在物を小さくすることが軸受その他の機械部品の寿命向上に対して特に重要であることが知られている。そこで、量産の製造工程において、非金属介在物を小径化する方策が多く発明されているが、しかし、安定して非金属介在物を小径化することは難しかった。
本発明者らは転動疲労における破損すなわちはく離に至る過程について、人工欠陥材を用いてき裂観察を行なうことで詳細に鋭意検討した。非金属介在物からき裂発生および進展してはく離に至る過程において、非金属介在物の周囲への応力集中効果により、き裂が変位する初期き裂(以下「開口型の初期き裂」という。)過程を経ることを見出した。その後、せん断応力によるき裂の伝ぱを経て破損に至ることは従来の知見通りである。このことは、本発明者らが見出した開口型の初期き裂が起こらなければ、その後のき裂伝ぱや破損が起こらないことを意味する。また開口型の初期き裂は非金属介在物と母相との界面に物理的な隙間すなわち空洞が生じていることを前提として起こるのであり、物理的な隙間が生じていなければ、開口型のき裂は生じないことも応力計算により検証している(非特許文献1および非特許文献2参照。)。
さらに物理的な隙間は、鋼材の製造過程、部材に成形していく過程において必ず行なわれる何らかの塑性加工、すなわち、熱間圧延、冷間圧延、熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造、ローリング鍛造、冷間転造、冷間ヘッダー加工ならびに引抜き加工などによって生じることも見出した。図1に熱間圧延鋼材から切り出し、イオンミリングを行った後に、走査電子顕微鏡(FE−SEM)にて非金属介在物周囲の空洞有無を観察した影像を概念図にて示す。図1において、符号の2はAl23であり、符号の3は空洞である。特に機械構造用鋼では、通常Alによる脱酸が行なわれる。その際に生成するAl23系非金属介在物は母材との変形能の違いや形状から特に母相との界面に空洞が生成しやすいことを確認している。本発明は以上の新たに得た知見に基づきなされたものである。
すなわち、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、機械構造用鋼の一部もしくは全体を焼入焼戻し処理方法により58HRC以上を得る機械部品の製造方法において、通常のAlに加えてCaを含む脱酸剤を添加して脱酸された該機械構造用鋼が鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で塑性加工を受けた後、焼入焼戻しを行う前に、該機械構造用鋼を780〜1100℃に加熱し80MPa以上の静水圧を付与することにより該鋼中に含有する粒状に制御され、その周囲に均一な静水圧が付与できるようにした非金属介在物と母相である鋼との界面を密着する処理を行うことを特徴とする転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法である。
請求項2の発明では、鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で受ける塑性加工は、複数回からなり該複数回の中の最後の塑性加工が熱間塑性加工であることを特徴とする請求項1の手段の転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法である。
請求項3の発明では、鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で受ける塑性加工は、複数回からなり該複数回の中の最後の塑性加工が温間塑性加工であることを特徴とする請求項1の手段の転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法である。
請求項4の発明では、鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で受ける塑性加工は、複数回からなり該複数回の中の最後の塑性加工が冷間塑性加工であることを特徴とする請求項1の手段の転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法である。
本願発明の鋼材は、上記の手段とすることで、鋼材の製造時に非金属介在物の低減および小径化を図らなくても、何らかの塑性加工により鋼中に含有する非金属介在物と母相である鋼との界面に生じた物理的な隙間すなわち空洞を消滅させ、これらからなる界面を密着させ得るならば、非金属介在物を破壊起点とする転動疲労によるはく離が回避され、その結果、大幅に寿命が向上すると見込まれる極めて優れた機械部品の製造方法である。
上記の本発明の手段とすることにより、鋼の製造時に非金属介在物の低減および非金属介在物の小径化を図らなくても、Alに加えてCaを含む脱酸剤を添加して脱酸された機械構造用鋼とし、780〜1100℃に加熱し、80MPa以上の静水圧の付与により鋼中に含有する粒状に制御され、その周辺に均一な静水圧が付与できるようにした非金属介在物と母相である鋼との隙間を無くした状態の鋼材とすることで、該鋼材からなる表面硬さが58HRC以上で、かつ、はく離することのない転動疲労寿命に優れた機械部品を得ることができる。
軸受、ギア、ハブユニット、無段変速機、等速ジョイント、ピストンピンなどの機械部品に求められる鋼には、一般的にJIS G 4805に規定されている高炭素クロム軸受鋼鋼材、JIS G 4051に規定されている機械構造用炭素鋼鋼材、JIS G 4052に規定されている焼入れ性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G 4053に規定されている機械構造用合金鋼鋼材、JIS G 3441に規定されている機械構造用合金鋼鋼管、JIS G 3445に規定されている機械構造用炭素鋼鋼管、JIS G 3507−1に規定されている冷間圧造用炭素鋼−第1部:線材、JIS G 3507−2に規定されている冷間圧造用炭素鋼−第2部:線、JIS G 3509−1に規定されている冷間圧造用合金鋼−第1部:線材、JIS G 3509−2に規定されている冷間圧造用合金鋼−第2部:線、およびそれぞれの関連外国規格鋼、さらにそれぞれの成分類似鋼と成分改良鋼が使用されている。本発明における機械構造用鋼とは上記に記載の化学成分を満足する鋼材を指す。
この鋼は一般的に、1)アーク溶解炉または転炉による溶鋼の酸化精錬、2)取鍋精錬炉(LF)による還元精錬、3)還流式真空脱ガス装置(RH)による還流真空脱ガス処理(RH処理)、4)連続鋳造または一般造塊による鋼塊の鋳造および5)鋼塊の熱間圧延あるいは熱間での圧鍛および冷間圧延あるいは冷間での圧鍛による塑性加工工程を経て、鋼材が製造される。本発明における鋼材形状を得るための工程とは上記に記載の工程を指し、鋼材形状とは形鋼、棒鋼、管材、線材、鋼板、鋼帯を指す。
次いで、熱間鍛造、亜熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造、ローリング鍛造、冷間転造、冷間ヘッダー加工ならびに引抜き加工、場合によっては引抜きと冷間ヘッダー加工、上記の組合せの塑性加工と必要に応じて軟化や組織調整を目的とした熱処理あるいは旋削を行なって部材に成形される。本発明における機械部品形状を得るための工程とは上記に記載の工程を指す。
なお、本発明における熱間塑性加工の熱間とは該鋼の再結晶温度以上を指し、温間塑性加工の温間とは室温以上、再結晶温度以下を指し、冷間塑性加工の冷間とは室温およびその近辺を指す。
次いで、表面硬さ58HRC以上を得るために浸炭焼入れ、浸炭窒化焼入れ、窒化焼入れ、浸炭浸窒焼入れ、高周波焼入れなどの焼入焼戻し処理が鋼材や用途に応じて施されて、研磨や研削などの仕上げ処理を経て、本発明が対象とする機械部品が製造される。本発明における焼入焼戻し処理方法とは上記に記載の処理を指す。
本発明の効果を得るためには、機械部品に焼入焼戻しを行い、表面硬さ58HRC以上を得る前の段階で、強制的に酸化物系非金属介在物と母相との界面に存在する空洞を消滅させるための工程を経る必要がある。その手段としては、780〜1100℃に加熱した後に80MPa以上の静水圧付与が可能な工法が良い。例えば、その工法として熱間等方圧プレス(HIP)法、ホットプレス法、完全閉塞あるいは完全密閉による熱間鍛造法が良い。
なお、金型に完全密閉されていない熱間鍛造、亜熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造、ローリング鍛造、冷間転造、冷間ヘッダー加工ならびに引抜き加工では、全鋼材部分に静水圧が付与できないか、もしくはある方向に材料が連続的に延伸されるために、本発明の効果が得られない。
次に、発明を実施するに当たって、静水圧付与する際の限定理由について述べる。
鋼材の加熱温度が高いほど、鋼材は変形し易くなる。従って、鋼材の加熱温度が高いほど、酸化物系非金属介在物と母相との界面に存在する隙間すなわち空洞を消滅させるために必要な静水圧は低くすることができる。本発明者らが鋭意検討した結果、780〜1100℃に加熱して、かつ80MPa以上の静水圧が付与できれば、本発明の効果は得られるので、780〜1100℃に加熱して、かつ80MPa以上とする。
一般的に、機械構造用鋼はAlによる脱酸が行なわれている。そのために生成する酸化物系非金属介在物は、Al23やAl3・MgO系が主体となる。これらは、いずれも硬質の介在物であり、かつ精錬以降に凝集し、JIS G 0555に規定されているグループBの形状をとり易いという問題から、静水圧を付与した際に、酸化物系非金属介在物と母相との界面に存在する空洞を完全に消滅させるには、最適な静水圧付与時の条件範囲が限られる。そこで、酸化物系非金属介在物の形態を制御すれば、静水圧を付与した際に、酸化物系非金属介在物と母相との界面に存在する空洞を完全に消滅させるための効果は増す。その手段として、通常のAlに加えてCaを含む脱酸剤を添加して脱酸することにより、生成する酸化物系非金属介在物を粒状に制御することにより、非金属介在物の周囲に均一な静水圧が付与できるようにする。
本発明の実施の形態の実施条件と得られた効果について具体的に説明する。先ず、表1に本発明の実施の形態の供試材の成分組成を示す。この供試材である鋼種A〜Bは、全てSUJ2鋼について実施した。アーク溶解炉にて溶鋼を酸化精錬し、取鍋精錬炉(LF)にて還元精錬し、還流式真空脱ガス装置(RH)にて還流真空脱ガス処理(RH処理)し、連続鋳造にて鋼塊を鋳造し、鋼塊を熱間圧延して鋼材を作製した。なお、供試材の鋼種AはAl脱酸を基本として、LF終了後にCaを添加した。鋼種Bは一般的に行なわれているAlによる脱酸を行なった。熱間圧延して得た鋼材に800℃にて球状化焼なましを施した。
Figure 0005403946
さらに、上記の球状化焼なましした鋼材を工程条件1はスラスト型の転がり軸受の部材である軌道盤形状に切削加工した。工程条件2は室温以上で再結晶温度以下である温間、600℃に加熱して据え込みを行なった後にスラスト型の転がり軸受の部材である軌道盤形状に切削加工した。工程条件3は冷間据え込みを行なった後にスラスト型の転がり軸受の部材である軌道盤形状に切削加工した。得られた軌道盤形状品にそれぞれ熱間等方圧プレス(HIP)処理もしくはホットプレス処理を施した。この処理条件を表2に示す。プレス条件のプレス条件(1)はホットプレス処理によるもので、プレス条件(2)〜(4)はHIP処理によるものである。プレス条件(1)〜(3)は本発明における加熱温度条件と静水圧条件を満足する本発明例である。これらに対してプレス条件(4)は加熱温度が700℃と本発明のHIP処理の加熱条件よりも低く本発明の条件を満足しないもので、比較例である。さらにプレス条件(5)はプレス無しの比較例である。この軌道盤形状品を835℃で20分保持した後、油冷により焼入れし、次いで170℃で90分の焼戻し処理を行い、所望の58HRC以上の硬さを得た。さらに研磨を施して、スラスト型の転がり軸受に仕上げて、転動疲労寿命評価を行なった。なお、転動体は市販のスラスト型の転がり軸受用ボールを使用した。
Figure 0005403946
スラスト型転がり疲労試験は5292MPaの最大ヘルツ応力Pmaxで行い、上記の各プレス条件につき10回づつ行なった。その結果から、ワイブル分布関数に基づき、短寿命側から10%の試験片にはく離が生じるまでの総回転数を求め、これをL10寿命とした。さらに、これらの焼入焼戻し後の表面硬さとスラスト型転がり疲労試験を行った各条件の10枚の試験片の寿命から評価したL10寿命を鋼種Aは表3に、鋼種Bは表4に示す。なお、各試験片は試験の都合で1×108cycleに到達した時点で、はく離に至らなくても中止した。
Figure 0005403946
Figure 0005403946
表3において、本発明の構成を満足する鋼である鋼種Aは、表面硬さが58HRC以上であり、本発明の構成を満足するプレス条件のプレス条件(1)〜(3)は、本発明のプレス条件の780〜1100℃の加熱と80MPa以上の静水圧付与を満足しない比較例であるプレス条件(4)および(5)に比べて、転がり疲れ寿命に優れている。さらに、鋼種Aは、表4における鋼種Bに比べて、本発明の構成を満足するプレス条件のプレス条件(1)〜(3)において、最適な静水圧付与時の条件範囲を拡げることが可能で優れている。
熱間圧延した鋼材から試料を切り出し、イオンミリングを行った後に、走査電子顕微鏡(FE−SEM)にて非金属介在物周囲の空洞有無を観察した影像を概念図にて示す図である。
符号の説明
1 概念図
2 Al23
3 空洞

Claims (4)

  1. 機械構造用鋼の一部もしくは全体を焼入焼戻し処理方法により58HRC以上を得る機械部品の製造方法において、通常のAlに加えてCaを含む脱酸剤を添加して脱酸された該機械構造用鋼が鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で塑性加工を受けた後、焼入焼戻しを行なう前に、該機械構造用鋼を780〜1100℃に加熱し80MPa以上の静水圧を付与することにより該鋼中に含有する粒状に制御され、その周囲に均一な静水圧が付与できるようにした非金属介在物と母相である鋼との界面を密着する処理を行なうことを特徴とする転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法。
  2. 鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で受ける塑性加工は、複数回からなり該複数回の中の最後の塑性加工が熱間塑性加工であることを特徴とする請求項1に記載の転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法。
  3. 鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で受ける塑性加工は、複数回からなり該複数回の中の最後の塑性加工が温間塑性加工であることを特徴とする請求項1に記載の転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法。
  4. 鋼材形状を得るための工程あるいはその後の機械部品形状を得るための工程で受ける塑性加工は、複数回からなり該複数回の中の最後の塑性加工が冷間塑性加工であることを特徴とする請求項1に記載の転動疲労寿命に優れた機械部品の製造方法。
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