以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明の一実施の形態に係る色素は、色素増感型の光電変換素子に用いられるもの(光電変換素子用)であり、化学式(1)で表されるシアニン構造を有するもの(以下、化学式(1)に示したシアニン化合物という。)である。化学式(1)に示したシアニン化合物は、例えば、金属酸化物半導体材料などを含む担持体に対して吸着性(結合性)を有すると共に、光を吸収して励起され、電子をその担持体に対して注入することができる化合物である。
なお、化学式(1)では、シアニン化合物が、メチン鎖骨格(Q)とその両端に導入された複素環骨格(R1,R2)中の2つの窒素原子との間で共鳴構造をとっていることを表している。よって、化学式(1)では、R1の複素環骨格中に含まれる窒素原子が正に帯電した状態(N+ )の構造式を表しているが、化学式(1)に示したシアニン化合物は、この構造式で表される構造に限定されるものではない。例えば、化学式(1)中のR2の複素環骨格中に含まれる窒素原子が正に帯電した状態になっていてもよい。この場合、R2の複素環骨格中に含まれる窒素原子とその窒素原子のQ側に隣り合った炭素原子との間に二重結合を形成するように、メチン鎖骨格中の炭素原子間の結合、およびR1の複素環骨格中に含まれる窒素原子とその窒素原子のQ側に隣り合った炭素原子との結合において、二重結合および単結合が交互になる構造式で表される共鳴構造をとっていてもよい。また、共鳴構造を有するように他の構造式で表されるものであってもよい。このことは、後述する化学式等においても同様である。
(R1は化学式(2)〜化学式(6)で表される基のうちのいずれか1つであり、R2は化学式(7)〜化学式(10)で表される基のうちのいずれか1つである。Qは炭素原子数1以上7以下のメチン鎖を骨格とする連結基である。Z
p-はp価のアニオンであり、pは1あるいは2であり、qは電荷を中性に保つ係数である。)
(R10〜R13は各々独立に水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基あるいはハロゲン原子、またはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体であり、R10およびR11のうちの少なくとも一方とR12およびR13のうちの少なくとも一方とはそれぞれ脱離して二重結合を形成してもよいし、それぞれ連結して環構造を形成してもよい。R14はアルキレン基である。Xは−C(R15)(R16)−で表される基、−N(R17)−で表される基、硫黄原子、酸素原子、セレン原子あるいはテルル原子である。R15〜R17は各々独立に水素原子あるいは化学式(11)で表される基、または化学式(11)に示した基に該当するものを除く、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体である。Y1はカルボン酸基(−C(=O)−OH)あるいはカルボン酸イオン基(−C(=O)−O
- )である。)
(R18〜R23およびR25〜R30は各々独立に水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基あるいはハロゲン原子、またはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体である。R24およびR31はアルキレン基である。Y2およびY3はカルボン酸基あるいはカルボン酸イオン基である。)
(R32〜R35およびR37〜R40は各々独立に水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基あるいはハロゲン原子、またはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体である。R36およびR41はアルキレン基である。Y4およびY5はカルボン酸基あるいはカルボン酸イオン基である。)
(R42〜R65は各々独立に水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基あるいはハロゲン原子、またはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体である。)
(L1とT1との間の結合は二重結合あるいは三重結合であり、L1は炭素原子を表し、T1は炭素原子、酸素原子あるいは窒素原子を表し、x、yおよびzは各々独立に0または1である(ただし、T1が酸素原子である場合にはxおよびyは0であり、T1が窒素原子の場合には(y+z)は0あるいは1である。)。R66〜R68は各々独立に水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基あるいは炭素原子数1以上4以下のハロゲン化アルキル基であり、R69は水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上4以下のハロゲン化アルキル基あるいは炭素原子数1以上4以下のハロゲン化アルコキシ基であり、R66とR69、R67とR68とはそれぞれ連結して環構造を形成してもよい。nは0以上4以下の整数である。)
化学式(1)に示したシアニン化合物は、R1,R2およびそれらR1,R2の間を連結するメチン鎖骨格(Q)を有する構造部と、この構造部に応じて含まれるアニオン(Zp-)とにより構成されている。この化学式(1)に示したシアニン化合物では、発色団であるメチン鎖骨格(Q)の炭素原子数が1以上7以下の範囲内であるため、シアニン化合物の光吸収ピーク波長が紫外光域から近赤外光域の間にあることになる。この光吸収ピークは、R1およびR2のうちの少なくとも一方がキノリン骨格あるいはピリジン骨格を含むことによって分子全体としてのπ共役が広がるため、キノリン骨格およびピリジン骨格を持たないシアニン化合物の光吸収ピークよりも、ピーク強度が確保された状態でブロード化する。すなわち、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有することにより、化学式(1)に示したシアニン化合物の光吸収波長域の幅は、キノリン骨格等をもたないシアニン化合物の光吸収波長域の幅よりも広くなる。しかも、R1中の複素環骨格の窒素原子に導入されている、カルボン酸基あるいはカルボン酸イオン基を有するアルキル鎖は担持体との結合に寄与するアンカー基として機能する。これにより、担持体に担持された状態で光を吸収して励起されると、担持体に対して効率よく電子が注入される。これらによって、化学式(1)に示したシアニン化合物では、担持体に担持された状態で紫外光域、可視光域および近赤外光域の成分を含む光が照射されると、そのうちの広い波長域の光成分を吸収して励起されて担持体に対して効率よく電子を注入する。従って、色素として化学式(1)に示したシアニン化合物を用いた光電変換素子では、照射された光量に対して担持体への電子注入量の割合が高くなり、変換効率が向上する。なお、化学式(1)に示したシアニン化合物では、化学式(1)中に示した構造を有していれば、その鏡像異性体や、ジアステレオマーまたはそれらの混合物であっても同様の効果が得られる。また、上記した「アンカー基」とは、化合物を担持するための担持体に対して、化学的あるいは静電的な親和力および結合能を有する基のことをいう。このアンカー基は、化学式(1)中のR1に含まれる複素環骨格の窒素原子に導入されていれば、その他にも化学式(1)に示したシアニン構造中に含まれていてもよい。
次に、化学式(1)に示したシアニン化合物の構成について詳細に説明する。
化学式(1)中で説明したR1は、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環骨格を有するものである。このR1は、化学式(2)に示した5員環骨格を有する基、化学式(3)に示したキノリン骨格の2位の位置でQの末端と単結合する基、化学式(4)に示したキノリン骨格の4位の位置でQの末端と単結合する基、化学式(5)に示したピリジン骨格の2位の位置でQの末端と単結合する基、あるいは化学式(6)に示したピリジン骨格の4位の位置でQの末端と単結合する基のいずれかである。
まず、化学式(2)に示した基について説明する。化学式(2)中で説明したR10〜R13は、5員環に含まれる炭素原子に導入される基である。R10〜R13の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。R10〜R13がハロゲン原子である場合には、そのハロゲン原子の種類としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子あるいはヨウ素原子などが挙げられる。また、R10〜R13がアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体である場合には、その骨格を構成する炭素原子数も任意である。この場合におけるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体としては、例えば次のものが挙げられる。すなわち、アルキル基およびその誘導体としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第2ブチル基、第3ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、第3ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、第3オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、ドコシル基あるいはテトラコシル基などの炭素原子数1〜25のアルキル基や、それらのハロゲン化された基や、それらの基に対して、フェニル基などの芳香族環基、チオフェン基などの複素環基、アセチル基などのアシル基あるいはカルボン酸基などの酸性基が導入された基などが挙げられる。アルコキシ基およびその誘導体としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、第2ブチルオキシ基、第3ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、アミルオキシ基、イソアミルオキシ基、第3アミルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、シクロヘキシルエチルオキシ基、ヘプチルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、第3ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、第3オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、イソノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基あるいはドコシルオキシ基などの炭素原子数1〜20のアルコキシ基や、それらのハロゲン化された基や、それらの基に対して、フェニル基などの芳香族環基、チオフェン基などの複素環基、アセチル基などのアシル基あるいはカルボン酸基などの酸性基が導入された基などが挙げられる。アリール基およびその誘導体としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセン−1−イル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、ピセニル基あるいはペリレニル基などの炭素原子数6〜30のアリール基や、それらのハロゲン化された基や、それらの基に対してメチル基などのアルキル基、メトキシ基などのアルコキシ基、フェニル基などの芳香族環基、チオフェン基などの複素環基、アセチル基などのアシル基あるいはカルボン酸基などの酸性基が導入された基などが挙げられる。アリールアルキル基およびその誘導体としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、2−フェニルプロパン基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、スチリル基、シンナミル基、ナフチルメチル基あるいはビフェニルメチル基などの炭素原子数7〜30のアリールアルキル基や、それらのハロゲン化された基や、それらの基に対してメチル基などのアルキル基、メトキシ基などのアルコキシ基、フェニル基などの芳香族環基、チオフェン基などの複素環基、アセチル基などのアシル基あるいはカルボン酸基などの酸性基が導入された基などが挙げられる。
中でも、化学式(2)中のR10〜R13のうちの少なくとも1つは、炭素原子数1以上25以下のアルキル基、炭素原子数1以上20以下のアルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体であるのが好ましい。一般的なシアニン化合物(メチン鎖骨格の両端に複素環骨格が結合した構造を含む化合物)では、そのメチン鎖骨格および複素環骨格を構成する炭素原子およびヘテロ原子が平面上に並んだような構造、いわゆる平面性が高い構造になりやすい。分子構造の平面性が高くなると分子同士が重なり合うように会合してダイマーなどの会合体を形成しやすくなる。会合体を形成した色素は、担持体に担持されても電子注入効率が低くなるため、光電変換に寄与しにくくなる。ところが、複素環骨格が含む炭素原子に導入されるR10〜R13は、その炭素原子間において二重結合が形成されていなければ、メチン鎖骨格および複素環骨格を含む平面に対して上面側および下面側の双方の空間に張り出すように配置されることになる。このため、R10〜R13のうちのいずれか1つとして上記した基が導入されると、分子全体として平面性が低くなり、分子同士が会合しにくくなる。よって、光電変換素子に用いた場合に、担持された色素全体における光電変換に寄与しにくい会合体の割合を低下させるため、高い変換効率が得られる。特に、R10〜R13のうちの少なくとも1つは、炭素原子数6以上25以下のアルキル基、炭素数5以上20以下のアルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体などの立体的に嵩高い基であることが好ましい。より会合体の形成が抑制され、高い効果が得られるからである。
ただし、化学式(2)中にも説明したように、R10およびR11のうちの少なくとも一方とR12およびR13のうちの少なくとも一方とは、脱離して二重結合を形成してもよいし、それぞれ連結して環構造を形成してもよい。もちろん、R10およびR11のうちの一方とR12およびR13のうちの一方とが脱離して二重結合を形成すると共に脱離していないR10およびR11のうちの他方とR12およびR13のうちの他方とが連結して環構造を形成してもよい。このように連結して形成される環構造としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナンスレン環、シクロヘキサン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキセン環、シクロへブタン環、ピペリジン環、ピベラジン環、ピロリジン環、モルフォリン環、チオモルフォリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、イミダゾール環、オキサゾール環あるいはイミダゾリジン環などが挙げられる。この環構造は、これらの他、上記した複数の環構造がさらに縮合した構造でもよいし、さらに1種あるいは2種以上の置換基を有するそれらの誘導体であってもよい。中でも、R10〜R13において連結して形成される場合の環構造としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナンスレン環あるいはそれらの誘導体が好ましい。それら以外の環構造が形成された場合と比較して、担持体に対する電子注入効率が高くなりやすいからである。
化学式(2)中で説明した−R14−Y1で表される基は、上記したように担持体に対して化学的あるいは静電的な親和力および結合能を化合物に付与するアンカー基である。これにより、担持体に担持されると共に担持体に対して効率よく電子が注入される。R14は、アルキレン基であればその構造や炭素原子数は任意である。R14がアルキレン基であるのは、アリーレン基などの他の2価の基と比較して、アンカー基としての担持体に対する吸着能あるいは電子注入能が高まるからである。また、Y1がカルボン酸基あるいはカルボン酸イオン基であるのは、担持体に対する吸着能および電子注入能がスルホン酸基などの酸性基と比較して高いからである。中でも、R14はエチレン基であることが好ましい。すなわち、−R14−Y1で表される基は、−CH2 −CH2 −C(=O)−OHで表される基あるいは−CH2 −CH2 −C(=O)−O- で表される基であるのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
化学式(2)中で説明したXは、上記した2価の基のうちのいずれかであれば任意である。Xが、炭素原子を含む2価の基(−C(R15)(R16)−)、あるいは窒素原子を含む2価の基(−N(R17)−)である場合には、そのR15〜R17の具体例としては、例えば、水素原子の他、化学式(11)に示した基に該当するものを除く、上記したR10〜R13において説明したアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはその誘導体と同様のものが挙げられる。
また、化学式(2)中のR15〜R17は、化学式(11)に示した基であってもよい。化学式(11)中で説明したハロゲン原子としては、化学式(2)中で説明したハロゲン原子と同様のものが挙げられる。化学式(11)に示した基としては、例えば、ビニル基(−CH=CH2 )、アリル基(−CH2 −CH=CH2 )、1−プロペニル基(−CH=CH−CH3 )、イソプロペニル基(−C(CH3 )=CH2 )、1−ブテニル基(−CH=CH−CH2 −CH3 )、2−ブテニル基(−CH2 −CH=CH−CH3 )、2−メチルアリル基(−CH2 −C(CH3 )=CH2 )、2−ペンテニル基(−CH2 −CH=CH−CH2 −CH3 )、エチニル基(−C≡CH)、2−プロピニル基(−CH2 −C≡CH)、1−プロピニル基(−C≡C−CH3 )、2−ブチニル基(−CH2 −C≡C−CH3 )あるいは3−ブチニル基(−CH2 −CH2 −C≡CH)などの不飽和鎖式炭化水素基や、フォルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基あるいはヘキサノイル基などのアシル基または炭素原子数1以上4以下のアルキル鎖の末端にそれらのアシル基を有する基や、カルボン酸エステル結合(−C(=O)−O−)を有する基や、C=N結合を有する基や、シアノ基あるいは炭素原子数1以上4以下のアルキル鎖の末端にシアノ基を有する基などが挙げられる。また、R66とR69、あるいはR67とR68とが連結して環構造を形成した場合の化学式(11)に示した基としては、例えば、シクロヘキセニル基あるいはフェニチル基や、化学式(11−1)で表されるベンジル基や、化学式(11−2)で表されるトリルメチル基(メチルベンジル基)や、その他、化学式(11−3)〜化学式(11−7)で表される基などが挙げられる。なお、これらの基が有する水素原子の一部あるいは全部はハロゲン原子に置換されていてもよい。
化学式(2)中のXは、中でも、−C(R15)(R16)−あるいは−N(R17)−で表される基であるのが好ましい。分子全体として平面性が低くなるため、会合体の形成が抑制され、変換効率の向上に寄与しやすくなるからである。この場合には、特に、R15〜R17は、分子全体の立体的サイズが大きくなるように、上記のような立体的に嵩高い基であるのが好ましい。平面性がより低くなるため、より高い効果が得られるからである。特に、Xは−C(R15)(R16)−で表される基であることが好ましい。これにより、R15,R16がメチン鎖骨格および複素環骨格を含む平面に対して上面側および下面側の双方の空間に張り出すように配置されることになるため、分子全体としての平面性が低くなり、分子同士が会合しにくくなることによって変換効率の向上により寄与する。この場合のR15,R16のうちの少なくとも一方は、立体的に嵩高いことから、中でも、炭素原子数6以上25以下のアルキル基あるいは化学式(11)に示した基であることが好ましい。分子全体としての平面性がさらに低くなり、高い会合抑制作用が得られるからである。この場合の化学式(11)に示した基は、ベンジル基が好ましい。さらに、この場合のR15,R16は、双方が嵩高い基であることが好ましい。より高い会合抑制効果が得られるからである。
次に、化学式(3)〜化学式(6)に示した基について説明する。化学式(3)〜化学式(6)中のR18〜R23,R25〜R30,R32〜R35およびR37〜R40の具体例としては、例えば、上記した化学式(2)のR10〜R13と同様のものが挙げられる。また、化学式(3)〜化学式(6)中の−R24−Y2で表される基,−R31−Y3で表される基,−R36−Y4で表される基および−R41−Y5で表される基も、化学式(2)中の−R14−Y1と同様にアンカー基であり、それらの具体例や好ましい構造等も化学式(2)中の−R14−Y1と同様である。化学式(3)〜化学式(6)では、キノリン骨格あるいはピリジン骨格に電子供与性の置換基が導入されていることが好ましい。すなわち、R18〜R23のうちの少なくとも1つ、R25〜R30のうちの少なくとも1つ、R32〜R35のうちの少なくとも1つ、およびR37〜R40のうちの少なくとも1つが電子供与性基である、あるいは電子供与性基を含むことが好ましい。アンカー基中のY2〜Y5は電子吸引性であるため、キノリン骨格あるいはピリジン骨格に電子供与性の置換基が導入されていると、担持体への電子注入効率が向上しやすいからである。
以上説明したR1は、特に、化学式(2)に示した基の中でも化学式(2−1)で表される基であることが好ましい。化学式(2−1)中のR15,R16のうちの少なくとも一方がベンジル基あるいはアルキル基であるため、高い会合抑制作用が得られるからである。その上、環Aとしてベンゼン環等を有するため、環Aを持たない化学式(2)に示した基である場合と比較して、シアニン化合物の分子全体としてのπ共役が広がりやすいからである。
(R14はアルキレン基である。R15,R16は各々独立に水素原子あるいは上記した化学式(11)に示した基、または化学式(11)に示した基に該当するものを除く、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基あるいはそれらの誘導体である。ただし、R15およびR16のうちの少なくとも一方はベンジル基あるいはアルキル基である。Y1はカルボン酸基(−C(=O)−OH)あるいはカルボン酸イオン基(−C(=O)−O
- )である。環Aはベンゼン環、ナフタレン環、フェナンスレン環あるいはそれらの誘導体である。)
化学式(2−1)中で説明した−R14−Y1で表される基は、化学式(2)中の−R14−Y1と同様にアンカー基であり、それらの具体例や好ましい構造等も化学式(2)中の−R14−Y1と同様である。R15,R16の、アルキル基およびベンジル基である場合を除く具体例としては、上記した化学式(2)中のR15,R16と同様のものが挙げられる。中でも、R15,R16のうちの少なくとも一方がアルキル基である場合の炭素原子数は5以上であることが好ましい。より高い会合抑制作用が得られるからである。環Aは、ベンゼン環、ナフタレン環あるいはフェナンスレン環の骨格を有していれば任意であり、1あるいは2以上の置換基を有していてもよい。環Aがナフタレン環あるいはフェナンスレン環である場合には、その環が5員複素環と縮合する位置も任意である。環Aに導入される置換基は任意であり、例えば、メチル基、エチル基あるいはブチル基などのアルキル基、メトキシ基あるいはエトキシ基などのアルコキシ基、フェニル基などのアリール基、ベンジル基などのフェニルアルキル基またはそれらの誘導体などが挙げられる。中でも、環Aは、ベンゼン環、ナフタレン環あるいはフェナンスレン環に電子供与性の置換基が導入されたものであることが好ましい。アンカー基中のY1は電子吸引性であるため、環A中に電子供与性の置換基を有していると、担持体への電子注入効率が向上しやすいからである。
次に、化学式(1)中のR2について説明する。R2は、化学式(7)に示したキノリン骨格の2位の位置でQの末端と二重結合する基、化学式(8)に示したキノリン骨格の4位の位置でQの末端と二重結合する基、化学式(9)に示したピリジン骨格の2位の位置でQの末端と二重結合する基、あるいは化学式(10)に示したピリジン骨格の4位の位置でQの末端と二重結合する基のいずれかである。
化学式(7)〜化学式(10)中のR42〜R65の具体例としては、例えば、上記した化学式(2)中のR10〜R13の具体例と同様のものや、その他にカルボン酸基あるいはスルホン酸基などの酸性基を有するアンカー基などが挙げられる。中でも、R42〜R65は、電子供与性の置換基であることが好ましい。発色団であるメチン鎖骨格(Q)に対して、アンカー基を有するR1が電子を吸引するため、R2が電子を供与するように機能すると、シアニン化合物内での電子の授受が良好となり、その結果、担持体への電子注入効率が高まるからである。中でも、キノリン骨格あるいはピリジン骨格中の窒素原子に導入されている基が電子供与性のアルキル基であること、すなわち、R48,R53,R60,R63がアルキル基であることが好ましい。シアニン化合物内での電子の授受がより良好となり、担持体への電子注入効率が高まるからである。
次に、化学式(1)中のQについて説明する。Qは、炭素原子数1以上7以下のメチン鎖(モノメチン〜へプタメチン)を骨格とする連結基であり、そのうちのメチン鎖の炭素原子数が奇数のものである。すなわち、Qは、その炭素骨格として、−C=、−C=C−C=、−C=C−C=C−C=、あるいは−C=C−C=C−C=C−C=を有するものである。ちなみに、化学式(1)に示したシアニン化合物がその共鳴構造体である場合には、例えばQの炭素骨格は、=C−、=C−C=C−、=C−C=C−C=C−、あるいは=C−C=C−C=C−C=C−となる。メチン鎖の炭素原子数が1以上7以下であるのは、上記したように紫外光から近赤外光までの広い範囲における光の吸収が良好となるからである。Qとしては、例えば、−CH=、−CH=CH−CH=、−CH=CH−CH=CH−CH=、あるいは−CH=CH−CH=CH−CH=CH−CH=が挙げられる。また、Qは、さらに1種あるいは2種以上の置換基を有していてもよいし、その置換基が互いに結合して環構造を形成していてもよい。Qに導入される置換基としては、例えば、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン基、アルキル基あるいはアルケニル基などが挙げられる。Qのうち、環構造をもつ連結基としては、例えば、化学式(12−1)〜化学式(12−8)で表される連結基などが挙げられる。なお、化学式(12−1)〜化学式(12−8)に示した連結基は、さらに1あるいは複数の置換基が導入されていてもよい。また、Qにおいて置換基が導入される場合には、メチン鎖骨格の中心となる炭素原子に置換基が導入されていることが好ましい。分子全体としての電荷の偏りのバランスが良好となり、担持体に対する電子注入効率が高まりやすいからである。
化学式(1)中のQは、中でも、メチン鎖骨格を構成する炭素原子に対して1あるいは2以上のシアノ基が導入されていることが好ましい。R1中のアンカー基が担持体に吸着した状態では、Qがシアノ基を有していると、そのシアノ基と担持体との物理的な距離が近くなる。これにより、メチン鎖に導入されたシアノ基の非共有電子対と担持体との間で相互作用して、シアニン化合物から担持体への電子注入時の抵抗が減少する。これによって、光電変換素子に用いた場合に、IV特性(電流電圧特性)の形状因子(FF;Fill Factor)が向上し、変換効率の向上に寄与すると考えられる。また、この他にも、Qがシアノ基を有していると、担持体に対する定着性が高くなるため、変換効率の向上に寄与する。Qがシアノ基を有する場合には、メチン鎖骨格の中心となる炭素原子に導入されていることが好ましい。また、その場合のメチン鎖骨格の炭素原子数は、合成しやすいことから5(ペンタメチン)であることが好ましい。
化学式(1)中のZp-について説明する。Zp-は、化学式(1)に示したシアニン化合物全体の電荷を中性に保つためのカウンターアニオンであり、1価あるいは2価のアニオンであれば任意である。p=1の場合のアニオン(1価のアニオン;Z- )としては、例えば、フッ化物イオン(F- )、塩化物イオン(Cl- )、臭化物イオン(Br- )あるいはヨウ化物イオン(I- )などのハロゲン化物イオンや、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6 -)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF6 -)、過塩素酸イオン(ClO4 -)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4 -)、塩素酸イオンあるいはチオシアン酸イオンなどの無機系陰イオンや、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン、2−アミノ−4−メチル−5−クロロベンゼンスルホン酸イオン、2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、N−アルキルジフェニルアミン−4−スルホン酸イオンあるいはN−アリールジフェニルアミン−4−スルホン酸イオンなどの有機スルホン酸系陰イオンや、オクチルリン酸イオン、ドデシルリン酸イオン、オクタデシルリン酸イオン、フェニルリン酸イオン、ノニルフェニルリン酸イオンあるいは2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホン酸イオンなどの有機リン酸系陰イオンや、その他にビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオン、ビスパーフルオロブタンスルホニルイミドイオン、パーフルオロ−4−エチルシクロヘキサンスルホン酸イオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンあるいはトリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボアニオンなどが挙げられる。また、p=2の場合のアニオン(2価のアニオン;Z2-)としては、例えば、硫酸イオン(SO4 2- )、ベンゼンジスルホン酸イオンあるいはナフタレンジスルホン酸イオンなどが挙げられる。また、化学式(1)中で説明したqは、化学式(1)に示したシアニン化合物全体として電荷を中性に保つ係数であり、0であってもよい。q=0の場合には、例えば、R1中のY1(あるいはY2〜Y5)がカルボン酸イオン基であることとなり、分子内で塩を形成していわゆる内部塩となる。また、q=1の場合には、Zp-が1価のアニオンであるZ- となり、化合物全体の電荷を中性に保つように塩を形成する。また、Zp-が2価のアニオンであるZ2-の場合には、q=1/2となる。すなわち、ここでのqは0、1あるいは1/2である。
上記した化学式(1)に示したシアニン化合物としては、化学式(1−1)〜化学式(1−303)で表される構造部を有する化合物などが挙げられる。なお、以下の化学式中において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表している。また、以下の化学式(1−1)〜化学式(1−303)に示した構造部は、化学式(1)中のZp-を含まない部分(カチオン部分)を表しており、これらの構造では、例えば、上記した1価あるいは2価のアニオンであれば、任意に組み合わせることが可能であり、その他のアニオンであっても同様である。さらに、これらの構造部では、例えば、カルボン酸基などの酸性基がイオン化して内部塩を形成することもできる。
なお、化学式(1)に示したシアニン構造を有する化合物であれば、化学式(1−1)〜化学式(1−303)に示した構造部を含む化合物に限定されない。
以上に説明した化学式(1)に示したシアニン化合物では、R1は化学式(2)〜化学式(4)のうちのいずれか1つに示した基であることが好ましい。R2が化学式(9)あるいは化学式(10)に示した基である場合に、R1が化学式(2)〜化学式(4)のうちのいずれか1つに示した基である化合物では、R1が化学式(5)あるいは化学式(6)に示した基である化合物よりも、光吸収波長域が広くなるからである。また、化学式(1)に示したシアニン化合物では、Qが炭素原子数3のメチン鎖を骨格とする連結基の場合、R2は化学式(7)または化学式(8)に示した基であることが好ましい。この場合のR2が化学式(9)または化学式(10)に示した基であるシアニン化合物よりも、変換効率の向上に寄与するからである。
次に、化学式(1)に示したシアニン化合物の合成方法について、化学反応式(I)〜化学反応式(III)を参照して説明する。上記した化学式(1)に示したシアニン化合物は、例えば、以下の3つの方法により合成することができる。
第1の合成方法では、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子数が1の化合物を合成する。具体的には、化学反応式(I)に示したように、脱離基R100を有する化学式(13)で表される化合物と、のちにモノメチンの炭素骨格を構成する炭素原子(R70が結合した炭素原子)を有する化学式(14)で表される化合物とを、必要に応じてカウンターアニオンとなる所定量のZp-を加え、塩基(Base)存在下で反応させる。これにより、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子数が1のシアニン化合物(化学式(1A))が合成される。
(R70は水素原子あるいは1価の置換基であり、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子に導入される水素原子あるいは置換基に相当するものである。R100はチオアルキル基あるいはハロゲン原子などの脱離基である。R101およびR102は上記した化学式(2)〜化学式(6)に示した基あるいは化学式(7A)〜化学式(10A)で表される基である。ただし、R101およびR102のうちの一方が化学式(2)〜化学式(6)に示した基のうちのいずれか1種であり、他方が化学式(7A)〜化学式(10A)に示した基のうちのいずれか1種である。R1,R2,Z
p-およびqは化学式(1)中のR1,R2,Z
p-およびqと同様である。)
(R42〜R65は上記した化学式(7)〜化学式(10)中のR42〜R65と同様である。)
第2の合成方法では、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子数が3以上であり、かつR1およびR2の構造が非対称である化合物を合成する。具体的には、化学反応式(II)に示したように、脱離基(−NH−C6 H5 )を有する化学式(15)で表される化合物と、のちにメチン鎖の炭素骨格を構成する炭素原子のうち末端の炭素原子(R72が結合した炭素原子)を有する化学式(16)で表される化合物とを、必要に応じてカウンターアニオンとなる所定量のZp-を加え、塩基(Base)の存在下で反応させる。これにより化学式(1)に示したシアニン化合物のうち、Qに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子数が3以上でありかつR1およびR2が非対称の構造であるシアニン化合物(化学式(1B))が合成される。なお、R1およびR2が非対称であるシアニン化合物は、R1とR2とが以下の組み合わせである場合を除く、構造を有する化合物のことである。その除かれる組み合わせは、R1が化学式(3)に示した基であると共にR2が化学式(7)に示した基である場合、R1が化学式(4)に示した基であると共にR2が化学式(8)に示した基である場合、R1が化学式(5)に示した基であると共にR2が化学式(9)に示した基である場合、およびR1が化学式(6)に示した基であると共にR2が化学式(10)に示した基である場合である。
(R71,R72は水素原子あるいは1価の置換基であり、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子のうち両末端の炭素原子に結合する水素原子あるいは置換基に相当するものである。R101およびR102は上記した化学式(2)〜化学式(6)に示した基あるいは化学式(7A)〜化学式(10A)に示した基である。ただし、R101およびR102のうちの一方が化学式(2)〜化学式(6)に示した基のうちのいずれか1種であり、他方が化学式(7A)〜化学式(10A)に示した基のうちのいずれか1種である。Q1は炭素原子数1以上5以下のメチン鎖を骨格とする連結基である。R1,R2,Z
p-およびqは化学式(1)中のR1,R2,Z
p-およびqと同様である。)
第3の合成方法では、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子数が3以上であり、かつR1およびR2の構造が対称である化合物を合成する。具体的には、化学反応式(III)に示したように、のちにメチン鎖の炭素骨格を構成する炭素原子のうち末端の炭素原子(R73が結合した炭素原子)を有する化学式(17)で表される化合物と、ブリッジ剤としての化学式(18)で表される化合物とを、必要に応じてカウンターアニオンとなる所定量のZp-を加え、塩基(Base)存在下で反応させる。これにより化学式(1)に示したシアニン化合物のうち、Qに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子数が3以上でありかつR1およびR2が対称の構造であるシアニン化合物(化学式(1C))が合成される。化学反応式(III)において、ブリッジ剤として用いた化学式(18)に示した化合物としては、例えば、化学式(18−1)〜化学式(18−4)で表される化合物が挙げられ、その他のブリッジ剤としては、例えば化学式(18−5)〜化学式(18−7)で表される化合物が挙げられる。
(R73は水素原子あるいは1価の置換基であり、化学式(1)中のQに含まれるメチン鎖骨格の炭素原子のうち両末端の炭素原子に結合する水素原子あるいは置換基に相当するものである。R103は上記した化学式(3)〜化学式(6)に示した基である。R104は、化学式(3)〜化学式(6)に示した基であり、R105は化学式(7)〜化学式(10)に示した基である。ただし、R104が化学式(3)に示した基である場合のR105は化学式(7)に示した基であり、R104が化学式(4)に示した基である場合のR105は化学式(8)に示した基であり、R104が化学式(5)に示した基である場合のR105は化学式(9)に示した基であり、R104が化学式(6)に示した基である場合のR105は化学式(10)に示した基である。Q2は炭素原子数1以上5以下のメチン鎖を骨格とする連結基である。Z
p-およびqは化学式(1)中のZ
p-およびqと同様である。)
(R74〜R88は水素原子あるいは1価の置換基である。)
本実施の形態に係る光電変換素子用色素では、化学式(1)に示したシアニン構造を有するので、その構造をもたない色素(例えば、メチン鎖の両端に5員複素環骨格が結合したシアニン化合物)と比較して、紫外光域から近赤外光域のうちの広い波長域の光を吸収して励起され、その上、担持体に担持された状態において、その担持体に対して効率よく電子を注入することができる。よって、光電変換素子に用いれば、照射された光量に対して色素から担持体への電子注入量が高くなり、IPCE(Incident Photons to Current conversion Efficiency)が向上し、変換効率を向上させることができる。なお、IPCEとは、光電変換素子において照射した光の光子数に対する光電流の電子数への変換された割合を表すものであり、IPCE(%)=Isc×1240/λ×1/φ(式中、Iscは短絡電流であり、λは波長であり、φは入射光強度である。)により求められる。
この場合には、化学式(1)中のR1が化学式(2−1)で表される基であることが好ましい。これにより、化学式(2−1)中のR15およびR16の少なくとも一方として導入されるベンジル基あるいはアルキル基が、メチン鎖骨格および複素環骨格を含む平面に対して上面側および下面側の双方の空間に張り出すように配置されるため、分子全体として平面性が低くなり、会合しにくくなる。よって、光電変換素子に用いた場合に、より変換効率を向上させることができる。
また、化学式(1)中のQは炭素原子数3のメチン鎖を骨格とする連結基であると共にR2は化学式(7)または化学式(8)に示した基であることが好ましい。光吸収波長域がより広くなると共に担持体への電子注入効率がより高くなるため、光電変換素子に用いた場合に、より変換効率を向上させることができる。
次に、本実施の形態に係る光電変換素子用色素の使用例について説明する。
図1は、光電変換素子の断面構成を模式的に表すものであり、図2は、図1に示した光電変換素子の主要部を抜粋および拡大して表すものである。図1および図2に示した光電変換素子は、いわゆる色素増感型太陽電池の主要部である。この光電変換素子は、作用電極10と対向電極20とが電解質含有層30を介して対向配置されたものであり、作用電極10および対向電極20のうちの少なくとも一方は、光透過性を有する電極である。
作用電極10は、例えば、導電性基板11と、その一方の面(対向電極20の側の面)に設けられた金属酸化物半導体層12と、金属酸化物半導体層12を担持体として担持された色素13とを有している。作用電極10は、外部回路に対して、負極として機能するものである。導電性基板11は、例えば、絶縁性の基板11Aの表面に導電層11Bを設けたものである。
基板11Aの材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、透明ポリマーフィルムなどの絶縁性材料が挙げられる。透明ポリマーフィルムとしては、例えば、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィンあるいはブロム化フェノキシなどが挙げられる。
導電層11Bとしては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)あるいは酸化スズにフッ素をドープしたもの(FTO:F−SnO2 )などを含む導電性金属酸化物薄膜や、金(Au)、銀(Ag)あるいは白金(Pt)などを含む金属薄膜や、導電性高分子などで形成されたものなどが挙げられる。
なお、導電性基板11は、例えば、導電性を有する材料によって単層構造となるように構成されていてもよく、その場合、導電性基板11の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物あるいは酸化スズにフッ素をドープしたものなどの導電性金属酸化物や、金、銀あるいは白金などの金属や、導電性高分子などが挙げられる。
金属酸化物半導体層12は、色素13を担持する担持体であり、例えば、図2に示したように多孔質構造を有している。金属酸化物半導体層12は、緻密層12Aと多孔質層12Bとから形成されている。緻密層12Aは、導電性基板11との界面において形成され、緻密で空隙の少ないものであることが好ましく、膜状であることがより好ましい。多孔質層12Bは、電解質含有層30と接する表面において形成され、空隙が多く、表面積の大きな構造であることが好ましく、特に、多孔質の微粒子が付着している構造であることがより好ましい。なお、金属酸化物半導体層12は、例えば、膜状の単層構造となるように形成されていてもよい。
金属酸化物半導体層12に含まれる材料(金属酸化物半導体材料)としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウムあるいは酸化マグネシウムなどが挙げられる。中でも、金属酸化物半導体材料としては、酸化亜鉛が好ましい。高い変換効率が得られるからである。また、これらの金属酸化物半導体材料は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を複合(混合、混晶、固溶体など)させて用いてもよく、例えば、酸化亜鉛と酸化スズ、酸化チタンと酸化ニオブなどの組み合わせで使用することもできる。
多孔質構造を有する金属酸化物半導体層12の形成方法としては、例えば、電解析出法や、塗布法や、焼成法などが挙げられる。電解析出法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、金属酸化物半導体材料の微粒子を含む電解浴液中において、導電性基板11の導電層11B上にその微粒子を付着させると共に金属酸化物半導体材料を析出させる。塗布法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、金属酸化物半導体材料の微粒子を分散させた分散液(金属酸化物スラリー)を導電性基板11の上に塗布したのち、分散液中の分散媒を除去するために乾燥させる。焼結法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、塗布法と同様にして金属酸化物スラリーを導電性基板11の上に塗布、乾燥したのち、焼成する。中でも、電解析出法あるいは塗布法により金属酸化物半導体層12を形成すれば、基板11Aとして耐熱性が低いプラスチック材料やポリマーフィルム材料を用いることができるため、フレキシブル性の高い電極を作製することができる。
色素13は、金属酸化物半導体層12に対して、例えば吸着しており、光を吸収して励起されることにより、電子を金属酸化物半導体層12へ注入することが可能な1種あるいは2種以上の色素(増感色素)を含んでいる。色素13は、この色素として上記した化学式(1)に示したシアニン化合物を含んでいる。化学式(1)に示したシアニン化合物を含むことにより、色素13全体として、照射された光量に対する金属酸化物半導体層12への電子注入量の割合が高くなるため、変換効率が向上する。
また、色素13は、化学式(1)に示したシアニン化合物の他に、他の色素を含んでいてもよい。他の色素は、金属酸化物半導体層12と化学的に結合することができるアンカー基を有する色素が好ましい。他の色素としては、例えば、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ローダミンB、ピロガロール、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB(エリスロシンは登録商標)、フルオレシン、マーキュロクロム、シアニン系色素、メロシアニンジスアゾ系色素、トリスアゾ系色素、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、インジゴ系色素、ジフェニルメタン系色素、トリメチルメタン系色素、キノリン系色素、ベンゾフェノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、フルオレノン系色素、スクワリリウム系色素、アズレニウム系色素、ペリノン系色素、キナクリドン系色素、無金属フタロシアニン系色素または無金属ポルフィリン系色素などの有機色素などが挙げられる。
また、他の色素としては、例えば、有機金属錯体化合物も挙げられ、一例としては、芳香族複素環内にある窒素アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物や、酸素アニオンもしくは硫黄アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物などが挙げられる。具体的には、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、ならびにビピリジルルテニウム錯体、ターピリジルルテニウム錯体、フェナントロリンルテニウム錯体、ビシンコニン酸ルテニウム錯体、アゾルテニウム錯体あるいはキノリノールルテニウム錯体などのルテニウム錯体などが挙げられる。
また、色素13は、上記した色素の他に、1種あるいは2種以上の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤としては、例えば、色素13中の色素の会合を抑制する会合抑制剤が挙げられ、具体的には、化学式(19)で表されるコール酸系化合物などである。これらは単独で用いもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
(R91は酸性基を有するアルキル基である。R92は化学式中のステロイド骨格を構成する炭素原子のいずれかに結合する基を表し、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、アシル基、アシルオキシ基、オキシカルボニル基、オキソ基あるいは酸性基またはそれらの誘導体であり、それらは同一であってもよいし異なっていてもよい。tは1以上5以下の整数である。化学式中のステロイド骨格を構成する炭素原子と炭素原子との間の結合は、単結合であってもよいし、二重結合であってもよい。)
対向電極20は、例えば、導電性基板21に導電層22が設けられたものであり、外部回路に対して正極として機能するものである。導電性基板21の材料としては、例えば、作用電極10の導電性基板11の材料と同様のものが挙げられる。導電層22は、1種あるいは2種以上の導電材と、必要に応じて結着材を含んで構成されている。導電層22に用いられる導電材としては、例えば、白金、金、銀、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)あるいはインジウム(In)などの金属、炭素(C)、または導電性高分子などが挙げられる。また、導電層22に用いられる結着材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、メラミン樹脂、フロロエラストマーまたはポリイミド樹脂などが挙げられる。なお、対向電極20は、例えば、導電層22の単層構造であってもよい。
電解質含有層30は、例えば、酸化還元対を有するレドックス電解質を含んで構成されている。レドックス電解質としては、例えば、I- /I3 -系、Br- /Br3 -系またはキノン/ハイドロキノン系などが挙げられる。具体的には、ヨウ化物塩とヨウ素単体とを組み合わせたもの、または臭化物塩と臭素とを組み合わせたものなどのハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたものなどである。このハロゲン化物塩としては、ハロゲン化セシウム、ハロゲン化四級アルキルアンモニウム類、ハロゲン化イミダゾリウム類、ハロゲン化チアゾリウム類、ハロゲン化オキサゾリウム類、ハロゲン化キノリニウム類あるいはハロゲン化ピリジニウム類などが挙げられる。具体的には、これらのヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化セシウムや、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラへプチルアンモニウムヨージドあるいはトリメチルフェニルアンモニウムヨージドなどの4級アルキルアンモニウムヨージド類や、3−メチルイミダゾリウムヨージドあるいは1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージドなどのイミダゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−2−チアゾリウムヨージド、3−エチル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾリウムヨージドあるいは3−エチル−2−メチルベンゾチアゾリウムヨージドなどのチアゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−ベンゾオキサゾリウムヨージドなどのオキサゾリウムヨージド類や、1−エチル−2−メチルキノリニウムヨージドなどのキノリニウムヨージド類や、ピリジニウムヨージド類などが挙げられる。また、臭化物塩としては、例えば、四級アルキルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたものの中でも、上記したヨウ化物塩のうちの少なくとも1種とヨウ素単体との組み合わせが好ましい。
また、レドックス電解質は、例えば、イオン性液体とハロゲン単体とを組み合わせたものでもよい。この場合には、さらに上記したハロゲン化物塩などを含んでいてもよい。イオン性液体としては、電池や太陽電池などにおいて使用可能なものが挙げられ、例えば、「Inorg.Chem」1996,35,p1168〜1178、「Electrochemistry」2002,2,p130〜136、特表平9−507334号公報、または特開平8−259543号公報などに開示されているものが挙げられる。中でも、イオン性液体としては、室温(25℃)より低い融点を有する塩、または室温よりも高い融点を有していても他の溶融塩などと溶解することにより室温で液状化する塩が好ましい。このイオン性液体の具体例としては、以下に示したアニオンおよびカチオンなどが挙げられる。
イオン性液体のカチオンとしては、例えば、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウム、またはそれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。具体的には、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムあるいは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムなどが挙げられる。
イオン性液体のアニオンとしては、AlCl4 -あるいはAl2 Cl7 -などの金属塩化物や、PF6 -、BF4 -、CF3 SO3 -、N(CF3 SO2 )2 -、F(HF)n -あるいはCF3 COO- などのフッ素含有物イオンや、NO3 -、CH3 COO- 、C6 H11COO- 、CH3 OSO3 -、CH3 OSO2 -、CH3 SO3 -、CH3 SO2 -、(CH3 O)2 PO2 -、N(CN)2 -あるいはSCN- などの非フッ素化合物イオンや、ヨウ化物イオンあるいは臭化物イオンなどのハロゲン化物イオンが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、このイオン性液体のアニオンとしては、ヨウ化物イオンが好ましい。
電解質含有層30には、上記したレドックス電解質を溶媒に対して溶解させた液状の電解質(電解液)を用いてもよいし、電解液を高分子物質中に保持させた固体高分子電解質を用いてもよい。また、電解液とカーボンブラックなどの粒子状の炭素材料とを混合して含む擬固体状(ペースト状)の電解質を用いてもよい。なお、炭素材料を含む擬固体状の電解質では、炭素材料が酸化還元反応を触媒する機能を有するため、電解質中にハロゲン単体を含まなくてもよい。このようなレドックス電解質は、上記したハロゲン化物塩やイオン性液体などを溶解する有機溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。この有機溶媒としては、電気化学的に不活性なものが挙げられ、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドあるいは1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
この光電変換素子では、作用電極10に担持された色素13に対して光(太陽光または、太陽光と同等の紫外光、可視光あるいは近赤外光)が照射されると、その光を吸収して励起した色素13が電子を金属酸化物半導体層12へ注入する。その電子が隣接した導電層11Bに移動したのち外部回路を経由して、対向電極20に到達する。一方、電解質含有層30では、電子の移動に伴い酸化された色素13を基底状態に戻す(還元する)ように、電解質が酸化される。この酸化された電解質が上記した電子を受け取ることによって還元される。このようにして、作用電極10および対向電極20の間における電子の移動と、これに伴う電解質含有層30における酸化還元反応とが繰り返される。これにより、連続的な電子の移動が生じ、定常的に光電変換が行われる。
この光電変換素子は、例えば、以下のように製造することができる。
まず、作用電極10を作製する。最初に、導電性基板11の導電層11Bが形成されている面に多孔質構造を有する金属酸化物半導体層12を電解析出法や焼成法により形成する。電解析出法により形成する場合には、例えば、金属酸化物半導体材料となる金属塩を含む電解浴を、酸素や空気によるバブリングを行いながら、所定の温度とし、その中に導電性基板11を浸漬し、対極との間で一定の電圧を印加する。これにより、導電層11B上に、多孔質構造を有するように金属酸化物半導体材料を析出させる。この際、対極は、電解浴中において適宜運動させるようにしてもよい。また、焼成法により形成する場合には、例えば、金属酸化物半導体材料の粉末を分散媒に分散させることにより調製した金属酸化物スラリーを導電性基板11に塗布して乾燥させたのち焼成し、多孔質構造を有するようにする。続いて、有機溶媒に上記した化学式(1)に示したシアニン化合物を含む色素13を溶解した色素溶液を調製する。この色素溶液に金属酸化物半導体層12が形成された導電性基板11を浸漬することにより、金属酸化物半導体層12に色素13を担持させる。
次に、導電性基板21の片面に導電層22を形成することにより、対向電極20を作製する。導電層22は、例えば、導電材をスパッタリングすることにより形成する。
最後に、作用電極10の色素13を担持した面と、対向電極20の導電層22を形成した面とが所定の間隔を保つと共に対向するように、封止剤などのスペーサ(図示せず)を介して貼り合わせ、例えば、電解質の注入口を除いて全体を封止する。続いて、作用電極10と対向電極20との間に、電解質を注入したのち注入口を封止することにより、電解質含有層30を形成する。これにより図1および図2に示した光電変換素子が完成する。
この光電変換素子では、色素13が化学式(1)に示したシアニン化合物を含むので、化学式(1)に示した構造をもたないシアニン化合物を用いた場合と比較して、照射された光量に対する色素13から金属酸化物半導体層12への電子注入量の割合が高くなるため、変換効率を向上させることができる。この場合、特に、金属酸化物半導体層12が酸化亜鉛を含むようにすれば、酸化亜鉛を含まない場合(酸化亜鉛に代えて酸化チタンや酸化錫を含む場合)と比較して、変換効率をより向上させることができる。
この光電変換素子における他の作用効果は、上記した光電変換素子用色素の作用効果と同様である。
なお、上記した光電変換素子では、作用電極10と対向電極20との間に電解質含有層30を設けた場合について説明したが、電解質含有層30に代えて固体電荷移動層を設けてもよい。この場合、固体電荷移動層は、例えば、固体中のキャリアー移動が電気伝導にかかわる材料を有している。この材料としては、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料などが好ましい。
正孔輸送材料としては、芳香族アミン類や、トリフェニレン誘導体類などが好ましく、例えば、オリゴチオフェン化合物、ポリピロール、ポリアセチレンあるいはその誘導体、ポリ(p−フェニレン)あるいはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)あるいはその誘導体、ポリチエニレンビニレンあるいはその誘導体、ポリチオフェンあるいはその誘導体、ポリアニリンあるいはその誘導体、ポリトルイジンあるいはその誘導体などの有機導電性高分子などが挙げられる。
また、正孔輸送材料としては、例えば、p型無機化合物半導体を用いてもよい。このp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに、2.5eV以上であることがより好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、作用電極10のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、そのイオン化ポテンシャルは、4.5eV以上5.5eV以下の範囲内であることが好ましく、さらに4.7eV以上5.3eV以下の範囲内であることがより好ましい。
p型無機化合物半導体としては、例えば、1価の銅を含む化合物半導体などが挙げられる。1価の銅を含む化合物半導体の一例としては、CuI、CuSCN、CuInSe2 、Cu(In,Ga)Se2 、CuGaSe2 、Cu2 O、CuS、CuGaS2 、CuInS2 、CuAlSe2 などがある。このほかのp型無機化合物半導体としては、例えば、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi2 O3 、MoO2 またはCr2 O3 などが挙げられる。
このような固体電荷移動層の形成方法としては、例えば、作用電極10の上に直接、固体電荷移動層を形成する方法があり、そののち対向電極20を形成付与してもよい。
有機導電性高分子を含む正孔輸送材料は、例えば、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法または光電解重合法などの手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、例えば、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法または電解メッキ法などの手法により電極内部に導入することができる。このように形成される固体電荷移動層(特に、正孔輸送材料を有するもの)の一部は、金属酸化物半導体層12の多孔質構造の隙間に部分的に浸透し、直接接触する形態となることが好ましい。
電解質含有層30に代えて固体電荷移動層を設けた光電変換素子においても、電解質含有層30を設けた場合と同様に、変換効率を向上させることができる。
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
(実験例1−1)
上記実施の形態で説明した光電変換素子用色素の具体例として、化学反応式(II−1)に示したように、化学式(1)に示したシアニン化合物である化学式(1−1)に示した構造部およびヨウ化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−1)で表される化合物0.002mol(0.80g)と、ピリジン2.36gと、無水酢酸(Ac2 O)0.008mol(0.41g)とを1時間常温で混合した。こののち、この混合物中に化学式(16−1)で表される化合物0.002mol(0.72g)を加えたのち、5時間常温で撹拌することにより、化学反応式(II−1)に示したように反応させた。
次に、反応物に対してクロロホルム30gと水30gとヨウ化ナトリウム1gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を除去することによりオイル状物質を得た。このオイル状物質にアセトン10gを加え、析出した固体をろ別後、80℃で乾燥することにより、最終生成物(化学式(1B−1)で表される化合物)0.47g(収率40%)を得た。
(実験例1−2)
化学反応式(II−2)に示したように、化学式(1−2)に示した構造部およびヨウ化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−2)で表される化合物0.003mol(1.21g)と、ピリジン3.54gと、無水酢酸0.003mol(0.31g)とを1時間常温で混合した。続いて、この混合物にクロロホルム20gを加えたのち、このクロロホルム溶液を水で液−液抽出により3回洗浄した。続いて、洗浄後のクロロホルム溶液からエバポレータで溶媒を留去することによりオイル状物質を得た。次に、このオイル状物質に、ピリジン3.54gと、トリエチルアミン(TEA)0.0045mol(0.46g)と、化学式(16−1)で表される化合物0.003mol(1.08g)とを加えたのち、この混合物を5時間常温で撹拌することにより、化学反応式(II−2)に示したように反応させた。次に、この反応物に対してクロロホルム12gと水12gとヨウ化ナトリウム0.003mol(0.45g)とを加えたのち、油液分離した。こののち、この油層を酢酸水溶液(酢酸:水=2g:25g)および水でこの順に液−液抽出により洗浄し、洗浄後の油層の溶媒(クロロホルム等)を留去した。続いて、その溶媒留去後の残留物にアセトン10gを加え、固体を析出させたのち、還流洗浄した。最後に、還流洗浄後の固体をろ別後、80℃で乾燥することにより、最終生成物(化学式(1B−2)で表される化合物)0.8g(収率45%)を得た。
(実験例1−3)
化学反応式(II−3)に示したように、化学式(1−3)に示した構造部およびヨウ化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−3)で表される化合物0.0015mol(0.61g)と、アセトニトリル(CH3 CN)1.76gと、無水酢酸0.0015mol(0.15g)とを2時間常温で混合した。こののち、この混合物中に化学式(16−2)で表される化合物0.0015mol(0.44g)を加え、55℃で3時間撹拌した。こののち、この撹拌物にエタノール(EtOH)0.5gとTEA0.1gとを加え、さらに55℃で3時間撹拌することにより、化学反応式(II−3)に示したように反応させた。次に、反応物に対してクロロホルム30gと水30gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を除去することによりオイル状物質を得た。このオイル状物質をシリカゲルクロマトグラフィーにより分離精製した。この際、移動層としては、クロロホルムとメタノールと酢酸とを容積比(クロロホルム:メタノール:酢酸)で10:1:1となるように混合したものを用いた。続いて、分離精製後のオイル状物質にクロロホルム10gと水10gと酢酸1gとヨウ化ナトリウム1gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を留去した。最後に、その溶媒留去後の残留物にアセトン1gを加え、析出した固体をろ別後、60℃で乾燥することにより、最終生成物(化学式(1B−3)で表される化合物)0.04g(収率4%)を得た。
(実験例1−4)
化学反応式(II−4)に示したように、化学式(1−4)に示した構造部およびヨウ化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−1)に示した化合物0.00075mol(0.30g)と、アセトニトリル0.92gと、無水酢酸0.00075mol(0.08g)とを1時間常温で混合した。こののち、この混合物中に化学式(16−3)で表される化合物0.00075mol(0.29g)と、エタノール0.2gとを加え、50℃で3時間撹拌することにより、化学反応式(II−4)に示したように反応させた。次に、反応物に対してクロロホルム30gと水30gとヨウ化ナトリウム1gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を留去した。最後に、溶媒留去後の残留物をカラムクロマトグラフィーにより分離精製し、分離精製後の物質にアセトン3gを加え、析出した固体をろ別後、80℃で乾燥することにより、最終生成物(化学式(1B−4)で表される化合物)0.05g(収率11%)を得た。
(実験例1−5)
化学反応式(II−5A)および化学反応式(II−5B)に示したように、化学式(1−5)に示した構造部およびテトラフルオロホウ酸イオン(BF4 -)からなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−3)に示した化合物0.002mol(0.93g)と、アセトニトリル4gと、無水酢酸0.0024mol(0.24g)とを40℃で1時間混合した。こののち、この混合物中に化学式(16−4A)で表される化合物0.0022mol(0.46g)を加え、50℃で4時間撹拌することにより、化学反応式(II−5A)に示したように反応させ、化学式(16−4B)で表される化合物を合成した。続いて、化学式(16−4B)に示した化合物を含む反応物に対してクロロホルム30gと水30gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を留去し、オイル状物質を得た。続いて、このオイル状物質にジエチルエーテルを加え、析出した固体をろ別した。こののち、その固体を、アセトニトリルと水と酢酸とTEAとを容積比で80:20:0.2:0.2(アセトニトリル:水:酢酸:TEA)の割合で混合した混合液に溶解し、高速液体クロマトグラフィ法を用いて分離することにより、化学式(16−4B)に示した化合物を含む溶液を得た。この際、高速液体クロマトグラフィの移動層としては、上記したアセトニトリルと水と酢酸とTEAとの混合液(アセトニトリル:水:酢酸:TEA(容積比)=80:20:0.2:0.2)と同様の組成のものを用いた。続いて、化学式(16−4B)に示した化合物を含む溶液から溶媒を留去したのち、留去後の残留物にジメチルスルホキシド(DMSO)2cm3 を加えて溶解させた。さらに、そのDMSO溶液に化学式(16−4C)で表されるグリシン0.15gを加え、60℃で3時間撹拌することにより、化学反応式(II−5B)に示したように反応させた。次に、反応物に対してクロロホルム50gと水50gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を留去し、オイル状物質を得た。続いて、このオイル状物質を高速液体クロマトグラフィ法を用いて分離することにより、化学式(1B−5)で表される化合物を含む溶液を得た。ここで用いた高速液体クロマトグラフィの移動層も、上記したアセトニトリルと水と酢酸とTEAとの混合液(アセトニトリル:水:酢酸:TEA(容積比)=80:20:0.2:0.2)と同様の組成とした。最後に、化学式(1B−5)に示した化合物を含む溶液から、化学式(1B−5)に示した化合物をクロロホルム抽出したのち、その抽出物からクロロホルムを留去することにより、最終生成物(化学式(1B−5)に示した化合物)4mg(収率4%)を得た。
(実験例1−6)
化学反応式(II−6)に示したように、化学式(1−6)に示した構造部および臭化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−4)で表される化合物0.0008mol(0.36g)と、アセトニトリル2.44gと、無水酢酸0.001molとを30分間常温で混合した。こののち、この混合物中に化学式(16−5)で表される化合物0.009mol(0.32g)と、ピリジン0.6gと、エタノール3gとを加え、50℃で5時間撹拌することにより、化学反応式(II−6)に示したように反応させた。次に、反応物に対してクロロホルム30gと水30gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を留去することによりオイル状物質を得た。こののち、このオイル状物質に対して酢酸10gと65%臭化水素酸水溶液1gとを加え、2時間40℃で混合し、次いで、この混合物にクロロホルムと水とを加えて油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を減圧留去した。続いて、溶媒留去後の残留物をシリカゲルクロマトグラフィーにより分離精製した。この際、移動層としては、アセトンとメタノールとを容積比(アセトン:メタノール)で10:1の割合で混合したものを用いた。最後に、分離精製物から溶媒を留去することにより、最終生成物(化学式(1B−6)で表される化合物)7mg(収率1.1%)を得た。
(実験例1−7)
化学反応式(II−7)に示したように、化学式(1−7)に示した構造部およびヨウ化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−5)で表される化合物0.0015mol(0.75g)と、アセトニトリル2.12gと、無水酢酸(Ac2 O)0.0015molとを2時間常温で混合した。こののち、この混合物中に化学式(16−6)で表される化合物0.0015mol(0.67g)と、ピリジン1.06gと、エタノール0.5gとを加えたのち、5時間55℃で撹拌することにより、化学反応式(II−7)に示したように反応させた。次に、反応物に対してクロロホルム30gと水30gと酢酸1gとを加えたのち、油液分離し、油層の溶媒(クロロホルム等)を除去することによりオイル状物質を得た。このオイル状物質にアセトン3gを加え、析出した固体をろ別後、80℃で乾燥することにより、最終生成物(化学式(1B−7)で表される化合物)0.12g(収率12%)を得た。
(実験例1−8)
化学反応式(II−8)に示したように、化学式(1−8)に示した構造部および臭化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(15−6)で表される化合物0.001mol(0.45g)と、アセトニトリル12gと、化学式(16−7)で表される化合物0.0011mol(0.33g)との混合物に対してTEA0.002mol(0.2g)を滴下して加えた。こののち、この混合物を3時間50℃で撹拌することにより、化学反応式(II−8)に示したように反応させたところ、析出物が生じた。次に、この析出物をろ別したのち、得られた固体にアセトン10gを加えたのち、還流洗浄した。洗浄後の固体をろ別したのち、65℃で1時間乾燥することにより、最終生成物(化学式(1B−8)で表される化合物)0.12g(収率19.6%)を得た。
(実験例1−9)
化学反応式(III−1)に示したように、化学式(1−9)に示した構造部および塩化物イオンからなる化合物を合成した。
まず、化学式(17−1)で表される化合物0.005mol(1.48g)と、アセトニトリル10gと、ブリッジ剤である化学式(18−2−1)で表される化合物0.0002molと、TEA1gとの混合物を60℃で5時間撹拌することにより、化学反応式(III−1)に示したように反応させた。この際、析出物が生じ、この析出物をろ別したところ3gの反応物(固体)を得た。続いて、この3gの反応物のうち1.5gの反応物に対して、クロロホルム10gと水10gとを加えて反応物を溶解させたのち、この溶液に塩化ナトリウム1gおよび酢酸1gを加えて析出した固体をろ別した。最後に、ろ別した固体をアセトンで洗浄したのち、75℃で1時間乾燥することにより、最終生成物(化学式(1C−9)で表される化合物)0.20g(収率31%)を得た。
これらの実験例1−1〜1−9の最終生成物について、核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance;NMR)により構造を同定すると共に、最大吸収波長(λmax)、モル吸収係数(ε)および分解点を調べたところ、表1および表2に示した結果を得た。
NMR測定する際には、測定機器としてJOEL社製のLambda−400を用いた。この場合、実験例1−1,1−2,1−9では、重溶媒である重水素化されたジメチルスルホキシド(DMSO−d6 )1cm3 に対して最終生成物3〜10mgを溶解させた溶液を測定試料とし、室温にて 1H−NMRスペクトルを測定した。また、実験例1−3〜1−7では、重溶媒としてDMSO−d6 に代えて、重水素化されたクロロホルム(CDCl3 )を用いたことを除き、実験例1−1等と同様にして測定した。さらに、実験例1−8では、重溶媒としてDMSO−d6 に代えて、重水素化されたジメチルホルムアミド(DMF−d7 )を用いたことを除き、実験例1−1等と同様にして測定した。
最大吸収波長(λmax)およびモル吸収係数(ε)を調べる際には、日立製作所製のUVスペクトルメータ(U−3010)を用いた。この場合には、最終生成物をメタノール(CH3 OH;溶媒)に対して、吸光度が0.5〜1.0の範囲内になるように調製して測定に用いた。なお、実験例1−9では、最終生成物のメタノールに対する溶解性が低かったため、測定できなかった。
分解点を測定する際には、島津製作所製の熱量計TG/DTA6200を用いた。この場合、窒素ガスの流量を100cm3 /分として室温から550℃までの範囲を10℃/分の割合で昇温させて測定した。なお、実験例1−5では、最終生成物の収量が少なかったため、測定しなかった。
表1,表2に示したように、実験例1−1〜1−9では、それぞれ化学式(1B−1)〜化学式(1B−8)、化学式(1C−9)に示した化合物が合成されたことが確認された。
(実験例2−1)
実験例1−1で合成した化学式(1B−1)に示した化合物を用いて、上記実施の形態で説明した光電変換素子の具体例として色素増感型太陽電池を以下の手順により作製した。
まず、作用電極10を作製した。最初に、縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO2 )よりなる導電性基板11を用意した。続いて、導電性基板11に、縦0.5cm×横0.5cmの四角形を囲むように厚さ70μmのマスキングテープを貼り、この部分に金属酸化物スラリー3cm3 を一様の厚さとなるように塗布して乾燥させた。この場合、金属酸化物スラリーとしては、10重量%となるように酸化亜鉛粉末(平均粒径20nm;堺化学工業社製FINEX−50)を、非イオン性界面活性剤としてTriton X-100(Tritonは登録商標)を1滴添加した水に懸濁して調製したものを用いた。続いて、導電性基板11上のマスキングテープを剥がし取り、この基板を電気炉により450℃で焼成し、厚さ約5μmの金属酸化物半導体層12を形成した。続いて、化学式(1B−1)に示した化合物とデオキシコール酸とをそれぞれ3×10-4mol/dm3 および1×10-2mol/dm3 の濃度になるように無水エタノールに溶解させて、色素溶液を調製した。続いて、金属酸化物半導体層12が形成された導電性基板11を上記の色素溶液に浸漬し、色素13を担持させた。
次に、縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO2 )よりなる導電性基板21の片面に、スパッタリングにより白金よりなる100nmの厚さの導電層22を形成することにより、対向電極20を作製した。この場合、予め、導電性基板21には、電解液注入用の穴(φ1mm)を2つ開けておいた。
次に、電解液を調製した。アセトニトリルに対して、ジメチルヘキシルイミダゾリウムヨージド(0.6mol/dm3 )、ヨウ化リチウム(0.1mol/dm3 )、ヨウ素(0.05mol/dm3 )の濃度になるように調製した。
次に、厚さ50μmのスペーサを金属酸化物半導体層12の周りを囲むように配置したのち、作用電極10の色素13を担持した面と、対向電極20の導電層22を形成した面とを対向させると共に、スペーサを介して貼り合わせた。こののち、対向電極20に開けておいた注入口から調製した電解液を注入し、電解質含有層30を形成した。最後に全体を封止することにより、色素増感型太陽電池が完成した。
(実験例2−2〜2−9)
色素として、化学式(1B−1)に示した化合物に代えて、表3に示したように実験例1−2〜1−9で合成した化学式(1B−2)〜化学式(1B−8),化学式(1C−9)に示した化合物を用いたことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
(比較例1−1〜1−7)
色素として、化学式(1B−1)に示した化合物に代えて、表3に示したように、化学式(20)〜化学式(26)に示した化合物を用いたことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。化学式(20)〜化学式(26)に示した化合物は、以下の通りである。
これらの実験例2−1〜2−9および比較例1−1〜1−7の色素増感型太陽電池について変換効率を調べたところ、表3に示した結果が得られた。また、これらの実験例を代表して実験例2−1および比較例1−1の色素増感型太陽電池についてIPCEを調べたところ、図3に示した結果が得られた。
変換効率は、光源AM1.5(1000W/m2 )のソーラーシュミレータを用いて、以下の算出方法により求めた。まず、色素増感型太陽電池の電圧をソースメータにて掃引し、応答電流を測定した。これにより、電圧と電流との積である最大出力を1cm2 あたりの光強度で除した値に100を乗じてパーセント表示した値を変換効率(η:%)とした。すなわち、変換効率は、(最大出力/1cm2 あたりの光強度)×100で表される。また、IPCEを測定する際には、測定装置としてペクセルテクノロジー社製のSM−10ACを用いた。なお、図3では、実験例2−1の測定結果を曲線C11として示し、比較例1−1の測定結果を曲線C21として示した。
表3に示したように、金属酸化物半導体層12が焼成法により形成されると共に酸化亜鉛を含む場合において、色素として、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有する化学式(1B−1)〜化学式(1B−8),化学式(1C−9)に示した化合物を用いた実験例2−1〜2−9では、それらの骨格を持たない化学式(20)〜化学式(23)に示した化合物を用いた比較例1−1〜1−4よりも変換効率が高くなった。また、実験例2−1〜2−9では、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有するがアンカー基としてカルボン酸基を有するアルキル鎖を持たない化学式(24),化学式(25)に示した化合物を用いた比較例1−5,1−6よりも変換効率が高くなった。さらに、実験例2−1〜2−9では、インドレニン骨格の窒素原子にアンカー基が導入されていない化学式(26)に示した化合物を用いた比較例1−7よりも変換効率が高くなった。
また、図3に示したように、キノリン骨格を有するシアニン化合物を用いた実験例2−1(曲線C11)では、それを持たないシアニン化合物を用いた比較例1−1(曲線C21)よりも広い波長域の光を吸収して電流に変換していた。
これらの結果は、以下のことを表している。すなわち、化学式(1B−1)に示した化合物等では、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を含むことにより、分子全体としてのπ共役が広がるため、キノリン骨格等の代わりにインドレニン骨格やチアゾール骨格を含むシアニン化合物(化学式(20)〜化学式(23)に示した化合物)と比較して、光吸収波長域が広くなる。その上、化学式(1B−1)に示した化合物等では、金属酸化物半導体層12に吸着するためのアンカー基としてカルボン酸基を有するアルキル鎖が、化学式(1)中のR1に含まれる複素環骨格の窒素原子に導入されている。このため、化学式(1B−1)に示した化合物等では、その他のアンカー基を有するシアニン化合物(化学式(24),化学式(25)に示した化合物)や、R1中にアンカー基を含まないシアニン化合物(化学式(26)に示した化合物)と比較して、光を吸収して励起されたときの金属酸化物半導体層12に対する電子注入効率が向上する。
また、実験例2−1〜2−4と実験例2−5との比較から、炭素原子数3のメチン鎖を有する場合には、ピリジン骨格を有するシアニン化合物よりもキノリン骨格を有するシアニン化合物において変換効率が高くなる傾向がみられた。この結果は、シアニン化合物においてピリジン骨格よりもキノリン骨格を有することにより、金属酸化物半導体層12に対する電子注入効率が向上することを表している。
さらに、実験例2−1〜2−3と実験例2−4との比較、および実験例2−6,2−7と実験例2−8,2−9との比較から、化学式(1)においてR1が化学式(2−1)に示した基であるシアニン化合物を用いた場合に、化学式(2−1)に示した基を持たないシアニン化合物を用いた場合と比較して、変換効率が高くなる傾向を示した。この結果は、シアニン化合物においてインドレニン骨格と共に嵩高い基を有することにより、会合抑制作用が発揮されたことを表している。
これらのことから、金属酸化物半導体層12が焼成法により形成されると共に酸化亜鉛を含む光電変換素子では、以下のことが確認された。すなわち、色素13が化学式(1)に示したシアニン化合物を含むことにより、そのシアニン化合物の種類に依存することなく、変換効率を向上させることができる。この場合、化学式(1)中のR1が化学式(2−1)で表される基であれば、より変換効率を向上させることができる。また、化学式(1)中のQは炭素原子数3のメチン鎖を骨格とする連結基であると共にR2は化学式(7)または化学式(8)に示した基であれば、より変換効率を向上させることができる。
(実験例3−1〜3−9)
電解析出法により金属酸化物半導体層12を形成したことを除き、実験例2−1〜2−9と同様の手順を経た。電解析出法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、以下の手順により行った。まず、水に対してエオシンY(30μmol/dm3 )、塩化亜鉛(5mmol/dm3 )、塩化カリウム(0.09mol/dm3 )の濃度になるように調製した電解浴液40mlと、亜鉛板よりなる対極と、銀/塩化銀電極よりなる参照電極とを用意した。続いて、電解浴を酸素により15分間バブリングしたのち、電解浴中の溶液の温度を70℃とし、60分、電位−1.0Vの定電位電解をバブリングしながら導電性基板11の表面に製膜した。最後に、この基板を、乾燥させることなく水酸化カリウム水溶液(pH11)に浸漬し、そののち水洗することによりエオシンYを脱着した。続いて、150℃、30分間乾燥させた。
(比較例2−1〜2−7)
実験例3−1〜3−9と同様に金属酸化物半導体層12を形成したことを除き、比較例1−1〜1−7と同様の手順を経た。
これらの実験例3−1〜3−9および比較例2−1〜2−7の色素増感型太陽電池について変換効率を求めたところ、表4に示した結果が得られた。
表4に示したように、金属酸化物半導体層12が電解析出法により形成された場合においても、表3に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、色素として、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有する化学式(1B−1)に示した化合物等を用いた実験例3−1〜3−9では、それらの骨格を持たない化学式(20)〜化学式(23)に示した化合物を用いた比較例2−1〜2−4よりも変換効率が高くなった。また、実験例3−1〜3−9では、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有するがアンカー基としてカルボン酸基を有するアルキル鎖を持たない化学式(24),化学式(25)に示した化合物を用いた比較例2−5,2−6よりも変換効率が高くなった。さらに、実験例3−1〜3−9では、インドレニン骨格の窒素原子にアンカー基が導入されていない化学式(26)に示した化合物を用いた比較例2−7よりも変換効率が高くなった。
この場合においても、実験例3−1〜3−4と実験例3−5との比較から、炭素原子数3のメチン鎖を有するシアニン化合物を用いる場合には、ピリジン骨格を有するシアニン化合物よりもキノリン骨格を有するシアニン化合物において変換効率が高くなる傾向がみられた。さらに、実験例3−1〜3−3と実験例3−4との比較、および実験例3−6,3−7と実験例3−8,3−9との比較から、化学式(1)のR1が化学式(2−1)に示した基であるシアニン化合物を用いた場合に、化学式(2−1)に示した基を持たないシアニン化合物を用いた場合よりも、変換効率が高くなる傾向を示した。
これらのことから、金属酸化物半導体層12が電解析出法により形成されると共に酸化亜鉛を含む光電変換素子では、以下のことが確認された。すなわち、色素13が化学式(1)に示したシアニン化合物を含むことにより、そのシアニン化合物の種類に依存することなく、変換効率を向上させることができる。この場合、化学式(1)中のR1が化学式(2−1)で表される基であれば、より変換効率を向上させることができる。また、化学式(1)中のQは炭素原子数3のメチン鎖を骨格とする連結基であると共にR2は化学式(7)または化学式(8)に示した基であれば、より変換効率を向上させることができる。
(実験例4−1〜4−9)
焼成法により金属酸化物半導体層12を形成する際に、酸化亜鉛粉末に代えて、酸化チタン(TiO2 )粉末を含む金属酸化物スラリーを用いたことを除き、実験例2−1〜2−9と同様の手順を経た。この場合、酸化チタン粉末を含む金属酸化物スラリーは、以下のように調製した。まず、チタンイソプロポキシド125cm3 を、0.1mol/dm3 硝酸水溶液750cm3 に攪拌しながら添加し、80℃で8時間激しく攪拌した。得られた液体をテフロン(登録商標)製の圧力容器に注ぎ入れ、その圧力容器を230℃、16時間オートクレーブにて処理した。そののちオートクレーブ処理した沈殿物を含む液体(ゾル液)を攪拌することにより再懸濁させた。続いて、この懸濁液を吸引濾過して再懸濁しなかった沈殿物を除き、ゾル状の濾液をエバポレータで酸化チタン濃度が11質量%になるまで濃縮した。こののち、濃縮液に基板への塗れ性を高めるためにTriton X-100を1滴添加した。続いて、平均粒径30nmの酸化チタン粉末(日本アエロジル社製P−25)をこのゾル状の濃縮液に、酸化チタンの含有率が全体として33質量%となるように加え、自転公転を利用した遠心撹拌を1時間行い、分散させた。
(比較例3−1〜3−7)
実験例4−1〜4−9と同様に金属酸化物半導体層12を形成したことを除き、比較例1−1〜1−7と同様の手順を経た。
これらの実験例4−1〜4−9および比較例3−1〜3−7の色素増感型太陽電池について、変換効率を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
表5に示したように、金属酸化物半導体層12が焼成法により形成されると共に酸化チタンを含む場合においても、表3に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、色素として、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有する化学式(1B−1)に示した化合物等を用いた実験例4−1〜4−9では、それらの骨格を持たない化学式(20)〜化学式(23)に示した化合物を用いた比較例3−1〜3−4よりも変換効率が高くなった。また、実験例4−1〜4−9では、キノリン骨格あるいはピリジン骨格を有するがアンカー基としてカルボン酸基を有するアルキル鎖を持たない化学式(24),化学式(25)に示した化合物を用いた比較例3−5,3−6よりも変換効率が高くなった。さらに、実験例4−1〜4−9では、インドレニン骨格の窒素原子にアンカー基が導入されていない化学式(26)に示した化合物を用いた比較例3−7よりも変換効率が高くなった。
この場合においても、実験例4−1〜4−4と実験例4−5との比較から、炭素原子数3のメチン鎖を有するシアニン化合物を用いる場合には、ピリジン骨格を有するシアニン化合物よりもキノリン骨格を有するシアニン化合物において変換効率が高くなる傾向がみられた。さらに、実験例4−1〜4−3と実験例4−4との比較、および実験例4−6,4−7と実験例4−8,4−9との比較から、化学式(1)のR1が化学式(2−1)に示した基であるシアニン化合物を用いた場合に、化学式(2−1)に示した基を持たないシアニン化合物を用いた場合よりも、変換効率が高くなる傾向を示した。
これらのことから、金属酸化物半導体層12が焼成法により形成されると共に酸化チタンを含む光電変換素子では、以下のことが確認された。すなわち、色素13が化学式(1)に示したシアニン化合物を含むことにより、そのシアニン化合物の種類に依存することなく、変換効率を向上させることができる。この場合、化学式(1)中のR1が化学式(2−1)で表される基であれば、より変換効率を向上させることができる。また、化学式(1)中のQは炭素原子数3のメチン鎖を骨格とする連結基であると共にR2は化学式(7)または化学式(8)に示した基であれば、より変換効率を向上させることができる。
また、上記した表3〜表5に示した結果から、本実施例における光電変換素子では、色素13が化学式(1)に示したシアニン化合物を含むことにより、そのシアニン化合物の種類や、金属酸化物半導体層12の形成方法や、金属酸化物半導体材料の種類に依存することなく、変換効率が向上することが確認された。この場合、金属酸化物半導体材料として、酸化亜鉛を用いた場合(表3,表4参照)において、酸化チタンを用いた場合(表5参照)よりも、変換効率がより高くなった。このことから、特に、金属酸化物半導体層12が酸化亜鉛を含むようにすれば、変換効率がより向上することが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の光電変換素子の使用用途は、必ずしも既に説明した用途に限らず、他の用途であってもよい。他の用途としては、例えば、光センサなどが挙げられる。