以下の実施形態では、病気や怪我により運動機能が衰えた患者を対象として、運動機能を回復するために行うリハビリテーションに用いられる運動支援システムについて説明する。ただし、以下の実施形態の記載は運動支援システムの用途を限定する趣旨ではなく、たとえば介護予防や、健常者が日頃の運動や、各種の筋群を鍛えるためのトレーニングなどに運動支援システムを用いてもよい。
(実施形態1)
本実施形態の運動支援システム1は、図1に示すように、使用者(患者)2の正面に配置され表示面30に映像を映す表示装置3と、使用者2から掛かる荷重の分布を測定する測定装置4と、表示装置3等の動作を制御する制御装置5とを備えている。さらに、運動支援システム1は、距離画像を生成する距離画像センサ6を備えている。表示装置3と測定装置4と距離画像センサ6とは、いずれも制御装置5に対して接続されている。
また、この運動支援システム1は、表示装置3の使用者2と向き合う表示面30の手前(使用者2側)に配置されたハーフミラー7をさらに備えている。ハーフミラー7は、その前面(鏡面)が使用者2と向き合うように、表示装置3と使用者2との間に垂直に立てて配置されており、背後の表示装置3に表示された映像を使用者2側に透過させる。
表示装置3は、ここではプラズマディスプレイからなり、ハーフミラー7の背面側に取り付けられている。図1では、ハーフミラー7を支持する構造や、表示装置3の取付構造の図示を省略しているが、適宜選択される構造で、ハーフミラー7および表示装置3は十分な強度をもって定位置に固定される。なお、表示装置3はプラズマディスプレイに限らず、液晶ディスプレイ等、他のディスプレイ装置であってもよい。また、ディスプレイ装置の代わりに、ハーフミラー7の背面に貼り付けられる拡散シート(図示せず)と、ハーフミラー7の後方(使用者2とは反対側)から拡散シートに映像を投影する投影装置(図示せず)とで構成される表示装置を用いることも考えられる。
本実施形態においては、ハーフミラー7は、前面が縦長の長方形状であって、使用者2の全身を映す姿見として機能する大きさに形成されている。ハーフミラー7の透過率は、ハーフミラー7を鏡として利用でき、且つ使用者2がハーフミラー7を通して表示装置3に表示される映像を視認できるように設計される。ハーフミラー7は、ガラスや合成樹脂の透明な基材の少なくとも一表面に、金属膜などによる鏡面コーティングが施されることにより形成されている。
ここでは、表示装置3は、ハーフミラー7の背面に表示面30が接するように配置されている。表示装置3の高さ位置は、下端縁がハーフミラー7の下端から所定の間隔を空けて位置し、且つ上端縁がハーフミラー7の上端から所定の間隔を空けて位置するように決められている。ここで、表示装置3はハーフミラー7の中心よりもやや上方寄りに配置されている。また、表示装置3に表示される映像をハーフミラー7の前面に高輝度で表示できるよう、ハーフミラー7と表示面30との間には、屈折率を調節して反射を防止する透明材料が充填されていてもよい。
上記構成によれば、ハーフミラー7の前面は、鏡として使用者2の鏡像を映し出すとともに、表示装置3の表示面30に表示された映像を映し出すように機能する。つまり、ハーフミラー7の正面に使用者2が居れば、使用者2の鏡像がハーフミラー7の前面に映るとともに、表示装置3に表示される映像がハーフミラー7を透過してハーフミラー7の前面に映し出されることになる。詳しくは後述するが、表示装置3に表示される映像は制御装置5によって生成される。
測定装置4は、ハーフミラー7の手前に設置されている椅子40に設けられている。この測定装置4は、椅子40の座面41に載置され、椅子40に座った状態の使用者2の臀部から座面41に掛かる荷重を測定するシート状の荷重センサ42を具備している。荷重センサ42は、右臀部と左臀部とのそれぞれに対応して少なくとも一対設けられている。
本実施形態では、測定装置4は、左右の各荷重センサ42でそれぞれ荷重を測定することにより、椅子40に座っている使用者2から座面41に掛かる荷重について、水平面(座面41に沿う面)内での分布を測定する。つまり、測定装置4は、座面41の左右方向の中心線を境に左側の領域に掛かる荷重と右側の領域に掛かる荷重とをそれぞれ測定し、左臀部と右臀部との各々に掛かる荷重の分布をリアルタイムで測定する。
このように、測定装置4は水平面内での使用者2の荷重の分布をリアルタイムで測定し、測定結果を制御装置5に対して出力する。制御装置5に出力される測定装置4の測定結果は水平面内での使用者2の荷重の分布を表す値であればよく、本実施形態では、測定装置4は使用者2の左臀部と右臀部とのそれぞれに掛かる荷重を制御装置5に出力する。なお、測定装置4から制御装置5への測定結果の出力は、USB(登録商標)ケーブル等を用いた有線通信で行ってもよいし、無線(ワイヤレス)通信で行ってもよい。無線通信の場合、測定装置4と制御装置5との間にケーブルを引き回す必要がない分、測定装置4と制御装置5との位置関係の制限が緩和されるという利点がある。
ここで、測定装置4は、荷重センサ42により使用者2の左臀部と右臀部との一方のみに掛かる荷重を測定する構成であってもよい。つまり、測定装置4は、使用者2の体重が既知として予め与えられていれば、たとえば左臀部に掛かる荷重を測定することにより、この荷重が体重に占める割合から、使用者2の左右の臀部に掛かる荷重の分布を求めることができる。
距離画像センサ6は、強度変調光を用いタイムオブフライト法の原理で、画素値が距離値となる距離画像を生成する。ただし、距離画像センサ6は、距離画像を生成する構成であればよく、タイムオブフライト法を用いる距離画像センサに限らない。この距離画像センサ6は、センシング領域内に存在する検出対象(使用者2)までの距離を検出し、三次元空間内での検出対象の位置を距離画像として検出する。
ここでは、距離画像センサ6は、表示装置3と重ならないように表示装置3の上方に配置され、ハーフミラー7の正面の椅子40に座っている使用者2の距離画像を生成する。距離画像センサ6は、表示装置3の上方であって左右方向の略中央に位置決めされ、使用者2を斜め上前方から見下ろすように上下方向の向き(チルト角)が決められている。
さらに、距離画像センサ6は、その視野内に椅子40に座った使用者2の全身が含まれ、且つ使用者2が体幹を直立させた状態で使用者2の身体の左右方向における中心線が距離画像の左右方向の中心線に一致するように、左右方向の向き(パン角)が調節されている。
なお、距離画像センサ6は、上記配置に限らずたとえばカメラスタンド等を利用してハーフミラー7の正面側(使用者2側)における使用者2の目の高さ位置に設置されていてもよい。
上述したような距離画像センサ6の位置および向きの調節は、使用者2の位置および姿勢が決定してから初期設定として行われる。これにより、距離画像センサ6では、使用者2の全身を撮像した距離画像の動画が生成されることになる。
また、本実施形態の運動支援システム1は、測定装置4の測定結果に基づき使用者2の運動に伴う左右の荷重の分布の変化を検出する運動検出部51を制御装置5に有している。さらに、制御装置5は、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化を表す実測映像を生成する実測表示部52と、模範を示す模範映像を生成する模範表示部53と、各種設定値等が記憶される記憶部54とを有している。実測表示部52および模範表示部53は、それぞれ生成した実測映像、模範映像を表示装置3に表示させる。
運動検出部51は、測定装置4の測定結果から、座面41の左右方向の中心線より左側の領域に掛かる荷重(左臀部に掛かる荷重)と右側の領域に掛かる荷重(右臀部に掛かる荷重)との比率を表すバランス値を、リアルタイムで算出する。具体的には、運動検出部51は、使用者2の左臀部と右臀部とのそれぞれに掛かる荷重に基づいて、その総和(つまり座面41に掛かる全荷重)を基準として左右の各荷重が占める割合を、バランス値としてリアルタイムで算出する。
たとえば、左臀部に掛かる荷重が30kg、右臀部に掛かる荷重が10kgであれば、運動検出部51は、左=75%(=0.75)、右=25%(=0.25)というバランス値を算出する。なお、バランス値にて示される左臀部に掛かる荷重の割合と右臀部に掛かる荷重の割合との和は、常に100%(=1)になる。
実測表示部52は、運動検出部51で算出されたバランス値に基づいて、実測映像を生成して表示装置3に表示させる。一方、模範表示部53は、記憶部54に記憶されている設定値に従って、模範映像を生成して表示装置3に表示させる。
ここでいう実測映像および模範映像は、いずれもバランス値をリアルタイムで表す動画映像であって、本実施形態では、図2に例示するように、左臀部に掛かる荷重の割合と右臀部に掛かる荷重の割合とを高さで表す棒グラフの映像である。図2の例では、表示面30の左右方向に棒グラフが4本並んで表示されているが、そのうち外側の2本の棒グラフが実測映像31であって、内側の2本は模範映像32である。ここで、使用者2が実測映像31と模範映像32とを容易に区別可能となるように、たとえば実測映像31の棒グラフは白色で表示され、模範映像32の棒グラフは橙色で表示される。
すなわち、実測映像31と模範映像32とは、左臀部と右臀部に対応するように棒グラフを一対ずつ含んでおり、それぞれ縦長の長方形状の枠内に表示された棒グラフの高さによって、100%を上限に左右の各臀部に掛かる荷重の全体重に占める割合を示している。本実施形態では、表示面30の中央よりも左側に表示される棒グラフが左臀部、右側に表示される棒グラフが右臀部に対応しており、実測映像31および模範映像32は左右の各臀部に掛かる荷重の割合を1%刻みで各棒グラフの高さに反映している。
したがって、たとえば使用者2が左臀部から右臀部に荷重を移すように運動を行った場合、実測映像31は、荷重移動に伴って左臀部に対応する棒グラフが徐々に低くなり右臀部に対応する棒グラフが徐々に高くなるように変化する。これに対して、模範映像32は、使用者2の動きには関係なく、所定の周期で左右の棒グラフが交互に高くなるように変化することにより、使用者2に行わせる運動の模範となる荷重の分布の周期的な変化を表す。
記憶部54には、模範映像32の動きを決める設定値として、周期と運動強度と運動時間とが予め記憶されている。ここでいう周期はバランス値の変化の周期を表しており、運動強度は左右の各臀部に掛かる荷重の割合の最大値(つまり棒グラフの最大値)を表しており、運動時間は使用者2に運動をさせる時間を表している。これらの設定値は、制御装置5の入力部となるキーボード等の入力インタフェース(図示せず)を用いて外部から任意に設定され、記憶部54に予め記憶されている。なお、運動強度は、左臀部と右臀部とで別々の値が設定されてもよい。
模範表示部53は、記憶部54に記憶されている周期と運動強度とによって決定されるバランス値の変化のパターンを示す模範映像32を生成し、この模範映像32を運動時間に亘って表示装置3に表示させる。本実施形態においては、模範表示部53は、棒グラフの高さの時間変化が正弦波状となるようなパターンで変化する模範映像32を生成する。
なお、図2の例では、運動強度33、周期(周波数)34、運動時間35がそれぞれ表示面30における実測映像31、模範映像32の上方に表示され、残り時間36が実測映像31、模範映像32の下方に表示されている。ここでいう残り時間は、運動時間から経過時間を差し引いた時間である。これらの情報が表示されることにより、使用者2は模範映像32中の棒グラフの変化によって示される運動のパターンを定量的に認識することができる。
上述したように実測映像31と模範映像32とが表示装置3に表示されることにより、使用者2に対して、模範映像32中の棒グラフの動きを実測映像31で追従するように、左右の各臀部に掛かる荷重の割合を変化させるための運動を行わせることができる。すなわち、使用者2は、模範映像32中の棒グラフの動きに合わせて左右の各臀部に掛かる荷重の割合を変化させるべく座位での荷重の移動を行うことができる。ここで、運動検出部51で算出されたバランス値が、模範映像32の表すバランス値を中心とする所定の許容範囲(たとえば±3%)に入ると、模範表示部53がたとえば棒グラフの表示色を変化させるなどして使用者2に通知するようにしてもよい。
ここにおいて、制御装置5が実測映像31と模範映像32とを表示装置3に表示させて使用者2に運動を行わせる運動期間は、制御装置5の入力インタフェースに対し運動を開始する所定の操作が為されることにより開始する。この運動期間は、開始から予め定められた制限時間が経過した時点で終了してもよいし、時間制限を設けずに制御装置5の入力インタフェースに対し運動を終了する所定の操作が為されることによって終了してもよい。
ところで、本実施形態の運動支援システム1は、距離画像から使用者2の特定部位の位置を検出する位置検出部55と、検出された特定部位の位置に基づいて特定部位の動きのずれ量を検出するずれ量検出部56とを制御装置5に有している。また、制御装置5は、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化と、ずれ量検出部56で検出されたずれ量とを用いて、運動が正しく行われているか否かを評価する評価部57をさらに有している。
位置検出部55は、画像認識技術によって、距離画像センサ6で得られた距離画像中の使用者2の身体の特定部位の位置を検出する。ここでいう特定部位は、頭頂部、肩部、肘部、手部、腰部、膝部、足首など、使用者2の身体の中で特定可能な部位を示す点である。このように位置検出部55にてその位置が検出される特定部位については、使用者2の運動時にその動きが所定の制限条件によって制限されている。要するに、使用者2は、身体の特定部位の動きを所定の制限条件によって制限しつつ、身体の他の部位を移動させるようにして、左右の各臀部に掛かる荷重の割合を変化させる運動を行うことになる。
本実施形態では、位置検出部55は距離画像中から使用者2の左右の各肩部をそれぞれ特定部位として検出する。この特定部位については、両特定部位(左右の両肩部)を結ぶ直線が水平となる(つまり水平面に対して平行となる)ように、制限条件によってその動きが制限されている。したがって、使用者2は、椅子40に座った状態で、左右の両肩部を結ぶ直線が水平となるように左右の両肩部の動きを制限条件によって制限しつつ、体幹等を移動させて左右の各臀部に掛かる荷重の分布を変化させるように運動を行うことになる。
ずれ量検出部56は、上述のようにして位置検出部55で検出された特定部位の動きの、制限条件によって制限された動きからのずれ量を定量的に検出する。ここでは、ずれ量検出部56は、使用者2の左右の両肩部を結ぶ直線の水平面に対する傾きを、動きのずれ量として検出する。すなわち、位置検出部55で検出された両特定部位を結ぶ直線が水平であればずれ量検出部56で検出されるずれ量はゼロとなり、この直線の水平面に対する傾きが大きくなる程ずれ量が大きくなる。
ここで、本実施形態においては、特定部位の位置を表す指標を表示装置3に表示させる指標表示部58と、ずれ量検出部56で検出されるずれ量が所定の許容範囲を超えるとその旨を報知する報知部59とが、制御装置5にさらに設けられている。
指標表示部58は、運動期間において、図2に示すような指標37を、実測映像31と模範映像32と共に表示面30上に表示させる。図2に例示する指標37は、位置検出部55で検出された特定部位(使用者2の左右の各肩部)を結ぶ直線を表しており、ここでは、実測映像31および模範映像32に重ねて表示されている。したがって、使用者2は、自身の特定部位の動きを指標37にて確認しながら、制限条件によって制限されている特定部位の動きからのずれ量を小さくするように、運動を行うことが可能となる。なお、指標表示部58は、使用者2から見てハーフミラー7に映る自身の鏡像中の特定部位(使用者2の左右の各肩部)と指標37が重なるように、表示面30上における指標37のサイズおよび位置を調整している。
報知部59は、ずれ量検出部56で検出されるずれ量を監視し、このずれ量が許容範囲を超えて大きくなった場合に、ずれ量が許容範囲を超えていることを報知する。ここでは、指標表示部58で表示されている指標37の水平面に対する傾きがずれ量に相当するので、報知部59は、この傾きが予め設定された許容範囲を超えると、指標表示部58に表示させる指標37の色を変えることにより、その旨を報知する。ただし、報知部59の報知方法は他の方法であってもよく、たとえば特定部位の動きのずれを注意するメッセージの表示や、警告音あるいは音声などによって報知が行われてもよい。
評価部57は、まず運動検出部51で検出された荷重の分布の変化を定量的に評価する。ここでは、評価部57は、使用者2の運動に伴う荷重の分布の変化を示す実測映像31と、使用者2に行わせる運動の模範となる荷重の分布の変化を示す模範映像32とを対比し、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化を表す評価点を第1評価点として算出する。この第1評価点は、模範映像32にて示される模範的な運動に対する、実測映像31によって示される実際の使用者2の運動の追従性を表しており、追従性が良いほど高い評価を与える。
具体的に説明すると、評価部57は、所定のサンプリング周期(たとえば100msec)で、一方の臀部(たとえば右臀部)に掛かる荷重の全荷重に占める割合について、模範映像32が示す値と実測映像31が示す値との差分を算出する。このようにして算出される差分には、その大きさに応じた点数が予め割り当てられており、評価部57は、差分を算出する度に当該差分に対応する点数を加算していき、最終的に求まった合計点数を第1評価点とする。このようにして求まる第1評価点は、差分が小さい(つまりずれが小さい)ほど高得点となるように割り当てられている。
要するに、本実施形態では、評価部57は模範映像32と実測映像31との間で同一タイミングにおけるバランス値の差を評価対象に含み、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化の評価点を第1評価点として算出する。これにより、評価部57では、たとえば模範映像32と実測映像31とで、バランス値の変化のタイミングだけは合っているものの、バランス値の大きさがずれているような場合に、その大きさのずれをも評価することができる。その結果、評価部57は、模範映像32にて示される模範的な運動と、実測映像31によって示される実際の使用者2の運動とのずれを厳密に評価することができるという利点がある。
ただし、評価部57が行う荷重の分布の変化の評価方法は上述した方法に限らず、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化を評価できる方法であればよい。たとえば、評価部57は、模範映像32と実測映像31との間で所定のサンプリング周期ごとに算出したバランス値の差分の累計を求め、求まった累計値を点数に換算することにより第1評価点を求めてもよい。
また、同一タイミングにおけるバランス値の差を評価対象に含まない場合でも、評価部57は、模範映像32と実測映像31との間でバランス値が変化するタイミングのずれを評価することができる。つまり、評価部57は、たとえば模範映像32と実測映像31との各々から一方の臀部(たとえば右臀部)に掛かる荷重の全荷重に占める割合の極大点(または極小点)を抽出し、時間軸方向における極大点(または極小点)のずれを数値化することで評価できる。
ここにおいて、評価部57は、上述したように算出される荷重の分布の変化を表した第1評価点と、ずれ量検出部56で検出されたずれ量を表す第2評価点とを総合的に評価することによって、運動が正しく行われているか否かを評価する。すなわち、評価部57は、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化を単独で評価するのではなく、ずれ量検出部56で検出される特定部位の動きのずれ量との組み合わせによって評価する。
具体的には、評価部57は、ずれ量検出部56で検出されたずれ量を、制限条件によって制限されている動きからのずれが小さくなるほど高得点となる評価点(第2評価点)で表し、この第2評価点と第1評価点との積を、運動の達成度を表す評価値として算出する。ここでいう運動の達成度は、運動の出来具合を表しており、言い換えれば、運動が正しく行われているか否かの度合いを表している。
ここでは一例として、第1評価点が0〜100点の間で1点刻みで変動し、第2評価点が0〜1.0点の間で0.1点刻みで変動することにより、評価値は0〜100点の間で変動することとする。つまり、たとえば運動検出部51で検出された荷重の分布の変化の評価が比較的よく第1評価点が90点の場合、ずれ量検出部56で検出されたずれ量が小さく第2評価点が0.9点であれば、評価値は81点となる。一方、第1評価点は同じく90点であっても、ずれ量検出部56で検出されたずれ量が大きく第2評価点が0.5点であれば、評価値は45点となる。
ただし、評価部57は、第1評価点と第2評価点との積を評価値とする構成に限らない。たとえば、評価部57は、ずれ量検出部56で検出されたずれ量に関して、所定の許容範囲内にあるか否かを判定し、ずれ量が許容範囲内にあれば第1評価点を評価値とし、ずれ量が許容範囲内になければ第1評価点に関わらず無効と評価する構成であってもよい。
ここで、表示装置3は評価部57の評価結果(評価値)を提示する提示部として兼用されており、評価部57の評価結果は表示装置3に表示されることになる。ただし、この構成に限らず、提示部は表示装置3と別に設けられ、評価部57の評価結果をたとえば音声や光等で使用者2に提示する構成であってもよい。表示装置3が提示部として兼用される場合、運動期間の終了後、表示面30に評価結果が表示される構成とすることが考えられる。
提示部が提示する内容は、評価部57で算出された評価値を数値のまま表す得点であってもよいし、得点を複数の段階に分けてランク付けした結果であってもよい。また、提示部は、評価値と共に、運動検出部51で検出された荷重の分布の変化を表す第1評価点、ずれ量検出部56で検出されたずれ量を表す第2評価点をそれぞれ提示してもよい。さらに、提示部は、運動期間において評価部57の評価結果をリアルタイムで提示してもよい。
次に、上述した運動支援システム1を用いて使用者2が運動を行う例について説明する。
制御装置5は、入力インタフェースに対し運動を開始する操作が為されると、タイマ(図示せず)にて運動期間の計時を開始するとともに、実測映像31および模範映像32、指標37等を表示装置3に表示させる。使用者2は、実測映像31と模範映像32とを見ながら、実測映像31の棒グラフの動きを模範映像32に合わせるように、左右の各臀部に掛かる荷重の分布を変化させるべく座位での荷重の移動を行うことができる。このとき、使用者2は、表示面30上の指標37を確認し、左右の両肩部を結ぶ直線を水平に保つように意識しながら運動を行うことで、正しい運動を行うことができる。
運動期間が終了すると、制御装置5は、実測映像31および模範映像32、指標37等の表示を終了するとともに、評価部57での評価結果を使用者2に提示する。この状態で、入力インタフェースに対し運動を開始する所定の操作が為されると、制御装置5は再度、運動期間の計時を開始するとともに、実測映像31および模範映像32、指標37等を表示装置3に表示させる。
以上説明した構成の運動支援システム1によれば、使用者2は、模範映像32に実測映像31を合わせるように座位での荷重の移動を行うことで、模範映像32にて模範される運動を習得することができる。このとき、使用者2は、ゲームを楽しんでいるような感覚で身体を動かすだけで、必要な運動を行うことができる。
しかも、評価部57は、使用者2の荷重の分布の変化のみを評価するのではなく、ずれ量検出部56で検出される特定部位の動きのずれ量との組み合わせによって、運動が正しく行われた否かを評価するので、使用者2に正しい運動を習得させることができる。すなわち、使用者2は、高得点を目指すことにより、単に荷重の移動を行うだけでなく、特定部位の動きを正しく制限するように努めることになり、結果的に、正しい運動の習得が可能となる。本実施形態の場合、使用者2は、座位での荷重の移動を行うに当たって、左右の両肩部を結ぶ直線を水平に保った状態での正しい運動を習得することができる。このような運動を行うことにより、使用者2は、たとえば歩行時の転倒防止などにつながる筋群が刺激され、転倒防止などの効果を得られることになる。
さらに、位置検出部55で検出された特定部位の位置を表す指標37を表示装置3に表示させる指標表示部58が設けられていることにより、使用者2は、運動中に指標37を見て、常に自身の特定部位の動きを意識して運動することができる。また、特定部位の動きのずれ量が所定の許容範囲を超えるとその旨を報知する報知部59が設けられていることにより、使用者2に対して、運動中に特定部位の動きの制限を意識させやすくなり、正しい運動を積極的に促すことができる。
また、本実施形態の運動支援システム1では、使用者2は、ハーフミラー7に映る自身の鏡像を見ながら運動することができるので、自身がどのような姿勢のときにどのように荷重が移動するのかということを視覚的に学習することができる。そのため、使用者2は、運動を行う中で、たとえば右臀部に荷重を掛ける場合には身体をどのように傾ければよいか等、運動に必要な身体の動きを習得しやすくなるという利点がある。
ところで、制御装置5は、記憶部54に記憶されている模範映像32の動きを決めるための設定値を、評価部57の評価結果に応じて自動的に変更する設定更新部(図示せず)を有していてもよい。この構成では、模範表示部53は、評価部57の評価結果に応じて模範映像32の内容を変更することになる。
つまり、評価部57にて高い評価が得られた場合(運動の達成度が高い場合)、設定更新部は、模範映像32が示す運動の難易度を上げるべく、設定値の周期を短くしたり、運動強度を上げたりする。一方、評価部57にて低い評価が得られた場合(運動の達成度が低い場合)、設定更新部は、模範映像32が示す運動の難易度を下げるべく、設定値の周期を長くしたり、運動強度を下げたりする。
その結果、運動支援システム1は、使用者2の能力に合った難易度の運動を使用者2に行わせることができ、使用者2に過度な負担を与えることなく、適切な運動を支援することができる。
また、位置検出部55は、上述したように距離画像センサ6で得られた距離画像を用いて使用者2の特定部位の位置を検出する構成に限らない。たとえば、位置検出部55は、CCD(Charge CoupledDevice)カメラなどの二次元カメラで撮影された使用者2の二次元画像や、使用者2に取着されたジャイロセンサ式のモーションキャプチャ等のセンサ出力を用いて、使用者2の特定部位の位置を検出してもよい。さらに、位置検出部55は、使用者2を撮像した静止画像を用いて、使用者2の特定部位の位置を検出してもよい。
また、椅子40に座った状態の使用者2の足元にシート状の荷重センサが設けられ、制御装置5が、この荷重センサの出力を用いて、運動中に使用者2の足が床から離れないように監視してもよい。さらにまた、椅子40の背もたれ部分にシート状の荷重センサが設けられ、制御装置5が、この荷重センサの出力を用いて、運動中に使用者2の腰部の位置が変化しないように監視してもよい。これらの場合、使用者2の足が床から離れているか否か、および使用者2の腰部の位置が移動しているか否かは、評価部57での評価対象に加えられてもよく、その結果、評価部57はさらに細かい運動の達成度の評価が可能になる。
なお、本実施形態では、実測映像31および模範映像32として、棒グラフの映像を例示したが、この例に限らず、たとえば真上を指した基準位置から左右に振れるように回動する針の映像などであってもよい。
(実施形態2)
本実施形態の運動支援システム1は、使用者2が椅子に座った状態(座位)ではなく、立ち上がった状態(立位)で行う運動に使用される点が実施形態1の運動支援システム1と相違する。
本実施形態では、測定装置4は、ハーフミラー7の手前の床であって使用者2の足元に配置されている。この測定装置4は、使用者2が搭乗する搭乗台(図示せず)と、搭乗台上での使用者2の左右の各脚にそれぞれ掛かる荷重を測定する荷重センサ(図示せず)とを具備している。荷重センサは、右脚側の搭乗台と左脚側の搭乗台とのそれぞれに対応して少なくとも1個ずつ設けられている。
測定装置4は、各荷重センサでそれぞれ荷重を測定することにより、搭乗台上に立つ使用者2の水平面内での荷重の分布を測定する。つまり、測定装置4は、搭乗台の左右方向の中心線を境に左側の領域に掛かる荷重と右側の領域に掛かる荷重とをそれぞれ測定し、左脚と右脚との各々に掛かる荷重の分布をリアルタイムで測定する。
このように、測定装置4は水平面内での使用者2の荷重の分布をリアルタイムで測定し、測定結果を制御装置5に対して出力する。制御装置5に出力される測定装置4の測定結果は水平面内での使用者2の荷重の分布を表す値であればよく、本実施形態では、測定装置4は使用者2の左脚と右脚とのそれぞれに掛かる荷重を制御装置5に出力する。
ここで、測定装置4は、荷重センサにより使用者2の左脚と右脚との一方のみに掛かる荷重を測定する構成であってもよい。つまり、測定装置4は、使用者2の体重が既知として予め与えられていれば、たとえば左脚に掛かる荷重を測定することにより、この荷重が体重に占める割合から、使用者2の荷重の分布を求めることができる。
また、本実施形態では、位置検出部55は距離画像中から使用者2の頭頂部を特定部位として検出する。この特定部位については、特定部位の位置が定位置となる(つまり移動させない)ように、制限条件によってその動きが制限されている。したがって、使用者2は、搭乗台上に立った状態で、頭頂部の位置を定位置に固定するように頭頂部の動きを制限条件によって制限しつつ、体幹等を移動させて左脚と右脚とに掛かる荷重の分布を変化させるように運動を行うことになる。
ずれ量検出部56は、上述のようにして位置検出部55で検出された特定部位の動きの、制限条件によって制限された動きからのずれ量を定量的に検出する。ここでは、ずれ量検出部56は、使用者2の頭頂部の基準位置からの距離を、特定部位の動きのずれ量として検出する。すなわち、位置検出部55で検出された頭頂部が基準位置にあればずれ量検出部56で検出されるずれ量はゼロとなり、頭頂部が基準位置から離れる程ずれ量が大きくなる。
本実施形態の運動支援システム1を用いれば、使用者2は、立った状態で頭頂部の位置を固定しつつ、実測映像31の棒グラフの動きを模範映像32に合わせるように、左右の各脚にそれぞれ掛かる荷重を移動させることにより、正しい運動を行うことができる。この運動を行うことにより、使用者2は歩行などに必要なスムーズな重心移動を習得するための訓練を行うことができる。
また、立位で行う運動としては、上述した運動の他にも、所謂バラコン運動のように、頭部および足先を定位置に固定しつつ腰部を水平面内で移動させる運動があり、本実施形態の運動支援システム1はこのような運動にも用いることができる。この場合、測定装置4は、使用者2の左右の荷重の分布だけでなく、使用者2の前後の荷重の分布についても測定可能な構成とすることが望ましい。また、位置検出部55は距離画像中から使用者2の頭頂部と足先とをそれぞれ特定部位として検出し、ずれ量検出部56は、使用者2の頭頂部および足先の各基準位置からの距離を、それぞれ特定部位の動きのずれ量として検出する。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
(実施形態3)
本実施形態の運動支援システム1は、ハーフミラーを備えていない点が実施形態1の運動支援システム1と相違する。また、本実施形態では、使用者2の前方に配置され使用者2を前方から撮像する向きにレンズが向けられた撮像装置(図示せず)が設けられている。
撮像装置は、たとえばカメラスタンド等を利用して表示装置3の正面側(使用者2側)における使用者2の目の高さ位置に設置されている。さらに、撮像装置は、その視野内に使用者2の全身が含まれ、且つ使用者2が体幹を直立させた状態で身体の左右方向における中心線が距離画像の左右方向の中心線に一致するように、チルト角およびパン角が調節されている。
上述したような撮像装置の位置および向きの調節は、使用者2の位置、目線の高さ等が決定してから初期設定として行われる。これにより、撮像装置では、使用者2の全身を映した動画像(以下、「全身映像」という)が撮像されることになる。
制御装置5は、表示装置3と撮像装置との両方に接続されており、撮像装置で撮像された映像を加工して表示装置3に表示させる表示制御部としての機能を持つ。具体的には、制御装置5は、全身映像を撮像装置から取得し、取得した全身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部(図示せず)を有する。さらに、制御装置5は、反転映像の左右方向の中心線が表示面30の左右方向の中心線に一致するように、反転映像を表示装置3に表示させる。これにより、表示装置3の表示面30には、使用者2の全身の映像が、鏡に映った鏡像のように左右反転されて表示されることになる。
すなわち、撮像装置で撮像される映像は、何の加工も施されなければ、鏡像のように左右が反転されることはなく、表示面30に正対する使用者2から見た左右と、表示面30に表示される映像における左右とは反対になる。要するに、撮像装置で撮像された使用者2の全身の映像が、何の加工も施されずに、使用者2と正対する表示装置3の表示面30に表示されると、表示面30上では右側に使用者2の左半身が映り、左側に使用者2の右半身が映ることになる。
これに対して、反転映像は全身映像を左右反転させた映像であるから、表示装置3は、表示面30上では右側に使用者2の右半身が映り、左側に使用者2の左半身が映るように反転映像を表示する。その結果、表示装置3は、表示面30に映る反転映像を使用者2に視認させることにより、使用者2に対して、反転映像を自らの全身の鏡像と錯覚させることができる。
ここで、制御装置5は、撮像装置から入力される映像をリアルタイム(1秒間に15〜30フレーム程度)で加工(反転)して、表示装置3に映像信号を出力する。表示装置3は、制御装置5からの映像信号を受け、リアルタイムで反転映像を表示する。そのため、表示装置3の表示面30には、実際の使用者2の動きに合わせて動く動画像が反転映像として表示されることになる。たとえば、使用者2が右腕を上げると、その動きに合わせて表示面30に表示される反転映像においても使用者2から見て右側の腕が上がることになる。
すなわち、本実施形態の運動支援システム1は、光学的に形成される鏡像を提示することはなく、表示装置3に表示された反転映像を使用者2に視認させ、使用者2に対して、反転映像を自身の鏡像と錯覚させることができる。
さらに、実測表示部52および模範表示部53は、反転処理部で生成された反転映像と共に、実測映像31および模範映像32を表示装置3に表示させる。反転映像は実測映像31および模範映像32と重なるように表示されてもよいが、この場合、反転映像は半透明(たとえば透過率50%)の映像として表示されることが望ましい。
以上説明した本実施形態の運動支援システム1によれば、ハーフミラーを省略した分だけ、実施形態1のシステムに比べて構成を簡略化できるという利点がある。しかも、本実施形態の構成では、比較的大型の画面を備えるディスプレイが予め備わっていれば、専用のディスプレイを新設しなくても、既存のディスプレイを表示装置3として用いることが可能であるため、システムの導入コストを低減できる。
また、制御装置5は、使用者2の鏡像の代わりに、使用者2を模した所謂アバターのような身体モデルをコンピュータグラフィックスで生成し、使用者2の動きを反映させた身体モデルを表示装置3に表示させてもよい。
この場合、制御装置5は、身体モデルを生成する際、距離画像から検出された特定部位の位置を、距離画像センサ6で得られる距離画像について規定された撮像座標系の座標位置から、仮想空間に規定された表示座標系の座標位置へと座標変換する。ここでいう仮想空間は、表示装置3の前方における使用者2の位置を含む直方体状の空間に対応しており、使用者2の前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ座標軸とする三次元直交座標系の空間である。つまり、制御装置5は、所定の変換式を用いて、距離画像センサ6が基準となる極座標系から、仮想空間に規定された三次元直交座標系へと特定部位の位置を座標変換した上で、身体モデルを生成する。ここで、身体モデルを生成するために必要な使用者2の特定部位の位置は、位置検出部55にて検出可能である。
なお、使用者2の荷重の分布は実測映像31にて使用者2に提示されているので、使用者2が自身の像(鏡像)を見ながら運動できることは必須ではなく、反転映像を表示する機能は省略されていてもよい。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
また、実施形態3の構成は、実施形態2の構成と組み合わされてもよい。