本明細書中では、エネルギーハーベスティングを目的として、振動駆動型の発電装置が提案されている。この発電装置では、交互に配列されたエレクトレットと対向電極がプルーフマスの下部において同一表面に形成されている。本明細書中で提案されている発電装置の特徴は、以下の通りである。第1の特徴は、強誘電体基板に形成されるフリンジ電界が利用されている点である。第2の特徴は、2つの電極間に占める誘電体の体積占有率の変化が利用されている点である。第3の特徴は、1,000以上の大きな比誘電率を有する強誘電体が可動体としてではなく基板として用いられている点である。第4の特徴は、プルーフマスの移動量に対して従来より大きな容量値の変化を得ることが期待される点である。第5の特徴は、表面マイクロマシニングを適用することができるので、配線を含む構造を単純化して製造コストを削減することが可能な点である。なお、本明細書中では、提案された動作原理の妥当性を確認するために、電界の演算や容量変化の調査が行われているが、これらの演算や調査には有限要素法(FEM[Finite Element Method])シミュレーションが用いられている。MEMS製造プロセスは、多軸方向(X軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向)に各々対応する3つのデバイスによって形成される発電システム用に設計されている。装置製造の第1ステップとして、櫛歯形に形成された高分子膜(CYTOP[登録商標]フィルム)には、所定量の電荷が首尾よく注入される。
(第1節−序論)
近年、微小発電システムは、バッテリやスラスタなどの用途で、大きな注目を集めている。ユビキタスセンサネットワークやモバイル通信など、低消費電力用途向けのバッテリとして、振動駆動型の発電装置が報告されている。電磁型や圧電型に比べて、静電型の発電装置は、微細加工技術との整合性や数十Hz以下の低周波帯振動に対する適合性の点で有利であると考えられている。微細加工された容量性の振動駆動型発電装置については、その発電能力に関する調査結果がいくつか報告されている。なお、このような振動駆動型発電装置では、エレクトレットが利用されている。エレクトレットとは、それに注入された電荷を長期間、すなわち、半永久的に保持する素子である。本明細書中においても、エレクトレットを用いた容量性のMEMS発電装置が重点的に取り扱われている。
上記報告済みの容量性発電装置において、2つの電極間の絶縁体としては、空気などの気体や真空(比誘電率ε=1)が用いられている。上記の絶縁体を強誘電体、例えば、上記の絶縁体よりもずっと大きな比誘電率εを有するPZTやBaTiO3など(これらの比誘電率εは通常1,000以上)に置き代えてやれば、より大きな発電出力を得ることが期待できる。また、上記報告済みの容量性発電装置は、通常、単一方向の振動を利用するものである。ランダムな人体の動きによる運動エネルギーを回収するためには、多軸振動を利用する発電装置の方がより望ましい。
これらの状況に鑑み、本願の発明者は、プルーフマスの移動によって生じる容量変化に応じたエレクトレット発電システムの開発を目指している。このエレクトレット発電システムは、下記2点の特徴を有している。第1の特徴は、上記の発電装置は、水平方向の振動だけでなく、垂直方向の振動からも電流を生成することができるという点である。これは、エネルギー回収の効率化を図る上で有用である。第2の特徴は、上記の発電装置は、2つの電極間の重なり面積及び/またはギャップ距離の変化を利用するだけでなく、2つの電極間に占める誘電体の体積占有率の変化も利用している点である。
後者の目的を達成すべく、本願の発明者は、以前に、非常に大きな容量変化を得る目的で、強誘電体のPZT(比誘電率εr=2,600)をプルーフマスとして用いた発電装置を報告した。このエレクトレット発電装置の原理については、図1で概略的に示されている。図1は、強誘電体のPZT板を用いた電極対面型の発電装置の電気的モデル図である。なお、図中の符号A1はベース電極、符号A2はエレクトレット、符号A3はパリレン、符号A4はPZT板、及び、符号A5は対向電極を示している。初めから所定量の電荷Qがベース電極A1上のエレクトレットA2にトラップされているので、2つの電極間(エレクトレットA2と対向電極A5との間)における容量値Cに変化が生じると、その電荷Qの一部が対向電極A5に誘導され、外部回路に電流Iが供給される。なお、容量値Cは、下記の(1)式で表される。
上記(1)式中において、ε0は空気の比誘電率であり、Sは対面している2つの電極間の重なり面積であり、dは2つの電極間のギャップ距離である。プルーフマスが水平方向に振動駆動された場合、上記の重なり面積Sが変化して容量値CがΔCだけ変化する。なお、比誘電率εrを乗算した重なり面積Sが容量値Cに影響を及ぼすことから、比誘電率εrが大きいほど、より大きな変化量ΔCが得られる点に注目すべきである。一方、プルーフマスが垂直方向に振動駆動された場合、上記のギャップ距離dが変化して、容量値CがΔCだけ変化する。この場合も、上記と同様の理由から、比誘電率εrは大きい方がより好ましい。
しかしながら、上記した報告済みの発電装置は、一つの問題点を有していた。この発電装置を含む従来の容量性発電装置において、図2A及び図2B(エレクトレットを櫛歯形の部材に分割することの効果を説明するための模式図)で示すように、プルーフマスの水平移動時における容量値Cの変化量ΔCを増大させるためには、エレクトレットA2を櫛歯形の部材に分割するべきである。なぜなら、重なり面積率の変化について見ると、図2Aの構成ではb/aであるのに対して、図2Bの構成では2n×(b/a)(ただしnは櫛歯の本数)であり、同一量の水平移動に対してn倍の面積率変化が生じるからである。
このとき、発電量の増大を目的として2電極間の重なり面積Sを最大化するためには、櫛歯形のエレクトレットA2とこれに対応する櫛歯形の対向電極A5とを正確に配列することが要求される。従来の容量性発電装置は、一般に、エレクトレットA2を支持する部材と対向電極A5を支持する部材から成り、これらの部材は各個別に製造された後、微小なギャップ距離を持たせて互いに対向する形で最終的に貼り合わされていた。しかしながら、このような組立構造では、エレクトレットA2と対向電極A5とを正確に配列することが極めて困難であった。
このような問題を解決するために、本明細書中では、表面マイクロマシニングが可能な容量性発電装置が提案されている。そして、図3A〜図3Cに示したように、この発電装置において、櫛歯形のエレクトレットB2と対向電極B4は、プルーフマスB1の下部において同一表面に形成されている。ここでの配列は、フォトリソグラフィ技術による単一マスクを用いて、正確に実施される。また、電気的な配線は、プルーフマスB1の表面上にのみ必要であり、基板B5の表面には不要である。従って、構造を単純化して製造コストを削減することが期待できる。また、この発電装置において、プルーフマスB1は、バルクPZTやセラミック基板上にスクリーン印刷されたBaTiO3などの強誘電体基板B5の上部に設けられている。強誘電体素材は、一般にエッチングすることが難しい。そこで、今回提案する発電装置では、実際の製造工程を鑑み、懸架されたプルーフマスB1としてではなく、基板B5として強誘電体が用いられている。このような構成は、今回提案する発電装置が備えた特徴の一つである。強誘電体基板B5に形成されるフリンジ電界B7は有効に利用されるが、その詳細な原理については、後ほど説明する。
今回提案する発電装置の独創的な特徴については、下記の通り総括することができる。第1の特徴は、交互に配列された2電極(すなわち、エレクトレットと対向電極)の間に形成されるフリンジ電界が利用されている点である。第2の特徴は、2つの電極間に占める誘電体の体積占有率の変化が利用されている点である。第3の特徴は、1,000以上の大きな比誘電率を有する強誘電体がプルーフマスとしてではなく基板として用いられている点である。第4の特徴は、これらの考案により、プルーフマスの移動量に対して従来よりも大きな容量値の変化を得ることが期待され、延いては、より大きな発電量が得られる点である。第5の特徴は、表面マイクロマシニングを適用することができるので、配線を含む構造を単純化して製造コストを削減することが可能な点である。
また、以下で説明する本明細書の内容は、次のように系統化されている。次の第2節では、今回提案する発電装置の概念及び動作原理が説明されている。第3節では、電界の演算や容量変化の調査を行うために、有限要素法(FEM)シミュレーションが実施されている。第4節では、発電装置の製造工程が説明されている。第5節では、発電装置の実際の製造前に、所定量の電荷が高分子CYTOPフィルムに予め注入されている。これは研究段階の装置を用いたエレクトレット製造の可能性を確かめるためである。
(第2節−概念及び動作原理)
2.1 装置構造
本節では、概念及び動作原理について、図3A〜図3Cを参照して説明する。図3A〜図3Cは、いずれも発電原理を説明するための模式図であり、それぞれ、可動体が初期位置にある状態、可動体が水平移動された後の状態、及び、可動体が垂直移動された後の状態を示している。なお、本図中の符号B1はプルーフマス(可動体)、符号B2はエレクトレット、符号B3はベース電極、符号B4は対向電極、符号B5は強誘電体基板、符号B6はフローティング電極、及び、符号B7はフリンジ電界を示している。
エレクトレットB2は、電気的に接地されたベース電極B3に隣接して形成された高分子素材(本実施形態では例えばCYTOPを使用)から形成されている。櫛歯形のエレクトレットB2は、図3A〜図3Cに示すように、絶縁体(本実施形態では、例えばSU−8やパリレンを使用)から成る可動体B1の下面に形成されている。櫛歯形の対向電極B4は、エレクトレットB2と同じく、可動体B1の下面に形成されている。すなわち、可動体B1の下面には、交互に配列された2つの電極(すなわち、エレクトレットB2と対向電極B4)がいずれも形成されている。フリンジ電界B7は、上記2電極間に形成される。フリンジ電界B7を利用することにより、製造面やコスト面でより好ましい表面マイクロマシニングを適用することが可能となる。
MEMS技術を用いることにより、可動体B1は、PZT板、或いは、セラミック板上のBaTiO3のような強誘電体基板B5の上部に形成される。ここで、電気力線は、誘電体を貫く一方、導電体を貫かないことが知られている。そこで、強誘電体基板B5の表面には、櫛歯形の金属性のフローティング電極B6が形成されている。なお、強誘電体基板B5の表面に形成された金属性のフローティング電極B6は、電気的に浮いた状態、すなわち、接地端や電源端などに接続されていない状態とされている。
2.2 水平振動時の動作原理
外的な振動入力によって可動体B1が水平方向に移動されたとき、図3Aと図3Bとを用いて対比的に示したように、フリンジ電界B7とフローティング電極B6との相対的な配置関係が変化し、強誘電体基板B5を貫く電気力線の状態が変化する。つまり、可動体B1の初期位置(図3Aを参照)では、電気力線が強誘電体基板B5の内部に進入しやすい状態となっているが、可動体B1の水平移動後の位置(図3Bを参照)では、電気力線がフローティング電極B6によってブロックされ、強誘電体基板B5の内部に進入しにくい状態となる。この事実は、エレクトレットB2と対向電極B4との間に形成される容量C(=εrε0S/d、符号の意味については第1節を参照)が変化することを意味している。この変化は、2つの電極間に存在する誘電体と空気の体積比、すなわち、等価比誘電率εrが変化することによって生じる。
2電極間における上記の容量変化に伴って、所定量の電荷Qが対向電極B4に導入される。そして、この電荷Qは、下記の(2)式に基づき、電流Iとして引き出される。
なお、上記(2)式中、Vchargeは、エレクトレットB2の表面電圧を示している。図3A及び図3Bの左側には、それぞれ、今回提案する発電装置の上記概念及び動作原理を模式的に示した等価回路が描写されている。
上記(2)式から分かるように、大きな電流Iを発生させる上で、比誘電率εrは大きいほど好ましいことに留意すべきである。上記(2)式は、基板B5を形成する素材として、高い誘電率を持つ素材、すなわち、強誘電体を採用することの重要性を示している。
2.3 垂直振動時の動作原理
可動体B1が垂直方向に移動されたとき、図3Aと図3Cとを用いて対比的に示したように、可動体B1と基板B5との垂直距離がより小さくなると、等価比誘電率εrはより大きくなり、逆に、可動体B1と基板B5との垂直距離がより大きくなると、等価比誘電率εrはより小さくなる。従って、水平方向の振動時と同様の原理に基づいて発電することができる。
(第3節−容量変化に関するFEMシミュレーション)
3.1 シミュレーション条件
本節では、先述の動作原理を理論的に確認する。フリンジ電界を分析的に演算することは困難である。そこで、容量変化とプルーフマスの移動量との関係を知るために、FEMシミュレーションを実施した。FEMソフトウェアとしては、Comsol社製のFEMLABを採用した。シミュレーション条件は図4に示されている。なお、図4中の符号は図3A〜図3C中の符号と同様であり、符号B1がプルーフマス(素材:パリレン(εr=3.15)、符号B2がエレクトレット(素材:CYTOP(εr=2.1)、表面電圧:−300V)、符号B3がベース電極(0V)、符号B4が対向電極(0V)、符号B5が基板(素材:PZT(εr=2,600)、または、SiO2(εr=3.1))、符号B6がフローティング電極である。また、符号B8はギャップ間に存在する空気である。図4に示すように、今回のFEMシミュレーションでは、対称性を考慮に入れて、2次元(2D)モデルを採用した。構造、素材、及び、寸法については、実際の発電装置用に設計された具体的な製造プロセス(詳細は第4節にて詳述)を参照している。
基板として強誘電体を使用することの効果を調べるために、基板B5の素材としては、PZT(εr=2,600)のほかに、SiO2(εr=3.1)を参照用として用いた。
分析空間の総容量は、下記の(3)式中に挙げる全てのFEM要素の電気的データを積分することによって演算されている。
上記(3)式中、Weは電気エネルギーの総量であり、VchargeはエレクトレットB2の表面電圧である(想定値は−300V、第5節を参照)。Eは電界を示しており、Dは電気的変位量を示している。分析空間における上記パラメータ値を用いることにより、1mm×1mm板の総容量が演算される。
3.2 シミュレーション結果
電気力線と電位の分布に関するシミュレーション結果から、電気力線は、部分的にフローティング電極B6にブロックされながらも、強誘電体基板B5に確実に進入していることを確認することができた。
また、プルーフマスB1の変位により、先出の(1)式に従う容量Cが得られる。初期位置(図3Aを参照)から水平方向(X方向)へのマス変位に応じた容量変化のシミュレーション結果は図4に示されている。同様に、垂直方向(Z方向)へのマス変位、すなわち、可動体B1と基板B5表面とのギャップ距離に応じた容量変化に関するシミュレーション結果は図5に示されている。
これらの図を見ることにより、水平方向及び垂直方向のいずれのマス変位に応じても、容量が確実に変化していることが証明される。このことは、多軸振動入力に応じて発電を行う上で効果的である。また、PZT基板を用いた場合のマス変位に応じた容量変化率はSiO2を用いた場合のそれに比べて優れていることが証明される。このことは、大きな比誘電率を有する強誘電体基板の使用が効果的であることを示している。
(第4節−製造プロセス)
MEMS発電システムの概要は、図7に示されている。なお、本図に示すMEMS発電システムは、X、Y、Z方向用として、3つの発電装置C1、C2、C3を含んでいる。また、本図中の符号D1はプルーフマス(可動体)、符号D2は梁部、符号D3はエレクトレット、符号D4は対向電極、符号D5はフローティング電極を示している。
今回提案する発電装置の製造プロセスは、実際の発電装置用に設計されたものであり、図8A〜図8Fに示されている。本節では、以下に詳細を説明する。
図8Aには、フローティング電極を形成するために、アルミニウムのスパッタリングとパターニングが行われる様子が示されている。
まず、シリコンウェハE1(厚さ500μm)が準備される。シリコンウェハE1上に表面研磨されたPZT板E3(10mm角、厚さ100μm、フルウチ化学社製、εr=2,600)が貼り付けられる。このとき、接着剤E2としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS[polydimethylsilozane])が用いられる。その後、アルミニウムE4(厚さ0.1μm)がPZT板E3の表面にスパッタされ、櫛歯形のフローティング電極がパターニングされる。
図8Bには、プラズマ化学気相堆積法(PECVD[plasma-enhanced chemical vapor deposition])を用いてアモルファスシリコンが堆積され、さらにそのアモルファスシリコンにスロットやディンプルが形成される様子が示されている。
アモルファスシリコンE5(厚さ1μm)は、PECVDを用いて犠牲層として堆積される。その後、スロットE6やディンプルE7を形成するために、SF6プラズマを用いてエッチングされる。なお、アモルファスシリコンE5の機能は後述する。
図8Cには、注入済み電荷を保護するためにパリレンが堆積された後に、CYTOPがスピンコーティングされ、さらに、そのCYTOPがO2プラズマによってエッチングされる様子が示されている。
パリレンE8(厚さ2μm)は、以後のプロセス中や、可動体が基板と衝突するような使用時においても、エレクトレットの注入電荷が放電してしまわないように保護する目的で、CVDによって堆積される。パリレンE8の堆積は等角であることから、アモルファスシリコンE5上のスロットE6(図8Bを合わせて参照)は、パリレンE8によって満たされており、これによって、可動体と基板とを結ぶアンカーが形成される。梁部とアンカー部/マス部とを結ぶ結合部材の機械的強度を鑑みると、アンカー部とマス部のいずれにおけるパリレンE8の高さも互いに同一であることが望ましい。そのため、アモルファスシリコンE5にはスロットE6が形成されており、アンカー接触面積が最小限とされている。また、アモルファスシリコンE5上に形成されたディンプルE7(図8Bを合わせて参照)にも、パリレンE8が満たされており、アモルファスシリコンE5を除去した後には、スティクション(貼り付き)防止用のバンプが形成される。
CYTOPフィルムE9(旭硝子社製、CTL−809型)は、パリレンE8の表面にスピンコートされた後、120℃で10分間乾燥される。なお、1回のスピンコートにより、0.3μmの厚さが得られる。このプロセスは10回繰り返され、合計3μmの厚さが得られる。そして、最終的には180℃で1時間乾燥される。CYTOPフィルムE9は、櫛歯形のエレクトレット領域を形成するために、O2プラズマでエッチングされる。
図8Dには、対向電極を形成するために、アルミニウムのスパッタリングとパターニングが行われる様子が示されている。なお、コロナ放電(大気放電)によるCYTOPフィルムへの電荷注入は、この時点で行われる。
アルミニウムE10(厚さ0.5μm)は、櫛歯形の対向電極を形成するために、スパッタリング及びパターニングされる。その後、形成済みのCYTOPフィルムE9(図8Cを合わせて参照)に対して、コロナ放電(大気放電)により所定量の電荷が注入される(詳細は第5節にて後述)。なお、表面電圧Vchargeの想定値は−300Vである。
図8Eには、パリレンが堆積され、その上にベース電極としてのアルミニウムがスパッタリングされた後、さらに、パリレンが堆積される様子が示されている。
パリレンE11(厚さ4μm)は、放電防止用に堆積される。アルミニウムE12(厚さ0.5μm)は、櫛歯形のエレクトレットの基板電極を形成するために、スパッタリング及びパターニングされる。そして再び、パリレンE13(厚さ3μm)が放電防止用に堆積される。
図8Fには、SU−8層がスピンコーティング及びパターニングされた後、O2プラズマによりパリレンがエッチングされ、さらに、XeF2によりアモルファスシリコンがエッチングされることにより、プルーフマス部と梁部が誘電体基板から切り離される様子が示されている。
SU−8層E14(厚フォトレジスト、KAYAKU MICROCHEM社製、KMPR−1035)は、プルーフマス部を形成するために、スピンコーティング及びパターニングされる。その後、支持梁部を形成するために、O2プラズマによってパリレンE13、E11、及び、E8(図8E及び図8Bを合わせて参照)がエッチングされる。最後に、マス部と梁部とを誘電基板から切り離すために、犠牲的なアモルファスシリコンE5(図8Bを合わせて参照)がXeF2ガスを用いて除去される。このドライエッチングプロセスは、スティクションを防止する上で効果的である。なお、人体の動きなど(数十Hzの振動)から効率よく発電を行うためには、プルーフマス部を指示する梁部(バネ部)を形成する素材として、アスペクト比(縦/横)を大きく設計する必要がある。そこで、図8Fでは、厚膜形成が容易なSU−8層E14が梁部の素材として採用されている。
これらのプロセスは、現状において、その一部が実際に実施されており、最適なプロセス条件が模索されている段階である。実際の発電装置の製造や評価については、今後の研究課題である。
(第5節−電荷注入試験)
本節では、所定量の電荷をCYTOPフィルムに注入する一つの予備実験が行われている。もちろん、電荷がCYTOPフィルムに注入され得ることについては、すでに他の研究によって確認されている。そこで、ここで記載されている結果は、我々の研究室で現在使用可能な装置による充電能力を確かめるための一種のフォローアップ研究である。
まず、シリコンウェハが準備される。このウェハの表面上に、放電防止用の絶縁体としてパリレン(厚さ2μm)が堆積される。その後、CYTOPフィルム(厚さ3μm)がその上に形成される(詳細については第4節を参照)。CYTOPフィルムは、櫛歯形のエレクトレットとなる5μm−5μmの線−空間パターン(line-space pattern)を形成するために、O2プラズマによってエッチングされる。
所定量の電荷は、コロナ放電によって、加工されたCYTOPフィルムに注入される。この目的のために、静電放電シミュレータ(ノイズラボラトリー社製、typeESS−2002)が用いられている。この実験において、−8kVが放電銃の出力電圧として採用されている。等価電気回路は、図9に概略的に示されている。実験では、2つの放電モデルが適用されている。一つは大気放電モデル(図10Aを参照)であり、もう一つは接触放電モデル(図10Bを参照)である。放電は、各放電間に0.5秒のインターバルを持って、合計600回行われた。接触放電においては、放電期間にスイッチを開くことにより、試料が絶縁状態に保たれた。
なお、図10A及び図10B中の符号F1はシリコンウェハ、符号F2はパリレン、符号F3はCYTOPフィルム、符号F4は放電シミュレータ、符号F5はスイッチを示している。
上記放電後、静電センサ(SUNX社製、typeEF−S1)を用いてCYTOPフィルムの表面電圧が測定された。その結果、大気放電モデルでは約−350V、接触放電モデルでは−250Vがそれぞれ得られることが確かめられた。静電放電シミュレータを用いることにより、CYTOPフィルムへの電荷注入は確かに可能であり、高い表面電圧を得るという観点からすれば、大気放電モデルは接触放電モデルよりも好ましいことが証明された。しかしながら、他の研究によって、約−1,000Vのより高い表面電圧が報告されている。放電中における基板の加熱など、放電の実験条件を変えることにより、この値に追いつくための研究は将来的な課題である。
(第6節−結論)
上記で説明したように、本明細書中には、エネルギーハーベスティングを目的として、表面マイクロマシニングが可能な容量性発電装置が提案されている。その発電装置では、交互に配列されたエレクトレットと対向電極がプルーフマスの下部において、同一表面に設けられている。この発電装置は、1,000以上の大きな比誘電率を有する強誘電体基板中に形成されるフリンジ電界を利用する。
電界の演算やマス変化に応じた容量変化の調査のために、有限要素法(FEM)シミュレーションを行った。その結果、今回提案した動作原理の正当性が確認された。MEMS製造プロセスは、多軸振動(X軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向)に各々対応する3つのデバイスによって形成される発電システム用に設計されている。
実際の発電装置の全体的な製造や評価については、今後の研究課題である。特に、金属堆積やウェットエッチングなどの製造プロセス中における放電を防止するための保護層として用いられるパリレンフィルムの能力を確かめることについては、優先的に検討すべき重要な課題である。
上記の発電装置を用いたエネルギーハーベスティングにより、電池寿命を心配する煩わしさから解放される。
また、各種センサや無線機器(例えば、ZigBee・300MHz帯特定小電力無線機器)用の電源として、上記の発電装置を適用することにより、無線センサネットワークによるユビキタス環境を構築することができる。すなわち、各種のセンサや無線装置の電源配線が不要となるので、各々の機器を分散配置して、ネットワーク内での情報連携を実現することが可能となる。
なお、上記発電装置を用いたユビキタス環境の使用シーンとしては、例えば、医療・健康分野(健康管理や安否確認)、構造物監視(ワイヤ断線やボルト緩みの監視)、プラント監視(設備異常の監視)、並びに、物流管理(流通状態や品質の監視)などを挙げることができる。
なお、本明細書中で提案する発電装置であれば、表面マイクロマシニングを適用することができるので、製造コストを低減することが可能となる。
また、本明細書中で提案する発電装置であれば、基板とプルーフマス(可動体)とのギャップ距離を小さくすることができるので、従来構造よりも小型化・高効率化を実現することが可能となる。
また、本明細書中で提案する発電装置であれば、フリンジ電界と強誘電体を利用して、等価的な比誘電率の変化を発電動作に利用することができるので、従来構造(エレクトレットと対向電極との重なり面積変化を発電動作に利用した構造)よりも、発電効率(振動の検出感度)を大幅に高めることが可能となる。
また、本明細書中で提案する発電装置であれば、水平方向の振動だけでなく、垂直方向の振動も発電動作に利用することができるので、さらなる発電効率の向上を実現することも可能となる。
また、上記では、エレクトレットに電荷を注入するための手法として、コロナ放電(大気放電)と接触式放電の2種類が検討されているが、本明細書中で提案する発電装置であれば、エレクトレット材が露出した端子(以下、適宜エレクトレット端子と呼ぶ)を装置外部に引き出しておくことにより、製造プロセスの最終工程で、接触式放電を用いてエレクトレットに電荷を注入することができる。従って、大規模なコロナ放電設備が不要となるので、製造コストを削減することが可能となる。また、製造工程途中での放電の心配がないというメリットもある。また、最終工程の犠牲層エッチング直前に、可動体に設けられた貫通穴から放電プローブを差し込んでCYTOPへの電荷の打ち込みが可能であるため、基板を貼り合わせる従来方式と異なり、表面マイクロマシニングが適用可能となる。また、可動体下部の櫛歯電極(エレクトレットと対向電極)と、誘電体上部のフローティング電極との間のミスアライメントの解消にもつながる。
以上より、本明細書中で提案する発電装置であれば、従来構造の発電装置に比べて、100倍の高出力と1/2のコストを実現することが可能となる。
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図11は、本発明の第1実施形態による発電装置の構造を示した斜視図である。図12は、図11のα1−α1線に沿った断面図である。図13は、図11に示した本発明の第1実施形態による発電装置の平面図である。図14〜図17は、本発明の第1実施形態による発電装置の構造を説明するための図である。まず、図11〜図17を参照して、本発明の第1実施形態による発電装置50の構造について説明する。
第1実施形態による発電装置50は、図11に示すように、セラミック基板1と、セラミック基板1上に形成された強誘電体層2と、強誘電体層2を囲むようにセラミック基板1上に形成された枠体部3と、枠体部3の内側に配置されたプルーフマス4とを備えている。なお、強誘電体層2は、本発明の「誘電体層」の一例であり、プルーフマス4は、本発明の「可動部」の一例である。
セラミック基板1は、Al2O3から構成されているとともに、約1mmの厚みを有している。このセラミック基板1の上面上には、グレーズ層5が形成されている。なお、グレーズ層5は、強誘電体層2などを形成するのに適した平滑面を得るために設けられている。また、セラミック基板1(グレーズ層5)の上面上であるとともに、枠体部3の外側の所定領域には、スクリーン印刷法によって形成された配線層6が設けられている。この配線層6は、たとえば、Au(金)などから構成されている。
ここで、第1実施形態では、強誘電体層2は、BaTiO3(比誘電率:1,000以上)から構成されている。また、強誘電体層2は、図12および図14に示すように、セラミック基板1(グレーズ層5)上の所定領域に、スクリーン印刷法によって形成されている。この強誘電体層2は、平面的に見て、実質的に四角形状を有している。
また、第1実施形態では、強誘電体層2は、5μm以上の厚みに構成されている。具体的には、強誘電体層2は5μm〜20μmの厚みt1(図16参照)に構成されている。
また、プルーフマス4は、パリレン(Parylen:パラキシリレン系樹脂)から構成されているとともに、図12および図16に示すように、約5μmの厚みt2(図16参照)に構成されている。また、プルーフマス4は、図13に示したように、平面的に見て、実質的に四角形状(一辺の長さが約1000μm)に形成されている。
ここで、第1実施形態では、図15に示すように、プルーフマス4の裏面側(下面側)には、2つの電極(第1電極7および第2電極8)が、同一平面内に隣り合うように形成されている。具体的には、第1電極7および第2電極8は、平面的に見て、それぞれ、櫛歯状に形成されているとともに、第1電極7の櫛歯部7aと第2電極8の櫛歯部8aとが交互に配列されるように構成されている。また、図16および図17に示すように、第1電極7の櫛歯部7aの幅wおよび第2電極8の櫛歯部8aの幅wは、それぞれ、約5μmに構成されているとともに、第1電極7の櫛歯部7aから隣り合う第2電極8の櫛歯部8aまでの長さgも、約5μmに構成されている。なお、第1実施形態による発電装置50では、図15に示すように、第1電極7および第2電極8は、プルーフマス4の裏面(下面)側のほぼ全面に形成されている。
上記の第1電極7は、対向電極に相当するものであり、アルミニウムなどの金属素材から成る(図3A〜図3C及び図4の符号B4、並びに、図8Dの符号E10を参照)。また、上記の第2電極8は、所定量の電荷を半永久的に保持するエレクトレット部分(CYTOPフィルムなど)と、発電時における電位の基準をとるためのベース電極部分(アルミニウムなど)とを重ね合わせた構造とされている(図3A〜図3Cや図4の符号B2及びB3、図8Cの符号E9、並びに、図8Eの符号E12を参照)。
また、プルーフマス4は、図11および図13に示すように、一体的に連結された4つの梁部9を含んでいる。この4つの梁部9は、プルーフマス4の4つの角部の各々に1つずつ配置されており、平面的に見て、放射状に広がるように形成されている。また、4つの梁部9の端部は、それぞれ、枠体部3と一体的に連結されている。これにより、プルーフマス4は、図11および図12に示すように、強誘電体層2と対向するように配置された状態で、強誘電体層2の上方に支持されている。なお、強誘電体層2の上面からプルーフマス4(第1電極7および第2電極8)までの距離d(図12および図16参照)は、約1μmである。
また、4つの梁部9は、それぞれ、約5μmの厚みを有しているとともに、約50μmの幅を有している。すなわち、4つの梁部9は、セラミック基板1の上面に対して垂直方向(矢印Z方向)に弾性変形し易くなるように、幅方向の長さが厚み方向の長さよりも大きく構成されている。これにより、4つの梁部9によって支持されたプルーフマス4は、加速度が加わると、その慣性力によって、セラミック基板1の上面に対して垂直方向(矢印Z方向)に移動することが可能に構成されている。
また、上述した第1電極7は、図15に示す通り、接続部7bを介して、パッド電極7cに電気的に接続されている。一方、上述した第2電極8のうち、所定量の電荷を半永久的に保持するエレクトレット部分は、電気的に絶縁された状態とされており、発電時における電位の基準をとるためのベース電極部分は、接続部8bを介して、パッド電極8cに電気的に接続されている。なお、パッド電極7cは、発電によって得られた電流を引き出すための電極であり、発電装置50の使用時には、電流供給先である負荷に接続される。一方、パッド電極8cは、発電時における電位の基準をとるための電極であり、発電装置50の使用時には、所定の基準電位に接続される。また、本図では明示されていないが、本実施形態の発電装置50には、発電装置50の製造工程(最終段階)において、第2電極8のエレクトレット部分に所定量の電荷を接触式放電で注入するためのエレクトレット端子が設けられている。なお、エレクトレット端子は、上記の電荷注入時には、所定の接触式放電装置(高電圧印加装置)に接続され、発電装置50の使用時には、オープンまたは接地される。
また、枠体部3は、図12に示すように、プルーフマス4よりも大きい厚みを有しており、図11〜図13に示すように、梁部9を介して、プルーフマス4を保持する機能を有している。なお、枠体部3は、主として、パリレンから構成されている。また、枠体部3の所定領域には、パッド電極7cおよび8cの表面を露出させるための開口部3aが形成されている。
図18は、本発明の第1実施形態による発電装置の動作を説明するための概略断面図である。次に、図15〜図18を参照して、本発明の第1実施形態による発電装置50の動作について説明する。
第1実施形態による発電装置50では、図16および図17に示すように、第1電極7の櫛歯部7aと第2電極8の櫛歯部8aとの間にフリンジ電界(電極間の脇に発生する電界)10が発生している。ここで、フリンジ電界10を発生させる第1電極7および第2電極8が、図15に示したように、それぞれ、櫛歯状に形成されているとともに、互いの櫛歯部7aおよび8aが交互に配列されているため、フリンジ電界10は、プルーフマス4の裏面(下面)側のほぼ全面に均一に発生している。一方、図16〜図18に示すように、プルーフマス4と対向する強誘電体層2は、発生したフリンジ電界10の中に配置された状態となっている。
この状態から発電装置50に垂直方向(Z方向)の振動が加わると、プルーフマス4に慣性力が働くので、これによって、図18に示すように、プルーフマス4が矢印Z方向に移動する。このため、フリンジ電界10中に占める強誘電体層2の体積の割合が変化するので、2電極間に形成されるキャパシタの静電容量値が変化する。上記の容量変化に伴って、所定量の電荷が第1電極7(対向電極)に導入され、これが電流として出力される。
次に、第1実施形態による発電装置50の効果を確認するために行ったコンピュータシミュレーションの結果について説明する。このコンピュータシミュレーションでは、強誘電体層2の厚みt1を種々変化させた場合のカバー率を求めた。
図19は、強誘電体層2の厚みとカバー率との関係を示したグラフである。図19の縦軸は、カバー率(%)を示しており、図19の横軸は、強誘電体層2の厚みt1(μm)を示している。すなわち、図19は、上記した第1実施形態による発電装置50の構成において、強誘電体層2の厚みt1を種々変化させた場合のカバー率の変化を示している。ここで、カバー率は、下記の(4)式によって表される。
上記(4)式中、X1は強誘電体層2の領域に入ってくるフリンジ電界10の電気力線の数を示しており、X2は強誘電体層2の領域でターン出来ずに、強誘電体層2の領域の下部から出てしまう電気力線の数を示している。
すなわち、カバー率は、強誘電体層2に入ってくる電気力線のうち、どの位の割合の電気力線が強誘電体層2内の領域でターンしているのかを示す数値であり、この値が高いほど、プルーフマス4の変位に応じた静電容量値の変化が大きくなる。なお、電極に加える電圧は、一方を0V(第1電極7または第2電極8)とし、他方を5V(第2電極8または第1電極7)とした。
図19に示すように、強誘電体層2の厚みt1を5μm以上に構成することによって、99%以上のカバー率が得られることが判明した。また、強誘電体層2の厚みt1を10μm以上に構成した場合には、ほぼ100%(99.8%以上)のカバー率が得られ、20μm以上に構成した場合には、100%のカバー率が得られることが判明した。なお、強誘電体層2の厚みt1が10μmの場合には、強誘電体層2の厚みt1は、第1電極7および第2電極8の一方の櫛歯部7a(または8a)の幅w(約5μm)と、第1電極7の櫛歯部7aから隣り合う第2電極8の櫛歯部8aまでの長さg(約5μm)との合計長さ(w+g:約10μm)と一致する。また、強誘電体層2の厚みt1が20μmの場合には、強誘電体層2の厚みt1は、上記合計長さ(w+g:約10μm)の2倍(2(w+g))と一致する。
以上のように、強誘電体層2の厚みt1を5μm以上に構成することによって、十分なカバー率を得ることができ、プルーフマス4の変位に応じた静電容量値の変化を十分に大きくすることが可能となることが確認された。これにより、発電能力を向上させることが可能となることが確認された。
第1実施形態では、上記のように、プルーフマス4の強誘電体層2側に第1電極7および第2電極8を形成することによって、第1電極7と第2電極8との間にフリンジ電界10を発生させることができる。また、セラミック基板1上の所定領域に、BaTiO3からなる強誘電体層2を形成することによって、BaTiO3は比誘電率が1,000以上の金属酸化物(強誘電体物質)であるため、強誘電体層2の比誘電率を十分に大きくすることができる。このため、フリンジ電界10中に占める強誘電体層2の体積の割合の変化によって生じる静電容量値の変化を大きくすることができるので、発電装置50に加わる振動を高効率で電流に変換することができる。
また、第1実施形態では、強誘電体層2をBaTiO3から構成することにより、強誘電体層2とプルーフマス4との間の距離dを大きくした場合でも、静電容量値の変化量の低下を抑制することができるので、強誘電体層2とプルーフマス4との間の距離dを大きくすることによって、スティクションの発生を抑制することができる。これにより、スティクションの発生に起因する信頼性の低下を抑制することができる。なお、BaTiO3はPb(鉛)を含有しない強誘電体物質であるため、強誘電体層2をBaTiO3から構成することによって、廃棄物による環境負荷を低減することができるとともに、人体に与える悪影響を低減することができる。
また、第1実施形態では、基板にAl2O3からなるセラミック基板1を用いることにより、基板にシリコン基板などを用いた場合に比べて、絶縁性および機械的強度を向上させることができるので、製造効率を向上させながら、発電能力を向上させることができ、かつ、信頼性を向上させることができる。また、基板にセラミック基板1を用いることによって、シリコン基板を用いた場合に比べて、製造コストを低減することができる。さらに、最終製品のセラミックパッケージ上にMEMS発電装置を直接的に作り込むことが可能となる。
また、第1実施形態では、強誘電体層2の厚みt1を5μm以上に構成することによって、99%以上のカバー率を得ることができるので、静電容量値の変化を大きくすることができる。これにより、製造効率を向上させながら、さらに容易に、発電能力を向上させることができる。なお、強誘電体層2の厚みt1は、10μm以上に構成するのが好ましく、20μm以上に構成するのがより好ましい。
また、第1実施形態では、セラミック基板1と強誘電体層2との間に、グレーズ層5を形成することによって、強誘電体層2の上面の平滑度を向上させることができるので、BaTiO3の粒径を制御することによって、強誘電体層2の上面に、0.1μm〜0.2μm程度の凹凸を設けることができる。
図20〜図28は、本発明の第1実施形態による発電装置の製造方法を説明するための図である。続いて、図11、図15、図16および図20〜図28を参照して、本発明の第1実施形態による発電装置50の製造方法について説明する。なお、第1実施形態による発電装置50は、主として、表面マイクロマシニング技術を用いて製造する。
まず、図20に示すように、約1mmの厚みを有するとともにAl2O3からなるセラミック基板1の上面上に、グレーズ層5を形成する。このグレーズ層5は、たとえば、ガラス成分を含んだ液体をセラミック基板1上に印刷した後、所定温度で焼成することによって形成する。
次に、スクリーン印刷法を用いて、グレーズ層5上に、図11に示した配線層6を形成する。その後、図20に示すように、セラミック基板1(グレーズ層5)上の所定領域に強誘電体層2を形成する。
ここで、第1実施形態では、強誘電体層2は、スクリーン印刷法を用いて形成する。具体的には、グレーズ層5上の所定領域に、BaTiO3を含むペーストを印刷した後、800℃〜1200℃程度の焼成温度で焼成することにより、BaTiO3からなる強誘電体層2を形成する。
また、第1実施形態では、強誘電体層2は、その厚みt1(図16参照)が5μm〜20μmとなるように形成されるとともに、BaTiO3の粒径を制御することによって、強誘電体層2の上面に0.1μm〜0.2μm程度の凹凸(図示せず)が生じるように形成される。
続いて、図21に示すように、プラズマCVD法を用いて、グレーズ層5上に、アモルファスシリコンからなる犠牲層11を、強誘電体層2を覆うように形成する。ここで、犠牲層11とは、後工程で除去することを前提に形成する層のことである。
次に、図22に示すように、フォトリソグラフィ技術とSF6プラズマガスを用いたドライエッチングとにより、犠牲層11に細長状の溝部(スロット)11aを形成する。その後、図23に示すように、犠牲層11の上面上に、第1のパリレン層12を蒸着する。この際、溝部11a内に蒸着された第1のパリレン層12は、プルーフマス4を保持するためのアンカー部となる。
次に、図24に示すように、フォトリソグラフィ技術とO2プラズマガスを用いたエッチングとにより、第1のパリレン層12の所定領域を除去する。
その後、犠牲層11上および第1のパリレン層12上に、スパッタリングまたは蒸着法により、アルミニウム層を堆積するとともに、図25に示すように、堆積したアルミニウム層を、フォトリソグラフィ技術とウェットエッチングとを用いてパターニングする。これにより、図15に示したような櫛歯状の第1電極7が形成されるとともに、第1電極7に電気的に接続されるパッド電極7cが形成される。なお、第1電極7とパッド電極7cとを接続する接続部7b(図15参照)も、上記したアルミニウム層のパターニングにより、同時に形成される。
また、犠牲層11上には、スピンコーティングによってCYTOPフィルムが形成された後、これがO2プラズマでエッチングされる。このような工程により、第2電極8のエレクトレット部分が櫛歯状に形成される。
その後、第1電極7、第2電極8のエレクトレット部分、パッド電極7c、接続部7b(図15参照)を覆うように、犠牲層11上および第1のパリレン層12上に、放電防止用のパリレン(図25及び図26では図示が省略されているが、その詳細については、図8Eの符号E11を参照)が堆積され、その上に、第2電極8のベース電極部分、及び、これに接続されるパッド電極8cとしてのアルミニウムがスパッタリングされる。なお、第2電極8のベース電極部分とパッド電極8cとを接続する接続部8b(図15参照)についても、上記したアルミニウム層のパターニングにより、同時に形成される。
次に、図26に示すように、第2電極8のベース電極部分、パッド電極8c、接続部8b(図15参照)を覆うように、第2のパリレン層13を蒸着する。そして、第2のパリレン層13を図27に示した形状にパターニングする。これにより、パリレンからなるプルーフマス4(図11参照)、梁部9(図11参照)、および、枠体部3(図11参照)が形成される。この際、図27および図28に示すように、枠体部3の所定領域に、パッド電極7cおよび8cの表面を露出させるための開口部3aを形成する。なお、第1のパリレン層12および第2のパリレン層13は、室温で形成(蒸着)可能である。
最後に、XeF2ガスを用いたドライエッチングにより、犠牲層11の所定領域を除去することによって、プルーフマス4と強誘電体層2とを離間させる。このようにして、図11に示した本発明の第1実施形態による発電装置50が形成される。
第1実施形態の製造方法では、上記のように、セラミック基板1上の所定領域に、スクリーン印刷法を用いてBaTiO3からなる強誘電体層2を形成することによって、強誘電体層2を所定の領域に容易に形成することができるので、板状の強誘電体層を基板上に貼り付ける場合などと比べて、製造効率を向上させることができる。なお、第1実施形態による発電装置50では、DRIEプロセスを用いることなく製造することができる。
また、第1実施形態では、スクリーン印刷法を用いてBaTiO3からなる強誘電体層2を形成することによって、スパッタ法やゾルゲル法などを用いて強誘電体層2を形成する場合に比べて、容易に、強誘電体層2の厚みt1を大きくすることができるので、強誘電体層2の厚みt1が小さいことに起因して、静電容量値の変化を大きくすることが困難になるという不都合が発生するのを抑制することができる。これにより、製造効率を向上させながら、発電能力の高い発電装置50を得ることができる。
また、第1実施形態では、セラミック基板1(グレーズ層5)の上面上に、スクリーン印刷法を用いて配線層6を形成することによって、容易に、配線層6を形成することができるので、これによっても、製造効率を向上させることができる。
(第2実施形態)
図29は、本発明の第2実施形態による発電装置の構造を示した斜視図である。図30は、図29のα2−α2線に沿った断面図である。図31は、図29に示した本発明の第2実施形態による発電装置の平面図である。図32〜図35は、本発明の第2実施形態による発電装置の構造を説明するための図である。まず、図29〜図35を参照して、本発明の第2実施形態による発電装置60の構造について説明する。
第2実施形態による発電装置60は、図29および図30に示すように、セラミック基板1と、セラミック基板1上に形成された強誘電体層22と、強誘電体層22を囲むようにセラミック基板1上に形成された枠体部23と、枠体部23の内側に配置されたプルーフマス24とを備えている。なお、強誘電体層22は、本発明の「誘電体層」の一例であり、プルーフマス24は、本発明の「可動部」の一例である。
セラミック基板1は、Al2O3から構成されているとともに、約1mmの厚みを有している。このセラミック基板1の上面上には、上記第1実施形態と同様、グレーズ層5が形成されている。なお、グレーズ層5は、強誘電体層22などを形成するのに適した平滑面を得るために設けられている。また、図29に示すように、セラミック基板1(グレーズ層5)の上面上であるとともに、枠体部23の外側の所定領域には、スクリーン印刷法によって形成された配線層6が設けられている。この配線層6は、たとえば、Au(金)などから構成されている。
ここで、第2実施形態では、上記の第1実施形態と同様、強誘電体層22は、BaTiO3(比誘電率:1,000以上)から構成されている。また、強誘電体層22は、図30および図32に示すように、セラミック基板1(グレーズ層5)上の所定領域に、スクリーン印刷法によって形成されている。この強誘電体層22は、平面的に見て、実質的に四角形状を有している。
また、強誘電体層22は、5μm以上の厚みに構成されている。具体的には、強誘電体層22は、5μm〜20μmの厚みt11(図35参照)に構成されている。
また、第2実施形態では、図30および図32に示すように、強誘電体層22の上面側の所定領域に、アルミニウム(Al)からなるメタル層40(フローティング電極)が形成されている。このメタル層40は、所定のパターンに構成されており、強誘電体層22の上面から突出しないように形成されている。具体的には、メタル層40は、平面的に見て、後述する第1電極27および第2電極28のそれぞれの櫛歯部27aおよび28aに対して平行に延びるように形成されている。また、メタル層40は、その上面が強誘電体層22の上面と実質的に同一面となるように形成されている。
また、プルーフマス24は、パリレン(Parylen:パラキシリレン系樹脂)から構成されているとともに、図30および図35に示すように、約5μmの厚みt12(図34参照)に構成されている。また、プルーフマス24は、図31に示すように、平面的に見て、実質的に四角形状(一辺の長さが約1000μm)に形成されている。
また、第2実施形態では、図33に示すように、プルーフマス24の裏面側(下面側)には、2つの電極(第1電極27および第2電極28)が、同一平面内に隣り合うように形成されている。具体的には、第1電極27および第2電極28は、平面的に見て、それぞれ、櫛歯状に形成されているとともに、第1電極27の櫛歯部27aと第2電極28の櫛歯部28aとが交互に配列されるように構成されている。また、図35に示すように、第1電極27の櫛歯部27aの幅w1および第2電極28の櫛歯部28aの幅w1は、それぞれ、約5μmの長さに構成されているとともに、第1電極27の櫛歯部27aから隣り合う第2電極28の櫛歯部28aまでの長さg1は約5μmに構成されている。なお、第2実施形態による発電装置60では、図33に示すように、第1電極27および第2電極28は、プルーフマス24の裏面(下面)側のほぼ全面に形成されている。
上記の第1電極27は、対向電極に相当するものであり、アルミニウムなどの金属素材から成る(図3A〜図3C及び図4の符号B4、及び、図8Dの符号E10を参照)。また、上記の第2電極28は、所定量の電荷を半永久的に保持するエレクトレット部分(CYTOPフィルムなど)と、発電時における電位の基準をとるためのベース電極部分(アルミニウムなど)とを重ね合わせた構造とされている(図3A〜図3Cや図4の符号B2及びB3、図8Cの符号E9、並びに、図8Eの符号E12を参照)。
また、プルーフマス24は、図29および図31に示すように、一体的に連結された4つの梁部29を含んでいる。この4つの梁部29は、プルーフマス24の互いに対向する2つの側面に、それぞれ、2つずつ配置されており、平面的に見て、同一方向に延びるように形成されている。また、4つの梁部29の端部は、それぞれ、枠体部23と一体的に連結されている。これにより、プルーフマス24は、図29および図30に示すように、強誘電体層22と対向するように配置された状態で、強誘電体層22の上方に支持されている。なお、強誘電体層22の上面からプルーフマス24(第1電極27および第2電極28)までの距離d1(図30および図35参照)は、約1μmである。
また、第2実施形態では、図34に示すように、梁部29は、10μm以上の厚みt12を有しているとともに、約3μmの幅w11を有している。すなわち、梁部29は、セラミック基板1(図29参照)の上面(主面)に対して平行な矢印X方向に弾性変形し易くなるように、厚み方向の長さが、幅方向の長さよりも大きく構成されている。これにより、4つの梁部29によって支持されたプルーフマス24は、加速度が加わると、その慣性力によって、セラミック基板1の上面(主面)に対して水平な矢印X方向に移動することが可能となる。
また、上述した第1電極27は、図33に示すように、接続部27bを介して、パッド電極27cに電気的に接続されている。一方、上述した第2電極28のうち、所定量の電荷を半永久的に保持するエレクトレット部分は、電気的に絶縁された状態とされており、発電時における電位の基準をとるためのベース電極部分は、接続部28bを介して、パッド電極28cに電気的に接続されている。なお、パッド電極27cは、発電によって得られた電流を引き出すための電極であり、発電装置60の使用時には、電流供給先である負荷に接続される。一方、パッド電極28cは、発電時における電位の基準をとるための電極であり、発電装置60の使用時には所定の基準電位に接続される。また、本図では明示されていないが、本実施形態の発電装置60には、発電装置60の製造工程(最終段階)において、第2電極28のエレクトレット部分に所定量の電荷を接触式放電で注入するためのエレクトレット端子が設けられている。なお、エレクトレット端子は、上記の電荷注入時には、所定の接触式放電装置(高電圧印加装置)に接続され、発電装置60の使用時には、オープンまたは接地される。
また、枠体部23は、図30に示すように、プルーフマス24よりも大きい厚みを有しており、図29および図31に示すように、梁部29を介して、プルーフマス24を保持する機能を有している。なお、枠体部23は、主として、パリレンから構成されている。また、枠体部23の所定領域には、パッド電極27cおよび28cの表面を露出させるための開口部23aが形成されている。
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
図36は、本発明の第2実施形態による発電装置の動作を説明するための図である。次に、図33、図35および図36を参照して、本発明の第2実施形態による発電装置60の動作について説明する。
第2実施形態による発電装置60では、図35および図36に示すように、第1電極27の櫛歯部27aと第2電極28の櫛歯部28aとの間にフリンジ電界10(電極間の脇に発生する電界)が発生している。ここで、フリンジ電界10を発生させる第1電極27および第2電極28が、図33に示すように、それぞれ、櫛歯状に形成されているとともに、互いの櫛歯部27aおよび28aが交互に配列されているため、フリンジ電界10はプルーフマス24の裏面(下面)側のほぼ全面に均一に発生している。一方、プルーフマス24と対向する強誘電体層22は、発生したフリンジ電界10の中に配置された状態となっている。
この状態から発電装置60に水平方向(X方向)の振動が加わると、プルーフマス24に慣性力が働くので、これによって、プルーフマス24が、セラミック基板1の上面に対して水平方向である矢印X方向に移動する。ここで、第1電極27と第2電極28との間に発生しているフリンジ電界10では、その電気力線は強誘電体層22を貫くことが可能である一方、メタル層40を貫くことができないので、プルーフマス24が矢印X方向に移動することによって、電気力線の様相が変化し、この電気力線の様相の変化に応じて、2電極間に形成されるキャパシタの静電容量値が変化する。上記の容量変化に伴って、所定量の電荷が第1電極27(対向電極)に導入され、これが電流として出力される。
次に、第2実施形態による発電装置60の効果を確認するために、上記第1実施形態と同様の方法を用いてコンピュータシミュレーションを行った。その結果を図37に示す。
図37に示すように、強誘電体層22の厚みt11を5μm以上に構成することによって、99%以上のカバー率が得られることが判明した。また、強誘電体層22の厚みt11を10μm以上に構成した場合には、ほぼ100%(99.8%以上)のカバー率が得られ、20μm以上に構成した場合には100%のカバー率が得られることが判明した。なお、強誘電体層22の厚みt11が10μmの場合には、強誘電体層22の厚みt11は、第1電極27及び第2電極28の一方の櫛歯部27a(または28a)の幅w1(約5μm)と、第1電極27の櫛歯部27aから隣り合う第2電極28の櫛歯部28aまでの長さg1(約5μm)との合計長さ(w1+g1:約10μm)と一致する。また、強誘電体層22の厚みt11が20μmの場合には、強誘電体層22の厚みt11は、上記合計長さ(w1+g1:約10μm)の2倍(2(w1+g1))と一致する。
以上のように、強誘電体層22の厚みt11を5μm以上に構成することによって、十分なカバー率を得ることができ、プルーフマス24の変位に応じた静電容量値の変化を十分に大きくすることが可能となることが確認された。これにより、発電能力を向上させることが可能となることが確認された。
第2実施形態では、上記のように、プルーフマス24の強誘電体層22側に第1電極27および第2電極28を形成することによって、第1電極27の櫛歯部27aと第2電極28の櫛歯部28aとの間にフリンジ電界10を発生させることができる。また、強誘電体層22の上面側の所定領域に、所定のパターンでメタル層40を形成することにより、プルーフマス24がセラミック基板1の上面(主面)と平行な矢印X方向に移動した場合でも、フリンジ電界10における電気力線の様相を変化させることができる。すなわち、第1電極27の櫛歯部27aと第2電極28の櫛歯部28aとの間に発生するフリンジ電界10では、その電気力線は強誘電体層22を貫くことが可能である一方、メタル層40を貫くことができないので、強誘電体層22の上面側の所定領域に、所定のパターンでメタル層40を形成することにより、プルーフマス24が矢印X方向に移動した際に、フリンジ電界10における電気力線の様相を変化させることができる。これにより、電気力線の様相の変化に応じて、2電極間に形成されるキャパシタの静電容量値が変化するので、その静電容量値の変化に伴って、所定量の電荷が第1電極27(対向電極)に導入され、これが電流として出力される。
また、第2実施形態では、メタル層40を、強誘電体層22の上面から突出しないように形成することによって、強誘電体層22の上面側にメタル層40を形成したとしても、メタル層40が形成されていない場合と同様のプロセスで、その後の製造プロセスを行うことができるので、強誘電体層22の上面からメタル層40が突出することに起因して、その後の製造プロセスが繁雑になるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、容易に、製造効率を向上させることができる。
また、第2実施形態では、メタル層40を、強誘電体層22の上面から突出しないように形成することによって、プルーフマス24が、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)と平行な矢印X方向に移動する際に、メタル層40とプルーフマス24(第1電極27、第2電極28)とが係合するのを抑制することができるので、メタル層40とプルーフマス24(第1電極27、第2電極28)とが係合することに起因して、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)と平行な矢印X方向へのプルーフマス24の移動が妨げられるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、容易に、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)と平行な矢印X方向の振動を電流として取り出すことができる。
また、第2実施形態では、強誘電体層22をBaTiO3から構成することによって、BaTiO3は比誘電率が1,000以上の金属酸化物(強誘電体物質)であるため、強誘電体層22の比誘電率を十分に大きくすることができる。これにより、容易に、静電容量値の変化を大きくすることができるので、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)と平行な矢印X方向の振動からより大きな電流を取り出すことができる。なお、BaTiO3は、Pb(鉛)を含有しない強誘電体物質であるため、強誘電体層22をBaTiO3から構成することによって、廃棄物による環境負荷を低減することができるとともに、人体に与える悪影響を低減することができる。
また、第2実施形態では、プルーフマス24を支持する梁部29を、その厚み方向の長さが、幅方向の長さよりも大きくなるように構成することにより、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)に対して垂直方向(矢印Z方向)にプルーフマス24が移動するのを抑制することができるので、振動エネルギーが垂直方向に分散してしまうのを抑制することができる。これにより、容易に、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)と平行な矢印X方向の振動からより効率的に発電することができる。
また、第2実施形態では、上記第1実施形態と同様、強誘電体層22の厚みt11を5μm以上に構成することによって、99%以上のカバー率を得ることができるので、静電容量値の変化を大きくすることができる。これにより、セラミック基板1(強誘電体層22)の上面(主面)と平行な矢印X方向の振動からより効率的に発電することができる。
さらに、第2実施形態では、セラミック基板1と強誘電体層22との間に、グレーズ層5を形成することによって、強誘電体層22の上面の平滑度を向上させることができるので、BaTiO3の粒径を制御することによって、強誘電体層22の上面に、0.1μm〜0.2μm程度の凹凸を設けることができる。
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
図38〜図48は、本発明の第2実施形態による発電装置の製造方法を説明するための図である。続いて、図29、図33〜図35および図38〜図48を参照して、本発明の第2実施形態による発電装置60の製造方法について説明する。なお、第2実施形態による発電装置60は、主として、表面マイクロマシニング技術を用いて製造する。
まず、図38に示すように、約1mmの厚みを有するとともにAl2O3からなるセラミック基板1の上面上に、グレーズ層5を形成する。このグレーズ層5は、たとえば、ガラス成分を含んだ液体をセラミック基板1上に印刷した後、所定温度で焼成することによって形成する。
次に、スクリーン印刷法を用いて、グレーズ層5上に、図29に示した配線層6を形成する。なお、配線層6をスクリーン印刷法で形成することにより、容易に、配線層6を形成することが可能となるので、これによっても製造効率を向上させることが可能となる。
その後、図38に示すように、セラミック基板1(グレーズ層5)上の所定領域にスクリーン印刷法を用いて強誘電体層22を形成する。具体的には、グレーズ層5上の所定領域に、BaTiO3を含むペーストを印刷した後、800℃〜1200℃程度の焼成温度で焼成することにより、BaTiO3からなる強誘電体層22を形成する。
また、強誘電体層22は、その厚みt11(図35参照)が5μm〜20μmとなるように形成するとともに、BaTiO3の粒径を制御することによって、強誘電体層22の上面に0.1μm〜0.2μm程度の凹凸(図示せず)が生じるように形成する。
続いて、図39に示すように、強誘電体層22をエッチングにより凹加工した後、スパッタ法や蒸着法でメタル層40(アルミニウム)を成膜する。さらに、表面を研削して、図40に示すように、規定の強誘電体とメタルのストライプ面を形成する。これにより、メタル層40が強誘電体層22の上面から突出しないように構成される。
その後、図41に示すように、プラズマCVD法を用いて、グレーズ層5上に、アモルファスシリコンからなる犠牲層31を、強誘電体層22を覆うように形成する。ここで、犠牲層31とは、後工程で除去することを前提に形成する層のことである。
次に、図42に示すように、フォトリソグラフィ技術とSF6プラズマガスを用いたドライエッチングとにより、犠牲層31に細長状の溝部(スロット)31aを形成する。そして、図43に示すように、犠牲層31の上面上に、第1のパリレン層32を蒸着する。この際、溝部31a内に蒸着された第1のパリレン層32は、プルーフマス24を保持するためのアンカー部となる。
次に、図44に示すように、フォトリソグラフィ技術とO2プラズマガスを用いたエッチングとにより、第1のパリレン層32の所定領域を除去する。
その後、犠牲層31上および第1のパリレン層32上に、スパッタリングまたは蒸着法により、アルミニウム層を堆積するとともに、図45に示すように、堆積したアルミニウム層を、フォトリソグラフィ技術とウェットエッチングとを用いてパターニングする。これにより、図33に示したような櫛歯状の第1電極27が形成されるとともに、第1電極27に電気的に接続されるパッド電極27cが形成される。なお、第1電極27とパッド電極27cとを接続する接続部27b(図33参照)も、上記したアルミニウム層のパターニングにより、同時に形成される。
また、犠牲層31上には、スピンコーティングによってCYTOPフィルムが形成された後、これがO2プラズマでエッチングされる。このような工程により、第2電極28のエレクトレット部分が櫛歯状に形成される。
その後、第1電極27、第2電極28のエレクトレット部分、パッド電極27c、接続部27b(図33参照)を覆うように、犠牲層31上および第1のパリレン層32上に、放電防止用のパリレン(図45及び図46では図示が省略されているが、その詳細については、図8Eの符号E11を参照)が堆積され、その上に、第2電極28のベース電極部分、及び、これに接続されるパッド電極28cとしてのアルミニウムがスパッタリングされる。なお、第2電極28のベース電極部分とパッド電極28cとを接続する接続部28b(図33参照)についても、上記したアルミニウム層のパターニングにより、同時に形成される。
次に、図46に示す通り、第2電極28のベース電極部分、パッド電極28c(図33参照)、接続部28b(図33参照)を覆うように、第2のパリレン層33を蒸着する。そして、第2のパリレン層33を図47に示した形状にパターニングする。この際、図34に示したように、4つの梁部29は、それぞれ、厚み方向の長さを、幅方向の長さよりも大きくなるように形成する。これにより、パリレンからなるプルーフマス24(図29参照)、梁部29(図29参照)、及び、枠体部23(図29参照)が形成される。この際、枠体部23の所定領域に、パッド電極27cおよび28cの表面を露出させるための開口部23aを形成する。なお、第1のパリレン層32および第2のパリレン層33は、室温で形成(蒸着)可能である。
最後に、図48に示した状態から、XeF2ガスを用いたドライエッチングにより、犠牲層31の所定領域を除去することによって、プルーフマス24と強誘電体層22とを離間させる。このようにして、図29に示した本発明の第2実施形態による発電装置60が形成される。
第2実施形態では、上記のように、セラミック基板1上の所定領域に、スクリーン印刷法を用いて強誘電体層22を形成することによって、セラミック基板1上の所定領域に強誘電体層22を容易に形成することができるので、板状の強誘電体層22をセラミック基板1上の所定領域に貼り付ける場合などと比べて、製造効率を向上させることができる。なお、第2実施形態による発電装置60では、DRIEプロセスを用いることなく製造することができる。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上記第1及び第2実施形態では、強誘電体層をBaTiO3から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、比誘電率が1,000以上であって、スクリーン印刷法が適用可能な金属酸化物であれば、BaTiO3以外の金属酸化物から強誘電体層を構成してもよい。この際、Pb(鉛)を含有しない金属酸化物を用いるのが好ましい。
また、上記第1および第2実施形態では、強誘電体層を5μm〜20μmの厚みに構成した例について示したが、本発明はこれに限らず、強誘電体層を20μm以上の厚みに構成してもよい。なお、強誘電体層の形成は、上述したように、スクリーン印刷法によって行われるので、20μm以上の厚みを有する強誘電体層でも、容易に形成することが可能である。
また、上記第1及び第2実施形態では、グレーズ層が形成されたセラミック基板上に、スクリーン印刷法を用いて、強誘電体層を形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、グレーズ層が形成されていないセラミック基板上に、スクリーン印刷法を用いて強誘電体層を形成してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、800℃〜1200℃程度の焼成温度で焼成することにより、強誘電体層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、上記した焼成温度以外の焼成温度で焼成することにより、強誘電体層を形成してもよい。例えば、1200℃〜1500℃程度の比較的高い焼成温度で焼成してもよいし、700℃以下の比較的低い焼成温度で焼成してもよい。なお、1200℃〜1500℃程度の焼成温度で焼成する場合には、グレーズ層が形成されていないセラミック基板上に、強誘電体層を形成するとともに、強誘電体層の形成後に配線層を形成すれば、上記実施形態に示した発電装置の製造が可能である。また、700℃以下の焼成温度で焼成する場合には、強誘電体層の比誘電率が1,000以下にならないように構成するのが好ましい。
また、上記第1および第2実施形態では、Al2O3からなるセラミック基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、Al2O3以外のセラミック材料からなるセラミック基板を用いるほか、強誘電体材を基板として用いて発電装置を製造してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、枠体部によってプルーフマスを保持するように構成したが、本発明はこれに限らず、枠体部以外の部材によってプルーフマスを保持するように構成してもよい。
なお、上記第1および第2実施形態において、プルーフマスに、上面から下面に貫通する複数の貫通孔を設けてもよい。このように構成した場合には、犠牲層の除去が容易になるとともに、空気抵抗を低減することが可能となる。
また、上記第2実施形態では、メタル層を、強誘電体層の上面から突出しないように形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、メタル層を、強誘電体層の上面から突出するように形成してもよい。
また、上記第2実施形態では、メタル層をアルミニウムから構成した例について説明したが、本発明はこれに限らず、アルミニウム以外の金属からメタル層を構成してもよい。
(第1変形例)
また、上記第2実施形態では、4つの梁部によってプルーフマスを支持する構成について示したが、本発明はこれに限らず、セラミック基板の上面に対して平行な所定方向に、プルーフマスを移動させることが可能であれば、プルーフマスを支持する梁部の構成は、上記実施形態による構成以外の構成であってもよい。たとえば、図49に示すように、プルーフマス34を支持する梁部39を、矢印X方向に撓むように構成してもよい。
(第2変形例)
また、上記第2実施形態では、発電装置を、セラミック基板の上面に対して平行な矢印X方向の振動から発電可能に構成した例について説明したが、本発明はこれに限らず、1つのセラミック基板上に複数の発電装置を形成することによって、複数方向の振動から同時に発電可能に構成してもよい。たとえば、図50に示すように、少なくとも、セラミック基板1の上面に対して平行な矢印X方向および矢印Y方向の振動からそれぞれ発電する2つの発電装置60と、セラミック基板1の上面に対して垂直方向の振動から発電する発電装置50とを、1つのセラミック基板1上に形成することによって、3軸方向の振動から同時に発電可能に構成してもよい。
(第3変形例)
次に、上記で説明した発電装置(特に水平振動から発電する第2実施形態の発電装置)の第3変形例について、詳細に説明する。図51A及び図51Bは、いずれも、本発明の第3変形例による発電装置の構造を示す断面図である。なお、図51Aの発電装置では、図3A〜図3Cと同じく、メタル層(フローティング電極)G2が強誘電体基板G1の表面上に突起して形成されており、図51Bの発電装置では、図30と同じく、メタル層G2が強誘電体基板G1の表面上に埋没して形成されている。
ここで、第3変形例の発電装置は、強誘電体基板G1とメタル層G2とを被覆し、可動体G4に対して水平な表面を持つ保護層G3を有して成る。なお、保護層G3の素材としては、摩擦係数が小さく、かつ、絶縁性にも優れたフッ素樹脂やポリイミド樹脂など(例えば、静摩擦係数が0.5以下、比誘電率が4.0以下)が好適である。なお、半導体装置の分野で一般的に使用されている層間絶縁膜の比誘電率は4.0以下であり、例えばSiO2の比誘電率は4.0である。保護層G3の素材として、比誘電率は小さければ小さいほど良いが、材料の入手性を鑑みると、半導体装置の分野で一般的に使用されている層間絶縁膜材を用いてもよい。
例えば、摩擦係数が小さい保護層G3を有する構成であれば、強誘電体基板G1と可動体G4とが万一接触した場合であっても、可動体G4が保護層G3の表面上を滑らかに摺動するので、発電装置の機械的な破壊を回避することが可能となる。また、絶縁性に優れた保護層G3を有する構成であれば、メタル層(フローティング電極)G2と、対向電極G5やエレクトレット電極G6との間で、不要な放電が生じにくくなる。
特に、強誘電体基板G1と可動体G4とのギャップ間距離が短い発電装置では、上記の接触や放電の問題が生じやすいため、上記第3変形例の構成を採用することが望ましい。
なお、図51Bのメタル層G2は、その上面が強誘電体基板G1の上面と実質的に同一面となるように形成されている。
その形成方法としては、後述する第4変形例のように、強誘電体基板G1の表面上に溝部(トレンチ部)を形成した後、その内部にメタル層G2を積層すればよい。このとき、上記溝部の深さについては、メタル層G2がフリンジ電界を遮るために必要十分な厚さを持つように適宜設計すればよい。なお、フリンジ電界を適切に遮ることができるのであれば、メタル層G2に代えて、半導体層(純シリコン層など)を上記溝部に積層しても構わない。
図51Bの構成(すなわち、メタル層G2を強誘電体基板G1の表面上に埋没させた構成)であれば、図51Aの構成(すなわち、メタル層G2を強誘電体基板G1の表面上に突起させた構成)と比べて、メタル層G2の厚み分だけ、強誘電体基板G1と可動体G4とのギャップ間距離を短縮することができるので、発電装置の小型化や発電効率の向上に寄与することが可能となる。
(第4変形例)
次に、上記で説明した発電装置(特に水平振動から発電する第2実施形態の発電装置)の第4変形例について詳細に説明する。図52A及び図52Bは、それぞれ、本発明の第4変形例による発電装置の発電原理を説明するための模式図である。なお、図52Aは、可動体H1が初期位置に存在する様子を示しており、図52Bは、可動体H1が水平移動された後の様子を示している。また、図52A及び図52Bの左側には、それぞれ、発電装置の概念及び動作原理を模式的に示した等価回路が描写されている。
第4変形例の発電装置において、強誘電体基板H5の表面上には、メタル層に代えて、溝部(トレンチ部)H6が形成されている。溝部(トレンチ部)H6は、ウェットエッチング、ICP装置等を用いたドライエッチング、機械加工(ダイシング)、エキシマレーザ等を用いたレーザビーム加工によって形成すればよい。また、溝部(トレンチ部)H6が形成された強誘電体基板H5の上部に、可動体H1などの構造物をさらに積層形成していくためには、先出の図41で示したように、強誘電体基板H5を覆うようにアモルファスシリコンから成る犠牲層を形成して新たな水平面を取得し、その上部に所望の構造物を積層形成した後、最終的に上記の犠牲層を除去すればよい。
なお、溝部(トレンチ部)H6の深さは、可動体H1と強誘電体基板H5とのギャップ長(=約1μm)と同値またはそれ以上に設計すればよい。また、溝部(トレンチ部)H6の幅ないしピッチについては、エレクトレットH2や対向電極H4の幅ないしピッチとの関係を考慮して適切に設計することが望ましい。また、溝部(トレンチ部)H6のテーパ形状については、加工プロセスを考慮して適切に設計することが望ましい。
上記構成から成る発電装置の動作原理について説明する。外的な振動入力によって可動体H1が水平方向に移動されたとき、図52Aと図52Bとを用いて対比的に示したように、フリンジ電界H7と溝部(トレンチ部)H6との相対的な配置関係が変化し、強誘電体基板H5を貫く電気力線の状態が変化する。例えば、可動体H1の初期位置(図52Aを参照)では、エレクトレットH2と対向電極H4との間に強誘電体基板H5の凸部があり、可動体H1と強誘電体基板H5とのギャップ長が比較的短くなった状態、すなわち、電気力線が強誘電体基板H5の内部に進入しやすい状態となっているが、可動体H1の水平移動後の位置(図52Bを参照)では、エレクトレットH2と対向電極H4との間に溝部(トレンチ部)H6が存在し、可動体H1と強誘電体基板H5とのギャップ長が比較的長くなった状態、すなわち、電気力線が強誘電体基板H5の内部に進入しにくい状態となる。この事実は、エレクトレットH2と対向電極H4との間に形成される容量Cが変化することを意味している。この容量Cの変化は、2つの電極間に存在する誘電体と空気の体積比、すなわち、等価比誘電率εrが変化することによって生じる。2電極間における上記の容量変化に伴って、所定量の電荷Qが対向電極H4に導入される。そして、この電荷Qは、先出の(2)式に基づき、電流Iとして引き出される。
このように、上記第4の変形例における発電装置であれば、強誘電体基板H5の表面上にメタル層を設けることなく、水平振動に基づく発電を行うことができるので、実使用時における不要な放電を防止することが可能となり、延いては、強誘電体基板H5と可動体H1とのギャップ間距離を短縮して、発電装置の小型化や発電効率の向上に寄与することが可能となる。
図53A〜図53Cは、それぞれ、本発明の第4変形例による発電装置の第1〜第3構造例を示した断面図である。なお、図53Aは、第1構造例(トレンチ形成型)を示しており、図53Bは、第2構造例(シリカ積層型)を示しており、図53Cは、第3構造例(保護層形成型)を示している。
図53Aの第1構造例(トレンチ形成型)は、図52A及び図52Bで既に示した構造であり、強誘電体基板I2の表面上には、ウェットエッチング、ICP装置等を用いたドライエッチング、機械加工(ダイシング)、エキシマレーザ等を用いたレーザビーム加工によって溝部(トレンチ部)I3が形成されており、その内部は、可動体I1と強誘電体基板I2とのギャップ領域と同様、低真空状態(高真空や超高真空ではない状態)とされているか、若しくは、空気、不活性ガス(N2など)、或いは、放電防止効果のあるガス(例えば主成分としてSF6を含むガス)などが充填されている。このような構成とすることにより、ギャップ領域とトレンチ内部の状態(誘電率)を一致させることができる。なお、ギャップ領域及びトレンチ内部を高真空や超高真空にしない理由は、放電を回避するためである。なお、本明細書中において、「低真空状態」とは大気圧〜10-1Paの状態を指し、「高真空状態」とは10-1〜10-5Paの状態を指し、「超高真空状態」とは10-5以下の状態を指すものとする。
図53Bの第2構造例(シリカ積層型)は、図53Aの第1構造例で形成した溝部(トレンチ部)I3の内部にシリカ層I3’(誘電率3程度)を積層して、強誘電体基板I2の表面を平坦化した構造である。このような構成とすることにより、可動体I1と強誘電体基板I2との接触(引っ掛かり)を低減することが可能となる。また、強誘電体基板I2の表面を平坦化することにより、その上に表面マイクロマシニングで構造体を作成することが可能となる。
図53Bの第3構造例(保護層形成型)は、図53Bの第2構造例に加えて、強誘電体基板I2とシリカ層I3’とを被覆し、可動体I1に対して水平な表面を持つ保護層I4を追加した構造である。なお、保護層I4の素材としては、摩擦係数の小さいフッ素樹脂などが好適である。このような構成とすることにより、強誘電体基板I2と可動体I1とが万一接触した場合であっても、可動体J1が保護層J4の表面上を滑らかに摺動するので、発電装置の機械的な破壊を回避することが可能となる。
なお、本発明の構成は、上記実施形態ないし変形例のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
例えば、強誘電体基板と可動体とのギャップは、低真空状態としてもよいし、或いは、空気、不活性ガス(N2など)、または、放電防止効果のあるガス(主成分としてSF6を含むガスなど)などを充填しても構わない。なお、上記ギャップを低真空状態とする場合、脱気工程を用いてもよいし、或いは、何らかの高温処理時に上記のギャップからガスが抜けて自然に低真空状態となる現象を利用してもよい。
また、可動体と対向する位置に設けられる強誘電体については、基板自体を強誘電体素材で形成してもよいし(図3A〜図3Cなどを参照)、基板上に薄膜印刷技術を用いて強誘電体層を形成してもよいし(図8A〜図8Fなどを参照)、或いは、別途の工程で形成しておいた板状の強誘電体を基板上に貼り付けてもよい(図14や図32などを参照)。