燃料電池を駆動モータへの電力供給源とする燃料電池システムにおいて、燃料電池と駆動モータとの間に、該燃料電池の出力電圧を昇圧させる昇圧装置を設けることで、様々なメリットを享受することができる。例えば、昇圧装置による電圧昇圧の結果、駆動モータの駆動に適した電圧を印加することが可能となるため、該駆動モータの駆動能力を向上させることが可能となる。しかし、その一方で、DC−DCコンバータ等の昇圧装置には、通常スイッチ素子が使用されるため、そのスイッチング損失によって燃料電池システム全体の効率が低下してしまう虞がある。
そこで、DC−DCコンバータ等の昇圧装置を常時稼動させるのではなく、断続的に稼動させることで昇圧装置によるスイッチング損失を抑制することが可能となる。しかし、昇圧装置を停止させている間は、当然に駆動モータに昇圧後の電圧を印加できず、駆動モータの駆動に支障を来たす場合が考えられる。
即ち、燃料電池から供給された電力によって駆動モータを駆動し、負荷を所望の状態に至らしめるためには、それに必要なエネルギを駆動モータに供給する必要があるので、その結果、燃料電池の出力が決定されることになる(尚、燃料電池以外のエネルギ供給源がある場合には、それが加味されて燃料電池の出力が決定される。)。しかし、駆動モータの駆動にあたっては、必要な電力は同じであっても、その駆動速度等の駆動状態に応じて駆動モータを駆動させるのに必要な電圧が変動する場合がある。そして、駆動モータの安
定的な駆動を確保するためには、燃料電池から供給される電力の電圧が、駆動モータを駆動させるのに必要な電圧を確保している必要がある。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、駆動モータの安定的な駆動の確保と燃料電池システムの効率向上を両立すべく、燃料電池から供給される電力の電圧が駆動モータを駆動させるのに必要な電圧を確保しているかを判断し、昇圧装置の昇圧動作を適切に行わせ、該昇圧装置によるスイッチング損失の抑制を図る燃料電池システムを提供することを目的とする。
本発明においては、上記課題を解決するために、燃料電池の出力電圧と、駆動モータの駆動に必要なモータ必要電圧とを比較し、当該比較結果に基づいて、燃料電池の出力電圧を昇圧する昇圧装置の制御を行うこととした。即ち、本発明は、このように燃料電池の出力電圧と駆動モータの駆動に必要なモータ必要電圧との比較結果が、駆動モータの物理的駆動を確保するために重要であることに着眼したものである。
そこで、詳細には、本発明は、負荷の駆動のための動力源であり、電力によって駆動される駆動モータと、酸素を含む酸化ガスと水素を含む燃料ガスとの電気化学反応によって発電を行い前記駆動モータに電力を供給する燃料電池と、前記燃料電池から出力される電圧を昇圧し、昇圧後の電圧を前記駆動モータに供給することが可能な第一昇圧装置と、前記燃料電池の出力電圧と前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電圧との比較結果に基づいて、前記第一昇圧装置による電圧昇圧を制御する昇圧制御手段と、を備える、燃料電池システムである。
上記燃料電池システムは、燃料電池と駆動モータとの間に第一昇圧装置が配されることで、第一昇圧装置によって昇圧された電圧が、駆動モータに供給されることになる。燃料電池の出力電圧により駆動モータを駆動させるか、燃料電池の出力電圧を昇圧させた後の電圧により駆動モータを駆動させるかは、燃料電池の出力電圧が駆動モータの駆動に必要な電圧を確保しているか否かによる。
ここで、燃料電池の出力電圧とは、燃料電池が電力供給源として発電を行い、駆動モータの駆動に供される電力の電圧であり、モータ必要電圧とは、負荷を所望の状態に至らしめるべく駆動モータに所定の駆動力を発揮させるために該駆動モータに供給される電力の電圧である。従って、燃料電池の出力電圧により駆動モータを駆動させるか、燃料電池の出力電圧を昇圧させた後の電圧により駆動モータを駆動させるかを、燃料電池の出力電圧と駆動モータの駆動に必要なモータ必要電圧との比較結果に基づいて決定することが重要である。即ち、燃料電池の出力電圧が駆動モータの必要電圧より高い場合には、第一昇圧装置による電圧昇圧を行わなくとも駆動モータの動作を確保することができる。
一方、燃料電池の出力電圧が駆動モータの必要電圧より低い場合には、たとえ駆動モータの駆動のために十分な電力が燃料電池から供給されたとしても、そのままでは駆動モータの安定的な動作を確保することは困難となる場合があり、第一昇圧装置による電圧昇圧が必要となる。そこで、本発明に係る燃料電池システムにおいては、燃料電池の出力電圧と駆動モータのモータ必要電圧との比較結果に基づいて、昇圧制御手段が、第一昇圧装置の昇圧動作を制御することで、駆動モータの安定的な駆動を確保しながら、第一昇圧装置の電圧昇圧によるスイッチング損失を抑制することができる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記第一昇圧装置による前記燃料電池の出力電圧の昇圧時において損失する電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力
電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。
モータ必要電圧の比較対象となる燃料電池の出力電圧は、燃料電池の出力電力から算出することが可能である。例えば、燃料電池の出力電力から燃料電池の電流電力特性及び電圧電力特性に基づいて燃料電池の出力電圧を算出することができる。ここで、燃料電池の出力電力は、燃料電池が電力供給源として発電を行うことにより生じ、その一部が駆動モータの駆動に供される。第一昇圧装置にて昇圧動作が行われた場合、第一昇圧装置によるスイッチング損失が発生し得る。第一昇圧装置によるスイッチング損失が発生する場合、第一昇圧装置によるスイッチング損失を加味して燃料電池の出力電力を算出する。第一昇圧装置によるスイッチング損失を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、電力の充電及び放電が可能であり該放電によって前記駆動モータに電力を供給する二次電池、を更に備え、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記二次電池の充放電における電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。
ここで、二次電池の充放電における電力とは、二次電池に充電される電力や二次電池から放電される電力である。二次電池の残蓄電量が二次電池の充放電を切り替えるための閾値以上である場合、即ち、二次電池が放電状態にある場合、二次電池から放電される電力は、駆動モータに供給可能となり、燃料電池の出力電力が減少する傾向となる。また、二次電池の残蓄電量が二次電池の充放電を切り替えるための閾値未満である場合、即ち、二次電池が充電状態にある場合、燃料電池の出力電力は、二次電池に供給可能となり、燃料電池の出力電力が増加する傾向となる。即ち、二次電池が充電状態または放電状態にあるかにより、燃料電池の出力電力が変動する結果、燃料電池の出力電圧も変動する。そこで、二次電池が充電状態にある場合、二次電池に充電される電力を加味して燃料電池の出力電力を算出する。また、二次電池が放電状態にある場合、二次電池から放電される電力を加味して燃料電池の出力電力を算出する。二次電池の充放電状態を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記二次電池の充放電における電力と、前記第一昇圧装置による前記燃料電池の出力電圧の昇圧時において損失する電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。これにより、二次電池の充放電状態および第一昇圧装置によるスイッチング損失を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記二次電池から出力される電圧を昇圧し、昇圧後の電圧を前記駆動モータに供給することが可能な第二昇圧装置、を更に備え、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記二次電池の充放電における電力と、前記第二昇圧装置による前記二次電池の出力電圧の昇圧時において損失する電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。第二昇圧装置にて昇圧動作が行われた場合、第二昇圧装置によるスイッチング損失が発生し得る。第二昇圧装置によるスイッチング損失が発生する場合、第二昇圧装
置によるスイッチング損失を加味して燃料電池の出力電力を算出する。二次電池の充放電状態および第二昇圧装置によるスイッチング損失を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記二次電池の充放電における電力と、前記第一昇圧装置による前記燃料電池の出力電圧の昇圧時において損失する電力と、前記第二昇圧装置による前記二次電池の出力電圧の昇圧時において損失する電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。これにより、二次電池の充放電状態、第一昇圧装置によるスイッチング損失および第二昇圧装置によるスイッチング損失を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、電力の充電及び放電が可能であり該放電によって前記駆動モータに電力を供給する二次電池から出力される電圧を昇降圧し、昇降圧後の電圧を前記駆動モータに供給することが可能な昇降圧装置を更に備え、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記二次電池の充放電における電力と、前記昇降圧装置による前記二次電池の出力電圧の昇降圧時において損失する電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。
昇降圧装置にて昇降圧動作が行われた場合、昇降圧装置によるスイッチング損失が発生し得る。昇降圧装置によるスイッチング損失が発生する場合、昇降圧装置によるスイッチング損失を加味して燃料電池の出力電力を算出する。二次電池の充放電状態および昇降圧装置によるスイッチング損失を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータの駆動に必要なモータ必要電力と、前記二次電池の充放電における電力と、前記第一昇圧装置による前記燃料電池の出力電圧の昇圧時において損失する電力と、前記第昇降圧装置による前記二次電池の出力電圧の昇降圧時において損失する電力と、に基づいて前記駆動モータの駆動時における前記燃料電池の出力電力を算出し、該算出した前記燃料電池の出力電力から前記燃料電池の出力電圧を算出するようにしてもよい。これにより、二次電池の充放電状態、第一昇圧装置によるスイッチング損失および昇降圧装置によるスイッチング損失を考慮して燃料電池の出力電圧を算出することにより、モータ必要電圧と燃料電池の出力電圧とをより適切に比較することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータに印加される電圧と前記駆動モータの駆動効率との相関関係に基づいて、前記第一昇圧装置による電圧昇圧を制御するようにしてもよい。駆動モータに印加される電圧によっては、駆動モータの駆動効率が変動する場合がある。例えば、駆動モータに印加される電圧が高い場合と低い場合とでは、駆動モータの駆動効率が異なる場合があり、駆動モータに印加される電圧と駆動モータの駆動効率との間には相関関係がある。駆動モータに印加される電圧と駆動モータの駆動効率との相関関係に基づいて、第一昇圧装置による電圧昇圧を制御することにより、駆動モータの駆動効率が良好となる電圧を駆動モータに印加することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータに印加される電圧と前記駆動モータの駆動効率との相関関係に基づいて、前記第一昇圧装置による電圧昇圧及び前記第二昇圧装置による電圧昇圧を制御するようにしてもよい。これにより、駆動モータの駆動効率が良好となる電圧を駆動モータに印加することが可能となる。また、上述の燃料電池システムにおいて、前記昇圧制御手段は、前記駆動モータに印加される電圧と前記駆動モータの駆動効率との相関関係に基づいて、前記第一昇圧装置による電圧昇圧及び前記昇降圧装置による電圧昇降圧を制御するようにしてもよい。これにより、駆動モータの駆動効率が良好となる電圧を駆動モータに印加することが可能となる。
また、上述の燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の出力電圧が前記駆動モータの前記モータ必要電圧より高いとき、前記昇圧制御手段は、前記第一昇圧装置による前記燃料電池の出力電圧の昇圧を禁止し、且つ該燃料電池の出力電圧を該駆動モータに直接供給するようにしてもよい。上述のように、燃料電池の出力電圧が駆動モータのモータ必要電圧より高い場合には、第一昇圧装置による電圧昇圧を行わなくとも駆動モータの動作を確保することが可能となるため、昇圧制御手段により第一昇圧装置の昇圧動作が禁止され、第一昇圧装置でのスイッチング損失を完全に抑制し、燃料電池システム全体の効率を向上させることが可能となる。
本発明に係る燃料電池システムによれば、駆動モータの安定的な駆動の確保と燃料電池システムの効率向上を両立すべく、燃料電池から供給される電力の電圧が駆動モータを駆動させるのに必要な電圧を確保しているかを判断し、昇圧装置の昇圧動作を適切に行わせ、該昇圧装置によるスイッチング損失の抑制を図ることが可能となる。
図1は、本発明に係る燃料電池システム10の概略構成および、該燃料電池システム10より供給される電力を駆動源とする移動体の車両1を概略的に示す。車両1は、駆動輪2が駆動モータ(以下、単に「モータ」という。)16によって駆動されることで自走し、移動可能となる。このモータ16は、いわゆる三相交流モータであって、インバータ15から交流電力の供給を受ける。更に、このインバータ15へは、燃料電池システム10のメイン電力源である燃料電池(以下、「FC」ともいう。)11と、二次電池であるバッテリ13から直流電力が供給され、それがインバータ15で交流へ変換されている。
ここで、燃料電池11は、水素タンク17に貯蔵されている水素ガスとコンプレッサ18によって圧送されてくる空気中の酸素との電気化学反応にて発電を行い、該燃料電池11とインバータ15との間には、昇圧型のDC−DCコンバータであるFC昇圧コンバータ12が電気的に接続されている。これにより、燃料電池11からの出力電圧は、FC昇圧コンバータ12によって制御可能な範囲で任意の電圧に昇圧され、インバータ15に印加される。また、このFC昇圧コンバータ12の昇圧動作によって燃料電池11の端子電圧を制御することも可能となる。尚、FC昇圧コンバータ12の詳細な構成については、後述する。また、バッテリ13は、充放電が可能な蓄電装置であって、該バッテリ13とインバータ15との間に該インバータ15に対して上記FC昇圧コンバータ12と並列になるように、昇圧型のバッテリ昇圧コンバータ14が電気的に接続されている。これによ
り、バッテリ13からの出力電圧は、バッテリ昇圧コンバータ14によって制御可能な範囲で任意の電圧に昇圧され、インバータ15に印加される。また、このバッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作によってインバータ15の端子電圧を制御することも可能となる。尚、図1中に示すように、燃料電池システム10においては、昇圧型のバッテリ昇圧コンバータ14に代えて、昇圧動作および降圧動作が可能な昇降圧型のコンバータも採用可能である。以下の実施例では、主にバッテリ昇圧コンバータ14を昇圧型のコンバータとして説明を進めていくが、これには昇降圧型のコンバータの採用を制限する意図は無く、その採用に際しては適宜調整が行われる。そして、昇降圧型コンバータを採用することにより更に特筆すべき事実については適切にその開示を行っていく。
また車両1には、電子制御ユニット(以下、「ECU」という。)20が備えられ、上述した各制御対象に電気的に接続されることで、燃料電池11の発電やモータ16の駆動等が制御されることになる。例えば、車両1には、ユーザからの加速要求を受けるアクセルペダルが設けられ、その開度がアクセルペダルセンサ21によって検出され、その検出信号がECU20に電気的に伝えられる。また、ECU20は、モータ16の回転数を検出するエンコーダにも電気的に接続され、これによりECU20でモータ16の回転数が検出される。ECU20は、これらの検出値等に基づいて、各種の制御が可能である。
このように構成される燃料電池システム10では、車両1のユーザが踏んだアクセルペダルの開度がアクセルペダルセンサ21によって検出され、ECU20がそのアクセル開度とモータ16の回転数等に基づいて、燃料電池11の発電量やバッテリ13からの充放電量が適宜制御される。ここで、移動体である車両1の燃費を向上させるために、モータ16が高電圧低電流仕様のPMモータとなっている。従って、モータ16は、低電流で高トルクを発揮することが可能となるため、モータ内部の巻線やその他の配線での発熱を軽減することが可能となり、またインバータ15の定格出力を小さくすることが可能となる。具体的には、モータ16では低電流で比較的大きなトルク出力を可能とするためにその逆起電圧が比較的高く設定される一方で、その高逆起電圧に抗して高回転数での駆動が可能となるように、燃料電池システム10からの供給電圧が高く設定される。このとき、燃料電池11とインバータ15の間にFC昇圧コンバータ12を設け、バッテリ13とインバータ15との間にもバッテリ昇圧コンバータ14を設けることで、インバータ15への供給電圧の高電圧化が図られる。繰り返しにはなるが、このバッテリ昇圧コンバータ14に代えて昇降圧型のコンバータも採用可能である。
このように燃料電池システム10をFC昇圧コンバータ12を含む構成とすることで、燃料電池11自体の出力電圧(端子間電圧)が低くても、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作によりモータ16を駆動することが可能となるので、燃料電池11のセル積層枚数を低減する等してその小型化を図ることも可能となる。その結果、車両1の重量を低減でき、その燃費向上を更に促進することができる。
ここで、燃料電池システム10においては、発電可能な燃料電池11がモータ16に対するメイン電力源となっている。従って、燃料電池システム10の効率を向上させるためには、燃料電池11とインバータ15との間に介在するFC昇圧コンバータ12での電力損失を低減することが、システム全体の効率向上に大きく寄与すると考えられる。もちろん、バッテリ13とインバータ15との間のバッテリ昇圧コンバータ14にも原則的に同様のことが当てはまる。
ここで、図2に基づいて、FC昇圧コンバータ12の電気回路の特徴について説明する。図2は、FC昇圧コンバータ12を中心として、燃料電池システム10の電気的構成を示す図であるが、説明を簡便にするためにバッテリ13およびバッテリ昇圧コンバータ14の記載は省略している。
FC昇圧コンバータ12は、DC−DCコンバータとしての昇圧動作を行うための主昇圧回路12aと、後述するソフトスイッチング動作を行うための補助回路12bとで構成されている。主昇圧回路12aは、スイッチ素子S1とダイオードD4で構成されるスイッチング回路のスイッチ動作によって、コイルL1に蓄えられたエネルギをモータ16側(インバータ15側)にダイオードD5を介して解放することで燃料電池11の出力電圧を昇圧する。具体的には、コイルL1の一端が燃料電池11の高電位側の端子に接続される。そして、スイッチ素子S1の一端の極が、コイルL1の他端に接続されるとともに、該スイッチ素子S1の他端の極が、燃料電池の低電位側の端子に接続されている。また、ダイオードD5のカソード端子がコイルL1の他端に接続され、更に、コンデンサC3が、ダイオードD5のアノード端子とスイッチ素子S1の他端との間に接続されている。尚、この主昇圧回路12aにおいて、コンデンサC3は、昇圧電圧の平滑コンデンサとして機能する。尚、主昇圧回路12aには、燃料電池11側に平滑コンデンサC1も設けられ、これにより燃料電池11の出力電流のリップルを低減することが可能となる。この平滑コンデンサC3にかかる電圧VHは、FC昇圧コンバータ12の出口電圧となる。また、図2では、燃料電池11の電源電圧をVLで示し、これは平滑コンデンサC1にかかる電圧であって、且つFC昇圧コンバータ12の入口電圧となる。
次に、補助回路12bには、先ずスイッチ素子S1に並列に接続された、ダイオードD3と、それに直列に接続されたスナバコンデンサC2とを含む第一直列接続体が含まれる。この第一直列接続体では、ダイオードD3のカソード端子がコイルL1の他端に接続され、そのアノード端子がスナバコンデンサC2の一端に接続されている。更に、該スナバコンデンサC2の他端は、燃料電池11の低電位側の端子に接続されている。更に、補助回路12bには、誘導素子であるコイルL2と、ダイオードD2と、スイッチ素子S2及びダイオードD1で構成されるスイッチング回路とが直列に接続された第二直列接続体が含まれる。この第二直列接続体では、コイルL2の一端が、第一直列接続体のダイオードD3とスナバコンデンサC2との接続部位に接続される。更に、ダイオードD2のカソード端子が、コイルL2の他端に接続されるとともに、そのアノード端子が、スイッチ素子S2の一端の極に接続される。また、スイッチ素子S2の他端は、コイルL1の一端側に接続される。尚、この第二直列接続体の回路トポロジーについては、コイルL2、ダイオードD2、スイッチ素子S2等によるスイッチング回路の直列順序は、適宜入れ替えた形態も採用し得る。特に、図2に示す状態に代えて、コイルL2とスイッチ素子S2等によるスイッチング回路の順序を入れ替えることで、実際の実装回路ではコイルL1とコイルL2は一体化でき、半導体素子のモジュール化が容易となる。
このように構成されるFC昇圧コンバータ12は、スイッチ素子S1のスイッチングデューティ比を調整することで、FC昇圧コンバータ12による昇圧比、即ちFC昇圧コンバータ12に入力される燃料電池11の出力電圧に対する、インバータ15にかけられるFC昇圧コンバータ12の出力電圧の比が制御される。また、このスイッチ素子S1のスイッチング動作において補助回路12bのスイッチ素子S2のスイッチング動作を介在させることで、後述するいわゆるソフトスイッチングが実現され、FC昇圧コンバータ12でのスイッチングロスを大きく低減させることが可能となる。
次に、FC昇圧コンバータ12におけるソフトスイッチングについて、図3、4A〜4Fに基づいて説明する。図3は、ソフトスイッチング動作を介したFC昇圧コンバータ12での昇圧のための一サイクルの処理(以下、「ソフトスイッチング処理」という。)のフローチャートである。当該ソフトスイッチング処理は、S101〜S106の各処理がECU20によって順次行われて一サイクルを形成するが、各処理によるFC昇圧コンバータ12での電流、電圧の流れるモードをそれぞれモード1〜モード6として表現し、その状態を図4A〜4Fに示す。以下、これらの図に基づいて、FC昇圧コンバータ12で
のソフトスイッチング処理について説明する。尚、図4A〜図4Fにおいては、図面の表示を簡潔にするため、主昇圧回路12aと補助回路12bの参照番号の記載は省略しているが、各モードの説明においては、各回路を引用する場合がある。また、各図中、太矢印で示されるのは、回路を流れる電流を意味している。
尚、図3に示すソフトスイッチング処理が行われる初期状態は、燃料電池11からインバータ15およびモータ16に電力が供給されている状態、即ちスイッチ素子S1、S2がともにターンオフされることで、コイルL1、ダイオードD5を介して電流がインバータ15側に流れている状態である。従って、当該ソフトスイッチング処理の一サイクルが終了すると、この初期状態と同質の状態に至ることになる。
ソフトスイッチング処理において、先ずS101では図4Aに示されるモード1の電流・電圧状態が形成される。具体的には、スイッチ素子S1はターンオフの状態でスイッチ素子S2をターンオンする。このようにすると、FC昇圧コンバータ12の出口電圧VHと入口電圧VLの電位差によって、コイルL1及びダイオードD5を介してインバータ15側に流れていた電流が、補助回路12b側に徐々に移行していく。尚、図4A中には、その電流の移行の様子を白抜き矢印で示している。
次に、S102では、S101の状態が所定時間継続すると、ダイオードD5を流れる電流がゼロとなり、代わってスナバコンデンサC2と燃料電池11の電圧VLとの電位差により、スナバコンデンサC2に蓄電されていた電荷が補助回路12b側に流れ込んでいく(図4Bに示すモード2の状態)。このスナバコンデンサC2は、スイッチ素子S1にかかる電圧を決定する機能を有している。スイッチ素子S1をターンオンするときに該スイッチ素子S1に印加される電圧に影響を与えるスナバコンデンサC2の電荷が、モード2では補助回路12bに流れ込むことで、スナバコンデンサC2にかかる電圧が低下していく。このとき、コイルL2とスナバコンデンサC2の半波共振により、スナバコンデンサC2の電圧がゼロとなるまで、電流は流れ続ける。この結果、後述するS103でのスイッチ素子S1のターンオン時のその印加電圧を下げることが可能となる。
更に、S103においては、スナバコンデンサC2の電荷が抜け切ったら、スイッチ素子S1が更にターンオンされ、図4Cに示されるモード3の電流・電圧状態が形成される。即ち、スナバコンデンサC2の電圧がゼロとなった状態ではスイッチ素子S1にかかる電圧もゼロとなり、そして、その状態でスイッチ素子S1をターンオンすることにより、スイッチ素子S1をゼロ電圧状態にした上でそこに電流を流し始めることになるため、スイッチ素子S1におけるスイッチング損失を理論上、ゼロとすることができる。
そして、S104では、S103の状態が継続することで、コイルL1に流れ込んでいく電流量を増加させて、コイルL1に蓄えられるエネルギを徐々に増やしていく。この状態が、図4Dに示されるモード4の電流・電圧状態である。その後、コイルL1に所望のエネルギが蓄えられると、S105において、スイッチ素子S1及びS2がターンオフされる。すると、上記モード2で電荷が抜かれて低電圧状態となっているスナバコンデンサC2に電荷が充電され、FC昇圧コンバータ12の出口電圧VHと同電圧に至る。この状態が、図4Eに示されるモード5の電流・電圧状態である。そして、スナバコンデンサC2が電圧VHまで充電されると、S106においてコイルL1に蓄えられたエネルギがインバータ15側に解放される。この状態が、図4Fに示されるモード6の電流・電圧状態である。尚、このモード5が行われるとき、スイッチ素子S1にかかる電圧はスナバコンデンサC2により電圧の立ち上がりを遅らせられるため、スイッチ素子S1におけるテール電流によるスイッチング損失をより小さくできる。
上述のようにS101〜S106の処理を一サイクルとしてソフトスイッチング処理を
行うことで、FC昇圧コンバータ12におけるスイッチング損失を可及的に抑制した上で、燃料電池11の出力電圧を昇圧しインバータ15に供給可能となる。その結果、高電圧低電流モータであるモータ16を効率的に駆動することが可能となる。
ここで、燃料電池システム10においては、上記ソフトスイッチング処理に加えて、FC昇圧コンバータ12の間欠運転制御を行うことで、システム効率を向上させる。説明を簡潔にするために、燃料電池11とインバータ15及びモータ16との関係に着目すると、モータ16に対するメイン電力源である燃料電池11からの電力は、FC昇圧コンバータ12を介してインバータ15側へ供給される。そして、メイン電力源である燃料電池11がモータ16の駆動に際してインバータ15に印加すべき電圧は、モータ16の逆起電力に十分に抵抗できる電圧でなければならない。従って、上記FC昇圧コンバータ12が備えられていない従来の燃料電池システムでは、図5に示すように、車両1の採り得る速度範囲(0〜VSmax)において、LV1で示される燃料電池によって印加される電圧が、常にモータ駆動に必要な、インバータ15に印加すべき電圧(以下、「モータ必要電圧」という。)を超えた状態としなければならない。そのため、インバータに印加されるべき電圧を大きく超えた電圧がインバータに印加されることになり、インバータのスイッチング損失が大きくなっていた。そして、特に車両1の速度が低い領域では、インバータのスイッチング損失が顕著となり得る。
ここで、本発明に係る燃料電池システム10では、FC昇圧コンバータ12が設けられているため、燃料電池11からの電圧を昇圧してインバータ15に印加することは可能である。しかし、このFC昇圧コンバータ12による昇圧動作では、スイッチ素子による何らかのスイッチング損失が発生するため、当該昇圧動作はシステムの効率を低下させる一因となる。一方で、上述したように、モータ16は高電圧低電流仕様のモータであるため、その回転数の上昇に伴い発生する逆起電圧も大きくなっていき、FC昇圧コンバータ12による昇圧動作は不可欠となる。
そこで、燃料電池11からの出力電圧とインバータ15に印加すべきモータ必要電圧の相関を、図6においてそれぞれLV1、LV2で示す。図6のLV2で示すように、モータ16の逆起電圧は、車両1の速度が上昇していくに従い、増加していくため、モータ必要電圧も車両速度の増加とともに増加していく。ここで、燃料電池11の出力電圧LV1とモータ必要電圧LV2との相関において、両者が交差するときの車両1の速度VS0が、ユーザによる車両1の通常操縦を概ね賄う速度となるように、燃料電池11の電圧特性とモータ16の電圧特性とを決定すればよい。本実施例においては、車両運転法規やユーザの通常操縦の傾向等から、VS0を110km/hと設定する。そして、この速度VS0での車両1の走行を可能とするモータ16の駆動時の最大出力を算出し、当該最大出力の発揮が可能となるように、インバータ15に印加すべき電圧(モータ必要電圧)を導出する。そして、このモータ必要電圧が、FC昇圧コンバータ12を介さずに燃料電池11から直接に出力可能となるように、燃料電池11の設計(例えば、複数のセルが積層されて形成される燃料電池では、その積層セル数が調整される等)が行われる。
このように設計された燃料電池11を含む燃料電池システム10では、車両1の速度がVS0に至るまでの間は、燃料電池11からの出力電圧が、モータ16を駆動するためのモータ必要電圧よりも高いため、たとえモータ16が高電圧低電流仕様のモータであっても、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作が無くとも燃料電池11からの直接の出力電圧によって該モータ16を駆動することが可能となる。換言すると、この条件下では、FC昇圧コンバータ12によるスイッチング動作を停止させて、燃料電池11からの出力電圧をインバータ15に印加することで、モータ16の駆動を確保できることになる。これにより、FC昇圧コンバータ12でのスイッチング損失を、完全に排除することができる。更には、FC昇圧コンバータ12が停止することでインバータ15に印加される電圧が過度
に高くならないため、即ち、図5に示す状態よりもLV1とLV2との電圧差を小さくする抑えることができるため、インバータ15でのスイッチング損失を低く抑えることができる。
一方で、車両1の車両速度がVS0以上となると、逆にモータ16を駆動するためのモータ必要電圧が、燃料電池11からの出力電圧よりも高くなるため、FC昇圧コンバータ12による昇圧動作が必要となる。この場合、上述したソフトスイッチング処理を行うことで、FC昇圧コンバータ12でのスイッチング損失を可及的に抑えることが可能となる。
上記までは、説明の簡便化のために、燃料電池11とモータ16との相関にのみ着目しているが、図1に示すように燃料電池システム1においては、モータ16に対してバッテリ13からの電力供給も可能である。バッテリ13から電力供給される場合は、バッテリ13からの出力電圧がバッテリ昇圧コンバータ14によって昇圧された上で、インバータ15に印加されることになる。ここで、バッテリ昇圧コンバータ14は、いわゆる昇圧コンバータであるため、バッテリ13からインバータ15に電力供給を行うためには、バッテリ昇圧コンバータ14の出口電圧(インバータ15側の電圧であり、FC昇圧コンバータ12の出口電圧と同等)が、その入口電圧(バッテリ13側の電圧)と比較して同じか、又はより高い状態でなければならない。
そこで、バッテリ13の出力電圧と燃料電池11の出力電圧の相関について、図7Aおよび図7Bに基づいて説明する。両図では、ともにバッテリ13のIV特性(図中、点線LBTで示される。)と、燃料電池11のIV特性(図中、実線LFCで示される。)とが示されている。ここで、図7Aで、燃料電池11のIV特性LFCがバッテリ13のIV特性LBTより高い領域においては、FC昇圧コンバータ12を停止させたとしてもバッテリ13の出力電圧がFC昇圧コンバータ12の出口電圧より低い状態となるので、バッテリ昇圧コンバータ14が昇圧動作可能となり、以てバッテリ13からモータ16への電力供給ができる。従って、この状態ではFC昇圧コンバータ12の動作停止が許容される。一方で、バッテリ13のIV特性LBTが、燃料電池11のIV特性LFCより高い領域においては、FC昇圧コンバータ12を停止させるとバッテリ13の出力電圧がFC昇圧コンバータ12の出口電圧より高い状態となるので、バッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作による燃料電池11とバッテリ13の出力分配制御が不可能となる。従って、この状態ではFC昇圧コンバータ12の動作停止が許容されない。
即ち、バッテリ昇圧コンバータ14によってバッテリ13からの出力電圧を昇圧して、モータ16に電圧を印加する場合には、FC昇圧コンバータ12の出口電圧が、バッテリ13の出力電圧(バッテリ昇圧コンバータ14の入口電圧)より高い状態を形成する必要があり、そのためにFC昇圧コンバータ12の動作停止が許容されない場合がある。例えば、図7Aに示すように、比較的低電流領域で、燃料電池11のIV特性LFCがバッテリ13のIV特性LBTより低くなる場合には、バッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作を確保するために、FC昇圧コンバータ12の動作停止は許容されず、その結果、上述したスイッチング損失の低減を図る可能性が低下する。一方で、例えば、図7Bに示すように、燃料電池11のIV特性LFCがバッテリ13のIV特性LBTより常に上にある場合には、バッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作確保の観点から、FC昇圧コンバータ12の動作停止が制限されることはない。
尚、上述までのバッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作確保に関するFC昇圧コンバータ12の動作制限は、図1に示す燃料電池システム10に含まれるバッテリ昇圧コンバータ14が昇圧型のコンバータ(即ち、降圧動作を行えないコンバータ)であることに起因する。従って、燃料電池システム10において、バッテリ昇圧コンバータ14に代えて、
昇圧動作および降圧動作が可能な昇降圧型のコンバータを採用する場合は、FC昇圧コンバータ12は上記の動作制限に縛られることはなく、燃料電池11、バッテリ13からの出力電圧を選択的にモータ16に印加できる。
以上より、本実施例においては、想定される車両1の駆動に基づいて必要なバッテリ13のIV特性と燃料電池11のIV特性を決定し、両IV特性の相関および燃料電池11の出力電圧とモータ必要電圧との関係から、図8Aおよび図8Bのマップに示すようなFC昇圧コンバータ12の昇圧動作のための制御領域を画定した。以下に、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作について、詳細に説明する。
図8Aおよび図8Bは、FC昇圧コンバータ12の入口電圧を横軸とし、その出口電圧を縦軸として形成される動作領域に対して、該FC昇圧コンバータ12において実行される処理を関連付けて表示したマップである。尚、図8Aは、燃料電池システム10に含まれるバッテリ昇圧コンバータ14が昇圧型のコンバータであるときのマップであり、図8Bは、該昇圧型のバッテリ昇圧コンバータ14に代えて、昇降圧型のコンバータを採用したときのマップである。先ず、図8Aに示すマップについて説明する。ここで、当該マップには、FC昇圧コンバータ12による昇圧比が1であること、即ち該入口電圧と該出口電圧との比が1:1であることを意味する直線LR1と、その昇圧比が2近傍の値(図中では、昇圧比を単に「2」と示す。)であることを意味する直線LR2と、その昇圧比が10であることを意味する直線LR3と、該FC昇圧コンバータ12の最高出力電圧を意味する直線LR4が記載されている。直線LR2については、図9、図10A、10Bに基づいて後述する。また、直線LR3は、FC昇圧コンバータ12による最大昇圧比を示している。従って、FC昇圧コンバータ12の動作範囲は、直線LR1、LR3、LR4で囲まれる領域であることが分かる。
ここで、車両1の想定速度範囲で、最もモータ16にかかる負荷が低い場合、即ち道路の摩擦抵抗程度の負荷がかかる場合(図中、負荷率=R/L (Road Load))のFC昇圧コンバータ12の入口電圧とその出口電圧との関係が、一点鎖線LL1で示されている。一方で、同じように車両1の想定速度範囲で、最もモータ16にかかる負荷が高い場合、即ち車両1のアクセル開度が100%である場合(図中、負荷率=100%)のFC昇圧コンバー
タ12の入口電圧とその出口電圧との関係が、一点鎖線LL2で示されている。従って、車両1に搭載される燃料電池システム10は、車両1を駆動させるという観点からは、一点鎖線LL1とLL2とで挟まれた領域で示される昇圧動作を、FC昇圧コンバータ12に行わせることになる。
図8Aに示すマップでは、FC昇圧コンバータ12の動作領域をRC1〜RC4の4つの領域に区分している。これらの領域では、それぞれFC昇圧コンバータ12の動作に関し特徴的な動作が行われ、以下に各領域でのFC昇圧コンバータ12の動作を説明する。先ず、昇圧比1を示す直線LR1以下の領域として、領域RC1が画定されている。この領域RC1では、モータ16を駆動するために必要とされる昇圧比が1以下であるので(現実にはFC昇圧コンバータ12は昇圧コンバータであるので、昇圧比を1以下にすること、即ち降圧はできないことに注意されたい。)、結果的にはFC昇圧コンバータ12を停止させて、燃料電池11の出力電圧を直接インバータ15に印加することが可能となる。そこで、FC昇圧コンバータ12の入口電圧となる燃料電池11の出力電圧が、燃料電池11の最大電圧のVfcmaxと、バッテリ13の開放電圧(OCV: Open Circuit Voltage)と同値のVfcbとの間の範囲であって、且つ直線LR1および一点鎖線LL1とで
囲まれて画定される領域RC1においては、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作を完全に停止させる。これにより、FC昇圧コンバータ12におけるスイッチング損失を抑えることが可能となる。このように、電圧Vfcbを境界としてFC昇圧コンバータ12の動作停止が制約を受けるのは、上述の通りバッテリ昇圧コンバータ14が昇圧型のコンバータ
でありその昇圧動作確保のためである。
次に、領域RC2について説明する。この領域は、FC昇圧コンバータ12の入口電圧が上記のVfcb以下であって、且つ該FC昇圧コンバータ12の出口電圧がバッテリ13のOCV以下、即ちVfcbと同値の電圧以下である領域として画定される。即ち、この領域RC2においては、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作を行わないとバッテリ昇圧コンバータ14の出口電圧が入口電圧より低くなり該バッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作が不可能となる領域であり、また仮にFC昇圧コンバータ12の昇圧動作を行ったとしても、その昇圧比が低いため同様にバッテリ昇圧コンバータ14の昇圧動作が不可能となる領域でもある。
このように画定される領域RC2では、領域RC1と同様に、FC昇圧コンバータ12を停止させて、そのスイッチング損失が発生しないようにする。そして、バッテリ昇圧コンバータ14にて制御可能な最低電圧に燃料電池11の端子電圧を制御する。尚、図では、理想的な昇圧コンバータを使用した場合にその電圧はバッテリ13のOCVに等しいと仮定して、上記Vfcbを設定している。この状態は、バッテリ13の放電電力が許す限り継続される。
尚、この領域RC2は、モータ16の駆動状態が変遷する中で、FC昇圧コンバータ12の動作領域が上記領域RC1から、後述する領域RC3に移行する際に介在する過渡的な領域である。従って、バッテリ昇圧コンバータ14が昇圧型のコンバータである場合には、この過渡的な領域RC2が可能な限り小さくなるように、図7A、7Bに基づいて説明した燃料電池11のIV特性とバッテリ13のIV特性との相関を適切に調整するのが好ましい。
ここで、直線LR1より下の領域に関して、図8Bに示すマップ、即ち燃料電池システム10においてバッテリ昇圧コンバータ14に代えて昇降圧型のコンバータが採用されたときのマップについて説明する。この場合、昇降圧型のコンバータによってバッテリ13の出力電圧を降圧することが可能であるから、上述したようにFC昇圧コンバータ12の動作停止について上記電圧Vfcbによる制約を受けることがなくなる。従って、図8Bに示すように、直線LR1よりも下の領域については、FC昇圧コンバータ12の動作を制約無く停止しシステムの効率を向上させることが容易となる。従って、この結果、図8Bにおいては上記領域RC2に相当する領域が存在しないことになる。ここで、以下に示すマップの説明は、図8Aおよび図8Bに共通に当てはまるため、その説明はまとめて行う。
上述までの領域RC1、RC2以外の動作領域では、FC昇圧コンバータ12を駆動させて、燃料電池11の出力電圧の昇圧動作を行うことになる。この昇圧動作においては、図4A〜4Fに基づいて説明したソフトスイッチング処理が実行されることで、FC昇圧コンバータ12でのスイッチング損失を可及的に抑制する。ここで、このソフトスイッチング処理が行われる動作領域は、直線LR2で準ソフトスイッチ領域RC3とソフトスイッチ領域RC4とに区分けされる。以下に、準ソフトスイッチ領域RC3とソフトスイッチ領域RC4とについて、詳細に説明する。
先ず、直線LR2の技術的意義について説明する。上述したように、直線LR2は、FC昇圧コンバータ12による昇圧比が2近傍の値となることを意味する直線である。本発明に係るFC昇圧コンバータ12の電気的構造は、図2に示すとおりであるが、上述したソフトスイッチング処理の一連のフローにおけるモード2の動作において、補助回路12bのコイルL2とスナバコンデンサC2による半波共振を利用したスナバコンデンサC2の放電が行われる。このモード2の動作においてFC昇圧コンバータ12内で実際に稼動
している部分のみを抜き出すと、図9に示す回路構成となる。
そして、図9に示す回路構成において、スナバコンデンサC2内に充電されている電荷を完全に放電しなければ、その後のモード3の動作で、スイッチ素子S1に電圧がかかった状態で、スイッチ素子S1のターンオンによる電流が流れるため、結果としてスイッチング損失が発生することになる。従って、このモード2におけるスナバコンデンサC2の電荷を完全に放電することが重要であることが理解されるが、そのためにはモード1の動作時点でコイルL2に蓄えられているエネルギがスナバコンデンサC2に蓄えられているエネルギよりも大きくなければならない。換言すると、FC昇圧コンバータ12の出口電圧VHが、その入口電圧VLよりも所定量以上高くならなければならない。
そこで、該出口電圧と該入口電圧との比VH/VLと、上記放電時のスナバコンデンサC2に残る電圧との関係を、図10Aおよび10Bに基づいて説明する。尚、図10Aが比VH/VLが2を超える場合のスナバコンデンサC2の電圧推移を示し、図10Bが比VH/VLが2未満の場合のスナバコンデンサC2の電圧推移を示している。図10Aに示す場合は、VH−VLの値はVLよりも大きくなるため、半波共振が生じるとスナバコンデンサC2の電圧は、ダイオードD2の作用もありゼロとなる。一方で、図10Bに示す場合では、VH−VLの値はVLよりも小さくなるため、半波共振が生じたとしてもスナバコンデンサC2の電圧は、一定値以上残ることになる。従って、このような場合に上記ソフトスイッチング処理を行っても幾分かのスイッチング損失が発生することになる。以上より、ソフトスイッチング処理によるスイッチング損失の抑制が効果的に行われ得るか否かを判断する基準として、直線LR2が存在することになる。
尚、理論的には比VH/VLが2倍以上あれば、放電後のスナバコンデンサC2の電圧はゼロとなるが、実際にはダイオードや配線内でのエネルギ損失が発生するため、比VH/VLは2倍を超える値(例えば、2.3等)が好ましい。そして、一点鎖線LL1とLL2で挟まれた動作領域中、領域RC1、RC2を除いた領域を、直線LR2が二つに分割し、直線LR2より下に位置する領域を、上記理由によりソフトスイッチング処理を行ってもスイッチング損失を効率的に抑制するのが難しい準ソフトスイッチ領域RC3とし、直線LR2より上に位置する領域を、ソフトスイッチング処理によるスイッチング損失の抑制が効率的に行われるソフトスイッチ領域RC4とする。
このように、FC昇圧コンバータ12の動作領域は、所定の領域RC1〜RC4に区分けできるが、準ソフトスイッチ領域RC3では、上述したようにFC昇圧コンバータ12のスイッチング損失を十分に抑制することができないため、燃料電池システム10の効率化の観点から、この領域でFC昇圧コンバータ12が昇圧動作を行うことは可及的に回避するが好ましい。そこで、燃料電池システム10の効率化を促進するための、FC昇圧コンバータ12の制御の一例について、図11Aに基づいて説明する。図11Aに示すFC昇圧コンバータ制御は、ECU20によって、燃料電池11で発電された電力がモータ16に供給されるときに実行される。尚、上記準ソフトスイッチ領域RC3における昇圧動作については、燃料電池システム10のより良い効率のために可及的に回避することが好ましいのは上述の通りであるが、本発明に係る燃料電池システム10は当該昇圧動作を完全に排除するものではなく、必要に応じて当該昇圧動作を利用してもよい。
先ず、S201では、エンコーダによって検出されたモータ16の実際の回転数に対応する、該モータ16が最大出力し得る最大トルクを算出する。具体的には、モータ16の回転数とそれに対応した最大トルクとが関連付けられているマップをECU20が有しており、検出された回転数に従って該マップにアクセスすることでモータ16の最大トルクが算出される。S201の処理が終了すると、S202へ進む。
S202では、アクセルペダルセンサ21によって検出されたアクセルペダルの開度に基づいて、モータ16に出力要求されている要求トルクが算出される。アクセルペダルの全開が、モータ16の現時点での回転数における最大トルクを要求していると定義すると、全開時の係数を100%、全閉時の係数を0%として、以下の式に従って要求トルクが算出される。S202の処理が終了すると、S203へ進む。
(要求トルク)=(上記最大トルク)×(アクセルペダルの開度に応じた係数)
S203では、S201とS202での算出結果に基づいて、モータ16に要求されている出力である要求出力が、以下の式に従って算出される。S203の処理が終了すると、S204へ進む。
(要求出力)=(要求トルク)×(モータの回転数)
S204では、S203で算出された要求出力とモータ16の回転数に基づいて、必要な電力がモータ16に供給されるように、インバータ15に印加されるべき電圧であるモータ必要電圧(Vmot)が算出される。具体的には、モータ16の回転数(rpm)と上記要求出力(P)で形成される関数Fと、モータ必要電圧とが関連付けられているモータ必要電圧マップをECU20が有しており、モータの回転数と要求出力とに従ってこのマップにアクセスすることで、モータ必要電圧が算出される。モータ必要電圧マップは、実験等によって予め決定され得るもので、その一例としては、モータ16の回転数が高くなるに従いその逆起電圧が高くなるため要求電圧値は高くなるべきであり、要求出力が高くなるとその出力をより少ない電流で達成するために要求電圧値は高くなるべきであるので、これらの点が関数Fとモータ必要電圧との相関に反映されている。S204の処理が終了すると、S205へ進む。
S205では、アクセルペダルセンサ21によって検出されたアクセルペダルの開度に従って発電が行われている燃料電池11の出力電圧(Vfc)が検出される。この検出は、図示されない電圧センサを介して行われる。S205の処理が終了すると、S206へ進む。S206では、S204で算出されたモータ必要電圧を、S205で検出された燃料電池11の出力電圧で除して暫定昇圧比Rt(=Vmot/Vfc)が算出される。S206の処理が終了すると、S207へ進む。
S207では、FC昇圧コンバータ12を停止させることが可能か否かが判定される。即ち、FC昇圧コンバータ12の動作領域が、上記領域RC1もしくはRC2の何れかに属するか否かが判定される。具体的には、S206で算出された暫定昇圧比が1未満で、且つ燃料電池11の出力電圧がVfcmaxとVfcbの間であるときは、FC昇圧コンバータ12の動作領域はRC1であり、また燃料電池11の出力電圧がVfcb以下であって且つ該FC昇圧コンバータ12の出口側電圧がVfcbと同値の電圧以下であるときは、FC昇圧コンバータ12の動作領域はRC2であると判定される。尚、Vfcb、Vfcmaxの値は、実際の燃料電池11およびバッテリ13の仕様に従って予め決定しておけばよい。また、FC昇圧コンバータ12の出口側の電圧は、図示されない電圧センサを介して検出される。
そして、S207で肯定判定される場合は、S208へ進み、FC昇圧コンバータ12が停止され、燃料電池11からの出力電圧は、インバータ15に直接印加される。これにより、FC昇圧コンバータ12でのスイッチング損失を抑制することができる。尚、上述したように、FC昇圧コンバータ12の動作領域がRC1に属する場合には、バッテリ13からインバータ15への昇圧後の印加も可能だが、該動作領域がRC2に属する場合には、バッテリ昇圧コンバータ14にて制御可能な最低電圧に燃料電池11の端子電圧を制御する。一方で、S207で否定判定されると、S209へ進む。
S209では、S206で算出された暫定昇圧比Rtが2を超えるか否かが判定される。即ち、FC昇圧コンバータ12の動作領域がソフトスイッチ領域RC4にあるか、準ソフトスイッチ領域RC3にあるかが判定される。S209で肯定判定されると、FC昇圧コンバータ12の動作領域がソフトスイッチ領域RC4にあることを意味するのでS210へ進み、FC昇圧コンバータ12の目標の出力電圧がモータ必要電圧Vmotとなるように図3で示したソフトスイッチング処理が実行される。尚、スイッチ素子S1のデューティ比は、暫定昇圧比Rtに従って決定される。一方で、S209で否定判定されると、FC昇圧コンバータ12の動作領域が準ソフトスイッチ領域RC3にあることを意味する。そこでこの場合はS211に進む。
S211では、燃料電池システム10においてS206で算出された暫定昇圧比Rtによる電圧昇圧に加えて、更に追加的な電圧昇圧(以下、単に「追加的電圧昇圧」という。)が許容されるか否かが判定される。言い換えると、S209で否定判定されるということは、FC昇圧コンバータ12の動作領域が現時点では準ソフトスイッチ領域RC3にあることを意味するので、その動作領域をソフトスイッチ領域RC4に移行することが可能か否かが判定される。即ち、当該動作領域を準ソフトスイッチ領域RC3からソフトスイッチ領域RC4に移行させるために追加的電圧昇圧を行おうとすると、インバータ15に印加される電圧が必要なモータ必要電圧よりも高くなる。その結果、インバータ15内でのスイッチング損失が大きくはなるが、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失の減少分と、インバータ15のスイッチングロスの増加分とを比較したとき、前者の減少分が大きい場合もあり得、その場合この追加的電圧昇圧は、システム効率の観点から非常に有用である。そこで、S211では、この追加的電圧昇圧が許容されるか否かが判定されることになる。S211で肯定判定されると、S212へ進み、追加的電圧昇圧のための追加昇圧比Raが決定される。この追加昇圧比Raは、FC昇圧コンバータ12による最終的な昇圧比(Rt×Raによる昇圧比)が、直線LR2で決められる昇圧比(例えば、昇圧比2)を超えるようにするために必要な追加的な昇圧比である。そして、S212の処理後、S213へ進み、FC昇圧コンバータ12の目標の出力電圧が燃料電池11の出力電圧Vfcに昇圧比Rtと追加昇圧比Raを掛け合わせて算出される電圧となるように図3で示したソフトスイッチング処理が実行される。尚、スイッチ素子S1のデューティ比は、暫定昇圧比Rtと追加昇圧比Raの積に従って決定される。
このように、S209で否定判定された時点では、本来的にはFC昇圧コンバータ12の動作領域は準ソフトスイッチ領域RC3であり、その状態でソフトスイッチング処理を行っても上述したように、スイッチング損失を十分に抑制することが困難である。この場合には、FC昇圧コンバータ12による昇圧比に上記追加昇圧比Raを考慮することで、本来的にモータ16の駆動に要する電圧よりも更に電圧を上げてFC昇圧コンバータ12の動作領域をソフトスイッチ領域RC4とする。その結果、スイッチング損失を効果的に抑制することが可能となる。
一方で、S211で否定判定されると、S214へ進み、FC昇圧コンバータ12の動作領域がRC3の状態で、上記ソフトスイッチング処理が行われる。燃料電池11が上記追加的電圧昇圧が許容されない状態にあるとき、即ち上述のように電圧を追加的に昇圧させることでインバータ15におけるスイッチング損失が顕著になる状態では、S212及びS213の処理は行われない。
この図11Aに示すFC昇圧コンバータ制御によれば、モータ16の駆動を確保することを前提に、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作を可能な限り停止することができ、以てスイッチング損失を抑えることができる。また、FC昇圧コンバータ12を昇圧動作させる場合であっても、その動作領域を可能な限りソフトスイッチ領域RC4とした上でソフトスイッチング処理が行われるため、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失を可及
的に抑制することが可能となる。
本発明に係る燃料電池システム10の第二の実施例について説明する。図11Bに基づいて、燃料電池システム10の効率化を促進するための、FC昇圧コンバータ12の制御の一例について説明する。図11Bに示すFC昇圧コンバータ制御は、ECU20によって、燃料電池11で発電された電力がモータ16に供給されるときに実行される。図11Bに示すFC昇圧コンバータ制御における処理S501〜S504は、図11Aに示すFC昇圧コンバータ制御における処理S201〜S204と同様であるので、ここではその説明を省略する。図11Bに示すFC昇圧コンバータ制御における処理S504の処理が終了すると、S505へ進む。
S505では、燃料電池11の出力(以下、FC出力という)に基づいて、燃料電池11の出力電圧を算出する。FC出力は、以下の式(1)に従って算出される。
(FC出力)=(要求出力)+(補機要求出力)+(バッテリ充電(放電)出力)・・・(1)
要求出力は、モータ16に要求されている出力であり、モータ16の駆動に必要な電力である。補機要求出力は、水素タンク17やコンプレッサ18等の補機に要求されている出力であり、補機の駆動に必要な電力である。バッテリ充電(放電)出力は、バッテリ13の充放電に必要な出力であり、バッテリ充電出力は、充電時においてバッテリ13に充電される電力であり、バッテリ放電出力は、放電時においてバッテリ13が放電する電力である。バッテリ13の残蓄電量と上記SOC閾値との差がバッテリ充電(放電)出力となる。
バッテリ13の残蓄電量が上記SOC閾値未満であれば、バッテリ充電出力を上記式(1)に算入し、FC出力を算出する。バッテリ13の残蓄電量が上記SOC閾値以上であれば、バッテリ放電出力を上記式(1)にマイナス分として算入し、FC出力を算出する。そして、上記式(1)で算出したFC出力に基づいて、燃料電池11の出力電圧が算出される。具体的には、FC出力と燃料電池11の出力電流とが関連付けられているIP特性MAP及び燃料電池11の出力電流と燃料電池11の出力電圧とが関連付けられているIV特性マップをECU20が有しており、FC出力に従ってこれらのマップにアクセスし、燃料電池11の出力電圧が算出される。本実施例によれば、補機に要求されている出力やバッテリ13の充放電出力を加味して、FC出力を算出することにより、補機に要求されている出力やバッテリ13の残蓄電量を考慮して、燃料電池11の出力電圧を算出することができる。なお、図示しないが、補機に要求されている出力を他の電力供給源が補機に供給している場合には、補機に要求されている出力を上記式(1)に算入せずに、FC出力を算出してもよい。
また、上記式(1)を以下に示す式(2)のように変形してもよい。
(FC出力)=(要求出力)+(補機要求出力)+(バッテリ充電(放電)出力)+(F
C昇圧コンバータ12のスイッチング損失)+(バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチ
ング損失)・・・(2)
FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失とは、FC昇圧コンバータ12のスイッチングによって生じるインバータ15への供給電力の損失量をいう。また、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失とは、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチングによって生じるインバータ15への供給電力の損失量をいう。このように変形することにより、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失やバッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失を更に加味して、FC出力を算出することにより、FC昇圧コンバータ12のスイッチングの損失分やバッテリ昇圧コンバータ14のスイッチングの損失分を考慮して、燃料電池11の出力電圧を算出することができる。なお、上述したように、補機に要求さ
れている出力を他の電力供給源が補機に供給している場合には、補機に要求されている出力を上記式(2)に算入せずに、FC出力を算出してもよい。
FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失は、FC昇圧コンバータ12の出入口に、電流センサ及び電圧センサを設け、FC昇圧コンバータ12の出入口側の電流及び電圧を測定することにより算出する。また、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失は、バッテリ昇圧コンバータ14の出入口に、電流センサ及び電圧センサを設け、バッテリ昇圧コンバータ14の出入口側の電流及び電圧を測定することにより算出する。ここで、FC昇圧コンバータ12及びバッテリ昇圧コンバータ14がともに昇圧動作を行っている場合には、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失及びバッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失を加味してFC出力を算出する。即ち、上記式(2)に、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失及びバッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失を算入して、FC出力を算出する。
一方、バッテリ昇圧コンバータ14のみが昇圧動作を行っている場合には、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失のみを加味してFC出力を算出する。即ち、上記式(2)には、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失を算入し、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失を算入せずに、FC出力を算出する。また、FC昇圧コンバータ12のみが昇圧動作を行っている場合には、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失のみを加味してFC出力を算出する。即ち、上記式(2)には、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失を算入し、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失を算入せずに、FC出力を算出する。また、上記式(2)に、バッテリ充電(放電)出力を算入せずに、FC出力を算出してもよい。バッテリ充電(放電)出力を考慮しないでよい場合もあるからである。
S505の処理が終了すると、S506へ進む。S506では、FC昇圧コンバータ12を停止させることが可能か否かが判定される。即ち、S504で算出されたモータ必要電圧と、S505で算出された燃料電池11の出力電圧との比較が行われ、S505で算出された燃料電池11の出力電圧がS504で算出されたモータ必要電圧よりも大きいか否かが判定される。そして、S506で肯定判定される場合、即ち、S505で算出された燃料電池11の出力電圧がS504で算出されたモータ必要電圧よりも大きい場合は、S507へ進み、FC昇圧コンバータ12が停止され、燃料電池11からの出力電圧は、インバータ15に直接印加される。これにより、FC昇圧コンバータ12でのスイッチング損失を抑制することができる。一方で、S506で否定判定されると、S508へ進み、図3で示したソフトスイッチング処理が実行される。
また、図11Bに示すFC昇圧コンバータ制御における処理S506で否定判定された場合に、S504で算出されたモータ必要電圧を、S505で算出された燃料電池11の出力電圧で除して暫定昇圧比Rtを算出するようにしてもよい。そして、暫定昇圧比Rtを算出した後、図11Aに示すFC昇圧コンバータ制御における処理S209〜S214の処理を行うようにしてもよい。
<変形例1>
また、モータ16を駆動するためのインバータ15への電圧印加について、インバータ15の変換効率やモータ16の駆動効率を考慮するのが好ましい。例えば、上述した第一の実施例及び第二の実施例で説明したように、燃料電池11からモータ16への電力供給時に、FC昇圧コンバータ12を停止させない場合、インバータ15に印加される電圧をFC昇圧コンバータ12によって昇圧させる。本変形例では、インバータ15に印加される電圧を、要求トルクとモータ16の回転数とに基づいて、インバータ15、モータ16を含む負荷の効率特性とインバータ15に印加される電圧とを関連付けたマップから決定
する。そして、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作により、燃料電池11の出力電圧を上記決定した電圧に昇圧させ、インバータ15に印加する。例えば、インバータ15の効率特性はインバータ15に印加される電圧に対するインバータ15の変換効率であり、モータ16の効率特性はモータ16に印加される電圧に対するモータ16の駆動効率である。
本変形例では、負荷の効率特性を決定し、要求トルクとモータ16の回転数との関係から、図12A、図12B及び図12Cに示すような負荷の効率特性の領域を画定する。図12A、図12B及び図12Cは、要求トルクを縦軸とし、モータ16の回転数を横軸として、負荷の効率特性の領域を効率の高低により段階的に区分して表示したマップである。図12Aは、インバータ15に印加される電圧が高である場合における負荷の効率特性の領域を表示したマップである。図12Bは、インバータ15に印加される電圧が中である場合における負荷の効率特性の領域を表示したマップである。図12Cは、インバータ15に印加される電圧が低である場合における負荷の効率特性の領域を表示したマップである。図12A、図12B及び図12Cにおける点Aは、要求トルクT1とモータ16の回転数R1(以下、単に「回転数R1」という。)とに基づいて決定されたものであり、点Bは、要求トルクT2とモータ16の回転数R2(以下、単に「回転数R2」という。)とに基づいて決定されたものである。
図12Cにおける点Aは、負荷の効率特性が高効率である領域に含まれているが、図12A及び図12Bにおける点Aは、負荷の効率特性が高効率である領域に含まれていない。したがって、要求トルクT1及び回転数R1では、インバータ15に印加される電圧が低である場合、負荷の効率特性が高いことがわかる。図12Bにおける点Bは、負荷の効率特性が高効率である領域に含まれているが、図12A及び図12Cにおける点Bは、負荷の効率特性が高効率である領域に含まれていない。したがって、要求トルクT2及び回転数R2では、インバータ15に印加する電圧が中である場合、負荷の効率特性が高いことがわかる。このように、インバータ15に印加される電圧によっては、負荷の効率特性が変化する。すなわち、インバータ15に印加される電圧と負荷の効率特性との間には相関関係がある。
図12Dにおいて、要求トルクT1と回転数R1とに基づいて決定された点Aについてのインバータ15に印加される電圧と負荷の効率特性との相関を示す。図12Dの横軸は、インバータ15に印加される電圧を示しており、図12Dの縦軸は、負荷の効率特性を示している。図12Dに示すように、インバータ15に印加される電圧が低である場合には、インバータ15に印加される電圧が中や高である場合に比べて負荷の効率特性は高い。したがって、要求トルクT1及び回転数R1におけるモータ16の駆動をできる限り確保するためには、インバータ15に印加される電圧が低となるように、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作を行うようにすればよい。
図12Eにおいて、要求トルクT2と回転数R2とに基づいて決定された点Bについてのインバータ15に印加される電圧と負荷の効率特性との相関を示す。図12Eの横軸は、インバータ15に印加される電圧を示しており、図12Eの縦軸は、負荷の効率特性を示している。図12Eに示すように、インバータ15に印加される電圧が中である場合には、インバータ15に印加される電圧が低や高である場合に比べて負荷の効率特性は高い。したがって、要求トルクT2及び回転数R2におけるモータ16の駆動をできる限り確保するためには、インバータ15に印加される電圧が中となるように、FC昇圧コンバータ12の昇圧動作を行うようにすればよい。
本変形例に係る燃料電池システム10では、以上のようなマップをECU20が有しており、インバータ15に印加される電圧を負荷の効率特性の観点から決定する。そして、該決定した電圧となるようにFC昇圧コンバータ12の昇圧動作を行うことにより、最適
電圧をインバータ15に印加することが可能となる。
<変形例2>
また、上述したように、燃料電池システム10においては、昇圧型のバッテリ昇圧コンバータ14に代えて、昇圧動作および降圧動作が可能な昇降圧型のコンバータも採用可能である。そこで、本変形例では、上記式(2)において、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失に代えて、昇圧動作および降圧動作が可能な昇降圧型のコンバータ(以下、バッテリ昇降圧コンバータという)のスイッチング損失を算入して、FC出力を算出する。バッテリ昇降圧コンバータのスイッチング損失とは、バッテリ昇降圧コンバータのスイッチングによって生じるインバータ15への供給電力の損失量をいう。このようにすることにより、FC昇圧コンバータ12のスイッチングの損失分やバッテリ昇降圧コンバータのスイッチングの損失分を考慮して、燃料電池11の出力電圧を算出することができる。
なお、FC昇圧コンバータ12が昇圧動作を行っており、バッテリ昇降圧コンバータが昇降圧動作を行っている場合には、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失及びバッテリ昇降圧コンバータのスイッチング損失を加味してFC出力を算出する。即ち、上記式(2)に、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失及びバッテリ昇降圧コンバータのスイッチング損失を算入して、FC出力を算出する。一方、バッテリ昇降圧コンバータのみが昇降圧動作を行っている場合には、バッテリ昇降圧コンバータのスイッチング損失のみを加味してFC出力を算出する。即ち、上記式(2)には、バッテリ昇降圧コンバータのスイッチング損失を算入し、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失を算入せずに、FC出力を算出する。また、FC昇圧コンバータ12のみが昇圧動作を行っている場合には、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失のみを加味してFC出力を算出する。即ち、上記式(2)には、FC昇圧コンバータ12のスイッチング損失を算入し、バッテリ昇圧コンバータ14のスイッチング損失を算入せずに、FC出力を算出する。
本発明に係る燃料電池システムの第三の実施例について、図13〜15に基づいて説明する。本実施例に係る燃料電池システムと上述の第一の実施例に係る燃料電池システムとの相違点は、FC昇圧コンバータ12内の補助回路12bおよびそれに関連する技術である。そこで、本実施例では、当該相違点に着目して説明を行う。
図13は、図2と同様に、FC昇圧コンバータ12を中心として、燃料電池システム10の電気的構成を示す図である。ここで、図13に示すFC昇圧コンバータ12の補助回路12bには、スイッチ素子S3とダイオードD6とで構成されるスイッチング回路が更に設けられている。具体的には、スイッチ素子S3の一端がダイオードD2のアノード端子側に接続され、該スイッチ素子S3の他端が燃料電池11の低電位側の端子に接続されている。このスイッチ素子S3は、先のソフトスイッチング処理におけるモード2の動作での、スナバコンデンサC2に蓄えられた電荷の放電をサポートするものである。そこで、本実施例においては、スイッチ素子S3のスイッチング動作を含めた、新たなソフトスイッチング処理を図14及び図15に基づいて説明する。
図14は、図3と同様にFC昇圧コンバータ12におけるソフトスイッチング処理の流れを示すフローチャートである。図3に示すソフトスイッチング処理との違いは、図14に示す処理では、S102とS103の処理の間、即ちモード2とモード3の各動作の間に、スイッチ素子S3のスイッチング動作による新たな処理S301が設定されている点である。そこで、この相違点を重点的に説明し、他の処理については、図3と同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は省略する。
ここで、S102の処理によりモード2の動作が行われているとき、FC昇圧コンバータ12では、スイッチ素子S3はターンオフ状態となっている。また、スイッチ素子S3のスイッチング動作の効果を明確に示すために、FC昇圧コンバータ12の出口電圧VHとその入口電圧VLの関係を、FC昇圧コンバータ12の電気的状態を表すパラメータである比VH/VLについて、該比が2未満であると設定する。この場合、コイルL2とスナバコンデンサC2の半波共振によって、該スナバコンデンサC2の電荷は抜けていくが、図10Bに示すようにスナバコンデンサC2の電圧はゼロとはならないことになる。
ここで、本実施例では、上記半波共振によるスナバコンデンサC2の電圧変動が底値となるタイミングで、S301の処理によりスイッチ素子S3をターンオンする。すると、図15に示すように、スナバコンデンサC2において半波共振によっても抜けきらなかった電荷が、スイッチ素子S3を介して補助回路12b内に分散されていくため、スナバコンデンサC2の電圧を更に低下させることができる。その結果、S301後のS103の処理において、スイッチ素子S1をターンオンするとき、該スイッチ素子S1にかかっている電圧を可及的に下げることができ、以てスイッチング損失をより確かに抑制することができる。尚、FC昇圧コンバータ12の出口電圧VHとその入口電圧VLの関係において、比VH/VLが所定値を超える場合(本実施例では2を超える場合)は、スナバコンデンサC2の電荷はモード2の動作により抜けきっているため、S301の処理を必ずしも行う必要はない。
<その他の実施例>
なお、上記回路は、ソフトスイッチング時、スナバコンデンサC2に蓄えられた回生電力が燃料電池11へ入力されないようにするため、スナバコンデンサC2から燃料電池11へ流れる電気回路上に回生電力を抑える素子を設け、或いは、スナバコンデンサC2に蓄えられた回生電力がバッテリ13へ流れるようにしてもよい。燃料電池11へ流れる回生電力を抑える方法としては、例えば、スナバコンデンサC2から燃料電池11へ流れる電路上に、一端が接地された平滑コンデンサ、ツェナダイオード、又はバリスタを設けることが考えられ、これにより電路の電圧が規定電圧以上になるのを抑制することができる。また、スナバコンデンサC2から燃料電池11へ回生電力が逆流するのを防止するダイオードを設ける方法も有用である。そして、回生電力をバッテリ13へ流れるようにする方法としては、例えば、スイッチ素子S2の下流側を燃料電池11ではなくバッテリ13へ繋ぐ回路構成にする方法が挙げられる。
また、上記実施形態で説明したように、燃料電池11からFC昇圧コンバータ12を通じてインバータ15、モータ16を含む負荷に電力を供給すると、FC昇圧コンバータ12での電力損失が発生する。この電力損失には、変換される電力の大小への依存度の少ない、鉄損あるいはスイッチング損失が含まれる。そのため、出力電力の小さい低負荷領域で、特に電力効率の低下が目立つことになる。そこで、低負荷領域では、FC昇圧コンバータ12を停止し、燃料電池11の電力を変換せずに負荷に供給し(スルーモード、バイパスモード)、あるいは、バッテリ13からバッテリ昇圧コンバータ14を通じて電力を負荷に供給すべきとの要請が強い。
ここで、一般的なコンバータにおけるスルーモードおよびバイパスモードについて、図16A〜図16Dに基づいて簡単に説明する。尚、各図中の太線矢印は、各コンバータにおける電流の流れを示す。図16Aは、当該コンバータが昇圧型のコンバータ(上述のFC昇圧コンバータ12がこのタイプのコンバータである。)であるときのスルーモードの様子を示す図である。昇圧を行うためのスイッチ素子をターンオフ状態とすることで、一次側の電圧をそのまま二次側に印加することができる。図16Bは、当該コンバータが昇圧型のコンバータであって、昇圧のためのコイルとダイオードの直列体に対して並列にバイパス用のダイオードが接続されているコンバータでのバイパスモードの様子を示す図で
ある。昇圧を行うためのスイッチ素子をターンオフ状態とすることで、一次側の電圧をバイパスさせて二次側に印加することができる。図16Cは、当該コンバータがハーフブリッジ型のコンバータであるときのスルーモードの様子を示す図である。昇圧を行うための二つのスイッチ素子のうち、図中上側をターンオン状態、下側をターンオフ状態とすることで、一次側の電圧をそのまま二次側に印加することができる。図16Dは、当該コンバータがフルブリッジ型のコンバータであるときのスルーモードの様子を示す図である。昇圧を行うための四つのスイッチ素子のうち、図中上側の二つをターンオン状態、下側の二つをターンオフ状態とすることで、一次側の電圧をそのまま二次側に印加することができる。尚、図16B〜図16Dに示す構成は上述のFC昇圧コンバータ12のコンバータとは異なるが、仮にFC昇圧コンバータ12がこれらの構成を採用する場合、各図に示すようにスイッチ素子を制御することで、上記スルーモードおよびバイパスモードが実現される。
一方、燃料電池11は、耐久性向上のため、触媒のシンタリング現象を回避することが必要とされる。シンタリング現象は、燃料電池11の電極上のPt触媒が凝集する現象であり、Pt触媒の表面での水(およびプロトンに対する)に対する酸化還元反応により誘発されるとされている。さらに、そのような酸化還元反応は、燃料電池11の端子電圧が開放電圧(OCV)に近い、比較的高電位で引き起こされることが知られている。
ところで、燃料電池11が低負荷になると、燃料電池11のIV特性にしたがい、燃料電池11の端子電圧が開放電圧(OCV)に近づいていく。しかしながら、上述のように、FC昇圧コンバータ12を停止すると、燃料電池11の端子電圧を制御することができず、上記反応に起因する触媒の劣化を回避することが困難となる。
そこで、FC昇圧コンバータ12を停止した場合には、FC昇圧コンバータ12と並列に設けられているバッテリ昇圧コンバータ14にてFC昇圧コンバータ12の出力側の電圧を制御することによって、燃料電池11の端子電圧を制御すればよい。すなわち、ECU20にて、燃料電池11の端子電圧を監視し、その端子電圧がシンタリングを回避するための基準値未満になるように、バッテリ昇圧コンバータ14の出力電圧を制御すればよい。この基準値は、例えば、実験値、経験値として設定すればよい。
また、バッテリ13の端子電圧が高く、かつ、インバータ15の要求電圧が低く、バッテリ昇圧コンバータ14の昇圧比を1以上にできない場合には、逆にバッテリ昇圧コンバータ14を停止しなければならない。そのような場合、シンタリング現象を回避するため、FC昇圧コンバータ12は停止せず、インバータ15の要求電圧を基準にしてFC昇圧コンバータ12によって、燃料電池11の端子電圧を制御すればよい。
以上の場合に、いずれにしても、燃料電池11の端子電圧を上記基準値よりも下方に制御するためには、燃料電池11から電流を引き出し、電力を消費する必要ある。この場合の電力は、通常、インバータ15、モータ16を含む負荷で消費される。しかしながら、余剰電力については、バッテリ13のSOCが低く、バッテリ13に電力を蓄積可能な状態では、バッテリ13に蓄積し、バッテリ13に蓄積できない電力は補機(エアコン、照明、ポンプ等)で消費すればよい。
また、本燃料電池システム10は、車両1の衝突時に、燃料電池11の出力を遮断するシステムともなっている。具体的には、燃料電池システム10のFC昇圧コンバータ12の下流側には、インバータ15及びバッテリ昇圧コンバータ14との電気的な接続をON/OFFするためのリレー回路が設けられている。なお、既に説明した構成から明らかなように,燃料電池システム10は、FC昇圧コンバータ12の下流側に流れる電流量が比較的に少ないものとなっている。このため、燃料電池システム10は、上記リレー回路と
して、既存の同種のシステムでは燃料電池の直後に設けられているリレー回路よりも、小型のもの(低電流用のもの)を採用したシステムとなっている。
そして、燃料電池システム10のECU20は、車両1に設けられている衝突検出センサの出力に基づき、衝突の有無を常時監視し、衝突したことを検出した場合には、リレー回路を制御することにより,FC昇圧コンバータ12とインバータ15及びバッテリ昇圧コンバータ14との間の電気的な接続を切断するユニットとなっている。