以下、本発明を詳細に説明する。
(1)ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂(A)は、ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性を有する溶融成形可能な樹脂であれば、特に限定されないが、耐熱性の点で、120℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、220℃以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、結晶性樹脂(A)の融点は、示差熱量測定において結晶性樹脂(A)を50℃〜320℃の温度幅で、20℃/分の昇温条件で測定した温度領域において観察される吸熱ピーク温度(Tm)の観察後、320℃の温度で1分間保持した後、20℃/分の降温条件で100℃まで一旦冷却し、1分間保持した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観察される吸熱ピーク温度(Tm)を指す。
具体例としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリケトン、ポリイミド樹脂およびこれらの共重合体などが挙げられ、1種または2種以上併用してもよい。中でも、耐熱性、成形性、流動性および機械特性の点で、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、さらに得られる成形品の透明性の面からポリエステル樹脂が特に好ましい。
上記ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂のうち、ポリアミド樹脂とは、融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、例えば、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン56、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)(以下MXD・6と略す)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(以下6Tと略す)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)(以下6Iと略す)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(以下9Tと略す)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)(以下4Iと略す)などの融点を有する脂肪族−芳香族ポリアミド、および融点を有する範囲でこれらの共重合体や混合物を挙げることができる。
特に本発明に好適なポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン66/6T、ナイロン6T/12共重合体、ナイロン6T/6I共重合体、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/610、ナイロン6T/6I/6を挙げることができる。
このようなポリアミドの分子量に特に制限はなく、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、特に2.0〜6.0の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
本発明で使用するポリエステル樹脂(A)は、融点を有するポリエステル樹脂であり、ジカルボン酸とグリコールの重縮合物、環状ラクトンの開環重合物、ヒドロキシカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とグリコールの重縮合物から得られる結晶性のポリエステル樹脂などが挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどの半芳香族ポリエステルの他、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート/イソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート共重合体およびポリシクロへキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体などの融点を有する半芳香族ポリエステルや、融点を有する範囲でそれらの混合物からなる結晶性のポリエステルを挙げることができる。その他、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、芳香族アミノオキシ単位、エチレンオキシド単位などから選ばれた構造単位からなるサーモトロピック液晶性を示す結晶性のポリエステル樹脂を使用することもできる。
ここでいう芳香族オキシカルボニル単位としては、p−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシジフェニル−4−カルボン酸から生成した構造単位を、芳香族ジオキシ単位としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノンから生成した構造単位を、芳香族ジカルボニル単位としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位を、芳香族アミノオキシ単位としては、例えば、4−アミノフェノールから生成した構造単位を例示することができる。
またポリエステルとしては、他にも乳酸および/またはラクチドを主原料として得られるポリ乳酸、および融点を有する範囲でその共重合体などの脂肪族ポリエステルを使用することも可能である。
特に本発明に好適な結晶性のポリエステルとしては半芳香族ポリエステルが好ましく、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよび、融点を有する範囲でそれらの共重合体や混合物を挙げることができ、より好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートである。
ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートを使用した場合、本発明の効果は顕著であり、溶融加工時の流動性に優れ、溶融粘度が低いだけでなく、さらに高い結晶化特性を示すことを本発明者らは見出した。さらに得られたポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を成形加工して得られる成形品は、優れた透明性も維持するという特徴を有し、シート、フィルム、繊維などに好適であることを見出した。
このようなポリエステルの分子量に特に制限はなく、通常フェノール/テトラクロロエタン1:1の混合溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.10〜3.00のものを使用することができるが、好ましくは0.25〜2.50、特に好ましくは0.40〜2.25の固有粘度のものが使用できる。
次に本発明で使用する環状ポリフェニレンスルフィド混合物について説明する。
(2)環状ポリフェニレンスルフィド混合物
本発明の環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、下記一般式一般式(1)で表される、m=4〜20の整数で表される環状ポリフェニレンスルフィド化合物の混合物であり、mは4〜20の混合物でもよい。
(mは4〜20の整数)
上記式中の繰り返し単位mは、4〜20の整数であり、4〜15が好ましく、4〜12がさらに好ましい。
またmが単一の環状ポリフェニレンスルフィド単体は、結晶化の容易さに差はあるものの、結晶として得られるため、融点は高くなる傾向を示す。一方、異なるmを有する混合物の場合、環状ポリフェニレンスルフィド単体に比べて、融解温度が特異的に低下し、溶融加工温度を低減できるという特徴、および該環状ポリフェニレンスルフィド混合物(m=4〜20の混合物)を結晶性樹脂に配合することにより、本発明の目的である溶融加工時の流動性向上効果、結晶化特性の向上効果が特に優れるという特徴を有し、このことは本発明の樹脂組成物を溶融加工する際に、加熱温度が低くても、溶融加工性に優れるという特徴を発現することになる。
例えば、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体(シクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド))は、融点が348℃と高いため、溶融加工温度を高温にしないと該環状物が融解しないという問題がある。そのため、環状ポリフェニレンスルフィド単体を結晶性樹脂に配合する場合は、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を溶解する溶媒に溶かして供給するという方法、結晶化した環状ポリフェニレンスルフィド単体を一旦融点以上で溶融した後、急冷することによって結晶化を抑え、非晶化させた粉体を供給するという方法、あるいはプリメルターを環状ポリフェニレンスルフィド単体の融点以上に設定し、プリメルター内で環状ポリフェニレンスルフィド単体のみを溶融させ、融液として供給する方法などを採用することができる。
このような環状ポリフェニレンスルフィド混合物の特徴から、本発明で使用する環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、その製造の面、溶融加工性の面、および結晶化特性の向上の面から、mが異なる環状ポリフェニレンスルフィド化合物の混合物であることが好ましい。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物に対するm=6の環状ポリフェニレンスルフィドの含有量が50重量%未満が好ましく、さらに好ましくは40重量%未満であり、特に好ましくは30重量%未満である(m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体(重量)/(環状ポリフェニレンスルフィド混合物(重量)×100)。
このような環状ポリフェニレンスルフィドの特徴から、本発明で使用する環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、溶融加工時の流動性向上効果、結晶化特性の向上の面から、mが異なる環状ポリフェニレンスルフィド化合物の混合物である。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物中の異なるmのそれぞれの比率に特に制限はないが、本発明の効果を発現させるためには、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の中、最も融点が高く、結晶化しやすいm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が50重量%未満が好ましく、さらに好ましくは40重量%未満であり、特に好ましくは30重量%未満である(m=6の環状ポリフェニレンスルフィド(重量)/(環状ポリフェニレンスルフィド混合物(重量)×100)。ここで、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中のm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有率は、環状ポリフェニレンスルフィド混合物をUV検出器を具備した高速液体クロマトグラフィーで成分分割した際の、ポリフェニレンスルフィド構造を有する化合物に帰属される全ピーク面積に対する、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体に帰属されるピーク面積の割合として求めることができる。ここで、ポリフェニレンスルフィド構造を有する化合物とは、少なくともフェニレンスルフィド構造を有する化合物であり、例えば環状ポリフェニレンスルフィド化合物や線状のポリフェニレンスルフィドであり、フェニレンスルフィド以外の構造をその一部に有する(例えば末端構造として)化合物もここでいうポリフェニレンスルフィド構造を有する化合物に属する。なお、この高速液体クロマトグラフィーで成分分割された各ピークの定性は、各ピークを分取液体クロマトグラフィーで分取し、赤外分光分析における吸収スペクトルや質量分析を行うことで可能である。
このような環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、公知のポリフェニレンスルフィドの製造方法によって、ポリフェニレンスルフィドと環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含むポリフェニレンスルフィド混合物を得た後、該ポリフェニレンスルフィド混合物から環状ポリフェニレンスルフィド混合物を抽出することにより得ることができる。以下にその製造方法について説明する。
(3)環状ポリフェニレンスルフィド混合物の原料となるポリフェニレンスルフィド混合物の製造方法
ポリフェニレンスルフィド混合物の製造方法としては、公知の技術を用いることができ、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱して、ポリフェニレンスルフィド混合物およびアルカリ金属ハライドを含む反応溶液を調製し、該反応液をたとえば水等で処理することでポリフェニレンスルフィド混合物(ポリフェニレンスルフィドと環状ポリフェニレンスルフィド混合物)を得る方法や、ジフェニルジスルフィド類もしくはチオフェノール類を酸化重合することでポリフェニレンスルフィド混合物を得る方法が例示できる。ただし、これら方法で一般に得られるポリフェニレンスルフィド混合物中に含まれる環状ポリフェニレンスルフィド混合物は通常5重量%未満と低いため、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を5重量%以上含むポリフェニレンスルフィド混合物を得るためには、たとえばポリフェニレンスルフィド混合物の重合の際に、重合溶媒を多量に用いるなどの特殊な方法が必要であり、このような方法で効率よく多量のポリフェニレンスルフィド混合物を得ることは経済的に不利であり、工業的には成立に難がある。
前記以外のポリフェニレンスルフィド混合物の製造方法としては、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱し重合した後、220℃以下に冷却して得られた、少なくとも顆粒状のポリフェニレンスルフィドと顆粒状ポリフェニレンスルフィド以外のポリフェニレンスルフィド混合物、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む反応液から顆粒状のポリフェニレンスルフィドを取り除いた際に得られる回収スラリーからポリフェニレンスルフィド混合物を得る方法が好ましく例示できる。なお、ここで顆粒状ポリフェニレンスルフィドとは平均目開き0.175mmの標準ふるい(80meshふるい)で回収できるポリフェニレンスルフィド成分を指す。この方法によって得られるポリフェニレンスルフィド混合物は重量平均分子量が5,000以下の低分子量ポリフェニレンスルフィドを多く含み、たとえば前記顆粒状ポリフェニレンスルフィドと比較して機械物性などの特性が大幅に劣るため、一般的工業材料用途への適用は困難であり工業利用上の価値のないものとして従来は認識されていた。そのため、この方法で得られるポリフェニレンスルフィド混合物は通常、産業廃棄物として処理されていた。
本発明者らは前記顆粒状ポリフェニレンスルフィド以外のポリフェニレンスルフィド混合物を詳細に分析した結果、このポリフェニレンスルフィドには前記式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド(m=4〜20)が10重量%以上含まれており、特にこれらはm=4〜20の混合物として得られることから、本発明の環状ポリフェニレンスルフィド混合物を得るための原料として好ましいことを見いだした。このことは、従来は産業廃棄物とされていたものから、産業上極めて利用価値の高い化合物を本発明の方法によって回収できるといった観点で、意義の大きなことである。
前記回収スラリーからポリフェニレンスルフィドを回収する方法としては、たとえば回収スラリーから少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物を得て、これに水を添加した後、所望に応じて酸を加えて、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去してポリフェニレンスルフィド混合物を分離回収して得る方法や、回収スラリーからポリフェニレンスルフィド混合物を析出させ固体状成分としてポリフェニレンスルフィドを回収する方法、たとえば回収スラリーに水を加えることでポリフェニレンスルフィドを析出させた後に公知の固液分離法であるデカンテーション、遠心分離及び濾過などの手法によって、固体成分としてポリフェニレンスルフィドを得る方法などを例示することができる。
(4)環状ポリフェニレンスルフィド混合物含有溶液の調製
本発明ではポリフェニレンスルフィド化合物を、前記式(1)記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(m=4〜20)を溶解可能な溶剤と接触させて環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含む溶液を調製する。
ここで用いる溶剤としては環状ポリフェニレンスルフィド混合物を溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、溶解を行う環境において環状ポリフェニレンスルフィド混合物は溶解するが、ポリフェニレンスルフィドは溶解しにくい溶剤が好ましく、ポリフェニレンスルフィドは溶解しない溶剤がより好ましい。ポリフェニレンスルフィドを前記溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。用いる溶剤としてはポリフェニレンスルフィドや環状ポリフェニレンスルフィド混合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、ポリフェニレンスルフィド混合物を溶剤と接触させる操作をたとえば常圧環流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランがより好ましく例示できる。
ポリフェニレンスルフィドを溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってポリフェニレンスルフィドや溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
ポリフェニレンスルフィド混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環状ポリフェニレンスルフィド混合物の溶剤への溶解は促進される傾向にある。前記したように、ポリフェニレンスルフィド混合物の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃を具体的な温度範囲として例示できる。
ポリフェニレンスルフィド混合物を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎると環状ポリフェニレンスルフィドの溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても溶剤への溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
ポリフェニレンスルフィドを溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえばポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後溶液部分を回収する方法、各種フィルター上のポリフェニレンスルフィド混合物に溶剤をシャワーすると同時に環状ポリフェニレンスルフィドを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。ポリフェニレンスルフィドと溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえばポリフェニレンスルフィド重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比が小さすぎるとポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤の混合が困難になるだけでなく、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の溶剤への溶解が不十分になる傾向にある。浴比が大きい方が一般に環状ポリフェニレンスルフィド混合物の溶剤への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶剤使用量増大による経済的不利益が生じることがある。なお、ポリフェニレンスルフィドと溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果を得られる場合が多い。またソックスレー抽出法は、その原理上、ポリフェニレンスルフィドと溶剤の接触を繰り返し行う場合と類似の効果が得られるので、この場合も小さな浴比で十分な効果を得られる場合が多い。
ポリフェニレンスルフィドを溶剤と接触させた後に、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を溶解した溶液が、残りの固形状のポリフェニレンスルフィドを含む固液スラリー状で得られた場合、公知の固液分離法を用いて溶液部を回収する。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。このようにして分離した溶液については、後述する溶剤の除去を行う。一方、残存した固体成分については、環状ポリフェニレンスルフィド混合物がまだ残存している場合、具体的には重量基準で0.05重量%以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物が残存している場合には、再度溶剤との接触及び溶液の回収を繰り返し行うことでより収率よく環状ポリフェニレンスルフィド混合物を得ることができる。また、環状ポリフェニレンスルフィド混合物がほとんど残存していない、具体的には環状ポリフェニレンスルフィド混合物の残存が重量基準で0.05重量%未満の場合には、残存溶剤を除去することで、残存した固体状のポリフェニレンスルフィドは、高純度なポリフェニレンスルフィドとして好適にリサイクル可能である。
(5)環状ポリフェニレンスルフィド混合物溶液からの溶剤の除去
本発明では前述のようにして得られた前記式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物(m=4〜20)を含む溶液から溶剤の除去を行い、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を得る。ここで溶剤の除去は、たとえば加熱し、常圧以下で処理する方法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できるが、より収率よく、また効率よく環状ポリフェニレンスルフィド混合物を得るとの観点では常圧以下で加熱して溶剤を除去する方法が好ましい。なお、前述の様にして得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含む溶液は温度によっては固形物を含む場合もあるが、この場合の固形物も環状ポリフェニレンスルフィド混合物に属するものであるので、溶剤の除去時に溶剤に可溶の成分とともに回収する事が望ましく、これにより収率よく環状ポリフェニレンスルフィド混合物を得られるようになる。
溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
(6)その他後処理
(3)〜(5)に記載の方法により得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物は十分に高純度であり、m=4〜20の環状ポリフェニレンスルフィド混合物として好適に用いることができるが、さらに以下に述べる後処理を付加的に施すことによってよりいっそう純度の高い環状ポリフェニレンスルフィド混合物やm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体を得ることが可能である。
前記(3)〜(5)までの操作によって得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、用いた溶剤の特性によっては、ポリフェニレンスルフィド中に含まれる不純物成分を含む場合がある。このような少量の不純物を含む環状ポリフェニレンスルフィド混合物を不純物は溶解するが、環状ポリフェニレンスルフィド混合物は溶解しない、もしくは環状ポリフェニレンスルフィド混合物の溶解しにくい第二の溶剤と接触させることで、不純物成分を選択的に除去することが可能な場合が多い。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物を前記第二の溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。第二の溶剤として好ましい溶剤としては、目的とする環状ポリフェニレンスルフィド混合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタンが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンが特に好ましい。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物を第二の溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、上限温度は使用する第二の溶剤の常圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい第二の溶剤を用いる場合はたとえば20〜100℃が好ましい温度範囲として例示でき、より好ましくは25〜80℃が例示できる。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物を第二の溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎると環状ポリフェニレンスルフィド混合物中の不純物の第二の溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても第二の溶剤への不純物の溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物を第二の溶剤と接触させる方法としては固体状の環状ポリフェニレンスルフィド混合物と第二の溶剤を必要に応じて攪拌して混合する方法、各種フィルター上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物固体に第二の溶剤をシャワーすると同時に不純物を第二の溶剤に溶解させる方法、固体状の環状ポリフェニレンスルフィド混合物を第二の溶剤を用いたソックスレー抽出を用いる方法や、溶液状の環状ポリフェニレンスルフィド混合物もしくは溶剤を含む環状ポリフェニレンスルフィド混合物スラリーを第二の溶剤と接触させて、第二の溶剤の存在下で環状ポリフェニレンスルフィド混合物を析出させる方法などを用いることができる。なかでも溶剤を含む環状ポリフェニレンスルフィド混合物スラリーを第二の溶剤と接触させる方法は、操作後に得られる環状ポリフェニレンスルフィド混合物の純度が高く、有効な方法である。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物を第二の溶剤と接触させた後には、環状ポリフェニレンスルフィド混合物が第二の溶剤中に析出したスラリーが得られるので、公知の固液分離法を用いて固体状の環状ポリフェニレンスルフィド混合物を回収する。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。固液分離後に得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物中に不純物がまだ残存している場合は、再度環状ポリフェニレンスルフィド混合物と第二の溶剤とを接触させて、さらに不純物を除去することも可能である。
(7)本発明の環状ポリフェニレンスルフィド混合物の特性
かくして得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物は前記式(1)におけるmが4〜20であり、さらに前記式(1)で表されるm=4〜20の異なるmを有する環状ポリフェニレンスルフィド混合物が好ましく、さらに環状ポリフェニレンスルフィド混合物中の、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド含量が50重量%未満の混合物であることが好ましい。
なお本発明の環状ポリフェニレンスルフィド混合物のmは前記のごとく、m=4〜20であり、mは4〜20の混合物でもよいが、著者らの検討により、環状ポリフェニレンスルフィド混合物としては、m=4〜12のものが存在することを確認しており、mがこの範囲の場合、後述するようにポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂と環状ポリフェニレンスルフィド混合物からなる樹脂組成物の、流動性向上効果や結晶化速度の向上効果、また該樹脂組成物を溶融加工する際の、加工性や滞留安定性が向上することを見出している。
なおmが12以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物については、存在している可能性が高いが、現在の分析技術では定性や定量困難である。なぜならば後述するように、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中に含まれる直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィドの区別が、現時点の最新分析技術では困難なためである。しかしながら、本発明では結晶性樹脂にm=4〜20の環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合すること、その環状ポリフェニレンスルフィド混合物中のm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が特定量であるとさらに本発明の効果が高められることから、本発明の効果を損なわない範囲でmが13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物が含まれていてもよい。
また(3)〜(6)に記載の方法により得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物は十分に高純度であるが、条件によっては、不純物として直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーが含有することもある。また前述したようにこの直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物の区別は、現時点の最新分析技術では困難である。この直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーと推定されるオリゴマー成分の重量平均分子量(Mw)は、前記(3)で記載した環状ポリフェニレンスルフィド混合物の原料となるポリフェニレンスルフィドの製造方法により異なるが、通常、5000以下のものであり、場合によっては2000以下のものである。
本発明の環状ポリフェニレンスルフィド混合物の配合量は、環状ポリフェニレンスルフィド混合物、および現時点の分析技術では分離・解析が困難な、直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとmが13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含めた値を「環状ポリフェニレンスルフィド混合物」として定義する。
なお環状ポリフェニレンスルフィド混合物中に不純物として残存する直鎖状のポリフェニレンスルフィドオリゴマーは、環状ポリフェニレンスルフィド混合物に比べ、熱安定性が悪く、これらが不純物として多量に含まれていると、本発明の効果が損なわれ、特に滞留安定性が低下するという問題が発生する。
そのため、(3)〜(6)に記載の方法により得られる環状ポリフェニレンスルフィド混合物中の直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーの量は、全環状ポリフェニレンスルフィド混合物に対して、50重量%未満が好ましく、40重量%未満がより好ましく、さらに好ましくは30重量%未満である。
なおこの時の、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中の直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマー量は、現時点の分析技術によれば、m=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物との総量として、MALDI−TOF−MSにより定量することが可能である。
また前記特許文献8に記載されているように、架橋タイプのポリフェニレンスルフィドから、環状ポリフェニレンスルフィド混合物をソックスレー抽出し、抽出液を冷却し、析出した白色固体を「再結晶法」により回収する方法を採用した場合、得られる環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体が高純度で得られることが開示されている(シクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド)。また架橋タイプのポリフェニレンスルフィドに比べ、回収量は少ないものの、直鎖状のポリフェニレンスルフィドからも、同じように抽出操作し、「再結晶」することにより同じようにm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体が高純度で得られる。
m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体は、極めて安定な針状の結晶構造を有し、かつ結晶化しやすいため、「再結晶」という方法に適した環状物である反面、その安定な針状結晶構造を反映して融点が348℃と高くなるため、加工温度を高くする必要がある。
また加工温度を高くしても、結晶性樹脂に溶融混練する際に、十分に溶融分散せず、樹脂中に凝集物となったり、透明性を保持することが必要な用途においては、成形品の透明性が低下するという課題があった。
そのためm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体のみの場合は、本発明の効果を得るためには、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を溶解する溶媒に溶かして供給するという方法、結晶化した環状ポリフェニレンスルフィド単体を一旦融点以上で溶融した後、急冷することによって結晶化を抑え、非晶化させた粉体を供給するという方法、あるいはプリメルターを環状ポリフェニレンスルフィド単体の融点以上に設定し、プリメルター内で環状ポリフェニレンスルフィド単体のみを溶融させ、融液として供給する方法などを採用することができる。このように環状ポリフェニレンスルフィド単体を使用する場合、溶融加工温度を高めるという必要性、あるいは前記方法により結晶性樹脂と高融点の環状ポリフェニレンスルフィド単体と溶融混練するという必要性が生じるため、生産性や溶融加工性の面から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中の、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含量が50重量%未満が好ましく、さらに好ましくは40重量%未満であり、特に好ましくは30重量%未満である。
この理由は現時点下記の通り解釈している。すなわち、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が低下することにより、該環状ポリフェニレンスルフィド単体が結晶核として作用しないなどの効果もあって、結果として、m=4以上の混合物からなる環状ポリフェニレンスルフィド混合物の結晶化が抑えられ、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の融点が低くなること、それによりマトリックス樹脂となる結晶性樹脂と該環状ポリフェニレンスルフィド混合物からなる樹脂組成物のいずれもが溶融し、かつ相溶することにより、該環状ポリフェニレンスルフィド混合物が、結晶性樹脂のプロセス可塑剤として作用していると考えられる。
またm=6以外の環状単量体は、m=6に比べ、結晶化し難いため、「再結晶」という手法により単量体として得ることは困難であったが(再結晶という手法により単離可能なのはm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体のみである)、筆者らはこれらの単量体を分集液体クロマトグラムにより分離回収し、m=4の環状ポリフェニレンスルフィド単体(シクロテトラ(p−フェニレンスルフィド)、融点296℃))、m=5のシクロペンタ(p−フェニレンスルフィド)(融点257℃)、m=7のシクロヘプタ(p−フェニレンスルフィド)(融点328℃)、m=8のシクロオクタ(p−フェニレンスルフィド)(融点305℃)であることが確認された。
すなわち(3)〜(6)に記載の方法によれば、得られる環状ポリフェニレンスルフィド混合物は異なるmを有する混合物であり、かつm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含量が50重量%未満のものが得られる。また条件によっては、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含量が30重量%未満のものも得ることが可能である。得られた環状ポリフェニレンスルフィド混合物は、単一のmからなる環状ポリフェニレンスルフィド単体に比べ、融解温度が低いという特徴があり、このことはたとえば環状ポリフェニレンスルフィド混合物を簡便な方法で溶融加工することが可能となり、さらに溶融加工時の流動性が向上、結晶化速度などの結晶化特性が向上し、さらに該環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含有する結晶性樹脂組成物の溶融加工の際に、良成形加工性、さらに使用する結晶性樹脂の種類によっては、成形品の高い透明性が得られるという優れた特徴を発現することになる。
(8)ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は(A)ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂100重量部に対し、前記(B)一般式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物0.1〜50重量部からなる樹脂組成物である。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物の配合量が0.1部未満では十分な流動性向上効果、結晶化速度向上効果や、該樹脂組成物を溶融加工する際の成形加工性の向上効果が小さい。一方、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の配合量が50重量%以上では、結晶性樹脂そのものの特性が低下したり、粘度低下が激しくなり逆に成形加工性が低下することがある。また透明性という視点からも50重量%以上では、透明性が低下することがある。
そのため環状ポリフェニレンスルフィド混合物の添加量は、0.1〜50重量部であり、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。
本発明のポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂組成物は、先に述べた方法などによって得られる(B)環状ポリフェニレンスルフィド混合物を、(A)ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂に配合することによって得られる。
本発明の樹脂組成物には、必要に応じてさらに繊維状および/または非繊維状充填材を配合することができる。その配合量は、本発明のポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂(A)100重量部に対し、0.5〜300重量部配合することが好ましく、流動性の点で、充填剤の配合量は1〜200重量部が好ましく、1〜100重量部がより好ましい。充填剤の配合量が、0.5重量部未満では、機械強度改良効果が不充分な傾向にあり、300重量部を越える場合には、流動性の低下や重量増加を招く恐れがある。
充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ−ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスフレーク、ガラス粉、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材、およびモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性雲母に代表される層状珪酸塩が用いられる。層状珪酸塩は層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩であってもよく、有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。これらのなかではアンモニウムイオンとホスホニウムイオンが好ましく、特にアンモニウムイオンが好んで用いられる。アンモニウムイオンとしては、1級アンモニウム、2級アンモニウム、3級アンモニウム、4級アンモニウムのいずれでも良い。1級アンモニウムイオンとしてはデシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、オレイルアンモニウム、ベンジルアンモニウムなどが挙げられる。2級アンモニウムイオンとしてはメチルドデシルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。3級アンモニウムイオンとしてはジメチルドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。4級アンモニウムイオンとしてはベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウム、トリメチルオクチルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウムなどのアルキルトリメチルアンモニウムイオン、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムなどのジメチルジアルキルアンモニウムイオンなどが挙げられる。また、これらの他にもアニリン、p−フェニレンジアミン、α−ナフチルアミン、p−アミノジメチルアニリン、ベンジジン、ピリジン、ピペリジン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから誘導されるアンモニウムイオンなども挙げられる。これらのアンモニウムイオンの中でも、トリオクチルメチルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、12−アミノドデカン酸から誘導されるアンモニウムイオンなどが好ましい。層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩は、交換性の陽イオンを層間に有する層状珪酸塩と有機オニウムイオンを公知の方法で反応させることにより製造することができる。具体的には、水、メタノール、エタノールなどの極性溶媒中でのイオン交換反応による方法か、層状珪酸塩に液状あるいは溶融させたアンモニウム塩を直接反応させることによる方法などが挙げられる。これら充填剤の中で好ましくはガラス繊維、タルク、ワラステナイト、およびモンモリロナイト、合成雲母などの層状珪酸塩であり、特に好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
更に本発明においては、熱安定性を保持するために、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の耐熱剤を含有せしめることができる。かかる耐熱剤の配合量は、耐熱改良効果の点から本発明のポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂(A)100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系化合物を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
フェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。
中でも、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが好ましく用いられる。
次にリン系化合物としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。中でも、ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂のコンパウンド中に耐熱材の揮発や分解を少なくするために、融点が高いものが好ましく用いられる。
さらに、本発明の結晶性樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、以下のような化合物の添加が可能である。有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物はいずれも本発明の結晶性樹脂組成物全体100重量部に対して20重量部を越えると本発明の結晶性樹脂組成物本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加が良い。
(9)本発明の結晶性樹脂組成物の製造方法
本発明のポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、結晶性樹脂(A)、環状ポリフェニレンスルフィド混合物(B)および必要に応じてその他の添加剤等を予めブレンドした後、ポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂と環状ポリフェニレンスルフィド混合物(B)の融点以上において、一軸または二軸押出機で均一に溶融混練する方法、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが用いられる。特に環状ポリフェニレンスルフィド混合物(B)の単体は融点が高い傾向があるため、環状ポリフェニレンスルフィド単体を溶融混練する場合は、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を溶解する溶媒に溶かして供給し、溶融混練の際に溶媒を除く方法、結晶化した環状ポリフェニレンスルフィド単体を一旦融点以上で溶融した後、急冷することによって結晶化を抑え、非晶化させた粉体を供給するという方法、あるいはプリメルターを環状ポリフェニレンスルフィド単体の融点以上に設定し、プリメルター内で環状ポリフェニレンスルフィド単体のみを溶融させ、融液として供給する方法などを採用することができる。なおここでいう加工温度とは一軸または二軸押出機の設定温度を指す。中でも生産性の点で、一軸または二軸押出機で均一に溶融混練する方法が好ましく、特に二軸押出機を用いてポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂の融点以上であって、さらに環状ポリフェニレンスルフィド混合物(B)の融点以上の温度において均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。
(10)本発明の結晶性樹脂組成物の加工方法
本発明の樹脂組成物は、通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用できる。フィルムの製造方法としては、公知の溶融製膜方法を採用することができ、例えば、単軸または2軸の押出機中で樹脂組成物を溶融後、フィルムダイより押出し、冷却ドラム上で冷却して未延伸フィルムを作成する方法、あるいは、このようにして作成したフィルムをローラー式の縦延伸装置とテンターと呼ばれる横延伸装置にて適宜縦横に延伸する一軸延伸法、二軸延伸法などが例示できるが、特にこれに限定されるものではない。
本発明の樹脂組成物の良流動性、結晶化特性の向上という特徴は、溶融製膜時におけるフィルムダイの圧力変動の抑制により、フィルムの厚みむらが少ないという効果だけでなく、低圧力で溶融製膜化が可能なため、生産吐出量を大幅に増加できるという効果もある。通常溶融粘度を低下させるためには、製膜温度を高めるという手法が一般的であるが、分解ガスの発生により製膜時の気泡欠点を生じるという問題や長期滞留による化学劣化により、本発明の効果が発現しないという問題があるが、本発明の樹脂組成物を使用することにより、溶融製膜性が向上するという効果が認められる。
繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができ、本発明の樹脂組成物を用いた繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸方法を適用することができ、例えば、原料である樹脂組成物からなるチップを単軸または2軸の押出機に供給しながら混練し、ついで押出機の先端部に設置したポリマー流線入替器、濾過層などを経て紡糸口金より押出し、冷却、延伸、熱セットを行う方法などを採用することができるが、特にこれに限定されるものではない。
さらに本樹脂組成物の良流動性、結晶化特性の向上という特徴は、溶融紡糸時における濾過層や口金の圧力変動が抑制でき、糸の太さむらが少ないという効果だけでなく、低圧力で溶製糸が可能なため、生産吐出量を大幅に増加できるという効果のほか、比較的低い温度での溶融製糸が可能となり、分解ガスの発生も生じず糸切れなどの問題がないという効果もある。
さらに本発明の樹脂組成物、特にポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレートの場合、得られる樹脂組成物は、上記良流動性、結晶化特性の向上という効果だけでなく、さらに高い透明性を維持するという特徴を発現することが可能であり、本特徴は透明性が必要な樹脂用途、フィルム用途において特に好適である。
特に、本発明の樹脂組成物においては、その流動性に優れる点を活かして、自動車部品等の大型射出成形品や厚み0.01〜1.0mmの薄肉部位を有する射出成形品に加工することが可能である。
(11)本発明の結晶性樹脂組成物の用途
本発明において、上記各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。具体的な用途としては、エアフローメーター、エアポンプ、サーモスタットハウジング、エンジンマウント、イグニッションホビン、イグニッションケース、クラッチボビン、センサーハウジング、アイドルスピードコントロールバルブ、バキュームスイッチングバルブ、ECUハウジング、バキュームポンプケース、インヒビタースイッチ、回転センサー、加速度センサー、ディストリビューターキャップ、コイルベース、ABS用アクチュエーターケース、ラジエータタンクのトップ及びボトム、クーリングファン、ファンシュラウド、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、オイルキャップ、オイルパン、オイルフィルター、フューエルキャップ、フューエルストレーナー、ディストリビューターキャップ、ベーパーキャニスターハウジング、エアクリーナーハウジング、タイミングベルトカバー、ブレーキブースター部品、各種ケース、各種チューブ、各種タンク、各種ホース、各種クリップ、各種バルブ、各種パイプなどの自動車用アンダーフード部品、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、各種モーターハウジングなどの自動車用内装部品、ルーフレール、フェンダー、ガーニッシュ、バンパー、ドアミラーステー、スポイラー、フードルーバー、ホイールカバー、ホイールキャップ、グリルエプロンカバーフレーム、ランプリフレクター、ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクターなど各種自動車用コネクター、リレーケース、コイルボビン、光ピックアップシャーシ、モーターケース、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、記録媒体(CD、DVD、PD、FDDなど)ドライブのハウジングおよび内部部品、コピー機のハウジングおよび内部部品、ファクシミリのハウジングおよび内部部品、パラボラアンテナなどに代表される電気・電子部品を挙げることができる。更に、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、ビデオカメラ、プロジェクターなどの映像機器部品、レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク(CD)、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−R、DVD−RW、DVD−RAM、ブルーレイディスクなどの光記録媒体の基板、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、などに代表される家庭・事務電気製品部品を挙げることができる。また電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドホン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、コイルボビンなどの電気・電子部品、サッシ戸車、ブラインドカーテンパーツ、配管ジョイント、カーテンライナー、ブラインド部品、ガスメーター部品、水道メーター部品、湯沸かし器部品、ルーフパネル、断熱壁、アジャスター、プラ束、天井釣り具、階段、ドアー、床などの建築部材、釣り糸、漁網、海藻養殖網、釣り餌袋などの水産関連部材、植生ネット、植生マット、防草袋、防草ネット、養生シート、法面保護シート、飛灰押さえシート、ドレーンシート、保水シート、汚泥・ヘドロ脱水袋、コンクリート型枠などの土木関連部材、歯車、ねじ、バネ、軸受、レバー、キーステム、カム、ラチェット、ローラー、給水部品、玩具部品、ファン、テグス、パイプ、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などの機械部品、マルチフィルム、トンネル用フィルム、防鳥シート、植生保護用不織布、育苗用ポット、植生杭、種紐テープ、発芽シート、ハウス内張シート、農ビの止め具、緩効性肥料、防根シート、園芸ネット、防虫ネット、幼齢木ネット、プリントラミネート、肥料袋、試料袋、土嚢、獣害防止ネット、誘因紐、防風網などの農業部材、紙おむつ、生理用品包材、綿棒、おしぼり、便座ふきなどの衛生用品、医療用不織布(縫合部補強材、癒着防止膜、人工器官補修材)、創傷被服材、キズテープ包帯、貼符材基布、手術用縫合糸、骨折補強材、医療用フィルムなどの医療用品、カレンダー、文具、衣料、食品等の包装用フィルム、トレイ、ブリスター、ナイフ、フォーク、スプーン、チューブ、プラスチック缶、パウチ、コンテナー、タンク、カゴなどの容器・食器類、ホットフィル容器類、電子レンジ調理用容器類化粧品容器、ラップ、発泡緩衝剤、紙ラミ、シャンプーボトル、飲料用ボトル、カップ、キャンディ包装、シュリンクラベル、蓋材料、窓付き封筒、果物かご、手切れテープ、イージーピール包装、卵パック、HDD用包装、コンポスト袋、記録メディア包装、ショッピングバック、電気・電子部品等のラッピングフィルムなどの容器・包装、天然繊維複合、ポロシャツ、Tシャツ、インナー、ユニホーム、セーター、靴下、ネクタイなどの各種衣料、カーテン、イス貼り地、カーペット、テーブルクロス、布団地、壁紙、ふろしきなどのインテリア用品、キャリアーテープ、プリントラミ、感熱孔版印刷用フィルム、離型フィルム、多孔性フィルム、コンテナバッグ、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、ICカード、紙、皮革、不織布等のホットメルトバインダー、磁性体、硫化亜鉛、電極材料等粉体のバインダー、光学素子、導電性エンボステープ、ICトレイ、ゴルフティー、ゴミ袋、レジ袋、各種ネット、歯ブラシ、文房具、水切りネット、ボディタオル、ハンドタオル、お茶パック、排水溝フィルター、クリアファイル、コート剤、接着剤、カバン、イス、テーブル、クーラーボックス、クマデ、ホースリール、プランター、ホースノズル、食卓、机の表面、家具パネル、台所キャビネット、ペンキャップ、ガスライターなどとして有用であり、ワイヤーハーネスコネクター、SMJコネクター、PCBコネクター、ドアグロメットコネクターなど各種自動車用コネクターとして特に有用である。
本発明のポリフェニレンスルフィド以外の結晶性樹脂組成物およびそれからなる成形品は、リサイクルすることが可能である。例えば、樹脂組成物およびそれからなる成形品を粉砕し、好ましくは粉末状とした後、必要に応じて添加剤を配合して得られる樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物と同じように使用でき、成形品とすることも可能である。
以下、実施例を持って本発明を具体的に説明する。なお、この発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例は次に記載する試薬を用いて検討を行った。
<使用試薬>
ジフェニルジスルフィド(東京化成)
酢酸パラジウム(和光純薬 特級)
バナジルアセチルアセトナート(東京化成)
トリフルオロメタンスルホン酸(東京化成)
トリフルオロ酢酸(アルドリッチ)
トリフルオロ酢酸無水物(関東化学 鹿特級)
1、2−ジクロロエタン(アルドリッチ)
塩化第二銅(東京化成)
酸素(東亜テクノガス)。
<分子量測定>
分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<流動性>
流動性を評価するため、キャピラリー型溶融粘度測定装置(東洋精機社製CAPIROGRAPH−1C)を用いて、オリフィスL/D=20(内径1mm)、ポリアミド樹脂の測定温度250℃、ポリブチレンテレフタレート樹脂の測定温度250℃、ポリエチレンテレフタレート樹脂の測定温度280℃、剪断速度100sec−1の条件下、ペレットをシリンダー部に投入後、3分間溶融させた後に測定した溶融粘度(Pa・s)を流動性評価項目とした。滞留時の溶融粘度は、ペレットをシリンダー内で30分間滞留させた後に溶融粘度を測定することで、滞留安定性の指標とした。
<結晶化特性>
パーキンエルマー製DSC7を用いて得られたポリマーの熱的特性を測定した。下記測定条件を用い、結晶化温度Tcは1st Runの値を、融点Tmは2nd Runの値を用いた。
First Run
・50℃×1分 ホールド
・50℃から320℃へ昇温,昇温速度20℃/分
・320℃×1分 ホールド
・320℃から100℃へ降温,降温速度20℃/分(この時の結晶化ピーク温度をTmcとする)
Second Run
・100℃×1分 ホールド
・ 100℃から320℃へ昇温,昇温速度20℃/分(この時の融解ピーク温度をTmとする)
<透明性(光線透過率)>
所定の温度条件で、プレス成形して得られた厚さ1mmの成形品について、東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して、23℃で全光線透過率(%)を測定し、透明性を評価した。
[参考例1](環状ポリフェニレンスルフィド混合物の原料となるポリフェニレンスルフィド混合物の製造例)
本文(3)記載の環状ポリフェニレンスルフィド混合物の原料となるポリフェニレンスルフィドの製造例について下記に説明する。
<ポリフェニレンスルフィド混合物の調製>
撹拌機付きの1000Lのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム82.7kg(700モル)、96%水酸化ナトリウム29.6kg(710モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を114.4kg(116モル)、酢酸ナトリウム17.2kg(210モル)、及びイオン交換水100kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水143kgおよびNMP2.8kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン103kg(703モル)、NMP90kg(910モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水12.6kg(700モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を200kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
80℃に加熱したスラリー(B)100kgを25kg/1バッチスケールで、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を約75kg得た。
得られたスラリー(C)のうち、75kgを25kg/1バッチで脱揮装置に仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。この固形物にイオン交換水100kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのフィルターで減圧吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水100kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィド混合物を0.9kg得た。
つぎに、本文(4)〜(6)記載の方法による環状ポリフェニレンスルフィド混合物の製造例について下記に説明する。
[参考例2]環状ポリフェニレンスルフィド混合物(cPPS−1)の製造
参考例1の方法で得られたポリフェニレンスルフィド混合物を500g分取し、溶剤としてクロロホルム12kgを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により3時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてクロロホルムを留去した後、真空乾燥機70℃で3時間処理して固形物210g(ポリフェニレンスルフィド混合物に対し、収率42%)を得た。
このようにして得られた固形物は、赤外分光分析(装置;島津社製FTIR−8100A)における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド骨格を有する化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSおよびGPCによる分子量情報より、この固形物は繰り返し単位数4〜12の環状ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環状ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約87%、13%は直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(Mw=2000)であることがわかった。
一連の結果を表1に示す。
本発明によれば、環状ポリフェニレンスルフィドを約87重量%含む、純度の高い環状ポリフェニレンスルフィド混合物を高い収率で得られることがわかった。
[参考例3]環状ポリフェニレンスルフィド混合物(cPPS−2)の製造
参考例2と同様にして固形物を得た後、得られた固体にクロロホルム2kgを加え、室温で超音波をかけてスラリー状の混合液を得た。これを第二の溶剤としてメタノールと接触させるために、スラリー状混合液をメタノール25kgに撹拌しながら約10分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、約15分間攪拌を継続した。沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過して回収し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を180g得た。白色粉末の収率は用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して35%であった。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報およびGPCによる分子量情報より、の白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環状ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環状ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約94%、6%は直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(Mw=2000)であることがわかった。
[参考例4]環状ポリフェニレンスルフィド混合物(cPPS−3)の製造
参考例3と同様にして固形物を得た後、さらに下記操作を加えた。すなわち、得られた固体に再度クロロホルム3kgを加え、室温で超音波をかけてスラリー状の混合液を得た。これを第二の溶剤としてメタノールと接触させるために、スラリー状混合液をメタノール25kgに撹拌しながら約10分かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、約15分間攪拌を継続した。沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末140gを得た。白色粉末の収率は、用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して28%であった。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる高分子化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環状ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環状ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約97%、3%は直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(Mw=2000)であることがわかった。
〔参考例5〕ジフェニルジスルフィドを用いたポリフェニレンスルフィド混合物の製造、および環状ポリフェニレンスルフィド混合物(cPPS−4)の製造
酢酸パラジウム22.4g(0.1mol)を20Lの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、30.02g(0.2mol)のトリフルオロメタンスルホン酸、840.12g(4mol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド436.69g(2mol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、40℃に加温し、40℃で5時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始2時間後に、ジフェニルジスルフィドの消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液20kgに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を濾過、水10kg、メタノール10kgで洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、収率64%でポリフェニレンスルフィド混合物(280g)を得た。以下の操作は参考例2と同様に行った。すなわち、得られたポリフェニレンスルフィド混合物を280g分取し、溶剤としてクロロホルム12kgを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により3時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてクロロホルムを留去した後、真空乾燥機70℃で3時間処理して固形物50gを得た。白色粉体の収率は、用いたポリフェニレンスルフィド混合物に対して、18%であった。
このようにして得られた固形物は、赤外分光分析(装置;島津社製FTIR−8100A)における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド骨格を有する化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この固形物は繰り返し単位数5〜12の環状ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であり、環状ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約80%、20%は直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(Mw=3000)であることがわかった。
〔参考例6〕m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の製造(cPPS−5)
特許文献5と同様の方法により、市販の架橋タイプのPPS樹脂(“トレリナ”M2100)10kgから、1000Lのクロロホルム抽出を行った。その後、抽出液を室温まで冷却し、析出した白色固形分と溶媒を濾過により分離した。得られた白色固形分を一昼夜自然乾燥した後、160℃で2時間乾燥した。得られた白色固体(50g)の高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、純度99.9%のシクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド)と0.1%の直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(Mw=2000)であることがわかった。
〔参考例7〕m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の製造(cPPS−6)
参考例1の方法で得られたポリフェニレンスルフィド混合物を500g分取し、溶剤としてクロロホルム12kgを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により3時間ポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてクロロホルムを留去した後、真空乾燥機70℃で3時間処理して固形物210g(ポリフェニレンスルフィド混合物に対し、収率42%)を得た。
このようにして得られた固形物210gを再度クロロホルム12kgを用いて、ソックスレー抽出を8時間おこなった。抽出液を熱時濾過後、濾液を室温まで徐々に冷却し、24時間放置した。析出した白色固形分と溶媒を濾過により分離し、真空乾燥機70℃で3時間処理して固形物100gを回収した。得られた白色固体(100g)の高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、純度99.9%のシクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド)と0.1%の直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーとm=13以上の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(Mw=2000)であることがわかった。
〔参考例8〕環状ポリフェニレンスルフィド単体の単離
参考例4で製造した純度97%の環状ポリフェニレンスルフィド混合物(cPPS−3)を分集高速液体クロマトグラフィーを用いて、各成分に分離し、m=4〜12の成分を分離・回収し、融点測定を行った。その融点を参考までに表2に示す。
表2より、環状ポリフェニレンスルフィドの単体の融点は非常に高く、mの増加に伴い融点の低下が認められることがわかる。また表1と表2の比較から、m=4〜12の混合物からなる環状ポリフェニレンスルフィド混合物の融点は、環状ポリフェニレンスルフィド単体に比べ、特異的に225℃付近まで低下していることがわかる。
〔参考例9〜11〕m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体と環状ポリフェニレンスルフィド混合物配合品の調整(cPPS−7、8)とその熱特性
参考例4で製造したcPPS−3(純度97%)(環状ポリフェニレンスルフィド混合物)と特許文献5を参考にし、参考例6で製造したcPPS−5(m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体)を下記配合比でヘンシェルミキサーを用いてドライブレンドした。
cPPS−7:cPPS−3/cPPS−5=80/20(重量%)
cPPS−8:cPPS−3/cPPS−5=70/30(重量%)
cPPS−9:cPPS−3/cPPS−5=60/40(重量%)
得られた配合品の融点を表1に示した。
m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体を32重量%含有する環状ポリフェニレンスルフィド混合物(cPPS−7)の融点は、250℃を示し、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体を99.9%含有するcPPS−5(参考例6)、cPPS−6(参考例7)に比べ、融点が低いことがわかる。m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体量の増加に伴い、融点が上昇する傾向が認められ、cPPS−8(m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体を33.5重量%含有)の融点は270℃、さらにcPPS−9(m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体を41重量%含有)では、PPSの融点282℃とほぼ同程度の融点を示すことがわかる。
参考例1〜11の結果をまとめると下記の通りである。
本文(3)〜(6)記載の方法により、環状ポリフェニレンスルフィド混合物が得られ、その中のm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量は50重量%未満である。また不純物として含まれる直鎖状PPSオリゴマー量は20重量%以下である。
m=4〜12の混合物からなる環状ポリフェニレンスルフィド混合物の融点は、特異的に融点が226℃付近であるのに対し、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の融点は、348℃と極めて高いことがわかる。またm=6だけでなく、分集高速液体クロマトグラフィーにより単離したm=4、5、7〜12の環状ポリフェニレンスルフィド単体のいずれも、環状ポリフェニレンスルフィド混合物に比べ融点が高いことがわかる。また環状ポリフェニレンスルフィド混合物中、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が50重量%未満において、融点は280℃付近となる。
〔参考例12〕
特許文献7(特開2000−34404号公報、参考例B−1)記載の方法に準じ、良流動化剤を調製した。
p−ヒドロキシ安息香酸528重量部、4,4−ジヒドロキシジフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート864重量部及び無水酢酸586重量部を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重合を行った。芳香族オキシカルボニル単位42.5モル%、芳香族ジオキシ単位7.5モル%、エチレンジオキシ単位50モル%、芳香族ジカルボン酸単位57.5モル%からなる液晶開始温度184℃の液晶性樹脂を得た(液晶性ポリマー)。
〔実施例1〜10、比較例1、2,7、8〕
Tm=225℃、Tmc=177℃(Tm−Tmc=48℃)、98%硫酸1g/dlでの相対粘度2.80のナイロン6樹脂(東レ製CM1010)(以下N6と略す)に表3記載の組成からなる原料を、ドライブレンドし、押出温度250℃に設定し、ニーディングゾーンを2箇所保有し、スクリュー回転数を200rpmの高速で回転させた2軸スクリュー押出機(池貝工業社製PCM−30)に供給し溶融混練し、ペレタイズ後、温度80℃で3時間真空乾燥後、250℃、剪断速度100sec−1での溶融粘度測定、DSC測定を行った。なお比較例1のN6単体の場合は、他の樹脂組成物との熱履歴の違いを取り除くため、N6単体を同じように溶融混練した。
比較例2では、参考例12で調整した液晶性ポリマーを使用した以外は、実施例1〜10と同様に行った。
また比較例7、8では、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体(m=6が99.9%)をあらかじめ10wt%のN−メチルピロリドン(NMP)溶液として溶解させ配合した以外は、同様の方法で行った。一連の結果を表3に示す。
実施例1〜10より、環状ポリフェニレンスルフィド混合物(m=4〜20の混合物)を含有するN6樹脂組成物は、比較例1のN6のみを溶融混練したものに比べ、一般的なN6の加工温度250℃における溶融粘度が顕著に低下していることがわかる。また実施例1〜10では、滞留試験後もほぼ同等の溶融粘度性能を示しており、本樹脂組成物は滞留安定性に優れ、滞留後も良流動性を示すことがわかる。
またN6単体の結晶化速度を表すTm−Tmc=48℃に対し、実施例1〜10では、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の配合により、Tm−Tmc=25〜30℃まで小さくなっており、これは結晶化速度が上昇していることを示している。なおTm−Tcは環状ポリフェニレンスルフィド混合物の添加量50重量部付近で飽和現象となっているようである(実施例6、7)。
また環状ポリフェニレンスルフィド混合物としてm=6の環状物単体をNMP溶液として配合した実施例11,12でも流動性向上効果が認められる。なお、実施例1〜10の環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合した場合に比べ、流動性向上効果や結晶化速度の向上効果がわずかに低い傾向が認められる。
また実施例1〜7と実施例8〜10、比較例7、8の結果から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が50重量%未満において、より高い流動性向上効果と、より高い結晶化特性向上効果が得られることがわかる。
また実施例1〜10、比較例7、8と比較例2(液晶性ポリマーを含有するN6樹脂組成物)との比較から、実施例1〜10、比較例7、8では比較例2に比べ、溶融粘度の低下効果が大きく、流動性に優れること、滞留後も良流動性を示すことがわかる。
これらの結果から、N6に環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合することにより、流動性、結晶化速度が増加し、さらに滞留安定性にも優れることがわかる。
〔実施例13〜22、比較例3、4、9、10〕
Tm=255℃、Tmc=178℃(Tm−Tmc=77℃)、固有粘度1.15(フェノール/テトラクロロエタン、25℃)のポリエチレンテレフタレート樹脂(東レ製T704T)(以下PETと略す)に表4記載の組成からなる原料を、ドライブレンドし、押出温度を280℃に設定し、熱風乾燥機で3時間乾燥させた以外は、実施例1〜10、比較例1と同様の操作を行い、280℃、剪断速度100sec−1での溶融粘度測定およびDSC測定を行った。さらに本実施例、比較例では樹脂組成物の透明性(全光線透過率(%))を評価した。透明性の評価に使用する成形品は、プレス金型を用いて、温度280℃で5分間溶融加熱後、プレス金型を80℃で5分間冷却し、厚さ1mmの成形品を作成した。また比較例9、10ではm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体(m=6が99.9%)をあらかじめ10wt%のNMP溶液として溶解させ配合した以外は、同様の方法で行った。
実施例13〜22より、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含有するPET樹脂組成物は、PETのみを溶融混練したものに比べ、一般的なPETの加工温度280℃における溶融粘度が顕著に低下している。なおPETは長時間滞留により加水分解などが進行するため、滞留後の溶融粘度は全体的に低下傾向を示すが、実施例13〜22と比較例3の滞留後の溶融粘度の比較から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合した樹脂組成物は、PET単体に比べ良流動性を維持していることがわかる。さらにPET単体と同等レベルの透明性を保持していることがわかる。
一方、実施例13〜22と比較例4の比較から、液晶性ポリマーを配合した樹脂組成物は、流動性向上効果を示すものの、その効果は実施例に比べ小さく、さらに液晶性ポリマーの配合により光線透過率が顕著に低下することがわかる。
またPET単体の結晶化速度を表すTm−Tmc=77℃に対し、実施例13〜22では、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の配合により、Tm−Tmc=45〜50℃まで小さくなっており、これは結晶化速度が上昇していることを示している。なおTm−Tcは環状ポリフェニレンスルフィド混合物の添加量50重量部付近で飽和現象となっている(実施例18、19)。
また環状ポリフェニレンスルフィド混合物としてm=6の環状物単体をNMP溶液として配合した比較例9、10でも流動性向上効果が認められるが、実施例13〜22の環状ポリフェニレンスルフィド混合物に比べ、流動性向上効果や結晶化速度の向上効果がわずかに低い傾向が認められる。
また実施例13〜19と実施例20〜22の結果から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が50重量%未満において、より高い流動性向上効果とより高い結晶化特性向上効果が得られることがわかる。
これらの結果から、PETに環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合しても、流動性、結晶化速度が増加し、さらに滞留安定性後もその効果を維持していることがわかる。
以上の実施例13〜22と比較例4の比較からもわかるように、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合したPET樹脂組成物は、PETのみを溶融混練したものとほぼ同等の透明性を維持することがわかった。通常樹脂に添加剤を配合すると、分散不良の問題だけでなく、樹脂と添加剤の屈折率の違いにより、透明性は著しく低下し、このことは比較例4の結果からも明らかである。しかしながら本実施例13〜22では、透明性の低下が非常に少ないことがわかる。
また実施例13〜19と実施例20〜22の結果から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が50重量%未満において、高い流動性向上効果とより高い結晶化特性向上効果だけでなく、高い透明性が得られることがわかる。
〔実施例25〜34、比較例5、6、11、12〕
Tm=226℃、Tmc=188℃(Tm−Tmc=38℃)、固有粘度0.85のポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ製1100S)(以下PBTと略す)に表5記載の組成からなる原料を、ドライブレンドし、押出温度を250℃に設定し、熱風乾燥機で110℃、3時間乾燥した以外は、実施例1〜10、比較例1と同様の操作を行い、250℃、剪断速度100sec−1での溶融粘度測定およびDSC測定を行った。また実施例35、36ではm=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体(m=6が99.9%)をあらかじめ10wt%のNMP溶液として溶解させ配合した以外は、同様の方法で行った。結果を表5に示した。
実施例25〜34より、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含有するPBT樹脂組成物は、PBTのみを溶融混練した比較例5に比べ、一般的なPBTの加工温度250℃における溶融粘度が顕著に低下しており、滞留後の溶融粘度もほぼ同等の溶融粘度を示していることがわかる。
またPBTもPETと同様に、長時間滞留により加水分解による低分子量化が進行しやすい樹脂であるため、滞留後の溶融粘度は全体的に低下傾向を示すが、実施例25〜34と比較例5の滞留後の溶融粘度の比較から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合した樹脂組成物は、PBT単体に比べ良流動性を維持していることがわかる。またPBT単体の結晶化速度を表すTm−Tmc=38℃に対し、実施例25〜34では、環状ポリフェニレンスルフィド混合物の配合により、Tm−Tmc=30〜31℃まで小さくなっており、結晶化速度の上昇が確認された。なおPBT単体の結晶化速度はもともと速く(Tm−Tmc=38℃)、先のN6(Tm−Tmc=48℃)、PET(Tm−Tmc=77℃)に比べ、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合した際の結晶化速度の上昇効果は比較的小さい。しかしながら、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を含有するPBT樹脂組成物は、溶融粘度測定時の固化速度は極めて速いことが目視でも観察された。
また環状ポリフェニレンスルフィド混合物としてm=6の環状物単体をNMP溶液として配合した比較例11、12でも流動性向上効果が認められるが、実施例25〜31の環状ポリフェニレンスルフィド混合物に比べ、流動性向上効果や結晶化速度の向上効果がわずかに低い傾向が認められる。
また実施例25〜31と実施例32〜34、比較例11、12の結果から、環状ポリフェニレンスルフィド混合物中、m=6の環状ポリフェニレンスルフィド単体の含有量が50重量%未満において、より高い流動性向上効果が得られることがわかる。
一方、実施例25〜34と比較例6、11、12の比較から、液晶性ポリマーを配合した樹脂組成物は、流動性向上効果を示すものの、その効果は実施例25〜34、比較例11、12に比べ小さいことがわかる。
これらの結果からPBTに環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合しても、流動性、結晶化速度が増加し、さらに滞留安定性にも優れることがわかる。