JP5379362B2 - 気泡入り練り製品の製造方法 - Google Patents

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本発明は、気泡入り練り製品製造時の加熱工程において、表面が崩壊して生じるうるみ現象の防止のための処理方法およびその方法により製造される気泡入り練り製品に関する。本発明はより具体的には、気泡入り練り製品の少なくとも表面を弱酸性にすることによる、気泡入り練り製品の表面のうるみを防止するための処理方法およびその方法により製造される気泡入り練り製品に関する。
はんぺんなどの気泡入り練り製品は、練り製品の組織中に多くの気泡を抱き込んでおり、柔らかい弾性を有する食品である。本来サメやスケソウダラを原料魚として、卵白、澱粉、やまいも等の調味料を高速で混合撹拌したものをきめ細かく発泡させて、成型後に茹で加熱または蒸加熱することにより、製造されている。
しかしながら、はんぺんなどの気泡入り練り製品は、その表面に、特有のうるみ(粘稠性のある皮膜構造)が発生しやすくなる傾向にある。このようなうるみの問題は、茹で加熱もしくは蒸し加熱による加熱時に気泡入り練り製品表面の組織が崩壊し、水分を多量に含むために発生するものと考えられる。練り製品であっても、はんぺん以外の気泡を有さない他の形態の練り製品(たとえばかまぼこ)においてはうるみは生じないことから、うるみの問題は、きめ細かく発泡させるという構造的特徴を有する気泡入り練り製品特有の問題と考えられている。そして、このようなうるみが発生すると外観および食感が損なわれ、商品価値が低下してしまうことになる。
気泡入り練り製品の原料魚、食味や食感を変更することなくうるみの問題を解決するため、これまでに、加熱工程を工夫する方法が開示された。具体的には、はんぺんなどの気泡入り練り製品の表面に生じるうるみを防止する方法として、加熱をジュール加熱により行い、茹で工程や蒸し工程を行わない方法が提案された(特許文献1)。しかしながら、この方法では、量産に適していないなどの問題が存在する。また、この方法では、新規設備開発やその設備の新たな導入による投資が必要になるという問題も存在する。
特開2002-95444
本発明は、気泡入り練り製品の製造において、食味や食感を変更することなく、また新たな設備を導入することなく、はんぺんなどの気泡入り練り製品の加熱製造時に生じる表面のうるみの発生を防止することを課題とする。
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、気泡入り練り製品の少なくとも表面の酸性度を高めることにより、うるみを低減することを特徴とする、気泡入り練り製品を提供することができ、上記課題を解決することができることを示した。
すなわち、本発明は、気泡入り練り製品の少なくとも表面の酸性度を高める(すなわち酸性化する)ことにより、加熱後に気泡入り練り製品の表面に生じるうるみを防止することを特徴としている。より具体的には、気泡入り練り製品の少なくとも表面の酸性度をpH 5.10〜6.55とすることにより、好ましくはpH 5.80〜6.50とすることにより、加熱後に気泡入り練り製品の表面に生じるうるみを防止することができる。
本発明においては、上述した様にして気泡入り練り製品の表面に生じるうるみを防止して、少なくとも表面の酸性度を高めることにより、うるみを低減した気泡入り練り製品を提供することもできる。
本発明の方法により製造した気泡入り練り製品は、酸性度を調整する以外は、従来の気泡入り練り製品の製造方法と同様に茹で工程や蒸し工程により加熱しているにも関わらず、気泡入り練り製品ではその表面に生じてしまううるみの発生を回避することができ、従って、表面の崩れ、うるみがなく、良好な食感をもたらすことが示された。このため、従来品においてうるみの発生に伴って生じていた欠点を回避でき、たとえば低pH処理を施さない製品に比べて日持ちの向上を図ることができる。また、本発明の方法は、塩摺り生身中に酸類を添加するかまたは成形した気泡入り塩摺り生身を茹で加熱する際の熱水中に酸類を溶解するだけで目的とする効果を得ることができることから、従来から使用されていた設備をそのまま利用することができるというメリットを有する。
発明の実施の形態
本発明において気泡入り練り製品という場合、原料として魚肉を使用する場合または畜肉を使用する場合のいずれも含まれる。また、気泡入り練り製品としては、含気した塩摺り生身を所定の形状に成形し、茹で加熱または蒸し加熱したはんぺんのことを指す。ここで、塩摺り生身とは、魚肉すり身を塩摺りしたものに、澱粉、卵白などの副原料を添加したものをいう。
ここでは、原料として魚肉を使用し、はんぺんを製造する場合を例にとって、本発明を説明する。しかしながら、本発明は、この態様のみに限定されるものではない。
気泡入り練り製品の一般的製造方法
まず魚肉のすり身に食塩を添加していわゆる塩摺りを行う。魚肉のすり身としては、スケソウダラ、サメ、クロカワ、グチ、ヒラメ、ホッケ、イトヨリ等の魚肉のすり身を用いることができる。これらのすり身は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すり身に添加する食塩の量は適宜調節することができるが、好ましくは2〜4%である。塩摺りは、食塩が塩溶性タンパクを溶解する程度に十分に行き渡るように行うことが好ましく、通常は10〜20分程度行う。
塩摺り後のすり身には、副原料として、調味料、起泡剤、水などを適宜添加する。添加する調味料の種類は特に制限されず、例えば、みりん、砂糖、食塩、澱粉、グルタミン酸ナトリウム等を添加することができる。起泡剤としては、例えば山芋、卵白などを添加することができる。また、調味料や起泡剤以外の食品添加剤も適宜添加することができる。これらの添加剤の組み合わせは特に制限されない。
副原料を混合した後、すり身を撹拌することにより、またはすり身に外部から気泡を注入することにより、含気させる。含気後のすり身の比重は、0.25〜0.95の範囲内に設定することが好ましく、0.30〜0.55の範囲内に設定することがより好ましい。
含気させたすり身は所望の形状に成型した後に、加熱工程に供する。成形後の形状は特に制限されず、プレート状、棒状、球状など様々な形状を採ることができる。本発明の製造方法では、はんぺんなどの気泡入り練り製品を製造する際に一般的に利用されている加熱方法である、茹で工程および蒸し工程により行う。ここでいう茹で工程とは、熱い湯の中に含気すり身を漬ける工程を意味し、蒸し工程とは、含気すり身全体を水蒸気で覆って熱する工程を意味する。
加熱工程は、加熱時の含気させたすり身の中心温度が65〜85℃になるように条件を設定することが好ましく、70〜82℃になるように条件を設定することがより好ましく、75〜82℃になるように条件を設定することがさらに好ましい。たとえば、茹で工程により加熱する場合、85℃の熱水中で10分間茹で加熱することにより加熱することができる。またたとえば蒸し工程により加熱する場合、85℃の蒸気中で12分間蒸すことにより加熱することができる。
本発明の特徴
本発明においては、基本的に上記気泡入り練り製品の一般的製造方法と同じ方法および条件で製造するものであるが、気泡入り練り製品の少なくとも表面の酸性度を高める(すなわち酸性化する)ことにより、加熱後に気泡入り練り製品の表面に生じるうるみを防止することを特徴としている。より具体的には、気泡入り練り製品の少なくとも表面の酸性度をpH 5.10〜6.55とすることにより、好ましくはpH 5.80〜6.50とすることにより、加熱後に気泡入り練り製品の表面に生じるうるみを防止することができる。
本発明において、気泡入り練り製品の少なくとも表面の酸性度を高める(すなわち酸性化する)方法として、塩摺り生身に酸類を添加することにより、気泡入り練り製品の全体の酸性度を高めて、当該練り製品の少なくとも表面の酸性度を高めることを特徴とする方法、または成形した気泡入り塩摺り生身を茹で加熱する際の茹で槽中の熱水中に酸類を溶解することにより、気泡入り練り製品の表面の酸性度を高めることを特徴とする方法、などを利用することができる。
本発明において使用することができる酸類は、食品添加物として許容され、かつ食品の酸性度を高める(酸性化する)ことができるものであれば、固体のものであっても液体のものであっても特に限定されるものではないが、たとえば、酢酸、フマル酸、フマル酸ナトリウム、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、コハク酸、酒石酸、乳酸、リン酸、リン酸2水素ナトリウム、ピロリン酸2水素2ナトリウム、フィチン酸等を使用することができる。本発明においては、これらの酸類を単独でまたはいずれかの組み合わせとして、使用することができる。また、上記の酸類と、塩基類(たとえば、酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム(無水)、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)を組み合わせて、緩衝液(バッファー)として使用することができる。
実施例1 原料中に混合されたクエン酸によるうるみ防止効果
本実施例においては、主原料としてスケトウダラすり身を使用してはんぺんを製造した際に、原料中に混合されたクエン酸によりはんぺん表面のうるみを防止することができるかどうかを検討するために行った。
主原料としてスケトウダラすり身を塩摺りしたのち、澱粉、卵白、やまいも、砂糖、調味料、添加水等の副原料の添加時に、クエン酸を添加しない群とクエン酸を塩摺りすり身に対して0.05%、0.08%、0.18%、0.25%、および0.30%添加した群に分けて成型した後、85℃の茹で槽で10分間加熱を実施した。はんぺんの製造の際に使用する各原料の組成は以下のとおりである。
Figure 0005379362
製品として製造されたはんぺんを冷却した後、各群の組成で製造されたはんぺんの物性測定(破断強度、破断距離)、外観(うるみ)、表面の崩れ、官能、およびpH測定を実施した。
はんぺんの破断強度とは、はんぺんの表面がクサビにより加えられた力に耐え切れず破断する際のクサビにかけられた力を測定したものであり、はんぺんの破断距離とは、クサビを徐々に侵入させた時、はんぺんの表面が破断するまでの進入距離を示したものである。はんぺんの破断強度、および破断距離の測定は、サン科学から市販されているレオメーターに、2 mmクサビを装着して、クサビを介してはんぺんの表面に圧力をかけた際、はんぺんの表面が破断した瞬間のクサビにかけていた圧力、およびはんぺんの表面にクサビが接触してからはんぺんの表面が破断するまでにクサビを押し込んだ距離をぞれぞれ測定することにより測定した。
外観(うるみ)の評価および官能評価は、15人のパネラーにより、クエン酸添加量が0.05%、0.08%、0.18%、0.25%、または0.30%であるはんぺんの外観(うるみ)および食味を、添加したクエン酸添加量0%の対照製品の外観(うるみ)および食味と対比することにより行った。
表面の崩れは、はんぺんを5 cm×5 cmに切り、表面にアクリル板を垂直に立てて、上部をスライドさせ、そして、スライドさせたアクリル板に削り取られたはんぺん固形物の重さを測定し、表面の崩れの指標として重量を測定することにより定量化することにより測定した。
製品であるはんぺんのpHは、はんぺん固形物を均等にすりつぶし、そのうち10 gを採取し、蒸留水90 gと混合したものを検体として、pHメーターにてpHを測定することにより測定した。
この様にして得られたはんぺんの物性測定(破断強度、破断距離)、外観(うるみ)、表面の崩れ、官能、およびpH測定についての結果を、表2にまとめた。
Figure 0005379362
表2の結果より、対応する製品のpHを5.10〜6.50(クエン酸添加量を0.08%〜0.25%)とすることにより、食味を大きく変化させることなく、顕著にうるみを防止する効果が得られることが認められた。
実施例2 原料中に混合されたコハク酸によるうるみ防止効果
本実施例においては、主原料としてスケトウダラすり身を使用してはんぺんを製造した際に、原料中に混合されたコハク酸によりはんぺん表面のうるみを防止することができるかどうかを検討するために行った。
本実施例において使用するはんぺんは、副原料の添加時に添加する酸類の種類をクエン酸からコハク酸に変更し、生身重量に対するコハク酸の粉末重量%で0.05%、0.10%、0.18%、0.28%、または0.35%添加した点以外は、実施例1と同様の組成および手順での製造した。
そして、製造されたはんぺんについての物性測定(破断強度、破断距離)、外観(うるみ)、表面の崩れ、官能、およびpH測定は、実施例1に記載した通り行った。これらの評価・測定についての結果を、表3にまとめた。
Figure 0005379362
表3の結果より、対応する製品のpH5.42〜pH6.50にpHを調整することにより(コハク酸添加量を0.10%〜0.28%)、食味を大きく変化させることなく、食感も良好な状態で、うるみを完全に防止した。一方、pHが5.01では食感がもろくなり、このpH以下では製品として不適であった。
実施例3 原料中に混合されたフマル酸ナトリウムによるうるみ防止効果
本実施例においては、主原料としてスケトウダラすり身を使用してはんぺんを製造した際に、原料中に混合されたフマル酸ナトリウムによりはんぺん表面のうるみを防止することができるかどうかを検討するために行った。
本実施例において使用するはんぺんは、副原料の添加時に添加する酸類の種類をクエン酸からフマル酸ナトリウムに変更し、摺り上がり生身重量に対するフマル酸ナトリウムの粉末重量%で0.1%、0.28%、0.50%、0.70%、または0.80%添加した点以外は、実施例1と同様の組成および手順での製造した。ちなみに、通常有機酸塩(たとえばナトリウム塩)は中性もしくはアルカリ性を示すが、このフマル酸ナトリウムは酸性となることから使用した。
そして、製造されたはんぺんについての物性測定(破断強度、破断距離)、外観(うるみ)、表面の崩れ、官能、およびpH測定は、実施例1に記載した通り行った。これらの評価・測定についての結果を、表4にまとめた。
Figure 0005379362
表4の結果より、対応する製品のpH5.24〜pH6.50にpHを調整することにより(フマル酸ナトリウム添加量を0.28%〜0.70%)、食味を大きく変化させることなく、食感も良好な状態で、うるみを完全に防止した。
実施例4 原料中に混合されたリンゴ酸バッファーによるうるみ防止効果
本実施例においては、主原料としてスケトウダラすり身を使用してはんぺんを製造した際に、原料中に混合されたリンゴ酸バッファーによりはんぺん表面のうるみを防止することができるかどうかを検討するために行った。
本実施例において使用するはんぺんは、副原料の添加時に添加する酸類の種類をクエン酸からリンゴ酸:リンゴ酸ナトリウム、2:1のバッファー(以下、リンゴ酸バッファーと呼ぶ)に変更し、生身重量に対するリンゴ酸バッファーの粉末重量%で0.10%、0.16%、0.36%、0.45%、または0.60%添加した点以外は、実施例1と同様の組成および手順での製造した。リンゴ酸バッファーはリンゴ酸20 g、リンゴ酸ナトリウム10 gを水で溶解し、100 mlとしたものを使用した。
そして、製造されたはんぺんについての物性測定(破断強度、破断距離)、外観(うるみ)、表面の崩れ、官能、およびpH測定は、実施例1に記載した通り行った。これらの評価・測定についての結果を、表5にまとめた。
Figure 0005379362
表5の結果より、対応する製品のpH5.16〜pH6.55にpHを調整することにより(リンゴ酸バッファー添加量を0.16%〜0.45%)、食味を大きく変化させることなく、食感も良好な状態で、うるみを完全に防止した。
実施例5 茹で槽中に混合された酸類によるうるみ防止効果
本実施例においては、茹で槽中のpHを調整することにより、はんぺん表面のうるみを防止することができるかどうかを検討するために行った。
本実施例において使用するはんぺんは、酸類を何ら添加することなく、実施例1の表1に示した組成および実施例1において示した手順で製造した。
ただし、85℃の茹で槽で10分間加熱を行う際、この茹で槽に0%、0.05%、0.1%、または0.2%のクエン酸を添加して、茹で槽のpHをそれぞれ6.90、3.29、3.09または2.86に調整し、その中で茹で加熱を行った(表6)。
そして、製造されたはんぺんについての物性測定(破断強度、破断距離)、外観(うるみ)、表面の崩れ、および官能を、実施例1に記載した通り行った。なお、pHの測定は、製品全体のpH測定(以下の表6中、製品pHと表記)と製品表面のpH測定(以下の表6中、表面pHと表記)の2つに分けて行った。製品全体のpH測定は、実施例1に記載した通り行った。これに対して、製品表面のpH測定は、はんぺんの製品表面から1 mmの厚さを削り取り、その固形物を均等にすりつぶし、そのうち10 gを採取し、蒸留水90 gと混合したものを検体としてpHメーターにてpHを測定することにより測定した。これらの評価・測定についての結果を、表6にまとめた。
Figure 0005379362
表6の結果より、茹で槽のpHをそれぞれ6.90、3.29、3.09または2.86に調整した結果、対応する製品であるはんぺんの製品全体のpHはそれぞれ7.01、6.95、6.77または6.54に調整され、一方製品表面のpHは、7.01、6.67、5.96、または4.78にぞれぞれ調整された。このうち、対応する製品表面のpHを5.96に調整することにより(0.1%添加群)、食味を大きく変化させることなく、食感も良好な状態で、うるみを完全に防止した。
本発明の方法により製造した気泡入り練り製品は、従来の気泡入り練り製品の製造方法と同様に茹で工程や蒸し工程により加熱しているにも関わらず、気泡入り練り製品ではその表面に生じてしまううるみの発生を回避することができ、従って、表面の崩れ、うるみがなく、良好な食感をもたらすことが示された。このため、本発明の方法により製造された製品は、たとえば低pH処理を施さない製品においてうるみの発生に伴って生じていた欠点を回避でき、そのような製品に比べて日持ちの向上を図ることができる。また、本発明の方法は、塩摺り生身中に酸類を添加するかまたは成形した気泡入り塩摺り生身を茹で加熱する際の熱水中に酸類を溶解するだけで目的とする効果を得ることができることから、従来から使用されていた設備をそのまま利用することができるというメリットを有する。

Claims (1)

  1. 塩摺り生身に酸類を添加することにより、気泡入り練り製品の全体の酸性度を高めて、気泡入り練り製品の少なくとも表面のpHを5.10〜6.55とすることを特徴とする、気泡入り練り製品のうるみ防止方法。
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