JP5379074B2 - 耐食性と耐損耗性に優れた電極式電気ボイラ - Google Patents
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Description
本発明の電極式電気ボイラ構造は、前段で説明した図1の通りであり、ノズルヘッダ2に多数のノズル3を装着し、ノズルヘッダ2の外周部に対面した上側の電極5、下側の対向電極6、循環ポンプ10、導水管(送水管)11、給水口12、液面計13、給電部14、蒸気排出口15、上部パネル16等を、缶体1に装着して構成されている。なお、この図1において、その他の装置類として、17は補助ヒータ、18は安全バルブ、19はマンホールなどである。
電極式電気ボイラにおいて、印加される電圧の大部分はジュール熱発生に用いられる。ただし、通電部材であるノズル3、上側の電極5、下側の対向電極間6などの極近傍では二重電荷層の電荷交換が行われ、さらに、通電部材表面では、アノード極性時に以下の溶出反応が生じていると推定される。
溶出反応 Fe+2e- ⇒ Fe2+
水素発生反応 2H2O+2e- ⇒2OH-+H2↑
上記溶出反応により生じた鉄イオンは、缶水中の鉄イオン量の増大に繋がり、一部は水酸化物イオンと結合して水酸化鉄となる。また、カソード極性時には、酸素発生反応が生じており、缶水中の溶存酸素増大に繋がり、鉄イオンと結合して酸化鉄となる。それら生成物は、静水下であれば、ノズル3や電極5、6の表面に形成して、耐食性を獲得できるが、水流下では容易に表面から脱離し、缶水中を浮遊したり、ノズル出口に流水形状に吸着したりするため、水流や電流が不安定となり、スパークの原因となることもある。
したがって、このような電極式ボイラに適する素材鋼材は、前記溶出反応を低減するために、表面に薄い生成物皮膜や不働態皮膜を形成することにより、ノズル3や電極5、6などの部材全体の損耗を抑制できる機能を有することが求められる。但し、これら絶縁体である皮膜が大きな電気抵抗になって、皮膜の絶縁破壊が大きく生じ、皮膜の絶縁破壊と、破壊された部位での皮膜の再形成とが、断続的に生じ、通電による、ノズル3や電極5、6などの部材の溶出損耗が、却って孔食状に進まないようにする必要がある。このために、生成する生成物皮膜や不働態皮膜が、ステンレス鋼のような強固な不働態皮膜ではなく、絶縁破壊位置での再生能や再不働態化能が低い鋼材であることが好ましい。すなわち、表面に薄い生成物皮膜や不働態皮膜を形成する機能と、この皮膜の再生能や再不働態化能が低い機能とを合わせて有する鋼材が好ましい。
以上説明した機能を有するための、素材鋼材の化学成分組成の限定理由について、以下に説明する。 本発明で用いる鋼材の化学成分組成は、質量%で、C:0.05〜0.6%、Si:0.5%以下(但し0%を含む)、Mn:0.3〜1.2%、Cr:0.1〜6.0%、Ni:0.02〜1.0%を各々含み、かつ、CrとNiとの含有量の比Cr/Niが6以上30以下であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる限定された鋼組成とする。なお、元素含有量の単位は全て質量%だが、単に%と表記する場合もある。
Cは強度向上に寄与する元素であり、ボイラ材料としての十分な強度を確保するには0.05%以上、好ましくは0.10%以上以上含有させる。しかし、C量が多過ぎると、ボイラ材料としての、部材への成形、加工性あるいは部材としての靭性を劣化させるので、0.6%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.22%以下に抑える。したがって、C含有量は0.05〜0.6%、好ましくは0.10〜0.4%、より好ましくは0.10〜0.22%の範囲とする。
Siは溶製中の鋼の脱酸元素であるとともに、固溶強化による強度向上元素として作用するため、その含有が許容される。しかし、Si含有量が多過ぎると粗大介在物が形成して、部材への成形、加工性あるいは部材としての靭性を劣化させる。したがって、Si含有量は0.5%以下(但し0%を含む)、好ましくは0.4%以下(但し0%を含む)の範囲とする。
Mnは焼入れ性を高めると共に強度向上に寄与する元素であり、十分な強度と焼入れ性を確保するには0.3%以上、好ましくは0.7%以上含有させる。ただし、Mn含有量が多すぎると、靭性や耐孔食性を劣化させるので、1.2%以下、好ましくは1.0%以下とする。したがって、Mn含有量は0.3〜1.2%、好ましくは0.7〜1.0%の範囲とする。
Crは、鋼材の焼入れ性を高めると共に、靭性、耐食性を向上させる有効な元素であり、それらの作用は0.1%以上含有させることによって、有効に発揮される。Crは、特に不働態皮膜形成能を高める働きがあり、アルカリ環境下での鋼の不働態化電位域を拡大し、不働態電流を低減できるため、通電のない部材では、Cr含有量が多いほど不働態皮膜を安定化させ、耐食性を高めることができる。ボイラ材の場合も、Crの含有により、全体の損耗を抑制することが可能である。しかし、反対に、Cr含有量が過剰になると、不働態皮膜の形成能が高すぎて、通電による絶縁破壊部にて孔食状に損耗が成長するため、Cr含有量は6.0%以下、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下とする。したがって、Cr含有量は0.1〜6.0%の範囲とし、好ましくは0.1〜2.0%の範囲、より好ましくは0.1〜1.5%の範囲とする。
Niは耐食性向上元素として有用な元素であり、アノード反応により生成する酸化鉄・水酸化鉄に濃化して生成皮膜を安定化することから耐食性を向上できる。また、不働態皮膜形成能を高める働きもある。それらの作用を有効に発揮させるに0.02%以上、好ましくは0.05%以上含有させる。しかしながら、ボイラ内のような水流下では、流れ誘起腐食が生じて、酸化鉄・水酸化鉄は表面から脱離しやすいため、Niの生成皮膜安定化効果のみでは損耗を防ぐことが困難である。さらには、Ni含有量が過剰になると、孔食が激しくなるため、Ni含有量は1.0%以下、好ましくは0.5%以下とする。したがって、Mo含有量は0.02〜1.0%、好ましくは0.05〜0.5%の範囲とする。
本発明では、さらに、不働態皮膜形成能や生成皮膜の安定化と、孔食抑制とを両立させるために、CrとNiとの含有量の比Cr/Niを6以上30以下、好ましくは7〜20とする。この比が小さすぎると、CrとNiとの含有量ともに多い場合は孔食が発生しやすく、逆に、ともに少ない場合は不働態皮膜形成能が不十分となる。一方、この比が大きすぎると、必然的に、Cr含有量に対して、Ni含有量が少なくなって、生成皮膜の安定化を却って損なう。したがって、CrとNiとの含有量の比Cr/Niは6以上30以下、好ましくは、6以上20以下の範囲とする。なお、ボイラ材料としては、従来から、炭素鋼やステンレス鋼(SUS304等)が用いられるが、いずれも、Niを添加しないか、あるいは前記Cr/Niが共通して5以下である。
Moは、Crと同じく不働態皮膜を形成させる働きがあり、通電のない部材ではMo含有量が多いほど不働態皮膜を安定化させ、耐食性を高めることができる。また、全体の損耗を抑制する機能もある。更に、鋼材の焼入れ性を確保して強度、靭性を向上させる効果もある。これらのMoの作用を有効に発揮させるためには0.1%以上含有させる。しかし、Mo含有量が過剰になると、通電による絶縁破壊部にて孔食状に損耗が成長する。またMoの添加はコストアップにもなることから、選択的にMoを含有させる場合には、Mo含有量は0.6%以下(但し0%を含まない)の範囲とする。
Cuは鋼中のSとの反応物であるCuS生成物の形成作用や、鉄酸化物の非晶質化を促進する作用があり、耐食性を高め、損耗を抑制する機能がある。これらのCuの作用を有効に発揮させるためには0.01%以上含有させる。しかし、Cu含有量が過剰になると、コストアップとなるので、選択的にCuを含有させる場合には、Cu0.5%以下(但し0%を含まない)、好ましくは0.2%以下(但し0%を含まない)の範囲とする。
このような素材鋼材は、上記組成を満足してさえいれば、前記図1に示した電極式電気ボイラの適用部材形状や、この部材形状への成形、加工方法の選択などに応じて、常法で製造される冷延鋼板や熱延鋼板あるいは鋼鍛造材などから適宜選択して使用できる。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05〜0.6%、Si:0.5%以下(但し0%を含む)、Mn:0.3〜1.2%、Cr:0.1〜6.0%、Ni:0.02〜1.0%を各々含み、かつ、CrとNiとの含有量の比Cr/Niが6以上30以下であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼材によって構成される通電部材を備えたことを特徴とする耐食性と耐損耗性に優れた電極式電気ボイラ。
- 前記鋼材が、更に、Mo:0.6%以下(但し0%を含まない)、Cu:0.5%以下(但し0%を含まない)の1種または2種を含有する請求項1に記載の耐食性と耐損耗性に優れた電極式電気ボイラ。
- 前記通電部材が電極、対向電極およびノズルのうちの1種以上である請求項1または2に記載の耐食性と耐損耗性に優れた電極式電気ボイラ。
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