JP5370679B2 - シンチレータ - Google Patents

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Description

本発明はシンチレータに関し、より詳しくはPET(Positron Emission Tomography;陽電子放出断層撮影)装置の放射線検出器等に使用されるシンチレータに関する。
シンチレータは、入射される個々の放射線を検知するための発光素子であり、近年、PET装置等の核医学装置に広く使用されている。
この種のシンチレータでは、放射線が入射すると励起状態が形成される。そして、励起エネルギーを放出して基底状態に脱励起する際に、脱励起時に発生する短寿命の微弱な発光を光電子増倍管等の受光素子で検知し、これにより入射された放射線を検出している。したがって、シンチレータには高いエネルギー分解能と高速での動作が要求され、そのためには放射線入射時における高輝度発光、及び発光時間の高速減衰(短寿命化)が求められる。
シンチレータ材料としては、従来より、希土類をドープした単結晶が知られているが、単イオン発光による特性向上、特に高速減衰については限界があるとされている。
そこで、近年では、半導体超微粒子の励起子発光を使用したシンチレータ材料が注目されている。この半導体超微粒子の励起子発光は、高輝度発光と高速減衰とを室温で両立させることが可能と考えられており、特性の向上が期待されている。
例えば、非特許文献1には、半導体超微粒子を利用した高速シンチレータ材料の開発について報告されている。
この非特許文献1では、CsCl:Pb結晶(Pb濃度:10mol%)を200℃で1時間アニールし、これによりCsPbClを凝集させた試料を作製し、このCsPbCl状凝集体を半導体超微粒子として使用し、シンチレーション強度の減衰挙動を観測している。
この非特許文献1では、CsPbCl状凝集体の場合、複数の指数関数的減衰成分が生じ、減衰挙動はこれら複数の指数関数的減衰成分の和で表わされることが報告されている。そして、最短で420psの短寿命のシンチレーション特性が得られることが記載されている。
また、非特許文献2には、ガラス中に埋め込まれたCuCl半導体超微粒子における励起子の発光減衰の粒径依存性について報告されている。
この非特許文献2では、結晶粒径が大きくなるに伴い短寿命化することが記載されており、CuClの場合、77Kの温度で結晶粒径が3.3nmのときは、減衰時間は400psであったのに対し、結晶粒径が7.7nmに大きくなると減衰時間は80psまで短縮されることが記載されている。これは励起子超放射現象が観測されたものと考えられる。尚、励起子超放射現象とは、結晶粒径が数nmの半導体微粒子の励起子状態の発光寿命は、結晶粒径が大きくなって体積が増加するのに伴い減少する現象をいう。
また、非特許文献3には、半導体微粒子における励起子超放射現象について記載されている。
この非特許文献3では、半導体超微粒子としてCdSを使用した場合について、発光減衰の粒径依存性及び温度依存性について記載されており、CdSの場合、発光減衰は、室温では200psのオーダーになるものと考えられる。
一方、非特許文献4には、酸化亜鉛(以下、「ZnO」と記す。)におけるΓ及びΓの自由励起子の蛍光寿命(発光寿命)について報告されており、格子歪みのないZnO単結晶で322psの短寿命が得られることが記載されている。
越水正典、外3名著、「半導体超微粒子を利用した高速シンチレーター材料の開発」、応用物理、第77巻、第6号(2008)、p.681-685 A. Nakamura et al., "Size-dependent radiative decay of exicitons in CuCl semiconducting quantum spheres embedded in glasses", Phys. Rev. B, vol.40, No.12, 1989年10月15日発行、p.8585-8588 中西八郎、外3名編、「有機非線形光学材料の開発と応用」、株式会社シーエムシー、2001年8月20日発行、p.259-264 D. C. Reynolds et al., "Time-resolved photoluminescence lifetime measurements of the Γ5 and Γ6 free excitons in ZnO", J. Appl. Phys. vol.88, No.4, 2000年8月15日発行、p.2152-2153
しかしながら、非特許文献1は、Pbを凝集させた試料を使用しており、材料系が複雑であるため、反応制御が難しい。また、マトリックスである透明結晶中にPb2+が残留するため、数十ns以上の遅い成分が現れ得る。しかも、超微粒子中にPbを含んでいるため環境汚染を招くおそれがある。
また、非特許文献2では、半導体超微粒子としてCuClを使用しているが、CuClは空気中で容易に酸化するため、化学的に不安定であり、また、毒性があるため、取り扱いに難点がある。
さらに、非特許文献3で使用されているCdSも、CuClと同様、化学的に不安定であり、毒性があるため、取り扱いに難点がある。
一方、非特許文献4で使用されているZnOの単結晶は、化学的に安定で無害であり、しかも放射線照射により高輝度発光し、また発光時間も比較的短いことから、次世代のシンチレータ材料として有望視されている。
しかしながら、非特許文献4で使用しているZnO単結晶は、発光寿命が322psと短寿命化には未だ不十分であり、このためより高いエネルギー分解能を有しつつ、より一層の短寿命で高速動作が可能な高性能シンチレータの材料開発が求められている。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、発光強度を増大させかつ発光寿命を短縮化させることにより、高いエネルギー分解能を有しつつ、高速動作を可能とした高性能のシンチレータを提供することを目的とする。
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を行ったところ、ZnOの結晶粒径を30nm以下の超微粒とすることにより、発光強度を増大させつつ、発光寿命の短寿命化が可能となり、これにより高いエネルギー分解能を有しつつ、高速動作が可能な高性能のシンチレータを得ることができるという知見を得た。
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係るシンチレータは、入射された放射線を検知する検知部を備えたシンチレータであって、前記検知部が、結晶粒径30nm以下のZnO超微粒子で形成されていることを特徴としている。
また、本発明のシンチレータは、前記ZnO超微粒子が、基板上に塗布されて薄膜を形成していることを特徴としている。
さらに、本発明のシンチレータは、前記基板が、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有する結晶質材料で形成されていることを特徴としている。
また、本発明のシンチレータは、前記ZnO超微粒子が、媒質中に分散されていることを特徴としている。
さらに、本発明のシンチレータは、前記媒質が、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有する結晶質材料で形成されていることを特徴としている。
また、本発明のシンチレータは、前記ZnO超微粒子が、界面活性剤と水とが疎水性溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、亜鉛アルコキシドの加水分解反応により生成されることを特徴としている。
本発明のシンチレータによれば、放射線を検知する検知部が、結晶粒径30nm以下のZnO超微粒子で形成されているので、励起子再結合による発光のバンド間遷移の確率が増加して発光強度が増大し、これにより高いエネルギー分解能が可能となり、かつ励起子超放射現象により発光寿命を短縮化でき高速動作が可能となる。
前記ZnO超微粒子が基板上に塗布されて薄膜を形成することにより、或いは前記ZnO超微粒子が媒質中に分散されることにより、高いエネルギー分解能と高速動作とが両立したシンチレータを容易に得ることができる。
また、前記基板が、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有する結晶質材料で形成されているので、放射線が照射されても損傷したり着色することもなく、シンチレータ特性が劣化することもない。しかも、γ線照射によるZnOのバンド間遷移の発光波長(約370nm)が、基板を効率良く透過することができる。
前記媒質が、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有する結晶質材料で形成されている場合も同様である。
また、前記ZnO超微粒子が、界面活性剤と水とが疎水性溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、亜鉛アルコキシドの加水分解反応により生成されるので、粒子同士の凝集がなく、粒度分布が狭いZnO超微粒子が分散したZnO超微粒子分散溶液を高効率で得ることができる。したがって、このZnO超微粒子分散溶液を使用して熱処理等を行うことにより、所望微小粒径のZnO超微粒子を検知部とするシンチレータを容易に得ることが可能となる。
しかも、ZnOは資源が豊富で化学的安定性が良好で無害であるため、安価で作業性が良好な高性能のシンチレータを容易に得ることができる。
本発明に係るシンチレータの一実施の形態(第1の実施の形態)を模式的に示す断面図である。 本発明に使用されたZnO超微粒子分散溶液の一実施の形態を示す正面図である。 ZnO超微粒子分散溶液の製造方法を説明する図である。 本発明に係るシンチレータの第2の実施の形態を模式的に示す断面図である。 実施例の試料番号2、5、6における発光スペクトルを示す図である。 実施例で使用した発光寿命測定装置のシステム構成図である。 実施例の各試料における結晶粒径と発光寿命との関係を示す図である。
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら詳説する。
図1は、本発明に係るシンチレータの一実施の形態(第1の実施の形態)を模式的に示す断面図である。
すなわち、このシンチレータは、基板1上にZnO薄膜2が形成されている。
ZnO薄膜2は、結晶粒径が30nm以下のZnO超微粒子で形成されている。そして、ZnO超微粒子の集合体であるZnO薄膜2がシンチレータの検知部を構成し、γ線等の放射線がシンチレータに入射されると、ZnO薄膜2が入射放射線を検知し、極短時間(例えば、1〜6ps)、高輝度発光する。
このように上記シンチレータは、短時間高輝度発光するので、高いエネルギー分解能と高速動作が可能な高性能のシンチレータを得ることができる。
本シンチレータが高輝度発光しかつ短寿命であるのは、以下の理由による。
ZnOの結晶粒径が30nm以下に超微粒化されると、エネルギー状態が離散化する。そして、エネルギー状態が離散化すると、離散化した最低励起子準位に振動子強度が集中し、このため励起子再結合による発光のバンド(価電子帯−伝導帯)間遷移の確率が増加し、発光強度が増大する。
また、ZnOの結晶粒径が30nm以下に超微粒化されると、振動子強度が体積に比例して増大する結果、励起子超放射現象が発現し、結晶粒径が増加するに伴い発光寿命が減少し、これにより発光寿命の短寿命化が可能となる。
このようにZnOの結晶粒径を30nm以下に超微粒化することにより、励起子再結合による発光のバンド間遷移の確率が増加し、その結果、発光強度の増大と発光寿命の短縮化が可能となり、これにより高いエネルギー分解能を有しつつ高速動作が可能な所望の高性能シンチレータを得ることができる。
ただし、ZnOの結晶粒径が30nmを超えると、エネルギー状態が十分に離散化せず、このため励起子再結合による発光のバンド間遷移の確率が大きくならず、発光強度を増大させることができない。しかも、この場合は結晶粒径が大きいため、励起子超放射現象が発現せず、このため所望の短寿命化を図ることができなくなり、所望の高速動作を実現するのが困難になる。
そこで、本実施の形態では、上述したようにZnOの結晶粒径を30nm以下に制御している。尚、結晶粒径の制御は、熱処理温度を調整することにより容易に行うことができる。
また、上記基板1としては、放射線照射により損傷したり、着色しない結晶質材料を使用するのが望ましい。例えば、ガラスのような非晶質材料を基板として使用した場合、γ線等の放射線照射による着色が激しくなり、シンチレータとしての特性が劣化するおそれがある。また、放射線照射によるZnOのバンド間遷移の発光波長(約370nm)が、基板1を効率良く透過する必要があり、そのためには、基板1は、波長300〜500nmの範囲で透光性を有するのが望ましい。
このような基板材料としては、石英、酸化マグネシウム、アルミナ、サファイア、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、塩化カリウム等を使用することができる。
このように本実施の形態のシンチレータは、検知部が、結晶粒径が30nm以下のZnO超微粒子の集合体、すなわちZnO薄膜2で形成されているので、励起子再結合による発光のバンド間遷移の確率が増加し、その結果ZnO単結晶に比べて発光強度を増大させることができ、高エネルギー分解能を得ることができる。また、励起子超放射現象により発光寿命を短縮化することができ、高速動作が可能となる。そしてこれにより所望の高性能なシンチレータを得ることができる。
また、基板1が結晶質材料で形成されているので、放射線照射により着色することもなく、シンチレーション特性の劣化を招くこともない。
さらに、基板1が、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有しているので、放射線を照射しても基板1を効率良く透過することができ、所望の放射線検知を行うことができる。
また、ZnOは資源が豊富であり、非特許文献1のようなPbを含まず材料系も単純であり、非特許文献2記載のCuClや非特許文献3記載のCdSとは異なり、化学的安定性が良好で無害であり、安価で作業性が良好な高性能のシンチレータを容易に得ることができる。
次に、上記シンチレータの製造方法を詳述する。
〔ZnO超微粒子分散溶液の作製〕
まず、ZnO薄膜2を構成するZnO超微粒子を作製する。
ZnO超微粒子の作製方法は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、粒子同士の凝集が無く粒度分布の狭い超微粒子を得ることができるマイクロエマルジョン法で作製している。
図2はマイクロエマルジョン法で作製されたZnO超微粒子分散溶液を模式的に示した正面図である。
すなわち、このZnO超微粒子分散溶液3は、平均粒径が5nm以下(好ましく、3nm以下)のZnO超微粒子4が、界面活性剤5に包囲された形態で疎水性溶媒6中に分散浮遊しており、斯かるZnO超微粒子分散溶液3が、容器7に収容されている。
そして、このZnO超微粒子4は、界面活性剤5と水とが疎水性溶媒6中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、亜鉛アルコキシドの加水分解反応により生成される。
以下、その作製方法を詳述する。
(油中水滴型マイクロエマルジョン溶液の作製)
疎水性溶媒6、界面活性剤5、及び水を容器7に入れて混合・撹拌する。ここで、界面活性剤5は、図3(a)に示すように、主界面活性剤7と副面活性剤8とを含み、また主界面活性剤7は疎水性基7aと親水性基7bとを有している。そして、上述したようにこれらを混合・撹拌すると、主界面活性剤7の疎水性基7aは疎水性溶媒6に吸着される一方、主界面活性剤7の親水性基7bは水に吸着され、さらに副界面活性剤8は主表面活性剤7の親水性基7bに入り込んで水との界面エネルギーが低下する。そしてその結果、水は超微小径の水滴9となって、界面活性剤5(主界面活性剤7及び副界面活性剤8)の内部に閉じ込められる。すなわち、水滴9は界面活性剤5に包囲されるような形態で、疎水性溶媒6中に分散し、これにより油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液が作製される。
ここで、主界面活性剤7としては、(CHCHO)の部分で親水性を得ることができるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(APE(n))、特に、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(NPE(n))を使用するのが好ましい。
そして、NPE(n)の側鎖長nを変更することにより、得られるZnO超微粒子4の平均粒径を制御することが可能となる。すなわち、側鎖長nの長さが長くなると、側鎖長nの長さが短いときに比べ、ZnO超微粒子4の平均粒径は小さくなる傾向にある。これは、側鎖長nの長さが大きくなると親水性基も長くなることから、ZnO超微粒子4の生成に寄与する水滴への吸着力が強くなって水滴径がより小さくなり、その結果、生成されるZnO超微粒子4の平均粒径も小さくなるためと考えられる。したがって、側鎖長nの異なるNPE(n)を選択するのみで、ZnO超微粒子4の平均粒径を制御することが可能となる。
また、副界面活性剤8は、主界面活性剤7の親水性基7bの内部に入って水との界面エネルギーを低下させ、かつ、親水性基7bの側鎖長nによる立体障害を和らげる効果があり、これにより水滴の安定化に寄与することができる。そして、ZnO超微粒子4が生成される際には、主界面活性剤7の親水性基7bと共に、ZnO超微粒子4を包囲する形態でZnO超微粒子4に吸着され、ZnO超微粒子4を疎水性溶媒6中に安定して分散させるのに寄与する。
このような副界面活性剤8としては、化学式C2m+1OH(ただし、mは4〜10)で表される中鎖アルコール、例えば、1−オクタノール(C17OH)を使用することができる。尚、炭素数mは、主界面活性剤7の親水性基7bの側鎖長nの長さにも依存するが、炭素数mが4未満では、親水性が上がり過ぎるため、水滴9内に溶解してしまい、このため副界面活性剤8が主界面活性剤7と水との界面のみに存在しなくなるおそれがある。一方、炭素数mが10を超えると疎水性が大きくなり過ぎたり、立体障害が大きくなったりするおそれがあり、好ましくない。
また、疎水性溶媒6としては、シクロへキサン、ヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、オクタンなどの無極性炭化水素、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類や、ケロシンなどの石油系炭化水素等を使用することができる。
尚、界面活性剤5、及び水は、ZnO超微粒子4の平均粒径が5nm以下(好ましくは、3nm以下)となるように、例えば、体積比で水/界面活性剤=0.005〜0.05となるように配合されて容器7に投入される。
(Znアルコキシド溶液の調製)
次に、ZnO超微粒子4の原料となるZnアルコキシド溶液を調製する。
具体的には、モノエタノールアミン(HNCHCHOH)等のアミノアルコールをエタノール等のアルコール溶液中に溶解させると共に、Znアルコキシドをアルコール溶液に投入して溶解させ、これによりZnアルコキシド溶液を調製する。
すなわち、超微小で粒度分布の幅が狭い所望粒子径のZnO超微粒子4を得るためには、加水分解反応に消費される水滴9の水滴径増加を招くのを避ける必要があり、そのためにはZnアルコキシドのような無水和物を使用するのが望ましい。しかしながら、Znアルコキシドはアルコールには殆ど溶解しない。
そこで、本実施の形態では、Znアルコキシドをアルコール溶液に溶解させることができ、かつ疎水性溶媒6には溶解しないアミノアルコールをZnアルコキシドと併用している。
(加水分解)
次に、このようにして作製されたZnアルコキシド溶液をマイクロエマルジョン溶液に滴下し、Ar雰囲気等の不活性雰囲気下、所定時間、撹拌混合する。するとZnアルコキシドと水滴9との間で加水分解反応が生じる。
例えば、ZnアルコキシドとしてジエトキシZnを使用した場合は、化学反応式(A)に示すような加水分解反応が生じ、超微小径のZnO超微粒子4が生成される。
Zn(OC+HO → ZnO+2COH・・・(A)
すなわち、界面活性剤5で包囲された水滴9を反応場として加水分解反応が進行し、図3(b)に示すように、水滴9が消費されてZnO超微粒子4が生成される。
尚、Znアルコキシドの種類は、上述したジエトキシZnに限定されるものではなく、ジプロポキシZn、ジブトキシZn等を使用することもできる。
このように本マイクロエマルジョン法では、アミノアルコールを併用して作製したZnアルコキシド溶液を使用することにより、他の水滴9と接することなく単分散状態の超微小径の水滴9を反応場としてZnアルコキシドを加水分解させている。したがって、水滴径に応じた超微小径のZnO超微粒子4が界面活性剤に囲まれた形で安定的に分散浮遊して存在する。そしてこれにより粒子の凝集・沈降が生じることもなく、粒度分布が極めて狭い、高結晶性を有する単分散状態の単結晶ZnO超微粒子4が分散したZnO超微粒子分散溶液3を得ることができる。
〔シンチレータの作製〕
次に、スピンコート法により基板1上にZnO超微粒子分散溶液3を一様に塗布した後、熱処理を行ってZnO薄膜2を形成し、これによりシンチレータが作製される。
すなわち、ZnO超微粒子分散溶液3を基板1上に滴下した後、基板1を所定時間、所定回転数で回転させることにより、基板1上にはZnO超微粒子分散溶液3が一様に塗布される。そしてその後、例えば250〜450℃の温度で熱処理を行うことにより、疎水性溶媒6や主界面活性剤7等は蒸発霧散する一方で、ZnO超微粒子4は加熱によって粒成長し、これにより所望のZnO薄膜2を容易に製造することができる。
このようにZnO薄膜2は、熱処理により単結晶粒子を成長させているので、熱処理温度を調整するのみで、結晶粒径を容易に30nm以下に制御することができ、高輝度発光して高エネルギー分解能を有し、かつ発光寿命が短く高速動作が可能な所望の高性能のシンチレータを容易に得ることが可能となる。
図4は、本発明に係るシンチレータの第2の実施の形態を模式的に示す断面図である。
このシンチレータは、媒質11中に、結晶粒径が30nm以下のZnO超微粒子12が分散している。
そして、ZnO超微粒子12が、シンチレータの検知部を構成し、γ線等の放射線がシンチレータに入射されると、ZnO超微粒子12は入射放射線を検知し、第1の実施の形態と同様の理由により、極短時間(例えば、1〜6ps)、高輝度発光する。
ここで、媒質11としては、第1の実施の形態の基板1と同様、放射線照射で損傷したり、着色しない結晶質材料を使用するのが望ましい。また、放射線照射によるZnOのバンド間遷移の発光波長(約370nm)が、媒質11を効率良く透過する必要があり、このため波長300〜500nmの範囲で透光性を有する透明な媒質11を使用するのが望ましい。
そして、このような媒質11としては、第1の実施の形態の基板1と同様の材料、例えば、石英、酸化マグネシウム、アルミナ、サファイア、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、塩化カリウム等を使用することができる。
このシンチレータは以下のようにして製造することができる。
まず、第1の実施の形態と同様、マイクロエマルジョン法等の方法を使用し、結晶粒径が5nm以下(好ましくは、3nm以下)のZnO超微粒子分散溶液を作製する。
次いで、多孔質の媒質11を用意し、この媒質11にZnO超微粒子分散溶液を減圧下、含浸させる。この場合、ZnO超微粒子分散溶液の濃度と含浸回数を調整することにより、大部分の空孔がZnO超微粒子で充填され、かつ効率良く脱泡することができる。
そして含浸後は、第1の実施の形態と同様、所定温度に加熱して疎水性溶媒及び界面活性剤を蒸発・燃焼させると共に、ZnO超微粒子を粒成長させ、結晶粒径が30nm以下に制御されたZnO超微粒子12が媒質11に固定化され、これによりシンチレータが作製される。
尚、蒸発・燃焼で空隙が生じた場合は、さらに含浸と熱処理を繰り返すことにより、ZnO超微粒子12が媒質11中に最密充填させることができる。
このように本第2の実施の形態では、結晶粒径が30nm以下のZnO超微粒子12を媒質11中に分散させているので、第1の実施の形態と同様、励起子再結合による発光のバンド間遷移の確率が増加して発光強度が増大し、高エネルギー分解能を得ることができる。しかも、励起子超放射現象により発光寿命を短縮化することができ高速動作が可能となる。そしてこれにより高いエネルギー分解能を有しつつ、高速動作が可能な高性能のシンチレータを得ることができる。
しかも、媒質11が結晶質材料で形成されているので、放射線照射により着色することもなく、シンチレーション特性の劣化を招くこともない。
さらに、媒質11が、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有しているので、放射線を照射しても媒質11を効率良く透過することができ、所望の放射線検知を行うことができる。
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、ZnO超微粒子4をマイクロエマルジョン法で作製しているが、上述したように、この方法に限定されるものではなく、例えば、レーザーアブレーション法、化学気相堆積法、輸送法、ゾルゲル法、水熱合成法等を使用し、所望の微小粒径のZnO超微粒子が得られるようにしてもよい。
そして、本シンチレータをPET装置等の核医学装置等に搭載することにより、癌の早期発見や生体内での分子プロセスの可視化手法を使用した分子イメージングの研究等に好適に応用することが可能となる。
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
〔ZnO超微粒子分散溶液の作製〕
マイクロエマルジョン法を使用してZnO超微粒子分散溶液を作製した。
まず、疎水性溶媒としてシクロヘキサン、副界面活性剤として1−オクタノールを用意し、さらに水を用意した。また、主界面活性剤として、親水性基の側鎖長nが10のNPE(10)を用意した。
次に、シクロヘキサン、NPE(10)、1−オクタノール、水を、体積比で30:1.4:1.7:0.03となるように、これらを混合・撹拌し、これにより油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液を作製した。
次に、ZnアルコキシドとしてジエトキシZn、アミノアルコールとしてモノエタノールアミンを用意し、さらにエタノール溶液を用意し、これらを混合・撹拌してジエトキシZn溶液を調製した。
すなわち、まず、エタノール溶液中に投入されるジエトキシZnの添加モル量と同一モル量のモノエタノールアミンをエタノール溶液に添加して混合溶媒を作製した。次いで、Ar雰囲気のグローブボックス中で、ジエトキシZnを前記混合溶媒に投入し、混合撹拌してジエトキシZn溶液を作製した。
次に、上記マイクロエマルジョン溶液中の水量がジエトキシZnの加水分解に必要な量の1.2倍となるようにジエトキシZn溶液をマイクロピペットで分取し、前記マイクロエマルジョン溶液に滴下した。そして一晩、Ar雰囲気のグローブボックス中で撹拌混合を行い、これによりZnO超微粒子分散溶液を作製した。
得られたZnO超微粒子分散溶液は完全透明であり、密封状態で数週間保管したが、透明状態が損なわれることはなかった。
〔試料の作製〕
上記ZnO超微粒子分散溶液を使用し、スピンコート法で厚みが1mmのアルミナ基板上に塗布し、膜厚300nmのZnO薄膜を形成した。
次いで、これを260℃、290℃、320℃、360℃、450℃、及び700℃の各温度で大気中、20分間熱処理し、試料番号1〜6の試料を作製した。
試料番号1〜6の各試料について、X線回折分析の半値全幅から結晶粒径を求めたところ、試料番号1は5nm、試料番号2は6nm、試料番号3は7.5nm、試料番号4は17nm、試料番号5は30nm、試料番号6は37nmであった。
〔発光スペクトルの測定〕
試料番号2、5、6の各試料について、波長325nmのヘリウムカドミウムレーザを照射し、分光器(SPEX社製TRIAX)を使用して発光スペクトルを測定した。
図5は、その測定結果を示している。横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(a.u.)であり、図中、#2、#5、及び#6は、それぞれ試料番号2、5、及び6を示している。
この図5から明らかなように、試料番号2、5は、結晶粒径が30nm以下と本発明範囲内であり、結晶粒径が37nmの本発明範囲外の試料番号6に比べ発光強度が大幅に増大することが分かった。
〔発光寿命の測定〕
試料番号1〜6の各試料について発光寿命を測定した。
図6は、本実施例で使用した発光寿命測定装置のシステム構成図である。
この発光寿命測定装置は、レーザ光源系13と、ストリークカメラ14とを有し、試料15が光路中に配されている。
レーザ光源系13は、波長1064nmの赤外線を発するNd:YAGレーザ16と、前記赤外線を第二高調波に変換して励起光を出射するリチウム・トリボレート(LiB;以下「LBO」という。)17と、LBO17に励起されて基本波ωのレーザ光を出射するチタンサファイアレーザ18と、光路中に配された第1及び第2のミラー19、20と、第二高調波2ωのレーザ光を発生する第二高調波発生器21と、第三高調波3ωのレーザ光を発生する第三高調波発生器22とを備えている。
ストリークカメラ14は、チタンサファイアレーザ18から出射されるレーザ光と同期して駆動する掃引回路23と、ストリーク管24とを有している。また、ストリーク管24には、入射したレーザ光を光電子信号に変換する光電面25と、掃引回路23に接続された加速電極26a、26bと、光電子信号を再び光信号に変換する蛍光体27とを備えている。
このように構成された発光寿命測定装置では、Nd:YAGレーザ16から出射された波長1064nmの赤外線が、LBO17で第二高調波に変換され、グリーン色の波長532nmの励起光を出射する。そして、励起光はチタンサファイアレーザ18に入射され、波長800nmの基本波ωのレーザ光(周波数80MHz)を出射すると共に、掃引回路23に同期信号を送信する。
次いで、チタンサファイアレーザ18から出射されたレーザ光は、第1及び第2のミラー19、20を介して分波され、第二高調波発生器21及び第三高調波発生器22に入射される。そして、第二高調波発生器21ではレーザ光は波長400nmmの第二高調波2ωに変換され、第三高調波発生器22では基本波ωと第二高調波2ωとが和周波され、波長267nmの第三高調波3ω(出力200μW、パルス幅1.5ps)に変換され、第三高調波3ωのレーザ光が試料15に入射される。
そして、試料15から出射されたレーザ光は、ストリーク管24の光電面25に入射される。そして、光電面25に入射されたレーザ光は、発光強度に応じた数の電子群に変換され、加速電圧26a、26bで加速されて蛍光体27に到達する。この場合、電子群が加速電極26a、26bを通過する際に、加速電極26a、26bに印加された高電圧により、通過タイミングに応じて電子を上方から下方に振る高速掃引が行われ、光電子を偏向させる。そして、偏向された光電子は蛍光体27に衝突して再び光信号に変換され、信号処理部(不図示)で解析され、これにより発光寿命が測定される。
表1は試料番号1〜6の各熱処理温度、結晶粒径(平均値)、及び発光寿命を示している。
Figure 0005370679
また、図7は、表1の測定結果をグラフ上にプロットしたものであり、横軸が結晶粒径(nm)、縦軸が発光寿命(ps)を示している。図中、#1〜#6は各試料番号である。
この図7から明らかなように試料番号1〜5は、結晶粒径は5〜30nmと本発明範囲内であり、粒子径の増加に伴い、励起子超放射現象により発光寿命が短くなっている。
これに対し結晶粒径が30nmを超えた試料番号6(結晶粒径:37nm)では、結晶粒径が大きくなりすぎて、励起子超放射現象は発現せず、発光寿命が長くなることが分かった。
以上よりZnOの結晶粒径を30nm以下にすることにより発光寿命を短縮化できることが分かった。
化学的に安定で無害なZnO超微粒子を使用することにより、高いエネルギー分解能を有しつつ、高速動作が可能な高性能シンチレータを実現する。
1 基板
2 ZnO薄膜(ZnO超微粒子)
11 媒質
12 ZnO超微粒子

Claims (6)

  1. 入射された放射線を検知する検知部を備えたシンチレータであって、
    前記検知部が、結晶粒径30nm以下の酸化亜鉛超微粒子で形成されていることを特徴とするシンチレータ。
  2. 前記酸化亜鉛超微粒子は、基板上に塗布されて薄膜を形成していることを特徴とする請求項1記載のシンチレータ。
  3. 前記基板は、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有する結晶質材料で形成されていることを特徴とする請求項2記載のシンチレータ。
  4. 前記酸化亜鉛超微粒子は、媒質中に分散されていることを特徴とする請求項1記載のシンチレータ。
  5. 前記媒質は、波長が300〜500nmの範囲で透光性を有する結晶質材料で形成されていることを特徴とする請求項4記載のシンチレータ。
  6. 前記酸化亜鉛超微粒子は、界面活性剤と水とが疎水性溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、亜鉛アルコキシドの加水分解反応により生成されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のシンチレータ。
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