JP5369713B2 - 延性に優れたホットプレス部材、そのホットプレス部材用鋼板、およびそのホットプレス部材の製造方法 - Google Patents
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1-1) 組成
C:0.22〜0.29%
Cは、鋼の強度を向上させる元素であり、ホットプレス部材のTSを1470MPa以上にするには、その量を0.22%以上とする必要がある。一方、C量が0.29%を超えると、TSを1750MPa以下とすることが困難となる。したがって、C量は0.22〜0.29%とする。
Siは、C同様、鋼の強度を向上させる元素であり、ホットプレス部材のTSを1470MPa以上にするには、その量を0.05%以上とする必要がある。一方、Si量が2.0%を超えると、熱間圧延時に赤スケールと呼ばれる表面欠陥の発生が著しく増大するとともに、圧延荷重が増大したり、熱延鋼板の延性の劣化を招く。さらに、Si量が2.0%を超えると、ZnやAlを主体としためっき皮膜を鋼板表面に形成するめっき処理を施す際に、めっき処理性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、Si量は0.05〜2.0%とする。
Mnは、フェライト変態を抑制して焼入れ性を向上させるのに効果的な元素であり、また、Ac3変態点を低下させるので、ホットプレス前の加熱温度を低下するにも有効な元素である。このような効果の発現のためには、その量を0.5%以上とする必要がある。一方、Mn量が3.0%を超えると、偏析して素材の鋼板およびホットプレス部材の特性の均一性が低下する。したがって、Mn量は0.5〜3.0%とする。
P量が0.05%を超えると、偏析して素材の鋼板およびホットプレス部材の特性の均一性が低下するとともに、靭性も著しく低下する。したがって、P量は0.05%以下とする。なお、過度の脱P処理はコスト高を招くので、P量は0.001%以上とすることが好ましい。
S量が0.05%を超えると、ホットプレス部材の靭性が低下する。したがって、S量は0.05%以下とする。
Alは、鋼の脱酸剤として添加される。こうした効果の発現のためには、Al量を0.005%以上とする必要がある。一方、Al量が0.1%を超えると、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、Al量は0.005〜0.1%とする。
N量が0.01%を超えると、熱間圧延時やホットプレス前の加熱時にAlNの窒化物を形成し、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、N量は0.01%以下とする。
Niは、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Ni量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Cuは、Ni同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cu量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Crは、CuやNi同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cr量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Moは、Cu、NiやCr同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。また、結晶粒の成長を抑制し、細粒化により靭性を向上させる効果も有する。こうした効果の発現のためには、Mo量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo量が3.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Tiは、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、次に述べるBよりも優先して窒化物を形成して、固溶Bによる焼入れ性の向上効果を発揮させるのに有効な元素でもある。こうした効果の発現のためには、Ti量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Ti量が3.0%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、ホットプレス部材の靭性が低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Nbは、Ti同様、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Nb量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Nb量が3.0%を超えると、炭窒化物の析出が増大し、延性や耐遅れ破壊性が低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Vは、TiやNb同様、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、析出物や晶出物として析出し、水素のトラップサイトとなって耐水素脆性を高める。こうした効果の発現のためには、V量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、V量が3.0%を超えると、炭窒化物の析出が顕著になり、延性が著しく低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Wは、V同様、鋼の強化、靭性の向上、耐水素脆性の向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、W量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、W量が3.0%を超えると、延性が著しく低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Bは、ホットプレス時の焼入れ性やホットプレス後の靭性向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、B量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、B量が0.05%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、熱間圧延後にマルテンサイト相やベイナイト相が生じて鋼板の割れなどが生じるので、その上限は0.05%とすることが好ましい。
REMは、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性や耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、REM量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、REM量が0.01%を超えると、熱間加工性が劣化するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
Caは、REMと同様に、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性や耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、Ca量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Ca量が0.01%を超えると、熱間加工性が劣化するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
Mgも、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性を向上させたり、他元素との複合析出物や複合晶出物を生成し、耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、Mg量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg量が0.01%を超えると、粗大酸化物や硫化物を生成して延性が低下するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
1470〜1750MPaのTSと9.5〜12%程度のElを確保するには、組織全体に占めるマルテンサイト相の面積率が90〜100%であり、かつ旧オーステナイト粒の平均粒径が8μm以下であるミクロ組織にする必要がある。マルテンサイト相の面積率が90%未満になると1470MPa以上のTSが確保できず、旧オーステナイト粒の平均粒径が8μmを超えると9.5%以上のElが確保しにくくなる。特に、旧オーステナイト粒の平均粒径を5μm以下にすることにより、11%以上のElが確実に達成される。このため、マルテンサイト相は面積率で90%以上とする。より好ましくは96%以上であり、100%であってもよい。また、旧オーステナイト粒の平均粒径は8μm以下とする。より好ましくは5μm以下である。
ホットプレス部材用鋼板には、上記のホットプレス部材の組成を有し、かつ旧オーステナイト粒の平均粒径が15μm以下であるベイナイト相主体のミクロ組織を有する熱延鋼板、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径(フェライト相の平均粒径、あるいはさらに第2相を含む場合にはフェライト相と第2相の平均粒径)が15μm以下であるミクロ組織を有する冷延鋼板を用いることができる。これは、旧オーステナイト粒の平均粒径が15μm以下の熱延鋼板、冷間圧延組織からなる冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径が15μm以下である冷延鋼板を、Ac3変態点〜(Ac3変態点+50)℃の温度域に加熱してホットプレスすることにより、ホットプレス部材の旧オーステナイト粒の平均粒径を8μm以下にすることができ、9.5%以上のElが確実に得られるためである。なお、冷延鋼板には多くの場合フェライト相にセメンタイト相が析出しているが、平均粒径を求める際は、セメンタイト相を無視してフェライト相のみに着目して粒度を求め、平均粒径を算出した。また、一部の冷延鋼板(焼鈍温度がAc1変態点を超えたもの)ではフェライト相に加えて第2相が混じる。この第2相とは焼鈍時の冷却の過程で生じるマルテンサイト相、ベイナイト相、あるいは両者が混合した相のことである。この場合に平均粒径を求める際は、フェライト粒と第2相粒(旧オーステナイト粒に相当)の全体の平均粒径を求めた。
本発明のホットプレス部材は、上記のホットプレス部材用鋼板を、10℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、Ac3変態点〜(Ac3変態点+50)℃の温度域で1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行う方法により製造できる。
ただし、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
Claims (15)
- 質量%で、C:0.22〜0.29%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織全体に占めるマルテンサイト相の面積率が90〜100%であり、かつ旧オーステナイト粒の平均粒径が8μm以下であるミクロ組織を有することを特徴とする延性に優れたホットプレス部材。
- さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性に優れたホットプレス部材。
- さらに、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の延性に優れたホットプレス部材。
- さらに、質量%で、B:0.0005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の延性に優れたホットプレス部材。
- さらに、質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の延性に優れたホットプレス部材。
- 質量%で、C:0.22〜0.29%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、旧オーステナイト粒の平均粒径が15μm以下であるベイナイト相主体のミクロ組織を有する熱延鋼板であることを特徴とする延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- 質量%で、C:0.22〜0.29%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する冷延鋼板であることを特徴とする延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- さらに、質量%で、B:0.0005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- 質量%で、C:0.22〜0.29%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板であることを特徴とする延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- さらに、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- さらに、質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6〜11のいずれか1項に記載の延性に優れたホットプレス部材用鋼板。
- 請求項6〜12のいずれか1項に記載の鋼板を、10℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、Ac3変態点〜(Ac3変態点+50)℃の温度域に1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行うことを特徴とする延性に優れたホットプレス部材の製造方法。
- ホットプレス中に、パンチを下死点にて1〜60秒間保持し、3〜400℃/秒の冷却速度にて部材を冷却することを特徴とする請求項13に記載の延性に優れたホットプレス部材の製造方法。
- ホットプレス後に、部材を金型より取り出し、液体または気体を用いて冷却することを特徴とする請求項13に記載の延性に優れたホットプレス部材の製造方法。
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