JP5347395B2 - 延性に優れたホットプレス部材、そのホットプレス部材用鋼板、およびそのホットプレス部材の製造方法 - Google Patents
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{(0.50575-C)(Ac3-Ac1)+0.65(0.77-C)Ac1}/{0.65(0.77-C)}≦T≦
{(0.73225-C)(Ac3-Ac1)+0.95(0.77-C)Ac1}/{0.95(0.77-C)}・・・(1)
ただし、
Ac1=750.8-26.6C+17.6Si-11.6Mn-23.0Ni+24.1Cr-22.9Cu+22.5Mo-39.7V-5.7Ti+232.6Nb-169.4Al-894.7B、
Ac3=881-206C+53Si-15Mn-20Ni-1Cr-27Cu+41Moであり、
式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
1-1) 組成
C:0.35〜0.50%
Cは、鋼の強度を向上させる元素であり、ホットプレス部材のTSを1960MPa以上にするには、その量を0.35%以上とする必要がある。一方、C量が0.50%を超えると、TSを2130MPa以下とすることが困難となる。したがって、C量は0.35〜0.50%、好ましくは0.41〜0.47%とする。
Siは、C同様、鋼の強度を向上させる元素であることに加えて、フェライト相の安定化元素であるため、ホットプレス前の2相域に加熱時に平衡状態に到達する速度を速め、加熱時間の短縮を可能にする。また、Ac3変態点を上げ、ホットプレス前の加熱時に2相域となる温度範囲を広げるため、ホットプレスでの製造条件を緩和し、ホットプレス部材の安定したTSやElの確保を可能にする。こうした効果の発現のためには、Si量を0.05%以上、望ましくは0.20%以上、さらに望ましくは0.50%以上とする必要がある。一方、Si量が3.0%を超えると、熱間圧延時に赤スケールと呼ばれる表面欠陥の発生が著しく増大するとともに、圧延荷重が増大したり、熱延鋼板の延性の劣化を招く。以上から、Si量は0.05〜3.0%とする。また、ZnやAlを主体としためっき皮膜を鋼板表面に形成するめっき処理をほど施す場合は、Si含有量が多すぎるとめっき処理性に悪影響を及ぼす場合があるため、この観点からは、1.0%以下とすることが好ましい。
Mnは、焼入れ性を向上させるのに効果的な元素であり、ホットプレス部材のTSを1960MPa以上にするには、その量を1.0%以上とする必要がある。一方、Mn量が4.0%を超えると、偏析して素材の鋼板およびホットプレス部材の特性の均一性が低下する。したがって、Mn量は1.0〜4.0%とする。
P量が0.05%を超えると、偏析して素材の鋼板およびホットプレス部材の特性の均一性が低下するとともに、靭性も著しく低下する。したがって、P量は0.05%以下とする。なお、過度の脱P処理はコスト高を招くので、P量は0.001%以上とすることが好ましい。
S量が0.05%を超えると、ホットプレス部材の靭性が低下する。したがって、S量は0.05%以下とする。
Alは、鋼の脱酸剤として添加される。こうした効果を得るためには、Al量を0.005%以上とする必要がある。一方、Al量が0.1%を超えると、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、Al量は0.005〜0.1%とする。
N量が0.01%を超えると、熱間圧延時やホットプレス前の加熱時にAlNの窒化物を形成し、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、N量は0.01%以下とする。
Niは、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Ni量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Cuは、Ni同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cu量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Crは、CuやNi同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cr量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Moは、Cu、NiやCr同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。また、結晶粒の成長を抑制し、細粒化により靭性を向上させる効果も有する。こうした効果の発現のためには、Mo量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo量が3.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Tiは、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、次に述べるBよりも優先して窒化物を形成して、固溶Bによる焼入れ性の向上効果を発揮させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Ti量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Ti量が3.0%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、ホットプレス部材の靭性が低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Nbは、Ti同様、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Nb量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Nb量が3.0%を超えると、炭窒化物の析出が増大し、延性や耐遅れ破壊性が低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Vは、TiやNb同様、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、析出物等として析出し、水素のトラップサイトとなって耐水素脆性を高める。こうした効果の発現のためには、V量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、V量が3.0%を超えると、炭窒化物の析出が顕著になり、延性が著しく低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Wは、V同様、鋼の強化、靭性の向上、耐水素脆性の向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、W量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、W量が3.0%を超えると、延性が著しく低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Bは、ホットプレス時の焼入れ性やホットプレス後の靭性向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、B量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、B量が0.05%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、熱間圧延後にマルテンサイト相やベイナイト相が生じて鋼板の割れなどが生じるので、その上限は0.05%とすることが好ましい。
REMやCaは、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性や耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、REMやCa量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、REMやCa量が0.01%を超えると、熱間加工性が劣化するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
Mgも、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性を向上させたり、他元素との複合析出物や複合晶出物を生成し、耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、Mg量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg量が0.01%を超えると、粗大酸化物や硫化物を生成して延性が低下するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
1960〜2130MPaのTSと8%以上のElを確保するには、組織全体に占めるフェライト相の面積率が5〜35%で、マルテンサイト相の面積率が65〜95%であり、かつフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径が7μm以下であるミクロ組織にする必要がある。フェライト相の面積率が35%を超える、すなわちマルテンサイト相の面積率が65%未満になると1960MPa以上のTSが確保できず、フェライト相の面積率が5%未満、すなわちマルテンサイト相の面積率が95%を超えると8%以上のElが確保し難い。特に、フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径を7μm以下にすることにより、1960MPa以上のTSが確実に達成される。より好ましくは、フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径は5μm以下とする。
ホットプレス部材用鋼板には、上記のホットプレス部材の組成を有し、かつ旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径(フェライト相の平均粒径、あるいはさらに第2相を含む場合にはフェライト相と第2相の平均粒径)が15μm以下であるミクロ組織を有する冷延鋼板を用いることができる。これは、旧γ粒の平均粒径を15μm以下の熱延鋼板、冷間圧延組織からなる冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径が15μm以下である冷延鋼板を、フェライト+オーステナイトの2相となる温度域に加熱してホットプレスすることにより、ホットプレス部材のフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径を7μm以下にすることができ、1960MPa以上のTSが確実に得られるためである。なお、冷延鋼板には多くの場合フェライト相に面積率7.5%以下のセメンタイト相が析出しているが、平均粒径を求める際は、セメンタイト相を無視してフェライト相のみに着目して粒度を求め、平均粒径を算出した。また、一部の冷延鋼板(焼鈍温度がAc1を超えたもの)ではフェライト相に加えて第2相が混じる。この第2相とは焼鈍時の冷却の過程で生じるマルテンサイト相、ベイナイト相、あるいは両者が混合した相のことである。この場合に平均粒径を求める際は、フェライト粒と第2相粒(旧γ粒に相当)の全体の平均粒径を求めた。
本発明のホットプレス部材は、上記のホットプレス部材用鋼板を、10℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、上記の式(1)の範囲内の温度Tで1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行う方法により製造できる。
Claims (14)
- 質量%で、C:0.35〜0.50%、Si:0.05〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織全体に占めるフェライト相の面積率が5〜35%で、マルテンサイト相の面積率が65〜95%であり、かつ前記フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径が7μm以下であるミクロ組織を有することを特徴とする延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
- さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
- さらに、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
- さらに、質量%で、B:0.0005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
- さらに、質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
- 質量%で、C:0.35〜0.50%、Si:0.05〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板であることを特徴とする延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材用の鋼板。
- 質量%で、C:0.35〜0.50%、Si:0.05〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板であることを特徴とする延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材用の鋼板。
- さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6または7のいずれか1項に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材用の鋼板。
- さらに、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材用の鋼板。
- さらに、質量%で、B:0.0005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材用の鋼板。
- さらに、質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材用の鋼板。
- 請求項6〜11のいずれか1項に記載の鋼板を、10℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、下記の式(1)の範囲内の温度T℃で1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行うことを特徴とする延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材の製造方法;
{(0.50575-C)(Ac3-Ac1)+0.65(0.77-C)Ac1}/{0.65(0.77-C)}≦T≦
{(0.73225-C)(Ac3-Ac1)+0.95(0.77-C)Ac1}/{0.95(0.77-C)}・・・(1)
ただし、
Ac1=750.8-26.6C+17.6Si-11.6Mn-23.0Ni+24.1Cr-22.9Cu+22.5Mo-39.7V-5.7Ti+232.6Nb-169.4Al-894.7B、
Ac3=881-206C+53Si-15Mn-20Ni-1Cr-27Cu+41Moであり、
式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。 - ホットプレス中に、パンチを下死点にて1〜60秒間保持し、3〜400℃/秒の冷却速度にて部材を冷却することを特徴とする請求項12に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材の製造方法。
- ホットプレス後に、部材を金型より取り出し、液体または気体を用いて冷却することを特徴とする請求項12に記載の延性に優れて、1960〜2130MPaの引張強度を有するホットプレス部材の製造方法。
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