JP5366234B2 - 扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測方法および予後予測用キット - Google Patents

扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測方法および予後予測用キット Download PDF

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Description

本発明は、扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測方法、および扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測用試薬キットに関するものである。
扁平上皮がんは扁平重層上皮などの基底細胞が悪性化したものである。よって、基底細胞組織は全てがん化する可能性があるが、主な扁平上皮がんは、子宮頸部、頭頸部、食道、肺などで発生する。その中でも我が国における子宮頸がんの発生頻度は16,000〜18,000人/年と多く、年間約5,000人が亡くなっている。子宮頸がんは主に50歳代の女性に発生するが、近年では若年層患者が増加しており、問題になっている。
がんの治療方法としては、主として抗がん剤の投与などの化学療法、外科的手術および放射線療法が挙げられ、それぞれに一長一短がある。また、各治療手段に対する感受性はがんの種類や重篤度などによっても異なるので、がんの種類などに応じて治療手段が選択されることがある。
例えば扁平上皮がんは放射線に対する感受性が高く、外科的手術と同等の効果が得られることもあるので、放射線による治療が行われることが多い。特にIII期以上にまで進行した子宮頸がんの場合には、放射線療法が主に選択される。
しかし、がんに対する治療効果は、がん種のみならず個人差が大きいという事実がある。例えば子宮頸がんは、放射線療法のみで治癒することもある一方で、放射線治療後に再発することがあり、さらに遠隔転移した場合の5年相対生存率は10%にも満たないとのデータがある。よって、放射線治療後における予後が予測できれば、より効果的な治療が可能になり得る。
より具体的には、予後が良好であると予測できる患者に対しては、有害な放射線の照射量を低減したり、或いは抗がん剤の併用は控えるなどして患者の肉体的または経済的な負担を軽減することができる。それに対して、予後が良好でないと予測できる患者には、抗がん剤を積極的に併用して再発を未然に防ぎ得る。
このような予後の判定方法が、特許文献1に記載されている。当該技術では、Metタンパク質のリン酸化が乳がんの予後に関係するとの知見に基づいて、リン酸化Metタンパク質とは結合するが非リン酸化Metタンパク質とは結合しないモノクローナル抗体を利用して、悪性領域と正常領域におけるMetタンパク質のリン酸化状態を比較することにより予後を判定している。また、本発明者は、これまでにも放射線治療に対する子宮頸がん患者の感受性と遺伝子の発現状態などとの関係につき研究を進めていた(非特許文献1など)。
しかし、上記技術ではがん組織を採取する必要があり、特に特許文献1の技術ではがん組織のみならず正常組織からも試料を作製する必要がある。それでは患者に苦痛を与え、また、手間がかかるため迅速に判断できないという問題がある。
ところで、アポリポタンパク質は血漿リポタンパク質から脂質部分を除いたタンパク質部分であって、リポタンパク質を構成するのみならず、補酵素として働くものもある。例えばアポリポタンパク質C−IIは、リポタンパク質から脂質を切り離すリポプロテインリパーゼを活性化する作用を有する。よって、アポリポタンパク質C−IIの発現異常は、高脂血症に深く関係する。例えばアポリポタンパク質が遺伝的に欠損するために起こるアポC−II欠損症では、血清トリグリセライド濃度が著しく上昇し、腹痛発作や急性膵炎が引き起こされる。
そこで、高脂血症や動脈硬化症などの診断のために、ヒトアポリポタンパク質C−IIを測定する方法や、当該方法に用いるモノクローナル抗体が、特許文献2に記載されている。
しかし、これまでアポリポタンパク質C−IIとがんとの関係は一切知られていない。特許文献2でも、アポリポタンパク質C−IIに関係する疾患としては高脂血症と動脈硬化症が記載されているのみであり、また、その実施例では単に試料中のアポリポタンパク質C−IIの濃度が測定されているだけであって、その測定値と疾患との関係は全く確認されていない。
特表2003−506021号公報 Yoko HARIMAら,インターナショナル・ジャーナル・オブ・ラジエーション・オンコロジー・バイオロジー・フィジックス(Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys.),第60巻,第237〜248頁(2004年) 特開平2−265497号公報
上述した様に、扁平上皮がんは放射線療法に対する感受性が高いものの、その後に再発する場合と再発しない場合がある。例えば子宮頸がんの場合、その5年後における累積生存率は45〜50%とほぼ五分五分であり、このことからも扁平上皮がんに対する放射線治療後の予後の判断は非常に難しいことが分かる。その一方で、効率的な治療のためには迅速な判断が求められる。
そこで本発明が解決すべき課題は、扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後を簡便に予測できる方法、および当該方法で用い得る予後予測用キットを提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた。その結果、ある血漿タンパク質の発現量が、扁平上皮がんの放射線治療後における再発の可能性と有意に相関することを見出して本発明を完成した。
本発明に係る扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測方法は、血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの量を測定する工程を含むことを特徴とする。
上記方法は、特に子宮頸がんに対する放射線治療後における予後を予測するために有用である。上記方法は、がんの分類を考慮すれば、およそ扁平上皮がん一般に適用可能であると考えられるが、子宮頸がんに対する本発明方法の有効性は、本発明者による実験により実証されている。
上記方法において、アポリポタンパク質C−IIの量を測定するための手段としては、TOF−MS、免疫比濁法またはELISAが好適である。これら方法の有効性は、本発明者により実験的に確認されている。
本発明に係る扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測用試薬キットは、上記方法に使用されるものであり、アポリポタンパク質C−IIに対する抗体を含むことを特徴とする。
上記予後予測用キットも、子宮頸がんの放射線治療後における予後の予測検査において、特に有用である。
本発明方法は、放射線療法による扁平上皮がんの治療後における再発リスクを簡便に判定することができる。それによって、再発の可能性が高いと判定された場合には、例えば治療後に抗がん剤の投与を積極的に行うなどして再発可能性を低減し得る。一方、再発の可能性が低いと判定された場合には、例えば抗がん剤を併用することなく予後のモニタリングを定期的に継続するのみとするなどして、患者の肉体的および精神的な苦痛の軽減を図ることが可能になる。よって、本発明方法と試薬キットは、扁平上皮がん患者の効率的な再発防止に寄与し得るものとして非常に有用である。
本発明に係る扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測方法は、血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの量を測定する工程を含むことを特徴とする。
本発明方法により予後を予測すべき扁平上皮がんの種類は、特に制限されない。例えば、子宮頸部、舌や口腔などの頭頸部、食道や直腸などの消化器官、肺などにおける扁平上皮がんを挙げることができる。少なくとも、本発明方法は、子宮頸がんに対する放射線治療後における予後を予測できることが、本発明者による実験により実証されている。
本発明方法は、扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後を予測するために用いられる。予後の予測とは、扁平上皮がんに対する放射線治療がいったん終了した後、同組織で或いは別組織においてがんが再発するか否かを予測することをいう。即ち、扁平上皮がんに対する放射線治療後において、患者の血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの濃度が高ければ再発の可能性は低いといえ、同濃度が低ければ再発の可能性が高いといえる。
本発明方法では、血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの量を測定する。
血液試料の種類は特に制限されず、血液自体、血漿、血清のいずれも含まれる。但し、本発明方法の測定対象であるアポリポタンパク質C−IIは血漿タンパク質であり、その他の水不溶成分は測定誤差の要因になり得るので、好適には血清試料を用いる。なお、血漿や血清を得る方法としては常法を適用すればよく、より具体的には遠心分離や濾過を用いればよい。
本発明方法は、ヒトのみならず他の温血動物に対しても有効であると考えられることから、血液試料としてはヒト由来のもののみならず、他の温血動物由来のものも用いることができる。
本発明方法では血液試料を用いることから、実施の際に患者から組織を切除して試料とする必要はなく、血液を採取すればよい。よって、本発明方法では、患者に与える苦痛がより低減されている。
アポリポタンパク質C−IIは、リポタンパク質の構成成分であって、リポタンパク質から脂質を切断するリポプロテインリパーゼを活性化する作用を有する。アポリポタンパク質C−IIは、先天性アポリポタンパク質C−II欠損症によるI型高脂血症の診断指標として用いられるが、従来、がんとの関連性は知られていない。それに対して本発明では、アポリポタンパク質C−IIをがんの予後を簡便に予測するための指標として用いる。
本発明方法で測定するアポリポタンパク質C−IIの量は、血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの絶対量や濃度に限定されず、相対的な量や濃度であってもよい。即ち、本発明方法で測定されるべきアポリポタンパク質C−IIの量の種類は、測定手段などにより異なる。
アポリポタンパク質C−IIの量の測定手段は特に制限されず、常法を用いればよい。例えば、TOF−MS、免疫比濁法、ELISAなどを用いることができる。
TOF−MSとしては、SELDI−TOF−MSやMALDI−TOF−MSなど、特に制限なく利用することができる。
例えばSELDI−TOF−MSを用いる場合には、少なくともアポリポタンパク質C−IIを吸着できるプロテインチップに血液試料中のタンパク質を吸着し、適切なバッファーで洗浄した後、マススペクトル測定を行う。この場合、アポリポタンパク質C−IIの量は、相対的なピーク強度として表れる。なお、本発明者の知見によれば、アポリポタンパク質C−IIは陽イオン交換チップと陰イオン交換チップには吸着されたが、逆相チップと銅修飾チップには吸着されなかった。また、陰イオン交換チップを用いた場合であっても、洗浄用バッファーのpHや塩濃度によってはアポリポタンパク質C−IIが溶出する場合もあり得る。
MALDI−TOF−MSを用いる場合は、例えばトリプシンなどにより血液試料中のタンパク質を選択的に切断した上でマススペクトル測定を行い、アポリポタンパク質C−IIに特有のペプチド断片のピーク強度を求めることが考えられる。
マススペクトル測定におけるアポリポタンパク質C−IIの分子量は、測定誤差により測定するごとに多少異なる可能性がある。よって、8.90±0.05kDa程度、より好ましくは8.90±0.02kDa程度の範囲で予備実験などによりアポリポタンパク質C−IIのピークを特定した上で判断することが必要である場合があり得る。
免疫比濁法を利用する場合、血液試料中のアポリポタンパク質C−IIへ特異的な抗体を結合させた上で特定の光を照射し、生じた不溶性複合体の量に応じた濁度を測定することによりアポリポタンパク質C−IIの量を求める。よって、アポリポタンパク質C−IIの量は濁度に応じた相対値として得られるが、事前に作成した検量線を用いることによって、絶対的な量や濃度を求めることも可能である。
アポリポタンパク質C−IIの量を免疫比濁法により測定するための試薬キットは市販もされているので、それを用いてもよい。
ELISAとしては、直接吸着法とサンドイッチ法の何れも利用することができる。何れにしても、アポリポタンパク質C−IIに特異的な抗体を用いることが好ましい。
なお、本発明方法で用いる抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれも用いることができる。これら抗体は、常法により調製することができる。例えばアポリポタンパク質C−IIに特異的なモノクローナル抗体は、精製されたアポリポタンパク質C−IIを用いてマウスやラット等を免疫し、その抗体産生細胞や脾細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを得る。このハイブリドーマをクローニングし、アポリポタンパク質C−IIへ特異的に反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングする。このクローンを培養し、分泌されるモノクローナル抗体を精製すればよい。
本発明方法においてELISAを利用した場合の結果は、発光強度などタンパク質の検出手段に応じた相対的な値として得られる。
本発明者の知見によれば、放射線治療を受けた扁平上皮がん患者のうち予後が良好であった群と予後が不良であった群の間では、血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの量に明らかに有意差があり、予後不良群の血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの量の方が明らかに少なかった。よって、アポリポタンパク質C−IIの量の測定手段に応じて、予備実験などにより予後良好群と予後不良群との閾値を事前に決定することで、扁平上皮がんの放射線治療後における予後の予測が可能になる。
実際には、予後良好群と予後不良群の定義や、アポリポタンパク質C−IIの量の測定手段によって、閾値は変わり得る。従って、一般的な基準が無い段階では、本発明方法の実施者が測定手段や閾値を予備実験などにより事前に決定した上で、測定を行う必要がある。
アポリポタンパク質C−IIの量の測定は、効率的な治療の選択のために初診時など放射線治療前に行ってもよいし、治療効果判定のために、放射線治療や放射線治療後に行ってもよい。
本発明に係る扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測用試薬キットは、本発明方法に使用されるものであり、アポリポタンパク質C−IIに対する抗体を含むことを特徴とする。
当該抗体は、扁平上皮がん患者の血液試料中に含まれるアポリポタンパク質C−IIへ特異的に結合し、その量の測定に役立つ。特に当該試薬キットは、ELISAや免疫比濁法を用いた本発明方法の実施のために有用である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1 予後に関係する血漿タンパク質の同定
過去10年の間、主治医が患者本人とその家族と直接面談し、研究以外で用いないことや個人情報を公表しないこと等を説明し、且つ同意を得た上で採取・分離した血清試料であって、−80℃で関西医科大学の冷凍庫に保存されていたものを用いた。かかる血清試料の中から、放射線治療を受けた子宮頸がん患者であって放射線治療から3年以上再発しなかった患者(以下、「予後良好群」という)8名、放射線治療を受けた子宮頸がん患者であって放射線治療から半年以内に再発した患者(以下、「予後不良群」という)4名の血清試料を選択し、さらに健常人4名から血清試料を得た。凍結した血清試料は氷上で融解した。各血清試料を20,000×gで10分間遠心分離し、得られた上澄を実験に用いた。
得られた各血清試料上澄20μLを96ウェルフォーマットマイクロプレートに加え、さらに30μLのU9バッファー(9M尿素/2%CHAPS/50mM Tris−HCl、pH9)を加え、4℃で20分間振盪した。別途、強陰イオン交換樹脂(PALL社製、製品名「Q Ceramic Hyper DF」)をpH9の50mM Tris−HClで平衡化した上で、50%樹脂スラリーとした。当該樹脂スラリー180μLを96ウェルフォーマットマイクロプレートのウェルに加え、さらにU1バッファー(U9バッファーを50mM Tris−HCl(pH9)で9倍に希釈したもの)200μLを加えてから除去する操作を3回行って平衡化した。上記各血清試料上澄を樹脂スラリーのウェルに添加した。血清試料が添加されていたウェルをU1バッファー50μLで洗浄し、当該洗浄液も樹脂スラリーウェルに添加した上で、4℃で30分間振盪した。樹脂スラリーウェルの液体分(非吸着画分)を回収した後、100μLの下記洗浄バッファー1を樹脂に加え、当該洗浄バッファー1も回収した。残った樹脂へ下記洗浄バッファー2を樹脂に100μL加えては回収する操作を2回ずつ行い、次いで下記洗浄バッファー3を用いて同様の操作を行って、段階的なpH勾配によりタンパク質を溶出させた。最後に、樹脂へ強固に結合したタンパク質を溶出するために、下記洗浄バッファー4を100μL加えては回収する操作を2回行った。
洗浄バッファー1: 50mM Tris−HCl/0.1% OGP、pH9
洗浄バッファー2: 100mM酢酸ナトリウム/0.1% OGP、pH5.8
洗浄バッファー3: 100mM酢酸ナトリウム/0.1% OGP、pH4
洗浄バッファー4: 33.3%イソプロパノール/16.7%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸
陽イオン交換プロテインチップ(BioRad社製、製品名「CM10」)の各スポットに、洗浄バッファー(50mM酢酸ナトリウム、pH7)を150μLずつ添加し、室温で5分間振盪してから洗浄バッファーを除去するという操作を2回繰り返し、チップ表面を平衡化した。次に、洗浄バッファー4により溶出されたフラクションの10μLに、U9バッファー90μLを加えて10倍に希釈した。当該希釈試料をチップのスポットに10μLずつ添加し、室温で30分間振盪して試料中のタンパク質をチップ表面に吸着させた。次いで、スポット当り150μLの洗浄バッファーを加え、室温で5分間振盪した後に液体分を除去する操作を3回繰り返し、チップ表面に結合していない分子を除去した。さらにスポット当り200μLの超純水を加えた後に液体分を除去する操作を2回繰り返して脱塩した。
チップを風乾した後、エネルギー吸収分子であるシナピン酸の飽和水溶液を1μLずつ各スポットに添加した上でさらに風乾するという操作を2回繰り返した。得られたプロテインチップについて、BioRad社製のProteinChip SELDIシステムModel PBS II Cを用いて、SELDI−TOF−MSにより各分子量に対する相対強度チャートを得た。データの取得は、ProteinChip Software version3.2とProteinChip Data Manager Softwareにより行った。標準測定範囲は、低分子領域データとして3,000〜10,000m/z、高分子領域データとして10,000〜30,000m/z、最高測定分子量は、低分子領域データとして100,000m/z、高分子領域データとして200,000m/zとした。得られたチャートから、各群間で相対強度が異なる分子量を探索したところ、m/z=8918のピークが候補に挙がった。当該ピーク強度を定量化したところ、当該ピークの相対強度は健常人群で0.946〜1.326、予後良好群で0.713〜1.396、予後不良群で0.530〜0.847に分布しており、平均値はそれぞれ1.092、1.029、0.732であった。各平均値の有意差をMann−Whitney U−テストにより検定したところ、健常人群−予後良好群間ではp=0.234と有意差はなかったものの、健常人群−予後不良群間と予後良好群−予後不良群間では、それぞれp=0.021およびp=0.027とp<0.05で有意差が見られた。
従って、本発明に係る血漿タンパク質であり、測定誤差を考慮して分子量が8918±50であるものは、扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測に用いることができるバイオマーカータンパク質であることが実証された。また、当該タンパク質に対する抗体は、当該タンパク質の血清濃度を測定するために用い得ることから、同様に扁平上皮がんに対する放射線治療後における予後の予測に用いることができる。
実施例2 バイオマーカータンパク質の同定
上記実施例1で特定されたm/z=8918のタンパク質を精製した上で、同定した。具体的な実験条件は、以下のとおりである。
(1) タンパク質の精製
健常人の血清サンプル(200μL)を14,000rpmで10分間遠心し、上澄を得た。得られた上澄に9M尿酸バッファー(pH7,300μL)とU1バッファー(500μL)を加えて5倍に希釈した。別途、陰イオン交換カラム(GE Healthcare製,Q Sepharose Fast Flow,1mL)を4倍量のバッファー(pH9)で3回洗浄して平衡化した後、上記血清上澄の分画に使用した。溶出液は、酢酸バッファー(pH5)、酢酸バッファー(pH4)、クエン酸バッファー(pH3)を各1mLずつ用い、最後に33.3%イソプロパノール/16.7%酢酸/0.1%トリフルオロ酢酸の混合溶媒で溶出した。得られた各フラクションを陰イオン交換基固定チップとSELDI−TOF−MSにより分析したところ、m/z=8918付近のタンパク質は有機溶媒画分に含まれていた。
上記有機溶媒画分(2mL)を750μLまで濃縮した上で、酢酸バッファー(pH4,1.5mL)を加えた。別途、陽イオン交換カラム(GE Healthcare製,CM Sepharose Fast Flow,100μL)を5倍量のバッファー(pH4)で3回洗浄して平衡化した後、上記有機溶媒画分の分画に使用した。溶出液は、酢酸バッファー(pH4)を用い、その塩化ナトリウム濃度を0mMから1000mMまで段階的に高くし、最後に33.3%イソプロパノール/16.7%酢酸/0.1%トリフルオロ酢酸の混合溶媒で溶出した。得られた各フラクションを陰イオン交換基固定チップとSELDI−TOF−MSにより分析したところ、m/z=8918付近のタンパク質は有機溶媒画分に含まれていた。
さらに、上記有機溶媒画分を、以下の条件の逆相HPLCで精製した。
カラム: 東ソー社製,TSK−GEL Super ODS,1×50mm
流速: 53μL/分
検出光波長: 210nm
溶媒: 0.1%TFAと90%アセトニトリル/0.1%を用い、90%アセトニトリル/0.1%の割合を、0→30%(5分間)→70%(40分間)とした
53μLずつのフラクションに分画し、各フラクションを順相チップとSELDI−TOF−MSにより分析し、m/z=8918付近のタンパク質を含むフラクションを合わせた。
さらに、上記フラクションを、以下の条件のポリアクリルアミドゲル電気泳動で精製した。
ポリアクリルアミドゲル濃度: 15%
ゲルサイズ: 1mm×6cm×8.5cm
サンプルバッファー: 2%SDS/25mM Tris−HCl/2%DTT(pH6.8)
泳動条件: 室温,30mA
染色法: CBB染色,銀染色MSキット(和光純薬製)を使用
ゲルから各バンドを切り出し、50%ギ酸/25%アセトニトリル/15%イソプロパノール/10%水の混合溶媒中で2時間振とうすることにより、タンパク質を溶出させた。得られた各タンパク質を順相チップとSELDI−TOF−MSにより分析し、m/z=8918付近のタンパク質を特定した。なお、当該タンパク質のm/zは、測定誤差のため、SELDI−TOF−MSの測定結果ごとに多少異なっていた。
(2) タンパク質の同定
m/z=8918付近のタンパク質を含む上記アクリルアミドゲルのバンドを切り出し、50%メタノール/10%酢酸(400μL)、0.1M炭酸水素アンモニウム(pH8,400μL)、50%アセトニトリル/0.1M炭酸水素アンモニウム(pH8,400μL)、100%アセトニトリル(50μL)中、室温で1時間ずつ振とうし、最後にアセトニトリルを減圧留去して、脱色と脱水を行った。10ng/μLのトリプシンを含んだ50mM炭酸水素アンモニウム水溶液(pH8,10μL)へ、得られた試料を添加し、37℃で一晩静置することによりタンパク質を分解した。反応液へ50%アセトニトリル/5%TFA(25μL)を添加し、室温で30分間振とうして試料溶液とした。当該試料溶液を、順相チップ上の1スポット当たり5μLずつ添加して風乾し、さらに20%CHCA/50%アセトニトリル/0.5%TFA(0.5μL)で2回洗浄した。
当該チップを用い、ペプチドマスフィンガープリント法(PMF法)と、MS/MSを用いたフラグメント分析でタンパク質を同定した。データベースは、NCBInrを用いた。これらいずれの分析からも、精製されたタンパク質はヒトアポリポタンパク質C−IIであるとの結果が得られた。ヒトアポリポタンパク質C−IIの配列を配列番号1(SEQ ID NO:1)に示す。なお、配列番号1中、1〜30および39〜79のアミノ酸配列はPMF法でヒットした領域であり、1〜19および39〜55のアミノ酸配列はMS/MSを用いたフラグメント分析でヒットした領域である。この事実からも、本発明に係るバイオマーカータンパク質がアポリポタンパク質C−IIであるとの判断の正確性は極めて高いといえる。
実施例3 再現実験
新たに健常人群9例、予後良好群18例、予後不良群10例の血清試料を採取し、上記実施例1と同様の条件で、各血清試料中におけるヒトアポリポタンパク質C−IIの量の相対値を測定した。得られた結果を棒グラフとして図1に示す。
図1のとおり、予後不良群に1例異常値が見られるものの、予後不良群の相対値はおしなべて健常人群と予後良好群よりも低いといえる。また、結果について有意差検定したところ、健常人群−予後良好群間ではp=0.80と有意差はなかったものの、健常人群−予後不良群間と予後良好群−予後不良群間では、それぞれp=0.014およびp=0.0011とp<0.05で有意差が見られた。よって、TOF−MSを用いた血清試料中のアポリポタンパク質C−II量の相対強度を利用した予後予測方法の再現性が示された。
実施例4 免疫比濁法を利用した本発明方法
上記実施例3で用いたサンプルと同様の血清試料中におけるヒトアポリポタンパク質C−IIの量を、アポリポタンパク質C−II測定試薬(積水メディカル社製,試薬名「アポC−IIオート・N「第一」」)を用い、免疫比濁法により測定した。
具体的には、先ず各血清試料(30μL)を生理食塩水(120μL)で希釈した。当該希釈試料(10.1μL)へ100mmol/Lの2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール緩衝液(pH8.5,60μL)を加え、37℃で5分間インキュベートした。次いで、10U/mLの抗ヒトアポリポ蛋白C−IIヤギポリクローナル抗体(20μL)を添加し、37℃で5分間インキュベートした。その後、反応混合液における特定波長(正:340nm,副:805nm)の吸光度を測定した。得られた結果を、棒グラフとして図2に示す。
各群の測定値(相対強度)の平均値±標準偏差は、健常人群:3.5±1.50、予後良好群:4.0±1.37、予後不良群:2.6±1.77であった。また、得られた結果について有意差検定したところ、健常人群−予後良好群間ではp=0.71、健常人群−予後不良群間ではp=0.36、予後良好群−予後不良群間ではp=0.051と、いずれもp<0.05で有意差は見られなかった。
また、TOF−MSを用いた上記実施例3の方法と免疫比濁法を用いた上記結果を比較したところ、健常人群ではp=0.005,r=0.834という強い相関が見られたが、予後良好群での相関はp=0.142,r=0.36と弱いものであり、予後不良群での相関はp=0.060,r=0.36と中程度のものであった。しかし、図1と図2のグラフを比較すると、全体的には同様の傾向が見られるといえる。以上の結果より、本発明方法は、多少精度が劣るおそれはあるものの、より簡便な免疫比濁法を利用して実施できることが分かった。
TOF−MSを用いた本発明方法の実施結果を示す棒グラフである。 免疫比濁法を用いた本発明方法の実施結果を示す棒グラフである。

Claims (2)

  1. 子宮頸がんに対する放射線治療後における予後を予測するための方法であって、
    血液試料中におけるアポリポタンパク質C−IIの量を測定する工程を含むことを特徴とする方法。
  2. アポリポタンパク質C−IIの量を測定するための手段として、TOF−MS、免疫比濁法またはELISAを用いる請求項1に記載の方法。
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