JP6709024B2 - ペプチド又はタンパク質の分画方法 - Google Patents

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Description

本発明は、複数種類のペプチド又はタンパク質を含む試料からペプチド又はタンパク質を分画するための分画方法に関する。
タンパク質を、例えばトリプシン等の消化酵素でペプチドに切断したあとに、それを液体クロマトグラフィー装置(LC)で分離し、その後、質量分析計(MS)で解析し、タンパク質を同定するという一連のプロセスがある。このプロセスにおいては、液体クロマトグラフィー装置への試料導入前に、試料の複雑性を下げるために、多数のペプチド又はタンパク質を含む試料を陽イオン交換カラムに導入し、ペプチド又はタンパク質を濃縮、分画することが行われている(特許文献1〜6、非特許文献1〜2)。
そして、プロテオミクス分析における試料の前処理としての、ペプチド及びタンパク質を分画する方法においては、陽イオン交換カラムを用いたクロマトグラフィーを適用すると共に、塩濃度グラジエントが用いられている。
又、低分子化合物やペプチドの精製には硫酸や塩酸といった強酸が陽イオン交換樹脂からの溶出に用いられている。
特許第4740434号公報 特許第4109989号公報 特許第5592588号公報 特開平7−196697号公報 特開2012−31107号公報 特表平9−512546号公報
S Muraoka et.al. J Proteome res.2013, 12, 208-213 S Muraoka et.al. J Proteome res. 2012, 11, 4201-4210
このように、プロテオミクス分析における試料の前処理としての、ペプチド及びタンパク質を分画する方法においては、陽イオン交換カラムを用いたクロマトグラフィーを適用すると共に、塩濃度グラジエントが用いられているが、その分画精度は高くなく、異なる塩濃度溶出液において、同じペプチド又はタンパク質が溶出してしまうといった問題点があった。
又、塩濃度グラジエントでは、低塩濃度フラクションに多くのペプチド又はタンパク質が溶出し、試料の複雑性を殆ど低下させることが出来ないといった問題点があった。
尚、従来この方法で用いられる塩としては、非揮発性の場合には塩化ナトリウムや塩化カリウムが多用され、揮発性の場合には酢酸アンモニウムが用いられていた。そして、非揮発性塩を使用した場合には、溶出後に質量分析計に供する前に脱塩操作が必要となり、ペプチド又はタンパク質の回収率低下に繋がることも問題点であった。
又、低分子化合物やペプチドの精製において、硫酸や塩酸といった強酸が陽イオン交換樹脂からの溶出に用いられた場合、これら強酸は、非揮発性であり、溶出後に質量分析計に供する前に脱塩処理が必要となり、対象ペプチドの回収率低下を引き起こす可能性がある。尚、特許文献1〜特許文献6に記載の技術は精製目的の技術であり、細胞抽出液などの複雑性の高いペプチド試料への分画の応用に関しては何ら開示していない。
一方、蟻酸又は酢酸などの弱酸では、この方法を達成することが出来ない。特に、逆相官能基を有する逆相分離媒体と陽イオン交換基を有する分離媒体が連続した分離手段の場合、蟻酸又は酢酸では逆相樹脂でのトラップ効率が悪くなるので使用することが出来ない。
しかしながら、タンパク質の発現や疾病に関与するバイオマーカー探索など幅広く解析するために、複雑なペプチド又はタンパク質を含む試料を分画するニーズが存在している。
そこで本発明は、ペプチド又はタンパク質を含む試料を陽イオン交換体を用いて分画する方法を提供することをその目的の1つとする。
より具体的には、LC/MSのLCへの試料導入前に用いるペプチド又はタンパク質の分画方法を改良することにより、質量分析装置によるペプチド又はタンパク質の同定数を向上させること、LC/MSの総分析時間を短縮させることをその目的の1つとする。
上記のような課題を解決するための手段としての本発明は、試料を陽イオン交換体へ導入し、酸性を有するイオンペア試薬を用いて、ペプチド又はタンパク質の分画を行う方法である。また、従来の塩濃度勾配法と合わせることにより、より精度の向上が可能である。
具体的には、ペプチド又はタンパク質を含む試料を、陽イオン交換基を有する分離媒体に供給する供給工程、前記試料を前記分離媒体に吸着させる吸着工程、酸性溶液を用いて前記試料を前記分離媒体から溶出させる溶出工程を備えることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、ペプチド又はタンパク質を含む試料を、陽イオン交換基を有する分離媒体に供給する供給工程、前記試料を前記分離媒体に吸着させる吸着工程、酸性であるイオンペア試薬を用いて前記試料を前記分離媒体から溶出させる溶出工程を備えることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記イオンペア試薬に濃度勾配を持たせて用いたことを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記イオンペア試薬は揮発性を有することを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、前記溶出工程において前記イオンペア試薬と塩との混合液を用いることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記イオンペア試薬が、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ペンタフルオロ酪酸、ペンタフルオロ吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記塩が揮発性塩である酢酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、水酸化アンモニウム或いは塩化ナトリウム、塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記陽イオン交換基がスルホン酸基、カルボン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記供給工程において、ペプチド又はタンパク質を含む試料を、逆相官能基を有する逆相分離媒体に通した後に陽イオン交換基を有する分離媒体に供給することを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記分離媒体が、陽イオン交換基及び逆相官能基を同時に有することを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記分離媒体が、モノリス体であることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
又、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法において、前記ペプチド又はタンパク質を含む試料が酸化金属により精製されたリン酸化ペプチドであることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法である。
更に、上記のペプチド又はタンパク質の分画方法によって分画されたペプチド又はタンパク質を含む試料を質量分析装置に供し、分画されたペプチド又はタンパク質の質量を測定する工程を含む、ペプチド又はタンパク質の質量分析方法である。
更に、陽イオン交換基を有する分離媒体を充填した分析カラムにおいて、酸性を有するイオンペア試薬の濃度グラジエントにより液体クロマトグラフィーを行う分離方法である。
本発明によれば、試料に含まれるペプチド又はタンパク質を高精度に分画することができる。
又、本発明に使用する酸性を有し、かつ揮発性であるイオンペア試薬は、LC/MS用イオンペア試薬として一般的に使用されており、質量分析計への影響が少ないペプチド又はタンパク質試料を分画し、提供することが出来る。
又、揮発性を有し、かつ酸性を有するトリフルオロ酢酸等のイオンペア試薬を用いて、試料を陽イオン交換体へ供し、ペプチドまたはタンパク質の分画を行うことにより、高い分画精度を示すことが出来る。
LC/MSのLCへの試料導入前に用いるタンパク質又はペプチドの分画方法を改良したので、質量分析装置によるペプチド又はタンパク質の同定数を向上させることが可能となった。又、LC/MSの総分析時間を短縮させることが可能となった。
画分で同定されたペプチドを示す図 画分で同定されたペプチドを示す図 画分で同定されたペプチドを示す図 画分で同定されたペプチドを示す図 画分で同定されたペプチドを示す図 画分で同定されたペプチドを示す図 画分で同定されたペプチドを示すグラフ図 画分で同定されたペプチドを示すグラフ図 画分で同定されたペプチドを示すグラフ図 同定されたペプチドとフラクションの再現性を示す図 LC/MSのクロマトグラム 同定されたペプチドのピーク強度をプロットした図 同定されたペプチドの数の関係を示す図
以下、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。本発明に係るペプチド又はタンパク質の分画方法は、試料中に含まれるペプチド又はタンパク質を、他成分から分離する方法であり、分画する方法である。具体的には、ペプチド又はタンパク質を含む試料を、陽イオン交換基を有する分離媒体に供給する供給工程、前記試料を前記分離媒体に吸着させる吸着工程、酸性であるイオンペア試薬を用いて前記試料を前記分離媒体から溶出させる溶出工程を備えるペプチド又はタンパク質の分画、分離又は精製方法である。
ここでペプチド又はタンパク質を含む試料とは、ペプチド又はタンパク質を含む組成であれば特に限定されないが、例えば、複数種類のタンパク質を含む溶液、単数或いは複数種類のタンパク質を消化酵素によって処理することで得られるペプチドを含む溶液、複数種類のタンパク質及び複数種類のペプチドを含む溶液を挙げることができる。尚、これに限定されないが、ペプチド又はタンパク質を含む試料として酸化金属により精製されたリン酸化ペプチドを用いることが出来る。
又、試料としては、培養細胞などからタンパク質成分を抽出した細胞抽出物や、ヒトを含む動物個体、植物固体などから採取した組織からタンパク質成分を抽出した組織抽出物を使用することもできる。これら抽出液を例えばトリプシンなどの消化酵素で処理した溶液を使用することもできる。
又、本発明に係るペプチド又はタンパク質の分画方法において、ペプチド又はタンパク質としては、何ら限定されず、如何なる細胞由来のペプチド又はタンパク質をも分画対象とすることができる。
又、本発明は陽イオン交換基を有する分離媒体を使用することから、塩基性のペプチド又はタンパク質のみが対象になりそうだが、後述する実施例3によれば、アミノ基など+チャージする官能基を含んでいる低分子、生体分子でいえばアミノ酸、核酸塩基、核酸又は脂質であれば適用出来ることが明らかである。
次に、ペプチド又はタンパク質の分画方法について説明する。先ず、ペプチドまたはタンパク質を含む試料を、陽イオン交換基を有する分離媒体に供給して、試料を分離媒体に吸着させる。その後、酸性であるイオンペア試薬を分離媒体に供給して試料を分離媒体から溶出させる。この際に、酸性イオンペア試薬に濃度勾配を設けて供給することにより、ペプチド及びタンパク質の電荷により分画する。
尚、酸性を帯びた試料もしくは+チャージする官能基をもたない試料は、陽イオン交換基を有する分離媒体には保持されにくく、低濃度のTFA分画で溶出してくる。そこで、酸性試料の精製が目的の場合には、グラジエントすることなく、画分をとることで達成することが出来る。又、試料のクリーンアップとして使用することも可能である。
ここで陽イオン交換基を有する分離媒体とは、シリカベース母体に陽イオン交換基を結合させたものでも、ポリマーベース基材に陽イオン交換基を結合させたものでもよい。そして、陽イオン交換基としては1種又は2種以上を使用することが出来、特に限定されないが、スルホン酸やカルボン酸を使用することが出来る。又、分離媒体は、繊維などで編みこんだ3M社のメンブラン状であってもよい。同様に、逆相官能基を有する逆相分離媒体においても、シリカ母体でもポリマー母体であってもよく、メンブラン状でもよい。
本発明に係るペプチド又はタンパク質の分画方法において、分離媒体を保持部材に保持させた分離部材を用いることが出来る。
分離部材は、陽イオン交換基を有する分離媒体を充填させる等により保持することが出来、分離媒体を充填した部分に試料を供給することにより、分離媒体が試料に含まれるペプチド及びタンパク質を保持し、ペプチド、タンパク質を分画することができる部材である。保持部材の一例としては、クロマトグラフィー用の分離カラムを使用することができる。分離カラムは、注入口と溶出口とを有する筒状の部材から構成され、筒状の部材の内部に陽イオン交換基を有する分離媒体を充填して分離部材とすることができる。分離カラムとしては、如何なる形状、サイズ、材料からなるものであってもよく、何ら限定されない。
また保持部材の他の一例としては、固相抽出用のカートリッジが挙げられる。そして、分離部材の構成として、固相抽出用のカートリッジへ陽イオン交換基を有する分離媒体のみを充填した構成が採用出来るが、陽イオン交換基を有する分離媒体と逆相官能基を有する逆相分離媒体との2重構造の構成も採用することが出来る。
固相抽出用のカートリッジへ陽イオン交換基を有する分離媒体のみを充填した構成の場合、試料をカートリッジに供給することで、試料を分離媒体に供給して、試料を分離媒体に吸着させる。一方、陽イオン交換基を有する分離媒体と逆相官能基を有する逆相分離媒体との2重構造の構成の場合、一段目(上流側)に逆相樹脂等を用いた、逆相官能基を有する逆相分離媒体を設置し、二段目(下流側)に陽イオン交換基を有する分離媒体を設置する。そして、試料をカートリッジに供給することで、逆相官能基を有する逆相分離媒体に試料を供給して、逆相分離媒体に一旦保持させる。そして、溶出液により試料を逆相分離媒体から溶出させ、溶出した試料を陽イオン交換基を有する分離媒体に供給し、吸着させる。この2重構造の場合は、一段目の逆相樹脂によってペプチド又はタンパク質を保持し、試料中の塩を除去することが可能となり、手順の簡略化が可能となる。
更に、分離媒体は、陽イオン交換基及び逆相官能基を同時に有する構成としてもよい。
分離媒体としては、モノリス体を用いることもできる。ここでモノリス体とは、三次元ネットワーク状の骨格と、骨格によって形成される、三次元網目構造の連続し、且つ相互に連通する貫通孔(マクロポア又はスルーポアともよばれる。)によって構成される単一の構造物である多孔質体である。即ち、モノリス構造とは、この空隙によって構成される連続多孔質構造を意味する。モノリス体としては、貫通孔が連続的かつ規則正しく三次元網目構造を形成しているものが好ましいが、これに限定されない。貫通孔は相互に連通し、モノリス体の上端から下端まで貫通した構造である。尚、貫通孔はモノリス体の軸と直行する方向の断面が円形又はそれに近いものが好ましい。又、モノリス体は、貫通孔内に貫通孔より小径であって貫通孔間に連通する又は連通しない細孔(メソポアともよばれる。)を有する構造としてもよいし、当該細孔のない構造としてもよい。
本発明の酸性であるイオンペア試薬とは、水溶液に溶解した際に酸性を示し、塩基性試料とイオンペアを形成する試薬を指す。本発明で使用する酸性イオンペア試薬は、非揮発性でもよいが、揮発性でもよい。揮発性である場合には、容易にエバポレーターなどで除去も可能であり、又、例えば、ペプチドやタンパク質を分画した後、質量分析計に供してペプチドやタンパク質を測定する場合、質量分析計を汚染することを防止することが出来る。イオンペア試薬としては、これに限定されるものではないが、例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ペンタフルオロ酪酸、ペンタフルオロ吉草酸を挙げることができる。
試料を分離媒体から溶出させる工程において、溶出液が酸性の場合は、陽イオン交換基の解離を抑えることが出来る。よって、溶出液が酸性のイオンペア試薬の場合は、陽イオン交換基の解離を抑えることが出来、又、塩基性試料とイオンペア試薬が結合し、試料の電荷を無くすことが出来る為、良好な分画を達成することが出来る。そして、溶出液に酸性イオンペア試薬と塩を用いる場合は、上記作用に加え、塩基性試料と塩が置換することによってより良好な分画を達成することが出来る。
酸性イオンペア試薬と共に用いる塩は、非揮発性でもよいが、揮発性でもよい。揮発性塩としては、特に限定されないが、酢酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、水酸化アンモニウム或いは塩化ナトリウム、塩化カリウム等を使用することが出来る。
以上説明したように、本発明に係るペプチド又はタンパク質の分画方法では、陽イオン交換基を有する分離媒体に試料を接触させ、酸性イオンペア試薬により分画精度を向上させることができる。
又、上記のようなペプチド又はタンパク質分画方法によって分画されたペプチド又はタンパク質を含む試料を質量分析装置に供し、分画されたペプチド又はタンパク質の質量を測定する、ペプチド又はタンパク質の質量分析方法を実施することが出来る。
尚、質量分析装置としては、特に限定されず、如何なる原理を適用した質量分析装置を使用することができる。一般に質量分析装置は、試料導入部と試料導入部から導入された試料に含まれるペプチドやタンパク質をイオン化するイオン源と、イオン源によってイオン化されたペプチドやタンパク質を分離する分析部と分析部で分離されたイオンを増感して検出する検出部と検出部で検出した値からマススペクトルを生成するデータ処理部から構成される。試料導入部には液体クロマトグラフィー用カラムを使用することが好ましい。イオン源としては、特に限定されないが、電子イオン化法、化学イオン化法、電界脱離法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法及びエレクトロスプレーイオン化法といった原理を適用したものを挙げることができる。分析部としては、特に限定されないが、例えば、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型を挙げることができ、これらを組みあわせたタンデム型であってもよい。
上記のようなペプチド又はタンパク質分画方法を、LCへの試料導入前の試料処理方法として、この分画方法によって分画されたペプチド又はタンパク質を含む試料をLC/MSのLCへ導入し、ペプチド又はタンパク質の質量分析方法を実施することが出来る。そして、このようなLC/MSのLCへの試料導入前に用いるタンパク質又はペプチドの分画方法により、質量分析装置によるペプチド又はタンパク質の同定数を向上させること、LC/MSの総分析時間を短縮させることが可能となっている。
又、陽イオン交換基を有する分離媒体を充填した分析カラムにおいて、酸性を有するイオンペア試薬の濃度グラジエントにより液体クロマトグラフィーを行いペプチド又はタンパク質を分離することが出来る。
実施例1では、細胞抽出液消化物からリン酸化ペプチドを精製したサンプルを用い、本発明方法と塩濃度グラジエント分画方法との同定数、及び分画精度の比較を行った。
ヒト大腸がん由来樹立細胞DLD-1 を常法(Phase Transfer Surfactant法)に従い、15cm径の培養皿で培養した後、細胞をホスファタ−ゼ阻害剤カクテル(Roche社)とプロテアーゼ阻害剤(Roche社)を含む溶解液1mlで溶解した。溶液の蛋白質濃度をDc protein assay(BIO-RAD社)で測定し、2mg/mlに調製し、1サンプルあたり蛋白質2mg分を使用した。溶解液に1Mディチオスレイトール(和光純薬)を10μL加え、37℃で30分間インキュベートションして、タンパク質中のシステイン残基を還元した。
その後、1Mのヨードアセトアミド(和光純薬)を50μL加え、37℃で20分間暗所でインキュベーションしてシステイン残基をアルキル化した。そこに4mLの50mM炭酸水素アンモニウム緩衝液を加えた後、1mg/mlのトリプシン(Roche社)を20μg加え、37℃で12時間インキュベーションしタンパク質を消化した。消化後1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む酢酸エチル溶液を5mL加え、攪拌後、15000gで3分間遠心し、上層をのぞき、下層を蒸発乾固させた。
2M尿素、1%TFA溶液0.5mlで再溶解し、あらかじめアセトニトリルで洗浄後、0.1%TFA水溶液で洗浄後コンディショニングしておいたOASIS HLB cartridge(Waters社)で脱塩した。60%アセトニトリル、0.1%TFAで溶出したサンプル4mlを用いて、リン酸化ペプチドの濃縮・精製を行った。
リン酸化ペプチド精製のために、ProBond Nickel-Chelating Resin (Life Technologies)のニッケルをEDTAで脱キレートし、鉄をキレートさせたビーズ1mlを1サンプルのリン酸化ペプチド濃縮に用いた。ペプチド溶液とレジンを混合したのち、4mlの60%アセトニトリル、0.1%TFA溶液で洗浄を4回繰り返し、4mlの2%アセトニトリル、0.1%TFA溶液でさらに洗浄後、1mlの1%リン酸でリン酸化ペプチドを溶出した。溶出液はOASIS HLB cartridge(Waters社)を用いて脱塩し、60%アセトニトリル、0.1%TFAで溶出後に、蒸発乾固させた。
次に200μL用ピペットチップとスリーエム社のEmpore C18(逆相官能基を有する逆相分離媒体) 10μgとEmporeSCXディスク(陽イオン交換基を有する分離媒体)20μgを用い、分画用チップカラムを作製した。このとき上部にC18が下部にSCXが充填される構造とした。
そして分画用の溶液として表1に示す溶液をそれぞれ作成した。
分画の方法は以下のように行った。
(チップカラムのコンディショニング)
メタノール30μL、Buffer SB 30μL、Buffer SA 30μL、Buffer S500-N 30μL、Buffer SA 30μLを表記の順に遠心機を用いて、遠心加速度2,000xgで通液させた。
(サンプルのチップカラムへのローディング)
Buffer U 50μLでサンプルを再溶解し、カラムにロード後1,200xgで通液を行った後、Buffer U 50μL, Buffer SA 50μL, Buffer SB 50μLを2,000xgで通液させ、さらにBuffer SA, Buffer SBそれぞれ50μLを通液させた。上部C18樹脂へのサンプルの吸着と洗浄・脱塩を行い、C18樹脂からのサンプルの溶出後、SCX樹脂へのサンプルの吸着を行っている。
(サンプルの分画)
分画後の溶液は、オートサンプラーバイアル(GLScience、TPXスナップバイアル)に分画サンプルを集めた。
本発明方法の実施例では以下の手順で行った。Buffer TFA0.5、Buffer TFA1、Buffer TFA2、Buffer TFA3の順にすべて35μLの溶出Bufferを添加、遠心(2,000xg)で分画を行った。
比較例としての塩濃度法の場合は、Buffer S20、Buffer S50、Buffer S75、Buffer S125の順にすべて35μLの溶出Bufferを添加、遠心(2,000xg)で分画を行った。
(LC/MSのためのサンプル調整)
集めた分画液をSpeedVacで3時間処理し、乾固させた。20%TFA水溶液 1μLBufferSC 9μLの混合液もしくはBufferSC 10μLでサンプルを再溶解させ、LC-MS用試料溶液とした。この試料溶液についてLC(C18カラム)/MS(Thermo Fisher社 Q Exactive)システムを用いての測定をおこなった。HPLC条件としてC18カラム(ReproSil-Pur C18-AQ, 1.9 μm resin、Dr. Maisch)0.075×300mmに移動相Aとして0.1%蟻酸水、2%アセトニトリル、移動相Bとして90%アセトニトリルを含む0.1%蟻酸水を用いて初期B濃度を5%として、45分間で直線的に30%とし、その後0.1分間で直線的に100%とし、その後移動相Bを100%にして2分間維持させた。もしくは145分間で直線的に30%とし、その後5分間で直線的に100%とし、その後移動相Bを100%にして10分間維持させた。
送液にはUltimate 3000(Thermo Fisher社)システムを用い、280nL/minの流速で分析を行った。試料溶液をCTC社オートサンプラーHTC−PALによって5μL注入し、試料を一度インジェクターのトラップカラムに注入した後に分析カラムへ送り込んだ。nano ion source(Michrom Bioresource社)を用い、ESI電圧として2.0kVを印加した。
測定は、deta dependentモードで、orbitrapにおけるsurveyスキャンの後、orbitrapで最大12個のMSMSスキャンを行った。 MSMSモードからSurvey scanへのスイッチは1スペクトルとした。
得られたデータについては、MaxQuant 1.2.0.5およびUniprotデータベースを用いてペプチドの同定、定量をおこなった。結果を図1及び図2に示す。
Y軸に同定したペプチド種を表し、X軸が溶出液種を表す。白の部分が画分で同定されたペプチドを示す。白の濃さは、相対的なペプチドの量をしめす。図1は本発明手法の実施例、図2は塩濃度法(従来法)の比較例の結果を示す。
ペプチド同定数は、実施例が10138個、塩濃度法が8514個となり、実施例の同定数が多かった。又、比較例の塩濃度法では、20mM酢酸アンモニウム画分で多くのペプチドが多く溶出しており、各分画のペプチド数のむらが大きく、一度分画されたペプチドが異なる分画でもう一度分画されていることがわかる(ラダーの線)。以上のように、本発明に係る手法を用いることによって、細胞抽出液のような複雑な混合試料中からも従来法にくらべ精度高く、分画可能であることがわかった。
実施例2では、以下のサンプルを用い、本発明方法と弱酸である蟻酸を用いた分画方法との同定数、及び分画精度の比較を行った。
ヒト子宮頚癌由来HeLa-S3細胞 を常法(Phase Transfer Surfactant法)に従い、スピナーフラスコで培養した後、細胞をホスファタ−ゼ阻害剤カクテル(Roche社)とプロテアーゼ阻害剤(Roche社)を含む溶解液1mlで溶解した。これ以降は、実施例1と酵素消化、脱塩処理までは同処理を行った。TFAを用いた溶出液、蟻酸を用いた溶出液は表2を用いた。溶出液以外は、実施例1と同じ測定を行った。
結果を図3及び図4に示す。図3は、本発明手法での結果、図4は、蟻酸を用いた手法を示す。蟻酸を用いた手法では、ペプチド同定数3583個、本発明手法では24115個であり、明らかに弱酸である蟻酸ではSCXを用いたペプチド分画が不可能であることが判明した。
実施例3では、TFAのみで分画した場合とTFAと塩濃度法とを組み合わせた方法との同定数、及び分画精度の比較を行った。
実施例2で使用したサンプルを同条件で調整し、溶出液は表3に記載のものを用いた。分析、解析も実施例1に沿った。
結果を図5〜図9に示す。図5は、TFAのみの溶出液での分画結果を示し、図6は塩濃度法との組み合わせでの分画結果を示す。TFAのみの場合、総同定ペプチド数26452個であり、組み合わせた場合の総ペプチド同定数は、28988個であり、TFAと塩濃度法とを組み合わせた場合のほうが、同定数は向上した。又、各フラクション中で同定されたペプチド内に含まれる塩基性アミノ酸、K(リジン)、R(アルギニン)、H(ヒスチジン)の数によってペプチド種を分けグラフ化するとTFAのみの場合は、図7に示すように、塩基性アミノ酸3個までのペプチドまでが同定されているが、TFAと塩濃度法とを組み合わせた方法では、図8に示すように、塩基性アミノ酸5個までのペプチドが同定されており、TFAと選択性を変える塩濃度法とを組み合わせた場合のほうが、より多種多様なペプチドの溶出を可能にすることがわかった。
図9においては、TFAと塩濃度法とを組み合わせた方法で同定されたペプチドの特性を示している。酸性アミノ酸数:D(アスパラギン酸、E(グルタミン酸)、アミノ酸配列から想定されるPI(等電点)、アミノ酸配列から想定される疎水性指標GRAVY SCOREを示す。各分画フラクション中のペプチドの特性としては、分画が後になるほど酸性アミノ酸数が減り、PIが塩基性側のペプチドが増えていた。GRAVY SCOREは、特に大きな傾向はみえなかった。SCXを用いているため、塩基性ペプチドの保持が大きくなっていることを示している。尚、図示はしないが、TFAのみの分画法においても同様の傾向がみられた。
実施例2のサンプルと分析条件を用い、組み合わせ法での分画再現性(N=2)を確認した。図10は、同定されたペプチドとフラクションの再現性を示し、図11はLC/MSのBase peak chromatogram、図12は実験1と実験2の両実験において同定されたペプチドのピーク強度をプロットし相関係数を求めた。図13は、実験1と実験2において同定された総ペプチドについて、それぞれのペプチドで同定された数、両実験で同定された数を示す。
図10においては、両実験で同定されたペプチドに明らかに大きな分画のずれは確認されなかった。図11においては、両実験のサンプルのLC/MSでの検出状況を示すが、nano−LC/MS実験系を考慮すると大きな差が見られなかった。図12においては、相関係数R=0.88〜0.94を示しており、実験1と実験2で検出されたペプチド量に高い正の相関が確認されており、ピーク強度の再現性も高いことがわかる。図13においては、両実験において80%程度の同じペプチドが同定されており、ペプチド同定における再現性も高いことが分かった。
以上の結果より、本手法の再現性は、目的である複雑なサンプルからのペプチド分画において十分耐えうるものと確認された。
複雑なペプチド又はタンパク質を含む試料を分画することにより試料の複雑性を下げることが出来るので、タンパク質の発現や疾病に関与するバイオマーカー探索など幅広く解析するために用いることが出来る。

Claims (11)

  1. ペプチド又はタンパク質を含む試料を、陽イオン交換基を有する分離媒体に供給する供給工程、前記試料を前記分離媒体に吸着させる吸着工程、酸性イオンペア試薬に濃度勾配を持たせて用いて前記試料を前記分離媒体から溶出させる溶出工程を備えることを特徴とするペプチド又はタンパク質の分画方法。
  2. 前記イオンペア試薬は揮発性を有することを特徴とする請求項1に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  3. 前記溶出工程において前記イオンペア試薬と塩との混合液を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  4. 前記イオンペア試薬が、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ペンタフルオロ酪酸、ペンタフルオロ吉草酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  5. 前記塩が揮発性塩である酢酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、水酸化アンモニウム或いは塩化ナトリウム、塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  6. 前記陽イオン交換基がスルホン酸基、カルボン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  7. 前記供給工程において、ペプチド又はタンパク質を含む試料を、逆相官能基を有する逆相分離媒体に通した後に陽イオン交換基を有する分離媒体に供給することを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  8. 前記分離媒体が、陽イオン交換基及び逆相官能基を同時に有することを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  9. 前記分離媒体が、モノリス体であることを特徴とする請求項1から8のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  10. 前記ペプチド又はタンパク質を含む試料が酸化金属により精製されたリン酸化ペプチドであることを特徴とする請求項1から9のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法。
  11. 請求項1から10のうちいずれか1項に記載のペプチド又はタンパク質の分画方法によりペプチド又はタンパク質を含む試料を分画する分画工程、前記分画工程により分画されたペプチド又はタンパク質を含む試料を質量分析装置に供し、前記分画されたペプチド又はタンパク質の質量を測定する工程を含む、ペプチド又はタンパク質の質量分析方法。
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