JP5365598B2 - リチウムイオン二次電池用炭素材、リチウムイオン二次電池用負極材およびリチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Description
(1)以下の条件(A)〜(E)のもと、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下であり、
(A)陽電子線源:電子加速器を用いて電子・陽電子対から陽電子を発生
(B)ガンマ線検出器:BaF2シンチレーターおよび光電子増倍管
(C)測定温度及び雰囲気:25℃、真空中
(D)消滅γ線カウント数:3×106以上
(E)陽電子ビームエネルギー:10keV
さらに、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピーク強度(I1360)と1580cm−1付近のピーク強度(I1580)の強度比(R=I1360/I1580)が0.80以上、1.20以下であるリチウムイオン二次電池用炭素材。
(2)第(1)項に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材において、
広角X回折法からBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔dが3.40Å以上、3.90Å以下であり、c軸方向の結晶子の大きさLcが8.0Å以上、50.0Å以下であるリチウムイオン二次電池用炭素材。
(3)第(1)項または第(2)項に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材において、
窒素吸着におけるBET3点法による比表面積が15m2/g以下、1m2/g以上であるリチウムイオン二次電池用炭素材。
(4)第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用炭素材において、
炭素原子を95.0wt%以上含み、かつ、炭素原子以外の元素として、窒素原子を0.5wt%以上、5.0wt%以下含むものであるリチウムイオン二次電池用炭素材。
(5)第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用炭素材を含むリチウムイオン二次電池用負極材。
(6)第(5)項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含むリチウムイオン二次電池。
が提供される。
(リチウムイオン二次電池用炭素材)
はじめに、本発明のリチウムイオン二次電池用炭素材(以下、炭素材という場合もある)の概要について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用炭素材は、以下の条件(A)〜(E)のもと、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下であり、
(A)陽電子線源:電子加速器を用いて電子・陽電子対生成し、陽電子を発生
(B)ガンマ線検出器:BaF2シンチレーターおよび光電子増倍管
(C)測定温度及び雰囲気:25℃、真空中
(D)消滅γ線カウント数:3×106以上
(E)陽電子ビームエネルギー:10KeV
さらに、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピーク強度(I1360)と1580cm−1付近のピーク強度(I1580)の強度比(R=I1360/I1580)が0.80以上、1.20以下であるリチウムイオン二次電池用炭素材である。
リチウムイオン二次電池用炭素材に用いられる原料あるいは前駆体は特に限定されるものではないが、エチレン製造時に副生する石油系のタールおよびピッチ、石炭乾留時に生成するコールタール、コールタールの低沸点成分を蒸留除去した重質成分やピッチ、石炭の液化により得られるタール及びピッチのような石油系又は石炭系のタール若しくはピッチ、さらには前記タール、ピッチ等を架橋処理したものや、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂または樹脂組成物を炭化処理することにより得られるものが好適であり、特に後述する樹脂あるいは、樹脂組成物が好ましい。ただし、前記石油、石炭等から得られるタール、ピッチ、あるいはそれらの架橋処理を行ったものも、本発明では広義の樹脂あるいは樹脂組成物に含まれ、これらは単独あるいは二種類以上を併用することができる。
また、後述するように、樹脂組成物は、上記樹脂を主成分とするとともに、硬化剤、添加剤などを併せて含有することができる。
そして、熱硬化性樹脂の中でも、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、及び、アニリン樹脂、およびこれらの変性物から選ばれるものであることが好ましい。これにより、炭素材の設計の自由度が広がり、低価格で製造することができる。
ここで用いられる硬化剤としては特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂の場合はヘキサメチレンテトラミン、レゾール型フェノール樹脂、ポリアセタール、パラホルムなどを用いることができる。また、エポキシ樹脂の場合は、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物、酸無水物、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、ノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノール型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂など、エポキシ樹脂にて公知の硬化剤を用いることができる。
なお、通常は所定量の硬化剤を併用する熱硬化性樹脂であっても、本発明で用いられる樹脂組成物においては、通常よりも少ない量を用いたり、あるいは硬化剤を併用しないで用いたりすることもできる。
ここで用いられる添加剤としては特に限定されないが、例えば、200〜800℃にて炭化処理した炭素材前駆体、黒鉛及び黒鉛変性剤、有機酸、無機酸、含窒素化合物、含酸素化合物、芳香族化合物、及び、非鉄金属元素などを挙げることができる。
上記添加剤は、用いる樹脂の種類や性状などにより、単独あるいは二種類以上を併用することができる。
熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂のほか、アミンなどの含窒素成分で変性されたフェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフタルアミドなどが挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
上記含窒素化合物としては、主成分樹脂に含窒素樹脂類を含む場合であっても含まない場合であっても、1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
このような樹脂組成物あるいは樹脂の炭化処理を行うことにより、最終的に得られる炭素材中の炭素原子含有量が95.0wt%以上であり、窒素原子含有量が0.5〜5.0wt%であることが好ましい。
このように窒素原子を0.5wt%以上、特に1.0wt%以上含有することで、窒素の有する電気陰性度により、炭素材に好適な電気的特性を付与することができる。これにより、リチウムイオンの吸蔵・放出を促進させ、高い充放電特性を付与することができる。
たとえば、上述したような窒素含有量である炭素材を得る方法としては、樹脂組成物あるいは樹脂中の窒素含有量を所定値として、これを炭化処理する際の条件、特に、最終温度を調整する方法があげられる。
本方法は、測定試料を、燃焼法を用いて単純なガス(CO2、H2O、及びN2)に変換した後に、ガス化した試料を均質化した上でカラムを通過させるものである。これにより、これらのガスが段階的に分離され、それぞれの熱伝導率から、炭素、水素、及び窒素の含有量を測定することができる。
なお、本発明では、パーキンエルマー社製・元素分析測定装置「PE2400」を用いて実施した。
陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下である場合には、後述するようにリチウムが出入りしやすいサイズの空隙が炭素材に形成されているといえ、充電容量、放電容量を高めることができ、充電容量、放電容量が高く、一定程度以上の充放電効率を有する炭素材、すなわち、充電容量、放電容量および充放電効率のバランスに優れた炭素材を得ることができる。
陽電子寿命法とは、陽電子(e+)が試料に入射してから、消滅するまでの時間を計測して、空隙の大きさを測定する方法である。
陽電子は、電子の反物質であり、電子と同じ静止質量を持つがその電荷は正である。
陽電子は、物質中に入射すると、電子と対(陽電子−電子対(ポジトロニウム))になり、その後消滅することが知られている。炭素材に陽電子を打ち込むと、陽電子(e+)は高分子中で叩き出された電子の1つと結合してポジトロニウムを形成する。ポジトロニウムは高分子材料中の電子密度の低い部分、すなわち高分子中の局所空隙にトラップされ、空隙壁から出た電子雲と重なり消滅する。ポジトロニウムが高分子中の空隙中に存在する場合、その空隙の大きさとポジトロニウムの消滅寿命は反比例の関係にある。すなわち、空隙が小さいとポジトロニウムと周囲電子との重なりが大きくなり、陽電子消滅寿命は短くなる。一方、空隙が大きいとポジトロニウムが空隙壁からしみ出した他の電子と重なって消滅する確立が低くなりポジトロニウムの消滅寿命は長くなる。したがって、ポジトロニウムの消滅寿命を測定することにより炭素材中の空隙の大きさを評価することができる。
上述したように、炭素材に入射した陽電子は、エネルギーを失った後、電子とともに、ポジトロニウムを形成し消滅する。この際、炭素材からは、γ線が放出されることとなる。
従って、放出されたγ線が測定の終了信号となる。
陽電子消滅寿命の測定には、陽電子源として電子加速器や汎用のものとしては放射性同位元素22Naがよく用いられる。22Naは22Neにβ+崩壊するときに、陽電子と1.28MeVのγ線を同時放出する。炭素材中に入射した陽電子は、消滅過程を経て511keVのγ線を放出する。したがって、1.28MeVのγ線を開始信号とし、511kevのγ線を終了信号として、両者の時間差を計測すれば陽電子の消滅寿命を求めることができる。具体的には、図1に示すような、陽電子寿命スペクトルが得られる。この陽電子寿命スペクトルの傾きAが陽電子寿命を示しており、陽電子寿命スペクトルから炭素材の陽電子寿命を把握することができる。
また、陽電子源として、電子加速器を使用する場合には、タンタルまたはタングステンからなるターゲットに電子ビームを照射することによって発生する制動X線により電子・陽電子対生成を引起こさせ、陽電子を発生させる。電子加速器の場合、陽電子ビームを試料に入射した時点を測定開始点(前記22Naにおける開始信号に相当)とし、終了信号は
22Naの場合と同様の原理で測定を実施する。
これは、二酸化炭素分子は、分子径が0.33nmであり、リチウムイオン(イオン半径が約0.06nm)よりも非常に大きいことに起因すると考えられる。二酸化炭素を使用したガス吸着法では検出できないような非常に小さい細孔にもリチウムイオンは、出入りすることができるため、CO2を使用したガス吸着法では、リチウムイオンが吸蔵、放出可能な細孔を正確に見積もることが難しい。そのため、リチウムイオンが吸蔵、放出可能な最適な細孔を有する炭素材を得ることができなかったと考えられる。
これに対し、陽電子消滅法で使用される陽電子は非常に小さいため、リチウムイオンが吸蔵、放出に最適な孔を正確に見積もることができる。従って、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下である炭素材を製造し、この炭素材を使用することで、充電容量、放電容量を高めることが可能となる。
陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒未満の場合には、空孔サイズが小さすぎて、リチウムイオンを吸蔵、放出しにくくなる。また、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が480ピコ秒を超えると、リチウムを吸蔵量は多くなるが、電解液等他の物質の侵入により、静電容量の増加によりリチウムが放出しにくくなると推測される。
ラマンスペクトルの強度比(R=I1360/I1580)は結晶性と置き換えることができ、強度比Rが0.80以上、1.20以下の場合、後述するように材料の結晶性が適切に制御されているといえ、材料表面での不可逆容量が抑制されることより高い充放電効率を有する炭素材を得ることができる。
これらに対し、本願発明の強度比Rが0.80以上1.20以下の炭素材を開発することで、リチウムイオンが内部に拡散しやすく、かつ不可逆容量の小さく充放電効率の高い炭素材を得ることができた。
一方で、平均面間隔d002が3.90Å以下、特に3.80Å以下である場合にはリチウムイオンの吸蔵・脱離が円滑に行われ、充放電効率の低下を抑制できる。
さらに、本発明の炭素材は、c軸方向((002)面直交方向)の結晶子の大きさLcが8.0Å以上、50.0Å以下であることが好ましい。
Lcを8.0Å以上、特に9.0Å以上とすることでリチウムイオンを吸蔵・脱離することができる炭素層間スペースが形成され、十分な充放電容量が得られるという効果があり、50.0Å以下、特に15.0Å以下とすることでリチウムイオンの吸蔵・脱離による炭素積層構造の崩壊や、電解液の還元分解を抑制し、充放電効率と充放電サイクル性の低下を抑制できるという効果がある。
Lcは以下のようにして算出される。
X線回折測定から求められるスペクトルにおける002面ピークの半値幅と回折角から次のScherrerの式を用いて決定した。
Lc=0.94 λ /(βcosθ) ( Scherrerの式)
Lc : 結晶子の大きさ
λ : 陰極から出力される特性X線Kα1の波長
β : ピークの半値幅( ラジアン)
θ : スペクトルの反射角度
本発明の炭素材のX線回折測定から求められるスペクトルより、平均面間隔d(nm)を以下のBragg式より算出した。
λ=2dhklsinθ Bragg式 (dhkl=d002)
λ:陰極から出力される特性X線Kα1の波長
θ:スペクトルの反射角度
窒素吸着におけるBET3点法による比表面積が15m2/g以下であることで、炭素材と電解液との反応を抑制できる。
また、窒素吸着におけるBET3点法による比表面積を1m2/g以上とすることで電解液の炭素材への適切な浸透性が得られるという効果がある。
比表面積の算出方法は以下の通りである。
下記(1)式より単分子吸着量Wmを算出し、下記(2)式より総表面積Stotalを算出し、下記(3)式より比表面積Sを求めた。
1/[W(Po/P−1)=(C−1)/WmC(P/Po)/WmC・・(1)
式(1)中、P:吸着平衡にある吸着質の気体の圧力、Po:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧、W:吸着平衡圧Pにおける吸着量、Wm:単分子層吸着量、C:固体表面と吸着質との相互作用の大きさに関する定数(C=exp{(E1−E2)RT})[E1:第一層の吸着熱(kJ/mol)、E2:吸着質の測定温度における液化熱(kJ/mol)]
Stotal=(WmNAcs)M・・・・・・・・・(2)
式(2)中、N:アボガドロ数、M:分子量、Acs:吸着断面積
S=Stotal/w・・・・・・(3)
式(3)中、w:サンプル重量(g)
はじめに、炭化処理すべき、樹脂あるいは、樹脂組成物を製造する。
樹脂組成物の調製のための装置としては特に限定されないが、例えば、溶融混合を行う場合には、混練ロール、単軸あるいは二軸ニーダーなどの混練装置を用いることができる。また、溶解混合を行う場合は、ヘンシェルミキサー、ディスパーザなどの混合装置を用いることができる。そして、粉砕混合を行う場合には、例えば、ハンマーミル、ジェットミルなどの装置を用いることができる。
このようにして得られた樹脂組成物は、複数種類の成分を物理的に混合しただけのものであってもよいし、樹脂組成物の調製時、混合(攪拌、混練など)に際して付与される機械的エネルギーおよびこれが変換された熱エネルギーにより、その一部を化学的に反応させたものであってもよい。具体的には、機械的エネルギーによるメカノケミカル的反応、熱エネルギーによる化学反応をさせてもよい。
ここで炭化処理の条件としては特に限定されないが、例えば、常温から1〜200℃/時間で昇温して、900〜3000℃で0.1〜50時間、好ましくは0.5〜10時間保持して行うことができる。炭化温度を900℃以上にすることで、炭素材の結晶化が適切な状態となり、また不純物の残存割合も減少することで、不可逆容量が減り充放電効率が向上すると推測される。炭化処理時の雰囲気としては窒素、ヘリウムガスなどの不活性雰囲気下、もしくは不活性ガス中に微量の酸素が存在するような、実質的に不活性な雰囲気下、または還元ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることで、樹脂の熱分解(酸化分解)を抑制し、所望の炭素材を得ることができる。
このような炭化処理時の温度、時間等の条件は、炭素材の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
ここでプレ炭化処理の条件としては特に限定されないが、例えば、200〜600℃で1〜10時間行うことができる。このように、炭化処理前にプレ炭化処理を行うことで、樹脂組成物あるいは樹脂を不融化させ、炭化処理工程前に樹脂組成物あるいは樹脂の粉砕処理を行った場合でも、粉砕後の樹脂組成物あるいは樹脂が炭化処理時に再融着するのを防ぎ、所望とする炭素材を効率的に得ることができるようになる。
このとき、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下である炭素材を得るための方法の一例としては、還元ガス、不活性ガスが存在しない状態で、プレ炭化処理を行うことがあげられる。
硬化処理方法としては特に限定されないが、例えば、樹脂組成物に硬化反応が可能な熱量を与えて熱硬化する方法、あるいは、樹脂と硬化剤とを併用する方法などにより行うことができる。これにより、プレ炭化処理を実質的に固相でできるため、樹脂の構造をある程度維持した状態で炭化処理またはプレ炭化処理を行うことができ、炭素材の構造や特性を制御することができるようになる。
さらに、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下の炭素材を得るために、たとえば、必要に応じて炭化処理後において、還元ガスまたは不活性ガスの存在下で、800〜500℃まで自然冷却し、その後、200℃以下、好ましくは100℃以下となるまで20℃/時間以上、500℃/時間以下で冷却する。
前記範囲内の条件で冷却すれば、自然放冷よりも冷却速度が速くなり炭素材の割れが抑制され、形成された空隙が維持できるという理由により、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下の炭素材を得ることができると推測される。
次に、本発明の二次電池用負極材(以下、単に「負極材」という)の実施形態およびこれを用いた実施形態であるリチウム二次電池(以下、単に「二次電池」という)について説明する。
二次電池10は、負極材12および負極集電体14により構成される負極13と、正極材20および正極集電体22により構成される正極21と、ならびに電解液16と、セパレータ18とを含むものである。
上記炭素材100重量部に対して、有機高分子結着剤(ポリエチレン、ポリプロピレンなどを含むフッ素系高分子、ブチルゴム、ブタジエンゴムなどのゴム状高分子など)1〜30重量部、および適量の粘度調整用溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミドなど)を添加して混練して、ペースト状にした混合物を圧縮成形、ロール成形などによりシート状、ペレット状などに成形して、負極材12を得ることができる。
そして、負極集電体14と積層することにより、負極13を製造することができる。
この非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル類、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類などの混合物などを用いることができる。
電解質としては、LiClO4、LiPF6などのリチウム金属塩、テトラアルキルアンモニウム塩などを用いることができる。また、上記塩類をポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリルなどに混合し、固体電解質として用いることもできる。
正極集電体22としては、例えばアルミニウム箔を用いることができる。
そして、本実施形態における正極21は、既知の正極の製造方法により製造することができる。
(1.陽電子寿命法による陽電子寿命の測定方法)
陽電子・ポジトロニウム寿命測定・ナノ空孔計測装置(産業技術総合研究所製)を用いて、陽電子が消滅する際に発生する電磁波(消滅γ線)を測定し、陽電子寿命を測定した。
具体的には、以下のようである。
(A)陽電子線源:産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門の電子加速器を用い
て、電子・陽電子対生成から陽電子を発生(前記電子加速器は、ターゲット(タンタル)に電子ビームを照射して、電子・陽電子対生成を引きおこし、陽電子を発生)
(B)ガンマ線検出器:BaF2シンチレーターおよび光電子増倍管
(C)測定温度及び雰囲気:25℃、真空中(1×10−5Pa(1×10−7Torr))
(D)消滅γ線カウント数:3×106以上
(E)陽電子ビームエネルギー:10keV
(F)試料サイズ:粉末を試料ホルダ(アルミ板)に厚み0.1mmで塗布
RENISHAW製 InViaReflexラマンマイクロスコープを用い、下記の条件にて測定を実施し、観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピーク強度(I1360)と1580cm−1付近のピーク強度(I1580)の強度比(R=I1360/I1580)を算出した。
(G)アルゴンイオンレーザー波長 :514.5nm
(H)試料上のレーザーパワー :15〜25mW
(I)分解能 :10〜20cm−1
(J)測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
(K)ラマンR値、ラマン半値幅解析:バックグラウンド処理
(L)スムージング処理 :単純平均、コンボリューション5ポイント
島津製作所製・X線回折装置「XRD−7000」を使用して平均面間隔を測定した。
炭素材のX線回折測定から求められるスペクトルより、平均面間隔d002(nm)を以下のBragg式より算出した。
λ=2dhklsinθ Bragg式 (dhkl=d002)
λ:陰極から出力される特性X線Kα1の波長
θ:スペクトルの反射角度
また、Lcは以下のようにして測定した。
X線回折測定から求められるスペクトルにおける002面ピークの半値幅と回折角から次のScherrerの式を用いて決定した。
Lc=0.94 λ /(βcosθ) ( Scherrerの式)
Lc : 結晶子の大きさ
λ : 陰極から出力される特性X線Kα1の波長
β : ピークの半値幅( ラジアン)
θ : スペクトルの反射角度
ユアサ社製のNova−1200装置を使用して窒素吸着におけるBET3点法により測定した。具体的な算出方法は、前記実施形態で述べた通りである。
パーキンエルマー社製・元素分析測定装置「PE2400」を用いて測定した。測定試料を、燃焼法を用いてCO2、H2O、及びN2に変換した後に、ガス化した試料を均質化した上でカラムを通過させる。これにより、これらのガスが段階的に分離され、それぞれの熱伝導率から、炭素、水素、及び窒素の含有量を測定した。
ア)炭素含有量
得られた炭素材を、110℃/真空中、3時間乾燥処理後、元素分析測定装置を用いて炭素組成比を測定した。
イ)窒素含有量
得られた炭素材を、110℃/真空中、3時間乾燥処理後、元素分析測定装置を用いて窒素組成を測定した。
(1)二次電池評価用二極式コインセルの製造
各実施例、比較例で得られた炭素材100部に対して、結合剤としてポリフッ化ビニリデン10部、希釈溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを適量加え混合し、スラリー状の負極混合物を調製した。調製した負極スラリー状混合物を18μmの銅箔の両面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した。真空乾燥後、ロールプレスによって電極を加圧成形した。これを直径16.156mmの円形として切り出し負極を作製した。
正極はリチウム金属を用いて二極式コインセルにて評価を行った。電解液として体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合液に過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させたものを用いた。
充電条件は電流25mA/gの定電流で1mVになるまで充電した後、1mV保持で1.25mA/gまで電流が減衰したところを充電終止とした。また、放電条件のカットオフ電位は 1.5Vとした。
上記(2)で得られた値をもとに、下記式により算出した。
充放電効率(%)=[放電容量/充電容量]×100
樹脂組成物として、フェノール樹脂PR−217(住友ベークライト(株)製)を以下の工程(a)〜(f)の順で処理を行い、炭素材を得た。
(a)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無し
で、室温から500℃まで、100℃/時間で昇温
(b)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無し
で、500℃で2時間脱脂処理後、冷却
(c)振動ボールミルで微粉砕
(d)不活性ガス(窒素)置換および流通下、室温から1200℃まで、100℃/時
間で昇温
(e)不活性ガス(窒素)流通下、1200℃で8時間炭化処理
(f)不活性ガス(窒素)流通下、600℃まで自然放冷後、600℃から100℃ま
で、100℃/時間で冷却
実施例1においてフェノール樹脂にかえて、アニリン樹脂(以下の方法で合成したもの)を用いた
アニリン100部と37% ホルムアルデヒド水溶液697部、蓚酸2部を攪拌装置及び冷却管を備えた3つ口フラスコに入れ、100℃で3時間反応後、脱水し、アニリン樹脂110部を得た。得られたアニリン樹脂の重量平均分子量は約800であった。
以上のようにして得られたアニリン樹脂100部とヘキサメチレンテトラミン10部を粉砕混合し得られた樹脂組成物を、実施例1と同様の工程で処理を行い、炭素材を得た。
実施例2と同様の樹脂組成物を使用した。
また、樹脂組成物の処理に際して、(d)、(e)の工程を以下のようにした点以外は、実施例2と同様にして炭素材を得た。
(d)不活性ガス(窒素)置換および流通下、室温から1100℃まで、100℃/時
間で昇温
(e)不活性ガス(窒素)流通下、1100℃で8時間炭化処理
実施例3において、樹脂組成物をTGP1000(大阪化成(株)製)にかえた点以外は、実施例3と同様な工程で処理を行い、炭素材を得た。
黒鉛(メソフェーズカーボンマイクロビーズ)から構成される炭素材を用意した。
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製PR−53195)30部、ヘキサメチレンテトラミン3部、メラミン樹脂70部を粉砕混合して樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、以下の工程で処理を行い、炭素材を得た。なお、(t)の工程後は、自然放冷とした。
(a)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無し
で、100℃から200℃まで、20℃/時間で昇温
(b)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無し
で、200℃で1時間熱処理
(c)振動ボールミルで微粉砕
(h)窒素雰囲気下にて室温から1200℃まで10℃/時間で昇温
(t)窒素雰囲気下にて1200℃で10時間炭化処理
アントラキノール135重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液40重量部、25%
硫酸水溶液2重量部、およびメチルイソブチルケトン150重量部を攪拌機および冷却管を備えた3つ口フラスコに入れ、100℃で3時間反応後、反応温度を150℃に上昇して脱水し、多環フェノール樹脂90重量部を得た。
得られた多環フェノール樹脂100重量部に対してヘキサメチレンテトラミンを10重量部の割合で添加したものを粉砕混合した後、還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、200℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、1000℃到達後10時間の炭化処理を行い、自然放冷して炭素材を得た。
アントラキノール135重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液40重量部、25%
硫酸水溶液2重量部、およびメチルイソブチルケトン150重量部を攪拌機および冷却管を備えた3つ口フラスコに入れ、100℃で3時間反応後、反応温度を150℃に上昇して脱水し、多環フェノール樹脂90重量部を得た。
得られた多環フェノール樹脂100重量部に対してヘキサメチレンテトラミンを10重量部の割合で添加したものを粉砕混合した後、還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、200℃にて5時間硬化処理を行った。硬化処理後、窒素雰囲気下にて昇温し、800℃到達後10時間の炭化処理を行い、窒素雰囲気下で600℃まで自然放冷後、600℃から100℃まで、100℃/時間で冷却して炭素材を得た。
また、上記実施例、比較例で得られた炭素材を負極として使用した場合の充電容量、放電容量、充放電効率も合わせて表1に示す。
また、陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下、かつレーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−付近のピーク強度(I1360)と1580cm−1付近のピーク強度(I1580)の強度比(R=I1360/I1580)が0.80以上、1.20以下であることに加え、窒素原子を1.0wt%以上5.0wt%以下含む実施例2、3では、放電容量も高いものとなった。
実施例2、3のように、広角X回折法からBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔dが3.40Å以上、3.90Å以下であり、陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下であるため、可逆的にリチウムイオンを吸蔵・放出することができる有効なサイズの空孔が形成されていることに加え、炭素材が窒素原子を1.0wt%以上5.0wt%以下含むことで、最適量の窒素含量に起因する電気陰性度により、炭素材に好適な電気的特性を付与することができると考えられる。これにより、リチウムイオンの吸蔵・放出を促進させ、高い充放電特性が得られると推測される。
一方、比較例1では、充電容量、放電容量いずれも低い値となり、比較例2では、陽電子寿命が524ピコ秒と非常に大きい値であり、充放電効率が非常に低いものとなった。また、比較例3では、陽電子寿命が362ピコ秒と非常に小さい値であり、充電容量、放電容量ともに小さくなってしまった。
さらに比較例4では、レーザーラマン分光法における強度比(R=I1360/I1580)が大きく、つまり結晶性が低く乱層の割合が大きいため、効率が低下してしまった。
12 負極材
14 負極集電体
13 負極
20 正極材
22 正極集電体
21 正極
16 電解液
18 セパレータ
Claims (6)
- 以下の条件(A)〜(E)のもと、陽電子消滅法により測定した陽電子寿命が370ピコ秒以上、480ピコ秒以下であり、
(A)陽電子線源:電子加速器を用いて電子・陽電子対から陽電子を発生
(B)ガンマ線検出器:BaF2シンチレーターおよび光電子増倍管
(C)測定温度及び雰囲気:25℃、真空中
(D)消滅γ線カウント数:3×106以上
(E)陽電子ビームエネルギー:10keV
さらに、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm−1付近のピーク強度(I1360)と1580cm−1付近のピーク強度(I1580)の強度比(R=I1360/I1580)が0.80以上、1.20以下であるリチウムイオン二次電池用炭素材。 - 請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材において、
広角X回折法からBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔dが3.40Å以上、3.90Å以下であり、c軸方向の結晶子の大きさLcが8.0Å以上、50.0Å以下であるリチウムイオン二次電池用炭素材。 - 請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用炭素材において、
窒素吸着におけるBET3点法による比表面積が15m2/g以下、1m2/g以上であるリチウムイオン二次電池用炭素材。 - 請求項1乃至3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用炭素材において、
炭素原子を95.0wt%以上含み、かつ、炭素原子以外の元素として、窒素原子を0.5wt%以上、5.0wt%以下含むものであるリチウムイオン二次電池用炭素材。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用炭素材を含むリチウムイオン二次電池用負極材。
- 請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含むリチウムイオン二次電池。
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