JP5364885B2 - 酸化イットリウム焼結体及び当該焼結体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、酸化イットリウム焼結体及び当該焼結体の製造方法に関する。さらに詳しくは、緻密な構造であり、また、着色もない酸化イットリウム焼結体及び当該焼結体の製造方法に関する。
酸化イットリウム(Y:イットリアとも呼ばれる。)は融点が2400℃であり、紫外域から赤外域(約0.3〜8μm)の波長の光を透過するために、耐熱窓、高輝度ランプ発光管、レーザーロッド等の構成材料として有用である。一方、酸化イットリウムは2200℃付近に変態点が存在するために単結晶の製造が難しく、加えて、酸化イットリウムは難焼結材料であるため、ホットプレス、熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing:HIP)、1600℃以上の高温かつ真空、水素雰囲気等の環境の中で焼結を行わなければ緻密で透明な多結晶焼結体を得ることができないという問題があった。
近年、このような問題については、緻密な焼結体を得るには焼結助剤の添加が有効であると考えられ、各方面で種々の検討が進められている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。また、例えば、微量の2価アルカリ土類金属イオンをドープすることにより、焼結性が向上されることや(例えば、非特許文献1を参照。)、粉末処理時に酸化チタン(TiO)を酸化イットリウムの表面に分散させることにより、製造される酸化イットリウムの緻密化及び焼結温度の低下に効果的であることが報告されている(例えば、非特許文献2を参照。)。さらに、種々のカチオンを微量ドープした酸化イットリウムの粒成長に関し、2価イオンは粒成長を促進し、3価イオンはほぼ影響を与えず、4価及び5価イオンは粒成長を抑制する傾向にあるということが報告されている(例えば、非特許文献3を参照。)。
そして、本発明者も、焼結助剤として微量のニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、及びエリビウム(Er)を酸化イットリウムにドープすることにより、ニッケルやマンガンが焼結体の粒界に偏在した緻密な構造の酸化イットリウム焼結体を、従来の方法と比較して低温の焼結温度で製造できることを報告している(例えば、非特許文献4及び非特許文献5を参照。)。
特開2003−119080号公報 特開2003−155480号公報 カタヤマ(Katayama)ら、「二価金属酸化物の添加によるイットリアの焼結およびその電気伝導度の水蒸気圧依存性(Sintering of yttrias with addition of divalent metal oxide and water vapour pressure dependence of their electrical conductivity)」、ジャーナル オブ マテリアル サイエンス (Journal of materials science)、(米国)、チャップマン アンド ホール リミテッド(Chapman and Hall Ltd.)、1990年、第25号、第1503−1508頁 ガスニア(Gasgnier)ら、「酸化チタンの添加によるイットリアの緻密化の向上(Enhanced Densification of Yttria by Addition of Titanium Oxide)」、ジャーナル オブ ヨーロピアン セラミック ソサイエティ(Journal of the European Ceramic Society)、(英国)、エルセビア サイエンス リミテッド(Elsevier Science Limited)、1994年、第13号、第67−72頁 チェン(Chen)ら、「Y2O3における粒界移動度、欠陥機構とドーパント効果(Grain Boundary Mobility in Y2O3:Defect Mechanism and Dopant Effects)」、ジャーナル オブ ザ アメリカン セラミック ソサイエティ(Journal of the American Ceramic Society)、(米国)、1996年、第79号、第1801−1809頁 河道ら、「Y2O3焼結体への遷移金属の添加効果」、日本セラミックス協会関東支部研究発表会講演要旨集、Vol.22th、2006年、第52頁 河道ら、「希土類・遷移金属添加イットリア焼結体の緻密化挙動」、日本セラミックス協会年会講演予稿集、Vol.2007、2007年、第106頁
しかしながら、ニッケルやマンガン等をドープした酸化イットリウム焼結体は、着色された状態で焼結されてしまうので、適用する用途が限定されてしまい、例えば、レーザー、高温用窓材料、光通信における導波路型増幅器等といった用途には適用することができなかった。従って、緻密な構造であり、かつ着色のない酸化イットリウム焼結体、及び当該焼結体を簡便に得ることができる製造方法の提供が望まれていた。
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、焼結温度を比較的低温とすることができる一方、緻密な構造であり、かつ焼結体の着色もないので、制約なく種々の用途等に適用することができる亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体及び当該焼結体の製造方法を提供することにある。
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、亜鉛が酸化イットリウムの粒界に偏析し、相対密度が99%以上であり、前記亜鉛の含有量が、焼結体における前記イットリウム及び前記亜鉛のモル数の合計を100とするモル分率で、亜鉛のモル分率=0.1〜2.0%であることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、前記した請求項1において、前記焼結体が、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)群から選ばれる少なくとも1つ以上の希土類元素を含有することを特徴とする。
本発明の請求項3に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法は、請求項1記載の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法であって、酸化イットリウム粉体と亜鉛化合物を出発原料として、前記酸化イットリウム粉体におけるイットリウム、及び前記亜鉛化合物における亜鉛のモル数の合計を100とするモル分率で、亜鉛のモル分率=0.1〜2.0%とし、前記酸化イットリウム粉体と前記亜鉛化合物を混合して得られた混合粉末を加圧成形により圧粉体として所望の形状とした後、1100℃以上で焼結処理することを特徴とする。
本発明の請求項4に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法は、前記した請求項3において、前記出発原料が、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)群から選ばれる少なくとも1つ以上の希土類元素を含有することを特徴とする。
本発明の請求項5に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法は、前記した請求項3または請求項4において、前記焼結処理の焼結温度が1100〜1300℃であることを特徴とする。
本発明の請求項1に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、焼結体を構成する無数の酸化イットリウム単結晶体により形成される粒界(結晶界面)に亜鉛(Zn)が偏析している構成となるので、相対密度が9%以上と緻密な構造となる。また、ドーパントとして亜鉛を用いているので、着色がなく白色ないし透明な機能性セラミックス材料となり、光学分野、電子材料分野、医療分野、表示デバイス・ディスプレイ分野、光通信分野、情報通信分野等において適用することができ、具体的には、レーザーロッド、導波路、多層膜、絶縁膜等の膜材料、各種放電灯用発光管等の放電ランプ用材料、超高温用透明炉心管、レーザーホスト材料、半導体製造装置のプラズマ監視用耐食窓材料、光通信における導波路型増幅器等に使用することができる。
本発明の請求項に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、焼結体における亜鉛の含有量を特定の範囲としているので、得られる焼結体において亜鉛が酸化イットリウムの粒界に確実に偏析することになり、前記した効果を効率よく奏することができる。
本発明の請求項に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、焼結体に3価のイオンとなる希土類元素をドープするようにしているので、アップコンバージョン発光が効率よく行われ、近赤外線照射により励起されてアップコンバージョン発光を呈するアップコンバージョン発光蛍光体として適用することができる。
請求項1記載の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法である本発明の請求項に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法は、出発物質として、酸化イットリウム粉末に亜鉛化合物を添加して亜鉛をドープするので、焼結体の粒界に亜鉛が偏析して焼結性が向上するため、従来の焼結方法と比較して低温で焼結しても、得られる焼結体を従来の焼結体と比較して緻密な構造とすることができ、相対密度が9%以上の密度の高い焼結体を提供可能とする。また、焼結温度が低いので、粒成長を起こさない状態で焼結化を実施することが可能となり、焼結体を構成する酸化イットリウムの粒径(平均結晶粒径)を小さく抑えることができる。
本発明の請求項に係る亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法は、出発物質となる酸化イットリウム粉体と亜鉛化合物等を混合してなる混合粉末を所望の形状にするに際し、混合粉末を加圧成形により圧粉体としているので、焼結体の緻密化が確実に行われるとともに、歩留まりもよく、寸法精度も良好な焼結体を提供することができる。
以下、本発明を説明する。本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体(以下、単に「焼結体」とすることもある。)は、多結晶構造の機能性セラミックス材料である。多結晶体(PolyCrstaline)とは、結晶のどの位置であっても結晶軸の方向が変わらない単結晶(Single Crstal、monocrstal)の集合体である。
多結晶体は、無数の単結晶体から構成されるので、隣接する単結晶体との間に粒界(結晶粒界)と呼ばれる界面が存在する。本発明の焼結体は、当該焼結体を構成する無数の酸化イットリウム単結晶体により形成される粒界に、亜鉛(Zn)が偏析して存在していることになる。本発明の焼結体を構成する酸化イットリウム(単結晶体)の平均結晶粒径は、概ね0.1〜2.0μm程度であり、かかる平均結晶粒径の単結晶体酸化イットリウムの集合体により形成される粒界に亜鉛が偏析して存在することにより、緻密な構造となり、高密度の多結晶焼結体となる。本発明の焼結体における相対密度は、焼結条件や焼結状態にもよるが、90%以上、概ね90〜99%あるいはそれ以上となる。
また、本発明の焼結体において、ドーパントとして亜鉛を用いることにより、亜鉛(Zn)イオンと酸化イットリウムの酸素との結合の様式に起因して、また、イオン化した状態において最外殻電子状態間で可視光による遷移が可能なエネルギー準位が存在しない等という理由により、焼結体の着色を防止することができ、レーザーやディスプレイなどの発光材料、高温窓等の窓材料、光通信における導波路型増幅器等といった着色を嫌う用途にも適用することができる。一方、亜鉛と同様な2価遷移金属であるニッケル(Ni)やマンガン(Mn)をドーパントとして用いた場合には、焼結体が灰色ないし黒色に着色されてしまうため、前記した用途には適用できない。
焼結体における亜鉛の含有量は、焼結体におけるイットリウム(Y)及び亜鉛(Zn)のモル数の合計を100とするモル分率で、亜鉛のモル分率=0.1〜2.0%(焼結体におけるイットリウム(Y)と亜鉛(Zn)のモル比として、Y/Zn=99.9/0.1〜98.0/2.0)とすることが好ましい。焼結体を構成する亜鉛のモル分率(イットリウムと亜鉛とのモル比)がかかる範囲であれば、得られる焼結体において亜鉛が酸化イットリウムの粒界に確実に偏析することになる。かかる亜鉛のモル分率は0.5〜1.5%(Y/Zn=99.5/0.5〜98.5/1.5)とすることが特に好ましい。
なお、焼結体には、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)に代表される、3価のイオンとなる希土類元素をドープするようにしてもよい。これらの希土類元素は、所定の範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能であるため、焼結体にドープすることにより、アップコンバージョン発光が効率よく確実に行われる。なお、これらの希土類元素は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
焼結体に前記の希土類元素をドープした場合の希土類元素の含有量は、焼結体におけるイットリウム、亜鉛、及び希土類元素のモル数の合計を100とするモル分率で、希土類元素のモル分率=0.1〜50%(焼結体における希土類元素(Ln)と、イットリウム(Y)及び亜鉛(Zn)のモル比として、Ln/Y+Zn=0.1/99.9〜50/50)とすることが好ましく、モル分率は0.01〜20.0%(Ln/Y+Zn=0.01/99.9〜20.0/80.0)とすることが特に好ましい。
なお、本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、他の焼結助剤、結合剤(バインダー)等の任意成分を適宜添加することができる。
本発明の酸化イットリウム焼結体は、例えば、出発原料となる酸化イットリウム粉体と亜鉛化合物を混合して得られた混合粉末を所望の形状とした後、1100℃以上で焼結処理することにより、簡便にかつ効率よく得ることができる。
(1)酸化イットリウム粉体と亜鉛化合物による混合粉末の調製:
本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法は、出発原料となる酸化イットリウム粉体と亜鉛化合物を混合して混合粉末を製造する工程を必要とする。亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の出発原料となる酸化イットリウム粉末は、例えば、平均結晶粒径が0.01〜1.0μm程度の酸化イットリウム粉末を使用すればよい。
ドーパント原料となる亜鉛化合物としては、原則として亜鉛化合物で焼結時に酸化物(酸化亜鉛)になるものであれば問題ないが、例えば、混合手段として湿式混合を採用する場合には、混合時に水溶性であることが好ましい。また、あまり酸性度が高い(例えば、pH6.4以上)では酸化イットリウム粉末が溶解してしまう場合があるので、弱酸性の塩を使用することが好ましく、例えば、酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))等を使用することができる。
酸化イットリウム粉末と亜鉛化合物は、製造される焼結体について、イットリウム(Y)と亜鉛(Zn)の関係が前記したモル比(モル分率)となるようにすることが好ましく、酸化イットリウム粉末におけるイットリウム、及び亜鉛化合物における亜鉛のモル数の合計を100とするモル分率で、亜鉛のモル分率=0.1〜2.0%(焼結体におけるイットリウム(Y)と亜鉛(Zn)のモル比として、Y/Zn=99.9/0.1〜98.0/2.0)とすることが好ましく、亜鉛のモル分率=0.5〜1.5%(Y/Zn=99.5/0.5〜98.5/1.5)とすることが特に好ましい。
なお、前記した出発原料には、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)に代表される、3価のイオンとなる希土類元素を加えるようにしてもよい。前記したように、これらの希土類元素は、所定の範囲内の波長の光により励起されてアップコンバージョン発光することが可能であるため、出発原料に添加することにより、得られる焼結体はこれらの希土類元素をドープしたものとなり、アップコンバージョン発光が効率よく確実に行われる。これらの希土類元素は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
出発原料に希土類元素を添加した場合にあっては、出発原料におけるイットリウム、亜鉛、及び希土類元素のモル数の合計を100とするモル分率で、希土類元素のモル分率=
0.1〜50%(焼結体における希土類元素(Ln)と、イットリウム(Y)及び亜鉛(Zn)のモル比として、Ln/Y+Zn=0.1/99.9〜50.0/50.0)とすることが好ましく、モル分率は0.01〜20.0%(Ln/Y+Zn=0.01/99.9〜20.0/80.0)とすることが特に好ましい。
出発原料となる酸化イットリウム粉末と亜鉛化合物等を混合するには、湿式混合や乾式混合等の公知の混合手段を採用することができる。このうち、湿式混合における溶媒としては、水あるいは非水系の溶剤、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤や、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤等を使用することができる。また、湿式混合や乾式混合にあっては、通常の撹拌処理に加えて、例えば、ボールミル、振動ミル、遊星ミル等の公知のミル装置を用いて混合するようにしてもよい。
混合粉末を調製するための混合時間は、出発原料の量等に応じて適宜決定することができ、例えば、3〜24時間の範囲内とすることができるが、これには限定されない。なお、得られた混合粉末は、水分を除去するために真空乾燥を施してもよい。また、造粒を実施するようにしてもよい。
(2)圧粉体の調製:
得られた混合粉末は、所望の形状とした後焼結処理がなされる。混合粉末を所望の形状(板状、角柱状、円柱状等の任意の形状であり、製造しようとする製品、部材の形状に由来する形状)とするには、混合粉末を加圧成形して圧粉体とすることが好ましい。混合粉末を加圧成形して圧粉体とすることにより、焼結体の緻密化が確実に行われ、また、歩留まりもよく、寸法精度も良好な焼結体となる。
圧粉体を得るには、従来公知の加圧成形法を用いればよく、例えば、冷間等方圧加圧法(Cold Isostatic Pressing:CIP)、熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing:HIP)等の加圧成形法を使用することができる。
これらの加圧成形法にあっては、加圧の際の圧力を概ね50MPa以上とすればよく、好ましくは100〜200MPaとすればよい。また、加圧時間は、圧粉体の大きさや形状等により適宜決定すればよいが、概ね10秒以上とすればよく、好ましくは0.5〜5分とすればよい。
なお、圧粉体を製造するには、前記したCIPやHIP等の加圧成形法を用いた成形を行う前に、一軸加圧成形、熱間等方圧加圧法等の公知の加圧成形方法を用いてあらかじめ仮成形を行い、所望の形状をある程度形成しておくようにしてもよい。
(3)亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造:
所望の形状とされた混合粉体は、1100℃以上で焼結処理がなされる。酸化イットリウム粉末と亜鉛化合物等の混合粉末からなる圧粉体は、焼結処理がなされることにより焼結・結晶化され、相対密度が90%以上、概ね90〜99%あるいはそれ以上の緻密な亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体となる。
焼結処理は、電気炉等の公知の加熱手段により実施することができる。これらの焼結処理は、大気雰囲気、真空雰囲気、酸素ガス中、窒素ガス雰囲気、水素ガス雰囲気、アルゴンガス(あるいはアルゴン水素ガス)等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
焼結処理は、焼結温度(保持温度)が1100℃以上であればよく、1100〜1300℃とすることが好ましく、1200〜1300℃とすることが特に好ましい。例えば、焼結温度を1100℃以上とすれば、相対密度が概ね90%以上、焼結温度を1200℃以上とすれば、相対密度が概ね99%以上の焼結体を簡便に得ることができる。なお、焼結温度を1300℃以上としても、得られる焼結体の相対密度に飛躍的な向上が見られない場合が多い一方で、エネルギーのロスに繋がることになる。また、焼結時間(保持時間)は、0.5〜6時間とすることが好ましく、2〜5時間とすることが特に好ましい。本発明の製造方法にあっては、出発物質として、酸化イットリウム粉末に微量の亜鉛化合物を添加して亜鉛をドープするので、焼結体の粒界に亜鉛(例えば亜鉛イオン(Zn2+))が存在して焼結性が向上するため、従来の焼結方法と比較して低温で焼結しても、得られる焼結体を従来の成形体と比べて緻密な構造とすることができ、密度の高い焼結体を提供可能とする。また、焼結温度が低いので、粒成長を起こさない状態で焼結化を実施することが可能となり、焼結体を構成する酸化イットリウムの粒径(平均結晶粒径)を小さく抑えることができる。
なお、本発明の製造方法で得られる亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体において、亜鉛化合物と酸化イットリウム粉末との焼結機構は液相生成を伴わない固相状態機構となる。また、得られる焼結体は等軸粒の組織となり、異常粒成長もなく、粒界には第二の結晶相粒子やアモルファス相は存在しないことになる。
本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、ドーパントとして亜鉛を用いることにより、焼結体を構成する無数の酸化イットリウム単結晶体により形成される粒界(結晶界面)に亜鉛(Zn)が偏析して存在している構成となるので、相対密度が90%以上、概ね90〜99%あるいはそれ以上と緻密な構造となり、また、着色がなく白色ないし透明な機能性セラミックス材料となる。そして、かかる本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、光学分野、電子材料分野、医療分野、表示デバイス・ディスプレイ分野、光通信分野、情報通信分野等において適用することができ、具体的には、レーザーロッド、導波路、多層膜、絶縁膜等の膜材料、各種放電灯用発光管等の放電ランプ用材料、超高温用透明炉心管、レーザーホスト材料、半導体製造装置のプラズマ監視用耐食窓材料、光通信における導波路型増幅器等に使用することができる。
また、本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体にさらに希土類元素をドープした場合は、近赤外線照射により励起されてアップコンバージョン発光を呈するアップコンバージョン発光蛍光体として適用することができ、例えば、造影剤、増感剤、映像表示デバイス、蛍光イムノアッセイプローブ、バイオイメージングプローブ、一分子イメージングプローブ等として、遺伝子診断分野、免疫診断分野、医療開発分野、環境試験分野、バイオテクノロジー分野、蛍光検査等における蛍光標識等として使用することができる。
以下、実施例、比較例及び参考例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
[実施例1]
亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造:
下記(1)〜(3)により、本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体を製造した。
(1)混合粉末の調製:
酸化イットリウム原料として市販酸化イットリウム粉末(イットリア粉末)(BB−type:信越化学工業(株)製、平均結晶粒径 20nm、純度99%)、ドーパント原料として酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))(Aldrich社製、純度99%)をそれぞれ用いた。酸化イットリウム粉末と酢酸亜鉛とのモル比が1/99(酸化イットリウム粉末におけるイットリウム、及び亜鉛化合物における亜鉛のモル数の合計を100とするモル分率が1.0%)となるように、酸化イットリウム粉末に酢酸亜鉛を添加して、ジルコニアボールを用いてエタノール中で24時間湿式混合した。湿式混合が終了したら、真空乾燥を施し、篩で増粒することにより酸化イットリウム粉末と酢酸亜鉛の混合粉末を調製した。
(2)圧粉体の調製:
(1)で得られた混合粉末を超硬合金製のダイス(直径10mm)に入れ、20MPaの一軸加圧によって円柱形状の仮成形体を成形した。得られた仮成形体に対して、圧力を120MPaとして冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧成形し、直径8mm、厚さ5mmの円柱形状の圧粉体を調製した。
(3)焼結体の調製:
(2)で得られた圧粉体を、大気炉を用いて、焼結処理の条件として、昇温速度を300℃として、1100〜1500℃で50℃ごと(ただし1150℃、1450℃を除く。)に各3時間保持することにより、実施例1の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体を調製した。
[比較例1]
ニッケルドープ酸化イットリウム焼結体の製造:
実施例1において、ドーパント原料として酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))の代わりに酢酸ニッケル(Ni(CHCOO)・4HO)(関東化学(株)製、純度98%)を使用した以外は実施例1に示した方法と同様な方法を用いて、比較例1のニッケルドープ酸化イットリウム焼結体を調製した。
[比較例2]
マンガンドープ酸化イットリウム焼結体の製造:
実施例1において、ドーパント原料として酢酸亜鉛(Zn(CHCOO))の代わりに酢酸マンガン(Mn(CHCOO)・4HO)(関東化学(株)製、純度99%)を使用した以外は実施例1に示した方法と同様な方法を用いて、比較例2のマンガンドープ酸化イットリウム焼結体を製造した。
[参考例1]
酸化イットリウム焼結体の製造:
実施例1において、ドーパント原料を使用せず、焼結処理として、焼結温度を1100〜1600℃(ただし1150℃、1450℃、1550℃を除く。)として50℃ごとに各3時間保持することとした以外は実施例1に示した方法と同様な方法を用いて、参考例1の酸化イットリウム焼結体を製造した。
実施例1、比較例1、比較例2及び参考例1で得られた焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定した。図1は、実施例1、比較例1、比較例2及び参考例1で得られた焼結体の焼結温度に対する相対密度を示した図である。参考例1で得られた、何もドープしない酸化イットリウム焼結体の相対密度は焼結温度が1600℃で97%であるのに対して、
比較例1のニッケルドープ酸化イットリウム焼結体や比較例2のマンガンドープ酸化イットリウム焼結体は焼結温度が1300℃で、実施例1の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は焼結温度が1230℃で相対密度が99%以上に達することが確認できた。以上の結果より、実施例1にあっては、酸化イットリウム粉体に対して亜鉛化合物をドープすることにより、酸化イットリウム焼結体を、参考例1等で用いた製造方法と比較して低温で容易に調製することが可能となる。
図2は、実施例1、比較例1、比較例2及び参考例1で得られた焼結体の外観写真を示した図である。なお、焼結温度は実施例1、比較例1及び比較例2は1500℃、参考例1は1600℃(いずれも3時間保持)として得られた焼結体である。図2に示すように、実施例1で得られた本発明の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体は、参考例1で得られた何もドープしない酸化イットリウム焼結体と同様、着色は見られなかった。一方、ニッケルをドープした比較例1のニッケルドープ酸化イットリウム焼結体及びマンガンをドープした比較例2のマンガンドープ酸化イットリウム焼結体は、灰色ないし黒色の着色が確認された。
また、実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の組織を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)(S−4200型走査型電子顕微鏡:(株)日立製作所製)及び高分解能透過型電子顕微鏡(High−Resolution Transmission Electron Microscopy:HRTEM)(EM−002BF:(株)トプコン製、加速電圧:200kV)で観察した。実施例1の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の組織をSEMで観察した結果、異常粒成長はみられず、等軸粒の組織が観測された。図3は、実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体のHRTEM像写真を示した図である。HRTEMによって粒界近傍の構造を観察した結果、粒界には第二相粒子やアモルファス相は観測されなかった。以上の結果より、酢酸亜鉛と酸化イットリウム粉末の焼結機構は、液相生成を伴わない固相状態機構であることが確認できた。なお、比較例1や比較例2で得られた焼結体も同様な傾向を示した。
実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体について、HRTEM−EDS(EM−002BF/P20/Noran Voyager:(株)トプコン製)を用いて粒界近傍の組成を分析した。図4は実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の粒界部におけるHRTEM−EDSによる分析結果を示した図である。また、図5は実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の粒内部におけるHRTEM−EDSによる分析結果を示した図である。図4及び図5に示すように、粒界の分析結果からは亜鉛(Zn)のピークが確認できるのに対して、粒内の分析結果からは亜鉛のピークは確認できなかった(なお、銅(Cu)ピークは、銅製の試料ホルダーに由来するものである。)。なお、比較例1や比較例2で得られた焼結体も同様な傾向を示した。以上の結果より、亜鉛のドープにより焼結性は向上することに加え、亜鉛の粒界偏析が焼結温度を低くできる等の焼結性向上の要因であることが確認できた。
本発明は、光学分野、電子材料分野、医療分野、表示デバイス・ディスプレイ分野、光通信分野等で適用される機能性セラミックスとして有利に使用することができる。
実施例1、比較例1、比較例2及び参考例1で得られた焼結体の焼結温度に対する相対密度を示した図である。 実施例1、比較例1、比較例2及び参考例1で得られた焼結体の外観写真を示した図である。 実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体のHRTEM像写真を示した図である。 実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の粒界部におけるHRTEM−EDSによる分析結果を示した図である。 実施例1で得られた亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の粒内部におけるHRTEM−EDSによる分析結果を示した図である。

Claims (5)

  1. 亜鉛が酸化イットリウムの粒界に偏析し
    相対密度が99%以上であり、
    前記亜鉛の含有量が、焼結体における前記イットリウム及び前記亜鉛のモル数の合計を100とするモル分率で、亜鉛のモル分率=0.1〜2.0%であることを特徴とする亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体。
  2. 前記焼結体が、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)群から選ばれる少なくとも1つ以上の希土類元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体。
  3. 請求項1記載の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法であって、
    酸化イットリウム粉体と亜鉛化合物を出発原料として、
    前記酸化イットリウム粉体におけるイットリウム、及び前記亜鉛化合物における亜鉛のモル数の合計を100とするモル分率で、亜鉛のモル分率=0.1〜2.0%とし、
    前記酸化イットリウム粉体と前記亜鉛化合物を混合して得られた混合粉末を加圧成形により圧粉体として所望の形状とした後、1100℃以上で焼結処理することを特徴とする亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法。
  4. 前記出発原料が、エルビウム(Er)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)群から選ばれる少なくとも1つ以上の希土類元素を含有することを特徴とする請求項3に記載の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法。
  5. 前記焼結処理の焼結温度が1100〜1300℃であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の亜鉛ドープ酸化イットリウム焼結体の製造方法。
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