JP5360939B2 - ニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする動脈硬化症治療剤 - Google Patents

ニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする動脈硬化症治療剤 Download PDF

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Description

本発明は、ニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする新規な動脈硬化症治療剤に関する。本発明の動脈硬化症治療剤は、動脈硬化の進展に大きな影響を与えるマクロファージの動脈内への浸潤を抑制できるため、更に動脈硬化に関連する疾患の予防又は治療剤として有用なものである。
ニフェジピン(NIF)は世界中で広く高血圧治療薬として使用されているカルシウム拮抗薬である。ニフェジピンは生体内でそのニトロ基がニトロソ基に変換されて、Caチャネル拮抗作用をほとんど示さないニトロソ−ニフェジピン(NO−NIF)となることが知られている(非特許文献1)。また、光照射下においても同様にニトロソニフェジピン (NO−NIF)に変化することが知られている。この代謝物のニトロソ−ニフェジピンの薬理作用については、細胞膜保護作用があることが報告されている(特許文献1)。また、そのメカニズムは、NO−NIFの持つラジカルの強い消去能であり、その結果、酸化ストレスの抑制効果を示すことが明らかにされている(非特許文献2〜4)。
しかしながら、上記のようにNO−NIFの抗酸化作用は知られているものの、マクロファージに対する作用や動脈硬化に対する効果は、まだ知られてはいなかった。
特開2007−91664号公報
マグネティック・レゾナンス・イン・メディシン(Magn.Reson.Med.)42:691−694,1999 ジャーナル・ファルマコロジカル・サイエンス(J. Pharmacol.Sci.)109,14−19(2009) ジャーナル・メデイカル・インベスディゲイション(J.Med.Invest.)58:118−126,2011 ケミカル・ファーマシュウテイカル・ブレタン(Chem.Pharm.Bull.)59(2)208−214(2011)
本発明は、新しい動脈硬化症治療剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、ニトロソニフェジピン誘導体に関して、アンジオテンシンII(AngII)存在下での血管リモデリングにおける研究を重ねた結果、これらのニトロソ化合物が、血管平滑筋細胞において、細胞膜を標的として酸化ストレスを抑制し、動脈硬化の進展を改善することを見出した。即ち、動脈硬化のモデルマウスとして、AngII負荷モデルマウスを使用し、ニトロソニフェジピン誘導体としてNO−NIFを使用して、その効果を検討したところ、次のような動脈硬化の抑制効果を見出した。
a)大動脈中膜肥厚および線維化を抑制した(図2)。
b)大動脈における血管リモデリングに関与するmRNA(p22phox、CD68、F4/80、MCP−1、コラーゲンI)の発現上昇を抑制した(図6)。
c)大動脈における活性酸素種(ROS)および尿中8−ヒドロキシ−2‘−デオキシグアノシン(8−OHdG)排泄量の増加を抑制した(図4と5)。
d)大動脈におけるICAM−1発現の増加が抑制され、細胞増殖マーカー(Ki67)を発現するKi67陽性細胞の数が抑制された(図7〜9)。
e)血圧上昇を抑制した(図3)。
上記のb)の結果を詳細に説明すれば、次のことを示している。
1)動脈硬化の進展に大きな役割を担うと考えられるマクロファージの表面に存在するマーカーと考えられているCD68とF4/80は、AngIIの負荷により増加するが、NO−NIFの同時投与により、コントロールの群と同程度のレベルに低下すること。
2)動脈硬化症部位にモノサイト・マクロファージを誘導すると考えられている蛋白質のMCP−1(monocyte chemoattractant protein−1)は、AngIIにより増加するが、NO−NIFの同時投与により、コントロールの群と同程度のレベルに低下すること。
3)動脈硬化層で増加するコラーゲン1の発現も、上記1)と2)と同様の傾向を示し、AngIIにより増加するが、NO−NIFの同時投与により、コントロールの群と同程度のレベルに低下した。
更に、AngIIの刺激により増殖した血管平滑筋細胞を用いてin vitro評価試験を行ったところ、NO−NIFの作用機序は以下のとおりであることを見出した。
f)血管平滑筋細胞の増殖と遊走は、NO−NIFの前処理により抑制された(図10と11)。
g)AngIIの刺激により増加したAktのリン酸化は、NO−NIFの前処理により抑制された(図12)。
h)AngIIの刺激により増加した細胞内CaイオンとPKCδのリン酸化は、NO−NIFの前処理を行っても抑制されなかった(図14と15)。
i)AngIIの刺激により増加した活性酸素種(ROS)とNADPHオキシダーゼ活性は、NO−NIFの前処理を行えば、apocyninと同程度の抑制効果を示した(図16と17)。
更に、NO−NIFが培養ラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)と反応して、NO−NIFラジカルを生成するか否かを検討した。その結果、NO−NIFとRASMCを反応させると、長期間(1〜18時間)、NO−NIFラジカルの存在が確認された。また、NO−NIFの投与により、RASMC細胞の細胞膜の流動性が上昇した(図18と19)。
上記in vivo試験とin vitro評価試験の結果から、図20に示されるように、NO−NIFは血管平滑筋細胞における遊走及び増殖を抑制し、さらにその上流のAkt、EGFRのリン酸化、ROSの産生を抑制している。一方、Caの経路に対してはNO−NIFは何の影響も与えないことが分かった。これらの結果から、NO−NIFは細胞膜においてNO−NIFラジカルに変化し、このNO−NIFラジカルがROSの増加を抑制することにより、その下流にある経路を抑制していることが示された。
即ち、上記の結果は、NO−NIFの投与により、動脈硬化を進展させる原因であるマクロファージの動脈内への浸潤を抑制し、血管内皮細胞の炎症や損傷を改善して、血管平滑筋細胞の遊走や増殖を抑制できていることを示している。その様子が、大動脈におけるROSと尿中8−OHdGの排泄量の抑制で表わされている。そして、全体としての病態改善の結果として、動脈硬化の病態である大動脈中膜肥厚および線維化を抑制できている。
以上のように、本発明者らは、NO−NIFの投与により、マクロファージの動脈内への浸潤を抑制することにより、内皮障害を抑制し動脈硬化の病態である大動脈中膜肥厚および線維化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)一般式(I):
[式中、Rは低級アルキル基、Rは置換または非置換低級アルキル基、X’は2−、3−または4−位におけるニトロソ基を表わす。]で示されるニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする動脈硬化症治療剤。
(2)一般式(I)におけるRが水素原子である、上記(1)に記載の動脈硬化症治療剤。
(3)ニトロソニフェジピン誘導体がニトロソ−ニフェジピンである、上記(1)に記載の動脈硬化症治療剤。
(4)動脈硬化症が大動脈中膜肥厚および線維化の病態である、上記(1)に記載の動脈硬化症治療剤。
(5)一般式(I):
[式中、Rは低級アルキル基、Rは置換または非置換低級アルキル基、X’は2−、3−または4−位におけるニトロソ基を表わす。]で示されるニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする、マクロファージの動脈内への浸潤抑制剤。
(6)一般式(I)におけるRが水素原子である、上記(5)に記載の浸潤抑制剤。
(7)ニトロソニフェジピン誘導体がニトロソ−ニフェジピンである、上記(5)に記載の浸潤抑制剤。
本発明のニトロソニフェジピン誘導体(I)は、動脈内へのマクロファージの浸潤を抑制し、それによって大動脈中膜の肥厚および線維化を抑制できる。このため、本発明のニトロソニフェジピン誘導体(I)は、動脈硬化症を予防及び/又は治療することが可能である。
AngII負荷モデルマウスを用いたin vivo評価実験のプロトコールを表わした図である。 NO−NIFの投与により、AngII負荷による大動脈の中膜肥厚と線維化が抑制できていることを示す図である。 NO−NIFの投与により、AngII負荷による血圧の上昇が抑制できていることを示す図である。 NO−NIFの投与により、AngII負荷による大動脈での活性酸素種(ROS)の増加を抑制できていることを示す図である。 NO−NIFの投与により、AngII負荷モデルマウスおける尿中の8−ヒドロキシ−2‘−デオキシグアノシン(8−OHdG)排泄量の増加が抑制できていることを示す図である。 NO−NIFの投与により、AngII負荷による大動脈での血管リモデリングに関わるmRNAの発現増加を抑制できていることを示す図である。 AngII負荷モデルマウスの大動脈における細胞増殖を増殖マーカーであるKi67の免疫染色によって確認した大動脈の断面図である。矢印はKi67陽性細胞を示している。 図7の大動脈に見出されるKi67陽性細胞数を数値化した図である。Ang IIにより増加したKi67の陽性細胞はNO−NIFの投与により有意に抑制することができた。即ち、NO−NIFは大動脈中膜において、AngIIによる細胞増殖を抑制することが示された。 AngII負荷モデルマウスの大動脈におけるICAM−1発現をウエスタンブロッティングにより確認した図である。大動脈において、AngIIにより増加したICAM−1蛋白の発現はNO−NIF投与により抑制された。 AngII刺激によって増加した血管平滑筋細胞の増殖がNO−NIFの前処置によって濃度依存的に有意に抑制されたことを表す図である。 AngII刺激によって増加した血管平滑筋細胞の遊走がNO−NIFの前処置によって濃度依存的に有意に抑制されたことを表す図である。 血管平滑筋細胞において、AngIIによる細胞の増殖・遊走に深く関与しているAktのリン酸化に対するNO−NIFの影響について検討した結果を表した図である。AngII刺激によって増加したAktのリン酸化はNO−NIFの前処置によって有意に抑制されている。 血管平滑筋細胞において、AngIIによる細胞の増殖・遊走に深く関与しているEGFRのリン酸化に対するNO−NIFの影響について検討した結果を表した図である。AngII刺激によって増加したEGFRのリン酸化はNO−NIFの前処置によって有意に抑制されている。 血管平滑筋細胞において、AngIIによるカルシウム濃度の上昇(Caシグナリング)に対するNO−NIFの影響について検討した結果を表す図である。上部の写真は、細胞内Caイオンの遊離の程度をFluo−4AM染色によって表したものである。下部のグラフは、上部の写真を数値化したものである。即ち、AngII刺激によって増加した細胞内CaイオンはNO−NIFの前処置を行っても、AngII拮抗剤(ARB)であるOlmesartanの前処置を行った場合のような抑制を示さなかった。 血管平滑筋細胞において、AngIIによるPKCδのリン酸化に対するNO−NIFの影響についてウエスタンブロットによって検討を行った結果を表した図である。AngII刺激によって増加したPKCδのリン酸化は、NO−NIFの前処置によって変化しなかった。これにより、NO−NIFは、AngIIによる細胞内Caイオン濃度の上昇及びPKCδのリン酸化を抑制しないことが示された。 血管平滑筋細胞において、AngII刺激によって増加した活性酸素種(ROS)は、NO−NIF前処置によってNADPH oxidase阻害剤であるApocyninを処置した場合と同程度にまで抑制された。このように、NO−NIFは、AngIIによるROSの発生を抑制することが示された。 血管平滑筋細胞において、NADPH oxidase活性をルシゲニン化学発光法により確認したところ、AngII刺激によって増加したNADPH oxidase活性は、NO−NIFの前処置によりApocyninを処置した場合と同程度にまで抑制された。このように、NO−NIFは、AngIIによるNADPH oxidase活性の亢進を抑制することが示された。 NO−NIFがラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)と反応してNO−NIFラジカルを生成するか否かをEPR法を用いて確認した結果を表した図である。NO−NIFをRASMCと反応後、1時間から18時間の間でNO−NIFラジカルの存在を示すピークが確認された。 NO−NIFをRASMCと反応させた後、RASMCから細胞膜のみ抽出し、その流動性を蛍光偏光解消法により測定した結果を表した図である。縦軸は蛍光異方性を、横軸は温度を示しており、グラフが下に傾くほど流動性が高いことを示している。NO−NIFの処置により、細胞膜の流動性が上昇していることが示された。 本図は、細胞におけるNO−NIFの作用機序を模式的に表した図である。即ち、in vitro試験の結果、NO−NIFは血管平滑筋細胞における遊走及び増殖を抑制したこと、更にその上流のAkt、EGFRのリン酸化を抑制し、ROSの産生を抑制している。一方、NO−NIFは、Caの経路に対しては何の影響も与えていないことが示された。これらのことから、NO−NIFは細胞膜においてNO−NIFラジカルに変化し、このNO−NIFラジカルがROSの増加を抑制することで、その下流にある経路を抑制していると考えられた。以上のことをまとめて記載したのが本図である。
本発明の「ニトロソニフェジピン誘導体」とは、一般式(I):
[式中、Rは低級アルキル基、Rは置換または非置換低級アルキル基、X’は2−、3−または4−位におけるニトロソ基を意味する。]
で示される1,4−ジヒドロピリジン化合物を表わすものである。
上記一般式(1)において、R基の低級アルキル基としては炭素数1〜4個の直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基またはイソプロピル基である。
基の置換または非置換低級アルキル基における低級アルキル基としては炭素数1〜4個の直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基またはイソブチル基である。またその置換基としては、炭素数1〜3個の直鎖アルコキシ基(例えばメトキシ基)、フリル基、または低級アルキル基および/またはフェニル低級アルキル基によりモノまたはジ置換されてたアミノ基(例えば、N−メチル−N−フェニルメチルアミノ)等が挙げられる。
一般式(I)の1,4−ジヒドロピリジン化合物の好ましい具体例は、ニトロソ−ニフェジピン(一般式(I)中、R:−CH、R:−CH、X’:2−NO・)、ニトロソ−ニソルジピン(一般式(I)中、R:−CH、R:−CH(CH、X’:2−NO・)ニトロソ−ニモジピン(一般式(I)中、R:−CH(CH、R:−(CHOCH、X’:3−NO・)、ニトロソ−ニカルジピン(一般式(I)中、R:−CH、R:−(CH)N(CH)(CH)、X’:3−NO・およびニトロソ−ニトレンジピン(一般式(I)中、R:−CH、R:−CHCH、X’:3−NO・)である。
本発明のニトロソニフェジピン誘導体(I)は、対応するニトロ置換フェニル−1,4−ジヒドロピリジン化合物を紫外線照射処理することにより容易に製造される〔ヤネッツら、バイオオルガニック・メディシナル・ケミストリィ(Yanez C.,et al. Bioorg.Med.Chem.)2004,12(9):2459−68を参照〕。
本発明の動脈硬化症治療剤は、1,4−ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と同様に経口製剤、非経口製剤(注射剤等)として用いることができ、それら製剤は、その有効成分のニトロソニフェジピン誘導体(I)を通常の医薬製剤と同様に処方することにより製造される。
そのような製剤の具体例としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤、静注、筋注などの注射剤、点滴静注剤等が挙げられ、それら製剤は通常用いられる医薬用担体を用いて調製される。
上記医薬用担体としては、医薬分野において常用され、かつ本発明のニトロソニフェジピン誘導体(I)と反応しない物質が用いられる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤の製造に用いられる医薬用担体の具体例としては、乳糖、トウモロコシデンプン、白糖、マンニトール、硫酸カルシウム、結晶セルロースのような賦形剤、カルメロースナトリウム、変性デンプン、カルメロースカルシウムのような崩壊剤、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンのような結合剤、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油のような滑沢剤が挙げられる。錠剤は、通常のコーティング剤を用い、周知の方法でコーティングしてもよい。
シロップ剤製造に用いられる担体の具体例としては、白糖、ブドウ糖、果糖のような甘味剤、アラビアゴム、トラガント、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、結晶セルロース、ビーガムのような懸濁化剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80のような分散剤が挙げられる。
注射剤は、通常、ニトロソニフェジピン誘導体(I)を注射用蒸留水に溶解して調製するが、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加することができる。更に、該化合物を注射用蒸留水又は植物油に懸濁した懸濁性注射剤の形であってもよく、必要に応じて基剤、懸濁化剤、粘調剤等を添加することができる。
本発明の有効成分のニトロソニフェジピン誘導体の投与量は投与方法、患者の症状・年齢等によっても異なるが、対応する1,4−ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と同程度の用量でよく、また血圧や心機能に対する作用がないことからより高用量で投与することもでき、通常大人で1日当たり数mg〜百数十mg、好ましくは20mgから60mg程度で1日1回または数回に分けて投与することができる。
以下、実施例および試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。
(実施例1)ニトロソニフェジピン(NO−NIF)の合成
ニフェジピン(和光純薬製)をメタノールに溶解し、25mMニフェジピンメタノール溶液(500mL)を調製する。この溶液にハロゲン光(Kodak Ektagraphic III E Plus projector)を7時間照射する。それによって黄色のニフェジピン溶液は徐々に緑色に変色する。光照射後、メタノールをエバポレーターで減圧下除去し、析出する結晶を冷メタノールで洗浄する。得られる結晶をメタノールで再結晶して、ニトロソ−ニフェジピン(NO−NIF)を得る。その生成物をNMRスペクトル、元素分析により同定する。HPLCにより測定した純度は>99.9%であった。
(実施例2)動脈硬化症のモデルマウスに対するNO−NIFの作用
(1)実験材料:
C57BL/6Jマウス(雄性)を日本CLEAから購入。
アンジオテンシンII(AngII)は株式会社ペプチド研究所社より購入。
使用する抗体は市販のものを使用。
(2)試験方法:
a)投与方法:
10週令の雄性C57BL/6Jマウスを2群に分け、それぞれにAngIIを含有するオスモティックミニポンプ(アルゼット社)を皮下に留置して慢性投与する。AngIIの投与量は、1.44mg/kg/dayで、投与期間は2週間である。同時に、NO−NIFを含有する溶液を評価群に腹腔内投与し、NO−NIFを含有しない溶液をコントロール群に腹腔内投与した。NO−NIFの投与量は、30mg/kg/dayで、投与期間は2週間である。
b)効果の測定:
1)血管リモデリング評価:
マウスを薬殺(ペンタバルビタール、腹腔内投与)し、胸部大動脈を採取し、4℃のパラホルムアルデヒド中に一夜浸漬して固定する。10μmの厚さの切片に切断し、マッソン・トリクローム(Masson trichrome)染色を行なった。
2)血圧測定:
マウスの尾静脈の血圧をテイル・カッフ(Tail cuff)法により測定した。
3)活性酸素種(ROS)測定:
活性酸素種の測定は、DHE染色法を用いて実施した(Mol Endcrinol24:1338−1348,2010)。採取された大動脈組織をOCT化合物中で凍結させ、切断して、ガラス・スライドに設置する。切片を暗室内でPBS(10mmol/l)中、ジヒドロエチジュウムで処理し、保湿容器中で室温下30分静置する。切片にカバーグラスを掛けて、大動脈組織を蛍光顕微鏡を用いて観察、評価した。
4)尿中8−OHdG排泄量の測定:
尿中の8−OHdG排泄量は、10および12週令のマウスで測定された。尿サンプルは24時間分が集められた。尿中の8−OHdGの排泄量は、ELIZA法(酵素結合の免疫吸着アッセイ・キット)を使用し、手順書(伏見製薬)に従い測定した。
5)血管リモデリング関与のmRNAの発現濃度の定量的測定:
大動脈組織から、RNAが採取され、先行文献(Mol Endcrinol24:1338−1348,2010)に基いてcDNAが合成された。定量的リアルタイムPCRを行い、プライマーとして次の表1のものを使用した。
6)大動脈中膜における細胞増殖抑制:
動脈硬化に際して生じる大動脈中膜の細胞増殖の変化を増殖マーカーKi67の免疫染色法により測定した。
7)大動脈における白血球の浸潤抑制:
血管に白血球が浸潤するための促進因子である接着因子(ICAM−1)の発現変化を測定するため、ウェスタンブロティング法により測定した。
(3)測定結果:
1)血管リモデリング評価:
図2に示されるように、AngIIの慢性負荷により、大動脈の中膜が肥厚し線維化することが分かった。即ち、大動脈内の青い部分が繊維化した部分であり、その内側のピンクの部分が中膜の部分である。コントロールやNO−NIF投与群より、AngIIのみを投与した群では、青い部分やピンクの部分が厚くなっていた。即ち、NO−NIF投与により、AngIIによる中膜肥厚と繊維化が抑制されたことを示している。
2)血圧評価:
図3に示されるように、NO−NIFの投与により、AngIIによる血圧上昇が抑制された。このことは、AngIIによる、血管平滑筋の中膜肥厚と繊維化が抑制されたため(動脈硬化が抑制されたため)、血圧が上昇し難くなったと考えられる。
更には、NO−NIFが内皮細胞の機能も保護する作用があるため、内皮から遊離される血管弛緩因子(nitric oxide やプロスタグランジンIなど)の濃度が維持される。その結果も反映して、血圧が上昇し難くなっていると考えられる。
3)活性酸素種(ROS)の評価:
ジヒドロエチイジウム(Dihydroethidium)染色で、大動脈での活性酸素種の産生を見たが、図4の左図に示されるように、AngIIの投与にも係らず、NO−NIFは活性酸素種の産生を抑制することが示された。
4)尿中8−OHdG排泄量の評価:
図4の右図に示されるように、全身の酸化ストレスのマーカーの一つである、尿中8−OHdGは、AngIIの投与にも係らず、NO−NIFの投与により排泄量増加が抑制された。
5)血管リモデリング関与のmRNAの発現濃度の評価:
図6に示されるように、NO−NIFの投与により、大動脈において血管リモデリングに関わるmRNA発現が抑制された。
即ち、AngIIのみの投与では、NADPH oxidaseの構成成分であるp22phoxの発現は増加するが、NO−NIFの投与により、コントロールと同程度に低下することが分かった。また、マクロファージの表面に存在するマーカーであるCD68とF4/80は、動脈硬化の進展に大きな役割を担うと考えられている。そして、AngIIの投与により増加するが、NO−NIFの投与によりコントロールと同程度に低下することが示された。更に、動脈硬化症部位にモノサイト・マクロファージを誘導する蛋白のMCP−1(monocyte chemoattractant protein−1)は、AngII負荷や酸化ストレスにより、血管内皮細胞にて発現が増加することが知られている。本発明でも、AngIIの負荷によりMCP−1が増加するが、NO−NIFの同時投与により、コントロールと同程度に低下することが示された。同様に、動脈硬化層で増加するコラーゲン1の発現も、AngIIの負荷により増加するが、NO−NIFの同時投与により、コントロールと同程度に低下することが示された。
6)大動脈中膜における細胞増殖抑制作用の評価:
AngIIの投与により、増殖マーカーKiを発現する大動脈中膜の陽性細胞数は増大したが、NO−NIFの投与により、大動脈中膜のKi陽性細胞数は有意に抑制された。
7)大動脈における白血球の浸潤抑制作用の評価:
AngIIの投与により、大動脈血管表面においてICAM−1の発現が増加した。しかし、NO−NIFの投与により、大動脈表面でのICAM-1発現の増加が抑制された。
(実施例3)AngII刺激により増加した培養ラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)に対するNO−NIFの作用
(1)実験材料:
・培養ラット大動脈平滑筋細胞(RASMC):
雄性SDラットの大動脈よりexplant法にて培養ラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)を得た(Biochem Biophys Res Commun.;293:1458-1465. 2002)。RASMCは10% FBSを含んだDulbecco‘s Modified Eagle Medium(DMEM)にて培養した。全ての実験は継代数5−9の細胞を用い、無血清DMEMを48時間処置した後に行った。
・細胞増殖、遊走等の測定キット、化学発光試薬、抗体、他使用した試薬類は市販のものを購入し用いた。
(2)試験方法:
1)細胞遊走能の測定
ボイデンチャンバー法にて測定した(Hypertens
Res.;27:433-440. 2004)。NO−NIFにて6時間前処置し、AngII添加3時間後に遊走細胞数を測定した。
2)細胞増殖能の測定
MTTアッセイ(Roche
Diagnosticsにて購入)にて手順書の通り測定した。NO−NIFを6時間前処置し、AngII添加48時間後の生細胞数を測定した。
3)免疫沈降法
NO−NIFおよびAngIIにて刺激された細胞溶解液から、免疫沈降法を用いてEGFR蛋白を特異的に分離・回収し、ウエスタンブロッティング法に用いた。
4)蛋白リン酸化測定
Akt、EGFR、PKC−δの各種蛋白のリン酸化および総蛋白量はウエスタンブロット法にてリン酸化特異的抗体を用いて検出した。
4)細胞内ROS測定
RASMCにおける細胞内ROS測定にはDHE法を用いた。NO−NIFを6時間またはapocyninを30分間処置した後、DHEを5μM添加し、37℃暗室下にて15分間静置した。さらにAngIIにて10分間刺激した後DHEの蛍光(励起波長545nm、放出波長605nm)を測定した。
5)NADPH
oxidase活性測定
ルシゲニン化学発光法を用いNADPH
oxidase活性を測定した(Cardiovasc Res.;71(2):331-41. 2006)。NO-NIFを6時間またはapocyninを30分間処置した後、AngIIで2時間刺激した場合の発光量を測定した。各測定値は蛋白濃度で補正した。
6)細胞内遊離Ca2+測定
細胞内遊離Ca2+測定はfluo-4 AM(インビトロジェンより購入)を用い、手順書に従い行った。NO-NIFを6時間またはolmesaltanを30分間前処置した後、fluo-4 AMを処置した。AngIIで刺激し、刺激前の蛍光強度、刺激後の最大蛍光強度をそれぞれFmin、Fmaxと定義した。Ca2+イオノフォアであるionomycin
を10μM処置した時のFmaxとFminの差を100%とし、それぞれFmaxとFminの差の減少率を算出した。
7)NO−NIFラジカルの生成
NO−NIFをRASMCに添加し、EPR法を用いて先行論文(Chem. Pharm. Bull. 59(2)
208−214 (2011))に従い測定した。
8)細胞膜流動性測定
細胞膜の流動性は、1,6−ジフェニルヘキサ−1,3,5−トリエン(DPH)を用い蛍光偏光解消法で測定した。10μMのNO−NIFで6時間処置されたRASMCを1
mLのホモジネートバッファー(HB)(0.25Mショ糖バッファー(pH 7.5), 10mM Tris−HCl,1mM
phenylmethylsulfonyl fluoride)に懸濁した。懸濁液をボールベアリングホモジナイザー(クリアランス12μm)を用いてホモジナイズし、その細胞溶解液を1,000×g、10分間、4℃で遠心した。沈殿を300mLのHBに再懸濁し、500×g、10分間、4℃で遠心した。上清に、最終濃度4μMのDPHを加えて40分間室温でインキュベーションした後、2.2mLの10mM
Tris−HCl(pH 7.5)を加えた。35℃から40℃のDPHの蛍光異方性は自動蛍光偏光解消装置FP−715(JASCO,
Tokyo, Japan)を用いて測定した。励起波長は360nm、蛍光波長は430nmとした。定常状態の蛍光異方性(γ)はγ=(IVV−IVHG)/(IVV+2IVHG)で算出した。(※IVVとIVHは垂直方向の蛍光強度、それぞれ垂直(IVV)と水平(IVH)の偏光で励起した時の蛍光強度。Gは装置固有の補正値。)
(3)測定結果:
NO−NIFは、in vitro試験の結果、図10〜図19に示されるように、血管平滑筋細胞における遊走及び増殖を抑制したこと、更にその上流のAkt及びEGFRのリン酸化を抑制し、ROSの産生を抑制していることが示された。一方、NO−NIFは、Caの経路に対しては何の影響も与えていないことが示された。これらのことから、NO−NIFは、図20に示されるように、細胞膜上でNO−NIFラジカルに変化し、このNO−NIFラジカルがROSの増加を抑制することで、その下流にある経路を抑制していることが示された。この作用機序により、NO−NIFは動脈血管の平滑筋中膜の肥厚と線維化を抑制し、動脈硬化の諸症状を改善することができると考えられる。
本発明の動脈硬化症治療剤は、動脈内にマクロファージの浸潤を抑制し、動脈血管の平滑筋中膜の肥厚と線維化を抑制することができる。これにより、動脈硬化の諸症状を改善することができる。これらのことから、ニトロソニフェジピン誘導体を母核化合物とする、これまでになかった新規な動脈硬化症治療剤を提供することができるようになった。

Claims (2)

  1. ニトロソニフェジピンを有効成分とする動脈硬化症治療剤
  2. 動脈硬化症が大動脈中膜肥厚および線維化の病態である、請求項1に記載の動脈硬化症治療剤。
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