JP5360933B2 - ニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする糖尿病性腎症治療剤 - Google Patents
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Description
ニフェジピン(NIF)は世界中で広く高血圧治療薬として使用されているカルシウム拮抗薬である。ニフェジピンは生体内でそのニトロ基がニトロソ基に変換されて、Caチャネル拮抗作用をほとんど示さないニトロソニフェジピン(NO−NIF)となることが知られている(非特許文献1)。また、光照射下においても同様にニトロソニフェジピン(NO−NIF)に変化することが知られている。この代謝物のニトロソニフェジピンの薬理作用については、細胞膜保護作用があることが報告されている(特許文献1)。また、そのメカニズムは、NO−NIFの持つラジカルの強い消去能であり、その結果、酸化ストレスの抑制効果を示すことが明らかにされている(非特許文献2〜4)。
一方、酸化ストレスの亢進が糖尿病合併症の成因であるとされており、酸化ストレス亢進が糖尿病性腎症の発症に関与していることが報告されている(非特許文献5)。ビタミンEなどの抗酸化剤の効果が検討されているが、充分な効果は出ていない。また、特許文献2で示される抗酸化剤であるNO-NIFに関しても、糖尿病性腎症に対する治療効果は、これまで全く報告がされていない。
a)図1と2に示すように、尿中アルブミンおよび尿中タンパク質の排出量増加を抑制する。
b)図3に示すように、腎糸球体直径の伸長および糸球体係蹄面積の拡大を抑制する。
c)図10に示すように、尿中の8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8−OHdG)の増加を抑制する。
d)図11に示すように、腎臓における活性酸素種(ROS)の産生を抑制する。
e)図12に示すように、腎臓におけるTNF−αのmRNA発現上昇を抑制する。
f)図5〜6に示すように、耐糖能、インスリン抵抗性、血圧に関して影響を与えない。
g)図7〜9に示すように、脂肪細胞の肥大と白色脂肪細胞の組織重量の増加に対して影響を与えない。
(1)一般式(1):
(2)一般式(1)におけるR1、R2がそれぞれメチル基である、上記(1)に記載の糖尿病性腎症治療剤。
(3)ニトロソニフェジピン誘導体がニトロソニフェジピンである、上記(1)に記載の糖尿病性腎症治療剤。
(5)一般式(1)におけるR1、R2がそれぞれメチル基である、上記(4)に記載の抑制剤。
(6)ニトロソニフェジピン誘導体がニトロソニフェジピンである、上記(4)に記載の抑制剤。
本発明の第一の態様は、ニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする糖尿病性腎症の治療剤に関するものである。
本発明の「ニトロソニフェジピン誘導体」とは、一般式(1):
で示されるピリジン化合物を表わすものである。
R2基の置換または非置換低級アルキル基における低級アルキル基としては炭素数1〜4個の直鎖または分枝鎖アルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基またはイソブチル基である。またその置換基としては、炭素数1〜3個の直鎖アルコキシ基(例えばメトキシ基)、フリル基、または低級アルキル基および/またはフェニル低級アルキル基によりモノまたはジ置換されたアミノ基(例えば、N−メチル−N−フェニルメチルアミノ)等が挙げられる。
本発明のニトロソニフェジピン誘導体の内、より好ましいものとしては、R1とR2がそれぞれメチル基のものであり、更に好ましくは、X’が2位のニトロソ基である、ニトロソニフェジピン(NO−NIF)を挙げることができる。
本発明の糖尿病性腎症治療剤は、1,4−ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と同様に経口製剤、非経口製剤(注射剤、経皮製剤等)として用いることができ、それら製剤は、その有効成分のニトロソニフェジピン誘導体(1)を通常の医薬製剤と同様に処方することにより製造される。
そのような製剤の具体例としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤、静注、筋注などの注射剤、点滴静注剤等が挙げられ、それら製剤は通常用いられる医薬用担体を用いて調製される。
上記医薬用担体としては、医薬分野において常用され、かつ本発明のニトロソニフェジピン誘導体(1)と反応しない物質が用いられる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤の製造に用いられる医薬用担体の具体例としては、乳糖、トウモロコシデンプン、白糖、マンニトール、硫酸カルシウム、結晶セルロースのような賦形剤、カルメロースナトリウム、変性デンプン、カルメロースカルシウムのような崩壊剤、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンのような結合剤、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油のような滑沢剤が挙げられる。錠剤は、通常のコーティング剤を用い、周知の方法でコーティングしてもよい。
注射剤は、通常、ニトロソニフェジピン誘導体(1)を注射用蒸留水に溶解して調製するが、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加することができる。更に、該化合物を注射用蒸留水又は植物油に懸濁した懸濁性注射剤の形であってもよく、必要に応じて基剤、懸濁化剤、粘調剤等を添加することができる。
本発明の第二の態様は、ニトロソニフェジピン誘導体を有効成分とする尿中タンパク質と尿中アルブミンの排出量の増加抑制剤に関するものである。
本発明の「尿中タンパク質と尿中アルブミンの排出量の増加抑制剤」とは、尿中タンパク質と尿中アルブミンの排出量の増加を共に抑制する薬剤と言うことである。即ち、腎臓障害に基づき腎臓の糸球体が損傷を受けると、血中のタンパク質とアルブミンが尿中に排出されることになる。糸球体の損傷の程度が大きければ、尿中に排出されるタンパク質とアルブミンの量が増大する。本発明のニトロソニフェジピン誘導体は、腎臓障害の進行を抑制し、あるいは腎臓障害を治癒して、糸球体の損傷拡大を抑制または阻止する薬物である。その結果、図1と2に示されるように尿中タンパク質と尿中アルブミンの排出量の増加が抑制されることになる。
本発明のニトロソニフェジピン誘導体の作用機序としては、図11に示されるように腎臓における活性酸素種(ROS)の産生を抑制し、酸化ストレスを抑制できるためと考えられる。その結果、腎臓組織におけるTNF−αの産生が図12に示すように抑制されている。このことは、酸化ストレスのマーカーである尿中8−OHdGの排出量が顕著に抑制されていることからも明らかとなっている。
ニフェジピン(和光純薬製)をメタノールに溶解し、25mMニフェジピンメタノール溶液(500mL)を調製する。この溶液にハロゲン光(Kodak Ektagraphic III E Plus projector)を7時間照射する。それによって黄色のニフェジピン溶液は徐々に緑色に変色する。光照射後、メタノールをエバポレーターで減圧下除去し、析出する結晶を冷メタノールで洗浄する。得られる結晶をメタノールで再結晶して、2−ニトロソ−ニフェジピン(NO−NIF)を得る。その生成物をNMRスペクトル、元素分析により同定する。HPLCにより測定した純度は>99.9%であった。
(1)実験材料:
C57BL/6マウス(雄性)、KKAyマウス(雄性)を日本CLEAから購入した。
使用する抗体は市販のものを使用。
(2)試験方法:
a)投与方法:
糖尿病性腎症のモデルマウスとして12週令の雄性KKAyマウスを用いた。また、比較対象として12週令の雄性C57BL/6マウスを使用した。
上記マウスをそれぞれ2群に分け、その一方にNO−NIFの投与を行なった。まず、NO−NIFを1%CMC−生理食塩液に懸濁し、30mg/kg/dayの投与量で4週間連日腹腔内投与を行った。同時に、NO−NIFを含有しない溶液をコントロール群に同様に投与した。
1)尿中蛋白の排出量の測定:
尿中タンパク排泄量は公知のBradford法を用いて測定した。
2)尿中アルブミン量の測定:
尿中アルブミン排泄量は公知のELISA法を用いて測定した。
3)メサンギウム領域の拡大測定:
メサンギウム領域の拡大は腎糸球体をPAS染色することによって評価した。
4)尿中8−OHdGの測定:
尿中の8−OHdG排泄量は、上記マウスから排出された24時間分の尿サンプルを使用し、ELIZA法(酵素結合の免疫吸着アッセイ・キット)により、手順書(伏見製薬)に従い測定した。
5)腎臓での活性酸素種(ROS)の測定:
活性酸素種の測定は、DHE染色法を用いて実施した(Mol Endcrinol24:1338−1348,2010)。採取された腎臓組織をOCT化合物中で凍結させ、切断して、ガラス・スライドに設置する。切片を暗室内でPBS(10mmol/l)中、ジヒドロエチジュウムで処理し、保湿容器中で室温下30分静置する。切片にカバーグラスを掛けて、腎臓組織を蛍光顕微鏡を用いて観察、評価した。
6)腎臓でのTNF−αのmRNAの測定:
遺伝子発現はReal−Time PCRにより確認した。まず、腎臓組織から、RNAを採取し、先行文献(Mol Endcrinol24:1338−1348,2010)に基いてcDNAが合成された。定量的リアルタイムPCRを行い、プライマーとしてロシュ社のTNF−αプライマーセットを使用した。
随時血糖値およびグルコース負荷試験における血糖値は、自己検査用グルコース測定器を用いて測定した。
8)血圧の測定:
マウスの尾静脈の血圧をテイル・カッフ(Tail cuff)法により測定した。
9)脂肪細胞の肥大の測定:
脂肪細胞の肥大はHE染色にて測定・評価した。
1)尿中蛋白と尿中アルブミン量について:
図1と図2に示されるように糖尿病性腎症のモデルマウス(KKAyマウス)では、コントロール群では尿中タンパク排泄量および尿中アルブミン排泄量が増加する。しかし、NO-NIF投与群ではKKAyマウスにおける尿中タンパク排泄量および尿中アルブミン排泄量は増加しなかった。
2)腎糸球体直径の伸長および糸球体係蹄面積の拡大について:
図3と図4に示されるようにKKAyマウスでは、コントロール群では腎糸球体直径の伸長および糸球体係蹄面積の拡大が観察されるが、NO−NIF投与群では抑制されていた。
3)尿中8−OHdGについて:
図10に示されるように尿中の8−OHdG排泄量は、NO−NIF投与群では抑制され、増加することはなかった。
4)腎臓での活性酸素種(ROS)とTNF−αのmRNAについて:
図11と図12に示されるように腎臓におけるROS産生とTNF−αのmRNA発現は、NO−NIF投与群では抑制され、増加することはなかった。
図6に示されるようにKKAyマウスにおいて、コントロール群とNO−NIF投与群との間で、耐糖能、インスリン抵抗性に関する差はなく、NO−NIFが影響を与えないことが分った。
6)血圧について:
上記の耐糖能等と同様に、図5に示されるようにNO−NIFは血圧に対して何の影響も示さなかった。
9)脂肪細胞の肥大等の測定:
図7に示されるようにKKAyマウスにおいて、コントロール群とNO−NIF投与群が共に腎重量および白色脂肪細胞組織(WAT)重量の増加を生じ、投与の有無で差が見られなかった。即ち、NO−NIFは、腎重量とWAT重量の増加に対して影響を示さなかった。
図8と図9に示されるようにKKAyマウスにおいて、コントロール群とNO−NIF投与群が共に脂肪細胞の肥大を生じ、投与の有無で差が見られなかった。即ち、NO−NIFFは、脂肪細胞の大きさ(肥大)に対して影響を示さなかった。
即ち、本発明のニトロソニフェジピン誘導体は、糖尿病治療において血糖コントロール困難な症例に対しても腎障害抑制効果を示し、糖尿病性腎症による透析導入を防ぐ新たな治療薬であることが示された。
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