JP5358821B2 - 椅子 - Google Patents

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Description

本発明は、椅子、特にオフィス等において使用される椅子に関するものである。
従来より、金属パイプ材を主体としたフレーム構造体に座や背凭れを支持させてなる椅子が知られている。
このような椅子として、着座者の着座姿勢に応じて背凭れを傾動可能にしたいわゆる背チルト機能を有する椅子も開発されている。
そして、背凭れを後傾させた際(背凭れに着座者が凭れ掛かった際)に、背シェルのうち、着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部を局所的に前方へ突出するように弾性変形させる態様も別途考えられている(例えば下記特許文献1参照)。
特許公報第3834500号公報
しかしながら、上記特許文献に開示されている背シェルは、上下方向の中間部に正面視U字形のスリットを設け、このスリットによって囲まれた領域を、受ける荷重に応じて局所的に前方へ突出させる態様であるため、着座者が背凭れに体重を掛けて背凭れを後傾させた場合に、腰部が局部的に前方に押し出される。また、背シェルのうち、スリットに囲まれた部位と、当該部位の両側方の部位とで変形状態が大きく異なるため腰部に段差を感じるなど、着座者に違和感を与えることが考えられる。
また、背凭れに着座者が凭れ掛かった際に、背シェルのうち、着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部を局所的に前方へ突出するように弾性変形させる他の態様として、ランバーサポート部を前方に突出せるための専用の機構を設けた椅子も考えられているが、この種のものは、構造の複雑化を招来する上、着座者(使用者)に特別な操作を強いるものとなり、使い慣れるまでに時間も要し、実用性に劣るという問題がある。
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、背チルト機能を有する椅子において、背凭れに荷重が掛かっていない通常状態から背凭れを後傾させた背チルト状態への移行に伴って、背シェル全体を撓み変形させながらランバーサポート部を前方へ突出させるようにし、背中や腰部が局部的に前方に押し出されるような違和感を着座者に与えることのない椅子を提供することにある。
すなわち、本発明の椅子は、弾性変形可能な背シェルを有する背凭れと、当該背シェルのうち着座者の腰部を支持するランバーサポート部よりも上方の部位を支持する傾動フレームと、前記背シェルの下部を支持する支持体とを備えてなり、前記傾動フレームと支持体とを枢着し、当該枢着点を前記背シェルの下端部側における後方に設定し、当該枢着点を中心に前記傾動フレームが前記支持体に対して後傾する動作に伴って、前記背シェルが前記ランバーサポート部を相対的に前方へ突出させるように全体的に湾曲変形する椅子であって、前記傾動フレームが前記枢着点から下方に延出し背凭れが起立姿勢をとる通常状態において前記支持体の上部と側面視異なる方向に伸びるオーバーハング部を備えたものであり、当該オーバーハング部と前記支持体の上部との間に、前記傾動フレームの後傾動作に伴って前記オーバーハング部に押圧され反発力を蓄積するコイルバネを利用した弾性体を配していることを特徴とする。
このようなものであれば、着座者が背凭れに体重を掛けた場合に、傾動フレームが背シェルの下端部側における後方に設定した枢着点を中心に後傾し、これに伴って背シェルのうち傾動フレームに支持されている上部側が後方へ反り返る一方、背シェルのうち支持体に支持されている下部側は後傾動作前の位置に留まるため、背シェルの上部と下部との間の領域、具体的にはランバーサポート部が自ずと相対的に前方へ突出するように背シェル全体が弓なりに撓み変形し、背中や腰部が局部的に不自然な状態で前方に押し出されるような違和感を着座者に与えることを解消又は抑制して、着座者に良好な凭れ心地を与えることができる。また、背シェルに特別な構造が不要であり、背シェルの構造単純化を図ることができるとともに、ランバーサポート部が背シェルの左右巾方向全域に亘って全体的に弾性変形可能であるため、背シェルに正面視U字形のスリットを設けた態様の場合に懸念される上記不具合、すなわち、スリットに囲まれた部位と、当該部位の両側方の部位とで変形状態が大きく異なり、着座者に違和感を与えることをも解消することができる。しかも、背凭れを後傾させた状態において、背シェルのランバーサポート部が他の部材によって後方から直接支持されていない態様、換言すれば、背シェル自体の弾性のみによって着座者の腰部を支持する態様であるため、ランバーサポート部を他の部材や機構によって後方から押圧支持して前方に突出させている態様であれば着座者に与え得る腰部の違和感を解消又は抑制し、着座者に無理のない自然な腰当り感を与えるものとなる。また、ランバーサポート部を前方に突出せるための専用の機構が不要となり、椅子自体の構造の簡素化をも図ることができ、背凭れに体重を掛ける程度に応じてランバーサポート部の前方への突出量も変化するため、別途専用の操作部を操作することなく、着座者は自身の体重の掛け方を変更することによって好みの腰当り感が得られるランバーサポート部の突出量に設定することができる。
また、前記傾動フレームが前記枢着点から下方に延出し通常状態において前記支持体の上部と側面視異なる方向に伸びるオーバーハング部を備えたものであり、当該オーバーハング部と前記支持体の上部との間に、前記傾動フレームの後傾動作に伴って前記オーバーハング部に押圧され反発力を蓄積するコイルバネを利用した弾性体を配しているので、傾動フレームが支持体に対して後傾する背チルト動作専用の反力機構を、傾動フレームと支持体との枢着点近傍領域内に集約することができ、簡潔な構造となる。
加えて、前記支持体が、脚フレーム構造体と、前記脚フレーム構造体に下端部を固定し、且つ上端部に前記傾動フレームの下端部を枢支させたベースフレームとを備えたものであれば、従来から使用されている脚フレーム構造体に、ベースフレームを固定するだけで本発明の椅子に適用可能な支持体を構成することが可能となり、他の椅子の脚フレーム構造体との共用化を有効に図ることができる。
ランバーサポート部が傾動に干渉することによってランバーサポート部の前方への凸変形が抑制されることを防止するには、前記傾動フレームと前記背シェルの前記ランバーサポート部との間に、前記背凭れの後傾動作時における前記シェルの湾曲変形を許容する空間を形成すればよい。
さらに、前記傾動フレーム又は前記支持体の少なくとも一方が、前記背シェルを高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持するものであれば、着座者が背凭れに体重を掛けて、傾動フレームが枢着点を中心に後傾した際に、背シェルが傾動フレーム又は支持体の少なくとも一方の部材に対して高さ方向にスライド移動することによって、背シェル全体の湾曲変形をスムーズに行わせることができる。
また、前記傾動フレームが、前記背シェルの前記ランバーサポート部よりも上方の部位であって且つ左右巾方向略中央部のみを支持するものであれば、背シェルの両側端部がフリーな状態になり、樹脂製の板状部材である背シェルが着座者の背荷重を支える強度に構成されたものであっても、背シェルの左右両端部に荷重を掛けた場合にはその荷重に応じて柔軟に大きく撓ませることができる。このように、背シェルの捻れ変形を許容し、着座者の体重の掛け方や背中の動きに応じた背シェルの3次元的な変形が可能となる。
着座者が背シェルに体重を掛けて傾動フレームが枢着点を中心に後傾した際、背シェル全体が湾曲変形しながらランバーサポート部を確実に前方へ突出させることができるようにするには、前記背シェルの変形特性を方向付けるために前記背シェルの前記ランバーサポート部に、当該ランバーサポート部の周辺部位よりも部分的に変形し易くした変形惹起手段を設けることが好ましい。
変形惹起手段の好適な実施態様としては、前記背シェルの左右巾方向に延びる一又は複数のスリットによって変形惹起手段を構成した態様が挙げられる。
以上説明したように本発明によれば、背チルト機能を有する椅子において、背凭れに荷重が掛かっていない通常状態から背凭れを後傾させた背チルト状態への移行に伴って、背シェル全体を撓み変形させながらランバーサポート部を前方へ突出させるようにし、背中や腰部が局部的に無理矢理前方に押し出されるような違和感を着座者に与えることのない椅子を提供することができる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る椅子1は、図1に示すように、支持フレーム2(本発明の「支持体」に相当)と、支持フレーム2に固定した座3と、下端部を支持フレーム2に回転可能に取り付けた傾動フレーム4と、上部及び下部をそれぞれ傾動フレーム4及び支持フレーム2に支持させた背シェル51を主体としてなる背凭れ5とを備えた椅子である。
支持フレーム2は、左右一対の前脚フレーム21と、左右一対の後脚フレーム22と、前後方向に対向する前脚フレーム21と後脚フレーム22との上端部同士を連結する左右一対の第1連結フレーム23と、後脚フレーム22の上端部近傍部位同士を連結する第2連結フレーム24と、前脚フレーム21の上端部近傍部位同士を連結する図示しない第3連結フレームとを備えた脚フレーム構造体を主体としてなり、さらに、傾動フレーム4を支持するためのベースフレーム25を備えたものである。なお、前記左右一対の第1連結フレーム23同士の間に、これら第1連結フレーム23と共に座3の裏面を直接支持し得る座支持フレームを設けている(図示省略)。本実施形態では、脚フレーム構造体を構成する前脚フレーム21、後脚フレーム22、第1連結フレーム23、第2連結フレーム24、及び第3連結フレームを金属製のパイプ材から構成している。本実施形態の脚フレーム構造体は、既存の他の椅子の脚フレーム構造体を適用しており、このような脚フレーム構造体にベースフレーム25を一体的に設けることにより本発明の支持体として機能する支持フレーム2を成形している。
ベースフレーム25は、第2連結フレーム24の左右巾方向中央部に下端部をそれぞれ溶接等の適宜の手段により固定した左右一対のベースフレーム本体251を有するものである。各ベースフレーム本体251は、概略板状をなし、高さ方向中央部を下端部及び上端部よりも後方に突出するように屈曲させた側面視形状を有する。
座3は、当該座3に掛かる荷重を均等に支持する構造部材としての役割を担う座シェルからなるものである。なお、座シェルの上方に設けられる座クッションと、座クッションを被覆する座クッションカバーとを具備したものであってもよい。
背凭れ5は、着座者の上半身全体を支持し得るサイズを有するものであり、この背凭れ5に掛かる荷重を均等に支持する構造部材としての役割を担う背シェル51からなるものである。なお、背シェル51の前方に設けられる背クッションと、この背クッションを被覆する背クッションカバーとを備えたものであっても構わない。
背シェル51は、樹脂製からなる弾性板状体を主体として構成され、上部及び下部を高さ方向中央部よりも後方に突出させ、且つ左右両側縁部を左右巾方向中央部よりも前方に突出させた3次元形状をなすものである。背シェル51のうち着座者の腰部を支持し得るランバーサポート部51Lよりも上方の領域、より具体的には背シェル51の高さ方向中央部よりも上方の領域には、多数の開口511を設け、背シェル51の所定領域において開口511が占める割合である開口率が、背シェル51の上縁部及び両側縁部に向かって漸次大きくなるように設定している。以下の説明において、背シェル51のうち、開口511を設けた領域全体を「背シェル上部51T」と称す。つまり、背シェル51は、図4等に示すように、背シェル上部51Tと、背シェル51の高さ方向中央部である背シェル中央部51Sと、背シェル中央部51Sよりも若干下方に位置するランバーサポート部51Lと、ランバーサポート部51Lよりも下方の領域である背シェル下部51Uとを一体に有するものである。背シェル中央部51S、ランバーサポート部51L及び背シェル下部51Uの平面視における湾曲面の曲率は同じであり、この曲率を、背シェル上部51Tの平面視における湾曲面の曲率よりも大きく設定している。そして、図2(同図は図1に対応するものであり、背シェル51のみを左右巾方向中央縦断面で模式的に示す図である)に示すように、相対的に曲率が大きい背シェル中央部51S、ランバーサポート部51L及び背シェル下部51Uは、相互に連続する弓なりに湾曲した形状となる一方、相対的に曲率が小さい背シェル上部51Tは、高さ方向に沿って略直線状となる。なお、背シェル中央部51Sと背シェル上部51Tとは不連続線512を境界にして相互に連続している。
背シェル51のランバーサポート部51Lには、当該ランバーサポート部51Lの周辺部位よりも部分的に変形し易くした変形惹起手段513を設けている。本実施形態では、変形惹起手段513として、左右巾方向に延びるスリット513aを適用している。スリット513aは単数であっても複数であってもよく、本実施形態では、高さ方向に所定間隔空けてなる上下一対のスリット513aを設けている。
背シェル上部51Tには、図3(同図は図1のX領域における背シェル51と傾動フレーム4との組み付け態様を示すべく、背シェル上部51Tを傾動フレーム4に組み付ける前段階の状態を模式的に示す図である)に示すように、後方に突出し後述する傾動フレーム4の上端部に形成したスライド係合孔41に係合可能な係合部514を一体又は一体的に設けている。なお、図3では、背シェル上部51Tの開口511を省略している。係合部514は、概略ブロック状をなし、先端部(背シェル51の背面から離れた側の端部)に鍔部514aを一体に有するものである。
背シェル下部51Uには、図5等に示すように、後方に突出し前記ベースフレーム25の上端部に支持される被支持部515を一体又は一体的に設けている。本実施形態では、背シェル下部51Uにおける下端部、つまり背シェル51の下端部に左右一対の薄板状の被支持部515を設けている。
傾動フレーム4は、図1等に示すように、背シェル51のうち着座者の腰部を支持するランバーサポート部51Lよりも上方の部位、具体的には前記背シェル上部51Tを支持するものであり、ベースフレーム25との枢着点(後述する支軸X1)を前記背シェル51の下端部側における後方に設定し、当該枢着点を中心に傾動フレーム4がベースフレーム25に対して傾動動作(チルト動作)可能に構成したものである。この傾動フレーム4は、前記左右一対のベースフレーム本体251同士の間に挟まれる巾寸法を有し、上端部及び下端部を高さ方向中央部よりも後方に向かって突出させた側面視略くの字状をなすものである。傾動フレーム4の上端部には、図3に示すように、背シェル上部51Tに設けた前記係合部514がスライド係合可能なスライド係合孔41を形成している。スライド係合孔41は、係合部514の鍔部514aが挿脱可能な大孔部41aと、この大孔部41aの上方に連続して設けられ、大孔部41aから挿入した鍔部514aが抜け外れない状態で係合部514の相対スライド移動を許容し得る小孔部41bとから構成される。小孔部41bの高さ寸法を大孔部41aの高さ寸法よりも大きく設定し、スライド係合孔41に対する係合部514の相対スライド移動しろを確保している。
傾動フレーム4の下端部には左右巾方向に貫通する挿通孔が形成されており、この挿通孔と各ベースフレーム本体251の上端部に設けた挿通孔とを相互に連通させた状態で支軸X1を挿通させることにより、傾動フレーム4が、支軸X1(本発明の「枢着点」に相当)を中心として後傾動作可能なものとなる。本実施形態では、支軸X1が、背シェル51の下端部側における後方に配されるように設定している。さらに、傾動フレーム4は、前記枢着点(支軸X1)よりも下方に延出するオーバーハング部42を備え、当該オーバーハング部42とベースフレーム25との間に、傾動フレーム4の後傾動作に伴って反力を発生する本発明の弾性体たるコイルバネ6を配している。本実施形態では、前記各ベースフレーム本体251のうち屈曲させた部位よりも若干下方側の部位同士の間にベースフレーム本体251を連結する連結軸252を架け渡した状態で固定し、この連結軸252にコイルバネ6の一端部を支持させ、コイルバネ6の他端部を傾動フレーム4のオーバーハング部42に支持させている。また、各ベースフレーム本体251の上端部近傍部位に、前記背シェル51の被支持部515をビス止め等の適宜の手段によって相対角度変更不能に固定している。
なお、傾動フレーム4及びベースフレーム25には、それぞれ後方又は下方から傾動フレームカバー体及びベースフレームカバー体(図示省略)が被せられ、直接外観できないようにしてある。
背シェル上部51T及び背シェル下部51Uをそれぞれ傾動フレーム4の上端部及びベースフレーム25の上端部に支持させた状態において、背シェル51と傾動フレーム4との間には空間が形成される。
次に、上述した各部材から構成される本実施形態に係る椅子1の使用方法及び作用について説明する。
本実施形態に係る椅子1は、図1に示すように、背凭れ5が起立姿勢をとる通常状態(S)と、図4に示すように、通常状態(S)において着座者が背凭れ5に体重を掛けることにより、傾動フレーム4が支軸X1(本発明の枢着点)を中心に後傾し、これに伴って背シェル51全体が側面視において弓なりに湾曲変形する背チルト状態(T)とを少なくともとり得るものである。
通常状態(S)にある場合、弾性板状体を主体としてなる背シェル51は、その弾性に抗して側面視弓なりに湾曲した形状に保持されている。
このような通常状態(S)にある椅子1に対して着座者が背凭れ5に体重を掛けた場合、傾動フレーム4が支軸X1を中心として支持フレーム2(具体的にはベースフレーム25)に対して後傾する。この傾動フレーム4の後傾動作に伴って背シェル51のうち傾動フレーム4に支持された背シェル上部51Tには後方へ反り返ろうとする力が作用する一方で、ベースフレーム25に支持された背シェル51の下端部は、後傾しないベースフレーム25によって通常状態(S)における位置に留まろうとするため、背シェル51は背シェル上部51Tと背シェル下部51Uとの間の部位を前方へさらに突出させるようにさらに弓なりに湾曲変形する。本実施形態では、背シェル51のランバーサポート部51Lに変形惹起手段513、具体的にはスリット513aを設けているため、背シェル51全体が弓なりに湾曲変形する際、スリット513aの開口高さを狭める方向にランバーサポート部51Lが変形し、その結果、当該ランバーサポート部51Lが、通常状態(S)にある場合と比較して相対的に前方へ突出する。背チルト状態(T)においても背シェル51のうち傾動フレーム4に支持されていない部位(中央部51Sやランバーサポート部51L)と傾動フレーム4との間には空間が形成されている。また、本実施形態では、背シェル上部51Tを傾動フレーム4に高さ方向に相対スライド移動可能に係合支持させており、傾動フレーム4が後傾する際に、背シェル上部51Tに設けた前記係合部514を、傾動フレーム4の上端部に形成したスライド係合孔41内において当該スライド係合孔41に対する係合状態が解除されない範囲で高さ方向に相対スライド移動させることによって、傾動フレーム4の後傾動作に追従して背シェル51全体がスムーズに湾曲変形できるようにしている。本実施形態の椅子1は、背シェル51のうち平面視における湾曲面の曲率が他の部位よりも小さく、高さ方向に沿って略直線状をなす背シェル上部51Tの領域内において傾動フレーム4の上端部を相対スライド移動させる態様であるため、当該スライド移動を安定した状態でスムーズに行うことが可能となる。
椅子1の通常状態(S)から背チルト状態(T)への移行に伴って、傾動フレーム4のオーバーハング部42が、当該オーバーハング部42とベースフレーム25との間に介在するコイルバネ6を反発力を蓄積する方向に押圧する。したがって、着座者が背中を背凭れ5から離す、つまり上半身を起こすと、コイルバネ6の反発力によって傾動フレーム4が後傾する前の通常姿勢に自ずと復帰し、椅子1が背チルト状態(T)から通常状態(S)に戻ることになる。また、椅子1が通常状態(S)から背チルト状態(T)に移行した際、通常状態(S)における形状よりもさらに弓なりに湾曲変形した背シェル51の弾性復帰力が傾動フレーム4を前方へ引っ張り戻す方向に付勢する力として作用する。したがって、椅子1が背チルト状態(T)にある場合に、着座者がさらにランバーサポート部51Lに体重を掛けると前記付勢力がさらに増大し、この付勢力と前記コイルバネ6の反発力とが相俟って、着座者が背中を背凭れ5から離す、つまり上半身を起こした際に、傾動フレーム4はその動作に追従して後傾する前の通常姿勢に素早く自動復帰することになる。
このように、本実施形態に係る椅子1は、背シェル51のうちランバーサポート部51Lより上方の部位、具体的には背シェル上部51Tを支持する傾動フレーム4と、背シェル51の下端部を支持するベースフレーム25との枢着点(支軸X1)を背シェル51の下端部側における後方に設定しているため、着座者が背凭れ5に体重を掛けた場合に、傾動フレーム4が枢着点(支軸X1)を中心に後傾し、これに伴って背シェル51のうち上部側が後方へ反り返り、その結果、背シェル51の上部と下部との間の領域、具体的にはランバーサポート部51Lが自ずと前方へ突出する方向に湾曲変形し、着座者に良好な凭れ心地を与えることができる。しかも、背チルト状態(T)において、ランバーサポート部51Lが他の部材によって後方から支持されていない態様、換言すれば、背シェル51自体の弾性のみによって着座者の腰部を支持する態様であるため、ランバーサポート部51Lを他の部材や機構によって後方から押圧支持して前方に突出させている態様であれば着座者に与え得る腰部の違和感を解消又は抑制し、着座者に無理のない自然な腰当り感を与えるものとなる。さらに、背シェル51の上部に体重を掛ける程度に応じてランバーサポート部51Lの前方への突出量も変化するため、別途専用の操作部を操作することなく、着座者は自身の体重の掛け方を変更することによって好みの腰当り感が得られるランバーサポート部51Lの突出量に設定することができ、構造の簡素化及び使い勝手の向上を同時に図ることができる。
特に、傾動フレーム4が、枢着点(支軸X1)よりもさらに下方に延出するオーバーハング部42を備えたものであり、当該オーバーハング部42とベースフレーム25との間に、傾動フレーム4の後傾動作に伴って反力を発生するコイルバネ6を配しているため、背チルト用の反力機構を傾動フレーム4とベースフレーム25との枢着点(支軸X1)近傍領域内に集約したコンパクトなものとすることができる。
加えて、傾動フレーム4と背シェル51のランバーサポート部51Lとの間に空間が形成されるように設定しているため、ランバーサポート部51Lが傾動フレーム4に干渉することによってランバーサポート部51Lの前方への凸変形が抑制されることを確実に防止することができる。
また、傾動フレーム4が、背シェル51を高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持するものであるため、着座者が背シェル51に体重を掛けて、傾動フレーム4が枢着点(支軸X1)を中心に後傾した際に、背シェル51が傾動フレーム4に対して高さ方向にスライド移動することによって背シェル上部51Tの後方への反り返りを許容し、背シェル51全体が弓なりに撓む変形動作をスムーズに行わせることができる。
さらに、背シェル51の左右巾方向略中央部にのみ単一の傾動フレーム4を配しているため、背シェル51の両側端部が開放されたものとなり、背シェル51の捻れ変形を許容し、着座者の体重の掛け方に応じた背シェル51の3次元的な撓み変形が可能となる。なお、本実施形態では、背シェル上部51Tに複数の開口511を形成しているため、これら複数の開口511の存在が、着座者の肩付近を支持し得る背シェル上部51Tのスムーズな捻れ変形の実現に大いに寄与している。さらに付言すれば、所定領域において開口511が占める割合である開口率を、背シェル51の上縁部及び両側縁部に向かって漸次大きくなるように設定していることも背シェル上部51Tのスムーズな捻れ変形の実現に寄与している。
背シェル51の変形特性を方向付けるために背シェル51のランバーサポート部51Lに、ランバーサポート部51Lの周辺部位よりも部分的に変形し易くした変形惹起手段513を設けているため、傾動フレーム4が枢着点(支軸X1)を中心に後傾した際に、背シェル51全体が湾曲変形しながらランバーサポート部51Lを確実に前方へ突出させることができる。特に、本実施形態では、背シェル51の左右巾方向に延びる複数のスリット513aによって変形惹起手段513を構成しているため、変形惹起手段513を極めて簡単な方法で実現できる。
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、傾動フレーム4が枢着点(支軸X1)から所定方向に延出するオーバーハング部42を備え、オーバーハング部42とベースフレーム25との間に、傾動フレーム4の後傾動作に伴って反力を発生する弾性体(コイルバネ6)を配した態様を例示したが、これに替えて、ベースフレームを、傾動フレームとの枢着点からさらに所定方向(例えば上方)に延出するオーバーハング部を備えたものとし、当該オーバーハング部と傾動フレームとの間に、傾動フレームの後傾動作に伴って反力を発生する弾性体を配した態様としても構わない。
また、傾動フレームの後傾動作に伴って反力を発生する弾性体として、板バネや、軸方向を椅子の左右巾方向と略一致させ、両端部を相互に軸中心から離反する方向に延出させたいわゆる巻きバネ、或いはゴムを適用してもよい。さらに、傾動フレーム又はベースフレームの何れか一方のフレームに設けたオーバーハング部が、傾動フレームの後傾動作に伴ってオーバーハング部と他方のフレームとの間に介在する弾性体を反発力を蓄積する方向に引っ張るものであっても勿論構わない。
また、前記実施形態では、傾動フレーム4が、背シェル上部51Tを高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持する態様を例示したが、これに替えて、支持体(具体的にはベースフレーム)が、背シェルの下部を高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持するものであってもよく、或いは、傾動フレーム及び支持体の何れもが、背シェルを高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持するものであっても構わない。すなわち、背シェルと傾動フレーム及び/又は支持体との相対スライド移動を許容するスライド係合機構を、傾動フレームと背シェルとの間にのみ設けた態様、又は支持体と背シェルとの間にのみ設けた、或いは傾動フレームと背シェルとの間及び支持体と背シェルとの間にそれぞれ設けた態様、これら何れの態様であっても構わない。さらに、スライド可能な距離は仕様等に応じて適宜設計変更すればよい。前記実施形態では、係合孔に係合部を係合させる態様を例示したが、係合孔に替えて係合溝を適用しても構わない。加えて、スライド係合機構として、背シェル側に係合孔又は係合溝等の係合凹部を一体に設け、傾動フレーム及び/又は支持体側に係合凹部にスライド係合可能な係合凸部を設けた態様を採用してもよい。その一例として、図5に示すように、背シェル51(背シェル上部)の背面に、下方にのみ開口するポケット状の係合凹部514’を一体に設ける一方、傾動フレーム41に、前記係合凹部514’に下方から挿入可能な側面視L字状をなす上向きの係合係合凸部41’を設け、傾動フレーム4の後傾動作に伴って、係合凸部41’と係合凹部514’との係合状態が解除されない範囲で係合凸部41’に対する係合凹部514’の呑み込み量を少なくさせることにより、背シェル51が傾動フレーム41に対して高さ方向にスライド移動し得るようにした態様が挙げられる。この場合、背シェルを傾動フレームに上方から落とし込むことによって係合凹部と係合凸部とを相互に係合させることができ、組み付け作業を簡単に行うことができる。
また、背シェルの両側縁部又は両側縁部近傍部位に、それぞれ傾動フレームを配した態様としてもよい。つまり、傾動フレームを複数(3以上も含む)備えた椅子であっても構わない。この場合、支持体が、傾動フレームの数と同数のベースフレームを備えたものとすればよい。
変形惹起手段として、背シェルの左右巾方向に延びるスリットに替えて、薄肉部(薄肉ヒンジ)や、背シェルの両側縁からそれぞれ左右巾方向中央に向かって切り欠いた切欠部や、背シェルの左右巾方向に沿って等間隔又は間欠的に設けた複数の孔を適用してもよい。
また、支持体が、背シェルの下端部ではなく下端部近傍部位を支持するものであっても構わない。
支持体として、前脚フレーム及び後脚フレームの下端部にキャスタを設けたもの、又は前脚フレームと後脚同士の下端部同士を連結する連結フレームを備えたものを適用してもよい。さらには、支持体として、前記実施形態に示すベースフレームを備えないものを適用してもよく、この場合には、脚フレーム構造体の一部に傾動フレームを枢支させる、或いは背シェルの下端部又は下端部近傍を支持させるようにすればよい。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
本発明の一実施形態に係る椅子(通常状態)の側面を一部省略して模式的に示す図。 図1において背シェルのみを左右巾方向中央縦断面で模式的に示す図。 図1のX領域における背シェルと傾動フレームとの組み付け態様を模式的に示す図。 同実施形態において背チルト状態にある椅子を図1に対応させて示す図。 同実施形態におけるスライド係合機構の一変形例を図1及び図4に対応させて模式的に示す図。
符号の説明
1…椅子
2…支持体(支持フレーム)
25…ベースフレーム
4…傾動フレーム
42…オーバーハング部
5…背凭れ
51…背シェル
513…変形惹起手段
513a…スリット
51L…ランバーサポート部
6…弾性体(コイルバネ)
X1…枢着点(支軸)

Claims (7)

  1. 弾性変形可能な背シェルを有する背凭れと、
    当該背シェルのうち着座者の腰部を支持するランバーサポート部よりも上方の部位を支持する傾動フレームと、
    前記背シェルの下端部又は下端部近傍部位を支持する支持体とを備え、
    前記傾動フレームと支持体とを枢着し、当該枢着点を前記背シェルの下端部側における後方に設定し、当該枢着点を中心に前記傾動フレームが前記支持体に対して後傾する動作に伴って、前記背シェルが前記ランバーサポート部を相対的に前方へ突出させるように全体的に湾曲変形する椅子であって、
    前記傾動フレームが前記枢着点から下方に延出し背凭れが起立姿勢をとる通常状態において前記支持体の上部と側面視異なる方向に伸びるオーバーハング部を備えたものであり、当該オーバーハング部と前記支持体の上部との間に、前記傾動フレームの後傾動作に伴って前記オーバーハング部に押圧され反発力を蓄積するコイルバネを利用した弾性体を配していることを特徴とする椅子。
  2. 前記支持体が、脚フレーム構造体と、前記脚フレーム構造体に下端部を固定し、且つ上端部に前記傾動フレームの下端部を枢支させたベースフレームとを備えたものである請求項1記載の椅子。
  3. 前記傾動フレームと前記背シェルの前記ランバーサポート部との間に空間を形成している請求項1又は2記載の椅子。
  4. 前記傾動フレーム又は前記支持体の少なくとも一方が、前記背シェルを高さ方向にスライド移動可能に係合させた状態で支持するものである請求項1、2又は3記載の椅子。
  5. 前記傾動フレームが、前記背シェルの前記ランバーサポート部よりも上方の部位であって且つ左右巾方向略中央部のみを支持するものである請求項1、2、3又は4記載の椅子。
  6. 前記背シェルの変形特性を方向付けるために前記背シェルの前記ランバーサポート部に、当該ランバーサポート部の周辺部位よりも部分的に変形し易くした変形惹起手段を設けている請求項1、2、3、4又は5記載の椅子。
  7. 前記変形惹起手段が、前記背シェルの左右巾方向に延びる一又は複数のスリットである請求項記載の椅子。
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