沸騰水型原子炉で用いられる従来の制御棒の構造及びこれが設置される環境について説明する。沸騰水型原子炉は、複数の燃料集合体が装荷された炉心を原子炉圧力容器内に有している。これらの燃料集合体内に存在する核燃料物質に含まれたウラン235が、中性子を吸収して核分裂を起こし、熱を発生する。炉心に供給された炉水(冷却水)は、その熱によって加熱されて沸騰し、一部が蒸気になる。炉心内では、上記の核分裂によって新たに発生する中性子が他のウラン235を分裂させる連鎖反応が起きている。
核分裂の連鎖反応量を制御するため、中性子吸収材を内部に収納する制御棒が利用される。このうち、沸騰水型原子炉で通常使用される制御棒は、横断面が十字形をしており、4体の燃料集合体のチャンネルボックスの相互間に形成される間隙(飽和水領域)内に挿入される。4体の燃料集合体にて構成される1つのセル当たり1体の制御棒が設けられる。原子炉圧力容器内でほぼ1つのセル毎にそれら4体の燃料集合体の下方に、制御棒案内管が配置される。制御棒は、セル内の4体の燃料集合体の各チャンネルボックス、及び制御棒案内管をガイド部材として利用する。また、制御棒は、下端部が制御棒駆動機構に連結され、制御棒駆動機構の駆動操作によって炉心に挿入され、炉心から引抜かれる。制御棒は、反応度制御及び出力分布の調整に用いられる重要機器である。
沸騰水型原子炉に用いられる従来の制御棒の構造を簡単に説明する。この制御棒は、ハンドルがタイロッドの上端部に、落下速度リミッタがタイロッドの下端部にそれぞれ接合され、タイロッドの中心軸に位置するタイロッドから四方に伸びる4枚のブレードを有している。各ブレードは、タイロッドに取り付けられた、横断面がU字状になっているシースを有し、このシース内に、中性子吸収部材である複数のハフニウム楕円管を配置している(例えば、特開平9−61576号公報及び特開2009−41994号公報参照)。
ハフニウム部材を用いた上記の制御棒では、シース内に、横断面が楕円形で、タイロッドの軸方向長さの約半分の軸方向長さを有する4本のハフニウム楕円管が、シース内に配置されている。4本のハフニウム楕円管のうち2本のハフニウム楕円管の上端部が、固定用ピンによって、ハンドルの下端に設けられた2つの舌状部にそれぞれ取り付けられている。残りの2本のハフニウム楕円管の下端部が、固定用ピンによって、下部支持部材(または落下速度リミッタ)の上端に設けられた2つの舌状部にそれぞれ取り付けられている。下部支持部材(または落下速度リミッタ)に取り付けられた2本のハフニウム楕円管は、ハンドルに取り付けられた2本のハフニウム楕円管の下方に配置される。
近年、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒においてのシース表面に微小なひびが生じる事象が報告されている。このひびが、応力、腐食及び放射線照射の3つの環境要因が重畳した時に発生する照射誘起型応力腐食割れ(IASCC:Irradiation Assisted Stress Corrosion Cracking)であると考えられている。
特開2009−41994号公報が、制御棒のシースに発生する照射誘起型応力腐食割れを抑制する制御棒を提案している。この制御棒は、シースの内面に対向する、ハフニウム楕円管の両側の各側面に、窪みを形成し、シース内面とハフニウム楕円管の側面の間に形成された間隙の幅を部分的に拡げている。シース内面とハフニウム楕円管の側面の間に形成された間隙の幅を部分的に拡げることによって、この間隙における腐食生成物の堆積を防止し、シースに発生する照射誘起型応力腐食割れを抑制している。
発明者らが、特開2009−41994号公報に記載された制御棒を検討した。この結果、シースとハフニウム楕円管の間に形成される間隙内で、ハフニウム楕円管を舌状部に取り付けている固定用ピンの周囲に高ボイド率領域が形成されることが判明し、さらに、固定用ピンとシース内面との間に形成される間隙に、シース内に流入する冷却水に含まれる不純物及び腐食生成物が蓄積する可能性があることが分かった。固定用ピンとシース内面との間の、不純物及び腐食生成物が蓄積した領域が隙間腐食環境になり、この隙間腐食環境が上記の高ボイド率領域内に形成されることが、この隙間腐食環境の悪化を招く懸念がある。
上記の高ボイド率領域は、主に、ハフニウム楕円管に含まれたハフニウムの中性子吸収反応に伴うγ発熱による沸騰が生じている領域である。中性子吸収反応は、制御棒の軸方向において上部ほど大きくなり、シース内での下方から上方に向かう冷却水の流れとあいまって、ハフニウム楕円管を固定する固定用ピン付近が高ボイド率領域になる。固定用ピン周辺でのシースとハフニウム楕円管の間に形成される狭隘部で腐食形成し狭隘化が進む中で、シース内を流れる冷却水に含まれる不純物等が冷却水の沸騰により濃縮され、固定用ピン周辺に蓄積されることにより、さらに、固定用ピン周辺での隙間腐食環境が悪化する。隙間腐食環境の悪化とは、固定用ピン周辺の狭隘部で酸素の供給が不足して溶存酸素濃度が低下することにより、隙間外の高酸素濃度との酸素濃度の差が生じ、この酸素濃度差に起因した腐食電池形成によりシースの腐食が進むことを意味している。
特開2009−41994号公報に記載された制御棒の検討結果を、図9及び図10を用いて詳細に説明する。この制御棒は、軸心に配置されたタイロッド4の上端部にハンドル5が取り付けられ、横断面がU字状をしたステンレス鋼製のシース6の上端がハンドル5に、さらに、シース6の側端がタイロッド4に溶接にてそれぞれ接合されている。シース6内に配置された、楕円形状の筒であるハフニウム部材3Uが、ハンドル5の下端部に形成された舌状部に固定用ピン16で取り付けられている。
この制御棒が原子炉圧力容器内の炉心に挿入された状態で、BWRが運転されている。炉心に供給される冷却水の一部が、ハフニウム部材3Uとシース6の内面の間に形成される間隙内に流入し、この間隙内を上方に向って流れる。
発明者らは、BWRの運転時における、ハフニウム部材3Uとシース6の内面の間に形成される間隙内での冷却水の流動状態を検討した。この結果、発明者らは、ハフニウム部材3Uとシース6の内面の間に形成される間隙内において固定用ピン16付近で固定用ピン16を取り囲む高ボイド率領域R1が形成されることを見出した。BWRの運転時において、ハフニウム部材3Uが炉心で発生する熱中性子の吸収反応である(n,γ)反応を生じて発熱し、この熱がハフニウム部材3Uとシース6の内面の間に形成される間隙内を流れる冷却水に伝えられてその間隙内でボイドが発生する。このボイドが固定用ピン16の周囲に集まるものと推定される。
その間隙における固定用ピン12周辺での冷却水の流動状態は、図10に示すようになる。固定用ピン16の両側の端面が平面であり、この端面がハフニウム部材3Uの側面よりもシース内面側に突出しており、固定用ピン16とシース6の内面に形成される間隙の幅は非常に狭い。このため、ハフニウム部材3Uとシース6の間に形成される間隙内を上昇する冷却水は、固定用ピン16によって流れを遮られ、固定用ピン16の周囲では、図10に流線17で示すように、冷却水が固定用ピン16の側面によって曲げられて流れている。固定用ピン16の端面とシース6の内面の間は他の領域よりも狭隘な状態になっており、固定用ピン16の端面とシース6の内面を流れる冷却水が少なくなって除熱しにくいため沸騰しやすくなる。固定用ピン16の下流側も、固定用ピン16の影になって冷却水がよどんで排出されにくくなるため、除熱しにくくなる。したがって、固定用ピン6の周囲で固定用ピン付近においてボイド率が高くなり、固定用ピン6を取り囲む高ボイド率領域R1が形成されるのである。
固定用ピン16とシース6の内面に形成される間隙の幅は非常に狭いが、シース6内に流入した冷却水に含まれる細かい不純物及び腐食生成物が、固定用ピン16とシース6の内面に形成される間隙に入り込んでこの間隙を塞ぐ恐れがある。固定用ピン16とシース6の内面に形成される間隙が不純物及び腐食生成物によって塞がれた場合には、この間隙を通して流れる冷却水流が途絶えてしまい、その間隙内では冷却水が滞留する状態が発生する。このため、滞留した冷却水の溶存酸素濃度が低下し、固定用ピン16とシース6の内面に形成される間隙が隙間腐食環境になる。
固定用ピン16付近で固定用ピン16の周囲にボイド率領域R1が形成されるので、固定用ピン16とシース6の間隙に形成された隙間腐食環境がさらに悪化する懸念がある。
発明者らは、このような問題を解決する案を種々検討した。この結果、発明者らは、固定用ピン16の両側の端面に沿って冷却水がより流れ易くすれば良いとの結論に達した。固定用ピンの端面とシース6の内面との間の間隙の幅が拡がるように、固定用ピンの端面に冷却水が流れる通路を形成すれば良いのである。
固定用ピンの端面に形成された冷却水通路が制御棒の軸方向を向くように、固定用ピンを舌状部(保持部)に取り付けることによって、その冷却水通路内を冷却水が流れ易くなるので、固定用ピンの周囲に形成される高ボイド率領域R1が著しく縮小され、さらに、固定用ピンとシースの間の間隙が腐食生成物等によって塞がれることが無くなる。特に、固定用ピン16の下流側でのよどみが、固定用ピンの端面に形成された冷却水通路内を流れる冷却水によって無くなる。このため、シースの、固定用ピン付近の部分で照射誘起型応力腐食割れが発生することを抑制することができる。
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の制御棒を、図1〜図3に基づいて以下に説明する。本実施例の制御棒1は、沸騰水型原子炉(BWR)で用いられる制御棒である。この制御棒1は、横断面が十字形であり、軸心に配置されたタイロッド4から四方に伸びる4枚のブレード2を有する。ハンドル5がタイロッド4の上端部に取り付けられ、下部支持部材8がタイロッド4の下端部に取り付けられる。下部支持部材8は、下部支持板または落下速度リミッタである。ローラ16が回転可能に下部支持部材8に取り付けられる。このローラ16は、炉心に装荷されている燃料集合体のチャンネルボックスの外面と接触し、制御棒1を燃料集合体間で円滑に移動させる機能を有する。
各ブレード2は、横断面がU字状をしているシース6、扁平な筒、例えば楕円形状の筒であるハフニウム部材3U,3Lを有する(図1参照)。ハフニウム部材3U,3Lの、シース6内面に向かい合っている各側面は、平面になっている。シース6はステンレス鋼(SUS304及びSUS316L等)によって構成される。シース6の上端はハンドル5に溶接され、シース6の下端は下部支持部材8に溶接されている。シース6のU字の両端部には、複数のタブ(突出部)18が軸方向において所定の間隔を置いて形成されている。これらのタブ18は、シース6の一部であるが、タイロッド4側に向かって突出している部分である。これらのタブ18は溶接にてタイロッド4に接合されている。上記したシース6とタイロッド4、ハンドル5及び下部支持板8とのそれぞれの接合は、例えば、レーザ溶接によって行われる。
1つのブレード2のシース6内に形成される空間内に、2つのハフニウム部材(第1ハフニウム部材)3U及び2つのハフニウム部材(第2ハフニウム部材)3Lが配置されている。ハフニウム部材3Uはハフニウム部材3Lの上方に位置しており、これらの軸方向の長さは同じである。ハフニウム部材3Uは、ハンドル5の下端部に形成された舌状部(第1保持部)11Uに固定用ピン12で取り付けられている。ハフニウム部材3Lは、下部支持部材8の上端部に形成された舌状部(第2保持部)11Lに固定用ピン(ピン部材)12で取り付けられている。ハフニウム部材3Uは上端部がハンドル5に取り付けられ、ハフニウム部材3Lが下部支持部材8に取り付けられている。これらのハフニウム部材は中性子吸収部材である。BWRの運転中においてハフニウム部材3U,3Lが熱膨張してもそれらのハフニウム部材が互いに接触しないように、ハフニウム部材3Uの下端とハフニウム部材3Lの上端との間のギャップ(図示せず)が形成されている。
制御棒1は、BWRの原子炉圧力容器内に配置され、原子炉出力を制御するために、複数の燃料集合体が装荷された炉心内に制御棒駆動機構(図示せず)によって出し入れされる。制御棒1は、下部支持部材8の下端部に設けられたコネクタ17によって原子炉圧力容器の底部に設けられた制御棒駆動機構に連結される。制御棒駆動機構は、制御棒1の炉心内への挿入操作、及び制御棒1の炉心からの引き抜き操作を行う。原子炉圧力容器内を流れる冷却水(冷却材)は、シース6に形成された一部の開口14及びシース6の最下端部に形成された複数の開口9Lからシース6内に流入し、ハフニウム部材3U,3Lを冷却して他の開口14(特に上端部に位置する開口14)及びシース6の最上端部に形成された複数の開口9Uからシース6の外に流出する。シース6内に流入した冷却水は、ハフニウム部材3Uに設けられた小径の開口13を通ってハフニウム部材3U内に流入し、また、ハフニウム部材3Lに形成された小径の開口15を通ってハフニウム部材3L内に流入する。このように、冷却水がハフニウム部材3U,3L内に流入することによって、これらのハフニウム部材の冷却効果が増大される。
各固定用ピン12の両側の端面には、図3に示すように、平行に配列された直線状の2つの溝(冷却材通路)20A,20Bが形成されている。これらの溝20A,20Bは、底面が曲面になっている溝である。溝20A,20Bの深さは0.3mm以上であり、これらの溝の最大深さは固定用ピン12の強度に影響を及ぼさない程度がよい。固定用ピン12の端面で溝20Aと溝20Bの間には、突出部21が形成される。突出部21の表面は、図3(B)に示すように、曲面になっている。舌状部11Uに形成された貫通孔内に挿入された固定用ピン12が、ハフニウム部材3Uを舌状部11Uに取り付ける(図2参照)。舌状部11Lに形成された貫通孔内に挿入された固定用ピン12が、ハフニウム部材3Lを舌状部11Lに取り付ける(図2参照)。それぞれの固定用ピン12が各舌状部に取り付けられた状態で、溝20A,20Bが制御棒1の軸方向を向いている。溝20A,20Bのそれぞれの底面とシース6の内面との間に、図2に示すように、シース6の内面との間の幅が広くなった冷却水通路がそれぞれ形成される。
本実施例の制御棒1を備えたBWRが運転されているとき、原子炉出力の調節のため、一部の制御棒1が炉心に挿入されている。この状態で、炉心に供給される冷却水の一部が、制御棒1のシース6に形成された開口9L,14を通ってシース6内に流入し、ハフニウム部材3L,3Uとシース6の間に形成された間隙を通って上昇する。この間隙内を上昇する冷却水は、(n,γ)反応により発熱するハフニウム部材3L,3Uを冷却する。この冷却水は、各固定用ピン12の端面とシース6の内面の間では、制御棒1の軸方向を向いている直線状の溝(冷却材通路)20A,20Bを通って上方に向って流れる。
(n,γ)反応により発熱するハフニウム部材3L,3Uの冷却によって冷却水中に発生するボイドが、固定用ピン12とシース6内面の間の間隙においても溝20A,20B内を流れる冷却水によって上方へ流されるので、固定用ピン12の周囲に集まらなくなる。このため、各固定用ピン12付近での高ボイド率領域R1の形成が抑制される。また、溝20A,20B内を冷却水が流れることによって、固定用ピン12とシース6内面の間の間隙が不純物及び腐食生成物によって塞がれることを防止できる。固定用ピン12とシース6内面の間の間隙内に、隙間腐食環境が形成されることもなくなる。したがって、本実施例の制御棒1では、シース6の固定用ピン12付近での照射誘起型応力腐食割れの発生を著しく抑制することができる。
シース6内の冷却水の流動によって生じる、固定用ピン12の、固定用ピン12の軸方向での振動を抑制するためには、固定用ピン12の両側の端面に形成されたそれぞれの突出部21の頂部が、シース6の内面に接触することが好ましい。固定用ピン12の端面に形成される突出部21の頂部が曲面になっているため、突出部21の頂部がシース6の内面に接触しても、固定用ピン12とシース6の内面の接触が面接触にならず、線接触になるので、この部分に不純物及び腐食生成物が非常に堆積しづらくなる。したがって、突出部21とシース6の内面の間に、隙間腐食環境が形成される確率が非常に小さくなる。
固定用ピン12付近の冷却水の流動状態を、図5(A)を用いて説明する。図5(A)に示す固定用ピンは、本実施例で用いる固定用ピン12ではなく、後述の実施例2で用いられる固定用ピン12Bであるが、固定用ピン12B付近の冷却水の流動状態は、固定用ピン12付近でのその状態と実質的に同じである。固定用ピン12Bは、両側の端面に幅が広い直線状の溝(冷却水通路)23を形成している。図5(A)は、本実施例における固定用ピン12と同様に、溝23が制御棒の軸方向を向くように、各固定用ピン12Bを舌状部11U,11Lに取り付けている。このため、シース6内に流入した冷却水の一部が、流線17C(図5(A)参照)で示すように、溝23内を通過する。流線17Aで示される冷却水流が固定用ピン12Bによって曲げられずに上昇し、流線17Bで示される冷却水流が固定用ピン12Bによって曲げられて上昇する。溝23を制御棒の軸方向を向くように配置することによって、固定用ピン12Bとシース6の内面の間に形成される間隙内を流れる冷却水の流量が増加する。このような冷却水の流量の増加は、固定用ピン12Bの周囲に形成される高ボイド率領域R1を著しく抑制し、固定用ピン12Bとシース6の内面の間に形成される間隙内での隙間腐食環境の形成を防ぐことができる。固定用ピン12でも、溝20A,20Bを制御棒1の軸方向に配置することによって、固定用ピン12Bで生じる上記した現象が生じる。このため、固定用ピン12付近のシース6における照射誘起型応力腐食割れの発生を抑制することができる。
ちなみに、図5(B)に示すように、固定用ピン12Bの端面に形成した溝23を、制御棒の軸方向と直交する方向に配置した場合には、固定用ピン12Bの周囲での冷却水の流動は、流線18のようになって、図10に示す従来の制御棒における固定用ピン16の周囲での冷却水の流動状態と同じになる。したがって、溝23を、制御棒の軸方向と直交する方向に配置した場合には、従来の制御棒で生じる問題(固定用ピン16付近で固定用ピン16を取り囲む高ボイド率領域R1の形成)が解決できないことが分かる。固定用ピン12の端面に形成した溝20A,20Bを制御棒1の軸方向に配置することは、シース6の固定用ピン12付近の部分での照射誘起型応力腐食割れの発生を抑制することに大きく貢献する。
シース6内を流れる、ボイドを含む冷却水の流動によって、舌状部11U.11Lに挿入した各固定用ピン12の回転を抑制することが必要である。もし、BWRの運転中に固定用ピン12が回転して溝20A,20Bが制御棒1の軸心に対して傾斜した場合には、溝20A,20B内を流れる冷却水の流量が減少する。極論して、溝20A,20Bが制御棒1の軸方向と直交する方向になるまで固定用ピン12が回転した場合には、溝20A,20B内を流れる冷却水量が激減してしまう。このような状態が生じた場合には、シース6の固定用ピン付近での照射誘起型応力腐食割れ発生を抑制する効果が低減される。
したがって、固定用ピン12の回転を避けるために、制御棒1において、回転抑制機構を有する固定用ピン12を採用することが望ましい。この回転抑制機構の一例を、上記した固定用ピン12Bに適用した例ではあるが、図6を用いて説明する。端面に溝23を形成した固定用ピン12Bを円形ではなく楕円形にする。この楕円形の断面を有する固定用ピン12Bが挿入される、各舌状部11U.11Lに形成される貫通孔も楕円にする。断面が楕円の各固定用ピン12Bを、舌状部11U,11Lに形成された楕円形の貫通孔に挿入することによって、固定用ピン12Bの回転を防止することができ、溝23を、常に、制御棒の軸方向に配置することができる。断面が楕円形をした固定用ピン12は、回転抑制機構を備えた固定用ピン12Bである。
回転抑制機構を備えた固定用ピンの他の例を図7に示す。溝23を端面に形成した固定用ピン12Bは、断面が八角形をしている。この固定用ピン12Bがそれぞれ挿入される舌状部11U,11Lに形成された貫通孔も、同じ八角形をしている。このため、固定用ピン12Bの回転を防止できる。固定用ピン12Bは、断面形状を三角形、四角形及び六角形等の八角形以外の多角形にしてもよい。
回転抑制機構を備えた固定用ピンの他の例を図8に示す。固定用ピン12Bの断面、及びこの固定用ピン12Bがそれぞれ挿入される舌状部11U,11Lに形成された貫通孔を円形にする場合には、固定用ピン12Bとハフニウム部材3Uを点溶接等により接合してもよい。図8では、溶接部30が、固定用ピン12Bとハフニウム部材3Uを接合し、固定用ピン12Bの回転を防止している。溶接部30の替りに、キーを用いて、舌状部11U,11Lの貫通孔に挿入されたそれぞれの固定用ピン12Bの回転を防止することもできる。溶接部及びキーが回転抑制機構である。
本実施例の制御棒1に用いる固定用ピンの他の例を、図4を用いて説明する。本例の固定用ピン12Aは、両側の端面に中心から四方に延びる突起部22を形成している。突起日22の頂部は曲面になっている。各突起部22の内側端は固定用ピン12Aの軸心から離れた位置に位置しており、固定用ピン12Aの端面の周方向に隣り合う突起部22の間には、冷却水通路(冷却材通路)27が形成される。各固定用ピン12Aは、冷却水通路27が制御棒の軸方向を向くように、舌状部11U,11Lに取り付けられる。具体的には、各突起部22が制御棒の軸方向に対して45°傾斜されている。このため、シース6内を上昇する冷却水が、固定用ピン12と同様に、冷却水通路27内を流れて固定用ピン12Aの上方に達する。このため、固定用ピン12Aを設けた制御棒は、制御棒1と同様に、シース2の固定用ピン12Aの部分における照射誘起型応力腐食割れの発生を抑制することができる。
本発明の他の実施例である実施例2の制御棒を、図11を用いて説明する。本実施例の制御棒は、沸騰水型原子炉(BWR)で用いられる制御棒であり、実施例1の制御棒1において固定用ピン12を図11に示す固定用ピン12Bに替えた構成を有する。本実施例の制御棒の他の構成は実施例1の制御棒1と同じである。
固定用ピン12Bは、両側の端面に直線状の1つの溝23を形成している(図11(A)参照)。この溝23の底面は平面になっている(図11(B)参照)。溝23の深さは固定用ピン12で形成された溝20A,20Bと同じである。この溝23が本実施例の制御棒の軸方向を向いて配置されるように、固定用ピン12Bが舌状部11U,11Lのそれぞれに形成された各貫通孔に挿入され、ハフニウム部材3U,3Lのそれぞれを実施例1の制御棒1と同様に該当する舌状部に取り付けている。
本実施例の制御棒では、図5(A)に示すように、溝23内を流れる冷却水量が増加し、固定用ピン12Bとシース6の内面の間に形成される間隙内を流れる冷却水の流量が増加する。このため、本実施例の制御棒は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本実施例の制御棒においても、図6から図8に示す各回転抑制機構を適用することが望ましい。
本実施例の制御棒において、固定用ピン12Bを図12に示す固定用ピン12Cに替えてもよい。固定用ピン12Cは、図12(A)に示すように、両側の各端面に直線状の2つの溝24を形成している。これらの溝24の底面も平面になっている(図12(B)参照)。各溝24は制御棒の軸方向を向いて配置されるように、固定用ピン12Cが舌状部11U,11Lのそれぞれに形成された各貫通孔に挿入され、ハフニウム部材3U,3Lのそれぞれを実施例1の制御棒1と同様に該当する舌状部に取り付ける。固定用ピン12Cを設けた制御棒も、制御棒1で生じる各効果を得ることができる。
本発明の他の実施例である実施例3の制御棒を、図13を用いて説明する。本実施例の制御棒は、沸騰水型原子炉(BWR)で用いられる制御棒であり、実施例1の制御棒1において固定用ピン12を図13(A)及び図13(B)に示す固定用ピン12Dに替えた構成を有する。本実施例の制御棒の他の構成は実施例1の制御棒1と同じである。
固定用ピン12Dは、両側の端面に直交する十字形の溝25を形成している(図13(A)参照)。十字形の溝25で互いに直交する方向に伸びる各溝の幅は広くなっている。十字形の溝25の底面も平面になっている(図13(B)参照)。十字形の溝25のうち1つの方向に伸びる直線状の溝が本実施例の制御棒の軸方向を向いて配置されるように、固定用ピン12Dが舌状部11U,11Lのそれぞれに形成された各貫通孔に挿入され、ハフニウム部材3U,3Lのそれぞれを実施例1の制御棒1と同様に該当する舌状部に取り付けている。
本実施例の制御棒では、図14(A)に示すように、十字形の溝25のうち制御棒の軸方向を向いている溝を通して上方に向かって流れる冷却水量が増加し、固定用ピン12Dとシース6の内面の間に形成される間隙内を流れる冷却水の流量が増加する。図14(A)に示す固定用ピン12Dを45°回転させた状態、すなわち、十字形の溝25のうち1つの方向を向いている溝が制御棒の軸方向に対して45°に傾斜しているときにも(図14(B)参照)、溝25内を通して冷却水が上昇する。このような本実施例の制御棒は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本実施例の制御棒においても、図6から図8に示す各回転抑制機構を適用することが望ましい。
本実施例の制御棒において、固定用ピン12Dを図15に示す固定用ピン12Eに替えてもよい。固定用ピン12Eは、図15(A)に示すように、ある方向に配置された複数の溝、及びこの方向と直交する方向に複数の溝を配置した格子状の溝26を形成している。この溝26の底面も平面になっている(図15(B)参照)。格子状の溝26は制御棒の軸方向を向いて配置されるように、固定用ピン12Eが舌状部11U.11Lのそれぞれに形成された各貫通孔に挿入され、ハフニウム部材3U,3Lのそれぞれを実施例1の制御棒1と同様に該当する舌状部に取り付ける。固定用ピン12Eを設けた制御棒も、制御棒1で生じる各効果を得ることができる。
本発明の他の実施例である実施例4の制御棒を、図16、図17及び図18を用いて説明する。本実施例の制御棒は、沸騰水型原子炉(BWR)で用いられる制御棒であり、実施例1の制御棒1Aにおいて固定用ピン12を従来の制御棒で用いられている固定用ピン16に替え、シース6に新たに冷却孔31を形成した構成を有する。本実施例の制御棒の他の構成は実施例1の制御棒1と同じである。
制御棒1Aでは、図18(A)及び図18(B)に示す固定用ピン16が用いられる。固定用ピン16は、両端が平面になっており、実施例1〜3に用いられる固定用ピンのように、両端には溝が形成されていない。固定用ピン16は、図17に示すように、ハンドル5に形成された舌状部11Uに形成された貫通孔に挿入され、ハフニウム部材3Uを保持している。図示されていないが、ハフニウム部材3Lも、固定用ピン16によって、下部支持部材8に形成された舌状部11Lに取り付けられる。
シース6では、隣り合う一対の冷却孔31が、舌状部に取り付けられた各固定用ピン16の両側の端面に向かい合ってそれぞれ形成されている。これらの冷却孔31は、制御棒の軸方向に細長く伸びており、冷却孔31の軸方向の長さは固定用ピン16の直径よりも長くなっている。冷却孔31は、固定用ピン16の直径よりも小さい内径であれば、円形の孔にしてもよい。
シース6に冷却孔31を形成することにより、シース6内で固定用ピン16付近に存在する冷却水、及び固定用ピン16とシース6の内面との間に存在する冷却水が、冷却孔31を通してシース6の内外に出入りすることにより流動できるようになる。この結果、固定用ピン16付近で固定用ピン16を取り囲む高ボイド率領域R1の形成が抑制される。さらに、固定用ピン16とシース6の内面との間に形成された間隙への腐食生成物の堆積を防止することができ、この間隙内の隙間腐食環境を改善することができる。
このような本実施例も、実施例1と同様に、シース6の固定用ピン16付近での照射誘起型応力腐食割れの発生を抑制することができる。
なお、実施例1〜4においても、各固定用ピンの端面に向かい合うように、シース6に冷却孔31を形成してもよい。実施例1〜4のそれぞれにおいて、シース6に冷却孔31を形成することにより、照射誘起型応力腐食割れの発生確率をさらに低減することができる。
実施例1〜4において、ハフニウム部材3U,3Lを、特開2009−41994号公報の図3(a)、図3(b)及び図3(c)に記載された、横断面が扁平な楕円形をしている筒状のハフニウム部材に替えてもよい。特開2009−41994号公報の図3(a)に記載されたハフニウム部材は、側壁の横断面中央部を内側に窪ませている。特開2009−41994号公報の図3(b)に記載されたハフニウム部材では、側壁の横断面中央部の肉厚が薄くなっている。これにより、ハフニウム部材の側壁の横断面中央部に、内側に向う窪みが形成される。特開2009−41994号公報の図3(c)に記載されたハフニウム部材は、側壁の幅方向において波状に蛇行する側面を、側壁に形成している。
これらのハフニウム部材は、いずれも、ハフニウム部材の側壁の外面に、ハフニウム部材とシース6の内面との間に形成される間隙の幅を増大させる窪みを形成している。このため、シース6内に流入する不純物及び腐食生成物がハフニウム部材とシース6の内面との間に形成される間隙に蓄積することを著しく低減することができ、この間隙における冷却水の流動を良好な状態に保つことができる。ハフニウム部材とシース6の内面との間に形成される間隙が、隙間腐食環境になることを防止することができる。この結果、シース6の、ハフニウム部材に面する部分での照射誘起型応力腐食割れの発生を抑制することができる。
したがって、実施例1〜4において、ハフニウム部材3U,3Lを、特開2009−41994号公報の図3(a)、図3(b)及び図3(c)に記載されたいずれかのハフニウム部材に替えることによって、シース6の固定用ピン付近の部分だけでなく、シース6のハフニウム部材に面する部分においても、照射誘起型応力腐食割れの発生を抑制することができる。