本発明は、医療分野における病院情報システム技術に係り、特に、標準的な診療計画であるクリニカルパスの改善案を提示するシステムに関する。
医療の質の向上と効率化を推進する社会情勢の中で、診療の標準化を実現して医療の質の改善を図るために、標準的な診療計画を表したクリニカルパス(クリティカルパス、パスとも呼ばれる)が重要視されている。クリニカルパスを用いて医療の質の改善を図るためには、蓄積した診療データから抽出した根拠に基づいてクリニカルパスを改善する必要があるとされている。特に、クリニカルパスで記述された標準的な診療計画と実際の診療との差異であるバリアンスを収集して分析することで、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスの作成が実現できると考えられている。具体的には、在院日数・治療成績・コストなどの観点から、標準的な診療計画と異なる診療行為と臨床上望ましい成果および目標であるアウトカムが達成されなかったものをバリアンスとして抽出して分析を行う。
ここで、一般的なバリアンス分析に関連した従来例を示す。「非特許文献1」に記載されている方法(従来例1)では、まず、手術やICU(Intensive Care Unit)から一般病棟への移動など特定のイベントを予め設定する。次に、設定したイベントに対して、バリアンスの発生要因別など様々にスライシングしたバリアンスの発生頻度をグラフ表示する。
次に、患者に対する適合精度が高いクリニカルパスの作成を支援するシステムに関連した従来例を示す。「非特許文献2」に記載されている方法(従来例2)では、バリアンス分析をクリティカルパスの改善方法と捉え、バリアンスの発生要因毎に対応策を予め決め、改善策提案の短時間化を図っている。「特許文献1」(従来例3)に記載されている方法では、医療実績データに設定されている治療行為を治療行為予定として設定した仮パスと、患者識別子に基づいて取得した治療行為とを比較し、一致度が所定の基準を超えた仮パスを本クリティカルパスとして登録するシステムである。
次に、バリアンスが発生した要因分析に関連した従来例を示す。「特許文献2」(従来例4)に記載されている方法では、医療予定データが示す予定からはずれた時に、その想定要因の選択肢を提示するシステムである。ユーザは想定要因を、選択肢の中から選択するか、コメントとして入力する。これにより、要因として考えられるものを全て選択肢として予め用意する必要がなくなる。
バリアンスマネジメントシステム(ビイング・ネット・プレス)pp.26-27,pp.41-42
クリティカルパス最近の進歩2008(じほう)pp.93-102
特開2007−265080号公報
特開2005−182362号公報
前記従来技術におけるバリアンス分析とクリニカルパス分析の課題について述べる。従来のバリアンス分析では、バリアンス分析をクリティカルパスの改善方法と捉えてはいるものの、具体的な方法に関する言及はなかった。これは、バリアンスの内容や発生頻度によって、改善すべき点や改善策が大きく異なるためである。そのため、診療効果が高いクリニカルパスの改善を実現するためには、豊富な経験が必要であった。
従来例1では、バリアンスの発生状況把握に留まっており、発生したバリアンスの対策を立案するためには、個々の事例について更に詳細な検討が必要であった。従来例2では、バリアンスの発生要因毎に約10種類の対応策を予め決めているものの、病院で運用しているクリニカルパスは約100種類あり、バリアンスの内容は更に多種多様であるため、パス改善策を検討するためには、豊富な経験が必要であった。
従来例3では、実績データに基づいた適合精度が高いクリニカルパスを作成することは可能である。しかし、実績データよりもより治療成績が優れた診療方法へ対応するためには、豊富な経験が必要であった。
従来例4では、バリアンスの要因として考えられるものを全て選択肢として予め用意していなくても、入力したコメントを新たな選択肢として追加することが可能であり、必要と考えられる選択肢を容易に用意することが可能である。しかし、入力した要因を用いたバリアンスやクリニカルパスの分析方法については十分な検討はされていない。また、バリアンスの直接的な原因を選択することは可能であるが、バリアンスが発生した構造的な問題のような根本原因の分析については十分な検討はされていない。
以上のように、診療効果が高いクリニカルパスへの改善を実現するためには、上述した従来例では十分な効果を得ることが困難であった。例えば、バリアンス分析の詳細な分析には、当事者でないと判断できない事が多いが、直面したバリアンスの類似事例における改善事例の活用や医療の質を向上するような分析など、病院全体を考慮した分析のためには、医療従事者の経験に頼る必要があった。
そこで本発明の目的は、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスへの改善を目指し、バリアンス分析結果を活用して、過去に実施した効果的なクリニカルパスの改善履歴を抽出し、直面しているクリニカルパス改善を支援するクリニカルパス改善案提示システムを提供することにある。
上記目的を達成するため、クリニカルパス改善案提示システムは、標準的な診療計画であるクリニカルパスと実際の診療との差異であるバリアンスを活用して、バリアンス発生防止のためのクリニカルパス改善案を提示するクリニカルパス改善案提示システムであって、入力手段及び出力手段及び処理装置を備え、前記入力手段では、着目バリアンスの入力を受け付け、前記処理装置は、標準的な診療計画を記述したクリニカルパスデータと、バリアンスを記録したバリアンスデータと、クリニカルパスの改善案であるクリニカルパス改善履歴データとを、接続された電子カルテデータベースから取得する電子カルテ連携手段と、前記電子カルテ連携手段により取得した前記クリニカルパスデータと前記バリアンスデータから、階層構造的にバリアンス因果関係をバリアンス発生事例毎に記述した個別事例分析結果を構築する個別事例分析結果構築手段と、前記入力手段を通じて選択した着目バリアンスの発生原因に類似した過去のバリアンスを、個別事例分析結果の階層構造類似性に着目して抽出し、抽出したバリアンスの発生を防止するクリニカルパス改善履歴を、前記電子カルテ連携手段を介して抽出する類似事例抽出手段とを有し、前記出力手段は、前記類似事例抽出手段にて抽出した前記クリニカルパス改善履歴を、前記着目バリアンスのクリニカルパス改善案として出力することを特徴とする。
また、クリニカルパス改善案提示システムにおいて、類似事例抽出手段では、着目バリアンスの発生原因に類似した過去のバリアンスを抽出する基準となる類似度を、バリアンスの発生原因の項目が一致するほど類似度が高くなるように、さらに発生原因の因果関係を構成する組が一致する割合が高いほど類似度が高くなるように、さらに発生原因の項目は一致するが該発生原因が間接要因である場合は類似度が低くなるように算出し、前記類似度を評価指標として着目バリアンスの発生原因に類似したバリアンスを抽出することを特徴とする。
さらに、クリニカルパス改善案提示システムにおいて、前記電子カルテ連携手段では、患者に対して実施した診療行為の履歴や、診療行為の種類を記述したオーダ属性の履歴や、患者状態に関する経過記録の履歴を記述した実施記録データを、電子カルテデータベースからデータを取得し、前記処理装置は、前記電子カルテ連携手段により取得した前記実施記録データから、相関ルールマイニングによって、結論部にバリアンスを含む相関ルールを生成する相関ルール生成手段を備え、前記個別事例分析結果構築手段では、前記相関ルール生成手段にて生成した前記相関ルールの前提部を前記バリアンス発生原因として抽出し、前記類似事例抽出手段では、前記相関ルールの前提部の構成要素である診療行為におけるオーダ属性を前記クリニカルパスデータから抽出し、着目バリアンスの発生原因に類似した過去のバリアンスを抽出する基準となる類似度を、オーダ属性が一致するほど類似度が高くなるように算出することを特徴とする。
また、クリニカルパス改善案提示システムにおいて、前記処理装置は、前記電子カルテ連携手段により取得した前記クリニカルパスデータから、診療行為パターンの類似度であるパス類似度を算出するパス類似度算出手段を備え、前記類似事例抽出手段では、着目バリアンスが発生したクリニカルパス1と、類似した過去のバリアンスが発生したクリニカルパス2を抽出し、着目バリアンスの発生原因に類似した過去のバリアンスを抽出する基準となる類似度を、クリニカルパス1とクリニカルパス2におけるパス類似度が一致するほど、類似度が高くなるように算出することを特徴とする。
さらに、クリニカルパス改善案提示システムにおいて、前記処理装置は、 医療の質を測定した数値であるQuality Indicatorをクリニカルパスのバージョン毎に算出するQuality Indicator算出手段を備え、前記類似事例抽出手段では、前記Quality Indicator の改善効果が高い前記クリニカルパス改善履歴を抽出することを特徴とする。
本発明によれば、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスの改善を目指し、バリアンス分析結果を活用して、過去に実施した効果的なクリニカルパスの改善履歴を抽出し、直面しているクリニカルパス改善を支援するクリニカルパス改善案提示システムを提供することが可能になる。
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
図1は、電子カルテシステムと、本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの構成図である。図1に示す電子カルテシステムは、電子カルテ入出力手段100と、電子カルテ制御手段101と、電子カルテデータベース102から構成される。クリニカルパス改善案提示システムは、電子カルテ連携手段103と、個別事例分析結果構築手段104と、個別事例分析結果データベース105と、パス改善データベース106と、類似事例抽出手段107と、画面構成処理手段108と、出力手段109と、入力手段110から構成される。
本構成のハードウエア構成について述べる。図2に、電子カルテシステムと、本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムを実現するハードウエア構成図を示す。電子カルテデータベース102は、HDD(Hard Disk Drive)装置に代表される外部記憶装置2014などにより構成される。同様に、個別事例分析結果データベース105とパス改善データベース106は、外部記憶装置2024などにより構成される。電子カルテ制御手段101は、中央処理装置2013やメモリ2012などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。同様に、電子カルテ連携手段103と個別事例分析結果構築手段104と類似事例抽出手段107と画面構成処理手段108は、中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。出力手段109は、液晶ディスプレイ2021やCRT(Cathode−Ray Tube)などを利用したモニタにより実現することができる。また、紙などの媒体に出力してもよい。入力手段110は、キーボード2020やマウスやペンタブレットにより実現することができる。同様に、電子カルテ入出力手段100は、液晶ディスプレイ2011とキーボード2010などにより実現することができる。ここでは、電子カルテシステムとクリニカルパス改善案提示システムを異なるハードウエアで構成した図を示したが、キーボード2010とキーボード2020のように共通するハードウエアを、同一資源を用いて実現してもよい。
図3に、クリニカルパス改善案提示システムの概要を示したフローチャートを示す。まず始めに、着目していないバリアンスである対象バリアンスが発生した根本原因分析を行うために、個別事例分析画面を出力手段109に提示すると、ユーザは入力手段110を介してバリアンスが発生した事例毎に全てのバリアンス発生原因を、個別事例分析結果として個別事例分析結果構築手段104にて構築し、構築結果を個別事例分析結果データベース105に蓄積する(S301)。次に、着目している着目バリアンスの根本原因分析を行うために、個別事例分析画面を出力手段109に提示すると、ユーザは入力手段110を介してバリアンス発生原因を、個別事例分析結果として個別事例分析結果構築手段104にて構築し、構築結果を個別事例分析結果データベース105に蓄積する(S302)。次に、S301にて分析した対象バリアンスの中で、S302にて分析した着目バリアンスに類似したバリアンスを、類似事例抽出手段107にて抽出する(S303)。次に、S303にて抽出したバリアンスにおけるパス改善履歴を、パス改善データベース106から抽出し、出力手段109に提示する(S304)。なお、パス改善データベース106には、電子カルテ連携手段103にて取得したパス改善履歴に関するデータなどが蓄積される。電子カルテ連携手段103にて取得するデータの詳細は後術する。ユーザは提示されたパス改善履歴を参照して、着目バリアンスの改善案を検討し、入力手段110を介して検討結果をパス改善データベース106に登録する(S305)。ただし本実施例では、入力手段110を介して検討結果をパス改善データベース106に登録するようにしているが、電子カルテ入出力手段100を介して電子カルテデータベース102に蓄積してもよい。
次に、電子カルテ連携手段103にて取得する情報ついて述べる。電子カルテ連携手段103では、電子カルテデータベース102から、クリニカルパスデータやバリアンスデータや実施記録データやクリニカルパス改善履歴データや患者データを取得する。実施記録データとは、患者に対して実施した診療行為の履歴や患者状態に関する経過記録や、患者の基本情報などに関するデータである。患者データとは、患者コードや適用したパス名や患者氏名、性別、年齢、在院日数などの指標に関するデータである。実施記録データの詳細は実施例2にて、患者データは実施例4にて述べる。
次に、クリニカルパスデータについて述べる。クリニカルパスデータとは、クリニカルパス毎に実施すべき標準的な診療行為や実施予定日を記したデータである。図4にクリニカルパスデータを記したクリニカルパスデータテーブルを示す。本実施例では、PCIパス(バージョン001)の1日目の診療行為が、教育のオーダ属性を持つオリエンテーションと、アセスメントのオーダ属性を持つ血圧確認と、アセスメントのオーダ属性を持つ体温確認である様子を示している。次に、バリアンスに関するデータであるバリアンスデータについて述べる。図5に示すバリアンスデータは、バリアンステーブルとバリアンスコードマスタテーブルから構成される。バリアンスコードマスタテーブルでは、クリニカルパスデータテーブルの診療行為に対応したバリアンスとそのコードが記されている。またバリアンステーブルでは、バリアンスが発生した事例毎に、発生したバリアンス、患者名などが記されている。本実施例では、P0という患者には3つのバリアンスが発生している様子を示している。また、体温確認という診療行為に対して熱が38度以上あった事例が2つあった様子も示している。次に、クリニカルパス改善履歴データについて述べる。図6にクリニカルパス改善履歴データテーブルを示す。本実施例では、TUR-Btパスのバージョン001において、血腫確認に関するバリアンスを防止するため、001から002にバージョンアップする際、体温38度以下の確認と安静指導を追加した様子を示している。また、白内障パスにおいて001から002にバージョンアップした際、ミドリンPの薬剤をアトロピンに変更した様子も示している。
ここで、個別事例の分析(S301)(S302)について詳細に述べる。図7に、詳細な処理フローを示す。ここでは、バリアンスが発生した根本原因の分析を目的に、バリアンスが発生した個別事例毎(S701)に、バリアンス因果関係の分析である個別事例分析を行う(S701−S707)。具体的には、個別事例分析結果構築手段104からメッセージを受けた画面構成処理手段108によって構成された画面を出力手段109に提示し、ユーザは提示された個別事例分析画面にて、入力手段110を介してバリアンス発生原因を入力する(S702−S705)。入力されたバリアンス発生原因を基に個別事例分析結果構築手段104が個別事例分析結果データベース105に格納する(S706)。
ここでユーザがバリアンス発生原因を入力する処理(S702−S705)について述べる。まず始めに個別事例分析結果構築手段104は、患者インデックスに対応する患者コードを持つレコードを、バリアンステーブルから取得する(S702)。次に、以下に示す二つの方法を用いて、ユーザはバリアンス発生原因を入力する。一つ目の方法では、S702にて取得したバリアンスを、分析対象バリアンスの発生原因としてユーザが選択して入力する(S703)。二つ目の方法では、分析対象バリアンスの発生原因を自由文でテキスト入力する(S704)。これらの作業を、分析対象バリアンスの発生原因を全て入力するまで繰り返す(S705)。
ここで、個別事例の分析S301、S302における出力手段109に表示される画面構成について述べる。図8に、S302における着目バリアンスの個別事例分析の様子を示す。図8に示す画面は、条件設定部801と保存ボタン8011と改善案提示ボタン8012とバリアンス発生原因分析構築部802から構成される。まず、S301では対象バリアンスが、S302では着目バリアンスが、条件設定部801に反映される。また分析対象患者は、S701で設定した患者インデックスに対応する患者コードが提示される。本実施例では、PCIパスの出血確認という診療行為に対して、P1という患者が出血というバリアンスが発生した因果関係を、バリアンス発生原因分析構築部802にて分析している様子を示している。ここでは、カテーテル挿入失敗や38度以上というバリアンスが、分析対象バリアンスである出血の発生原因としてバリアンステーブルから登録している様子を示している。このようにバリアンス発生原因分析構築部802に発生原因を入力した後、ユーザが保存ボタン8011を押下すると、バリアンス因果関係を個別事例分析結果データベース105に格納する。
図9に個別事例分析結果データベース105における個別事例分析結果テーブルを示す。本例では、図8で入力したバリアンス発生原因が登録された様子を示している。出身フラグとは、発生原因テキストがバリアンステーブルから取得した場合(S703)は1を、ユーザが適すと入力した場合(S704)は0となるように設定した。本例では、出身フラグが1である項目は、分析対象バリアンスである「出血」と、S803にてバリアンステーブルから取得した「カテーテル挿入失敗」と「体温38度以上」である様子を示している。
次に、着目バリアンスに類似したバリアンス抽出処理(S303)について詳細に述べる。過去に分析したバリアンスの中から、着目バリアンスに類似したバリアンスを抽出するために、S301とS302で行った個別事例分析結果の構造類似性に着目した指標(類似度E(Y))を用いることとした。
そこで、まず、本方式を実現するための類似度E(Y)の定義について述べる。まず、個別事例分析結果における要素(発生原因)間の因果関係を考慮した構造が多く一致している場合は、類似していると考えられる。ただし、個別事例分析はユーザが構築するため、同じ現象であっても個別事例分析結果の構造が異なることがある。例えば、ある事例ではAの原因はBであるが、別の類似した事例ではAの原因はCで、Cの原因はBである場合がある。そのため、因果関係の部分構造が完全に一致した場合のみ類似度が高いと定義すると、同じ現象であっても類似度が低くなることがある。そこで、因果関係の部分構造が完全に一致していなくても、個別事例分析結果における要素項目が一致していれば、類似度を高くすることとする。ただし、構造が異なるほど類似度を低くするために、発生原因の項目は一致するが該発生原因が間接要因である場合は類似度を低くすることとした。
図10に、類似バリアンス抽出処理(S303)の詳細なフローチャートを示す。本フローチャートでは、まず、着目しているバリアンスの個別事例分析結果の構造とその頻度を登録する(S30301−S30304)。そして、抽出対象となる全てのバリアンスに対して、個別事例分析結果の構造とその頻度を登録し(S30306−S30309)、(数1)に従って類似度E(Y)を算出する(S30310)。最後に、類似度E(Y)が閾値より高い対象バリアンスを、類似バリアンスとして抽出する(S30311)。(数1)では、「個別事例分析結果における要素項目が一致していれば、類似度を高くする」という概念は因果関係に着目した再帰的加算とする事に、「因果関係の部分構造が完全に一致していなくても、個別事例分析結果における要素項目が一致していれば、類似度を高くする」は子供の類似度E(A(Ra))を加算する事に、「要素項目が間接要因である場合は類似度を低くする」という概念は1/αの乗算を加える事に反映した。
ここで、図8、図11、図12、図13、図14を用いて、それぞれの処理について詳細に述べる。図8では、S302にて着目バリアンスであるPCIパスの出血というバリアンスに関する個別事例分析結果を示している。まずS30301−S30304について詳細に述べる。ここでは、着目バリアンスの個別事例分析結果の構造とその頻度を登録する。登録した様子を図11に示す。まず、着目バリアンスの個別事例分析結果における因果関係を、Riに登録する(iは因果関係の識別子)(S30301)。次に、着目バリアンスの個別事例分析における因果関係Riの頻度を、X(Ri)に登録する(S30302)。本実施例では、着目バリアンスが1症例のみしか発生していないため、「0」か「1」しか登録されない。次に、着目バリアンスの個別事例分析の要素Vにおける発生原因を、Rc(V)jに登録する(jは発生原因の識別子、Vは結論部)(S30303)。本実施例では、図8においてバリアンスが発生した発生原因が「シース自然抜去」「カテーテル挿入失敗」「38度以上」であるため、これら3項目をバリアンスVの発生原因としてRc(V)jに登録する。次に、着目バリアンスの発生数をNxに登録する(S30304)。本実施例では、着目バリアンスが1症例のみしか発生していないため、「1」が登録される。
次に、S30306−S30309について詳細に述べる。ここでは、抽出対象となる全てのバリアンスに対して、個別事例分析結果の構造とその頻度をバリアンス毎に登録する。図12と図13では、抽出対象バリアンスであるTUR-Btパスの血腫ありというバリアンスに関する個別事例分析結果を示しており、例えば図12では、患者P11が血腫ありというバリアンスが発生した直接原因が、体位変動が多く、38度以上の熱があった様子を示している。まず、対象バリアンスの個別事例分析結果における因果関係を、Riに追加登録する(iは因果関係の識別子)(S30306)。次に、対象バリアンスの個別事例分析における因果関係Riの頻度を、Y(Ri)に登録する(S30307)。本実施例では、対象バリアンスが図12と図13に示す2症例のみしか発生していないため、「0」か「1」か「2」しか登録されない。次に、着目バリアンスの個別事例分析の要素Vにおける発生原因を、Rc(V)jに追加登録する(jは発生原因の識別子、Vは結論部)(S30308)。本実施例では、図12においてバリアンスが発生した直接要因が「体位変動が多い」「38度以上」であり、図13においてバリアンスが発生した直接要因が「38度以上」であるため、S30303にて登録した要素を考慮すると、「体位変動が多い」が新たにバリアンスVの前提部としてRc(V)0に登録される。次に、対象バリアンスの発生数をNyに登録する(S30309)。本実施例では、対象バリアンスが図12と図13の2症例発生しているため、「2」が登録される。このようにして個別事例分析結果の構造とその頻度を登録すると、(数1)に従って類似度E(Y)を算出し(S30310)、類似度が高いバリアンスを抽出する(S30311)。
本実施例では、図8の着目バリアンスにおける「抑制無し」の結果が「体位変動が多い」という因果関係が、図12の対象バリアンスにも出てきているので、「因果関係の部分構造が完全に一致していなくても、個別事例分析結果における要素項目が一致していれば、類似度を高くする」という影響度の性質により、類似度向上に寄与している。一方、本関係がバリアンスの直接要因か否かという観点で図8と図12の構造が異なるため、「要素項目が間接要因である場合は類似度を低くする」影響度の性質により、類似度低下に寄与している。
次に、S303にて抽出したバリアンスのパス改善履歴の提示(S304)における出力手段109へ表示される画面構成について、図14を用いて説明する。本例は、パス改善案基本情報表示部1401とパス改善案提示部1402から構成される。本例では、S303にてTUR-Btパスの血腫ありというバリアンスの類似度が高いと判定され、図5のバリアンスコードマスタテーブルと図6のクリニカルパス改善履歴テーブルから、血腫確認に関するバリアンスを防止するために実施したTUR-Btパスの001から002にバージョンアップした様子を示す。これにより、血腫ありのバリアンスを防止するためには、体温38度以下の確認と安静指導を追加することが重要であることが分かる。このようにユーザはTUR-Btパスの改善例を参照することで、PCIパスにおける出血に関するバリアンスを防止するためにも、38度以下の確認と安静指導を追加する事が有効ではないかと考察することが可能になる。
このようにバリアンスの発生原因に着目して類似したバリアンスを抽出し、抽出したバリアンスの改善履歴を参照することで、直面しているクリニカルパス改善を支援する事が可能になる。
図15は、本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの構成図である。特に、同じ現象であっても個別事例分析結果の表現が異なる事例に対応する事を目的に、図1に示した構成図に相関ルール生成手段111と相関ルールデータベース112を新たに追加し、類似事例抽出手段107における類似バリアンスの抽出方法を変更したものである。相関ルール生成手段111は、図2に示す中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。また相関ルールデータベース112は、図2に示す外部記憶装置2024などにより構成される。
本実施例に示すようなシステムを実現するためには、データ処理のフローチャートは図3と同じであるが、個別事例分析処理(S301、S302)と類似バリアンス抽出処理(S303)の詳細な処理が異なる。以下、相関ルール生成手段111について述べた後、個別事例分析処理について述べ、最後に類似バリアンス抽出処理の詳細な処理について述べる。
まず、相関ルール生成手段111について述べる。相関ルール生成手段111では、電子カルテ連携手段103を介して取得した実施記録テーブルなどから、アプリオリアルゴリズムに代表される相関ルールマイニング技術を用いて、バリアンスを結論部に持つ相関ルールを生成する。生成した相関ルールは、相関ルールデータベース112に蓄積される。図16に、実施記録テーブルの例を示す。実施記録テーブルでは、患者コードP0に対して、4月5日に動脈マーキングをA1が実施している様子が記録されている。図17に、相関ルール生成手段111にて生成される知識を示すテーブルの一例を示す。本実施例では、「出血確認」という診療行為に対して「出血」というバリアンスの発生と相関が高い事象を相関ルールとして記録しており、3つの相関ルールを示している。一つ目は、「38度以上」の熱が発生した場合「出血」が起きるという相関ルールの確信度は90%であることを表している。二つ目は、「カテーテル挿入失敗」になった場合「出血」が起きるという相関ルールの確信度は85%であることを表している。三つ目は、「SpO2」が低下した場合「出血」が起きるという相関ルールの確信度は80%であることを表している。
次に、個別事例の分析(S301、S302)の詳細な処理について、図18のフローチャートを用いて述べる。ここでは、バリアンスが発生した根本原因分析を目的に、バリアンスが発生した個別事例毎(S1801)に、バリアンス因果関係の分析である個別事例分析を行う(S1801−S1808)。具体的には、個別事例分析結果構築手段104からメッセージを受けた画面構成処理手段108によって構成された画面を出力手段109に提示し、ユーザは提示された個別事例分析画面にて、入力手段110を介してバリアンス発生原因を入力する(S1802−S1806)。入力されたバリアンス発生原因データを基に個別事例分析結果構築手段104が個別事例分析結果データベース105に格納する(S1807)。図7のフローチャートと異なる点は、ユーザがバリアンス発生原因を入力する処理に「ユーザが設定した閾値以上の確信度をもつ相関ルールの原因知識条件を取り込む」(S1803)が追加され、ユーザがバリアンス発生原因を入力する方法が三つとなった点である。これにより、ユーザはより簡便にバリアンス発生原因を入力することが可能となる。
次に、個別事例の分析(S301、S302)における出力手段109に表示される画面構成について、相関ルール生成手段111の追加に着目して述べる。図19は、出力手段109に表示される画面構成であり、図8に示した画面構成例にルール取り込みボタン8013が追加されている。本実施例でも、PCIパスの出血確認という診療行為に対して、P1という患者が出血というバリアンスが発生した原因をバリアンス発生原因分析構築部802にて分析している様子を示している。本例では、ユーザはルール取り込みボタン8013を押下することで、相関ルールデータベース112に蓄積されている相関テーブルから、確信度が85%以上の相関ルールの原因知識条件である「38度以上」と「カテーテル挿入失敗」がバリアンス発生原因分析構築部802に反映している様子を示している。
次に、類似バリアンス抽出処理(S303)の詳細な処理について、図20のフローチャートを用いて述べる。図10との違いは、同じ現象であっても個別事例分析結果の表現が異なる事例に対応する事を目的に、S30302をS303021に、S30307をS303071に、S30310をS303101に変更した事である。まず変更したポイントについて簡単に述べる。相関ルールを用いて構築した個別事例分析の要素は、原因知識条件であることから(S1803)、相関ルールの前提部である。更に、相関ルールの前提部であるため、バリアンスコードマスタテーブルとクリニカルパスデータテーブルから、相関ルールを用いて構築された要素は、オーダ属性が関連づいている事が分かる。オーダ属性とは、診療行為の種類を記したものであるため、要素の表現が異なっても要素のオーダ属性が一致すれば、個別事例分析結果の表現が多少異なったとしてもある程度似ていると判断することができる。そのため、S303021とS303071では個別事例分析結果の因果関係の頻度を、オーダ属性の単位で数え上げる(Xo(Ri)、Yo(Ri))ことを追加した。さらに、S303101では個別事例分析結果における要素の表現が異なったとしても、オーダ属性が同じであれば、ある程度類似度が高くなるように、(数2)に変更した。ただし、要素の表現が同じであるほうが類似度を高くすべきであるため、β(<1)という係数を乗算することとした。
図10との違いを説明するため、図8、図12、図13、図21、図22を用いてXo(Ri)、Yo(Ri)の具体的な値について述べる。図8が着目バリアンスにおける分析結果、図12、図13、図21が対象バリアンスにおける分析結果である。R1に着目すると、前提部が「38度以上」結論部が「バリアンス」であるが、「38度以上」のオーダ属性は、バリアンスコードマスタテーブルとクリニカルパスデータテーブルから、「アセスメント」であることが分かる。図12、図13では、前提部が「38度以上」結論部が「バリアンス」という因果関係が存在するが、図21では存在しない。しかし、図21における因果関係は、オーダ属性の観点から、前提部が「アセスメント」、結論部が「バリアンス」となる。そのため、Xo(R1)は、図12、図13、図21のいずれにも存在すると考え、「3」が登録されることが分かる。そのため(数2)においてSi(R1)の値が(数1)に比べて大きくなり、(数2)を用いる事でより類似しているということになる。
このように相関ルールに基づいて個別事例分析結果の要素におけるオーダ属性に着目する事によって、同じ現象であっても個別事例分析結果の表現が異なる事例においても類似バリアンスを抽出する事が可能となり、より効果的にクリニカルパス改善履歴抽出する事が可能になる。
図23は、本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの構成図である。特に、診療行為パターンが似ていればクリニカルパス改善履歴を参照すべきであると考えた。図23は、図1に示した構成図にパス類似度算出手段113を新たに追加し、類似事例抽出手段107における抽出方法を変更したものである。パス類似度算出手段113は、図2に示す中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。
本実施例に示すようなシステムを実現するためには、データ処理のフローチャートは図3と同じであるが、類似バリアンス抽出処理(S303)の詳細な処理が異なる。そこで、類似バリアンス抽出処理(S303)について、図24のフローチャートを用いて述べる。図10との違いは、類似度算出にパス類似度の概念を導入するために、S30310からS303102に変更したことである。(数3)ではバリアンスXが発生したクリニカルパスと、バリアンスYが発生したクリニカルパスの診療行為パターンが似ているか否かを数値化したパス類似度D(X,Y)を算出し、パス類似度D(X,Y)の値が大きければ、類似度も大きくするようにした。パス類似度D(X,Y)とは、例えば(数4)のように、t日目に実施する診療行為iの実施回数に着目して算出する。算出例を、図25に示すように保存してもよい。
このようにパス類似度に着目する事によって、ユーザが実施した個別事例分析結果が完全に一致していなくても、診療行為パターンが似ているクリニカルパス改善履歴を参照することが可能になる。
図26は、本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの構成図である。特に、より改善効果が高いクリニカルパス改善履歴の参照を可能とするため、図1に示した構成図にQuality Indicator算出手段114を新たに追加した。Quality Indicator算出手段114は、図2に示す中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。
図27に、本実施例に示すようなシステムを実現するためのデータ処理フローチャートを示す。図3に示したフローチャートとの違いは、抽出した過去バリアンスの中で、パス改善前後のQuality Indicator改善値が高い過去バリアンスを抽出する処理(S2704)を追加した事である。そこで、本処理について詳細に述べる。Quality Indicatorとは医療の質を測定した数値であり、臨床指標とも呼ばれており、平均在院日数や再入院率や褥瘡発生率などがある。図28にQuality Indicatorを格納したQuality Indicatorテーブルと、その基となる患者データテーブルを示す。患者データテーブルには、電子カルテ連携手段103を介して電子カルテデータベース102から取得した情報を基に、平均在院日数や再入院率などのQuality Indicatorを、Quality Indicator算出手段114にて算出した結果を格納する。さらに、患者データテーブルから、パス毎にQuality Indicatorの平均値をQuality Indicator算出手段114にて算出し、Quality Indicatorテーブルに格納する。
このようにして算出した値を、出力手段109を介して出力した様子を図29に示す。本画面例では、図8に示した画面構成例にQuality Indicator改善表示部803が追加されている。図28に示したQuality Indicatorテーブルに基づいて、Quality Indicator改善値をQuality Indicator改善表示部803に表示する。本例では、TUR-Btパスはバージョンアップすることで、在院日数や再入院率の改善効果が高いが、白内障のバージョンアップでは改善効果が全く無い様子を示している。ユーザは本結果を参照する事でTUR-Btパスを選択し、改善案提示ボタン8012を押下すると、図14に示すようにTUR-Btのパス改善履歴が表示される。
このようにクリニカルパスの各バージョンにおいてQuality Indicatorを算出し、その改善効果を考慮することで、より改善効果が高いクリニカルパス改善履歴の参照が可能になる。
本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの第一の構成図
本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムのハードウエアの構成図
本発明においてクリニカルパス改善案提示システムに関する第一のフローチャート
本発明において電子カルテシステムにおけるクリニカルパスデータテーブルを表す図
本発明において電子カルテシステムにおけるバリアンステーブルとバリアンスコードマスタテーブルを表す図
本発明において電子カルテシステムにおけるクリニカルパス改善履歴テーブルを表す図
本発明において個別事例の分析処理に関する第一のフローチャート
本発明における着目バリアンスにおける個別事例の分析処理における画面を示す第一の例
本発明においてクリニカルパス改善案提示システムにおける個別事例分析結果テーブルを表す図
本発明において類似バリアンス抽出処理に関する第一のフローチャート
本発明においてクリニカルパス改善案提示システムにおける類似度の算出過程におけるメモリイメージを表す第一の例
本発明における対象バリアンスにおける個別事例の分析処理における画面を示す第一の例
本発明における対象バリアンスにおける個別事例の分析処理における画面を示す第二の例
本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの画面を示す第一の例
本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの第二の構成図
本発明において電子カルテシステムにおける実施記録テーブルを表す図
本発明においてクリニカルパス改善案提示システムにおける相関テーブルを表す図
本発明において個別事例の分析処理に関する第二のフローチャート
本発明における着目バリアンスにおける個別事例の分析処理における画面を示す第二の例
本発明において類似バリアンス抽出処理に関する第二のフローチャート
本発明における対象バリアンスにおける個別事例の分析処理における画面を示す第三の例
本発明においてクリニカルパス改善案提示システムにおける類似度の算出過程におけるメモリイメージを表す第二の例
本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの第三の構成図
本発明において類似バリアンス抽出処理に関する第三のフローチャート
本発明においてパス類似度テーブルを表す図
本発明におけるクリニカルパス改善案提示システムの第四の構成図
本発明においてクリニカルパス改善案提示システムに関する第二のフローチャート
本発明において患者データテーブルとQuality Indicatorテーブルを表す図
本発明における着目バリアンスにおける個別事例の分析処理における画面を示す第二の例
数1を表す図
数2を表す図
数3を表す図
数4を表す図
100…電子カルテ入出力手段、101…電子カルテ制御手段、102…電子カルテデータベース、103…電子カルテ連携手段、104…個別事例分析結果構築手段、105…個別事例分析結果データベース、106…パス改善データベース、107…類似事例抽出手段、108…画面構成処理手段、109…出力手段、110…入力手段、111…相関ルール生成手段、112…相関ルールデータベース、113…パス類似度算出手段、114…Quality Indicator算出手段、2010…キーボード、2011…ディスプレイ、2012…メモリ、2013…中央処理装置、2014…外部記憶装置、2020…キーボード、2021…ディスプレイ、2022…メモリ、2023…中央処理装置、2024…外部記憶装置、801…条件設定部、8011…保存ボタン、8012…改善案提示ボタン、8013…ルール取り込みボタン、802…バリアンス発生原因分析構築部、1401…パス改善案基本情報表示部、1402…パス改善案提示部