医療の質の向上と効率化を推進する社会情勢の中で、診療の標準化を実現して医療の質の改善を図るために、標準的な診療計画を表したクリニカルパス(クリティカルパス、パスとも呼ばれる)が重要視されている。クリニカルパスを用いて医療の質の改善を図るためには、蓄積した診療データから抽出した根拠に基づいてクリニカルパスを改善する必要があるとされている。特に、クリニカルパスで記述された標準的な診療計画と実際の診療との差異であるバリアンスを収集して分析することで、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスの作成が実現できると考えられている。具体的には、在院日数・治療成績・コストなどの観点から、標準的な診療計画と異なる診療行為と臨床上望ましい成果および目標であるアウトカムが達成されなかったものをバリアンスとして抽出して分析を行う。
ここで、一般的なバリアンス分析に関連した従来例を示す。「非特許文献1」に記載されている方法(従来例1)では、まず、手術やICU(Intensive Care Unit)から一般病棟への移動など特定のイベントを予め設定する。次に、設定したイベントに対して、バリアンスの発生要因別など様々にスライシングしたバリアンスの発生頻度をグラフ表示する。「特許文献1」(従来例2)に記載されているシステムは、疾患の名称や術後の経過日毎に、臨床上望ましい成果および目標であるアウトカムや、アウトカムが達成されたかどうかの判断基準であるアセスメントを記述したファイルをデータベースとして備えた電子医療記録システムである。
次に、患者に対する適合精度が高いクリニカルパスの作成を支援するシステムに関連した従来例を示す。「特許文献2」(従来例3)に記載されている方法では、医療実績データに設定されている治療行為を治療行為予定として設定した仮パスと、患者識別子に基づいて取得した治療行為とを比較し、一致度が所定の基準を超えた仮パスを本クリティカルパスとして登録するシステムである。
次に、バリアンスが発生した要因分析に関連した従来例を示す。「特許文献3」(従来例4)に記載されている方法では、医療予定データが示す予定からはずれた時に、その想定要因の選択肢を提示するシステムである。ユーザは想定要因を、選択肢の中から選択するか、コメントとして入力する。これにより、要因として考えられるものを全て選択肢として予め用意する必要がなくなる。
次に、バリアンスや医療事故などの発生した変動や事故や不具合の背景に潜むシステムの基本的な問題や原因を探る手法であるRCA(Root Cause Analysis:根本原因分析)に関連した従来例を示す。「非特許文献2」や「非特許文献3」に記載されている方法(従来例5)では、医療における当該のアクシデントやインシデント事例に類似した問題や事故の直接原因とその背後にある原因である根本原因を突き止めるために、一般的あるいは網羅的に分析するのではなく、ある類型の事例を分析する方法である。「特許文献4」(従来例6)に記載されているシステムでは、相関ルールマイニングの結果を用いて、個別の事例において詳細な分析を行うシステムである。
前記従来技術におけるバリアンス分析とクリニカルパス分析の課題について述べる。従来のバリアンス分析では、バリアンスの収集や管理に重点が置かれていた。そのため、バリアンスが発生した原因を効率的に分析することは考慮されていなかった。また、クリニカルパス分析では、バリアンスの発生頻度の低減は可能であるが、診療効果が高いクリニカルパスを作成するためには、豊富な経験が必要であった。
従来例1では、バリアンスの発生状況把握に留まっており、発生したバリアンスの対策を立案するためには、個々の事例について更に詳細な検討が必要であった。従来例2では、定量的なバリアンス分析を行うためのバリアンス収集に着眼しているが、収集したバリアンスの分析方法については十分な検討はされていない。
従来例3では、実績データに基づいた適合精度が高いクリニカルパスを作成することは可能である。しかし、実績データよりもより治療成績が優れた診療方法へ対応するためには、豊富な経験が必要であった。
従来例4では、バリアンスの要因として考えられるものを全て選択肢として予め用意していなくても、入力したコメントを新たな選択肢として追加することが可能であり、必要と考えられる選択肢を容易に用意することが可能である。しかし、入力した要因を用いたバリアンスやクリニカルパスの分析方法については十分な検討はされていない。また、バリアンスの直接的な原因を選択することは可能であるが、バリアンスが発生した構造的な問題のような根本原因の分析については十分な検討はされていない。
従来例5や従来例6では、バリアンスが発生した構造的な問題のような根本原因の分析は可能である。しかし分析粒度が詳細であるため、根本原因分析結果を用いてクリニカルパスの改善をするためには、大量の分析結果を効果的に纏める必要があった。
以上のように、バリアンスの詳細な発生原因分析結果を活用して、クリニカルパスの改善すべき項目を抽出し、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスを作成したり改善したりするためには、上述した従来例では十分な効果を得ることが困難であった。特に、バリアンスが発生した根本原因分析のような詳細分析と効率的な分析はトレードオフにあるため、医療従事者の経験に頼る必要があった。
そこで本発明の目的は、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスの改善を目指し、バリアンスが発生した根本原因を活用して、クリニカルパスの改善項目の効果的な抽出を支援するクリニカルパス改善項目抽出システムを提供することにある。
上記目的を達成するため、クリニカルパス改善項目抽出システムは、入力手段及び出力手段及び処理装置を備えており、前記処理装置は、標準的な診療計画を記述したクリニカルパスデータと、バリアンスを記録したバリアンスデータが蓄積されている電子カルテデータベースからデータを取得する電子カルテ連携手段と、前記電子カルテ連携手段により取得した前記クリニカルパスデータと前記バリアンスデータから、バリアンスが発生した事例毎にバリアンス発生原因である個別事例分析結果を構築する個別事例分析結果構築手段と、前記個別事例分析結果構築手段により構築された前記個別事例分析結果を、バリアンス毎に纏めて統合する分析結果統合手段とを有し、前記出力手段は、前記分析結果統合手段にて統合した結果をクリニカルパス改善項目として出力することを特徴とする。
また、前記記載のクリニカルパス改善項目抽出システムにおいて、前記電子カルテ連携手段では、患者に対して実施した診療行為の履歴や患者状態に関する経過記録を記述した実施記録データが蓄積されている電子カルテデータベースからデータを取得することを特徴とする。
さらに、前記記載のクリニカルパス改善項目抽出システムにおいて、前記処理装置は、前記電子カルテ連携手段により取得した前記実施記録データから、相関ルールマイニングによって、結論部にバリアンスを含む相関ルールを生成する相関ルール生成手段を備え、前記個別事例分析結果構築手段では、前記相関ルール生成手段にて生成した前記相関ルールの前提部を前記バリアンス発生原因として抽出することを特徴とする。
また、前記記載のクリニカルパス改善項目抽出システムにおいて、前記分析結果統合手段では、前記個別事例分析結果を纏める基準となる前記バリアンス発生原因の重要度を、前記バリアンス発生原因の発生患者数と、ある患者における前記バリアンス発生原因の数に基づいて算出し、前記重要度を評価指標として前記個別事例分析結果を纏めて統合することを特徴とする。
さらに、前記記載のクリニカルパス改善項目抽出システムにおいて、前記処理装置は、バリアンス発生により、診療の管理面および診療の結果に関して最も重要な目標となる定量的な指標や測定値であるクリニカルインディケータに影響を及ぼした度合いを示す影響度を算出する影響度算出手段を有し、前記分析結果統合手段では、前記影響度にも基づいて前記重要度を算出することを特徴とする。
また、前記記載のクリニカルパス改善項目抽出システムにおいて、前記入力手段では、前記出力手段にて出力した前記クリニカルパス改善項目の中で、ユーザが選択した項目である選択項目の入力を受け付け、前記処理装置は、前記入力手段を通じて選択された前記選択項目と患者毎の前記クリニカルインディケータから、複数種類ある前記クリニカルインディケータの中でユーザが重視している度合いを示す影響度係数を算出する影響度係数算出手段を有し、前記分析結果統合手段では、前記影響度係数にも基づいて前記重要度を算出することを特徴とする。
本発明によれば、バリアンスの発生頻度が低く診療効果が高いクリニカルパスの改善を目指し、バリアンスが発生した根本原因を活用して、クリニカルパスの改善項目の効果的な抽出を支援するクリニカルパス改善項目抽出システムを提供することが可能になる。
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
図1は、電子カルテシステムと、本発明におけるクリニカルパス改善項目抽出システムの構成図である。図1に示す電子カルテシステムは、電子カルテ入出力手段100と、電子カルテ制御手段101と、電子カルテデータベース102から構成される。クリニカルパス改善項目抽出システムは、電子カルテ連携手段103と、個別事例分析結果構築手段104と、個別事例分析結果データベース105と、分析結果統合手段106と、パス改善項目データベース107と、画面構成処理手段108と、出力手段109と、入力手段110から構成される。
本構成のハードウエア構成について述べる。図2に、電子カルテシステムと、本発明におけるクリニカルパス改善項目抽出システムを実現するハードウエア構成図を示す。電子カルテデータベース102は、HDD(Hard Disk Drive)装置に代表される外部記憶装置2014などにより構成される。同様に、個別事例分析結果データベース105とパス改善項目データベース107は、外部記憶装置2024などにより構成される。電子カルテ制御手段101は、中央処理装置2013やメモリ2012などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。同様に、電子カルテ連携手段103と個別事例分析結果構築手段104と分析結果統合手段106と画面構成処理手段108は、中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。出力手段109は、液晶ディスプレイ2021やCRT(Cathode−Ray Tube)などを利用したモニタにより実現することができる。また、紙などの媒体に出力してもよい。入力手段110は、キーボード2020やマウスやペンタブレットにより実現することができる。同様に、電子カルテ入出力手段100は、液晶ディスプレイ2011とキーボード2010などにより実現することができる。ここでは、電子カルテシステムとクリニカルパス改善項目抽出システムを異なるハードウエアで構成した図を示したが、キーボード2010とキーボード2020のように共通するハードウエアを、同一資源を用いて実現してもよい。
図3に、クリニカルパス改善項目抽出システムと電子カルテシステムとの連携の概要を示したフローチャートを示す。まず始めに、電子カルテ入出力手段100に提示されたパス分析ボタンをユーザが押下すると(S301)、パス分析画面が出力手段109に提示される。パス分析ボタンが出力手段109に表示されている時は、入力手段110を介してパス分析ボタンを押下してもよい。次に、出力手段109に提示されるパス分析画面にて、分析対象のパスと診療行為とバリアンスを、入力手段110を介してユーザは選択する(S302)。ここで選択対象となるパスと診療行為とバリアンスは、電子カルテ連携手段103にて取得した情報に基づいて出力手段109に提示される。電子カルテ連携手段103にて取得する情報ついては、後術する。次に、分析対象のバリアンスのRCAを行うための個別事例分析画面を出力手段109に提示すると、ユーザは個別事例分析画面にて、入力手段110を介してバリアンスが発生した事例毎にバリアンス発生原因を入力すると、個別事例分析結果を個別事例分析結果構築手段104にて構築する(S303)。次に、個別事例分析結果構築手段104にて構築した個別事例分析結果を、分析結果統合手段106にてバリアンス毎に纏めて統合し、パス改善項目を抽出する(S304)。本実施例では、個別事例分析結果とパス改善項目を特性要因図の形式で表示しているが、因果関係を表現できる形式であればよい。なお特性要因図とは、バリアンスなどの問題とする特性を親ノード、それに影響を及ぼす要因を子ノードとする階層構造を表現した図であり、品質管理の分野で盛んに用いられている。本発明の特徴は、詳細な分析であるRCAを行った個別事例分析結果を用いて、効果的なパス改善項目の抽出を実現することである。
次に、電子カルテ連携手段103にて取得する情報ついて述べる。電子カルテ連携手段103では、電子カルテデータベース102から、クリニカルパスデータやバリアンスデータや実施記録データや患者テーブルを取得する。実施記録データとは、患者に対して実施した診療行為の履歴や患者状態に関する経過記録や、患者の基本情報などに関するデータである。患者テーブルとは、患者コードや適用したパス名や患者氏名、性別、年齢、在院日数などの指標に関するデータである。詳細は実施例3にて述べる。次に、クリニカルパスデータについて述べる。クリニカルパスデータとは、クリニカルパス毎に実施すべき標準的な診療行為や実施予定日を記したデータである。図4にクリニカルパスデータを記したクリニカルパスデータテーブルを示す。本実施例では、PCIパスの1日目の診療行為が、教育のオーダ属性を持つオリエンテーションと、アセスメントのオーダ属性を持つ血圧確認と、アセスメントのオーダ属性を持つ体温確認である様子を示している。次に、バリアンスに関するデータであるバリアンスデータについて述べる。図5に示すバリアンスデータは、バリアンステーブルとバリアンスコードマスタテーブルから構成される。バリアンスコードマスタテーブルでは、クリニカルパスデータテーブルの診療行為に対応したバリアンスとそのコードが記されている。またバリアンステーブルでは、バリアンスが発生した事例毎に、発生したバリアンス、患者名などが記されている。本実施例では、P0という患者には3つのバリアンスが発生している様子を示している。また、体温確認という診療行為に対して熱が38度以上あった事例が2つあった様子も示している。
ここで、電子カルテ入出力手段100に提示されたパス分析ボタン(S301)と出力手段109に提示される分析対象のパスなどの選択(S302)における画面構成と遷移について、図6と図7を用いて述べる。図6は、電子カルテシステムにおけるメニュー画面例である。図6は、電子カルテシステムメニュー表示部601と、パス分析ボタン6011と、クリニカルパスボタン6012と、バリアンスボタン6013から構成される。クリニカルパスボタン6012をユーザが押下すると、図4に示すクリニカルパスデータテーブルを電子カルテ入出力手段100に提示する。同様に、バリアンスボタン6013をユーザが押下すると、図5に示すバリアンステーブルとバリアンスコードマスタテーブルを電子カルテ入出力手段100に提示する。パス分析ボタン6011を押下すると、図7に示すクリニカルパス分析システム画面を出力手段109に提示する。なお、図2に示す液晶ディスプレイ2011と液晶ディスプレイ2021に同一資源を用いた場合は、同じハードウエア上で画面遷移がされる。図7に示す画面は、クリニカルパス分析システム表示部701と、個別事例解析ボタン7011と、パス改善ボタン7012と、分析対象パス選択部7013と、診療行為選択部7014と、分析対象バリアンス7015から構成される。ユーザは、分析対象パス選択部7013と診療行為選択部7014と分析対象バリアンス7015を介して分析対象事例を選択し、個別事例解析ボタン7011を押下すると、S303で示した分析対象のバリアンスのRCAを行うための図9に示す個別事例分析画面に遷移する。また、パス解析ボタン7012を押下すると、S304で示したパス改善項目を提示する図14と図15に示すパス改善画面に遷移する。これら個別事例分析画面とパス改善画面については、後ほど詳細に述べる。
以下、個別事例の分析(S303)とパス改善項目の抽出(S304)について詳細に述べる。同時に、個別事例分析結果構築手段104と分析結果統合手段106についても詳細に述べる。また、出力手段109に表示される画面構成についても詳細に述べる。
まず、個別事例の分析(S303)の詳細な処理フローについて図8を用いて述べる。ここでは、バリアンスが発生した根本原因の分析を目的に、バリアンスが発生した個別事例毎(S801)に、RCAによる個別事例分析を行う(S801−S807)。具体的には、個別事例分析結果構築手段104からメッセージを受けた画面構成処理手段108によって構成された画面を出力手段109に提示し、ユーザは提示された個別事例分析画面にて、入力手段110を介してバリアンス発生原因を入力する(S802−S805)。入力されたバリアンス発生原因を基に個別事例分析結果構築手段104が個別事例分析結果データベース105に格納する(S806)。
ここでユーザがバリアンス発生原因を入力する処理(S802−S805)について述べる。まず始めに個別事例分析結果構築手段104は、患者インデックスに対応する患者コードを持つレコードを、バリアンステーブルから取得する(S802)。次に、以下に示す二つの方法を用いて、ユーザはバリアンス発生原因を入力する。一つ目の方法では、S802にて取得したバリアンスを、分析対象バリアンスの発生原因としてユーザが選択して入力する(S803)。二つ目の方法では、分析対象バリアンスの発生原因を自由文でテキスト入力する(S804)。これらの作業を、分析対象バリアンスの発生原因を全て入力するまで繰り返す(S805)。
ここで、個別事例の分析(S303)における出力手段109に表示される画面構成について図9を用いて述べる。図9に示す画面は、条件設定部901と保存ボタン9011とバリアンス発生原因分析構築部902から構成される。まず、図7から画面遷移してくると、分析対象パス選択部7013と診療行為選択部7014と分析対象バリアンス7015にて設定された値が、条件設定部901に反映される。また分析対象患者は、S801で設定した患者インデックスに対応する患者コードが提示される。本実施例では、PCIパスの出血確認という診療行為に対して、P1という患者が出血というバリアンスが発生した原因を、バリアンス発生原因分析構築部902にて分析している様子を示している。ここでは、カテーテル挿入失敗や38度以上というバリアンスが、分析対象バリアンスである出血の発生原因としてバリアンステーブルから登録している様子を示している。本実施例では、バリアンステーブルから登録した要素は、下線を施して表示している。また、シース自然抜去などバリアンステーブルに無い要素は、ユーザが自由文でテキスト入力したものである。このようにバリアンス発生原因分析構築部902に発生原因を入力した後、ユーザが保存ボタン9011を押下すると、個別事例分析結果データベース105に格納する。
図10に個別事例分析結果データベース105における個別事例分析結果テーブルを示す。本例では、図9で入力したバリアンス発生原因が登録された様子を示している。出身フラグとは、発生原因テキストがバリアンステーブルから取得した場合は1を、ユーザが適すと入力した場合は0となるように設定した。本例では、出身フラグが1である項目は、分析対象バリアンスである「出血」と、S803にてバリアンステーブルから取得した「カテーテル挿入失敗」と「体温38度以上」である様子を示している。
次に、パス改善項目の抽出(S304)の処理フローについて図11を用いて詳細に述べる。まず始めに、分析対象バリアンスにおける個別事例分析結果を、個別事例分析結果データベース105から取得する(S1101)。次に、取得した個別事例分析結果を統合することで、パス改善項目を抽出する(S1102)。
個別事例分析結果を統合する処理(S1102)について詳細に述べる。パス改善項目を纏めるために、個別事例分析結果の各要素の重要度を評価するための指標(以下、重要度S(L,a))を用いて、複数ある個別事例分析結果をバリアンス毎に一つに纏めることとした。
そこで、まず、本方式を実現するための重要度S(L,a)の定義について述べる。まず、複数の患者で多く発生している原因は、パス改善項目という観点から重要である。しかし、この定義だけでは問題が生じる場合がある。この問題について簡単な事例を用いて説明する。ある分析対象バリアンスが「患者A」と「患者B」と「患者C」に発生したとする。また「患者A」の発生原因が「要因1」のみであり、「患者B」の発生原因が「要因1」と「要因2」と「要因3」であり、「患者C」の発生原因が「要因2」と「要因3」であったとする。この時、「要因1」と「要因2」と「要因3」は3人の患者に共通して出てくる要因であるため、患者数だけで重要度を測ると同じ値となる。しかし「要因1」を解決することができれば、「患者A」のバリアンスを根絶することができる。一方、「患者B」や「患者C」に着目すると、「要因1」と「要因2」と「要因3」のいずれか一つを解決したとしても、バリアンスを根絶することができない。これらのことから、「複数の患者間で多く出る原因は重要」に加え、「要員数の少ない患者の要因は重要」という概念を、重要度S(L,a)の定義に導入することとした。
図12に、個別事例分析結果を統合する処理(S1102)の詳細なフローチャートを示す。S1101にて取得した個別事例分析結果の各要素に対して、個別事例分析結果の階層インデックスL毎(S1201)に、算出した重要度S(L,a)が高い項目をパス改善項目として抽出する(aは要因の識別子)(S1202−S1205)。なお階層インデックスLとは、個別事例分析結果の各要素における階層の深さを表している。図9と図10に示した例では、階層インデックスL=1の項目は「出血」、階層インデックスL=2の項目は「シース自然抜去」「38度以上」「カテーテル挿入失敗」となる。ここでS1202−S1205について詳細に述べる。まず、特性要因図のL階層目に出てくる要因をC(L,a)に格納する。また,それぞれの親ノードをC(L,a)->Parentに格納する(S1202)。次に、患者iのL階層目の要因をP(i,L,j)に格納する(jは要因の識別子)。また,患者iのL階層目の要因数をP(i,L)に格納する。さらに,それぞれの親ノードをP(i,L)->Parentに格納する(S1203)。次に、(数1)に従って,C(L,a)の重要度S(L,a)を算出する(S1204)。(数1)では、「複数の患者間で多く出る原因は重要」という概念は患者識別子iに関するサンメーションに、「要員数の少ない患者の要因は重要」という概念はP(i,L)の逆数の算出に反映されている。最後に、重要度S(L,a) が閾値より高いC(L,a)を,パス改善項目として抽出する(S1205)。
ここで、個別事例分析結果を統合する処理(S1102)により抽出したパス改善項目を格納したパス改善項目データベース107について述べる。図13に、パス改善項目データベース107に格納されたパス改善項目テーブルを示す。パス改善項目テーブルと図10に示した個別事例分析結果テーブルとの違いは、重要度のフィールドである。パス改善項目テーブルでは重要度S(L,a)が高い要素だけが記されている。
次に、パス改善項目の抽出(S304)における出力手段109に表示される画面構成について、図14と図15を用いて述べる。本例は、パス改善項目設定部1401と画面切替ボタン14011とパス改善項目提示部1402から構成される。図14と図15では、PCIパスの出血確認という診療行為に対して発生した出血というバリアンスに関するパス改善項目を提示した様子を示している。まず図14について述べる。図14では、図13に示したパス改善項目テーブルに基づいてパス改善項目を特性要因図の形式で提示している。本例では、出血のバリアンスが、カテーテル挿入失敗や熱が38度以上である時に発生している様子を示している。また、カテーテル挿入失敗の原因が、リアルタイムUSガイドが無かったためであることがわかる。
このようにRCAによりバリアンスが発生した根本原因分析の結果を活用することで、クリニカルパスの改善項目の効果的な抽出が可能となる。また、バリアンスの発生原因を特性要因図によって視覚的に分かりやすく表示することができるため、これらの対策を行うことで、パスの改善を効果的に行うことができる。
まず図15について述べる。図14に示す画面にて、ユーザが画面切替ボタン14011を押下すると、図15に示すようにパス上に、図13に示したパス改善項目テーブルに基づいてパス改善項目を強調して提示する。本例では、体温確認やカテーテル挿入に関連するバリアンスが発生した時に、出血確認に関連するバリアンスが発生している様子を示している。これにより、例えば体温確認を注意深く行ったり、解熱剤を投与したりカテーテル挿入時にはリアルタイムUSガイドを使用するようにクリニカルパスを改善したり、するといった対策を行うことが可能になる。
ここで、図13に示したパス改善項目テーブルから、図15に示すようなパス上に強調する項目を決定する流れについて述べる。まず始めに、パス改善項目テーブルから、出身フラグが1かつ発生原因テキストが分析対象のバリアンスでないレコードのバリアンスコードを取得する。図13では、「003」「004」を取得する。次に、取得したバリアンスコードに対応する行為コードを、図5に示すようなバリアンスコードマスタテーブルから取得する。本例では、バリアンスコード「003」に対しては行為コード「003」を、バリアンスコード「004」に対しては行為コード「004」を取得する。最後に、取得した行為コードに基づいて、図4に示すようなクリニカルパステーブルから強調すべき項目を取得する。本例では、行為コード「003」に対しては「一日目のアセスメントである体温確認」、行為コード「004」に対しては「二日目の処置であるカテーテル挿入」を取得する。
このようにRCAによりバリアンスが発生した根本原因分析の結果を、重要度という評価指標を用いて纏めることで、クリニカルパスの改善項目の効果的な抽出が可能となる。また、これにより、パスの改善項目を、医療従事者が慣れ親しんでいるパス上に提示する事が可能になる。これにより、臨床の現場やパス大会にて、クリニカルパスの改善項目を客観的に議論することが可能になる。
図16は、本発明におけるクリニカルパス改善項目抽出システムの構成図である。特に、RCAにおける個別事例分析を簡便にすることを目的に、図1に示した構成図に相関ルール生成手段111と相関ルールデータベース112を新たに追加したものである。相関ルール生成手段111は、図2に示す中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。また相関ルールデータベース112は、図2に示す外部記憶装置2024などにより構成される。
本実施例に示すようなシステムを実現するためには、データ処理のフローチャートは図3と同じであるが、個別事例の分析(S303)の詳細な処理が異なる。以下、相関ルール生成手段111について述べた後、S303の詳細な処理について述べる。最後に、個別事例の分析(S303)における出力手段109に表示される画面構成について、相関ルール生成手段111の追加に着目して述べる。
まず、相関ルール生成手段111について述べる。相関ルール生成手段111では、電子カルテ連携手段103を介して取得した実施記録テーブルなどから、アプリオリアルゴリズムに代表される相関ルールマイニング技術を用いて、バリアンスを結論部に持つ相関ルールを生成する。生成した相関ルールは、相関ルールデータベース112に蓄積される。図17に、相関ルール生成手段111にて生成される知識を示すテーブルの一例を示す。本実施例では、「出血確認」という診療行為に対して「出血」というバリアンスの発生と相関が高い事象を相関ルールとして記録しており、3つの相関ルールを示している。一つ目は、「38度以上」の熱が発生した場合「出血」が起きるという相関ルールの確信度は90%であることを表している。二つ目は、「カテーテル挿入失敗」になった場合「出血」が起きるという相関ルールの確信度は85%であることを表している。三つ目は、「SpO2」が低下した場合「出血」が起きるという相関ルールの確信度は80%であることを表している。
次に、個別事例の分析(S303)の詳細な処理について、図18のフローチャートを用いて述べる。ここでは、バリアンスが発生した根本原因分析を目的に、バリアンスが発生した個別事例毎(S1801)に、RCAによる個別事例分析を行う(S1801−S1808)。具体的には、個別事例分析結果構築手段104からメッセージを受けた画面構成処理手段108によって構成された画面を出力手段109に提示し、ユーザは提示された個別事例分析画面にて、入力手段110を介してバリアンス発生原因を入力する(S1802−S1806)。入力されたバリアンス発生原因データを基に個別事例分析結果構築手段104が個別事例分析結果データベース105に格納する(S1807)。図8のフローチャートと異なる点は、ユーザがバリアンス発生原因を入力する処理に「ユーザが設定した閾値以上の確信度をもつ相関ルールの原因知識条件を取り込む」(S1803)が追加され、ユーザがバリアンス発生原因を入力する方法が三つとなった点である。これにより、ユーザはより簡便にバリアンス発生原因を入力することが可能となる。
最後に、個別事例の分析(S303)における出力手段109に表示される画面構成について、相関ルール生成手段111の追加に着目して述べる。図19は、出力手段109に表示される画面構成であり、図9に示した画面構成例にルール取り込みボタン9012が追加されている。本実施例でも、PCIパスの出血確認という診療行為に対して、P1という患者が出血というバリアンスが発生した原因をバリアンス発生原因分析構築部902にて分析している様子を示している。本例では、ユーザはルール取り込みボタン9012を押下することで、相関ルールデータベース112に蓄積されている相関テーブルから、確信度が90%以上の相関ルールの原因知識条件である「38度以上」がバリアンス発生原因分析構築部902に反映している様子を示している。ここでは、相関テーブルから反映された要素を四角で囲っている。このように相関ルール生成手段111を追加することで、バリアンスの発生原因を容易に構築することができ、RCAによる個別事例分析を支援することが可能になる。
これらの事から、相関ルールを用いる事で、バリアンス発生原因候補を抽出して提示する事が可能になる。そのため、バリアンステーブルからの選択やテキスト入力といった作業を削減することが可能になる。
図20は、本発明におけるクリニカルパス改善項目抽出システムの構成図である。特に、医療の質の向上を目的に、パス改善項目の抽出の評価基準である重要度に、バリアンス発生により医療の質を指標化したクリニカルインディケータに及ぼした影響を加味するため、図16に示した構成図に影響度算出手段113を追加したものである。クリニカルインディケータとは、診療の管理面および診療の結果に関して最も重要な目標となる定量的な指標や測定値のことであり、例えば平均在院日数、再入院率、死亡率、褥瘡発生率などがある。影響度算出手段113は、図2に示す中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。
図21に、クリニカルパス改善項目抽出システムと電子カルテシステムとの連携の概要を示したフローチャートを示す。図11に示したフローチャートとの違いは、バリアンス発生によりクリニカルインディケータに及ぼした度合いを示す影響度を算出し(S2102)、算出した影響度を用いて分析対象バリアンスにおける個別事例分析結果を統合することである(S2103)。
そこで、これら二つの処理について詳細に述べる。図22に、影響度算出手段113において、バリアンス発生によりクリニカルインディケータ(以下、指標)に及ぼした度合いを示す影響度を算出(S2102)するフローチャートを示す。まず、電子カルテ連携手段103を介して電子カルテシステムから取得した患者テーブルを用いて、在院日数や再入院率などの指標毎に、同一パス内における指標値の順位(V(i,k))を算出する(S2201)。以下、本処理について詳細に述べる。図23に、電子カルテシステムから取得した患者テーブルと、同一パス内における指標値の順位を格納した影響度テーブルを示す。患者テーブルでは、例えば患者コードP0という患者は60歳の男性で、PCIパスを適用した結果、6日の在院日数で再入院が無かった様子を示している。影響度テーブルでは、同一パス内における指標値の順位を算出し、影響度テーブルに保存する。この影響度テーブルは、メモリ内に保存してもよいし、新たに作成したデータベースに保存してもよい。本例の影響度テーブルでは、PCIパス内における在院日数や再入院などの指標の順位を患者テーブルから算出した結果が格納されている。例えば、3人の患者がいるPCIパスの中で、患者P0の在院日数が一番短く、患者P2の在院日数が一番長い様子がわかる。また、患者P0と患者P2は再入院されていないため順位が高く、患者P1は再入院しているため順位が低い様子がわかる。
ここで図22のフローチャートに戻る。次に、パス毎にパスを適用した患者数を算出する(S2202)。図23の患者テーブルでは、PCIパスを適用した患者数は3人ということになる。次に、患者コードに対応した患者インデックス毎に、(数2)に従って影響度E(i)を算出する(S2203−S2206)。(数2)では、図23に示した患者P0のように順位が高い成功事例の場合は影響度の値は低く、患者P1や患者P2のように順位が低い場合は影響度の値が低くなる。
次に、算出した影響度を用いて分析対象バリアンスにおける個別事例分析結果を統合する処理(S2103)について述べる。図24は、統合処理のフローチャートである。図12に示したフローチャートとの違いは、重要度の算出に(数3)に示すように影響度を用いたことである(S2404)。これは、重要度S(L,a)の定義に、指標の順位が高い成功事例におけるバリアンス発生原因より、指標の順位が低い事例におけるバリアンス発生原因が重要であるという概念を導入している。
このようにパス改善項目の抽出の評価基準である重要度に、バリアンス発生により指標に及ぼした影響を加味することで、医学的に重大なバリアンス発生原因を抽出することが可能となり、より効果的なパス改善が可能となる。
図25は、本発明におけるクリニカルパス改善項目抽出システムの構成図である。特に、影響度を算出する際、平均在院日数や再入院率など複数種ある指標に対するユーザが重視している度合いである影響度係数を考慮するため、図20に示した構成図に影響度係数算出手段114を追加したものである。影響度係数算出手段114は、図2に示す中央処理装置2023やメモリ2022などにおいて、所定のプログラムが展開・起動することで各種の処理を実現することができる。
ここで、影響度係数の背景について述べる。図20に示した構成図で実現される重要度では、バリアンス発生により指標に及ぼした影響である影響度を加味しているが、影響度の算出にあたり、在院日数や再入院率など複数ある指標を同等に扱っている。具体的に取り扱う指標の中身は研究段階で発展途上中であること、また病院によっては数百もの指標を作成していることに鑑みると、複数ある指標の中からユーザが重視している指標を考慮して影響度を算出する必要がある。つまり、過去にユーザが選択したパス改善項目に基づいて、指標毎にユーザが重視している度合いである影響度係数を考慮して影響度を算出すればよい。
図26に、クリニカルパス改善項目抽出システムと電子カルテシステムとの連携の概要を示したフローチャートを示す。図21に示したフローチャートとの違いは、分析結果統合手段で生成した結果に対して抽出したクリニカルパスの改善項目を保存し(S2601)、保存した結果を用いて影響度係数を算出し(S2603)、影響度係数を用いて影響度を算出する(S2604)ことである。
そこで、これら3つの処理について詳細に述べる。まず始めに、分析結果統合手段で生成した結果に対して抽出したクリニカルパスの改善項目を保存する処理(S2601)について述べる。図27は、パス改善項目データベース107に蓄積されたデータが出力手段109に表示される画面構成を示したものである。図14との違いは、パス改善項目提示部1402において、パス改善項目の横に重要度を表示している点である。本例では、ユーザが要因1と要因2が本来のパス改善項目であると考え、これらの2項目のみ選択すると、図28のように画面が遷移する。選択した項目を記録するため、図29に示すように、パス改善項目データベース107に蓄積されるパス改善項目テーブルに、ユーザ選択フラグというフィールドを追加した。本例では、ユーザが選択した要因1と要因2のユーザ選択フラグは1を、選択しなかった要因3のユーザ選択フラグは0を示している。
次に、S2601でユーザが選択したパス改善項目を用いた影響度係数を算出する処理(S2603)について述べる。まず始めに、指標毎にユーザが重視している度合いである影響度係数の算出方法の概念について述べる。指標の種類が大量にある場合、ユーザが指標毎に重視している度合いを決定するのは労力がかかる。そこで、S2601の処理で行った過去にユーザが重要であると考え選択したパス改善項目を活用することとした。具体的には、選択したパス改善項目と一致する個別事例分析の結果を持つ患者の全指標を算出する。これにより、例えば、在院日数の成績が悪い患者におけるバリアンス発生原因のみをパス改善項目としてユーザが過去に選択していれば、ユーザは在院日数を重視していることがわかる。
ここで、影響度係数の算出処理について詳細に述べる。図30は影響度係数の算出処理のフローチャートを、図31と図32は影響度係数の算出処理を説明するためのデータである。まず始めに、バリアンスと要因(L,a)と指標(k:指標の識別子)毎に,着目する要因(L,a)を持つ患者における指標(k)の順位の平均値(e(L,a,k))を算出する(S3001)。図31上部に、図23に示す影響度テーブルと図32に示すRCAの個別事例分析結果を用いて、着目する要因(L,a)を持つ患者における指標(k)の順位の平均値(e(L,a,k))を算出した結果を示す。例えば、在院日数の順位を表した値が1であるP0におけるバリアンスの発生原因は、要因1と要因3である様子が分かる。また、要因1を持つ患者であるP0とP1とP2における在院日数の順位の平均値は2.0である様子も分かる。
ここで図30のフローチャートに戻る。次に、パスと指標(k)毎に,ユーザが選択した要因(L,a)におけるe(L,A,k) の平均値(A(k))を影響度係数として算出する(S3002)。図31下部に、図31上部で算出したe(L,A,k)と図29を用いて、影響度係数A(k)を算出した結果を示す。例えば、在院日数の影響度係数は、ユーザがパス改善項目として選択した要因1と要因2に着目し、要因1を持つ患者における在院日数の平均値である2.0と、要因2を持つ患者における在院日数の平均値である2.5の平均値2.25として算出している様子が分かる。
次に、影響度係数を用いて影響度を算出する処理(S2604)について述べる。図33に影響度を算出するフローチャートを示す。図22に示したフローチャートとの違いは、影響度の算出に(数5)に示すように影響度係数を用いたことである(S3304)。これは、ユーザが重視している指標を考慮して影響度を算出している。
このように影響度係数算出手段114により、ユーザが重視している指標を考慮してパス改善項目を抽出することが可能になる。また、ユーザがパス改善項目を分析した結果を活用することで、指標の種類の数の多さを気にすることなく効果的な影響度を算出したりユーザの指標を選ぶ傾向を学習したりするなどの効果がある。