JP5357087B2 - 軽油組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、軽油組成物、特には、排気ガス中の微小粒子の個数を低減させることが可能で且つ燃費が良好な軽油組成物に関するものである。
ディーゼルエンジンの排気ガスには、粒子状物質(Particulate Matter、以下PM)が含まれており、近年、環境問題等の観点から、ディーゼルエンジンを搭載した自動車の排気系にディーゼル・パーティキュレート・フィルタ(Diesel Particulate Filter、以下DPF)を設けることによって、大気に放出されるPM全体の量、PMを構成する粒子の総粒子数を低減する方法が提案されている。
一方で、PM排出量の削減については、燃料の面からも検討されており、排ガス中に含まれるPM全体の量、PMを構成する粒子の総粒子数及び当該粒子のうち直径の分布中心が50nm付近である粒子の粒子数、並びにアルデヒド類の量を同時に且つ十分に低減することが可能な軽油組成物(特許文献1)や、粒子直径が50nm以下の粒子の排出を抑制することが可能なディーゼルエンジン用燃料油組成物が提案されている(特許文献2及び3)。また、過渡運転時におけるエンジンから排出される窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、PM、微小粒子、直径100nm以下の粒子、アルデヒド類の排出量の低減、排ガス後処理装置への負荷の低減、燃費の向上、運転性及び加速性の向上、燃料噴射ポンプの駆動力の低減、エンジン運転時の騒音の低減の他、エンジン始動性に優れ、酸化安定性に優れ、部材への影響を少なくすることが可能な軽油組成物が提案されている(特許文献4〜6)。
PMは、主として炭素質の固体粒子と有機溶剤に溶ける可溶性有機成分(Soluble Organic Fraction、以下SOF)とによって構成されているが、SOFは、燃料や潤滑油由来の高沸点炭化水素が発生源であると推察されている。また、粒径が数nm〜20nmの微小な粒子(以下、ナノ粒子)は、揮発したSOFの凝縮によって生成すると考えられており、重量換算では少量であるが、粒子数が多く表面積も大きい為、呼吸器系細胞への影響を考慮すれば、ナノ粒子の排出量は少ない方が好ましいと考えられている。ナノ粒子の排出は、特に減速時において観察されるが、これは、燃料カット時にシリンダ壁面に付着した未燃焼の燃料が気化し、排気管内で凝縮して生成したものと考えられている。
また、上述のように、PMを低減するための有力な手段としては、DPFの使用が知られているが、このDPFにより捕捉されたPMを構成するSOFの中には、負荷の増大により高温となって蒸発し、大気中で再凝縮して微小粒子化するものが存在している可能性もある(非特許文献1)。
特開2004−2550号公報 特開2006−232978号公報 特開2006−232979号公報 特開2004−67899号公報 特開2004−269682号公報 特開2004−269683号公報
「自動車排出ナノ粒子およびDEPの測定と生体影響評価」,株式会社エヌ・ティー・エス,p.6−7,2005年
従って、自動車排気ガス中のPMの排出量を低減させると共に、炭素質の固体粒子とSOFを主成分とする微小粒子の排出量を低減させることも重要であると考えられる。
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、ディーゼルエンジンの排気ガス中のPM全体の重量及び微小粒子の個数を低減させることが可能である上、燃費が良好な軽油組成物を提供することにある。
本発明者らは、軽油中の特定の成分及び性状を最適化することで、上記従来技術の課題を解決できることを想到し、軽油中の特定の成分及び性状とPM全体の重量、微小粒子の個数及び燃費との相関を鋭意研究した。その結果、軽油性状に加えて、炭素数10〜14の2環及び2.5環芳香族化合物、炭素数15〜29のナフテン成分が、PM全体の重量、微小粒子の個数及び燃費と相関を持つことが分かり、これらの成分の含有量を最適化することで、ディーゼルエンジン排気ガス中のPM全体の重量及び微小粒子の個数を同時に低減させると共に、燃費を良好に維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の軽油組成物は、
15℃における密度が0.78〜0.83g/cm3
90%留出温度が300〜380℃、
セタン指数が45以上、
流動点が−20℃を超え−7.0℃以下、
曇り点が−10℃以上−4.5℃未満、
ナフテン分が8〜25容量%、
炭素数15〜29のナフテン分が4.87〜9.98容量%、
全芳香族分が9.5〜16容量%、
炭素数10〜14の2環芳香族分と炭素数10〜14の2.5環芳香族分の合計が2.15〜5.37容量%である
ことを特徴とする。
また、本発明の軽油組成物は、
下記式(1)及び式(2):
A/Bの比=0.97〜1.98 ・・・ (1)
C/Dの比=0.62〜4.16 ・・・ (2)
[式中、Aは炭素数5〜14のナフテン分(容量%)であり、Bは炭素数15〜29のナフテン分(容量%)であり、Cは炭素数10〜14の2環芳香族分(容量%)と炭素数10〜14の2.5環芳香族分(容量%)の合計であり、Dは炭素数15〜29の2環芳香族分(容量%)と炭素数15〜29の2.5環芳香族分(容量%)の合計である]を満たすことが好ましい。
さらに、本発明の軽油組成物は、
下記式(3):
Z1=A+A/(0.1+0.5×B) ・・・ (3)
(式中、A及びBは上記と同義である)で定義されるZ1の値が4.98〜13.58であり、
下記式(4):
Z2=C+C/(0.1+0.5×D) ・・・ (4)
(式中、C及びDは上記と同義である)で定義されるZ2の値が3.47〜9.37である
ことが好ましい。
本発明の軽油組成物によれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるPM全体の重量及び微小粒子の個数を同時に低減させると共に、燃費を良好に維持することができる。
(芳香族分)
本発明の軽油組成物は、全芳香族分が9.5〜16容量%の範囲である。全芳香族分が上記の範囲内であれば、PM全体の重量並びに微小粒子の個数を低減することができ、低温流動特性及び燃費を維持することもできる。なお、本発明の軽油組成物の全芳香族分は好ましくは9.5〜15容量%であり、特に好ましくは10〜15容量%である。
また、同様にPM全体の重量並びに微小粒子の個数を低減しながら低温流動特性及び燃費を維持するためには、本発明の軽油組成物において、3環以上芳香族分を0.0〜1.0容量%の範囲にすることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.810容量%、特に好ましくは0.2〜0.6容量%である。一方、本発明の軽油組成物において、1環芳香族分は、2.5〜15容量%の範囲が好ましく、3〜13容量%の範囲が更に好ましく、5〜13容量%の範囲がより一層好ましい。1環芳香族分が2.5容量%以上であれば、発熱量を維持することができ、また、15容量%以下であれば、ディーゼルエンジン排気ガス中のPM全体の重量並びに微小粒子の個数を更に低減することができる。なお、これらの芳香族分は、JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に規定された方法で求められる。
(2環芳香族分と2.5環芳香族分)
本発明の軽油組成物は、2環芳香族分(2環芳香族の含有量)と2.5環芳香族分(2.5環芳香族の含有量)の合計(以下、2+2.5環芳香族分という)が2〜10容量%であることが好ましい。なお、2環芳香族とは、ベンゼン環2個が縮合した骨格を持つ炭化水素化合物と、ベンゼン環1個とナフテン環1個が縮合した骨格を持つ炭化水素化合物の両方を指す。例えば、ベンゼン環2個が縮合した骨格を持つ炭化水素化合物としては、ナフタレンが挙げられ、更に、ナフタレンを骨格として一つのベンゼン環に1つ以上の側鎖を有するメチルナフタレン、ジメチルナフタレンが挙げられる。また、ベンゼン環1個とナフテン環1個が縮合した骨格を持つ炭化水素化合物としては、テトラリンが挙げられ、更に、ナフテン環に側鎖を1つ以上有するジメチルテトラヒドロナフタレン、エチルテトラヒドロナフタレン、テトラメチルヒドロナフタレンが挙げられる。また、2.5環芳香族とは、ベンゼン環2個が単結合した骨格を持つ炭化水素化合物と、ベンゼン環1個とナフテン環1個が単結合した骨格を持つ炭化水素化合物の両方を指す。例えば、ベンゼン環2個が単結合した骨格を持つ炭化水素化合物としては、ビフェニルを骨格として1つのベンゼン環に側鎖を1つ以上有するメチルビフェニル、ジメチルビフェニルが挙げられる。また、ベンゼン環1個とナフテン環1個が単結合した骨格を持つ炭化水素化合物としては、メチルシクロヘキシルベンゼンが挙げられる。また、本発明の軽油組成物において、2+2.5環芳香族分は、さらに好ましくは3〜9容量%、特には4〜9容量%である。2+2.5環芳香族分が2容量%以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、10容量%以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
本発明の軽油組成物は、2+2.5環芳香族分のうち、炭素数が10〜14の範囲の成分の含有量が2.15〜5.37容量%であり好ましくは3〜5.37容量%である。2+2.5環芳香族分のうち、炭素数が10〜14の範囲の成分の含有量が2.15容量%以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、5.37容量%以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
本発明の軽油組成物は、2+2.5環芳香族分のうち、炭素数が15〜29の範囲の成分の含有量が0.5〜5容量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜4容量%、特に好ましくは0.5〜3容量%である。2+2.5環芳香族分のうち、炭素数が15〜29の範囲の成分の含有量が0.5容量%以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、5容量%以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
本発明の軽油組成物は、下記式(2):
C/Dの比=0.62〜4.16 ・・・ (2)
を満たすことが好ましい。ここで、Cは炭素数10〜14の2+2.5環芳香族分(容量%)であり、Dは炭素数15〜29の2+2.5環芳香族分(容量%)である。また、C/Dの比は、さらに好ましくは1〜4.16、特には2〜4.16が好ましい。C/Dの比が0.62以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、C/Dの比が4.16以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
なお、上記の2環芳香族分、2.5環芳香族分の詳細な分析には、Agilent Technologies社製HP−6890N型FID検出器付きGC及び日本電子社製AccuTOF JMS−T100GC飛行時間型質量分析計からなるGCシステムを用いた。詳細な分析条件は次の通りである。
1次カラム:微極性カラム(Supelco社製PTE−5、長さ30m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
モジュレータ中空カラム:長さ2m、内径0.25mm
2次カラム:高極性カラム(Supelco社製SpelcoWAX10、長さ2m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
昇温条件:10℃/分(50℃(5分保持)から280℃(27分保持))
注入口温度:280℃
注入量:1.0μl
スプリット比:100:1
キャリアガス:ヘリウム(He)、1.0ml/分
モジュレータ温度:下記のコールド温度、ホット温度を繰り返す。
ホットジェットガス温度:150℃(5分保持)から320℃(33分保持)に10℃/分で昇温。
コールドジェットガス温度:約−140℃
モジュレータ頻度:6秒間で0.3秒間ホット温度、その後5.7秒間コールド温度。
インターフェイス中空カラム:長さ0.5m、内径0.25mm
FIDガス条件:水素(45mL/分)、空気(450mL/分)、メークアップヘリウム(25mL/分)
ここで、上記GCシステムは、炭素数7〜44の化合物を測定することが可能であり、測定したピーク(山形)の溶出時間とマススペクトルから、それぞれのピーク(山形)に対応する化合物を同定する。同定された全ピーク(山形)の合計を含有量合計(100ピーク体積%)とし、それぞれのピーク(山形)から対応するそれぞれの化合物の含有量をピーク体積%として算出し、これを容量%とする。また、成分(化合物群)ごとに特定の炭素数の範囲における容量%を求めた。
(ナフテン分)
本発明の軽油組成物は、ナフテン分が8〜25容量%であり、好ましくは10〜25容量%、特には18〜25容量%が好ましい。ナフテン分が8容量%以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、ナフテン分が25容量%以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
本発明の軽油組成物は、炭素数15〜29のナフテン分が4.87〜9.98容量%である。炭素数15〜29のナフテン分が4.87容量%以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、9.98容量%以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
また、本発明の軽油組成物において、炭素数5〜14のナフテン分は1〜15容量%が好ましく、さらに好ましくは3〜12容量%、特には8〜12容量%が好ましい。炭素数5〜14のナフテン分が1容量%以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、15容量%以下であれば、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。
本発明の軽油組成物は、下記式(1):
A/Bの比=0.97〜1.98
を満たすことが好ましい。ここで、Aは炭素数5〜14のナフテン分(容量%)であり、Bは炭素数15〜29のナフテン分(容量%)である。また、A/Bの比は特には0.97〜1.5が好ましい。A/Bの比が0.97以上であれば、容量あたりの発熱量が高く、容量あたりの燃費が良好となり、また、1.98以下であればディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微小粒子の個数が少なくなる。なお、上記のナフテン分の詳細な分析には、上記のGCシステムを用いた。
(蒸留性状)
本発明の軽油組成物においては、燃費を良好に維持する観点から、90%留出温度を300〜380℃の範囲にすることが必要である。なお、該90%留出温度は、更なる燃費の向上の観点から、320〜360℃の範囲が好ましく、330〜360℃の範囲が特に好ましい。また、本発明の軽油組成物においては、燃焼及び排気ガスの性状を良好に維持する観点から、50%留出温度を好ましくは220〜320℃、さらに好ましくは240〜320℃、特に好ましくは240〜300℃の範囲とする。なお、これらの蒸留性状は、JIS K2254「蒸留試験方法」に規定された方法により求められる。
(粒子数排出係数)
上述のように、本発明者らが、2環芳香族分と2.5環芳香族分、並びに、ナフテン分において、それぞれ特定の範囲の炭素数の含有量について最適化を試みたところ、ディーゼルエンジン排気ガス中に含まれる微小粒子の個数を低減させるためには、下記式(3)又は式(4):
Z1=A+A/(0.1+0.5×B) ・・・ (3)
Z2=C+C/(0.1+0.5×D) ・・・ (4)
[式中、Aは炭素数5〜14のナフテン分(容量%)であり、Bは炭素数15〜29のナフテン分(容量%)であり、Cは炭素数10〜14の2+2.5環芳香族分(容量%)であり、Dは炭素数15〜29の2+2.5環芳香族分(容量%)である]で算出されるZ1の値を4.98〜13.58とすることが好ましく、Z2の値を3.47〜9.37とすることが好ましいことを見出した。また、Z1は、微小粒子の個数をさらに低減する観点から特には10〜13.58が好ましい。また、Z2は、微小粒子の個数を低減する観点から、さらに好ましくは4〜9.37、特には5〜9.37が好ましい。
(密度)
本発明の軽油組成物においては、15℃における密度を0.78〜0.83g/cm3である。軽油組成物の15℃における密度を上記の範囲にすることで、燃費を良好に維持することができる。また、軽油組成物の15℃における密度は、燃費及び排出ガス性状を更に向上させる観点から、好ましくは0.80〜0.83g/cm3、さらに好ましくは0.81〜0.83g/cm3である。なお、該密度は、JIS K2249「原油及び石油製品密度試験方法」に規定された方法で求められる。
(動粘度)
本発明の軽油組成物においては、30℃における動粘度を1.8〜6.5mm2/sの範囲にすることが好ましい。軽油組成物の30℃における動粘度を上記の範囲にすることにより、燃料噴射ポンプでの潤滑性を保持することができ、また、燃料噴射時の燃料の微粒化を促進して排出ガス性状を良好にすることができる。該動粘度は、潤滑性及び排出ガス性状を更に向上させる観点から、さらに好ましくは2〜5mm2/s、特に好ましくは2〜3.5mm2/sの範囲である。ここで、30℃における動粘度は、JIS K2283「動粘度試験方法」に規定された方法で求められる。
(硫黄分)
本発明の軽油組成物においては、排ガス中の硫黄酸化物の低減、排ガスの後処理装置の耐久性向上、及び燃料噴射ポンプでの潤滑性維持、更には燃料の酸化安定性維持の観点から、硫黄分を1〜7質量ppmの範囲にすることが好ましく、1〜6質量ppmの範囲が更に好ましく、2〜5質量ppmの範囲が特に好ましい。なお、硫黄分は、JIS K2541−6「硫黄分試験方法(紫外蛍光法)」に規定された方法で求められる。
(流動点及び曇り点)
本発明の軽油組成物においては、低温時の運転性を向上させつつ燃費を良好に維持する観点から、流動点を−20℃を超え−7.0℃以下にする必要があり、好ましくは−15℃〜−7.5℃、さらに好ましくは−10.0℃〜−7.5℃とする。また、同様に低温時の運転性を向上させつつ燃費を良好に維持する観点から、本発明の軽油組成物においては、曇り点を−10℃以上−4.5℃未満にする必要があり、好ましくは−8℃〜−5℃、さらに好ましくは−6℃〜−5℃とする。ここで、流動点及び曇り点は、JIS K2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に規定された方法で求められる。
(目詰まり点)
本発明の軽油組成物においては、低温時の運転性向上、燃費の良好な維持、及び低温流動性向上剤の添加によるコスト抑制等の観点から、目詰まり点を0℃以下にすることが好ましく、さらに好ましくは−5℃以下、特に好ましくは−6℃以下である。また、特に制限されるものではないが、本発明の軽油組成物においては、目詰まり点が−25℃以上であることが好ましい。なお、目詰まり点は、JIS K2288「石油製品−軽油−目詰まり点試験方法」に規定された方法で求められる。
(真発熱量)
本発明の軽油組成物においては、燃費を良好にするために、真発熱量を好ましくは42500kJ/kg以上、さらに好ましくは42800kJ/kg以上、特に好ましくは43000kJ/kg以上とする。また、特に制限されるものではないが、本発明の軽油組成物においては、真発熱量を43400kJ/kg以下にすることが好ましい。なお、真発熱量は、JIS K2279「原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法」に規定された方法で求められる。
(セタン指数)
本発明の軽油組成物のセタン指数は、着火性を良好にし、適度な予混合を促進するために、45以上であり、好ましくは55〜75、さらに好ましくは60〜75である。なお、セタン指数は、JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に規定された方法で測定されるものである。
(軽油組成物の調製)
本発明の軽油組成物は、原料油として、例えば、常圧蒸留装置、接触分解装置、熱分解装置等から得られる各種の軽油留分、すなわち初留点から終点までの沸点範囲(以下、沸点範囲という)が140〜400℃の範囲で留出する留分を用いて、適宜混合して水素化脱硫するか、水素化脱硫後に適宜混合することにより得られるが、芳香族を多く含む原料油を処理する場合は、製品の硫黄分や芳香族分を所定範囲にするために、反応温度や水素分圧を高くし、また、水素/オイル比を高くすることが有効である。なお、芳香族を多く含む原料油は難脱硫成分も多く含むことから、水素化脱硫にあたっては硫黄分を選択的に除去する触媒を用いる必要がある。また、炭素数が比較的少ないナフテン分や芳香族分を、炭素数が多いナフテン分や芳香族分に対して多くするためには、前記原料油の各種軽油留分の97%留出温度が385℃、好ましくは370℃、さらに好ましくは360℃を超えないように蒸留分離するか、軽質な軽油留分の原料油基材を多く混合することが有効である。
上記水素化脱硫は、Co、Mo及びNiの1種以上を含有し、又所望によりPを担持した水素化触媒を用い、反応温度270〜380℃、好ましくは295〜360℃、反応圧力2.5〜8.5MPa、好ましくは2.7〜7.0MPa、LHSV0.9〜6.0h-1、好ましくは0.9〜5.4h-1、水素/オイル比130〜300Nm3/kLの条件の範囲から適宜選択して、上述の軽油組成物が得られる様にするとよい。
本発明では、上記水素化脱硫した軽油留分に、灯油留分、GTL、BTXを製造する際の副生成留分、潤滑油を製造する際の副生成留分、ノルマルパラフィン化合物、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン化合物、イソパラフィン系溶剤、芳香族化合物、芳香族系溶剤、バイオマス由来の燃料基材、ナフテン化合物、ナフテン系溶剤等を適宜配合して、上述の性状、品質に合った軽油組成物を調製することができる。
なお、上記方法で得られた軽油組成物には、低温流動性向上剤、耐摩耗性向上剤、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤を添加してもよい。低温流動性向上剤としては、エチレン共重合体などを用いることができるが、特には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどの飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましく用いられる。耐摩耗性向上剤としては、例えば長鎖脂肪酸(炭素数12〜24)又はその脂肪酸エステルが好ましく用いられ、10〜500質量ppm、好ましくは50〜100質量ppmの添加量で十分に耐摩耗性が向上する。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
<軽油組成物の調製>
まず以下のようにして、評価試験のために用いる軽油組成物(供試燃料1〜8)を調製した。これら供試燃料1〜8の組成等の分析値を表1〜2に示す。分析は、上述した方法によるが、引火点については、JIS K2265−3「引火点の求め方−第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に規定された方法で測定した。また、H分とC分は、有機元素分析装置(LECO社製CHN−1000型)を用いて測定した。
(実施例1)
供試燃料1:市販1号軽油30容量%、GTL軽油(モスガス社製)30容量%、沸点範囲が209〜231℃のナフテン/パラフィン系溶剤であるエクゾールD80(東燃ゼネラル石油株式会社製)32容量%、沸点範囲が290〜305℃の高沸点芳香族系溶剤である日石ハイゾールSASグレード296(新日本石油化学株式会社製)3容量%、炭素数30のイソパラフィンであるスクアラン(東京化成工業株式会社製)5容量%をそれぞれ配合して調製した。
比較例3
供試燃料2:市販1号軽油30容量%、GTL軽油(モスガス社製)40容量%、沸点範囲が209〜231℃のナフテン/パラフィン系溶剤であるエクゾールD80(東燃ゼネラル石油株式会社製)30容量%をそれぞれ配合して調製した。
(実施例3)
供試燃料3:市販1号軽油35容量%、GTL軽油(モスガス社製)33容量%、沸点範囲が160〜220℃の高沸点芳香族系溶剤であるカクタスソルベントP150(株式会社ジャパンエナジー製)2容量%、市販灯油30容量%をそれぞれ配合して調製した。
(実施例4)
供試燃料4:市販1号軽油56容量%、沸点範囲が209〜231℃のナフテン/パラフィン系溶剤であるエクゾールD80(東燃ゼネラル石油株式会社製)30容量%、市販灯油14容量%をそれぞれ配合して調製した。
(実施例5)
供試燃料5:市販1号軽油43容量%、GTL軽油(モスガス社製)20容量%、沸点範囲が209〜231℃のナフテン/パラフィン系溶剤であるエクゾールD80(東燃ゼネラル石油株式会社製)30容量%、市販灯油7容量%をそれぞれ配合して調製した。
(比較例1)
供試燃料6:沸点範囲が255〜340℃のイソパラフィン系溶剤であるNAソルベントNAS−5H(日油株式会社製)25容量%、沸点範囲が290〜305℃の高沸点芳香族系溶剤である日石ハイゾールSASグレード296(新日本石油化学株式会社製)5容量%、沸点範囲が350〜400℃の高沸点芳香族系溶剤である日石ハイゾールSASグレードLH(新日本石油化学株式会社製)3容量%、炭素数14〜16のノルマルパラフィンSHNP(株式会社ジャパンエナジー製)50容量%、沸点範囲が213〜262℃のイソパラフィン系溶剤であるIPソルベント2028(出光興産株式会社製)17容量%をそれぞれ配合して調製した。
(比較例2)
供試燃料7:GTL軽油(モスガス社製)69容量%、NAソルベントNAS−3(日油株式会社製)9容量%、沸点範囲が290〜305℃の高沸点芳香族系溶剤である日石ハイゾールSASグレード296(新日本石油化学株式会社製)6容量%、市販灯油10容量%、沸点範囲が350〜400℃の高沸点芳香族系溶剤である日石ハイゾールSASグレードLH(新日本石油化学株式会社製)6容量%をそれぞれ配合して調製した。
Figure 0005357087
Figure 0005357087
次に上記供試燃料について、以下に示す車両を用いて、PM全体の重量、微小粒子の個数及び燃費を以下に示す方法で測定した。なお、排出ガス試験は、国内認証試験モードである10・15モードで行った。結果を表3に示す。
<車両諸元>
車両名:トヨタ自動車(株)製エスティマ
エンジン型式:3C−TE
総排気量:2184cc
圧縮比:22.6
最高出力:69kW/4000rpm
最大トルク:206Nm/2200rpm
規制適合:短期規制適合(平成5−6年)
(PM全体の重量の測定)
TRIAS 24−4−1999「ディーゼル自動車10・15モード排出ガス試験方法」に規定された方法により測定した。
(微小粒子の個数の測定)
1次希釈器(MD19−2E,Matter Engineering社製)及び2次希釈器(ASET15−1,Matter Engineering社製)を用いて、車両からの排出ガスを空気で希釈及び加熱した。該希釈された排出ガスの総粒子数を凝縮粒子カウンター(Condensation Particle Counter,TSI社製)で測定した。更に、測定結果から微小粒子の個数を求めた。なお、希釈条件は以下の通りである。
希釈率:105倍(1次希釈)、7倍(2次希釈)
加熱温度:150℃(1次希釈)、300℃(2次希釈)
(燃費の測定)
TRIAS 5−4−1999「ディーゼル自動車10・15モード燃料消費試験方法」に規定された方法(カーボンバランス法)により、燃費を測定した。
Figure 0005357087
表3の結果から、本発明の軽油組成物である実施例1及び3〜5の供試燃料は、比較例1の供試燃料と比較して、燃費が同程度に良好でありながら、PM全体の重量を同程度以下にしつつ、微小粒子の個数を大幅に低減できることが分かる。比較例2の供試燃料は、本発明の軽油組成物である実施例1及び3〜5の供試燃料と比較して、燃費は良好だが、PM全体の重量及び微小粒子の個数が大幅に悪化することが分かる。従って、本発明の軽油組成物である実施例1及び3〜5の供試燃料は、比較例1〜2の供試燃料と比較して、ディーゼルエンジン排気ガス中に含まれるPM全体の重量及び微小粒子の個数の双方を低減させると共に、燃費を良好に維持できることが分かる。
本発明の軽油組成物は、ディーゼルエンジン用燃料又はその混合基材として好適に利用できる。

Claims (3)

  1. 15℃における密度が0.78〜0.83g/cm3、90%留出温度が300〜380℃、セタン指数が45以上、流動点が−20℃を超え−7.0℃以下、曇り点が−10℃以上−4.5℃未満、ナフテン分が8〜25容量%、炭素数15〜29のナフテン分が4.87〜9.98容量%、全芳香族分が9.5〜16容量%、炭素数10〜14の2環芳香族分と炭素数10〜14の2.5環芳香族分の合計が2.15〜5.37容量%であることを特徴とする軽油組成物。
  2. 下記式(1)及び式(2):
    A/Bの比=0.97〜1.98 ・・・ (1)
    C/Dの比=0.62〜4.16 ・・・ (2)
    [式中、Aは炭素数5〜14のナフテン分(容量%)であり、Bは炭素数15〜29のナフテン分(容量%)であり、Cは炭素数10〜14の2環芳香族分(容量%)と炭素数10〜14の2.5環芳香族分(容量%)の合計であり、Dは炭素数15〜29の2環芳香族分(容量%)と炭素数15〜29の2.5環芳香族分(容量%)の合計である]を満たすことを特徴とする請求項1に記載の軽油組成物。
  3. 下記式(3):
    Z1=A+A/(0.1+0.5×B) ・・・ (3)
    (式中、A及びBは上記と同義である)で定義されるZ1の値が4.98〜13.58であり、
    下記式(4):
    Z2=C+C/(0.1+0.5×D) ・・・ (4)
    (式中、C及びDは上記と同義である)で定義されるZ2の値が3.47〜9.37である
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の軽油組成物。
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