まず、FWM発生過程を示す非線形の結合モード方程式を用いて行われている非線形OTDR法の測定概念を説明する。
一般に、縮退FWM(DFWM;Degenerated Four Wave Mixing)を記述する方程式としては、非線形の結合モード方程式(数1)〜(数3)が用いられる。
ここでp、s、cは各々ポンプ光、プローブ光、アイドラー光を表す。αは光ファイバの損失の程度を表し、γは非線形定数(γ=2π/λp・n2/ Aeff、n2;非線形屈折率、Aeff;有効コア断面積)である。Δβは伝搬定数の位相不整合条件であり数(4)に示す。
なお、周波数的に位相整合条件は、
を満たしているものとする(ωp、ωs、ωcはそれぞれポンプ光、プローブ光、アイドラー光の角周波数)。
数(1)〜(3)の非線形結合モード方程式の厳密な解を求めるのが困難なため、以下のような近似による解析解の条件(1)、(2)を用いて考察している。
(1)FWM発生過程においては伝送損失が影響しない
(2)SPM及びXPMの効果は考慮しない
このとき入力ポンプ光強度Pp(z=0)と入力プローブ光強度Ps(z=0)は以下の数(6)のような関係を保つことが必要である。
この数(6)の条件を保つことにより、SPMやXPMの効果を打ち消し、上記条件(2)の仮定を成立させることになる。
上記条件(1)、(2)を考慮した式の導出は以下のようになる。
ここで、Ep;波長λp(ポンプ光)電界、Es;波長λs(プローブ光)電界、Ec;アイドラー光電界、Pp0;入力波長λp強度、Ps0;入力波長λs強度、Δλ;入力二波長間隔である。
これより、長手方向zの位置におけるアイドラー光の電界及び光強度は以下のようになる。
ここでポンプ光、プローブ光及びアイドラー光の伝送損失を考慮して、ファイバ距離zを伝搬し受光されるアイドラー光の後方散乱光の強度は以下の式で記される。
なお、R;レーリー散乱係数、α;損失係数、D;波長分散値である。
ここで、位相不整合条件Δβとポンプ光波長での波長分散値Dとの関係は次式で表される。
ここで、λ=2πc/ωを用いると、数(13)は、
と表すことができる。そして得られる波長分散値Dは、数(15)に示すものとなる。
なお、f(t);tにおけるアイドラー光の後方散乱光の波形の瞬時周波数である。
上述した従来から行われている非線形OTDR法では、光ファイバ内で発生する自己位相変調(SPM)及び相互位相変調(XPM)のような非線形効果の影響は考慮されていない。本実施例では、光ファイバの非線形定数を求めるために、これらの非線形効果を与える測定系を構築し、その測定系におけるファイバ長手方向の非線形効果の影響を測定し、その測定結果からファイバ長手方向に対する波長分散値と非線形定数の各分布値を同時に求める。
ここで、ポンプ光によるSPMやXPMのプローブ光及びアイドラー光に与える非線形効果が無視できない場合の解として、StolenとBjorkholmが導いた解(以下SB解と記す R.Stolen and J.E.Bjorkholm,J.Ouantum Electron.,QE-18, p.1062,1982に詳細が記載されている)を示す。SB解の特徴としてはポンプ光によるSPMやXPMといった非線形効果が取り込まれていることである。そしてこのSB解はポンプ光が非常に強い場合に成り立つ。
しかし、このSB解は、光ファイバの伝送損失が考慮されていない。以下、SB解の基礎方程式を数(16)〜(18)に示す。
また、この場合の距離z伝搬後のアイドラー光Pc(z)は以下のように示される。
(ケースA)
Δβ<0(異常分散)かつPp0>−Δβ/4γの場合、アイドラー光は数(19)に示され、プローブ光は数(20)に示される。
ここで、
である。なお、Ps0は入射プローブ光強度を、Pp0は入射ポンプ光パワーを表す。
(ケースB)
Δβ<0(異常分散)かつPp0<−Δβ/4γの場合、またはΔβ≧0(正常分散)の場合、アイドラー光は数(22)に示され、プローブ光は数(23)に示される。
ここで
である。
数(19)、(20)や(22)、(23)によれば、ファイバ長手方向に伝搬するアイドラー光及びプローブ光の強度Pc(z)、Ps(z)はΔβやγ及びポンプ光の強度Ppに依存してga及びgbが変化するのがわかる。そこでMollenaureらが数(12)においてアイドラー後方散乱光のga及びgbに着目しga及びgbからΔβを求めたように、数(19)、(20)及び数(22)、(23)においてアイドラー光またはプローブ光の後方散乱光の強度を測定し、距離zに対するga、gbを求めると、このga、gbから分散値や非線形定数に関する情報が得られる。
ところで、上記SB解では光ファイバの伝送損失は考慮されていない。プローブ光またはアイドラー光のga及びgbはポンプ光の強度に依存しているため、伝送損失ga及びgbが変化してしまう。そのため、Δβとγの正確な値を得ようとする場合には、伝送損失が考慮されなければならない。数(19)〜(24)に伝送損失の効果を取り込む方法としては、以下の二つの方法が考えられる。
(ケースC)
入力ポンプ光強度とファイバ損失係数dからファイバ長手方向各点でのポンプ光強度を計算し、その値を取り込んでga及びgbを計算する。この場合、上記した二つの場合においてそれぞれ、
(C1のケース)Δβ<0(異常分散)かつPp0>−Δβ/4γの場合、
で表される。
(C2のケース)Δβ<0(異常分散)かつPp0<−Δβ/4γの場合、またはΔβ≧0(正常分散)の場合、
で表される。
(ケースD)
ポンプ光の後方散乱光を測定することによりファイバ長手方向各点でのポンプ光強度Pp(z)を実測し、その値を取り込んでga及びgbを計算する。この場合も上記ケースCと同様に二つの条件の違いにより、以下のように示される。
(D1のケース)Δβ<0(異常分散)かつPp0>−Δβ/4γの場合、
で表される。
(D2のケース)Δβ<0(異常分散)かつPp0<−Δβ/4γの場合、またはΔβ≧0(正常分散)の場合、
で表される。
損失係数αが大きいか、又は条長が長く全長での総損失が大きい光ファイバの場合、前方及び後方からのラマン増幅により、ポンプ光、プローブ光及びアイドラー光を増幅することが効果的である。このような場合、ポンプ光の長手方向での強度変化はファイバ損失係数に比例した減少特性ではないため、上記ケースDのように実測値を用いることが有効になる。
Δβ及びPpに対する条件から数(19)、(20)あるいは数(22)、(23)の二つの解が得られるが、その何れの解を用いてもよい。しかし波長分散値の評価に対しては数(22)及び数(23)が有効である。これはポンプ光の強度振動に対するgbの依存性が異常分散(Δβ<0)の場合と正常分散(Δβ>0)の場合とでは異なるからである。つまり、Δβの正負の違いにより、ポンプ光強度増加時に見られるgbの変化は、異常分散(Δβ<0)では減少、正常分散(Δβ>0)では増加するからである。従ってポンプ光の強度に対するgbの増減を測定することにより、光ファイバの波長分散値の正負が判別可能となる。この利点は、既存の測定法では得られない。
次に、図1を参照して、本実施例における測定装置100について説明する。測定装置100は、被測定光ファイバのファイバ長手方向における波長分散値と非線形定数の各分布値を同時に測定するためのものである。
ポンプ光源1から出た光は位相変調器2にて位相変調がかけられる。位相変調器2には信号発生器3から出力される100MHz前後の周波数の正弦波電気信号が電気信号アンプ4を介して入力される。位相変調は被測定光ファイバ5内で発生する誘導ブリユアン散乱(SBS)を抑圧するために行われる。被測定光ファイバ5に入射するポンプ光強度がSBS閾値よりも低い場合は位相変調の必要はない。
次に、強度変調器6でパルス化される。強度変調器6に印可されるパルスの周期fは伝搬するパルスが被測定光ファイバ5の条長の往復に費やす時間で決まり、f=c/2nL(L;ファイバ条長、n;ファイバの屈折率)である。パルスのduty比は数%程度である。強度変調器6を出た光パルスはEDFA7で増幅され、増幅されたポンプ光はバンドパスフィルタ8、偏波コントローラ9を透過してカプラ10に入射する。
一方、プローブ光源11から発生されたプローブ光は上記ポンプ光と同様に強度変調器12にてパルス化され、カプラ10において当該ポンプ光と合波される。この時、上記二つのパルス(ポンプ光及びプローブ光のパルス)のタイミングと偏波状態とを一致させるため、ディレーライン13と偏波コントローラ14を用いて調整を行う。合波された光はサーキュレータ15と透過し、被測定光ファイバ5に入射する。ここで被測定光ファイバ5の終端は無反射端16に接続されている。
被測定光ファイバ5からのプローブ光またはアイドラー光の後方散乱光はサーキュレータ15を透過し光フィルタ17、EDFA18、更に光フィルタ19を介してO/E変換器20にて電気信号に変換される。この電気信号はオシロスコープ21で測定される。オシロスコープ21にはパルス発生器22から出力されるトリガー信号が入力されている。また入射されるポンプ光及びプローブ光の強度はサーキュレータ15の出力ポートにおいて光パワーメータ131により測定される。
また、上記ポンプ光及びプローブ光をパルス化するために必要となる電気パルス信号は、パルス発生器22で生成され、二分岐された後、各々電気信号アンプ23、24で増幅され、更にDC電源25、26から出力される直流電圧成分と合成され、二つの強度変調器12、6にそれぞれ入力される。オシロスコープ21に入力された電気信号は、デジタル化されてコンピュータ124に入力される。
ここで、ポンプ光波長λpとその入力強度及びプローブ光波長λsは、被測定光ファイバ5の特性により適宜設定されるものである。この波長設定の詳細に関しては下記で説明するが、この波長設定が必要な理由は、上記した測定・解析の条件(SB解の条件)が満たされなければならないからである。
ここで、測定装置100を用いた具体的な測定の手順を示してみる。ここでは波長分散値の正負の情報が得られる数(22)、(23)及び(24)を用いた解析手法について示す。この測定において重要な点は、被測定光ファイバ5の波長分散値及び非線形定数に合わせて、上記した条件式を満たす測定条件に設定することである。また、このような測定条件を設定する際には、実際に使用する測定機器100の能力範囲内に納めることも必須である。
まず、測定条件の設定から最終的に解析データを算出するまでの流れを以下に示す。
(測定1)被測定光ファイバ5及び測定器100の各特性を考慮して測定条件(下記参照)を設定する。
(測定2)測定器100を用いてポンプ光の後方散乱光を測定し、ポンプ光のファイバ長手方向での強度を取得する。
(測定3)測定器100を用いてプローブ光あるいはアイドラー光の各後方散乱光の波形を測定する。
(測定4)入力ポンプ光の強度を複数回変化させて、上記測定2、3の処理を繰り返す。
(測定5)測定器100を用いて、プローブ光あるいはアイドラー光の波形からファイバ長手方向各点でのgbを各々求める。
そして、上記測定5で得られたファイバ長手方向各点におけるポンプ光の強度に対する各gbの値(複数のgbの値)を数(28)に代入し、Δβ及びγを求める。
次に測定1についての詳細を示す。
被測定光ファイバの特性により測定条件の設定は大きく異なる。そこで、まず、被測定光ファイバ5の種類に応じた測定条件の設定について検討する。
測定条件の設定に当たっては、被測定光ファイバ5に対する条長、平均分散値、非線形定数(全長での平均値)の値は事前にわかっていることを前提として行う。非線形定数、平均波長分散値は、被測定光ファイバの種類により、おおよその値は一般に知られている。
従って、測定条件の設定に必要な最低限の情報は、被測定光ファイバ5の種類と、被測定光ファイバ5の条長の値である。一例として、現在知られている1.55μm帯シングルモード光ファイバの代表的な種類とその波長分散値、非線形定数に関する一般的特性を表1に示す。
測定条件は、Δβの正負(波長分散値が正常か異常か)によって異なる。そこでΔβの正負毎に測定条件の設定手順を例示する。
条件設定手順1:異常波長分散値(Δβ<0)の場合。
1-1.距離分解能の設定
測定波形の1km当たりの振動数(波の数;gb(km-1)/π)を2〜10(Pp=0W相当時)と定める。
Pp=0時、Δβ=−2gbより、Δβ(km-1)=−4π〜−20π(≡Δβmax)
1-2.入力ポンプ光強度上限値の設定
非線形定数γよりポンプ光の臨界条件を満たす強度Ppmaxを求める。
Ppmax=−Δβmax/4γ
Ppmaxと測定器の上限値Ppmeasureを比較する。
a)Ppmeasure≦Ppmax⇒設定上限値Pphigh=Ppmeasure
b)Ppmeasure>Ppmax⇒設定上限値Pphigh=Ppmax
1-3.Δβの決定
数(13)を用いて、上記1-1.で求めたΔβに対するポンプ光−プローブ光の二波長間隔Δλを求める。
a)Δλ≦Δλmax(;測定器限界)⇒Δλ決定
b)Δλ>Δλmax ⇒Δλ=Δλmax(Δβが新たに定まる)
1-4.入力ポンプ光強度可変領域の決定
ローブ光またはアイドラー光の振動振幅成分A;A=4γ2Pp2/Δβ(Δβ+4γPp)であり、測定可能な値であるポンプ光領域を決定する。
測定可能限界値Alimは使用する測定器の受信感度に依存して決定される。AがAlimとなるポンプ光強度をPpminとするとポンプ光強度可変領域は
Ppmin≦Pp≦Pphigh
となる。
1-5.測定されるプローブ光またはアイドラー光に対するgbの確認
数(23)を用いて、上記1-4.で求めたポンプ光領域におけるプローブ光またはアイドラー光波形のgbを求める。
gb(Pp=Pphigh)≦gb≦gb(Pp=Ppmin)
条件設定手順2:正常波長分散値(Δβ>0)の場合。
2-1.距離分解能の設定
測定波形の1km当たりの振動数(波の数;gb(km-1)/π)を2〜10(Pp=0W相当時)と定める。
Δβ=4π〜20π(≡Δβmax)
2-2.Δβの決定
数(13)を用いて決定されたΔβからポンプ光-プローブ光の二波長間隔Δλを求める。
a)Δλ≦Δλmax(;測定器限界)⇒Δλ決定
b)Δλ>Δλmax ⇒Δλ=Δλmax
2-3.入力ポンプ光強度可変領域の決定
プローブ光またはアイドラー光の振動振幅成分A;A=4γ2Pp2/Δβ(Δβ+4γPp)が測定可能な値であるポンプ光領域を決定する。
測定可能限界値Alimは使用する測定器の受信感度に依存して決定される。
AがAlimとなるポンプ光強度をPpminとするとポンプ光強度可変領域は
Ppmin≦Pp≦Pphigh
となる。
2-4.測定されるプローブ光またはアイドラー光におけるgbの確認
数(23)を用いて、上記2-3.で求めたポンプ光領域におけるプローブ光またはアイドラー光波形のgbを求める。
gb(Pp=Ppmin)≦gb≦gb(Pp=Pphigh)
条件設定手順3:波長分散値の正負が判別できない光ファイバの場合
特に、DSF系の光ファイバ等のように平均波長分散値がゼロに近いために製造上の都合で波長分散値の正負がファイバ長手方向で変化している光ファイバの場合や、意図的に光ファイバ長手方向に波長分散値を調整した光ファイバ(例えば、分散減少光ファイバ)の場合には、事前に波長分散値の正負を明確に決めることができない。
そのような場合には、以下に示すように光ファイバを異常分散光ファイバと仮定して測定条件の設定を行い、当該設定値を実験時に修正するような手順を取るのが有効と考えられる。これは異常分散光ファイバの場合の方が、ポンプ光の臨界条件(Pp(0)<−Δβ/4γ)が存在するために制限要因が多くなるからである。
一方、正常分散光ファイバの方が異常分散光ファイバに比べて測定条件の設定が容易かというと必ずしもそうではない。この場合、プローブ光及びアイドラー光の振動振幅成分は、波長分散値の絶対値は等しく且つ符号が異なる異常分散光ファイバを比較した場合だと、同じポンプ光の強度振動において正常分散光ファイバの方が小さくより微弱な変動となる。そのため、異常分散光ファイバと仮定して求めた条件からΔβ(Δλ)の値を小さくする方向に補正し、プローブ光及びアイドラー光の振動振幅成分を大きくして測定可能領域を広げる必要が生じてくる。以下、波長分散値の正負が判別できない光ファイバの場合における、測定条件の設定手順について説明する。
3-1.距離分解能の設定
測定波形の1km当たりの振動数(波の数;gb(km-1)/π)を2〜10(Pp=0W相当時)と定める。
Δβ=4π〜20π(≡Δβmax)
3-2.入力ポンプ光強度上限値の設定
非線形定数γよりポンプ光の臨界条件を満たす強度Ppmaxを求める。
Ppmax=−Δβmax/4γ
Ppmaxと測定器の上限値Ppmeasureを比較する。
a)Ppmeasure≦Ppmax ⇒ 設定上限値Pphigh=Ppmeasure
b)Ppmeasure>Ppmax ⇒ 設定上限値Pphigh=Ppmax
3-3.Δβの決定
数(13)を用いて、上記3-1.から求めたΔβに対するポンプ光-プローブ光の二波長間隔Δλを求める。
a)Δλ≦Δλmax(;測定器限界)⇒Δλ決定
b)Δλ>Δλmax ⇒Δλ=Δλmax(Δβが新たに定まる)
3-4.入力ポンプ光強度可変領域の決定
プローブ光またはアイドラー光の振動振幅成分A;A=4γ2Pp2/Δβ(Δβ+4γPp)が測定可能な値であるポンプ光領域を決定する。
測定可能限界値Alimは使用する測定器の受信感度に依存して決定される。AがAlimとなるポンプ光強度をPpminとするとポンプ光強度可変領域は、
Ppmin≦Pp≦Pphigh
となる。
3-5.測定されるプローブ光またはアイドラー光におけるgbの確認
数(23)を用いて、上記3-3.で求めたポンプ光領域におけるプローブ光またはアイドラー光のgbを求める。
異常分散の場合 gb(Pp=Pphigh)≦gb≦gb(Pp=Ppmin)
正常分散の場合 gb(Pp=Ppmin)≦gb≦gb(Pp=Pphigh)
上記した測定条件の設定手順1〜3により、被測定光ファイバ5に対する測定条件が設定される。表2及び表3にその結果を示す。また図8、図9に、RDF(Reversed Dispersion Fiber;逆分散ファイバ)及びHNLF(High NonLinearity Fiber;高非線形ファイバ) (D=4ps/nm/km)に対する測定可能領域を図示した。ここでは測定器100の受信感度をAlim=0.1として示した。なお、Alimは、測定器100の機器特性に応じて定まるため、上記した測定条件が本特許を限定するものではない。
ポンプ光の最大入力強度を設定する際に、誘導ブリユアン散乱(SBS; Stimulated Brillouin Scattering)による影響を考慮する必要がある。SBSが発生するとポンプ光の入力強度を上げても光ファイバを伝搬する際の光強度には限界があり、ポンプ光の強度依存性を正確に測定するのが困難である。そのため、入力強度は、光ファイバのSBS閾値以下に設定する必要がある。
SBS閾値は被測定光ファイバ5の特性(非線形特性等)や条長によって異なるため、測定の際には、被測定光ファイバ5に対し事前にSBSが発生していないことを確認する必要がある。また、SBS閾値を上げ、ポンプ光の入力強度を拡大するためには、位相変調をかける等の方法によりポンプ光のスペクトル線幅を広げることが効果的である。
上記測定1〜4の後、得られたプローブ光又はアイドラー光の各後方散乱光の強度・波形から被測定光ファイバのファイバ長手方向の各地点でのgbを求め(測定5)、その値gbとポンプ光の強度とからΔβとγとを求める。
まず、gbを求める。正弦波的な波形のgbは、L.F.Mollenauer,et.al.が示した方法と同様な方法によって求めることができる。この方法では、まず取り込んだ測定データに対してバンドパスフィルタ処理を行い、信号周波数成分以外の周波数成分を除去する。次に、FFT(Fast Fourier Transform)し、さらに負の周波数をゼロに置き換えてIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)を行うことにより、当該測定データの虚数成分を算出する。
続いて、実数成分と虚数成分とからファイバ長手方向の各地点での位相角を算出する。この位相角がgbに対応する値である。このようにして、各入力ポンプ光強度に対するファイバ長手方向の各地点におけるgbの値が得られる。
次に、上記得られた複数のgbを用いてΔβとγとを求める。まず、ファイバ長手方向の各地点でのポンプ光強度に対する4gb2の値をプロットする。このプロットに対し直線でフィッティングを行い、切片と傾きを求める。数(24)に示すように、当該切片はΔβ2を表している。この時、当該直線の傾きが正であるならば、その地点での被測定光ファイバの分散特性は正常分散であり、逆に負の場合には異常分散である。そして上記傾きの絶対値は4Δβγであることから、上記切片から得られたΔβの値を用いてγを得ることができる。この操作をファイバ長手方向全域に渡って行うことにより、波長分散値とその正負及び非線形定数の双方の長手方向での分布状態を知ることができる。
また、測定されるポンプ光、プローブ光及びアイドラー光の各後方散乱光の波形は、被測定光ファイバの両端の接続部分で反射が起こり、ピークが発生する場合がある。さらにアイドラー光を測定する場合には入射側での波形の立上がり部分の波形歪みがFFT解析時に誤差を与える影響がある。そのため、得られた波形の両端の一定部分を削除して計算することにより全体の計算誤差を抑えることができる。
ここで、図10には、被測定光ファイバとして高非線形ファイバを用いた場合にファイバに入力するポンプ光の強度を変えた場合に測定されたアイドラー光の後方散乱光の波形の一例を示す。また、図11及び図12には、図10に示す値から上記の解析方法を用いて算出した波長分散値と非線形定数のファイバ長手方向の分布値を示す。
次に、図13を参照して、上記した測定装置100を用いたファイバ長手方向の波長分散値及び非線形定数に対する測定方法に基づいて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法について説明する。
まず、準備した(ステップS1)光ファイバの母材の屈折率分布をプリフォームアナライザで測定する(ステップS2)。その結果から線引の条件(線引張力、速度、溶融部の温度等)を決定する(ステップS3)。そして母材を線引し、得られた光ファイバについて上記した測定装置100を用いて波長分散値及び非線形定数のファイバ長手方向の分布値を測定する(ステップS4)。
その評価結果により、非線形定数、波長分散値のどちらかあるいはその両者のファイバ長手方向の分布状態が、光ファイバ全長での平均値に対して±5%以内の変動に含まれるように部分的に切り出す(ステップS5)。以上のようにして本実施例においては光ファイバの波長分散値及び非線形定数をファイバ長手方向で測定し、非線形定数及び波長分散値が最適値を持つ部分を切り出す工程を施すことにより、ファイバ長手方向に、従来よりもより均一で安定した波長分散値及び非線形定数を有する光ファイバが製造される(ステップS6)。
以上説明したように、本実施の形態における測定装置100によれば、光ファイバの非線形定数と波長分散値の双方のファイバ長手方向での分布値を、同時に測定することができる。また1.55μm帯の様々な分散値を有する光ファイバに対しても適切な解析方法が用いられるため、各種の波長分散値を有する光ファイバに対しても対応可能である。更にファイバ製造過程において上記測定方法を用いることによりファイバ長手方向の特性が均一で安定した光ファイバが得られる。そのため、エルビウムドープファイバ増幅器を用いた光強度の強い無中継長距離伝送に用いられる分散補償線路や光ソリトン通信等の伝送路を設計する上で大きな寄与が期待され、その利用価値は大きい。
<他の実施例について>
次に、測定装置100に代えて、他の測定装置を用いて被測定光ファイバ5のファイバ長手方向における波長分散値と非線形定数の各分布値を測定するようにしてもよい。以下、測定装置100以外の他の測定装置101〜106について、図2〜図7を参照して説明する。
まず、図2に示す測定装置101について説明する。測定装置101は、受光部側の感度を向上させるためにヘテロダイン検波方式を用いてプローブ光を受信する構成を有する。この場合、プローブ光源11から出力されたプローブ光はタップカプラ125で二分岐され、一方の光はAO(音響光学)変調器126にてパルス化される。この時、プローブ光はドライブ周波数分だけ周波数シフトする。
また、他方の光は偏波コントローラ27を介して受光部側に設置された3dBカプラ28に入力される。その後、被測定光ファイバ5からのアイドラー光の後方散乱光をサーキュレータ15、光フィルタ17及び偏波コントローラ128を介して3dBカプラ28に入力される。従って、3dBカプラ28ではタップカプラ125で二分岐された光とアイドラー光の後方散乱光とが合波される。
この時、当該両光の偏波状態は、偏波コントローラ27、128により互いに一致するように調整される。当該合波された光は、二分岐され、ダブルバランスド型フォトディテクタ29に受光される。ダブルバランスド型フォトディテクタ29から出力される電気信号は、電気アンプ30で増幅された後、ミキサー31にて信号発生装置32から出力されるAO変調器126のドライブ周波数に対応した周波数信号でベースバンドに落とされ、ローパスフィルタ33を介してオシロスコープ21に送られる。オシロスコープ21は、当該入力された電気信号をデジタル化してコンピュータ124に入力し、コンピュータ124は、当該入力されたデジタルデータに対して二乗平均処理を行う。
次に、図3に示す測定装置102について説明する。測定装置102は、被測定光ファイバ5の両端或いは何れか一端からポンプ光及びプローブ光とは異なる波長の第三の光を入射することにより、被測定光ファイバ5内でポンプ光、プローブ光及びアイドラー光の強度をラマン増幅させるための構成を有する。ラマン増幅は、二つのラマン増幅用光源35、36の各々から二つのWDMカプラ37、38を介して被測定光ファイバ5の両端に入力されるラマン増幅光により行われる(ここで、WDMカプラ38は、サーキュレータであってもよい)。ポンプ光及びプローブ光が1550nm付近で使用する場合は1450nm付近の波長の光を入射させる。このようなラマン増幅は被測定光ファイバの条長が長い場合、また伝送損失が大きな場合に有効である。
次に、図4に示す測定装置103について説明する。測定装置103は、被測定光ファイバ5のパルス出射側に光スペクトラムアナライザ39を備える。この光スペクトラムアナライザ39により、被測定光ファイバ5を透過した後のアイドラー光の光強度Pc(z)が測定可能となる。この測定した光強度Pc(z)の値からアイドラー光の変換効率GC(=Pc(z)/Ps(0))が求められる。測定条件として上記の同様な場合を考えると、この変換効率は、下記ケース1、2毎に次式で表される。
ケース1:Δβ<0(異常分散)かつPp0>−Δβ/4γの場合、数(29)で表される。
ケース2:Δβ<0(異常分散)かつPp0<−Δβ/4γの場合、またはΔβ≧0(正常分散)の場合、数(30)で表される。
数(29)、(30)からわかるように、アイドラー光の変換効率GCはポンプ光の光強度PPに依存して変化していく。またΔβやγがその変化に寄与している。そのため実験において入力ポンプ光の光強度を強くしていったときの被測定光ファイバ5透過後のアイドラー光の変換効率GCの変化を求めると、その測定値には波長分散値や非線形性定数の情報が得られることになる。従って上記ケース1、2の条件が成り立つ設定として数(29)、(30)を用いた回帰分析をすることにより、Δβ及びγの二つのパラメータを決定することができる。このΔβ及びγの値から被測定光ファイバ5の全長での波長分散値及び非線形定数の平均値が得られる。
また、一般に、光ファイバには偏波モード分散が存在する。そのため、サーキュレータ15と接続された被測定光ファイバ5の光入射端でポンプ光及びプローブ光の偏波状態が一致していたとしても、被測定光ファイバ5内を伝搬していく過程で両光の偏波状態が変化する。そのため、条長の長い被測定光ファイバ5や偏波モード分散値が大きな被測定光ファイバ5を測定する場合、被測定光ファイバ5のファイバ終端付近では、測定されるアイドラー光及びプローブ光の強度Pc(z)及びPs(z)と、数(19)、(20)及び数(22)、(23)に示した関数との間に誤差が生じてしまう。
このような場合、被測定光ファイバ5の一方のファイバ端をサーキュレータに接続し、波長分散値及び非線形定数のファイバ長手方向の分布値を測定した後、この時終端となっていた被測定光ファイバ5の他方のファイバ端をサーキュレータ15に接続しなおし、波長分散値及び非線形定数のファイバ長手方向の分布値を同様に測定する。このようにして、被測定光ファイバ5の両端からポンプ光及びプローブ光を入射させ、同様の測定を行って、当該二つの測定結果を比較する。それにより、より偏波モード分散の影響の少ないデータが選択可能となり、光ファイバにおける偏波変動の影響が除去可能となる。
次に、図5に示す測定装置104について説明する。測定装置104は、ポンプ光パルスとプローブ光パルスとを合波するカプラ10と、被測定光ファイバ5との間に非線形光学媒体40を備える。上記したように、特にアイドラー光の後方散乱光を測定する際、被測定光ファイバ5のパルス光入射部ではアイドラー光の強度Pc(z)(zはゼロ近傍)が急激に立上がり、当該測定されたPc(z)(zはゼロ近傍)と、数(19)及び(22)で示される解析解Pc(z)(zはゼロ近傍)との間の誤差が大きい。そのため被測定光ファイバ5に入射する前に適度な非線形効果により微弱なアイドラー光を発生する非線形光学媒体40を設けることで被測定光ファイバ5の当該パルス光入射部では誤差の少ない光波形が得られる。非線形光学媒体40としては非線形性の高い光ファイバを短い距離で使用するのが効果的である。
次に、図6に示す測定装置105について説明する。測定装置105は、ポンプ光、プローブ光の二つのパルス光の光伝送路(ポンプ光においては、ポンプ光源1、位相変調器2、強度変調器6、EDFA7、バンドパスフィルタ8、カプラ10、サーキュレータ15を経由する光伝送路であり、プローブ光においては、プローブ光源11、強度変調器12、ディレーライン13、カプラ10、サーキュレータ15を経由する光伝送路である)において、各光パルスの偏光状態を各々平行な偏波面を持つ直線偏光に保つように、位相変調器2、強度変調器6、EDFA7、バンドパスフィルタ8、強度変調器12、ディレーライン13、カプラ10、サーキュレータ15等がすべて偏波保持特性を持つ部品(各々、特に、位相変調器2a、強度変調器6a、EDFA7a、バンドパスフィルタ8a、強度変調器12a、ディレーライン13a、カプラ10a、サーキュレータ15aとして表す)及びこれらに接続している光ファイバ伝送路(上記各部を接続する光ファイバ)等を備えて構成される。
この測定装置105のパルス光源部(ポンプ光源1及びプローブ光源11)からは二波長のパルス光が直線偏波で偏波偏光面を一致させるよう出射され、被測定光ファイバ5に入射される。このような構成により偏波変動によるFWMの効果低下を防ぐことができる。
次に、図7に示す測定装置106について説明する。測定装置106は、受信部側に光ヘテロダイン検波方式を用い(図2参照)、更に、ポンプ光、プローブ光の二つのパルス光の光伝送路(ポンプ光においては、ポンプ光源1、位相変調器2、強度変調器6、EDFA7、バンドパスフィルタ8、カプラ10を経由する光伝送路であり、プローブ光においては、プローブ光源11、AO変調器126、ディレーライン13、カプラ10、光フィルタ17、3dBカプラ28、タップカプラ125、サーキュレータ15等を経由する光伝送路である)において、各光パルスの偏光状態を各々平行な偏波面を持つ直線偏光に保つように、位相変調器2、強度変調器6、EDFA7、バンドパスフィルタ8、カプラ10、AO変調器126、ディレーライン13、カプラ10、サーキュレータ15、光フィルタ17、3dBカプラ28、タップカプラ125がすべて偏波保持特性を持つ部品(各々、特に、位相変調器2a、強度変調器6a、EDFA7a、バンドパスフィルタ8a、カプラ10a、AO変調器126a、ディレーライン13a、サーキュレータ15a、光フィルタ17a、3dBカプラ28a、タップカプラ125a等として表す)及びこれらを接続している光ファイバ伝送路(上記各部を接続する光ファイバ)等を備えて構成される。
従って、光へテロダイン検波方式を用いた受光部側では、二つのパルス光源部(プローブ光源11)から発生する光と、被測定光ファイバからの後方散乱光との偏波状態が常に一致した安定的な受信が実現できる。
<他の実施形態について>
以下、本発明のその他の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は特に、被測定光ファイバ中の非線形光学効果を利用した光ファイバの波長分散値測定方法、測定装置及びデータ解析手法に関するもので、波長分散値の長手方向の分布特性を得られることを特徴としている。この測定方法では被測定光ファイバに入射する波長の異なる二波長のプローブパルス光とポンプパルス光のノイズを除去し、両パルス光を矩形波に整形することにより、観測するアイドラー光のSN比の向上、SBS発生の抑圧、異常分散性光ファイバにおける変調不安定性(MI発生)の抑制を行い、従来よりも高精度での測定が可能となっている。さらにファイバ製造過程において使用することにより長手方向の特性が均一で安定した光ファイバを得ることができる。そのため、光増幅器を用いた光強度の強い無中継長距離伝送に用いられる分散補償線路や光ソリトン通信等の伝送路を設計する上で大きな寄与が期待される。以下に、図16を参照して本発明の実施形態を説明する。
図16は、本発明による光ファイバの波長分散値の測定装置200の一実施例の構成を示している。本実施例の装置200は、ポンプ光を制御するために、ポンプ光源201と、光位相変調器206と、パルス変調部210と、光増幅器212と、光アッテネータ214と、光バンドパスフィルタ216と、偏波コントローラ218と、偏光子220とが順に接続され、光位相変調器206には、印加電気信号強度及び周波数を制御するために、電気信号発生器203と、電気信号増幅器204とが順に接続されている。なお、パルス変調部210には、印加する電気信号を与えるパルスパターン発生器236が接続され、またパルスパターン発生器236からのトリガ信号を受けるオシロスコープ235がパルスパターン発生器236に接続されている。
また、プローブ光を制御するためには、プローブ光源202と、光位相変調器207と、パルス変調部211と、光増幅器213と、光アッテネータ215と、光バンドパスフィルタ217と、偏波コントローラ219と、偏光子221とが順に接続され、光位相変調器207には、電気信号発生器203と、電気信号増幅器205とが順に接続されている。なお、パルス変調部211には、印加電気信号強度、周波数及びパルス伝播時間を制御するために、パルスパターン発生器236と、ディレーライン238とが順に接続されている。またパルスパターン発生器236からのトリガ信号を受けるオシロスコープ235がパルスパターン発生器236に接続されている。
偏光子220と偏光子221には、制御されたポンプ光とプローブ光とを結合する3dBカプラ222が接続され、3dBカプラ222には、3ポート型の光サーキュレータ223と、被測定光ファイバ224と、無反射端226とが順に設置されている。つまり、光サーキュレータ223の3ポートのうち1ポート目は3dBカプラ222に結合され、2ポート目は被測定光ファイバ224に結合され、もう一つの3ポート目は後述する光フィルタ229に結合されている。なお、3dBカプラ222には、光パルス波形を観測するため、オシロスコープ235と、OE変換器234と、光アッテネータ228とが順に接続されている。
また、被測定光ファイバ224の入力側には、入力前の光強度を測定するための光パワーメータ227が配置され、被測定光ファイバ224の出力側には、無反射端226側に出力される光の状態を測定するための光スペクトラムアナライザ225が配置されている。
光サーキュレータ223の3ポート目には、光フィルタ229と、光増幅器230と、光フィルタ231と、APD(アベランジェ フォトダイオード)232と、電気信号増幅器233と、オシロスコープ235とが順に接続されている。なお、オシロスコープ235には、制御用のコンピュータ237が接続されている。
次に上述した測定装置200による光ファイバの波長分散値の測定方法について説明する。
まず、ポンプ光源201から出力したポンプ光は、光位相変調器206にて位相変調がかけられる。光位相変調器206には、電気信号発生器203から出力される100MHz前後の周波数を有する正弦波電気信号の一部が電気信号増幅器204を介して入力される。位相変調は被測定光ファイバ224中で発生する誘導ブリユアン散乱(SBS)を抑圧するために行われる。このため、被測定光ファイバ224に入射するポンプ光の強度がSBS閾値よりも低い場合は位相変調の必要はない。
次に、ポンプ光は、パルス変調部210でパルス化される。パルス変調部210に印可されるパルスの周期fは伝搬するパルスが被測定光ファイバ224の条長の往復に費やす時間で決まり、f=c/2nL(L;ファイバ条長、n;ファイバの屈折率)である。パルスのduty比は数%程度である。
パルス変調部210から出力したポンプ光は、光増幅器212で増幅され、増幅されたポンプ光は光アッテネータ214、光バンドパスフィルタ216、偏波コントローラ218、偏光子220の順に透過した後、3dBカプラ222に入射する。
一方、プローブ光源202から出力したプローブ光は、上記ポンプ光と同様に光位相変調器207にて位相変調がかけられる。光位相変調器207には、電気信号発生器203から出力される100MHz前後の周波数を有する正弦波電気信号の一部が分岐され、電気信号増幅器205を介して入力される。
光位相変調器207から出力した光は、パルス変調部211にてパルス化された後、光増幅器213で増幅され、増幅されたプローブ光は、光アッテネータ215、光バンドパスフィルタ217、偏波コントローラ219、偏光子221を順に透過した後、3dBカプラ222に入射する。
上述したように、3dBカプラ222には、ポンプ光とプローブ光が入射され、両者は合波される。なお、両者を合波させる際、2つの(ポンプ光及びプローブ光の)パルスの偏波状態を一致させた方が好ましいため、合波前に予め偏波コントローラ218、219を用いて両者の偏波状態の調整を行う。
また、偏光子220、221の透過偏波軸は、3dBカプラ222で合波される際、ポンプ光及びプローブ光の偏光軸が直線的に一致するように調整されている。さらに、3dBカプラ222、光サーキュレータ223およびそれらを接続している光ファイバ、3dBカプラ222と偏光子220、221を接続している光ファイバは、必要に応じて偏波状態を保持するものを使用することが好ましい。
ポンプ光とプローブ光が合波された光は、光サーキュレータ223の1ポートに入力して2ポートから出力し、被測定光ファイバ224に入射する。ここで、被測定光ファイバ224の終端には、無反射端226に接続されている。なお、無反射端226は必要に応じて配置すればよい。
被測定光ファイバ224では、ポンプ光とプローブ光が伝搬する際に、非線形現象が起こり、アイドラー光が発生する。被測定光ファイバ224からのアイドラー光の後方散乱光は、光サーキュレータ223を透過し、光フィルタ229、光増幅器230、更に光フィルタ231を介してAPD232にて電気信号に変換する。この電気信号は、電気信号増幅器233で増幅した後、オシロスコープ235で測定する。オシロスコープ235に入力された電気信号は、デジタル化処理し、制御用コンピュータ237に入力する。なお、光フィルタ229、光増幅器230、更に光フィルタ231は、必要に応じて配置させればよい。
オシロスコープ235には、パルスパターン発生器236から出力されるトリガー信号が入力されている。また入力されるポンプ光及びプローブ光の強度は、光サーキュレータ223の出力ポート(2ポート)において光パワーメータ227により測定される。また、上記ポンプ光及びプローブ光をパルス化するために必要となる電気パルス信号は、パルスパターン発生器236で生成され、二分岐された後、各々パルス変調部210及び211にそれぞれ入力される。
この際、3dBカプラ222で合波されたポンプ光のパルスとプローブ光のパルスの発生タイミングが一致するように、パルスパターン発生器236から生成され二分岐されたどちらか一方の電気信号パルスに、必要に応じてディレーライン238で遅延を与える。ポンプ光及びプローブ光のパルスタイミングの一致を確認するためには、3dBカプラ222の出力ポート222aから出力される光の一部を、光アッテネータ228を介してOE変換器234に入力し、電気信号パルスに変換した後、オシロスコープ235に入力する。
この際、パルスパターン発生器236からのトリガー信号に同期して両パルス光の時間波形を観測することによりパルス間の遅延時間を把握することができる。この遅延時間に応じて、ディレーライン238で遅延時間量を調節し、二つのパルスのタイミングを一致させる。
次に本測定装置および測定方法による具体的な測定の手順を説明する。なお、この測定では、被測定光ファイバの波長分散値及び条長に合わせて測定条件を設定する点に特徴がある。またこの測定条件を設定する際は、実際に使用する光源、受光器等測定機器の機能、能力を考慮することは言うまでもない。まず測定条件の設定方法から最終的に解析データを算出するまでの流れを以下に示す。
被測定光ファイバの波長分散値は、まず、被測定光ファイバ及び測定器特性を考慮し測定条件(入力ポンプ光波長・強度、入力プローブ光波長・強度)を決定し、次に、アイドラー光の後方散乱光波形を観測し、続いて、アイドラー光波形から長手方向各点での瞬時周波数を求め、最後に、長手方向各点におけるΔβから波長分散値Dを求める手順となる。以下に各工程について説明する。
まず、測定条件(入力ポンプ光波長・強度、入力プローブ光波長・強度)の設定について説明する。この設定は、被測定光ファイバの特性により大きく異なるが、一般に光ファイバを測定する際、その光ファイバの種類により、どのような波長分散特性を持つのか、という情報は事前に分かっていることが通常である。そこで、測定条件の設定の際は、被測定光ファイバに対する条長、平均波長分散値の値が、予め分かっていることを前提としその値を用いて条件を設定することとする。平均波長分散値は光ファイバの種類によりおおよその値は一般に知られている。従って、測定条件の設定の際、被測定光ファイバの最低限必要な情報は、光ファイバの種類と、条長の値である。現在知られている1.55μm帯シングルモード光ファイバの代表的な種類とその波長分散値に関する一般的特性を表4に示した。次に測定条件の設定手順について説明する。
測定条件の設定では、まず測定波長(ポンプ光波長)の設定を行う。この測定で得られる波長分散値はポンプ光波長での値である。従って、ポンプ光波長を所望の波長に設定する。次に、距離分解能の設定を行う。観測波形の1km当たりの振動数(波の数;Δβ/2π)を定める。単位長さ当たりのアイドラー光波形の振動数がより多い方が、波長分散値の距離に対する変化をより細かく求めることができるため、Δβ/2πが距離分解能の目安となる。
次に、Δβの設定を行う。Δβは、数(14)で示されるように、光ファイバの波長分散値Dとプローブ光波長及びポンプ光とプローブ光の波長間隔Δλによって定まる。ここで、分散値Dには、被測定光ファイバの平均波長分散値を代入する。そして、距離分解能で設定したΔβにおけるポンプ光とプローブ光の二波長間隔Δλを求める。このΔλを測定器が持つ波長間隔限界値(Δλmax)と比較する。この比較の際、Δλ≦Δλmax(測定器限界)の場合はΔλがその二波長間隔として決定し、Δλ>Δλmaxの場合はΔλ=Δλmax(Δβが新たに定まる)となるΔλが二波長間隔として決定する。
ΔλがΔλmaxよりも大きい場合では、二波長間隔はΔλmaxとしそのときのΔβが新たに定まる。例えば、Δλmax=10nmである場合は、測定対象として考えられる主なファイバに対する設定条件は概ね表5のような値に定める。
次に、ポンプ光及びプローブ光のパルスピーク強度を決定する。ポンプ光とプローブ光の強度関係は数(6)で示される。数(6)からわかるように、プローブ光の強度が定まればポンプ光強度は一意に定まる。プローブ光の最大入力強度を設定する際は、SBSによる影響を排除する必要がある。SBSが発生するとプローブ光の入力強度を上げたとしても、光ファイバを伝搬する光強度に限界が生じてしまい、入力で定めたポンプ光とプローブ光の強度関係を保つことができない。このため入力強度の設定では、光ファイバのSBSしきい値以下に定める必要がある。なお、SBSしきい値は光ファイバの特性(非線形特性等)や条長によって異なる。上述のようにSBSしきい値を考慮して入力強度の設定を行うが、実際の測定の際には、各被測定光ファイバに対し事前にSBSが発生していないことを確認することも必要である。
また、被測定光ファイバが異常分散性ファイバである場合は、MIの影響も考慮する必要がある。MIの発生効率はピーク強度に比例するため、強度の異なるポンプ光とプローブ光ではその発生の度合いが異なる。従って入力部で最適な強度比に合わせたとしても、光ファイバ伝搬中ではその強度比が徐々に崩れてしまう。
図17は、被測定光ファイバへの入力光強度と、光ファイバからの出力光強度を観測し、その強度比を比較することにより最適な入力強度条件を設定する手順をフローチャートとして示している。まず、光ファイバに入力するポンプ光及びプローブ光の強度比と、光ファイバから出力されるポンプ光及びプローブ光の強度比を測定する。ポンプ光及びプローブ光の強度は、光スペクトラムアナライザ等を用いることによりそれぞれの波長での強度を調べることができる。
光ファイバからの透過光の強度比が入力光の強度比と比較して10%以上変化する場合は、SBSあるいはMIの影響が大きいと考えられる。このようなときは、ポンプ光とプローブ光の強度比を保ったまま光ファイバへの入力強度を下げてみる。そして、光ファイバからの透過光の強度比を測定し、入力光強度比に対しその変化が10%以内になるようにこの操作を繰り返し、強度調整を行う。上記のようにして、ポンプ光及びプローブ光の入力光強度条件を定めることにより、SBSもしくは異常分散性ファイバの測定時におけるMIによる測定誤差を、所望の範囲に抑えることができる。
次に入力強度が設定されたポンプ光およびプローブ光のパルス形状に調整するためのパルス変調について説明する。図18は、被測定光ファイバ224に入力するポンプ光及びプローブ光のパルス形状を整えるためのパルス変調部210、211の構成を示したものである。なお、パルス変調部210は、ファンクションジェネレータ239と、バイアスティ241と、DC電源243と、光強度変調器245とがパルスパターン発生器236に順に接続されて構成される。また、パルス変調部211は、ファンクションジェネレータ240と、バイアスティ242と、DC電源244と、光強度変調器246とがパルスパターン発生器236に順に接続されて構成される。以下に各構成における機能について説明する。
まず、パルスパターン発生器236は、光ファイバの条長に対応した周期の電気パルス信号が発生するものである。パルスパターン発生器236からの電気パルス信号は、二台のファンクションジェネレータ239、240に外部からのTrigger信号として入力される。ファンクションジェネレータ239、240は任意の形状の電気信号パルスを生成することができる。ファンクションジェネレータ239、240からの電気信号パルスは、バイアスティ241、242によりDC電源243、244から発生するDC電圧と合波され、光強度変調器245、246に印加される。光強度変調器245及び246を透過する光は、光強度変調器245、246に印加された電気パルス波形に同等な波形に変換される。
光強度変調器245、246を出力した光パルスは、図16に示すように、光増幅器212、213で増幅される。ここで光増幅器212、213から出力された増幅後の光パルスを3dBカプラ222の出力ポート222aから光アッテネータ228を介してOE変換器234で電気信号に変換し、オシロスコープ235でそのパルス形状を観測する。そして、そのパルス形状が矩形になるようにファンクションジェネレータ239、240からの出力電気パルス形状を変化させる。この様にして、光増幅器212、213から出力された高強度の光パルスを理想的な矩形波にすることができる。これによって光ファイバ中でのSBSの発生を防ぎ、アイドラー光の振動波形の安定化を実現できる。
図19は、パルス整形を行わず光強度変調器245、246に矩形の電気パルスを印加した場合に、EDFA等の光増幅器212、213から出力される光パルス波形を示す。パルス先頭部において、強度が大きくサージしているのがわかる。図20は、パルス整形を施した場合の光増幅器212、213からの出力光パルス波形を示すものである。パルス形状は、矩形でありサージが発生していないのがわかる。このため、SBSは回避されることになる。
上記のようにして定められたポンプ光とプローブ光の入力条件により測定を行い、アイドラー光の後方散乱光を観測する。次に、得られたアイドラー光の後方散乱光の波形から、各地点での瞬時周波数を求め、Δβを求める。正弦波的な振動波形の瞬時周波数は、L.F.Mollenauer,et.al.が示した方法で求めることができる。この方法では、まず取り込んだ測定データに対してバンドパスフィルタ処理を行い、信号周波数成分以外の周波数成分を除去する。
次に、FFT(Fast Fourier Transform)を行い、さらに負の周波数をゼロに置き換えIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)を行うことにとり、測定データの虚数成分を導く。続いて、実数成分と虚数成分から各距離での位相角を算出する。この位相角が、瞬時周波数に対応する値である。このようにして各入力ポンプ光強度に対する光ファイバの条長各点におけるΔβの値が得られる。
図21は、被測定光ファイバとして波長1552nmにおいて平均波長分散値15.92ps/nm/kmの特性を有する条長25kmの光ファイバを用いた場合に観測されたアイドラー光の後方散乱光の振動波形である。また、図22は、図21の値から上記の解析方法を用いて算出した波長分散の長手方向分布である。
なお、本実施の形態では、Δβを求める際にFFT、IFFTを用いたが、これに限らず、正弦波関数でフィッテングする方法を用いても、観測波形に最も位置する正弦波パラメータ(周波数)から各地点での周波数(Δβ)を求めることができる。
すなわち、アイドラー後方散乱光波形から、一部の連続するデータ点を抽出して正弦関数に非線形フィッティングすることにより局所的な分散値を求め、抽出するデータ範囲を逐次変更してフィッティングを行うことによりファイバ長手方向の波長分散値の分布を求めることができる。図14には全部で3743点のデータ点をもつ測定波形があるが、例えば、中心付近の連続する201点である1800点目から2000点目を抽出する。抽出した200点に対して、単一の周期を持つと仮定すると、強度の変化は、数31で表すことができ、
この式に非線形フィッティングを行う。ここで、zは位置、a2が分散に関するパラメータである。a1は振幅パラメータ、a3は位相のオフセット、a4は強度のオフセットであり、これらは必要に応じてフィッティングパラメータとする。
パラメータa2を使用すると、波長分散値は、
で求められる。
この求められた波長分散値を、上記抽出したデータ範囲の中心位置、つまり1900点目の波長分散値とする。パラメータa2の初期値はフィルタ無しのフーリエ変換で求められた周期を初期値としたが,初期値は求める分散近傍の値であれば構わなく、予測手法は問わない。
次に、抽出するデータ範囲を変更して、例えば、1801点目から2001点目のデータを抽出して同様に非線形フィッティングにより波長分散値を求め、この求められた波長分散値を1901点目の波長分散値とする。抽出するデータ範囲を変更した後のパラメータa2の初期値は、当該データ範囲を変更する前の計算結果を用いた。同じようにして、抽出するデータ範囲を変更しながら非線形フィッティングにより局所的な波長分散値を求めることにより、ファイバ長手方向における各位置での波長分散値が求められ、波長分散値のファイバ長手方向の分布が得られる。
図15には図14の波形から直接フィッティングの手法で算出された波長分散値の分布が示されており、精度良く波長分散値が求められている。
抽出するデータ範囲としては、位置分解能と精度との兼ね合いから適当な範囲でよい。フィッティングの性質上、抽出するデータ範囲は、強度振動が1〜10周期程度であるとき十分な精度が得られる。
また、数(31)では、抽出するフィッティングデータ範囲内において波長分散値が一定と近似できるような場合に特に有効であるが、波長分散値がファイバ長手方向に大きく変化するような場合には、抽出するフィッティングデータ範囲内において波長分散値が距離の1次で分布する数式を用いたほうがよい。さらに、強度振動の振幅も、抽出するフィッティングデータ範囲内で変化する場合には、当該振幅の1次のパラメータを加えたほうがよい場合もある。1次のパラメータについて、波長分散値に関するものをb2、振幅に関するものをb1とした式、
を用いればよい。
次に、測定に用いている近似式の近似誤差を用いて、測定データの振動周期から算出される波長分散値を補正する手段について説明する。
アイドラー後方散乱光波形は数(31)によって表されることを前提としているが、数(31)は、入力光に対してFWMによって発生するアイドラー光が十分小さいとする近似を用いた微分方程式から導かれているため、波長分散値Dとアイドラー光の強度振動の周期に関するパラメータa2とは厳密には数(2)を満たさない。特に、入力光が強い場合や、被測定光ファイバの非線形定数が大きい場合など、非線形現象が強い系では、観測するアイドラー光の強度が大きく観測しやすくなる反面、近似による誤差が大きくなる。
所定の波長分散値をもつ厳密な微分方程式を解くシミュレーションによって得られた強度変化データから数(31)、(32)を用いて非線形フィッティングにより算出された波長分散値を、シミュレーションで使用した波長分散値と比較することにより、誤差と各パラメータとの関係式が求められる。例えば、入力ポンプ光量と入力プローブ光量の比が1:2である場合、下記Aをパラメータとして、
と定義すると、当該A値が10以上の場合に、波長分散値の誤差は、
となる。数(35)により、波長分散値の真値と、アイドラー後方散乱光波形から算出される波長分散値との誤差が求められるので、測定値から誤差を算出し、求められた誤差分を補償することにより波長分散値の真値を求めることが可能となる。
例えば、入力ポンプ光の強度がPp=200mW、入力プローブの強度がPs=400mW、2つの入力光の波長間隔が2.298nmという測定条件で、波長分散値が2.00ps/nm/km,非線形定数がγ=2.025/km/Wの光ファイバを測定すると、誤差が0.07ps/nm/km、つまり測定された波形から数(31)、(32)により波長分散値を求めると2.07 ps/nm/kmとなる。よって、測定された波長分散値が2.07ps/nm/kmであった場合、誤差を含んだ波長分散値の測定値2.07ps/nm/kmから誤差分0.07ps/nm/kmを補償して、正確な波長分散値2.00ps/nmが算出できる。
数(35)では、非線形定数、2つの入力光パワー、2つの入力光パワーの波長間隔から誤差が求められるが、レーリー散乱係数を10-4とした時のアイドラー光の強度振幅をPcとして、光ファイバの損失は0とした場合に、
のようにも表すこともできる。
このため、非線形定数、観測されたアイドラー光の強度振幅と、2つの入力光パワーの波長間隔とを用いて、測定された波長分散値の誤差補償をすることもできるし、また入力ポンプ光パワーと観測されたアイドラー光の強度振幅だけから測定された波長分散値の誤差補償をすることもできる。特に、数(37)を用いれば、非線形定数がわからなくても誤差の補償ができるので有用である。すなわち、数(37)を用いれば、上記と同様の測定条件ではアイドラー光の強度振幅が4x10-4 mWなので、非線形定数を計算に用いなくても、波長分散値が2.0ps/nm/kmの場合に、入力ポンプ光の強度振幅Pp=200mWを用いて誤差0.07ps/nm/kmが算出できる。
逆に、入力ポンプ光の光量と入力プローブ光の光量の比が1:2である場合、波長分散値が2.0ps/nm/km、非線形定数がγ=2.025/km/Wの光ファイバの波長分散値を測定する際には、波長間隔を大きく、または入力ポンプ光の強度振動を小さくすれば誤差が小さくなることがわかる。近似誤差は波長間隔の4乗に反比例し、入力ポンプ光パワーの2乗に比例する。ただし、発生するアイドラー光は入力ポンプ光パワーの2乗に比例して小さくなってしまうため、アイドラー光が測定可能な範囲内で入力ポンプ光の強度振動を決定することになる。
従って、測定データの局所的な強度振動の周期を求めるために、正弦関数で非線形フィッティングを直接行うことによって、ノイズ成分に影響されにくくでき、解析精度の向上が図れる。また、このように非線形フィッティングを直接行う解析法ではフィルタ処理が不要となり、または簡易的なもので済むため、解析がより容易となる。また、近似による誤差を逆算により補償することにより、解析の精度を上げることが可能となる。さらに、近似誤差の小さい想定条件を選ぶことによっても測定誤差を小さくすることができ、測定の精度が向上する。
次に、他実施例として、前記ポンプ光及びプローブ光の後方散乱光を観測し、被測定光ファイバ中での両光の長手方向での伝播強度の測定結果を用いて長手方向の波長分散値分布の解析補正を行う手段を説明する。
アイドラー光の波形は、数(11)によって表されることを前提としているが、数(11)は、FWM発生過程においては伝送損失が影響しない、SPM及びXPMの効果は考慮しない、という近似の仮定を用いた微分方程式から導かれているため、ポンプ光及びアイドラー光の強度関係が数(6)から外れた場合、波長分散値Dは厳密には数(14)を満たさない。L.F.Mollenauer,et.al.は、このような影響下でのΔβに対する誤差を次式の数(38)で表している。
数(38)を考慮した場合のΔβと波長分散値Dの関係式は次式の数(39)のようになる。
このようにΔβの誤差は、特に被測定光ファイバの非線形定数γが大きい場合、誤差の影響が大きくなる。最近では、非線形定数γが通常のファイバより5倍以上の高非線形ファイバが開発されており、このような光ファイバを評価する際には特に誤差の問題が大きくなる。そこで数(38)の影響を取り除く測定手順を以下に示す。
まず、上記の方法でアイドラー光の後方散乱光の波形から長手方向各地点での瞬時周波数を求め、数(12)の関係式を用いてΔβを求める。次に、ポンプ光及びプローブ光の後方散乱光を観測し、光ファイバ中での各光の伝搬強度の長手方向分布を求める。ポンプ光及びプローブ光の後方散乱光は、受光部でポンプ光、プローブ光それぞれの波長の光を選択するように光フィルタで調整し、オシロスコープを用いてその波形が観測される。また非線形定数γは、既存の測定方法により求めることができる。例えば、R.H.Stolen and Chinlon Lin, Physical Review A, Vol.17, No.4, pp.1448-1453 (1992)、もしくは、A.Wada et al., 18th European Conference of Optical Communication 1992, Technical digest p.42 (1992))に記載された測定方法を用いることが可能である。
次に、光ファイバ中での各光の伝搬強度の長手方向分布の結果から、長手方向の各地点での数(38)で示されるΔβNLが求められる。ΔβからΔβNLを差し引くことで波長分散値Dに依存した成分のみを得ることができる。
この様にして決定した長手方向の波長分散値Dは、ポンプ光及びプローブ光が光ファイバ中での非線形効果等により強度が変化したことによる影響を取り除いた値となり、より確度の高い値と考えることができる。
次に、他実施例について図23を参照して説明する。図23は、被測定光ファイバ224の両端、あるいはどちらかの片端から、ポンプ光、プローブ光とは異なる波長の第三の光を入射することにより、被測定光ファイバ224中でポンプ光、プローブ光及びアイドラー光の強度をラマン増幅させる構成を有する測定装置構成を用いたものである。
ラマン増幅は、二つのラマン増幅用光源247、249の各々から、二つのWDMカプラ248、250を介して被測定光ファイバ224の両端に入力されるラマン増幅光により行われる。なお、WDMカプラ250は、サーキュレータを使用してもよい。ポンプ光及びプローブ光を1550nm付近で使用する場合は、1450nm付近の波長の光を入射させる。このようなラマン増幅は、被測定光ファイバ224の条長が長い場合、また伝送損失が大きな場合に有効である。ラマン増幅を行うことにより光ファイバ中の伝送損失が補償されるため、入力するポンプ光及びプローブ光の強度を下げてもアイドラー光のSN比を保つことができる。これは光ファイバ中でのMIの影響をより低減させることにつながり、測定誤差の低減にも有効である。
さらに、他の実施例として、図16及び図23で示される測定系の構成において、アイドラー光の後方散乱光を波長選択する素子として、Finesse2000以上、透過半値全幅5GHz以下、フィルタ出力光における透過波長光と遮断波長光との強度比(contrast ratio)が40dB以上のファブリーペローフィルタを用いてもよい。
アイドラー光の強度は、ポンプ光及びプローブ光の強度に比較して、30〜40dB程度小さいため、アイドラー光の振動波形を観測するには波長選択素子の特性として、透過幅が狭く、contrast ratio(透過波長と遮断波長帯との伝播損失差)が大きなものが望まれる。このような条件を満たすフィルタとしては、一般的なものが使用できるが、例えばFinesse2000、透過半値全幅2.5GHzのフィルタ(chromux社製、型式TFM-2000)がこれに相当する。このフィルタは、ファブリーペロー共振器をMEMS(Micro Electrical Mechanical System)で構成したものであり、従来のファブリーペロー共振器と比較し、Finesseが大きく、透過半値全幅が狭く、さらに透過損失も3dB程度と低い。またcontrast ratioは40dB以上であり、この値も一般的に市販されているファブリペローエタロンフィルタが20dBであることに比べ大きな違いである。このような狭帯域フィルタを用いることでポンプ光及びプローブ光の混入を防ぎ、アイドラー光のSN比を向上することができる。なお、アイドラー光の波長選択特性をより向上させるためには、図24に示すように、光増幅器251と光フィルタ252の配置数を増やし、アイドラー光の波長選択・強度増幅を繰り返し行い、波長選択性を向上させることもできる。
次に、図25を参照して、上記した測定装置を用いたファイバ長手方向の波長分散値に対する測定方法に基づいて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法について説明する。
まず最初に、準備した光ファイバの母材の屈折率分布をプリフォームアナライザで測定する。その結果から線引の条件(線引張力、速度、溶融部の温度等)を定める。そして母材を線引し、得られた光ファイバについて上記した波長分散分布測定装置を用いて波長分散値の光ファイバ長手方向の分布を評価する。その評価結果により、波長分散値のファイバ長手方向の分布状態が、光ファイバ全長での平均値に対して±5%以内の変動に含まれるように部分的に切り出す。以上のようにして本実施例においては光ファイバの波長分散値のファイバ長手方向での評価を行い、波長分散値が最適値を持つ部分を切り出す工程を施すことにより、ファイバ長手方向に、従来より均一で安定した波長分散値を有する光ファイバの製造が可能となる。
上述したように、本発明による光ファイバの波長分散分布測定方法では、送信部で光ファイバに入力する二つの波長のパルス光(ポンプパルス光とプローブパルス光)をそれぞれ独立して光増幅し、狭帯域光バンドパスフィルタを透過させている。各パルス光をそれぞれ独立して光増幅を行うことにより、光増幅器で発生するASEノイズをカットすることができる。
また、本発明では、ポンプパルス光またはプローブパルス光の少なくとも一方を、時間的に重なり合うように遅延時間を調整し、カプラで合波する。次に、合波した光を、被測定光ファイバに入力する。光ファイバ中では非線形効果によりアイドラー光が発生する。被測定光ファイバが異常分散性光ファイバの場合は、光ファイバ中でMIが発生するが、被測定光ファイバへ入力するポンプパルス光及びプローブパルス光は、光フィルタでASEノイズが除去されているため、ポンプパルス光及びプローブパルス光のSN比が向上し、MIの発生効率を低減させることができる。
そのため、アイドラー光の波長においてもMIによるノイズの増加を抑えることができ、観測する後方散乱アイドラー光のSN比を向上させることができる。また、アイドラー光のノイズレベルが低下したことにより、戻り光を観測する受光部の感度が向上し、入力ポンプパルス光、プローブパルス光の強度をより下げることが可能になり、さらにMIの影響を低減させた測定を行うことができる。
また、ポンプ光及びプローブ光のパルス変調部において、光増幅器からの出力パルス波形が矩形波になるようにパルス整形を施すことにより、光増幅器によるパルスサージの発生を抑え、光ファイバ中でのSBSの発生を抑制することができる。
さらに被測定光ファイバに入力されるポンプパルス光とプローブパルス光の強度比と被測定光ファイバを透過したポンプパルス光とプローブパルス光の強度比を比較し10%以内の変動に収まるように入力ポンプパルス光及びプローブパルス光のピーク強度を定めることにより、光ファイバ中でのMIの影響を所望の範囲内に抑えることができる。
さらにアイドラー光のSN比が向上したことにより、より微弱な強度のアイドラー光を観測することが可能になる。このため、ポンプ光とプローブ光の波長間隔を広げ、観測するアイドラー光の繰り返し振動数を増やすことにより、位置に対する分散値の確度を向上することができる。また、ポンプ光とプローブ光の波長間隔を広げない状態では、より遠方からの微弱光を観測できることになるため、測定可能な距離が伸長することになる。
さらに、ポンプパルス光及びプローブパルス光の後方散乱光を観測し、被測定光ファイバ中での両光の長手方向の伝播強度分布値を用いて長手方向の波長分散値分布の解析補正を行うことでより正確な波長分散値を得ることができる。
上述した測定においては、ポンプ光、プローブ光及びアイドラー光に対しラマン増幅を使用することにより観測するアイドラー光の強度が増幅されるためファイバへの入力ポンプ光及びプローブ光強度をさらに低下させても同等なSN比で観測することが可能となりよりMIの影響を低減することができる。
さらに、受光部でのアイドラー後方散乱光の波長選択素子として、Finesse2000以上、透過半値全幅5GHz以下、フィルタ出力光における透過波長光と遮断波長光との強度比が40dB以上の狭帯域ファブリーペローを用いることにより、ポンプ光及びプローブ光の混入を阻止しアイドラー光のみを観測することができる。
このようにノイズの低減、パルス整形によるSBS発生の抑制、アイドラー光SN比の向上により、より低い入力光強度で測定が可能となり、測定誤差が低減し正確な波長分散値を得ることができる。この効果は条長の長いファイバや異常分散性ファイバの遠端部分で特に顕著である。
また、このような測定装置を用いることにより、線引した光ファイバの長手方向の波長分散分布状態を測定し、ファイバ長手方向に分布した波長分散値が光ファイバ全長の平均値に対して±5%以内になるように光ファイバを切り出すことで全長でより均一な波長分散値を持つ光ファイバを得ることができる。