つぎに、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
図1は、本発明のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法の第1実施形態の概略を示すフロー図である。
このEVOHの製造工程は、エチレン−ビニルエステル系(本例においてはエチレン−酢酸ビニル)共重合体のアルコール溶液に対してケン化を施し、EVOHのアルコール溶液を得るケン化処理工程(図示省略)と、EVOHのアルコール溶液を塔型の洗浄容器中で水蒸気と接触させ、EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストを得る予備洗浄工程と、ペーストを多段式の塔型洗浄槽でせん断力を加えて洗浄水と接触させ、ペーストの内部と表面とを繰り返し入れ替えて、アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を得る主洗浄工程と、洗浄後のEVOH含水組成物を押出機およびストランドカッタ等を用いてペレット化するペレット化工程(図示省略)と、から構成されている。
なお、本発明においては、上記ケン化処理工程で得られたEVOHのアルコール溶液を、塔型の洗浄容器中で水蒸気と接触させ、EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストを得る工程を、先に述べたように「予備洗浄工程」と称する。本発明において、予備洗浄工程とは、主洗浄工程よりも前にある工程であることを意味し、ペーストの滞留時間や洗浄前後の不純物の量の差に関して他の洗浄工程と相対的に異なることを意味するものではない。
まず、本発明において用いられるエチレン−ビニルエステル系共重合体および本発明において得られるEVOHについて予め説明する。
本発明において得られるEVOHは、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記EVOHは、通常、脂肪酸ビニルエステルとエチレンを共重合して得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化して得られるものであり、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化によって生じた若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
上記脂肪酸ビニルエステル系化合物としては代表的には酢酸ビニルであるが、他にもギ酸ビニル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,バレリン酸ビニル,酪酸ビニル,イソ酪酸ビニル,ピバリン酸ビニル,カプリン酸ビニル,ラウリン酸ビニル,ステアリン酸ビニル,安息香酸ビニル,バーサチック酸ビニル等を、単独でもしくは併せて用いることができる。
なお、本発明では、エチレンと脂肪酸ビニルエステル以外に、EVOHに要求される特性を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、上記単量体としては、下記のものがあげられる。例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類や、2−プロペン−1−オール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類や、そのエステル化物である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、特に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等があげられる。また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、ならびに、炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類があげられる。また、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、ならびに、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類や、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩ならびにその4級塩等のメタクリルアミド類があげられる。また、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類や、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、ならびに、酢酸アリル、塩化アリル、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等があげられる。
また、EVOHのエチレン含有量は、エチレンと脂肪酸ビニルエステルの重合時に決定するものであり、ケン化の前後で変化するものではない。上記エチレン含有量は、EVOHにおけるエチレン含有量として、ISO14663にもとづいて測定した値で、通常20〜60モル%であり、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは25〜50モル%である。このエチレン含有量が少なすぎた場合、溶融成形する際の成形性が低下する傾向にあり、逆に多すぎた場合、成形物に用いたときのガスバリア性が低下する傾向がある。
上記EVOHにおけるビニルエステル成分の平均ケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は、水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)にもとづいて測定した値で、通常90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%である。上記ケン化度が低すぎた場合、ガスバリア性や耐湿性等が低下する傾向にある。
また、EVOHにおけるメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は通常0.1〜100g/10分であり、好ましくは0.5〜50g/10分、さらに好ましくは1〜30g/10分である。このメルトフローレートが小さすぎる場合には、溶融成形時に高トルク状態となって成形加工が困難となる傾向にあり、また大きすぎる場合には、成形物としたときの外観性やガスバリア性が低下する傾向にある。
エチレンと脂肪酸ビニルエステルの共重合(反応)には、溶液重合,懸濁重合,乳化重合,バルク重合などの重合法が用いられ、なかでも溶液重合が好ましく用いられる。なお、溶液重合に使用される溶媒としては、エチレンと脂肪酸ビニルエステル、およびその重合生成物であるエチレン−ビニルエステル系共重合体を溶解するものであることが必要であり、通常はアルコールが用いられる。好ましくは炭素数が1〜4のアルコールであり、具体的には、メタノール,エタノール,n−プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,t−ブチルアルコール等があげられる。そして、後述するケン化処理を考慮して、ケン化処理で用いる溶媒と上記重合時の溶媒と同じにすると、溶媒置換の必要がなく、回収再利用等の処理もあわせて効率的に行えることから、上記重合溶媒にはメタノール(MeOH)が特に好ましく用いられる。
溶液重合等により得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化は、この共重合体をアルコールまたは水/アルコール混合溶媒に溶解させた状態で、ケン化触媒を用いて行われる。水/アルコール混合溶媒の場合、その混合比は(水/アルコール)の重量比にて通常(10/90)〜(90/10)、好ましくは(20/80)〜(80/20)、さらに好ましくは(40/60)〜(60/40)である。そして、エチレン−ビニルエステル系共重合体のアルコールまたは水/アルコール溶液におけるエチレン−ビニルエステル系共重合体樹脂分の濃度は、通常20〜70重量%であり、好適には30〜60重量%、さらに好適には35〜50重量%である。
また、ケン化触媒としては、アルカリ触媒,酸触媒等があげられる。例えば具体的に、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物,ナトリウムメチラート,ナトリウムエチラート,カリウムメチラート,リチウムメチラート等のアルカリ金属アルコキシド等があげられる。酸触媒としては、硫酸,塩酸,硝酸等の無機酸、メタスルフォン酸等の有機酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等があげられる。取扱い性や工業生産性の点から好ましくはアルカリ触媒であり、特に好ましくはアルカリ金属水酸化物である。上記触媒の使用量については、目標とするケン化度等により適宜選択される。例えば、アルカリ触媒を使用する場合は通常、脂肪酸ビニルエステル量に対して通常0.001〜100ミリモル当量、好ましくは3〜30ミリモル当量である。
ケン化の方法に関しては、目標とするケン化度に応じて、バッチ式、連続式(ベルト式)、塔式のいずれかの方法を採用することが可能である。ケン化時の触媒量が低減できることやケン化反応が高効率で進み易い等の理由より、好ましくは、塔式装置(図示省略)を用いることが好ましい。
また、通常、加熱加圧下でケン化反応を行うが、その圧力は目的とするエチレン含有量により調節すればよい。例えば具体的には、圧力は通常0〜10MPaG、好ましくは0.1〜5MPaGの範囲から選択され、温度は通常50〜180℃、好ましくは80〜160℃である。また、ケン化反応時間は通常0.1〜6時間である。なお、「MPaG」単位は、ゲージ値における単位であり、絶対圧と大気圧の差を示すものである(以下の「MPaG」も同様)。
そして、ケン化反応後のEVOHは、高温高圧状態のアルコール溶液または水/アルコール溶液として反応系から導出され、直接、あるいは必要に応じて一旦タンク等に貯留した後、前記予備洗浄工程の洗浄容器に供給される。例えば、具体的には、図1中のSである。
なお、ケン化反応においては、エチレン−ビニルエステル系共重合体のビニルエステル部分が水酸基に変換され、脱離基がカルボン酸エステルとして副生する。例えば、上記ビニルエステルとして酢酸ビニルを用いた場合、ケン化時の副生物として酢酸メチル(MeAc)が副生される。
このほかにも、ケン化触媒がアルカリ触媒の場合、触媒が有する金属がカルボン酸金属塩となって副生される。例えば、上記ビニルエステルとして酢酸ビニルを用い、水酸化ナトリウムを触媒として用いた場合、酢酸ナトリウムが副生される。また、カルボン酸が還元されたり、アルコールが酸化されたりすることによって、対応するアルデヒドが副生される。例えば、エチレン−酢酸ビニル系共重合体のケン化時には、アセトアルデヒドが副生される。
つぎに、上記ケン化処理工程で得られたEVOHのアルコールまたは水/アルコール溶液中のアルコールを水に置換し、アルコール含有量の少ないEVOH含水組成物を得る工程について説明する。
本発明におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法は、上記EVOHのアルコール溶液中のアルコール(メタノール)の水への置換と、ケン化する際に生じる副生成物、ケン化時に使用する触媒の残渣等の除去(水への溶解)を、複数回に分けて行うものである。より詳細には、予備洗浄工程の後に主洗浄工程を備えることを必須とするものである。このとき、場合によっては予備洗浄工程と主洗浄工程の間に、他の洗浄工程を複数回行っても差し支えない。
<予備洗浄工程の説明>
まず、予備洗浄工程における洗浄容器は、多孔板塔,泡鐘塔などの棚段塔や充填塔等の塔型容器を備えるものである。上記棚段塔式では、その理論段数は通常2〜20段であり、好ましくは5〜15段である。また、充填塔式でも、それに準じて充填物量が設定される。このような塔型容器に、EVOHのアルコール溶液または水/アルコール溶液と水蒸気(水)とが導入され、両者が接触することによってEVOH溶液中のアルコールの一部が水に置換され、EVOHの水/アルコール溶液、および、水とアルコールの混合物が塔型容器から導出される。
塔型容器へのEVOHのアルコール溶液または水/アルコール溶液、水蒸気(水)の導入位置、および、EVOHの水/アルコール混合溶液(ペースト)、水/アルコール混合物の導出位置は任意である。上記EVOHのアルコール溶液と水との接触は向流、並流のいずれでも可能であるが、置換効率の点から、向流で接触させることが好ましい。具体的には、EVOHのアルコール溶液または水/アルコール溶液を塔上部から導入し、水蒸気を塔下部から導入して前記溶液と向流接触させ、アルコール蒸気を水蒸気とともに塔上部から導出し、EVOHの水/アルコール溶液(ペースト)を塔下部から導出する形態を採用することが好ましい。
なお、棚段塔を用いる場合のEVOHアルコール溶液の供給位置は、通常塔頂部よりも通常2〜8段下であり、好ましくは2〜4段下である。上記供給位置よりも上の段には、水を供給したり、水蒸気の導出量を調整したりして、棚上に水層を形成することが、塔上部から導出される、水とアルコールの混合蒸気中へのEVOH等の飛沫の同伴を防ぎ、蒸気の移送管や凝縮器中の汚染を防止することができるため、好ましい。
また、水蒸気の供給位置は、置換効率の点から、通常、塔底部であるが、場合によってはそれよりも1〜5段上であっても構わない。なお、上記塔から導出されたアルコールと水との混合蒸気は、凝縮器などを用いて液化し、分離精製して再使用することが可能である。
例えば具体的には、図1のように、多数の棚段1dを有する塔型の洗浄容器1を用いて、前記ケン化処理工程で得られたEVOHのアルコール(メタノール)または水/アルコール溶液を、塔上部のペースト導入口1aから洗浄容器1内に導入し、塔下部の水蒸気導入口1sから洗浄容器1内に導入された水蒸気(Steam)と接触させて、上記EVOHのアルコールまたは水/アルコール溶液中のアルコールの一部を置換し、EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストを、塔底部のペースト導出口1bから導出するとともに、上記置換されたアルコールの一部を水蒸気とともに塔頂部の排気口1cから容器外に排出する。
なおこのとき、上記排気口1cからは、水(および/または水蒸気)と置換されたアルコールのほか、上記水とともにケン化時の副生物も排出され、EVOHおよびその成形品に着色等の問題を発生させる不純物を低減することができる。
上記塔型容器から導出されるEVOHの水/アルコール溶液(ペースト)中のアルコール、および水の含有量は、容器に導入されるEVOHのアルコール溶液に対する水(および/または水蒸気)の導入量、塔内の温度や圧力、などによって制御することが可能である。上記水の制御方法は、用いる塔型容器の仕様、例えば、棚段の数、断面積と塔長の比率、棚段の数、多孔板の孔径や数、などによって一概に言えないが、例えば、以下に示す条件が好ましく用いられる。
導入されるEVOHのアルコール溶液または水/アルコール溶液のEVOH濃度は、通常20〜50重量%であり、好ましくは30〜45重量%、さらに好ましくは35〜40重量%である。また、溶媒が水/アルコールである場合、その混合比は(水/アルコール)の重量比にて通常(10/90)〜(90/10)、好適には(20/80)〜(80/20)、さらに好適には(40/60)〜(60/40)である。
塔型容器に導入される水蒸気(または水)の導入量は、少なすぎるとアルコールとの置換効率が不足し、逆に多すぎるとコスト面で不利となる。上記水蒸気の量は、EVOH溶液の導入量に対して通常0.01〜30倍(重量比)であり、好適には0.1〜10倍、さらに好適には0.5〜5倍である。
導入される水(水蒸気)の温度は通常30〜200℃であり、好ましくは80〜180℃であり、さらに好ましくは100〜150℃である。置換効率の点から、特に水蒸気として容器中に導入されることが好ましい。上記水(水蒸気)は前述の容器から導出されたアルコールと水の混合蒸気を精製したものを再使用したものであってもよく、若干量のアルコールを含む混合蒸気であっても差し支えない。なお、若干量のアルコールを含む混合蒸気の場合、アルコールの含有量は通常水蒸気100重量部に対して10重量部以下であり、水−アルコールの置換効率の観点からは、アルコールの含有量がより少なく、理想的には全く含まないものが好ましい。
塔型容器内の温度は、通常は80〜200℃、好適には100〜180℃、さらに好適には110〜150℃である。上記温度が低すぎると、容器内でのEVOH溶液の粘度が高くなり、置換効率が低下する場合があり、逆に温度が高すぎると、樹脂そのものが劣化する傾向がある。
塔型容器内の圧力は、通常は0〜10MPaGであり、好ましくは0〜5MPaG、さらに好ましくは0.1〜3MPaGである。上記圧力が低すぎると置換効率が低下する傾向があり、また、高すぎると容器内の温度が上昇してEVOHが熱劣化しやすくなる傾向がある。
上記予備洗浄程を経て、塔型容器から導出されるEVOHと水/アルコールとの混合物(以下、本発明が洗浄対象とする「ペースト」)は、EVOH100重量部に対してアルコールを通常10〜200重量部含有する液状のものである。このアルコール量としては、好ましくは20〜150重量部、さらには30〜100重量部とすることが好ましい。また、このペーストは、水をEVOH100重量部に対して通常20〜200重量部含有し、好適には30〜150重量部、さらに好適には40〜100重量部の水を含有する。
なお、このときの水/アルコール比は、(水/アルコール)の重量比にて通常(10/90)〜(90/10)、好ましくは(20/80)〜(80/20)、さらに好ましくは(30/70)〜(70/30)である。上記アルコールおよび水の含有量が多すぎると、ついで行われる主洗浄工程に負担が大きくなる傾向がある。また、アルコールや水の含有量が少なすぎると粘度が高くなって、塔型容器後半の置換効率が低下したり、塔型容器からの導出が困難になる傾向がある。
さらに、ペーストが有する残存ケン化触媒は、ケン化触媒がアルカリ触媒であった場合にはそのカチオンの酢酸塩に、また、ケン化触媒が酸触媒であった場合には酢酸になる。上記残存ケン化触媒の含有量は、EVOHに対して通常1000〜4000ppmであり、好適には1500〜3000ppm、さらに好適には1700〜2700ppmである。なお、上記含有量は、アルカリ触媒の場合、1重量%の酢酸溶液でアルカリ(金属)を抽出し、イオンクロマトグラフィーで測定して求められる。
なお、必要に応じて、この予備洗浄工程と、後述する主洗浄工程の間に、水/メタノール調整工程や、後述する添加剤を添加する工程や、EVOHに水(および/または水蒸気)を導入する工程等を設けても差し支えない。例えば、予備洗浄工程にて得られたEVOHペーストを主洗浄工程に供する前に、上記ペーストに熱安定剤を含有させることが好ましく、特には、酢酸およびホウ酸を含有させることが好ましい。上記含有量は、酢酸の場合EVOHに対して通常1500〜4000ppmであり、ホウ酸の場合はEVOHに対して通常100〜1000ppm添加することができる。
<主洗浄工程の説明>
つぎに、本発明の特徴的工程である主洗浄工程について説明する。
主洗浄工程に供されるペーストが有するアルコールの含有量は、EVOH100重量部に対して通常10〜200重量部であり、好ましくは10〜150重量部、さらに好ましくは10〜100重量部である。また、ペーストが有する水の含有量は、EVOH100重量部に対して通常20〜1000重量部であり、好適には40〜500重量部、さらに好適には40〜300重量部である。なお、このときの水/アルコール比は(水/アルコール)の重量比にて通常(10/90)〜(90/10)、好ましくは(20/80)〜(80/20)、さらに好ましくは(30/70)〜(70/30)である。
ここで、主洗浄工程に供されるペーストは、未だ残存ケン化触媒を含有している状態であり、上記残存ケン化触媒の含有量は、EVOHに対して通常1000〜4000ppmであり、好適には1500〜3000ppm、さらに好適には1700〜2700ppmである。なお、上記含有量は、アルカリ触媒の場合、1重量%の酢酸溶液でアルカリ(金属)を抽出し、イオンクロマトグラフィーで測定して求められる。
上記主洗浄工程は、通常、ペースト導入口、ペースト導出口、洗浄水導入口、排水口をそれぞれ任意の位置に有する多段式の塔型洗浄槽を用いるものである。上記塔型槽の形状としては、例えば棚段塔式や、内面に多数のピンを有する円柱型等があげられる。上記棚段の具体例としては、円板状あるいは円盤状の棚板があげられ、各棚板には、平板状,メッシュ状,穴空き(パンチングメタル)形状等のものを用いることができる。また、棚段をピンで構成する場合は、槽上下方向同じ高さの位置に、この洗浄槽の内面(内周面)から径方向に突出する複数のピン(放射状ピン)を設け、ペーストをこれらの間に通過させればよい。
また、主洗浄工程は、上記予備洗浄工程で得られたペーストを、塔型洗浄槽に設けられたペースト導入口から槽内に導入し、別途塔型洗浄槽に設けられた洗浄水導入口から槽内に導入された洗浄水と接触させて、上記ペースト中のアルコールの残りの一部または全部をこの洗浄水とともに別途設けられた排水口から塔型洗浄槽外に排出し、別途ペースト導出口から、アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を得るものである。
そして、本発明の最大の特徴は、上記主洗浄工程において、その多段式の塔型洗浄槽内に、ペーストを混練する装置が内蔵されており、洗浄水中で、上記導入されたEVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストが、その表面と内部とが入れ替わるように表面更新されながら混練され、これを上段から下段にかけて繰り返し行うことにより、このペースト状のEVOH樹脂がペーストの内部まで洗浄水に万遍なく接触できるように構成されている点である。つまり、多量の洗浄水中で高粘度ペーストを混練する(液相中混練)ものである。上記EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストと洗浄水との接触は向流、並流のいずれでも可能であるが、置換効率の点から向流で接触させることが好ましい。上記洗浄槽へのEVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストの供給は、連続あるいは断続的に行うことが可能であるが、生産効率の点から、好ましくは連続供給である。
例えば、具体的には図1のように、槽頂部(上部)のペースト導入(投入)口2aからペーストを塔型洗浄槽2内に導入し、槽底部(下部)の洗浄水注入口2wから塔型洗浄槽2内に導入された洗浄水と接触させて、上記ペースト中のアルコールの残りの一部または全部を水と置換し、これを洗浄水とともに槽上部の洗浄水排水口2cから容器外に排出する。一方、槽底部のペースト導出口2bから、アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を得る。
上記塔型洗浄槽の浴比は、導入洗浄水/導入ペーストの重量比にて表すことができ、通常0.5〜10、好ましくは0.6〜5、さらに好ましくは0.8〜3である。上記浴比は、アルコールの置換効率に影響するものであって、この浴比が高すぎる場合、経済性が低下する傾向があり、また低すぎる場合、置換・洗浄効率が低下する傾向がある。
さらに、上記塔型洗浄槽内におけるペーストの滞留時間は、目的とするEVOHの特性により変化するが、通常0.5〜10時間であり、好適には1〜8時間、さらに好適には1〜5時間である。
EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストの洗浄槽への導入量は、浴比によって変化するが、通常塔型洗浄槽の内容積に対して10〜90容積%/時間、好ましくは10〜50容積%/時間、さらに好ましくは10〜25容積%/時間である。少なすぎるとアルコールとの置換効率が低下する傾向があり、逆に多すぎると洗浄槽からの導出速度が追いつかず、非経済的となる傾向がある。
なお、導入されるEVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストの温度は、通常40〜110℃であり、好ましくは50〜100℃である。また、洗浄水の滞留時間は、通常0.5〜20時間であり、好ましくは0.5〜15時間である。
また、洗浄槽内の温度を一定に保つことが好ましい。洗浄槽内の温度は通常50〜150℃であり、好ましくは60〜120℃であり、さらに好ましくは70〜110℃である。上記温度が高すぎる場合、ペースト粘度が低くなり、低すぎる場合、粘度が上昇し取り扱いしにくくなる場合がある。特に、上記温度は洗浄水によって調節することが好ましい。これは、導入ペーストの流動性を維持するためである。したがって、洗浄水の温度は、自然放熱を考慮して、通常70〜160℃であり、好適には90〜130℃、さらに好適には100〜120℃である。
さらに、本発明における主洗浄工程は、常圧条件下で行うことができるが、必要に応じて圧力を変化させて行うことが可能である。上記圧力は、通常0〜1MPaG、好ましくは0〜0.6MPaG、さらに好ましくは0〜0.3MPaGである。上記圧力が高すぎると容器内の温度が上昇してEVOHが熱劣化しやすくなる傾向がある。
また、上記塔型洗浄槽内に導入される洗浄水には、カルボン酸,カルボン酸塩,ホウ素化合物,リン酸化合物から選ばれる少なくとも一種の熱安定剤を添加することが好ましい。上記洗浄水中におけるペーストの混練に伴って、洗浄と同時にこの熱安定剤をペースト中に均一に分散させることができる。
上記カルボン酸としては、炭素数が2〜4のカルボン酸が好ましく、また、1価あるいは2価のものが好適に用いられる。具体的には、シュウ酸,コハク酸,安息香酸,クエン酸,酢酸,プロピオン酸,乳酸等が例示され、これらのなかでも、コストおよび入手の容易さなどの面から、酢酸が好ましく用いられる。
上記カルボン酸を添加する場合、主洗浄工程後に得られるEVOHペースト中のカルボン酸の含有量は、滴定法にて測定した値で、EVOHに対して通常10〜10000ppm、好ましくは50〜3000ppm、さらに好ましくは100〜2000ppmである。カルボン酸の含有量が少なすぎると、カルボン酸の含有効果が充分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。なお、洗浄水におけるカルボン酸の濃度は、通常10〜3000ppmであり、好適には20〜1000ppm、さらに好適には30〜500ppmである。
また、熱安定剤の平衡効果の点からカルボン酸塩をあえて添加する場合があり、上記カルボン酸塩は通常炭素数が2〜4のカルボン酸塩である。また、1価あるいは2価のものが好適に用いられる。具体的には、シュウ酸,コハク酸,安息香酸,クエン酸,酢酸,プロピオン酸,乳酸等のアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩が例示され、これらのなかでも、コストおよび入手の容易さなどの面から、酢酸塩が好ましく、特には酢酸ナトリウムが用いられる。
上記カルボン酸塩を添加する場合、主洗浄工程後に得られるEVOHペースト中のカルボン酸塩の含有量は、原子吸光分析における金属換算にて、EVOHペーストに対して通常10〜5000ppmであり、好適には30〜1000ppm、さらに好適には50〜700ppmである。少なすぎると溶融成形時に着色が発生することがあり、また多すぎると溶融粘度が高くなることがある。なお、洗浄水におけるカルボン酸塩の濃度は、通常10〜3000ppmであり、好ましくは20〜1000ppm、さらに好ましくは30〜500ppmである。
ホウ素化合物としては、ホウ酸,ホウ酸エステル,ホウ酸塩などのホウ酸類,水素化ホウ素類などがあげられ、これらに限定されるものではないが、特にホウ酸あるいはホウ酸塩が好ましく用いられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸,メタホウ酸,四ホウ酸などがあげられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル,ホウ酸トリメチルなどがあげられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩,ホウ砂などがあげられる。これらの化合物のなかでもホウ酸が好ましい。
上記ホウ素化合物を添加する場合、主洗浄工程後に得られるEVOHペースト中のホウ素化合物の含有量は、ホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常、EVOHペーストに対して10〜10000ppmであり、好ましくは100〜8000ppm、さらに好ましくは100〜7000ppmである。上記ホウ素化合物の含有量が少なすぎると熱安定性の改善効果が少なく、また、多すぎるとゲル化の原因となったり、成形性不良となる傾向がある。なお、洗浄水におけるホウ素化合物の濃度は、通常10〜3000ppmであり、好適には20〜1000ppm、さらに好適には30〜500ppmである。
上記リン酸化合物としては、リン酸,亜リン酸などの各種の酸や、その塩などが例示される。リン酸塩としては、第一リン酸塩,第二リン酸塩,第三リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩であることが好ましい。なかでも、リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸水素二カリウムの形でリン酸化合物を添加することが好ましい。
上記リン酸化合物を添加する場合、主洗浄工程後に得られるEVOHペースト中のリン酸化合物の含有量は、EVOHペーストに対してリン酸根換算で(イオンクロマトグラフィーにて分析)で通常、リン酸根換算で1〜1000ppmである。上記範囲となるように添加することで、成形物の着色およびゲルやフィッシュアイの発生を抑制することでき、上記含有量が少なすぎると溶融成形時が着色しやすくなる傾向が見られ、逆に多すぎると成形物のゲルやフィッシュアイが発生しやすくなる場合がある。なお、洗浄水におけるリン酸化合物の濃度は、通常1〜3000ppmであり、好ましくは10〜1000ppm、さらに好ましくは20〜500ppmである。
つぎに、上記主洗浄工程で用いられる多段式の塔型洗浄槽の内部構造について詳しく説明する。
塔型洗浄槽は、上記ペーストにせん断力を与える混練装置を備えており、例えば、スクリュー、ギア、パドル等を有する混練装置があげられる。これらの混練装置がペーストに与えるせん断力は、塔型洗浄槽の長手方向(鉛直方向)に対して垂直方向(すなわち水平方向)であることが好ましく、言い換えれば、ペーストの流れ方向に対して垂直方向であることが好ましい。また、付属する設備としてはジャケットやコイル、あるいはヒーター内蔵スクリュー軸等の温度調節手段を備えたものが望ましい。
本第1実施形態における塔型洗浄槽は、図1のように、その内部に水を貯めておくことのできる略円筒状の槽本体2dと、上記ペーストを混練するためのスクリュー2sとを主体として構成されている。また、槽本体2dの内周面には、上記スクリュー2sの各プロペラとの間にせん断力を発生するための円板状の棚板2t,2t,・・・が複数設けられている。
そして、上記予備洗浄工程から導出されたEVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストの投入口(ペースト導入口2a)は、槽本体2dの頂部(上部)に設置し、洗浄が終了した、ペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を導出するためのペースト導出口2bは、底部(下部)に設置することが好ましく、同時に洗浄水注入口2wを下側に設置し、洗浄水排出口2cを上側に設置することが好ましい。設置位置をこのように調節することで、ペーストと洗浄水の向流接触を効率よく行うことが可能であり、かつ比重の重いペーストを槽下部から導出することができ、洗浄後のペーストの回収効率が向上する傾向がある。なお、ペースト導出口2bには、水(洗浄水)を漏出させずにペーストだけを取り出すことのできる水密構造が形成されている。
スクリュー2sは、シャフトとこのシャフトの組み付けられた複数のプロペラとから構成されている。また、これらスクリュー2sの各プロペラは、上記シャフトの軸方向に所定の間隔を開けて平行に配設されており、いわゆる「コニーダ」型の混練装置を模した形状となっている。ただし、このコニーダ型混練装置が、一般的なニーダー(混練機)と異なる点は、スクリュー2sと上記槽本体2dの内周面との間、および、スクリュー2sと槽本体2dの内周面に設けられた各棚板2tとの間に、大きな隙間(空間:クリアランスともいう)が設けられた、「大クリアランス型ニーダー」であり、上記スクリュー2sがこの隙間に満たされた水(洗浄水)の中で回転し、ペーストに対してせん断力を加えて表面更新させ、ペースト中のアルコールや不純物等を、洗浄水に効率的に溶解させている点である。
なお、上記「クリアランス」は、スクリューのプロペラ先端部と塔型洗浄槽の内壁との間、あるいは、スクリューのプロペラと各棚板との間の最も近い距離を示すものである。通常1〜20mmであり、好ましくは5〜15mm、さらに好ましくは7〜10mmである。上記クリアランスが広すぎる場合、ペーストの表面更新効率が低下する傾向があり、狭すぎる場合、ペーストの移送効率が低下するという傾向がある。また、上記棚板2tの形状は、単純な円盤状のほか、(メッシュ)状,パンチングメタル状等の貫通孔を有するもの、あるいは、円盤状の上面にせん断力を向上させるための波形構造等を設けたものを使用することもできる。
さらに、本発明においては、EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストを、その表面と内部とが繰り返し入れ替わるように表面更新することが可能となるように、上記スクリューのプロペラと各棚板との間のクリアランスを調整することが好ましい。そして、上記槽本体2d内が水で満たされることから、スクリューのシャフトを支持する部位(軸受等)は水密・防水構造となっている。また、スクリューは、図示しないモータ等の回転動力源に接続されている。
上記の構成によれば、塔型洗浄槽2内に導入されたEVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストは、洗浄水中で、スクリューによるフィード作用および重力により、上流側となるペースト導入口2aから、下流側となるペースト導出口2bに向かってスムーズに輸送されるとともに、対向する各プロペラと各棚板の間を通過するときに生じるせん断作用によって、ペーストの外面が内側に入るように、かつ、ペーストの内部が外に出るように混練され、このペーストの表面層が順次更新されて、上記洗浄水との充分な接触が行われる。
したがって、本実施形態におけるペースト状のEVOH含水組成物は、上記洗浄水とともに、アルコール(メタノール)の一部または全部と、ケン化時に使用する触媒残渣や副生物等の不純物とが、高い効率で除去される。また、上記洗浄水に、熱安定剤として、カルボン酸、カルボン酸塩,ホウ素化合物,リン酸化合物から選ばれる少なくとも一種の添加剤が添加されていることから、上記ペーストの混練に伴って、この添加剤をペースト中に均一に分散・混合することができる。
つぎに、上記主洗浄工程で得られた、アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物を乾燥、ペレット(製品ペレット)化する工程について説明する。
上記ペレット化工程は、(A)アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物をその含水量のままペレット形状に成形し、その後水分量を低下させる方法、および、(B)アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物の水分量を低下させた後にペレット形状に成形する方法があげられる。
上記(A)の方法としては、例えばアルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物を、孔を通して押出し、流動状を有するままカットして丸形のペレットを得る方法(例えばホットカットやアンダーウォーターカット等)や、この含水樹脂よりも低温の冷媒浴中にストランド状に押し出して固化し、上記ストランドをカットして円柱状のペレットを得る方法があげられる。そして、得られたペレットを各種の乾燥方法にて乾燥するものである。
上記(B)の方法は、例えば、予め遠心分離機や押出機等を用いてアルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物中の水分量を、EVOH100重量部に対して通常1〜50重量部、好ましくは1〜40重量部、さらに好ましくは1〜30重量部となるように水分量を低減した後に、押出機等を用いてペレット化する。上記ペレット化には、EVOH樹脂を押出機でストランド状に押出し、カットして円柱形状のペレットを得る方法や、押出機から押し出された直後の溶融状態の樹脂をカットして丸形状のペレットを得る方法(ホットカット)等があげられる。特に、乾燥工程の熱効率や樹脂に上記熱履歴を考慮すると、押出機を用いた場合、EVOH含水組成物の水分を低減させ、かつペレット化する作業を一連に行うことが可能であるため(B)の方法を採用することが好ましい。
上記ペレット化工程に用いる押出機としては、単軸押出機や二軸押出機があげられる。
上記押出機の口径(mmφ)は、通常40〜180であり、好適には60〜140、さらに好適には70〜110のものが用いられる。また、上記押出機のL/Dは、通常10〜80であり、好ましくは15〜70、さらに好ましくは15〜60であるものが用いられる。上記L/Dが小さすぎると脱水効果が不充分となったり、吐出が不安定となる傾向があり、逆に大きすぎると過度のせん断発熱を引き起こす傾向がある。なかでも、スクリューの回転方向が同方向の二軸押出機が適度なせん断により充分な混練が得られる点でより好ましい。
このとき、押出機中の樹脂の温度は、通常80〜250℃であり、好ましくは90〜240℃、さらに好ましくは100〜230℃である。上記温度が高すぎる場合、樹脂が劣化着色しやすい傾向があり、低すぎる場合、水分低減効率が低下する傾向がある。上記樹脂温度の調整方法は特に限定されないが、通常は、押出機内シリンダの温度を適宜設定する方法が用いられる。
押出機のスクリュー回転数は、軸の大きさによるが通常10〜1000rpmであり、好適には30〜800rpm、さらに好適には50〜400rpmの範囲が用いられる。上記回転数が小さすぎると吐出が不安定となる傾向があり、また、大きすぎると好ましくないせん断発熱によって樹脂の劣化の原因となる場合がある。
例えば具体的には、図1のように、第1押出機4および第2押出機5と、ストランドカッタ(ペレタイザ:図示省略)等とからなり、上記主洗浄工程で得られたペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を、第1押出機4および第2押出機5に順次投入して溶融混練し、上記EVOH含水組成物中の水分を徐々に低減するとともに、上記第2押出機5から吐出されたストランド状あるいはリボン状のEVOH組成物を冷却後、ストランドカッタ等を用いて上記EVOH組成物を所定の大きさに切断(ペレタイズ)し、低アルコールで低含水量のEVOHペレット(EVOH−Pellet)を得る。
上記ペレット化工程に用いられる第1押出機4および第2押出機5としては、一般的な単軸押出機や二軸押出機等が使用できる。二軸押出機が、適度なせん断により充分な混練が得られる点でより好ましい。
また、上記押出機内における樹脂温度は、通常、80〜250℃に設定され、第1押出機4吐出後のEVOH組成物の水分量がEVOH100重量部に対して通常30〜35重量部に、第2押出機5吐出後のEVOH組成物の水分量がEVOH100重量部に対して通常10重量部未満、好ましくは0〜8重量部になるように調整されている。なお、上記ペレット化工程において、EVOH組成物の含水量を極力低減させたい場合には、上記押出機内の樹脂温度が、通常120〜250℃、好ましくは150〜230℃の範囲になるように設定される。逆に、EVOH組成物の熱劣化を極力抑制するために、含水量を維持しながら行いたい場合には、上記押出機内の樹脂温度を、通常80〜105℃、好適には85〜100℃、さらに好適には90〜100℃の範囲に設定して行われる。
さらに、上記押出機を用いた押出しにおいては、含水状態であるEVOH組成物を溶融混練するため、押出機の少なくとも一箇所から水あるいは水蒸気を排出することが好ましい。そのための水分排出手段としては、特に限定されるものではないが、押出機のシリンダ(バレル)に設けられた脱水孔,ベント口あるいは脱水スリット等から排出する方法を採用することができる。なかでも、脱水スリットは、水,水蒸気のいずれも排出することができ、樹脂の付着や漏出が少ないことから、好ましく用いられる。なお、上記水分排出手段は、複数用いてもよく、その場合には同一の種類のものであっても、異なるものを組み合わせて用いてもよい。
また、上記第2押出機5から吐出されたEVOH組成物をペレット化する方法は、特に限定されないが、このEVOH組成物を押出機のダイス(口金)からストランド状に押出し、冷却の後、適切な長さにカットする方法が、好適に用いられる。上記吐出されたストランドの冷却の方法としては、押し出された樹脂の温度よりも低温に保持された液体に接触させる方法や、冷風を吹き付ける方法等が用いられる。
そして、上記切断されたペレットの形状は、通常、円筒状であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、ダイスの口径は2〜6mmφ、ストランドのカット長さは1〜6mm程度が、好適に用いられる。なお、押出機から吐出されたEVOH組成物がまだ溶融状態である間に、大気中あるいは水中でカットする方法も好適に用いられる。
なお、上記ペレット化工程においては、上記EVOH含水組成物(EVOH−Paste)とは異なる過程を経て得られた、重合度,エチレン含有量,ケン化度等が異なる二種以上のEVOH組成物をブレンドして、溶融成形することも可能である。また、他の各種可塑剤,滑剤,安定剤,界面活性剤,色剤,紫外線吸収剤,帯電防止剤,乾燥剤,架橋剤,金属塩,充填剤,各種繊維等の補強剤などを適量添加して、溶融混練することもできる。
つぎに、上記ペレット化工程で得られたEVOHペレットの水分量を必要に応じて低減するペレット乾燥工程(図示省略)について説明する。
上記ペレット化工程から得られたEVOHペレットは、押出機内で充分に水分が除去され、水分量がEVOH100重量部に対して0.3重量部未満であれば、そのまま製品とすることができる。また、その水分除去が不充分である場合には、ペレット乾燥工程に供することで、余分な水分が取り除かれる。
上記EVOHペレットの乾燥方法としては、各種の乾燥方法を採用することができる。例えば具体的には、静置乾燥法、流動乾燥法などがあげられる。また、異なる乾燥方法による多段階の乾燥方式を採用することも可能である。特に、一段階目に流動乾燥法、二段階目に静置乾燥法で乾燥する方法が、ペレットおよびそのペレットを用いた成形品の色調が良好となる点で好適である。また、乾燥の際には窒素ガス(N2 Gas)等の不活性ガスを循環させることも成形品の色調が良好となる点で好適である。
例えば具体的には、乾燥容器に、必要に応じて例えば窒素ガス(N2 Gas)等の不活性ガスを供給し循環させることにより上記ペレット化工程で得られたEVOHペレットの水分量を、製品レベルであるEVOH100重量部に対して0.3重量部未満にまで低減する。
本発明におけるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法によれば、上記乾燥工程に必要な滞留時間が短時間であるため、得られるEVOH(ペレット)の熱劣化が起こらず、EVOHおよびこのEVOHを用いた成形品の品質が向上する。
つぎに、本発明のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の製造方法の第2実施形態の概略を示すフロー図である。なお、図中の符号3aはペースト導入口、3bはペースト導出口、3cは洗浄水排水口、3dは槽本体、3wは洗浄水注入口を示す。
このEVOHの製造工程も、第1実施形態同様、エチレン−ビニルエステル系(本例においてはエチレン−酢酸ビニル)共重合体のケン化処理工程(図示省略)と、塔型洗浄容器1を用いて、EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストを得る予備洗浄工程と、上記ペーストを多段式の塔型洗浄槽(3)でせん断力を加えて洗浄水と接触させ、ペーストの内部と表面とを繰り返し入れ替えて、アルコール含有量の少ないペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を得る主洗浄工程と、洗浄後のEVOH含水組成物を押出機4,5およびストランドカッタ等を用いてペレット化するペレット化工程(図示省略)と、から構成されている。
この第2実施形態が第1実施形態と異なるのは、主洗浄工程で用いられる塔型洗浄槽3に設けられた混練装置の形状が異なる点である。具体的には、塔型洗浄槽3は、略円筒状の槽本体3dと、上記ペーストを混練するためのスクリュー3sとから構成されており、このスクリュー3sのシャフトには、その軸方向に所定の間隔を開けて平行に配置されたピン(回転ピン)が複数設けられている。
また、上記スクリュー3sのシャフトに対向する槽本体3dの内周面には、槽上下方向同じ高さの位置に、スクリュー3sの各ピン(回転ピン)との間にせん断力を発生するための固定ピン3t,3t,・・・が多数設けられており、いわゆる「ボテータ」型の混練装置となっている。ただし、このボテータ型混練装置が、一般的なニーダー(混練機)と相違する点は、第1実施形態で用いた「コニーダ」型の混練装置と同様、スクリュー3sと上記槽本体3dの内周面との間、および、スクリュー3sと槽本体3dの内周面に設けられた各固定ピン3tとの間に、大きな隙間(クリアランス)が設けられた、「大クリアランス型ニーダー」である点である。
上記の構成によれば、塔型洗浄槽3内に導入されたEVOHと水/アルコールとの混合物からなるペーストは、第1実施形態と同様、洗浄水中で、スクリューによるフィード作用および重力により、上流側となるペースト導入口3aから、下流側となるペースト導出口3bに向かってスムーズに輸送されるとともに、対向する各回転ピンと各固定ピンの間を通過するときに生じるせん断作用によって、ペーストの外面が内側に入るように、かつ、ペーストの内部が外に出るように混練され、このペーストの表面層が順次更新されて、上記洗浄水との充分な接触が行われる。したがって、本第2実施形態の塔型洗浄槽3においても、上記ペースト中のアルコールや不純物等を、洗浄水に効率的に溶解させることができる。
ここで、先に述べた予備洗浄工程から導出されたペーストの投入口(ペースト導入口3a)は、槽本体3dの頂部(上部)に設置し、洗浄が終了した、ペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)を導出するためのペースト導出口3bは、底部(下部)に設置することが好ましく、同時に洗浄水注入口3wを下側に設置し、洗浄水排出口3cを上側に設置することが好ましい。設置位置をこのように調節することで、ペーストと洗浄水の向流接触を効率よく行うことが可能であり、かつ比重の重いペーストを槽下部から導出することができ、洗浄後のペーストの回収効率が向上する。
なお、上記第1および第2実施形態における「主洗浄工程」で得られた、本発明のペースト状のEVOH含水組成物(EVOH−Paste)の含水量は、EVOH100重量部に対して通常30〜400重量部であり、好ましくは40〜240重量部、さらに好ましくは50〜150重量部である。また、除去しきれなかったアルコールを含有していても構わないが、その含有量は、EVOH100重量部に対して通常10重量部未満であり、好適には5重量部未満である。通常は、上記塔型洗浄槽2,3中のEVOH含水組成物中のアルコールの含有量をモニターし、これがEVOH100重量部に対して10重量部未満となった時点を終点とすることが好ましい。
さらに、得られたペーストが有する残存ケン化触媒は、主洗浄工程において洗浄されるため、上記残存ケン化触媒の含有量は、EVOHに対して通常0〜3000ppmであり、好ましくは0〜2000ppm、さらに好ましくは0〜1000ppmである。なお、上記含有量は、アルカリ触媒の場合、酢酸塩として求められる。
また、本発明のEVOHペーストの洗浄工程においては、塔型の洗浄容器を用いた予備洗浄工程で、完全にアルコールを除かず、流動性を保った状態に留めることによって、処理効率が低下することを防止し、ついで、塔型洗浄槽を用いた主洗浄工程で、強制的に撹拌・混練しながら洗浄水と接触させることにより、ペーストが高濃度,高粘度となっても、効率よくアルコールと水の置換が進み、その結果、アルコールを含んで膨潤状態であったEVOHが、アルコール含有量の低下とともに収縮し、ペースト中からアルコールとともに水やケン化時に使用する触媒残渣や副生物等が排出され、高純度・高品質のEVOH含水組成物(含水量:EVOH100重量部に対して30〜400重量部)が得られるものである。
したがって、第1および第2実施形態で得られるような、低アルコール含有量のEVOH含水組成物を、予備洗浄工程の塔型の洗浄容器1のみで得ることは、洗浄容器1の後半でEVOHペーストの粘度が高くなりすぎて流動性が低下し、アルコール−水の置換効率が下がるとともに、洗浄容器1から導出できなくなるため、困難である。また、主洗浄工程の塔型洗浄槽2,3のみで、EVOHのアルコール溶液中のアルコールの大半を水に置換しようとすると、塔型洗浄槽2,3に導入する当初の溶液粘度が低く、導入した洗浄水がEVOHペースト中に長く留まることができないため置換効率が低く、工程に時間がかかり、多量の水が必要となるため、実用的ではない。
また、本発明の主洗浄工程において使用できる混練装置の条件としては、ペーストにせん断を加えるために、撹拌・混練と同時に解砕機能を有することが求められる。したがって、供給されるペーストを連続で洗浄処理する場合は、上記コニーダタイプ,ボテータタイプ等の単軸形ニーダーのほか、二軸形ニーダーや双腕形ニーダー等の複軸(多軸)形の混練装置を使用してもよい。また、リボン形,スクリュー形,パドル形,マラー形,放射ロッド形等の混合機や、ピンミキサー,カッタミキサー,ロッドミキサー,インターナルミキサー等のミキサー等、縦型として使用可能な単軸あるいは複軸の混練装置を用いることもできる。本発明においては連続処理とバッチ処理方式ともに採用可能であるが、生産効率の点から、好ましくは連続処理型である。
つぎに、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
[実施例1]
〔EVOHのメタノール溶液〕
冷却コイルを持つ重合缶に酢酸ビニルを330重量部、メタノール60重量部、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)を仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、ついでエチレンで置換して、エチレン圧が3.6MPaとなるまでエチレンを圧入した。その後、撹拌しながら、68℃まで昇温し、酢酸ビニルの重合率が50重量%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量29モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液(樹脂分の濃度が48重量%)を得た。
<ケン化工程>
反応溶液内の残存酢酸ビニルを除去した、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を、棚段塔の塔上部より30重量部/時間の速度で供給し、同時にこの共重合体中の酢酸基のモル数に対して、6ミリモル当量の水酸化ナトリウムメタノール溶液0.54重量部/時間を塔上部より供給した。一方、塔下部から60重量部/時間でメタノールを供給した。塔内温度は120〜140℃、塔圧は0.36MPaGであった。仕込み開始後0.5時間後から、EVOHのメタノール溶液が得られた。上記EVOHは、エチレン含有量29モル%,ケン化度99.5モル%であり、ペースト中には、ケン化触媒である水酸化ナトリウムのナトリウム分に相当する酢酸ナトリウムが含まれる。なお、「MPaG」単位は、ゲージ値における単位であり、絶対圧と大気圧の差を示すものである。
<予備洗浄工程>
つぎに、上記EVOHのメタノール溶液を、塔型洗浄容器(10段の棚段塔)に供給した。上記塔型洗浄容器の塔頂から2段目の棚板に、上記サンプリングしたEVOHのメタノール溶液を、80重量部/時間で連続的に供給した。他方、130℃の水蒸気を、最下段の棚板から60重量部/時間で連続的に供給して、EVOHのメタノール溶液と水蒸気とを棚段塔内で向流で接触させた。塔型洗浄容器内の温度は120℃で、容器内の圧力は0.2MPaGであった。
そして、上記塔型洗浄容器底部のペースト導出口より、EVOH100重量部に対し、メタノールを75重量部、水を75重量部含有する(水/メタノール(重量比)=50/50)、EVOHと水/アルコールとの混合物からなるペースト(以下「ペースト」)を得た。なお、得られたペースト中には、4700ppmの酢酸ナトリウムが含有されていた。
EVOH100重量部に対し、メタノールを75重量部、水を75重量部(水/メタノール(重量比)=50/50)含有し、EVOHに対して4700ppmの酢酸ナトリウムを含有するペーストに対して、ホウ酸および酢酸を含有する水溶液を添加して、同時にペーストの水分調整を行った。
<主洗浄工程>
ペースト(EVOH100重量部に対し、メタノールを141重量部、水を247重量部(水/メタノール(重量比)=64/36)含有し、樹脂分が21重量%であり、EVOHに対して酢酸 2100ppm、酢酸ナトリウム 7900ppm、ホウ酸 4300ppmを含有する)を、第1実施形態に記載の多段式塔型洗浄槽2に供給し下記の条件で洗浄した。
A)洗浄(混練・撹拌)条件
・スクリュー回転数:60rpm
・スクリューと槽内壁との間のクリアランス:10mm
・スクリューと棚段との間のクリアランス:10mm
・槽内温度(排出口前の水温にて):79℃
B)EVOHペースト条件
・供給量:17重量部/時間
・供給ペースト温度:80℃
・ペースト滞留時間:3時間
・吐出量:6.4重量部/時間
C)洗浄水条件
洗浄水組成(水に対して)
酢酸 160ppm
酢酸ナトリウム 200ppm
ホウ酸 110ppm
リン酸二水素ナトリウム 80ppm
リン酸カルシウム 150ppm
・供給量:16重量部/時間
・温度:85℃
なお、浴比(洗浄水重量/ペースト重量比)が0.94になるように調整して行った。
そして、上記塔型洗浄槽2のペースト導出口2bより、モチ状の白濁高粘度ペーストとなったEVOH水/メタノールペースト:EVOH樹脂分54重量%、水45重量%、メタノール1%(EVOH100重量部に対し、水83重量部、メタノールを2重量部)酢酸 1360ppm、酢酸ナトリウム 530ppm、ホウ酸 4550ppm、リン酸二水素ナトリウム 80ppm、リン酸カルシウム 150ppmを得た。
以上の結果より、主洗浄工程の洗浄水とともに、残留メタノールの一部または全部と、EVOHおよびそのEVOHを用いた成形品に着色等の問題を生じるおそれのある不純物(ケン化の際の残存触媒や副生物等)とが、高い効率で除去されていることが判る。