バイオマスの急速熱分解反応によって、重油代替物として使用できる液状生成物(タール)を他の生成物(ガス、チャー)より多く得ることのできる技術について、いまだ十分な開発がなされていない。
タールはバイオマスが熱分解されてガス、チャーに変化する反応の中間生成物と考えることができ、進行中の熱分解反応を適切な反応度の状態で終了させることにより収量を最大化できる。熱分解反応が進行しにくい条件ではチャーが多く生成し、熱分解反応がさかんに行われる条件ではガスが多く生成し、いずれの場合も液(タール)収率(バイオマス原料乾重量に対する液生成物(タール)の生成重量の比率、wt%)は低くなる。この液収率を最大化させる条件は、多くの既存技術が知られるバイオマスを熱分解してガスの収量を最大化する条件とは全く異なったものとなり、特許文献1においても、タールの液収率を高くすることについては、言及されていない。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、バイオマスの急速熱分解反応によって、液状生成物(タール)を高い収率で得ることのできる技術を提供することを課題とする。
本発明に係るバイオマス熱分解装置では、チャー又はチャーと可燃ガスの供給を受けてこれを燃焼し高温の燃焼ガスを発生する燃焼炉と、供給されるバイオマスを気流層で熱分解し可燃ガス、タール、チャーを生成する気流層熱分解器とを有し、熱分解により生成したチャーの少なくとも一部又はチャーの少なくとも一部と可燃ガスの一部が上記燃焼炉へ供給される。
かかるバイオマス熱分解装置において、本発明では気流層熱分解器は、バイオマス供給口と水蒸気供給口とを有し、該水蒸気供給口から供給される水蒸気が上記燃焼炉から供給される高温の燃焼ガスにより昇温されて該燃焼ガスと共に気流層を形成し、上記バイオマス供給口から供給されるバイオマスを該気流層で熱分解することを特徴としている。
このような構成の本発明装置によると、気流層熱分解器を用いて、バイオマス粒子を気流層中で急速熱分解して、可燃ガス、タール、チャーを生成し、該気流層熱分解器で生成したチャーの少なくとも一部又はチャーの少なくとも一部と可燃ガスの一部を燃焼炉で燃焼し、発生した高温の燃焼ガスを気流層熱分解器に供給される水蒸気に混合して、昇温された水蒸気を燃焼ガスと共に気流層熱分解器の気流層形成ガスとして用いる。
本発明において、燃焼炉は、流動媒体中にチャーを投入して流動させながら燃焼させる流動層炉、もしくは、チャーを炉内へ気流搬送して気流中で燃焼させる噴流層炉とすることができる。
チャーを燃焼するとともに可燃ガスの一部を燃焼する際には、流動層炉の場合は流動層内部または上部に可燃ガスを供給して燃焼させ、噴流層炉の場合は可燃ガスをチャーと共に炉内へ供給するかあるいはチャーと別に炉内に供給して燃焼させる。
また、本発明において、気流層熱分解器は、バイオマスを熱分解する熱分解部の温度が450〜550℃に、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が0.3秒以上1.0秒未満となるように設定されていることが好ましい。
また、本発明において、気流層熱分解器は、バイオマスを熱分解する熱分解部の温度が400〜500℃に、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が1.0秒以上2.0秒以下となるように設定されていることが好ましい。
また、本発明において、気流層熱分解器は、燃焼炉から供給される燃焼ガスにより昇温され、バイオマスを熱分解する熱分解部に供給される水蒸気の温度が550〜750℃に、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が0.3秒以上1.0秒未満となるように設定されていることが好ましい。
また、本発明において、気流層熱分解器は、燃焼炉から供給される燃焼ガスにより昇温され、バイオマスを熱分解する熱分解部に供給される水蒸気の温度が500〜750℃に、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が1.0秒以上2.0秒以下となるように設定されていることが好ましい。
ここで、本発明に用いられる気流層熱分解器、該気流層熱分解器における反応温度と反応時間、そして燃焼炉について詳述する。
<気流層熱分解器>
気流層熱分解器は、本発明の場合、燃焼炉から高温の燃焼ガスを受け、ここに外部から水蒸気が供給されて、燃焼ガスにより昇温された水蒸気が燃焼ガスと共に気流層を形成し、この気流層へ外部からバイオマスが供給されて熱分解され、可燃ガス、タール、チャーを生成する。
バイオマスを不活性ガス雰囲気で一定温度まで急速に昇温して短時間加熱して熱分解反応させると、可燃ガス、ガス状タール、チャーが生成される。生成したガス状のタールは冷却により液化するが、この液状タールを分離回収したものが重油代替の燃料として使用できる製品となる。タールはバイオマスがガスとチャーに熱分解される反応の中間生成物と考えることができる。このような、バイオマスの急速熱分解プロセスとして、ガスを媒体としガスの顕熱により粒子状バイオマスの急速熱分解を行う気流層熱分解プロセスを用いることが、熱分解反応の反応温度と反応時間を制御するのに容易であることから好ましい。
バイオマスの熱分解反応を行う雰囲気ガス(気流層形成ガス)中に遊離酸素が多く含まれていると、バイオマスの燃焼が生じ局所的な高温部が発生し、バイオマスのガス化反応が進行しその結果タールの生成量が少なくなり液収率が低下するため好ましくない。したがって雰囲気ガス(気流層熱分解器における気流層ガス)の酸素濃度は1vol%以下とすることが望ましい。
このような酸素濃度1vol%以下とする雰囲気ガスとして、発明者らは水蒸気が良好な特性をもつことを見出した。水蒸気は炭素質原料のガス化剤として知られており、当初、ガス化反応を進行させ液収率を低下させることが危惧されたが、研究の末、バイオマスを熱分解する熱分解部の雰囲気温度が550℃以下では、他の窒素などのような不活性ガス中での液収率と比較して遜色ない結果が得られた。
さらに水蒸気を雰囲気ガスとすることによりススの発生が抑制でき、生成後回収したタールに混入するススを低減することができる。
バイオマスの急速熱分解では、液収率を最大化する条件においても、バイオマス原料重量の20〜30%程度のガスが発生する。この発生ガスの主成分は水素、一酸化炭素、メタン等の可燃ガスであり燃料として発熱量をもつことから、プロセス内の熱源燃料として有効に利用することが望ましい。ここで、気流層熱分解器から排出されるガスは、バイオマス原料からの熱分解による生成ガスと、気流層を形成させる急速熱分解反応の雰囲気ガスと混合されたものとして得られる。例えば、急速熱分解の雰囲気ガスとして窒素や二酸化炭素などの不活性ガスを使用した場合、また窒素と二酸化炭素を主成分とする燃焼ガスを使用した場合、回収したガスの単位体積当たりの発熱量(水素、一酸化炭素、メタン等可燃ガスの含有率に対応する)は窒素や二酸化炭素を含むため低くなり、燃焼バーナ等の燃料として利用することが困難になることが多い。これに対し、雰囲気ガスとして水蒸気を用いた場合、気流層熱分解器から排出されるガスを冷却して水蒸気を凝縮し除去することができ、回収したガスの発熱量を燃料として有用なレベルにすることが可能である。
上記の検討結果から、本発明では、バイオマスから液状生成物を高い収率で得ることができるバイオマスの熱分解に好適な雰囲気ガスを得るために、気流層熱分解器における気流層形成ガスとして水蒸気を用いることとした。
<反応温度と反応時間>
バイオマスの急速熱分解による熱分解生成物の組成は熱分解反応温度と反応時間により大きく変化する。反応時間は、バイオマスが熱分解反応される雰囲気ガス中に滞留する時間に相当する。
タールはバイオマスがガス、チャーに熱分解される反応の中間生成物と考えることができ、進行中の熱分解反応を適切な反応進行度の状態で終了させることによりタールの液収率を最大化できる。
発明者らは、バイオマスの急速熱分解反応によって、液状生成物(タール)を高い収率で得ることのできる条件として、熱分解反応温度と反応時間との適切な範囲を見出した。
熱分解反応温度は気流層熱分解器においてバイオマスを熱分解する熱分解部の雰囲気温度であり気流層温度である。気流層熱分解器の気流層にバイオマスを供給すると、供給箇所では雰囲気温度が、バイオマスと混合する直前の気流層ガス温度から大幅に温度低下する。また、気流層熱分解器の下流にガス状タールを液化するために設けられた冷却装置に入るまで、気流中のバイオマスは反応温度を維持した雰囲気にある。バイオマスを熱分解する熱分解部は、気流層熱分解器のバイオマス供給箇所から冷却装置に到るまでの範囲であり、熱分解部の温度はこの範囲の温度である。
また、反応時間は気流層熱分解器の気流層にバイオマスが滞留する滞留時間とほぼ同じなので、簡易的に気流層熱分解器のガスの滞留時間を反応時間とみなすことができる。なお、この滞留時間には、バイオマスが気流層熱分解器の下流の冷却装置に入るまでの、バイオマスが反応温度を維持した雰囲気にある時間も含める。
気流層熱分解器によりバイオマスの急速熱分解を行い、液状生成物(タール)を高い収率で得ることのできる熱分解反応温度(熱分解部の温度)と反応時間(熱分解部に滞留する滞留時間)との適切な範囲を以下に挙げる。
(a)気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部の温度が450〜550℃であり、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が0.3秒以上1.0秒未満である範囲である。
(b)気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部の温度が400〜500℃であり、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が1.0秒以上2.0秒以下である範囲である。
気流層熱分解器によりバイオマスの急速熱分解を行い、液状生成物(タール)を高い収率で得ることのできる熱分解反応温度と反応時間との適切な範囲は上記のとおりであるが、熱分解反応温度を上記の範囲にするために、熱分解部に供給され気流層を形成する水蒸気の温度と反応時間との適切な範囲を以下に挙げる。
(イ)燃焼炉から供給される燃焼ガスにより昇温され、気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部に供給される水蒸気の温度が550〜750℃であり、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が0.3秒以上1.0秒未満である範囲である。
(ロ)燃焼炉から供給される燃焼ガスにより昇温され、気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部に供給される水蒸気の温度が500〜750℃であり、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が1.0秒以上2.0秒以下である範囲である。
先ず、熱分解反応温度に関しては、熱分解部の温度が下限値より低いと熱分解反応の進行が不十分であり、また、上限値より高いと熱分解反応が進みすぎてガス生成が多くなりガス収率が増加し、いずれの場合もタールの液収率が減少する。
次に、反応時間に関しては、気流層熱分解器におけるバイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が下限値より短いと熱分解反応の進行が不十分であり、また、上限値より長いと熱分解反応が進みすぎてガス生成が多くなりガス収率が増加し、いずれの場合も液収率が減少する。
<燃焼炉>(流動層炉又は噴流層炉)
気流層熱分解器でバイオマスの熱分解により生成したチャーの少なくとも一部又はチャーの少なくとも一部と生成した可燃ガスの一部を燃焼炉で燃焼して高温の燃焼ガスを発生させる。この燃焼炉としては、流動層炉あるいは噴流層炉が好適である。流動層炉は流動媒体(砂等)中にチャーを投入して流動させながら燃焼させる燃焼炉である。また、噴流層炉はチャーを炉内へ気流搬送し気流中で燃焼させる燃焼炉である。噴流層炉にチャーを搬送し噴流層を形成する搬送ガスには、水蒸気、または気流層熱分解器から排出される生成ガスを用いることができる。
チャーを燃焼するとともに可燃ガスの一部を燃焼する際には、流動層炉の場合は流動層内部または上部に可燃ガスを供給して燃焼させ、噴流層炉の場合は可燃ガスをチャーと共に炉内へ供給するかあるいはチャーと別に炉内に供給して燃焼させる。
気流層熱分解器の気流層形成ガスとして用いる水蒸気を加熱するための熱源として、本発明では、バイオマスの急速熱分解により生成したチャーの少なくとも一部又はチャーの少なくとも一部と生成した可燃ガスの一部を燃焼した燃焼ガスを用いる。チャーは気流層熱分解器へ投入されるバイオマス重量の10〜20%程度相当のものが回収されるが、水蒸気加熱に必要な熱量は回収されたチャーの少なくとも一部又はチャーの少なくとも一部と可燃ガスの一部を燃焼させることにより賄うことができる。熱効率、および気流層形成に必要なガス量と熱容量の確保のため、水蒸気の加熱は間接加熱ではなく、燃焼ガスとの直接混合とするのがよい。
燃焼炉におけるチャー、可燃ガスの燃焼は空気比1の当量燃焼とすることにより、チャー、可燃ガスのもつ発熱量を最大限顕熱化することができるとともに、水蒸気に燃焼ガスを混合した雰囲気ガス中の遊離酸素濃度を1vol%以下とすることができる。
燃焼炉の炉内温度調整のため、水蒸気を燃焼用空気と混合して炉内に投入してもよい。
チャーを燃焼するための燃焼炉としては、上記の流動層炉や噴流層炉以外に他形式の燃焼炉を使用することも可能である。
<高温ガス供給装置>
本発明において、気流層熱分解器は、バイオマス供給口よりも下流位置に、酸素を含む600〜750℃の高温ガスを該気流層熱分解器へ供給する高温ガス供給装置を有しているようにすることもできる。
この場合、上記高温ガス供給装置は、気流層熱分解器で生成されたチャーの少なくとも一部と、該気流層熱分解器で生成されたガスの少なくとも一部のうちの少なくとも一方を燃焼して高温ガスとして該気流層熱分解器に供給するようになっていることが好ましい。
ここで、上記高温ガス供給装置から気流層熱分解器内へ供給される高温ガスについて、詳述する。
気流層熱分解器におけるバイオマスの急速熱分解では、気流中に300g/Nm3程度に相当するバイオマス粒子を供給すると、100〜200℃程度の温度低下が生じる。気流温度は、バイオマス供給口で急激に温度低下が生じ、下流側に移行するに従い緩やかな温度低下になる。雰囲気温度が低下すると熱分解反応が進まなくなるため、気流層熱分解器内の雰囲気温度を昇温させて400℃以上に維持することが必要である。そのため、バイオマス供給量を増加させる場合、バイオマス供給口から気流流れの下流側に遊離酸素を含む高温ガスを上記供給バイオマスの増加量に応じて供給して、高温ガスの顕熱による昇温と、遊離酸素によりバイオマスの熱分解ガスの一部を燃焼させて昇温することにより、雰囲気温度を所定温度に維持することができ、バイオマスの熱分解を適切に行わせることができるようになり、バイオマス供給量を増加させることが可能となる。
このとき、上記気流層熱分解器へ供給する高温ガスの温度は600〜750℃の高温であることが好ましく、高温ガスの温度を600℃以上とすることにより高温ガスの顕熱により気流層熱分解器の気流層における雰囲気温度を400℃以上に維持することができる。高温ガスの温度が750℃より高いと気流層熱分解器の気流層における反応温度が高くなりすぎガス化反応が進みタール収率が低下するので、好ましくない。
また、上記気流層熱分解器へ供給する高温ガスの遊離酸素濃度は10vol%以下とすることが好ましい。高温ガスの遊離酸素はバイオマスの熱分解ガスの一部を燃焼するために消費されるため、供給する高温ガスに遊離酸素が含まれていても、遊離酸素濃度を10vol%以下とすれば、気流層熱分解器の雰囲気ガス中の酸素濃度を上述の1vol%以下とすることができる。供給時の遊離酸素濃度が10vol%より高い高温ガスを気流層熱分解器に供給すると、熱分解ガスの急激な燃焼により局所的高温領域(ホットスポット)が形成され、生成したタールが熱分解され、タールの液収率が低下する。
気流層熱分解器への供給時の高温ガスの遊離酸素濃度を10vol%以下とすることにより、顕著なホットスポットを形成させることなく、気流層中のバイオマスの熱分解ガス(水素および一酸化炭素)との酸化反応(燃焼)によって緩やかな昇温を行い、気流層における反応温度を400℃以上に維持することができる。
また、高温ガスの遊離酸素濃度を10vol%以下とすることにより、遊離酸素は気流層熱分解器内で熱分解ガスの燃焼に消費されて雰囲気ガスは1vol%以下の酸素濃度となり、気流層熱分解器出口で遊離酸素が残存することを防止することができ、気流層熱分解器より下流側で可燃ガスと遊離酸素が共存することを防ぎ、爆発の危険性を回避することができる。また、供給高温ガスの遊離酸素濃度を10vol%以下とすることにより、顕著なホットスポットを形成させることがないので、タールの分解が促進され液収率を大きく低下させることがない。
なお、供給高温ガスの遊離酸素濃度の下限値は5vol%以上であり、この下限値より低いとバイオマスの熱分解ガスの一部を燃焼させて昇温することが困難となり、気流層熱分解器の反応温度を維持することができない。
ここで、高温ガスの供給位置は、バイオマス供給部から気流層の流れの下流側であって、バイオマスを供給してから気流層熱分解器での該バイオマスの滞留時間が0.5秒以下に相当する位置とすることが好ましい。この高温ガスの供給位置の範囲はバイオマスの熱分解反応による温度の急速な低下の生ずる領域であり、高温ガス供給により温度低下の抑制に効果的な領域範囲である。高温ガス供給位置がこの領域範囲より下流では、液収率の向上に対する気流層熱分解器内温度を上昇させる効果は小さくなる。高温ガスの供給は1箇所または複数箇所から行う。
また、気流層熱分解器でのバイオマス滞留時間は高温ガスの追加供給がある場合も、熱分解部の温度を450〜550℃とする場合には滞留時間を0.3秒以上1.0秒未満とし、熱分解部の温度を400〜500℃とする場合には滞留時間を1.0秒以上2.0秒以下とすることが好ましい。
高温ガス供給装置で供給される高温ガスは、高温ガス供給装置の副燃焼炉で、気流層熱分解器で生成され回収したチャーの少なくとも一部と気流層熱分解器で生成された生成ガスの少なくとも一部のうちの少なくとも一方を空気過剰燃焼して製造する。また、副燃焼炉から排出した燃焼ガスに必要に応じて水蒸気を混合して温度調整する。
このように、高温ガスをバイオマス供給口から気流層の流れの下流側で供給することにより、気流層熱分解器内温度の低下を抑制し、液収率を向上させることが可能になり、またバイオマス供給量を増加させ装置の処理量を増やすことが可能になる。
本発明は、以上のように、水蒸気を気流層熱分解器に供給し、水蒸気と気流層熱分解器で生成されたチャーの一部を燃焼して得られた燃焼ガスとで形成された気流層内でバイオマスを熱分解することとしたので、バイオマスの熱分解反応を行う雰囲気ガス中の遊離酸素を抑制しつつ、バイオマスの燃焼による局所的な高温部の発生を防止し、また、ガス化反応の進行による液収率の低下を防止して、他の不活性ガス中での液収率と同等の液収率でタールを得ることができる。
また、本発明では、水蒸気を雰囲気ガスとすることによりススの発生が抑制でき、回収したタールに混入するススを低減することができる。
また、バイオマスの急速熱分解では、通常、液収率を最大化する条件においても、バイオマス原料重量の20〜30%程度のガスが発生し、この発生ガスの主成分は水素、一酸化炭素、メタン等であり燃料として発熱量をもつことから、プロセス内の熱源燃料として有効に利用することが望ましい。その際、気流層熱分解器から排出されるガスは、バイオマス原料からの熱分解による生成ガスと、気流層を形成させる急速熱分解の雰囲気ガスと混合されたものとして得られる。急速熱分解の雰囲気ガスとして窒素や二酸化炭素などの不活性ガスを使用した場合、また窒素と二酸化炭素を主成分とする燃焼ガスを使用した場合、回収したガスの単位体積当たりの発熱量(水素、一酸化炭素、メタン等可燃ガスの含有率に対応する)は窒素や二酸化炭素を含むため低くなり、燃焼バーナ等の燃料として利用することが困難になることが多い。これに対し、本発明では、雰囲気ガスとして水蒸気を用いるので、気流層熱分解器から排出されるガスを冷却して水蒸気を凝縮し除去することができ、回収したガスの発熱量を燃料として有用なレベルにすることが可能である。
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施の形態を説明する。
<第一実施形態>
図1は、本実施形態装置の概要構成を示す。図1において、燃焼炉としての流動層炉1の上方に、該流動層炉1に接続されて気流層熱分解器2が配設されている。
上記気流層熱分解器2は、その上部にて、高温サイクロン3が接続されている。該高温サイクロン3は、気流層熱分解器2から生成したガス、タールおよびチャーを受けて、チャーを他と分離するものであり、上部取出口3Aそして下部取出口3Bとを有している。上部取出口3Aからは、ガス状生成物8として、ガス状タールとガスが、そして下部取出口3Bからはチャー9が取り出される。該下部取出口3Bには、チャー取出しのための取出管3Cが接続されている。この取出管3Cは、系外へチャーを取り出すチャー取出管3C−1が接続され、また分岐管3C−2が取出管3Cから分岐して設けられていて該分岐管3C−2がループシール4に接続されている。
上記ループシール4は、その下方位置で、上述の流動層炉1の上部に接続されている。
該流動層炉1は、上記ループシール4からのチャー9を受けて、チャー9を炉内で燃焼するための、空気5そして水蒸気6をそれぞれ炉の下部から受けるようになっている。該流動層炉1内には、流動媒体としての砂11が層を形成している。該流動層炉1の上方で該流動層炉1に連通している気流層熱分解器2は、その下部位置に水蒸気供給管が、そして水蒸気供給管の接続位置の上方位置、すなわち器内の上昇気流における水蒸気供給管の接続位置の下流位置にバイオマス供給管が接続されていて、それぞれ、水蒸気6、バイオマス7の供給を受けるようになっている。
このような第一実施形態装置では、次の要領でバイオマスからタールを生成する。
本実施形態装置では、気流層熱分解器2において、バイオマス粒子を気流層中で急速熱分解して、ガス、タール、チャーを生成し、この気流層熱分解器2で生成したチャーの少なくとも一部を流動層炉1で燃焼し、発生した燃焼ガス10を気流層熱分解器2に流入せしめ、ここで気流層熱分解器2に供給される水蒸気にこの燃焼ガス10を混合して、昇温された水蒸気を、気流層形成ガス20として用いる。以下、各部位での工程についてその作動を説明する。
(1)流動層炉
流動層炉1内では流動媒体11(例えば砂)の流動層が形成されており、上記気流層熱分解器2で生成されたチャー9の一部がループシール4を経て上記流動媒体中に投入される。一方、流動層炉1に接続された空気供給管と水蒸気供給管から炉床の分散板を経て空気5と水蒸気6の混合ガスが炉内へ供給される。上記空気5は空気比1の当量燃焼となるように空気供給量を調整されて供給され流動層炉1内のチャーを燃焼する。
その際、流動層(砂層)温度をチャーや燃焼残渣の融着が生じない1000℃程度より低い温度に制御するように水蒸気6の供給量を調整して供給すると良い。
流動層炉1でチャー9を燃焼して生成する燃焼ガス10は、上昇して上記気流層熱分解器2へ流入するが、その流入時には酸素濃度が1vol%以下とするように流動層炉1に供給する上記空気の供給量と、燃焼温度を制御する。
流動層炉1でチャー9を燃焼するとともにバイオマスの急速熱分解により生成した可燃ガスの一部を流動層内部または上部に供給して燃焼し、水蒸気加熱に必要な燃焼ガスの熱量を補うようにしてもよい。
(2)気流層熱分解器
上記流動層炉1でチャーを燃焼して得られた高温の燃焼ガス10は上昇して気流層熱分解器2へ流入する。この気流層熱分解器2へは、水蒸気供給口から水蒸気6が供給され、また、水蒸気供給口の下流位置では、バイオマス供給口からバイオマス7が供給されている。
上記水蒸気供給口から供給された水蒸気6は、流動層炉1から上昇する高温の燃焼ガス10により昇温されて気流層形成ガス20として高温の気流層を形成し、上記バイオマス供給口から供給されたバイオマス7の粒子を該気流層中で急速熱分解して、ガス、ガス状タール、チャーを生成する。
気流層熱分解器2で生成されたガス、ガス状タール、チャーを含むガスが、高温サイクロン3に導かれ、チャーが他から分離される。かくして、気流層熱分解器2で生成されたガス、ガス状タールは上記高温サイクロン3の上部取出口3Aから取り出され、分離されたチャー9は下部取出口3Bから取出管3Cを経て取り出される。このチャー9の一部はループシール4にもたらされ、そこから流動層炉1に供給されて空気供給口からの空気5により燃焼されて燃焼ガス10を発生し、気流層熱分解器2で水蒸気供給口から供給された水蒸気6にこの燃焼ガス10が混合されて、水蒸気6が昇温され気流層形成ガス20として用いられる。
かかる気流層熱分解器2での熱分解の状況を、さらに具体的に説明すると、次のごとくである。
気流層熱分解器におけるバイオマスの熱分解反応温度と反応時間とを下記(i)または(ii)のように設定する。
(i)気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部の温度を450〜550℃とし、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間を0.3秒以上1.0秒未満とする。
(ii)気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部の温度が400〜500℃とし、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間を1.0秒以上2.0秒以下とする。
気流層熱分解器によりバイオマスの急速熱分解を行い、液状生成物(タール)を高い収率で得ることのできる熱分解反応温度と反応時間との適切な範囲は上記のとおりであるが、熱分解反応温度を上記の範囲にするために、熱分解部に供給され気流層を形成する水蒸気の温度と反応時間とを下記(iii)または(iv)のように設定する。
(iii)流動層炉から供給される燃焼ガスにより昇温され、気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部に供給される水蒸気の温度が550〜750℃とし、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が0.3秒以上1.0秒未満とする。
(iv) 流動層炉から供給される燃焼ガスにより昇温され、気流層熱分解器におけるバイオマスを熱分解する熱分解部に供給される水蒸気の温度が500〜750℃とし、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が1.0秒以上2.0秒以下とする。
先ず、熱分解反応温度に関しては、熱分解部の温度が下限値より低いと熱分解反応の進行が不十分であり、また、上限値より高いと熱分解反応が進みすぎてガス生成が多くなりガス収率が増加し、いずれの場合もタールの液収率が減少する。
次に、反応時間に関しては、気流層熱分解器におけるバイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が下限値より短いと熱分解反応の進行が不十分であり、また、上限値より長いと熱分解反応が進みすぎてガス生成が多くなりガス収率が増加し、いずれの場合も液収率が減少する。
気流層熱分解器2の水蒸気供給口から供給された水蒸気6に流動層炉1からの高温燃焼ガス10を混合し、上記(iii)または(iv)の設定温度に昇温して気流層形成ガス20とする。混合後のガスの主成分は水蒸気であり、水蒸気濃度は60〜80%程度となる。水蒸気6を昇温するには高温燃焼ガス10との直接混合が望ましいが、熱交換器による間接加熱でもよいし、他プロセスから得られる高温水蒸気を直接使用するなど他の方法を用いてもよい。このように昇温した水蒸気を気流層熱分解器2に気流層形成ガス20として供給することで、気流層を形成させる。
上記気流層における気流は望ましくは乱流、または遷移域流を形成する流速となるよう、あらかじめ気流層熱分解器2の水平断面積に応じた水蒸気流量を設定しておく。気流の方向は上向きが適当であるがこれに限定されず、横向きでも下向きでも良い。
上記気流の中にバイオマス粒子を供給するが、気流の方向が上向きの場合、バイオマスの粒子径は、該バイオマスの終末速度が気流の速度より小さくなるよう調整しておき、落下する粒子がないようにする。バイオマス粒子の供給方法としては重力による自然落下やスクリューフィーダーでの投入などを用いることもできるが、気流搬送で投入することが望ましい。この搬送ガスには、窒素、水蒸気、または気流層熱分解器2から排出される生成ガスの一部を用いることができる。バイオマス粒子を気流層熱分解器2の気流に投入すると熱分解反応が進行し、気流層熱分解器2内の温度が下流になる程、反応が低下していく。バイオマス粒子の投入量は気流層熱分解器2内の温度が400℃以下にならないように調整する。
気流層熱分解器2中でのバイオマス粒子の熱分解反応時間を上記(i)または(ii)の設定時間とするようにする。この反応時間は気流層熱分解器2の気流層にバイオマスが滞留する滞留時間とほぼ同じなので、簡易的に気流層熱分解器ガスの滞留時間を反応時間とみなすことができる。なお、この滞留時間には、気流層熱分解器2の下流の冷却装置に入るまでの、バイオマス粒子が反応温度を維持した雰囲気にある時間も含める。
気流層熱分解器におけるバイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間が下限値より短いと熱分解反応の進行が不十分であり、また、上限値より長いと熱分解反応が進みすぎてガス生成が多くなりガス収率が増加し、いずれの場合も液収率が減少する。
(3)気流層熱分解器で生成した生成物の処理
気流層熱分解器2から排出されるガス中には、バイオマス粒子の急速熱分解により生成したガス、ガス状タール、チャー、が含まれている。
気流層熱分解器2から排出されるガスを高温サイクロン3に導入し固形物を分離する。分離回収された固形物はバイオマス粒子の熱分解により生成したチャーである。チャーはその一部をループシール4を介して流動層炉1に供給し、高温燃焼ガスを発生させるための燃料として用いる。残りのチャーはチャー取出管3C−1から系外に排出する。
高温サイクロン3から排出されるガス状生成物を湿式スクラバー(図示せず)により冷却し、ガス状タールと水蒸気を凝縮させ、気液分離器(図示せず)でガスと液に分離する。液には、タールの他に、気流層熱分解器2に供給された水蒸気と気流層熱分解器中で発生した水蒸気が含まれている。回収した液を比重分離器により水層と非水溶性タール層に分け、水層は加熱して濃縮し水溶性タールを得る。この加熱により発生した水蒸気は、酢酸などの有機成分を含んでいるため、流動層炉の下部から投入する水蒸気の一部として用いるのが好ましい。回収したタールは、用途に合わせて精製などの処理を行ない、燃料や化学原料として利用可能である。
気液分離器で液と分離され回収されたガスは、比較的高い発熱量を有しているため燃料として有用であり、燃焼して気流層熱分解器に供給する水蒸気を生成する熱源としたり、ガスエンジンで発電を行ったり、燃焼後ボイラーで熱回収を行うこと等が可能である。またこの回収ガスを、気流層熱分解器2にバイオマス粒子を投入するためや流動層炉1にチャーを投入するための気流搬送用のガスとして使用したり、流動層炉1に燃料として供給したり、後述する気流層熱分解器2のバイオマス供給位置よりも下流側に設けられる高温ガス供給装置へ供給する高温ガスを生成する燃焼炉の燃料として使用することができる。
<第二実施形態>
図1の第一実施形態では燃焼炉が流動層炉であったが、図2に示される第二実施形態では、燃焼炉として噴流層炉が用いられている。図2装置の説明において、図1装置と共通する部位には同一符号を付してその説明を省略する。以降の他の実施形態でも同様とする。
図2において、燃焼炉たる噴流層炉12が気流層熱分解器2の下部に連続して配設されている。この噴流層炉12には、気流層熱分解器2で生成され回収されたチャー9の一部を空気5とともに噴流層炉12内に噴出させ、噴流層炉12内で燃焼させるバーナ15が設けられている。
上記バーナ15には、送入管14の一端が接続されている。この送入管14の他端は混合器13に接続されている。この混合器13は、上方に位置するループシール4に接続されていてチャー9の供給を受けると共に、外部からの水蒸気あるいは気流層熱分解器2からの生成ガス16を受けて、上記チャー9をこの水蒸気あるいは生成ガス16によりバーナ15へ気流搬送するようになっている。
このような本実施形態では、気流層熱分解器2で生成し回収されたチャー9の一部が混合器13に供給される。気流層熱分解器2の下端に配設された噴流層炉12に設置されたバーナ15にチャー9が混合器13から送入管14を経て水蒸気あるいは生成ガス16の気流搬送により供給され、バーナ15に供給される空気5と共に噴流層炉12内に噴出され、噴流層の中で燃焼される。
噴流層炉12内でのチャーの燃焼は空気比1の当量燃焼で行われるように、上記混合器13へ供給する空気量を調整して、噴流層炉12出口での燃焼ガス10の酸素濃度を1vol%以下とする。また、水蒸気6を気流層熱分解器2へ供給して、噴流層炉12からの燃焼ガス10と混合し、第一実施形態と同様に550〜750℃または500〜750℃に昇温して気流層熱分解器2内での気流層形成ガス20として用いる。
気流層熱分解器2へ供給された水蒸気6と噴流層炉12からの燃焼ガス10との混合ガスの主成分は水蒸気であり、水蒸気の濃度は60〜80%程度となる。水蒸気の昇温は燃焼ガスとの直接混合によることが望ましいが、間接加熱や他プロセスから得られる高温水蒸気を直接使用するなどの他の方法を用いてもよい。
噴流層炉12でチャー9を燃焼するとともにバイオマスの急速熱分解により生成した可燃ガスの一部をチャーと共に噴流層炉内へ供給するかあるいはチャーと別に噴流層炉内に供給して燃焼し、水蒸気加熱に必要な燃焼ガスの熱量を補うようにしてもよい。
<第三、四実施形態>
図3に示される第三実施形態は、図1の第一実施形態の装置に、高温ガス供給装置を付加した点に特徴がある。この高温ガス供給装置は、副燃焼炉17を有し、バイオマス供給位置よりも下流位置で、副燃焼炉17からの高温ガス21を気流層熱分解器2内に送入することとしている。
上記副燃焼炉17は、燃料として気流層熱分解器2で生成されたチャーの一部あるいは生成ガスの一部18の供給を受け、空気過剰となる空気比で空気5の供給を受け、燃焼により発生した遊離酸素濃度が10vol%以下の高温燃焼ガスを発生させる。この高温燃焼ガスに必要に応じて水蒸気6を混入して温度を600〜750℃に調整して高温ガス21として気流層熱分解器2内に送入する。
次に、図4に示される第四実施形態では、図2の第二実施形態の装置に、第三実施形態の高温ガス供給装置を付加した点に特徴がある。
これらの第三そして第四実施形態では、バイオマス供給量を増加させる場合、気流層熱分解器2におけるバイオマスの熱分解反応による温度低下に対し、バイオマス供給位置よりも下流側の1箇所または複数箇所で、遊離酸素を含む高温ガス21を供給バイオマスの増加量に応じて供給して、高温ガスの顕熱による昇温と、バイオマスの熱分解ガスの一部を燃焼させて昇温することにより、気流層熱分解器2内の雰囲気温度すなわち反応温度を400℃以上に維持することができ、バイオマス供給量を増加させ、タールの収量を増加させることが可能となる。
気流層熱分解器2のバイオマス供給位置よりも下流側に設けた高温ガス供給口から供給される高温ガス21の供給時の遊離酸素濃度は10vol%以下とすることが望ましく、かつ600〜750℃の高温で供給することが好ましい。こうすると高温ガス21の遊離酸素は気流層熱分解器2内でバイオマスの熱分解ガスの燃焼に消費され、気流層内での雰囲気酸素濃度は1vol%以下となる。この高温ガスの供給時の遊離酸素濃度とガス温度の好ましい範囲は、高温ガス供給部付近でホットスポットが形成されず、かつ気流層熱分解器の排出ガス中に遊離酸素が含まれないようにするための値である。
供給する高温ガスのガス量は、気流層熱分解器2の上部出口でのガス流量に対し、標準状態での流量換算で20%以下程度が適当である。このように供給する高温ガスのガス量の上限を定めるのは、高温ガス21の供給により、タールの収量は増加するが、バイオマス粒子供給量に対するタール収量の割合、すなわち液収率がやや低下し、高温ガスの供給量の増加に伴いこの液収率の低下が大きくなるためである。
高温ガスを供給する位置は、バイオマスの熱分解反応によって温度の急速な低下の生ずる領域である、バイオマスを供給してからの滞留時間が0.5秒以下に相当する位置とすることが望ましい。気流層熱分解器でのバイオマス滞留時間は高温ガスの追加供給がある場合も、熱分解部の温度を450〜550℃とする場合には滞留時間を0.3秒以上1.0秒未満とし、熱分解部の温度を400〜500℃とする場合には滞留時間を1.0秒以上2.0秒以下とすることが好ましい。
このように高温ガス29を供給して気流層熱分解器2内の温度低下を抑制することにより、より多くのバイオマス粒子の投入が可能となり、得られるタールの収量を増加させることができる。
図1に示す装置で試験を実施した。
(試験方法)
気流層熱分解器へ供給された水蒸気を流動層炉で発生させた燃焼ガスと混合して昇温し、内径100mmの気流層熱分解器の下部から投入し、上昇気流を形成させた。気流層熱分解器の外側には環状電気ヒーターを設置し、放熱を補償した。気流層熱分解器の上昇気流が安定した位置に、バイオマスとして2mm径以下に粉砕したスギ木屑を連続的に投入した。この投入位置は複数の高さ位置から一つを選択できるようになっている。スギ木屑粒子の終末速度よりも気流層熱分解器中の気流の上昇速度が大きくなる条件に設定して、スギ木屑を気流と共に上昇させ熱分解させた。
気流層熱分解器の上部出口には、高温サイクロンを設置し、チャーを分離し、生成量を測定した。高温サイクロンからガス流として出たガス状タールとガスの生成物は、一部をサンプリングしタール生成量を測定した後、湿式スクラバーで冷却してタールを除去し、さらに湿式スクラバーから排出されたガスの流量と組成の測定を行った。
チャー、抜き出しチャーとして外部に抜き出す量を調整することにより、流動層炉1への供給量を制御した。流動層炉には、下部に設置した分散器から予熱した空気と水蒸気を供給し、流動媒体(砂)中でチャーの燃焼を行った。流動層炉で発生させた燃焼ガス中の残留酸素濃度を1vol%以下とするために、流動層炉におけるチャーの燃焼に供給する空気の空気比は、やや燃料過剰となる0.9から1.0の間で制御した。
チャー燃焼ガスを混合した水蒸気の気流層熱分解器に供給する供給量と、スギ木屑投入量を変化させて、またスギ木屑投入位置を切り替え、スギ木屑の気流層熱分解器内の滞留時間を変化させた。さらに、気流層ガスの温度を変化させ、気流層熱分解器に供給する供給ガス(燃焼ガスを混合した水蒸気)の温度、バイオマスの熱分解部の温度及び気流層熱分解器出口ガスの温度を測定した。
チャー、タール、ガスの生成量の測定結果から、供給したスギ木屑の乾重量に対する収率(wt%)を求め、分配率として評価した。
(結果)
木屑投入量、気流層熱分解器の気流層への供給ガスの温度、熱分解部の温度、出口ガスの温度、滞留時間、分配率を表1に示す。
実施例1〜6は、滞留時間を0.3秒以上1.0秒未満としたものであって、実施例1は気流層熱分解器への供給ガスの温度を740℃、熱分解部の温度を540℃、滞留時間を0.3秒としたもの、実施例2は供給ガスの温度を750℃、熱分解部の温度を550℃、滞留時間を0.4秒としたもの、実施例3は供給ガスの温度を550℃、熱分解部の温度を450℃、滞留時間を0.6秒としたもの、実施例4は供給ガスの温度を750℃、熱分解部の温度を520℃、滞留時間を0.8秒としたもの、実施例5は供給ガスの温度を620℃、熱分解部の温度を490℃、滞留時間を0.9秒としたもの、実施例6は供給ガスの温度を700℃、熱分解部の温度を530℃、滞留時間を0.9秒としたものであり、いずれも投入した木屑乾重量の50wt%以上という高い収率でタールを得ることができた。
実施例1〜6に示すように、水蒸気を流動層炉で発生させた燃焼ガスと混合して昇温し、気流層熱分解器へ供給する水蒸気の温度550〜750℃とし、熱分解部の温度を450〜550℃とし、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間を0.3秒以上1.0秒未満とすることにより、高い収率でタールを得ることができることを確認できた。
実施例7〜13は、滞留時間を1.0秒以上2.0秒以下としたものであって、実施例7は気流層熱分解器への供給ガスの温度を750℃、熱分解部の温度を500℃、滞留時間を1.1秒としたもの、実施例8は供給ガスの温度を550℃、熱分解部の温度を430℃、滞留時間を1.2秒としたもの、実施例9は供給ガスの温度を680℃、熱分解部の温度を470℃、滞留時間を1.4秒としたもの、実施例10は供給ガスの温度を500℃、熱分解部の温度を400℃、滞留時間を1.5秒としたもの、実施例11は供給ガスの温度を650℃、熱分解部の温度を490℃、滞留時間を1.8秒としたもの、実施例12は供給ガスの温度を550℃、熱分解部の温度を420℃、滞留時間を1.9秒としたもの、実施例13は供給ガスの温度を620℃、熱分解部の温度を460℃、滞留時間を2.0秒としたものであり、いずれも投入した木屑乾重量の50wt%以上という高い収率でタールを得ることができた。
実施例7〜13に示すように、水蒸気を流動層炉で発生させた燃焼ガスと混合して昇温し、気流層熱分解器へ供給する水蒸気の温度を500〜750℃とし、熱分解部の温度を400〜500℃とし、バイオマスが熱分解部に滞留する滞留時間を1.0秒以上2.0秒以下とすることにより、高い収率でタールを得ることができることを確認できた。
比較例1は供給ガスの温度を800℃、熱分解部の温度を530℃、滞留時間を1.2秒としたものであるが、熱分解部の温度が500℃より高いためガス化が促進され、タールの収率は45wt%と低くなった。
比較例2は供給ガスの温度を740℃、熱分解部の温度を510℃、滞留時間を2.2秒としたものであるが、滞留時間が2.0秒より長いためガス化が促進され、タールの収率は40wt%と低くなった。
比較例3は供給ガスの温度を490℃、熱分解部の温度を420℃、滞留時間を0.9秒としたものであるが、熱分解部の温度が450℃より低いため熱分解反応が十分に進行せず、チャーが多く生成され、タールの収率は33wt%と低くなった。
比較例4は供給ガスの温度を730℃、熱分解部の温度を500℃、滞留時間を0.2秒としたものであるが、滞留時間が0.3秒より短いため熱分解反応が十分に進行せず、チャーが多く生成され、タールの収率は43wt%と低くなった。
次に、気流層熱分解器への供給ガスとして水蒸気の代わりに窒素を供給する試験を行った。比較例5では、同一の装置で気流層熱分解器への供給ガスとして水蒸気の代わりに窒素を供給し、他の条件は実施例4と同様にして試験を行った。気流層熱分解器で生成されたチャーとタールを分離して回収されたガスの組成を分析し、ガス発熱量を求めた。表2に実施例4と比較例5の結果を示す。
気流層熱分解器への供給ガスとして窒素を用いた比較例5では、タール収率は実施例4と同程度であるが、ガス発熱量は1.2MJ/Nm3であり、実施例4の水蒸気を用いた場合の3.2MJ/Nm3に比べて、窒素により希釈されることにより低くなっていた。このような発熱量が2MJ/Nm3以下のガスは、通常の燃焼装置での利用は困難である。
次に、気流層熱分解器に高温ガスを供給し、バイオマス供給量を増加してタール収量の増大をはかる試験を行った。実施例14では、図3に示す装置を用い、気流層熱分解器で生成したガスの一部を副燃焼炉に供給して燃焼により酸素濃度8.1%、710℃の高温ガスを製造し、4.4Nm3/hの流量で気流層熱分解器のバイオマス投入位置の下流側に供給した。この酸素を含む高温ガスの流量は、高温ガスを供給する前の気流層熱分解器内ガス流量の8mol%に相当し、供給位置はバイオマス投入位置からのガス滞留時間が0.2〜0.3秒の位置に相当する位置である。
実施例14はスギ木屑投入量を18.5kg/hと実施例4の15kg/hより20%程度増加させ、他の条件は実施例4と同様にして試験を行った。生成したタール収量を計測し、表3に実施例4と実施例14の結果を示す。
実施例14のように、気流層熱分解器のバイオマス投入位置の下流側に酸素を含む高温ガスを供給することにより、スギ木屑の投入量を増加させても、気流層熱分解器内の気流層温度の低下が抑制されるため、タール収率が大きく低下することなく、タール収量を15%以上増加させることができた。