LDPC符号を用いた従来からの高度衛星放送方式の送信装置100及び受信装置200の概略構成を簡潔に説明する。尚、説明の簡略化のため、本発明に係る部分のみを説明するが、高度衛星放送方式の送信装置100及び受信装置200は、LDPC符号を他の訂正符号方式に置き換えたり、又は併用したり、更にはインターリーバを適宜組み合わせて用いることができる。
図12は、従来からの高度衛星放送方式の送信装置の構成を示す図である。この送信装置100は、フレーム生成部110と、LDPC符号化部120と、エネルギー拡散部130と、マッピング部140と、時分割多重/直交変調部150とを備える。即ち、送信装置100は、データストリームを送信する場合に、後述する図15における複数スロットの多重フレームの信号を生成してから変調波信号を生成するまでの一連の処理を行う。
フレーム生成部110は、LDPC符号化部120とともに機能して、LDPCパリティを生成する。従って、フレーム生成部110及びLDPC符号化部120は、後述する図15における複数スロットのフレームを生成し、エネルギー拡散部130に出力する。尚、フレーム生成部110により生成される多重フレームは、スロット数、ダミーの量、スロット長、同期ビット長、パイロットビット長、並びにTMCC及びパリティビット長が予め定められた数になるように生成される。
LDPC符号化部120は、データ及び伝送制御信号に対して、所定の周期のLDPC符号化を施す。LDPC符号化の具体的な方法は既知であり、且つ本願の主題ではないため更なる説明を割愛する。
エネルギー拡散部130は、それぞれ多重フレームの所定数のスロットを入力し、これらのデータ等の全体に対して、エネルギー拡散(ビットランダム化)を行う。
エネルギー拡散部130からのビットランダム化した信号は、同期及びパイロット信号を適宜挿入しながら、各種変調方式(BPSK,APSK等)に応じて切り換えられ、マッピング部140(変調方式に応じた複数のマッピング)に入力される。
マッピング部140は、TMCC同期で指定された変調方式によるマッピングを行う。
時分割多重/直交変調部150は、フレーム単位の時分割多重を行い、直交変調を施して、変調波信号を生成する。
図13は、従来からの高度衛星放送方式の受信装置200の概略構成を示すブロック図である。この受信装置200は、チャンネル選択部210と、直交検波部220と、伝送制御信号復号部230と、エネルギー逆拡散部240と、LDPC復号部250とを備えている。
チャンネル選択部210は、送信装置100からの変調波信号を受信し、所定の周波数帯のチャンネルを選択し、そのチャンネルの信号を直交検波部220で扱う所定の周波数の信号に変換にする。例えば、変調波信号が衛星放送波であれば、12GHz帯の放送波(変調波信号)をBSアンテナで受信し、既知の周波数変換器(図示せず)を用いて1GHz帯のBS−IF信号に変換する。
直交検波部220は、チャンネル選択部210により選択されたチャンネルの所定の周波数の信号(例えばBS−IF信号)を入力し、同期ベースバンド信号に変換する。
伝送制御信号復号部230は、直交検波部220により変換された同期ベースバンド信号を入力し、まずTMCC信号の同期バイトを検出し、これを基準として、周期的に多重されているBPSK変調波である位相基準バースト信号の位置も検出する。また、TMCC信号により伝送される変調方式・誤り訂正の情報についてのTMCC情報の復号処理もエネルギー逆拡散部240を経て行う。伝送制御信号復号部230により復号された伝送制御情報(変調方式・誤り訂正のTMCC情報)は、LDPC復号部250に入力される。
エネルギー逆拡散部240は、送信装置100のエネルギー拡散部130において擬似ランダム符号がMOD2により加算された処理を元に戻すため、再度同じ擬似ランダム符号をMOD2により加算し、エネルギー逆拡散処理を行う。
LDPC復号部250は、直交検波部220から同期ベースバンド信号が入力されるとともに、伝送制御信号復号部230により検出された変調方式・誤り訂正の情報が入力され、当該同期ベースバンド信号をLDPC符号の検査行列を用いて復号処理を行う。
図14に、このパイロット信号を用いる従来から知られている受信装置200の一部のLDPC復号部250を示す。パイロット信号を含まないシステムの場合、直交検波されたI信号及びQ信号に対し、尤度テーブルを参照しながら、LDPC復号を行うが、このLDPC復号部250では、パイロット信号についてシンボルごとに平均化を行い、伝送路における非線形歪の影響を受けた後の信号点配置を取得し、得られた信号点配置をもとに尤度テーブルを生成又は更新することで性能向上が可能である(同報告書の参考資料1‐8「パイロット信号による受信特性の改善」参照)。
具体的には、LDPC復号部250は、パイロット信号抽出部252と、パイロット信号平均化処理部253と、尤度テーブル生成部254と、所定のメモリ(図示せず)内に格納される尤度テーブル255と、LDPC復号器251とを備える。
パイロット信号抽出部252は、直交検波部220により変換された同期ベースバンド信号を入力し、事前に検出したTMCC信号内のパイロットタイミングを表す同期情報の信号(パイロットタイミング信号)を用いてパイロット信号の信号点の位置を抽出し、順次、パイロット信号平均化処理部253に送出する。
パイロット信号平均化処理部253は、シンボルごとにパイロット信号の信号点の平均化を行って、この情報を尤度テーブル生成部254に送出する。
尤度テーブル生成部254は、シンボルごとに平均化されたパイロット信号の信号点についての復号器出力対数尤度比 (LLR:Log likelihood ratio)を表す、LDPC復号における尤度計算に用いる尤度テーブル255を生成し、所定のメモリ内に格納するか、又は更新する。尚、尤度テーブル255は、予め定められたスロット長で変調方式や符号化率に応じて個別に生成するのが好適であり、尤度テーブル255の生成に用いる変調方式及び符号化率の情報は、事前に検出したTMCC信号内のTMCC情報に従う信号(変調方式・符号化率選択信号と称する)から得られる。
LDPC復号器251は、尤度テーブル255のLLR、及び変調方式・符号化率選択信号に基づいて、直交検波部220により変換された同期ベースバンド信号の情報をLDPC復号して復号信号を送出する。
尚、このような固定の既知パターン(例えば、パイロット信号点の繰り返しのパターン)を周期的に多重してしまうと、変調信号の周波数成分に線スペクトルが発生することになるために、パイロット信号も送信側でエネルギー拡散を行う。
このように、LDPC符号を用いた高度衛星放送方式の送信装置100及び受信装置200であれば、多値位相変調とLDPC符号をはじめとする強力な誤り訂正符号を組み合わせて、より高い周波数利用効率の伝送が可能となる。
しかしながら、このようなLDPC符号等の強力な誤り訂正符号は白色雑音に対する訂正能力は優れているものの、衛星伝送路固有の歪に対する信号劣化に対する訂正能力は十分ではない。特に16APSKや32APSKといった振幅位相変調を衛星伝送路に用いる場合、衛星中継器300や地球局で用いるTWTA等の増幅器で生じる波形歪による信号劣化が位相変調に比べ、より大きく発生する。
一般的に、増幅器で発生する波形歪を抑える方法としては飽和領域から出力レベルを下げることで増幅器をより線形領域で動作させる手法がとられる。しかしながら、この場合、歪による伝送劣化は収まる一方で、衛星中継器300の出力が低下し、地上における受信信号の低下につながってしまう。よって、衛星放送等でAPSKを適用するには、衛星出力をなるべく低下することなく、歪による伝送劣化に強い伝送方法の利用が不可欠となる。
また、DVB−S2をはじめ最新の衛星デジタル放送方式では、誤り訂正符号の復号方法としてベイズ理論に基づく事後確率を最大化する手法(最尤復号)が用いられる。事後確率は尤度関数(式(1))により求まる。
尤度関数の定義より、尤度関数と、受信信号と理想信号点の距離を示すユークリッド距離は密接に関わっている。白色雑音のみの伝送路においては、受信信号点はS/Nに応じたガウス分布のランダム偏差を生じるが、白色雑音以外の特定の歪を含んだ伝送路においては、ランダム偏差に加え、特定の振幅・位相偏差を伴った信号点変移が起きる。特に、非線形増幅器にAPSKを入力した場合においては、APSKは複数種類の同心円を組み合わせて伝送する都合上、もっとも振幅の大きい同心円に属する信号点がより大きな信号偏差を生ずる。
尚、http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/bunkakai/080729_1.htmlに「資料60−1−2 放送システム委員会報告」として公開されている、総務大臣から情報通信審議会(以下、情通審)への諮問2023号「放送システムに関する技術的条件」に対する、報告書「情報通信審議会 情報通信技術分科会 放送システム委員会 報告」(平成20年7月29日)に示された高度衛星デジタル放送方式(以下、高度衛星放送方式と呼ぶ。)では、APSKに対する伝送特性改善についても考慮している。
図15に高度衛星放送方式の変調波信号形式の例を示す。変調波信号は、フレーム単位で変調方式や誤り訂正符号の符号化率を含む伝送パラメータの変更が可能である。また、1フレームは120個の変調スロットで構成され、5変調スロットごとに変調方式と符号化率を指定して伝送可能である。各変調スロットは24シンボルの同期信号、32シンボルのパイロット信号、及び136シンボルのデータと4シンボルのTMCC信号の対が、66回、時分割多重される。
図16に、パイロット信号の一送信形態例であり、あらかじめ伝送順序が決められた送信シンボルに対する既知送信ビットの対応図を示す。パイロット信号は、図16に示すように、32APSKの場合、シンボル“00000”から“11111”に対応する信号点が順に伝送される。図16(a)、図16(b)、及び図16(c)は、それぞれ第1シンボル、第2シンボル、第32シンボルに対応する信号点を「黒丸」で表している。
そこで、従来からの受信装置200において伝送路歪を補償する方法として適応等化器の利用が挙げられ、適応等化器の一形態として受信信号のみから伝送路歪の影響を軽減することが可能なブラインド等化器が良く用いられる(例えば、参考文献:Kil Nam OH, ”A Single/Multilevel Modulus Algorithm for Blind Equalization of QAM Signals” IEICE TRANS. FUNDAMENTALS. VOL.E80-A, N.6. 1997年6月、参照)。
受信側で用いるブラインド等化器は、LDPC復号器251の前段に設けられる適応フィルタの一種であり、フィルタのタップ長やステップサイズ、及び誤差ベクトルの計算方法を適切に選ぶことで、伝送路で生じた歪を軽減し、送信信号に近いシンボル点に受信信号点を変化させることが可能な適応等化器である。ブラインド等化器は、図17に示す判定帰還型FIRフィルタ256を用いて検証することができる。ステップサイズsは2E−4、フィードフォワードフィルタ(FF)2561のタップ長Mは10、フィードバックフィルタ(FB)2564のタップ長Lは14とし、ブラインドアルゴリズムはGMCMA(Generalized Multilevel Constant Modulus Algorithm)アルゴリズムを用いる(上述の参考文献を参照)。
具体的には、判定帰還型FIRフィルタ256は、フィードフォワードフィルタ(FF)2561と、等化器出力部2562と、判定部2563と、フィードバックフィルタ(FB)2564と、加算部2565と、フィルタ係数更新部2566とを備える。
フィードフォワードフィルタ(FF)2561は、タップ長Mに対応するフィルタ係数WFF:[W0,W1,・・・,WM]を有し、入力信号ベクトルx(n)に対して、入力ベクトル列xFF:[x(n),x(n−1),・・・,x(n−M)]Tを保持し、フィードフォワードフィルタ係数WFFと入力ベクトル列XFFとの積和演算を行う。ここでTは行列の転置を表す。nは適応等化器におけるフィルタタップ番号を示す。
フィードバックフィルタ(FB)2564は、タップ長Lに対応するフィルタ係数WFB:[WM+1,WM+2,・・・,WM+L]を有し、後述する判定部2563の判定器出力d(n)に対して、判定器出力列dFB:[d(n−1),d(n−2),・・・,d(n−L)]Tを保持し、フィードバックフィルタ係数WFBと判定出力列dFBとの積和演算を行う。
加算部2565は、フィードフォワードフィルタ(FF)2561の出力からフィードバックフィルタ(FB)2564の出力2564aを減算した値を等化器出力部2562に出力する。
判定部2563は、等化器出力部2562で得られた等化器出力z(n)に対して、既知の変調方式によって定める理想シンボル点との最小ユークリッド距離判定を行い、最小ユークリッド距離となる理想シンボル点を判定器出力d(n)としてフィードバックフィルタ(FB)2564に出力する。同時に、フィルタ係数更新のため、判定器出力d(n)をフィルタ係数更新部2566に出力する。
等化器出力部2562は、加算部2565から得られた等化器出力z(n)の信号2562bを送出する。
z(n)=x’(n)T・W(n)
ここに、x’(n)=[x(n),x(n−1),・・・,x(n−M),
d(n−1),d(n−2),・・・,d(n−L)]
フィルタ係数更新部2566は、等化器出力z(n)及び判定器出力d(n)から誤差ベクトルe(n)を求め、e(n)およびステップサイズsを用いて、LMSアルゴリズムによりフィードフォワードフィルタ(FF)係数WFF, フィードバックフィルタ(FB)係数WFBを逐次更新する。(上述の参考文献を参照)。
従来技術において、一般的な衛星中継器300を構成するIMUXフィルタ、TWT、OMUXフィルタを想定し、TWTの動作点をOBO=3.4dBとした中継器シミュレーターを計算機シミュレーションにより再現し、後述する判定帰還型FIRフィルタを有するブラインド等化器により、32APSK変調信号を適応等化した信号例を図18に示す。図18(a)は、ブラインド等化適用前のコンスタレーション、図18(b)はブラインド等化適用後のコンスタレーションである。図18の結果を得るのに用いる判定帰還型FIRフィルタにおけるステップサイズは2E−4、フィードフォワードフィルタタップ長は10、フィードバックフィルタタップ長は14とした。また、このブラインドアルゴリズムはGMCMAアルゴリズムを用いている。図18を参照するに、受信装置200においてブラインド等化を実施することでError Vector Magnitudeが改善しており、波形の品質が向上していることが分かる。
このようなブラインド等化器は、主信号のみから等化器の誤差を評価し、フィルタ係数を更新する必要があり、上記GMCMAアルゴリズムにおいても、等化器出力を硬判定した値を用いてフィルタ係数を更新する。この場合、主信号に印加される雑音が増えるほど、フィルタ係数の精度が悪化し、等化器の性能が悪くなる。等化器において従来良く用いられる、精度良く伝送路を反映したフィルタ係数を求める手法としては、トレーニング信号とよばれる主信号とは別の既知パターンを送信側および受信側で用意して、両者の既知パターンの誤差量を評価することでより正確なフィルタ係数を求める手法が良く用いられる(例えば、MATLABプログラム事例解説II アドバンスト通信路等化 トリケップス参照)。
しかし、トレーニング信号は一般的に主信号とは別の信号系列であり、データの伝達に寄与しないため、冗長なトレーニング信号の利用はデータ伝送効率の低下を招いてしまう。
また、降雨減衰等により白色雑音レベルが上昇し、誤り訂正符号が訂正破綻となる低受信C/Nにおいても波形等化性能を向上させる方法として、LDPC符号に代表される最尤推定を近似した誤り訂正符号の復号出力として尤度情報(対数尤度比)を利用することができる。尤度情報を用いることで式(2)〜(4)を用いて、尤度情報を反映した軟判定値に基づく再変調信号列を求めることが可能である(例えば、X.Wang and H.V. Poor, ”Iterative(Turbo) Soft Interference Cancellation and Decoding for coded CDMA,” IEEE Trans. Commun, vol.47, pp.1046-1061,Jul.1999参照)。
このように、軟判定値に基づく再変調信号列を用いることで、誤り訂正結果に応じた最尤系列を受信側で利用することが可能となる。降雨減衰等により雑音レベルが上昇し、誤り訂正符号が破綻してビット誤りが生じる状況になった場合、軟判定値に基づく再変調信号列を用いることにより、ある程度のビット誤りが生じる状況においても誤っていないビットから得られた尤度情報に基づく推定精度の向上した送信信号列レプリカが受信側で生成可能である。しかしながら、再変調信号系列は送信信号列レプリカに相当するため、再変調信号系列から伝送路歪を推定するためには、別途伝送路応答を取得して、再変調信号系列から受信信号レプリカを取得して伝送路固有の歪成分を推定する必要がある。
そこで、本発明の目的は、伝送路固有の歪成分を高精度で推定して、受信C/Nの値に応じてLDPC復号時の適応等化処理を施すことにより、複数の振幅レベルを有する直交変調方式に対する伝送特性を改善する復号器及び受信装置を提供することにある。
本発明は、受信側において、伝送路の歪補償のために適応等化器を用いて波形等化を実施する際に、フィルタ長の等しい複数の適応等化器を用いて波形等化処理と伝送路応答取得処理を行うとともに、誤り訂正復号器(LDPC復号器)から得られる尤度情報を用いて再変調信号列を生成し、事前に取得した伝送路応答及び再変調信号列を用いて伝送路歪除去信号列を生成し、誤り訂正復号器(LDPC復号器)は、伝送路歪除去信号列に対して再度誤り訂正復号を行う。また、高受信C/N時(例えば、20dB以上)に伝送路応答を取得することで適応等化器のフィルタ係数の高精度化を可能とする。低受信C/N時(例えば、14.8dB以下)においては、低受信C/N時の再変調信号列と高受信C/N時に取得した伝送路応答を利用して伝送路歪除去信号列を取得し、伝送路歪除去信号列に対して再度誤り訂正復号することで、低受信C/N時の伝送性能改善を可能とする。
そこで、本発明による復号器は、デジタル伝送方式の誤り訂正符号化された主信号を適応等化して誤り訂正復号を施す復号器であって、主信号の受信シンボル列を抽出する受信C/N判定手段と、主信号の適応等化を行う主信号用適応等化手段と、前記主信号用適応等化器によって適応等化された主信号の誤り訂正復号を施すLDPC復号手段と、前記LDPC復号手段の尤度情報から再変調信号列を生成する軟判定再変調信号列生成手段と、前記受信シンボル列と前記再変調信号列とを用いて前記主信号用適応等化手段のフィルタ係数を更新する伝送路応答推定手段と、前記再変調信号列と主信号の受信シンボル列とを用いて受信信号レプリカを生成する伝送路歪推定手段と、前記受信信号レプリカ、該再変調信号列、及び前記主信号の受信シンボル列から伝送路歪除去信号列を生成する減算手段と、を備え、前記LDPC復号手段は、前記伝送路歪除去信号列に対して再び誤り訂正を施して復号信号を生成することを特徴とする。
また、本発明による復号器は、デジタル伝送方式の誤り訂正符号化された主信号を適応等化して誤り訂正復号を施す復号器であって、主信号の適応等化のための受信C/N相当値を判別し、主信号の1符号長に相当する受信シンボル列を抽出する受信C/N判定手段と、主信号の適応等化を行う主信号用適応等化手段と、前記主信号用適応等化器によって適応等化された主信号の誤り訂正復号を施す誤り訂正復号手段と、前記誤り訂正復号手段によって1符号長相当数の対数尤度比から再変調信号列を生成する軟判定再変調信号列生成手段と、前記主信号用適応等化手段におけるフィルタ係数を更新するために、前記受信シンボル列と前記再変調信号列とを用いて適応等化処理を行い、該フィルタ係数の個々のフィルタタップ係数に相当する伝送路応答及び、該伝送路応答の逆応答を表す伝送路逆応答を生成し、該伝送路逆応答によって前記主信号用適応等化手段のフィルタ係数を更新する伝送路応答推定手段と、前記主信号用適応等化手段におけるフィルタ係数の更新後に主信号における伝送路歪成分を除去するために、前記主信号用適応等化手段におけるフィルタ係数の更新後に前記軟判定再変調信号列生成手段から得られる再変調信号列と前記主信号用適応等化手段に入力される主信号の受信シンボル列との間で、前記伝送路応答をフィルタ係数に適用して帰還型等化処理を施すことにより受信信号レプリカを生成する伝送路歪推定手段と、前記伝送路歪推定手段から得られる受信信号レプリカと該再変調信号列とを差分ベクトル演算を行って得られる差分ベクトル列を、前記主信号用適応等化手段に入力される主信号の受信シンボル列から更に差分ベクトル演算を行うことにより、伝送路歪成分を低減させた伝送路歪除去信号列として発生する減算手段とを備え、前記誤り訂正復号手段は、前記伝送路歪除去信号列に対して誤り訂正を施して復号信号を生成することを特徴とする。
また、本発明による復号器において、前記主信号用適応等化手段、前記伝送路応答推定手段、及び前記伝送路歪推定手段を構成する等化器は、同一のフィルタ長を有することを特徴とする。
また、本発明による復号器において、前記主信号用適応等化手段における主信号の適応等化の設定に必要なフィルタ係数を決定するための初期動作モードと、前記伝送路歪推定手段における伝送路歪の補償を行う伝送路歪除去モードと、前記主信号用適応等化手段におけるフィルタ係数を決定後に、前記伝送路歪除去モードとは別に、主信号を伝送する定常動作モードとを切替るための切替手段を備えることを特徴とする。
また、本発明による復号器において、前記伝送路応答推定手段は、前記初期動作モードにて所定の受信C/N相当値以上にて前記伝送路応答を取得することを特徴とする。
また、本発明による復号器において、前記軟判定再変調信号列生成手段が、前記伝送路歪除去信号列に対して誤り訂正復号を実施した結果から得られた尤度情報を用いて再度の再変調信号列を生成し、前記伝送路歪推定手段が、前記再度の再変調信号列と前記主信号用適応等化手段に入力される主信号の受信シンボル列との間で、前記伝送路応答をフィルタ係数に適用して帰還型等化処理を施すことにより再度の受信信号レプリカを生成し、前記減算手段が、伝送路歪成分を低減させた再度の伝送路歪除去信号列を生成するように、指定回数繰り返すように動作することを特徴とする。
更に、本発明は、本発明の復号器を備える受信装置としても特徴付けられる。
本発明によれば、複数の振幅レベルを有する直交変調方式に対する伝送特性改善を図ることが可能である。
以下、本発明による一実施例の受信装置について説明する。尚、各図面において同様な構成要素には同一の参照番号を用いている。
図1は、本発明による一実施例の受信装置におけるLDPC復号部50の概略図である。本発明による一実施例の受信装置200は、図13に示す従来からの受信装置200におけるLDPC復号部250を、図1に示すLDPC復号部50に置き換えることで達成することができる。尚、図1に示すシンボル列は全て複素信号(I,Q)を想定している。また、本発明による一実施例の受信装置200は、図11に示したように、送信装置100から衛星中継器300を経て得られる衛星伝送路の信号を受信する受信装置200を想定しており、送信装置100から伝送路を介して受信装置200へ経る過程において発生する伝送路歪みを抑圧することを想定する。従って、以下の説明では、32APSKを例に、図1に示すLDPC復号部50について詳細に説明する。
LDPC復号部50は、受信C/N判定部51と、伝送路応答推定部52と、軟判定再変調信号列生成部53と、主信号用適応等化器54と、切替部55と、伝送路歪推定部56と、減算器57,58と、LDPC復号器251と、パイロット信号抽出部252と、パイロット信号平均化処理部253と、尤度テーブル生成部254と、所定のメモリ(図示せず)内に格納される尤度テーブル255とを備える。
ここで、LDPC復号器251、パイロット信号抽出部252、パイロット信号平均化処理部253、尤度テーブル生成部254、及び尤度テーブル255は、前述の図14に示す動作と同様であり、本実施例に係るLDPC復号部50の動作においても、従来からの技術と同様に、パイロット信号についてシンボルごとに平均化を行い、伝送路における非線形歪の影響を受けた後の信号点配置を取得し、得られた信号点配置をもとに尤度テーブル255を生成又は更新するように動作する。
主信号用適応等化器54、伝送路応答推定部52、及び伝送路歪推定部56は、全て同一フィルタ長の等化器で構成し、これらの全ての等化器の等化器パラメータとしてステップサイズ:2E−4、フィードフォワードフィルタタップ長:10、フィードバックフィルタタップ長:14とした図17に示した判定帰還型ブラインド等化器を適用することができるが、各動作についての詳細は後述する。
切替部55は、高受信C/N時(例えば、20dB以上)の適応等化動作モード、低受信C/N時(例えば、14.8dB以下)の適応等化動作モード、及び定常動作モードの3種類で切り替え動作を自動的に又は指定時に行う(受信装置200のユーザによる設定可能)。
即ち、高受信C/N時の適応等化動作モードは、切替部55における主信号用適応等化器54及びLDPC復号器251間を接続して主信号用適応等化器54における主信号の適応等化の設定に必要なフィルタ係数(等化器パラメータ)を決定するための初期動作モードである。高受信C/N時であるか否かは、受信C/N判定部51によって判別できる。
また、低受信C/N時の適応等化動作モードは、切替部55における減算器58及びLDPC復号器251間を接続して伝送路歪推定部56における伝送路歪の補償を行う伝送路歪除去モードである。低受信C/N時であるか否かは、受信C/N判定部51によって判別できる。
また、定常動作モードは、主信号用適応等化器54におけるフィルタ係数の決定後に、伝送路歪除去モードとは別に、主信号を伝送する動作モードである。
本実施例に係るLDPC復号部50は、これらの動作モードの切り替えを行って高精度の適応等化を実現することができ、以下、具体的に説明する。
受信C/N判定部51は、受信したTMCC信号からのスロット情報に基づいて、直交検波した複素信号(I,Q)から符号長先頭位置に該当するシンボル位置を特定し、主信号の適応等化のための受信C/N相当値を判別し、高受信C/N時(例えば、20dB以上)における主信号の1符号長に相当する受信シンボル列Rhigh_CN(t)の抽出を行い、抽出した受信シンボル列Rhigh_CN(t)を伝送路応答推定部52に送出する。
尚、LDPC復号器251は、受信C/N判定部51による受信シンボル列Rhigh_CN(t)の抽出に同期して、受信シンボル列Rhigh_CN(t)について主信号用適応等化器54を介してLDPC復号を行い、復号結果である1符号長相当数の対数尤度比(Log Likelihood Ratio:LLR)を軟判定再変調信号列生成部53に送出する。
軟判定再変調信号列生成部53は、図4に示すLLRインターリーバ531によってLDPC復号後のLLRをインターリーブした後、軟判再変調信号列計算部532において式(2)〜式(4)を用いて高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)を求め、算出した高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)を伝送路応答推定部52に送出する。受信シンボル列Rhigh_CN(t)についての復号結果である1符号長相当数の対数尤度比(LLR)は、受信したTMCC信号からのスロット情報に基づいて動作する受信C/N判定部51と同期して取得可能である。
伝送路応答推定部52は、主信号用適応等化器54におけるフィルタ係数を更新するために、受信C/N判定部51から取得した高受信C/N時の受信シンボル列Rhigh_CN(t)と、軟判定再変調信号列生成部53から取得した高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)とを用いて適応等化処理を行い、伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)を生成し、高受信C/N時の伝送路応答h(n)については伝送路歪推定部56に送出し、高受信C/N時の伝送路逆応答h−1(n)については主信号用適応等化器54に送出する。伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)はフィルタ係数のフィルタタップ番号nのフィルタタップ係数に相当するが、伝送路応答推定部52の詳細は後述する。
主信号用適応等化器54は、伝送路応答推定部52から取得した高受信C/N時の伝送路逆応答h−1(n)をフィルタ係数(等化器パラメータ)として適用する。
伝送路歪推定部56は、伝送路応答推定部52から取得した高受信C/N時の伝送路応答h(n)をフィルタ係数(等化器パラメータ)として適用する。
このように、主信号用適応等化器54と伝送路応答推定部52で使用する等化器が同一フィルタ長であるため、伝送路応答推定部52で取得した高受信C/N時の伝送路逆応答h−1(n)をそのまま主信号用適応等化器54のフィルタ係数の同一タップに適用することができる。これは、主信号用適応等化器54のフィルタ係数が高受信C/N時に取得した伝送路逆応答h−1(n)に入れ替えるだけで更新できるため不要な演算誤差を生じることなく高精度化させることができ、主信号用適応等化器54の等化性能が向上することを意味する。
上記の主信号用適応等化器54で、高天候時などの高受信C/N時における等化性能は著しく改善するが、降雨減衰等により受信C/Nが低下すると、ビット誤りが発生する状況下となり、更なる等化性能の改善が望まれる。このために、本実施例に係るLDPC復号部50は、高受信C/N時における適応等化後に、低受信C/N時の適応等化を行うための伝送路歪推定部56を有している。
伝送路歪推定部56における更なる等化処理に際し、受信C/N判定部51は、受信したTMCC信号からのスロット情報に基づいて、直交検波した複素信号(I,Q)から符号長先頭位置に該当するシンボル位置を特定し、低受信C/N時(例えば、14.8dB以下)の1符号長に相当する受信シンボル列Rlow_CN(t)の抽出を行い、この受信C/N判定部51による受信シンボル列Rlow_CN(t)の抽出に同期して、伝送路歪推定部56は、低受信C/N時の受信シンボル列Rlow_CN(t)を取得し、且つLDPC復号器251は、低受信C/N時における適応等化後の受信シンボル列Rlow_CN(t)について、主信号用適応等化器54及び切替部55を介してLDPC復号を行い、復号結果である1符号長相当数の対数尤度比(LLR)を軟判定再変調信号列生成部53に送出する。
尚、受信C/N判定部51によって低受信C/N時を自動判定して動作する例を説明するが、受信装置200のユーザが低受信C/N時の動作モードを指定して以下の動作を行うように構成することもできる。また、伝送路歪推定部56における等化回数も、事前に繰り返し等化回数の上限値を指定しておき、指定回数の繰り返し等化処理を実行させることができる。
軟判定再変調信号列生成部53は、高受信C/N時の場合と同様に、式(2)〜式(4)を用いて低受信C/N時の再変調信号列Tlow_CN(t)を求め、算出した低受信C/N時の再変調信号列Tlow_CN(t)を伝送路歪推定部56及び減算器57に送出する。低受信C/N時の受信シンボル列Tlow_CN(t)についての復号結果である1符号長相当数の対数尤度比(LLR)は、受信したTMCC信号からのスロット情報に基づいて動作する受信C/N判定部51と同期して取得可能である。
伝送路歪推定部56は、低受信C/N時の再変調信号列Tlow_CN(t)の取得後に、切替部55における低受信C/N時の適応等化動作モードへの切り替えを指示する。具体的には、切替部55は、高受信C/N時の動作モード及び定常動作モードの接続状態である主信号用適応等化器54及びLDPC復号器251間の接続状態を、低受信C/N時の動作モードの接続状態である減算器58及びLDPC復号器251間の接続状態に切り替える。
続いて、伝送路歪推定部56は、低受信C/N時の受信シンボル列Rlow_CN(t)と再変調信号列Tlow_CN(t)を用いて適応等化処理を行い、受信信号レプリカR’low_CN(t)を生成し、減算器57に送出する。
減算器57は、伝送路歪推定部56から取得した低受信C/N時の受信信号レプリカR’low_CN(t)と、軟判定再変調信号列生成部53から取得した低受信C/N時の再変調信号列Tlow_CN(t)との差分ベクトル演算を行って伝送路歪差分信号I(t)を生成し、減算器58に送出する。
減算器58は、減算器57から取得した伝送路歪差分信号I(t)と、受信シンボル列Rlow_CN(t)との差分ベクトル演算を行って伝送路歪除去信号列RI(t)を生成して、切替部55を介してLDPC復号器251に送出する。
LDPC復号器251は、減算器58から得られる低受信C/N時の伝送路歪除去信号列RI(t)について2回目のLDPC復号を実施し、LDPC復号結果がエラーフリーとなった場合、低受信C/N時の波形等化処理を終了させ、LDPC復号結果がエラーフリーとならなかった場合、予め指定される繰り返し等化回数の上限値に至る間に低受信C/N時の繰り返し波形等化処理を行い、エラーフリーとなるか、又は等化回数の上限値に達した時点で、入力される主信号の複素信号について伝送路歪推定部56を介して伝送路歪を除去した信号に対してLDPC復号を施して復号信号を生成し、送出する。
尚、受信C/N判定部51は、低受信C/N時(14.8dB以下)でなくなった時点を判別して、切替部55を定常動作モード(又は高受信C/N時の動作モード)の接続状態へと切り替えるべく指示するように構成することができる。
これにより、本実施例に係るLDPC復号部50は、高受信C/N時(例えば、20dB以上)の適応等化動作モード、低受信C/N時(例えば、14.8dB以下)の適応等化動作モード、及び定常動作モードのいずれにおいても最適な適応等化を実現することができ、本実施例に係るLDPC復号部50を備える受信装置200は、優れた受信性能を有することができるようになる。
以下、LDPC復号部50の更なる詳細な動作について、図1〜図6を参照して更に詳細に説明する。図2は、本発明による一実施例の受信装置におけるLDPC復号部の主信号用適応等化器を示すブロック図である。図3は、本発明による一実施例の受信装置におけるLDPC復号部の伝送路応答推定部を示すブロック図である。図4は、本発明による一実施例の受信装置におけるLDPC復号部の軟判定再変調信号列生成部を示すブロック図である。図5は、本発明による一実施例の受信装置におけるLDPC復号部の伝送路歪推定部を示すブロック図である。図6は、本発明による一実施例の受信装置におけるLDPC復号部の動作フロー図である。
図6を参照するに、まずステップS1において、高受信C/N時における伝送路応答の取得を目的とし、受信C/N判定部51において高受信C/N時の1符号長に相当する受信シンボル列Rhigh_CN(t)の抽出を行い、伝送路応答推定部52に送出する。一例として、45cm径パラボラアンテナ使用時の12GHz帯衛星放送波の受信C/Nは20dB程度であり、この状態において伝送路応答推定部52により伝送路応答を取得することにより、雑音の影響の少ない信号を用いることができ、より精度の高いフィルタ係数の計算が期待できる。また、受信C/Nは変調誤差比(MER)等を利用して、常時、受信装置200側において把握することが可能である。受信C/N判定部51はTMCC信号からスロット情報を取得することで、符号長先頭位置に該当するシンボル位置を把握可能である。
つまり、受信C/N判定部51は、予め指定する所定の受信C/N値以上の品質(高受信C/N)を有する1符号長に相当する受信信号列Rhigh_CN(t)を伝送路応答推定部52に送出する。32APSKの場合、符号長44880ビットに相当する受信信号列のシンボル長は8976シンボルに相当する。
続いてステップS2において、LDPC復号器251は、高受信C/N時の受信信号列Rhigh_CN(t)を復号し、復号結果である1符号長相当数の対数尤度比(LLR)を軟判定再変調信号列生成部53に送出する。軟判定再変調信号列生成部53では、LLRインターリーバ531によってLDPC復号後のLLRをインターリーブした後、軟判再変調信号列計算部532において式(2)〜式(4)を用いて高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)を求め、求めた再変調信号列Thigh_CN(t)を伝送路応答推定部52に送出する。尚、LDPC復号後のLLRは送信側でインターリーブされた信号列に対してデインターリーブ処理したLLRを基準としているため、軟判定再変調信号列生成部53において再変調信号系列を生成するには、送信側と同じ方法のインターリーバでインターリーブする必要がある。
続いてステップS3において、伝送路応答推定部52は、高受信C/N時の受信シンボル列Rhigh_CN(t)及び高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)を用いて適応等化処理を行い、伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)を取得する。この際、適応等化処理を行うシンボル数は3000シンボル以上が望ましい。一例として、32APSK、OBO=3.4dB、受信C/N閾値=20dBにおいて8976シンボル適応等化処理を実施後に取得した伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)を図7に示す。上記処理によって高受信C/N時における高精度な伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)が取得可能となる。
伝送路応答推定部52は、前述した図17の等化器の構成と同様であるが、高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)を目標にして高受信C/N時の受信シンボル列Rhigh_CN(t)の波形等化を行うことにより伝送路逆応答h−1(n)を生成する機能部と、高受信C/N時の受信シンボル列Rhigh_CN(t)を目標にして高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)の波形等化を行うことにより伝送路応答h(n)を生成する機能部とを有する。
例えば、図3を参照して、伝送路応答推定部52について詳細に説明するに、伝送路応答推定部52は、伝送路逆応答h−1(n)を生成するためのフィードフォワードフィルタ521、トレーニング等化器出力部522、トレーニング信号列発生部523、フォードバックフィルタ524、加算部525、及びフィルタ係数更新部526を有するとともに、伝送路逆応答h(n)を生成するためのフィードフォワードフィルタ1521、トレーニング等化器出力部1522、トレーニング信号列発生部1523、フォードバックフィルタ1524、加算部1525、及びフィルタ係数更新部1526を有する。
フィードフォワードフィルタ521,1521の機能は、図17に示すフィードフォワードフィルタ(FF)2561に対応する。フォードバックフィルタ524,1524の機能は、図17に示すフィードバックフィルタ(FB)2564に対応する。トレーニング等化器出力部522,1522の機能は、図17に示す等化器出力部2562に対応する。フィルタ係数更新部526,1526の機能は、図17に示すフィルタ係数更新部2566に対応する。加算部525,1525の機能は、図17に示す加算部2565に対応する。トレーニング信号列発生部523(又は1523)は、それぞれ入力される再変調信号列Thigh_CN(t)又は受信シンボル列Rhigh_CN(t)から適応等化のトレーニング用の信号パターンを生成してフォードバックフィルタ524(又は1524)に供給する。これにより、トレーニング等化器出力部522(又は1522)から得られる出力とトレーニング信号列発生部523(又は1523)から得られる出力から波形等化を行うことができ、フィルタ係数更新部526,1526は、フィードフォワードフィルタ521,1521及びフォードバックフィルタ524,1524の波形等化時のフィルタ係数を更新する。
これにより、伝送路応答推定部52は、高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)を目標にして高受信C/N時の受信シンボル列Rhigh_CN(t)の波形等化を行うことにより伝送路逆応答h−1(n)を生成するとともに、高受信C/N時の受信シンボル列Rhigh_CN(t)を目標にして高受信C/N時の再変調信号列Thigh_CN(t)の波形等化を行うことにより伝送路応答h(n)を生成することができる。
続いて、ステップS4において、ステップS3で取得した伝送路逆応答h−1(n)を主信号用適応等化器54のフィルタ係数に適用するとともに、伝送路応答h(n)を伝送路歪推定部56のフィルタ係数に適用する。主信号用適応等化器54と伝送路応答推定部52で使用する適当化器が同一フィルタ長であるため、伝送路応答推定部52で取得した伝送路逆応答h−1(n)が主信号用適応等化器54のフィルタ係数の同一タップに適用される。以上の処理によって、主信号用適応等化器54のフィルタ係数を高受信C/N時に取得した伝送路逆応答h−1(n)に入れ替えることで高精度化させることができ、主信号用適応等化器54の等化性能が向上する。
具体的には、図2に示すように、主信号用適応等化器54は、前述した図17の等化器の構成と同様であり、フィードフォワードフィルタ541はフィードフォワードフィルタ(FF)2561に対応し、等化器出力部542は等化器出力部2562に対応し、判定部543は判定部2563に対応し、フィードバックフィルタ544はフィードバックフィルタ(FB)2564に対応し、加算部545は加算部2565に対応し、フィルタ係数更新部546はフィルタ係数更新部2566に対応している。主信号用適応等化器54のフィルタ係数は、フィルタ係数更新部546によって高受信C/N時に取得した伝送路逆応答h−1(n)で更新することができる。
以上ステップS1〜ステップS4が高受信C/N時に実施する処理である。
以下、ステップS5以降では降雨減衰等により受信C/Nが低下し、ビット誤りが発生する状況下(低受信C/N)において行う処理について説明する。
まずステップS5では、LDPC復号器251は、低受信C/N時における適応等化後の受信シンボル列Rlow_CN(t)を、主信号用適応等化器54及び切替部55を介してLDPC復号を行い(通常のLDPC復号処理に相当)、復号結果である1符号長相当数の対数尤度比(LLR)を軟判定再変調信号列生成部53に送出する。軟判定再変調信号列生成部53では、ステップS2と同様の手法で低受信C/N時の再変調信号列Tlow_CN(t)を求め、低受信C/N時の再変調信号列Tlow_CN(t)を伝送路歪推定部56に送出する。ここで、事前に繰り返し等化回数上限値を指定しておき、ステップS5の処理を実施後に繰り返し等化回数を1インクリメントする。
続いてステップS6において、伝送路歪推定部56は、受信シンボル列Rlow_CN(t)と再変調信号列Tlow_CN(t)を用いて適応等化処理を行い、受信信号レプリカR’low_CN(t)を生成し、減算器57に送出する。伝送路歪推定部56はステップS3においてフィルタ係数が伝送路応答h(n)に更新されているため、低受信C/N時において1回目のLDPC復号後のビット誤り率が大きく、再変調信号列Tlow_CN(t)の精度が悪くても、事前に求めた伝送路応答h(n)が高精度であるため、受信信号レプリカR’low_CN(t)の精度を高めることが可能である。
例えば、図5を参照して、伝送路歪推定部56について詳細に説明するに、伝送路歪推定部56は、受信信号レプリカR’low_CN(t)を生成するために、フィードフォワードフィルタ561、等化器出力部562、フォードバックフィルタ563、トレーニング信号列発生部564、加算部565、及びフィルタ係数更新部566を有する。
フィードフォワードフィルタ561の機能は、図17に示すフィードフォワードフィルタ(FF)2561に対応する。フォードバックフィルタ563の機能は、図17に示すフィードバックフィルタ(FB)2564に対応する。等化器出力部562の機能は、図17に示す等化器出力部2562に対応する。フィルタ係数更新部566の機能は、図17に示すフィルタ係数更新部2566に対応する。加算部565の機能は、図17に示す加算部2565に対応する。フィルタ係数更新部566にて伝送路応答推定部52から取得した高受信C/N時の伝送路応答h(n)をフィードフォワードフィルタ561及びフォードバックフィルタ563に適用した状態で、トレーニング信号列発生部564は、入力される低受信C/N時の受信シンボル列Rlow_CN(t)から適応等化のトレーニング用の信号パターンを生成してフォードバックフィルタ563に供給する。これにより、伝送路歪推定部56は、フィルタ係数固定の帰還型等化器として機能し、低受信C/N時の受信シンボル列Rlow_CN(t)を目標にして再変調信号列Tlow_CN(t)の波形等化を行うことで受信信号レプリカR’low_CN(t)を生成することができる。
図8(a)に32APSK、符号化率4/5、OBO=3.4dB、及び受信C/N=14.8dBにおいて求めた再変調信号列Tlow_CN(t)のコンスタレーションを例示しており、図8(b)に再変調信号列Tlow_CN(t)に対してステップS6の処理を行って求めた受信信号レプリカR’low_CN(t)のコンスタレーションを例示する。尚、伝送路応答h(n)は図7(a)及び図7(b)に示される伝送路応答h(n)の値を使用した。図8(a)に示すような低受信C/N時、つまりビット誤り率が高い状況においても、図8(b)に示すように高精度に伝送路応答を反映した受信信号レプリカR’low_CN(t)を取得できていることが分かる。
つまり、伝送路歪推定部56では、入力信号として低C/N時において誤り訂正復号した結果から得られた再変調信号列Tlow_CN(t)を用い、等化目標信号として再変調信号列に対応した受信信号列Rlow_CN(t)を用いる。低C/N時に取得した誤りを含む再変調信号列Tlow_CN(t)を、高受信C/N時に取得した伝送路応答h(n)を利用して受信信号列Rlow_CN(t)に近づけるよう適応動作させることで、高精度に伝送路歪成分を低減させた受信信号レプリカR’low_CN(t)を取得することが可能である。ここで、伝送路歪成分I(t)は、次式で得られる。
I(t)= R’low_CN(t)− Tlow_CN(t) (5)
また、伝送路歪除去信号列RI(t)は、次式で得られる。
RI(t)= Rlow_CN(t)− I(t) (6)
これにより、LDPC復号器251は、低受信C/N時の主信号としての伝送路歪除去信号列RI(t)を復号することが可能となる。再び伝送路歪除去信号列RI(t)をLDPC復号することよって、低受信C/N時において1回目のLDPC復号後のビット誤り率が大きく、再変調信号列Tlow_CN(t)の精度が悪くても、事前に求めた伝送路応答h(n)が高精度であるため受信信号レプリカR’low_CN(t)の精度が高まり、伝送路除去信号に対する2回目のLDPC復号においてビット誤り率特性の改善が期待できる。
伝送路歪推定部56の出力として、伝送路歪除去信号列RI(t)が再度LDPC復号されるため、伝送路歪推定部56はLDPC復号器251と直列に接続させる構成が望ましい。よって、本構成においては、主信号用適応等化器54、伝送路応答推定部52、及び伝送路歪推定部56にて、フィルタ長を同一とする等化器を用いるのが好適である。
続いて、ステップS7において、受信信号レプリカR’low_CN(t)の値から、減算器57及び減算器58を介して、式(5)〜式(6)により1符号長に相当する伝送路歪除去信号列RI(t)を生成することができる。図9(a)に32APSK 符号化率4/5 OBO=3.4dB,受信C/N=14.8dBにおいて求めた伝送路歪除去信号列RI(t)のコンスタレーションを示す。また、比較として図9(b)に受信信号列Rlow_CN(t)のコンスタレーションも併せて示している。図9から、ステップS5〜ステップS7を行うことで、信号品質を改善させることができることが分かる。
続いてステップS8において、LDPC復号器251の入力系統を伝送路歪推定部に切替え、伝送路歪除去信号列RI(t)をLDPC復号器251に入力し、2回目のLDPC復号を実施する。ここでLDPC復号結果がエラーフリーとなった場合、低受信C/N時の波形等化処理が終了となる。LDPC復号結果がエラーフリーとならなかった場合、ステップS5に戻る。また、ステップS5において繰り返し等化回数が繰り返し等化回数上限値に達した場合、ステップS6に進まないで、等化回数上限値に達した時点のLDPC復号結果を復号結果とする。
図10に、図6のフローに従って求めた32APSK、符号化率4/5、C/N対ビット誤り率特性のシミュレーション結果と、従来技術のブラインド等化器出力(図17)のシミュレーション結果を示す。ここで、シミュレーションに用いた伝送路の系統としては、図11に示すような衛星伝送路を想定した。つまり、衛星伝送路としては、一般的な衛星中継器を構成するIMUXフィルタ、TWT、OMUXフィルタを想定し、シミュレーションにより系統を再現した。TWTの動作点は3.4dBについて計算を行った。繰り返し等化回数上限値は2回に設定した。図10から、従来技術のブラインド等化器出力(図17)による伝送性能よりもさらに伝送性能が向上していることが分かる。また、繰り返し等化回数を増やすことで、BERが高い状況においてもさらに伝送性能が向上していることが分かる。本実施例のLDPC復号部50を備える受信装置200は、32APSKに限らず、複数の振幅レベルを有する多様な変調方式に対する波形等化後の伝送特性改善を図ることが可能である。
上記のように、本実施例では、主信号用適応等化器54のフィルタ係数の性能向上を行うために、トレーニング信号を利用し、且つトレーニング信号の利用においてデータ伝送効率の低下を招かないようにするために、受信C/Nが高く誤り訂正復号した結果がエラーフリーになる状況下において、復号出力から軟判定値に基づく再変調信号列Thigh_CN(t)を生成し、伝送路応答推定部52において、再変調信号列Thigh_CN(t)をトレーニング信号として用いるようにした。衛星伝送路の一例として、晴天日においては白色雑音の影響の少ない高受信C/Nを得ることが可能である。
一方、トレーニング信号Thigh_CN(t)を取得する間、常に信号受信を継続する必要があるため、再変調信号列Thigh_CN(t)をトレーニング信号として利用してフィルタ係数を取得する伝送路応答推定部52は、主信号受信用適応等化器54と並列的に動作する必要がある。よって、本発明による実施例のLDPC復号部50では、受信信号に対して常時等化を行うための主信号用適応等化器54と、伝送路応答取得のための、主信号用適応等化器54と同一フィルタ長を有する伝送路応答推定部52を並列接続するようにした。これらの二つの適応等化器のフィルタ長を同じ長さにすることで、両者のフィルタ係数の更新が容易になる。
また、伝送路応答推定部52は、主信号用適応等化器54の等化性能の更なる改善のために利用する伝送路逆応答h−1(n)と伝送路歪成分取得のために利用する伝送路応答h(n)の双方を取得するようにした。ここでnは適応等化器におけるフィルタタップ番号を示す。また伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)はフィルタタップ番号nのフィルタタップ係数に相当する。伝送路応答h(n)は送信側から受信側を見た伝送路応答であり、伝送路逆応答h−1(n)は受信側から送信側を見た伝送路応答である。そこで、本実施例では、伝送路応答推定部52にて伝送路応答h(n)及び伝送路逆応答h−1(n)の双方を取得するために、伝送路応答h(n)の取得においては、入力信号として高受信C/N時に受信した符号長44880ビットのLDPC符号の復号結果から得られた再変調信号列Thigh_CN(t)を用い、等化目標信号としては、再変調信号列Thigh_CN(t)に対応した受信信号列Rhigh_CN(t)を用いるようにした。
つまり、再変調信号列Thigh_CN(t)は送信信号レプリカに相当するため、伝送路応答推定部52において、送信信号レプリカを受信信号に近づけるよう適応動作させることで、伝送路応答h(n)の取得が可能となる。逆に、伝送路逆応答h−1(n)の取得においては、伝送路応答推定部52において、入力信号として受信信号列Rhigh_CN(t)を用いて、等化目標信号としては再変調信号列Thigh_CN(t)を用いるようにした。つまり、受信信号を送信信号レプリカに近づけるよう適応動作させることで、伝送路逆応答h−1(n)の取得が可能となる。
更に、本実施例では、低受信C/N時における受信性能改善を目的とした尤度情報から得られる再送信信号列Tlow_CN(t)から受信信号列Rlow_CN(t)に対する伝送路歪成分I(t)を推定するために、伝送路応答推定部52と同一タップ長の伝送路歪推定部56を用いるようにした。伝送路歪推定部56の主たる目的は、受信信号列Rlow_CN(t)に対する伝送路歪成分I(t)を取得することである。そこで、伝送路歪推定部56のフィルタ係数として、事前に高受信C/N時に取得した伝送路応答h(n)を適用し、伝送路応答推定部52と伝送路歪推定部56のフィルタ長を同じ長さにすることで、両者のフィルタ係数の更新が容易になる。
上記の実施例では受信装置として説明したが、本発明に係るLDPC復号部50を、単一の復号器として構成することもできる。即ち、本発明に係る復号器は、デジタル伝送方式の誤り訂正符号化された主信号を適応等化して誤り訂正復号を施す復号器として構成される。本発明に係る復号器は、主信号の適応等化のための受信C/N相当値を判別し、主信号の1符号長に相当する受信シンボル列を抽出する受信C/N判定部51と、主信号の適応等化を行う主信号用適応等化器54と、主信号用適応等化器54によって適応等化された主信号の誤り訂正復号を施すLDPC復号器251と、LDPC復号器251によって1符号長相当数の対数尤度比から再変調信号列を生成する軟判定再変調信号列生成部53と、主信号用適応等化器54におけるフィルタ係数を更新するために、前記受信シンボル列と前記再変調信号列とを用いて適応等化処理を行い、該フィルタ係数の個々のフィルタタップ係数に相当する伝送路応答及び、該伝送路応答の逆応答を表す伝送路逆応答を生成し、該伝送路逆応答によって主信号用適応等化器54のフィルタ係数を更新する伝送路応答推定部52と、主信号用適応等化器54におけるフィルタ係数の更新後に主信号における伝送路歪成分を除去するために、主信号用適応等化器54におけるフィルタ係数の更新後に軟判定再変調信号列生成部53から得られる再変調信号列と主信号用適応等化器54に入力される主信号の受信シンボル列との間で、伝送路応答をフィルタ係数に適用して帰還型等化処理を施すことにより受信信号レプリカを生成する伝送路歪推定部56と、伝送路歪推定部56から得られる受信信号レプリカと該再変調信号列とを差分ベクトル演算を行って得られる差分ベクトル列を、主信号用適応等化器54に入力される主信号の受信シンボル列から更に差分ベクトル演算を行うことにより差分ベクトル列を生成し、該差分ベクトル列を伝送路歪成分を低減させた伝送路歪除去信号列として発生する減算器57,58とを備える。LDPC復号器251は、この伝送路歪除去信号列に対して誤り訂正を施して復号信号を生成することができる。
また、上述の実施例では、特定の衛星中継器、変調方式、及びLDPC符号を適用した場合について説明したが、本発明は、地上中継器や他の変調方式、並びに尤度計算を要する任意の誤り訂正符号に適用することができる。また、高度BS変調信号方式に限定されることなく、本発明を適用できる任意のデジタル伝送に応用することができる。従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。