以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[本発明に係る溶出試験方法について]
本発明に係る溶出試験方法は、製鋼スラグ等の無機物を路盤材、細・粗骨材、地盤改良材、海洋・港湾向け材料のような土木建築用資材として有効利用する際に、周辺環境に対しての安全性を評価する際に行う、無機物からの可溶出成分(重金属等)の溶出量の測定方法に関するものである。
具体的には、本発明に係る溶出試験方法は、水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法であって、粉砕方法および溶出方法を下記の方法に特定したものである。
本発明に係る溶出試験方法における粉砕方法では、試料となる固体状の無機物を、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を用いて粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕する。
また、本発明に係る溶出試験方法における溶出方法では、上記のようにして粉砕した後の無機物を常温から90℃以下の浸漬水中に浸漬させることで、無機物中の可溶出成分を溶出させる。
さらに、本発明に係る溶出試験方法では、以上のようにして浸漬水中に溶出した可溶出成分のうち、鉛、六価クロム、カドミウム、ヒ素、セレン、フッ素及びホウ素からなる群より選択された少なくともいずれか1種以上の成分の溶出量を測定する。
ここで、本発明における可溶出成分としては、例えば、土壌汚染対策法における第二種特定有害物質(重金属等)として規定される物質、具体的には、カドミウム、六価クロム、シアン、水銀、アルキル水銀、セレン、鉛、ヒ素、フッ素、ホウ素等が挙げられる。
また、本発明に係る溶出試験方法や公定法による溶出試験方法における「溶出」とは、溶出量の測定対象の試料である無機物(固体)と、試料を浸漬させる水である浸漬水(液体)とが接触し、固体中の可溶出成分が液体中にイオンの形で溶け出すことを指す。また、「溶出量」とは、浸漬水中に溶出した可溶出成分(Pb2+等の無機物イオン)の浸漬水中における濃度[mg/l]を指す。
この「溶出」の定義からわかるように、無機物からの可溶出成分の溶出は、無機物(固体)と浸漬水(液体)との接触により生じ、溶出量は、可溶出成分が浸漬水(液体)中へ溶け出した量、すなわち、溶解した量である。従って、無機物からの可溶出成分の溶出量に対しては、固体である無機物の比表面積、固体である無機物と液体である浸漬水との接触面積と、可溶出成分の浸漬水への溶解度(可溶出成分の物性、液体や固体の温度等)が大きく影響する。
また、本発明に係る溶出試験や公定法による溶出試験にて溶出量の測定を行う場合には、その溶出試験方法の精度(分析再現性)が極めて重要である。精度が高い、分析再現性に優れる溶出試験方法でなければ、溶出量の測定には使用できない。
そこで、本発明者は、精度が高い、分析再現性に優れる溶出試験方法を得るために、製鋼スラグと浸漬水との接触面積、および、可溶出成分の浸漬水への溶解度について検討した。その結果について以下に詳細に述べる。なお、以下の検討では、本発明における無機物として、主に製鋼スラグを使用して検討を行っているが、詳しくは後述するように、本発明における無機物は、製鋼スラグには限定されない。
(1.試料の粉砕方法の検討)
第1に、本発明者は、無機物と浸漬水との接触面積には、試料の粉砕方法が影響すると考え、この点について検討した。その結果、以下に示す理由により、本発明に係る溶出試験方法では、試料となる固体状の無機物を、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を用いて粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕することとした。
<粉砕方式の検討>
まず、本発明者は、同一の試料に対して、ジョークラッシャーを用いて粒度が2mm以下となるように粉砕した場合と、ベッセルミル粉砕機を用いて粒度が2mm以下となるように粉砕した場合について、粉砕後の粒度分布を調べた。粒度分布の測定は、JIS R1629のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法に準拠して行った。具体的には、粉砕後の試料(製鋼スラグ粒子)1.0gを100mlの分散媒(水)に加え、超音波振動を与えることで、試料を分散媒中に分散させて試料溶液を調製した。試料の分散は、超音波振動を与えることでなく、攪拌することによって行ってもよい。さらに、試料溶液を調製セイシン企業製のレーザ回折散乱式粒度分布測定器(SKレーザーマイクロンサイザーLMS−2000e)の循環経路に循環させ、分散媒に分散させた粒子にレーザ光を照射し、散乱パターンを検出した。この散乱パターンに基づき、散乱分布強度から粒度分布を求めた。
また、ジョークラッシャーで粉砕した例については、1回粉砕した後の試料の粒度分布と、2回粉砕した後の試料の粒度分布を測定した。また、ベッセルミルで粉砕した例については、ベッセルミル内で1秒、10秒、30秒、60秒、120秒、240秒間粉砕した後の粒度分布をそれぞれ測定した。
以上のようにして行った、ジョークラッシャーおよびベッセルミル粉砕機による粉砕後の試料の粒度分布の測定結果を図1に示す。図1において、ジョークラッシャーで粉砕したものについては、例えば「ジョークラッシャー1回目」等と粉砕回数も共に示している。また、ベッセルミル粉砕機で粉砕したものについては、例えば「ミル1sec」等と粉砕時間も共に示している。また、図1の横軸は、試料中に含まれる粒子の粒径範囲(粒径区間)/μmを示し、図1の縦軸は、試料中の全粒子に対して、横軸の粒径区間に含まれる粒子の重量比/%を示している。
図1に示すように、ジョークラッシャーでの粉砕後の試料の粒度分布曲線は、1回目の粉砕後と2回目の粉砕後とで同様の右下がりの傾向を示し、1回目の粉砕後の粒度分布曲線と2回目の粉砕後の粒度分布曲線との乖離は小さい。特に、粒径が約90μm未満の領域では、1回目の粉砕後と2回目の粉砕後とで、各粒径区間に含まれる粒子の重量比はほとんど変化しない。この結果から、ジョークラッシャーによる粉砕では、粉砕を複数回繰り返しても、それぞれの回数粉砕した後の粒度分布曲線の乖離は小さく、粉砕後の粒度分布の傾向に再現性があることが判明した。
また、ベッセルミルでの粉砕後の試料の粒度分布曲線は、特定の粒径範囲で重量比のピークを示し、かつ、このピークを示す粒径範囲は、粉砕時間が長くなるに従って低粒径側に偏移することが判明した。これは、ベッセルミルでの粉砕では、粉砕時間の経過とともに、試料の微粉化が進むことを意味していると考えられる。このように、粉砕により試料の微粉化が進むと、試料の比表面積を増大させ、可溶出成分の溶出を促進するため、溶出量が、粉砕時間が多いほど増大してしまう傾向にある。特に、6価クロムやフッ素のように水溶性の高い元素については、この傾向が顕著となる。従って、粉砕後の粒度分布の傾向の再現性が低く、溶出試験による溶出量の測定結果の再現性も低いものとなり、分析精度が低下してしまうものと考えられる。
以上のように、ジョークラッシャーで粉砕した場合とベッセルミル粉砕機で粉砕した場合とで、粒度分布の変化の仕方や再現性に違いが出た理由として、本発明者は、ジョークラッシャーとベッセルミル粉砕機の粉砕方式の違いによるものであると考えた。
ここで、ジョークラッシャーとベッセルミル粉砕機の粉砕方式の違いを検討する前提として、まず、ジョークラッシャーおよびベッセルミル粉砕機の構造について説明する。
ジョークラッシャーは、圧縮力で試料を破砕するもので、間隔を有して対向配置された対となる板の間に試料を入れて破砕するものである。対となる板は、試料との接触面に歯が設けられた歯板であっても良い。この対となる板の一方は固定され(「固定ジョー」とも呼ばれる。)、他方は上部を支点として吊り下げ、これが主軸の偏心運動に伴い固定ジョーに対して往復運動をする(「可動ジョー」とも呼ばれる。)構造となっている。このような構造を有するジョークラッシャーでは、対となる板による試料全体への圧縮応力により、まず最も強度が低くなっている部分、すなわち最も大きな亀裂を持つ部分が破砕されるが、試料が対となる板の間を通り抜ける時間中は引き続き圧縮力がかかり続けるため、小さな内部亀裂まで破壊できる。このジョークラッシャーは、対となる板の間隔(クリアランス)を調整することで破砕する試料の最大粒径を制御することができる。なお、ジョークラッシャーと類似した粉砕機構を備える破砕機には、コーンクラッシャーやダブルロールクラッシャー等がある。
ここで、図2を参照しながら、ジョークラッシャーの構造についてさらに詳細に説明する。図2は、一般的なジョークラッシャーの構造の一例を示す説明図である。なお、ジョークラッシャーには、ダブルトグルジョークラッシャーとシングルトグルジョークラッシャーとがあるが、図2には、ダブルトグルジョークラッシャーの例を示している。なお、以下の説明では、図2における左方向を前方向、右方向を後方向と定めることとする。
図2に示すように、ジョークラッシャー1では、固定ジョー11と可動ジョー12とが略V字型で対向するように配置されている。また、固定ジョー11と可動ジョー12とは、下端部で所定距離W離隔した構造となっており、この距離(クリアランス)Wを調整することにより、粉砕後の試料の粒径を制御することができる。試料(砕料)は、固定ジョー11の試料と接触する面に設けられた(固定ジョー用)歯板111と、可動ジョー12の試料と接触する面に設けられた(可動ジョー用)歯板121と、側面板(サイドプレート)13とによって形成される破砕室内に投入される。そして、破砕室内に投入された試料は、可動ジョー12の固定ジョー11に対する往復運動によって、2枚の歯板111、121に挟まれて、可動ジョー12側の方向から圧縮応力を受け、これにより破砕される。
可動ジョー12は、可動ジョー軸123を支点として吊り下げられており、偏心軸16を中心とした回転により上下方向に運動するピットマン15と、その前後両側に設けられたトグル14A、トグル14Bによって、固定ジョー11に対して往復運動することができる。トグル14Aは、可動ジョー12とピットマン15とを連結しており、トグル14Bは、ピットマン15とトグルブロック18とを連結している。また、偏心軸16を中心とした回転は、一定方向に回動可能なフライホイル17を回転させ、フライホイル17の中心とピットマン15とを連結するベアリング161が偏心軸16の周囲を偏心運動することにより行われる。
トグル14Bの後方側には、トグルブロック18を含むクリアランスWの調節機構が設けられている。この調節機構は、油圧ジャッキ20によりトグルブロック18を前後にスライドさせ、トグル14B、ピットマン15、トグル14Aを介して、可動ジョー12の前後方向の位置の調節を行う。位置の調節が完了したら、トグルブロック18は、固定用ボルト19等により位置が固定される。
また、可動ジョー12の下端には、テンションロッド21の一端が連結されており、トグルブロック18の下端に設けられたストッパーに接触するテンションスプリング22によって、常にトグル14A、14B側に引っ張られており、これにより、トグル14A、14Bの脱落が防止される。
なお、シングルトグルジョークラッシャーの場合は、ピットマン15とトグル14Aを有さず、偏心軸16と可動ジョー軸123とを兼用する構造となっている(トグルは、トグル14Bの1つのみ)。
以上説明したような構造を有するジョークラッシャーでは、試料粒子に対して一定方向から圧縮応力が加わるため、2枚の歯板のクリアランスを調整することで粒径2mm以上の粒子のみを選択的に破砕することが可能であり、粒径の小さな粒子は粉砕前の状態(粒径)が保持されやすい。従って、ジョークラッシャーでの粉砕後は、粒径が2mm以上の粒子は存在しなくなるものの、粒径が2mm未満の粒子は状態が保持されるため、粉砕前の粒度分布構成に近い粒度分布曲線が得られる。そのため、ジョークラッシャーでの粉砕には、粉砕操作前後の粒度分布変化が小さくなるという利点がある。
また、ベッセルミル粉砕機(例えば、ボールミル、ロッドミル、ダブルリングミル等)は、水平軸の周りに回転する円筒に、砕料と粉砕媒体(例えば、ボールミルの場合は、鋼球またはフリント球、ロッドミルの場合は棒鋼)を入れ、粉砕媒体の落下転落の際に砕料に及ぼす強い衝撃作用と磨砕作用によって粉砕する粉砕機である。
以上説明したような構造を有するベッセルミル粉砕機(ボールミル、ロッドミル、ダブルリングミル等)では、ボールやロッド等の衝撃作用と摩砕作用によって粉砕が繰り返される。このため、特定の粒径の粒子のみを選択的に粉砕することは不可能であり、粉砕が進むに従い、粒度分布が全体的に低粒径側にシフトすることとなる。また、ベッセルミル粉砕機では、閉塞された容器中で一定量の砕料の粉砕操作が繰り返されるため、粉砕時間や試料物性の影響によって粒度分布の構成が容易に変化する。そのため、ベッセルミル粉砕機を用いて作成した試料の粒度分布の再現性は低く、バラツキが大きい。
また、一般に、粉砕方式には、様々な区分の仕方があり、例えば、自由粉砕と閉塞粉砕という区別や、連続粉砕と回分粉砕という区別などがある。
自由粉砕とは、希望の大きさになった破製物を直ちに粉砕圏外に取り出す粉砕方式である。一方、閉塞粉砕とは、粉砕機内において供給した砕料を排出前に何回も粉砕を繰り返す粉砕方式である。
また、連続粉砕とは、粉砕機に砕料を連続的に供給し、粉砕された砕製物を流出させる粉砕方法であり、開回路粉砕と閉回路粉砕とがある。開回路粉砕は、砕料を粉砕機の一端から供給して、粉砕されたもの全部を他端から流出させ、再びその粉砕機には戻さない連続粉砕方式をいう。これに対して、閉回路粉砕は、連続供給式粉砕によって粉砕された砕製物を分級機にかけて、一定の粒径より大きい粒子を元に戻し、粉砕を繰り返す方式をいう。一方、回分粉砕とは、一定量の砕料を粉砕機中に充填し、排出口を閉じたままで希望する細かさになるまで粉砕操作を継続する粉砕方式である。
上記の粉砕方式によって、上述した構造を有するジョークラッシャーとベッセルミル粉砕機とを区分すると、ジョークラッシャーは、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機といえる。また、ジョークラッシャーと類似した粉砕機構を備える粉砕機としては、コーンクラッシャーやダブルロールクラッシャー等があり、これらも自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機といえる。一方、ベッセルミル粉砕機は、閉塞粉砕かつ回分粉砕を行う粉砕機といえる。
そこで、本発明者は、上記の実験の結果および粉砕方式の区分を考慮し、以下のような理由により、ジョークラッシャーのような自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機により試料となる無機物粒子を粉砕することにより、精度が高く、かつ、分析再現性に優れる溶出試験方法が得られるとの考えに至った。すなわち、分析精度が高く、かつ、分析再現性に優れる溶出試験方法を得るためには、溶出量のバラツキを小さくすることが必要である。そのためには、試料となる無機物(例えば、製鋼スラグ粒子)と浸漬水との接触面積の試料によるバラツキを低減させることが必要で、そのためには、粉砕前後の粒度分布の変化を小さくすればよい。上記の実験結果からわかるように、ジョークラッシャーにより粉砕すれば、粉砕前後の粒度分布の変化を小さくすることができる。また、上述したように、ジョークラッシャーは、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機といえる。従って、本発明者は、本発明に係る溶出試験方法の試料の粉砕には、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を用いることとした。
次に、本発明者は、上記検討結果を裏付けるために、実際に、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機(以下、「回分式粉砕機」ともいう。)の一例であるジョークラッシャーにより粉砕した試料と、回分粉砕を行う粉砕機の代表的な例であるベッセルミル粉砕機により粉砕した試料とで、それぞれ、浸漬水中に浸漬させた試料からの可溶出成分の溶出量のバラツキを評価するための実験を行った。
<粉砕方式による溶出量のバラツキの評価>
本試験では、CaOが45質量%である製鋼スラグを試料として使用し、この製鋼スラグ約200gを採取し、ジョークラッシャーとベッセルミルのそれぞれにより粉砕した後に全量2mmの篩目を通過させた。粉砕時間は、ジョークラッシャーの場合は、約1秒とし、ベッセルミルの場合は、1秒および240秒とした。以上のようにして、粉砕後に2mmの篩目(JIS Z 8801−1:2006記載のふるい網の公称目開き2mm)を通過させた(以下、「2mmアンダー」とも言う。)スラグを50g採取し、この製鋼スラグを500ml(試料重量の10倍の量)の水(pH5.8〜6.3の純水)に、例えばフラスコのようなガラス製容器等(以下、「溶出容器」とする。)中で浸漬させた。
次に、上記のように水中に浸漬させた試料を、公定法である振とう処理方法(JIS K0058−1で定められた方法)を用い、常温にて溶出した。所定時間溶出処理後、溶出容器中の内容物(可溶出成分が溶出した水(溶出水)および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を採取した。次いで、溶出水中の可溶出成分として、鉛、カドミウム、6価クロム、ヒ素、セレン、フッ素およびホウ素をJIS K0102に定められた方法を用いて分析し、分析結果から溶出量(mg/L)を求めた。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、ジョークラッシャーで粉砕した試料からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数(Cv値がジョークラッシャーで粉砕した試料からの溶出量のCv値の2倍であれば、Cv指数は2となる。)により測定値のバラツキを評価した。
図3〜図5に、ジョークラッシャーとベッセルミル粉砕機を用いて粉砕した場合の試料からの溶出量の分析結果の溶出分析精度として、Cv指数(測定値のバラツキ)を示す。なお、図3は、可溶出成分として6価クロムの例を示す図であり、図4は、フッ素の例を示す図であり、図5は、鉛の例を示す図である。なお、6価クロム、フッ素、鉛以外の可溶出成分についても分析を行っているが、6価クロム、フッ素、鉛とほぼ同様の傾向の結果が得られている。
図3〜図5に示すように、公定法(振とう処理方法)で常温水を用いた溶出処理では、いずれの成分においても、自由粉砕かつ連続粉砕が可能なジョークラッシャーで粉砕した試料の方が、回分粉砕を行うベッセルミル粉砕機で粉砕した試料よりも、溶出量の測定値のバラツキが小さく、分析精度が高い。
また、ベッセルミル粉砕機で粉砕した試料に関し、粉砕時間の違いによる比較をすると、粉砕時間が1秒の場合よりも、粉砕時間が240秒の場合の方が、概ねバラツキが小さい傾向にあった。ただし、ベッセルミル粉砕機による粉砕においては、粉砕時間が長くなると粒度分布曲線は粉砕前の曲線から大きく乖離し、微粒径側にシフトする(図1を参照)。また、粒子の粒径が小さくなるほど、粒子の比表面積が高くなるので、微粒分の増加により反応界面積は著しく増大する。その結果、可溶出成分の溶出挙動は加速促進され、試料からの溶出量が増大する方向に偏移する。従って、上記の結果では、粉砕時間が長くなると、測定値のバラツキを低減させる傾向にあるが、溶出量の測定値自体は、「試料本来が有すると考えられる溶出量の測定値のレベルから(溶出量が増大する方向に)乖離」し、溶出量の測定値の信頼性を損なうと考えられる。
また、同程度の粉砕時間(上記実験では1秒)で比べると、いずれの可溶出成分においても、ジョークラッシャーで粉砕した試料の方が、ベッセルミルで粉砕した試料よりも測定値のバラツキが小さい。従って、溶出量の測定値のバラツキの小さな試料を作成する時間に関しても、ジョークラッシャーの方がベッセルミルよりも短くて済む。
以上の結果からわかるように、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を用いて試料を粉砕することで、溶出量の測定値のバラツキが安定(分析精度が向上)し、高精度の溶出量の測定結果が得られるとともに、短時間で溶出量の測定値のバラツキの小さな試料を作成することが可能である。
以上のように、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を用いて試料を粉砕することで溶出量の測定値のバラツキが安定する理由として、本発明者は、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機と、それ以外の粉砕機(例えば、回分式粉砕機)では、破砕後の粒度分布に影響を与える因子の項目や、その項目の数が異なっていることによるものと考えている。すなわち、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機では、粉砕を行う機器における試料を挟む2つの部材間のクリアランスで破砕後の粒度分布が規定される。一方、例えば、回分式粉砕機では、ボールやロッド等との衝撃作用と磨砕作用で粉砕が繰り返される。このため、回分式粉砕機における粉砕後の粒度分布は、試料の物性(圧潰強度、硬度等)の影響を強く受ける。試料の物性は、例えば、採取する試料の組成や、試料部位(例えば、スラグ鍋内のスラグの付着位置)による試料の冷却速度差等により、違いが生ずる。また、回分式粉砕機による粉砕後の粒度分布は、粉砕機の回転体の径、回転数、ボール等の物性、イナーシャー変動(回転体の回転はすぐには停止しないため変動が生じる。)などの影響も受ける。さらに、回分式破砕機では、粉砕後の粒度分布に影響を与える因子の項目数が多く、加えて、当該因子の項目が制御しにくい項目であり、粉砕後の粒度分布のバラツキが、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機の場合よりも大きくなるため、試料の再現性が低くなる。このため、溶出試験の分析精度も低くなると考えられる。
(2.超音波処理による分析精度の向上の検討)
第2に、本発明者は、製鋼スラグと浸漬水との接触面積の大きさには、溶出処理時における試料粒子の崩壊状況も影響すると考えた。そこで、本発明者は、試料粒子と浸漬水との接触面積の大きさは、試料を浸漬水に浸漬させ、可溶出成分を溶出させるときの溶出方法によって制御し得ると考えた。
具体的には、溶出試験の際の可溶出成分の溶出方法としては、公定法で規定されている振とうや撹拌等の処理や、付着したコンタミを洗浄する際に汎用される超音波処理(超音波洗浄)等があり得るが、本検討においては、公定法に代表的に用いられている溶出方法として振とう処理を選択し、この処理と対比させる形で超音波処理を選択し、試料となる製鋼スラグ粒子の崩壊状況を検討した。
その結果、以下に示す理由により、本発明に係る溶出試験方法では、分析精度をさらに向上させるために、上述のように粉砕方法を規定することに加えて、可溶出成分を溶出させる際に、浸漬水に超音波を加えること(超音波処理)が好ましく、超音波処理を行うことで、可溶出成分の溶出量の測定値のバラツキがさらに減少し、分析精度がより高まる、という知見を得た。
<検討方法>
試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して2mmアンダーの製鋼スラグを得た。
a)振とう処理の場合
次に、振とう処理の場合には、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中にポリエチレン製溶出容器内(以下、「溶出容器」と記載する)で浸漬させた。
次いで、製鋼スラグを浸漬した溶出容器を、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて常温で振とうしながら、所定時間溶出処理を行った後に、溶出容器中の内容物(溶出水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を採取した。次いで、溶出水中の可溶出成分(溶出物)として、鉛、カドミウム、6価クロム、ヒ素、セレン、フッ素およびホウ素について、JIS K0102に定められた方法を用いて分析し、分析結果から溶出量(mg/L)を求めた。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、ジョークラッシャーで粉砕した試料からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数(Cv値がジョークラッシャーで粉砕した試料からの溶出量のCv値の2倍であれば、Cv指数は2となる。)により測定値のバラツキを評価した。
b)超音波処理の場合
超音波処理の場合には、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
次いで、製鋼スラグを浸漬した溶出容器を、恒温水槽である超音波洗浄装置(発振周波数が28kHzのもの)に浸漬して、溶出容器内の製鋼スラグおよび浸漬水に超音波を加えながら、所定時間用出処理を行った後に、振とう処理の場合と同様にして、溶出水中の可溶出成分として、鉛、カドミウム、6価クロム、ヒ素、セレン、フッ素およびホウ素について、溶出量(mg/L)を求めた。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、公定法により6時間(360分)間の溶出処理を行った後の試料(製鋼スラグ)からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数により測定値のバラツキを評価した。
なお、溶出処理の時間(溶出時間)は、公定法および超音波処理の場合ともに、5分、10分、20分、30分、60分とし、さらに比較のため、公定法では、非特許文献1〜3に記載されている6時間の溶出処理も行った。
<検討結果>
以上の実験の結果を図6に示す。図6は、公定法(振とう処理)と超音波処理とを用いた場合の試料からの鉛の溶出量の測定値のバラツキを比較した図である。なお、図6には、鉛に関する結果を示したが、その他の可溶出成分(6価クロム、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレン、ホウ素)についても同様な傾向が見られた。
溶出物の溶出量およびそのバラツキに関しては、概ね以下のような傾向にあった。
まず、図示していないが(後述の実験を参照)、6価クロム、鉛、フッ素等に関しては、超音波処理の場合は、溶出処理の開始後10分程度で溶出量が飽和する(溶出量の測定値が時間の経過とともに増加しなくなる)傾向がある一方で、振とう処理の場合は、溶出処理の開始後180分程度経ってようやく飽和する傾向が見られた。
また、超音波処理の場合は、いずれの可溶出成分(元素)についても、溶出処理の開始後10分で溶出量の測定値のバラツキ(Cv指数)が5以下となり、バラツキが小さいものであった。一方、振とう処理の場合は、溶出処理の開始後の各時間の溶出量の測定値のバラツキを、超音波処理の場合と比較すると、いずれの時間でも、概ねバラツキが1.5倍程度であり、超音波処理よりも振とう処理の方が、溶出量の測定値のバラツキが大きい結果となった。
以上の結果から、溶出処理の方法として超音波処理を用いると、以下のことがいえる。
a)いずれの可溶出成分(元素)についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する傾向があった。このことから、溶出処理の方法として超音波処理を採用することにより、短時間(少なくとも10分以上)で溶出処理を行うことができる。
b)いずれの可溶出成分(元素)についても、溶出時間が10分以上の場合において、溶出量の測定値のバラツキが小さいものであった。このように、バラツキが小さいため、溶出処理方法として超音波処理を採用した場合、測定された溶出量に所定の比例係数を乗ずることで、精度良く、公定法(振とう法)で360分間溶出処理を行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
<超音波処理と振とう処理との崩壊状況が異なる理由>
溶出処理方法として超音波処理を採用した場合において、分析精度が安定する(バラツキが小さくなる)理由として、以下のことが考えられる。
まず、製鋼スラグ等の試料中の可溶出成分は、2mmアンダーに粉砕した試料粒子の表面と、溶出中に試料粒子が崩壊することにより細粒化して新たに発生した粒子の表面から、それぞれ溶出し得る、と考えられる。試料として製鋼スラグを用いた場合、製鋼スラグ粒子の崩壊は、製鋼スラグ粒子が有する亀裂などの隙間に浸漬水が浸透し、製鋼スラグ中のフリーライム(遊離状態のCaO)と反応することによる製鋼スラグ粒子の体積膨張に起因して生じるものと考えられる。
このような製鋼スラグ粒子の崩壊の機構に鑑みると、振とう処理による溶出よりも超音波処理による溶出の方が、早期に製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和し、しかも、崩壊状況のバラツキが小さい理由は、振とう処理による溶出と超音波処理による溶出とが、製鋼スラグ粒子への振動の与え方が異なることによるものと考えられる。すなわち、超音波溶出では、超音波洗浄機等を用いて超音波を溶出容器に加えるのであるが、この場合、浸漬水中の製鋼スラグ粒子全体に均一に震動を与えることができることから、製鋼スラグ粒子中の隙間へ浸漬水が浸透する時間が短い。そのため、浸漬水が浸透した製鋼スラグ粒子が、その粒子中の隙間を基点として分離(崩壊)することが、振とう処理による溶出の場合よりも容易である。このような理由により、振とう処理による溶出よりも超音波溶出の方が、早期に製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和し、しかも、崩壊状況のバラツキが小さくなるものと推定される。
<超音波溶出における発振周波数>
なお、超音波洗浄装置の発振周波数は28〜68kHz程度が常用されており、上述した通り、発振周波数28kHzで製鋼スラグ粒子の崩壊状況のバラツキの安定効果、すなわち、製鋼スラグ粒子の崩壊の促進効果が得られている。また、上述した製鋼スラグ粒子の崩壊の機構であれば、発振周波数が高いほど、製鋼スラグ粒子の崩壊は促進されるものと考えられる。従って、発振周波数28kHz以上であれば安定したスラグ崩壊が得られるか、あるいは、少なくとも超音波洗浄装置で常用される発振周波数の上限(68kHz)までは同様の効果が得られるものと予測される。
(3.超音波処理での加熱水使用による分析時間の短縮の検討)
第3に、本発明者は、可溶出成分の浸漬水への溶解度には、可溶出成分の物性や、浸漬水および試料の温度等が影響すると考え、このうち、浸漬水の温度について検討した。その結果、以下に示す理由により、本発明に係る溶出試験方法では、粉砕した試料(無機物)を浸漬する浸漬水の温度を常温から90℃以下として溶出処理を行うこととした。
また、本発明者は、浸漬水の温度を45℃以上90℃以下に加熱することが好ましく、さらに、溶出処理中も湯煎等により、浸漬水の温度が極力一定となるように制御することで、可溶出成分の溶出速度が高まり、溶出時間を短縮させることができることを知見した。これにより、短いよう出時間でもバラツキの少ない安定した溶出量の測定値を得ることができる。
本実験では、溶出方法として超音波処理を用いた場合において、(1)浸漬水の好適な温度範囲、および、(2)好適な溶出時間、に関する検討を行った。
<3−1−1.浸漬水の好適な温度範囲の検討(検討方法)>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(浸漬水の温度)を室温(本実験時の室温は25℃)、45℃、50℃、60℃、90℃のそれぞれに維持した状態で超音波溶出処理を行った。また、それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、可溶出成分が溶出した浸漬水(以下、「溶出液」とも記載する。)を採取した。さらに、溶出液中の可溶出成分として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法(例えば、6価クロムに関しては、ジフェニルカルバジド吸光光度法、鉛に関しては、ICP発光分光分析法、フッ素に関しては、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)を用いて測定し、この溶出量の測定結果から溶出率(%)と相対標準偏差(%)を求めた。
ここで、上記溶出率は、公定法で定められている振とう処理による溶出(以下、「振とう処理」とも記載する。)の場合の溶出量を100%としたときの超音波溶出の場合の溶出量の比率として求めた。具体的には、公定法(JIS K0058)における振とう処理を360分間行った後の溶出量(mg/l)をQS360とし、超音波溶出をt分行った後の溶出量(mg/l)をQUtとしたとき、超音波溶出によるt分後の溶出率(%)を、(QUt/QS360)×100として求めた。また、上記相対標準偏差は、各温度条件における3回の溶出量(mg/l)測定結果の平均値をXiとし、標準偏差をσとしたとき、相対標準偏差(%)を、(σ/Xi)×100として求めた。なお、溶出率が高いほど、公定法による6時間の溶出試験の測定結果との相関が良いことを示し、相対標準偏差が小さいほど、測定結果のバラツキが小さい(すなわち、分析精度が高い)ことを示している。
以上のようにして求めた溶出率(%)の経時変化を図7〜図9に、相対標準偏差(%)の経時変化を図10〜図12に示す。なお、図7は、6価クロムの溶出率(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図8は、フッ素の溶出率(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図9は、鉛の溶出率(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図10は、6価クロムの相対標準偏差(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図11は、フッ素の相対標準偏差(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図12は、鉛の相対標準偏差(%)の経時変化の一例を示すグラフである。なお、図7〜図12において、縦軸は、溶出率(%)または相対標準偏差(%)、横軸は、溶出時間(分)を示している。また、図12において、溶出温度が室温で、溶出時間が5分の場合の相対標準偏差の値は、62.8%である。
<3−1−2.浸漬水の好適な温度範囲の検討(検討結果)>
図7〜図9に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度45℃〜90℃の範囲では、超音波溶出処理の開始後5分以降に溶出率(溶出量)が大幅に増加する傾向にあり、10分以降は溶出量が飽和する傾向にあった。また、図7〜図12に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度が45℃以上で5分以上の超音波溶出を行った場合、溶出率が高く、相対標準偏差が低く、溶出量の測定値のバラツキが小さいものであった。特に、超音波溶出による溶出時間を10分以上とした場合には、溶出率は70%以上であり、また、相対標準偏差が5%程度以下であり、溶出量の測定値のバラツキが極めて小さいものであった。このように、超音波溶出を採用した場合、溶出温度を45℃以上(溶出時間は5分以上)とすることで、溶出量の測定値のバラツキを小さくできるため、測定された溶出量に所定の係数を乗ずることで、精度良く公定法による溶出(振とう処理)を360分間行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
なお、図7〜図12には、6価クロム、鉛およびフッ素の結果について記載したが、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素も同様の傾向を示していた。
また、製鋼スラグ中のCaOは、溶出液のpHを上昇させ、溶出量が変動する可能性があるが、20質量%および60質量%のいずれの場合も、上述した検討結果(CaOが45質量%の場合)と同様の傾向があった。
以上のように、溶出温度を45℃以上とすることで、溶出量の測定値のバラツキを小さくできるため、本発明に係る溶出試験方法における溶出温度は45℃以上が好ましい、といえる。また、溶出温度が90℃を超えると、目視で溶出液の蒸発が大きくなり、分析に適さないと判断し、本発明の溶出試験方法における溶出温度の上限を90℃とした。
さらに、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度が45℃〜90℃の範囲で溶出時間5分〜10分で溶出率が飽和傾向にあり、また、溶出温度を60℃以上とし、超音波溶出の時間を10分以上とすることで、ほぼ100%の溶出率を得ることができていた。従って、本発明の溶出試験方法においては、溶出温度は60℃以上であることがさらに好ましい、といえる。
<3−2−1.溶出時間の好適な範囲の検討(検討方法)>
次に、本発明者らは、超音波溶出処理を行い、溶出温度を上述した45℃〜90℃の範囲とした場合の溶出時間の範囲について検討した。より具体的には、溶出温度60℃で超音波溶出を行った場合と、公定法に規定されるように常温で振とう処理を行った場合とで、両溶出方法の溶出率(%)および相対標準偏差(%)を比較することにより、最適な溶出時間を検討した。
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して2mmアンダーの製鋼スラグを得た。
振とう処理の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて常温(本実験においては25℃)で振とう処理を行った。
超音波溶出処理の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(溶出温度)を60℃に維持した状態で超音波溶出を行った。
また、以上の振とう処理および超音波溶出のそれぞれにおいては、公定法および超音波処理の場合ともに、溶出時間を、5分、10分、20分、30分、60分とし、さらに比較のため、公定法では、非特許文献1〜3に記載されている6時間の溶出処理も行った。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、溶出液を採取した。さらに、溶出液中の可溶出成分として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法(6価クロムに関しては、ジフェニルカルバジド吸光光度法、鉛に関しては、ICP発光分光分析法、フッ素に関しては、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)を用いて測定し、この測定結果から溶出率(%)と相対標準偏差(%)を求めた。なお、溶出率(%)および相対標準偏差(%)は、上述した溶出温度の検討の際と同様にして求めた。
以上のようにして求めた溶出率(%)および相対標準偏差(%)の結果を図13〜図15に示す。図13は、6価クロムの溶出率(%)および相対標準偏差(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図10は、鉛の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の経時変化の一例を示すグラフである。図11は、フッ素の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の経時変化の一例を示すグラフである。なお、図13〜図15において、縦軸は溶出率(%)、横軸は溶出時間(分)を示している。また、図13〜図15において、相対標準偏差(%)は、各プロット上に記載している。
<3−2−2.溶出時間の好適な範囲の検討(検討結果)>
図13〜図15に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、超音波溶出の場合には、溶出処理開始後10分程度で溶出率が飽和する(溶出率がほとんど増加しなくなり、ほぼ一定となる)傾向が見られた。一方、振とう処理の場合には、溶出処理開始後180分程度経過してから飽和する傾向が見られた。
また、超音波溶出の場合には、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出処理開始後5分程度で相対標準偏差が10%以下となり、さらに、溶出処理開始後10分程度で相対標準偏差が5%以下となり、測定値のバラツキが非常に小さいものであった。一方、振とう処理の場合には、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出処理開始後の各測定時刻における測定値のバラツキを超音波溶出の場合と比較すると、相対標準偏差が約2.5倍となっており、超音波溶出処理よりも測定値のバラツキが大きいという結果になった。
なお、図13〜図15には、6価クロム、鉛およびフッ素の結果について記載したが、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素も同様の傾向を示していた。
また、製鋼スラグ中のCaOは、溶出液のpHを上昇させ、溶出量が変動する可能性があるが、20質量%および60質量%のいずれの場合も、上述した検討結果(CaOが45質量%の場合)と同様の傾向があった。
以上の結果から、溶出処理の方法として超音波処理を用いると、以下のことがいえる。
a)いずれの可溶出成分(元素)についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する傾向があった。このことから、溶出処理の方法として超音波処理を採用することにより、短時間(少なくとも10分以上)で溶出処理を行うことができる。
b)いずれの可溶出成分(元素)についても、溶出時間が5分以上の場合において、溶出量の測定値のバラツキが小さいものであった。このように、バラツキが小さいため、溶出処理方法として超音波処理を採用した場合、測定された溶出量に所定の比例係数を乗ずることで、精度良く、公定法(振とう法)で360分間溶出処理を行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
以上のように、超音波溶出処理を採用した場合には、溶出時間が5分以上の場合において、溶出量の測定値のバラツキが小さいものであったことから、本発明に係る溶出試験方法においては、溶出時間を5分以上とすることが好ましい、といえる。さらに、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する傾向にあり、また、溶出時間を10分以上とすることで、相対標準偏差が5%以下と非常にバラツキの小さな測定結果を得ることができていた。このことから、本発明の溶出試験方法においては、溶出時間を10分以上とすることがさらに好ましい、といえる。
(4.超音波処理法の分析精度の評価)
第4に、本発明者は、上記3の検討結果を基に、加熱した浸漬水を用いて超音波溶出処理を行った場合の分析精度について、さらに検討を進めた。
<検討方法>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して2mmアンダーの製鋼スラグを得た。
振とう処理の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて常温(本実験においては25℃)で振とう処理を行った。
超音波溶出処理の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(溶出温度)を60℃に維持した状態で超音波溶出を行った。
以上の振とう処理および超音波溶出のそれぞれにおいては、溶出時間を5分、10分、20分、30分、60分、90分、180分および360分とした。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、溶出液を採取した。
さらに、溶出液中の溶出物として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法を用いて分析し、分析結果から溶出量(mg/L)を求めた。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、公定法により360分間の溶出処理を行った後の試料(製鋼スラグ)からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数により測定値のバラツキを評価した。
<検討結果>
以上の実験の結果を図16に示す。図16は、公定法(振とう処理)と超音波処理とを用いた場合の試料からの鉛の溶出量の測定値のバラツキを比較した図である。なお、図16には、鉛に関する結果を示したが、その他の溶出物(6価クロム、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレン、ホウ素)についても同様な傾向が見られた。
図16に示すように、溶出物の溶出量の測定値のバラツキに関しては、概ね以下のような傾向にあった。
超音波処理の場合は、いずれの溶出物についても、公定法と比較してCv値が小さく、測定値のバラツキが少ない。また、超音波処理では、溶出処理の開始後10分で溶出量の測定値のバラツキ(Cv指数)が1以下となり、公定法(振とう処理で360分間溶出)の場合とバラツキが同じか、あるいは小さく、公定法の場合と同等以上の分析精度が得られた。
以上の結果から、溶出方法として超音波処理を採用し、かつ、浸漬水の温度を45℃以上(90℃以下)とすることにより、公定法と同等以上のバラツキの少ない安定した分析結果を、公定法よりも非常に短い分析時間で得られることが判明した。
(5.試料質量の検討)
第5に、本発明者は、溶出試験に用いる試料の必要量(質量)に関する検討を行った。この検討を行ったのは、公定法における振とう処理では、試料の量がある程度多くないと、振とう機からの振動が試料粒子に伝わりにくいため、可溶出成分の溶出が進まないが、超音波処理の場合には、非常に微細な震動が試料粒子に与えられるため、試料の量が少なくても可溶出成分の溶出が進むと考えられるためである。その結果、以下に示す理由により、本発明に係る溶出試験方法では、公定法の場合よりも少ない質量の試料を用いても、公定法と比較して同等以上の分析精度が得られる、という知見を得た。
<検討方法>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して2mmアンダーの製鋼スラグを得た。
振とう処理の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて常温(本実験においては25℃)で振とう処理を行った。
超音波溶出処理の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g、25g、50g採取し、それぞれ、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml、250ml、500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(溶出温度)を60℃に維持した状態で超音波溶出を行った。
以上の振とう処理および超音波溶出のそれぞれにおいては、溶出時間を10分とした。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、溶出液を採取した。
さらに、溶出液中の溶出物として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法を用いて分析し、分析結果から溶出量(mg/L)を求めた。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、公定法で用いた50gの試料からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数により測定値のバラツキを評価した。
<検討結果>
以上の実験の結果を図17〜図19に示す。図17は、試料質量の違いによる6価クロムの溶出量の測定値のバラツキを比較した図である。図18は、試料質量の違いによるフッ素の溶出量の測定値のバラツキを比較した図である。図19は、試料質量の違いによる鉛の溶出量の測定値のバラツキを比較した図である。なお、図17〜図19には、6価クロム、フッ素および鉛に関する結果を示したが、その他の溶出物(カドミウム、ヒ素、セレン、ホウ素)についても同様な傾向が見られた。
図17〜図19に示すように、溶出物の種類に関わらず、溶出方法として超音波処理を採用した場合には、試料の質量が10g、25g、50gのいずれの場合でも、公定法と比較してCv値が同一かあるいは小さく、公定法で50gの試料を使用した場合と同等以上の分析精度が得られることが判明した。具体的には、公定法では、試料質量は50gと規定されているが、超音波処理の場合には、試料質量が10gでも、精度の高い分析が可能であることがわかった。
このように、溶出方法として超音波処理を採用した場合には、少量の試料でも十分な分析精度が得られるので、各可溶出成分の分析時間を短縮することが可能となるのみならず、試薬使用量の削減、作業量の減少等による分析コストの削減可能となる。さらには、分析後の試料や溶出液の量も減少するので、廃液量や廃スラグ(試料)量も削減することができるので、環境保全の観点からも好適である。
(6.まとめ)
以上のような検討から、本発明者は、以下に説明するような溶出試験方法を見出した。以下、図20を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法について詳細に説明する。図20は、本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法の流れを示すフローチャートである。
<本発明に係る溶出試験方法の具体的な処理の流れ>
本発明に係る溶出試験方法は、水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する方法であって、下記の条件を必須とするものである。
(A)試料となる固体状の無機物を、自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を用いて、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕する。
(B)粉砕後の無機物を常温から90℃以下の浸漬水中に浸漬させることで溶出した可溶出成分のうち、鉛、六価クロム、カドミウム、ヒ素、セレン、フッ素及びホウ素からなる群より選択された少なくともいずれか1種以上の成分の溶出量を測定する。
具体的には、図20に示すように、まず、試料となる無機物(粒子)を自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機で2mmアンダーの粒度となるように粉砕する(S101)。このとき使用する粉砕機としては、自由粉砕かつ連続粉砕が可能なものであれば特に限定はされないが、上述したように、例えば、ジョークラッシャー、コーンクラッシャー、ダブルロールクラッシャー等を用いることができる。
また、試料となる無機物としては、可溶出成分の溶出量を測定する必要のある物質であれば特に限定はされないが、例えば、製鋼スラグの他に、フライアッシュ、廃鋼、煉瓦屑、ガラス屑、廃石膏等が挙げられる。製鋼スラグは、遊離した酸化カルシウム(CaO:フリーCaOとも呼ばれる。)やシリカ(SiO2)を主成分として含有するものであり、通常は、CaOを20質量%以上60質量%以下含有している。また、製鋼スラグは、CaOやSiO2の他に、微量成分や不純物として、鉛(Pb)、六価クロム(Cr(VI))、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)、ボロン(B)等を酸化物として含有している。これらの製鋼スラグの成分のうち、鉛(Pb)、六価クロム(Cr(VI))、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)、ボロン(B)等は、製鋼スラグを水中に浸漬させた場合に水中に溶出する可溶出成分であり、本発明に係る溶出試験方法や公定法による溶出試験方法では、これらの可溶出成分の溶出量を測定する。
次いで、粉砕された試料(製鋼スラグ粒子等の無機物)を篩い分けし、2mmメッシュの篩い目を通過した粒度が2mm以下のものを回収する(S103)。
次に、回収された粉砕後(2mmアンダー)の試料を、溶出容器中にて、常温以上(好ましくは、45℃以上)90℃以下の水(浸漬水)中に浸漬する(S105)。さらに、好ましくは、浸漬水に超音波を加えることにより、水溶性の可溶性成分を溶出させる(S107:超音波溶出処理)。この超音波溶出処理に用いる装置としては、上述したような温度制御が可能な恒温槽を有する超音波洗浄装置を用いることができる。
ここで、粉砕機として自由粉砕かつ連続粉砕が可能な粉砕機を使用する理由、超音波溶出処理を行うことが好ましい理由、浸漬水の温度(溶出温度)を常温(好ましくは45℃)〜90℃とした理由等については、上述した通りであるので、詳細な説明は省略する。
次に、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ等の無機物)を、メンブランフィルター等のフィルターを用いて吸引ろ過し、浮遊物や不溶解成分を分離した溶出液(ろ液)を回収する(S109)。このとき、溶出容器中の溶出液が、微細な浮遊物を多く有する濁った状態である場合には、ろ過中にフィルターの目詰まりを起こす可能性があるため、吸引ろ過前に遠心分離を行うことが望ましい。遠心分離を行う場合には、例えば、遠心分離機を用いて3000回転/分程度で遠心分離し、浮遊物等の不純物を沈降させ、上澄み液を吸引ろ過することにより、浮遊物や不溶解成分を分離した溶出液を回収し、以降の可溶出成分の定量に用いる検液とする。
次に、ステップS109で回収された溶出液中の溶出物のうち、特定の成分の溶出量を測定する(S111)。このとき、測定対象となるのは、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素のうちの少なくとも1種以上の成分である。これらの成分の定量方法については特に限定されないが、例えば、6価クロム、鉛、フッ素の場合には、以下のような測定方法により溶出量を測定することができる。
1)6価クロムの場合
6価クロムの溶出量の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ジフェニルカルバジド吸光光度法を使用することができる。具体的には、前処理を行った検液にジフェニルカルバジド試薬を添加し、Cr6+を呈色させる。この呈色溶液に光を照射し、波長540nm付近の吸光度からCr(VI)の量を測定する。
2)鉛の場合
鉛の溶出量の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ICP発光分光分析法を使用することができる。具体的には、前処理を行った検液に溶媒抽出操作を行い、この溶液を発光部に導入し、Pbの発光強度からPb量を測定する。
3)フッ素の場合
フッ素の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法を使用することができる。具体的には、検液中のフッ素化合物を蒸留分離し、ランタン(III)とアリザリンコンプレキソンとの錯体を加え、これがフッ素化物イオンと反応して生じる青い色の複合錯体を含んだ溶液に光を照射し、波長620nm付近の吸光度からF量を測定する。
<本発明に係る溶出試験方法の効果>
以上のステップS101〜S111を含む本発明に係る溶出試験方法によれば、製鋼スラグ等の無機物中の可溶出成分の溶出量の測定値のバラツキが少なく、分析精度の高い溶出試験方法を提供することができる。また、本発明に係る溶出試験方法によれば、上記のようなバラツキが少なく、精度の高い分析を従来よりも短時間で行うことができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
次に、本発明について実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
本実施例では、CaOが45質量%である製鋼スラグを試料として使用し、この製鋼スラグ約200gを採取し、ジョークラッシャーとボールミルのそれぞれにより粉砕した後に2mmの篩目(JIS Z 8801−1:2006記載のふるい網の公称目開き2mm)を通過させたものと通過させないものを準備した。粉砕時間は、ジョークラッシャーの場合は、約1秒とし、ボールミルの場合は、240秒とした。
超音波処理の場合には、上述のようにして得られた製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
次いで、製鋼スラグを浸漬した溶出容器を、恒温水槽である超音波洗浄装置(発振周波数が28kHzのもの)に浸漬して、溶出容器内の製鋼スラグおよび浸漬水に超音波を加えながら、溶出処理を行った。その後、溶出容器中の内容物(可溶出成分が溶出した水(溶出水)および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を採取した。次いで、溶出水中の可溶出成分として、6価クロム、フッ素、鉛をJIS K0102に定められた方法を用いて分析し、分析結果から溶出量(mg/L)を求めた。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、公定法(比較例B1)からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数により測定値のバラツキを評価した。
振とう処理の場合には、粉砕後のスラグを50g採取し、この製鋼スラグを500ml(試料重量の10倍の量)の水(pH5.8〜6.3の純水)に、溶出容器中で浸漬させた。
次に、上記のように水中に浸漬させた試料を、振とう処理方法(JIS K0058−1で定められた方法)を用いて溶出した。溶出処理後の処理は、超音波処理法と同様である。そして、分析したそれぞれの成分について、溶出量からCv=σ/X(=標準偏差/平均)を計算し、公定法(比較例B1)からの溶出量のCv値を1として指標化したCv指数により測定値のバラツキを評価した。なお、上記以外の条件は表1に示す通りであり、表1の検液作成時間は、製鋼スラグの粉砕から溶出処理までの時間を示すものである。
表1に示すように、実施例A1〜A11では、いずれもCv指数が1未満であり、公定法(比較例B1)よりも分析精度が高い結果となった。また、溶出方法として超音波処理を用い、溶液の温度の高い実施例A2、A5及び溶出時間を60分とした実施例A6に関しては、分析精度が特に高い結果となった。さらに、溶出方法として超音波処理を採用した実施例A1〜A10では、公定法よりもはるかに短い溶出時間で高い分析精度が得られた。
一方、溶出処理の方法に関わらず、粉砕方法としてボールミルを使用した比較例B2、B3、B5については、いずれも、公定法(比較例B1)の場合よりも分析精度が低い結果となった。このうち、破砕時間を短縮し粉砕後の試料の最大直径が本発明の範囲よりも大きな比較例B2、破砕時間を延長し最大直径が本発明の範囲よりも小さな比較例B3については、以下の理由で粉砕時間を増減しても分析精度が改善されなかったと考えられる。
(a)閉塞された容器内で粉砕操作が繰り返される、ボールミルのようなベッセルミル粉砕機では、破砕後の粒度分布に影響を与える因子の項目数が多く、加えて、当該因子は制御しにくい項目であるため、粒度分布の構成が容易に変化し試料の粒度分布の再現性が低い([0059]を参照)。
(b)長時間の振とう処理を行なった場合、振とう処理中にスラグ粒内の亀裂によってスラグ粒は破砕される。ベッセルミル粉砕機では試料物性や破砕条件により、スラグ粒への亀裂の入り方の変動が大きい。
比較例B4については、粉砕方法がジョークラッシャーであるが、溶液温度が本発明の範囲より高いため、溶出液からの溶液の蒸発量が多くなったため、分析精度が低下したものと考えられる。
なお、溶出方法として超音波処理を採用した比較例B5については、溶出処理の時間を短縮することはできたものの、粉砕方法としてボールミルを使用しているため、分析精度が実施例A1〜A11と比較して劣っていた。