以下、図面を参照し、本発明を実施するための形態について説明する。尚、本実施形態では、運転席に着座した乗員(運転者)を拘束するシートベルト装置について説明するが、本発明はいずれの座席に着座した乗員を拘束するシートベルト装置に適用されてもよい。
図1は、本発明の第1実施形態に係るシートベルト装置の構成を示す断面図である。図2は、図1のA−A線に沿った断面図である。シートベルト装置は、乗員を車両の座席に拘束するシートベルト10を備える。シートベルト10は、樹脂製であって、長尺帯状に形成されている。シートベルト10は、乗員の身体に掛け回され、シートベルト10に設けられたタングプレート(図示せず)が座席に設けられたバックル(図示せず)に着脱可能に嵌合されることで、乗員を車両の座席に拘束する。
シートベルト装置は、図1に示すように、フレーム20、スプール30、及びシャフト32を含み構成されている。これら、フレーム20、スプール30、及びシャフト32は、クロムモリブデン鋼や鉄鋼等の金属材料を機械加工して製造されている。
フレーム20は、ボルト等により車体に連結される部材である。フレーム20には、互いに対向する一対の脚板22a、22bが一体に形成されている。この一対の脚板22a、22bの間には、スプール30が配置されている。
スプール30は、軸方向が一対の脚板22a、22bを結ぶ方向と平行になるよう配置されており、フレーム20に対して自らの軸周りに回転可能とされている。スプール30は、渦巻きバネ(図示せず)により一方の回転方向R1(以下、「巻き取り方向R1」という)に付勢されている。
スプール30の外周には、図2に示すように、シートベルト10の長手方向基端部が係止されている。スプール30が巻き取り方向R1に回転すると、スプール30の外周にシートベルト10が巻き取られる。一方、スプール30が巻き取り方向R1と反対方向R2(以下、「引き出し方向R2」という)に回転すると、シートベルト10がスプール30から引き出される。シートベルト10は、スプール30から引き出された状態で、乗員の身体に掛け回される。
シャフト32は、スプール30の内側に同軸的に回転可能に配置されている。シャフト32は、各脚板22a、22bに設けた挿通孔24a、24bに挿通されている。一対の挿通孔24a、24bの内周面により、シャフト32の軸線X方向両端部が回転可能に支持されている。このようにして、シャフト32は、フレーム20に対して自らの軸周りに回転可能とされている。
スプール30の軸方向両端面には、環状のカバー34がそれぞれ一体に固定されている。各カバー34は、金属板をプレス等により打ち抜き加工したものが用いられる。各カバー34は、スプール30と同軸的に配置されている。各カバー34の外径は、スプール30の外径よりも大きく設定されている。各カバー34は、スプール30の回転に伴うシートベルト10の移動をガイドする。各カバー34の内径は、シャフト32の外径よりも僅かに大きく設定されている。各カバー34の内周面は、シャフト32の外周面に摺動可能に当接している。
このようにして、スプール30とシャフト32とは、一対のカバー34を介して、軸線X方向の周りに相対回転可能に構成されている。そして、スプール30とシャフト32と一対のカバー34とにより取り囲まれる環状の空間に作動室Cが形成されている。作動室Cには、粘性流体としてのシリコンオイルLが封入されている。尚、各カバー34の内周面とシャフト32の外周面との間には、Oリング等のシール部材が介装されていてもよい。
作動室Cには、図1に示すように、複数のアウタープレート36、及び複数のインナープレート38が配置される。各アウタープレート36、及び各インナープレート38は、金属製の薄板をプレス等により打ち抜き加工したものが用いられる。
各アウタープレート36は、環状に形成され、スプール30の内周に一体に設けられている。スプール30の内周には、各アウタープレート36の外周がスプライン嵌合されている。各アウタープレート36の内周には、周方向に所定間隔で複数のスリット(図示せず)が形成されている。各アウタープレート36の内径は、シャフト32の外径よりも大きく設定されている。
各インナープレート38は、環状に形成され、シャフト32の外周に一体に設けられている。シャフト32の外周には、各インナープレート38の内周がスプライン嵌合されている。各インナープレート38の外周には、周方向に所定間隔で複数のスリット(図示せず)が形成されている。各インナープレート38の外径は、スプール30の内径よりも小さく設定されている。
アウタープレート36とインナープレート38とは、軸線X方向に交互に配置されている。隣り合うアウタープレート36の間における、インナープレート38の外周側には、スペーサリング(図示せず)がそれぞれ配置されている。各スペーサリングの内径は、インナープレート38の外径よりも大きく設定されている。このスプレーサリングにより、隣り合うアウタープレート36の軸線X方向の間隔が所定値に維持されている。
シートベルト装置は、図1に示すように、ロック機構40を含み構成されている。ロック機構40は、所定の条件下で作動してシャフト32の引き出し方向R2への回転を規制する。ロック機構40は、例えばシートベルト10が引き出される加速度が基準値以上の場合、又は車両の減速度が基準値以上の場合に作動する。
ロック機構40は、一方の脚板22aの外側に、即ち、一方の脚板22aを基準として他方の脚板22bと反対側に配置されている。ロック機構40は、シャフト32に一体に連結されたラチェットホイール42を有する。ラチェットホイール42は、円板状に形成され、シャフト32と同軸的に設けられている。ロック機構40は、作動すると、ラチェットホイール42の引き出し方向R2への回転を規制することで、ラチェットホイール42に連結されたシャフト32の引き出し方向R2への回転を規制する。尚、ロック機構40の構成及び動作は、周知であるので、詳細な説明は省略する。
次に、上記構成とされたシートベルト装置の動作について説明する。先ず、シートベルト10が巻き取られる場合について説明し、続いて、シートベルト10が引き出される場合について説明する。
シートベルト10が巻き取られる場合、スプール30が巻き取り方向R1に回転する。スプール30とシャフト32との間に回転速度差がある場合、スプール30に一体化された各アウタープレート36とシャフト32に一体化された各インナープレート38との間に回転速度差が生じる。この回転速度差に応じてシリコンオイルLに剪断応力が発生し、スプール30の回転トルクがシャフト32に伝達され、シャフト32が巻き取り方向R1に回転する。その結果、スプール30とシャフト32との間に回転速度差がなくなると、スプール30のトルクがシャフト32に伝達されなくなる。
シートベルト10が引き出される場合、スプール30が引き出し方向R2に回転する。スプール30とシャフト32との間に回転速度差ΔVがある場合、その回転速度差ΔVに応じてシリコンオイルLに剪断応力Fが発生する。
この剪断応力Fは、以下の数式1に示すように、スプール30とシャフト32との間の回転速度差ΔVの他、アウタープレート36とインナープレート38との隙間ΔX(図1参照)、アウタープレート36とインナープレート38との軸線X方向に環状に重なり合う面積S(図1参照)、及びシリコンオイルLの粘度μにて定まる。回転速度差ΔV以外の各パラメータΔX、S、μは、車種等に応じて予め最適化されている。
ロック機構40の非作動時に、シリコンオイルLに剪断応力Fが発生すると、スプール30の回転トルクがシャフト32に伝達され、シャフト32が引き出し方向R2に回転する。その結果、スプール30とシャフト32との間の回転速度差ΔVがなくなると、スプール30のトルクがシャフト32に伝達されなくなる。
一方、ロック機構40の作動時に、シリコンオイルLに剪断応力Fが発生すると、シャフト32の引き出し方向R2への回転が規制されているので、シャフト32が引き出し方向R2に回転する代わりに、スプール30が巻き取り方向R1に回転しようとする。これにより、シートベルト10に張力Tが発生し、乗員の車両前方への移動を抑制することができる。
図3は、車両の前面衝突時のシートベルトの引き出し量と張力との関係の一例を示す図である。ここでは、乗員としてダミー人形を用いた。図3において、車両の衝突速度が大きい場合の関係を実線で示し、車両の衝突速度が小さい場合の関係を二点鎖線で示す。尚、図3において、シートベルト10の引き出し量は、ロック機構40の作動開始時からの引き出し量である。
車両の前面衝突時(即ち、車両の急減速時)には、車両の衝突速度(即ち、車両の減速度)に応じた慣性力で乗員が車両前方に移動しようとし、乗員を拘束しているシートベルト10が引っ張られる。この引っ張り力によりシートベルト10が引き出されると、シートベルト10の引き出し速度に応じた回転速度にて、スプール30が引き出し方向R2に回転する。
このとき、ロック機構40によりシャフト32の引き出し方向R2への回転が規制されていると、シャフト32とスプール30との間に、シートベルト10の引き出し速度に応じた回転速度差ΔVが生じる。この回転速度差ΔVに応じて、シリコンオイルLに剪断応力Fが発生し、シートベルト10に張力Tが発生する。従って、シートベルト10の引き出し速度が大きくなるほど、シートベルト10の張力Tが大きくなる。その結果、車両の前面衝突時の衝突速度(即ち、車両の減速度)が大きくなるほど、乗員を強く拘束することができる。従って、車両の状況に応じて、乗員を適切に拘束することができる。
また、シートベルト10に張力Tが加わると、乗員の車両前方への移動が抑制されるので、シートベルト10の引き出し速度が減速する。そうすると、スプール30の引き出し方向R2の回転が減速し、スプール30とシャフト32との間の回転速度差ΔVが小さくなる。これにより、シリコンオイルLの剪断応力Fが低下し、図3に示すように、シートベルト10に加わる張力Tが低下する。従って、ロック機構40の作動時に、シートベルト10に過剰な張力Tが加わることを抑制することができ、乗員の身体に過剰な負荷が加わることを抑制することができる。
仮に、従来例の如く、スプール30とシャフト32とが連結されており、ロック機構40の作動時にシャフト32が塑性変形する場合、使用後にシャフト32を含むシートベルト装置を交換する必要がある。
一方で、本実施形態では、スプール30とシャフト32とが相対的に回転可能とされており、ロック機構40の作動時にシャフト32が塑性変形しないので、使用後のシャフト32の交換が不要となる。
以上、説明したように、本実施形態によれば、シートベルト10の引き出し速度が大きくなるほどシートベルト10の張力Tが大きくなるので、車両の前面衝突時の衝突速度(即ち、車両の減速度)が大きくなるほど乗員を強く拘束することができる。従って、車両の状況に応じて、乗員を適切に拘束することができる。
尚、本実施形態では、シャフト32はフレーム20に対して自らの軸周りに回転可能とされており、ロック機構40は所定の条件下で作動してシャフト32の所定方向(引き出し方向R2)への回転を規制するとしたが、本発明はこれに限定されない。
例えば、シャフト32は、フレーム20に対して常時固定されていてもよい。この場合も、シャフト32とスプール30との間に、シートベルト10の引き出し速度に応じた回転速度差ΔVが生じるので、シートベルト10の引き出し速度が大きくなるほどシートベルト10の張力Tが大きくなる。この場合、ロック機構40が不要となる。
これに対し、本実施形態では、ロック機構40が所定の条件下で作動してシャフト32の引き出し方向R2への回転を規制するので、ロック機構40の非作動時に、シートベルト10を容易に引き出すことができる。従って、乗員に煩雑感を与えることを抑制することができる。
図4は、本発明の第2実施形態に係るシートベルト装置の構成を示す一部断面図である。図4は、プリテンショナ機構50の作動時の状態を示す一部断面図である。図4に示すシートベルト装置は、プリテンショナ機構50を更に備える。その他の構成は、図1に示すシートベルト装置の構成と同一であるので、同一の符号を付して説明を省略する。
プリテンショナ機構50は、車両の緊急時にシートベルト10を巻き取る機構である。プリテンショナ機構50は、スプール30を基準としてロック機構40と反対側に配置されている。例えば、プリテンショナ機構50は、他方の脚板22bの外側に、即ち、他方の脚板22bを基準として一方の脚板22aと反対側に配置されている。
プリテンショナ機構50は、第1及び第2のピニオン52、54、ラック56、並びにインフレータ58を有する。
第1のピニオン52は、カバー34を介してスプール30に連結され、外周には周方向に所定間隔で複数の第1の外歯52aが形成されている。第1のピニオン52は、スプール30と同軸的に配置されている。
第2のピニオン54は、シャフト32に一体に連結され、外周には周方向に所定間隔で複数の第2の外歯54aが形成されている。第2のピニオン54は、シャフト32と同軸的に配置されている。
このようにして、第1及び第2のピニオン52、54は、同軸的に配置され、相対回転可能とされている。本実施形態において、第1及び第2のピニオン52、54の外径は、略同一に設定されている。また、隣り合う第1の外歯52aの間隔と、隣り合う第2の外歯54aの間隔とは略同一に設定されている。
ラック56は、複数の第1及び第2の外歯52a、54aに噛合可能な複数の内歯56aを有する。複数の内歯56aは、ラック56の先端部に形成されている。ラック56の基端部は、シリンダ60に摺動可能に挿入されている。ラック56の基端面と、シリンダ60の内壁面とにより取り囲まれる空間にガス室62が形成されている。
インフレータ58は、点火装置及びガス発生剤を有する。インフレータ58は、車載ネットワークを介して、電子制御ユニット(図示せず)と接続されている。電子制御ユニットは、車両の緊急時(例えば、車両に加えられる加速度の時間積分値が閾値を超えた時)に点火信号をインフレータ58に送信する。インフレータ58は、電子制御ユニットから点火信号を受信すると、点火装置によりガス発生剤を燃焼させてガスを発生させる。発生したガスは、ガス室62に供給される。
次に、プリテンショナ機構50の動作について、図5〜図7を参照して説明する。図5〜図7において、(A)はラック56と第1のピニオン52との関係を示す図であり、(B)はラック56と第2のピニオン54との関係を示す図である。
図5に示すように、プリテンショナ機構50の作動前には、ラック56と第1及び第2のピニオン52、54とは噛合しておらず、第1及び第2のピニオン52、54は回転可能な状態をとり、スプール30及びシャフト32は回転可能な状態をとる。
図6に示すように、プリテンショナ機構50の作動時には、インフレータ58がガスをガス室62に供給し、ガス室62の内圧が上昇し、ラック56がシリンダ60から突出する方向に移動する。
このラック56の移動に連動して、ラック56と第1及び第2のピニオン52、54とが噛合し、第1及び第2のピニオン52、54が巻き取り方向R1に略同一の回転速度で回転する。これにより、スプール30とシャフト32とが巻き取り方向R1に同一の回転速度で回転し、シートベルト10が巻き取られるので、車両の緊急時にシートベルト10の緩みを除去することができる。
尚、本実施形態では、プリテンショナ機構50は、第1及び第2のピニオン52、54を有するとしたが、本発明はこれに限定されない。プリテンショナ機構50は、第1及び第2のピニオン52、54のいずれか一方のみを有するとしてもよい。
例えば、第1変形例として、プリテンショナ機構50が第2のピニオン54のみを有する場合、ラック56の移動に連動して、ラック56と第2のピニオン54とが噛合し、第2のピニオン54が巻き取り方向R1に回転する。これにより、スプール30とシャフト32との間に回転速度差ΔVが発生し、この回転速度差ΔVに応じてシリコンオイルLに剪断応力Fが発生し、シャフト32の回転トルクがスプール30に伝達され、スプール30が巻き取り方向R1に回転する。従って、シートベルト10が巻き取られるので、車両の緊急時にシートベルト10の緩みを除去することができる。しかしながら、シャフト32の回転トルクがスプール30に伝達される際に、伝達損失が発生すると、スプール30の回転不足につながる。従って、シートベルト10の緩みを十分に除去することができない可能性がある。
また、第2変形例として、プリテンショナ機構50が第1のピニオン52のみを有する場合、ラック56の移動に連動して、ラック56と第1のピニオン52とが噛合し、第1のピニオン52が巻き取り方向R1に回転する。これにより、第1のピニオン52に連結されたスプール30が巻き取り方向R1に回転し、シートベルト10が巻き取られるので、車両の緊急時にシートベルト10の緩みを除去することができる。
図7に示すように、プリテンショナ機構50の作動後には、ラック56が停止し、停止位置でシリンダ60に対して固定される。この状態では、ラック56と第1のピニオン52との噛合が解除され、第1のピニオン52は回転可能な状態となり、スプール30は回転可能な状態となる。また、この状態では、ラック56と第2のピニオン54との噛合が維持され、第2のピニオン54は回転不能な状態となり、シャフト32は回転不能な状態となる。
このようにして、プリテンショナ機構50の作動後の状態では、スプール30は回転可能な状態となり、シャフト32は回転不能な状態となる。そうすると、プリテンショナ機構50の作動後の状態では、ロック機構40の作動時と同様に、シャフト32の引き出し方向R2への回転が規制されているので、シャフト32とスプール30との間に、シートベルト10の引き出し速度に応じた回転速度差ΔVが生じる。
この回転速度差ΔVに応じて、シリコンオイルLに剪断応力Fが発生し、シートベルト10に張力Tが生じる。従って、シートベルト10の引き出し速度が大きくなるほど、シートベルト10の張力Tが大きくなる。その結果、車両の前面衝突時の衝突速度(即ち、車両の減速度)が大きくなるほど、乗員を強く拘束することができる。従って、車両の状況に応じて、乗員を適切に拘束することができる。
シートベルト10に張力Tが加わると、乗員の車両前方への移動が抑制されるので、シートベルト10の引き出し速度が減速する。そうすると、スプール30の引き出し方向R2の回転が減速し、スプール30とシャフト32との間の回転速度差ΔVが小さくなる。これにより、シリコンオイルLの剪断応力Fが低下し、シートベルト10に加わる張力Tが低下する。従って、プリテンショナ機構50の作動後に、シートベルト10に過剰な張力Tが加わることを抑制することができ、乗員の身体に過剰な負荷が加わることを抑制することができる。
図8は、車両の前面衝突時のシートベルトの引き出し量と張力との関係の別の例を示す図である。ここでは、乗員としてダミー人形を用いた。図8において、第2実施形態における関係を実線で示し、第2実施形態の第1変形例における関係を二点鎖線で示し、第1実施形態における関係を点線で示す。尚、図8において、シートベルト10の引き出し量は、ロック機構40の作動開始時からの引き出し量である。
第1実施形態では、プリテンショナ機構50がなく、ロック機構40の作動開始時にシートベルト10の緩みが予め除去されていないので、点線で示すように、シートベルト10の引き出し量に対して、シートベルト10の張力Tが比較的緩やかに上昇する。
一方で、第2実施形態では、プリテンショナ機構50の作動後であってロック機構40の作動開始時にシートベルト10の緩みが予め除去されているので、実線で示すように、シートベルト10の引き出し量に対してシートベルト10の張力Tが比較的急激に上昇する。これにより、車両の緊急時に乗員を迅速に拘束することができる。
これに対し、第2実施形態の第1変形例では、第2実施形態と比較して、プリテンショナ機構50によりシートベルト10の緩みが十分に除去されていないので、二点鎖線で示すように、シートベルト10の引き出し量に対してシートベルト10の張力Tが比較的緩やかに上昇している。
以上、説明したように、本実施形態のシートベルト装置によれば、車両の緊急時にプリテンショナ機構50によりシートベルト10の緩みを除去することができる。
尚、本実施形態では、プリテンショナ機構50の作動後にロック機構40が作動するとしたが、本発明はこれに限定されない。プリテンショナ機構50の作動後には、スプール30は回転可能な状態となり、シャフト32は回転不能な状態となるので、ロック機構40が作動しなくとも、ロック機構40が作動した場合と同様の効果が得られる。
図9は、本発明の第3実施形態に係るシートベルト装置の構成を示す要部図である。以下、図9に示すシートベルト装置の構成について説明するが、図1に示すシートベルト装置と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図9に示すシートベルト装置は、シートベルト10、スプール30、ロック機構40、トーションバー70、及び慣性ウェイト80を含み構成されている。トーションバー70及び慣性ウェイト80は、クロムモリブデン鋼や鉄鋼等の金属材料を機械加工して製造されている。
先ず、トーションバー70の構成について説明する。
トーションバー70は、図1及び図2に示すシャフト32と同様に、スプール30の内側に同軸的に配置されており、例えばスプール30の軸方向一端部にてスプール30に一体に連結されている。この場合、スプール30の軸方向他端側には、上述のロック機構40が設けられている。ロック機構40は、作動すると、トーションバー70の軸方向他端部の回転を規制して、スプール30の引き出し方向R2への回転を規制する。
次に、トーションバー70の動作について説明する。
車両の前面衝突時(即ち、車両の急減速時)には、車両の衝突速度(即ち、車両の減速度)に応じた慣性力で乗員が車両前方に移動しようとし、乗員を拘束しているシートベルト10が引っ張られる。この引っ張り力に応じた引き出し方向R2への回転力は、スプール30を介してトーションバー70との連結部分、即ちトーションバー70の軸方向一端部に入力される。このとき、ロック機構40が作動してトーションバー70の軸方向他端部の回転を規制していると、基本的にトーションバー70が回転することはない。
しかしながら、トーションバー70の軸方向一端部に入力される引き出し方向R2の回転力が基準値に達すると、トーションバー70の軸方向一端部とロック機構40により回転が規制された軸方向他端部との間で塑性的に捩り変形する。この捩り変形によって、トーションバー70に連結されたスプール30が引き出し方向R2に回転し、シートベルト10の引き出しが許容される。従って、シートベルト10に過剰な張力Tが加わることを抑制することができ、乗員の身体に過剰な負荷が加わることを抑制することができる。
次に、慣性ウェイト80の構成について説明する。
慣性ウェイト80は、スプール30に同軸的に配置されている。慣性ウェイト80は、例えば、円板状に形成され、スプール30の軸方向一端側に配置されている。スプール30と慣性ウェイト80との間には、ワンウェイクラッチ機構(図示せず)が介装されている。
ワンウェイクラッチ機構は、引き出し方向R2への慣性ウェイト80の回転を許容し、巻き取り方向R1への慣性ウェイト80の回転を制限する機構である。ワンウェイクラッチ機構は、周知の構成であってよく、例えば、慣性ウェイト80側に形成されたラチェット歯又はラチェット爪と、スプール30側に形成されたラチェット爪又はラチェット歯とから構成される。
次に、慣性ウェイト80の動作について説明する。
車両の前面衝突時(即ち、車両の急減速時)には、車両の衝突速度(即ち、車両の減速度)に応じた慣性力で乗員が車両前方に移動しようとし、乗員を拘束しているシートベルト10が引っ張られる。この引っ張り力に応じた引き出し方向R2の回転力は、スプール30及びワンウェイクラッチ機構を介して慣性ウェイト80に入力される。従って、慣性ウェイト80が引き出し方向R2に受動的に回転し始める。
その後、シートベルト10の張力Tが小さくなり、シートベルト10の引き出し速度が遅くなると、スプール30の引き出し方向R2の回転速度が慣性ウェイト80の引き出し方向R2の回転速度よりも遅くなる。そうすると、ワンウェイクラッチ機構によるスプール30と慣性ウェイト80との係合状態が解除されるので、シートベルト10の張力Tが慣性ウェイト80に入力されなくなる。
図10は、車両の前面衝突時のシートベルトの引き出し量と張力との関係の別の例を示す図である。ここでは、乗員としてダミー人形を用いた。図10において、車両の衝突速度が大きい場合の第3実施形態における関係を実線で示し、車両の衝突速度が小さい場合の第3実施形態における関係を二点鎖線で示し、慣性ウェイト80及びワンウェイクラッチ機構が無い従来例における関係を点線で示す。尚、図10において、シートベルト10の引き出し量は、ロック機構40の作動開始時からの引き出し量である。
従来例では、車両の衝突速度(即ち、車両の減速度)に関わらず、シートベルト10の張力Tが基準値T0に達すると、トーションバー70が塑性変形するので、図10に点線で示すように、シートベルト10の張力Tが基準値T0を超えない。従って、乗員の身体に過剰な負荷が加わることを抑制することができる。
一方で、第3実施形態では、シートベルト10の張力Tがトーションバー70の他に慣性ウェイト80にも入力されるので、シートベルト10の張力Tが基準値T0に達してもトーションバー70が塑性変形しない。従って、図10に実線及び一点鎖線で示すように、トーションバー70が塑性変形するまで、シートベルト10の張力TはT0を超えて増加する。このため、シートベルト10の引き出し量に対してトーションバー70の塑性変形量が比較的小さく、トーションバー70の捩切れ寸法に余裕ができる。
一般に、慣性ウェイト80に入力される回転トルクは、慣性ウェイト80の角加速度に比例して大きくなる。車両の衝突速度(即ち、車両の減速度)が大きい場合、小さい場合に比較して、シートベルト10の引き出し加速度が大きいので、慣性ウェイト80の引き出し方向R2の角加速度が大きい。従って、車両の衝突速度(即ち、車両の減速度)が大きい場合、小さい場合に比較して、慣性ウェイト80に大きな回転トルクが加わることになるので、図10に実線及び一点鎖線で示すように、シートベルト10の張力Tが大きくなる。
このように、シートベルト10の引き出し加速度が大きくなるほどシートベルト10の張力Tが大きくなるので、車両の前面衝突時の衝突速度(即ち、車両の減速度)が大きくなるほど乗員を強く拘束することができる。従って、車両の状況に応じて、乗員を適切に拘束することができる。
その後、シートベルト10の張力Tが小さくなり、シートベルト10の引き出し速度が遅くなると、スプール30の引き出し方向R2の回転速度が慣性ウェイト80の引き出し方向R2の回転速度よりも遅くなる。そうすると、ワンウェイクラッチ機構によるスプール30と慣性ウェイト80との係合状態が解除されるので、シートベルト10の張力Tが慣性ウェイト80に入力されなくなる。このとき、シートベルト10の張力Tは、図10に実線及び一点鎖線で示すように、基準値T0となる。
以上、本発明の実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。