JP5341382B2 - チャカの胃排出機能抑制成分とその用途 - Google Patents

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本発明は、チャカ抽出物の新規用途および該抽出物に含まれる新規サポニン化合物またはその塩に関する。
より詳細には、本発明は、ツバキ科植物であるチャの花部であるチャカの水または含水低級アルコール抽出物および/またはこの抽出物に含まれ、胃排出機能抑制作用を有する新規サポニン化合物またはその塩に関する。
さらに詳細には、本発明は、上記の抽出物または該抽出物に含まれ、胃排出機能抑制作用を有する抽出物を含有する胃排出機能抑制用医薬組成物および該組成物が添加されてなる健康食品に関する。
ツバキ科 (Theaceae)ツバキ属 (Camellia L.)に属するチャ (Camellia sinensis、別名Thea sinensis)は、本来、熱帯および亜熱帯性の植物であるが、インド、スリランカインドネシア、中国および日本などアジアにおいて広く自生または栽培されている常緑樹である。
従来、チャの幼葉を摘んで不発酵、半発酵または発酵加工して、緑茶、ウーロン茶または紅茶などに製茶し、嗜好飲料として古くから広く日常的に愛飲されている。
また、チャの興奮作用および利尿作用は古くから知られ、中国においては、明時代の「本草綱目」に、そして我が国においては、江戸時代の「本朝食鑑」に記載されているほどである。
さらに近年、チャに関しては、主として、その葉部の成分として含まれるカテキンなどのようなポリフェノール類が、活性酸素の消去など対して有効であることが報告され、一段と注目されている。また、チャ葉には抗炎症、抗アレルギー作用を有するサポニン化合物が含まれることも報告されている(例えば、非特許文献1および特許文献1など)。
また、最近、本発明者によりチャカが、中性脂肪吸収抑制、糖吸収抑制または胃粘膜保護作用を有する新規サポニン化合物を含むことが見出されたことが報告されている(例えば、特許文献2)。
しかしながら、チャカ含有成分が胃排出機能抑制作用を有することに関してはなんら報告されていない。
特開平7-61998号公報 特開2006-70018号公報 Kitagawa I.,Hori K.,Motozawa T.,Murakami T.,Yoshikawa M.,Chem.Pharm.Bull.,46,1901-1906 (1998)
本発明は、チャカの新規用途の開発を課題とする。
本発明者は、四川省産チャカの成分およびその薬理作用を明らかにすべく研究に着手し、チャカの水または含水低級アルコール抽出物および各精製段階におけるチャカ抽出物の薬理作用を指標としてその含有成分を鋭意研究し、新規サポニン化合物を見出し、それらの化学構造を決定すると共に、チャカ抽出物および当該新規サポニン化合物の新規薬理作用についても知見を得、チャカの新規用途を確立し、上記の課題を解決する。
すなわち、本発明によれば、 次の一般式(I):
[式中、R1はβ−D−キシロピラノシル基またはα−L−ラムノピラノシル基であり、R2は水素原子またはヒドロキシ基であり、R3は水素原子またはアセチル基であり、R4は水素原子またはチグロイル基であり、R5はチグロイル基またはアンゲロイル基である]
で表されるサポニン化合物またはそれらの塩が提供される。
また、本発明によれば、前記の式(I)の化合物において、R1がα−L−ラムノピラノシル基であり、R2がヒドロキシ基であり、R3が水素原子であり、R4およびR5がチグロイル基であるサポニン化合物またはその塩が提供される。
また、本発明によれば、前記の式(I)の化合物において、R1がβ−D−キシロピラノシル基であり、R2が水素原子であり、R3がアセチル基であり、R4が水素原子であり、R5がチグロイル基であるサポニン化合物またはその塩が提供される。
また、本発明によれば、前記の式(I)の化合物において、R1がβ−D−キシロピラノシル基であり、R2がヒドロキシ基であり、R3が水素原子であり、R4がチグロイル基であり、R5がアンゲロイル基であるサポニン化合物またはその塩が提供される。
また、本発明によれば、チャカを水または含水低級アルコールで抽出して抽出液を得、この抽出液をさらに必要に応じて酢酸エチル/水およびn-ブタノール/水で分配処理して得られる有機溶媒可溶画分を含み、かつ上記のサポニン化合物またはその塩の少なくとも1つを含むことを特徴とするチャカ抽出物が提供される。
また、本発明による上記のサポニン化合物またはその塩の少なくとも1つを含むチャカ抽出物は、胃排出機能抑制作用を有するので、胃内容物を胃内部に通常より長く残留させることができる。その結果、該抽出物を摂取することにより、空腹感を感じるのが遅くなり、1日当たりの食餌摂取量を減少させることができる。
さらに、該抽出物が、摂取した糖質や脂質が胃から小腸へ移動して吸収されることを抑制、緩和することにより、II型糖尿病の原因である食後の急激な過血糖状態や高脂血症状態が改善され、糖尿病や肥満を予防できる。
したがって、本発明によれば、該抽出物を含む過食の抑制や抗糖尿病および抗肥満を意図する医薬用組成物ならびに該組成物が添加されてなる健康食品が提供される。
本発明によれば、チャカ抽出物または該抽出物に含まれるサポニン化合物またはそれらの塩の少なくとも一つを有効成分とする胃排出機能抑制用医薬組成物または該組成物を含有する健康食品が提供され、これらを安全に使用できる。
本発明において、用いられる用語「チャカ」とは、ツバキ科 (Theaceae)植物ツバキ属 (Camellia L.)に属するチャ (Camellia sinensis、別名Thea sinensis)の花部、すなわち、雌しべ、雄しべ、花弁、萼、苞葉、花軸、花柄等を含むいわゆる花、花芽および蕾などを意味する。
本発明において、チャカは、採取したものをそのまま、または乾燥して、あるいは当業者に公知の前記のいずれかの方法で製茶して用いることができる。
なお、通常、上記のチャは、主として2変種、すなわち、いわゆる緑茶製造に適する中国種var. sinensisおよび紅茶製造に適するアッサム種var. assamica (Mast.) Kitamに、またはこれらの雑種に分類されるが、本発明におけるチャカの原料としては、上記のいずれかまたはその産地が限定されるものではないが、中国四川省産のチャカが好適に用いられる。
本発明の抽出物の調製に用いられる溶媒に関して、水以外の低級アルコールとしては、炭素数1〜4のモノアルコールまたはジアルコール類が挙げられる。
具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールもしくはt-ブタノールまたはこれらの混液あるいはこれらの任意の割合における含水アルコール等が挙げられる。さらに、エタンジオール、プロパンジオールおよびブタンジオールおよびこれらの位置異性体またはこれらの混液あるいはこれらの任意の割合における含水ジアルコール等が挙げられる。
しかしながら、抽出後の濃縮などの容易性の観点から、好ましくは、水またはメタノールもしくはエタノールが用いられる。さらに好ましくは、水または含水アルコール、すなわち約80〜90%メタノールもしくはエタノールが用いられるが、本発明においては、含水アルコールは、アルコール量が特に80〜90%に限定されるものではない。
これらの抽出用溶媒は、抽出材料に対して1〜50倍 (容量)程度、好ましくは2〜10倍 (容量)程度用いられる。
なお、抽出は、熱時または室温で行うことができ、抽出温度は、室温と溶媒の沸点の間で任意に設定できる。熱時抽出の場合、例えば、50℃〜抽出溶媒の沸点の温度で、振盪 (または撹拌)下もしくは非振盪下または還流下に、チャカの花部を上記の抽出溶媒に浸漬することによって行うのが適当である。抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜5時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。また、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分〜数時間加熱還流するのが好ましい。
また、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、上記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば、2〜5回程度繰り返すのが抽出効率の点から好ましい。
固形物を、抽出後にろ別して得られる抽出液は、常法により濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、減圧下に行うのが好ましい。濃縮は抽出液が乾固するまで行ってもよい。
抽出物は、そのまま本発明の組成物を調製するのに用いてもよいが、粉末状または凍結乾燥品等として用いてもよい。これらの固形物とする方法は、当該分野で公知の方法を採用することができる。
したがって、本発明における抽出物とは、抽出液、抽出エキス、濃縮乾固物または凍結乾燥物のいずれも意味するが、本発明による抽出物は、精製せずにそのまま用いることもでき、本発明の一部を構成している。
しかしながら、本発明では、抽出液を濃縮した抽出物を、溶媒による分配抽出、すなわち、水と非水和性有機溶媒とを用いる分配抽出に単回または複数回付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
非水和性有機溶媒としては、酢酸エチル、n-ブタノール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられるが、中でも酢酸エチルが好ましい。
すなわち、チャカの水または含水低級アルコール抽出物を濃縮して得られた抽出物を、必要に応じて酢酸エチルと水を用いて分配し、酢酸エチル可溶画分と水溶性画分として得ることができる。
また、上記で得られる水溶性画分を、さらに水と非水和性有機溶媒を用いる分配抽出に付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
この場合の非水和性有機溶媒としては、n-ブタノール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられるが、中でもn-ブタノールが好ましい。
すなわち、上記の酢酸エチルと水との分配後の水溶性画分をそのままn-ブタノールとの分配に付すか、または該水溶性画分を濃縮して得られる残渣をさらに水とn-ブタノールとの分配に付し、n-ブタノール画分と水溶性画分を得ることができる。
分配抽出は、当該分野で通常行われる撹拌もしくは振盪分配法または液滴向流分配法などの常法に従って行うことができる。例えば、室温下、振盪下または非振盪下に、抽出エキスなどに対して、非水和性有機溶媒と水とを1〜10倍 (容量)程度 (1:10〜10:1)加えて行うのが適当である。
なお、上記のアルコール抽出物および各分配抽出物は、上記のいずれの段階においても、濃縮する前後に精製処理に付すことができる。
精製処理には、上記の溶媒による分配抽出以外に、当業者に公知のクロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法等を単独で、または組み合わせて採用することができる。例えば、クロマトグラフ法としては、順相もしくは逆相担体またはイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは遠心液体クロマトグラフィー等のいずれか、またはそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
本発明者は、チャカ抽出物を、上記の精製方法を組み合わせて精製すると同時に精製物の作用について検討した。
そこで、本発明者は、上記のn−ブタノール可溶性画分について、順相および逆相カラムを用いたクロマトグラフィーならびにHPLCによる精製を繰り返し、含有成分の単離を行った。
その結果、本発明者は、既知物質としてn−ブタノール可溶性画分から、お茶のサポニンであるフローラティーサポニンA、B、C、D、E、F、G、I;チャカサポニンI、II、III、アッサムサポニンE;(−)-エピカテンキン;カフェイン;芳香族化合物の1-(R)-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド、1-(S)-メチルブチル-β-D-グルコピラノシド、ベンジルβ-D-グルコピラノシド、2-O-β-グルコシル-(1R)-フェニルエチレングリコール、E-p-クマリルグルコシド、E-p-フェチュロイルグルコシド、サカリシド 1、2-メチル-5,7-ジヒドロキシクロモン 7-O-β-D-グルコピラノシドおよびイカリシド B5を既知物質として単離、同定すると共に、以下に示す3種のトリテルペン配糖体であるチャカサポニンIV、チャカサポニンVおよびチャカサポニンVIを新規サポニン化合物として、また、新規フェノール配糖体であるチャカノシドIIを単離、構造決定した。
すなわち、本発明によれば、前記の式(I)の化合物において、R1がα−L−ラムノピラノシル基であり、R2がヒドロキシ基であり、R3が水素原子であり、R4およびR5がチグロイル基であり、次の式(1):
で表される、チャカサポニンIVまたはその塩が提供される。
また、本発明によれば、前記の式(I)の化合物において、R1がβ−D−キシロピラノシル基であり、R2が水素原子であり、R3がアセチル基であり、R4が水素原子であり、R5がチグロイル基であり、次の式(2):
で表されるチャカサポニンVまたはその塩が提供される。
また、本発明によれば、前記の式(I)の化合物において、R1がβ−D−キシロピラノシル基であり、R2がヒドロキシ基であり、R3が水素原子であり、R4がチグロイル基であり、R5がアンゲロイル基であり、次の式(3):
で表されるチャカサポニンVIまたはその塩が提供される。
さらに、本発明によれば、次の式(4):
で表されるチャカノシドIIまたはその塩が提供される。
さらに、本発明者は、驚くべきことに、チャカの抽出物、サポニン分画および上記のチャカサポニンIV〜VIが胃排出機能抑制作用を有することを見出し、本発明を完成した。
上記のチャカサポニンIV〜VIの塩としては、常法によって形成される当該化合物が有しているカルボキシ基またはフェノール性水酸基とナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属との塩が挙げられる。
さらに、上記の化合物が有するエステル結合または糖結合のいずれかが常法によって部分加水分解された化合物も本発明の一部を構成する。
したがって、本発明によれば、チャカ抽出物もしくは該抽出物に含まれるサポニン含有画分またはチャカサポニンIV〜VIまたはそれらの塩の少なくとも一つを有効成分として含む医薬組成物が提供される。
すなわち、本発明によれば、チャカ抽出物または該抽出物に含まれるサポニン含有画分またはチャカサポニンIV〜VIの少なくとも一つを有効成分として含む胃排出機能抑制、ひいては過食の抑制や抗糖尿病または抗肥満用医薬組成物が提供される。
その上、本発明によれば、該組成物を含む健康食品が提供される。
本発明のチャカ抽出物、すなわち水もしくは含水アルコール抽出物、該抽出物を水と酢酸エチルで分配処理した後の水相を、さらに、n-ブタノールで分配処理したn−ブタノール可溶画分またはこれらの濃縮乾固物あるいは該抽出物に含まれるチャカサポニンIV〜VIは、そのままの状態、または適当な媒体で希釈して、あるいは医薬品の製造分野において公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等、種々の医薬品の形態に製剤化して使用することができる。
これらの医薬品形態においては、適当な媒体を添加してもよい。そのような媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤 (例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガントまたはポリビニルピロリドン)、充填剤 (例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシン)、滑沢剤 (例えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはポリエチレングリコール)、崩壊剤 (例えば馬鈴薯澱粉)または湿潤剤 (例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
錠剤は、通常の方法でコーティングしてもよい。液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤 (例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂)、乳化剤 (例えばレシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴム)、(食用脂を含んでいてもよい)非水性賦形剤 (例えばアーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのような油性エステル)、保存剤 (例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピル、またはソルビン酸)、および所望により着色剤または香料等を含んでいてもよい。
また、本発明による組成物を有効成分として食品に添加したものを健康食品として利用することができる。
健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味し、例えば、固形、半固形または液体の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記の抽出物を添加して、健康食品とすることができる。
チャカ抽出物および該抽出物が含む本発明による化合物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、例えば該抽出物の濃縮乾固物を予防・治療に用いる場合には、成人1回につき5mg〜1g程度、好ましくは10mg〜0.8g程度使用できる。また、健康食品として使用する場合には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し上記乾固物を、100mg〜10g程度の範囲で用いることができる。
以下、本発明のチャカ抽出物、式(1)〜(3)で表されるチャカサポニンVI、チャカサポニンVおよびチャカサポニンVIの精製法ならびにそれらの作用に関する実施例を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明をなんら制限するものではない。
なお、実施例では、特に記載がない限り、以下の各種溶媒、クロマトグラフィー用担体およびHPLC用カラムならびに各種分析器機を用いた:
メタノール(MeOH):ナカライテスク社製、特級
エタノール(EtOH):ナカライテスク社製、特級
クロロホルム:ナカライテスク社製、特級
酢酸エチル(AcOEt):ナカライテスク社製、特級
n-ブタノール(BuOH):ナカライテスク社製、特級
ddY系雄性マウス:紀和実験動物研究所(和歌山)
カラムクロマトグラフィー用シリカゲル (SiO2):富士シリシア化学社製、BW-200、150〜350メッシュ
カラムクロマトグラフィー用逆相シリカゲル:富士シリシア化学社製、Chromatorex ODS DM1020T、100〜200メッシュ
HPLC用ODSカラム:YMC社製、YMC-Pack ODS-A (250×20mm)
野村化学社製、Develosil C-30-UG-5
NMR:日本電子データム株式会社製(JEOL)、EX-270(270 MHz)、JNM-LA500(500 MHz)、ECA-600K(600 MHz)
IR:島津製作所社製、FTIR-8100
HPLC:島津製作所社製、検出器;示差屈折率検出器RID-6A
UV検出器SPD-10A
送液ユニット;LC-6AD
GC:島津製作所GC-14A
MS:日本電子データム社製(JEOL)、FABMS、HRFABMAS;JMS-SX 102A
EIMS、HREIMS;JMS-GCMATE
また、核磁気共鳴 (NMR)スペクトルにおいて、化学シフトδは百万分の一 (ppm)で表示し、略語はそれぞれ次の意味を有する:s:シングレット; d:ダブレット;dd:ダブルダブレット;t:トリプレット; q:クァルテット;dq:ダブルクァルテット;Ac;アセチル基;Tig:チグロイル基;Ang:アンゲロイル基。
実施例1
四川省産チャカ抽出物の調製および該抽出物含有成分の単離精製
例えば、四川省産チャ(Camellia sinensis L.)の乾燥花(1.5 kg)を、メタノールを用いてチャカ抽出物を調製し、該チャカ抽出物を精製した例を表1および以下に示す。
(1)チャカのエタノール抽出物の調製
四川省産チャ(Camellia sinensis L.)の乾燥花、すなわちチャカ(1.5 kg) をメタノール (10 L×3) で熱時抽出し、得られたメタノール抽出エキス (33.6%) を酢酸エチル(2 L)と水(2 L)で3回分配抽出した。
さらに得られた水移行部をブタノール(2 L)で3回分配操作を行い、酢酸エチル移行部 (3.3%)、ブタノール移行部 (12.7%) および水移行部 (17.6%) を得た。
ブタノール移行部を各種カラムクロマトグラム [(i) 順相シリカゲル [溶媒:CHCl3:MeOH:H2O、シリカゲルBW-200 (富士シリシア、150-350 メッシュ)] (ii) 逆相 ODS [溶媒:MeOH:H2O、Chromatorex ODS DM1020T (富士シリシア、100-200メッシュ)] (iii) 逆相 HPLC [溶媒:MeOH:H2O; (a) YMC-Pack ODS-A (ワイエムシィ) (b) Develosil C-30-UG-5 (野村化学)] を用いて繰り返し分離、精製した。
チャカの抽出および分離精製工程ならびに得られた化合物を、以下の表に示す。
(2)n-BuOH移行部の精製
BuOH移行部を順相シリカゲル、逆相ODSカラムクロマトグラフィーおよび順相、逆相HPLCで繰り返し分離精製し、3 種のトリテルペン 配糖体である新規サポニン化合物として、チャカサポニンIV (1、0.10%)、チャカサポニンV (2、0.039%)、チャカサポニンVI (3、0.034%)および 新規フェノール配糖体としてチャカノシドII (4、0.0010%) を単離、構造決定するとともに、お茶のサポニンである フローラティーサポニンA (0.17%)、B (0.29%)、C (0.77%)、D (0.13%)、E (0.032%)、F (0.77%)、G (0.24%)、I (0.063%)、チャカサポニンI (0.14%)、II (0.14%)、III (0.079%)、アッサムサポニンE (0.070%)および(−)-エピカテンキン (0.0014%)、カフェイン (0.0050%)、芳香族化合物の1-(R)-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド (0.020%)、1-(S)-メチルブチル-β-D-グルコピラノシド (0.0019%)、ベンジル β-D-グルコピラノシド (0.0016%)、2-O-β-グルコシル-(1R)-フェニルエチレングリコール (0.00016%)、E-p-クマロイルグルコシド (0.00061%)、E-p-フェチュロイルグルコシド (0.00027%)、サカリシド 1 (0.00030%)、2-メチル-5,7-ジヒドロキシクロモン 7-O-β-D-グルコピラノシド (0.0016%)、イカリシド B5 (0.00056%) を単離、同定した。
上記の既知化合物については、文献値との1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルデータの比較により同定した。なお、上記の単離成分の収率は、四川省産チャカからの単離収率である。
(3)チャカサポニンIV(1)の構造解析
チャカサポニンIV (1) は正の旋光性 ([α]D 20 +10.3°、MeOH) を示す無色微細結晶 (m.p. 204−207℃)として得られた。
IRスペクトルからカルボニル基 (1716 cm-1) およびオレフィン (1646 cm-1) の存在が示唆され、3540および1048 cm-1でのブロードな吸収が認められたことから、配糖体の存在が示唆された。
さらにMALDI-MSにおいて擬似分子イオンピークがm/z 1309 (M+Na)+に観測され、高分解能MALDI-MSから分子式C63H98O27を有する化合物であることが判明した。1の1H- (ピリジン-d5) および13C-NMRスペクトルデータ、種々の二次元NMRデータを詳細に解析した結果、1はアシル化されたオレアナン型トリテルペン配糖体であることが判明した。
1を10% KOH水溶液−50% 1,4-ジオキサン水溶液 (1:1) で加水分解するとデスアシル-フローラティーサポニンE (1a) およびチグリン酸が得られた。デスアシル-フローラティーサポニンE (1a) は標品とHPLCにて比較した。2つのチグリン酸については、それぞれp-ニトロベンジルエステル体とした後、HPLCで標品と同定した。
上記のチャカサポニンIV(1)の加水分解反応について、以下に示す。
チャカサポニンIVのNMRスペクトルを詳細に検討した結果、チグロイル基の結合位置については、HMBCスペクトルにおいて21位水素とチグロイルカルボニル炭素 (δC168.0) および22位水素とチグロイルカルボニル炭素 (δC168.1) との間にロングレンジ相関が観測されたことから決定した。
さらにこれらの糖の結合様式は1H-、13C-NMRスペクトルのアノメリックプロトンのカップリング定数及びアノメリックカーボンの化学シフト値GlcA-1'[δ4.84 (1H、J=7.6 Hz)、δc 105.5]、Gal-1"[δ5.58 (1H、J=6.8 Hz)、δc 103.3]の解析によりβ結合であること、Ara-1"'[δ6.05 (1H、J=7.2 Hz)、δc 101.0]、Rha-1""[δ5.96 (1H、br s)、δc 102.2] の解析によりα結合であることが判明した。以上の結果から、1の化学構造を21-O-チグロイル-22-O-チグロイルティーサポゲノール B 3-O-β-D-ガラクトピラノシル(1−2)[ α-L-ラムノピラノシル(1−2)- α-L-アラビノピラノシル(1−3)]- β-D-グルコピラノシドウロン酸 (1) と決定した。
上記の手法により決定した式(1)で表わされるチャカサポニンIVの構造式をその1H−、13C−NMRの測定結果およびその物理的性質とともに、以下に示す。
(3)チャカサポニンV(2)の構造解析
チャカサポニンV (2) は、負の旋光性 ([α]D 20 −12.5°、MeOH) を示す無色微細結晶 (m.p. 201−203℃)として得られた。
IRスペクトルからカルボニル基 (1714 cm-1) およびオレフィン (1647 cm-1) の存在が示唆され、3470および1048 cm-1でのブロードな吸収が認められたことから、配糖体の存在が示唆された。
さらに陽イオン-、陰イオン-FAB-MSにおいて擬似分子イオンピークがm/z 1239 (M+Na)+、m/z 1215 (M−H)-に観測され、高分解能FAB-MSから分子式C59H92O26を有する化合物であることが判明した。
またフラグメントイオンピークがm/z 1083 (M−H−C5H8O4)-、m/z 951 (M−H−C10H16O8)-、m/z 789 (M−H−C16H26O13)-に観測された。2の1H- (ピリジン-d5) および13C-NMRスペクトルデータ、種々の二次元NMRデータを詳細に解析したところ、2はアシル化されたオレアナン型トリテルペン配糖体であることが判明した。そこで、2を10% KOH水溶液−50% 1,4-ジオキサン水溶液 (1:1) で加水分解するとデスアシル-アッサムサポニンE (2a) およびチグリン酸、酢酸が得られた。
チグリン酸および酢酸については、それぞれp-ニトロベンジルエステル体とした後、HPLCで標品と同定した。デスアシル-アッサムサポニンE (2a) は標品とHPLCにて比較した。
上記のチャカサポニンV(2)の加水分解反応について、以下に示す。
チャカサポニンVのNMRスペクトルを詳細に検討した結果、チグロイル基およびアセチル基の結合位置については、HMBCスペクトルにおいて21位水素とチグロイルカルボニル炭素 (δC168.4) および22位水素とアセチルカルボニル炭素 (δC170.7) との間にロングレンジ相関が観測されたことから決定した。
さらにこれらの糖の結合様式は1H-、13C-NMRスペクトルのアノメリックプロトンのカップリング定数及びアノメリックカーボンの化学シフト値GlcA-1'[δ4.83 (1H、J=7.6 Hz)、δc 105.5]、Gal-1"[δ5.60 (1H、J=7.2 Hz)、δc 103.2]、Xyl-1""[δ4.92 (1H、J=7.6 Hz)、δc 106.6]の解析によりβ結合であること、Ara-1"'[δ5.67 (1H、J=7.6 Hz)、δc 101.5]の解析によりα結合であることが判明した。
以上の結果から、2の化学構造を21-O-チグロイル-22-O-アセチルティーサポゲノール B 3-O-β-D-ガラクトピラノシル(1−2)[β-D-キシロピラノシル(1−2)-α-L-アラビノピラノシル(1−3)]-β-D-グルコピラノシドウロン酸 (2) と決定した。
上記の手法により決定した式(2)で表されるチャカサポニンVの構造式をその1H−および13C−NMRの測定結果およびその物理的性質と共に、以下に示す。
(4)チャカサポニンVI(3)の構造解析
チャカサポニンVI (3) は負の旋光性 ([α]D 21 −7.3°、MeOH) を示す無色微細結晶 (m.p. 207−210℃)として得られた。
IRスペクトルからカルボニル基 (1718 cm-1) およびオレフィン (1647 cm-1) の存在が示唆され、3470および1048 cm-1でのブロードな吸収が認められたことから、配糖体の存在が示唆された。
さらにMALDI-MSにおいて擬似分子イオンピークがm/z 1295 (M+Na)+に観測され、高分解能MALDI-MSから分子式C62H96O27を有する化合物であることが判明した。
3 の1H- (ピリジン-d5) および13C-NMRスペクトルデータ、種々の二次元NMRデータを詳細に解析した結果、3 はアシル化されたオレアナン型トリテルペン配糖体であった。
3 を10% KOH水溶液−50% 1,4-ジオキサン水溶液 (1:1) で加水分解するとデスアシル-フローラティーサポニンB (3a) およびアンゲリカ酸およびチグリン酸が得られた。デスアシル-フローラティーサポニンB (3a) は標品とHPLCにて比較した。アンゲリカ酸およびチグリン酸については、それぞれp-ニトロベンジルエステル体とした後、HPLCで標品と同定した。
上記のチャカサポニンVI(3)の加水分解反応について、以下に示す。
チャカサポニンVIのNMRスペクトルを詳細に検討した結果、アンゲロイル基およびチグロイル基の結合位置については、HMBCスペクトルにおいて21位水素とアノゲロイルカルボニル炭素 (δC168.2) および22位水素とチグロイルカルボニル炭素 (δC167.9) との間にロングレンジ相関が観測されたことから決定した。
さらにこれらの糖の結合様式は1H-、13C-NMRスペクトルのアノメリックプロトンのカップリング定数及びアノメリックカーボンの化学シフト値GlcA-1'[δ4.90 (1H、J=7.5 Hz)、δc 105.5]、Gal-1"[δ5.70 (1H、J=6.7 Hz)、δc 103.4]、Xyl-1""[δ5.00 (1H、J=7.6 Hz)、δc 106.8]の解析によりβ結合であること、Ara-1"'[δ5.78 (1H、J=7.2 Hz)、δc 101.6]の解析によりα結合であることが判明した。以上の結果から、3 の化学構造を21-O-チグロイル-22-O-アンゲロイルティーサポゲノール B 3-O-β-D-ガラクトピラノシル(1−2)[β-D-キシロピラノシル(1−2)-α-L-アラビノピラノシル(1−3)]-β-D-グルコピラノシドウロン酸 (3) と決定した。
上記の手法により解析した式(3)で表されるチャカサポニンVIの構造式を、その1H−および13C−NMRの測定結果およびその物理的性質と共に、以下に示す。
(7)チャカノシドII(4)の構造解析
チャカノシドII (4) は負の旋光性 ([α]D 26 −31.9°、MeOH) を示す白色粉末として得られた。
IRスペクトルの解析において3414および1078 cm-1に吸収が認められたことから、配糖体の存在が示唆され、またカルボニル基 (1694 cm-1) の吸収が示唆された。
さらにFAB-MSにおいて擬似分子イオンピークがm/z 321 (M+Na)+に観測され、高分解能FAB-MSから分子式C14H18O7を有する化合物であることが判明した。
4 を1.0 M HClで酸加水分解すると構成糖として、旋光度検出器においてD-グルコースが検出された。
4 の各種NMR (D2O) スペクトルの解析により一つの芳香環、一つのカルボニル基を有することが分かり、HMBCスペクトルの解析により糖のアノメリックプロトンから2位のメチレンにロングレンジ相関が観測された。
さらに糖の結合様式は1H-、13C-NMRスペクトルのアノメリックプロトンのカップリング定数及びアノメリックカーボンの化学シフト値Glc-1'[δ4.45 (1H、J=6.9 Hz)、δc 103.2]の解析によりβ結合であることが判明した。以上のことより、4 を1-フェニル-2-O-β-D-グルコピラノシル-エタノンと決定した。
上記のチャカノシドII(4)の加水分解反応について、以下に示す。
また、上記の手法により決定した式(4)で表されるチャカノシドIIの構造式をそのH−および13C−NMRデータならびにその物理的性質とともに、以下に示す。
試験例1
チャカ抽出物の胃排出機能抑制作用
20〜24時間絶食させたddY系雄性マウス(体重約30〜40g)に被験物質を5%アラビアゴム末で懸濁させた液を経口投与(10 mL/kg)し、その30分後に0.05%フェノールレッドを含む1.5% カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を0.3 mL/匹の割合で経口投与した。
30分後に頸椎脱臼により安楽死させた後、直ちに胃を摘出し、0.1 M NaOH (10 mL) 中でホモジナイズした。1時間静置し、その上清5 mLに20%トリクロロ酢酸0.5 mLを加え撹拌した後に遠心分離(3000 rpm, 20分間)した。上清2 mLに0.5 M NaOH 2 mLを加え、560 nmにおける吸光度から胃に残存したフェノールレッドの量を求めた。
なお、胃排出能(Gastric emptying) [GE (%)] は次式から算出した。
GE (%) = [1 − (胃に残存したフェノールレッド量)/(投与したフェノールレッド量)]×100
上記の結果から、チャカのメタノール抽出物および該抽出物から得られた粗精製のサポニン含有分画は、ともに胃排出機能抑制作用を有することが判った。
さらに、チャカのメタノール抽出物よりも、サポニン含有画分の胃排出機能抑制作用は強く、また、その作用は、用量依存的に増加する傾向が見られた。
試験例2
チャカサポニンIV〜VIの胃排出機能抑制作用
次に、上記のサポニン含有画分に主に含まれていたチャカサポニンIV〜VIの各試料について、上記の試験例1と全く同様にしてそれぞれの胃排出機能抑制作用について調べた結果を以下の表に示す。
上記の結果から、胃排出機能抑制作用試験において、チャカサポニンIV、チャカサポニンVおよびチャカサポニンVIはいずれも、胃排出機能抑制作用を有し、その効果は用量依存的に顕著な胃排出機能抑制作用を示すことが判明した。
実施例2
当該分野で公知の方法に従って、本発明によるチャカのメタノール抽出物10重量部を乳糖25重量部と混合し、ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に抽出物が500 mg含有されるゼラチンカプセル剤を得た。
実施例3
実施例1で得られたn−ブタノール可溶画分を実施例2のチャカのメタノール抽出物に替えて、実施例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
本発明によるチャカ抽出物、または該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物またはその塩の少なくとも一つを有効成分とする組成物は、胃排出機能抑制作用を有するので、過食または抗肥満用組成物として安全に使用できる。

Claims (4)

  1. 次の一般式(I):
    [式中、
    1 がα−L−ラムノピラノシル基であり、R 2 がヒドロキシ基であり、R 3 が水素原子であり、R 4 およびR 5 がチグロイル基であるか;
    1 がβ−D−キシロピラノシル基であり、R 2 が水素原子であり、R 3 がアセチル基であり、R 4 が水素原子であり、R 5 がチグロイル基であるか;または
    1 がβ−D−キシロピラノシル基であり、R 2 がヒドロキシ基であり、R 3 が水素原子であり、R 4 がチグロイル基であり、R 5 がアンゲロイル基である
    で表されるサポニン化合物またはそれらの塩。
  2. 前記サポニン化合物が、以下の式(1)、(2)または(3):
    で表されるチャカサポニンIV、チャカサポニンVまたはVIである請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
  3. チャカを水または含水低級アルコールで抽出して得られる抽出液、およびこの抽出液をさらに必要に応じて酢酸エチル/水およびn−ブタノール/水で分配処理して得られる有機溶媒可溶画分に含まれる請求項1または2に記載のサポニン化合物またはその塩
  4. 請求項1〜のいずれか一つに記載のサポニン化合物またはその塩の少なくとも1つを有効成分として含むことを特徴とする胃排出機能抑制用医薬組成物。
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