以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
本発明による層状希土類水酸化物を製造するプロセスを説明する。本発明による層状希土類水酸化物は、希土類元素の塩と、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)または尿素と、水を含有する溶媒とからなる混合水溶液中のヘキサメチレンテトラミン(HMT)または尿素を分解して、希土類元素の塩を加水分解することによって得られる。便宜上混合水溶液の調製と、希土類元素の塩の加水分解とを分けて説明する。フローチャートを参照し、詳述する。
図1は、本発明による層状希土類水酸化物を製造するステップを示すフローチャートである。
ステップごとに詳述する。
ステップS110:希土類元素(以降では単にREと称する)の塩と、ヘキサメチレンテトラミン(以降では単にHMTと称する)または尿素と、水を含有する溶媒とを含む混合水溶液を調製する。
本発明において、REとは、原子番号57番のランタン(La)から原子番号71番のルテチウム(Lu)までのランタノイドと、原子番号21番のスカンジウム(Sc)と、原子番号39番のイットリウム(Y)とを意図するが、中でも、Laから原子番号67番のHoまでとYとが好ましい。これらのREであれば、格別な合成条件の改変をすることなく、本発明の層状希土類水酸化物が得られ得る。なお、後述する実施例1〜20を参照して説明するように、類似の性質を示すほとんどの希土類元素において本発明の層状希土類水酸化物が得られることから、Er、Tm、YbおよびLuにおいても、本発明の製造方法に基づいて合成条件を改変することにより、目的の層状希土類水酸化物が得られる可能性は大いにある。
REの塩は、REの硝酸塩、ハロゲン化物、過ハロゲン酸塩、炭酸塩、硫酸塩などがある。合成、入手および取扱の容易性から、これらの中でもREの硝酸塩および塩化物が、好ましい。また、後述する負に帯電した中間層(図2の220)は、REの塩から生成されるため、高い結晶性を有する層状希土類水酸化物を得る場合には、REの硝酸塩および塩化物、のような嵩高くないものが好ましい。
水を含有する溶媒とは、水(例えば、超純水)単独であってもよいし、水に加えてエタノール等の非水溶媒を用いてもよいが、少なくとも水があればよい。これは、希土類イオンが水と水和することにより、反応が促進されるためである。なお、少なくとも水があればよいため、水を含有する溶媒とともに、REの塩の水和物を用いてもよい。
HMTおよび尿素は、いずれも、分解後に混合水溶液のpHを上昇するよう機能する。好ましくは、REの塩とHMTまたは尿素とのモル比は、0.75である。この比を外れると、RE(OH)3、RE(OH)2Cl等の不純物が生成する場合がある。
混合水溶液のpHは、例えば、REが、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、HoおよびYからなる群から選択される元素である場合、5.5以上6.5以下の範囲となる。この範囲であれば、後述するステップS120により混合水溶液のpHが8〜10まで上昇し、REの塩の加水分解が促進するため、層状希土類水酸化物を確実に得ることができる。一方、REがLaである場合、混合水溶液のpHは上記範囲よりも低く、4.5以上5.5未満の範囲になるように設定することが好ましい。これは、希土類系列においてはサイズが大きくなるほど、すなわちLa側になるほど塩基性度が高まり、RE(OH)3が生成しやすい傾向があるためである。これを抑えるためにpHを低めに設定するのが層状水酸化物の生成に有効である。なお、このようなpHの調整には、例えば、HCl、HNO3等の酸を適宜加えればよい。このように選択するREに応じて、混合水溶液のpHは適宜調整される。
ステップS110において、上述の混合水溶液にアルカリ金属の塩をさらに混合してもよい。アルカリ金属の塩は、例えば、NaCl、NaNO3、KCl等であるが、これらに限定されない。これにより、REの塩の濃度が低い条件においても、合成が促進される。この結果、得られる層状希土類水酸化物のモルフォロジーまたは結晶性が向上し得る。
ステップS120:ステップS110で得た混合水溶液中のHMTまたは尿素を分解し、REの塩を加水分解する。
HMTおよび尿素は、分解されて、アンモニアを生成する。これにより混合水溶液のpHが上昇し、アルカリ性となる。その結果、REの塩が加水分解され、層状希土類水酸化物の沈殿が生じる。HMTおよび尿素は、(好ましくは加熱により)いずれも制御された速度でゆっくりとアンモニアを生成するため、核生成および結晶化に偏りがなく、粒径のそろった結晶性の高い良質な層状希土類水酸化物が得られる。
HMTおよび尿素の分解は、例えば、ステップS110で得られた混合水溶液を室温にて長時間攪拌して行われるが、効率の観点から、少なくとも70℃以上の温度で攪拌しながら加熱することが好ましい。これにより、HMTおよび尿素の分解が促進されるため、合成が効率的に進行する。30分〜1時間の加熱により結晶の生成が目視にて確認できるが、典型的には、加熱は、6時間〜10時間の間行われる。特に、8時間以上加熱すると、層状希土類水酸化物の結晶性が向上するため好ましい。また、加熱温度の上限は、用いる溶媒によって異なるが、100℃を超えない温度である。
ステップS120に続いて、得られた層状希土類水酸化物を洗浄し、室温にて乾燥させてもよい。これにより取扱の簡便な粉末状の層状希土類水酸化物を得ることができる。洗浄は、水およびエタノールで数回繰返し行われる。
上述したように、本発明の方法によれば、ステップS110において希土類元素の塩と、HMTまたは尿素と、少なくとも水とを含む混合水溶液を調製し、ステップS120において混合水溶液を攪拌または加熱攪拌により希土類元素の塩を加水分解するだけでよいので、オートクレーブ等の専用高圧装置は不要である。したがって、フラスコなどのガラス容器を用いることができるので、簡便かつ安価に層状希土類水酸化物を提供できる。さらに、既存の装置を用いることができるので、容量に特段の制限はなく、本発明の層状希土類水酸化物を大量に製造することができる。
(実施の形態2)
本発明による製造方法によって得られた層状希土類水酸化物の構造を説明する。
図2は、本発明による層状希土類水酸化物の模式図(A)および結晶構造(B)を示す図である。
本発明による層状希土類水酸化物200は、組成式RE(OH)2.5Z(1/2m)・0.125XH2O(ここで、Xは、6<X<8を満たし、Zは、後述する中間層220を構成し、かつ、実施の形態1で説明したREの塩によって生成される陰イオンであり、mは陰イオンの価数である)で表される。より詳細には、層状希土類水酸化物200は、正に帯電した[RE8(OH)20(H2O)X]4+層(またはホスト層とも呼ぶ)210と、負に帯電した中間層Zm−220との積層構造を有する。例えば、REがEuであり、ZがNO3 −であり、Xが7である場合には、Eu(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2Oとなる。
[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210において、REは、実施の形態1で説明した希土類元素である。また、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210において、湿度によって水分子の数がわずかに変化するため、Xが6〜8の範囲を有するが、完全な状態ではX=7である。
負に帯電した中間層Zm−220は、実施の形態1において用いたREの塩によって生成される。例えば、REの塩としてREの硝酸塩を用いた場合には、中間層220は、NO3 −層となり、REの塩としてREの塩化物を用いた場合には、中間層220は、Cl−層となる。ただしいずれにおいても実際には空気中から一部炭酸イオンが取り込まれる。
図2(B)に示されるように、負に帯電した中間層Zm−220が、直接REに配位していないため、中間層Zm−220は異なるアニオンと容易に交換可能である(すなわち、層状希土類水酸化物200はアニオン交換能を有する)。例えば、層状希土類水酸化物200の[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがEuであり、中間層Zm−220がNO3 −である場合、硫酸イオン(アルカリ金属の硫酸塩を含んでもよい)と層状希土類水酸化物200とを室温において接触させるだけで、層状希土類水酸化物200の積層構造を維持しつつ上述のアニオン交換が生じる。
また、本発明による層状希土類水酸化物200のモルフォロジーは、上述の層状構造を反映した板状(小板とも呼ぶ)である。詳細には、中間層Zm−220の種類に応じて(すなわち、図1のステップS110で選択されるREの塩の種類に応じて)、小板の形状が、変化することがわかっている。層状希土類水酸化物200のモルフォロジーは、例えば、中間層Zm−220がハロゲン(Cl−、Br−)の場合には矩形の板状であり、中間層Zm−220がNO3 −の場合には細長六角形の板状である。また、このようなモルフォロジーは、結晶性の程度に依存しており、結晶性が良いとエッジがシャープな形状となり、結晶性が低いとエッジがシャープでなくなる傾向がある。
さらに、本発明による層状希土類水酸化物200の結晶系は、中間層Zm−220が塩素イオンの場合には斜方晶系、詳細には単純斜方格子に属し、硝酸イオンでは単斜晶系に属することが分かっている。以上のモルフォロジーおよび結晶構造より、得られた生成物が、層状希土類水酸化物であるか否かは、簡易的には電子顕微鏡による表面観察により小板が確認されるか否か、詳細には、生成物のX線回折パターンの指数付けより判定できる。
また、REにおいて、発光特性および磁性の発現および高い触媒活性が知られている。本発明の層状希土類水酸化物200においても、アニオン交換能に加えて、含有されるREに基づく発光特性、磁性および触媒活性の発現、それを利用した応用が期待される。
次に、実施例を述べるが、本発明は実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
実施例16において、NaNO3を用いない以外は、同様の手順によって生成物を得た。得られた生成物について、実施例16と同様にXRDおよびSEMを測定した。結果を図53および54に示し、後述する。
以上の実施例1〜20の実験条件および結果を表1に示す。
XRDパターン、励起スペクトルおよび発光スペクトルの強度(カウント値)は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位である。すなわち、同一条件で測定した本実施例内でしか比較できないことに留意されたい。
図3は、実施例1の生成物のSEM像を示す図である。
図4は、実施例1の生成物のTEM像を示す図である。
図3および図4から、得られた生成物は、矩形の板状(小板)であることが確認された。また、図3から、生成物全体にわたって均一な大きさであることが分かった。図4から、矩形の小板のモルフォロジー(板厚)は、約20nm程度であった。また、矩形の小板一枚の大きさは、長手方向に約2μmであり、短手方向に約1μmであった。これらの特徴は、中間層Zm−220(図2)がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを強く示唆する。
図5は、実施例1のSAEDパターン(A)および基本単位格子と超格子との関係(B)を示す図である。
図5(A)には、輝度の異なる2組のスポット群が示されている。これは、超格子構造が形成されていることを示唆する。詳細には、六角形を形成するより明るいスポットは、六方対称の基本単位格子(af=3.7Å)に相当する。一方、矩形を形成するやや暗いスポットは、長方形超格子(as=2√3Å、af=13.1Å、bs=2af=7.4Å)に相当する。これら基本単位格子と超格子との関係を図5(B)に模式的に示す。基本単位格子(六方晶単位格子)は、希土類原子(ここではEu)の六方晶配列を示しており、ブルサイト型(Mg(OH)2)または層状複水酸化物LDH型([M2+ XM3+ 1−X(OH)2]1−X)のホスト層構造との類似性を暗示している。理想的なブルサイト構造の原子位置からのずれによって、長方形超格子が形成されていると考えられる。
図6は、実施例1の生成物のXRDパターンを示す図である。
XRDパターンは、鋭い多数の回折ピークから構成され、生成物が高い結晶性を持っていることを示す。特に低角度域の約10.6°および約21.2°の極めて強いピークは、得られた生成物が層状物質であることを暗示している。次に、実施例1の生成物の結晶構造をより詳細に調べた。
図7は、実施例1の生成物の高分解能シンクロトロン粉末X線回折(XRD)パターンを示す図である。
図7のXRDパターンに見られるピークはいずれも、斜方晶、詳細には単純斜方格子に指数付けができた。特に、001反射および002反射のピーク強度は他のピーク強度に比べて強かった。これらのピークが、図6の約10.6°および約21.2°のピークに一致することを確認した。単純斜方格子の格子定数a、bおよびcは、それぞれ、a=12.92(1)Å、b=7.38(1)Åおよびc=8.71(1)Åであった。aとbとの比は、√3に完全な一致をしなかった。これは、上述の六方対称の基本単位格子が、理想的なブルサイト構造のように完全な六方対称でないことを示唆している。
図7から得られたaおよびbは、図5(A)のSAEDパターンから得られたaおよびbに良好に一致した。このことは、図4で見られた小板が、{001}結晶面上に位置しており、図5(A)のSAEDパターンは、[001]方向、すなわちz軸に沿って撮影されたことを示す。
組成分析の結果、元素組成はEu(OH)2.36Cl0.51(CO3)0.065・0.87H2Oであることが分かった。図7のXRDパターンにおける指数付けの結果から、h=2n+1(h00の場合)およびk=2n+1(0k0の場合)の一連のピークが消滅していることが分かった。このことは、生成物の空間群がP21212であることを示唆する。また、Le Bail法による強度抽出を行った結果、空間群P21212が最も良好に一致した。以上より、生成物の空間群はP21212と結論できた。
次に、図5を参照して説明したように単位格子中に8個のEuが存在することから、Z=8とし、単位式をEu8(OH)18.88Cl4.08(CO3)0.52・6.96H2Oとした。簡単のため、炭酸イオンの電荷を水酸化物イオンに移し、単位式をEu8(OH)20Cl4・7.0H2Oとした。まず、プログラムEXPO2004を用いた直接法を適用し8個のEuの原子位置を求めた。他の軽い元素種(OH、H2O、Cl)は、最大エントロピー法のMEM/Rietveldを採用した電子密度分布解析により求めた。この結果から、層状結晶構造モデルを生成した。
図8は、層状結晶構造モデルの模式図である。
図8の左図は、[001]方向から投影した層状結晶構造モデルであり、図8の右図は、[010]方向の層状結晶構造モデルである。これらの結晶構造モデルに基づいて、RIETAN−FPプログラムから構造パラメータを精密化した。その結果、図9に示す。
図9は、実施例1における生成物のリートベルトパターンを示す図である。
図9には、実験値、計算値および差分を示す。図9に示す通り満足すべきパターンフィッティングが達成された。最終的な信頼度因子(R因子)は、Rwp=2.04%(S=0.5167)、Rp=1.52%、RI=3.98%およびRF=1.65%となった。これら極めて小さなR因子により、図8で示した層状構造モデルが妥当であることが示唆される。精密化の結果得られた構造パラメータを表2に示す。
表2において、括弧内の数字は標準偏差である。空間群をP21212とし、格子定数a、bおよびcは、それぞれ、a=12.9155(3)Å、b=7.3763(1)Åおよびc=8.7023(3)Åであった。温度因子(Biso)はいずれも、Euのサイトについては1.0Å2に、他の種のサイトについては2.0Å2に固定した。最終段階では、元素分析によって決定された元素組成にしたがって、水分子の占有率を固定した。また、Eu3のサイトは、P21212が対称心を持たない空間群であるため、直接法から得られた値で固定した。
図10は、電子密度分布を示す図である。
図10の電子密度分布解析の結果の図示化によれば、電子密度分布は、図8の層状結晶構造モデルに良好に一致した。注目すべき特徴は、中間層Cl−に相当する電子密度が、ほぼ球状分布を示していることである。これは、Cl−もまた層間において良好に配列しており、中間層アニオンが無秩序に配列することの多い他の層状複水酸化物とは異なる特徴を示す。
以上の結果から、実施例1で得られた生成物の構造が図2を参照して説明した層状希土類水酸化物であることが示された。詳細には、層状希土類水酸化物は、RE(OH)2.5Cl0.5・0.9H2Oの組成式を満たし、正に帯電した[Eu8(OH)20(H2O)7]4+層と、層間に位置する負に帯電した中間層Cl−とからなる。これにより、電荷が補償され安定化している。
次に、Euカチオンサイトの配位について説明する。Euカチオンには、8配位すなわち7つの水酸基および1つの水分子を伴う4c(0.2736, 0.2503, 0.9349)位置、ならびに、9配位すなわち8つの水酸基および1つの水分子を伴う2a(0, 0, 0.9194)サイトまたは2b(0, 0.5, 0.9324)位置の3パターンがある。
図11は、実施例1における生成物中のEuの配位環境を示す図である。
図11には、上述の3つの異なるEuサイトの配位環境を模式的に示す。いずれの配位においても、水酸基はすべて、距離2.1Å〜2.6ÅでEuと結合している。また、8配位および9配位におけるH2OとEuとの距離は、それぞれ、2.35(2)Åと、2.65(6)および2.45(5)Åとであった。これらの水酸基とH2O分子とに配位されたEuが2次元方向に連鎖して、図2の210に示すようなab面に平行な層が生成される。
理想的な面内六方晶配列からのEuの位置のずれは、SAEDの結果に良好に一致した。これは、現実の構造において六方対称の基本単位格子が実質的に認められるものの、Euの位置が[001]方向すなわちz軸方向に波打つと同時にab面でも歪んでおり、その結果、斜方晶、詳細には単純斜方超格子となっているためである。以上より、本発明の層間にClイオンを含む層状希土類水酸化物の結晶系は斜方晶に属し、詳細には、単純斜方超格子構造を有していることが分かった。
図12は、実施例1の生成物の励起スペクトル(A)および発光スペクトル(B)を示す図である。
図12(A)は、観測発光波長が612nm(5D0−7F2線)の場合の励起スペクトルであり、図12(B)は、395nm(intra−4f6直接励起)で励起した場合の発光スペクトルである。励起スペクトルは、Eu3+の4f6電子配置内のintra−4f6遷移に起因する複数の鋭いピークを示した。発光スペクトルは、578.4nm、594.6nm、612.4nm、649.0nmおよび696.8nmに、典型的な5D0−7Fj(j=0〜4)遷移を示した。5D1のようなより高い励起準位からの蛍光は検出されなかった。このことは、5D0準位へ極めて効率的に非放射緩和することを示唆する。
図12(B)の5D0−7Fj(j=0〜4)遷移の発光ピーク強度、および、これらの発光ピークの分裂を用いて、Eu3+イオンの環境を調べた。図12(B)によれば、約612nmに5D0−7F2遷移の最も強い発光ピークを示した。理論的には、Eu3+が、結晶格子において反転対称となる場合、約590nmにおける磁気双極子遷移5D0−7F1が主要な発光ピークとなり、そうでない場合には、約610nm〜620nmにおける電気双極子遷移5D0−7F2が主要な発光ピークとなる。このことから、実施例1の層状希土類水酸化物におけるEu3+は反転対称とならない、すなわち、反転中心を有していないことが示唆される。
また、図12(B)によれば、5D0−7F1遷移および5D0−7F2遷移による発光ピークは、それぞれ、3つおよび2つにピーク分裂した。このことは、Eu3+のまわりの結晶場の対称性が低いことを示唆する。これらの結果は上記結晶構造解析結果とよく符合するものであった。図11を参照して説明したように、Eu3+は、2つの局所的な配位、すなわち、点群C1における8配位の4c位置と、点群C4νにおける9配位の2aおよび2b位置とをとることが示されており、Eu3+の2つの配位(すなわち、3つの位置)のいずれも、反転中心のない低い対称性に属する。
以上、図12の励起スペクトルおよび発光スペクトルにより、典型的なEu3+の発光(赤色発光)が確認された。このことは、本発明の生成物において、RE(ここではEu)が発光中心として機能しており、蛍光材料、さらには発光デバイスに適用可能であることを示唆する。
図13は、実施例1の生成物のアニオン交換後のXRDパターンを示す図である。
図13には、参考のためアニオン交換前の試料(層間にClイオンを含む)のXRDパターンも合わせて示す。アニオン交換後の生成物のXRDパターンは、いずれも明確なピークシフトを示した。
アニオン交換前の層間距離は、8.63Åであった。一方、硝酸ナトリウム(NO3 −)および硫酸ナトリウム(SO4 2−)およびドデシル硫酸ナトリウム(C12H25OSO3 −)によるアニオン交換後の生成物の層間距離は、それぞれ、8.32Å、8.94Åおよび23.6Åに変化した。
また、アニオン交換後の生成物のXRDパターンは、いずれも、鋭い回折ピークを維持しており、アニオン交換時のプロセスによっても高い結晶性が維持されることが分かった。
図14は、実施例1の硝酸ナトリウム(NO3 −)によるアニオン交換後の生成物のSEM像を示す図である。
図15は、実施例1の硫酸ナトリウム(SO4 2−)によるアニオン交換後の生成物のSEM像を示す図である。
図16は、実施例1のドデシル硫酸ナトリウム(C12H25OSO3 −)によるアニオン交換後の生成物のSEM像を示す図である。
図3の実施例1のアニオン交換前の生成物のSEM像と、図14〜図16のSEM像とを比較すると、アニオン交換後の生成物も、アニオン交換前の生成物における矩形の小板のモルフォロジーを維持していることが分かった。このことからも、アニオン交換時のプロセスによっても高い結晶性および結晶構造が維持されることが示される。
図17は、実施例1のアニオン交換後の生成物のFT−IR吸収スペクトルを示す図である。
図17には、参考のためアニオン交換前の生成物のFT−IR吸収スペクトル(a)も合わせて示す。いずれのスペクトル(a)〜(d)も、約3500cm−1、約1650cm−1および約620cm−1に吸収帯を示した。約3500cm−1の吸収帯は、O−H結合、ν(OH)の伸縮振動に起因し、結晶中に金属−OH層による水酸化物イオンが存在することを示唆する。約1650cm−1の吸収帯は、水分子の伸縮・変角モードに起因する。約620cm−1の吸収帯は、Eu−Oの伸縮/変角振動に起因する。
また、図17のFT−IR吸収スペクトルは、中間層Zm−の種類に起因する吸収帯も示した。詳細には、硝酸ナトリウム(NO3 −)によるアニオン交換後の生成物のFT−IR吸収スペクトル(b)は、1385cm−1および1410cm−1に鋭く強い吸収を示した。これらは、それぞれ、NO3 −アニオンのD3h、ν3振動モード、および、O−NO2のC2ν、ν4非対称伸縮モードに起因する。これらの吸収帯は、反応前のスペクトル(a)には見られなかった。
硫酸ナトリウム(SO4 2−)によるアニオン交換後の生成物のFT−IR吸収スペクトル(c)は、SO4 2−に起因する1120cm−1に吸収を示した。この吸収帯は、スペクトル(a)には見られなかった。
ドデシル硫酸ナトリウム(C12H25OSO3 −)によるアニオン交換後の生成物のFT−IR吸収スペクトル(d)は、2920cm−1および2850cm−1に強い吸収を、2958cm−1、1470cm−1および1300cm−1〜900cm−1に比較的弱い吸収を示した。2920cm−1および2850cm−1の吸収は、それぞれ、ドデシル硫酸塩のアルキル鎖における非対称CH2伸縮振動および対称CH2伸縮振動に起因する。また、2958cm−1における比較的弱い吸収は、炭化水素の末端基であるCH3基の伸縮振動に起因する。1470cm−1近傍における比較的弱い吸収は、CH2変角(またはscissor)モードに起因する。さらに、1300cm−1〜900cm−1における一連の弱い吸収は、硫酸塩(OSO3 −)の伸縮モードに起因する。これらの吸収帯は、スペクトル(a)には見られなかった。
このように、本発明の生成物は、室温にて容易にアニオン交換可能であるとともに、アニオン交換後も高い結晶性および結晶構造(層状構造)を維持することが分かった。以上の結果は、図2を参照して説明したように、中間層220(ここではCl−層)は、カウンターアニオンとして機能することを示している。本発明の生成物をアニオン交換材料として用いれば、室温にて高効率でアニオン交換が可能であることが示唆される。
図18は、実施例2の生成物のXRDパターンを示す図である。
図18のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、約10.6°および約21.2°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例2の生成物は、Y(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、図2の[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがYであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図19は、実施例2の生成物のSEM像を示す図である。
図19から、中間層Zm−220(図2)がCl−である層状希土類水酸化物に典型的な矩形の小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図20は、実施例3の生成物のXRDパターンを示す図である。
図20のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、約10.6°および約21.2°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例3の生成物は、Sm(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがSmであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図21は、実施例3の生成物のSEM像を示す図である。
図21より、実施例3の生成物のモルフォロジーは、実施例1の生成物のモルフォロジーと類似しており、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物に典型的な矩形の小板が、生成物全体にわたって均一に得られた。このことからも、層状希土類水酸化物が単相で得られたことが示唆される。
図22は、実施例4の生成物のXRDパターンを示す図である。
図22のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、約10.6°および約21.2°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例4の生成物は、Gd(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがGdであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図23は、実施例4の生成物のSEM像を示す図である。
図23より、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物に典型的な矩形の小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図24は、実施例5の生成物のXRDパターンを示す図である。
図24のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、約10.6°および約21.2°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例5の生成物は、Tb(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがTbであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図25は、実施例5の生成物のSEM像を示す図である。
図25より、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物に典型的な小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図26は、実施例5の生成物の励起/発光スペクトルを示す図である。
図26には、観測発光波長が543nmの場合の励起スペクトルと、252nmで励起した場合の発光スペクトルが示される。典型的なTb3+の発光(緑色発光)が、5D4−7F5遷移による543mに確認された。本発明の生成物において、RE(ここではTb)が発光中心として機能しており、蛍光材料、さらには発光デバイスに適用可能であることを示唆する。
図27は、実施例6の生成物のXRDパターンを示す図である。
図27のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、約10.6°および約21.2°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例6の生成物は、Dy(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがDyであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図28は、実施例6の生成物のSEM像を示す図である。
図28より、サイズは不均一であるものの、層状希土類水酸化物に典型的な小板が凝集したモルフォロジーが示される。また、一部形状が崩れているもの、その形状は矩形であった。このことからも、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図29は、実施例7の生成物のXRDパターンを示す図である。
図29のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、約10.6°および約21.2°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例7の生成物は、Ho(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがHoであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図30は、実施例7の生成物のSEM像を示す図である。
図30より、一部形状が崩れているものの、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物に典型的な矩形の小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図31は、実施例8の生成物のXRDパターンを示す図である。
図31のXRDパターンは、図6のXRDパターンと同様に、実施例1と同様に、約10.6°および約21.2°に層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)に典型的なピークを示したが、Nd(OH)3を示すピークも一部認められた。このことから、実施例8の生成物は、Nd(OH)2.5Cl0.5・0.9H2OとNd(OH)3との混合物であることがわかった。構造精密化の結果、Nd(OH)3の生成量は10%以下であり、Nd(OH)2.5Cl0.5・0.9H2Oが主生成物であることがわかった。
図32は、実施例8の生成物のSEM像を示す図である。
図32には、層状希土類水酸化物に典型的な小板が凝集したモルフォロジーに加えて、針状の小片も示される。特に、小板の形状は矩形であった。このことからも、実施例8の生成物は、Nd(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O(矩形小板モルフォロジー)とNd(OH)3(針状モルフォロジー)との混合物であることが示唆される。以上より、完全な単体ではないものの、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがNdであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことが分かった。
図33は、実施例9の生成物のXRDパターンを示す図である。
図33によれば、La(OH)3に相当するピークが主として検出されたが、わずかながら約10.6°および約21.2°に層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)に典型的なピークが見られた。このことから、実施例9の生成物は、主としてLa(OH)3であるものの、La(OH)2.5Cl0.5・0.9H2Oも含むことが分かった。完全な単体ではないものの希土類元素REのうちLa、Nd(実施例8を参照)、Sm(実施例3を参照)において、本発明の層状希土類水酸化物が得られることから、周期律表のLaとSmとで挟まれたCe、PrおよびPmについても本発明の方法を採用すれば、層状希土類水酸化物が得られることが期待される。
図34は、実施例10の生成物のXRDパターンを示す図である。
図34によれば、いずれのXRDパターンも、図24に示される実施例5と同様のXRDパターンであった。このことから、実施例10の生成物は、Tb(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがTbであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。以上より、アルカリ金属の塩を追加することなく、層状希土類水酸化物が得られることが示された。
さらに、図34のTbCl35mMから得られた生成物のXRDパターンのピーク強度は、図24に示されるXRDパターンのピーク強度よりも低いことが分かった。このことから、同じTbCl3モル濃度を用いた場合、アルカリ金属の塩(実施例5ではNaCl)を加えることによって、結晶性が向上することが示された。しかしながら、TbCl310mM以上の高濃度の塩を用いた場合、アルカリ金属の塩を加えることなく、結晶性のよい良質な層状希土類水酸化物が得られることを確認した。以上より、図1のステップS110におけるREの塩として10mM未満の比較的低濃度の塩を採用する場合には、アルカリ金属の塩を加えるこが望ましいことが示唆される。
図35は、実施例11の生成物のXRDパターンを示す図である。
図35のXRDパターンは、図24に示される実施例5と同様のXRDパターンであった。このことから、実施例11の生成物は、Tb(OH)2.5Cl0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがTbであり、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。以上より、アルカリ金属の塩を追加することなく、かつ、溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いても、層状希土類水酸化物が得られることが示された。
図36は、実施例12の生成物のXRDパターンを示す図である。
図36のXRDパターンは、図24に示される実施例5と同様のXRDパターンであった。このことから、実施例12の生成物は、Tb(OH)2.5Br0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがTbであり、中間層Zm−220がBr−である層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図37は、実施例12の生成物のSEM像を示す図である。
図37より、一部無定形形状を示す部分を含むものの、中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物に典型的な矩形の小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。以上より、図1のステップS110においてREの塩として塩化物に替えて臭化物を用いても、層状希土類水酸化物が得られることが示された。また、中間層Zm−220がハロゲンである層状希土類水酸化物のモルフォロジーは、矩形の板状であることが示唆される。
図38は、実施例13の生成物のXRDパターンを示す図である。
図38のXRDパターンには、図6のXRDパターンと同様に、9.8°および19.7°の強いピークに加えて、多数の鋭い回折線が見られた。このパターンの指数づけを行ったところ、本化合物は単斜晶であり、格子定数としてa=12.800(7)Å,b=7.692(8)Å,c=9.002(9)Åおよびβ=94.65(9)°が得られた。a軸およびb軸の長さが塩素型化合物(すなわち中間層Zm−220がCl−である層状希土類水酸化物)のそれと非常によく一致することから、本化合物は塩素型化合物と同一のホスト層を有していることが強く示唆される。層間イオンが硝酸イオンに変わったことの影響によりホスト層の積層様式が変化し、単斜晶構造をとると理解される。このことから、実施例13の生成物は、Eu(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがEuであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図39は、実施例13の生成物のSEM像を示す図である。
実施例13の生成物のモルフォロジーは、層状希土類水酸化物に典型的な板状であり、生成物全体にわたって均一に得られた。このことからも、層状希土類水酸化物が単相で得られたことが示唆される。なお、板状の形状は、中間層Zm−220がハロゲンの場合と異なり、細長六角形であった。以上より、図1のステップS110においてREの塩としてハロゲン化物に替えて硝酸塩を用いても、層状希土類水酸化物が得られることが示された。また、中間層Zm−220の種類によって結晶対称性ならびに板状の形状が異なることが示唆される。
図40は、実施例13の生成物の励起/発光スペクトルを示す図である。
図40には、観測発光波長が612nmの場合の励起スペクトルと、395nmで励起した場合の発光スペクトルが示される。図12を参照して説明したように、典型的なEu3+の発光が、5D0−7F2遷移による543mに確認された。本発明の生成物において、中間層がCl−に替えてNO3 −である場合も、RE(ここではEu)が発光中心として機能しており、発光デバイスに適用可能であることを示唆する。
図41は、実施例14の生成物のXRDパターンを示す図である。
全体的なピーク強度は低いものの、図38のXRDパターンと同様に、9.8°および19.7°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例14の生成物は、Sm(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であることがわかった。
図42は、実施例14の生成物のSEM像を示す図である。
図42には、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物に典型的な細長六角形の小板が凝集したモルフォロジーに加えて、一部に不純物と考えられる針状の小片が確認された。以上より、不純物を含む可能性はあるものの、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがSmであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物がほぼ単相で得られたことが分かった。
図43は、実施例15の生成物のXRDパターンを示す図である。
図43のXRDパターンは、図38のXRDパターンと同様に、9.8°および19.7°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例15の生成物は、Gd(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがGdであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図44は、実施例15の生成物のSEM像を示す図である。
実施例15の生成物のモルフォロジーは、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物に典型的な細長六角形の小板が、生成物全体にわたって均一に得られた。このことからも、層状希土類水酸化物が単相で得られたことが示唆される。
図45は、実施例16の生成物のXRDパターンを示す図である。
図45のXRDパターンは、図38のXRDパターンと同様に、9.8°および19.7°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例16の生成物は、Tb(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがTbであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図46は、実施例16の生成物のSEM像を示す図である。
実施例16の生成物のモルフォロジーは、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物に典型的な細長六角形の小板が、生成物全体にわたって均一に得られた。このことからも、層状希土類水酸化物が単相で得られたことが示唆される。
図47は、実施例17の生成物のXRDパターンを示す図である。
図47のXRDパターンは、図38のXRDパターンと同様に、9.8°および19.7°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例17の生成物は、Dy(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがDyであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図48は、実施例17の生成物のSEM像を示す図である。
図48から、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物に典型的な細長六角形の小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図49は、実施例18の生成物のXRDパターンを示す図である。
図49のXRDパターンは、図38のXRDパターンと同様に、9.8°および19.7°の強いピークに加えて、他のピークすべてが層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)のピークに一致した。このことから、実施例18の生成物は、Ho(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがHoであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。
図50は、実施例18の生成物のSEM像を示す図である。
図50から、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物に典型的な細長六角形の小板が凝集したモルフォロジーが示される。このことからも、層状希土類水酸化物が得られたことが示唆される。
図51は、実施例19の生成物のXRDパターンを示す図である。
図51によれば、Nd(OH)3に相当するピークが検出されたが、わずかながら9.8°に層状希土類水酸化物(RE(OH)2.5Z0.5・0.9H2O)に典型的なピークが確認された。
図52は、実施例19の生成物のSEM像を示す図である。
図52によれば、生成物は全体的に針状のモルフォロジーであった。このことから、実施例19の生成物の大部分はNd(OH)3であることが示される。以上より、実施例19の生成物は、Nd(OH)3を主生成物とするものの、わずかながらNd(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2Oの層状希土類水酸化物が得られていることが示唆される。
図53は、実施例20の生成物のXRDパターンを示す図である。
図53に示されるXRDパターンは、図45に示す実施例16のXRDパターンとほぼ同一であった。このことから、実施例20の生成物は、Tb(OH)2.5(NO3)0.5・0.9H2O単相であり、詳細には、[RE8(OH)20(H2O)X]4+層210においてREがTbであり、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物が得られたことを示している。以上より、アルカリ金属の塩(実施例16ではNaNO3)を追加することなく、層状希土類水酸化物が得られることが示された。
図54は、実施例20の生成物のSEM像を示す図である。
図54によれば、不均一ながらも、中間層Zm−220がNO3 −である層状希土類水酸化物に典型的な細長六角形の小板のモルフォロジーを示した。図54と図46とを比較すると、図46に示される生成物のモルフォロジーは、図55のそれと比較して、より均一な細長六角形の小板であることが分かった。このことから、同じTbNO3モル濃度を用いた場合、アルカリ金属の塩(実施例16ではNaNO3)を加えることによって、生成物のモルフォロジーが向上することが示された。
以上の実施例により、希土類元素REのハロゲン化物および硝酸塩について層状希土類水酸化物が合成されることを示してきた。特に、実施例1〜実施例7および実施例13〜実施例18によれば、本発明の方法を採用すれば、所定の割合で希土類元素REの塩(中でも、Y、Sm、Eu、Gd、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された元素)とHMTとを超純水に溶解し、得られた混合水溶液を加熱するだけで、本発明の層状希土類水酸化物が単相で容易に得られることが分かった。生成物がRE(OH)3等の第二相を含む場合は、製造条件(pH、モル濃度等)を調整することによって、層状希土類水酸化物を単相で得られ得る。また、本発明の層状希土類水酸化物の発光特性および室温でのアニオン交換能を確認した。