本発明に係る一実施形態について、図1〜図9を参照して以下に説明する。
(煙感知器1の構成)
まず、本実施形態に係る煙感知器1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、煙感知器1の構成図である。この図に示すように、煙感知器1は、煙導入部2、発光素子4、受光素子6、判定部8、および通知部10を備えている。
煙導入部2はさらに、ラビリンス部12と、検知室14とを備えている。ラビリンス部12は煙を外気より導入する。ラビリンス部12は、煙を効率的に導入するような、また煙に混入した異物をできる限り導入しないような形状となっている。ラビリンス部12から導入した煙は検知室14に導入される。検知室14は、煙を滞留および通過させる暗室であり、煙濃度が0の場合にできる限り受光素子6に光が入射したり、迷光が発生したりしないような種々の工夫が施されている。
発光素子4はさらに、発光部16と、LED駆動電流供給部18とを備えている。発光部16は、検知室14に光を照射するものであり、一般的にはLED(発光ダイオード)が用いられる。本実施形態においては発光部16はLEDである。LED駆動電流供給部18はドライバ回路であり、電流を供給することによって発光部16すなわちLEDを駆動する。
受光素子6はさらに、受光部20と、増幅回路IC部22とを備えている。受光部20は、発光部16から照射され、ラビリンス部12および検知室14内において反射および散乱した光を受光し、受光した光を電流に変換する。本実施形態においては、受光部20はフォトダイオードである。増幅回路IC部22は、受光部20が変換した電流を電圧に変換する電流電圧変換抵抗24および電流電圧変換アンプ26と、変換した電圧を増幅して生成した受光信号Sを判定部8に出力する増幅アンプ28とを備えている。以上により、受光素子6は、受光量に応じた受光信号を生成し、判定部8に出力する。
判定部8は、例えばワンチップマイクロコンピュータであり、受光素子6から受信した受光信号を処理演算すなわち信号演算することによって補正する補正部30を備えており、補正部が補正した受光信号に基づいて煙の有無を判定する。そして、判定結果に基づいて、通知部10に判定信号を出力する。また、判定部8は、過去の受光信号の平均値を求める平均値算出部32と、過去の受光信号の平均を求める際に、対象となる受光信号が測定された時間を設定する所定時間設定部34と、発光素子のパルス幅を制御するパルス幅制御部36と、受光信号Sの値を記憶する記憶部38とを備えている。各部材の詳細については後述する。また、判定部8は各構成要素を制御する。
通知部10は、判定部8による判定結果を外部に通知する。例えば、LEDの発光または音声の出力によって煙の有無を通知する。
(煙感知器1における煙有無判定の概要)
次に、煙感知器1における煙有無判定処理の概要について説明する。
煙感知器1においては、発光素子4から照射され、ラビリンス部12または検知室14内において反射および散乱した光を受光した受光素子6が受光量に応じた受光信号Sを生成する。そして、判定部8は、補正部30が信号演算することによって補正した受光信号Sに基づいて煙の有無を判定する。
発光素子4から照射される光は指向性を有しており、また光軸と受光素子6の位置とは一致していない。このため、煙濃度が0または少ない場合、すなわちラビリンス部12または検知室14内における光の反射および散乱が少ない場合には、受光素子6に入射する光量が少なくなり、受光信号Sも小さくなる。これとは反対に、煙濃度が高い場合には、受光信号Sは大きくなる。
判定部8は、最新の受光信号Snowと、予め記憶している基準値である受光信号Sstdとの差分、すなわち受光信号の増加分dS=Snow−Sstdを計測する。そして、当該差分dSが判定値として予め記憶している判定レベルである受光信号Sthよりも大きい場合に煙が有ると判定し、この判定に基づいた判定信号を通知部10に出力する。なお、煙があると判定する際の煙濃度の基準値をDsmthとすると、煙感知器1は、煙濃度が煙濃度Dsmthよりも大きい場合に煙が有ると判定する。
(煙感知器1の処理の詳細)
次に、煙感知器における煙判定処理の詳細について図2を参照して説明する。図2は、煙濃度Dsmと、受光素子6が生成した受光信号Sとの関係を示すグラフである。
図2に示すように、煙濃度Dsmが0の場合においても、ラビリンス部12または検知室14内における迷光が受光部20に入射するため一定の受光信号Sが出力される。この煙濃度Dsmが0の場合における受光信号Sは、発光部16から照射される光の発光量Pに比例する。このため、煙濃度Dsmが0の場合における受光信号Sは、発光量Pに比例係数Bを乗算した数式B×Pと表すことができる。
煙濃度Dsmが上昇すると、受光信号Sも比例して上昇する。このため、煙濃度Dsmと受光信号Sとの関係は、比例係数Aを用いて、A×P×Dsmと表すことができる。以上のことから、発光量Pにおける受光信号Sは次式によって表される。
数式1におけるA×P×Dsmすなわち煙流入に起因する受光信号をSsm、また、煙濃度Dsmが0の場合における受光信号B×PをS0とすると、数式1は次式によって表される。
また、一般的に、煙の有無を判定するために最新の受光信号Snowが用いられる。また、基準値Sstdとして煙感知器の稼働直後(生産段階における初期調整完了直後)の煙が無い状態における受光信号Sini0が用いられる。これを上述した式dS=Snow−Sstdに適用すると、煙が有ると判定される条件は、判定レベルである受光信号Sthを用いた次式によって表される。
ここで、Snowを数式1を用いて示すと次式が成り立つ。
また、Siniを数式1を用いて示すと次式が成り立つ。
なお、nowは最新の状態、iniは煙感知器の稼働直後の状態を示す添字である。
これらを数式3に適用すると次式が成り立つ。
また、比例係数AおよびB並びに発光量Pに変化が無いと仮定すると次式が成り立つ。
この数式7を数式6に適用すると数式8および数式9が同時に成り立つ。
この数式8および数式9を用いて、煙の流入に起因する光の反射および散乱に基づいた最新の受光信号Ssmnowを判定レベルSthと比較することによって、煙感知器1は煙の有無を判定する。また、数式8および数式9は同時に成立することから、煙感知器1の稼働直後から現在までの煙濃度Dsmnowに対して一定の受光信号すなわちSsmnow=Ssminiが得られる。
また、このような煙感知器1においては、判定レベルSthを一定に保つこと、および数式6を保つことが重要である。これらを維持できれば煙濃度判定の精度を保つことができる。
まず、数式8におけるSthを一定に精度よく生産するためには、比例係数Aの初期値Ainiおよび発光量Pの初期値Piniを調整することにより実現することができる。しかしながら、上述したように、電流のピーク値を調整することによる発光量Piniの調整は誤作動の原因となるし、ボリューム抵抗により受光素子の感度を変更するAiniおよびBiniの調整はコスト増になる。次に、数式7が保てないことによる誤作動について説明する。
例えば、発光量Pの経時変化における係数をCとして、比例係数Aおよび比例係数Bには変動が無いとする。この場合には、Pnow=C×Pini、Aini=Anow、およびBini=Bnowが成り立つ。これを数式6に適用すると次式が成り立つ。
数式10を数式8および数式9と比較すると、第1項に乗じた係数Cが誤差となる。
一方、発光量Pおよび比例係数Aに変動が無く、比例係数Bの変動における係数をDとすると、Pnow=Pini、Aini=Anow、およびBnow=D×Biniが成り立つ。これを数式6に適用すると次式が成り立つ。
数式11を数式8および数式9と比較すると、(D−1)×Bini×Piniが誤差となる。数式10および数式11において生じた誤差により、煙感知器1は、当初に設定した、検知したい煙濃度に達しても煙が有ることを検知できなかったり、一方、検知したい煙濃度に達する前に煙有りと検知したりしてしまう。
次に、数式10および数式11における受光信号Sの誤差の例を図3および図4を参照して説明する。
図3は、数式10における誤差すなわち発光量Pの経時変化による誤差を説明するグラフである。発光量Pが、上述したようにC×Pに変動すると、一般的にC<1であるため、図3の点線グラフに示すように、実線に示した数式1のグラフよりも煙濃度Dsmが0の場合における受光信号Sが小さくなり、かつ数式1におけるグラフよりもグラフの傾きがなだらかになる。
この図3の点線のグラフに対応して示した数式に、初期値iniおよび最新nowを示す添字を適用すると数式10の右辺第1項となる。この結果、受光信号Snowが判定レベルSthに到達する時の煙濃度はDsmthからDsmth2に変動してしまう。したがって、本来火災を検知するべき煙濃度Dsmthが生じても、判定レベルSthに受光信号が達しないため、火災を検知することができない。なお、C<1としたのは、発光量の経時変化は、一般的に発光素子の劣化が主たる要因であるため、発光量が減るように通常は変化するからである。
次に、数式11における受光信号Sの誤差の例を図4に示す。図4は、数式11における誤差すなわち異物または埃の混入による比例係数Bの変動による誤差を説明するグラフである。比例係数Bが、上述したようにD×Bに変動すると、一般的にD>1であるため、図4の点線のグラフに示すように、実線に示した数式1におけるグラフよりも、煙濃度Dsmが0の場合における受光信号Sが大きくなる。
この図4の点線のグラフに対応して示した数式に、初期値iniおよび最新nowを示す添字を適用すると数式11の右辺第1項となる。この結果、受光信号Snowが判定レベルSthに到達する時の煙濃度はDsmthからDsmth3に変動してしまう。したがって、本来火災を検知するべきでない煙濃度Dsmthに達する前に、判定レベルSthに受光信号が達するため誤作動して火災を検知してしまう。なお、D>1としたのは、検知室14内の初期状態においては、迷光による受光信号B×Pが極力低く抑えられる構造になっており、異物または埃によりB×Pが変動する場合には、低く抑えられていた受光信号が大きくなるように通常は変動するからである。
以上説明したように、数式10および数式11における受光信号Sの誤差によって、煙感知器1による煙検知の精度が悪くなる。ここで数式10および数式11を参照すると、数式10および数式11の右辺第1項は最新の受光信号Snowであり、また第二項は煙感知器1の稼働直後における煙無し状態の受光信号Siniである。このため、数式10の第1項の係数Cおよび数式11の第1項の係数Dに起因する変動が、数式8および数式9との差異になることがわかる。したがって、係数CおよびDを検出し、数式10および数式11における右辺第1項すなわち最新の受光信号Snowを補正することによって、数式8および数式9に変換することができる。係数CおよびDは、図3および図4に従えば、煙濃度Dsmが0における受光信号Sの変動を確認することによって検出できる。
すなわち、煙感知器1の稼動直後のDsmが0における受光信号SiniすなわちBini×Piniと、現在稼動時のDsmが0における受光信号S0すなわちBnow×Pnowを比較することによって係数CおよびDを検出できる。そして、検出した係数CおよびDに基づいて、最新の受光信号Snowすなわち数式10および数式11の右辺第1項を補正することによって、数式8および数式9を得ることができる。
数式10および図3において、発光量Pは、C×Pであるから次式が成り立つ。
数式12から次式が成り立つ。
数式13において、Sini0とS0とから係数Cを得ることができる。そして、数式10の右辺第1項に1/C=Sini0/S0を乗ずると次式が成り立つ。
以上のように、数式14から数式9を得ることができる。すなわち、数式10の右辺第1項SnowにSini0/S0を乗じることによって、図3で生じた発光量Pの変化によるDsmthからDsmth2への変動を補正することができる。つまり、図3における実線のグラフに戻すことができる。
また、数式11および図4において、比例係数BはB×Dであるから次式が成り立つ。
ここでPnow=Piniとすると数式15から次式が成り立つ。
数式16より、Sini0とS0とからDを得ることができる。
また、次式が成り立つ。
数式17を、数式11の右辺第1項より減ずると次式が成り立つ。
以上のように、数式18から数式9を得ることができる。
以上のことから、数式11の右辺第1項SnowからS0−Sini0を減ずることにより、図4で生じた比例係数Bの変動によるDsmthからDsmth3への変動を補正することができる。すなわち図4における実線のグラフに戻すことができる。
次に、Dsmthの変動要因を想定した補正について図5を参照して説明する。図5は、煙濃度Dsmが0の場合に、煙感知器1の補正部30がS0≦Sini0と認識した場合、またS0>Sini0と認識した場合各々における補正を説明する図である。
上述したように、発光量Pの変化Cについては、一般的にC<1が成り立つ。C<1が成り立つ場合には、数式13からS0≦Sini0が成り立つ。S0≦Sini0が成り立つということは、煙感知器の稼働中の煙が無い状態における受光信号S0が煙感知器の稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0よりも小さいということである。以上のことに基づくと、S0≦Sini0である場合には、発光量Pが少ないほうに変化した可能性が極めて高いといえる。以上のことから、補正部30がS0≦Sini0であると認識した場合には、数式14において説明したようなSnowにSini0/S0を乗ずる補正をすることが好ましい。
また、上述したように、異物または埃の混入による係数Dの変動については、一般的にD>1が成り立つ。D>1が成り立つ場合には、数式16からS0>Sini0が成り立つ。S0>Sini0が成り立つということは、煙感知器1の稼働中の煙が無い状態における受光信号S0が煙感知器1の稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0よりも大きいということである。以上のことから、S0>Sini0である場合には、異物または埃の混入により係数Dが変動した可能性が極めて高いといえる。以上のことから、補正部30がS0>Sini0と認識した場合には、数式18において説明したように、SnowからS0−Sini0を減ずる補正をすることが好ましい。
以上説明したように、補正部30は、S0とSini0とを比較し、比較結果に応じて受光信号Snowを精度良く補正することができる。これにより、Dsmthの変動を補正することができる。
また、補正部30は、稼働時の煙濃度が0における受光信号S0を得られなくとも、受光信号Snowを補正することによって、Dsmthの変動を補正することができる。すなわち、この場合には、判定部8が備える平均値算出部32が、過去の火災が発生していない状態である煙濃度が0の際の受光信号Sの平均値を算出する。補正部30は、現在の受光信号S0を得ることが困難である場合に、平均値算出部32が算出したこの値を受光信号S0として用いることができる。これにより、補正部30は上述した補正をすることができる。また、平均値を取るため、突発的なノイズの影響を受けた受光信号の変動等に大きく影響されることはない。
また、平均値を取る対象となる過去の時間をユーザは設定することができる。具体的には、ユーザは所定時間設定部34に入力することにより時間を設定する。これにより、例えば平均値を取る対象となる時間を短くすることによって、それ以前の時間に高い発生確率において起こると予想される変動要因の影響を受けないようにすることができる。このような変動要因としては、例えば、発光素子の発光量が1年後に約半分になること、または異物混入と同じタイミングにおいて一日周期で検知室内に露が発生することなどが考えられる。すなわち、平均値を取る対象となる時間を任意に設定することによって、予測される変動要因に対応した補正をすることができる。
また、上述した例においては、最新の受光信号Snowを補正した。しかしながら、判定レベルである受光信号Sthまたは初期の受光信号Siniそのものを補正することにより、結果として数式8および数式9を得るようにしてもよい。
また、上述した例においては、煙有無の判定に最新の受光信号Snowを、また基準値Sstdとして受光信号Sini0を一定値として用いた。しかしながら、本発明はこれに限定されない。すなわち、S0およびSini0を補正演算することによって、数式10および数式11などにおける上述した誤差を補正してSnowに適用できれば良い。これにより、例えば、Snowを温度を考慮して補正した値を用いることも可能である。また、SstdをSnowと無関係の一定値にすることも可能である。
また、大量生産される煙感知器1において、煙感知器1各々間における受光信号が煙有無の判定レベルSthに達する煙濃度Dsmthを一定にすることが好ましい。すなわち、一定の煙濃度において煙有りを判定することが望ましい。煙感知器1間におけるDsmthのバラツキの要因としては、各機器間の発光部16における発光量Pのバラツキ、受光素子6において光を受光信号に変換する際における変換効率のバラツキ、およびラビリンス部12内における迷光分布のバラツキ等が考えられる。
この種々のバラツキを要因とするDsmthのバラツキを補正する方法を図6〜図9を参照して説明する。図6は、煙感知器1の発光素子4および受光素子6の詳細を示す図である。
この図に示す発光素子4は、発光ダイオードである発光部16と、ドライバ回路であるLED駆動電流供給部18とを備えている。また、この図に示すように、受光素子6は、フォトダイオードである受光部20と増幅回路IC部22とを備えている。増幅回路IC部22はさらに、受光部20から供給される電流を電圧に変換する、電流電圧変換抵抗24および電流電圧変換アンプ26、電圧を増幅して生成した受光信号Sを判定部8に出力する増幅アンプ28とを備えている。
図7は、図6に示した煙感知器1において、受光信号が煙有無の判定レベルSthに達する煙濃度Dsmthを一定に保つために、電流電圧変換抵抗24の抵抗値の調整を説明する図である。図7(a)は、図6に示した電流電圧変換抵抗24の抵抗値を調整する前の図であり、図7(b)は、電流電圧変換抵抗24の抵抗値を調整した後の図である。
図7(a)に示した電流電圧変換抵抗24の抵抗値を調整する前においては、発光量Pに対応した受光信号Sは、矢印Sに示した値しか得られない。しかしながら、電流電圧変換抵抗24の抵抗値を調整し、光から受光信号Sを生成する変換効率を向上させることによって、図7(b)に示すように、発光量Pを変化させなくとも矢印S’に示す値に受光信号Sの値を大きくすることができる。これにより、受光信号Sを判定レベルSthに補正することができる。受光信号Sを判定レベルSthに補正することにより煙濃度Dsmthを一定に保つことができる。
また、図8は、LED駆動電流供給部18のピーク電流値を調整することによる発光量Pの調整を説明する図である。図8(a)は、図6に示したLED駆動電流供給部18のピーク電流値を調整する前の図であり、図8(b)は、LED駆動電流供給部18のピーク電流値を調整した後の図である。
図8(a)におけるLED駆動電流供給部18のピーク電流値を調整する前においては、発光量Pに対応した受光信号Sは、矢印Sに示した値しか得られない。しかしながら、LED駆動電流供給部18のピーク電流値を調整し、図8(b)に示すように実質的に発光量をP’に大きくすることによって、図8(b)の矢印S’に示す値に受光信号Sの値を大きくすることができる。これにより、受光信号Sを判定レベルSthに補正することができ、煙濃度Dsmthを一定に保つことができる。
以上の補正を数式1に適用して煙濃度Dsmthを一定に保つ方法も可能ではある。しかしながら、これらの方法は、電流電圧変換抵抗24の抵抗をボリューム抵抗にするためのコスト増、またはLED駆動電流供給部18のピーク電流値を大きくすることによるノイズ増大といったデメリットがある。
そこで、次に、図9を参照して、電流電圧変換抵抗24の抵抗値の調整およびLED駆動電流供給部18のピーク電流値の調整を用いずに、煙濃度Dsmthを一定に保つ方法を説明する。図9(a)は、パルス発光幅twを調整する前の図であり、図9(b)はパルス発光幅twを調整した後の図である。
図9(a)に示したパルス発光幅twを調整する前においては、発光量Pに対応した受光信号Sは、矢印Sに示した値しか得られない。しかしながら、図9(b)に示すように判定部8が備えるパルス幅制御部36が、パルス発光幅twをパルス発光幅tw’に大きくすることによって、図9(b)に示すように、発光量Pを変化させなくとも矢印S’に示す値に受光信号Sの値を大きくすることができる。これにより、受光信号Sを判定レベルSthに補正することができる。受光信号Sを判定レベルSthに補正することにより煙濃度Dsmthを一定に保つことができる。
図7および図8における例においては、受光量に比例した受光信号Sが用いられた。しかしながら、図9における受光素子が出力する受光信号Sは、受光量を積分した値である。このため、上述したようにパルス発光幅twに比例したピーク値が得られる。比例係数Eを用いて、上述したことを数式1に適用すると次式が得られる。
数式19において、パルス発光幅twを調整することにより受光信号Sのピーク値を調整し、これにより煙濃度Dsmthを補正することができる。また、図9の例においては、煙濃度Dsmを基準値Dsmthとして、受光信号Sが判定レベルSthに一致するよう調整したが、煙濃度Dsmを0として数式19に適用した場合には次式が得られる。
数式20から、煙濃度Dsmが0の場合における受光信号Sの理想値が既知であれば、パルス幅制御部36がパルス発光幅twを調整することによって受光信号Sを補正することができる。すなわち、煙濃度Dsmまたは判定レベルSthとは独立して受光信号Sを調整することができる。また、上述した例においては、受光信号Sとして受光量の積分値を出力している。しかしながら、受光素子に特に積分回路を組まなくても、受光素子の応答周波数が駆動電流パルス幅に比して十分に大きい場合には所望の効果を得ることができる。すなわち、高速であるアンプ技術を用いる必要がない。
また、判定レベルSthとは独立して受光信号Sを調整する一方で、判定レベルSthのバラツキは別途調整することが好ましい。この場合には、検知室14内に所望の散乱状態、例えば、図2の基準値Dsmthに相当する散乱状態を生成する。このようにして、基準値Dsmthに相当する状態を生成した上で、この時の受光信号を判定レベルSthとして判定部8が備える記憶部38に記憶させる。これにより、実際の煙の散乱状態から求めた正確な基準値すなわち基準値Dsmthに基づいて受光信号Sを判定することができる。なお、錯乱状態の生成は実際に煙を流入させても良いし、検知室14内に所定の散乱板を挿入するなどしても良い。また、独立して受光信号Sが調整される場合には、上述した他の方法においてもより精度を高めることができる。
(付記事項)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明は、例えば、以下のように表現することもできる。
1.周囲に開口した煙導入口からラビリンスを介して侵入煙を検知室内に導入するラビリンス体と、検知室内に光を射出する発光素子と、発光素子から射出され検知室内で散乱及び反射した光を受光し受光量に応じた受光信号Sを出力する受光素子と、受光信号Sを処理演算し、煙の有無を判定する判定手段と、判定手段の判定結果を煙感知器外部に通知する通知手段を有し、該判定手段は、受光信号Sとあらかじめ設定された基準値Sstdの差分dS=S−Sstdが、あらかじめ設定された判定レベルSthを超えた場合に煙有りを判定する煙感知器において、判定手段は、煙感知器稼動直後(生産段階での初期調整完了後)の煙濃度Dsm=0での受光信号Sini0を記憶し、Sini0と、稼働時の煙無し状態での受光信号S0が異なる場合には、最新の受光信号SnowにSini0とS0からなる補正を行って煙有無判定を行う。
2.1において、補正は、最新の受光信号Snowに(Sini0/S0)を乗ずる。
3.1において、補正は、最新の受光信号Snowより(S0−Sini0)を減ずる。
4.1において、S0≦Sini0であれば、2の補正を、S0>Sini0であれば、3の補正を用いる。
5.1〜4においてS0は過去の煙無し時受光信号の平均値Spast0である。
6.5において、過去の判定信号の平均値Spast0を算出する時間を外部より自由に設定できる。
7.周囲に開口した煙導入口からラビリンスを介して侵入煙を検知室内に導入するラビリンス体と、検知室内に光を射出する発光素子と、発光素子から射出され検知室内で散乱及び反射した光を受光し受光量に応じた受光信号Sを出力する受光素子と、受光信号Sを処理演算し、煙の有無を判定する判定手段と、判定手段の判定結果を煙感知器外部に通知する通知手段を有し、該判定手段は、受光信号Sとあらかじめ設定された基準値Sstdの差分dS=S−Sstdが、あらかじめ設定された判定レベルSthを超えた場合に煙有りを判定する煙感知器において、発光素子はパルスで発光され、受光素子は入射光の積分値を出力し、煙感知器稼動開始時(生産段階での初期調整完了後)において、煙濃度Dsm=0での受光信号Sini0が一定となるように発光素子の駆動パルス幅を調整する。
8.周囲に開口した煙導入口からラビリンスを介して侵入煙を検知室内に導入するラビリンス体と、検知室内に光を射出する発光素子と、発光素子から射出され検知室内で散乱及び反射した光を受光し受光量に応じた受光信号Sを出力する受光素子と、受光信号Sを処理演算し、煙の有無を判定する判定手段と、判定手段の判定結果を煙感知器外部に通知する通知手段を有し、該判定手段は、受光信号Sとあらかじめ設定された基準値Sstdの差分dS=S−Sstdが、あらかじめ設定された判定レベルSthを超えた場合に煙有りを判定する煙感知器において、検知室内が所望の煙濃度に相当する光散乱状態である環境のもとで得られる受光信号をもとに、判定レベルSthを生成し、判定手段に記憶させる。
9.1〜8の煙感知器を搭載する火災報知器。
また、本発明は、以下のように表現することもできる。
すなわち、本発明に係る煙感知器は、煙を導入する検知室と、上記検知室内に光を照射する発光素子と、上記検知室内における煙に散乱した光を受光し、受光した光に応じた受光信号Sを出力する受光素子と、上記受光信号Sを補正する補正手段と、上記補正手段が補正した受光信号Sに基づいて煙の有無を判定する判定手段と、上記判定手段の判定結果を外部に通知する通知手段とを備えている煙感知器であって、上記補正手段は、煙感知器稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0と、煙感知器稼働中の煙が無い状態における受光信号S0とを用いて、煙判定の対象である最新の受光信号Snowを補正する構成であってもよい。
上記の構成によれば、本発明の煙感知器の上記補正手段は、煙感知器稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0と、煙感知器稼働中の煙が無い状態における受光信号S0とを用いて、煙判定の対象である最新の受光信号Snowを補正する。
上記受光信号Sini0と受光信号S0とが異なる要因としては、例えば、上記発光素子の経時変化または上記検知室内への異物または埃の混入が考えられる。上記補正手段は、上記受光信号Sini0と受光信号S0とを受光信号Snowの補正に用いることによって、これらの要因により生じた誤差を補正できる。以上のことから、煙感知器は、精度の高い煙検知をできるという効果を奏する。
本発明に係る煙感知器の上記補正手段は、受光信号SnowにSini0/S0を乗ずることが好ましい。
上記の構成によれば、上記補正手段はSini0/S0を乗ずることによって、受光信号Snowを補正する。上記発光素子の経時変化による受光信号Snowの変動はSini0/S0を乗ずることによって補正できる。このため、煙感知器は、発光量の経時変化の影響を考慮して、受光信号Snowを補正できるという更なる効果を奏する。
本発明に係る煙感知器の上記補正手段は、受光信号SnowからS0−Sini0を減ずることが好ましい。
上記の構成によれば、上記補正手段はS0−Sini0を減ずることによって、受光信号Snowを補正する。上記煙検知室への異物または埃の混入による受光信号Snowの変動はS0−Sini0を減ずることによって補正できる。このため、煙感知器は、異物または埃の混入の影響を考慮して、受光信号Snowを補正できるという更なる効果を奏する。
本発明に係る煙感知器の上記補正手段は、S0≦Sini0である場合には受光信号SnowにSini0/S0を乗じ、S0>Sini0である場合には受光信号SnowからS0−Sini0を減ずることが好ましい。
上記の構成によれば、上記補正手段はS0≦Sini0である場合には受光信号SnowにSini0/S0を乗ずる。一般的に、S0≦Sini0である場合には上記発光素子の経時変化(劣化)により発光量が少なく変動した可能性が極めて高い。上述したように、この場合には、受光信号SnowにSini0/S0を乗ずる補正をすることが好ましい。
一方、S0>Sini0である場合には受光信号SnowからS0−Sini0を減ずる。一般的に、S0>Sini0である場合には受光信号S0が異物または埃の混入による影響を受けた可能性が極めて高い。上述したように、この場合には、受光信号SnowからS0−Sini0を減ずる補正をすることが好ましい。
以上のように、上記補正手段は、受光信号S0と受光信号Sini0とを比較し、比較結果に応じて受光信号Snowを補正することにより、より精度の高い煙検知ができるという更なる効果を奏する。
本発明に係る煙感知器は、過去の所定時間内における、煙が無い状態の受光信号S0を複数抽出し、抽出した受光信号S0の平均値を算出する平均値算出手段を備えており、上記補正手段は、上記受光信号S0の値として、上記平均値算出手段が算出した値を用いることが好ましい。
上記の構成によれば、上記平均値算出手段は、複数の煙が無い状態の受光信号S0の平均値を算出する。上記補正手段は、上記受光信号S0の値として上記平均値算出手段が算出した値を用いる。これにより、煙感知器稼働中の煙が無い状態における受光信号S0が得られなくとも、上記補正手段は受光信号Snowを補正することができる。また、平均値を取るため、ノイズの影響を受けた受光信号S0の突発的な変動等に大きく影響されることはないという更なる効果を奏する。
本発明に係る煙感知器の上記判定手段は、ユーザの入力に基づいて上記所定時間を設定する所定時間設定手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、上記判定手段は、ユーザの入力に基づいて上記所定時間を設定する所定時間設定手段をさらに備えている。このため、平均値を取る対象となる過去の時間をユーザは設定することができる。これにより例えば、平均値を取る対象となる時間を短くすることによって、発光素子の発光量が1年後に約半分になること、または異物混入と同じタイミングにおいて一日周期で検知室内に露が発生することなどといった予想される変動要因の影響を受けないようにすることができるという更なる効果を奏する。
本発明に係る煙感知器の上記発光素子はパルス発光し、上記受光素子は受光した光の積分値に基づいた受光信号を出力し、上記判定手段は、上記発光素子の駆動パルス幅を制御することによって、煙感知器稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0を調整するパルス幅制御手段をさらに備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、上記判定手段は、上記発光素子の駆動パルス幅を制御することによって、煙感知器稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0を調整するパルス幅制御手段をさらに備えている。これにより、大量に生産される煙感知器間における上記発光素子の発光量のバラツキを要因とする受光信号Sini0の誤差を補正できる。したがって、煙感知器間における判定誤差を低減することができるという更なる効果を奏する。
本発明に係る煙感知器は、上記検知室内が所望の煙濃度である状態の受光信号Sを、煙の有無を判定する基準となる受光信号Sthとして記憶する記憶手段をさらに備えており、上記判定手段は、上記記憶手段が記憶した受光信号Sthを用いて煙の有無を判定することが好ましい。
上記の構成によれば、上記記憶手段は、上記検知室内が所望の煙濃度である状態の受光信号Sを受光信号Sthとして記憶する。ユーザはこの所望の煙濃度を、例えば煙の有無を判定する基準値に相当する濃度に任意に設定できる。上記判定手段は、上記記憶手段が記憶した受光信号Sthを用いて煙の有無を判定する。以上により、上記判定手段は、煙の有無を判定する基準値として受光信号Sthを用いることができるため、より精度の高い煙検知ができるという更なる効果を奏する。
また、上記煙感知器を備えた火災報知器も本発明の範疇に含まれる。
以上のように、本発明に係る煙感知器は、煙を導入する検知室と、上記検知室内に光を照射する発光素子と、上記検知室内における煙に散乱した光を受光し、受光した光に応じた受光信号Sを出力する受光素子と、上記受光信号Sを補正する補正手段と、上記補正手段が補正した受光信号Sに基づいて煙の有無を判定する判定手段と、上記判定手段の判定結果を外部に通知する通知手段とを備えている煙感知器であって、上記補正手段は、煙感知器稼働直後の煙が無い状態における受光信号Sini0と、煙感知器稼働中の煙が無い状態における受光信号S0とを用いて、煙判定の対象である最新の受光信号Snowを補正する。したがって、コスト増をすることなく、煙検知室への異物または埃の混入および発光量の経時変化等の影響を考慮した補正をして、精度の高い煙検知ができる。