JP5334648B2 - 錫めっきの耐熱剥離性に優れた銅合金板 - Google Patents
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銅合金板の酸化被膜の除去は、一般にバフ研磨やブラッシングなどの機械研磨により、又はこの種の機械研磨と化学研磨を併用して行われるが、このような機械研磨上がりのCu−Ni−Sn系銅合金板において、特許文献1の実施例レベルのZnを添加した場合でも、錫めっきの耐熱剥離性が改善しないという問題が生じた。
従って、本発明は、特許文献1に記載されたCu−Ni−Sn系固溶型銅合金板において、機械研磨上がりでも錫めっきの耐熱剥離性を改善することを目的とする。
機械研磨上がりのCu−Ni−Sn系銅合金板において、加工変質層の厚さを0.2μm以下に減少させることは、特許文献2に記載されているように硫酸及び過酸化水素を含む水溶液により化学溶解(化学研磨)することで一応可能である。しかし、化学研磨により厚い加工変質層を薄くするには時間が掛かり(ラインが長くなる)、また余り長時間研磨液に浸漬すると肌荒れなどの問題が起きやすくなるため、機械研磨上がりのCu−Ni−Sn系銅合金板において加工変質層の厚さを0.2μm以下に減少させることは、実操業的には困難が伴う。
すなわち、本発明に係るCu−Ni−Sn系銅合金板は、Ni:0.4〜1.6%、Sn:0.4〜1.6%、P:0.027〜0.15%、Fe:0.005〜0.15%、及びZn:0.1〜1.1%、を含み、Ni含有量とP含有量の比Ni/Pが15未満、残部が銅と不可避不純物からなり、熱処理上がり後に機械研磨で表面を清浄化され、微細結晶粒からなる加工変質層の厚さが0.4μm以下であることを特徴とし、錫めっきの耐熱剥離性に優れている。
<銅合金の組成>
本発明の銅合金において、Ni,Sn,P,Feは、特許文献1に記載された理由により、特許文献1に記載された範囲内で添加される。すなわち、Ni含有量は0.4〜1.6%、望ましくは0.7〜0.9%の範囲であり、Sn含有量は0.4〜1.6%、望ましくは0.6〜1.3%の範囲であり、P含有量は0.027〜0.15%、望ましくは0.05〜0.08%の範囲であり、Fe含有量は0.005〜0.15%の範囲であり、Ni含有量とP含有量の比Ni/Pは15未満とされる。
金属の表面を機械研磨すると、表面より、(1)非晶質のBeilby層、(2)繊維・微細化層(微細結晶粒層)、(3)弾性歪層が形成される。これら3つの層を合わせて加工変質層という。本件発明においては、前記加工変質層のうち特に前記(1)及び(2)をあわせて「微細結晶粒からなる加工変質層」という。結晶粒組織が明瞭に異なるため、前記(1)、(2)の層と、前記(3)の層及び母材の識別は容易である。
本発明では、微細結晶粒からなる加工変質層は厚さ0.4μm以下に制限される。望ましくは0.3μm以下である。本発明において微細結晶粒からなる加工変質層の下限値は存在しないが、機械研磨上がりの銅合金板において、微細結晶粒からなる加工変質層の厚さを0.2μm以下とするのは実操業的に困難が伴うため、その意味で、本発明は微細結晶粒からなる加工変質層の厚さが0.2μmを超える場合に好適に適用されるということができる。
本発明に係る銅合金板の製造には、特に限定的ではないが、基本的に特許文献1に記載された方法が適用できる。具体的には、均質化処理→熱間圧延→冷間粗圧延→焼鈍→冷間仕上げ圧延→低温焼鈍(安定化焼鈍)であり、本発明では、特に最終熱処理である低温焼鈍後、銅合金板に機械研磨を施す。すなわち、熱処理上がり後に機械研磨で銅合金板表面を清浄化する。低温焼鈍は連続焼鈍(例えば250〜450℃×20〜40秒)、バッチ焼鈍(例えば200〜400℃×0.1〜10時間)ともあり得るが、機械研磨は、主として最終熱処理により生成する厚い酸化被膜(例えば厚さ数10〜100Å)を除去するためのものであるから、低温焼鈍をバッチ焼鈍で行う場合に、特に必要な工程である。
機械研磨により、微細結晶粒からなる加工変質層の厚さを0.4μm以下にするには、研磨に用いるバフ、ブラシの目の細かいものを用い、被研磨物に押当てる力を弱くする、又は/及び機械研磨の前後に前記化学研磨を組合せる等の方法がある。例えば、(1)化学研磨(H2SO4:20〜40%、H2O2+フッ化アンモン:4〜7%)→(2)湿式機械研磨(循環水を流しながら目の細かいバフ又はブラシで研磨)の順、あるいは、前記(1)→前記(2)→(3)酸洗(H2SO4:20〜40%、フッ化アンモン:4〜7%)の順で処理することにより、微細結晶粒からなる加工変質層の厚さを0.2〜0.4μmとすることができる。
続いて、前記(1)→(2)又は(1)→(2)→(3)の研磨処理を行って供試材を得た。ただし、機械研磨は耐水研磨紙による研磨とし、耐水研磨紙は研磨目番号#600又は#2400のものを用いた。
表1,2に、仕上げ冷間圧延の加工率、供試材の板厚、低温処理条件、研磨条件(耐水研磨紙の研磨目番号)を示す。
表1,2に示すように、目の粗い耐水研磨紙で研磨したNo.14,15,19は、微細結晶粒からなる加工変質層の厚さが0.4μmを超えている。
(加工変質層の厚さ測定)
各供試材より圧延方向及び板厚方向に平行な断面(長さ20mm)を3個切り出し、観察試料とする。各試料について、任意の3箇所をSIM(走査イオン顕微鏡)で観察し、それぞれの観察部位における微細結晶粒からなる加工変質層厚さの最大値を求める。得られた9個の測定データの平均値をその試料の微細結晶粒からなる加工変質層厚さとした。SIM写真の一例(#2400の耐水研磨紙で研磨したもの)を図1に示す。
(錫めっきの耐熱剥離性測定)
各供試材について、めっき前処理として、アルコール脱脂処理を行った後、アルカリ性液中にて電解脱脂を行い、硫酸にて酸洗処理を行った。厚さ0.15μmのCu下地及び厚さ1μmのSnを電析し、リフロー処理を行った。上記めっき材を板厚の2倍のR(R/t=2)にて90°曲げ加工を行い、150℃のオーブンにて250Hr加熱処理し、テープを曲げ部に貼り着けて曲げ戻しを行い、テープをはがした後のめっき剥離の有無を調べた。めっき剥離なしを○(合格)、めっき剥離ありを×(不合格)として、表3に示した。
JIS5号引張り試験片を、長手方向が圧延方向及び垂直方向となるように機械加工にて作製し,JIS−Z2241に準拠して引張り試験を実施して測定した.耐力は永久伸び0.2%に相当する引張強さである。
(マイクロビッカース硬さ測定)
マイクロビッカース硬さの測定は,JIS−Z2251に規定されている微少硬さ試験方法に準拠し,試験加重2.94Nでビッカース硬さを測定した.
(導電率測定)
導電率の測定は、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し,ダブルブリッジを用いた四端子法で行った.
応力緩和率は、特許文献1の実施例と同様に片持ち梁方式を用いて測定した。各供試材から、幅10mmの短冊状試験片を、長さ方向が板材の圧延方向に平行方向(L.D.)及び垂直方向(T.D.)になるように切り出し、その一端を剛体試験台に固定する。材料耐力の80%に相当する表面応力が固定端に負荷されるよう固定端からの評点間距離を算出し、その部分に10mmのたわみ量dを与える.これを180℃のオーブン中に30時間保持した後に取り出し、たわみ量dを取り去ったときの永久歪みδを測定し、RS=(δ/d)×100で応力緩和率(RS)を計算する。なお、180℃×30hrの保持は、ラーソン・ミラーパラメーターで計算すると、ほぼ150℃×1000hrの保持に相当する。
曲げ加工性の測定は、伸銅協会標準JBMA−T307に規定されるW曲げ試験方法に従い実施した。板材を幅10mm、長さ30mmに切り出し、R/t=0.2となる冶具を用いて、G.W.(曲げ軸が圧延方向に垂直)及びB.W.(曲げ軸が圧延方向に平行)の曲げを行い,曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察した。曲げ加工性の評価は、肌荒れがないかあっても軽微なものを○、肌荒れが激しいが割れには至っていないものを△、割れが発生したものを×(不合格)と評価した。なお、No.1〜19のうち、×評価のものはなかった。
245℃の60Sn/40Pbのはんだ槽に予め非活性フラックスを塗布した各供試材を5秒間浸漬してはんだ付けした後、150℃オーブン中で最大1000時間加熱し、その外観を加熱前のはんだ付けされた供試材と比較し白化の有無を目視で確認した。
Claims (1)
- Ni:0.4〜1.6%(mass%、以下同じ)、Sn:0.4〜1.6%、P:0.027〜0.15%、Fe:0.005〜0.15%、及びZn:0.1〜1.1%を含み、Ni含有量とP含有量の比Ni/Pが15未満、残部が銅と不可避不純物からなり、熱処理上がり後に機械研磨で表面を清浄化され、微細結晶粒からなる表層の加工変質層の厚さが0.2μmを超え0.4μm以下であることを特徴とする錫めっきの耐熱剥離性に優れた銅合金板。
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